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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド式電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20250107BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20250107BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250107BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20250107BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250107BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250107BHJP
【FI】
B60W10/26 900
B60K6/543 ZHV
B60K6/442
B60L7/14
B60L15/20 K
B60L50/16
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021127830
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022770
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 義明
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-103001(JP,A)
【文献】特開2006-161934(JP,A)
【文献】特開2002-176794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0059845(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
B60L 7/14
B60L 15/20
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源としてエンジンおよび回転機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間に変速機が配設されているハイブリッド式電動車両に適用され、
前記エンジンに連結されて回転駆動される前記回転機を回生制御して発電するエンジン発電制御部を有するハイブリッド式電動車両の制御装置において、
前記エンジンに連結されて回転駆動される前記回転機を回生制御してエンジン回転の吹き上がりを抑制する吹き上がり抑制部を有し、
前記エンジン発電制御部は、前記回転機を回生制御して発電する際に前記変速機を潤滑する潤滑油の油温を検知し、該油温が予め定められた低油温判定値以下の場合には、該油温が該低油温判定値よりも高い場合に比較して発電量が小さくなるように前記回転機の回生トルクを制限する
ことを特徴とするハイブリッド式電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド式電動車両の制御装置に係り、特に、エンジンに連結されて回転駆動される回転機を回生制御して発電するエンジン発電制御部を有するハイブリッド式電動車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 駆動力源としてエンジンおよび回転機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間に変速機が配設されているハイブリッド式電動車両に適用され、(b) 前記エンジンに連結されて回転駆動される前記回転機を回生制御して発電するエンジン発電制御部を有するハイブリッド式電動車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載のハイブリッド式電動車両の制御装置はその一例であり、モータ回転速度やバッテリ温度等の車両状態に基づいて発電量すなわち回転機の回生トルクが定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2015/037043A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記変速機を潤滑する潤滑油の油温が低いと、その潤滑油の粘度が高くなるが、低吸気温等に起因してエンジントルクが過剰となった場合などにエンジン回転が吹き上がり、それに伴って変速機の回転速度が高くなると、高粘度の潤滑油が高回転、高圧力によって異音を発する場合がある。これに対し、エンジンに連結された回転機を回生制御してエンジン回転の吹き上がりを抑制することが考えられるが、前記エンジン発電制御部によって回転機が回生制御されると、回生トルクが不足してエンジン回転の吹き上がりを抑制できず、高粘度の潤滑油が異音を発生する可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、エンジン発電制御部により回転機を回生制御して発電する際に、潤滑油の油温が低くて粘度が高い場合にエンジン回転が吹き上がって異音が発生することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 駆動力源としてエンジンおよび回転機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間に変速機が配設されているハイブリッド式電動車両に適用され、(b) 前記エンジンに連結されて回転駆動される前記回転機を回生制御して発電するエンジン発電制御部を有するハイブリッド式電動車両の制御装置において、(c) 前記エンジンに連結されて回転駆動される前記回転機を回生制御してエンジン回転の吹き上がりを抑制する吹き上がり抑制部を有し、(d) 前記エンジン発電制御部は、前記回転機を回生制御して発電する際に前記変速機を潤滑する潤滑油の油温を検知し、その油温が予め定められた低油温判定値以下の場合には、その油温がその低油温判定値よりも高い場合に比較して発電量が小さくなるように前記回転機の回生トルクを制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようなハイブリッド式電動車両の制御装置においては、エンジン発電制御部が回転機を回生制御して発電する際に潤滑油の油温を検知し、その油温が予め定められた低油温判定値以下の場合には発電量が小さくなるように回転機の回生トルクが制限される。このため、エンジン発電制御部による発電制御中であっても、回転機の回生トルクを更に高くする余裕があり、何等かの原因でエンジン回転が吹き上がろうとした場合に、吹き上がり抑制部により回転機の回生トルクを増大させてエンジン回転の吹き上がりを抑制することが可能で、エンジン回転の吹き上がりに起因する変速機の高回転により高粘度の潤滑油が異音を発することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例である制御装置を有するハイブリッド式電動車両の駆動系統を説明する概略構成図で、各種制御のための制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。
図2図1の電子制御装置が機能的に備えているエンジン発電制御部の作動を具体的に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、駆動力源としてエンジンおよび回転機を備えているハイブリッド式電動車両に適用される。エンジンおよび回転機は、例えばクラッチ等の断接装置を介して互いに連結されるが、遊星歯車装置等の差動歯車機構を介して連結されていても良く、エンジンによって回転機を回転駆動できる種々の態様が可能である。ハイブリッド式電動車両は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の後輪駆動車両や、途中に前輪側へ動力を分配するトランスファが設けられた前後輪駆動車両、トランスアクスル等のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の前輪駆動車両など、種々の電動車両が対象となる。
【0010】
エンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。回転機は、電動モータとして駆動力を発生するとともに、回生制御されることにより発電機として機能するモータジェネレータである。変速機は、例えば複数の遊星歯車装置および摩擦係合装置から成る遊星歯車式の有段の自動変速機や、平行軸式の有段変速機、前後進を切り替えるだけの前後進切替装置、ベルト式等の無段変速機と前後進切替装置とが直列または並列に設けられたものなど、種々の態様が可能である。トルクコンバータ等の流体式伝動装置は必ずしも必要ないが、変速機の前、すなわち駆動力源と変速機との間に流体式伝動装置が設けられても良い。
【実施例
【0011】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や角度、形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0012】
図1は、本発明の一実施例である制御装置として電子制御装置90を有するハイブリッド式電動車両10(以下、単に電動車両10という。)の駆動系統の概略構成図で、電動車両10における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。図1において、電動車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン12および回転機MGを備えているパラレル型のハイブリッド式電動車両である。また、電動車両10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。駆動輪14は左右の後輪で、電動車両10はFR型の後輪駆動車両である。
【0013】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御機器50が電子制御装置90によって制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。回転機MGは、電力から機械的な動力を発生させる電動モータとしての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータで、例えば永久磁石型の三相交流同期モータ等であり、インバータ52を介してバッテリ54に接続されている。回転機MGは、電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、回転機MGのトルクであるMGトルクTmgが制御される。回転機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。回転機MGはまた、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により回転駆動される際に回生制御されることにより発電を行う。回転機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、回転機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。
【0014】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側からK0クラッチ20、トルクコンバータ22、および自動変速機24を直列に備えており、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に回転機MGが連結されている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と回転機MGとの間に設けられたクラッチで、回転機MGとエンジン12との間を接続遮断するエンジン断接装置である。トルクコンバータ22は、回転機MGと自動変速機24との間に設けられた流体式伝動装置で、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された一対のドライブシャフト32等を備えている。また、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結するMG連結軸36等を備えており、MG連結軸36に回転機MGのロータが連結されている。
【0015】
K0クラッチ20は、例えばアクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式または乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ20の入力側部材は、エンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の出力側部材は、MG連結軸36と連結されており、MG連結軸36と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介して回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。一方で、K0クラッチ20の開放状態では、回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12との間の動力伝達が遮断される。
【0016】
回転機MGは、ケース18内において、MG連結軸36に動力伝達可能に連結されている。回転機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、回転機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12および回転機MGの駆動力源からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0017】
トルクコンバータ22は、MG連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、および自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。MG連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0018】
LUクラッチ40は、油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が開放された状態である完全開放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全開放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。また、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22aおよびタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0019】
自動変速機24は、例えば1組または複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0020】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合させられることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni /AT出力回転速度No )が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等の運転状態に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。また、複数の係合装置CBが総て開放されると、動力伝達を遮断するニュートラルになる。AT入力回転速度Ni は、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Ni は、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。AT出力回転速度No は、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0021】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合させられた場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、MG連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、回転機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、MG連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0022】
電動車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、回転機MG)によって回転駆動されることにより、動力伝達装置16にて用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動されて作動油OIL を吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OIL は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58および/またはEOP60が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。作動油OIL は、自動変速機24を含む各部の潤滑や冷却にも用いられるもので、潤滑油でもある。作動油OIL は、ケース18の下部に設けられたオイルパン等の油溜に蓄積されるとともに、MOP58および/またはEOP60により汲み上げられて油圧制御回路56へ供給される。
【0023】
電動車両10は、各種の制御を実行する制御装置として電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより電動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、単一のコンピュータを用いて構成することもできるが、本実施例ではHEV-ECU92、MG-ECU94、エンジン-ECU96、およびECT-ECU98等を備えて構成されている。「HEV」はHybrid Electric Vehicle の頭文字で、「MG」はMotor Generator の頭文字で、「ECT」はElectronic Controlled Transmissionの頭文字で、「ECU」はElectronic Control Unit の頭文字である。これ等のHEV-ECU92、MG-ECU94、エンジン-ECU96、およびECT-ECU98は、通信バスを介して互いに連結され、制御に必要な各種の情報を送受信できるようになっている。
【0024】
電子制御装置90には、電動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、エアフローメータ82、ブレーキスイッチ84、油温センサ86、バッテリセンサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、AT入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、車速Vに対応するAT出力回転速度No 、回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg、運転者の加速要求量を表すアクセル操作量(例えばアクセルペダルの踏込み操作量)であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、エンジン12の吸入空気量Qair 、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキON信号Bon、油圧制御回路56で用いられる作動油OIL の温度であるAT油温THoil 、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat など)が、それぞれ供給される。作動油OIL のAT油温THoil は、自動変速機24を潤滑する潤滑油の油温に相当する。
【0025】
電子制御装置90からは、電動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御機器50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se 、回転機MGを制御するためのMG制御指令信号Smg、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御指令信号Seop など)が、それぞれ出力される。油圧制御回路56には、CB油圧制御指令信号Scb、K0油圧制御指令信号Sk0、およびLU油圧制御指令信号Sluに従って油路を切り替えたり油圧を制御したりする複数のソレノイドバルブが設けられている。
【0026】
電子制御装置90のHEV-ECU92は、回転機MGおよびエンジン12の作動を協調して制御するハイブリッド制御部としての機能を有する。すなわち、HEV-ECU92は、インバータ52を介して回転機MGの作動を制御するMG-ECU94と、エンジン12の作動を制御するエンジン-ECU96とを用いて、エンジン12および回転機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。HEV-ECU92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、運転者による電動車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem等である。HEV-ECU92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、トルクコンバータ22のトルク比、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout 等を考慮して、例えば上記要求駆動トルクTrdemを実現するために必要なトルクコンバータ22の入力トルクである要求入力トルクTindem を求め、その要求入力トルクTindem が得られるように、MG-ECU94を介して回転機MGを制御するMG制御指令信号Smgを出力するとともに、エンジン-ECU96を介してエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Se を出力する。
【0027】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Wout は、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout は、例えばバッテリ温度THbat やバッテリ54の充電状態値SOC[%]等に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態すなわち蓄電残量を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat およびバッテリ電圧Vbat などに基づいて算出できる。
【0028】
HEV-ECU92は、回転機MGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合には、バッテリ54からの電力のみで回転機MGを駆動して走行するモータ走行モードであるBEV(Battery Electric Vehicle)走行モードとする。BEV走行モードでは、K0クラッチ20を開放状態としてエンジン12を停止させ、回転機MGのみを駆動力源として用いて走行するBEV走行を行う。このBEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem を実現するようにMGトルクTmgを制御する。一方で、HEV-ECU92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求入力トルクTindem を賄えない場合には、エンジン走行モードであるHEV(Hybrid Electric Vehicle )走行モードとする。HEV走行モードでは、K0クラッチ20を係合状態として少なくともエンジン12を駆動力源として用いて走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。このHEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem の全部または一部を実現するようにエンジントルクTe を制御し、要求入力トルクTindem に対してエンジントルクTe では不足するトルク分を補うようにMGトルクTmgを制御する。他方で、HEV-ECU92は、回転機MGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合であっても、エンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。このように、HEV-ECU92は、要求入力トルクTindem 等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。エンジン12の自動停止および再始動は、エンジン12の間欠運転とも表現される。
【0029】
ECT-ECU98は、自動変速機24の制御に関与するもので、例えば車速Vおよびアクセル開度θacc 等の電動車両10の運転状態に基づいて自動変速機24のギヤ段を自動的に切り替える変速制御を実行する変速制御部の機能を有する。すなわち、ECT-ECU98は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行するためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速マップは、例えば車速Vおよび要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。
【0030】
前記HEV-ECU92は、走行モード等の制御の他に、エンジン発電制御部92aおよび吹き上がり抑制部92bを機能的に備えている。エンジン発電制御部92aは、K0クラッチ20を係合させてエンジン12に回転機MGを連結した状態で、エンジン12を作動させて回転機MGを回転駆動するとともに、回転機MGを回生制御して発電する発電制御を実行するもので、発電した電気でバッテリ54を充電する。この発電制御は、例えばバッテリ54の充電状態値SOCが所定値以下まで低下した場合等に、MG-ECU94から充電要求があった場合に、充電可能電力Winの範囲内で回転機MGの回生トルクTmge を制御する。MGトルクTmgの中の回生トルクをTmge と表現し、回生トルクTmge が高くなる程発電量が大きくなる。MG-ECU94は、例えば充電状態値SOC等に応じて充電要求量を求め、その充電要求量を表す信号をエンジン発電制御部92aに出力する。エンジン発電制御部92aは、例えばエンジン12から自動変速機24を介して駆動輪14に動力伝達されるHEV走行モードでの車両走行中に、トルクコンバータ22の入力トルクTinが要求入力トルクTindem 以上となるエンジントルクTe でエンジン12を作動させるとともに、入力トルクTinが要求入力トルクTindem となるように回生トルクTmge を制御して発電制御を行なう。なお、車両停止中や惰性走行中にシフトレバーの操作等で自動変速機24がニュートラルとされた場合に、エンジン12をアイドル回転等で作動させて発電制御を行なうこともできる。
【0031】
吹き上がり抑制部92bは、K0クラッチ20が係合させられてエンジン12に回転機MGが連結された状態で、エンジン12によって回転駆動される回転機MGを回生制御することにより、エンジン回転の吹き上がりを抑制する吹き上がり抑制制御を実行する。例えば、係合装置CBを切り替える自動変速機24の変速時には一時的に自動変速機24がニュートラル状態になる一方、吸入空気の温度が低いと、低吸気温時のエンジン制御でエンジントルクTe が過剰になり、エンジン回転速度Ne が吹き上がる可能性があるが、MG-ECU94を介して回転機MGを回生制御することによってエンジン回転の吹き上がりを抑制することができる。
【0032】
ここで、前記エンジン発電制御部92aによる発電制御の実行中においても、低吸気温等に起因してエンジン回転が吹き上がる可能性がある。その場合も、吹き上がり抑制部92bによって回転機MGの回生トルクTmge が高くされることにより、エンジン回転の吹き上がりを抑制することができるが、発電制御の際の回転機MGの回生トルクTmge が高いと、充電可能電力Winによる制限で回生トルクTmge を高くすることが制約され、吹き上がり抑制部92bによる吹き上がり抑制制御に拘らずエンジン回転が吹き上がる可能性がある。その場合に、前記自動変速機24を潤滑する作動油OIL の温度であるAT油温THoil が低いと、その作動油OIL の粘度が高くなり、エンジン回転の吹き上がりに伴って自動変速機24の回転速度が高くなった場合に、高粘度の作動油OIL が高回転、高圧力によって異音を発することがあった。例えば、HEV走行モードでの車両走行中に、入力トルクTinが要求入力トルクTindem 以上となるエンジントルクTe でエンジン12を作動させるとともに、入力トルクTinが要求入力トルクTindem となるように回生トルクTmge を制御して発電制御を行なう場合、係合装置CBを切り替える自動変速機24の変速時等に、エンジン回転が吹き上がって作動油OIL が異音を発する可能性がある。
【0033】
このようなエンジン回転の吹き上がりに起因する異音の発生を抑制するために、本実施例のエンジン発電制御部92aは、図2のフローチャートのステップS1~S6に従って信号処理を実行する。図2のステップS1では、MG-ECU94から充電要求があったか否かを判断し、充電要求がなければそのまま終了するが、充電要求があった場合はステップS2を実行する。ステップS2では、AT油温THoil が予め定められた低油温判定値α以下か否かを判断する。低油温判定値αは、エンジン回転の吹き上がりに起因して作動油OIL が異音を発するような粘度か否かを基準として、作動油OIL の温度-粘度特性等に基づいて予め一定値が定められる。そして、THoil >αの場合、すなわちステップS2の判断がNO(否定)の場合には、エンジン回転が吹き上がっても作動油OIL が異音を発する恐れがないため、ステップS6で、MG-ECU94から供給される充電要求量に基づいて求められる充電要求トルクTchg をそのまま充電指令トルクに設定し、その充電指令トルクに従って回転機MGの回生トルクTmge を制御して発電制御を行なう。充電要求トルクTchg は、例えば充電要求量およびMG回転速度Nmg等に基づいて算出される。
【0034】
ステップS2の判断がYES(肯定)の場合、すなわちAT油温THoil が低油温判定値α以下で、エンジン回転が吹き上がった場合に作動油OIL が異音を発する恐れがある場合には、ステップS3以下を実行する。ステップS3では、回生上限トルクTmgemaxが予め定められた充電許可判定値β以上か否かを判断する。回生上限トルクTmgemaxは、回生制御が可能な回生トルクTmge の上限値で、例えば前記充電可能電力WinやMG回転速度Nmg等に基づいて求められる。充電許可判定値βは、例えばエンジン回転の吹き上がりを抑制するのに必要な最小限の回生トルクTmge 等で、予め一定値が定められる。そして、回生上限トルクTmgemaxが充電許可判定値βよりも低い場合、すなわちステップS3の判断がNOの場合には、ステップS5で充電指令トルク=0とする。すなわち、エンジン回転の吹き上がりを抑制するための回生トルクTmge を残すために、MG-ECU94からの充電要求に拘らずエンジン発電制御部92aによる発電制御を中止する。
【0035】
ステップS3の判断がYESの場合、すなわち回生上限トルクTmgemaxが充電許可判定値β以上の場合には、ステップS4を実行する。ステップS4では、充電要求トルクTchg から所定のマージン値を差し引いて充電指令トルクを求め、その充電指令トルクに従って回転機MGの回生トルクTmge を制御して発電制御を行なう。マージン値は、予め一定値が定められても良いが、例えば回生上限トルクTmgemaxから充電許可判定値βを引き算した余剰トルクTsur(=Tmgemax-β)の範囲内で充電指令トルクが定められるように、マージン値が可変設定されても良い。すなわち、充電要求トルクTchg が余剰トルクTsur よりも大きい場合には、その余剰トルクTsur を充電指令トルクとして発電制御を行なうことにより、充電許可判定値βに相当する回生トルクTmge を残すことが可能で、その回生トルクTmge でエンジン回転の吹き上がりを抑制することができる。充電要求トルクTchg が余剰トルクTsur よりも小さい場合には、その充電要求トルクTchg をそのまま充電指令トルクとして発電制御を行なうことにより、充電許可判定値β以上の回生トルクTmge を残すことが可能で、その回生トルクTmge でエンジン回転の吹き上がりを抑制することができる。言い換えれば、エンジン回転の吹き上がりを抑制するのに必要な充電許可判定値βに相当する回生トルクTmge を確保した上で、充電指令トルクを設定して発電制御を行なう。
【0036】
このように、本実施例の電動車両10の電子制御装置90においては、エンジン発電制御部92aが回転機MGを回生制御して発電する際にAT油温THoil を検知し、そのAT油温THoil が予め定められた低油温判定値α以下の場合には(S2の判断がYES)、充電指令トルクが制限されて所定量の回生トルクTmge を残すことができる。このため、エンジン発電制御部92aによる発電制御中であっても、回転機MGの回生トルクTmge を更に高くする余裕があり、何等かの原因でエンジン回転が吹き上がろうとした場合に、吹き上がり抑制部92bにより回転機MGの回生トルクTmge を増大させてエンジン回転の吹き上がりを抑制することが可能で、エンジン回転の吹き上がりに起因する自動変速機24の高回転により高粘度の作動油OIL が異音を発することが抑制される。
【0037】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
10:ハイブリッド式電動車両 12:エンジン 14:駆動輪 24:自動変速機(変速機) 86:油温センサ 90:電子制御装置(制御装置) 92a:エンジン発電制御部 92b:吹き上がり抑制部 MG:回転機 OIL :作動油(潤滑油) THoil :AT油温(油温) α:低油温判定値
図1
図2