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  • 特許-ドライブシャフトの組み付け方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ドライブシャフトの組み付け方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 3/04 20060101AFI20250107BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20250107BHJP
   F16D 3/22 20060101ALI20250107BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F16J3/04 C
F16D3/20 H
F16D3/22
F16J15/52 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022042790
(22)【出願日】2022-03-17
(65)【公開番号】P2023136865
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 雅人
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011786(JP,A)
【文献】特開平10-026296(JP,A)
【文献】特開平06-312326(JP,A)
【文献】米国特許第04558869(US,A)
【文献】中国実用新案第212131099(CN,U)
【文献】西独国特許出願公開第02717029(DE,A1)
【文献】特開2018-122414(JP,A)
【文献】特開2010-101370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 3/04
F16D 3/20
F16D 3/22
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターレース、及び、前記アウターレース内に収容されたインナーレースを有する等速ジョイントと、
前記インナーレースが端部に取り付けられたシャフトと、
前記シャフトに締着可能な小径端部、前記アウターレースの外周に締着可能な大径端部、及び、前記小径端部と前記大径端部との間に設けられた蛇腹状部を備えるブーツと、
を備えるドライブシャフトの組み付け方法であって、
前記アウターレース内と連通するように前記等速ジョイントに設けられた充填口にグリス充填装置を接続するステップと、
前記等速ジョイントに前記ブーツ内から空気を抜くためのエア抜き口が開いた状態で、前記ブーツ及び前記ブーツの周囲を真空状態にするステップと、
前記グリス充填装置によって前記充填口から前記ブーツ内にグリスを充填するステップと、
前記エア抜き口を塞ぐステップと、
前記ブーツの周囲を大気圧に戻し、前記充填口と前記グリス充填装置との接続を解除するステップと、
前記充填口を塞ぐステップと、
を有することを特徴とするドライブシャフトの組み付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブシャフトの組み付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、等速ジョイントのシャフトとアウターレースに対して、ブーツ組み付け治具を用いてブーツを組み付ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-122414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、ブーツ内にグリスを充填した際、グリスと共に空気が密封されるため、月面のような真空環境下では空気と共にブーツが膨張し、ブーツの蛇腹形状が損なわれるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、真空環境下でブーツが膨張して蛇腹形状が損なわれることを抑制することができるドライブシャフトの組み付け方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るドライブシャフトの組み付け方法は、アウターレース、及び、前記アウターレース内に収容されたインナーレースを有する等速ジョイントと、前記インナーレースが端部に取り付けられたシャフトと、前記シャフトに締着可能な小径端部、前記アウターレースの外周に締着可能な大径端部、及び、前記小径端部と前記大径端部との間に設けられた蛇腹状部を備えるブーツと、を備えるドライブシャフトの組み付け方法であって、前記アウターレース内と連通するように前記等速ジョイントに設けられた充填口にグリス充填装置を接続するステップと、前記等速ジョイントに前記ブーツ内から空気を抜くためのエア抜き口が開いた状態で、前記ブーツ及び前記ブーツの周囲を真空状態にするステップと、前記グリス充填装置によって前記充填口から前記ブーツ内にグリスを充填するステップと、前記エア抜き口を塞ぐステップと、前記ブーツの周囲を大気圧に戻し、前記充填口と前記グリス充填装置との接続を解除するステップと、前記充填口を塞ぐステップと、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るドライブシャフトの組み付け方法は、真空環境下でブーツが膨張して蛇腹形状が損なわれることを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る等速ジョイントの概略構成を示した図である。
図2図2は、等速ジョイントの充填口にグリス充填装置を接続するステップについての説明図である。
図3図3は、ブーツ及びブーツの周囲を真空状態にするステップについての説明図である。
図4図4は、ブーツ内にグリスを充填するステップについての説明図である。
図5図5は、エア抜き口を塞ぐステップについての説明図である。
図6図6は、ブーツの周囲を大気圧に戻し、グリス充填装置の接続を解除するステップについての説明図である。
図7図7は、充填口を塞ぐステップについての説明図である。
図8図8は、充填口及びエア抜き口の他例についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るドライブシャフトの組み付け方法の実施形態について説明する。本実施形態においては、月面上などの真空環境下で走行する車両に備えられたドライブシャフトの組み付けに、本発明に係るドライブシャフトの組み付け方法を適用した場合を例に挙げて説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は、実施形態に係る等速ジョイント10の概略構成を示した図である。等速ジョイント10は、車両の差動装置から動力が伝達される中空アウターシャフト11を一体に有するアウターレース12と、アウターレース12内に収容されるインナーレース13と、アウターレース12とインナーレース13との間に介挿されたトルク伝達部材である複数のボール14と、ブーツ30とを備えている。
【0011】
アウターレース12は、インナーシャフト20が挿入される側の一端が開口され、他端が中空アウターシャフト11と連通して一体に接続されている。アウターレース12の内周面には、アウターレース12の軸線方向に延びる溝状に形成された複数のボール転動溝が周方向に所定間隔おきに形成されている。
【0012】
インナーレース13の外周面には、インナーレース13の軸線方向に延びる溝状に形成された複数のボール転動溝が周方向に所定間隔おきに形成されている。インナーレース13は、インナーシャフト20の一端部と接続されることで、インナーシャフト20と共通の回転中心線まわりに一体的に回転させられるように構成されている。
【0013】
複数のボール14は、アウターレース12の内周面に形成されたボール転動溝と、インナーレース13の外周面に形成されたボール転動溝との間の空間に転動可能に嵌め入れられている。
【0014】
ブーツ30は、例えば、ゴム等の弾性を有する材料からなり、アウターレース12側に設けられる大径端部と、インナーシャフト20側に設けられる小径端部と、これら両端部間に設けられる蛇腹状部とを備えた構成となっている。ブーツ30の大径端部は、大径クランプ31によって締め付けられることによって、アウターレース12の開口側の端部の外周に締着される。また、ブーツ30の小径端部は、小径クランプ32によって締め付けられることによって、インナーシャフト20の外周に締着されている。なお、図1では、ブーツ30の小径端部が小径クランプ32によって締め付けられておらず、等速ジョイント10内(アウターレース12及びブーツ30内)にグリスを充填する前においてブーツ30内から空気を抜くためのエア抜き口33が、等速ジョイント10(インナーシャフト20の外周とブーツ30の内周との間)に開けられている。
【0015】
インナーシャフト20は、例えば、動力を車輪に伝えるためのドライブシャフトである。インナーシャフト20の一端部は、ブーツ30の小径端部に挿入され、ブーツ30内を通り、ブーツ30の大径端部から突出し、インナーレース13に接続される。
【0016】
中空アウターシャフト11のアウターレース12側とは反対側の端面には、等速ジョイント10内(アウターレース12及びブーツ30内)にグリスを充填するための充填口15が設けられている。
【0017】
実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法は、アウターレース12内と連通するように等速ジョイント10(中空アウターシャフト11)に設けられた充填口15にグリス充填装置80(図2参照)を接続するステップと、等速ジョイント10にブーツ30内から空気を抜くためのエア抜き口33が開いた状態で、ブーツ30及びブーツ30の周囲を真空状態にするステップと、グリス充填装置80によって充填口15からブーツ30内にグリス84(図4参照)を充填するステップと、エア抜き口33を塞ぐステップと、ブーツ30の周囲を大気圧に戻し、充填口15とグリス充填装置80との接続を解除するステップと、充填口15を塞ぐステップと、を有している。
【0018】
具体的に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、まず、図2に示すように、ブーツ30がアウターレース12に装着された等速ジョイント10を、真空槽40内に格納する。この際、中空アウターシャフト11の充填口15側の端部は、真空槽40に設けられた開口部41にシール材42を介して挿入して真空槽40の外に露出させる。そして、真空槽40の外に露出した中空アウターシャフト11の端部と、ジョイント70を介してグリス充填装置80のノズル部82とが、ジョイント70を介して接続されることにより、等速ジョイント10にグリス充填装置80が装着される。また、中空アウターシャフト11の充填口15と、グリス充填装置80の吐出口83とは、ジョイント70に設けられた連通口71を介して連通している。なお、グリス充填装置80の収容部81内に収容されたグリス84は、予め脱泡及び脱気(油中溶解ガスの除去)の処理が施されている。
【0019】
次に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図3に示すように、真空槽40に開閉可能に設けられた排気口43から空気を吸引する排気装置などを用いて真空槽40内の空気を排気する。この際、等速ジョイント10内(アウターレース12及びブーツ30内)の空気は、等速ジョイント10のエア抜き口33を通って真空槽40の排気口43から排気される。これにより、真空槽40内(ブーツ30の周囲)及び等速ジョイント10内(アウターレース12及びブーツ30内)を真空状態にする。
【0020】
次に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図4に示すように、グリス充填装置80の収容部81に収容されたグリス84をノズル部82の吐出口83から吐出させて、ジョイント70の連通口71を介して中空アウターシャフト11の充填口15から等速ジョイント10内(アウターレース12及びブーツ30内)にグリス84を充填する。なお、この際、ブーツ30内に隙間なくグリス84を充填できなくてもよい。
【0021】
次に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図5に示すように、真空槽40の壁部において小径クランプ32と対向する位置に設けられた開閉可能な工具挿入口44から、シール材45を介して真空槽40外から工具を挿入し、真空槽40内の真空状態が保たれた状態にて、前記工具を用いて小径クランプ32の締め込みを行い、エア抜き口33を閉塞する。
【0022】
次に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図6に示すように、真空槽40の排気口43からの排気を止めて、真空槽40内(ブーツ30の周囲)を大気圧に戻し、その後、グリス充填装置80をジョイント70と共に等速ジョイント10(中空アウターシャフト11)から取り外す。このように、等速ジョイント10(中空アウターシャフト11)に対するグリス充填装置80の接続を解除した後、等速ジョイント10を真空槽40内から取り出す。この時点で、大気圧によってブーツ30内の真空空隙が潰され、ブーツ30内が隙間なくグリス84で満たされる。なお、この際、ブーツ30内外の圧力は等しいため、ブーツ30内からグリス84が噴出することはない。
【0023】
次に、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図7に示すように、等速ジョイント10(中空アウターシャフト11)の充填口15に、充填口15を閉塞する栓であるプラグ16を装着して充填口15を閉塞して、一連のドライブシャフトの組み付けを完了する。
【0024】
なお、ブーツ30の密閉が不十分だったなどにより真空下でグリス84が蒸発して、ブーツ30内のグリス84が減少した場合には、充填口15からプラグ16を取り外すことによって、等速ジョイント10を車載状態でグリス充填装置80を用いて、充填口15からブーツ30内にグリス84を補充することも可能である。
【0025】
ここで、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、図8に示すように、等速ジョイント10におけるアウターレース12の外周などの他の部位に充填口17及びエア抜き口18を設けてもよい。すなわち、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法では、ブーツ30がアウターレース12に装着された等速ジョイント10に対して、グリスを充填するための充填口とエア抜き口とを設けて、エア抜き口からエア抜きを行ってブーツ30内を真空にした状態で、充填口からブーツ30内にグリスを充填し、その後、エア抜き口を塞いでからブーツ30の周囲を大気圧に戻して、充填口をプラグなどで閉塞することができれば、等速ジョイント10に対して充填口及びエア抜き口を設ける位置は特に限定されない。なお、実施形態に係るドライブシャフトの組み付け方法においては、図1図7に示すように、等速ジョイント10の軸線方向で両端側に充填口及びエア抜き口を設けることによって、ブーツ30内のより隅々までグリスを充填し易くなったり、部品点数を少なくしたりすることが可能となる。
【符号の説明】
【0026】
10 等速ジョイント
11 中空アウターシャフト
12 アウターレース
13 インナーレース
14 ボール
15 充填口
16 プラグ
20 インナーシャフト
30 ブーツ
31 大径クランプ
32 小径クランプ
33 エア抜き口
40 真空槽
41 開口部
42 シール材
43 排気口
44 工具挿入口
45 シール材
70 ジョイント
71 連通口
80 グリス充填装置
81 収容部
82 ノズル部
83 吐出口
84 グリス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8