(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜方法および金属皮膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20250109BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20250109BHJP
C25D 21/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C23C18/31 E
C25D21/04
(21)【出願番号】P 2021174488
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109215(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072481(WO,A1)
【文献】特開2021-8646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/00-9/12
C25D13/00-21/22
C23C18/16-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に空間が形成されるようにめっき液が収容された第1収容室と、前記第1収容室の下方に配置され、基材が収容された第2収容室とを、前記めっき液に含有する金属イオンが少なくとも透過する透過膜で区画し、昇降装置に載置された前記基材を上昇させることにより、前記基材を下方から前記透過膜に接触させ、前記透過膜を透過した金属イオンから、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法であって、
前記第1収容室と前記第2収容室とは、連通通路を介して連通しており、
前記昇降装置に載置された前記基材と前記透過膜とを引き離した状態で、前記第1収容室の前記空間および前記第2収容室の空気を吸引することで、前記第1収容室および前記第2収容室を減圧しながら前記第2収容室に、水蒸気を充填する水蒸気充填工程と、
前記第2収容室に前記水蒸気が充填された状態で、前記昇降装置に載置された前記基材を上昇させることにより、前記基材を前記透過膜に接触させる接触工程と、
前記基材を前記透過膜に接触させた状態で、減圧された前記第1収容室および前記第2収容室の前記空間を大気に開放する開放工程と、
減圧された前記第1収容室および前記第2収容室を大気に開放した状態で、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する成膜工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする金属皮膜の成膜方法。
【請求項2】
前記めっき液に、電解めっき液を用い、
前記透過膜に、無孔質の固体電解質膜を用い、
前記第1収容室において、前記めっき液に接触し、前記基材と対向する位置に、陽極を配置し、
前記成膜工程において、前記基材を前記透過膜に接触した状態で、前記陽極と、陰極となる前記基材との間に電圧を印加しながら、電解めっきにより、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項3】
前記めっき液に、無電解めっき液を用い、
前記透過膜に、前記めっき液を透過する多孔膜を用い、
前記成膜工程において、前記基材を前記透過膜に接触させた状態を所定時間保持しながら、無電解めっきにより、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項4】
上部に空間が形成されるように金属イオンを含有するめっき液が収容された第1収容室と、
前記第1収容室の下方に配置され、基材が収容された第2収容室と、
前記第1収容室と前記第2収容室とを区画し、前記めっき液に含有する金属イオンが少なくとも透過する透過膜と、
前記第2収容室に収容された基材を載置し、前記基材を昇降する昇降装置と、を備え、
前記昇降装置に載置された基材を上昇させることにより、前記基材を前記透過膜に接触させ、前記基材が前記透過膜に接触した状態を保持しながら、前記透過膜を透過した金属イオンから、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜装置であって、
前記第1収容室と前記第2収容室とは、連通通路を介して連通しており、
前記成膜装置は、
前記基材を前記透過膜から離間した状態で、前記第1収容室および前記第2収容室の空気を吸引し、前記第1収容室および前記第2収容室を減圧する吸引ポンプと、
減圧された前記第2収容室に、水蒸気を供給する水蒸気供給部と、
前記基材を前記透過膜に接触させた状態で、前記減圧された前記第1収容室および前記第2収容室を大気に開放する開放弁と、
をさらに備えることを特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【請求項5】
前記めっき液は、電解めっき液であり、
前記透過膜は、無孔質の固体電解質膜であり、
前記成膜装置は、
前記第1収容室において、前記めっき液に接触し、前記基材と対向する位置に配置された陽極と、
前記陽極と、陰極となる前記基材との間に電圧を印加する電源部と、をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項6】
前記めっき液は、無電解めっき液であり、
前記透過膜は、前記めっき液を透過する多孔膜であることを特徴とする請求項4に記載の金属皮膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、基材の表面に金属イオンに由来する金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法および金属皮膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法として、特許文献1には、金属イオンを透過させる透過膜の1つとして固体電解質膜を用いて、電解めっきにより金属皮膜を成膜する方法が提案されている。この成膜方法では、金属イオンを含有しためっき液を介して、基材の表面を透過膜に接触させながら、金属イオンを透過膜に透過させ、透過した金属イオンを、基材の表面に析出させることにより、金属皮膜を成膜している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基材に透過膜を接触させる際に、空気が噛み込むことがある。この空気の噛み込みにより、均一な膜厚の均質な金属皮膜が成膜されないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる金属皮膜の成膜方法および成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、上部に空間が形成されるようにめっき液が収容された第1収容室と、前記第1収容室の下方に配置され、基材が収容された第2収容室とを、前記めっき液に含有する金属イオンが少なくとも透過する透過膜で区画し、昇降装置に載置された前記基材を上昇させることにより、前記基材を下方から前記透過膜に接触させ、前記透過膜を透過した金属イオンから、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法であって、前記第1収容室と前記第2収容室とは、連通通路を介して連通しており、前記昇降装置に載置された前記基材と前記透過膜とを引き離した状態で、前記第1収容室の前記空間および前記第2収容室の空気を吸引することで、前記第1収容室および前記第2収容室を減圧しながら前記第2収容室に、水蒸気を充填する水蒸気充填工程と、前記第2収容室に前記水蒸気が充填された状態で、前記昇降装置に載置された前記基材を上昇させることにより、前記基材を前記透過膜に接触させる接触工程と、前記基材を前記透過膜に接触させた状態で、減圧された前記第1収容室および前記第2収容室の前記空間を大気に開放する開放工程と、減圧された前記第1収容室および前記第2収容室を大気に開放した状態で、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する成膜工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、水蒸気充填工程において、昇降装置に載置された基材と透過膜とを引き離した状態で、第1収容室の空間および第2収容室の空気を吸引し、第1収容室および第2収容室を減圧しながら、減圧された状態の第2収容室に水蒸気を充填する。次に、接触工程において、第2収容室に水蒸気が充填された状態で、昇降装置に載置された基材を上昇させることにより、基材を透過膜に接触させる。ここで、透過膜を基材に接触させた際に、基材と透過膜との間に、水蒸気が噛み込むことがある。
【0008】
このような場合であっても、開放工程において、基材を透過膜に接触させた状態で、減圧された第1収容室の空間および第2収容室を大気に開放することにより、第1収容室の空間および第2収容室は、大気圧となる。この結果、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は、透過膜側から大気圧まで増圧されるため、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅する。このような結果、基材と透過膜との間に、空気が噛み込むことなく、成膜工程において、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0009】
より好ましい態様としては、前記めっき液に、電解めっき液を用い、前記透過膜に、無孔質の固体電解質膜を用い、前記第1収容室において、前記めっき液に接触し、前記基材と対向する位置に、陽極を配置し、前記成膜工程において、前記基材を前記透過膜に接触した状態で、前記陽極と、陰極となる前記基材との間に電圧を印加しながら、電解めっきにより、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する。
【0010】
この態様によれば、開放工程において、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は、透過膜側から大気圧まで増圧されるため、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅するが、この水は、金属イオンの移動を妨げるものではない。したがって、成膜工程において、陽極と、陰極となる基材との間に電圧を印加すると、めっき液に含まれる金属イオンが、固体電解質膜を通過して、基材の表面において均一に還元されることで、金属が析出する。このような結果、空気の噛み込みによる金属の析出が阻害されることなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0011】
別の好ましい態様としては、前記めっき液に、無電解めっき液を用い、前記透過膜に、前記めっき液を透過する多孔膜を用い、前記成膜工程において、前記基材を前記透過膜に接触させた状態を所定時間保持しながら、無電解めっきにより、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する。
【0012】
この態様においても、開放工程において、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅する。金属イオンの移動を妨げるものではない。したがって、この態様であっても、空気の噛み込みによる金属の析出が阻害されることなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0013】
本発明として、以下に示す金属皮膜の成膜装置を開示する。本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、上部に空間が形成されるように金属イオンを含有するめっき液が収容された第1収容室と、前記第1収容室の下方に配置され、基材が収容された第2収容室と、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画し、前記めっき液に含有する金属イオンが少なくとも透過する透過膜と、前記第2収容室に収容された基材を載置し、前記基材を昇降する昇降装置と、を備え、前記昇降装置に載置された基材を上昇させることにより、前記基材を前記透過膜に接触させ、前記基材が前記透過膜に接触した状態を保持しながら、前記透過膜を透過した金属イオンから、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜装置であって、前記第1収容室と前記第2収容室とは、連通通路を介して連通しており、前記成膜装置は、前記基材を前記透過膜から離間した状態で、前記第1収容室および前記第2収容室の空気を吸引し、前記第1収容室および前記第2収容室を減圧する吸引ポンプと、減圧された前記第2収容室に、水蒸気を供給する水蒸気供給部と、前記基材を前記透過膜に接触させた状態で、前記減圧された前記第1収容室および前記第2収容室を大気に開放する開放弁と、をさらに備える。
【0014】
本発明によれば、まず、昇降装置に載置された基材と透過膜とを引き離した状態で、第1収容室の空間および第2収容室の空気を吸引ポンプで吸引する。これにより、第1収容室および第2収容室を減圧しながら、水蒸気を供給する水蒸気供給部で、減圧された状態の第2収容室に水蒸気を充填することができる。次に、第2収容室に水蒸気が充填された状態で、昇降装置に載置された基材を上昇させることにより、基材を透過膜に接触させる。ここで、透過膜を基材に接触させた際に、基材と透過膜との間に、水蒸気が噛み込むことがある。
【0015】
このような場合であっても、開放弁において、基材を透過膜に接触させた状態で、減圧された第1収容室の空間および第2収容室を大気に開放する。これにより、第1収容室の空間および第2収容室は、大気圧にまで増圧することができる。この結果、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は、透過膜側から大気圧まで増圧されるため、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅する。これにより、基材と透過膜との間に、空気が噛み込むことなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0016】
より好ましい態様としては、前記めっき液は、電解めっき液であり、前記透過膜は、無孔質の固体電解質膜であり、前記成膜装置は、前記第1収容室において、前記めっき液に接触し、前記基材と対向する位置に配置された陽極と、前記陽極と、陰極となる前記基材との間に電圧を印加する電源部と、をさらに備える。
【0017】
この態様によれば、開放弁により、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は、透過膜側から大気圧まで増圧されるため、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅するが、この水は、金属イオンの移動を妨げるものではない。したがって、陽極と、陰極となる基材との間に電源部により電圧を印加すると、めっき液に含まれる金属イオンが、固体電解質膜を通過して、基材の表面において均一に還元されることで、金属が析出する。このような結果、空気の噛み込みによる金属の析出の阻害がされることなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0018】
さらに別の態様としては、めっき液は、無電解めっき液であり、前記透過膜は、前記めっき液を透過する多孔膜である。
【0019】
この態様においても、開放弁において、基材と透過膜との間において、噛み込んだ水蒸気は水となって消滅し、この水は金属イオンの移動を妨げるものではない。したがって、空気の噛み込みによる金属の析出が阻害されることなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の金属皮膜の成膜方法および成膜装置によれば、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図3】
図2に示す成膜方法における水蒸気充填工程を説明するための図である。
【
図4】
図2に示す成膜方法における接触工程および成膜工程を説明するための図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る成膜方法における成膜工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、
図1~
図6を参照しながら、本発明に係る第1および第2実施形態に係る金属皮膜の成膜装置およびその成膜方法について説明する。
【0023】
<第1実施形態>
1.金属皮膜の成膜装置1について
本実施形態に係る成膜装置1は、第1収容室11と、第2収容室12と、透過膜13と、昇降装置14と、を備えている。第1収容室11は、上ハウジング11Aに形成されており、金属イオンを含有するめっき液Lが収容されている。めっき液Lは、その上部に空間Sが形成されるように、第1収容室11に収容されている。第1収容室11には、空間Sと連通するように連通通路20が接続されている。
【0024】
第2収容室12は、下ハウジング12Aに形成されている。第2収容室12は、第1収容室11の下方に配置され、基材Wが収容されている。第1収容室11と第2収容室12とには、第1収容室11と第2収容室12とを区画するように、透過膜13が配置されている。第1収容室11は、上ハウジング11Aの開口部を透過膜13で覆うことにより、封止されている。この結果、第1収容室11に、めっき液Lを収容しつつ、めっき液Lが収容された第1収容室11と、基材Wが収容された第2収容室12とを、透過膜13で区画することができる。なお、下ハウジング12Aには、基材Wを第2収容室12から出し入れするための開閉扉が設けられていてもよく、成膜後の基材Wを第2収容室12から取り出し、新たな基材Wを第2収容室12に入れることができるのであれば、その装置構成は、特に限定されるものではない。
【0025】
昇降装置14は、第2収容室12に収容された基材Wを載置し、基材Wを昇降する装置であり、その下部には、直動式の電動アクチュエータ(図示せず)等が取付けられている。昇降装置14の上端部には、基材Wを載置する載置台14aが形成されている。載置台14aには、基材Wの位置決め用の凹部が形成されている。
【0026】
本実施形態では、めっき液Lは、電解めっき液であり、透過膜13は、無孔質の固体電解質膜13Aである。本実施形態では、電解めっきにより金属皮膜を成膜するため、陽極32と電源部36とをさらに備えている。陽極32は、第1収容室11において、めっき液Lに接触し、基材Wと対向する位置に配置されている。
【0027】
陽極32としては、たとえば、金属皮膜Fと同じ材料(たとえばCu)からなる可溶性の陽極、または、めっき液Lに対して不溶性を有した材料(たとえばTi)からなる陽極のいずれであってもよい。
【0028】
固体電解質膜13Aは、たとえば、イオン交換性官能基を有した固体電解質の膜である。固体電解質膜13Aは、めっき液Lに接触させることにより、金属イオンを透過することができ、基材Wの表面において金属イオン由来の金属を析出可能であれば、特に限定されるものではない。固体電解質膜13Aは、可撓性を有し、その厚みは、5μm以上200μm以下の範囲にあることが好ましい。固体電解質としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)等の陽イオン交換機能を有した樹脂を挙げることができる。
【0029】
めっき溶液Lは、金属皮膜の金属をイオンの状態で含有している液であり、その金属に、Cu、Ni、Ag、またはAu等を挙げることができ、めっき溶液Lは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、またはピロリン酸等の酸で溶解(イオン化)したものである。
【0030】
本実施形態では、陽極32は、支持体34によって、第1収容室11内に吊下げられ、めっき液Lに浸漬されている。支持体34の内部には、導電体35が挿通されており、導電体35の一端は、配線を介して陽極32に接続され、導電体35の他端は、スイッチ等の電気回路(図示せず)を介して、電源部36の正極に接続されている。電源部36の負極は、載置台14aを介して基材Wに接続されている。これにより、電源部36により、基材Wを陰極として、陽極32と基材Wとの間に、電圧を印加することができる。
【0031】
基材Wとしては、銅、鉄、アルミニウムなどの金属製の基板であってもよく、これらの表面に、ニッケルなどの金属製の皮膜がさらに形成されていてもよい。この他にも、基材Wの本体が、ガラスエポキシ樹脂などからなる絶縁性の板材であり、この板材(本体)の表面に、たとえばスパッタリングなどにより金属膜が形成されていてもよく、基材Wの表面が陰極として作用するものであれば、特に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態の成膜装置1によれば、昇降装置14に載置された基材Wを上昇させることで、基材Wを固体電解質膜13Aに接触させた後、基材Wを透過膜13に接触した状態を保持しながら、陽極32と基材W(陰極)との間に電圧を印加する。これにより、第1収容室11に収容されためっき液Lの金属イオンが透過膜13を透過し、透過した金属イオンが基材Wの表面で還元される。この結果、基材Wの表面に金属イオン由来の金属を析出させ、基材Wの表面に金属皮膜を成膜することができる。
【0033】
ここで、本実施形態では、成膜装置1は、吸引ポンプ17と、水蒸気供給部18と、開放弁19と、をさらに備えている。本実施形態では、上述した第1収容室11と第2収容室12とは、連通通路20を介して連通しており、連通通路20には、吸引ポンプ17が接続されている。吸引ポンプ17による吸引により、基材Wを透過膜13から離間した状態で、連通通路20を介して、第1収容室11および第2収容室12の空気を吸引し、前記第1収容室11および第2収容室12を減圧することができる。
【0034】
水蒸気供給部18は、減圧された第2収容室12に、水蒸気を供給する部分である。水蒸気供給部18は、水(湯)Mを収容する収容室18aと、水を加熱する加熱部18bとを備えている。加熱部18bは、たとえば電気ヒータなどである。収容室18aは、連通通路25を介して、第2収容室12に連通しており、加熱部18bで加熱された湯から生じる水蒸気が第2収容室12に供給される。
【0035】
開放弁19は、基材Wを固体電解質膜13Aに接触させた状態で、吸引ポンプ17で減圧された第1収容室11および第2収容室12を大気に開放する弁である。開放弁19は、開弁状態で、連通通路20を大気に連通させ、閉弁状態で、連通通路20を大気から遮断する。本実施形態では、連通通路20から分岐した位置に開放弁19を設けたが、たとえば、吸引ポンプ17に内蔵された開放弁により、第1収容室11および第2収容室12を大気に開放してもよい。
【0036】
2.金属皮膜の成膜方法について
この成膜方法では、上述した成膜装置1を用いて、基材Wの表面に金属皮膜を成膜する。本実施形態では、成膜前の準備段階として、第1収容室11の上部に空間Sが形成されるように、第1収容室11に、めっき液Lを収容する。さらに、載置台14aに基材Wが載置されるように、第2収容室12に基材Wを収容する。この状態で、固体電解質膜13Aを挟んで、固体電解質膜13Aの上側には、固体電解質膜13Aと接触するようにめっき液Lが配置され、固体電解質膜13Aの下側には、固体電解質膜13Aと間隔を空けて基材Wが配置される。ここで、第1収容室11内の空間Sの圧力と、第2収容室12の内部の圧力は、大気圧である。
【0037】
成膜前の準備を終えた後、まず、
図2に示す水蒸気充填工程S1を行う。この工程では、昇降装置14に載置された基材Wと固体電解質膜13Aとを引き離した状態で、第1収容室11の空間Sおよび第2収容室12の空気を吸引することで、第1収容室11および第2収容室12を減圧しながら第2収容室12に、水蒸気stを充填する。
【0038】
具体的には、水蒸気供給部18の収容室18aに収容された水Mは、加熱部18bにより、95℃程度に加熱された湯となり、吸引ポンプ17による吸引により、湯の表面から水蒸気stが生成される。本実施形態では、水蒸気供給部18も大気圧に対して減圧された状態となるため、大気圧の状態に比べて、より低い温度で水Mから水蒸気stが生成される。ここで、めっき液Lの温度に比べて、水蒸気供給部18の水Mの温度を高くすることにより、水Mを優先的に蒸発させ、減圧時におけるめっき液Lの蒸発を抑えることができる。これにより、めっき液Lの金属イオンの濃度上昇等を抑えるとともに、めっき液Lの温度低下を抑えることができる。
【0039】
生成された水蒸気stは、連通通路25を介して、第2収容室12に流れ込む。さらに、第1収容室11と第2収容室12とは、連通通路20で連通しているので、第2収容室12に充填された水蒸気stは、第1収容室11にも流れ込み、第1収容室11の空間Sにも充填される。
【0040】
次に、
図2に示す接触工程S2を行う。具体的には、
図4に示すように、第2収容室12に水蒸気stが充填された状態で、昇降装置14に載置された基材Wを上昇させることにより、基材Wを固体電解質膜13Aに接触させる。基材Wが固体電解質膜13Aに接触したタイミングで、吸引ポンプ17による吸引を停止する。ここで、
図4の部分拡大図に示すように、固体電解質膜13Aを基材Wに接触させた際に、基材Wの表面Wfと固体電解質膜13Aとの間に、水蒸気stが噛み込むことがある。
【0041】
次に、
図2に示す開放工程S3を行う。この工程では、基材Wを固体電解質膜13Aに接触させた状態で、減圧された第1収容室11および第2収容室12の空間Sを大気に開放する。具体的には、開放弁19を開弁することで、開放弁19から大気が入り込み、連通通路20に連通した第1収容室11と第2収容室12が、減圧状態から、大気圧まで昇圧される。
【0042】
開放工程S3において、基材Wを固体電解質膜13Aに接触させた状態で、減圧された第1収容室11の空間Sおよび第2収容室12を大気に開放することにより、第1収容室11の空間Sおよび第2収容室12は、大気圧となる。この結果、接触工程において、基材Wの表面Wfと固体電解質膜13Aとの間において、噛み込んだ水蒸気stは、減圧状態から固体電解質膜13A側から大気圧まで昇圧されるため、噛み込んだ水蒸気stは水となって消滅する。
【0043】
なお、本実施形態では、開放弁19を開放する前に、吸引ポンプ17による吸引を停止したので、開放弁19の開弁により、第1収容室11および第2収容室12を、減圧状態から大気圧まで速やかに昇圧することができる。ただし、以下に示す成膜工程S4が完了するまで、開放弁19により、第1収容室11および第2収容室12の圧力を大気圧に維持することができるのであれば、成膜工程S4が完了するまで、吸引ポンプ17を連続して稼動してもよい。
【0044】
次に、
図2に示す成膜工程S4を行う。成膜工程S4では、減圧された第1収容室11および第2収容室12を大気に開放した状態で、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜する。より具体的には、第1実施形態では、上述した如く、めっき液Lに、電解めっき液を用い、固体電解質膜13Aに、無孔質の固体電解質膜を用いる。第1収容室11において、陽極32は、めっき液Lに接触し、基材Wと対向する位置に配置されており、基材Wを固体電解質膜13Aに接触した状態で、陽極32と、陰極となる基材Wとの間に電圧を印加する。これにより、固体電解質膜13Aを透過した電解めっき液に含有する金属イオンを、基材Wの表面で還元し、金属イオン由来の金属を析出することができる。これにより、電解めっきを利用して、基材Wの表面に、金属イオン由来の金属皮膜を成膜する。
【0045】
本実施形態によれば、開放工程S3において、基材Wと固体電解質膜13Aとの間において、噛み込んだ水蒸気stは、第1収容室11の空間Sの昇圧に伴い固体電解質膜13A側から大気圧まで増圧されるため、噛み込んだ水蒸気stは水となって消滅する。この水は、金属イオンの移動を妨げるものではないので、成膜工程S4において、陽極32と、陰極となる基材Wとの間に電圧を印加すると、めっき液Lに含まれる金属イオンが、固体電解質膜13Aを通過して、基材の表面において均一に還元され、金属が析出する。このような結果、空気の噛み込みによる金属の析出が阻害されることなく、均一な膜厚の均質な金属皮膜Fを成膜することができる。
【0046】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る成膜装置1および成膜方法が、第1実施形態のものと相違する点は、無電解めっきを利用して、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜する点である。具体的には、本実施形態の金属皮膜Fを成膜する方法および成膜装置1は、めっき液Lに含まれる金属イオンから、無電解めっきにより、基材Wの表面に金属を析出させることで、基材Wの表面に金属イオンに由来する金属皮膜Fを成膜する。第1実施形態に係る成膜装置1と同様の構成は、同じ符号を付して、詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0047】
ここで、無電解めっきは、電源部によって電解析出させる電解めっきとは異なり、化学的な還元反応によって皮膜を析出(成膜)する方法である。無電解めっきには、基材Wを構成する金属とめっき液(無電解めっき液)に含まれる金属イオンとのイオン化傾向の差を利用してめっきする置換めっき、および、還元剤の還元能力を利用してめっきする自己触媒型還元めっき等がある。
【0048】
無電解めっきが置換めっきである場合には、基材Wとしては、めっき液Lに含まれる金属イオンよりも卑な金属(イオン化傾向が大きい金属)からなる金属材料を用いることが好ましい。また、基材Wの本体の表面に、めっき液Lに含まれる金属イオンよりも卑な金属からなる層が形成されていてもよい。この場合には、本体としては、めっき液Lに含まれる金属イオンよりも貴な金属材料または樹脂材料等を用いてもよい。このような基材Wの一例としては、めっき液Lに含まれる金属イオンがAuイオンである場合には、Cuからなる本体の表面にNiめっき層が形成されたものを挙げることができる。
【0049】
無電解めっきが自己触媒型還元めっきである場合には、基材Wとして、還元剤の酸化反応を促進する触媒作用を有する材料であれば、金属材料または樹脂材料等を用いてもよい。また、基材Wの本体の表面に、触媒となる金属からなる層が形成されていてもよい。この場合には、基材Wの本体は、触媒作用を有しない金属材料および樹脂材料を用いることができる。このような基材Wの一例としては、めっき液(無電解めっき液)Lに含まれる金属イオンがNiイオンである場合には、Cuからなる本体の表面に触媒となるPdめっき層が形成されたものを挙げることができる。
【0050】
図5に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、第1実施形態のものとは異なり、陽極32、これを支持する支持体34、および電源部36等を、含まず、透過膜13として、固体電解質膜13Aの代わりに、多孔膜13Bが用いられる。多孔膜13Bは、上ハウジング11Aに収容されためっき液Lを封止し、基材W(具体的には載置台14a)に対向するように、上ハウジング11Aに取付けられる。多孔膜13Bは、膜厚方向にめっき液Lを透過することができる膜であり、めっき液Lが透過可能な孔を複数有する膜である。
【0051】
多孔膜13Bの厚みは、たとえば、5μm以上200μm以下であることが好ましい。多孔膜13Bの平均孔径は、たとえば0.1μm以上100μm以下であってもよく、基材Wに接触した際に、膜厚方向にめっき液Lが通過する(具体的には、基材Wの表面にめっき液Lが染み出す)ことができるのであれば、多孔膜13Bの孔径は、特に限定されるものではない。
【0052】
また、本実施形態では、多孔膜13Bは、固体電解質のようなイオン交換性官能基(陽イオン交換性官能基または陰イオン交換性官能基)を有していなくてもよい。これにより、多孔膜は、極性がほとんどなく、めっき液Lに含まれる金属イオンが、多孔膜中にトラップされずに、孔内を透過することができる。したがって、このようなめっき液Lは、めっき液Lに含まれる金属イオンがカチオン、アニオン、またはノニオンのいずれの場合にも適用することができる。このようなめっき液Lとしては、ポリオレフィン樹脂を用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、たとえば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、または、これらを混合した樹脂を挙げることができる。
【0053】
めっき液(無電解めっき液)Lは、多孔膜13Bの一方側に供給される液であり、無電解めっきにより金属皮膜Fの金属として析出される金属イオンを少なくとも含有している液である。なお、置換めっきまたは自己触媒型還元めっき用のめっき液Lは、めっき溶液として一般的に市販されているものであってもよい。
【0054】
無電解めっきが置換めっきである場合には、めっき液Lに含有される金属イオンの金属は、基材Wの材料よりも貴な(イオン化傾向が小さい)金属である。たとえば、基材WがCuからなる場合には、金属イオンの金属として、Ag、PtまたはAu等を挙げることができる。
【0055】
無電解めっきが自己触媒型還元めっきである場合には、めっき液Lは、金属皮膜Fの金属として析出される金属イオンと、還元剤とを含む。金属イオンの金属としては、触媒作用を有する金属であれば、特に限定されるものではなく、たとえば、Ag、PtまたはAu等を挙げることができる。還元剤としては、次亜リン酸、またはジメチルアミンボラン等を挙げることができる。めっき液Lには、さらに、安定剤、錯化剤、および還元剤等が含まれていてもよい。
【0056】
本実施形態に係る成膜方法では、第1実施形態と同様に水蒸気充填工程S1から開放工程S3まで、同様の作業を行う。
図6に示すように、本実施形態では、成膜工程S4において、基材Wを透過膜に接触した状態を所定時間保持しながら、無電解めっきにより、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜する。
【0057】
本実施形態においても、開放工程S3において、基材Wと多孔膜13Bとの間において、噛み込んだ水蒸気stは水となって消滅する。この水は、金属イオンの移動を妨げるものではないので、空気の噛み込みによる金属の析出が阻害されることない。したがって、多孔膜13Bを透過した金属イオンが還元されて、金属イオン由来の金属が析出し、均一な膜厚の均質な金属皮膜Fを成膜することができる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0059】
第1および第2実施形態では、載置台に載置された1つの基材の表面に対して、金属皮膜を成膜したが、たとえば、載置台に複数の基材を載置し、複数の基材の表面に、同時に金属皮膜を成膜してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:成膜装置、11:第1収容室、12:第2収容室、13:透過膜、13A:固体電解質膜、13B:多孔膜、14:昇降装置、17:吸引ポンプ、18:水蒸気供給部、19:開放弁、32:陽極、36:電源部、F:金属皮膜、S:空間、L:めっき液、W:基材