(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20250107BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20250107BHJP
G06Q 30/06 20230101ALI20250107BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 180
G06Q30/06
(21)【出願番号】P 2021159140
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由貴
(72)【発明者】
【氏名】木村 和峰
(72)【発明者】
【氏名】小幡 一輝
(72)【発明者】
【氏名】木暮 宏光
(72)【発明者】
【氏名】菊池 智志
(72)【発明者】
【氏名】間庭 佑太
【審査官】牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230544(JP,A)
【文献】特開2019-096164(JP,A)
【文献】特開2021-117731(JP,A)
【文献】特開2021-145533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0166616(US,A1)
【文献】特開2016-046934(JP,A)
【文献】特開2015-061395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0296905(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力取引市場を通じて電力リソースが電力取引を行なうための電力取引計画を作成する情報処理装置であって、前記電力リソースは、少なくとも前記電力リソースの外部から受電可能に構成され、
前記電力取引市場において取引される電力の取引価格を予測する価格予測部を備え、
前記取引価格は、
再生エネルギ電力の価格を示す第1価格と、
前記再生エネルギ電力に該当しない非再生エネルギ電力の価格を示す第2価格とを含み、さらに、
前記電力取引市場において購入する電力に占める前記再生エネルギ電力の度合いを示す再生エネルギ指数を設定する指数設定部と、
前記価格予測部の予測結果と前記再生エネルギ指数とから、前記電力取引計画における希望取引価格を設定する取引価格設定部と、
前記希望取引価格に基づいて前記電力取引計画を作成する取引計画作成部と
、
前記電力取引市場において取引される前記再生エネルギ電力の発電量を予測する発電予測部とを備え
、
前記価格予測部は、前記発電予測部の予測結果に基づいて前記第1価格を予測し、
前記取引価格設定部は、前記再生エネルギ指数が大きい場合は、前記再生エネルギ指数が小さい場合に比べて、予測された前記発電量が多いときと少ないときとについて、前記発電量が多いときは、前記再生エネルギ電力の前記希望取引価格を示す第1の希望取引価格を予測された前記第1価格よりも低く設定し、前記発電量が少ないときは、前記第1の希望取引価格を予測された前記第1価格よりも高く設定する、情報処理装置。
【請求項2】
前記取引価格設定部は、前記再生エネルギ指数が小さい場合は、前記再生エネルギ指数が大きい場合に比べて、前記発電量が多いときは、前記第1の希望取引価格を予測された前記第1価格よりも高く設定し、前記発電量が少ないときは、前記第1の希望取引価格を予測された前記第1価格よりも低く設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記発電予測部は、前記電力取引市場が扱う地域の天気情報に基づいて、前記再生エネルギ電力の発電量を予測する、
請求項1又は請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記電力リソースの電力消費量を予測する電力消費量予測部をさらに備え、
前記取引計画作成部は、前記希望取引価格と前記電力消費量予測部の予測結果とから前記電力取引計画を作成する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記再生エネルギ指数は、ユーザ入力に基づき設定される、前記電力取引市場において購入する電力に占める前記再生エネルギ電力の比率である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記指数設定部は、所定期間に前記電力取引市場において購入した電力に占める前記再生エネルギ電力の比率に基づいて、前記再生エネルギ指数を設定する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記指数設定部は、前記電力リソースに対して適用される所定の法令に基づいて、前記再生エネルギ指数を設定する、請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記指数設定部は、前記電力リソースに対して適用される所定の税制に基づいて、前記再生エネルギ指数を設定する、請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置に関し、特に、電力取引市場を通じて電力リソースが電力取引を行なうための電力取引計画を作成する情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生エネルギの増加に伴ない、電力の需給バランスの維持に必要な調整力を確保するための電力リソースとして、バッテリを搭載した移動体(電気自動車等)や定置型バッテリを備えた施設(住宅や工場等)等を用いることが検討されている。例えば、特開2020-78124号公報(特許文献1)には、バッテリを搭載した移動体(電力リソース)について、系統電力や再生エネルギ電力等の電力種別に応じて充放電計画を作成することが記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力自由化により、電力取引市場において、電力リソースを有する個人・法人と他の個人・法人との間で電力の売買取引を直接行なうP2P(Peer to Peer)電力取引の導入が検討されている。このような電力取引においては、電力取引市場での取引価格を予測して電力取引計画(入札計画)が作成され得る。ここで、電力取引において再生エネルギ電力の調達度合いを調整したい場合に、上記のような電力取引計画において希望の再生エネルギ電力の調達度合いをどのように組み込むかが課題である。
【0005】
それゆえに、本開示の目的は、P2P電力取引において、再生エネルギ電力の調達度合いを考慮した電力取引計画を作成可能な情報処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の情報処理装置は、電力取引市場を通じて電力リソースが電力取引を行なうための電力取引計画を作成する情報処理装置である。電力リソースは、少なくとも電力リソースの外部から受電可能に構成される。情報処理装置は、価格予測部と、指数設定部と、取引価格設定部と、取引計画作成部とを備える。価格予測部は、電力取引市場において取引される電力の取引価格を予測する。取引価格は、再生エネルギ電力の価格を示す第1価格と、再生エネルギ電力に該当しない非再生エネルギ電力の価格を示す第2価格とを含む。指数設定部は、電力取引市場において購入する電力に占める再生エネルギ電力の度合いを示す再生エネルギ指数を設定する。取引価格設定部は、価格予測部の予測結果と再生エネルギ指数とから、電力取引計画における希望取引価格を設定する。取引計画作成部は、希望取引価格に基づいて電力取引計画を作成する。
【0007】
この情報処理装置では、電力取引市場において取引される電力(再生エネルギ電力/非再生エネルギ電力)の価格が予測される。そして、予測された電力価格と設定された再生エネルギ指数とから、再生エネルギ電力の調達度合いが考慮された希望取引価格が設定され、その希望取引価格に基づいて電力取引計画が作成される。このように、上記の情報処理装置によれば、再生エネルギ電力の調達度合いを考慮した電力取引計画を作成することができる。
【0008】
情報処理装置は、電力取引市場において取引される再生エネルギ電力の発電量を予測する発電予測部をさらに備えてもよい。そして、価格予測部は、発電予測部の予測結果に基づいて第1価格を予測してもよい。
【0009】
発電予測部は、電力取引市場が扱う地域の天気情報に基づいて、再生エネルギ電力の発電量を予測してもよい。
【0010】
上記の構成により、再生エネルギ電力の発電量予測に基づいて、再生エネルギ電力の価格を適切に予測することができる。その結果、希望取引価格が適切に設定され、その希望取引価格に基づいて適切な電力取引計画を作成することができる。
【0011】
情報処理装置は、電力リソースの電力消費量を予測する電力消費量予測部をさらに備えてもよい。そして、取引計画作成部は、希望取引価格と電力消費量予測部の予測結果とから電力取引計画を作成してもよい。
【0012】
これにより、電力リソースの電力消費量を反映した適切な電力取引計画を作成することができる。
【0013】
再生エネルギ指数は、ユーザ入力に基づき設定される、電力取引市場において購入する電力に占める再生エネルギ電力の比率であってもよい。
【0014】
これにより、再生エネルギ電力の上記比率についてユーザの希望を反映した電力取引計画を作成することができる。
【0015】
指数設定部は、所定期間に電力取引市場において購入した電力に占める再生エネルギ電力の比率に基づいて、再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0016】
これにより、過去の所定期間における再生エネルギ電力の上記比率に基づいて、電力取引計画を作成することができる。例えば、所定期間における再生エネルギ電力の上記比率が低かった場合に、当該比率を高めるように電力取引計画を作成することが可能となる。
【0017】
取引価格設定部は、価格予測部の予測結果と、再生エネルギ指数に応じて設定される再生エネルギ電力の比率とに基づいて、希望取引価格を設定してもよい。
【0018】
この情報処理装置によれば、再生エネルギ指数に応じて設定される再生エネルギ電力の比率を考慮した電力取引計画を作成することができる。
【0019】
指数設定部は、電力リソースに対して適用される所定の法令に基づいて、再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0020】
これにより、電力リソースに対して適用される所定の法令を反映した電力取引計画を作成することができる。例えば、ある地域への侵入条件として再生エネルギ電力の使用比率が条例で規定されているような場合に、再生エネルギ電力の使用比率について条件を満たす電力取引計画を作成することが可能となる。
【0021】
指数設定部は、電力リソースに対して適用される所定の税制に基づいて、再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0022】
これにより、電力リソースに対して適用される所定の税制を反映した電力取引計画を作成することができる。例えば、再生エネルギ電力の使用比率により税率が設定されるような場合に、税率を考慮した希望の再生エネルギ電力の比率で電力取引計画を作成することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の情報処理装置によれば、P2P電力取引において、再生エネルギ電力の調達度合いを考慮した電力取引計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施の形態1に従う情報処理装置を用いて取引される電力の送配電システムの構成例を模式的に示す図である。
【
図2】P2P電力取引市場の一例を模式的に示す図である。
【
図3】P2P電力取引の一般取引市場における入札の一例を説明する図である。
【
図4】P2P電力取引の直接取引市場における入札の一例を説明する図である。
【
図5】エージェント及び取引市場サーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1に従うエージェントの構成を機能的に示すブロック図である。
【
図9】予測される再生エネルギ電力の発電量と、再生エネルギ電力の希望取引価格(単価)との関係を示す図である。
【
図10】エージェントがP2P電力取引市場に対して入札を行なう際に実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態2に従うエージェントの構成を機能的に示すブロック図である。
【
図12】実施の形態2に従うエージェントがP2P電力取引市場に対して入札を行なう際に実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に従う情報処理装置を用いて取引される電力の送配電システムの構成例を模式的に示す図である。
図1を参照して、電力送配電システム1は、複数の電力リソースと、充放電設備6A~6Hと、電力会社9と、送電線網PLと、取引市場サーバ3と、通信ネットワーク10とを含んで構成される。
【0027】
複数の電力リソースは、例えば、電動車5A~5Eと、工場7Aと、会社7Bと、商業施設7Cと、住宅7Dと、店舗7Eとを含む。各電力リソースは、送電線網PLを通じて、或いは直接的に、他の電力リソースと電力を授受可能に構成されている。
【0028】
なお、電動車の数、及び充放電設備の数は、図示されている数に限定されるものではない。また、工場7A等の施設についても、図示されているものに限定されるものはない。なお、以下では、電動車5A~5Eの各々を区別せずに「電動車5」と称する場合があり、充放電設備6A~6Hの各々を区別せずに「充放電設備6」と称する場合がある。また、工場7A、会社7B、商業施設7C、住宅7D、店舗7Eの各々を区別せずに「施設7」と称する場合がある。
【0029】
電動車5は、バッテリに蓄えられた電力を用いて走行可能な電動車であり、例えば、電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等である。以下では、電動車5は、BEVとする。電動車5は、充放電設備6に電気的に接続可能に構成されており、充放電設備6を通じて送電線網PL或いは施設7と電力を授受することができる。
【0030】
施設7は、送電線網PLに電気的に接続され、送電線網PLと電力を授受することができる。また、施設7は、充放電設備6とも電気的に接続されており、充放電設備6に接続された電動車5と電力を授受することができる。
【0031】
充放電設備6は、送電線網PL或いは施設7に電気的に接続されている。充放電設備6は、電力ケーブルを通じて電動車5と電気的に接続可能であり、電動車5は、接続先の充放電設備6を通じて送電線網PL或いは施設7と電力を授受することができる。
【0032】
電力会社9が管理する発電所によって発電された電力は、送電線網PL(系統電力網)を通じて各施設7へ供給され、また、充放電設備6Aに接続されている電動車5Aへも供給され得る。従来、電力は、このように専ら電力会社9の発電所から送電線網PLを通じて施設7や電動車5に供給されていた。この電力送配電システム1においては、個人又は法人(各施設7又は各電動車5)間での電力売買取引、すなわちP2P(Peer to Peer)電力取引を行なうことができる。
【0033】
取引市場サーバ3は、そのようなP2P電力取引を実施するためのプラットフォームを提供する。取引市場サーバ3は、通信ネットワーク10を通じて、電動車5、充放電設備6、施設7と通信可能に構成されている。施設7或いは電動車5がP2P電力取引を希望する場合には、施設7或いは電動車5(詳細には、施設7或いは電動車5の電力取引を実行するエージェント(後述))から、電力取引を行ないたいP2P電力取引市場を管理する取引市場サーバ3に対して、例えば、電力を売買したい時間帯、単位時間帯毎の売買電力量、及び取引価格等を入札条件として入札する。取引市場サーバ3は、任意のアルゴリズムにより、入札条件が合致する売り手と買い手との間において電力取引の約定を発効し、条件の合致する相手の見つからない入札については、不約定として処理する。なお、「入札」とは、電力取引(買取又は売却)を注文する行為、又はその注文自体を意味する。「約定」とは、入札された電力取引を行なうことを決定する行為、又はその決定自体を意味する。
【0034】
図2は、P2P電力取引市場の一例を模式的に示す図である。
図2を参照して、P2P電力取引市場においては、P2P電力取引市場への入札を実行する「エージェント」によって、入札の計画及び実行、約定の管理、約定に基づく充放電計画の作成等が行なわれる。エージェントは、施設7或いは電動車5毎に設けられるものであり、本実施の形態1では、電動車5に対応する複数の移動体エージェント2A~2D、工場7A等に対応する複数の事業者エージェント2E~2H、住宅に対応する複数の住宅エージェント2I,2Jが存在する。例えば、電動車5について代表的に説明すると、電動車5の移動体エージェントにおいて、P2P電力取引市場に対する電力取引計画(入札計画)が作成され、当該移動体エージェントからP2P電力取引市場(取引市場サーバ3)に対して入札が実行される。
【0035】
なお、以下では、移動体エージェント2A~2D、事業者エージェント2E~2H、住宅エージェント2I,2Jの各々を区別せずに単に「エージェント2」と称する場合がある。エージェント2は、P2P電力取引市場を通じて対応の電力リソースが電力取引を行なうための電力取引計画を作成する「情報処理装置」である。
【0036】
なお、P2P電力取引市場には、「一般取引市場」と「直接取引市場」とが存在する。一般取引市場は、送電線網PLを通じて伝送される電力の取引を扱う市場であり、不特定多数のエージェント2が電力取引に参加することができる。一般取引市場においては、P2P電力取引市場を管理する運営者が定めた任意のルールに従って、電力取引の約定が行なわれる(マッチング)。マッチングルールとしては、例えば、所定の単位時間帯で売り手の提示価格と買い手の提示価格とが合致した場合に、先着順で取引を成立させる方法がある。その他のマッチングルールとして、単位時間帯で行なわれる売り手と買い手の入札(注文)を一旦整理した上で適切な価格で取引を成立させる方法も可能である。
【0037】
図3は、P2P電力取引の一般取引市場における入札の一例を説明する図である。
図3を参照して、一般取引市場においては、所定の単位時間帯(1,2,…n)毎に、不特定多数の売り手が売却価格及び電力量の組(p,q)を入札する一方で、不特定多数の買い手が買取価格及び電力量の組(P,Q)を入札する。なお、単位時間帯は、一般取引市場において設定された時間幅(例えば30分)である。電力量の取引は、単位時間帯の中で伝送される電力量(電力×単位時間帯長さ)毎に行なわれる。
【0038】
再び
図2を参照して、直接取引市場は、電動車5が施設7の場所へ移動して送電線網PLを介さずに伝送される電力の取引を扱う市場であり、直接取引市場のIDを有するエージェントのみが電力取引に参加することができる。直接取引市場においては、充放電設備6が設置された施設7に対して1つの市場が構成される。施設7毎に設けられるサーバが1つの直接取引市場を管理してもよいし、複数の施設7による複数の直接取引市場を共同のサーバで管理するようにしてもよい。直接取引市場においては、各市場の運営者が独自で定めた任意のルールに従って、電力取引の約定が行なわれる(マッチング)。マッチングルールとしては、一般取引市場で説明した上記の方法を採用することができる。
【0039】
図4は、P2P電力取引の直接取引市場における入札の一例を説明する図である。
図4を参照して、直接取引市場においは、所定の単位時間帯(1,2,…n)毎に、売り手が売却価格及び電力量の組(p,q)を提示したことに対して、直接取引市場のIDを有する複数の買い手が買取価格及び電力量の組(P,Q)を入札する。単位時間帯は、直接取引市場において個別に設定された時間幅である。電力量の取引は、単位時間帯の中で伝送される電力量(電力×単位時間帯長さ)毎に行なわれる。
【0040】
図5は、エージェント2及び取引市場サーバ3のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5を参照して、エージェント2は、プロセッサ21と、メモリ22と、通信装置23とを含む。エージェント2は、電動車5及び施設7(工場7A、住宅7D等)の電力リソース毎に設けられる。エージェント2は、対応の電力リソース内に設けられてもよいし、対応の電力リソースと通信可能なクラウドに設けられてもよい。
【0041】
プロセッサ21は、各種のプログラムを実行することで、各種の処理を実行する演算主体(コンピュータ)である。プロセッサ21は、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等で構成される。プロセッサ21は、演算回路(processing circuitry)によって構成されてもよい。
【0042】
メモリ22は、プロセッサ21が各種の処理を実行するためのプログラム及びデータを記憶する。メモリ22は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体で構成される。メモリ22は、演算プログラム221と、リソース情報222と、外部情報223とを記憶する。
【0043】
演算プログラム221は、プロセッサ21が実行する処理を特定するものである。例えば、演算プログラム221は、取引市場サーバ3が管理するP2P電力取引市場での電力取引に関する入札を取引市場サーバ3に対して実行するためのプログラムを含む。
【0044】
リソース情報222は、当該エージェント2に対応する電力リソース(例えば、電動車5)に関する情報を含み、特に、電力取引の入札及び約定に関する情報を含む。
【0045】
図6は、リソース情報222の一例を示す図である。この
図6では、一例として、電動車5のエージェント2(移動体エージェント)におけるリソース情報222が示されている。
【0046】
図6を参照して、リソース情報222は、IDと、種別情報と、トリップ情報と、SOC(State Of Charge)情報と、接続情報と、入札情報と、約定情報と、充放電計画と、充放電実績とを含む。
【0047】
IDは、電力リソース(この例では電動車5)を特定するための識別情報を含む。種別情報は、電力リソースの種別に関する情報を含み、例えば、電動車、事業者、住宅等を特定するための情報を含む。トリップ情報は、過去の走行ルート及び走行時間等の走行履歴に関する情報を含む。SOC情報は、現在、蓄電装置に蓄積されている電力量に関する情報を含む。接続情報は、現在、充放電設備6に接続されているか否かを特定するための情報を含む。入札情報は、過去の入札履歴に関する情報、及び現在行なわれている入札に関する情報を含む。約定情報は、過去の約定履歴に関する情報、及び現在行なわれている入札が約定しているか否かを特定するための情報を含む。充放電計画は、約定に基づく電力リソースの充放電計画に関する情報を含む。充放電実績は、上記充放電計画に対する充放電の結果に関する情報を含む。
【0048】
なお、トリップ情報及び接続情報は、電動車5のエージェント2(移動体エージェント)で用いられる情報であり、施設7(工場7Aや住宅7D等)ではブランクである。
【0049】
再び
図5を参照して、外部情報223は、電力会社9が提供する系統電力の価格、入札を行なうP2P電力取引市場の地域の天気情報(日射量、天候、風速等)、当該市場における再生エネルギの発電設備(太陽光発電設備、風力発電設備、水力発電設備等)に関する情報等を含む。エージェント2は、これらの外部情報223を、通信ネットワーク10を通じて外部のサーバ装置(取引市場サーバ3でもよい)から取得する。
【0050】
通信装置23は、通信ネットワーク10を通じて取引市場サーバ3との間で各種データを送受信する。
【0051】
取引市場サーバ3は、プロセッサ31と、メモリ32と、通信装置33とを含む。取引市場サーバ3は、P2P電力取引市場(一般取引市場及び直接取引市場)において電力リソース間のP2P電力取引を管理する装置であり、電力取引に係る処理を実行する。
【0052】
プロセッサ31は、各種のプログラムを実行することで、各種の処理を実行する演算主体(コンピュータ)である。プロセッサ31は、CPU、FPGA、GPU等で構成される。プロセッサ31は、演算回路によって構成されてもよい。
【0053】
メモリ32は、プロセッサ31が各種の処理を実行するためのプログラム及びデータを記憶する。メモリ32は、ROM及びRAM等の記憶媒体で構成される。メモリ32は、演算プログラム321と、エージェント情報322とを記憶する。
【0054】
演算プログラム321は、プロセッサ31が実行する処理を特定するものである。例えば、演算プログラム321は、複数のエージェント2から入札を受け付ける入札処理、及び入札に基づく約定処理を実行するためのプログラムを含む。約定処理は、入札条件が合致する売り手と買い手との間において電力取引の約定を発効し、条件の合致する相手の見つからない入札については不約定として処理するものである。
【0055】
エージェント情報322は、取引市場サーバ3が管理するP2P電力取引市場に参加しているエージェント2に関する情報を含み、特に、エージェント2毎の電力取引の入札及び約定に関する情報を含む。
【0056】
図7は、エージェント情報322の一例を示す図である。
図7を参照して、エージェント情報322は、IDと、種別情報と、入札情報と、約定情報とを含む。
【0057】
IDは、取引市場サーバ3が管理するP2P電力取引市場に参加しているエージェント2を特定するための識別情報を含む。種別情報は、電力リソースの種別に関する情報を含み、例えば、電動車、事業者、住宅等を特定するための情報を含む。入札情報は、各エージェント2における過去の入札履歴に関する情報、及び現在行なわれている入札に関する情報を含む。約定情報は、各エージェント2における過去の約定履歴に関する情報、及び現在行なわれている入札が約定しているか否かを特定するための情報を含む。
【0058】
再び
図5を参照して、通信装置33は、通信ネットワーク10を通じてエージェント2との間で各種データを送受信する。
【0059】
このようなエージェント2及び取引市場サーバ3によって構成されるP2P電力取引市場において、エージェント2は、対応の電力リソースの利用予測を行ない(電動車5であれば、ユーザによる電動車5の利用予測)、電力取引に参加可能な時間帯において電力取引市場での電力取引価格を予測する。そして、エージェント2は、対応の電力リソースの蓄電装置において満たされるべきSOC上下限の制約(充放電可能な範囲)の下で、コスト的に最適となる電力取引計画(入札計画)を作成し、取引市場サーバ3に対して電力取引の入札を行なう。
【0060】
ここで、エージェント2において電力取引計画を作成するにあたり、コスト最適化の観点に加えて、再生エネルギの活用向上の社会的ニーズを背景に、再生エネルギ電力の調達度合いを調整したい場合がある。例えば、再生エネルギ電力(太陽光発電や風力発電等由来の電力)が余剰である場合には、コストが低下すると予想される再生エネルギ電力の調達度合いを増やし、再生エネルギ電力の発電量が少ない場合には、コストが高くなり得る再生エネルギ電力の調達度合いを減らすことが考えられる。
【0061】
そこで、本実施の形態1に従うエージェント2では、コスト最適化の観点に加えて、再生エネルギ電力の調達度合いを反映可能な電力取引計画が作成される。以下、詳しく説明する。
【0062】
図8は、実施の形態1に従うエージェント2の構成を機能的に示すブロック図である。
図8を参照して、エージェント2は、外部情報取得部102と、再生エネルギ発電量予測部104と、市場電力価格予測部106と、再生エネルギ指数設定部108と、取引価格設定部110と、電力消費量予測部112と、電力取引計画作成部114とを含む。
【0063】
外部情報取得部102は、図示しない外部のサーバ装置から、入札を行なうP2P電力取引市場の地域の天気情報を取得する。天気情報は、上記地域の天気予報の情報であり、時間帯毎の日射量、天候、風速等の予報情報を含む。なお、入札を行なうP2P電力取引市場は、対応の電力リソースがP2P電力取引に基づく充放電を希望する地域における電力取引市場であり、対応の電力リソースの利用予測に基づいて決定される。例えば、電動車5のエージェント2(移動体エージェント)であれば、電動車5の予測位置(例えば目的地等)に基づいて決定され得る。
【0064】
また、外部情報取得部102は、図示しない外部のサーバ装置から、入札を行なうP2P電力取引市場における再生エネルギの発電設備に関する情報を取得する。再生エネルギの発電設備は、太陽光発電設備、風力発電設備、水力発電設備等である。再生エネルギの発電設備に関する情報は、P2P電力取引市場がカバーする地域における上記発電設備の種別及び台数、各発電設備の定格出力又は最大出力等の情報を含む。なお、外部情報取得部102により取得された情報は、外部情報223としてメモリ22に記憶される。
【0065】
再生エネルギ発電量予測部104は、外部情報取得部102により取得された天気情報及び発電設備情報に基づいて、入札を行なうP2P電力取引市場における再生エネルギの発電量を予測する。例えば、太陽光発電設備であれば、時間帯が昼間で、天気が晴れであり、太陽光発電設備が多数存在する場合には、再生エネルギ発電量予測部104は、太陽光発電由来の再生エネルギの発電量が多いものと予測する。他方、天気が雨であったり、時間帯が夜間であったりする場合には、再生エネルギ発電量予測部104は、太陽光発電由来の再生エネルギの発電量が少ないものと予測する。また、風力発電設備であれば、風が強く、風力発電設備が多数存在する場合には、再生エネルギ発電量予測部104は、風力発電由来の再生エネルギの発電量が多いものと予測する。
【0066】
市場電力価格予測部106は、入札を行なうP2P電力取引市場において取引される電力(買取電力及び売却電力)の価格(単価)を予測する。本実施の形態1におけるP2P電力取引市場では、再生エネルギの発電設備由来の再生エネルギ電力と、再生エネルギ電力に該当しない非再生エネルギ電力(火力発電由来の電力等)とを区別して取引される。例えば、再生エネルギ電力を取引する際に、取引される電力が再生エネルギ電力であることを示すタグ(再エネタグ)を付与することで、再生エネルギ電力を非再生エネルギ電力と区別することができる。或いは、P2P電力取引市場内で、再生エネルギ電力の取引を扱う市場と、非再生エネルギ電力の取引を扱う市場とを分けてもよい。
【0067】
そして、本実施の形態1では、市場電力価格予測部106は、買取価格について、再生エネルギ電力の価格(第1価格)と、非再生エネルギ電力の価格(第2価格)とを区別して予測する。再生エネルギ電力の価格は、再生エネルギ発電量予測部104の予測結果に基づいて予測される。
【0068】
例えば、再生エネルギ発電量予測部104により再生エネルギの発電量が多いと予測される場合には、再生エネルギ電力の余剰が発生すると予想されるため、市場電力価格予測部106は、再生エネルギ電力の価格を安価であると予測する。他方、再生エネルギ発電量予測部104により再生エネルギの発電量が少ないと予測される場合には、再生エネルギ電力の流通量が限られるため、市場電力価格予測部106は、再生エネルギ電力の価格を高価であると予測する。なお、高価(安価)とは、ある基準価格に対して高い(低い)ことであってもよいし、非再生エネルギ電力の価格に対して高い(低い)ことであってもよい。
【0069】
なお、非再生エネルギ電力の価格は、例えば、電力会社9から入手可能な系統電力の価格に基づいて予測することができる。
【0070】
再生エネルギ指数設定部108は、P2P電力取引市場において購入する電力(買取電力)に占める再生エネルギ電力の度合いを示す「再生エネルギ指数」を設定する。本実施の形態1におけるP2P電力取引市場では、上述のように、再生エネルギ電力と非再生エネルギ電力とを区別して取引可能であり、再生エネルギ指数設定部108により、電力買取の際に再生エネルギ電力をどの程度含ませるかを調整することができる。
【0071】
本実施の形態1では、対応の電力リソースのユーザが、買取電力に占める再生エネルギ電力の比率(ユーザの希望再エネ率)を図示しない入力装置から設定することができる。ユーザによる希望再エネ率の設定は、再生エネルギ電力の比率の値そのものであってもよいし、ある基準比率に対して再生エネルギ電力の比率を高くするか低くするかであってもよい。ユーザは、例えば再生エネルギ電力の買取量を増やしたい場合に、高い希望再エネ率を入力装置から設定することができる。
【0072】
そして、再生エネルギ指数は、例えば、買取電力に占める再生エネルギ電力の比率が高いほど大きく、再生エネルギ電力の比率が低いほど小さくなる指数として定義される。再生エネルギ指数設定部108は、ユーザにより設定される希望再エネ率に基づいて、再生エネルギ指数を設定する。
【0073】
取引価格設定部110は、市場電力価格予測部106による電力取引価格の予測結果と、再生エネルギ指数設定部108により設定される再生エネルギ指数とから、P2P電力取引市場に入札を行なう際の希望取引価格を設定する。具体的には、取引価格設定部110は、市場電力価格予測部106により予測された再生エネルギ電力の価格(第1価格)を、再生エネルギ指数に応じて変化させる。以下、
図9を用いて説明する。
【0074】
図9は、予測される再生エネルギ電力の発電量と、再生エネルギ電力の希望取引価格(単価)との関係を示す図である。
図9を参照して、線k1は、再生エネルギ発電量予測部104により予測される再生エネルギ電力の発電量に基づいて、市場電力価格予測部106により予測される再生エネルギ電力の価格を示す。上述のように、再生エネルギの発電量が多いと予測される場合には、再生エネルギ電力の価格は安価であると予測される。他方、再生エネルギの発電量が少ないと予測される場合には、再生エネルギ電力の価格は高価であると予測される。
【0075】
線k2は、再生エネルギ指数が大きい(希望再エネ率が高い)場合に、取引価格設定部110により設定される再生エネルギ電力の希望取引価格を示す。線k2は、線k1で示される再生エネルギ電力の予測価格に対して、予測される再生エネルギ電力の発電量に基づく価格変動が大きくなるように、線k1を変化させたものである。すなわち、取引価格設定部110は、線k1で示される再生エネルギ電力の予測価格に対して、予測される再生エネルギ電力の発電量が多い場合には、再生エネルギ電力の希望取引価格を予測価格よりも低く設定し、予測される再生エネルギ電力の発電量が少ない場合には、再生エネルギ電力の希望取引価格を予測価格よりも高く設定する。これにより、後述の電力取引計画において、再生エネルギ電力の発電量が多い時間帯に積極的に再生エネルギ電力を購入するような取引計画が作成される。
【0076】
線k3は、再生エネルギ指数が小さい(希望再エネ率が低い)場合に、取引価格設定部110により設定される再生エネルギ電力の希望取引価格を示す。線k3は、線k1で示される再生エネルギ電力の予測価格に対して、予測される再生エネルギ電力の発電量に基づく価格変動が小さくなるように、線k1を変化させたものである。すなわち、取引価格設定部110は、再生エネルギ電力の取引価格に対する、再生エネルギ電力の発電量の依存性が小さくなるように、希望取引価格を設定する。これにより、後述の電力取引計画において、再生エネルギ指数が大きい場合のような再生エネルギ電力を積極的に購入する取引計画は作成されない。
【0077】
なお、非再生エネルギ電力の希望取引価格は、市場電力価格予測部106により予測された予測価格に設定される。
【0078】
再び
図8を参照して、電力消費量予測部112は、対応の電力リソースの蓄電装置における電力の消費量を予測する。例えば、電動車5のエージェント2(移動体エージェント)であれば、電力消費量予測部112は、電動車5の利用(走行)による、電動車5に搭載されたバッテリの電力消費量を予測する。この電力消費量予測部112の予測結果は、後述の電力取引計画を作成する際に、対応の電力リソースの蓄電装置において満たされるべきSOC上下限の制約条件の設定に用いられる。
【0079】
電力取引計画作成部114は、取引価格設定部110により設定される希望取引価格と、電力消費量予測部112により予測される電力リソースの電力消費量とに基づいて、P2P電力取引市場において電力取引を行なうための電力取引計画(入札計画)を作成する。一例として、電力取引計画作成部114は、対応の電力リソースの蓄電装置において満たされるべきSOC上下限の制約(充放電可能な範囲)の下で、コスト的に最適となる電力取引計画を作成する。
【0080】
具体的には、電力売買取引におけるコストを算出する目的関数Fcostが設定され、対応の電力リソースの蓄電装置において満たされるべきSOC上下限の制約条件(充放電可能な範囲)の下で、目的関数Fcostを最小化する取引電力量が探索される。一例として、次式のような目的関数Fcostが設定することができる。
【0081】
【0082】
ここで、k(i~i+n、iは現在の単位時間帯)は、単位時間帯の符号であり、r(k)は、単位時間帯kにおいて、電力リソースがP2P電力取引市場を通じた電力調達を行なう場合に「1」、それ以外では「0」となる変数である。F(k)は、単位時間帯kにおいて、電力リソースがP2P電力取引市場を通じた電力調達を行なう場合のコストであり、次式によって与えられる。
【0083】
【0084】
ここで、Pr(k)は、取引価格設定部110により設定される再生エネルギ電力の希望取引価格(単価)であり、Qbr(k),Qsr(k)は、それぞれ単位時間帯kにおける再生エネルギ電力の買取希望電力量及び売却希望電力量である。Pn(k)は、取引価格設定部110により設定される非再生エネルギ電力の希望取引価格(単価)であり、すなわち、市場電力価格予測部106において予測された非再生エネルギ電力の予測価格である。Qbn(k),Qsn(k)は、それぞれ単位時間帯kにおける非再生エネルギ電力の買取希望電力量及び売却希望電力量である。
【0085】
他方、電力リソースの蓄電装置のSOCは、次式で与えられる。
【0086】
【0087】
ここで、Qtrip(k)は、単位時間帯kにおける電力リソースの電力消費量の予測値である。電力リソースが電動車5である場合は、Qtrip(k)は、単位時間帯kにおける電動車5の走行による電力消費量の予測値であり、電動車5の電費等から算出される。Cは、電力量をSOCに換算するための換算係数である。
【0088】
そして、SOCに対しては、上限値SOC_upper及び下限値SOC_lowerが設定され、SOCが次式を満たすことが制約条件となる。
【0089】
【0090】
このように、式(1)で示される目的関数Fcostについて、式(4)で示されるSOC制約条件を満たしながら、目的関数Fcostが最小となる条件が探索される(目的関数Fcostの最適化)。目的関数Fcostの最適化計算については、線形計画法や凸最適化法等の任意の演算手法を用いることができる。
【0091】
上述のように、本実施の形態1では、再生エネルギ電力の調達度合いを示す再生エネルギ指数が設定され、再生エネルギ指数を考慮した希望取引価格が設定される。そして、その再生エネルギ指数を考慮した希望取引価格を用いた目的関数Fcostに基づいて、電力取引計画が作成される。これにより、再生エネルギ電力の調達度合いを電力取引計画に反映させることができ、再生エネルギ電力の調達度合いを考慮した電力取引計画を作成することができる。
【0092】
図10は、エージェント2がP2P電力取引市場に対して入札を行なう際に実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図10を参照して、エージェント2(プロセッサ21)は、外部のサーバ装置から通信ネットワーク10を通じて、入札を行なうP2P電力取引市場に関する外部情報を取得する(ステップS10)。外部情報は、当該市場がカバーする地域の天気情報(日射量、天候、風速等)、当該市場における再生エネルギの発電設備(太陽光発電設備、風力発電設備、水力発電設備等)に関する情報、電力会社9が提供する系統電力の価格等を含む。
【0093】
次いで、エージェント2は、ステップS10において取得された天気情報、及び再生エネルギの発電設備の情報に基づいて、入札を行なうP2P電力取引市場における再生エネルギ電力の発電量を予測する(ステップS20)。
【0094】
そして、エージェント2は、ステップS20において予測された再生エネルギ電力の発電量に基づいて、当該市場において取引される再生エネルギ電力の価格(単価)を予測する(ステップS30)。具体的には、
図9の線k1で示されるように、エージェント2は、再生エネルギの発電量が多いと予測される場合には、再生エネルギ電力の価格を安価であると予測し、再生エネルギの発電量が少ないと予測される場合には、再生エネルギ電力の価格を高価であると予測する。
【0095】
次いで、エージェント2は、対応する電力リソースのユーザが入力装置から設定した希望再エネ率を取得し、その希望再エネ率に基づいて再生エネルギ指数を設定する(ステップS40)。上述のように、再生エネルギ指数は、入札を行なうP2P電力取引市場において購入する電力(買取電力)に占める再生エネルギ電力の度合いを示す指数である。
【0096】
そして、エージェント2は、ステップS30において予測された再生エネルギ電力の価格と、ステップS40において設定された再生エネルギ指数とから、入札を行なうP2P電力取引市場での希望取引価格を設定する(ステップS50)。具体的には、
図9で説明したように、ステップS30において予測された再生エネルギ電力の価格を再生エネルギ指数に応じて変化させることにより、再生エネルギ電力の希望取引価格が設定される。非再生エネルギ電力の希望取引価格については、ステップS10において取得された系統電力の価格に基づいて設定される。
【0097】
次いで、エージェント2は、対応の電力リソースの蓄電装置における電力の消費量を予測する(ステップS60)。エージェント2が電動車5のエージェント(移動体エージェント)であれば、エージェント2は、過去の電費に基づいて、電動車5の走行によるバッテリの電力消費量を予測する。
【0098】
そして、エージェント2は、上記の式(4)で示される、対応のリソースの蓄電装置におけるSOCの制約の下で、上記の式(1)で示される目的関数Fcostが最小となる条件を探索することにより、最適な電力取引計画を作成する(ステップS70)。すなわち、エージェント2は、式(1)~式(4)を用いたコスト最適化演算を実行し、P2P電力取引市場への入札計画を作成する。
【0099】
ステップS70において電力取引計画(入札計画)が作成されると、エージェント2は、その電力取引計画に基づいて、P2P電力取引市場(取引市場サーバ3)へ入札を実行する(ステップS80)。
【0100】
以上のように、この実施の形態1においては、P2P電力取引市場において取引される電力(再生エネルギ電力/非再生エネルギ電力)の価格が予測される。また、P2P電力取引市場において購入する電力に占める再生エネルギ電力の度合いを示す再生エネルギ指数が設定される。そして、予測された電力価格と設定された再生エネルギ指数とから、再生エネルギ電力の調達度合いが考慮された希望取引価格が設定され、その希望取引価格に基づいて電力取引計画が作成される。このように、この実施の形態1によれば、再生エネルギ電力の調達度合いを考慮した電力取引計画を作成することができる。
【0101】
また、この実施の形態1では、P2P電力取引市場が扱う地域の天気情報に基づいて、当該市場において取引される再生エネルギ電力の発電量が予測され、その予測結果に基づいて再生エネルギ電力の価格が予測される。したがって、再生エネルギ電力の価格を適切に予測することができる。その結果、希望取引価格が適切に設定され、その希望取引価格に基づいて適切な電力取引計画を作成することができる。
【0102】
また、この実施の形態1では、電力リソースの電力消費量が予測され、その予測結果と希望取引価格とから電力取引計画が作成される。したがって、電力リソースの電力消費量の予測に基づいて、適切な電力取引計画を作成することができる。
【0103】
また、この実施の形態1では、再生エネルギ指数は、ユーザ入力に基づき設定される、電力取引市場において購入する電力に占める再生エネルギ電力の比率である。したがって、再生エネルギ電力の上記比率について、ユーザの希望を反映した電力取引価格を作成することができる。
【0104】
[実施の形態2]
上記の実施の形態1では、対応の電力リソースのユーザが買取電力に占める再生エネルギ電力の比率(希望再エネ率)を入力装置から設定するものとし、再生エネルギ指数は、希望再エネ率に基づいて設定されるものとした。この実施の形態2では、過去にP2P電力取引市場において購入した電力に占める再生エネルギ電力の比率(再エネ使用比率)に基づいて、再生エネルギ指数が設定される。
【0105】
図11は、実施の形態2に従うエージェントの構成を機能的に示すブロック図である。
図11を参照して、エージェント2#は、
図8に示した実施の形態1に従うエージェント2の構成において、再生エネルギ使用比率算出部116をさらに含み、再生エネルギ指数設定部108に代えて再生エネルギ指数設定部108Aを含む。
【0106】
再生エネルギ使用比率算出部116は、過去の所定期間において、P2P電力取引市場を通じて購入した電力に占める再生エネルギ電力の比率(再エネ使用比率)を算出する。所定期間は、適宜設定可能であり、例えば数ヶ月に設定される。そして、再生エネルギ使用比率算出部116は、算出された過去の再エネ使用比率に基づいて、今回の入札対象の電力取引における再生エネルギ電力の比率(取引再エネ比率)を設定する。例えば、過去の再エネ使用比率が適宜設定される基準比率よりも低い場合に、再生エネルギ使用比率算出部116は、再エネ使用比率を高めるため、取引再エネ比率を過去の再エネ使用比率よりも高い値に設定する。
【0107】
そして、再生エネルギ指数設定部108Aは、再生エネルギ使用比率算出部116において設定された取引再エネ比率に基づいて、再生エネルギ指数を設定する。具体的には、取引再エネ比率が高いほど再生エネルギ指数が大きく、取引再エネ比率が低いほど再生エネルギ指数が小さくなるように、再生エネルギ指数が適宜設定される。
【0108】
エージェント2#におけるその他の機能は、
図8に示した実施の形態1に従うエージェント2と同じである。
【0109】
図12は、実施の形態2に従うエージェント2#がP2P電力取引市場に対して入札を行なう際に実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、実施の形態1で説明した
図10のフローチャートに対応するものである。
【0110】
図12を参照して、ステップS110~S130,S150~S180の処理は、それぞれ
図10に示したフローチャートのステップS10~S30,S50~S80の処理と同じである。
【0111】
このフローチャートでは、ステップS130において、入札を行なうP2P電力取引市場において取引される再生エネルギ電力の価格(単価)が予測されると、エージェント2#は、過去の所定期間における再エネ使用比率に基づいて、今回の入札対象の電力取引における取引再エネ比率を算出し、その取引再エネ比率に基づいて再生エネルギ指数を設定する(ステップS140)。
【0112】
そして、再生エネルギ指数が設定されると、エージェント2#は、ステップS150へ処理を移行し、ステップS130において予測された再生エネルギ電力の価格と、ステップS140において設定された再生エネルギ指数とから、入札を行なうP2P電力取引市場での希望取引価格が設定される。
【0113】
以上のように、この実施の形態2では、過去の所定期間における再エネ使用比率に基づいて、今回の入札対象の電力取引における取引再エネ比率が算出され、その取引再エネ比率に基づいて再生エネルギ指数が設定される。したがって、過去の所定期間における再エネ使用比率に基づいて、電力取引計画を作成することができる。例えば、所定期間における再生エネルギ電力の上記比率が低かった場合に、当該比率を高めるように電力取引計画を作成することができる。
【0114】
[変形例]
上記のように、P2P電力取引市場において購入する電力(買取電力)に占める再生エネルギ電力の度合いを示す再生エネルギ指数について、実施の形態1では、ユーザの希望再エネ率に基づいて設定され、実施の形態2では、過去の所定期間における再エネ使用比率に応じた取引再エネ比率に基づいて設定されるものとしたが、その他のパラメータに基づいて再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0115】
具体的には、対応の電力リソースに対して適用される所定の法令に基づいて再生エネルギ指数を設定してもよい。例えば、対応の電力リソースが電動車5である場合に、電動車5がある地域(自然保護区域等)に進入するために再生エネルギの使用比率が条例等で定められているようなときに、当該条例で定められている再エネ使用比率に基づいて再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0116】
或いは、対応の電力リソースに対して適用される所定の税制に基づいて再生エネルギ指数を設定してもよい。例えば、対応の電力リソースが電動車5である場合に、電動車5の製造年に応じて定められた再生エネルギの使用比率に基づいて環境税等の税率が定められているようなときに、電動車5に適用される再エネ使用比率に基づいて再生エネルギ指数を設定してもよい。
【0117】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
1 電力送配電システム、2,2# エージェント、2A~2D 移動体エージェント、2E~2H 事業者エージェント、2I,2J 住宅エージェント、3 取引市場サーバ、5,5A~5E 電動車、6,6A~6H 充放電設備、7 施設、7A 工場、7B 会社、7C 商業施設、7D 住宅、7E 店舗、9 電力会社、10 通信ネットワーク、21,31 プロセッサ、22,32 メモリ、23,33 通信装置、102 外部情報取得部、104 再生エネルギ発電量予測部、106 市場電力価格予測部、108,108A 再生エネルギ指数設定部、110 取引価格設定部、112 電力消費量予測部、114 電力取引計画作成部、116 再生エネルギ使用比率算出部、221,321 演算プログラム、222 リソース情報、223 外部情報、322 エージェント情報、PL 送電線網。