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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】発電装置の電力監視装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20250107BHJP
   H02S 50/00 20140101ALI20250107BHJP
   H02S 10/00 20140101ALI20250107BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20250107BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02S50/00
H02S10/00
H02J3/38 130
H02J3/38 160
H02J3/00 170
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021138777
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032568
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和峰
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由貴
(72)【発明者】
【氏名】小幡 一輝
(72)【発明者】
【氏名】木暮 宏光
(72)【発明者】
【氏名】間庭 佑太
(72)【発明者】
【氏名】菊池 智志
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104345192(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103389397(CN,A)
【文献】特開2004-334354(JP,A)
【文献】特開2018-007347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02S 50/00
H02S 10/00
H02J 3/38
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギを用いて発電する発電装置の電力監視装置であって、
前記発電装置の諸元情報が登録された第1登録部と、
前記発電装置が設置されるまでの流通ルートを特定可能な情報を含む流通情報が登録された第2登録部と、
前記発電装置の出力を計測するセンシング部と、
前記発電装置の出力が異常であるか否かを判定する判定部と、
外部のシステムとの間で通信を行なう通信部とを備え、
前記判定部は、
前記発電装置の発電時の発電量に影響を及ぼす環境と前記発電装置の出力との対応関係を学習して、前記環境が入力されることによって前記発電装置の出力を推測する学習モデルを生成する学習部と、
前記学習部によって生成された前記学習モデルに前記環境を入力することによって推測される前記発電装置の出力である第1出力の時間的な変化と前記センシング部によって計測された前記発電装置の出力である第2出力の時間的な変化とを照合する照合部と、
前記照合部によって前記第1出力の時間的な変化と前記第2出力の時間的な変化とが乖離すると判定された場合に前記通信部を介して前記外部のシステムに異常情報を出力する出力部とを含み、
前記異常情報には、前記第1登録部に登録されている前記諸元情報と、前記第2登録部に登録されている前記流通情報と、前記発電装置が不正に他の発電装置に取り替えられたことを示す情報とが含まれる、発電装置の電力監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再生可能エネルギを用いて発電する発電装置の電力監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力の自由化により、電力の市場での売買取引が可能となり、更に、電力会社に限らず、太陽光などの再生可能エネルギを用いて発電する発電装置の所有者(個人あるいは法人)と需要者との間で直接的に電力の売買取引を行なう、いわゆるP2P(Peer to Peer)電力取引の導入が検討されている。これに伴い、発電装置の出力(発電量)を監視するための種々の装置が提案されている。
【0003】
たとえば、特開2015-230544号公報(特許文献1)は、太陽光を用いて発電する発電設備から調達する電力量と、電力会社から調達する電力量との比率を求める装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-230544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、再生可能エネルギの利用比率を高め、二酸化炭素の排出量を抑制することが社会的な課題として認知されている。今後は、P2P電力取引市場においても、再生可能エネルギを用いて発電された電力として取引される電力が本当に再生可能エネルギを用いて発電されたのか否かを何らかの方法で監視することが望ましい。しかしながら、特開2015-230544号公報には、このような課題およびその対策について、何ら言及されていない。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、発電装置で発電された電力が、再生可能エネルギを用いて発電された電力であるのか否かを監視可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による電力監視装置は、再生可能エネルギを用いて発電する発電装置の電力監視装置であって、発電装置の諸元情報が登録された第1登録部と、発電装置が設置されるまでの流通情報が登録された第2登録部と、発電装置の出力を計測するセンシング部と、発電装置の出力が異常であるか否かを判定する判定部と、外部のシステムとの間で通信を行なう通信部とを備える。判定部は、発電装置の発電時の環境と発電装置の出力との対応関係を学習する学習部と、学習部による学習結果を用いて推測される発電装置の出力である第1出力と前記センシングによって計測された発電装置の出力である第2出力とを照合する照合部と、照合部によって第1出力と第2出力とが乖離すると判定された場合に通信部を介して外部のシステムに異常情報を出力する出力部とを含む。異常情報には、第1登録部に登録されている諸元情報と、第2登録部に登録されている流通情報と、発電装置が正規に使用されていないことを示す情報とが含まれる。
【0008】
上記の電力監視装置においては、発電装置の発電時の環境と発電装置の出力との対応関係が学習される。そして、その学習結果を用いて推測される発電装置の出力である第1出力と、実際に計測された発電装置の出力である第2出力とが乖離する場合には、発電装置が不正に他の発電装置に取り替えられたことが想定されるため、電力監視装置は、外部のシステムに異常情報を出力する。この異常情報には、発電装置の諸元情報および流通情報が含まれている。そのため、異常情報を受け取った外部のシステムにおいて、異常情報によって特定される発電装置が不正に使用されていることを認識することができる。その結果、発電装置で発電された電力が、再生可能エネルギを用いて発電された電力であるのか否かを監視することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、発電装置で発電された電力が、再生可能エネルギを用いて発電された電力であるのか否かを監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電力送配電システムの構成の一例を模式的に示す図である。
図2】P2Pシステムの構成の一例を模式的に示す図である。
図3】一般取引市場における入札手法の一例を模式的に示す図である。
図4】直接取引市場における入札手法の一例を模式的に示す図である。
図5】AIエッジデバイスの構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0012】
<電力送配電システム全体の構成>
図1は、本実施の形態による電力監視装置を含む電力送配電システム1の構成の一例を模式的に示す図である。電力送配電システム1は、P2P(Peer to Peer)システム2、追跡システム3、太陽光発電装置(以下「PV」(Solar Photovoltaics)ともいう)4、AI(Artificial Intelligence、人工知能)エッジデバイス10、送電線網PL、充放電器設備EC、電動車EVを含んで構成される。
【0013】
従来においは、電力は、専ら、電力会社の管理する発電所から、送電線網PL(系統電力網)を通して、電力需要家の施設(たとえば、工場、会社ビル、商業施設、住宅、店舗など)に供給されていた。
【0014】
本実施の形態による電力送配電システム1においては、電力の個人間での売買取引、すなわちP2P電力取引が実施される。
【0015】
また、電気自動車およびハイブリッド車などの大容量の蓄電池を搭載した電動車EVなどの移動体の普及に伴い、電力送配電システム1においては、送電線網PLおよび電力需要家における各所に、充放電器設備ECが設置されている。これらの充放電器設備ECにて、電動車EVが接続されてその蓄電池の充放電が可能となっている。電動車EVを蓄電手段として利用することでき、電動車EVなどの移動体を用いた電力の売買をP2P取引にて行なうことも可能である。
【0016】
P2Pシステム2は、電動車EVおよび電力需要家が参加しているP2P電力取引市場において、P2P電力売買取引を実施するためのプラットホームである。P2Pシステム2は、電動車EVおよび電力需要家と通信ネットワークを介して通信する通信装置と、P2P電力取引市場へアクセスして電力の買取および売却の入札を行なうコンピュータとを備える。
【0017】
電動車EVなどの移動体と電力需要家とが電力の売買取引を希望する際には、電動車EVまたは電力需要家は、電力取引を行いたいP2P電力取引市場を管理するP2Pシステム2に対して、たとえば、電力を売却または買取したい時間帯、単位時間帯毎の売却または買取したい電力量および売却または買取における価格を入札条件として入札する。P2Pシステム2は、任意のアルゴリズムにより、入札条件の合致する売り手と買い手との間において電力売買取引の約定を発効し、条件の合致する相手の見つからない入札は、不約定として処理する。
【0018】
なお、P2Pシステム2は、各所の充放電器設備EC、および電動車EVと通信可能に構成されている。P2Pシステム2には、各所の充放電器設備ECから、充放電器設備ECの使用状態(使用の可否、使用中か否か、充放電実行量など)の情報が送信されるようになっている。P2Pシステム2は、いずれの充放電器設備ECが利用可能であるかが、電動車EVなどの移動体へ通知するように構成されている。
【0019】
図2は、P2Pシステム2の構成の一例を模式的に示す図である。P2Pシステム2においては、図2に示されるように、複数の事業者エージェントと、複数の住宅エージェントと、複数の移動体エージェントとが存在する。各事業者エージェントは、比較的大規模な施設、たとえば、工場、商業施設、鉄道駅、空港などの需要電力量の大きい大電力需要家の入札と約定とをそれぞれ管理する。各住宅エージェントは、住宅および中小の店舗などの通常の需要電力量の小電力需要家の入札と約定とをそれぞれ管理する。各移動体エージェントは、電動車EVなどの移動体の入札と約定とをそれぞれ管理する。電動車EV、大電力需要家、小電力需要家は、それぞれ、担当されるエージェントを介して、入札を実行することとなる。
【0020】
本実施の形態におけるP2P電力取引市場には、電力需要家間における送電線網PLを介して伝送される電力の取引を約定する「一般取引市場」と、移動体が電力需要家の施設内へ移動して送電線網PLを介さずに伝送される電力の取引を約定する「直接取引市場」とが含まれる。なお、移動体は、送電線網PLに接続された充放電器設備ECを介して電力の伝送が可能なので、一般取引市場にて電力の取引を行なうことも可能である。
【0021】
一般取引市場は、図2に示されるように、事業者エージェント、住宅エージェントおよび移動体エージェントのそれぞれを通じて、複数の移動体および電力需要家からの入札を受け、売却側と買取側の入札条件が合致したものに対して約定がなされることとなる。
【0022】
図3は、一般取引市場における入札手法の一例を模式的に示す図である。一般取引市場においては、図3に示されるように、単位時間帯(1、2、…n)毎に、複数の買い手と売り手とが価格と電力量との組(p,q)、(P,Q)を入札することとなる。なお、単位時間帯とは、市場において設定された時間幅(通常は、30分)であり、電力量の取引は、単位時間帯内で伝送される電力量(電力×単位時間帯長さ)毎に行なわれる。
【0023】
一方、直接取引市場においては、図2に示されるように、充放電器設備ECの設置された固定の電力需要家に対して一つの市場が構成される。これらの直接取引市場は、それぞれ、各電力需要家の管理するサーバにて構成されてもよく、或いは、複数の直接取引市場が一括的に或るサーバ上にまとめて構成されていてもよい。
【0024】
図4は、直接取引市場における入札手法の一例を模式的に示す図である。直接取引市場においては、図4に示されるように、一つの需要家が、単位時間帯(1、2、…n)毎に、売りまたは買いの入札をし、複数の移動体からの単位時間帯(1、2、…n)毎の売りまたは買いの入札を受付け、条件が適合した入札が約定されることとなる。
【0025】
図1に戻って、PV4、AIエッジデバイス10および追跡システム3について説明する。PV4は、各電力需要家の施設に設けられる。PV4は、再生可能エネルギの1種である太陽光を用いて発電する装置である。PV4は、光電効果によって電気を発生するソーラーパネル、ソーラーパネルが発生した電力の電圧を昇圧するインバータなどを備える。なお、PV4に代えてあるいは加えて、太陽光以外の再生可能エネルギ(たとえば風力、地熱、バイオマスなど)を用いて発電する発電装置が各電力需要家の施設に設けられてもよい。
【0026】
AIエッジデバイス10は、PV4の出力を監視するための電力監視装置である。AIエッジデバイス10は、たとえば、PV4内における、ソーラーパネルの出力段(インバータによる昇圧前の部分)、あるいはインバータの出力段(インバータによる昇圧後の部分)に設置される。なお、各電力需要家の施設と送電線網PLとの間にスマートメータが設けられる場合においては、AIエッジデバイス10がスマートメータとPV4との間に設置されてもよい。
【0027】
AIエッジデバイス10には、監視対象となるPV4の諸元情報およびトレース情報(流通情報)が予め登録されている。なお、PV4の諸元情報には、PV4の型式、製造番号等の、PV4の仕様および個体を特定可能な情報が含まれる。また、PV4のトレース情報には、PV4の工場出荷、設置施工業者名、設置工事引き渡し等の、PV4の流通ルートを特定可能な情報が含まれる。AIエッジデバイス10は、PV4の諸元情報およびトレース情報を追跡システム3に送信する。
【0028】
AIエッジデバイス10は、PV4の発電時の環境(たとえば発電時の日時、天候等)とPV4の出力との対応関係をAIを用いて学習し、その学習結果を用いてPV4が正規に使用されているか否か(PV4が本当に再生可能エネルギを用いて発電されたのか否か)を監視する。AIエッジデバイス10は、監視結果を追跡システム3に送信する。なお、AIエッジデバイス10の構成については後に詳述する。
【0029】
追跡システム3は、各電力需要家のAIエッジデバイス10、およびP2Pシステム2と通信可能に構成されたプラットホームである。
【0030】
追跡システム3は、PV4の諸元情報およびトレース情報を各AIエッジデバイス10から受信した場合、受信した諸元情報およびトレース情報を、ブロックチェーンなどの耐改ざん性の高いデータ保存手法を用いて保管する。また、追跡システム3は、PV4の監視結果を各AIエッジデバイス10から受信した場合、受信した監視結果を、対応する諸諸元情報およびトレース情報に関連付けた上で、ブロックチェーンなどの耐改ざん性の高いデータ保存手法を用いて管理する。
【0031】
追跡システム3は、ある諸元情報のPV4に対する照合要求をP2Pシステム2から受信すると、照合要求のあったPV4の諸元情報およびトレース情報が正規に登録されているか否かを自らが保管している情報に基づいて照合するとともに、照合要求のあったPV4の監視結果をP2Pシステム2に返信する。
【0032】
<AIエッジデバイス10の構成>
図5は、AIエッジデバイス10の構成の一例を模式的に示す図である。AIエッジデバイス10は、諸元情報登録部(第1登録部)11と、トレース情報登録部(第2登録部)12と、センシング部13と、PV出力判定部14と、通信部15とを備える。通信部15は、追跡システム3との間で通信可能に構成される。
【0033】
諸元情報登録部11は、たとえば不揮発性メモリによって構成される。諸元情報登録部11には、監視対象となるPV4の諸元情報(型式、製造番号等)が登録されている。PV4の諸元情報は、たとえば、PV4の設置施工業者がPV4に記載されているQRコード(登録商標)を読み取る操作を行なうことによって自動的に諸元情報登録部11に登録される。
【0034】
トレース情報登録部12も、諸元情報登録部11と同様、たとえば不揮発性メモリによって構成される。トレース情報登録部12には、監視対象となるPV4のトレース情報(工場出荷、設置施工業者名、設置工事引き渡し等の情報)が登録されている。PV4のトレース情報は、たとえば、PV4の設置工事引き渡し時にPV4の設置施工業者によってトレース情報登録部12に登録される。
【0035】
諸元情報登録部11に諸元情報が登録されると、登録された諸元情報が通信部15を介して追跡システム3に送信される。同様に、トレース情報登録部12にトレース情報が登録されると、登録されたトレース情報が通信部15を介して追跡システム3に送信される。
【0036】
なお、PV4の設置施工業者は、設置されたPV4の型式および製造番号が記載されたプレートの写真をスマートフォン等のデバイスで撮影し、撮影された写真をGPSデータ付きで追跡システム3に送信する。
【0037】
追跡システム3は、AIエッジデバイス10から受信した諸元情報およびトレース情報、およびPV4の設置施工業者のスマートフォンから受信したGPSデータ付きの写真を、ブロックチェーンなどの耐改ざん性の高いデータ保存手法を用いて管理する。追跡システム3は、設置施工業者のスマートフォンから受信したGPSデータ付きの写真を解析して写真に写っているPV4の型式および製造番号、設置場所等を特定し、特定された内容とAIエッジデバイス10から受信した内容とが一致する場合に、PV4の諸元情報およびトレース情報等が改ざんされていない正規の情報であるとして、ブロックチェーンに登録する。追跡システム3においてブロックチェーンに登録されたPV4は、P2Pシステム2におけるP2P電力取引が可能になる。
【0038】
AIエッジデバイス10のセンシング部13は、PV4の出力(発電量)を計測し、計測結果をPV出力判定部14に送信する。
【0039】
PV出力判定部14は、PV4の出力が異常であるか否か、より具体的には、PV4の出力が本当に太陽光(再生可能エネルギ)を用いて発電された電力であるのか否かを判定する機能を有する。PV出力判定部14は、AI学習部14aと、照合部14bと、出力部14cとを含む。
【0040】
AI学習部14aは、PV4の発電時の環境とPV4の発電量との対応関係を人工知能(AI)を用いて学習する。具体的には、AI学習部14aは、PV4の発電時の環境とPV4の発電量との複数の組合せを学習用データとして用いて、PV4の発電時の環境を入力、PV4の発電量を出力とする学習モデルを生成する。学習用データに用いられる「PV4の発電時の環境」とは、PV4の発電量に影響を及ぼす環境が含まれることが望ましい。PV4は太陽光を用いて発電するため、PV4の発電時の環境には、PV4が受ける太陽光の量および強度に関連する環境、たとえば日時および天候などが含まれることが望ましい。なお、PV4の発電時の環境は、たとえば、図示しない装置からAI学習部14aに入力される。PV4の発電量(出力)は、センシング部13からAI学習部14aに入力される。
【0041】
なお、AI学習部14aによる学習は継続的に行なわれる。これにより、AI学習部14aによって生成される学習モデルは、PV4の経年劣化の影響を加味した最新の状態に更新される。
【0042】
照合部14bは、AI学習部14aによる学習結果である学習モデルにPV4の発電時の環境を入力することによって、PV4の発電時の環境に対するPV4の出力を推測する。照合部14bは、推測されたPV4の出力の時間的な変化(以下「第1出力パターン」ともいう)を算出する。また、照合部14bは、センシング部13によって実際に計測されたPV4の出力の時間的な変化(以下「第2出力パターン」ともいう)を算出する。そして、照合部14bは、第1出力パターンと第2出力パターンとを照合する。
【0043】
たとえばPV4が継続して使用される場合、学習結果から推測される第1出力パターンと、実際に計測される第2出力パターンとは、ほぼ一致することが想定される。一方、たとえば、PV4が、再生可能エネルギではない化石燃料で駆動されるエンジンの動力で発電する発電装置(「エンジン発電装置」ともいう)に不正に取り替えられた場合、センシング部13によって実際に計測されるエンジン発電装置の出力パターン(=第2出力パターン)は、学習結果から推測されるPV4の出力パターン(=第1出力パターン)とは乖離することが想定される。
【0044】
この点に鑑み、照合部14bは、第1出力パターンと第2出力パターンとが乖離するか否かを判定する。たとえば、照合部14bは、第1出力パターンと第2出力パターンとの乖離度合いを予め決められた演算方法に従って算出し、算出された乖離度合いが予め定められた基準値を超える場合に、第1出力パターンと第2出力パターンとが乖離すると判定する。
【0045】
そして照合部14bによって第1出力パターンと第2出力パターンとが乖離すると判定された場合、PV4が不正に他の発電装置に取り替えられたことが想定されるため、出力部14cは、通信部15を介して追跡システム3に異常情報を出力する。この異常情報には、諸元情報登録部11に登録されているPV4の諸元情報と、トレース情報登録部12に登録されているトレース情報と、それらの諸元情報およびトレース情報によって特定されるPV4が正規に使用されていないことを示す情報とが含まれる。
【0046】
追跡システム3は、AIエッジデバイス10から異常情報を受信した場合、その異常情報に含まれる諸元情報およびトレース情報によって特定されるPV4を、不正機器としてブロックチェーンに登録する。
【0047】
追跡システム3において不正機器として登録されたPV4は、P2Pシステム2におけるP2P電力取引ができないようになる。具体的には、追跡システム3は、ある諸元情報のPV4に対する照合要求をP2Pシステム2から受信すると、照合要求のあったPV4のトレース情報が正規に登録されているか否か、および照合要求のあったPV4が不正機器に該当するか否かを、自らが保管している情報に基づいて照合する。
【0048】
そして、照合要求のあったPV4の諸元情報およびトレース情報が正規に登録されており、かつ照合要求のあったPV4が不正機器に該当しない場合、追跡システム3は、照合要求のあったPV4の電力取引を許可する旨の回答をP2Pシステム2に返信する。
【0049】
一方、照合要求のあったPV4の諸元情報およびトレース情報が正規に登録されていない場合、あるいは、照合要求のあったPV4が不正機器に該当する場合、追跡システム3は、照合要求のあったPV4の電力取引を許可しない旨の回答をP2Pシステム2に返信する。
【0050】
P2Pシステム2は、追跡システム3からの回答に従って、PV4の電力取引を行なうか否かを決定する。
【0051】
以上のように、本実施の形態によるAIエッジデバイス10は、PV4の諸元情報が登録された諸元情報登録部11と、PV4が設置されるまでのトレース情報が登録されたトレース情報登録部12と、PV4の出力を計測するセンシング部13と、PV4の出力が異常であるか否かを判定するPV出力判定部14と、追跡システム3との間で通信を行なう通信部15とを備える。
【0052】
PV出力判定部14は、PV4の発電時の環境(日時、天候等)とPV4の出力との対応関係を学習するAI学習部14aと、AI学習部14aによる学習結果を用いて推測されるPV4の出力パターン(第1出力パターン)とセンシング部13によって計測されたPV4の出力パターン(第2出力パターン)とを照合する照合部14bと、照合部14bによって第1出力パターンと第2出力パターンとが乖離すると判定された場合に通信部15を介して外部の追跡システム3に異常情報を出力する出力部14cとを含む。
【0053】
上記構成によれば、AIエッジデバイス10において、PV4の発電時の環境とPV4の出力との対応関係が学習され、その学習結果を用いて推測されるPV4の出力パターン(第1出力パターン)と、実際に計測されたPV4の出力パターン(第2出力パターン)とが乖離する場合には、PV4が不正に他の発電装置に取り替えられたことが想定されるため、AIエッジデバイス10は追跡システム3に異常情報を出力する。そのため、異常情報を受け取った追跡システム3は、異常情報によって特定されるPV4が不正に使用されていることを認識することができる。その結果、追跡システム3は、AIエッジデバイス10からの異常情報を受信したか否かによって、PV4で発電された電力が本当に太陽光(再生可能エネルギ)を用いて発電された電力であるのか否かを監視することができる。
【0054】
特に、AIエッジデバイス10から追跡システム3に送信される異常情報には、諸元情報登録部11に登録されている諸元情報と、トレース情報登録部に登録されているトレース情報と、PV4が正規に使用されていないことを示す情報とが含まれる。そのため、追跡システム3は、AIエッジデバイス10からの異常情報によって、不正なPV4を容易に特定することができる。
【0055】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 電力送配電システム、2 P2Pシステム、3 追跡システム、10 AIエッジデバイス、11 諸元情報登録部、12 トレース情報登録部、13 センシング部、14 出力判定部、14a AI学習部、14b 照合部、14c 出力部、15 通信部、EC 充放電器設備、EV 電動車、PL 送電線網。
図1
図2
図3
図4
図5