(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】内燃機関の排気制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/033 20060101AFI20250109BHJP
F01N 3/00 20060101ALI20250109BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20250109BHJP
F02D 9/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F01N3/033 G
F01N3/00 F ZAB
F01N13/08 B
F02D9/04 E
(21)【出願番号】P 2022044462
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 遼子
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-60135(JP,A)
【文献】特開2008-95599(JP,A)
【文献】特開2012-225173(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0115824(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F01N 13/00
F02D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスを排出する排気管の途中にガソリン・パティキュレート・フィルタが設けられている内燃機関の排気制御装置であって、
前記ガソリン・パティキュレート・フィルタの下流側に大気に連通している第1排気管路と、開閉弁によって開閉されかつ大気に連通している第2排気管路とが接続されており、
前記ガソリン・パティキュレート・フィルタの上流側の圧力を検出するセンサと、
前記センサで検出された圧力が予め定めた基準圧力以上になった場合に前記開閉弁を開くように制御するコントローラと
を更に備えていることを特徴とする内燃機関の排気制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を運転すればPM(粒子状物質)などが生じるので、排気系統にフィルタを設けてPMを捕集することが行われている。その一例が特許文献1に記載されており、特許文献1に記載された発明は、排気浄化触媒とPMなどを捕捉するフィルタとを、排気系統の上流側から順に配置した排気浄化システムであって、フィルタによる圧力損失を低減するために、触媒金属や複合酸化物をフィルタに担持させて、フィルタに触媒機能を付与した構成としている。また、特許文献2には、ディーゼルエンジンの排気ポートに連通しているパーティキュレート捕集フィルタ(DPF)の下流側に排気絞り弁を設けた排気ガス浄化装置であって、排気行程で排気バルブが開かない最大圧と排気バルブの背圧とを比較し、背圧が低い状態では排気絞り弁を閉じるように構成した装置が記載されている。さらに、特許文献3には、DPF本体部に対して予備フィルタを並列に配置するとともに、その予備フィルタに対して排ガスを選択的に導入するための圧力バルブを設けた装置であって、DPF装置内の圧力が増大した場合に、予備フィルタ側に排ガスを流すように構成された装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-194478号公報
【文献】特開2010-156296号公報
【文献】特開2005-240652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の排出側にPMなどを捕捉するフィルタを設けた場合、そのフィルタが排気抵抗になるので、内燃機関の出力もしくは運転効率の低下を回避するためには、フィルタにおける目詰まりなど、圧力損失の要因を可及的に排除もしくは削減することが望まれる。そこで特許文献1に記載された発明では、フィルタに触媒機能を付与することとしている。しかしながら、そのような構成では、PMなどの付着やたい積を抑制して圧力損失の増大を抑制もしくは遅延させることができるとしても、PMなどの付着やたい積を完全に回避できる訳ではないので、いずれは目詰まりなどにより圧力損失が増大する。すなわち、特許文献1に記載された発明では、目詰まりなどによる圧力損失の増大や、それに伴う内燃機関の出力低下もしくは運転効率の低下を解消もしくは是正することは困難である。
【0005】
また、特許文献2に記載された発明は、DPFの下流側に設けた排気絞り弁を開閉するように構成されているが、特許文献2に記載された発明では、排気絞り弁を閉じた状態での排気バルブの背圧と、吸気行程で排気バルブが開かない最大圧力とを比較し、その比較の結果に基づいて排気絞り弁の開閉を制御している。これは、DPFに高温高圧の排ガスを導入してPMの燃焼を促進するためであり、したがって排気絞り弁を閉じた場合の排気バルブの背圧が上記の最大圧力より低い場合には、排気絞り弁を閉じて背圧を高くすることになる。これは、DPFがPMなどの付着やたい積などによって目詰まりした状態と同様である。すなわち、特許文献2に記載された発明では、DPFの目詰まりなどにより圧力損失が大きくなった状態と同様の状態を生じさせることになり、背圧の増大による出力の低下や排ガスの漏洩などの課題が生じる可能性がある。
【0006】
さらに、特許文献3に記載された発明は、目詰まりなどによって圧力損失が増大したフィルタに流す排ガス量を減じ、かつその減少させた分の排ガスを予備フィルタで浄化するように構成された発明である。しかしながら特許文献3に記載された発明は、圧力損失の増大したフィルタを活用して排気管内の圧力を低下させるように構成されたものではなく、予備フィルタを付加的に設けた構成であるから、装置が大型化し、またコストが高くなる可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPF)を備えている排気管の内部の圧力を簡単な構成で低下させることのできる内燃機関の排気制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の目的を達成するために、燃焼排ガスを排出する排気管の途中にガソリン・パティキュレート・フィルタが設けられている内燃機関の排気制御装置であって、前記ガソリン・パティキュレート・フィルタの下流側に大気に連通している第1排気管路と、開閉弁によって開閉されかつ大気に連通している第2排気管路とが接続されており、前記ガソリン・パティキュレート・フィルタの上流側の圧力を検出するセンサと、前記センサで検出された圧力が予め定めた基準圧力以上になった場合に前記開閉弁を開くように制御するコントローラとを更に備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
排気管の途中に設けられているガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPFと記す)は、それ自体、流動抵抗による圧力損失を生じさせる。したがって、排気管の内部の圧力であるGPFの上流側の圧力と下流側の圧力との間には、GPFでの圧力損失に応じた圧力差が生じる。GPFにPMなどが付着・たい積して圧力損失が増大すると、それに伴ってその上流側の圧力である排気管の内部圧力が上昇する。一方、GPFの下流側に接続されている第1排気管路と第2排気管路とはその長さや内径などに応じて圧力損失を生じさせており、開閉弁が閉じている状態では、GPFから大気に到る管路の総断面積が第1排気管路による断面積であることにより、圧力損失が大きく、GPFの下流側の圧力がその分高くなっている。すなわち、排気管の内部の圧力が所定の圧力に維持され、PMの燃焼などが促進されている。これに対して、センサで検出された排気管の内部圧力が高くなると、開閉弁が開かれ、その分、GPFを大気に連通させる管路の総断面積が増大し、GPFの下流側の圧力が低下する。したがって、GPFによる圧力損失が増大していても、その下流側の圧力の低下に応じて、上流側の圧力が低下する。すなわち内燃機関の排気側の圧力もしくは排気バルブの背圧が上昇することが防止もしくは抑制されるので、内燃機関の不可避的な出力の低下を防止もしくは抑制でき、また排ガスの漏洩や排気管の損傷などを回避もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の実施形態の構成を説明するための模式図である。
【
図2】この発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎにこの発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0012】
図1はこの発明の実施形態を説明するための模式図であり、内燃機関(以下、エンジンと記す)1は、一例としてガソリンエンジンであり、ガソリンと空気との混合気を燃焼させて動力を出力する。この混合気の燃焼に伴って生じる排ガスを、エギゾーストマニホールド2を介して接続されている排気管3を通して大気中に排出するように構成されている。その排気管3には、上流側から順に、排気浄化触媒4およびGPF5が設けられている。排気浄化触媒4は、炭化水素や一酸化炭素などの環境汚染物質を酸化させる酸化触媒や、窒素酸化物を硝酸態窒素として捕捉した後に還元して無害化する吸蔵還元型触媒など、従来、車両に用いられている排気浄化触媒である。また、GPF5は、ガソリンを燃焼させることにより生じるPMを捕集し、また必要に応じて燃焼させるフィルタであり、主として、ガソリンを吸気ポートや気筒内などに直接噴射する直噴式のガソリンエンジンに用いられる公知のフィルタである。
【0013】
GPF5の下流側(排出側)に、第1排気管路6と第2排気管路7とが接続されている。これらの排気管路6,7は、GPF5から排出される排ガスを大気に放出するための管路であり、大気に連通している。第1排気管路6は、排ガスを常時流すためのものであり、これに対して第2排気管路7は必要に応じて排ガスを流すためのものであって、排ガスを第2排気管路7に選択的に流入させ、また流入を阻止する開閉弁8が設けられている。なお、
図1では第1排気管路6を2本備え、また第2排気管路7を1本備えた構成を示してあるが、これらの排気管路6,7は必要に応じて適宜の本数としてよい。
【0014】
開閉弁8は、その開度を電気的に制御できる弁であって、「全開」と「全閉」との二つの状態に切り替わる弁、あるいは適宜の開度に設定できる弁である。この開閉弁8の開度を制御するコントローラ9が設けられている。コントローラ9は、マイクロコンピュータを主体として構成された演算器であり、入力されたデータや予め記憶しているデータを使用して、所定のプログラムに従って演算を行い、その演算の結果を制御指令信号として出力するように構成されている。
【0015】
そして、排気管3のうち前述したGPF5の上流側の内部圧力を検出する圧力センサ10が設けられている。この圧力センサ10はコントローラ9に接続され、GPF5の上流側における排気管3の内部圧力を検出し、その検出信号(データ)をコントローラ9に入力するように構成されている。
【0016】
エンジン1の出力を増大させると排ガス量も増えるから、排気管3の内部の圧力が増大する。排気管3の内部圧力は強度などの点で制限があり、したがって排気管3の内部圧力が増大した場合には、エンジン1の出力の増大が制限される。また、GPF5での圧力損失が増大した場合にも排気管3の内部圧力が上昇するので、エンジン1の出力が制限されることがある。このような排気管3の内部圧力の上昇によるエンジン1の出力の制限を解消もしくは緩和するために、上述したこの発明の実施形態における制御装置は、以下に説明する制御を実行するように構成されている。
【0017】
図2はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、前述したコントローラ9によって実行される。
図2にフローチャートで示す制御は、エンジン1が運転されているときに上記のコントローラ9によって繰り返し実行される。エンジン1が運転されている場合、その出力に応じて燃焼排ガスが排出され、排気管3の内部が所定の圧力になっている。その圧力は前述した圧力センサ10によって検出されている。エンジン1の出力の増大やGPF5での圧力損失の増大などによって排気管3の内部圧力(GPF5の上流側の圧力)が上昇すると、圧力センサ10によって検出値が増大する。
図2に示す制御例では、そのような圧力の上昇があったか否かがステップS1で判定される。例えば、排気管3の内部圧力が予め定めた基準圧力P以上になったか否かが判定される。
【0018】
上記の第2排気管路7および開閉弁8は、排気管3の内部圧力が上昇した場合にそなえて設けられたものであるから、エンジン1を始動した後の出力が特には大きくない通常の状態では開閉弁8は閉じている。したがってステップS1で否定的に判定された場合には、特に制御を行うことなく、
図2に示すルーチンを一旦終了する。
【0019】
この場合、開閉弁8は「閉状態」に維持され、GPF5から排出された排ガスは、第1排気管路6を通って大気中に排出される。したがって、GPF5の排出側の圧力は、GPF5の排出口から第1排気管路6の開口端までの間の圧力損失によって決まる圧力になる。また、GPF5の上流側の圧力(排気管3の内部圧力)は、GPF5での圧力損失とその排出側の圧力に応じた圧力になる。こうして決まる排気管3の内部圧力が、エンジン1の運転に支障がなく、またGPF5でのPMなどの捕集や燃焼に支障がない圧力となるようにGPF5や排気管3ならびに第1排気管路6などが構成されている。すなわち、排気管3の内部圧力が過度に上昇したり、そのためにエンジン1の出力が制限されたりするなどのことが生じず、エンジン1を要求に応じて運転することができる。
【0020】
一方、出力要求の増大などによって排気管3の内部圧力が上昇し、ステップS1で肯定的に判断された場合、開閉弁8を「開状態」にする制御が実行される(ステップS2)。開閉弁8を開くと、GPF5から排出される排ガスは、第1排気管路6だけでなく第2排気管路7を通って大気中に放出される。すなわち、GPF5から大気に到るまでの管路断面積が、第2排気管路7の分増大するなどのことによって、GPF5の下流側(排出側)の抵抗(圧力損失)が低減する。GPF5の上流側(流入側)の圧力すなわち排気管3の内部圧力は、GPF5による圧力損失とその下流側(排出側)における圧力とによって決まるから、開閉弁8を開いて圧力損失を低減することによりGPF5の下流側の圧力を低下させると、GPF5の上流側の圧力である排気管3の内部圧力が低下する。その結果、エンジン出力を制限する要因がなくなるので、エンジン1の出力を駆動要求に応じて増大させることができる。
【0021】
結局、この発明の実施形態では、GPF5の下流側に、上記の第1排気管路6に加えて第2排気管路7を設け、排気管3の内部圧力が上昇する場合に開閉弁8を開いて第2排気管路7からも排気するように構成したので、排気管3の内部圧力が高くなることを防止もしくは抑制してエンジン1の出力が制限されることを回避することができる。また、フィルタなどを有する別の排気系統などを追加して設ける必要がないので、全体としての構成を簡素化することができる。
【0022】
なお、上述した実施形態では、排気管3の内部圧力が所定の基準圧力P以上になることにより、開閉弁8を全開にすることとしたが、この発明はこのような構成に限られないのであって、排気管3の内部圧力が所定の基準圧力以上であれば、その圧力に応じて開閉弁の開度を増大させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 エンジン
2 エギゾーストマニホールド
3 排気管
4 排気浄化触媒
5 ガソリン・パーティキュレート・フィルタ(GPF)
6 第1排気管路
7 第2排気管路
8 開閉弁
9 コントローラ
10 圧力センサ