(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H02K1/20 Z
(21)【出願番号】P 2022054459
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆志
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-023387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0008770(US,A1)
【文献】特開2014-087123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状のステータと、前記ステータの内周側に該ステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、
前記ステータは、
筒形状を成しているとともに、該筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、
前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、
前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、該空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、
を有する回転電機において、
前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられて
おり、
前記複数箇所のモールド樹脂部の前記表面に設けられる前記溝の総数は前記ティースの数と相違している
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
筒形状のステータと、前記ステータの内周側に該ステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、
前記ステータは、
筒形状を成しているとともに、該筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、
前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、
前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、該空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、
を有する回転電機において、
前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられており、
前記複数箇所のモールド樹脂部の各々の前記表面に設けられる前記溝の数が相違している
ことを特徴とす
る回転電機。
【請求項3】
筒形状のステータと、前記ステータの内周側に該ステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、
前記ステータは、
筒形状を成しているとともに、該筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、
前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、
前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、該空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、
を有する回転電機において、
前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられており、
前記ロータは支持部材によって前記中心線まわりに回転可能に支持されているとともに、前記軸方向において前記支持部材と前記ロータとの間にはレゾルバが配設されており、
前記支持部材には、レゾルバステータを内部に位置決めして保持する円筒形状のレゾルバインローが前記ロータに向かって突き出すように設けられているとともに、該レゾルバインローには前記中心線まわりの複数箇所に前記軸方向に延びるスリットが設けられており、
前記溝は、前記中心線まわりにおいて前記複数箇所のスリットの中の少なくとも一つと一致する位置を含んで設けられている
ことを特徴とす
る回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機に係り、特に、複数のティースの間の空隙部分が樹脂材料で埋められているステータを有する回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒形状のステータと、前記ステータの内周側にそのステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えている回転電機が広く知られている。そして、上記ステータとして、(a) 筒形状を成しているとともに、その筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、(b) 前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、(c) 前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、その空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、を有するものがある。特許文献1に記載のステータはその一例で、発泡樹脂材料等の支持部材がモールド樹脂部として空隙部分に設けられている。特許文献1ではまた、冷却流体を排出するための流通孔がステータコアに設けられ、冷却流体の滞留に起因するロータの引き摺り回転による損失(以下、引き摺り損失と言う。)が低減されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステータコアに流通孔を空けると磁束の流れが阻害されるため、回転電機の効率が低下してトルク低下等を生じる可能性がある。なお、電動モータに限らず、発電機でも同様の問題がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ステータコアに流通孔を設けることなく冷却流体の流通流量を確保して引き摺り損失が低減されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 筒形状のステータと、前記ステータの内周側にそのステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、(b) 前記ステータは、(b-1) 筒形状を成しているとともに、その筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、(b-2) 前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、(b-3) 前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、その空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、を有する回転電機において、(c) 前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられており、(d) 前記複数箇所のモールド樹脂部の前記表面に設けられる前記溝の総数は前記ティースの数と相違していることを特徴とする。
なお、上記溝は、軸方向と直角な断面において、ティースの突出面を延長して得られる空隙部分の仮想表面(曲線乃至は折れ線)を基準として、その仮想表面よりも外周側へ凹むように溝断面が形成されるものである。
【0008】
第2発明は、(a) 筒形状のステータと、前記ステータの内周側にそのステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、(b) 前記ステータは、(b-1) 筒形状を成しているとともに、その筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、(b-2) 前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、(b-3) 前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、その空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、を有する回転電機において、(c) 前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられており、(e)前記複数箇所のモールド樹脂部の各々の前記表面に設けられる前記溝の数が相違していることを特徴とする。
なお、1箇所のモールド樹脂部の表面に設けられる溝の数は0を含み、例えば溝数が0と1の2種類でも良い。
【0009】
第3発明は、(a) 筒形状のステータと、前記ステータの内周側にそのステータと共通の中心線まわりに回転可能に配設されたロータと、を備えているとともに、(b) 前記ステータは、(b-1) 筒形状を成しているとともに、その筒形状の内周側へ突き出すティースが前記中心線まわりの周方向に所定の空隙を隔てて複数設けられたステータコアと、(b-2) 前記複数のティースに巻回されるように前記空隙内に配設された複数のコイルと、(b-3) 前記空隙をそれぞれ埋めるように樹脂材料が充填されて前記コイルを覆蓋しているとともに、その空隙を塞いでいる表面が前記ティースの突出面と略面一とされて前記ステータの内周面を形成している複数箇所のモールド樹脂部と、を有する回転電機において、(c) 前記複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の前記表面には、前記中心線と平行な軸方向に溝が設けられており、(f) 前記ロータは支持部材によって前記中心線まわりに回転可能に支持されているとともに、前記軸方向において前記支持部材と前記ロータとの間にはレゾルバが配設されており、(g) 前記支持部材には、レゾルバステータを内部に位置決めして保持する円筒形状のレゾルバインローが前記ロータに向かって突き出すように設けられているとともに、そのレゾルバインローには前記中心線まわりの複数箇所に前記軸方向に延びるスリットが設けられており、(h) 前記溝は、前記中心線まわりにおいて前記複数箇所のスリットの中の少なくとも一つと一致する位置を含んで設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明の回転電機においては、ステータコアの空隙部分に樹脂材料が充填された複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の表面には軸方向に溝が設けられているため、ロータの外周面との間に冷却流体の流通断面が確保されて、冷却流体がその溝を通って軸方向へ円滑に流通させられるようになり、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減される。この場合には、冷却流体を排出するための流通孔をステータコアに設ける必要がないため、磁束の流れを阻害する恐れが無く、回転電機の効率が良好に維持される。
また、上記溝の総数がティースの数と相違しているため、振動や異音の発生が抑制される。すなわち、溝の有無によって冷却流体に圧力差が発生し、その圧力差に起因してロータが回転変動を生じる一方、回転電機はティースの数に対応してトルク変動が発生するため、そのトルク変動に起因する回転変動と圧力差に起因する回転変動とが共振して振動や異音が悪化する可能性があるが、溝の総数がティースの数と相違していると共振が抑制され、振動や異音の発生が抑制される。
【0012】
第2発明の回転電機では、ステータコアの空隙部分に樹脂材料が充填された複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の表面には軸方向に溝が設けられているため、ロータの外周面との間に冷却流体の流通断面が確保されて、冷却流体がその溝を通って軸方向へ円滑に流通させられるようになり、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減される。この場合には、冷却流体を排出するための流通孔をステータコアに設ける必要がないため、磁束の流れを阻害する恐れが無く、回転電機の効率が良好に維持される。
また、複数箇所のモールド樹脂部の各々の表面に設けられる溝の数が相違しているため、溝の有無によって生じる冷却流体の圧力差に起因して生じるロータの回転変動が不規則になり、回転電機のトルク変動との共振が抑制されて振動や異音の発生が抑制される。
【0013】
第3発明の回転電機では、ステータコアの空隙部分に樹脂材料が充填された複数箇所のモールド樹脂部の中の少なくとも一部のモールド樹脂部の表面には軸方向に溝が設けられているため、ロータの外周面との間に冷却流体の流通断面が確保されて、冷却流体がその溝を通って軸方向へ円滑に流通させられるようになり、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減される。この場合には、冷却流体を排出するための流通孔をステータコアに設ける必要がないため、磁束の流れを阻害する恐れが無く、回転電機の効率が良好に維持される。
また、レゾルバステータを位置決めして保持するレゾルバインローが支持部材に設けられており、そのレゾルバインローに設けられたスリットと一致する位置を含んで溝が設けられているため、溝を通って軸方向へ流通した冷却流体がスリット内へ排出されることにより、レゾルバインローの存在に拘らず冷却流体の滞留が抑制されて引き摺り損失が適切に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例である回転電機を説明する図で、中心線Oと直角な概略断面図である。
【
図2】
図1におけるII-II矢視部分の概略軸方向断面図である。
【
図3】
図1における III部位を拡大して示した断面図である。
【
図4】本発明の他の実施例を説明する図で、
図3に相当する断面図である。
【
図5】本発明の更に別の実施例を説明する図で、
図6のV-V矢視部分における中心線Oと直角な概略断面図である。
【
図6】
図5におけるVI-VI矢視部分の概略軸方向断面図である。
【
図7】本発明の更に別の実施例を説明する図で、
図1に相当する概略断面図である。
【
図8】本発明の更に別の実施例を説明する図で、
図1に相当する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
回転電機は回転電気機械のことで、回転機と言われることもあり、電動モータや発電機、或いはその両方で用いられるモータジェネレータで、例えば永久磁石型の三相交流同期モータなどである。本発明は、例えば電気自動車やハイブリッド車両等の電動車両の走行用の駆動力源として用いられる電動車両用回転電機に適用されるが、シリーズ型ハイブリッド車両の発電機や、車両用以外の電動モータや発電機など、種々の回転電機に適用される。モールド樹脂部の表面に設けられる溝の断面形状は、V字形状やU字形状、円弧形状、四角形状など、種々の態様が可能である。1箇所のモールド樹脂部の表面に設けられる溝の数は0~2が適当であるが、3以上設けることも可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や角度、形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0017】
図1は、本発明の一実施例である回転電機10を説明する図で、中心線Oと直角な概略断面図である。
図2は、中心線Oに沿って切断した概略軸方向断面図で、
図1におけるII-II矢視部分の断面図である。この回転電機10は永久磁石埋込型の三相交流同期モータで、電動モータおよび発電機として択一的に用いることができるモータジェネレータであり、例えばハイブリッド車両等の電動車両の走行用の駆動力源として用いられる電動車両用回転電機である。回転電機10は、中心線Oと同心に設けられたロータ12およびステータ14を備えている。本実施例の説明では回転電機10の中心線Oを、ロータ12やステータ14、ロータ軸20の中心線としても使用する。
【0018】
ロータ12は、ロータ軸20の外周面に取り付けられた円筒形状のロータコア22と、そのロータコア22に埋設された図示しない永久磁石とを備えており、ロータ軸20を介して図示しないケース内に中心線Oまわりに回転可能に配設されている。ロータコア22は、多数の円環形状の鋼板24を中心線Oに対して垂直な姿勢で軸方向、すなわち中心線Oと平行な方向に積層したもので、図示しないねじ部材等を介してロータ軸20に固定されている。ロータ軸20の軸心部分には、冷却流体が流通させられる軸方向流通孔26が設けられているとともに、ロータコア22が固定された部分には、径方向流通孔28が軸方向流通孔26に連通するように設けられており、軸方向流通孔26に供給された冷却流体が径方向流通孔28から外部に流出してロータコア22に供給される。この冷却流体は、遠心力等によりロータコア22の多数の鋼板24の間の隙間を通ってロータ12の外周面まで流通するが、必要に応じてロータコア22に径方向流通孔が設けられても良い。
【0019】
ステータ14は、ロータ12の外周側に配設された円筒形状のステータコア30を備えている。ステータコア30は、多数の円環形状の鋼板32を中心線Oに対して垂直な姿勢で軸方向、すなわち中心線Oと平行な方向に積層したもので、圧入或いは取付ボルト等を介して図示しないケースに固定されている。ステータコア30には、円筒形状の内周側へ突き出すティース34が、中心線Oまわりの周方向に所定の空隙36を隔てて等角度間隔で複数(本実施例では15)設けられている。ティース34は、ステータコア30の軸方向の全長に亘って中心線Oと平行に設けられているとともに、空隙36はステータコア30の軸方向に貫通して設けられており、複数のティース34にはそれぞれコイル38が巻回されている。本実施例では、
図1における右側斜め下の1箇所のティース34aを除く14箇所のティース34にコイル38が巻回されている。ティース34に巻回されたコイル38は、それぞれ空隙36内に収容されるように配設されているとともに、複数の空隙36にはそれぞれエポキシ樹脂等の絶縁性を有する樹脂材料が充填されてモールド樹脂部40が設けられており、そのモールド樹脂部40によりコイル38が覆蓋されて固定されている。
【0020】
図3は、
図1における III部位を拡大して示した断面図で、モールド樹脂部40は、空隙36の開口部を塞ぐように設けられており、その表面40fはティース34の突出面(内周側先端面)34fと略面一になるように形成されてステータ14の内周面を形成している。本実施例では、ティース34の突出面34fは、中心線Oを中心とする円筒面を成しており、モールド樹脂部40の表面40fも、ティース34に接する周方向の両端部は中心線Oを中心とする円筒面とされている。このモールド樹脂部40は、
図2に示されるようにコイル38がステータコア30から軸方向の外方へ突き出すコイルエンド38eを被覆するエンド被覆部40eを含めて一体に設けられている。なお、
図1では、コイル38およびモールド樹脂部40の断面を表すハッチングが省略されている。
図1に相当する
図5、
図7、
図8も同様である。
【0021】
ステータ14の内径寸法、すなわちティース34の突出面34fの径寸法は、ロータ12の外径寸法よりも僅かに大きく、ロータ12の円筒形状の外周面とステータ14の円筒形状の内周面との間に僅かな隙間が設けられている。したがって、ロータ軸20の軸方向流通孔26から径方向流通孔28を経てロータコア22に供給され、遠心力等によりロータコア22内を流通してロータ12の外周面に流出した冷却流体は、ステータ14の内周面との間の隙間を通って回転電機10の軸方向へ排出される。しかしながら、隙間寸法が小さいと、十分な流通流量が得られず、その冷却流体の滞留に起因して引き摺り損失が大きくなる可能性がある。このため、本実施例では、ステータ14の内周面を形成しているモールド樹脂部40の表面40fに、中心線Oと平行な軸方向に延びる溝42が設けられ、冷却流体を流れ易くしている。
【0022】
すなわち、前記モールド樹脂部40は、複数のティース34の間の総ての空隙36を埋めるように設けられており、その複数の空隙36の開口部を塞いでいる総ての表面40fには、それぞれ冷却流体を流通させるための溝42が中心線Oと平行な軸方向に1本ずつ設けられている。溝42は、
図3に示される中心線Oと直角な断面図において、ティース34の突出面34fを空隙36部分まで延長した場合の仮想表面(中心線Oを中心とする円筒面)fvよりも外周側へ凹むように形成されており、本実施例では断面V字形状の溝42が設けられている。この溝42は、少なくとも
図2におけるロータ12の軸方向の全長よりも長く、ロータ12の軸方向の両側へ延び出す範囲に設けられ、本実施例ではコイルエンド38eを覆蓋するエンド被覆部40eを含めたステータ14の全長に設けられている。このような溝42は、例えばコイル38が配設された複数箇所の総ての空隙36に樹脂材料を充填してモールド樹脂部40を射出成形する場合、その射出成形を行なう成形型の成形面に、溝42の断面形状に対応する断面三角形の凸条を設けることにより、ティース34を挟んで周方向の複数箇所に設けられる総てのモールド樹脂部40の表面40fに同時に形成することができる。
【0023】
このような本実施例の回転電機10においては、ステータコア30の空隙36に樹脂材料が充填された複数箇所のモールド樹脂部40の総ての表面40fには、それぞれ軸方向に溝42が設けられているため、ロータ12の外周面との間に冷却流体の流通断面が確保され、ロータ軸20からロータコア22に供給された冷却流体は、
図2に矢印Aで示すように、遠心力等によりロータコア22内を径方向の外側に流通してロータ12の外周面に流出した後、溝42を通って軸方向へ円滑に流通させられるようになり、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減される。この場合には、特許文献1のように冷却流体を排出するためにステータコア30に流通孔を設ける必要がないため、磁束の流れを阻害する恐れが無く、回転電機10の効率が良好に維持される。
【0024】
また、本実施例では、複数(15箇所)のモールド樹脂部40の総ての表面40fに溝42が設けられているため、冷却流体の流通流量を十分に確保して滞留を適切に抑制することができる。また、本実施例では複数箇所の空隙36に対し、射出成形により同時に樹脂材料を充填してモールド樹脂部40を設けるため、その射出成形の成形型に溝42の断面形状に対応する断面三角形の凸条を設けるだけで表面40fに溝42を設けることができ、簡単に実施することが可能で加工コストの増加が抑制されるとともに、溝42の分だけ樹脂材料の必要量が少なくなって材料コストが節減される。
【0025】
また、特許文献1には、モールド樹脂に流通孔を設けて冷却流体を排出する技術が記載されているが、その場合には流通孔を起点として亀裂が発生、進展し、モールド樹脂が脱落することが想定されるが、本実施例ではモールド樹脂部40の表面40fに溝42を設けるだけで良いため、亀裂が発生したりモールド樹脂部40が脱落したりする可能性が低い。また、流通孔を設けるための後加工が不要であるため、製造コストの増加が抑制される。
【0026】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0027】
図4は、
図3に相当する断面図で、モールド樹脂部40の表面40fには、前記溝42の代わりに一対の溝50、52が軸方向の全長に設けられている。この場合も、それ等の溝50、52により冷却流体の排出が促進され、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減されるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。また、中心線Oまわりにおける溝50、52の間隔が不等間隔になるとともに、溝50、52の総数がティース34の2倍になるため、振動や異音の発生が抑制される。すなわち、溝50、52の有無によって冷却流体に圧力差が発生し、その圧力差に起因してロータ12が回転変動を生じる一方、回転電機10はティース34の数に対応してトルク変動が発生するため、そのトルク変動に起因する回転変動と圧力差に起因する回転変動とが共振して振動や異音が悪化する可能性があるが、溝50、52の総数がティース34の数と相違しているとともに、溝50、52の間隔が不等間隔であるため、共振による振動や異音の発生が抑制される。
【0028】
図5および
図6の回転電機60は、ロータ12の軸方向に隣接してレゾルバ62が設けられている場合で、
図5は
図6のV-V矢視部分における中心線Oと直角な概略断面図で、
図6は
図5のVI-VI矢視部分における概略軸方向断面図である。ロータ12、ステータ14、およびロータ軸20は前記実施例と同様に構成されており、ロータ軸20の一端部は、ベアリング64を介してリヤカバー66により中心線Oまわりに回転可能に支持されている。リヤカバー66は支持部材に相当し、ステータ14が固定される回転電機60のケースの一部を構成している。すなわち、この回転電機60は、レゾルバ内蔵型の回転電機である。
【0029】
レゾルバ62は、軸方向においてリヤカバー66とロータ12との間に配設されており、ロータ軸20に固定されるレゾルバロータ68と、リヤカバー66に固定されるレゾルバステータ70とを備えている。レゾルバロータ68は、多数の円環形状の鋼板を中心線Oに対して垂直な姿勢で軸方向に積層したロータコアを備えて構成されており、レゾルバステータ70は、多数の円環形状の鋼板を中心線Oに対して垂直な姿勢で軸方向に積層したステータコアと、そのステータコアの内周面に設けられた複数のティースに巻回された複数のレゾルバコイル72とを備えて構成されている。レゾルバコイル72は、レゾルバカバー74によって覆蓋されているとともに、コネクタ76を介して外部に接続される。
【0030】
前記リヤカバー66には、レゾルバステータ70を内部に位置決めして保持する円筒形状のレゾルバインロー80が、ロータ12に向かって突き出すように軸方向に設けられている。レゾルバインロー80の外径寸法はロータ12の外径寸法と略同じで、そのロータ12の軸方向の端面に近接する位置まで突き出しており、
図6の中心線Oよりも上側に示すように、溝42内を軸方向へ流通させられてロータ12の外部へ排出されるべき冷却流体が、そのレゾルバインロー80によって阻害され、溝42内に滞留する可能性がある。これに対し、レゾルバインロー80には中心線Oまわりの複数箇所に軸方向に延びるスリット82が設けられているとともに、そのスリット82の少なくとも一つは、中心線Oまわりにおいて上記溝42と一致する位置に設けられている。本実施例では、中心線Oまわりに120°間隔で位置する3箇所にスリット82を備えていて、その3箇所のスリット82が何れも溝42と一致する位置に設けられている。スリット82は、何れもレゾルバインロー80の先端に開口させられており、
図6の中心線Oよりも下側に示すように、スリット82に対応する位置の溝42内を矢印Aに沿って軸方向へ流通させられた冷却流体は、そのままスリット82内に排出される。
【0031】
すなわち、本実施例のレゾルバ内蔵型の回転電機60は、レゾルバステータ70を位置決めして保持するレゾルバインロー80がリヤカバー66に設けられており、溝42内を軸方向に流通させられた冷却流体の排出がそのレゾルバインロー80によって阻害される恐れがあるが、レゾルバインロー80に設けられた複数のスリット82が、中心線Oまわりにおいて何れも溝42と一致する位置に設けられているため、溝42を通って軸方向へ流通した冷却流体がスリット82内へ排出されることにより、レゾルバインロー80の存在に拘らず冷却流体の滞留が抑制されて引き摺り損失が適切に低減される。
【0032】
なお、スリット82に対応する位置の3箇所の溝42以外の溝42も、冷却流体の排出促進に寄与している。但し、スリット82に対応する位置の3箇所の溝42だけで所定の冷却流体排出性能が得られる場合には、他の12箇所の溝42の一部または全部を無くし、モールド樹脂部40の表面40fを、ティース34の突出面34fと同じ中心線Oを中心とする円筒面としても良い。
【0033】
図7は、
図1に相当する概略断面図で、この回転電機90は、前記回転電機10に比較して、15箇所のモールド樹脂部40の中の一部(
図7では5箇所)のモールド樹脂部40の表面40fの溝42が無く、その表面40fがティース34の突出面34fと同じ中心線Oを中心とする円筒面とされている。このような回転電機90によれば、10箇所のモールド樹脂部40の表面40fに設けられた溝42により冷却流体の排出が促進され、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減されるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。また、モールド樹脂部40の各表面40fに設けられる溝42の数が1本と0本で相違しており、中心線Oまわりにおける溝42の間隔が不等間隔になるため、溝42の有無による冷却流体の圧力差に起因して生じるロータ12の回転変動が不規則になるとともに、溝42の総数がティース34の数と異なるため、ティース34の数に対応するトルク変動に起因するロータ12の回転変動との共振が抑制され、その共振による振動や異音の発生が抑制される。
【0034】
図8は、
図1に相当する概略断面図で、この回転電機92は、前記回転電機10に比較して、15箇所のモールド樹脂部40の中の一部(
図8では5箇所)のモールド樹脂部40の表面40fに、前記溝42の代わりに
図4に示した一対の溝50、52が設けられている。すなわち、表面40fに単一の溝42が設けられたモールド樹脂部40と、表面40fに一対の溝50、52が設けられたモールド樹脂部40とが、中心線Oまわりにおいて混在している。このような回転電機92によれば、10箇所のモールド樹脂部40の表面40fに設けられた溝42、および5箇所のモールド樹脂部40の表面40fに設けられた溝50、52により冷却流体の排出が促進され、冷却流体の滞留に起因する引き摺り損失が低減されるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。また、モールド樹脂部40の各表面40fに設けられる溝42、50、52の数が1本と2本で相違しており、中心線Oまわりにおける溝42、50、52の間隔が不等間隔になるため、溝42、50、52の有無による冷却流体の圧力差に起因して生じるロータ12の回転変動が不規則になるとともに、溝42、50、52の総数がティース34の数と異なるため、ティース34の数に対応するトルク変動に起因するロータ12の回転変動との共振が抑制され、その共振による振動や異音の発生が抑制される。
【0035】
なお、
図5および
図6のレゾルバ内蔵型の回転電機60にも、
図7、
図8の技術を適用することが可能で、レゾルバインロー80の複数のスリット82が、中心線Oまわりにおいて溝42または溝50、52が設けられたモールド樹脂部40と一致する位置に設けられれば良い。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10、60、90、92:回転電機 12:ロータ 14:ステータ 30:ステータコア 34:ティース 34f:突出面 36:空隙 38:コイル 40:モールド樹脂部 40f:表面 42、50、52:溝 62:レゾルバ 66:リヤカバー(支持部材) 70:レゾルバステータ 80:レゾルバインロー 82:スリット O:中心線