(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチックの製造方法および繊維強化プラスチック製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 70/48 20060101AFI20250109BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20250109BHJP
B29C 39/40 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C39/10
B29C39/40
(21)【出願番号】P 2021176443
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江田 晶紀
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-154504(JP,A)
【文献】特開2017-081016(JP,A)
【文献】特開2021-154513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0255787(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/48
B29C 39/10
B29C 39/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックの製造方法であって、
繊維材料を用いた基体を、金型の内部に配置して前記金型を閉じる型締工程と、
閉じられた前記金型の内部に樹脂材料を供給する供給工程と、
移動することにより前記金型の内部に供給された前記樹脂材料を加圧可能な加圧部を用いて、前記樹脂材料を加圧しながら前記基体に含浸させる含浸工程と、を備え、
前記含浸工程において、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングから、前記樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングまでに前記加圧部の変位が検出された場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記含浸工程において、前記硬化収縮開始タイミングで前記加圧部の変位が検出された場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記含浸工程において、さらに、前記金型の内圧を取得し、
取得した前記内圧を用いて前記内圧の変化量が正の値から負の値へと変化する極大値を検出し、
最後に前記極大値が検出された極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した第一タイミングでの前記内圧が、前記極大値検出タイミングでの前記内圧よりも低い場合に、前記極大値検出タイミングを前記硬化収縮開始タイミングとして特定する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記含浸工程において、前記加圧部の移動を開始してから予め定められた時間が経過した第二タイミングを、前記硬化収縮開始タイミングとして特定する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記含浸工程において、前記樹脂材料の粘度が予め定められた閾値以上となる第三タイミングを、前記硬化収縮開始タイミングとして特定する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記含浸工程において、予め定められた圧力で前記樹脂材料を加圧するように前記加圧部を移動させる、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記基体は、ライナの外表面上に前記繊維材料が巻き回されて形成される、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂材料は二液性エポキシ樹脂である、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
繊維強化プラスチック製造装置であって、
繊維材料を用いた基体を収容可能な金型と、
前記金型の内部に樹脂材料を供給するための樹脂供給部と、
前記金型の内部で移動することにより前記樹脂材料を加圧しながら前記基体に含浸させる加圧部と、
前記加圧部の変位を検出するための加圧部変位検出部と、
前記加圧部を制御するための制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加圧部を制御して前記樹脂材料を前記基体に含浸させる際に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングから、前記樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングまでに前記加圧部の変位を検出した場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する、
繊維強化プラスチック製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化プラスチックの製造方法および繊維強化プラスチック製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
RTM(Resin Transfer Molding)法を用いて繊維強化プラスチックを製造するための樹脂含浸成形用金型が知られている(例えば、特許文献1)。この樹脂含浸成形用金型では、貯留部に貯留された樹脂材料を、空圧を利用したピストンを用いて収容部に向かって押し出す。この結果、収容部内に収容されたライナの表面上の繊維材料に樹脂材料が含浸されて、ライナの表面上に繊維強化プラスチックが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維材料に対して樹脂材料が充分に含浸されていない場合には、繊維強化プラスチック樹脂の強度の低下を招く可能性がある。そのため、繊維強化プラスチックの製造過程において、繊維材料に対して樹脂材料が充分に含浸されているか否かを判定する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、繊維強化プラスチックの製造方法が提供される。この繊維強化プラスチックの製造方法は、繊維材料を用いた基体を、金型の内部に配置して前記金型を閉じる型締工程と、閉じられた前記金型の内部に樹脂材料を供給する供給工程と、移動することにより前記金型の内部に供給された前記樹脂材料を加圧可能な加圧部を用いて、前記樹脂材料を加圧しながら前記基体に含浸させる含浸工程と、を備える。前記含浸工程において、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングから、前記樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングまでに前記加圧部の変位が検出された場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、繊維強化プラスチックの製造過程において、基体の繊維材料に対する樹脂材料の含浸不足を検出することができる。
(2)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記含浸工程において、前記硬化収縮開始タイミングで前記加圧部の変位が検出された場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、樹脂材料が繊維材料に含浸しにくくなる臨界的なタイミングで加圧部の変位を確認し、樹脂材料の含浸不足を判定することができる。
(3)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記含浸工程において、さらに、前記金型の内圧を取得し、取得した前記内圧を用いて前記内圧の変化量が正の値から負の値へと変化する極大値を検出してよい。最後に前記極大値が検出された極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した第一タイミングでの前記内圧が、前記極大値検出タイミングでの前記内圧よりも低い場合に、前記極大値検出タイミングを前記硬化収縮開始タイミングとして特定してよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、金型の内圧の検出結果を用いて硬化収縮開始タイミングを特定することができる。
(4)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記含浸工程において、前記加圧部の移動を開始してから予め定められた時間が経過した第二タイミングを、前記硬化収縮開始タイミングとして特定してよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、金型の内圧の検出結果を用いることなく含浸判定を行うことができる。
(5)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記含浸工程において、前記樹脂材料の粘度が予め定められた閾値以上となった第三タイミングを、前記硬化収縮開始タイミングとして特定してよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、金型の内圧の検出結果を用いることなく含浸判定を行うことができる。
(6)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記含浸工程において、予め定められた圧力で前記樹脂材料を加圧するように前記加圧部を移動させてよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、一定の圧力で加圧部による加圧を行わない場合と比較して、加圧部の変位の検出精度を向上させることができる。
(7)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記基体は、ライナの外表面上に前記繊維材料が巻き回されて形成されてよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、ライナを用いるガスタンクの製造過程において、繊維材料に対して樹脂材料が充分に含浸しているか否かを判定することができる。
(8)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記樹脂材料は二液性エポキシ樹脂であってよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、硬化の開始タイミングを調節しやすくなり、樹脂材料の硬化が充分に進行しているタイミングを推定することが容易となる。
(9)本開示の他の形態によれば、繊維強化プラスチック製造装置が提供される。この繊維強化プラスチックの製造装置は、繊維材料を用いた基体を収容可能な金型と、前記金型の内部に樹脂材料を供給するための樹脂供給部と、前記金型の内部で移動して前記樹脂材料を前記基体に含浸させる加圧部と、前記加圧部の変位を検出するための加圧部変位検出部と、前記加圧部を制御するための制御部と、を備える。前記制御部は、前記加圧部を制御して前記樹脂材料を前記基体に含浸させる際に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングから、前記樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングまでに前記加圧部の変位を検出した場合に、前記基体に対する前記樹脂材料の含浸不足と判定する。
この形態の繊維強化プラスチックの製造装置によれば、繊維強化プラスチックの製造過程において、基体の繊維材料に対する樹脂材料の含浸不足を検出することができる。
本開示は、繊維強化プラスチックの製造方法や繊維強化プラスチックの製造装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、繊維強化樹脂層の形成方法、ガスタンクの製造方法、繊維強化プラスチックの製造装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】繊維強化プラスチック製造装置の内部構成を示す概略断面図。
【
図5】ピンにより樹脂材料が基体収容部に対して送り込まれる様子を模式的に示す説明図。
【
図6】本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法を示す工程図。
【
図7】本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法における含浸工程の詳細を示す工程図。
【
図8】制御部によって含浸不足なしと判定された場合の基体収容部の内圧およびピンの位置の変化を示すグラフ。
【
図9】制御部によって含浸不足ありと判定された場合の基体収容部の内圧およびピンの位置の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、ガスタンク100の構成を示す説明図である。
図1には、ガスタンク100の中心軸AXを境界に、ガスタンク100の外観と断面図とが模式的に示されている。ガスタンク100は、本開示の第1実施形態としての繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)を用いて形成される繊維強化樹脂層19を備えている。
【0009】
ガスタンク100は、10~70MPaの高圧な流体を収容するための貯蔵容器である。ガスタンク100は、任意の形状で形成することができ、
図1の例では、ガスタンク100は、長尺な略円柱形状の外観形状を有している。
図1には、ガスタンク100の軸方向DAと、ガスタンク100の円形断面における径方向DRとを矢印を用いて示した。軸方向DAおよび径方向DRは、
図1以降の各図と共通する。
【0010】
本実施形態において、ガスタンク100は、例えば、車両用の燃料電池や定置用の燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵するために使用される。ガスタンク100は、水素ガスのほか、酸素や天然ガスなどを収容してもよい。ガスタンク100は、ライナ10と、ライナ10の両端に配置された口金16,17と、ライナ10および口金16,17の外周面上に形成された繊維強化樹脂層19とを備えている。
【0011】
ライナ10は、流体を密封するための内部空間を有する容器である。ライナ10は、例えば、ナイロン、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ、ポリスチレン等のガスバリア性を有する樹脂で形成されている。ライナ10は、円筒状の一つの胴部12と、中心軸AXに沿って胴部12の両端に配置される半球状の二つのドーム部14とを備えている。ドーム部14の頂部には、開口が設けられている。ライナ10は、樹脂に代えて、金属によって形成されてもよい。
【0012】
口金16,17は、ライナ10の各ドーム部14の頂部に設けられる開口に、ライナ10の両端から突出するように装着されている。口金16は、例えば、ガスタンク100へのガスの充填、あるいは、ガスタンク100からのガスの放出のために用いられる。口金17は、封止されており、製造時の芯出し等に用いられる。
【0013】
繊維強化樹脂層19は、ライナ10を補強するための補強層である。繊維強化樹脂層19は、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法により製造された繊維強化プラスチックを用いて形成されている。本実施形態では、繊維強化樹脂層19は、基体(「繊維プリフォーム」とも呼ばれる。)を金型内に配置し、いわゆるRTM法により、その金型内に樹脂を加圧充填して繊維材料に含浸させて、熱硬化させることによって形成されている。
【0014】
図2は、基体20を模式的に示す説明図である。
図2に示すように、基体20は、ライナ10および口金16,17の外表面上に繊維束18を巻き回されることによって形成される。ライナ10に繊維束18が巻き回されて形成された層を、「繊維層」とも呼ぶ。本実施形態では、繊維材料としてカーボン繊維が用いられる。繊維材料は、カーボン繊維のほか、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(poly p-phenylenebenzobisoxazole)繊維等を用いることができ、これらの複数種類の繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本実施形態では、繊維束18は、胴部12の外周面にヘリカル巻きによって巻き付けられ、ドーム部14の外周面にブレーディング巻きによって巻き付けられている。繊維束18は、例えば10層から20層程度の複数の層が形成できる程度に巻き付けられる。ヘリカル巻きとは、繊維束18を、ライナ10の中心軸AXに対して予め定められた巻付角度θ1で胴部12の外周面全体に巻き付けた後、更にライナ10の中心軸AXに対して予め定められた巻付角度θ2で交差させて巻き付ける方法を意味する。ブレーディング巻きとは、繊維束18を互い違いに編まれるように巻き付ける方法を意味する。
図2の例では、ライナ10の中心軸AXに対して巻付角度θ1及び巻付角度θ2で巻き付けられている。
【0016】
巻付角度θ1,θ2は、任意に設定することができる。巻付角度θ1,θ2は、例えば、ライナ10にかかる応力を用いて導出されることが好ましい。本実施形態において、巻付角度θ1は、例えば、54.7度近傍で設定され、巻付角度θ2は、例えば、-54.7度で設定されている。なお、繊維束18は、胴部12に対してブレーディング巻きで巻き付けられ、ドーム部14に対してヘリカル巻きによって巻き付けられてもよい。繊維束18は、ライナ10に対してヘリカル巻きまたはブレーディング巻きのいずれか一方のみを用いて巻き付けられてもよい。
【0017】
図3、
図4を参照して、本実施形態の繊維強化プラスチック製造装置200(以下、単に「製造装置200」とも呼ぶ。)の構成について説明する。
図3は、繊維強化プラスチック製造装置200の内部構成を示す概略断面図である。
図4は、下金型52を上面視で示す平面図である。製造装置200は、RTM法を用いて、基体20の繊維層に樹脂材料を含浸させ、さらに、含浸させた樹脂材料を硬化させることによって繊維強化プラスチックを形成する。この結果、繊維強化プラスチックを用いた繊維強化樹脂層19がライナ10の外周面上に形成されたガスタンク100が製造される。
図3に示すように、製造装置200は、金型50と、樹脂供給部40と、加圧機構60と、制御部80と、を備えている。なお、技術の理解を容易にするために、
図3では、基体収容部54に基体20が配置された状態が模式的に示され、
図4には、下基体収容部524に基体20が配置されていない状態が模式的に示されている。また、
図4では、技術の理解を容易にするために、下金型52の上面にハッチングを付してある。
【0018】
金型50は、制御部80による制御のもとで、図示しない駆動装置によって開閉される。金型50は、上金型51と、下金型52と、基体20を収容するための基体収容部54とを備えている。上金型51は、供給路512と、上基体収容部514とを備えている。供給路512は、樹脂供給部40と、金型50の内部空間とをつなぐ樹脂の流路である。上基体収容部514は、上金型51のうち下金型52と対向する面に設けられる凹部である。
【0019】
下金型52は、下基体収容部524と、樹脂貯留部526と、流路528とを備えている。下基体収容部524は、下金型52のうち上金型51と対向する面に設けられる凹部である。下基体収容部524の内周面と、上基体収容部514の内周面とによって基体収容部54が規定される。基体収容部54は、基体20の外形と略同じ形状の空間を備えており、基体20を収容することができる。
【0020】
本実施形態において、基体収容部54には、圧力センサ32が備えられている。具体的には、上基体収容部514の内壁面に3つ、下基体収容部524の内壁面に3つ、合計6つの複数の圧力センサ32が基体収容部54に備えられている。圧力センサ32は、基体収容部54の内壁の一部として機能するとともに、基体収容部54内に充填された樹脂材料の内圧を検出することができる。圧力センサ32による基体収容部54の内圧の検出結果は、制御部80に送信される。圧力センサ32の数は、6つには限らず1つであってもよく、2以上の任意の数であってもよい。複数の圧力センサ32がすべて上金型51に備えられてもよく、すべて下金型52に備えられてもよい。圧力センサ32は、基体収容部54には限らず、金型50の内部空間の任意の位置に配置されてもよい。また、例えば、樹脂材料に対して加圧部が押圧する圧力を検出するためのセンサを加圧機構60が備える場合などには、圧力センサ32は省略されてもよい。
【0021】
流路528は、下基体収容部524に形成された凹状の溝である。
図4に示すように、流路528は、樹脂貯留部526の数と同数で設けられており、流路528のそれぞれが、基体収容部54と、各樹脂貯留部526とをつないでいる。これにより、流路528は、樹脂貯留部526から基体収容部54への樹脂材料の流路として機能する。
【0022】
樹脂貯留部526は、下金型52に形成された凹部である。樹脂貯留部526には、後述するピン62が収容されている。
図4に示すように、本実施形態では、それぞれ平面視で略円形形状を有する複数の樹脂貯留部526が下金型52に備えられている。
図4の例では、樹脂貯留部526は、基体収容部54の軸方向、すなわち基体収容部54に配置された基体20の軸方向DAに沿った両側にそれぞれ3つずつ配列されている。このように構成された製造装置200によれば、複数の樹脂貯留部526が、ライナ10のうち2つのドーム部14ならびに胴部12にそれぞれ対応する位置に配列される。したがって、基体20の部位ごとに樹脂材料を個別に押圧して送り込むことができ、基体20の各部位に樹脂材料の含浸不足が発生することを低減または防止することができる。なお、樹脂貯留部526は、6つには限らず、例えば、製造装置200によって樹脂材料が充分に含浸できる場合には1つであってもよく、2以上の任意の数で設けられてもよい。樹脂貯留部526は、平面視で円形には限らず、矩形状や多角形状などの任意の形状であってよい。
【0023】
樹脂供給部40は、制御部80による制御のもとで、供給路512を介して金型50の内部に樹脂材料を供給する。樹脂供給部40は、例えば、図示しないプランジャと、プランジャを駆動する駆動部とを備える装置を用いることができる。樹脂材料は、
図3に矢印D1で示すように、供給路512を介して樹脂貯留部526に供給され、
図3に矢印D2で示すように、基体20を収容する基体収容部54へと供給される。基体収容部54に供給された樹脂材料は、さらに
図3に矢印D3で示すように、他の樹脂貯留部526へと流通し、金型50の内部を満たす。
【0024】
本実施形態では、樹脂材料として、二液性エポキシ樹脂が用いられる。樹脂供給部40は、エポキシ樹脂と、硬化剤とを射出混合する。したがって、本実施形態では、樹脂材料は、金型50の内部に供給されたタイミングで硬化を開始する。エポキシ樹脂には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、ならびにビフェニル型エポキシ樹脂などの任意の種類のエポキシ樹脂が用いられてよい。硬化剤としては、アミン系、酸無水物系、ならびに潜在性硬化剤系などの種々の硬化剤が用いられてよい。ただし、樹脂材料は、二液性エポキシ樹脂には限定されず、一液性エポキシ樹脂であってもよい。エポキシ樹脂には、硬化剤のほか、例えば、三級アミン、イミダゾール類、リン化合物、熱塩基発生剤などの硬化触媒が混合されてもよい。樹脂材料は、エポキシ樹脂には限定されず、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、ならびにポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。繊維強化プラスチックが充分な強度を有する場合には、熱硬化性樹脂に代えて、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドなどの熱可塑性樹脂が用いられてもよい。
【0025】
加圧機構60は、制御部80による制御のもので、樹脂貯留部526内の樹脂材料を基体収容部54に向かって送り込む。加圧機構60は、ピン62と、モータ64と、軸部66とを備えている。ピン62は、軸部66を介してモータ64と接続されている、いわゆるピストンである。ピン62は、
図4に示すように、平面視において、略円形の外観形状を有しており、樹脂貯留部526の外形と略一致している。
図3に示すように、ピン62は、樹脂貯留部526内に収容されている。ピン62のうち上金型51と対向する上面62Tは、ピン62が樹脂貯留部526に収容された状態において、樹脂貯留部526の内壁の一部として機能する。
図3には、ピン62の上面62Tの軸方向DPにおける初期位置P0が模式的に示されている。ピン62の側面には、樹脂貯留部526内の樹脂がモータ64側へ移動することを規制するためのシール部材が設けられてもよい。
【0026】
本実施形態において、ピン62は、移動することにより樹脂貯留部526内の樹脂材料を加圧可能な加圧部として機能する。ピン62は、モータ64の駆動により、軸部66を介して軸方向DPに沿って樹脂貯留部526内を往復移動することができる。ピン62を軸方向DPに沿って上金型51に向かう方向に移動させることにより、樹脂貯留部526内の樹脂材料を加圧しながら基体収容部54へと送り込むことができる。
【0027】
本実施形態では、加圧機構60は、さらに、ピン62の変位を検出するための変位センサ34と、モータ64の出力トルクを検出するためのトルクセンサ36とを備えている。変位センサ34と、トルクセンサ36とによる検出結果は、制御部80に出力される。
【0028】
変位センサ34は、軸方向DPにおけるピン62の位置情報を取得し、ピン62の位置情報からピン62の変位を検出する加圧部変位検出部として機能する。ピン62の位置情報とは、例えば、ピン62の位置や座標であってもよく、ピン62の位置や座標には限らず、例えば、軸部66の位置や移動量、モータ64の駆動時間、消費電力、回転数ならびに出力トルクなど、ピン62の位置ならびにピン62の変位を検出できる種々の情報が含まれる。ピン62の変位は、単位時間あたりのピン62の位置の変化量や、ピン62の位置情報を用いた導関数により取得することができる。
【0029】
制御部80は、中央演算処理装置(CPU)と、記憶装置とを有するマイクロコンピュータである。記憶装置は、たとえば、RAM、ROM、ハードディスクドライブ(HDD)である。HDDまたはROMには本実施形態において提供される機能を実現するための各種プログラムが格納されており、HDDまたはROMから読み出された各種プログラムはRAM上に展開され、CPUによって実行される。記憶装置には、後述するピン62の位置情報および基体収容部54の内圧の取得結果が格納される。本実施形態では、制御部80は、圧力センサ32と、変位センサ34と、トルクセンサ36との検出結果を用いて、加圧機構60の制御と、後述する樹脂材料の含浸判定とを行う。制御部80は、経過時間をカウントするための図示しないタイマを備えている。タイマは、ハードウェアまたはソフトウェアのいずれで構成されてもよい。制御部80は、タイマに代えて、タイムサーバから経過時間を取得してもよい。
【0030】
図5は、ピン62により樹脂材料が基体収容部54に送り込まれる様子を模式的に示す説明図である。樹脂供給部40により金型50の内部に樹脂材料が供給されると、制御部80によって加圧機構60のモータ64が駆動され、
図5に方向DP1で示すように、ピン62は、軸方向DPに沿って上金型51に向かって移動する。この結果、樹脂貯留部526内の樹脂材料は、ピン62の上面62Tによって樹脂貯留部526から押し出され、基体収容部54へと送り込まれる。
【0031】
図5には、ピン62の上面62Tの軸方向DPにおける移動後の位置P1が模式的に示されている。本実施形態において、変位センサ34は、初期位置P0から移動後のピン62の位置P1を取得するとともに、ピン62が単位時間あたりに移動した距離L1を変位量として取得する。ピン62の変位量は、ピン62の位置情報を取得した制御部80によって演算されてもよい。
【0032】
図6は、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法を示す工程図である。工程S10では、基体20が準備される。具体的には、ライナ10の外周面に繊維束18を巻き回すことにより、ライナ10の外周面に繊維層を形成した基体20を形成する。工程S20では、基体20を金型50の内部に配置し、金型50の型締めを行う。具体的には、制御部80は、金型50の駆動装置を制御して上金型51の型閉じを行い、さらに金型50の型締めを行う。金型50の型締めとは、金型50の型閉じ後に、型閉じ時の圧力よりも大きい圧力で、金型50を閉じる向きに金型50を加圧する工程を意味する。ただし、工程S20では、型閉じのみが行われてもよい。
【0033】
工程S30では、制御部80は、樹脂供給部40を制御して、エポキシ樹脂と硬化剤とを射出混合して金型50の内部へと供給する。本実施形態では、制御部80は、この樹脂供給部40による樹脂材料の供給開始タイミングからタイマによる計時を開始する。制御部80は、予め定められた量の樹脂材料を、例えば20秒などの予め定められた時間をかけて金型50内へと供給する。この結果、樹脂材料は、樹脂貯留部526、流路528、ならびに基体収容部54内の基体20の周囲など、金型50内の各部に充填される。このとき、例えば、基体20に樹脂材料の含浸工程に耐え得る強度を付与するために、基体20のうちライナ10の内部に、例えば窒素などを充填することにより、ライナ10に内圧が付与されてもよい。
【0034】
工程S40では、制御部80は、加圧機構60を制御して樹脂材料を基体20に含浸させる。工程S50では、樹脂材料を硬化させる。本実施形態では、金型50を型締めした状態で所定時間経過させることにより樹脂材料を硬化させる。制御部80は、金型50内への樹脂材料の供給開始タイミングから予め定められた時間が経過することにより、樹脂材料の硬化が完了したと判定する。予め定められた時間は、例えば600秒など、二液性エポキシ樹脂が充分に硬化するために必要な時間で設定されている。工程S60では、制御部80は、金型50の駆動装置を駆動させて、上金型51を開く。樹脂材料が含浸され硬化した状態の基体20は、型開きされた金型50から、例えばイジェクタなどにより押し出されることによって取り出される。この結果、繊維強化プラスチックによる補強層が形成されたガスタンク100が得られる。
【0035】
図7は、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法における含浸工程の詳細を示す工程図である。本実施形態において、含浸工程において、制御部80は、基体20の繊維層に対して樹脂材料が充分に含浸しているか否かを判定するための含浸判定を行う。
【0036】
工程S402では、制御部80は、加圧機構60の駆動を開始し、トルクセンサ36によるモータ64の出力トルクの取得を開始する。工程S404では、制御部80は、変位センサ34によるピン62の位置情報の取得を開始する。工程S406では、制御部80は、圧力センサ32による基体収容部54の内圧の取得を開始する。
図7に示す含浸工程において、工程S402~406における各センサ32,34,36によるデータ取得は、例えば、毎秒など任意のタイミングで繰り返し継続的に実行され得る。また、各センサ32,34,36によって取得されたデータは、制御部80の記憶装置に格納される。
【0037】
工程S408では、制御部80は、加圧機構60のモータ64を駆動し、
図5に示した方向DP1に沿って、ピン62を上金型51に向かって移動させる。本実施形態では、制御部80は、トルクセンサ36の検出結果を用いて、モータ64の出力トルクが一定になるように制御し、ピン62が一定の圧力で樹脂材料を押し出すように制御している。制御部80は、トルクセンサ36に代えて、圧力センサ32の検出結果や、ピン62が樹脂材料を加圧する圧力を検出した結果が一定圧力になるように、モータ64の出力トルクを制御してもよい。
【0038】
工程S409では、制御部80は、予め定められた含浸完了タイミングが到来したことを検出する。含浸完了タイミングとは、通常時において基体20に対する樹脂材料の含浸が完了すると予測されるタイミングを意味する。含浸完了タイミングは、例えば、ピン62の位置が予め定められた位置に到達したタイミングや、加圧機構60の駆動を開始してから予め定められた時間を経過したタイミングなどを用いて設定することができる。含浸完了タイミングとしてのピン62の位置は、例えば、基体20の繊維層に含浸させるために必要な量の樹脂材料を送り込むために必要なピン62の移動量などを用いて設定することができる。予め定められた時間は、例えば、基体20の繊維層に含浸させるために必要な量の樹脂材料を送り込むために必要なピン62の駆動時間の最短時間などを用いて設定することができる。工程S409を設けることにより、例えば、含浸完了タイミングに到達する前のタイミングで含浸不足の判定が行われる不具合を回避することができる。含浸判定の検出精度が高い場合には、工程S409は、省略されてもよい。
【0039】
工程S410では、制御部80は、基体収容部54の内圧の極大値の検出を待機する。具体的には、制御部80は、圧力センサ32によって検出された内圧を用いて、内圧の変化量が正の値から負の値へと変化する点を極大値として検出する。極大値が検出されると(S410:YES)、制御部80は、極大値が検出されたタイミングから予め定められた時間において、基体収容部54の内圧が低下し続けるか否かを確認する。例えば、内圧が極小値を経て再び増加するなど、内圧が低下し続けない場合には(S412:NO)、工程S410に戻る。予め定められた時間、内圧が低下し続けた場合には(S412:YES)、工程S414に移行し、含浸判定を実行する判定タイミングが到来したと判定する。最後に極大値が検出されたタイミングを、「極大値検出タイミング」とも呼ぶ。本実施形態では、制御部80は、極大値検出タイミングを、樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングとして特定する。本実施形態において、ピン62の変位を確認するタイミングとして硬化収縮開始タイミングを採用しているのは、硬化収縮開始タイミングでは、樹脂材料の硬化が充分に進行し、このタイミング以降では繊維材料に対して樹脂材料を含浸させることが困難になると考えられるからである。基体収容部54の内圧は、必ずしも極大値検出タイミングから予め定められた時間の経過時点に至るまで常に低下し続ける必要はなく、例えば、極大値検出タイミングでの基体収容部54の内圧よりも、極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した時点での基体収容部54の内圧の方が低いことが検出された場合に、判定タイミングが到来したと判定されてもよい。
【0040】
工程S420では、制御部80は、変位センサ34から取得したピン62の位置情報を用いて、硬化収縮開始タイミングとしての極大値検出タイミングで、ピン62の変位があるか否かを判定する。本実施形態では、制御部80は、判定タイミングにおいて記憶装置に格納されたピン62の位置情報を用いて、極大値検出タイミングに遡ってピン62の変位の有無を判定する。制御部80は、極大値検出タイミングにおいてピン62の変位があると判定すると(S420:YES)、工程S422に移行し、含浸不足ありと判定する。極大値検出タイミングにおいてピン62の変位がない場合には(S420:NO)、工程S424に移行し、含浸不足なしと判定する。以上により、含浸工程は終了する。なお、制御部80による加圧機構60の駆動は、含浸工程の終了とともに終了してもよく、含浸工程の終了後の硬化工程において継続されてもよい。極大値検出タイミングでのピン62の変位を確認する方法には限定されず、制御部80は、含浸完了タイミングから極大値検出タイミングまで連続的にピン62の変位が検出された場合に、含浸不足ありと判定してもよい。
【0041】
図8および
図9を用いて、含浸工程における制御部80による含浸判定の詳細について説明する。
図8は、制御部80によって含浸不足なしと判定された場合の基体収容部54の内圧およびピン62の位置の変化を示すグラフである。
図9は、制御部80によって含浸不足ありと判定された場合の基体収容部54の内圧およびピン62の位置の変化を示すグラフである。
図8および
図9の横軸は時間軸である。
図8および
図9において縦軸は2つ示されており、左側の縦軸は、基体収容部54の内圧の大きさを示し、右側の縦軸は、ピン62の位置をそれぞれ示している。右側の縦軸は、
図5に示した距離L1の長さに相当する。
図8および
図9の時間軸のゼロ点は、樹脂供給部40による金型50内への樹脂材料の供給が完了した時点であり、制御部80による加圧機構60の駆動が開始されるタイミングに相当する。
図8および
図9に示すグラフは、各センサ32,34,36によって取得されたデータを用いて制御部80の記憶装置に格納される。
【0042】
図8に示すグラフGP1は、基体収容部54の内圧の変化を示している。なお、基体収容部54の内圧は、6つの圧力センサ32のそれぞれから取得され得る。
図8および
図9の例では、6つの圧力センサ32による検出結果の平均値が示されている。
図8に示すグラフGL1は、ピン62の位置、具体的にはピン62の上面62Tの位置の変化を示している。なお、ピン62の位置は、6つの変位センサ34のそれぞれから取得され得る。
図8および
図9の例では、6つの変位センサ34による検出結果の平均値が示されている。
【0043】
制御部80により加圧機構60の駆動が開始されると、モータ64の出力トルクが所定値となるまで上昇し、ピン62の上面62Tは、
図5に示した方向DP1に沿って上金型51に向かって移動し始める。これに伴い、基体収容部54の内圧は上昇し始める。モータ64の出力トルクが所定値に到達すると、基体収容部54の内圧は、例えば、
図8に示す所定の圧力PS1近傍で安定する。モータ64の出力トルクならびに基体収容部54の内圧の目標値は、基体20の大きさ、すなわちガスタンク100の大きさ等によって調節されることが好ましい。例えば、モータ64の出力トルクならびに基体収容部54の内圧の目標値は、基体20の強度、繊維層のボイド除去、樹脂材料の含浸速度などを考慮して設定されることが好ましい。本実施形態では、圧力PS1が数MPa程度となるように設定されている。
【0044】
基体20の繊維層に対して樹脂材料が含浸され始めると、樹脂材料は、繊維層に送り込まれる際に繊維層による抵抗を受ける。そのため、例えば、
図8に矢印PT1に示すように、ピン62は、移動速度を変化させながら移動し、ピン62の位置は、繊維層に樹脂材料が充分に含浸され得る位置PL1に向かって緩やかに収束し始める。このとき、基体収容部54の内圧は、
図8に矢印PT2に示すように、ピン62の移動速度の変化の影響を受けることにより、圧力PS1近傍で増減する。
【0045】
時間T1は、含浸完了タイミングの一例である。時間T1に到達すると、ピン62の位置は、基体20の繊維層に対して樹脂材料が充分に含浸されたことにより、ピン62が樹脂材料を押圧する圧力よりも基体収容部54の内圧が上回る。この結果、ピン62の位置は、例えば、
図8に示す位置PL1近傍で一定となる。
【0046】
時間T1に到達すると、基体収容部54の内圧は安定する。
図8の例では、時間T1以降わずかに上昇しながら時間T2で極大値IP1に到達する。矢印PT4に示すように、基体収容部54の内圧は、時間T2で極大値IP1に到達した後、減少し続ける。これは、基体収容部54内の樹脂材料の硬化が進行して樹脂材料が収縮していることに起因すると推測される。制御部80は、極大値IP1を検出したあと、予め定められた時間TDを経過した時間T3までの間、基体収容部54の内圧が低下し続けたことを検出する。予め定められた時間TDとしては、例えば、最後の極大値と判定することができる充分な時間であることが好ましく、例えば、10秒、20秒、30秒などの任意の時間で設定することができる。本実施形態では、時間TDは、20秒で設定されている。したがって、制御部80は、時間T3において、判定タイミングが到来したと判定する。極大値検出タイミングから時間TDを経過した時間T3を、「第一タイミング」とも呼ぶ。
図8の例では、時間T2は、最後に極大値が検出された極大値検出タイミングに該当する。なお、
図8の例において、矢印PT2に示すように、樹脂供給部40による樹脂材料の供給が開始されてから時間T1に達するまでにおいても複数の極大値が検出され得るが、含浸完了タイミング以前であること、ならびに極大値検出後の予め定められた時間TDが経過する前に次の極大値が検出されることから、制御部80は、判定タイミングが到来したとは判定しない。
【0047】
制御部80は、判定タイミングが到来したと判定すると、記憶装置に格納されたデータを用いて、極大値検出タイミングである時間T2に遡ってピン62の変位があるか否かを判定する。具体的には、制御部80は、時間T2における単位時間あたりのピン62の位置の変化量がゼロもしくは予め定められた閾値よりも小さい場合にピン62の変位なしと判定する。
図8の例では、時間T1以降のピン62の変位はゼロである。制御部80は、時間T2においてピン62の変位がないと判定し、含浸不足なしと判定する。
【0048】
図9に示すグラフGP2は、圧力センサ32から取得される基体収容部54の内圧の平均値であり、グラフGL2は、変位センサ34から取得されるピン62の位置の平均値を示している。制御部80による加圧機構60の駆動が開始されると、基体収容部54の内圧は、上昇した後、制御部80による定トルク制御に従い、
図8の例と同様に、所定の圧力PS1近傍で安定する。
【0049】
ピン62は、加圧機構60の駆動により、移動し始める。
図9に矢印PT5で示すように、ピン62の位置は、
図8の例とは異なり、時間T1以降も上昇し続ける。このような結果は、例えば、基体20の繊維層の抵抗が高く、正常時に比べて樹脂材料が繊維材料に含浸しにくいことによって樹脂材料の含浸速度が充分に得られない場合や、基体20の繊維層が正常時よりも多い量の樹脂材料を含浸可能であり、硬化収縮開始タイミングまでに樹脂材料が含浸しきれない場合などに発生すると推測される。
【0050】
図9に矢印PT6で示すように、基体収容部54の内圧は、安定せず、含浸完了タイミングである時間T1以降においても極大値が検出されている。これは、時間T1以降もピン62が移動し続けることにより、樹脂材料の含浸が継続しているためと考えられる。時間T4に到達すると、基体収容部54の内圧は、極大値IP2を示し、それ以降、減少し続ける。制御部80は、最後の極大値IP2を検出したあと、予め定められた時間TDを経過した時間T5までの間、基体収容部54の内圧が低下し続けたことを検出する。したがって、制御部80は、時間T5において、判定タイミングが到来したと判定する。
図9の例では、時間T4が、最後に極大値が検出された極大値検出タイミングに相当し、時間T5が第一タイミングに相当する。
【0051】
制御部80は、記憶装置に格納されたデータを用いて、極大値検出タイミングである時間T4に遡ってピン62の変位があるか否かを判定する。
図9の例では、時間T1以降のピン62の変位は上昇しているため、制御部80は、ピン62の変位があると判定し、含浸不足ありと判定する。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、繊維材料を用いた基体20を、金型50の内部の基体収容部54に配置して金型50を閉じる型締工程と、閉じられた金型50の内部に樹脂材料を供給する供給工程と、移動することにより金型50の内部に供給された樹脂材料を加圧可能なピン62を用いて樹脂材料を加圧しながら基体収容部54に送り込んで基体20に含浸させる含浸工程と、を備えている。含浸工程において、基体20に対する樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングから、樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングまでに、ピン62の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。したがって、繊維強化プラスチックの製造過程において、基体20の繊維材料に対する樹脂材料の含浸不足を検出することができる。また、繊維強化プラスチックの製造過程で樹脂材料の含浸不足を検出するので、繊維強化プラスチックの製造後にX線検査などの検査で樹脂材料の含浸不足を検出する場合と比較して、生産性を向上することができる。
【0053】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、硬化収縮開始タイミングで、ピン62の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。したがって、樹脂材料が繊維材料に含浸しにくくなる臨界的なタイミングでピン62の変位を確認することにより適正なタイミングで樹脂材料の含浸不足を判定することができる。
【0054】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、含浸工程において、さらに、基体収容部54の内圧を取得し、取得した内圧を用いて内圧の変化量が正の値から負の値へと変化する極大値IP1を検出する。最後に極大値IP1が検出された極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した第一タイミングでの内圧が、極大値検出タイミングでの内圧よりも低い場合に、極大値検出タイミングを硬化収縮開始タイミングとして特定する。本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体収容部54の内圧の検出結果を用いて硬化収縮開始タイミングを特定することができる。
【0055】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、含浸工程において、予め定められた圧力で樹脂材料を加圧するようにピン62を移動させる。したがって、一定の圧力でピン62による加圧を行わない場合と比較して、ピン62の変位の検出精度を向上させることができる。
【0056】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体20は、ライナ10の外表面上に繊維材料が巻き回されて形成される。したがって、ガスタンク100の製造過程において、繊維材料に対して樹脂材料が充分に含浸しているか否かを判定することができる。
【0057】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、樹脂材料は二液性エポキシ樹脂である。例えば、樹脂材料の供給開始タイミングでエポキシ樹脂と硬化剤とを混合することにより、硬化の開始タイミングを任意のタイミングで設定することができ、樹脂材料の硬化が充分に進行しているタイミングを推定することが容易となる。
【0058】
本実施形態の繊維強化プラスチックの製造装置200によれば、繊維材料を用いた基体20を収容するための基体収容部54を有する金型50と、樹脂材料を金型50の内部に供給するための樹脂供給部40と、金型50の内部で移動することにより樹脂材料を加圧しながら基体20に含浸刺せるピン62と、ピン62の変位を検出するための変位センサ34と、ピン62を制御するための制御部80と、を備えている。制御部80は、変位センサ34からピン62の位置情報を取得し、樹脂材料が硬化収縮を開始する硬化収縮開始タイミングで、取得した位置情報からピン62の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。したがって、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造装置200によれば、繊維強化プラスチックの製造過程において、基体20の繊維材料に対する樹脂材料の含浸不足を検出することができる。
【0059】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、最後に前記極大値が検出された極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した第一タイミングで含浸不足を判定する。これに対して、含浸工程において、ピン62の移動を開始してから予め定められた時間が経過した第二タイミングを硬化収縮開始タイミングとして特定してもよい。第二タイミングは、基体20に対する樹脂材料の含浸が完了すると予測される含浸完了タイミングよりも後のタイミングで設定される。この場合において、制御部80は、第二タイミングにおけるピン62の変位を確認し、第二タイミングにおいてピン62の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体収容部54の内圧の検出結果を用いることなく含浸判定を行うことができる。
【0060】
第二タイミングは、正常時に含浸が完了するタイミングとして、例えば、
図8に示す時間T1以降、時間T2より前までに含まれるタイミングで設定されてよい。第二タイミングは、例えば、繊維材料に対して樹脂材料が含浸しにくくなるタイミングとして、予め実験的に求められてよく、製造上の実績値などを用いて設定されてもよい。また、粘度が所定値を超える時点など、経過時間と樹脂材料の粘度との対応関係などを用いて設定してもよい。
【0061】
(B2)上記実施形態では、最後に前記極大値が検出された極大値検出タイミングから予め定められた時間を経過した第一タイミングで含浸不足を判定する。これに対して、含浸工程において、樹脂材料の粘度が予め定められた閾値以上となった第三タイミングを硬化収縮開始タイミングとして特定してもよい。この場合において、制御部80は、第三タイミングにおけるピン62の変位を確認し、第三タイミングにおいてピン62の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体収容部54の内圧の検出結果を用いることなく含浸判定を行うことができる。
【0062】
樹脂材料の粘度は、金型50の内部に供給されて硬化が開始するとともに緩やかに上昇し、硬化収縮開始タイミング近傍で急激に上昇する。閾値は、例えば、樹脂材料の粘度と、硬化開始からの経過時間との関係を予め実験等により取得し、例えば、硬化収縮を開始するタイミングでの粘度を用いて設定することができる。樹脂材料の粘度は、含浸工程中に粘度センサ等によって取得した値を用いてもよい。
【0063】
(B3)上記実施形態では、ピン62が加圧部として機能する例を示した。これに対して、加圧部は、ピン62には限定されない。製造装置200が、例えば、上金型51が下金型52に向かう方向に加圧することで樹脂材料を基体20に含浸させる装置である場合には、上金型51が加圧部として機能する。上金型51が加圧部として機能する場合には、含浸工程において、上金型51による樹脂材料に対する圧力を一定の圧力となるように制御するとともに、上金型51の変位を取得し、上金型51の変位が検出された場合に、基体20に対する樹脂材料の含浸不足と判定する。
【0064】
(B4)上記実施形態では、
図8および
図9の例では、6つの圧力センサ32による検出結果の平均値が用いられ、
図8および
図9の例では、6つの変位センサ34による検出結果の平均値が用いられる例を示した。これに対して、複数の圧力センサ32の検出結果の平均値、ならびに複数の変位センサ34による検出結果の平均値を用いる場合には限定されず、複数の圧力センサ32による複数の検出結果が用いられてもよい。この場合において、例えば、すべての圧力センサ32、もしくは過半数の圧力センサ32の検出結果において極大値が検出されたタイミングを極大値検出タイミングとすることができる。また、すべての変位センサ34や過半数の変位センサ34の検出結果から変位なしと判定された場合に含浸不足なしと判定することができる。
【0065】
(B5)上記実施形態では、制御部80は、極大値検出タイミングである時間T2ならびに時間T4におけるピン62の変位の有無を確認して、含浸不足を判定している。これに対して、制御部80は、含浸完了タイミングから時間T2ならびに時間T4より前の任意のタイミングでピン62の変位を確認してもよい。
【0066】
(B6)上記実施形態では、基体20は、ガスタンク100用のライナ10に繊維束18を巻き回されることによって形成され、繊維強化プラスチックがガスタンク100の補強層として製造される例を示した。これに対して、基体20は、ライナ10を用いる場合には限定されない。基体20は、ライナ10を用いることなく繊維材料のみで形成されてもよく、例えば、繊維材料を編み込んで任意の形状で形成されることもできる。また、基体20には、繊維材料とともにウレタンフォームやボルトなどのインサート材が用いられてもよい。繊維強化プラスチックは、ガスタンク100の補強層の用途には限定されず、自動車や鉄道車両の内外装などに用いられる車両用部品、ボートやヨットなどの船舶の船体、ヘルメット、浴槽や浄化槽、パイプなどの住宅設備用部品などの種々の用途に用いられてもよい。
【0067】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数ハードウェアするようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0068】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10…ライナ、12…胴部、14…ドーム部、16,17…口金、18…繊維束、19…繊維強化樹脂層、20…基体、32…圧力センサ、34…変位センサ、36…トルクセンサ、40…樹脂供給部、50…金型、51…上金型、52…下金型、54…基体収容部、60…加圧機構、62…ピン、62T…上面、64…モータ、66…軸部、80…制御部、100…ガスタンク、200…繊維強化プラスチック製造装置、512…供給路、514…上基体収容部、524…下基体収容部、526…樹脂貯留部、528…流路、AX…中心軸