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  • 特許-バランサ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】バランサ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/26 20060101AFI20250107BHJP
   F16F 15/136 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F16F15/26 F
F16F15/136 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022011029
(22)【出願日】2022-01-27
(65)【公開番号】P2023109488
(43)【公開日】2023-08-08
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小菅 浩
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-193794(JP,A)
【文献】特開2002-364731(JP,A)
【文献】特開2009-204057(JP,A)
【文献】特開2019-143741(JP,A)
【文献】米国特許第05038727(US,A)
【文献】中国実用新案第205806326(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/26
F16F 15/136
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のバランサ装置であって、
延在方向に向かって突出して設けられた複数の爪を有するとともに、クランクシャフトに設けられたクランクギヤと噛合する被動ギヤと、
前記被動ギヤの内周に圧入固定されるフリクションリングと、
前記フリクションリングの内周に挿入されるバランスシャフトと
前記バランスシャフトの先端部が圧入固定されているとともに、内部に複数のストッパゴムを有するダンパーカバーと、を備え、
前記フリクションリングは、
回転方向に対して非対称な形状であり、回転方向によって異なる摩擦力を発生させ
前記複数の爪は、
前記複数のストッパゴムどうしの間に収められ、前記ストッパゴムの時計回り方向側の端部に対して前記爪の反時計回り側の端部が近接した状態で、前記爪と前記ダンパーカバーが所定の位相の状態で保持される、
バランサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバランサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いる動力源として、内燃機関が用いられている。特許文献1には、内燃機関として、クランクシャフトと、クランクシャフトに駆動連結されるクランクギヤと、第1のバランスシャフトと、第1のバランスシャフトに相対回動を許容する減衰機構を介して連結された第1の被動ギヤとを備えるバランサ装置が開示されている。
【0003】
ここで減衰機構は、第1の被動ギヤと第1のバランスシャフトに固定されたカウンタギヤと、が所定の回動位相範囲で相対回動するときに、その相対回動を減衰させる摩擦力を発生させるフリクションダンパと、第1の被動ギヤと第1のバランスシャフトが所定の回動位相範囲を越えて相対回動するときにのみ弾性変形し、その弾性力により相対回動を反付勢するストッパゴムを有している。
【0004】
このような構成とすることにより、振動成分として低周波成分と高周波成分が混在する回転力が入力される場合でも、これらの振動成分に起因する共振現象の発生を、減衰機構の損傷や機能低下を招くことなく好適に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-193794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたバランサ装置では、第1の被動ギヤと第1のバランスシャフトの回動位相が定まらないという問題がある。これは、回動位相は、クランクギヤからの回転力と、フリクションダンパの摩擦力と、バランスシャフトの回転摺動抵抗の各要素によって決定されるためであり、特許文献1に開示されたバランサ装置では、回転位相を積極的に制御する構成を設けていないためである。そのため、内燃機関として利用されるエンジンにおいて、バランスシャフトの実バランス率が低下し、振動悪化を招く恐れがある。
【0007】
本発明は、エンジンの振動の抑制したバランサ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるバランサ装置は、内燃機関のバランサ装置であって、クランクシャフトに設けられたクランクギヤと噛合する被動ギヤと、前記被動ギヤの内周に圧入固定されるフリクションリングと、前記フリクションリングの内周に挿入されるバランスシャフトと、を備え、前記フリクションリングは、回転方向に対して非対称な形状であり、回転方向によって異なる摩擦力を発生させる。
これにより、被動ギヤと、バランスシャフトの位相のずれの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
これにより、エンジンの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】バランサ装置の構成例を示す斜視図である。
図2】フリクションリングの正面図である。
図3】フリクションリングの位相状態の他の一例を示す正面図である。
図4】ストッパゴムと爪が第1の位相状態となった状態の正面図である。
図5】ストッパゴムと爪が第2の位相状態となった状態の正面図である。
図6】関連するフリクションリングを用いてエンジンの回転数を変化させた場合の位相の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
図1は、内燃機関のバランサ装置1の構成の一例を示した図である。図1に示すように、バランサ装置1は、第1のバランスシャフト11と、環状であるダンパーカバー12と、第1被動ギヤ13と、フリクションリング14と、ストッパゴム15と、爪16と、第1駆動ギヤ17と、第2のバランスシャフト18と、第2被動ギヤ19と、バランスマス20と、を備える。なお、内燃機関はエンジンであるものとして説明する。
【0012】
第1のバランスシャフト11は、所定の方向に延在するように設けられたシャフトであり、先端部がダンパーカバー12に圧入固定されている。
【0013】
以下では、第1のバランスシャフト11の延在方向を、バランサ装置1の延在方向として説明する。さらに、第1のバランスシャフト11の延在方向に対して垂直である方向を径方向とするとともに、第1のバランスシャフト11の延在方向を軸方向とした軸周りの方向を、周方向、あるいは回転方向として説明する。また、後述する図2図4図5における正面方向からの視点とは、延在方向側からの視点であるものとする。
【0014】
カップ状であるダンパーカバー12には、第1のバランスシャフト11が圧入工程可能である孔が設けられている。さらにダンパーカバー12のカップ状の内部には、複数のストッパゴム15が設けられている。複数のストッパゴム15どうしの間には、後述する第1被動ギヤ13に設けられている爪16が収まった状態となる。
【0015】
環形状である第1被動ギヤ13は、外周の周方向に沿って複数の歯を有するギヤであり、クランクシャフトのクランクギア(図示せず)と噛合している。第1被動ギヤ13の内周には、環状であるフリクションリング14が圧入固定されている。
【0016】
さらに、第1被動ギヤ13には、延在方向に向かって突出する複数の爪16が設けられている。具体的には、複数の爪16は、それぞれがダンパーカバー12に設けられたストッパゴム15に向けて突出している。
【0017】
ここで、第1のバランスシャフト11は、第1被動ギヤ13に対して可動であり、その可動範囲はダンパーカバー12と、ストッパゴム15により規制されている。ここで、ストッパゴム15は、正面からの視点において、円環状に連続するとともに、互いに所定の間隔をあけた状態で設けられている。後述するように、複数の爪16は、これらのストッパゴム15の間に配される。
【0018】
図2は、フリクションリング14の一例を正面方向から示す正面図である。図2に示すように、フリクションリング14は、環状に形成された環状部14aと、環状部14aから内側に突出する複数の突起部14bと、により形成されている。なお、この複数の突起部14bは、環状部14aの周方向に連続して形成されているとともに、周方向に非対称な形状である。さらに図2に示すように、ここでは第1のバランスシャフト11の回転方向は反時計周りである。
【0019】
さらに、フリクションリング14の突起部14bのうち、内側の頂点部分を頂点31、頂点31から時計回り方向に環状部14aまで設けられたテーパ部を第1のテーパ部32、頂点31から反時計回り方向に環状部14aまで設けられたテーパ部を第2のテーパ部33とする。
【0020】
図2に示すように、フリクションリング14における1つの突起部14bのうち、第1のテーパ部32は第2のテーパ部33に比べて、周方向において短い形状である。また、フリクションリング14の内周には、第1のバランスシャフト11が挿入される。
【0021】
ここで図3は、第1被動ギヤ13の内周において、フリクションリング14を介して第1のバランスシャフト11が挿入されているとともに、第1被動ギヤ13が爪16を介してダンパーカバー12に接続された状態を示す断面図である。
【0022】
図1に戻り、第1駆動ギヤ17は、第1のバランスシャフト11に固定されている。ここで図1に示すように、ダンパーカバー12と、第1被動ギヤ13と、第1駆動ギヤ17の延在方向における位置関係において、ダンパーカバー12が先端側に設けられ、第1駆動ギヤ17が後端側に設けられ、第1被動ギヤ13は、ダンパーカバー12と第1駆動ギヤ17の間に配されているものとする。
【0023】
第2のバランスシャフト18は、第1のバランスシャフト11と平行に配されているシャフトである。すなわち、第2のバランスシャフト18の延在方向と、第1のバランスシャフト11の延在方向が平行である。第2のバランスシャフト18には、第2被動ギヤ19が固定されている。
【0024】
第2のバランスシャフト18に固定された第2被動ギヤ19は、第1のバランスシャフト11に固定された第1駆動ギヤ17と噛合っている。そのため、第1のバランスシャフト11が回転すると、第1駆動ギヤ17を介して第2被動ギヤ19に力が伝わり、第2のバランスシャフト18に回転力が与えられる。
【0025】
バランスマス20は、第1のバランスシャフト11と、第2のバランスシャフト18のそれぞれに接続されており、エンジンの慣性力を釣り合わせる。
【0026】
次に、バランサ装置1の動作と、各部の効果について説明する。ここではまず、第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11の位相の変化の発生と、位相の変化による影響について説明する。
【0027】
第1のバランスシャフト11は、第1被動ギヤ13に対し、回転方向に可動である。このとき、第1のバランスシャフト11の可動範囲は、ダンパーカバー12に設けられたストッパゴム15と、爪16と、により規制されている。
【0028】
図4は、第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11が、回転方向において所定の位相となった状態を示している。ここで、第1被動ギヤ13は、クランクギヤにより駆動されて、図4に示した矢印方向に回転する。
【0029】
このとき図4に示すように、第1被動ギヤ13に設けられた爪16と、第1のバランスシャフト11に固定されているダンパーカバー12の位相が所定の位相となった状態、すなわち、複数のストッパゴム15の夫々の時計回り方向側の端部に対して、爪16の反時計回り側の端部が近接した状態を、第1の位相状態とする。
【0030】
なお、バランスマス20は、第1の位相状態において、釣り合いが最適となるように、第1のバランスシャフト11及び第2のバランスシャフト18と接続されている。
【0031】
一方、第1被動ギヤ13がクランクシャフトから受ける駆動力は時々刻々と複雑に変化する。そのため、第1のバランスシャフト11は、フリクションリング14を介して第1被動ギヤ13からトルクを受けるが、そのトルクは必ずしも回転方向の違いに対して等しくない。そのため、図4に示した第1の位相状態のまま安定することはなく、運転条件によっては、図5に示した位相状態となることや、図4図5に示した位相状態の中間の状態となることがある。
【0032】
なお、図5に示した位相状態を第2の位相状態とする。具体的には、第2の位相状態とは、複数のストッパゴム15の夫々の反時計回り方向側の端部に対して、爪16の時計回り側の端部が近接した状態である。
【0033】
図6(a)、図6(b)は、関連するフリクションリングを用いて、この第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11の位相、すなわち、第1被動ギヤ13に設けられた爪16と、第1のバランスシャフト11に固定されているダンパーカバー12の位相の状態を実測した一例を示している。なお図6(a)では、時間とともにエンジンの回転数を変化させた状態を示し、図6(b)ではその時間における位相の状態を示している。またここで利用されている関連するフリクションリングとは、フリクションリング14と類似するフリクションリングであって、第1のテーパ部32と、第2のテーパ部33とが対称に形成されたものである。
【0034】
より具体的には、図6(a)、図6(b)に示すように、エンジンの回転数が3000rpm付近とした場合に、図4に示した第1の位相状態から図5に示した第2の位相状態へと遷移する。そして、エンジンの回転数が1500rpm付近まで第2の位相状態を保つこととなる。
【0035】
このとき、バランスマス20は図4に示した第1の位相状態を基準としているため、この第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11の位相について、第1の位相状態から第2の位相状態に遷移することにより、実バランス率が低下し、エンジンの振動が増大するという現象が発生する。
【0036】
一方で、前述したようにバランサ装置1では、フリクションリング14の第1のテーパ部32が、第2のテーパ部33に比べて、周方向において短い形状であって、非対称に形成されているものを利用することができる。
【0037】
すなわちフリクションリング14は、突起部14bが、第1のバランスシャフト11の回転方向に対して非対称な形状をしていることから、第1のバランスシャフト11から伝えられる摩擦による伝達トルクも非対称となる。したがって、フリクションリング14では、内部に配されるシャフトの回転方向によって、異なる摩擦力を発生させることができる。
【0038】
これにより、第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11の位相のずれが発生しにくくなる。すなわち、第1被動ギヤ13と第1のバランスシャフト11の位相は、図4に示した第1の位相状態が保たれやすくなり、第1の位相状態から、図5に示した第2の位相状態となる遷移の発生を抑制することができる。したがって、位相の変化の回数が減少することから、エンジンの振動の発生を抑制できる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 バランサ装置
11 第1のバランスシャフト
12 ダンパーカバー
13 第1被動ギヤ
14 フリクションリング
14a 環状部
14b 突起部
15 ストッパゴム
16 爪
17 第1駆動ギヤ
18 第2のバランスシャフト
19 第2被動ギヤ
20 バランスマス
31 頂点
32 第1のテーパ部
33 第2のテーパ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6