(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
B64D 37/34 20060101AFI20250109BHJP
B64D 27/355 20240101ALI20250109BHJP
B64D 37/06 20060101ALI20250109BHJP
B64D 37/30 20060101ALI20250109BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20250109BHJP
B64U 50/32 20230101ALI20250109BHJP
F17C 7/00 20060101ALI20250109BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20250109BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
B64D37/34
B64D27/355
B64D37/06
B64D37/30
B64U10/13
B64U50/32
F17C7/00
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
(21)【出願番号】P 2021076662
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】金子 智彦
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083060(JP,A)
【文献】実開平04-096600(JP,U)
【文献】特開2008-008378(JP,A)
【文献】特開2014-228105(JP,A)
【文献】特開2020-001671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0391876(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 37/34
B64D 27/355
B64D 37/06
B64D 37/30
B64U 10/13
B64U 50/32
F17C 7/00
H01M 8/00
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムを備える飛行体であって、
前記飛行体は客室を備える胴体部を有しており、
前記燃料電池システムは少なくとも1つの燃料ガスタンクを有しており、
前記燃料ガスタンクの下端が前記胴体部の下端よりも下方に位置しており、
前記燃料ガスタンクと前記胴体部との接触箇所の全面において、前記燃料ガスタンクと前記胴体部とが直接密着、または、前記燃料ガスタンクと前記胴体部との間の前記接触箇所の全面に亘って熱伝導体を備えた状態で密着して
おり、
前記燃料ガスタンクは前記燃料ガスタンクの開閉を制御するタンクバルブを備え、
前記タンクバルブの内部にはシール部材が備えられており、
前記飛行体は前記タンクバルブを覆うカバーを備えている、
飛行体。
【請求項2】
前記飛行体の揚力の発生を妨げない位置に前記燃料ガスタンクを配置する、請求項1に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムを備えた飛行体の開発が進められている。燃料電池システムに含まれる燃料ガスタンクは比較的大きな部材であるため、その配置場所について種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃料ガスタンクが航空機の外板の一部を形成するように配置することが開示されている。特許文献2には、燃料改質用の水タンクが機体の床下、天井裏、中央翼のいずれかに設けられることが開示されている。特許文献3には、燃料ガスタンクがエアステアンベロープに収容することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2011-506186号公報
【文献】特開2003-176729号公報
【文献】特表2015-530951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飛行体は不時着時や墜落時における客室に発生する衝撃が大きく、乗客の安全性について改善の余地がある。
【0006】
そこで、本願の主な目的は、上記実情を鑑み、乗客の安全性を向上することができる飛行体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は上記課題を解決するための一つの手段として、燃料電池システムを備える飛行体であって、飛行体は客室を備える胴体部を有しており、燃料電池システムは少なくとも1つの燃料ガスタンクを有しており、燃料ガスタンクの下端が胴体部の下端よりも下方に位置している、飛行体を提供する。
【0008】
上記飛行体において、燃料ガスタンクは飛行体の揚力の発生を妨げない位置に配置されていてもよい。また、燃料ガスタンクは熱伝導可能なように胴体部に密着していてもよい。さらに、燃料ガスタンクは燃料ガスタンクの開閉を制御するタンクバルブを備え、タンクバルブの内部にはシール部材が備えられており、飛行体はタンクバルブを覆うカバーを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の飛行体は、燃料ガスタンクの下端が胴体部の下端よりも下方に位置している。これにより、不時着時や墜落時に燃料ガスタンクが胴体部よりも先に地面に衝突し、衝突による衝撃を燃料ガスタンクが吸収し、胴体部に備えられる客室への衝撃が緩和される。従って、本開示の飛行体によれば、乗客の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】飛行体10の簡易的な模式図である。(a)は飛行体10の正面図であり、(b)は胴体部1及び燃料ガスタンク4に着目した飛行体10の側面図である。
【
図2】飛行体10が燃料ガスタンク4を複数備える場合、燃料ガスタンク4の配置態様を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の飛行体について、一実施形態である飛行体10を用いて説明する。
図1に飛行体10の簡易的な模式図を示した。(a)は飛行体10の正面図であり、(b)は胴体部1及び燃料ガスタンク4に着目した飛行体10の側面図であり。(b)では便宜的に翼部2等の部材を透過して示している。
【0012】
飛行体10は燃料電池システムを備えるものであり、燃料電池システムにより発電された電力を用いて運転するものである。飛行体10は空中を飛行可能な物体であれば特に限定されない。例えば、飛行体10には、一般的な航空機や、セスナやドローン等の航空機も含まれる。
図1では、航空機の形態の飛行体10を示している。
【0013】
飛行体10は、客室を備える胴体部1と、胴体部1の側面からそれぞれ突出するように設けられた翼部2と、を備えている。ここで「客室」とは、乗客が搭乗・滞在する部屋であり、乗客には操縦者や搭乗者が含まれる。すなわち、客室は一般的な客室のみならず、操縦席を含む概念である。翼部2は推力又は揚力を発生するためのプロペラ3を少なくとも1つ設けている。
図1では、プロペラ3は翼部2の先端部分に上下に並ぶように配置されている。なお、
図1の飛行体10の形態は単なる模式図であり、これに限定されるものではない。本開示の飛行体は少なくとも客室を備える胴体部を有していればそのほかの部材は特に限定されるものではなく、様々な種類の飛行体に適用可能である。例えば、セスナやドローン等を挙げることができる。
【0014】
飛行体10に備えられる燃料電池システムは特に限定されるものではなく、公知の飛行体用の燃料電池システムを採用することができる。例えば、燃料電池システムには、燃料電池と、燃料電池に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給する燃料ガス供給手段と、燃料電池に酸化剤ガス(例えば空気)を供給する酸化剤ガス供給手段とを少なくとも備えている。このような構成は一般的な燃料電池システムと同様であり公知である。また、燃料電池システムには少なくとも1つの燃料ガタンク4が備えられている。
図1では、2つの燃料ガスタンク4が胴体部1の下方に配置されている。燃料ガスタンク4は燃料電池に供給する燃料ガスを貯留するものである。燃料ガスタンク4としては、飛行体に備えられる公知の燃料ガスタンクを用いることができる。例えば、筒状のプラスチックライナーに対し、炭素繊維を巻いて強度を向上させた燃料ガスタンクを挙げることができる。
【0015】
燃料ガスタンク4には一方の端部に、燃料ガスタンク4の開閉を制御するタンクバルブ5が備えられており、当該タンクバルブ5の内部には燃料ガス漏れを防止するためのシール部材が備えられている。シール部材の種類は特に限定されず、O-リング等の公知のシール部材を採用することができる。
図1ではタンクバルブ5が飛行体10の正面側に向いて配置されているが、これに限定されず、後述の
図2のように燃料ガスタンク4は様々な配置態様を適用することができる。ただし、後述のカバー7を設ける場合、タンクバルブは正面側に向くように燃料ガスタンク4を配置することが好ましい。
【0016】
ここで、飛行体10において、燃料ガスタンク4の下端は胴体部1の下端よりも下方に位置していることが1つの特徴である。これにより、不時着時や墜落時に燃料ガスタンク4が胴体部1よりも先に地面に衝突し、衝突による衝撃を燃料ガスタンク4が吸収し、胴体部1に備えられる客室への衝撃が緩和される。また、着水時には、燃料ガスタンク4の浮力により、飛行体10の沈没を抑制することができる。さらに、通常飛行時においては、燃料ガスタンク4の重さにより飛行体10の重心を下方に位置させることができるため、安定した飛行が可能になる。従って、飛行体10によれば、乗客の安全性を向上することができる。
【0017】
上記効果を奏するためには、燃料ガスタンク4の下端は胴体部1の下端よりも下方に位置していればよいが、好ましくは燃料ガスタンク4の下端は胴体部1の下端よりも200mm以上、より好ましくは400mm以上下方に位置していることである(
図1(b)のX参照)。これにより、確実に燃料タンクから地面に接触することができ、乗客の安全性をより向上することができる。上限値は特に限定されないが、飛行体10の運動性を考慮して、燃料ガスタンク4の下端は胴体部1の下端から800mm以下、好ましくは600mm以下の位置に配置されていることである。
【0018】
また、燃料ガスタンク4は飛行体10の揚力の発生を妨げない位置に配置されていてもよい。例えば、飛行体10の揚力発生源であるプロペラ3の下方に配置されないようにしてもよい。これのより、揚力を確保しやすくなる。
【0019】
また、飛行体10の正面方向の中央部に燃料ガスタンク4を配置してもよい。これにより、ヨー慣性モーメントの増加を抑制し、飛行体10の方向転換を妨げ難くすることができる。ここで、中央部とは、飛行体の正面方向の幅方向であって、一方の端部から他方の端部までの長さを100%としたとき、40~60%の範囲内をいう。
【0020】
飛行体10が燃料ガスタンク4を複数備える場合、燃料ガスタンク4の好ましい配置態様を
図2に示した。ただし、
図2に示した態様は単なる一例であり、燃料ガスタンク4の配置方法はこれらに限定されるものではない。
【0021】
(a)は、燃料ガスタンク4の向きを互い違いに配置した態様である。燃料ガスタンク4の向きが一定である場合、すなわちそれぞれの燃料ガスタンク4のタンクバルブ5が同じ方向に配置されて並べられる場合、タンクバルブ5の重量により飛行体10の重量バランスを崩してしまう虞がある。そこで、(a)のように、燃料ガスタンク4の向きを互い違いに配置することにより、タンクバルブ5の重量による飛行体10の重量バランスの低下を抑制することができる。
【0022】
また、(b)は複数の燃料ガスタンク4を並べた下段の燃料ガスタンク群に対し、略直交するように上段の燃料ガスタンク群を配置する態様である。これにより、燃料ガスタンク4による浮力を向上することができる。
【0023】
さらに、(c)、(d)は、燃料ガスタンク4を放射状に並べた態様である。(c)は上方から観察した図であり、(d)は側面側から観察した図である。このように、燃料ガスタンク4を放射状に並べ、かつ、それぞれの燃料ガスタンク4の一方の端部を他方の端部よりも下方に配置することにより、衝撃吸収力を向上することができる。
【0024】
図1に戻って、さらに飛行体10について説明する。飛行体10には上述した安全性の他に、次のような課題がある。燃料ガスタンク4は、燃料ガス充填時に、燃料ガスの圧縮によってタンク温度が上昇するため、充填効率が低下し、燃料ガス搭載量が低下する問題がある。
【0025】
これを抑制するために、飛行体10において、燃料ガスタンク4が熱伝導可能なように胴体部1に密着していてもよい。これにより、燃料ガス充填時において、燃料ガスの圧縮により燃料ガスタンク4の温度が上昇したとしても、燃料ガスタンク4の熱が胴体部1に熱伝導し、燃料ガスタンク4の温度の上昇が抑制され、充填効率の低下の抑制及び燃料ガス充填量の低下の抑制が可能となる。
【0026】
ここで、「燃料ガスタンク4が熱伝導可能なように胴体部1に密着している」とは、燃料ガスタンク4が直接又は熱伝導体6を介して胴体部1に密着していることを意味する。好ましくは、
図1のように、燃料ガスタンク4が熱伝導体6を介して胴体部1に密着していることである。熱伝導体6は、熱伝導率が1~300W/m/Kの材料から構成されていてもよい。例えば、鉄、銅、アルミニウムなどの金属(熱伝導率:10~300W/m/K)や、熱伝導グリス(熱伝導率:1~10W/m/K)等である。熱伝導体6を介して燃料ガスタンク4を胴体部1に密着させることにより、燃料ガスタンク4と胴体部1との接触面積を増加させることができ、燃料ガスタンク4と胴体部1との間の熱伝導性を向上することができる。
【0027】
また、寒冷環境下で飛行体10を連続運転した場合、タンクバルブ5の内部に備えられるシール部材のシール性が低下する問題がある。当該シール部材は燃料ガスの漏れを防止する役割を有するため、シール部材のシール性の低下により、燃料ガスが漏れる虞がある。
【0028】
そこで、飛行体10はタンクバルブ5を覆うカバー7を備えている。これにより、タンクバルブ5の冷却が抑制され、寒冷環境下における飛行体の連続使用によるタンクバルブ内のシール部材のシール性の低下を抑制することができる。
【0029】
カバー7は、飛行体10の運転時において風圧により変形しない程度の剛性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、アルミ合金や、グラスファイバー、カーボンファイバーを挙げることができる。これらの材料は比較的軽量であり、加工及び取り付けが容易である利点も有する。
【0030】
カバー7は、
図1のように、タンクバルブ5の周辺までカバーを覆うことが好ましい。すなわち、カバー7は、飛行体10(又はタンクバルブ5)の正面視において、タンクバルブ5及び燃料ガスタンク4の少なくとも一部を覆うことが好ましい。より好ましくは、飛行体10(又はタンクバルブ5)の正面視において、タンクバルブ5及び燃料ガスタンク4の全面を覆うことである(
図1(a)参照)。これにより、タンクバルブ5の冷却をより抑制することができる。
【0031】
以上、本開示の飛行体について、一実施形態である飛行体10を用いて説明した。本開示の飛行体10によれば、乗客の安全性を向上することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 胴体部
2 翼部
3 プロペラ
4 燃料ガスタンク
5 タンクバルブ
6 熱伝導体
7 カバー
10 飛行体