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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20250109BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250109BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250109BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20250109BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250109BHJP
   F02N 11/04 20060101ALI20250109BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250109BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250109BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20250109BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/50 ZHV
B60K6/48
F02N11/04 D
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/10
B60W20/17
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022028212
(22)【出願日】2022-02-25
(65)【公開番号】P2023124448
(43)【公開日】2023-09-06
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】村上 香治
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-009439(JP,A)
【文献】特開2010-216363(JP,A)
【文献】特開2005-282600(JP,A)
【文献】特開2017-094827(JP,A)
【文献】特開平11-173179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277881(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/00
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/50
B60K 6/48
F02N 11/04
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/10
B60W 20/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトを介して互いに接続されたエンジンとモータジェネレータと、前記モータジェネレータに電力を供給するように構成されたバッテリと、前記エンジンを始動するように構成されたスタータとを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
処理回路を備え、
前記処理回路は、前記エンジンの始動の実行条件が満たされたとき、エンジン始動処理を実行するように構成され、
前記エンジン始動処理は、
前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動する第1始動処理と、
前記第1始動処理において前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度が0未満になったことと前記エンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に実行される第2始動処理と、を含み、
前記第2始動処理は、前記バッテリから前記モータジェネレータへの電力の供給を中断した後に、前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動することを含み、
前記処理回路は、前記第1始動処理を実行中において、前記第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、
前記処理回路は、前記第2始動処理を実行中において、前記経過時間が第2時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度が前記エンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、前記第2時間閾値は前記第1時間閾値よりも大きく、
前記処理回路は、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗した場合には、前記スタータによって前記エンジンを始動するように構成されており、
前記第2始動処理において前記バッテリから前記モータジェネレータへの電力の供給が中断されている期間である中断期間は、前記エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に前記中断期間の終了時点が一致するように設定される、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記処理回路は、負である前記モータジェネレータの回転速度が、負の閾値よりも大きく、かつ、前記モータジェネレータの回転速度が増加していることに基づいて、前記中断期間の前記終了時点を予測するように構成されている、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の制御装置は、エンジンを始動する始動処理を実行する。当該制御装置は、始動処理を開始した時点から一定期間の経過後にエンジン回転速度が所定回転速度以下の場合、エンジンの始動が失敗したと判定する。
【0003】
特許文献2に記載の制御装置は、モータジェネレータとスタータとエンジンとを備える車両を制御する。当該制御装置は、モータジェネレータによってエンジンを始動することに失敗したと判定した場合、スタータによりエンジンを始動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-009743号公報
【文献】特開2013-082404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スタータによるエンジンの始動は次のように行われる。まず、スタータのピニオンギヤが、クランクシャフトに取り付けられたドライブプレートに噛み合う。次いで、スタータが、バッテリからの電力により駆動される。これにより、クランクシャフトが回転し始めエンジンが始動される。スタータによるエンジンの始動の際、大きな力がドライブプレートに加わる。このため、スタータによるエンジンの始動には、大きな騒音が伴う。
【0006】
例えば、モータジェネレータをエンジンにベルトによって接続する構成が考えられる。係る構成の場合、モータジェネレータによるエンジンの始動は、スタータによるエンジンの始動よりも静粛性が高い。これは、ベルトによるエンジンの駆動は、ギアによるエンジンの駆動よりも静粛性が高いことに起因する。
【0007】
エンジンとモータジェネレータとがベルトによって接続されているこうしたハイブリッド車両に対して、一定期間の経過に基づいてモータジェネレータによる始動の失敗を判定する構成を適用することが考えられる。当該一定期間は、モータジェネレータでのクランキングのような高電圧での電力供給を長時間続けることに起因してバッテリが損傷することを回避するべく設定されている。さらに、上記ハイブリッド車両に対して、モータジェネレータによるエンジンの始動が失敗したときにスタータによりエンジンを始動する構成を適用することが考えられる。上述したように、静粛性の観点で、モータジェネレータによるエンジンの始動の機会を増やすことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本開示の一態様によれば、ベルトを介して互いに接続されたエンジンとモータジェネレータと、前記モータジェネレータに電力を供給するように構成されたバッテリと、前記エンジンを始動するように構成されたスタータとを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、処理回路を備え、前記処理回路は、前記エンジンの始動の実行条件が満たされたとき、エンジン始動処理を実行するように構成され、前記エンジン始動処理は、前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動する第1始動処理と、前記第1始動処理において前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度が0未満になったことと前記エンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に実行される第2始動処理と、を含み、前記第2始動処理は、前記バッテリから前記モータジェネレータへの電力の供給を中断した後に、前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動することを含み、前記処理回路は、前記第1始動処理を実行中において、前記第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、前記処理回路は、前記第2始動処理を実行中において、前記経過時間が第2時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度が前記エンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、前記第2時間閾値は前記第1時間閾値よりも大きく、前記処理回路は、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗した場合には、前記スタータによって前記エンジンを始動するように構成されている、ハイブリッド車両の制御装置が提供される。
【0009】
処理回路が第1始動処理を実行して、第2始動処理を実行することなくエンジンの始動が成功する場合がある。これに対し、処理回路が第1始動処理と第2始動処理とを実行することによりエンジンの始動が成功する場合がある。上記構成では、エンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に、処理回路は第1始動処理を終了し、第2始動処理を開始する。これは、第1始動処理の実行中にエンジン回転速度が0未満になった場合又はエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されている場合には、第1始動処理を継続してもエンジンを始動できないと考えられるためである。上記構成では、第2始動処理が実行されない構成と比較して、モータジェネレータでのエンジンの始動の機会を増やすことができる。
【0010】
ここで、第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、始動が成功することがある理由について説明する。エンジンは、円柱状のピストンと、ピストンの外周のリング溝に嵌められたピストンリングを有している。ある気筒が圧縮行程にあり、別の気筒が膨張行程にあることに起因して、モータジェネレータに大きな負荷がかかる。第1始動処理の実行中、圧縮行程にある気筒において、ピストンリングがリング溝の下端に押し付けられている。第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、初めに、モータジェネレータへの電力の供給が中断される。これにより、圧縮行程にある気筒においてピストンが下降する。ピストンが下降するとき、ピストンリングが一瞬リング溝の下端から離間するので、リング溝において空気の通り道が生じる。当該空気の通り道を通じて、圧縮空気が気筒から逃げる。このため、第2始動処理においては、第1始動処理の場合と比較して、圧縮行程にある気筒における空気の反発力が小さくなる。したがって、第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、始動が成功する可能性がある。
【0011】
上記構成では、第1始動処理を開始した時点からの経過時間と比較される時間閾値が、第1始動処理実行中と第2始動処理実行中とで異なる。すなわち、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値を設定した理由を説明する。仮にモータジェネレータでのクランキングのような高電圧での電力供給を長時間続けた場合、バッテリが損傷する可能性がある。第1時間閾値及び第2時間閾値は、バッテリの損傷を回避できるように設定されている。第2始動処理においては、バッテリからモータジェネレータへの電力の供給が中断されている期間が存在する。このため、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。
【0012】
バッテリからモータジェネレータへの電力の供給が中断されている期間が存在することを考慮せずに一律の一定期間の経過に基づいてモータジェネレータによるエンジンの始動の失敗を判定する比較例が考えられる。比較例では、バッテリの損傷を回避することと第2始動処理を実行することによりエンジンの始動を成功させることが両立するにもかかわらず、始動失敗と判定される可能性がある。
【0013】
上記構成では、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。このため、比較例と比較して、モータジェネレータでのエンジンの始動の機会を増やすことができる。
【0014】
上記ハイブリッド車両の制御装置において、前記第2始動処理において前記バッテリから前記モータジェネレータへの電力の供給が中断されている期間である中断期間は、前記エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に前記中断期間の終了時点が一致するように設定されてもよい。
【0015】
第2始動処理の開始時点において、ある気筒が圧縮行程にあり、別の気筒が膨張行程にある。第2始動処理は、第1始動処理においてエンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に実行される。第2始動処理が、第1始動処理においてエンジン回転速度が0未満になった場合に実行された場合、中断期間の開始時点においてエンジン回転速度は負である。第2始動処理が、第1始動処理においてエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されている場合に実行された場合、空気の反発力に起因して、トルク抜き期間Cの開始直後にエンジン回転速度は負となる。このため、中断期間において、圧縮行程にある気筒では空気が膨張し、膨張行程にある気筒では空気が圧縮される。やがて、膨張行程にある気筒において圧縮された空気がピストンを押し下げる力により、エンジン回転速度が0になる。
【0016】
上記構成では、中断期間の終了時点が、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に一致するように設定される。処理回路は、中断期間の終了後、エンジンをクランキングするべくバッテリからモータジェネレータに電力を供給してモータジェネレータを駆動する。エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わった直後において、膨張行程にある気筒において、ピストンが圧縮空気により押し下げられる。つまり、圧縮空気がエンジンの正方向の回転に寄与する。したがって、エンジン回転速度が負である時点からエンジンをクランキングする構成と比較して、効果的にエンジンをクランキングできる。
【0017】
上記ハイブリッド車両の制御装置において、前記処理回路は、負である前記モータジェネレータの回転速度が、負の閾値よりも大きく、かつ、前記モータジェネレータの回転速度が増加していることに基づいて、前記中断期間の前記終了時点を予測するように構成されていてもよい。
【0018】
上記構成とは異なり、処理回路がモータジェネレータの回転速度が0であることに基づいて、中断期間の終了時点を判定する構成では、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に中断期間の終了時点を一致させるのが困難である。これに対し、上記構成では、処理回路は、負であるモータジェネレータの回転速度が、0になる前に負の閾値よりも大きいことに基づいて、中断期間の終了時点を予測する。このため、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に中断期間の終了時点を一致させやすい。
【0019】
本開示の一態様によれば、ベルトを介して互いに接続されたエンジンとモータジェネレータと、前記モータジェネレータに電力を供給するように構成されたバッテリと、前記エンジンを始動するように構成されたスタータとを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、処理回路を備え、前記処理回路は、前記エンジンの始動の実行条件が満たされたとき、エンジン始動処理を実行するように構成され、前記エンジン始動処理は、前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動する第1始動処理と、前記第1始動処理において前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度が0未満になったことを条件に実行される第2始動処理と、を含み、前記第2始動処理は、前記バッテリから前記モータジェネレータへの電力の供給を中断した後に、前記エンジンをクランキングするべく前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記モータジェネレータを駆動することを含み、前記処理回路は、前記第1始動処理を実行中において、前記第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、前記処理回路は、前記第2始動処理を実行中において、前記経過時間が第2時間閾値を上回り、かつ、前記エンジン回転速度が前記エンジン回転速度閾値未満である場合には、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗したと判定するように構成され、前記第2時間閾値は前記第1時間閾値よりも大きく、前記処理回路は、前記モータジェネレータによる前記エンジンの始動が失敗した場合には、前記スタータによって前記エンジンを始動するように構成されている、ハイブリッド車両の制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る制御装置と、同制御装置の制御対象であるハイブリッド車両とを示す模式図である。
図2】燃焼サイクルを示す図である。
図3】第1始動処理及び第2始動処理における複数の気筒の動きを示す模式図である。
図4】第2始動処理の開始後に生じるピストンリングの動きを説明する図である。
図5】第1始動処理によってモータジェネレータによるエンジンの始動に成功する場合のタイムチャートである。
図6】第1始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータによるエンジンの始動に失敗する場合のタイムチャートである。
図7】第2始動処理によってモータジェネレータによるエンジンの始動に成功する場合のタイムチャートである。
図8】第2始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータによるエンジンの始動に失敗する場合のタイムチャートである。
図9図1の制御装置が実行する処理のフローチャートである。
図10図1の制御装置が実行する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、一実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置である制御装置34について、図面を参照して説明する。
<ハイブリッド車両100の構成について>
図1は、一実施形態に係る制御装置34の制御対象であるハイブリッド車両(以下、車両)100を示している。制御装置34は車両100に搭載されている。車両100は、内燃機関(以下、エンジン)10とモータジェネレータ12とを備える。空調コンプレッサ(以下、ACコンプレッサ)14が車両100に搭載されている。エンジン10はクランクプーリ10aを有する。モータジェネレータ12はモータジェネレータプーリ12aを有する。ACコンプレッサ14はACコンプレッサプーリ14aを有する。クランクプーリ10aと、モータジェネレータプーリ12aと、ACコンプレッサプーリ14aとが、ベルト16を介して互いに接続されている。
【0022】
このように、車両100ではエンジン10とモータジェネレータ12とがベルト16を介して互いに接続されている。制御装置34は、こうした車両100を制御する。
さらに、車両100は、トランスミッション18と、スタータ20と、DC-DCコンバータ22と、補機24と、高圧バッテリ26と、低圧バッテリ28と、を備えている。高圧バッテリ26は、例えば、Liイオンバッテリである。低圧バッテリ28は、例えば、鉛バッテリである。トランスミッション18はエンジン10に接続されている。スタータ20はトランスミッション18に接続されている。スタータ20はトランスミッション18を駆動可能である。スタータ20でトランスミッション18を駆動することによってエンジン10を始動することができる。高圧バッテリ26は、モータジェネレータ12と、DC-DCコンバータ22とに接続されている。モータジェネレータ12は、高圧バッテリ26から電力の供給を受けることによって、エンジン10を始動することができる。低圧バッテリ28は、スタータ20と、DC-DCコンバータ22と、補機24とに接続されている。
【0023】
エンジン10は、4つの気筒#1、#2、#3、#4を備えている。各気筒#1~#4について、吸気バルブ40が開弁しているとき、吸入された空気が燃焼室38に流入する。燃焼室38には、燃料噴射弁44によって燃料が噴射される。燃焼室38において、空気と燃料との混合気は、点火装置46による火花放電によって燃焼する。燃焼によって生じたエネルギは、エンジン10のクランクシャフトの回転エネルギとして取り出される。エンジン10のクランクシャフトは、トランスミッション18に接続されている。燃焼に供された混合気は、排気バルブ42が開弁しているとき、燃焼室38から排出される。
【0024】
制御装置34は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを含む。制御装置34は、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。制御装置34は、エンジン10及びモータジェネレータ12等を制御可能である。
【0025】
エンジン回転速度センサ30がエンジン10に設けられている。制御装置34は、エンジン回転速度センサ30を通じてエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度を取得できる。モータジェネレータ回転速度センサ32がモータジェネレータ12に設けられている。制御装置34は、モータジェネレータ回転速度センサ32を通じてモータジェネレータ12の回転速度を取得できる。
【0026】
<モータジェネレータ12によるエンジン10の始動の成功に寄与する要因>
エンジン回転速度が0である状態から、モータジェネレータ12がエンジン10を始動する状況を想定する。
【0027】
図2に示すように、気筒#1は、クランク角度が0~180度のとき膨張行程にある。気筒#1は、クランク角度が180~360度のとき、排気行程にある。気筒#1は、クランク角度が360~540度のとき、吸入行程にある。気筒#1は、クランク角度が540~720度のとき圧縮行程にある。
【0028】
図2に示すように、気筒#2は、クランク角度が0~180度のとき排気行程にある。気筒#2は、クランク角度が180~360度のとき、吸入行程にある。気筒#2は、クランク角度が360~540度のとき、圧縮行程にある。気筒#2は、クランク角度が540~720度のとき膨張行程にある。
【0029】
図2に示すように、気筒#3は、クランク角度が0~180度のとき圧縮行程にある。気筒#3は、クランク角度が180~360度のとき、膨張行程にある。気筒#3は、クランク角度が360~540度のとき、排気行程にある。気筒#3は、クランク角度が540~720度のとき吸入行程にある。
【0030】
図2に示すように、気筒#4は、クランク角度が0~180度のとき吸入行程にある。気筒#4は、クランク角度が180~360度のとき、圧縮行程にある。気筒#4は、クランク角度が360~540度のとき、膨張行程にある。気筒#4は、クランク角度が540~720度のとき排気行程にある。
【0031】
このように、いずれのクランク角度においても、4つの気筒#1~#4のうち1つが圧縮行程にあるとともに、4つの気筒#1~#4のうちの別の1つが膨張行程にある。圧縮行程或いは膨張行程にある気筒においては、吸気バルブ40及び排気バルブ42が閉弁している。このため、モータジェネレータ12がエンジン10を始動する際、圧縮行程或いは膨張行程にある気筒におけるピストン50は動きにくい。すなわち、モータジェネレータ12に負荷がかかる。例えば、クランク角度0度からモータジェネレータ12がエンジン10を駆動し始めると、気筒#1及び気筒#3に起因してモータジェネレータ12に負荷がかかる。例えば、クランク角度180度よりも手前からモータジェネレータ12がエンジン10を駆動し始めると、クランク角度180度を通り越した後、気筒#3及び気筒#4に起因してモータジェネレータ12に負荷がかかる。
【0032】
モータジェネレータ12が、圧縮行程にある気筒及び膨張行程にある気筒において生じる負荷に打ち勝つことができればエンジン10の始動に成功する。
<第1始動処理及び第2始動処理の概要>
図3は、第1始動処理及び第2始動処理を通じてモータジェネレータ12がエンジン10の始動に成功する場合を示している。
【0033】
図3の(a)は、クランク角度45度の状態を示している。クランク角度45度において気筒#1は膨張行程にあるとともに、気筒#3は圧縮行程にある。クランク角度45度の状態の状態から、モータジェネレータ12がエンジン10を駆動し始める。
【0034】
図3の(b)は、クランク角度160度の状態を示している。気筒#3における圧縮空気に起因して、クランク角度160度においてエンジン回転速度が0未満になったとする。エンジン回転速度が0未満になったことに応じて、制御装置34は、高圧バッテリ26からモータジェネレータ12への電力の供給を中断する。
【0035】
制御装置34がモータジェネレータ12への電力の供給を中断したことに応じて、クランクシャフトが逆転し始める。やがて、図3の(c)に示すように、エンジン回転速度が0となる。図3の(c)は、クランク角度75度の状態を示している。
【0036】
次いで、制御装置34は、モータジェネレータ12への電力の供給を開始することによってモータジェネレータ12を駆動し始める。図3の(d)に示すようにクランク角度180度の状態が実現している。係る場合、モータジェネレータ12が、エンジン10の始動に成功する。
【0037】
クランク角度45度の状態の状態からモータジェネレータ12がエンジン10を駆動し始めた時点から、エンジン回転速度が0未満になった時点までの処理が第1始動処理に相当する。エンジン回転速度が0未満になった時点以降の処理が第2始動処理に相当する。
【0038】
図4を参照して、第1始動処理及び第2始動処理を通じてエンジン10の始動に成功する場合がある理由を説明する。
図4は、圧縮行程にある気筒#3におけるピストン50を示している。ピストン50の外周面にはリング溝52が形成されている。リング溝52には、ピストンリング54が嵌められている。
【0039】
モータジェネレータ12がエンジン10を駆動し始めた時点からエンジン回転速度が0になる時点までにおいて、ピストンリング54の下部がピストン50に密着している。このとき、ピストン50はモータジェネレータ12の駆動力によって図4における上方に受かって駆動されている。そして、ピストンリング54には気筒#3内の空気の圧力が作用している。そのためピストンリング54には、ピストンリング54を図4における下方に押し下げる力が作用している。これにより、ピストンリング54の下部がピストン50に密着している。特に、図4の(a)に示すように、エンジン回転速度が0になる時点において、ピストンリング54の下部がピストン50に密着している。
【0040】
気筒#3における圧縮空気の反発力によりエンジン回転速度が0未満になると、第2始動処理が開始される。これにより、モータジェネレータ12への電力供給が一旦中断される。こうしてモータジェネレータ12への電力供給が停止すると、ピストン50に作用していたピストン50を上方に駆動する力がなくなる。そして、ピストン50が圧縮空気の反発力によって押し下げられる。
【0041】
図4の(b)に示すように、クランクシャフトが逆転し始めた直後において、上記のようにピストン50を上方に駆動する力がなくなってピストン50が押し下げられると、ピストンリング54の下部がピストン50から離間する。ピストンリング54の下部がピストン50から離間しているとき、ピストンリング54の内周面とリング溝52との間の隙間を通じて、圧縮空気が燃焼室38から流出する。やがて、図4の(c)に示すように、ピストンリング54の下部が再びピストン50に密着することにより、燃焼室38からの圧縮空気の流出が止まる。
【0042】
第2始動処理では第1始動処理のときと比較して気筒#3における圧縮空気の量が少ない。このため、モータジェネレータ12が、圧縮行程にある気筒及び膨張行程にある気筒において生じる負荷に打ち勝ちやすくなる。
【0043】
<第1始動処理によってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に成功する場合>
図5を参照して、第1始動処理によってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に成功する場合について説明する。図5に示す例では、後述の第1時間閾値内において、エンジン回転速度が後述のエンジン回転速度閾値以上になっているので、第1始動処理によってエンジン10の始動に成功している。
【0044】
時刻T10において、制御装置34は、エンジン10の始動の実行条件が満たされたと判定する。エンジン10の始動の実行条件とは、例えば、車両100のイグニッションスイッチがオンにされた等設定されている。制御装置34は、時刻T10から、エンジン始動処理を開始する。図5に示す例では、エンジン始動処理は、第1始動処理のみを含む。第1始動処理は、第1プレトルク処理と第1MG高電圧印加処理とを含む。
【0045】
制御装置34は、時刻T10から時刻T11まで、第1プレトルク処理を実行する。第1プレトルク処理とは、ベルト16に図示しないテンショナを押し当てる処理を含む。第1プレトルク処理において、制御装置34は、小さなMG要求トルクによりモータジェネレータ12を制御する。第1プレトルク処理によって、ベルト16が所望の張った状態になる。これにより、モータジェネレータプーリ12aからベルト16を介してクランクプーリ10aに力を伝達できるようになる。
【0046】
次いで、制御装置34は、時刻T11から第1MG高電圧印加処理を開始する。第1MG高電圧印加処理において、制御装置34は、大きなMG要求トルクによりモータジェネレータ12を制御する。すなわち、制御装置34は、エンジン10をクランキングするべく高圧バッテリ26からモータジェネレータ12に電力を供給してモータジェネレータ12を駆動する。
【0047】
制御装置34は、時刻T12において、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であると判定する。エンジン回転速度閾値は、モータジェネレータ12によるエンジン10の始動に成功したか否かを判定するための閾値として設定されている。制御装置34は、時刻T12においてエンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であると判定することに応じて、第1MG高電圧印加処理を終了する。
【0048】
制御装置34は、第1始動処理の実行中、第1始動処理を開始した時刻T10からの経過時間が第1時間閾値以下であるかを監視している。第1時間閾値は、第1プレトルク期間Aと、バッテリ定格時間BRTとの合計値である。第1プレトルク期間Aとは、第1プレトルク処理が開始されてから終了されるまでの期間を意味する。バッテリ定格時間BRTとは、高圧バッテリ26の定格時間を意味する。高圧バッテリ26の定格時間は、高電圧で高圧バッテリ26を安全に使用できる限度として設定されている。高電圧で高圧バッテリ26を使用するとは、エンジン10をクランキングするべく高圧バッテリ26からモータジェネレータ12に電力を供給することを意味する。
【0049】
図5に示す例では、第1プレトルク期間Aと第1MG高電圧印加期間Bとの合計が、第1時間閾値よりも小さい。第1MG高電圧印加期間Bとは、第1MG高電圧印加処理が開始された時点から終了される時点までの期間である。第1プレトルク期間Aと第1MG高電圧印加期間Bとの合計が、第1時間閾値よりも小さいので、高圧バッテリ26を安全に使用できている。
【0050】
<第1始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に失敗する場合>
図6を参照して、第1始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に失敗する場合について説明する。第1始動処理を実行中において、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値を上回り、かつ、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満である。このため、制御装置34は、モータジェネレータ12によるエンジン10の始動が失敗したと判定する。
【0051】
時刻T20において、制御装置34は、エンジン10の始動の実行条件が満たされたと判定する。制御装置34は、時刻T20から、エンジン始動処理を開始する。図6に示す例では、エンジン始動処理は、第1始動処理のみを含む。
【0052】
制御装置34は、時刻T20から時刻T21まで、第1プレトルク処理を実行する。第1プレトルク処理については上述した。
次いで、制御装置34は、時刻T21から第1MG高電圧印加処理を開始する。第1MG高電圧印加処理については上述した。
【0053】
次いで、時刻T23において、制御装置34は、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満であり、かつ、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値よりも大きいと判定する。このため、制御装置34は、モータジェネレータ12によるエンジン10の始動が失敗したと判定する。制御装置34は、第1MG高電圧印加処理を終了する。そして、制御装置34は、スタータ20によってエンジン10を始動する。
【0054】
<第2始動処理によってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に成功する場合>
図7を参照して、第2始動処理によってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に成功する場合について説明する。図7に示す例では、第2始動処理の実行中において第2時間閾値内にエンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上になっているので、第2始動処理によってエンジン10の始動に成功している。
【0055】
時刻T30において、制御装置34は、エンジン10の始動の実行条件が満たされたと判定する。制御装置34は、時刻T30から、エンジン始動処理を開始する。
制御装置34は、時刻T30から時刻T31まで、第1プレトルク処理を実行する。第1プレトルク処理については上述した。
【0056】
次いで、制御装置34は、時刻T31から第1MG高電圧印加処理を開始する。第1MG高電圧印加処理については上述した。制御装置34は、時刻T32において、エンジン回転数が0未満となったと判定する。これは、気筒における圧縮空気に起因して、エンジン回転速度が0未満になったことを意味する。制御装置34は、エンジン回転数が0未満となったことに応じて、第1始動処理を終了するとともに、第2始動処理を開始する。すなわち、第2始動処理は、第1始動処理においてエンジン回転速度が0未満になったことを条件に実行される。第2始動処理は、後述するように、トルク抜き処理、第2プレトルク処理、第2MG高電圧印加処理を含む。
【0057】
制御装置34は、時刻T32から時刻T33まで、トルク抜き処理を実行する。トルク抜き処理とは、高圧バッテリ26からモータジェネレータ12への電力の供給を中断する処理である。トルク抜き期間Cは、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点にトルク抜き期間Cの終了時点が一致するように設定される。トルク抜き期間Cとは、トルク抜き処理が開始されてから終了されるまでの期間を意味する。換言すると、トルク抜き期間Cとは、第2始動処理において高圧バッテリ26からモータジェネレータ12への電力の供給が中断されている期間である中断期間である。
【0058】
トルク抜き期間Cは、可変設定される。トルク抜き期間Cを可変設定する方法について説明する。モータジェネレータ12とエンジン10とは、ベルト16を介して互いに接続されている。時刻T32直後においてエンジン回転速度は負である。このため、時刻T32直後において、モータジェネレータ12の回転速度であるMG回転速度は負である。制御装置34は、負であるMG回転速度が、負の閾値よりも大きく、かつ、MG回転速度が増加していることに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を予測する。すなわち、制御装置34は、モータジェネレータ12の逆回転が次第に遅くなって閾値よりも遅くなったことに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を予測する。これにより、制御装置34は、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点にトルク抜き期間Cの終了時点が一致するように、トルク抜き期間Cを設定する。
【0059】
制御装置34は、時刻T33から時刻T34まで、第2プレトルク処理を実行する。第2プレトルク処理は、第1プレトルク処理と同様の処理である。
制御装置34は、時刻T34から第2MG高電圧印加処理を開始する。第2MG高電圧印加処理とは、第1MG高電圧印加処理と同様の処理である。すなわち、第2MG高電圧印加処理とは、エンジン10をクランキングするべく高圧バッテリ26からモータジェネレータ12に電力を供給してモータジェネレータ12を駆動する処理である。
【0060】
制御装置34は、時刻T35において、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であると判定する。制御装置34は、時刻T35においてエンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であると判定することに応じて、第2MG高電圧印加処理を終了する。
【0061】
制御装置34は、第2始動処理の実行中、第1始動処理を開始した時刻T30からの経過時間が第2時間閾値以下であるかを監視している。第2時間閾値は、第1プレトルク期間Aと、トルク抜き期間Cと、第2プレトルク期間Dと、バッテリ定格時間BRTとの合計値である。第2プレトルク期間Dとは、第2プレトルク処理が開始されてから終了されるまでの期間を意味する。第2時間閾値は、トルク抜き期間Cと、第2プレトルク期間Dとの分だけ、第1時間閾値よりも大きくなっている。
【0062】
図7に示す例では、第1プレトルク期間Aと、第1MG高電圧印加期間Bと、トルク抜き期間Cと、第2プレトルク期間Dと、第2MG高電圧印加期間Eとの合計が、第2時間閾値よりも小さい。このため、高圧バッテリ26を安全に使用できている。ここで、第2MG高電圧印加期間Eとは、第2MG高電圧印加処理が開始された時点から終了される時点までの期間である。
【0063】
<第2始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に失敗する場合>
図8を参照して、第2始動処理中にタイムアップすることによってモータジェネレータ12によるエンジン10の始動に失敗する場合について説明する。図8に示す例では、第2始動処理を実行中において、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第2時間閾値を上回り、かつ、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満である。このため、制御装置34は、モータジェネレータ12によるエンジン10の始動が失敗したと判定する。
【0064】
時刻T40において、制御装置34は、エンジン10の始動の実行条件が満たされたと判定する。制御装置34は、時刻T40から、エンジン始動処理を開始する。
制御装置34は、時刻T40から時刻T41まで、第1プレトルク処理を実行する。
【0065】
次いで、制御装置34は、時刻T41から第1MG高電圧印加処理を開始する。制御装置34は、時刻T42において、エンジン回転数が0未満となったと判定する。制御装置34は、エンジン回転数が0未満となったことに応じて、第1始動処理を終了するとともに、第2始動処理を開始する。
【0066】
制御装置34は、時刻T42から時刻T43まで、トルク抜き処理を実行する。制御装置34は、時刻T43から時刻T44まで、第2プレトルク処理を実行する。
制御装置34は、時刻T44から第2MG高電圧印加処理を開始する。次いで、時刻T45において、制御装置34は、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値未満であり、かつ、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第2時間閾値よりも大きいと判定する。このため、制御装置34は、モータジェネレータ12によるエンジン10の始動が失敗したと判定する。制御装置34は、第2MG高電圧印加処理を終了する。そして制御装置34は、スタータ20によってエンジン10を始動する。
【0067】
<制御装置34が実行する処理のフローチャート>
図9及び図10を参照して、制御装置34が実行する処理を説明する。図5及び図6に示した動作は、図9に対応する。図7及び図8に示した動作は、図9及び図10に対応する。図9に示す処理は、エンジン10の始動の実行条件が満たされたときに開始される。エンジン始動処理は第1始動処理を含む。第1始動処理は、図9の第1プレトルク処理の開始から、図9の第1MG高電圧印加処理の終了までの一連の処理を含む。また、エンジン始動処理は、第1始動処理において移行条件が満たされた場合(ステップS906:YES)に実行される第2始動処理を含む。移行条件とは、エンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である。第2始動処理は、図10のトルク抜き処理の開始から、図10の第2MG高電圧印加処理の終了までの一連の処理を含む。
【0068】
図9に示すように、制御装置34は、ステップS900において、第1プレトルク処理を実行する。次いで、制御装置34は、ステップS902において、第1MG高電圧印加処理を開始する。
【0069】
次いで、制御装置34は、ステップS904において、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第1時間閾値以下であるか否かを判定する。制御装置34は、ステップS904において肯定判定する場合(ステップS904:YES)、ステップS906に進む。制御装置34は、ステップS906において、移行条件が満たされたか否かを判定する。制御装置34は、ステップS906において否定判定する場合(ステップS906:NO)、ステップS908に進む。制御装置34は、ステップS908において、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であるか否かを判定する。制御装置34は、ステップS908において否定判定する場合(ステップS908:NO)、ステップS904に進む。ステップS904の判定が肯定、かつ、ステップS906の判定が否定、かつ、ステップS908の判定が否定である間は、ステップS904、ステップS906、及びステップS908が繰り返される。
【0070】
制御装置34は、ステップS908において肯定判定した場合(ステップS908:YES)、ステップS910に進む。制御装置34は、ステップS910において第1MG高電圧印加処理を終了する。次いで、制御装置34は、本フローを終了する。ステップS910に進んで本フローを終了する場合が、図5に示した例に対応する。
【0071】
制御装置34は、ステップS904において否定判定した場合(ステップS904:NO)、ステップS912に進む。制御装置34は、ステップS912において、第1MG高電圧印加処理を終了するとともに、スタータ20によってエンジン10を始動する。次いで、制御装置34は、本フローを終了する。ステップS912に進んで本フローを終了する場合が、図6に示した例に対応する。
【0072】
制御装置34は、ステップS906において肯定判定した場合(ステップS906:YES)、ステップS914に進む。制御装置34は、ステップS914において第1MG高電圧印加処理を終了する。すなわち、制御装置34は、第1始動処理を終了する。次いで、制御装置34は、図10に示す第2始動処理を開始する。
【0073】
図10に示すように、制御装置34は、ステップS916において、上述したトルク抜き処理を実行する。次いで、制御装置34は、ステップS918において、上述した第2プレトルク処理を実行する。次いで、制御装置34は、ステップS920において、第2時間閾値を設定する。上述したしように、第2時間閾値は、第1プレトルク期間Aと、トルク抜き期間Cと、第2プレトルク期間Dと、バッテリ定格時間BRTとの合計値である。上述したように、トルク抜き期間Cは、可変設定される。
【0074】
次いで、制御装置34は、ステップS922において、第2MG高電圧印加処理を開始する。次いで、制御装置34は、ステップS924に進む。
制御装置34は、ステップS924において、第1始動処理を開始した時点からの経過時間が第2時間閾値以下であるか否かを判定する。制御装置34は、ステップS924において肯定判定する場合(ステップS924:YES)、ステップS926に進む。制御装置34は、ステップS926において、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値以上であるか否かを判定する。制御装置34は、ステップS926において否定判定する場合(ステップS926:NO)、ステップS924に進む。ステップS924の判定が肯定、かつ、ステップS926の判定が否定である間は、ステップS924及びステップS926が繰り返される。
【0075】
制御装置34は、ステップS926において肯定判定した場合(ステップS926:YES)、ステップS928に進む。制御装置34は、ステップS928において第2MG高電圧印加処理を終了する。次いで、制御装置34は、本フローを終了する。ステップS928に進んで本フローを終了する場合が、図7に示した例に対応する。
【0076】
制御装置34は、ステップS924において否定判定した場合(ステップS924:NO)、ステップS930に進む。制御装置34は、ステップS930において、第2MG高電圧印加処理を終了するとともに、スタータ20によってエンジン10を始動する。次いで、制御装置34は、本フローを終了する。ステップS930に進んで本フローを終了する場合が、図8に示した例に対応する。
【0077】
<本実施形態の作用及び効果>
(1)制御装置34が第1始動処理を実行して、第2始動処理を実行することなくエンジン10の始動が成功する場合がある。これに対し、制御装置34が第1始動処理と第2始動処理とを実行することによりエンジン10の始動が成功する場合がある。上記構成では、エンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に、制御装置34は第1始動処理を終了し、第2始動処理を開始する。これは、第1始動処理の実行中にエンジン回転速度が0未満になった場合又はエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されている場合には、第1始動処理を継続してもエンジン10を始動できないと考えられるためである。上記構成では、第2始動処理が実行されない構成と比較して、モータジェネレータ12でのエンジン10の始動の機会を増やすことができる。
【0078】
ここで、第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、始動が成功することがある理由について説明する。エンジン10は、円柱状のピストン50と、ピストン50の外周のリング溝52に嵌められたピストンリング54を有している。ある気筒が圧縮行程にあり、別の気筒が膨張行程にあることに起因して、モータジェネレータ12に大きな負荷がかかる。第1始動処理の実行中、圧縮行程にある気筒において、ピストンリング54がリング溝52の下端に押し付けられている。第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、初めに、モータジェネレータ12への電力の供給が中断される。これにより、圧縮行程にある気筒においてピストン50が下降する。ピストン50が下降するとき、ピストンリング54が一瞬リング溝52の下端から離間するので、リング溝52において空気の通り道が生じる。当該空気の通り道を通じて、圧縮空気が気筒から逃げる。このため、第2始動処理においては、第1始動処理の場合と比較して、圧縮行程にある気筒における空気の反発力が小さくなる。したがって、第1始動処理を終了して第2始動処理を実行すると、始動が成功する可能性がある。
【0079】
図7に示すように、第1始動処理を開始した時点からの経過時間と比較される時間閾値が、第1始動処理実行中と第2始動処理実行中とで異なる。すなわち、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値を設定した理由を説明する。仮にモータジェネレータ12でのクランキングのような高電圧での電力供給を長時間続けた場合、高圧バッテリ26が損傷する可能性がある。第1時間閾値及び第2時間閾値は、高圧バッテリ26の損傷を回避できるように設定されている。第2始動処理においては、高圧バッテリ26からモータジェネレータ12への電力の供給が中断されている期間が存在する。このため、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。
【0080】
高圧バッテリ26からモータジェネレータ12への電力の供給が中断されている期間が存在することを考慮せずに一律の一定期間の経過に基づいてモータジェネレータ12によるエンジン10の始動の失敗を判定する比較例が考えられる。比較例では、高圧バッテリ26の損傷を回避することと第2始動処理を実行することによりエンジン10の始動を成功させることが両立するにもかかわらず、始動失敗と判定される可能性がある。
【0081】
上記構成では、第1時間閾値よりも大きい第2時間閾値が設定されている。このため、比較例と比較して、モータジェネレータ12でのエンジン10の始動の機会を増やすことができる。
【0082】
(2)第2始動処理の開始時点において、ある気筒が圧縮行程にあり、別の気筒が膨張行程にある。第2始動処理は、第1始動処理においてエンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である移行条件が成立したことを条件に実行される。第2始動処理が、第1始動処理においてエンジン回転速度が0未満になった場合に実行された場合、トルク抜き期間Cの開始時点においてエンジン回転速度は負である。第2始動処理が、第1始動処理においてエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されている場合に実行された場合、空気の反発力に起因して、トルク抜き期間Cの開始直後にエンジン回転速度は負となる。このため、トルク抜き期間Cにおいて、圧縮行程にある気筒では空気が膨張し、膨張行程にある気筒では空気が圧縮される。やがて、膨張行程にある気筒において圧縮された空気がピストン50を押し下げる力により、エンジン回転速度が0になる。
【0083】
上記構成では、トルク抜き期間Cの終了時点が、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点に一致するように設定される。制御装置34は、トルク抜き期間Cの終了後、エンジン10をクランキングするべく高圧バッテリ26からモータジェネレータ12に電力を供給してモータジェネレータ12を駆動する。エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わった直後において、膨張行程にある気筒において、ピストン50が圧縮空気により押し下げられる。つまり、圧縮空気がエンジン10の正方向の回転に寄与する。したがって、エンジン回転速度が負である時点からエンジン10をクランキングする構成と比較して、効果的にエンジン10をクランキングできる。
【0084】
(3)上記構成とは異なり、制御装置34がモータジェネレータ12の回転速度が0であることに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を判定する構成が考えられる。この構成では、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点にトルク抜き期間Cの終了時点を一致させるのが困難である。これに対し、上記構成では、制御装置34は、負であるモータジェネレータ12の回転速度が、0になる前に負の閾値よりも大きいことに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を予測する。このため、エンジン回転速度が0未満から0以上に切り替わる時点にトルク抜き期間Cの終了時点を一致させやすい。
【0085】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0086】
・車両100の構成は適宜変更可能である。上記実施形態では、気筒の数は4つである。しかしながら、これは例示に過ぎない。気筒の数は、適宜変更可能であり、例えば6つでもよい。
【0087】
・上記実施形態では、エンジン10とクランクプーリ10aとを接続又は切断可能なクラッチが設けられていない。しかしながら、エンジン10とクランクプーリ10aとの間にクラッチを設けてもよい。
【0088】
・上記実施形態では、高圧バッテリ26と、低圧バッテリ28が車両100に搭載されている。しかしながら、これは例示に過ぎない。モータジェネレータ12に電力を供給可能なバッテリが車両100に搭載されていればよい。
【0089】
・燃焼サイクルの態様は適宜変更可能である。上記実施形態では、気筒#1、気筒#3、気筒#4、気筒#2の順で混合気が点火される。気筒#1、気筒#2、気筒#4、気筒#3、の順で混合気が点火されてもよい。
【0090】
・上記実施形態では、移行条件とは、エンジン回転速度が0未満になったこととエンジン回転速度が所定期間以上0に維持されていることとの論理和条件である。これに代えて、移行条件とは、エンジン回転速度が0未満になった旨の条件でもよい。すなわち、エンジン回転速度が所定期間以上0に維持されているか否かの判定は省略されてもよい。
【0091】
・上記実施形態では、第1時間閾値は、第1プレトルク期間Aと、バッテリ定格時間BRTとの合計値である。第2時間閾値は、第1プレトルク期間Aと、トルク抜き期間Cと、第2プレトルク期間Dと、バッテリ定格時間BRTとの合計値である。しかしながら、これは例示に過ぎない。第1時間閾値及び第2時間閾値は、モータジェネレータ12に電力を供給可能なバッテリの損傷を回避でき、かつ、第2時間閾値が第1時間閾値よりも大きいという要件を満たすだけでよい。
【0092】
・上記実施形態では、トルク抜き期間Cは、可変設定される。トルク抜き期間Cは固定値であってもよい。
・上記実施形態では、制御装置34は、負であるMG回転速度が、負の閾値よりも大きく、かつ、MG回転速度が増加していることに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を予測する。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、制御装置34は、クランクシャフトが逆転した角度が閾値を超えたことに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を判定してもよい。制御装置34は、クランクシャフトが逆転し始めた時点からの経過時間が閾値を超えたことに基づいて、トルク抜き期間Cの終了時点を判定してもよい。
【0093】
・上記実施形態では、制御装置34は、CPUとROMとRAMとを備えて、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、制御装置34は、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(例えばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置34は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)制御装置34は、プログラムに従って全ての処理を実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。すなわち、制御装置34は、ソフトウェア実行装置を備える。(b)制御装置34は、プログラムに従って処理の一部を実行する処理装置と、プログラム格納装置とを備える。さらに、制御装置34は、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。(c)制御装置34は、全ての処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、ソフトウェア実行装置、及び/又は、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、ソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路(processing circuitry)によって実行され得る。処理回路に含まれるソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路は複数であってもよい。プログラム格納装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0094】
10…内燃機関(エンジン)
12…モータジェネレータ
16…ベルト
20…スタータ
34…制御装置
100…ハイブリッド車両(車両)
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