(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】取付クリップ及び車両用カーテンエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
F16B 19/10 20060101AFI20250109BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20250109BHJP
B60R 21/232 20110101ALI20250109BHJP
【FI】
F16B19/10 B
F16B5/06 Q
B60R21/232
(21)【出願番号】P 2021109259
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 一人
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242924(JP,A)
【文献】特開2016-183719(JP,A)
【文献】特開2007-187268(JP,A)
【文献】特開2016-035306(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03336367(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0042385(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 19/10
F16B 5/06
B60R 21/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部及び該頭部から延びる一対の脚片を有し、前記一対の脚片間に連通するロックピン挿入孔が前記頭部に形成され、固定対象物に形成されたクリップ取付孔に前記一対の脚片が挿入されると共に、当該挿入の途中で前記一対の脚片が互いに接近するクリップ本体と、
前記ロックピン挿入孔内に配置され、前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入された状態で前記一対の脚片側へ押込まれることにより、前記一対の脚片の前記接近を制限し、前記クリップ取付孔からの前記一対の脚片の抜去を規制するロックピンと、
を備え、
前記ロックピンが前記一対の脚片側へ押込まれた状態で前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入されると、互いに接近しようとする前記一対の脚片の対向方向の内側面に形成された傾斜面と前記ロックピンが摺動し、前記ロックピンが前記ロックピンの押込方向とは反対側へ戻される
と共に、前記傾斜面は、前記押込方向に対する傾斜角度が前記押込方向へ向かうほど漸増する曲面である取付クリップ。
【請求項2】
前記
ロックピンは、サイド爪が形成された一対の脚部を有し、
前記クリップ本体の前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入された状態で前記ロックピンが前記押込方向へ押込まれることにより前記ロックピンの前記一対の脚部が互いに離間して前記サイド爪が前記クリップ取付孔の縁部に係合する請求項1に記載の取付クリップ。
【請求項3】
車室側部の上部に収納され、内部にガスが供給されることにより車両下方側へ膨張展開するカーテンエアバッグと、
前記車室側部の上部に設けられた前記固定対象物としてのボデーパネルに形成された前記クリップ取付孔に前記クリップ本体の前記一対の脚片が挿入され、当該クリップ本体によって前記カーテンエアバッグが前記ボデーパネルに係止される請求項1又は請求項2に記載のクリップと、
を備えた車両用カーテンエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付クリップ及び車両用カーテンエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、カーテンエアバッグ等の被取付物を車両のボデーパネルに取り付けるのに用いられる取付クリップが開示されている。この取付クリップは、頭部および脚部からなるブッシュ(クリップ本体)と、頭部に形成されたロックピン挿入孔内に配置されるロックピンとを有している。クリップ本体の脚部は、一対の対向部(脚片)を有しており、ボデーパネルに形成されたクリップ取付孔に挿入される。この挿入の際には、一対の脚片が互いに接近する方向へ弾性変形した後に弾性復帰し、一対の脚片に形成された係止爪がクリップ取付孔の縁部に係合する。その状態で、ロックピンが一対の脚片側へ押込まれると、一対の脚片が互いに接近する方向へ弾性変形できなくなり、クリップ取付孔からのクリップ本体の抜去が規制される。また、ロックピンが一対の脚片側へ押込まれると、ロックピンが有する一対の脚部が一対の脚片の内側面に形成されたガイド面と摺動して一対の脚部が互いに離間し、一対の脚部に形成されたサイド爪がクリップ取付孔の縁部に係合する。これにより、被取付物から取付クリップに加わる抜去荷重がクリップ本体及びロックピンの両方で受け止められ、抜去耐力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成の取付クリップは、例えば多数個まとめて袋詰めされて輸送されるため、輸送時の振動や衝撃によって、他のクリップの角部がロックピンに当たることがある。その結果、ロックピンが一対の脚片側へ押込まれ、低い確率ではあるがロックピンの誤挿入が発生することが考えられる。ロックピンの誤挿入が発生すると、一対の脚片が互いに接近する方向への弾性変形を制限されるため、一対の脚片の係止爪がクリップ取付孔の縁部と干渉し、一対の脚片をクリップ取付孔に挿入できなくなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ロックピンの誤挿入が発生した場合でも、クリップ本体の一対の脚片をクリップ取付孔に挿入可能な取付クリップ及び該取付クリップを備えた車両用カーテンエアバッグ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る取付クリップは、頭部及び該頭部から延びる一対の脚片を有し、前記一対の脚片間に連通するロックピン挿入孔が前記頭部に形成され、固定対象物に形成されたクリップ取付孔に前記一対の脚片が挿入されると共に、当該挿入の途中で前記一対の脚片が互いに接近するクリップ本体と、前記ロックピン挿入孔内に配置され、前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入された状態で前記一対の脚片側へ押込まれることにより、前記一対の脚片の前記接近を制限し、前記クリップ取付孔からの前記一対の脚片の抜去を規制するロックピンと、を備え、前記ロックピンが前記一対の脚片側へ押込まれた状態で前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入されると、互いに接近しようとする前記一対の脚片の対向方向の内側面に形成された傾斜面と前記ロックピンが摺動し、前記ロックピンが前記ロックピンの押込方向とは反対側へ戻される。
【0007】
第1の態様では、クリップ本体は、頭部及び該頭部から延びる一対の脚片を有している。頭部には、一対の脚片間に連通するロックピン挿入孔が形成されている。一対の脚片は、固定対象物に形成されたクリップ取付孔に挿入される。この挿入の途中では、一対の脚片が互いに接近する。このクリップ本体の頭部に形成されたロックピン挿入孔内には、ロックピンが配置されている。ロックピンは、一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入された状態で一対の脚片側へ押込まれることにより、一対の脚片の上記接近を制限し、クリップ取付孔からの一対の脚片の抜去を規制する。この態様では、ロックピンが一対の脚片側へ押込まれた状態で一対の脚片がクリップ取付孔に挿入されると、互いに接近しようとする一対の脚片の対向方向の内側面に形成された傾斜面とロックピンが摺動する。これにより、ロックピンがロックピンの押込方向とは反対側へ戻されるので、ロックピンによる一対の脚片の接近制限が解除され、一対の脚片をクリップ取付孔に挿入可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る取付クリップは、第1の態様において、前記傾斜面は、前記押込方向に対する傾斜角度が前記押込方向へ向かうほど漸増する曲面である。
【0009】
第2の態様では、クリップ本体の一対の脚片に形成された傾斜面が上記のような曲面であるため、ロックピンが押込方向へ押込まれる際に、傾斜面からロックピンに加わる荷重が緩やかに増加する。これにより、ロックピンの押込みが円滑になる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る取付クリップは、第1の態様又は第2の態様において、前記ロックピンは、サイド爪が形成された一対の脚部を有し、前記クリップ本体の前記一対の脚片が前記クリップ取付孔に挿入された状態で前記ロックピンが前記押込方向へ押込まれることにより前記ロックピンの前記一対の脚部が互いに離間して前記サイド爪が前記クリップ取付孔の縁部に係合する。
【0011】
第3の態様によれば、クリップ本体の一対の脚片がクリップ取付孔に挿入され、ロックピンが押込方向へ押込まれる。この状態では、ロックピンが有する一対の脚部に形成されたサイド爪がクリップ取付孔の縁部に係合する。これにより、取付クリップに加わる抜去荷重がロックピンによっても受け止められ、抜去耐力が向上する。
【0012】
本発明の第4の態様に係る車両用カーテンエアバッグ装置は、車室側部の上部に収納され、内部にガスが供給されることにより車両下方側へ膨張展開するカーテンエアバッグと、前記車室側部の上部に設けられた前記固定対象物としてのボデーパネルに形成された前記クリップ取付孔に前記クリップ本体の前記一対の脚片が挿入され、当該取付クリップ本体によって前記カーテンエアバッグが前記ボデーパネルに係止される第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様に記載の取付クリップと、を備えている。
【0013】
第4の態様では、車室側部の上部に収納されるカーテンエアバッグは、内部にガスが供給されることにより車両下方側へ膨張展開する。上記車室側部の上部には、固定対象物としてのボデーパネルが設けられている。このボデーパネルに形成されたクリップ取付孔には、取付クリップのクリップ本体の一対の脚片が挿入される。この取付クリップ本体によってカーテンエアバッグがボデーパネルに係止される。上記の取付クリップは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様に記載されたものであるため、前記何れか1つの態様と同様の作用及び効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る取付クリップ及び車両用カーテンエアバッグ装置では、ロックピンの誤挿入が発生した場合でも、クリップ本体の一対の脚片をクリップ取付孔に挿入可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る車両用カーテンエアバッグ装置の一部及びその周辺の構成を示す側面図である。
【
図2】
図1のF2-F2線に沿った切断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】実施形態に係る取付クリップを示す正面図であり、ロックピンが仮止め位置に位置する状態の図である。
【
図4】実施形態に係る取付クリップを示す側面図であり、ロックピンが仮止め位置に位置する状態の図である。
【
図5】実施形態に係る取付クリップを示す正面図であり、ロックピンが押込完了位置に位置する状態の図である。
【
図6】実施形態に係る取付クリップを示す側面図であり、ロックピンが押込完了位置に位置する状態の図である。
【
図7】実施形態に係る取付クリップを示す縦断面図であり、ロックピンが押込み途中の位置に位置する状態の図である。
【
図8】
図7のF8-F8線に沿った切断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】一対の脚片に形成された傾斜面との摺動によりロックピンが押込方向とは反対側へ戻されている状況を示す
図8に対応した断面図である。
【
図10】比較例に係る取付クリップを示す正面図である。
【
図11】
図10のF11-F11線に沿った切断面を示す断面図であり、ロックピンが仮止め位置に位置する状態の図である。
【
図12】比較例においてロックピンが押込完了位置に位置する状態を示す
図11に対応した断面図である。
【
図13】比較例においてロックピンが抜け防止爪により押込完了位置からの変位を制限されている状態を示す
図11に対応した断面図である。
【
図14】比較例において、他の取付クリップの頭部の角部によりロックピンが誤挿入された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図9を参照して本発明の一実施形態に係る取付クリップ10及び車両用カーテンエアバッグ装置50について説明する。先ず車両用カーテンエアバッグ装置50の全体構成について説明し、その後に取付クリップ10の構成について説明する。
【0017】
(カーテンエアバッグ装置の全体構成)
図1に示されるように、車両用カーテンエアバッグ装置50は、一例として、セダンタイプの車両Vに搭載されており、カーテンエアバッグ52と、図示しないインフレータとを備えている。なお、
図1及び
図2に示される矢印UPは車両上方を示し、
図1に示される矢印FRは車両前方を示し、
図2に示される矢印OUTは車両幅方向の外方を示している。
【0018】
カーテンエアバッグ52は、通常時には、
図1に破線で示されるように、折畳まれて長尺状にされた上で、車室側部の上端部に設けられたルーフサイド部56にインフレータと共に収納される。このカーテン収納状態では、長尺状にされたカーテンエアバッグ52が、Aピラー58の後部側からルーフサイドレール60に沿って図示しないCピラーの上端側にまで延在する。なお、
図1において、62はAピラーガーニッシュであり、64はルーフヘッドライニングである。
【0019】
上記のカーテンエアバッグ52は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材によって袋状に形成されている。カーテンエアバッグ52の上縁部には、複数の舌片状のタブ54が車両前後方向に並んで設けられている。複数のタブ54は、カーテンエアバッグ52の上縁部から車両上方側へ延出されている。
図2に示されるように、各タブ54にはクリップ挿通孔55が形成されている。各タブ54のクリップ挿通孔55には、それぞれ本実施形態に係る取付クリップ10が挿通されている。
【0020】
各取付クリップ10は、ルーフサイド部56のボデーパネル66に形成されたクリップ取付孔68に挿入されている。これにより、各取付クリップ10を用いてカーテンエアバッグ52がボデーパネル66に固定されている。このカーテンエアバッグ52の前端部とAピラー58との間には、テンションベルト70が架け渡されている。このカーテンエアバッグ52は、インフレータから内部にガスが供給されることにより、
図1に二点鎖線で示されるように、車室側部に沿って車両下方側に膨張展開する。上記のボデーパネル66は「固定対象物」に相当し、上記のカーテンエアバッグ52は「被取付物」に相当する。
【0021】
(取付クリップの構成)
図3~
図7に示されるように、取付クリップ10は、クリップ本体12と、ロックピン24とを備えている。クリップ本体12及びロックピン24は、例えばポリアセタール、ポリヘキサメチレンアジポアミドなどの可撓性を有する樹脂によって構成されている。以下の説明では、各図中に適宜記す矢印X、矢印Y、矢印Z、矢印Z1で示される方向を、それぞれ対向方向X、並び方向Y、挿抜方向Z、押込方向Z1と称する。対向方向X、並び方向Y及び挿抜方向Zは、互いに直交している。また、押込方向Z1は、挿抜方向Zの一方である。
【0022】
クリップ本体12は、挿抜方向Zを長手とする長尺状をなしている。このクリップ本体12は、頭部14と、一対の脚片16とを一体に有している。頭部14は、並び方向Yを長手方向とする略直方体状をなしている。頭部14には、該頭部14を挿抜方向Zに貫通したロックピン挿入孔18が形成されている。ロックピン挿入孔18は、挿抜方向Zから見て略矩形状をなしている。また、頭部14において、ロックピン挿入孔18を介した対向方向Xの両側の壁部にはそれぞれ、仮止め孔20が形成されている。
【0023】
一対の脚片16は、対向方向Xを厚さ方向とし、挿抜方向Zを長手方向とする略板状をなしており、頭部14から押込方向Z1へ向けて延びている。一対の脚片16は、対向方向Xに間隔をあけて対向しており、一対の脚片16の間には、ロックピン挿入孔18に連通する隙間22が形成されている。一対の脚片16の先端側(押込方向Z1側)において、一対の脚片16の対向方向Xの外側面には、それぞれ係止爪16Aが形成されている。一対の脚片16は、各係止爪16Aが形成された先端側において対向方向Xの厚みが拡大している。
【0024】
図2に示されるように、クリップ本体12の一対の脚片16は、カーテンエアバッグ52のタブ54に形成されたクリップ挿通孔55に挿通されると共に、ボデーパネル66に形成されたクリップ取付孔68に対して車内側(
図2では左側)から挿入される。クリップ取付孔68に一対の脚片16が挿入(挿通)される際には、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部と摺動する。これにより、一対の脚片16が互いに接近する側、すなわち対向方向Xの内側へ弾性変形する。そして、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68を通過すると、一対の脚片16が弾性復帰し、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部に対して車外側(
図2では右側)から係合する。これにより、クリップ本体12がボデーパネル66に係止される構成になっている。
【0025】
上記の係止状態では、クリップ本体12の頭部14とボデーパネル66との間にタブ54が配置され、クリップ本体12からのタブ54の脱落が頭部14によって規制される。このタブ54とボデーパネル66との間には、図示しないスペーサが配置された構成になっている。このスペーサは、例えば可撓性を有する樹脂によって略ウエーブワッシャ状に形成されている。
【0026】
ロックピン24は、クリップ本体12のロックピン挿入孔18内に配置されている。このロックピン24は、並び方向Yに並んで配置された一対の脚部26と、脚部26を繋いだ連結部28(
図7参照)とを有している。一対の脚部26は、挿抜方向Zを長手とする長尺状をなしている。一対の脚部26の先端部(押込方向Z1側の端部)は、一対の脚片16の間に配置されている。一対の脚部26の先端部には、並び方向Yの外側へ向けて突出したサイド爪26Aが形成されている。
【0027】
連結部28は、対向方向Xから見て押込方向Z1とは反対側が開放された逆U字状をなしており、一対の脚部26の長手方向一端部(押込方向Z1とは反対方向の端部)を並び方向Yに繋いでいる。この連結部28は可撓性を有しており、一対の脚部26は互いに切離移動可能とされている。ロックピン24は、連結部28を介した対向方向Xの両側に図示しない抜け防止爪を有している。これらの抜け防止爪がクリップ本体12の仮止め孔20に嵌入することで、ロックピン24が
図3及び
図4に示される仮止め位置に仮止めされる。
【0028】
ロックピン24が仮止め位置に位置する状態では、クリップ本体12の一対の脚片16が互いに接近する側、すなわち対向方向Xの内側へ弾性変形可能とされ、ボデーパネル66のクリップ取付孔68に対する一対の脚片16の挿入及び抜去が可能となる。このため、カーテンエアバッグ52のタブ54をクリップ本体12によってボデーパネル66に固定する作業、すなわちクリップ本体12の一対の脚片16をクリップ取付孔68に挿入する作業は、ロックピン24が仮止め位置に位置する状態で行われる。
【0029】
クリップ本体12の一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入された後、ロックピン24が一対の脚片16側(押込方向Z1)へ押込まれる。この押込みは、例えば専用の工具を用いて行われる。この押込みの際には、ロックピン24の抜け防止爪が弾性変形してクリップ本体12の仮止め孔20から抜け出す。ロックピン24が
図5及び
図6に示される押込完了位置まで押込まれると、ロックピン24の押込みが完了する。
【0030】
ロックピン24が押込完了位置まで押込まれた状態では、一対の脚部26が一対の脚片16の間に挟まり、一対の脚片16が互いに接近する方向へ弾性変形できなくなる。これにより、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部に対して車外側から係合した状態が保持され、クリップ取付孔68からのクリップ本体12の抜去が規制(阻止)される。
【0031】
図7に示されるように、クリップ本体12の一対の脚片16における対向方向Xの内側面には、一対のガイド面30が並び方向Yに並んで形成されている。一対のガイド面30は、一対の脚片16の先端側に形成されており、押込方向Z1へ向かうほど互いに離間するように傾斜している。ロックピン24が仮止め位置から押込完了位置まで押込まれる途中では、一対の脚部26の先端が一対のガイド面30と摺動することにより、一対の脚部26が互いに離間する。ロックピン24が押込完了位置まで押込まれると、
図5に示されるように一対の脚部26のサイド爪26Aが一対の脚片16から並び方向Yの外側へ突出する。これらのサイド爪26Aは、クリップ取付孔68の縁部に対して車外側(
図2では右側)から係合する。これにより、カーテンエアバッグ52の展開時に取付クリップ10に加わる抜去荷重がクリップ本体12及びロックピン24の両方で受け止められるように構成されている。なお
図7では、クリップ本体12及びロックピン24のうち、クリップ本体12のみが切断された状態が図示されている。
【0032】
図8に示されるように、クリップ本体12の一対の脚片16における対向方向Xの内側面には、傾斜面32が形成されている。これらの傾斜面32は、一対の脚片16における挿抜方向Zの中間部に形成されており、押込方向Z1へ向かうほど対向方向Xの内側へ向かうように傾斜している。これらの傾斜面32は、押込方向Z1に対する傾斜角度が押込方向へ向かうほど漸増する曲面状に形成されている。
【0033】
上記の傾斜面32がクリップ本体12の一対の脚片16に形成された取付クリップ10では、ロックピン24が一対の脚片16側へ誤って押込まれた状態(誤挿入状態;誤押込状態)で一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入されると、一対の脚片16に形成された傾斜面32とロックピン24の先端が摺動する。すなわち、一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入される際には、一対の脚片16における対向方向Xの外側面に形成された係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部と摺動し、一対の脚片16が互いに接近する方向へ弾性変形する。これにより、一対の脚片16に形成された傾斜面32が互いに接近しようとする(
図9の矢印A参照)。その結果、ロックピン24の一対の脚部26の先端角部が各傾斜面32と摺動し、ロックピン24に対して押込方向Z1とは反対方向の分力が作用する。この分力により、ロックピン24が押込方向Z1とは反対側へ戻されるように構成されている(
図9の矢印R参照)。
【0034】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0035】
本実施形態に係る車両用カーテンエアバッグ装置50では、車両Vのルーフサイド部56に収納されるカーテンエアバッグ52が、インフレータから内部にガスの供給を受けて車両下方側へ膨張展開する。ルーフサイド部56に設けられたボデーパネル66には、複数のクリップ取付孔68が形成されており、各クリップ取付孔68には、それぞれ取付クリップ10のクリップ本体12が挿入されている。これらのクリップ本体12によってカーテンエアバッグ52がボデーパネル66に係止されている。
【0036】
上記のクリップ本体12は、頭部14及び該頭部14から延びる一対の脚片16を有している。頭部14には、一対の脚片16間に連通するロックピン挿入孔18が形成されている。一対の脚片16は、クリップ取付孔68に挿入される。この挿入の途中では、一対の脚片16が互いに接近する。このクリップ本体12の頭部に形成されたロックピン挿入孔18内には、ロックピン24が配置されている。ロックピン24は、一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入された状態で一対の脚片16側へ押込まれることにより、一対の脚片16の上記接近を制限し、クリップ取付孔68からの一対の脚片16の抜去を規制する。
【0037】
この実施形態では、上記のロックピン24が一対の脚片16側へ押込まれた状態で一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入されると、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部と摺動し、一対の脚片16が互いに接近する方向(
図9の矢印A参照)へ弾性変形しようとする。その結果、一対の脚片16の対向方向Xの内側面に形成された傾斜面32からロックピン24の先端角部に対して押込方向Z1とは反対側への分力が作用し、ロックピン24が上記反対側へ自動的に戻される(
図9の矢印R参照)。このように、ロックピン24が押込方向Z1とは反対側へ戻されることにより、上記接近方向への一対の脚片16の弾性変形が許容されるので、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68を通過可能となり、一対の脚片16をクリップ取付孔68に挿入可能となる。
【0038】
上記の効果について、
図10~
図14に示される比較例100を用いて補足説明する。この比較例100は、本実施形態に係る取付クリップ10と同様にカーテンエアバッグ用の取付クリップであるが、クリップ本体102及びロックピン110の構成が、本実施形態に係るクリップ本体12及びロックピン24の構成とは異なっている。なお、
図10~
図14では、比較例100において、取付クリップ10と基本的に同様の構成に同符号を付している。以下、比較例100を取付クリップ100と称する。
【0039】
クリップ本体102は、頭部14及び該頭部14から延びる脚部104を有しており、押込方向Z1とは反対側が開口したロックピン挿入孔106を有している。頭部14よりも挿入方向Z1側では、ロックピン挿入孔106がバックアップリブ108によって一対のロックピン挿入室106Aに区画されている。一対のロックピン挿入室106Aは、互いに対向方向Xに並んでいる。脚部104における対向方向Xの両側の壁部には、弾性変形可能な係止爪104Aが形成されている。この脚部104がクリップ取付孔68に挿入される際には、各係止爪104Aがクリップ取付孔68の縁部と摺動して互いに接近する方向へ弾性変形する。各係止爪104Aがクリップ取付孔68を通過すると、各係止爪104Aが弾性復帰してクリップ取付孔68の縁部に対し頭部14とは反対側から係合する。
【0040】
ロックピン110は、挿抜方向Zを長手とする長尺状をなしており、ロックピン挿入孔106内に配置されている。ロックピン110は、図示しない連結部によって繋がれた一対の脚部112を有している。一対の脚部112は、互いに対向方向Xに対向している。ロックピン110が
図12に示される押込完了位置へ押込まれると、一対の脚部112が一対のロックピン挿入室106A内に入り込み、各係止爪104Aに対して対向方向Xの内側から係合する。これにより、各係止爪104Aが互いに接近する方向へ弾性変形できなくなり、クリップ取付孔68からのクリップ本体102の抜去が規制される。また、ロックピン110が押込完了位置へ押込まれると、クリップ本体102に形成された一対の抜け防止孔114にロックピン110の一対の抜け防止爪116が嵌入する。押込完了位置に位置するロックピン110に対して押込方向Z1とは反対側への力が加わると、一対の抜け防止爪116が一対の抜け防止孔114の縁部に引っ掛かることにより、上記反対側へのロックピン110の変位が規制される。
【0041】
上記の取付クリップ100は、例えば数百個程度まとめて袋詰めされて輸送される。この輸送時の振動や衝撃によって、
図14に示されるように、他の取付クリップ100の頭部14の角部がロックピン110に当たることがある。その結果、ロックピン110が脚部104側へ押込まれ、低い確率ではあるがロックピン110の誤挿入が発生することが考えられる。ロックピン110の誤挿入が発生すると、係止爪104Aが互いに接近する方向への弾性変形を制限されるため、係止爪104Aがクリップ取付孔68の縁部と干渉することにより、脚部104をクリップ取付孔68に挿入できなくなる。また、ロックピン110の誤挿入が発生した場合、
図14に示されるように抜け防止爪116が弾性変形した状態が長く続くため、抜け防止爪116がクリープ変形してしまう。その結果、カーテンエアバッグ52の展開時に取付クリップ100に大きな力が作用した場合、抜け防止爪116によるロックピン110の抜け止めが不用意に解除され、取付クリップ100によるカーテンエアバッグ52の保持力が低下することが考えられる。このため、上記の取付クリップ100では、取付クリップ100をボデーパネル66に組み付ける前に、ロックピン110の誤挿入を判別するための検査を行う必要が生じる。
【0042】
これに対し、本実施形態では、ロックピン24の誤挿入が発生した場合でも、一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入される際に自動的にロックピン24が押込方向Z1とは反対側へ戻されることにより、一対の脚片16をクリップ取付孔68に挿入可能となる。上記取付クリップ100の課題を解決することができる。
【0043】
また、本実施形態では、クリップ本体12の一対の脚片16に形成された傾斜面32は、押込方向Z1に対する傾斜角度が押込方向Z1へ向かうほど漸増する曲面とされている。このため、ロックピン24が押込方向Z1へ押込まれる際に、傾斜面32からロックピン24に加わる荷重が緩やかに増加する。これにより、ロックピン24の押込みが円滑になる。
【0044】
さらに、本実施形態では、ロックピン24は、サイド爪26Aが形成された一対の脚部26を有し、一対の脚片16がクリップ取付孔68に挿入された状態でロックピン24が押込方向Z1へ押込まれることにより一対の脚部26が互いに離間してサイド爪26Aがクリップ取付孔68の縁部に係合する。これにより、取付クリップ10に加わる抜去荷重がロックピン24によっても受け止められ、抜去耐力が向上する。
【0045】
なお、上記実施形態では、クリップ本体12の一対の脚片16に形成された傾斜面32が曲面である構成にしたが、これに限るものではない。傾斜面は平面であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ロックピン24が一対の脚部26を有し、一対の脚部26にサイド爪26Aが形成された構成にしたが、これに限るものではない。ロックピンの構成は適宜変更可能である。なお前述したように、ロックピン24が一対の脚片16側へ押し込まれた状態でクリップ取付孔68に挿入されると、一対の脚片16の係止爪16Aがクリップ取付孔68の縁部と摺動し、一対の脚片16が互いに接近する方向(
図9の矢印A参照)へ塑性変形しようとする。その結果、一対の脚片16の対向方向Xの内側面に形成された傾斜面32からロックピン24の先端角部に対して押込方向Z1とは反対側への分力が作用し、ロックピン24が押込方向Z1と反対側へ自動的に戻される。この際、ロックピン24が自動的に復帰する初期位置(初期復帰位置)よりもさらに上記反対側へ復帰するように構成することが好ましい。例えば、ロックピン24の抜け防止爪をさらに変形し易い形状とすることで、実施形態のロックピン自動復帰位置よりも所定量(例えば3mm)多く復帰するように構成すれば、一対の脚片16の板厚を厚くすることができ、強度を向上できる。
【0047】
また、上記実施形態では、カーテンエアバッグ52をボデーパネル66に固定する取付クリップ10に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限るものではない。本発明に係るクリップは、被取付物である車両用部品を、車両のボデーパネル等の固定対象物に固定する固定具として適用可能である。
【0048】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
10 クリップ
12 クリップ本体
14 頭部
16 脚片
18 ロックピン挿入孔
24 ロックピン
26 脚部
26A サイド爪
32 傾斜面
50 カーテンエアバッグ装置
52 カーテンエアバッグ
66 ボデーパネル(固定対象物)
68 クリップ取付孔
X 対向方向
Z1 押込方向