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特許7616125制御装置、操舵装置、制御方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】制御装置、操舵装置、制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250109BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20250109BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20250109BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022031927
(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2023127935
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁章
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107750(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026351(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0072074(US,A1)
【文献】国際公開第2020/100411(WO,A1)
【文献】特開2019-137370(JP,A)
【文献】特開2016-011058(JP,A)
【文献】特開2014-118024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出する処理と、
操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出する調整ゲイン算出処理と、
前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出する調整指令トルク算出処理と、
前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御する処理と、
を実行するように構成され、
前記調整ゲイン算出処理は、
前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出する第1処理と、
前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換する第2処理と、
含み、
前記第1処理は、
前記操舵トルクと前回処理の前記調整操舵トルクとの差の絶対値が所定のトルクヒステリシスより大きいことを受けて、前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、
前記絶対値が前記トルクヒステリシス以下であることを受けて、前回処理の前記調整操舵トルクを今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、
を含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記第1処理において前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することは、
前記操舵トルクが前回処理の前記調整操舵トルクより大きいとき、前記操舵トルクから前記トルクヒステリシスだけ差し引いた値を今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、
前記操舵トルクが前回処理の前記調整操舵トルクより小さいとき、前記操舵トルクに前記トルクヒステリシスだけ加えた値を今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、
を含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制御装置であって、
前記調整ゲイン算出処理は、前記操舵トルクに応じて前記トルクヒステリシスを変化させることをさらに含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の制御装置であって、
前記指令トルクは、前記目標軌道に追従させるための目標状態量に基づくフィードフォワード制御量となるFF指令トルクと、前記目標状態量と現在状態量との差分に基づくフィードバック制御量となるFB指令トルクと、を含み、
前記調整ゲインは、第1調整ゲインと第2調整ゲインを含み、
前記調整ゲイン算出処理は、前記第1調整ゲインと前記第2調整ゲインそれぞれに応じた前記第1処理又は前記第2処理を含み、
前記調整指令トルク算出処理は、
前記FB指令トルクに前記第1調整ゲインを施した調整FB指令トルクを算出し、
前記FF指令トルクと前記調整FB指令トルクの和に前記第2調整ゲインを施した値、又は前記FF指令トルクに前記第2調整ゲインを施した値と前記調整FB指令トルクの和を前記調整指令トルクとして算出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
車両の操舵装置であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の制御装置と、
前記制御装置により制御されるステアリング機構と、
を備え、
前記ステアリング機構は、電動パワーステアリングである
ことを特徴とする操舵装置。
【請求項6】
車両の制御方法であって、
前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出することと、
操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出することと、
前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出することと、
前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御することと、
を含み、
前記調整ゲインを算出することは、
前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出することと、
前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換することと、
含み、
前記調整操舵トルクを算出することは、
前記操舵トルクと前回処理の前記調整操舵トルクとの差の絶対値が所定のトルクヒステリシスより大きいことを受けて、前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、
前記絶対値が前記トルクヒステリシス以下であることを受けて、前回処理の前記調整操舵トルクを今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、
を含む
ことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
車両の制御についてのプログラムであって、
前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出する処理と、
操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出する調整ゲイン算出処理と、
前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出する処理と、
前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御する処理と、
をコンピュータに実行させるように構成され、
前記調整ゲイン算出処理は、
前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出する第1処理と、
前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換するする第2処理と、
含み、
前記第1処理は、
前記操舵トルクと前回処理の前記調整操舵トルクとの差の絶対値が所定のトルクヒステリシスより大きいことを受けて、前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、
前記絶対値が前記トルクヒステリシス以下であることを受けて、前回処理の前記調整操舵トルクを今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、
を含む
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のステアリング機構を制御する技術に関する。特に、車両を目標軌道に追従させるためにステアリング機構を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操舵トルク及びモータ角速度から操舵状態が切り込みの状態にあるか切り戻しの状態にあるかを少なくとも判定するように構成された状態判定部と、操舵状態に応じて変化させる変換特性により操舵トルクに対する介入係数を算出する介入検出部と、介入係数に応じて自動操舵トルク及びアシストトルクの比率を変化させる内部値演算部と、を備える操舵制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018―030481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、運転支援や自動運転の機能として、車両を目標軌道に追従させる機能(以下、「追従操舵機能」とも称する。)が考えられている。追従操舵機能では、車両が目標軌道に追従するように、ステアリング機構を制御することが行われる。一般に、ステアリング機構の制御では、ステアリング機構に与えるトルクの制御が行われる。
【0005】
一方で、追従操舵機能が動作しているとき、車両のドライバは、目標軌道とは異なる方向に操舵をしたいと考えることがある。この場合ドライバは、車両が所望の方向に操舵されるようにステアリングホイール等の運転操作装置を操作することとなる。このときドライバは、追従操舵機能により与えられるトルクに抗って、運転操作装置の操作により操舵トルクを発生させることが必要となる。このため、一般に、操舵トルクに応じて追従操舵機能により与えられるトルクの調整が行われる。
【0006】
ここで、ドライバが追従操舵機能により与えるトルクの方向と反対方向に操舵トルクを発生させようとするときと、同じ方向に操舵トルクを発生させようとするときと、ではドライバが感じる運転感覚が異なる。このため、目標軌道に対するドライバの操舵状態によっては、ドライバに極端な運転感覚を与えてしまう虞がある。延いては、ドライバによる車両のコントロール性を低下させてしまう虞がある。
【0007】
特許文献1では、ドライバの操舵状態を、保舵、切り込み、切り戻し、手放し、で判定し、操舵状態に応じて変化させる変換特性により介入係数を算出する技術が開示されている。特に、操舵状態が切り戻しであるときは追従制御の介入を小さくするように変換特性を与えることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、目標軌道に対するドライバの操舵状態によっては、十分にドライバによる車両のコントロール性を向上させることができないシーンが想定される。例えば、ドライバが車両の軌道を微修正しようとする場合は小さな状態量の変化の範囲で調整ゲインを変更することが必要となり、目標軌道への追従性とドライバによる車両のコントロール性の向上を両立することができなくなる虞がある。
【0009】
本開示の1つの目的は、上記の課題を鑑み、追従操舵機能が動作しているときにドライバが車両を操舵させようとする場合において、ドライバによる車両のコントロール性を目標軌道に対する操舵状態に応じて適切に向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の開示は、車両の制御装置に関する。
【0011】
第1の開示に係る制御装置は、前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出する処理と、操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出する調整ゲイン算出処理と、前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出する調整指令トルク算出する調整指令トルク算出処理と、前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御する処理と、を実行するように構成される。ここで前記調整ゲイン算出処理は、前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出する第1処理と、前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換する第2処理と、を含んでいる。
【0012】
第2の開示は、第1の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0013】
前記第1処理は、前記操舵トルクと前回処理の前記調整操舵トルクとの差の絶対値が所定のトルクヒステリシスより大きいことを受けて、前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、前記絶対値が前記トルクヒステリシス以下であることを受けて、前回処理の前記調整操舵トルクを今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、を含んでいる。
【0014】
第3の開示は、第2の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0015】
前記第1処理において前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することは、前記操舵トルクが前回処理の前記調整操舵トルクより大きいとき、前記操舵トルクから前記トルクヒステリシスだけ差し引いた値を今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、前記操舵トルクが前回処理の前記調整操舵トルクより小さいとき、前記操舵トルクに前記トルクヒステリシスだけ加えた値を今回処理の前記調整操舵トルクとして算出することと、を含んでいる。
【0016】
第4の開示は、第1の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0017】
前記第1処理は、前記操舵トルクと前回処理の前記操舵トルクとの差の絶対値が所定のトルクヒステリシスより大きいときは、前記絶対値が減少する方向に今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、前記絶対値が前記トルクヒステリシス以下であるときは、所定の勾配で変化させるように今回処理の前記調整操舵トルクを算出することと、を含んでいる。
【0018】
第5の開示は、第2乃至第4のいずれか1つの開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0019】
前記調整ゲイン算出処理は、前記操舵トルクに応じて前記トルクヒステリシスを変化させることをさらに含んでいる。
【0020】
第6の開示は、第1乃至第5のいずれか1つの開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0021】
前記指令トルクは、前記目標軌道に追従させるための目標状態量に基づくフィードフォワード制御量となるFF指令トルクと、前記目標状態量と現在状態量との差分に基づくフィードバック制御量となるFB指令トルクと、を含んでいる。また前記調整ゲインは、第1調整ゲインと第2調整ゲインを含んでいる。また前記調整ゲイン算出処理は、前記第1調整ゲインと前記第2調整ゲインそれぞれに応じた前記第1処理又は前記第2処理を含んでいる。そして前記調整指令トルク算出処理は、前記FB指令トルクに前記第1調整ゲインを施した調整FB指令トルクを算出し、前記FF指令トルクと前記調整FB指令トルクの和に前記第2調整ゲインを施した値、又は前記FF指令トルクに前記第2調整ゲインを施した値と前記調整FB指令トルクの和を前記調整指令トルクとして算出する。
【0022】
第7の開示は、車両の操舵装置に関する。
【0023】
第7の開示に係る操舵装置は、第1乃至第5のいずれか1つの開示に係る制御装置と、前記制御装置により制御されるステアリング機構と、を備えている。ここで前記ステアリング機構は、電動パワーステアリングである。
【0024】
第8の開示は、車両の制御方法に関する。
【0025】
第8の開示に係る制御方法は、前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出することと、操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出することと、前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出することと、前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御することと、を含んでいる。ここで前記調整ゲインを算出することは、前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出することと、前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換することと、を含んでいる。
【0026】
第9の開示は、車両の制御についてのプログラムに関する。
【0027】
第9の開示に係るプログラムは、前記車両を目標軌道に追従させるためのステアリング機構に与える指令トルクを算出する処理と、操舵トルクに基づいて前記指令トルクに対する調整ゲインを算出する調整ゲイン算出処理と、前記指令トルクに前記調整ゲインを施した調整指令トルクを算出する処理と、前記調整指令トルクに従って前記ステアリング機構を制御する処理と、をコンピュータに実行させるように構成されている。ここで前記調整ゲイン算出処理は、前記操舵トルクに基づいて、前記操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出する処理と、前記調整操舵トルクを前記調整ゲインに変換する処理と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0028】
本実施形態によれば、操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクが算出される。そして、算出された調整操舵トルクの変換により調整ゲインが算出される。これにより、目標軌道に対する操舵状態に応じて操舵トルクに対する特性が異なる調整ゲインを算出することができる。また操舵の切り返しのときに調整ゲインがしばらくの間保持される。延いては、ドライバによる車両のコントロール性を目標軌道に対する操舵状態に応じて適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態に係る制御装置によるステアリング機構の制御について説明するための概念図である。
図2】操舵トルクに応じて指令トルクを調整する場合に図1に示すECUが実行する処理の概略構成を示すブロック図である。
図3】操舵トルクに応じて調整ゲインを算出するための操舵トルクの大きさに対するマップの例を示す図である。
図4】本実施形態に係る制御装置において算出される調整操舵トルクの例を示すグラフである。
図5】ステアリングホイールを切り込んでから切り戻すように操舵トルクを与えるときに算出される調整操舵トルクの実施例を示すグラフである。
図6図3に示すマップを用いて調整操舵トルクの変換により調整ゲインを算出する場合の操舵トルクの大きさに対する調整ゲインの例を示す図である。
図7】本実施形態に係る制御装置における調整ゲイン算出処理部の構成例を示すブロック図である。
図8】本実施形態に係る制御装置の構成例を示すブロック図である。
図9】本実施形態に係る制御装置が実行する処理の構成例を示すブロック図である。
図10】調整操舵トルク算出処理部における処理ルーチンの好ましい一例を示すフローチャートである。
図11】目標軌道が直進軌道であるときにドライバがサイン操舵を行う場合において従来技術と本実施形態に係る実施例の比較結果を示すグラフである。
図12】目標軌道が旋回軌道であるときにドライバが旋回内側方向にサイン操舵を行う場合において従来技術と本実施形態に係る実施例の比較結果を示すグラフである。
図13】第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部において算出される調整操舵トルクの例を示すグラフである。
図14】第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部における処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図15】第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部における処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数が特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構成等は、特に明示した場合や原理的に明らかにそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を附しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0031】
1.追従操舵機能
本実施形態に係る制御装置は、車両を目標軌道に追従させるようにステアリング機構を制御する。図1に示す操舵装置を参照して、制御装置(ECU100)によるステアリング機構10の制御について説明する。
【0032】
図1には、ステアリングシャフト11と、ギヤボックス12と、タイロッド13と、を含む一般的なステアリング機構10が示されている。つまり、ステアリングシャフト11は、ギヤボックス12と接続しており、ステアリングホイール1の操作に従って回転する。そして、ギヤボックス12により、ステアリングシャフト11の回転動作に応じてタイロッド13が直線動作する。典型的には、ギヤボックス12は、ラックアンドピニオン構造を有しており、ステアリングシャフト11の回転動作がピニオンを介してラックの直線動作に変換されることで、ラックと接続するタイロッド13が直線動作する。タイロッド13の直線動作により、車両の舵角を変化させることができ、車両の操舵が実現される。
【0033】
ステアリング機構10には、ラック部分にモータ200が取り付けられている。ステアリング機構10は、モータ200が動作してトルクを発生させることによっても、ラックを直線動作させることができるように構成されている。つまり、ステアリング機構10は、ラックアシスト型の電動パワーステアリングである。ただし、本実施形態において、ステアリング機構10は、コラムアシスト型やピニオンアシスト型の電動パワーステアリングであっても良い。
【0034】
図1では、制御装置は、ECU(Electronic Control Unit)100として実現されている。ECU100は、処理の実行により制御信号を生成し出力する。特に、ECU100は、制御信号としてモータ200の指令トルクを生成し出力する。モータ200がECU100から取得する指令トルクを発生させるように動作することで、ECU100によるステアリング機構の制御が実現される。例えば、モータ200において、指令トルクを発生させるようにインバータ制御が行われる。
【0035】
ECU100は、車両を目標軌道に追従させるための目標舵角(目標状態量)と、車速やその他の車両情報と、を取得するように構成されている。そして、ECU100は、車両が目標舵角となるように指令トルクを生成し出力する。これにより、車両を目標軌道に追従させる機能(追従操舵機能)が実現される。ここで、目標舵角は、典型的には、追従操舵機能を提供する他のECUにおいて算出され、ECU100に伝達される。追従操舵機能は、他のECUが提供する運転支援機能の1つであっても良いし、自動運転機能の一部であっても良い。また、その他の車両情報として、加速度、ヨーレート、現在舵角、車両諸元等が例示される。車速やその他の車両情報は、車両に備えるセンサや他のECUから取得することができる。あるいは、メモリに記憶するデータとして取得しても良い。
【0036】
さらに、ECU100は、操安制御に係る機能を有していても良い。例えば、ECU100は、ステアリングホイール1の操舵角又は操舵角速度やステアリングホイール1の操作による操舵トルクに応じて、指令トルクとしてアシストトルクを発生させるように構成されていても良い。この場合、ステアリングホイール1の操舵角又は操舵角速度は、操舵角センサ21から取得することができる。ステアリングホイール1の操作による操舵トルクは、トルクセンサ22から取得することができる。
【0037】
ECU100は、典型的には、車両に備えられる。ただし、本実施形態に係る制御装置は、車両の外部の装置であっても良い。例えば、本実施形態に係る制御装置は、車両とインターネットを介して通信するサーバとして実現されても良い。この場合、制御装置は、通信により情報を取得し、制御信号を送信する。
【0038】
ところで、追従操舵機能が動作しているとき、車両のドライバは、目標軌道とは異なる方向に操舵をしたいと考えることがある。例えば、目標軌道が直進軌道であるときに前方の障害物から距離をとりたいと考える場合や、目標軌道が旋回軌道であるときにより旋回半径の短い走行をしたいと考える場合が挙げられる。この場合ドライバは、車両が所望の方向に操舵されるようにステアリングホイール1を操作することになる。例えば、前方の障害物から距離をとりたいと考える場合は、障害物から距離をとるようにステアリングホイール1を切り込み、一定程度の距離がとれた時点でステアリングホイール1を切り戻すように操作することが想定される。
【0039】
このように追従操舵機能の動作中にドライバがステアリングホイール1を操作するとき、ドライバは、追従操舵機能によりモータ200が発生させるトルクに抗って、ステアリングホイール1の操作により操舵トルクを発生させることが必要となる。そこで、一般に、操舵トルクに応じて、追従操舵機能によりモータ200が発生させるトルクを調整することが行われる。つまり、ECU100は、操舵トルクに応じて指令トルクを調整する。
【0040】
図2は、操舵トルクに応じて指令トルクを調整する場合に、ECU100が実行する処理の概略構成を示すブロック図である。図2において、ECU100が実行する処理は、指令トルク算出処理部P100と、調整ゲイン算出処理部P200と、調整指令トルク算出処理部P300と、により構成されている。これらの処理部は、プログラムとして与えられても良いし、別個のプロセッサによって与えられても良い。
【0041】
指令トルク算出処理部P100は、目標舵角θtを入力とし、車両が目標舵角θtとなるように指令トルクTfを算出する。例えば、目標舵角θtに基づくフィードフォワード制御や目標舵角θtと現在舵角(現在状態量)に基づくフィードバック制御により指令トルクTfを算出する。さらに、指令トルクTfの算出に際して、車速やその他の車両情報が考慮されても良い。
【0042】
調整ゲイン算出処理部P200は、操舵トルクTを入力とし、操舵トルクTに応じて指令トルクTfに対するゲイン(調整ゲイン)αを算出する。例えば、操舵トルクTの大きさに対するマップを用いて操舵トルクTを調整ゲインαに変換する。図3に操舵トルクTの大きさ|T|に対するマップの例を示す。
【0043】
再度図2を参照する。調整指令トルク算出処理部P300は、指令トルク算出処理部P100において算出した指令トルクTfと、調整ゲイン算出処理部P200において算出した調整ゲインαと、を入力とし、指令トルクTfに調整ゲインαを施した調整指令トルクTcを生成する。調整指令トルク算出処理部P300において生成した調整指令トルクTcが、ECU100から出力され、モータ200に伝達されることとなる。モータ200は、調整指令トルクTcを発生させるように動作する。
【0044】
調整ゲインαは、典型的には、操舵トルクTの大きさに応じて指令トルクTfを減ずるように0-1の間の数値で与えられる。つまり、調整指令トルクTcは、操舵トルクTが大きくなるほど指令トルクTfに対して小さくなるように調整される。これにより、ドライバが目標軌道と異なる方向に操舵をしようとステアリングホイール1を操作するときに、モータ200が発生させるトルクの影響を少なくすることができるのである。延いては、ドライバの操舵負荷を軽減することができる。
【0045】
ここで、ドライバが追従操舵機能によりモータ200が発生させるトルクの方向と反対方向に操舵トルクを発生させようとするときと、同じ方向に操舵トルクを発生させようとするときと、ではドライバが感じる運転感覚が異なる。例えば、ドライバが目標軌道から離れるようにステアリングホイール1を切り込むとき(反対方向に操舵トルクを発生させようとするとき)は、ドライバはステアリングホイール1の操作を重く感じ、その後ステアリングホイール1を切り戻すとき(同じ方向に操舵トルクを発生させようとするとき)は、ドライバはステアリングホイール1の操作が強く戻されるように感じる。このため、目標軌道に対するドライバの操舵状態によっては、ドライバに極端な運転感覚を与えてしまう虞がある。延いては、ドライバによる車両のコントロール性を低下させてしまう虞がある。
【0046】
そこで、本実施形態に係る制御装置は、上記の課題を解決するため、調整ゲイン算出処理部P200に特徴を有している。以下、本実施形態に係る制御装置について、調整ゲイン算出処理部P200の特徴的な処理の概要について説明する。
【0047】
2.概要
本実施形態に係る制御装置では、調整ゲイン算出処理部P200において、操舵トルクTの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクを算出する。
【0048】
図4に、本実施形態に係る制御装置において算出される調整操舵トルクTrの例を示す。図4に示すように、算出される調整操舵トルクTrは、ヒステリシス特性を有することにより、操舵トルクTが増加又は減少している間は、操舵トルクTに応じて増加又は減少し、操舵トルクTが増加から減少又は減少から増加に転じるときは、操舵トルクTが所定値以上減少又は増加するまで一定値を保持する。つまり、ドライバがステアリングホイール1を切り込むときは、調整操舵トルクTrは操舵トルクTに応じて増加又は減少し、ドライバがステアリングホイール1を切り返すときは、しばらくの間調整操舵トルクTrが保持される。またヒステリシス特性を有することにより、ドライバがステアリングホイール1を切り込むときの調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|は、ドライバがステアリングホイール1を切り戻すときの調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|よりも小さくなる。
【0049】
このようなヒステリシス特性を有する調整操舵トルクTrは、所定のトルクヒステリシスThを用いることにより簡素な構成で算出することができる。具体的には、操舵トルクTの現在値と前回処理の調整操舵トルクTrとの差の絶対値(以下、「調整操舵トルク偏差」とも称する。)がトルクヒステリシスTh以下であるときは、前回処理の調整操舵トルクTrを今回処理の調整操舵トルクTrとして算出し、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスThより大きいことを受けて、調整操舵トルク偏差が減少する方向に今回処理の調整操舵トルクTrを算出するように行うことができる。このように調整操舵トルクTrを算出することにより、ドライバがステアリングホイール1を切り込むとき、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|は、操舵トルクTの大きさ|T|よりトルクヒステリシスTh以上小さな値となる。一方で、ドライバがステアリングホイール1を切り戻すとき、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|は、操舵トルクTの大きさ|T|よりトルクヒステリシスTh以上大きな値となる。またドライバがステアリングホイール1を切り返すとき、調整操舵トルクTrは、操舵トルクTがトルクヒステリシスThの2倍以上減少又は増加するまで一定値を保持する。
【0050】
特に、調整操舵トルク偏差が減少する方向に今回処理の調整操舵トルクTrを算出することは、操舵トルクTの現在値が前回処理の調整操舵トルクTrより大きいときは、操舵トルクTの現在値からトルクヒステリシスThだけ差し引いた値を今回処理の調整操舵トルクTrとして算出し、操舵トルクTの現在値が前回処理の調整操舵トルクTrより小さいときは、操舵トルクTの現在値にトルクヒステリシスThだけ加えた値を今回処理の調整操舵トルクTrとして算出するように行うことができる。このように調整操舵トルクTrを算出することにより、図4に示すように、ドライバがステアリングホイール1を切り込むとき、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|は、操舵トルクTの大きさ|T|よりトルクヒステリシスThだけ小さな値となる。一方で、ドライバがステアリングホイール1を切り戻すとき、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|は、操舵トルクTの大きさ|T|よりトルクヒステリシスThだけ大きな値となる。またドライバがステアリングホイール1を切り返すとき、調整操舵トルクTrは、操舵トルクTがトルクヒステリシスThの2倍だけ減少又は増加するまで一定値を保持する。
【0051】
図5に、ステアリングホイール1を切り込んでから切り戻すように操舵トルクTを与えるときに算出される調整操舵トルクTrの実施例を示す。図5に示す実施例では、時刻t1までの切り込みの操舵において、調整操舵トルクTrは、操舵トルクTよりもトルクヒステリシスThだけ小さな値となり、時刻t2以降の切り戻しの操舵において、調整操舵トルクTrは、操舵トルクTよりもトルクヒステリシスThだけ大きな値となっていることがわかる。また、時刻t1から時刻t2までの切り返しの操舵において、調整操舵トルクTrは、一定値となっていることがわかる。このように、本実施形態によれば、調整操舵トルクTrを、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて操舵トルクTに対する特性が異なるように算出することができる。特に、ローパスフィルタ等の時間遅れ要素となる構成を含むことなく、また値の急変を発生させることもない。
【0052】
次に、本実施形態に係る制御装置では、調整ゲイン算出処理部P200において、算出した調整操舵トルクTrの変換により調整ゲインαを算出する。調整操舵トルクTrの変換は、例えば、マップを用いることにより行われる。ここで、マップは、図3に示すような操舵トルクTの大きさ|T|に対するマップと同等のマップであって良い。この場合、図3において、横軸は調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|となる。ただし、本実施形態に係る制御装置を適用する環境に応じて、好適なマップを与えることも可能である。例えば、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|が大きくなるほど、調整ゲインαが非線形に1から0に減少するマップであっても良い。
【0053】
本実施形態によれば、調整操舵トルクTrは、所定のヒステリシス特性を有することにより、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて操舵トルクTに対する特性が異なる。従って、調整操舵トルクTrの変換により調整ゲインαを算出することにより、調整ゲインαを、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおける操舵トルクTに対する特性が異なるように与えることができる。図6に、図3に示すマップを用いて調整操舵トルクTrの変換により調整ゲインαを算出する場合の、操舵トルクTの大きさ|T|に対する調整ゲインαの例を示す。ここで、図6に示すグラフは、準定常操舵(操舵速度≒0)における操舵トルクTに対して算出される調整ゲインαを示している。図6に示すように、調整ゲインαは、切り込みの操舵(一点鎖線)と切り戻しの操舵(点線)それぞれにおける操舵トルクTに対する特性が異なるように与えられる。特に、切り込みの操舵における調整ゲインαを、切り戻しの操舵における調整ゲインαより小さな値となるように与えることができる。また切り返しのとき、調整ゲインαを、しばらくの間保持することができる。
【0054】
このように本実施形態によれば、調整ゲイン算出処理部P200において、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて操舵トルクに対する特性が異なる調整ゲインαが算出される。これにより、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて、追従操舵機能によりモータ200が発生させるトルクを異ならせることができる。特に、切り込みの操舵における調整ゲインαは、切り戻しの操舵における調整ゲインαより小さな値となるように与えられる。つまり、切り戻しの操舵においてモータ200が発生させるトルクを、切り込みの操舵においてモータ200が発生させるトルクより小さくすることができる。延いては、切り戻しのときに、ステアリングホイール1の操舵が強く戻される感覚を低減することができる。また、切り返しのとき、調整ゲインαはしばらくの間保持される。つまり、切り返しのとき、モータ200が発生させるトルクが急変することがない。このように本実施形態によれば、ドライバによる車両のコントロール性を目標軌道に対する操舵状態に応じて適切に向上させることができる。
【0055】
なお、本実施形態に係る制御装置は、調整操舵トルクTrの算出に際して用いられるトルクヒステリシスThを、操舵トルクTに応じて変化させるように構成されていても良い。例えば、操舵トルクTの大きさ|T|が大きくなるほど、トルクヒステリシスThを大きな値をとるように変化させる。これは、例えば、操舵トルクTの大きさ|T|に対するマップを用いてトルクヒステリシスThを与えることにより構成することができる。
【0056】
このように構成することで、例えば、操舵トルクTの大きさ|T|が大きいときは大きなトルクヒステリシスThとすることによって、ドライバの操舵負荷をより適切に軽減することができる。さらに、操舵トルクTが0であるときに算出される調整ゲインαが1となることを保障するように非線形なマップを与えることで、操舵トルクTの値によって(特に切り戻しの操舵において)調整ゲインαがとり得る値の範囲が制限されることを抑止することができる。延いては、ドライバの操舵負荷を軽減する目的と、ドライバが操舵していないときに追従操舵機能の性能を確保する目的と、を両立することができる。
【0057】
図7に、本実施形態に係る制御装置における調整ゲイン算出処理部P200の構成例を示す。図7において、調整ゲイン算出処理部P200は、トルクヒステリシス算出処理部P201と、調整操舵トルク算出処理部P210と、変換処理部P220と、により構成されている。
【0058】
トルクヒステリシス算出処理部P201は、操舵トルクTを入力とし、操舵トルクTに応じてトルクヒステリシスThを算出する。図7に示す構成例では、トルクヒステリシスThは、操舵トルクTの大きさ|T|に対するマップを用いて算出される。
【0059】
調整操舵トルク算出処理部P210は、操舵トルクTと、トルクヒステリシス算出処理部P201において算出したトルクヒステリシスThと、を入力とし、操舵トルクTに基づいて調整操舵トルクTrを算出する(第1処理)。調整操舵トルクTrは、前述したように、トルクヒステリシスThを用いて操舵トルクの変化に対して所定のヒステリシス特性を有するように算出される。
【0060】
変換処理部P220は、調整操舵トルク算出処理部P210において算出した調整操舵トルクTrを入力とし、調整操舵トルクTrの変換により調整ゲインαを算出する(第2処理)。図7に示す構成例では、調整ゲインαは、調整操舵トルクTrの大きさ|Tr|に対するマップを用いて算出される。
【0061】
2.構成
以下、本実施形態に係る制御装置(ECU100)の構成例、及び本実施形態に係る制御装置(ECU100)が実行する処理の構成例について説明する。
【0062】
2-1.制御装置の構成
図8は、本実施形態に係る制御装置(ECU100)の構成例を示すブロック図である。ECU100は、メモリ110と、プロセッサ120と、を含むコンピュータである。メモリ110は、プロセッサ120と結合し、複数の実行可能なインストラクション112と、処理の実行に必要な種々のデータ113と、を記憶している。インストラクション112は、プログラム111により与えられる。この意味で、メモリ110は、「プログラムメモリ」と呼ぶこともできる。
【0063】
インストラクション112に従ってプロセッサ120が動作することにより、データ113に基づく種々の処理の実行が実現される。これにより、ECU100において、指令トルク算出処理部P100、調整ゲイン算出処理部P200、及び調整指令トルク算出処理部P300に係る処理の実行が実現される。また、ECU100が操安制御に係る機能を有する場合、操安制御に係る処理の実行が実現される。
【0064】
2-2.処理の構成
図9は、本実施形態に係る制御装置(ECU100)が実行する処理、特に追従操舵機能としてモータ200に発生させるトルク(調整指令トルクTc)の算出に係る処理の構成例を示すブロック図である。
【0065】
図9に示す処理の構成例では、指令トルク算出処理部P100において算出される指令トルクTfは、目標舵角θtに基づくフィードフォワード制御量となるFF指令トルクTffと、目標舵角θtと現在舵角θとの差分に基づくフィードバック制御量となるFB指令トルクTfbと、を含んでいる。このため、図9に示す構成例では、指令トルク算出処理部P100は、FF指令トルク算出処理部P110と、FB指令トルク算出処理部P120と、を含んでいる。
【0066】
FF指令トルク算出処理部P110は、目標舵角θtを入力とし、目標舵角θtに基づいてFF指令トルクTffを算出する。FB指令トルク算出処理部P120は、目標舵角θtと現在舵角θとの差分を入力とし、目標舵角θtと現在舵角θとの差分に基づいてFB指令トルクTfbを算出する。
【0067】
なお、FF指令トルク算出処理部P110及びFB指令トルク算出処理部P120におけるフィードフォワード制御及びフィードバック制御に係る処理については、好適な公知の技術が採用されていて良い。特に、車速やその他の車両情報を考慮するように構成されていても良い。また現在舵角θは、典型的には、操舵角センサ21から取得される。
【0068】
図9に示す処理の構成例では、調整ゲイン算出処理部P200において算出される調整ゲインαは、第1調整ゲインα1と、第2調整ゲインα2と、を含んでいる。このため、図9に示す構成例では、調整ゲイン算出処理部P200は、第1調整ゲインα1と第2調整ゲインα2それぞれについて、図7で説明した構成と同様の構成を含んでいる。ただし、第1調整ゲインα1と第2調整ゲインα2それぞれについてのトルクヒステリシス算出処理部P201、調整操舵トルク算出処理部P210、及び変換処理部P220は、互いに異なる特性が与えられていて良い。例えば、第1調整ゲインα1に係るトルクヒステリシス算出処理部P201と第2調整ゲインα2に係るトルクヒステリシス算出処理部P201それぞれ、あるいは第1調整ゲインα1に係る変換処理部P220と第2調整ゲインα2に係る変換処理部P220それぞれは、互いに異なるマップを採用して良い。つまり、第1調整ゲインα1と第2調整ゲインα2それぞれに応じた特性が与えられていて良い。
【0069】
そして、図9に示す処理の構成例では、調整指令トルク算出処理部P300において、FB指令トルクTfbに第1調整ゲインα1を施した調整FB指令トルクTbrを算出する(P301)。そして、FF指令トルクTffと調整FB指令トルクTbrの和Tsumに第2調整ゲインα2を施した値を調整指令トルクTcとして算出する(P302)。
【0070】
図9に示す処理の構成例によれば、第1調整ゲインα1及び第2調整ゲインα2は、図7で説明した構成と同様の構成により算出される。従って、前述したように、ドライバによる車両のコントロール性を向上させることができる。
【0071】
ところで、図9に示す構成例では、特に、調整ゲイン算出処理部P200において、FB指令トルクTfbに施される第1調整ゲインα1と、FF指令トルクTffと調整FB指令トルクTbrの和Tsumに施される第2調整ゲインα2と、がそれぞれ別個に算出されることが特徴的である。このように構成することで、目標軌道が直進軌道であるときと、目標軌道が旋回軌道であるときと、の両方について、ドライバによる車両のコントロール性を適切に向上させることが可能となる。これは、次の理由による。
【0072】
一般に、目標軌道が旋回軌道であるときは、FF指令トルクTffが目標軌道への追従性に大きく寄与する。一方で、目標軌道が直進軌道であるときは、FB指令トルクTfbが目標軌道への追従性に大きく寄与する。特に、目標軌道が直進軌道であるときは、典型的には、FF指令トルクTffは0である。このため、追従操舵機能の追従性を十分に確保する目的で、指令トルク算出処理部P100は、FF指令トルク算出処理部P110及びFB指令トルク算出処理部P120を含んでいる。
【0073】
ここで、調整ゲインαが、第1調整ゲインα1と第2調整ゲインα2を含んでいない場合を考える。このとき、調整ゲインαは、FF指令トルクTffとFB指令トルクTfbの和に施されることが想定される。この場合に、目標軌道が直進軌道であるときにドライバによる車両のコントロール性を十分に向上させることができるように調整ゲインαが与えられるとする。つまり、操舵トルクTの大きさ|T|に対して十分小さな調整ゲインαが与えられるとする。このとき、例えば、目標軌道が旋回軌道であるときにドライバが旋回軌道の内側に操舵を行おうとすると、調整ゲインαが小さいためにFF指令トルクTffの寄与分が過度に小さくなり、旋回するために必要なトルクを発生できなくなる虞がある。延いては、ドライバは旋回軌道の内側に操舵を行いたいにもかかわらず、旋回軌道の外側に車両が移動する現象が発生する虞がある。
【0074】
一方で、目標軌道が旋回軌道であるときに旋回するために必要なトルクを確保できるように調整ゲインαを与えることとすると、目標軌道が直線軌道であるときにドライバによる車両のコントロール性を十分に向上させることができなくなってしまう。
【0075】
そこで、調整ゲイン算出処理部P200において、第1調整ゲインα1と、第2調整ゲインα2と、をそれぞれ別個に算出するように構成することで、上記のようなトレードオフを解消することができるのである。つまり、目標軌道が直進軌道であるときと、目標軌道が旋回軌道であるときと、の両方について、ドライバによる車両のコントロール性を適切に向上させることができるように、第1調整ゲインα1と第2調整ゲインα2それぞれについて適切な特性を与えることができる。
【0076】
なお、上記の説明によれば、調整指令トルク算出処理部P300は、FF指令トルクTffに第2調整ゲインα2を施した値と調整FB指令トルクTbrの和を調整指令トルクTcとして算出するように構成しても良い。このように構成することによっても、同様の効果を奏することが可能である。
【0077】
3.調整操舵トルク算出処理
以下、図10を参照して、調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンについて説明する。図10は、調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンの好ましい一例を示すフローチャートである。図10に示す処理ルーチンは、所定の処理周期(例えば、5msec)毎に実行されて良い。なお、図10において、前回処理の調整操舵トルクTrをTr’と表現している。
【0078】
ステップS100において、調整操舵トルクTrが初期化済みであるか否かを判定する。調整操舵トルクTrが初期化済みでない場合(ステップS100;No)、調整操舵トルクTrを操舵トルクTの現在値とする(ステップS110)。調整操舵トルクTrが初期化済みである場合(ステップS100;Yes)、処理はステップS120に進む。なお、ステップS110は、典型的には、追従操舵機能が開始されたときに実行される。
【0079】
ステップS120において、操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの和よりも大きいか否かを判定する。
【0080】
操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの和よりも大きい場合(ステップS120;Yes)、操舵トルクTからトルクヒステリシスThだけ差し引いた値を今回処理の調整操舵トルクTrとし(ステップS130)、今回処理を終了する。操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの和よりも大きくない場合(ステップS120;No)、処理はステップS140に進む。
【0081】
ステップS140において、操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの差よりも小さいか否かを判定する。
【0082】
操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの差よりも小さい場合(ステップS140;Yes)、操舵トルクTにトルクヒステリシスThだけ加えた値を今回処理の調整操舵トルクTrとし(ステップS150)、今回処理を終了する。操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’とトルクヒステリシスThの差よりも小さくない場合(ステップS140;No)、調整操舵トルクTrについて演算を行うことなく今回処理を終了する。つまりこの場合、今回処理の調整操舵トルクTrは、前回処理の調整操舵トルクTr’となる。
【0083】
なお、ステップS120及びステップS140に係る処理は、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスThより大きいか否かを判定するものと考えることもできる。つまり、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスThより大きいとき、ステップS130又はステップS150に係る処理が実行される。特に、操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’よりも大きいとき、ステップS130に係る処理が実行され、操舵トルクTが前回処理の調整操舵トルクTr’よりも小さいとき、ステップS150に係る処理が実行される。またステップS130及びステップS150に係る処理は、調整操舵トルク偏差を減少する方向に今回処理の調整操舵トルクTrを算出するものと考えることができる。
【0084】
このような処理ルーチンが実行されることにより、調整指令トルク算出処理部P300において、図4に示すような操舵トルクTの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクTrを算出することができる。またこのように構成される制御装置により、本実施形態に係る制御方法が実現される。
【0085】
4.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、調整ゲイン算出処理部P200において、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて操舵トルクに対する特性が異なる調整ゲインαが算出される。そして、指令トルクTfにこのように算出した調整ゲインαを施すことにより調整指令トルクTcを算出し、調整指令トルクTcに従ってステアリング機構10を制御する。これにより、切り込みの操舵と切り戻しの操舵それぞれにおいて、追従操舵機能によりモータ200が発生させるトルクを異ならせることができる。特に、切り込みの操舵における調整ゲインαは、切り戻しの操舵における調整ゲインαより小さな値となるように与えられる。つまり、切り戻しの操舵においてモータ200が発生させるトルクを、切り込みの操舵においてモータ200が発生させるトルクより小さくすることができる。延いては、切り戻しのときに、ステアリングホイール1の操舵が強く戻される感覚を低減することができる。また、切り返しのとき、調整ゲインαはしばらくの間保持される。つまり、切り返しのとき、モータ200が発生させるトルクが急変することがない。このように、本実施形態によれば、ドライバによる車両のコントロール性を目標軌道に対する操舵状態に応じて適切に向上させることができる。
【0086】
さらに、本実施形態によれば、目標軌道に対するドライバの操舵状態を判定することなく、操舵状態に応じて特性が異なる調整ゲインαを算出することが実現できる。このことは、ドライバが車両の軌道を微修正しようとする状況等において利点となる。これは、以下の理由による。
【0087】
ドライバが車両の軌道を微修正しようとするとき、一般に、操作量は小さくなる。このため、ドライバの操舵状態を判定しようとすると、判定するための状態量も小さくなる。つまり、判定された操舵状態に応じて調整ゲインαに係る変換特性を与える場合、小さな状態量の変化の範囲で調整ゲインαを変更することが必要となる。しかしながら、実際の車両走行においては、ドライバが意図的に操舵していない場合においても、路面外乱等により操作量が検出されることが想定される。延いては、状態量が0近傍で変化することが想定される。このため、小さな状態量の変化の範囲で調整ゲインαを変更することは、意図しない調整ゲインαの変動を招く虞がある。このように、判定された操舵状態に応じて調整ゲインαに係る変換特性を与えることは、ドライバが車両の軌道を微修正しようとする状況等において、目標軌道への追従性とドライバによる車両のコントロール性の向上を両立することができなくなる虞がある。
【0088】
なおドライバの意図しない操作量は、ローパスフィルタにより低減させることも考えられる。しかしこの場合、ローパスフィルタによる応答遅れが発生するため、ドライバが操舵時に違和感を覚える虞や操舵が強く戻される感覚を十分に低減できなくなる虞がある。一方で、本実施形態によれば、ローパスフィルタを必ずしも必要としない。ただし、応答性や操舵感に対する影響を留意して、算出される調整ゲインαにローパスフィルタを適用することも可能である。これにより、操舵トルクTの変化に対してより滑らかな特性を実現することが期待できる。
【0089】
5.実施例
図11に、目標軌道が直進軌道であるときにドライバがサイン操舵を行う場合において、従来技術と本実施形態に係る実施例の比較結果を示す。ここで、従来技術の実施例(実線)は、図3に示すように操舵トルクTの大きさ|T|に対して調整ゲインαを与える場合である。また本実施形態に係る実施例について、調整指令トルク算出処理部P300において、第2調整ゲインα2のみを有効として施す場合の実施例(破線)と、第1調整ゲインα1及び第2調整ゲインα2の両方を有効として施す場合の実施例(1点鎖線)と、の2つの実施例が示されている。なお図11のAは、操舵トルクTに対する操舵角θのリサージュ特性を示し、図11のBは、操舵トルクTに対するヨーレートのリサージュ特性を示している。
【0090】
図11に示されるように、本実施形態によれば、従来技術と比較して、切り返しの操舵において、車両の操舵が余裕をもって行われることがわかる。延いては、切り戻しの操舵における車両のコントロール性が向上することがわかる。また目標軌道が直進軌道であるときは、第2調整ゲインα2のみを有効として施す場合でも、第1調整ゲインα1及び第2調整ゲインα2の両方を有効として施す場合と類似した特性が実現できることがわかる。
【0091】
図12に、目標軌道が旋回軌道であるときにドライバが旋回内側方向にサイン操舵を行う場合において、従来技術と本実施形態に係る実施例の比較結果を示す。特に、図12は、車両が500Rの道路を時速80km/hで走行中の場合の実施例である。図11のA及び図11のBと同様に、図12のAは、操舵トルクTに対する操舵角θのリサージュ特性を示し、図12のBは、操舵トルクTに対するヨーレートのリサージュ特性を示している。
【0092】
図12に示されるように、本実施形態によれば、目標軌道が旋回軌道であるときも、標軌道が直進軌道であるときと同様に切り返しの操舵において車両の操舵が余裕をもって行われることがわかる。ただし、第2調整ゲインα2のみを有効として施す場合は、操舵トルクTに対する操舵角θ及びヨーレートの変化が小さい特性であり、ドライバが旋回内側へ操舵し難い虞がある。一方で、第1調整ゲインα1及び第2調整ゲインα2の両方を有効として施すことで、車両の操舵が余裕をもって行われ、かつドライバが旋回内側に操舵しやすい特性を実現できることがわかる。
【0093】
6.変形例
本実施形態は、以下のように変形した態様を採用しても良い。なお、以下の説明において、前述した内容と重複する事項については、適宜説明を省略している。
【0094】
6-1.第1変形例
調整ゲイン算出処理部P200において、トルクヒステリシス算出処理部P201又は変換処理部P220は、車速に応じて特性を変化させるように構成されていても良い。例えば、車速に応じてトルクヒステリシス算出処理部P201又は変換処理部P220におけるマップを変化させるように構成する。あるいは、調整指令トルク算出処理部P300は、車速に応じて与えられる車速ゲインをさらに指令トルクTfに施すように構成されていても良い。
【0095】
一般に、ドライバの運転感覚は、車速により異なる。従って、第1変形例を採用することにより、車速に応じてより適切に車両のコントロール性の向上を図ることができる。
【0096】
6-2.第2変形例
調整操舵トルク算出処理部P210は、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスTh以下であるとき、所定の勾配で変化させるように調整操舵トルクTrを算出するように構成されていても良い。図13に、第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部P210において算出される調整操舵トルクTrの例を示す。図13には、所定の勾配に対応するように定義されるTslpの値が異なる3つの例が示されている。Tslp=1であるときは、図4に示す例と同等である。つまりこの場合、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスTh以下であるとき、調整操舵トルクTrは一定値を保持する(勾配0)。一方で、Tslp=0.5又はTslp=2であるときは、図4に示す例と比較して、切り返しの操舵における特性が異なっている。
【0097】
このように、第2変形例を採用することにより、切り返しの操舵における特性に自由度をもたせることができる。延いては、所定の勾配を適切に設定することにより、車両のコントロール性の向上をより最適に図ることができる。
【0098】
ここで、第2変形例は、次のように調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンを実施することにより実現することができる。図14は、第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。図14に示す処理ルーチンは、所定の処理周期毎に実行されて良い。
【0099】
ステップS200において、基準トルクTrefが初期化済みであるか否かを判定する。ここで、基準トルクTrefは、以下に説明する処理で明らかにされるように、調整操舵トルクTrと同様に操舵トルクTの変化に対して所定のヒステリシス特性を有するように算出される。ただし、ヒステリシス幅は、以下で説明する偏差上限値ΔTに従う。また特に、基準トルクTrefは、調整操舵トルク偏差がトルクヒステリシスThより大きいときは、図10に示す処理ルーチンにおいて算出される調整操舵トルクTrと同等である。
【0100】
基準トルクTrefが初期化済みでない場合(ステップS200;No)、基準トルクTrefを操舵トルクTの現在値とする(ステップS210)。基準トルクTrefが初期化済みである場合(ステップS200;Yes)、処理はステップS220に進む。
【0101】
ステップS220において、偏差上限値ΔTを算出する。ここで、偏差上限値ΔTは、トルクヒステリシスThをTslpで除することにより算出される。このように算出することで、以下で説明する図14に示す処理ルーチンにより、Tslpは所定の勾配と対応する値となる。なお、Tslpは、例えば、データ113としてあらかじめ与えられる値であって良い。特に、Tslpは、第2変形例に係る制御装置を適用する環境に応じて好適に定められて良い。
【0102】
ステップS220の後、処理はステップS230に進む。
【0103】
ステップS230において、操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの和よりも大きいか否かを判定する。
【0104】
操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの和よりも大きい場合(ステップS230;Yes)、操舵トルクTから偏差上限値ΔTだけ差し引いた値を今回処理の基準トルクTrefとし(ステップS240)、処理はステップS270に進む。操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの和よりも大きくない場合(ステップS230;No)、処理はステップS250に進む。
【0105】
ステップS250において、操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの差よりも小さいか否かを判定する。
【0106】
操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの差よりも小さい場合(ステップS250;Yes)、操舵トルクTに偏差上限値ΔTだけ加えた値を今回処理の基準トルクTrefとし(ステップS260)、処理はステップS270に進む。操舵トルクTが前回処理の基準トルクTref’と偏差上限値ΔTの差よりも小さくない場合(ステップS250;No)、基準トルクTrefについて演算を行うことなくステップS270に進む。つまりこの場合、今回処理の基準トルクTrefは、前回処理の基準トルクTref’となる。
【0107】
ステップS270において、一時値Ttmpを算出する。ここで、一時値Ttmpは、操舵トルクTから基準トルクTrefを差し引いた値にTslpを乗算することにより算出される。
【0108】
ステップS270の後、処理はステップS280に進む。
【0109】
ステップS280において、操舵トルクTからステップS270において算出した一時値Ttmpを差し引いた値を今回処理の調整操舵トルクTrとして算出し、今回処理は終了する。
【0110】
このような処理ルーチンが実行されることにより、調整指令トルク算出処理部P300において、図13に示すように操舵トルクTの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクTrを算出することができる。特に、Tslpの値に応じて、切り返しの操舵における特性を変化させることができる。
【0111】
なお、第2実施例は、操舵角θに着目して、次のように調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンを実施することによっても実現することができる。図15は、第2変形例に係る調整操舵トルク算出処理部P210における処理ルーチンの他の一例を示すフローチャートである。図15に示す処理ルーチンは、所定の処理周期毎に実行されて良い。
【0112】
ステップS300において、基準舵角θrefが初期化済みであるか否かを判定する。ここで、基準舵角θrefは、以下に説明する処理で明らかにされるように、操舵角θの変化に対して所定のヒステリシス特性を有するように算出される。特に、ヒステリシス幅は、以下で説明する偏差上限値Δθに従う。
【0113】
基準舵角θrefが初期化済みでない場合(ステップS300;No)、基準舵角θrefを操舵角θの現在値とする(ステップS310)。基準舵角θrefが初期化済みである場合(ステップS300;Yes)、処理はステップS320に進む。
【0114】
ステップS320において、偏差上限値Δθを算出する。ここで、偏差上限値Δθは、トルクヒステリシスThを所定値Kで除することにより算出される。このように算出することで、以下で説明する図15に示す処理ルーチンにより、Kは所定の勾配と対応する値となる。またKは、操舵角θの変化に対する基準舵角θrefの「剛性」を規定すると考えることもできる。なお、Kは、例えば、データ113としてあらかじめ与えられる値であって良い。特に、Kは、第2変形例に係る制御装置を適用する環境に応じて好適に定められて良い。
【0115】
ステップS320の後、処理はステップS330に進む。
【0116】
ステップS330において、操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの和よりも大きいか否かを判定する。
【0117】
操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの和よりも大きい場合(ステップS330;Yes)、操舵角θから偏差上限値Δθだけ差し引いた値を今回処理の基準舵角θrefとし(ステップS340)、処理はステップS370に進む。操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの和よりも大きくない場合(ステップS330;No)、処理はステップS350に進む。
【0118】
ステップS350において、操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの差よりも小さいか否かを判定する。
【0119】
操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの差よりも小さい場合(ステップS350;Yes)、操舵角θに偏差上限値Δθだけ加えた値を今回処理の基準舵角θrefとし(ステップS360)、処理はステップS370に進む。操舵角θが前回処理の基準舵角θref’と偏差上限値Δθの差よりも小さくない場合(ステップS350;No)、基準舵角θrefについて演算を行うことなくステップS370に進む。つまりこの場合、今回処理の基準舵角θrefは、前回処理の基準舵角θref’となる。
【0120】
ステップS370において、一時値Ttmpを算出する。ここで、一時値Ttmpは、操舵角θから基準舵角θrefを差し引いた値にKを乗算することにより算出される。
【0121】
ステップS370の後、処理はステップS380に進む。
【0122】
ステップS380において、操舵トルクTからステップS370において算出した一時値Ttmpを差し引いた値を今回処理の調整操舵トルクTrとして算出し、今回処理は終了する。
【0123】
このような処理ルーチンが実行されることによっても、調整指令トルク算出処理部P300において、図13に示すように操舵トルクTの変化に対して所定のヒステリシス特性を有する調整操舵トルクTrを算出することができる。ただし、切り返しの操舵における特性は、Kの値に応じて変化することとなる。
【符号の説明】
【0124】
1 ステアリングホイール
10 ステアリング機構
21 操舵角センサ
22 トルクセンサ
100 制御装置(ECU)
110 メモリ
120 プロセッサ
P100 指令トルク算出処理部
P110 FF指令トルク算出処理部
P120 FB指令トルク算出処理部
P200 調整ゲイン算出処理部
P201 トルクヒステリシス算出処理部
P210 調整操舵トルク算出処理部
P220 変換処理部
P300 調整指令トルク算出処理部
図1
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