(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20250109BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20250109BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20250109BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20250109BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20250109BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20250109BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20250109BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20250109BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20250109BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B60L15/20 K
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W20/10
B60W20/15
B60L7/14
B60W10/00 126
B60W10/10
B60W10/18
B60W10/00 120
B60W10/08
(21)【出願番号】P 2021112408
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】江藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】増永 聖二
(72)【発明者】
【氏名】中野 真司
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-199958(JP,A)
【文献】特開2011-199959(JP,A)
【文献】特開2008-207690(JP,A)
【文献】特開2017-112666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0265382(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20-6/547
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機と駆動輪との間の動力伝達経路に、変速比が異なる複数のギヤ段を有する自動変速機が設けられている車両に備えられ、
コースト走行時にブレーキ操作が行なわれると、ブレーキ操作が行なわれない場合に比較して大きな回生トルクを発生させるように前記回転機を回生制御するコースト時回生制御部を有する車両の制御装置において、
前記制御装置は、前記コースト走行時であって前記コースト時回生制御部により前記回転機が回生制御される回生コースト走行中に前記自動変速機をダウンシフトさせる場合に、該ダウンシフトの終了直前に前記回転機の前記回生トルクを増大させる回生トルクダウン制御を行なう回生コーストダウンシフト制御部を備えているとともに、
前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記ダウンシフトのイナーシャ相が開始した後に前記ブレーキ操作の変化に伴って前記回生トルクが前記コースト時回生制御部によって減少させられた場合には、前記回生トルクダウン制御時の回生トルクダウン量が大きくなるように増大補正する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記コースト時回生制御部は、ブレーキ操作量が大きい程前記回生トルクが大きくなるように該ブレーキ操作量に応じて前記回転機を回生制御するもので、
前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記イナーシャ相が開始した後の前記ブレーキ操作量の変化に伴う前記回生トルクの減少量が大きい程前記回生トルクダウン量が大きくなるように、前記回生トルクの減少量に応じて前記回生トルクダウン量を増大補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記イナーシャ相の開始時から前記回生トルクダウン制御を行なう時までの前記回生トルクの減少量と、該回生トルクダウン制御を行なう時の前記回生トルクの単位時間当りの減少量とに基づいて、前記回生トルクダウン量を増大補正する際の補正量を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機は、複数の油圧式摩擦係合装置の係合および解放状態に応じて前記複数のギヤ段が形成されるもので、
前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記ダウンシフトの際に係合させる前記油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧に関し、前記イナーシャ相の開始後に前記コースト時回生制御部により前記回生トルクが減少させられた場合には、前記係合過渡油圧が低くなるように減圧補正する
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記コースト時回生制御部によって制御される前記回生トルクに前記自動変速機の変速比を掛け算して求められる前記自動変速機の出力側トルクの推定値に基づいて、前記回生トルクが前記コースト時回生制御部によって減少させられたか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に係り、特に、コースト走行時に回転機を回生制御して回生トルクを発生させる車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 回転機と駆動輪との間の動力伝達経路に、変速比が異なる複数のギヤ段を有する自動変速機が設けられている車両に備えられ、(b) コースト走行時にブレーキ操作が行なわれると、ブレーキ操作が行なわれない場合に比較して大きな回生トルクを発生させるように前記回転機を回生制御するコースト時回生制御部を有する車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載の車両はその一例であり、ブレーキ操作の有無(オンオフ)によって回生トルクを切り替えるようになっている。特許文献1ではまた、前記コースト走行時であって前記コースト時回生制御部により前記回転機が回生制御される回生コースト走行中に前記自動変速機がダウンシフトされる場合に、そのダウンシフトのイナーシャ相が開始した後にブレーキオフ操作に伴って前記回生トルクを減少させると、その回生トルクの減少に起因して変速ショックが発生する恐れがあることから、回生トルクの変化速度を抑制するようになっている。すなわち、特許文献1では油圧式摩擦係合装置の係合によってダウンシフトが行なわれるため、回生トルクの減少に起因して油圧式摩擦係合装置が急係合させられ、変速終了時に同期ショックが発生する可能性があり、これを防止するために回生トルクの変化率を小さくするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように回生トルクの変化速度を抑制すると、ブレーキオフ操作に対する回生トルクの変化が遅くなるため、車両減速度が小さくなる減速度抜けの応答性が悪くなり、運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、回生コースト走行中のダウンシフト時にブレーキ操作の変化に伴って回生トルクが減少させられる場合に、減速度抜けの応答性を確保しつつ変速ショックを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 回転機と駆動輪との間の動力伝達経路に、変速比が異なる複数のギヤ段を有する自動変速機が設けられている車両に備えられ、(b) コースト走行時にブレーキ操作が行なわれると、ブレーキ操作が行なわれない場合に比較して大きな回生トルクを発生させるように前記回転機を回生制御するコースト時回生制御部を有する車両の制御装置において、(c) 前記制御装置は、前記コースト走行時であって前記コースト時回生制御部により前記回転機が回生制御される回生コースト走行中に前記自動変速機をダウンシフトさせる場合に、そのダウンシフトの終了直前に前記回転機の前記回生トルクを増大させる回生トルクダウン制御を行なう回生コーストダウンシフト制御部を備えているとともに、(d) 前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記ダウンシフトのイナーシャ相が開始した後に前記ブレーキ操作の変化に伴って前記回生トルクが前記コースト時回生制御部によって減少させられた場合には、前記回生トルクダウン制御時の回生トルクダウン量が大きくなるように増大補正することを特徴とする。
上記コースト走行は、運転者の加速要求量或いは駆動要求量を表すアクセル開度が0で、車両が惰性で走行する状態である。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両の制御装置において、(a) 前記コースト時回生制御部は、ブレーキ操作量が大きい程前記回生トルクが大きくなるようにそのブレーキ操作量に応じて前記回転機を回生制御するもので、(b) 前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記イナーシャ相が開始した後の前記ブレーキ操作量の変化に伴う前記回生トルクの減少量が大きい程前記回生トルクダウン量が大きくなるように、前記回生トルクの減少量に応じて前記回生トルクダウン量を増大補正することを特徴とする。
上記ブレーキ操作量は、運転者の減速要求量すなわち制動要求量に対応するもので、ブレーキペダルの踏込み操作力などである。
【0008】
第3発明は、第2発明の車両の制御装置において、前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記イナーシャ相の開始時から前記回生トルクダウン制御を行なう時までの前記回生トルクの減少量と、その回生トルクダウン制御を行なう時の前記回生トルクの単位時間当りの減少量とに基づいて、前記回生トルクダウン量を増大補正する際の補正量を算出することを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかの車両の制御装置において、(a) 前記自動変速機は、複数の油圧式摩擦係合装置の係合および解放状態に応じて前記複数のギヤ段が形成されるもので、(b) 前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記ダウンシフトの際に係合させる前記油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧に関し、前記イナーシャ相の開始後に前記コースト時回生制御部により前記回生トルクが減少させられた場合には、前記係合過渡油圧が低くなるように減圧補正することを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第1発明~第4発明の何れかの車両の制御装置において、前記回生コーストダウンシフト制御部は、前記コースト時回生制御部によって制御される前記回生トルクに前記自動変速機の変速比を掛け算して求められる前記自動変速機の出力側トルクの推定値に基づいて、前記回生トルクが前記コースト時回生制御部によって減少させられたか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような車両の制御装置においては、回生コースト走行中に自動変速機をダウンシフトさせる場合には、ダウンシフトの終了直前に回生トルクを増大させる回生トルクダウン制御が行なわれるため、入力回転速度が上昇して変速後同期回転速度に達する直前のその入力回転速度の変化が抑制され、同期時(変速終了時)の変速ショックが抑制される。一方、ダウンシフトのイナーシャ相が開始した後に、ブレーキ操作の変化に伴ってコースト時回生制御部により回生トルクが減少させられた場合には、上記回生トルクダウン制御時の回生トルクダウン量が大きくなるように増大補正されるため、その回生トルクの減少に起因する変速ショックが抑制される。また、回生トルクダウン制御を開始するまではコースト時回生制御部による回生トルクの制御を制限する必要がないため、ダウンシフト中であってもブレーキ操作の変化に伴って回生トルクが速やかに減少させられ、変速時以外の通常の回生コースト走行時と同様の減速度抜けの応答性が得られる。
【0012】
第2発明は、ブレーキ操作量が大きい程回生トルクが大きくなるようにブレーキ操作量に応じて回転機が回生制御されるとともに、イナーシャ相が開始した後の回生トルクの減少量が大きい程回生トルクダウン量が大きくなるように、回生トルクの減少量に応じて回生トルクダウン量が増大補正される場合で、ブレーキ操作量の変化に応じて回生トルクや回生トルクダウン量が細かく制御されるため、ブレーキ操作量に応じて車両減速度が適切に制御されるとともに、回生トルクの変化に拘らずダウンシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0013】
第3発明では、イナーシャ相の開始時からの回生トルクの減少量と、回生トルクの単位時間当りの減少量とに基づいて、回生トルクダウン量を増大補正する際の補正量が算出されるため、イナーシャ相中におけるブレーキ操作量の長期的変化および短期的変化を考慮してダウンシフト時の変速ショックを適切に抑制することができる。
【0014】
第4発明は、複数の油圧式摩擦係合装置の係合および解放状態に応じて複数のギヤ段が形成される自動変速機を備えている場合で、回生コースト走行中のダウンシフトのイナーシャ相の開始後にコースト時回生制御部により回生トルクが減少させられた場合には、入力回転速度を引き上げる係合側の油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧が低くなるように減圧補正されるため、回生トルクダウン制御における回生トルクダウン量の増大補正と相まって、入力回転速度が変速後同期回転速度に達する同期時の変速ショックを一層適切に抑制することができる。
【0015】
第5発明では、自動変速機の出力側トルクの推定値に基づいて前記回生トルクが減少させられたか否かを判断するため、ダウンシフトが円滑に行なわれるように実施される入力トルクの各種の補償制御に拘らず、回生トルクの減少変化を適切に判断して回生トルクダウン量の増大補正を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例である制御装置を有する車両の駆動系統を説明する概略構成図で、各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。
【
図2】
図1の車両に備えられた自動変速機の一例を説明する骨子図である。
【
図3】
図2の自動変速機の複数のギヤ段と油圧式摩擦係合装置の係合解放状態との関係を説明する係合作動表である。
【
図4】
図1の電子制御装置が機能的に備えているコースト時回生制御部がブレーキ操作量に応じてコースト時回生トルクを制御する際の両者の関係の一例を説明する図である。
【
図5】
図1の電子制御装置が機能的に備えている回生コーストダウンシフト制御部が車両減速度に応じて回生トルクダウン量を制御する際の両者の関係の一例を説明する図である。
【
図6】回生コースト走行中のダウンシフト時に、ブレーキ操作量の変化無しで回生コーストダウンシフト制御部によって回生トルクダウン制御が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【
図7】回生コーストダウンシフト制御部によってダウンシフト制御が行なわれる際の回生トルクダウン量および係合過渡油圧の補正処理を説明するフローチャートである。
【
図8】
図7のステップS5でペラ軸回生トルクの減少変化に基づいて回生トルクダウン補正量αを算出する際に用いられるマップの一例を説明する図である。
【
図9】
図7のステップS5でペラ軸回生トルクの減少変化に基づいて係合過渡油圧補正量βを算出する際に用いられるマップの一例を説明する図である。
【
図10】回生コースト走行中のダウンシフト時に、ブレーキ操作量の変化有りで回生コーストダウンシフト制御部により
図7のフローチャートに従って補正処理が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【
図11】回生コースト走行中のダウンシフト時に、ブレーキ操作量の変化有りで
図7のフローチャートによる補正処理が行なわれない場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、駆動力源として回転機の他にエンジン(内燃機関)を備えているハイブリッド式電動車両に好適に適用されるが、走行用の駆動力源として回転機のみを備えている電気自動車にも適用され得る。ハイブリッド式電動車両としては、エンジンおよび単一の回転機を備えたものでも良いし、回転機を2つ以上備えたものでも良く、例えば差動機構と差動制限用回転機とを有する電気式差動部を有するものなど、種々のハイブリッド式電動車両に適用され得る。回転機は、電動モータおよび発電機として選択的に用いることができる回転電気機械で、所謂モータジェネレータである。自動変速機としては、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の係合および解放状態に応じて複数のギヤ段が形成される遊星歯車式の有段変速機が好適に用いられるが、平行2軸式等の常時噛合式の有段変速機を用いることもできるし、並列に設けられた歯車式伝達機構とベルト式伝達機構とを切り替えて変速するものでも良いなど、種々の態様が可能である。
【0018】
コースト走行時に回生トルクを発生させるコースト時回生制御部は、例えばブレーキペダルが踏込み操作されたブレーキオン時に回生トルクを発生させ、ブレーキペダルが踏込み操作されていないブレーキオフ時にもブレーキオン時より小さな回生トルクを発生させるように構成されるが、ブレーキオフ時には回生トルクを停止するようにしても良い。また、ブレーキオン時には、ブレーキ操作量に応じて回生トルクを変化させることが望ましいが、ブレーキ操作量に拘らず一定の回生トルクを発生させるだけでも良い。
【0019】
ダウンシフトの終了直前に回生トルクを増大させる回生トルクダウン制御は、例えばダウンシフトの種類毎に予め定められた一定量だけ回生トルクを大きくするものでも良いが、車両減速度やブレーキ操作量、入力回転速度の変化速度等の車両状態に応じて回生トルクダウン量(回生トルクの増加幅)を変化させることもできる。この回生トルクダウン量は、イナーシャ相開始後に回生トルクが減少させられた場合には増大補正されるが、その補正量は一定でも良いし、回生トルクの減少量などに応じて変化させることもできる。例えばイナーシャ相の開始時から回生トルクダウン制御を行なう時までの回生トルクの減少量、および回生トルクダウン制御を行なう時の回生トルクの単位時間当りの減少量の両方に基づいて、補正量を定めることが望ましいが、イナーシャ相開始時からの減少量だけで補正量を定めるようにしても良いし、回生トルクの減少に関係する他のパラメータを用いて補正量を定めることもできるなど、種々の態様が可能である。イナーシャ相開始後にブレーキ操作の増加に伴って回生トルクが増加させられた場合には、必ずしも回生トルクダウン量を補正する必要はないが、回生トルクダウン量を減少補正することも可能である。すなわち、回生トルクの減少増大変化に応じて、回生トルクダウン量を増大減少補正するようにしても良い。
【0020】
複数の油圧式摩擦係合装置の係合および解放状態に応じて複数のギヤ段が形成される自動変速機を有する場合、上記回生トルクダウン量の増大補正に加えて、ダウンシフトの際に係合させられる油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧を、回生トルクが減少させられた場合に減圧補正することが望ましいが、回生トルクダウン量の増大補正を行なうだけでも良い。イナーシャ相開始後にブレーキ操作の増加に伴って回生トルクが増加させられた場合、必ずしも係合側油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧を補正する必要はないが、その係合過渡油圧を増圧補正することも可能である。すなわち、回生トルクの減少増大変化に応じて、係合側油圧式摩擦係合装置の係合過渡油圧を減圧増圧補正するようにしても良い。
【0021】
回転機の回生トルクがコースト時回生制御部によって減少させられたか否かは、その回生トルクに基づいて判断することができるが、自動変速機に入力される回生トルクは、ダウンシフトが適切に進行するように各種の補償制御等が行なわれ、その補償制御等によって増減変化する場合がある。このため、その回生トルクに自動変速機の変速比を掛け算して求められる自動変速機の出力側トルクの推定値に基づいて、回生トルクがコースト時回生制御部によって減少させられたか否かを判断することが望ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0023】
図1は、本発明が適用された車両10の駆動系統の概略構成図で、車両10における各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。
図1において、車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン12およびモータジェネレータMGを備えているハイブリッド式電動車両である。また、車両10は、エンジン12およびモータジェネレータMGと駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。駆動輪14は、例えば車両10の左右の後輪である。車両10は、駆動輪14である左右の後輪の他に、図示しない左右の前輪を備えている4輪自動車である。
【0024】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。
【0025】
モータジェネレータMGは回転機に相当し、電力から機械的な動力を発生させる電動モータとしての機能、および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械である。モータジェネレータMGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。モータジェネレータMGは、電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、モータジェネレータMGの出力トルクであるMGトルクTmgが制御される。MGトルクTmgは、例えばモータジェネレータMGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルク(発電トルクとも言われる)である。具体的には、モータジェネレータMGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から電力が供給されることにより、力行トルクであるMGトルクTmgに応じて走行用の動力を発生する。また、モータジェネレータMGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により回転駆動されることにより、回生トルクであるMGトルクTmgに応じて発電する。駆動輪14に連結されている場合には、そのMGトルクTmgに応じて車両10に制動力が加えられる。モータジェネレータMGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、モータジェネレータMGに対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は電気エネルギに置き替えることができ、前記動力はトルクや力に置き替えることができる。
【0026】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側からK0クラッチ20、トルクコンバータ22、および自動変速機24を直列に備えており、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路にモータジェネレータMGが連結されている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12とモータジェネレータMGとの間に設けられたクラッチで、モータジェネレータMGとエンジン12との間を接続遮断するエンジン断接装置である。K0クラッチ20は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0により、K0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結するMG連結軸36を備えている。
【0027】
モータジェネレータMGは、ケース18内においてMG連結軸36に動力伝達可能に連結されている。モータジェネレータMGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に、動力伝達可能に連結されている。つまり、モータジェネレータMGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、モータジェネレータMGと駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12およびモータジェネレータMGの各駆動力源からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0028】
トルクコンバータ22は、モータジェネレータMGと自動変速機24との間に設けられた流体式伝動装置で、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。トルクコンバータ22は、MG連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、および自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的にモータジェネレータMGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。MG連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、駆動力源であるエンジン12およびモータジェネレータMGの各々からの駆動力を、流体を介して変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0029】
LUクラッチ40は、油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluにより、LUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が解放された状態である完全解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。また、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22aおよびタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0030】
自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。
【0031】
図2は、自動変速機24の一例を具体的に説明する骨子図である。この自動変速機24は遊星歯車式の有段変速機であり、軸心に対して略対称的に構成されているため、
図2の骨子図においては下側半分が省略されている。
図2に示す自動変速機24は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置42を主体として構成されている第1変速部43と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置44およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置46を主体として構成されている第2変速部47と、を共通の軸心上に備えており、変速機入力軸38の回転を変速して変速機出力軸26から出力する。第2遊星歯車装置44および第3遊星歯車装置46は、両者のキャリアおよびリングギヤがそれぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置44のピニオンギヤが第3遊星歯車装置46の第2ピニオンギヤ(外側のピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0032】
図2の自動変速機24は、油圧式摩擦係合装置として4つのクラッチC1~C4、および2つのブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBと言う)を備えている。この自動変速機24は、
図3の係合作動表に示されるように、係合装置CBの何れか2つが係合させられることにより、第1速ギヤ段「1st」~第8速ギヤ段「8th」の前進8段と、第1速後進ギヤ段「Rev1」および第2速後進ギヤ段「Rev2」の後進2段が成立させられ、係合装置CBが総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。第1速ギヤ段「1st」は、変速比γ(=AT入力回転速度Ni /AT出力回転速度No )が最も大きいロー側のギヤ段で、第8速ギヤ段「8th」は、変速比γが最も小さいハイ側のギヤ段である。すなわち、第1速ギヤ段「1st」側が低ギヤ段側で、第8速ギヤ段「8th」側が高ギヤ段側である。
図3から明らかなように、本実施例の自動変速機24は、第2速ギヤ段「2nd」と第3速ギヤ段「3rd」との間など連続する前進ギヤ段の間で変速する場合、何れか1つの係合装置CBを解放するとともに他の一つの係合装置CBを係合させるクラッチツウクラッチ変速が実行される。係合装置CBは、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbにより、それぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0033】
自動変速機24は、電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じてギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段の何れか1つが選択的に形成される。AT入力回転速度Ni は、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Ni は、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。AT出力回転速度No は、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。AT出力回転速度No は車速Vに対応する。
【0034】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合させられた場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、MG連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、モータジェネレータMGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、MG連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0035】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、モータジェネレータMG)により回転駆動されて動力伝達装置16にて用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動されて作動油OIL を吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OIL は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58および/またはEOP60が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを、係合装置CB、K0クラッチ20、LUクラッチ40等に供給する。
【0036】
車両10は、電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。すなわち、電子制御装置90は、車両10の各種制御を実行する制御装置である。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、MG制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0037】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、エアフローメータ82、ブレーキ操作量センサ84、バッテリセンサ86、油温センサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、AT入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、車速Vに対応するAT出力回転速度No 、モータジェネレータMGの回転速度であるMG回転速度Nmg、運転者の加速要求の大きさを表すアクセル操作量(例えばアクセルペダルの踏込み操作量)であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、エンジン12の吸入空気量Qair 、運転者の減速要求の大きさを表すブレーキペダル85の踏込み操作力であるブレーキ操作量Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat 、油圧制御回路56内の作動油OIL の温度である作動油温THoil を表す信号など)が、それぞれ供給される。MG回転速度Nmgは、流体式伝動装置であるトルクコンバータ22の入力回転速度に相当し、タービン回転速度Nt は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ22の出力回転速度に相当する。また、アクセル開度θacc は運転者の加速要求量に対応し、ブレーキ操作量Bonは運転者の減速要求量に対応する。
【0038】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se 、モータジェネレータMGを制御する為のMG制御指令信号Sm 、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seop など)が、それぞれ出力される。電子制御装置90からはまた、駆動輪14を含む総ての車輪に設けられたホイールブレーキに制動力を発生させるホイールブレーキ装置64に対して、そのホイールブレーキによる制動力を制御するためのブレーキ制御指令信号Sb が出力される。このブレーキ制御指令信号Sb は、主としてブレーキ操作量Bonに基づいて制御される。なお、ブレーキペダル85に機械的に連結され、ブレーキ操作量Bonに応じて制動力が機械的に変化させられるホイールブレーキ装置が設けられても良い。
【0039】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92、変速制御手段すなわち変速制御部94、およびコースト時回生制御手段すなわちコースト時回生制御部96を備えている。
【0040】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御部92a、およびインバータ52を介してモータジェネレータMGの作動を制御するMG制御部92bを機能的に備えており、それらの制御機能によりエンジン12およびモータジェネレータMGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係、すなわち予め定められた関係である。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度No などを用いても良い。
【0041】
ハイブリッド制御部92は、例えば要求駆動パワーPrdemを実現するために必要なトルクコンバータ22の入力トルクである要求入力トルクTindem を求め、その要求入力トルクTindem が得られるように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Se と、モータジェネレータMGを制御するMG制御指令信号Sm と、を出力する。ハイブリッド制御部92は、モータジェネレータMGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合には、走行モードをBEV(Battery Electric Vehicle)走行モードとする。BEV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態でモータジェネレータMGのみを駆動力源として走行するBEV走行を行う。また、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求入力トルクTindem を賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちHEV(Hybrid Electric Vehicle) 走行モードとする。HEV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態で少なくともエンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。ハイブリッド制御部92は、要求入力トルクTindem 等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
【0042】
変速制御部94は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。上記変速マップは変速条件であり、例えば車速Vおよび要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。上記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度No などを用いても良いし、また、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θacc 、スロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0043】
コースト時回生制御部96は、アクセル開度θacc が0で車両10が惰性で前進走行させられるコースト走行時に、モータジェネレータMGが回生トルクを発生するようにMGトルクTmgを制御するコースト時回生制御を実行する。以下、この時のMGトルクTmgを、コースト時MG回生トルクTmgc と言う。コースト時回生制御部96は、コースト時MG回生トルクTmgc を発生させるためのMG制御指令信号Sm 、具体的にはモータジェネレータMGの発電電力Wg の指令値を、インバータ52に出力する。このコースト時MG回生トルクTmgc が自動変速機24を介して駆動輪14に伝達されることにより、車両10にはコースト時MG回生トルクTmgc に応じた制動力が加えられるとともに、得られた発電電力Wg によってバッテリ54が充電される。コースト走行時には、エンジン12はフューエルカットされて運転が停止されるとともに、K0クラッチ20が解放されて回転停止させられる。すなわち、エンジンブレーキに相当する制動力、或いはエンジンブレーキ以上の制動力を、モータジェネレータMGの回生制御によって発生させることができる。なお、K0クラッチ20を接続したまま、エンジン12を連れ回り回転させつつコースト時回生制御を行なうことも可能である。
【0044】
上記コースト時MG回生トルクTmgc は、ブレーキ操作量Bonが大きい程大きくなるように予め定められたマップや演算式に従って求められるとともに、ブレーキ操作量Bonの変化に応じて逐次変更される。
図4は、ブレーキ操作量Bonに応じて設定されるコースト時MG回生トルクTmgc の一例で、ブレーキ操作量Bonが大きくなるに従ってコースト時MG回生トルクTmgc が連続的に増大させられる。
図4では直線的に増大しているが、非線形で増大させたり段階的に増大させたりしても良い。また、本実施例ではブレーキ操作量Bon=0、すなわちブレーキ操作が行なわれていない場合にも、ブレーキ操作時よりも小さい所定のコースト時MG回生トルクTmgc で回生制御が行なわれる。但し、ブレーキ操作量Bon=0の時には、コースト時MG回生トルクTmgc =0としてコースト時回生制御が行なわれないようにしても良い。コースト時MG回生トルクTmgc による制動力は、自動変速機24を介して駆動輪14に伝達され、その自動変速機24のギヤ段によって制動力が変化するため、コースト時MG回生トルクTmgc を求めるためのマップや演算式は、自動変速機24のギヤ段毎に定められる。
【0045】
一方、コースト走行時であって上記コースト時回生制御部96によりモータジェネレータMGが回生制御される回生コースト走行中に、例えば車速Vの低下に伴って自動変速機24が自動的にダウンシフトさせられる場合、ダウンシフトによるギヤ段の変化、すなわち変速比γの変化(この場合は増加)によって、コースト時MG回生トルクTmgc により車両10に加えられる制動力が変化(この場合は増大)する。前記変速制御部94には、この回生コースト走行中のダウンシフトを実行する回生コーストダウンシフト制御部94aが機能的に設けられている。回生コーストダウンシフト制御部94aは、回生コースト走行中のダウンシフト時の制動力の変化を抑制するため、例えばプロペラシャフト28に伝達されるペラ軸回生トルクTprg が略一定に維持されるように、変速比γの変化を考慮してダウンシフトの過程でコースト時MG回生トルクTmgc を減少変化(0に近付ける変化)させる。このコースト時MG回生トルクTmgc の減少変化は、前記コースト時回生制御部96を介して行なうことができるが、回生コーストダウンシフト制御部94aが、コースト時回生制御部96による回生制御に優先してコースト時MG回生トルクTmgc を制御しても良い。
【0046】
図6は、上記回生コースト走行中のダウンシフト時の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例で、解放側油圧指令値PRdra 、係合側油圧指令値PRapp は、ダウンシフトの際のクラッチツウクラッチ変速で解放される解放側係合装置CBdra の油圧指令値、係合させられる係合側係合装置CBapp の油圧指令値である。
図6の時間t1は、ダウンシフトの変速指令が出力された時間で、クラッチツウクラッチ変速を行うためのCB油圧制御指令信号Scbが出力され、解放側油圧指令値PRdra および係合側油圧指令値PRapp がそれぞれ所定の変化パターンに従って変化させられる。時間t2はトルク相の開始時間で、時間t3はイナーシャ相の開始時間であり、コースト時MG回生トルクTmgc は、トルク相に相当する時間t2から時間t3の間で、ダウンシフトによる変速比γの変化に拘らずペラ軸回生トルクTprg が略一定に維持されるように減少変化させられる。ペラ軸回生トルクTprg は、コースト時MG回生トルクTmgc と同様にブレーキ操作量Bonに基づいて求められる算出値で、コースト時MG回生トルクTmgc に対応するが、ブレーキ操作量Bonに変化が無ければダウンシフトに拘らず一定に維持される。すなわち、ペラ軸回生トルクTprg は、コースト時MG回生トルクTmgc に変速比γを掛け算して求められる自動変速機24の出力側トルクの推定値で、ダウンシフトに拘らずペラ軸回生トルクTprg が一定に維持されるように、変速比γの変化に応じてコースト時MG回生トルクTmgc が減少変化させられる。
【0047】
図6において、イナーシャ相開始後である時間t3以後は、ブレーキ操作量Bonに変化が無ければ、ペラ軸回生トルクTprg は一定に維持され、コースト時MG回生トルクTmgc も基本的には破線で示すように一定に維持される。その場合に、係合側係合装置CBapp の係合トルクによってAT入力回転速度Ni が変速前同期回転速度から離れて上昇させられるようになると、イナーシャによってペラ軸回生トルクTprg が増加するため、これを抑制するためにコースト時MG回生トルクTmgc を低減する(0に近付ける)イナーシャ相補償制御が行なわれる。これにより、AT入力回転速度Ni が上昇する際のイナーシャに起因するペラ軸回生トルクTprg の増大変化、すなわち車両減速度を一時的に増大させる変化が抑制される。
【0048】
回生コーストダウンシフト制御部94aはまた、AT入力回転速度Ni が上昇して変速後同期回転速度に達する際に、係合側係合装置CBapp が急係合して変速ショックが生じる恐れがあることから、その同期直前にコースト時MG回生トルクTmgc を増大させる回生トルクダウン制御を実施する。この回生トルクダウン制御は、変速後同期回転速度とAT入力回転速度Ni との差回転ΔNi が予め定められた判定値Nis以下になったら、コースト時MG回生トルクTmgc を、
図6に破線で示す基準値よりも予め定められた回生トルクダウン量TDmgc だけ増大させるものである。判定値Nisは、変速の種類等に応じて一定値が定められても良いし、AT入力回転速度Ni の変化速度等により可変設定されても良い。また、AT入力回転速度Ni が変速後同期回転速度に達するまでの残り時間を算出し、その残り時間が判定値以下になったら回生トルクダウン制御を行なうようにしても良いなど、種々の態様が可能である。回生トルクダウン量TDmgc は、例えば車両減速度(dV/dtの絶対値)が大きい程大きくなるように、ダウンシフトの種類毎に予め定められたマップや演算式に従って求められる。
図5は、車両減速度に応じて設定される回生トルクダウン量TDmgc の一例で、車両減速度が大きくなるに従って回生トルクダウン量TDmgc が連続的に増大させられる。
図5では直線的に増大しているが、非線形で増大させたり段階的に増大させたりしても良い。AT入力回転速度Ni の変化速度等の他の車両状態に基づいて回生トルクダウン量TDmgc を定めることもできるし、変速の種類等に応じて一定値が定められても良いなど、種々の態様が可能である。
【0049】
このように同期直前にコースト時MG回生トルクTmgc が増大させられると、AT入力回転速度Ni の回転抵抗が大きくなるため、AT入力回転速度Ni が変速後同期回転速度に緩やかに接近させられるようになり、係合側係合装置CBapp が完全係合させられる変速終了時(同期時)のショックが抑制される。
図6の時間t4は、差回転ΔNi が判定値Nis以下になり、回生トルクダウン制御が開始された時間であり、時間t5は、AT入力回転速度Ni が変速後同期回転速度に達して係合側係合装置CBapp が係合させられた変速終了時間である。
【0050】
ここで、上記ダウンシフトの変速過渡時、具体的にはAT入力回転速度Ni が変速前同期回転速度から離れて変速後同期回転速度に向かって変化するイナーシャ相において、ブレーキペダル85が戻し操作されてブレーキ操作量Bonが減少すると、そのブレーキ操作量Bonの減少に伴ってコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられる。
図11のタイムチャートは、このようにイナーシャ相中の時間t4でブレーキペダル85が戻し操作され、ブレーキ操作量Bonの減少に伴ってコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられた場合である。このようにコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられると、AT入力回転速度Ni の回転抵抗が小さくなり、AT入力回転速度Ni の上昇速度が速くなるため、同期直前の回生トルクダウン制御に拘らず、係合側係合装置CBapp が急係合して変速ショックが発生する可能性がある。これを防止するために、前記特許文献1のようにコースト時MG回生トルクTmgc の変化を抑制すると、具体的には
図11に一点鎖線で示すようにコースト時MG回生トルクTmgc の基準値の傾斜を緩やかにすると、ペラ軸回生トルクTprg の傾斜も一点鎖線で示すように緩やかになるため、車両減速度が小さくなる減速度抜けの応答性が悪くなり、ブレーキペダル85の戻し操作に拘らず車両減速度が変化せずに運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
図11の時間t5、t6は、それぞれ前記
図6の時間t4、t5に対応する。
【0051】
これに対し、本実施例の回生コーストダウンシフト制御部94aは、ダウンシフトのイナーシャ相が開始した後にコースト時回生制御部96によりコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられた場合でも、特許文献1に記載のような緩変化処理(なまし処理)を行なうことなく、
図7に示すフローチャートに従って信号処理を実行する。
【0052】
図7のステップS1では、コースト時回生制御部96によりブレーキ操作量Bonに応じてコースト時MG回生トルクTmgc が制御される回生コースト走行中か否かを判断し、回生コースト走行中でなければそのまま終了し、回生コースト走行中の場合にはステップS2を実行する。ステップS2では、ダウンシフト制御中か否かを判断し、ダウンシフト制御中でなければそのまま終了し、ダウンシフト制御中の場合にはステップS3を実行する。ステップS3では、イナーシャ相開始後か否かを判断し、イナーシャ相開始後でなければそのまま終了し、イナーシャ相開始後の場合にはステップS4を実行する。イナーシャ相開始後か否かは、AT入力回転速度Ni が変速前同期回転速度から離れて上昇し始めたか否かによって判断できる。
【0053】
ステップS4では、イナーシャ相開始後にコースト時MG回生トルクTmgc がコースト時回生制御部96によって減少させられたか否かを判断する。コースト時MG回生トルクTmgc は、イナーシャ相補償制御によっても変化させられることから、本実施例では、イナーシャ相補償制御に影響されないペラ軸回生トルクTprg が減少変化したか否かによって判断する。そして、ペラ軸回生トルクTprg が減少変化した場合にはステップS5を実行し、回生トルクダウン補正量α、および係合過渡油圧補正量βをそれぞれ算出する。回生トルクダウン補正量αは、前記回生トルクダウン制御における回生トルクダウン量TDmgc を増大補正する量で、本実施例では、例えば
図8に示すようにイナーシャ相開始時からのペラ軸回生トルクの減少量ΔTprg および現時点の単位時間当りのペラ軸回生トルクの減少量(dTprg /dt)をパラメータとして、ダウンシフトの種類毎に予め定められたマップや演算式等に従って算出される。
図8では、減少量ΔTprg が大きい程補正量αが大きくなり、減少量(dTprg /dt)が大きい程補正量αが大きくなるように定められている。係合過渡油圧補正量βは、係合側係合装置CBapp の油圧指令値PRapp を減圧補正する量で、本実施例では、例えば
図9に示すようにイナーシャ相開始時からのペラ軸回生トルクの減少量ΔTprg および現時点の単位時間当りのペラ軸回生トルクの減少量(dTprg /dt)をパラメータとして、ダウンシフトの種類毎に予め定められたマップや演算式等に従って算出される。
図9では、減少量ΔTprg が大きい程補正量βが大きくなり、減少量(dTprg /dt)が大きい程補正量βが大きくなるように定められている。減少量(dTprg /dt)の単位時間は、例えば電子制御装置90の制御サイクルタイムなどで例えば16m秒等である。
【0054】
ここで、ペラ軸回生トルクの減少量ΔTprg および減少量(dTprg /dt)は、何れもペラ軸回生トルクTprg が0に近くなる方向、すなわち
図10、
図11のタイムチャートにおける上側への変化が減少側で、その変化幅の大きさが減少量ΔTprg および減少量(dTprg /dt)の大小である。また、ペラ軸回生トルクの減少量ΔTprg および減少量(dTprg /dt)は、ブレーキ操作量Bonの減少変化に伴うコースト時MG回生トルクTmgc の減少量ΔTmgc および減少量(dTmgc /dt)に対応し、具体的にはそれ等の減少量ΔTmgc 、(dTmgc /dt)に自動変速機24の変速比γを掛け算した値である。
【0055】
次のステップS6では、回生トルクダウン量TDmgc を補正量αだけ増大補正するとともに、係合側油圧指令値PRapp を補正量βだけ減圧補正する。その場合に、回生トルクダウン量TDmgc の補正は、差回転ΔNi が判定値Nis以下になる同期直前で回生トルクダウン制御が開始されるのに伴って実行される。言い換えれば、ステップS5の回生トルクダウン補正量αの算出は、回生トルクダウン制御が開始された後に行なわれれば良い。一方、係合側油圧指令値PRapp の補正は、イナーシャ相でペラ軸回生トルクTprg が減少変化した段階で直ちに実行される。
図10は前記
図11に対応するタイムチャートであり、ブレーキ操作量Bonの減少に伴ってペラ軸回生トルクTprg やコースト時MG回生トルクTmgc が減少変化させられた時間t4以後に、係合側油圧指令値PRapp が補正量βだけ減圧補正されるため、コースト時MG回生トルクTmgc の減少に拘らず係合側係合装置CBapp の急係合が抑制される。
図10の係合側油圧指令値PRapp の欄の一点鎖線は補正前の標準値で、ブレーキ操作量Bonの変化が無い場合であり、イナーシャ相では略一定に維持されるようになっているが、所定の勾配で上昇させたりフィードバック制御したりしても良いなど、種々の態様が可能であり、その標準値に対して補正量βだけ減圧すれば良い。また、差回転ΔNi が判定値Nis以下になる時間t5で回生トルクダウン制御が開始されると、その回生トルクダウン量TDmgc が補正量αだけ増大補正されるため、ブレーキ操作量Bonの減少に伴うコースト時MG回生トルクTmgc の減少に拘らず、同期直前にAT入力回転速度Ni の上昇を抑制して係合側係合装置CBapp の急係合を抑制する回生トルクダウン制御が適切に行なわれ、係合側係合装置CBapp の急係合に起因する変速ショックが抑制される。
【0056】
前記ステップS4の判断がNO(否定)の場合、すなわちペラ軸回生トルクTprg が減少変化していない場合で、変化なしか或いは増加している場合には、ステップS7を実行する。ステップS7では、回生トルクダウン量TDmgc の補正量α、および係合側油圧指令値PRapp の補正量βを、何れも変更することなく現状の値を維持する。すなわち、ダウンシフト時にブレーキ操作量Bonが減少した場合には、その減少量に応じてペラ軸回生トルクTprg やコースト時MG回生トルクTmgc が減少変化させられるのに伴って、変速ショックを抑制するために回生トルクダウン量TDmgc および係合側油圧指令値PRapp を補正するが、ブレーキ操作量Bonが増加してペラ軸回生トルクTprg やコースト時MG回生トルクTmgc が増加させられても、回生トルクダウン量TDmgc および係合側油圧指令値PRapp の補正は行なわれない。
【0057】
このように本実施例の車両10の電子制御装置90においては、回生コースト走行中に自動変速機24をダウンシフトさせる場合には、ダウンシフトの終了直前に回生トルクを増大させる回生トルクダウン制御が行なわれるため、AT入力回転速度Ni が上昇して変速後同期回転速度に達する直前のそのAT入力回転速度Ni の変化が抑制され、同期時(変速終了時)の変速ショックが抑制される。一方、ダウンシフトのイナーシャ相が開始した後に、ブレーキ操作量Bonの減少変化に伴ってコースト時回生制御部96によりコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられ、それに対応してペラ軸回生トルクTprg が減少させられた場合には、上記回生トルクダウン制御時の回生トルクダウン量TDmgc が大きくなるように増大補正されるため、コースト時MG回生トルクTmgc の減少に起因する変速ショックが抑制される。また、回生トルクダウン制御を開始するまではコースト時回生制御部96によるコースト時MG回生トルクTmgc の制御を制限する必要がないため、ダウンシフト中であってもブレーキ操作量Bonの減少変化に伴ってコースト時MG回生トルクTmgc が速やかに減少させられ、変速時以外の通常の回生コースト走行時と同様の減速度抜けの応答性が得られるようになり、運転者に違和感を生じさせる恐れがない。
【0058】
また、
図4から明らかなようにブレーキ操作量Bonが大きい程コースト時MG回生トルクTmgc が大きくなるように、ブレーキ操作量Bonに応じてモータジェネレータMGが回生制御されるとともに、
図8に示されるようにイナーシャ相が開始した後のコースト時MG回生トルクTmgc の減少量、すなわちペラ軸回生トルクの減少量ΔTmgc や単位時間当りの減少量(dTprg /dt)が大きい程、回生トルクダウン量TDmgc が大きくなるように、ペラ軸回生トルクTprg の減少量に応じて回生トルクダウン量TDmgc が増大補正される。すなわち、ブレーキ操作量Bonの変化に応じてコースト時MG回生トルクTmgc や回生トルクダウン量TDmgc が細かく制御されるため、ブレーキ操作量Bonに応じて車両減速度が適切に制御されるとともに、コースト時MG回生トルクTmgc の減少変化に拘らずダウンシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0059】
また、イナーシャ相の開始時からのペラ軸回生トルクの減少量ΔTmgc と、ペラ軸回生トルクTprg の単位時間当りの減少量(dTprg /dt)とに基づいて、回生トルクダウン量TDmgc を増大補正する際の補正量αが算出されるため、イナーシャ相中におけるブレーキ操作量Bonの長期的変化および短期的変化を考慮してダウンシフト時の変速ショックを適切に抑制することができる。
【0060】
また、回生コースト走行中のダウンシフトのイナーシャ相の開始後にコースト時回生制御部96によりコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられ、それに対応してペラ軸回生トルクTprg が減少させられた場合には、AT入力回転速度Ni を引き上げる係合側係合装置CBapp の係合過渡油圧が低くなるように係合側油圧指令値PRapp が減圧補正されるため、回生トルクダウン制御における回生トルクダウン量TDmgc の増大補正と相まって、AT入力回転速度Ni が変速後同期回転速度に達する同期時の変速ショックを一層適切に抑制することができる。
【0061】
また、自動変速機24の出力側トルクの推定値であるペラ軸回生トルクTprg に基づいてコースト時MG回生トルクTmgc が減少させられたか否かを判断するため、ダウンシフトが円滑に行なわれるようにイナーシャ相でコースト時MG回生トルクTmgc を減少させるイナーシャ相補償制御等に拘らず、ブレーキ操作量Bonの減少変化に伴うコースト時MG回生トルクTmgc の減少変化を適切に判断して回生トルクダウン量TDmgc の増大補正や、係合側係合装置CBapp の係合過渡油圧の減圧補正を行なうことができる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10:車両 14:駆動輪 24:自動変速機 84:ブレーキ操作量センサ 90:電子制御装置(車両の制御装置) 94a:回生コーストダウンシフト制御部 96:コースト時回生制御部 MG:モータジェネレータ(回転機) C1~C4:クラッチ(油圧式摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(油圧式摩擦係合装置) Bon:ブレーキ操作量 Ni :AT入力回転速度(入力回転速度) Tmgc :コースト時MG回生トルク(回生トルク) TDmgc :回生トルクダウン量 Tprg :ペラ軸回生トルク(出力側トルクの推定値) ΔTprg :イナーシャ相開始時からの減少量 dTprg /dt:単位時間当りの減少量 PRapp :係合側油圧指令値(係合過渡油圧) α:回生トルクダウン補正量 β:係合過渡油圧補正量