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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20250109BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20250109BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250109BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250109BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250109BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250109BHJP
   B60W 20/19 20160101ALI20250109BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250109BHJP
   B60W 20/17 20160101ALN20250109BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/547 ZHV
B60K6/48
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/19
B60W20/40
B60W20/17
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022026706
(22)【出願日】2022-02-24
(65)【公開番号】P2023122928
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200758(JP,A)
【文献】特開2005-162081(JP,A)
【文献】特開2021-160404(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/097376(JP,A1)
【文献】特開2003-348708(JP,A)
【文献】特開2018-114946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0391724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
F02D13/00-29/06
43/00-45/00
F16D25/00-39/00
48/00-48/12
F16H59/00-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を有するエンジンと、駆動軸を有するモータジェネレータと、を車両の動力源として備えるとともに、前記クランク軸と前記駆動軸との間にクラッチが配置されているハイブリッド車両に適用され、
前記エンジン、前記モータジェネレータ及び前記クラッチを制御する実行装置を備え、
前記実行装置は、
前記動力源に対するトルクの要求値であるトルク要求値の増大量が増大量判定値未満である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって、前記クランク軸の回転速度であるエンジン回転数を、前記駆動軸の回転速度であるモータ回転数まで上昇させてから、前記エンジンでの燃焼を開始させる第1始動処理を実行し、
前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって前記クランク軸が回転し始めると、前記エンジン回転数が前記モータ回転数に達する前に前記エンジンでの燃焼を開始させる第2始動処理を実行し、
前記エンジンを始動させるに際し、前記駆動軸の軸トルクであるシステム軸トルクが軸トルク判定値以上であること、及び、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上であることのうち少なくとも一方が成立している場合には前記第2始動処理を実行する一方、前記システム軸トルクが前記軸トルク判定値以上であること、及び、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上であることの何れもが成立していない場合には前記第1始動処理を実行する
ハイブリッド車両用制御装置。
【請求項2】
クランク軸を有するエンジンと、駆動軸を有するモータジェネレータと、を車両の動力源として備えるとともに、前記クランク軸と前記駆動軸との間にクラッチが配置されているハイブリッド車両に適用され、
前記エンジン、前記モータジェネレータ及び前記クラッチを制御する実行装置を備え、
前記実行装置は、
前記動力源に対するトルクの要求値であるトルク要求値の増大量が増大量判定値未満である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって、前記クランク軸の回転速度であるエンジン回転数を、前記駆動軸の回転速度であるモータ回転数まで上昇させてから、前記エンジンでの燃焼を開始させる第1始動処理を実行し、
前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって前記クランク軸が回転し始めると、前記エンジン回転数が前記モータ回転数に達する前に前記エンジンでの燃焼を開始させる第2始動処理を実行し、
前記第2始動処理で前記エンジンを始動させたと仮定した場合における前記クラッチのトルク容量の予測値が小さいほど小さい値を前記増大量判定値として設定する
ハイブリッド車両用制御装置。
【請求項3】
クランク軸を有するエンジンと、駆動軸を有するモータジェネレータと、を車両の動力源として備えるとともに、前記クランク軸と前記駆動軸との間にクラッチが配置されているハイブリッド車両に適用され、
前記エンジン、前記モータジェネレータ及び前記クラッチを制御する実行装置を備え、
前記実行装置は、
前記動力源に対するトルクの要求値であるトルク要求値の増大量が増大量判定値未満である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって、前記クランク軸の回転速度であるエンジン回転数を、前記駆動軸の回転速度であるモータ回転数まで上昇させてから、前記エンジンでの燃焼を開始させる第1始動処理を実行し、
前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって前記クランク軸が回転し始めると、前記エンジン回転数が前記モータ回転数に達する前に前記エンジンでの燃焼を開始させる第2始動処理を実行し、
前記ハイブリッド車両は、前記クラッチとして油圧駆動式のクラッチを備えるものであり、
前記実行装置は、前記クラッチの作動油の温度が高いほど小さい値を前記増大量判定値として設定する
ハイブリッド車両用制御装置。
【請求項4】
前記ハイブリッド車両は、変速装置を備えるとともに、トルク伝達経路において前記クラッチと前記変速装置との間に前記モータジェネレータが配置されているものであり、
前記実行装置は、前記変速装置によって選択される変速段が高速側の変速段であるほど小さい値を前記増大量判定値として設定する
請求項2又は請求項3に記載のハイブリッド車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備えるとともに、エンジンとモータジェネレータとの間にクラッチが配置されているハイブリッド車両に適用される制御装置が開示されている。当該制御装置は、エンジンを始動させる場合、クラッチを係合させることによってエンジンのクランク軸とモータジェネレータの駆動軸とを連結させる。これにより、モータジェネレータの駆動によってクランク軸を回転させることが可能となる。そして、制御装置は、モータジェネレータの駆動によってクランク軸の回転を開始させた後にエンジンでの燃焼を開始させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-25985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにモータジェネレータの駆動によってクランク軸の回転を開始させてからエンジンでの燃焼を開始させる場合、燃焼の開始タイミングを早くすると、エンジンの始動を早期に完了できるものの、エンジンの始動に伴う振動が発生しやすい。一方、燃焼の開始タイミングを遅くすると、エンジンの始動に伴う振動は生じにくいものの、エンジンの始動の完了が遅くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのハイブリッド車両用制御装置は、クランク軸を有するエンジンと、駆動軸を有するモータジェネレータと、を車両の動力源として備えるとともに、前記クランク軸と前記駆動軸との間にクラッチが配置されているハイブリッド車両に適用される。このハイブリッド車両用制御装置は、前記エンジン、前記モータジェネレータ及び前記クラッチを制御する実行装置を備えている。前記実行装置は、前記動力源に対するトルクの要求値であるトルク要求値の増大量が増大量判定値未満である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって、前記クランク軸の回転速度であるエンジン回転数を、前記駆動軸の回転速度であるモータ回転数まで上昇させてから、前記エンジンでの燃焼を開始させる第1始動処理を実行する。前記実行装置は、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上である状況下で前記エンジンを始動させる場合、前記クラッチを係合させることによって前記クランク軸が回転し始めると、前記エンジン回転数が前記モータ回転数に達する前に前記エンジンでの燃焼を開始させる第2始動処理を実行する。
【0006】
トルク要求値の増大量が多いほどハイブリッド車両の加速度が大きくなる。そして、ハイブリッド車両の加速度を大きくする場合、エンジンの始動に起因する振動がハイブリッド車両で発生しても、こうした振動に対してハイブリッド車両の乗員は不快に感じにくい。一方、トルク要求値の増大量が比較的少ないためにハイブリッド車両の加速度がそれほど大きくならない場合では、エンジンの始動に起因する振動がハイブリッド車両で発生すると、こうした振動に対して乗員が不快に感じやすい。
【0007】
第1始動処理でエンジンを始動させる場合、エンジンでの燃焼開始タイミングは、第2始動処理でエンジンを始動させる場合よりも遅くなる。そのため、第1始動処理ではエンジンの始動に起因する振動が大きくなりにくく、第2始動処理ではエンジンの始動に起因する振動が大きくなりやすい。
【0008】
上記構成では、エンジンを始動させる際において、トルク要求値の増大量が増大量判定値以上である場合には第2始動処理によってエンジンが始動される。この場合、エンジンの始動を早期に完了させることができるとともに、エンジンの始動に起因する振動が発生したとしても乗員に不快感を与えにくい。一方、エンジンを始動させる際において、トルク要求値の増大量が増大量判定値未満である場合には第1始動処理によってエンジンが始動される。この場合、エンジンの始動の完了に遅れが生じるものの、エンジンの始動に起因する振動が生じにくい。
【0009】
したがって、上記のハイブリッド車両用制御装置は、エンジンの始動時に乗員が不快に感じることの抑制と、エンジンの始動の早期完了との両立が可能である。
上記ハイブリッド車両用制御装置の一例において、前記実行装置は、前記エンジンを始動させるに際し、前記駆動軸の軸トルクであるシステム軸トルクが軸トルク判定値以上であること、及び、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上であることのうち少なくとも一方が成立している場合には前記第2始動処理を実行する。一方、前記実行装置は、前記システム軸トルクが前記軸トルク判定値以上であること、及び、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上であることの何れもが成立していない場合には前記第1始動処理を実行する。
【0010】
車両の動力源から変速装置に入力されるトルクであるシステム軸トルクが比較的大きい状況下で第2始動処理によってエンジンを始動させた場合、当該エンジンの始動に起因する振動が大きくなりにくい。そこで、上記構成では、システム軸トルクが軸トルク判定値以上である場合、システム軸トルクが大きいため、トルク要求値の増大量が増大量判定値未満であっても第2始動処理によってエンジンが始動される。すなわち、第2始動処理の実行機会を増やすことができる。
【0011】
上記ハイブリッド車両用制御装置の一例において、前記実行装置は、前記駆動軸の軸トルクであるシステム軸トルクが軸トルク判定値未満である場合には前記第1始動処理を選択し、前記システム軸トルクが前記軸トルク判定値以上である場合には前記第2始動処理を選択する暫定選択処理を実行する。また、前記実行装置は、前記暫定選択処理で前記第1始動処理を選択した状況下で前記エンジンの始動が要求された場合、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値以上であるときには前記第2始動処理を実行する一方、前記トルク要求値の増大量が前記増大量判定値未満であるときには前記第1始動処理を実行する。
【0012】
上記構成では、システム軸トルクが小さいために暫定選択処理で第1始動処理を選択した場合であっても、トルク要求値の増大量が増大量判定値以上である場合には、上記振動が発生しても乗員が不快に感じにくいと判断できるため、第2始動処理によってエンジンが始動される。すなわち、第2始動処理の実行機会を増やすことができる。
【0013】
上記ハイブリッド車両用制御装置の一例において、前記実行装置は、前記第2始動処理で前記エンジンを始動させたと仮定した場合における前記クラッチのトルク容量の予測値が小さいほど小さい値を前記増大量判定値として設定する。
【0014】
クラッチのトルク容量が小さい場合、エンジンの出力トルクであるエンジントルクが急激に上昇した際に、当該エンジントルクの変動をクラッチで減衰させやすい。すなわち、エンジントルクが急激に上昇する際にモータジェネレータの駆動軸の回転数の変動が生じにくいため、エンジンの始動に起因する振動が発生しにくい。そこで、上記構成では、上記トルク容量の予測値が小さいほど小さい値が増大量判定値として設定されるようにした。これにより、第2始動処理でエンジンを始動させた際にクラッチ容量が小さくなる場合には第2始動処理が実行されやすくなる。
【0015】
上記ハイブリッド車両用制御装置が適用されるハイブリッド車両は、前記クラッチとして油圧駆動式のクラッチを備えるものであってもよい。この場合、前記実行装置は、前記クラッチの作動油の温度が高いほど小さい値を前記増大量判定値として設定することが好ましい。
【0016】
クラッチの作動油の温度が低いと、作動油の粘度が高くなるため、クラッチに供給される油圧であるクラッチ油圧の応答性が低くなる。クラッチ油圧の応答性が低いほど、クラッチのトルク容量の調整に遅れが生じやすい。トルク容量の調整に遅れが生じやすい状況下で第2始動処理によってエンジンを始動させる場合、クラッチによるエンジンからモータジェネレータへのトルク伝達効率を調整しにくい。これにより、エンジントルクが急激に上昇する際にモータジェネレータの駆動軸の回転数が大きく変動するため、エンジンの始動に起因する振動が大きくなりやすい。言い換えると、作動油の油温が低くない場合では、作動油の粘度が比較的低いため、クラッチ油圧の応答速度が比較的高い。そのため、第2始動処理によってエンジンを始動させた際の上記振動が大きくなりにくい。そこで、上記構成では、作動油の温度が高いほど小さい値が増大量判定値として設定されるようにした。これにより、作動油の油温が高くてクラッチ油圧の応答速度が高い場合には第2始動処理が実行されやすくなる。
【0017】
上記ハイブリッド車両用制御装置が適用されるハイブリッド車両は、変速装置を備えるとともに、トルク伝達経路において前記クラッチと前記変速装置との間に前記モータジェネレータが配置されているものであってもよい。この場合、前記実行装置は、前記変速装置によって選択される変速段が高速側の変速段であるほど小さい値を前記増大量判定値として設定することが好ましい。
【0018】
変速装置の変速段として高速側の変速段が選択されている場合、変速装置の変速段として低速側の変速段が選択されている場合と比較し、エンジンの始動に起因する振動が大きくなりにくい。そこで、上記構成では、変速装置によって選択される変速段が高速側の変速段であるほど小さい値が増大量判定値として設定されるようにした。これにより、変速装置によって選択される変速段が高速側の変速段であるほど第2始動処理が実行されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、ハイブリッド車両用制御装置の一実施形態である制御装置を備えるハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
図2図2は、第1始動処理でエンジンを始動させる場合のタイムチャートである。
図3図3は、第2始動処理でエンジンを始動させる場合のタイムチャートである。
図4図4は、同制御装置が備えるCPUが実行する複数の処理を説明するブロック図である。
図5図5は、最終決定処理を示すフローチャートである。
図6図6は、アクセル開度の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ハイブリッド車両用制御装置の一実施形態を図1図6に従って説明する。
図1は、ハイブリッド車両用制御装置の一例である制御装置100を備えるハイブリッド車両500の概略構成を図示している。以降では、ハイブリッド車両500を単に「車両500」と記載する。
【0021】
<車両の構成>
車両500は、車両の動力源としてエンジン10及びモータジェネレータ30を備えている。トルク伝達経路におけるエンジン10とモータジェネレータ30との間にクラッチ20が配置されている。エンジン10又はモータジェネレータ30から出力されたトルクは、変速装置40及びディファレンシャル60を介して複数の駆動輪65に伝達される。なお、車両の動力源から変速装置40に入力されるトルクを「システム軸トルク」という。
【0022】
エンジン10は、燃料を噴射する複数の燃料噴射弁12と、複数の気筒とを備えている。また、エンジン10は、複数の気筒に接続されている吸気通路13と、吸気通路13を流れる空気の量を調整する電動式のスロットルバルブ14とを備えている。複数の気筒内では、吸気通路13から導入された空気と、燃料噴射弁12から噴射された燃料とを含む混合気が燃焼される。混合気の燃焼によって生じた排気が複数の気筒から排気通路16に排出される。排気通路16には、排気を浄化する触媒17が設けられている。
【0023】
エンジン10は、エンジン10の出力軸であるクランク軸18を備えている。クランク軸18は、複数の気筒内での混合気の燃焼によって得られた力によって所定方向に回転する。すなわち、エンジン10の出力トルクであるエンジントルクTeがクランク軸18から出力される。
【0024】
クラッチ20は、エンジン10のクランク軸18に連結されている。クラッチ20が係合状態である場合、エンジン10とモータジェネレータ30との間でのトルク伝達が可能となる。一方、クラッチ20が開放状態である場合、エンジン10とモータジェネレータ30との間でのトルク伝達が不能となる。
【0025】
なお、本実施形態において、クラッチ20の係合は、完全係合とスリップ係合とがある。完全係合は、スリップ係合よりもクラッチ20の係合力が大きい係合である。クラッチ20の係合力が大きいほど、クラッチ20のトルク容量Tcが大きくなる。そのため、クラッチ20が完全係合している場合、エンジン10とモータジェネレータ30との間でのトルク伝達効率が高い。一方、クラッチ20がスリップ係合している場合、クラッチ20が完全係合している場合と比較し、クラッチ20のトルク容量Tcが小さい。そのため、クラッチ20がスリップ係合している場合、エンジン10とモータジェネレータ30との間でトルク伝達は行われるものの、トルク伝達効率は低い。すなわち、エンジン10とモータジェネレータ30との間でのトルク伝達効率を意図的に低くする場合、クラッチ20がスリップ係合されることがある。
【0026】
クラッチ20は、油圧駆動式のクラッチである。こうしたクラッチ20では、クラッチ20に供給する油圧であるクラッチ油圧Pcが高いほど、クラッチ20の係合力が大きくなる。すなわち、クラッチ油圧Pcを調整することにより、クラッチ20をスリップ係合させたり、クラッチ20を完全係合させたりすることができる。そして、クラッチ油圧Pcが高いほど、クラッチ20のトルク容量Tcが大きくなるため、エンジン10とモータジェネレータ30との間でのトルクの伝達効率が高くなる。つまり、クラッチ20が係合状態である場合、クラッチ油圧Pcを調整することにより、トルク容量Tcが変更され、ひいてはクラッチ20のトルクの伝達効率が調整される。
【0027】
モータジェネレータ30は、クラッチ20に連結されている駆動軸31を有している。すなわち、モータジェネレータ30が電動機として機能する場合、インバータを介したバッテリからの給電によって駆動軸31が回転する。一方、モータジェネレータ30が発電機として機能する場合、駆動軸31の回転に応じた回生電力がモータジェネレータ30で発生し、回生電力がインバータを介してバッテリに供給される。モータジェネレータ30の出力トルクを「モータトルクTm」としたとき、エンジントルクTeのうち、クランク軸18からクラッチ20を介して駆動軸31に入力されたトルクと、モータトルクTmとの和が、システム軸トルクTsysとなる。
【0028】
変速装置40は、トルクコンバータ41と変速機構46とを有している。トルクコンバータ41は、ポンプインペラ42とタービンインペラ43とロックアップクラッチ44とを有している。ポンプインペラ42はモータジェネレータ30の駆動軸31に連結されている。タービンインペラ43は変速機構46に連結されている。ロックアップクラッチ44が開放されている場合、トルクコンバータ41内の作動油を介してポンプインペラ42からタービンインペラ43にトルクが伝達される。一方、ロックアップクラッチ44が係合している場合、作動油を介することなく、ポンプインペラ42からタービンインペラ43にトルクが直接伝達される。
【0029】
変速機構46は、例えば、有段式の変速機構である。変速機構46は、トルクコンバータ41からトルクが入力される入力軸47と、トルクを出力する出力軸48とを有している。入力軸47は、トルクコンバータ41のタービンインペラ43に連結されている。変速機構46は、入力軸47から入力されたトルクを減速した状態で出力軸48からディファレンシャル60に向けて出力する。
【0030】
本実施形態において、車両500は、電動ポンプ80と油圧制御回路90とを備えている。電動ポンプ80は、作動油を加圧して油圧制御回路90に供給する。油圧制御回路90は、電動ポンプ80から供給された高圧の作動油を、変速機構46、トルクコンバータ41及びクラッチ20に供給する。例えば、油圧制御回路90は、複数のオイル制御弁を有している。複数のオイル制御弁を制御することにより、作動油の供給対象への作動油の給排、及び供給対象への作動油の供給油圧が制御される。すなわち、油圧制御回路90は、上記クラッチ油圧Pcを調整できるように構成されている。
【0031】
<車両の検出系>
車両500の検出系は、検出結果に応じた検出信号を制御装置100に出力する複数のセンサを備えている。すなわち、車両500は、クランク角センサ111とエアフローメータ112とアクセル開度センサ113とモータ角センサ114と入力軸センサ115と油温センサ116とを備えている。クランク角センサ111は、クランク軸18の回転速度であるエンジン回転数Neに応じた検出信号を出力する。エアフローメータ112は、吸気通路13を流れる空気の量である吸入空気量GAを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。アクセル開度センサ113は、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCPを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。モータ角センサ114は、モータジェネレータ30の駆動軸31の回転速度であるモータ回転数Nmに応じた検出信号を出力する。入力軸センサ115は、変速機構46の入力軸47の回転速度である入力軸回転数Natに応じた検出信号を出力する。油温センサ116は、電動ポンプ80が吐出する作動油の温度である油温TOILを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。
【0032】
<制御装置>
制御装置100は、CPU101とROM102とRAM103とを備えている。ROM102には、CPU101によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。RAM103には、CPU101の演算結果が記憶される。CPU101は、制御プログラムを実行することにより、エンジン10及びモータジェネレータ30を制御する。また、CPU101は、電動ポンプ80及び油圧制御回路90を制御することにより、クラッチ20及び変速装置40を制御する。したがって、本実施形態では、CPU101が「実行装置」に対応する。
【0033】
なお、CPU101は、クランク角センサ111の検出信号Scrに基づいてエンジン回転数Neを演算する。CPU101は、エンジン回転数Ne及び吸入空気量GAに基づいてエンジン負荷率KLを演算する。
【0034】
CPU101は、アクセル開度ACCPを基に、車両の動力源に対するトルクの要求値であるトルク要求値TsRを導出する。ここでいうトルク要求値TsRは、駆動軸31から変速装置40に入力するトルクの要求値である。例えば、CPU101は、アクセル開度ACCPが大きいほど大きい値をトルク要求値TsRとして導出する。そして、CPU101は、トルク要求値TsRに基づいて、車両の動力源、すなわちエンジン10及びモータジェネレータ30を制御する。
【0035】
車両500は、走行モードとして、電動走行モードとハイブリッド走行モードとを有している。電動走行モードは、エンジン10及びモータジェネレータ30のうち、モータジェネレータ30のみからトルクを出力させるモードである。そのため、電動走行モードが選択されている場合、CPU101は、トルク要求値TsRに基づいてモータジェネレータ30を制御する。電動走行モードが選択されている場合は、エンジン10を運転させないため、CPU101はクラッチ20を開放させる。
【0036】
ハイブリッド走行モードは、エンジン10及びモータジェネレータ30の双方からトルクを出力させるモードである。エンジン10を運転させる場合、CPU101は、クラッチ20を係合させた状態で、トルク要求値TsRに基づいてエンジン10及びモータジェネレータ30を制御する。ハイブリッド走行モードが選択されている場合、CPU101は、エンジン10の運転を間欠的に停止させることがある。この場合、CPU101は、クラッチ20を開放させた状態で、トルク要求値TsRに基づいてモータジェネレータ30を制御する。
【0037】
ハイブリッド走行モードが選択されている状況下でエンジン10の運転を停止している場合、アクセル開度ACCPが大きくなるなどしてトルク要求値TsRが大きくなると、CPU101は、エンジン10の運転を始動させることがある。この場合、CPU101は、エンジン10を始動させることに加え、クラッチ20を係合状態にする。本実施形態では、CPU101は、エンジン10を始動させる際、第1始動処理及び第2始動処理のうちの何れかを選択し、選択した処理を実行することによってエンジン10を始動させる。
【0038】
図2を参照し、第1始動処理について説明する。
第1始動処理では、タイミングt11でエンジン10の始動が要求されると、クラッチ20が係合される。この場合ではクラッチ20がスリップ係合される。CPU101は、電動ポンプ80及び油圧制御回路90を制御することによってクラッチ油圧Pcを増大させる。これにより、クラッチ20の係合力が大きくなる。係合力が大きくなると、図2の(A)に示すようにクラッチ20のトルク容量Tcが大きくなる。クラッチ20がスリップ係合していると、モータトルクTmがクランク軸18に入力されるようになる。すると、モータジェネレータ30によってエンジン10がクランキングされるため、図2の(B)に示すようにエンジン回転数Neが大きくなる。そして、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmまで上昇する。すると、クラッチ油圧Pcが増大されてクラッチ20のトルク容量Tcが増大される。これにより、クラッチ20が完全係合される。
【0039】
なお、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmと実質的に同じになるタイミングを、「クラッチ20の同期タイミング」ともいう。クラッチ20の同期タイミング、又は同期タイミングよりも少し後のタイミングt12で、エンジン10での燃焼が開始される。すなわち、クラッチ20が完全係合したあとで、エンジン10での燃焼が開始される。
【0040】
図3を参照し、第2始動処理について説明する。
第2始動処理では、タイミングt21でエンジン10の始動が要求されると、クラッチ20が係合される。この場合ではクラッチ20がスリップ係合される。CPU101は、電動ポンプ80及び油圧制御回路90を制御することによってクラッチ油圧Pcを増大させる。これにより、クラッチ20の係合力が大きくなる。係合力が大きくなると、図3の(A)に示すようにクラッチ20のトルク容量Tcが大きくなる。クラッチ20がスリップ係合していると、モータトルクTmがクランク軸18に入力されるようになる。すると、モータジェネレータ30によってエンジン10がクランキングされるため、図3の(B)に示すようにエンジン回転数Neが大きくなる。
【0041】
第2始動処理では、第1始動処理とは異なり、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに達する前のタイミングt22で、エンジン10での燃焼が開始される。本実施形態では、モータジェネレータ30によるクランキングによって、クランク軸18が1回転したタイミング、又は、クランク軸18が2回転したタイミングで、エンジン10での燃焼が開始される。
【0042】
そのため、タイミングt22以降では、モータジェネレータ30によるクランキングと、エンジントルクTeの上昇との双方によって、エンジン回転数Neが急激に増大される。エンジン10が始動されると、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに達する前では、クラッチ20のトルク容量Tcが調整される。すなわち、CPU101は、油圧制御回路90を制御することによってクラッチ油圧Pcを減少させる。すると、タイミングt23からはクラッチ20のトルク容量Tcが減少される。トルク容量Tcが減少されると、クランク軸18からクラッチ20を介して駆動軸31に伝達されるトルクが小さくなる。これにより、クラッチ20のトルク伝達効率がより低くなる。このようにエンジン10の燃焼の開始からエンジン回転数Neがモータ回転数Nmに達するまでの期間では、クラッチ20のトルク容量Tcを調整することにより、駆動軸31に伝達されるエンジントルクTeが調整される。これにより、モータ回転数Nmの急激な増大が抑制される。
【0043】
タイミングt24でエンジン回転数Neがモータ回転数Nmと実質的に同等になると、CPU101による油圧制御回路90の制御によってクラッチ油圧Pcが増大される。その結果、図3の(B)に示すようにクラッチ20のトルク容量Tcが増大される。これにより、クラッチ20が完全係合するため、クラッチ20によるトルク伝達効率が最大となる。
【0044】
<エンジンを始動させる際に実行する処理>
図4図6を参照し、エンジン10を始動させる際にCPU101が実行する処理について説明する。
【0045】
図4に示すように、CPU101は、トルク容量予測処理M11とタービン回転数予測処理M13とを実行する。また、CPU101は、第1判定値候補設定処理M15と、第2判定値候補設定処理M17と、設定処理M19と、暫定選択処理M21とを実行する。さらに、CPU101は、増大量判定値設定処理M23と、最終決定処理M25と、始動処理M27とを実行する。
【0046】
<トルク容量予測処理>
トルク容量予測処理M11は、クラッチ20のトルク容量Tcの予測値である予測トルク容量Tceを導出する処理である。予測トルク容量Tceは、第2始動処理でエンジン10を始動させると仮定した場合におけるクラッチ20の同期タイミングのトルク容量Tcのことである。第2始動処理でエンジン10を始動させる場合、CPU101は、予め定めた態様でクラッチ油圧Pcの指令値を調整する。指令値の変動に対するクラッチ油圧Pcの実値の応答の態様は、モータ回転数Nm、システム軸トルクTsys及び入力軸回転数Natからある程度推測できる。
【0047】
そこで、CPU101は、トルク容量予測処理M11において、モータ回転数Nm、システム軸トルクTsys及び入力軸回転数Natを基に、予測トルク容量Tceを導出する。例えば、モータ回転数Nmが高いほどクラッチ20の同期タイミングが遅れると推測できる。そのため、CPU101は、モータ回転数Nmが高いほど小さい値を予測トルク容量Tceとして導出する。また例えば、システム軸トルクTsysが大きいほどクラッチ20の同期タイミングが遅れると推測できる。そのため、CPU101は、システム軸トルクTsysが大きいほど小さい値を予測トルク容量Tceとして導出する。また例えば、入力軸回転数Natが高いほどクラッチ20の同期タイミングが遅れると推測できる。そのため、CPU101は、入力軸回転数Natが高いほど小さい値を予測トルク容量Tceとして導出する。
【0048】
なお、エンジン10の運転が停止している場合、クラッチ20が開放されているため、CPU101は、モータトルクTmをシステム軸トルクTsysとして取得する。
<タービン回転数予測処理>
タービン回転数予測処理M13は、タービンインペラ43の回転速度の予測値である予測タービン回転数Nteを導出する処理である。タービンインペラ43の回転速度を「タービン回転数」とする。予測タービン回転数Nteとは、第2始動処理でエンジン10を始動させると仮定した場合におけるクラッチ20の同期タイミングのタービン回転数のことである。トルクコンバータ41のタービンインペラ43は変速機構46の入力軸47に連結されているため、タービン回転数は、入力軸回転数Natと実質的に同じである。つまり、予測タービン回転数Nteは、入力軸回転数Natの予測値であるとも云える。
【0049】
CPU101は、タービン回転数予測処理M13において、入力軸回転数Natから減速補正値ΔNatを引いた値を予測タービン回転数Nteとして導出する。減速補正値ΔNatは、車両500の駆動系の諸元から定まる値である。
【0050】
<第1判定値候補設定処理>
第1判定値候補設定処理M15は、第1マップMAP1を参照して、軸トルク判定値の候補値の1つである第1軸トルク判定値TsysTh1を導出する。第1マップMAP1は、予測タービン回転数Nteとシステム軸トルクTsysとの関係を示すマップである。第1マップMAP1では、予測タービン回転数Nteが第1基準回転数Nte1未満である場合には予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysが正の値となる。具体的には、予測タービン回転数Nteが第1基準回転数Nte1未満である場合、予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysは、予測タービン回転数Nteが小さくなるにつれて大きくなる。一方、予測タービン回転数Nteが第1基準回転数Nte1以上である場合には予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysが負の値となる。具体的には、予測タービン回転数Nteが第1基準回転数Nte1以上である場合、予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysの絶対値は、予測タービン回転数Nteが大きくなるにつれて大きくなる。
【0051】
CPU101は、第1判定値候補設定処理M15において、予測タービン回転数Nteに応じたシステム軸トルクTsysを、第1マップMAP1を参照して導出する。そして、CPU101は、第1マップMAP1を参照して導出したシステム軸トルクTsysを、第1軸トルク判定値TsysTh1として設定する。
【0052】
なお、詳しくは後述するが、第1マップMAP1は、上記の予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb未満である場合用のマップである。予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb未満である場合、システム軸トルクTsysが、第1マップMAP1を参照して設定した第1軸トルク判定値TsysTh1以上であると、第2始動処理でエンジン10を始動させても、エンジン10の始動に起因する振動の発生を抑制できる。
【0053】
<第2判定値候補設定処理>
第2判定値候補設定処理M17は、第2マップMAP2を参照して、軸トルク判定値の候補値の1つである第2軸トルク判定値TsysTh2を導出する。第2マップMAP2は、予測タービン回転数Nteとシステム軸トルクTsysとの関係を示すマップである。第2マップMAP2では、予測タービン回転数Nteが第2基準回転数Nte2未満である場合には予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysが正の値となる。具体的には、予測タービン回転数Nteが第2基準回転数Nte2未満である場合、予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysは、予測タービン回転数Nteが小さくなるにつれて大きくなる。一方、予測タービン回転数Nteが第2基準回転数Nte2以上である場合には予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysが負の値となる。具体的には、予測タービン回転数Nteが第2基準回転数Nte2以上である場合、予測タービン回転数Nteに対応するシステム軸トルクTsysの絶対値は、予測タービン回転数Nteが大きくなるにつれて大きくなる。なお、第2基準回転数Nte2として、第1基準回転数Nte1よりも大きい値が設定されている。
【0054】
CPU101は、第2判定値候補設定処理M17において、予測タービン回転数Nteに応じたシステム軸トルクTsysを、第2マップMAP2を参照して導出する。そして、CPU101は、第2マップMAP2を参照して導出したシステム軸トルクTsysを、第2軸トルク判定値TsysTh2として設定する。
【0055】
なお、詳しくは後述するが、第2マップMAP2は、上記の予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb以上である場合用のマップである。予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb以上である場合、システム軸トルクTsysが、第2マップMAP2を参照して設定した第2軸トルク判定値TsysTh2以上であると、第2始動処理でエンジン10を始動させても、エンジン10の始動に起因する振動の発生を抑制できる。
【0056】
また、第1判定値候補設定処理M15で第1軸トルク判定値TsysTh1が設定され、第2判定値候補設定処理M17で第2軸トルク判定値TsysTh2が設定される。第1軸トルク判定値TsysTh1及び第2軸トルク判定値TsysTh2は何れも予測タービン回転数Nteに応じたトルクである。本実施形態では、第2軸トルク判定値TsysTh2が第1軸トルク判定値TsysTh1よりも大きくなるように、第1マップMAP1及び第2マップMAP2がそれぞれ作成されている。なお、第2マップMAP2を示すグラフにおける破線は、第1マップMAP1における予測タービン回転数Nteとシステム軸トルクTsysとの関係を示す線である。
【0057】
<設定処理>
設定処理M19は、第1軸トルク判定値TsysTh1と第2軸トルク判定値TsysTh2とのうちの一方を軸トルク判定値TsysThとして設定する処理である。CPU101は、設定処理M19において、上記の予測トルク容量Tceに基づいて軸トルク判定値TsysThを設定する。具体的には、CPU101は、予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb未満である場合、第1軸トルク判定値TsysTh1を軸トルク判定値TsysThとして設定する。一方、CPU101は、予測トルク容量Tceが基準トルク容量Tcb以上である場合、第2軸トルク判定値TsysTh2を軸トルク判定値TsysThとして設定する。そのため、予測トルク容量Tceが大きい場合には、予測トルク容量Tceが小さい場合よりも大きい値が軸トルク判定値TsysThとして設定される。
【0058】
<暫定選択処理>
暫定選択処理M21は、軸トルク判定値TsysThとシステム軸トルクTsysとを基に、第1始動処理及び第2始動処理の何れか一方を暫定的に選択する処理である。CPU101は、暫定選択処理M21において、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh未満である場合には第1始動処理を暫定的に選択する。一方、CPU101は、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上である場合には暫定的に第2始動処理を選択する。
【0059】
<増大量判定値設定処理>
増大量判定値設定処理M23は、後述する増大量判定値ΔTsRThを設定する処理である。CPU101は、増大量判定値設定処理M23において、上記の予測トルク容量Tce、油温TOIL、及び、変速機構46によって選択されている変速段Zを基に、増大量判定値ΔTsRThを設定する。本実施形態では、CPU101は、増大量判定値ΔTsRThの基準値である基準増大量判定値ΔTsRThbを予測トルク容量Tce、油温TOIL及び変速段Zに基づいて補正した値を、増大量判定値ΔTsRThとして設定する。
【0060】
CPU101は、予測トルク容量Tceが小さいほど小さい値を第1補正ゲインG1として設定する。CPU101は、油温TOILが高いほど小さい値を第2補正ゲインG2として設定する。CPU101は、変速機構46によって選択されている変速段Zが高速側の変速段であるほど小さい値を第3補正ゲインG3として設定する。なお、複数の補正ゲインG1,G2,G3は、0(零)よりも大きく且つ1以下の値に設定される。そして、CPU101は、基準増大量判定値ΔTsRThbと第1補正ゲインG1と第2補正ゲインG2と第3補正ゲインG3との積を、増大量判定値ΔTsRThとして設定する。
【0061】
<最終決定処理>
最終決定処理M25は、実際にエンジン10の始動が要求された場合に、エンジン10の始動処理を最終的に決定する処理である。
【0062】
図5を参照し、最終決定処理M25について説明する。CPU101は、最終決定処理M25を所定の制御サイクル毎に繰り返し実行する。
ステップS11において、CPU101は、エンジン10の始動要求があるか否かを判定する。始動要求がない場合(S11:NO)、CPU101は最終決定処理M25を一旦終了する。一方、始動要求がある場合(S11:YES)、CPU101は処理をステップS13に移行する。ステップS13において、CPU101は、暫定選択処理M21で第1始動処理を暫定で選択したか否かを判定する。第1始動処理を暫定で選択した場合(S13:YES)、CPU101は処理をステップS15に移行する。一方、第2始動処理を暫定で選択した場合(S13:NO)、CPU101は処理をステップS19に移行する。
【0063】
ステップS15において、CPU101は、モータトルクTmに余力があるか否かを判定する。本実施形態では、CPU101は、エンジン10の始動時におけるモータトルクTmの最大値である始動時モータトルク最大値を導出する。具体的には、CPU101は、アクセル開度ACCPに基づいたトルク要求値TsRを用いて、エンジン10の始動時において電力が最も必要となるときのシステム軸トルクの予測値を導出する。続いて、CPU101は、当該システム軸トルクの予測値とクランキングトルクの反力トルクとの和を、始動時モータトルク最大値として導出する。そして、CPU101は、モータジェネレータ30が始動時モータトルク最大値を出力できる場合にはモータトルクTmに余力があると判定する。一方、CPU101は、モータジェネレータ30が始動時モータトルク最大値を出力できない場合にはモータトルクTmに余力がないと判定する。そして、モータトルクTmに余力があると判定した場合(S15:YES)、CPU101は処理をステップS21に移行する。一方、モータトルクTmに余力がないと判定した場合(S15:NO)、CPU101は処理をステップS17に移行する。
【0064】
ステップS17において、CPU101は、上記のトルク要求値TsRの増大量ΔTsRが上記の増大量判定値ΔTsRTh以上であるか否かを判定する。車両500の運転者がアクセルペダルを操作している状況下でエンジン10の始動が要求された場合、CPU101は、アクセル開度ACCPの増大量に基づき、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であるか否かを判定する。例えば、CPU101は、所定期間内でのアクセル開度ACCPの増大量ΔACCPを基に、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であると判定する。
【0065】
図6に示すように、CPU101は、アクセル開度ACCPの現在値ACCP1と、現時点から所定時間TAだけ前の時点のアクセル開度ACCPを基準アクセル開度ACCPbとを取得する。所定時間TAは、上記所定期間の時間の長さである。CPU101は、アクセル開度の現在値ACCP1から基準アクセル開度ACCPbを引いた値を、所定期間内でのアクセル開度の増大量ΔACCPとして導出する。そして、CPU101は、アクセル開度の増大量ΔACCPが開度増大量判定値ΔACCPth以上である場合、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であると判定する。一方、CPU101は、アクセル開度の増大量ΔACCPが開度増大量判定値ΔACCPth未満である場合、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満であると判定する。
【0066】
なお、本実施形態では、上記の予測トルク容量Tce、油温TOIL及び変速段Zに応じて増大量判定値ΔTsRThが可変する。そのため、増大量判定値ΔTsRThが大きいほど大きい値が開度増大量判定値ΔACCPthとして設定される。
【0067】
図5に戻り、ステップS17においてトルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であると判定した場合(YES)、CPU101は処理をステップS19に移行する。一方、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満であると判定した場合(S17:NO)、CPU101は処理をステップS21に移行する。
【0068】
ステップS19において、CPU101は、エンジン10を始動させる処理として第2始動処理を決定する。その後、CPU101は最終決定処理M25を終了する。
ステップS21において、CPU101は、エンジン10を始動させる処理として第1始動処理を決定する。その後、CPU101は最終決定処理M25を終了する。
【0069】
<始動処理>
始動処理M27は、エンジン10を始動させる処理である。CPU101は、最終決定処理M25で決定した始動処理でエンジン10を始動させる。最終決定処理M25で決定した始動処理が第1始動処理である場合、CPU101は第1始動処理を始動処理M27として実行する。最終決定処理M25で決定した始動処理が第2始動処理である場合、CPU101は第2始動処理を始動処理M27として実行する。
【0070】
<本実施形態の作用及び効果>
ハイブリッド走行モードが選択されている状況下でエンジン10の運転が停止されている場合に、運転者がアクセルペダルを操作し始めたことなどに起因してトルク要求値TsRが増大されると、エンジン10の始動が要求されることがある。制御装置100は、エンジン10を始動させるための処理として第1始動処理及び第2始動処理を用意している。
【0071】
第1始動処理でエンジン10を始動させる場合、図2を用いて説明したようにエンジン回転数Neをモータ回転数Nmまで上昇させてからエンジン10での燃焼が開始される。そのため、エンジン10の始動に起因するモータ回転数Nmの変動をモータジェネレータ30やクラッチ20によって抑えやすい。第1始動処理でエンジン10を始動させる場合、エンジン回転数Neの急増に起因するモータ回転数Nmの急激な変化を抑制できるため、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で発生しにくい。しかし、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmまで上昇するまでの間、エンジン10での燃焼が開始されないため、エンジン10の始動完了が遅延してしまう。
【0072】
第2始動処理でエンジン10を始動させる場合、図3を用いて説明したようにエンジン回転数Neがモータ回転数Nm未満の状態でエンジン10での燃焼が開始される。そのため、エンジン10の始動に起因するモータ回転数Nmの変動をモータジェネレータ30やクラッチ20によって抑えにくい。その結果、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で発生しやすい。しかし、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに達する前にエンジン10が始動されるため、エンジン10の始動を早期に完了できる。
【0073】
ここで、第2始動処理を実行する場合には、第1始動処理を実行した場合よりもエンジン10の始動に起因する振動が車両500で発生しやすい理由について詳述する。エンジン10での燃焼の開始直後、より具体的には初爆直後では、エンジントルクTe及びクラッチ20のトルク容量Tcがばらつくため、エンジン回転数Neの増大速度がばらつきやすい。このとき、モータ回転数Nmが十分に高いと、エンジン回転数Neの増大速度のばらつきは収束するため、クラッチ20の同期タイミングはあまりばらつかない。一方、モータ回転数Nmが比較的低いと、エンジン回転数Neの増大速度のばらつきが収束しにくいため、クラッチ20の同期タイミングがばらつきやすい。エンジン10の始動に起因する振動は、モータトルクTmによって緩和させることができる。しかし、クランク角センサ111及びモータ角センサ114の検出の応答遅れ、及びモータトルクTmの応答遅れがあるため、エンジン回転数Neの増大速度を基に、クラッチ20の同期タイミングを予測する必要がある。第1始動処理では、同期タイミングよりも前ではエンジン10での燃焼が行われていないため、エンジン回転数Neの増大速度が低く、且つ増大速度があまりばらつかない。その結果、クラッチ20の同期タイミングを精度良く予測できるため、エンジン10の始動に起因する振動が生じにくい。
【0074】
これに対し、第2始動処理では、エンジン回転数Neの増大速度がばらつくため、クラッチ20の同期タイミングを精度良く予測できない。そのため、図3に示したタイミングt23でクラッチ20のトルク容量Tcを一旦低下させることにより、エンジン10の始動に起因する振動の抑制を図っている。しかし、モータトルクTmが比較的小さい状態で第2始動処理を実行した場合、クラッチ20の同期タイミングが、トルク容量Tcの低下を開始させるタイミングt23よりも以前になることがある。この場合、トルク容量Tcの低下が間に合わないため、エンジン10の始動に起因する振動が発生してしまう。
【0075】
ところで、トルク要求値の増大量ΔTsRが大きいほど、車両500の加速度が大きくなる。車両500の加速度が大きい場合、加速度が小さい場合と比較し、車両500で振動が発生したことに対して車両500の乗員が不快に感じにくい。また、トルク要求値の増大量ΔTsRが大きい場合には、エンジン10の始動を早期に完了させてエンジントルクTeを速やかに増大させることが望ましい。
【0076】
本実施形態では、エンジン10を始動させる際において、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上である場合には第2始動処理によってエンジン10が始動される。この場合、エンジン10の始動を早期に完了させることができるとともに、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で発生したとしても、当該振動に対して乗員が不快に感じにくい。一方、エンジン10を始動させる際において、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満である場合には第1始動処理によってエンジン10が始動される。この場合、エンジン10の始動の完了に遅れが生じるものの、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で生じにくい。
【0077】
したがって、制御装置100は、エンジン10の始動時に乗員が不快に感じることの抑制と、エンジン10の始動の早期完了とを両立することができる。
なお、本実施形態では以下に示す効果をさらに得ることができる。
【0078】
(1)トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上である場合、第2始動処理が実行されるため、エンジン10の始動が早期に完了する。すなわち、エンジントルクTeによってシステム軸トルクTsysを増大させることのできる状態を早期に作り出すことができる。したがって、トルク要求値TsRの増大に対するシステム軸トルクTsysの増大の応答遅れを抑制できる。一方、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満である場合には、システム軸トルクTsysの増大速度をそれほど大きくしなくてもよい。そのため、第1始動処理によってエンジン10が始動される。そのため、車両500の急加速が要求されていない場合には、エンジン10の始動に伴う振動の発生を抑制できる分、エンジン10の始動時に乗員が不快に感じにくくなる。
【0079】
(2)本実施形態では、エンジン10の始動が要求されていない段階で、エンジン10を始動させる処理として、第1始動処理及び第2始動処理の何れかが暫定で選択される。具体的には、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh未満である場合には第1始動処理が暫定で選択される。システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上である場合には第2始動処理が暫定で選択される。
【0080】
ここで、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上である場合には、エンジン回転数Neが急激に増大してもモータ回転数Nmが変動しにくい。すなわち、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で生じにくい。
【0081】
そして、第2始動処理が暫定で選択されている状態でエンジン10の始動が要求された場合、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満であっても第2始動処理でエンジン10が始動される。そのため、エンジン10の始動時に運転者が不快に感じることを抑制しつつ、エンジン10の始動を早期に完了させることができる。また、第2始動処理でエンジン10を始動させる機会を増やすことができる。
【0082】
一方、第1始動処理が暫定で選択されている状態でエンジン10の始動が要求された場合においてトルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満であるときには、第1始動処理でエンジン10が始動される。すなわち、システム軸トルクTsysが小さくてエンジン10の始動時に振動が車両500で発生しやすい場合には、第1始動処理が実行される。第1始動処理でエンジン10を始動させる場合には振動が車両500で発生しにくいため、エンジン10の始動時に乗員が不快に感じにくい。
【0083】
(3)第2始動処理でエンジン10を始動させたと仮定した場合にクラッチ20のトルク容量Tcが小さくなる場合、エンジントルクTeが急激に上昇した際に、エンジントルクTeの変動をクラッチ20で減衰させやすい。すなわち、第2始動処理でエンジン10を始動させたと仮定した場合にトルク容量Tcが小さくなるほど、エンジン10の始動に起因する振動が車両500で発生しにくい。そこで、本実施形態では、第2始動処理でエンジン10を始動させたと仮定した場合のトルク容量の予測値である予測トルク容量Tceが小さいほど小さい値が増大量判定値ΔTsRThとして設定される。これにより、第2始動処理でエンジン10を始動させた際にトルク容量Tcを小さくできると予測できる場合には第2始動処理が実行されやすくなる。すなわち、エンジン10の始動時に振動が車両500で発生することを抑制しつつ、第2始動処理の実行機会を増やすことができる。
【0084】
(4)油温TOILが高いために作動油の粘度が低い場合、クラッチ油圧Pcを調整しやすい。すなわち、クラッチ油圧Pcの減少を指示した場合、クラッチ油圧Pcの減少が速やかに開始される。一方、油温TOILが低くて作動油の粘度が高い場合、クラッチ油圧Pcを調整しにくい。すなわち、クラッチ油圧Pcの減少が指示された際におけるクラッチ油圧Pcの応答性が低い。例えば図3に示したタイミングt23でクラッチ20のトルク容量Tcを減少させるためにクラッチ油圧Pcの減少が指示されても、クラッチ油圧Pcの減少の開始が遅れてしまう。その結果、実際にトルク容量Tcが小さくなる前にエンジン回転数Neが高くなるため、エンジン10の始動に起因する振動が発生しやすい。
【0085】
本実施形態では、油温TOILが高いほど小さい値が増大量判定値ΔTsRThとして設定される。これにより、油温TOILが高くてクラッチ油圧Pcの応答性が高い場合には第2始動処理が実行されやすくなる。すなわち、エンジン10の始動時に振動が車両500で発生することを抑制しつつ、第2始動処理の実行機会を増やすことができる。
【0086】
(5)変速機構46の変速段Zとして高速側の変速段が選択されている場合、変速機構46の変速段Zとして低速側の変速段が選択されている場合と比較し、エンジン10の始動に起因する振動が大きくなりにくい。本実施形態では、変速機構46によって選択されている変速段Zが高速側の変速段であるほど小さい値が増大量判定値ΔTsRThとして設定される。これにより、変速段Zが高速側の変速段であるほど第2始動処理が実行されやすくなる。すなわち、エンジン10の始動時に振動が車両500で発生することを抑制しつつ、第2始動処理の実行機会を増やすことができる。
【0087】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0088】
・増大量判定値ΔTsRThを、変速機構46によって選択されている変速段Zに応じて可変させなくてもよい。この場合、車両500は変速装置を備えない構成であってもよい。
【0089】
・増大量判定値ΔTsRThを、油温TOILに応じて可変させなくてもよい。この場合、エンジン10とモータジェネレータ30との間に配置するクラッチとして、電磁駆動式のクラッチを採用してもよい。
【0090】
・増大量判定値ΔTsRThを、上記の予測トルク容量Tceに応じて可変させなくてもよい。
・上記実施形態では、予測トルク容量Tce、変速段Z及び油温TOILに基づいて増大量判定値ΔTsRThを可変させる一方で、所定期間の長さを固定しているが、これに限らない。例えば、増大量判定値ΔTsRThを固定し、所定期間の長さを、予測トルク容量Tce、変速段Z及び油温TOILのうちの少なくとも1つのパラメータに応じて可変させるようにしてもよい。例えば、予測トルク容量Tceが小さいほど、所定期間の長さを長くするようにしてもよい。また例えば、変速段Zが高速側の変速段であるほど、所定期間の長さを長くするようにしてもよい。また例えば、油温TOILが高いほど、所定期間の長さを長くするようにしてもよい。
【0091】
・車速を自動で制御する機能を車両500が有しているような場合では、制御装置100以外の他の制御装置から車両500の加速が要求されることがある。他の制御装置としては、例えば、車両500のブレーキを制御する制御装置、自動運転に関する各種の指令を生成する制御装置がある。この場合、制御装置100では、他の制御装置からの要求又は指令に基づいて、トルク要求値TsRが導出される。そして、この際におけるトルク要求値の増大量ΔTsRを用い、第1始動処理を実行するか第2始動処理を実行するかが決定される。
【0092】
・上記実施形態では、エンジン10の始動の要求がない場合には暫定選択処理M21によって、第1始動処理及び第2始動処理の何れかを、エンジン10を始動させる処理として暫定で選択していたが、これに限らない。すなわち、暫定選択処理M21を実行しなくてもよい。
【0093】
例えば、エンジン10の始動が要求された場合に、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上であるか否かの判定と、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であるか否かの判定とを行うようにしてもよい。そして、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上であること、及び、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であることのうち少なくとも一方が成立している場合には、第2始動処理を実行することが好ましい。一方、システム軸トルクTsysが軸トルク判定値TsysTh以上であること、及び、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であることの何れもが成立していない場合には、第1始動処理を実行することが好ましい。
【0094】
また例えば、エンジン10の始動が要求された場合に、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上であるか否かの判定を行い、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh以上である場合には第2始動処理を実行するようにしてもよい。一方、トルク要求値の増大量ΔTsRが増大量判定値ΔTsRTh未満である場合には第1始動処理を実行することになる。この場合、システム軸トルクTsysの大きさとは無関係に、第1始動処理及び第2始動処理の中から、実行する処理が決められることになる。
【0095】
図5に示した最終決定処理M25では、ステップS15の判定を省略してもよい。
・モータ回転数Nmに応じた複数の第1マップMAP1を有していてもよい。この場合、第1判定値候補設定処理M15では、複数の第1マップMAP1の中から、そのときのモータ回転数Nmに応じた第1マップMAP1が選択される。そして、選択した第1マップMAP1を参照することにより、予測タービン回転数Nteに応じたシステム軸トルクTsysが第1軸トルク判定値TsysTh1として設定される。
【0096】
・モータ回転数Nmに応じた複数の第2マップMAP2を有していてもよい。この場合、第2判定値候補設定処理M17では、複数の第2マップMAP2の中から、そのときのモータ回転数Nmに応じた第2マップMAP2が選択される。そして、選択した第2マップMAP2を参照することにより、予測タービン回転数Nteに応じたシステム軸トルクTsysが第2軸トルク判定値TsysTh2として設定される。
【0097】
・上記実施形態では、変速装置40に作動油を供給する電動ポンプ80及び油圧制御回路90が、クラッチ20への油圧の供給系を兼ねているが、これに限らない。クラッチ20に油圧を供給する装置が、電動ポンプ80及び油圧制御回路90とは別に設けられてもよい。
【0098】
・変速装置は、トルクコンバータを備えない構成であってもよい。
・変速機構は、無段式の変速機構でもよい。この場合、変速機構の変速比に応じて増大量判定値ΔTsRThを設定するとよい。
【0099】
・制御装置100は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0100】
(a)制御装置100は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0101】
(b)制御装置100は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0102】
(c)制御装置100は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0103】
10…エンジン
18…クランク軸
20…クラッチ
30…モータジェネレータ
31…駆動軸
40…変速装置
46…変速機構
100…制御装置
101…CPU
500…ハイブリッド車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6