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  • 特許-車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250109BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20250109BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250109BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20250109BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60L50/60
B60L58/12
B60L9/18 P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021137481
(22)【出願日】2021-08-25
(65)【公開番号】P2023031779
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 清隆
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-129935(JP,A)
【文献】特開2007-210586(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の駆動輪と、
前記左右の駆動輪に対して他と独立して駆動力または回生による制動力を発生させる複数の回転電機と、
前記複数の回転電機との間で電力のやり取りを行う蓄電装置と、
を備えた車両であって、
前記複数の回転電機は、前記左右の駆動輪の回転エネルギーにより発電した電力を前記蓄電装置に回生することができ、
前記蓄電装置の充電量が満充電に近いと判断する所定の閾値以上、且つ、前記回生によって前記蓄電装置を充電する運転状態の場合には、前記蓄電装置の充電量が前記閾値未満であるか、前記回生によって前記蓄電装置を充電する運転状態ではないか、の少なくとも一方の場合に比べて、前記左右の駆動輪へのトルク配分の差を大きくする制御を実施する制御装置を備えることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インホイールモータを有する車両において、回生電力をシールド部材で消費することによって、バッテリに充電余力がないときでも、回生ブレーキを機能させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-112713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、シールド部材を別途で設ける必要があり、コストの増加を招いてしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、コストの増加を抑えつつ、回生による制動力を機能させることができる車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両は、左右の駆動輪と、前記左右の駆動輪に対して他と独立して駆動力または制動力を発生させる複数の回転電機と、前記複数の回転電機との間で電力のやり取りを行う蓄電装置と、を備えた車両であって、前記蓄電装置の充電量が閾値以上、且つ、充電する運転状態の場合には、前記運転状態ではない場合に比べて、前記左右の駆動輪へのトルク配分の差を大きくする制御を実施する制御装置を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両は、左右の駆動輪へのトルク配分の差を大きくすることによって、複数の回転電機の損失量を大きくすることができ、別途で電力消費手段を設けることなく、複数の回転電機の回生量を減らすことができ、コストの増加を抑えつつ、回生による制動力を機能させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るインホイールモータを搭載した車両の構成を模式的に示す図である。
図2図2は、ECUが実施するトルク配分の設定制御の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る車両の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は、実施形態に係る車両1の概略構成を示した図である。
【0011】
図1に示すように、車両1は、バッテリ4、ECU(Electronic Control Unit)5、アクセルペダル開度センサ6、ブレーキペダルセンサ7、モータドライバ8、ブレーキアクチュエータ9、制駆動力発生機構である2つのインホイールモータ10FL,10FR、インホイールモータ10FL,10FRの温度であるモータ温度を検出する温度検出センサ11FL,11FR、ブレーキ機構を構成する4つのブレーキディスク13FL,13FR,13RL,13RR及びブレーキキャリパ20FL,20FR,20RL,20RR、並びに、4つの車輪21である左前輪21FLと右前輪21FRと左後輪21RLと右後輪21RRなどを備えている。
【0012】
なお、インホイールモータ10FL,10FRを特に区別しない場合には、単にインホイールモータ10とも記す。また、温度検知センサ11FL,11FRを特に区別しない場合には、単に温度検知センサ11とも記す。また、ブレーキディスク13FL,13FR,13RL,13RRを特に区別しない場合には、単にブレーキディスク13とも記す。また、ブレーキキャリパ20FL,20FR,20RL,20RRを特に区別しない場合には、単にブレーキキャリパ20とも記す。
【0013】
左右の駆動輪である左前輪21FL及び右前輪21FRのホイール内部には、インホイールモータ10FL,10FRがそれぞれ設けられている。インホイールモータ10FL,10FRは、左前輪21FL,右前輪21FRに対して他と独立して駆動力または制動力(以下、回生制動力という)を発生させる回転電機である。インホイールモータ10FL,10FRは、例えばブラシレスモータなどによって構成されており、モータドライバ8を介して、インホイールモータ10FL,10FRとの間で電力のやり取りを行う蓄電装置であるバッテリ4に接続されている。なお、インホイールモータ10を、4つの車輪21のそれぞれのホイール内部に設けることも可能である。温度検出センサ11FL,11FRは、インホイールモータ10FL,10FRの温度であるモータ温度を検出して、ECU5に出力する。
【0014】
車両1の各部は、制御装置としてのECU5により制御される。ECU5は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)及びインターフェースなどを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU5は、RAMに入力されたデータ及びあらかじめROMなどに記憶されているデータを使用して演算を行い、その演算結果を指令信号として出力する。ECU5の各機能は、ROMに保持されるプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することで、CPUの制御に基づいて車両1内の各種装置を動作させるとともに、記録部としてのRAMやROMにおけるデータの読み出し及びRAMへの書き込みを行うことで実現される。
【0015】
アクセルペダル開度センサ6は、運転者が操作するアクセルペダルの開度を検出して、ECU5に出力する。ブレーキペダルセンサ7は、運転者が操作するブレーキペダルの踏力を検出してECU5に出力する。モータドライバ8は、例えばインバータであり、バッテリ4から供給される直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をインホイールモータ10FL,10FRに供給する。これにより、インホイールモータ10FL,10FRが駆動制御され、左前輪21FL及び右前輪21FRに対して駆動力を付与する。なお、インホイールモータ10FL,10FRに電力を供給して駆動トルクを発生させる動作のことを力行という。また、インホイールモータ10FL,10FRは発電機としても機能し、左前輪21FL及び右前輪21FRの回転エネルギーにより発電した電力を、モータドライバ8を介してバッテリ4に回生することができる。インホイールモータ10FL,10FRの発電により発生する制動トルクは、左前輪21FL及び右前輪FRに対して回生制動力を付与する。
【0016】
摩擦制動機構であるブレーキ機構は、ブレーキディスク13及びブレーキキャリパ20がそれぞれの車輪21に設けられて構成される。ブレーキ機構によって車輪21に対して摩擦制動力を付与できる。ブレーキ機構を構成するブレーキキャリパ20は、例えばディスクブレーキなどから構成され、ブレーキアクチュエータ9に接続されている。ブレーキアクチュエータ9は、マスタシリンダから圧送される油圧によって、ブレーキキャリパ20からブレーキディスク13に対して、摩擦制動力を発生させる。
【0017】
実施形態に係る車両1においては、バッテリ4の充電量が所定の閾値以上、且つ、充電する運転状態の場合に、そうでない場合、すなわち、バッテリ4の充電量が前記閾値未満であるか、前記充電要求がない運転状態であるかの少なくとも一方の場合、に比べて、左車輪21FL及び右車輪21FLへのトルク配分の差を大きくするトルク配分の設定制御をECU5が実施する。
【0018】
表1は、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配と、インホイールモータ10FL,10FRの合計損失との関係などを示したものである。表2は、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配と、インホイールモータ10FL,10FRの合計出力及び回生量との関係などを示したものである。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
なお、表1及び表2中、No.1は、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配が均等であって、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配率を50:50とした場合である。また、表1及び表2中、No.2は、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配に差があって、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配率を70:30とした場合である。また、表1及び表2中、No.3は、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配に差があって、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配率を80:20とした場合である。なお、例えば、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配率を70:30とした場合に、この分配が継続すると、車両1が右に曲がりやすくなる。そのため、インホイールモータ10FL,10FRの電流を正弦波状や方形波状などで左右にて逆位相に入れて、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配率が、70:30と30:70とで交互になるように変化させてもよい。
【0022】
また、表1中の損失(左)及び損失(右)は、インホイールモータ10FL,10FRの損失であって、損失=抵抗×電流×電流の式によって算出することができる。また、表2中のモータ出力(左)及びモータ出力(右)は、インホイールモータ10FL,10FRの出力であって、モータ出力=モータ回転数×モータトルク×(2π/60)の式によって算出することができる。
【0023】
表1及び表2においては、モータ回転数を300[rpm]としており、左車輪21FL及び右車輪21FLのトルク分配が均等な場合(N0.1)と差がある場合(No.2及びNo.3)とで、回生トルク(車両制動力)は変わらず、回生量(戻り量)のみが変化し、トルク分配に差がある場合のほうが、トルク分配が均等な場合よりも回生量(戻り量)が少なくなる。
【0024】
実施形態に係る車両1のように、駆動用のインホイールモータ10FL,10FRが2つ以上設けられている場合において、左車輪21FL及び右車輪21FLでトルク分配に差をつけることによって、インホイールモータ10FL,10FRの電流量を変化させる。これにより、インホイールモータ10FL,10FRの抵抗と電流との関係にて、損失を増やすことができる。その結果、インホイールモータ10FL,10FRの回生時に本来戻ってくるエネルギーが減ることになり、例えば、バッテリ4が満充電に近い場合であっても回生による制動力(回生ブレーキ)を機能させることができる。
【0025】
図2は、ECU5が実施するトルク配分の設定制御の一例を示したフローチャートである。
【0026】
まず、ECU5は、ステップS1において、バッテリ4に充電可能、且つ、モータ温度は許容値以下であるか否かを判断する。ECU5は、バッテリ4に充電可能、且つ、モータ温度は許容値以下であると判断した場合(ステップS1にてYes)、ステップS2において、回生を継続するか否かを判断する。なお、回生を継続するか否かの判断は、例えば、道路情報(下り坂継続判断)、目的地、アクセルペダルの開度、及び、ブレーキペダルの踏力(要求された車両制動力)、及び、モータ回転数などの情報から判断する。この際、道路情報(下り坂継続判断)及び目的地などの情報は、例えば、車両1に搭載されたカーナビゲーションシステムなどからECU5が取得する。ECU5は、回生を継続すると判断した場合(ステップS2にてYes)、ステップS3において、バッテリ4が満充電に近いか否かを判断する。なお、バッテリ4が満充電に近いか否かの判断は、例えば、バッテリ4の充電量、言い換えるとバッテリ4のSOC(State Of Charge)が、所定の閾値以上の場合に満充電に近いと判断し、前記所定の閾値未満の場合に満充電に近くないと判断する。ECU5は、バッテリ4が満充電に近いと判断した場合(ステップS3にてYes)、ステップS4において、左前輪21FLと右前輪21FRとでトルクの配分を変える。そして、ECU5は、一連のトルク配分の設定制御を終了する。
【0027】
一方、ECU5は、ステップS2において回生を継続しないと判断した場合(ステップS2にてNo)、または、ステップS3においてバッテリ4が満充電に近くないと判断した場合(ステップS3にてNo)、ステップS5において、通常のトルク分配、例えば、車両1が直進走行中では左前輪21FLと右前輪21FRとのトルク分配を50:50とする。そして、ECU5は、一連のトルク配分の設定制御を終了する。
【0028】
また、ECU5は、ステップS1において、バッテリ4に充電可能、且つ、モータ温度は許容値以下ではないと判断した場合(ステップS1にてNo)、ステップS6において、インホイールモータ10FL,10FRにて回生できない状況のため、ブレーキ機構によって制動力を担保させる。そして、ECU5は、一連のトルク配分の設定制御を終了する。
【0029】
実施形態に係る車両1は、バッテリ4の充電量が所定の閾値以上(バッテリ4が満充電に近い)、且つ、充電する(回生状態を継続する)運転状態の場合に、左前輪21FLと右前輪21FRとのトルク分配の差を大きくするように、ECU5によってインホイールモータ10FL,10FRを制御する。これにより、実施形態に係る車両1では、インホイールモータ10FL,10FRでの損失量を大きくすることができ、回生によってインホイールモータ10FL,10FRが発電した電力(回生電力)を消費するための電力消費手段を別途で設けることなく、インホイールモータ10FL,10FRの回生量を減らすことができる。よって、実施形態に係る車両1においては、コストの増加を抑えつつ、回生による制動力(回生ブレーキ)を機能させることができる。
【0030】
また、実施形態に係る車両1は、インホイールモータを備えた車両以外に、デファレンシャルギアが無く左右の駆動輪に独立でモータが接続されたオンボード2モータの車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 車両
4 バッテリ
5 ECU
6 アクセルペダル開度センサ
7 ブレーキペダルセンサ
8 モータドライバ
9 ブレーキアクチュエータ
10,10FL,10FR インホイールモータ
11FL,11FR 温度検出センサ
13FL,13FR,13RL,13RR ブレーキディスク
20FL,20FR,20RL,20RR ブレーキキャリパ
21 車輪
21FL 左前輪
21FR 右前輪
21RL 左後輪
21RR 右後輪
図1
図2