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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/34 20060101AFI20250109BHJP
   B60T 1/06 20060101ALI20250109BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20250109BHJP
   F16H 61/32 20060101ALI20250109BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H63/34
B60T1/06 G
B60T7/12 A
F16H61/32
B60L15/20 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022084860
(22)【出願日】2022-05-24
(65)【公開番号】P2023172793
(43)【公開日】2023-12-06
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】山谷 裕二
(72)【発明者】
【氏名】永野 知哉
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-126571(JP,A)
【文献】特開2017-082884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0305863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/34
B60T 1/06
B60T 7/12
F16H 61/32
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源として機能する電動機と、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路の回転を機械的に停止させるパーキングロック機構と、車両を停止させるために踏込操作されるブレーキペダルと、を備え、
前記パーキングロック機構は、前記動力伝達経路上に設けられたパーキングギヤと、前記パーキングギヤと噛合可能なロック歯と、前記ロック歯の位置を切り替えるアクチュエータと、備え、シフト操作ポジションが駐車ポジションに切り替えられると、前記アクチュエータによって前記ロック歯が前記パーキングギヤと噛み合う位置に移動させられることで、前記パーキングギヤの回転が阻止されるパーキングロック状態に切り替えられる車両の、制御装置であって、
車両が停止した前記ブレーキペダルの踏込状態で前記シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、前記電動機から路面勾配による前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力させ、且つ、前記電動機の回転が検知されるまでの間、前記電動機から出力されるトルクを増加させ、次いで前記電動機の回転が検知されるまでに増加させられたトルクを前記ブレーキペダルの踏込が解除されるまで維持す
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動機の回転が検知されると、前記アクチュエータを駆動させ、前記ロック歯を前記パーキングギヤとの噛合が解除される位置まで移動させる
ことを特徴とする請求項1の車両の制御装置。
【請求項3】
前記路面勾配の方向に基づいて、前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクの方向を判定し、
車両を駐車させる過渡期において、前記パーキングロック機構がパーキングロック状態に切り替えられた後に、前記ブレーキペダルの踏込が解除されたときに発生する、前記電動機の回転角の変化または車輪の回転角の変化に基づいて、前記路面勾配の方向を判定する
ことを特徴とする請求項1または2の車両の制御装置。
【請求項4】
前記シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、路面が坂路であるか否かを判定し、
路面が坂路である場合、前記電動機から路面勾配による前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力させる
ことを特徴とする請求項1の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坂路でシフトレバーがパーキングポジションから他のシフトポジションに切り替えられたとき、パーキングロック機構を適切に解除できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
坂路に車両を駐車させた状態で、車両のシフトレンジをパーキングレンジ(Pレンジ)から他のレンジ(Dレンジ、Rレンジなど)に切り替えるため、シフトレバーをパーキングポジション(Pポジション)から他のシフトポジション(Dポジション、Rポジションなど)に切り替えたとき、パーキングロック機構にかかる負荷が大きくなるため、パーキングロック機構を作動させるアクチュエータにかかる荷重が大きくなったり、車輪の捩りに起因するショックが大きくなったりする虞がある。これに対して、特許文献1では、アクチュエータによってパーキングロック機構を解除できない場合には、トラクションモータを駆動させてパーキングギヤを回転させることによって、アクチュエータにかかる負荷を低減してパーキングロック機構を解除することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-112409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1にあっては、シフトレバーがパーキングポジション以外の他のシフトポジションに切り替えられたことが検知されると、パーキングロック機構のアクチュエータを駆動させ、このときパーキングロック機構が解除できない場合に、トラクションモータを駆動させていた。その結果、パーキングロック機構を作動させるアクチュエータの作動回数が増加することで電力消費量が増加し、アクチュエータの耐久性低下も懸念される。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、坂路で駐車した状態からパーキングロック機構を解除するに当たり、パーキングロック機構のアクチュエータの作動回数が増加することなくパーキングロック機構を解除できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)駆動力源として機能する電動機と、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路の回転を機械的に停止させるパーキングロック機構と、車両を停止させるために踏込操作されるブレーキペダルと、を備え、(b)前記パーキングロック機構は、前記動力伝達経路上に設けられたパーキングギヤと、前記パーキングギヤと噛合可能なロック歯と、前記ロック歯の位置を切り替えるアクチュエータと、備え、シフト操作ポジションが駐車ポジションに切り替えられると、前記アクチュエータによって前記ロック歯が前記パーキングギヤと噛み合う位置に移動させられることで、前記パーキングギヤの回転が阻止されるパーキングロック状態に切り替えられる車両の、制御装置であって、(c)車両が停止した前記ブレーキペダルの踏込状態で前記シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、前記電動機から路面勾配による前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力させ、次いで前記電動機の回転が検知されるまでに増加させられたトルクを前記ブレーキペダルの踏込が解除されるまで維持することを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記電動機の回転が検知されると、前記アクチュエータを駆動させ、前記ロック歯を前記パーキングギヤとの噛合が解除される位置まで移動させることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記路面勾配の方向に基づいて、前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクの方向を判定し、車両を駐車させる過渡期において、前記パーキングロック機構がパーキングロック状態に切り替えられた後に、前記ブレーキペダルの踏込が解除されたときに発生する、前記電動機の回転角の変化または車輪の回転角の変化に基づいて、前記路面勾配の方向を判定することを特徴とする。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第1発明において、前記シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、路面が坂路であるか否かを判定し、路面が坂路である場合、前記電動機から路面勾配による前記駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられたとき、電動機から路面勾配による駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力し、且つ、電動機の回転が検知されるまでの間、前記電動機から出力されるトルクを増加させ、次いで前記電動機の回転が検知されるまでに増加させられたトルクを前記ブレーキペダルの踏込が解除されるまで維持するため、車両が坂路に停止し、パーキングギヤとそれと噛み合うロック歯との間にかかる荷重が大きい場合であっても、電動機の回転が検知されるまで電動機から出力されるトルクが増加することで、パーキングギヤとロック歯との間の荷重が減少し、電動機の回転が検知された時点では、パーキングギヤとロック歯との間にかかる荷重がゼロまたは略ゼロになる。この状態で、パーキングロック機構のパーキングギヤとロック歯との噛合が解除されることで、アクチュエータにかかる負荷が小さくなる。また、電動機が回転したときに、パーキングギヤと駆動輪との間の動力伝達経路で生じた捩りが解消されることで、車両を発進させるときに発生する、前記動力伝達経路の捩りに起因するショックも抑制される。また、本制御では、アクチュエータを駆動させて、パーキングギヤとロック歯との噛合が解除できないかを判断することがないため、アクチュエータの作動回数が増加せず、電力消費量も低減される。また、アクチュエータにかかる負荷も小さくなり、アクチュエータの耐久性低下も抑制される。
【0011】
第2発明によれば、電動機の回転が検知されると、アクチュエータを駆動させ、パーキングロック機構のパーキングギヤとロック歯との噛合を解除するため、アクチュエータにかかる負荷が小さくなり、アクチュエータの耐久性低下が抑制される。
【0012】
第3発明によれば、坂路に車両を停止させる過渡期において、パーキングロック機構がパーキングロック状態に切り替えられた後に、ブレーキペダルの踏込が解除されたときに発生する、電動機の回転角の変化または車輪の回転角の変化に基づいて、路面勾配の方向を正確に判定することができる。
【0013】
第4発明によれば、シフト操作ポジションが駐車ポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、路面が坂路であるか否かを判定し、路面が坂路である場合、電動機から路面勾配による駆動輪の回転方向に抗う回転方向に作用するトルクを出力させるため、路面が平坦路と判定された場合には、電動機からトルクを出力することが回避されることで、電力消費量が低減される。
【0014】
ここで、勾配センサによって検出された路面勾配によっても、路面勾配の方向を判定することができる。また、車両が停止している路面を走行中における、アクセル開度に対する電動機の角加速度または車輪の角加速度に基づいて、路面勾配の方向を判定することもできる。また、車両が停止している路面を走行中における、ブレーキ操作量に対する電動機の角加速度または車輪の角加速度に基づいて、路面勾配の方向を判定することもできる。また、動力伝達装置の下部に設けられたオイルパンに貯留されるオイルのオイルレベルに基づいて、路面勾配の方向を判定することもできる。また、前輪車軸を支持する前輪車軸サスペンションのストローク量(変位量)および後輪車軸を支持する後輪車軸サスペンションのストローク量(変位量)の変化に基づいて、路面勾配の方向を判定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明が適用された車両の駆動系の構造を簡略的に示す図である。
図2図1のパーキングロック機構の全体構成を示す図である。
図3図2の後述するカム機構の内部構造を示す断面図である。
図4】電子制御装置に入力される各種車両情報を説明するとともに、電子制御装置の制御機能を説明するための機能ブロック線である
図5】車両を坂路に駐車させたときの車両挙動を示すタイムチャートである。
図6】車両が登坂路を走行中における車両挙動を示すタイムチャートである。
図7】車両を登坂路に停止させるときの車両挙動を示すタイムチャートである。
図8】車両が登坂路に停止した状態を示す図である。
図9】前輪車軸サスペンションのストローク量および後輪車軸サスペンションのスロトーク量と、路面の状態と、の関係を示す図である。
図10】車両が平坦路にある場合の、オイルパンに貯留されるオイルの状態を示す図である。
図11】車両が登坂路にある場合の、オイルパンに貯留されるオイルの状態を示す図である。
図12】電子制御装置の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。
図13】電子制御装置の制御作動の要部を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0017】
図1は、本発明が適用された車両10の駆動系の構造を簡略的に示す図である。車両10は、走行用の駆動力源として機能する電動機MGと、駆動輪12と、電動機MGと駆動輪12との間に設けられた動力伝達装置14と、を備えている。このように、車両10は、電動機MGを駆動力源とする電気自動車である。
【0018】
電動機MGは、バッテリ16から供給される電力によって機械的な動力を発生させる発動機としての機能、および、機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有するモータジェネレータである。なお、前記動力は、特に区別しない場合にはトルクおよび力と同意である。
【0019】
電動機MGは、インバータ18を介してバッテリ16に接続されている。電動機MGは、電子制御装置20によってインバータ18が制御されることにより、電動機MGから出力されるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向が車両10の進行方向と同じ回転方向である場合、加速側の正トルクは力行トルクであり、減速側となる負トルクは回生トルクである。
【0020】
電動機MGは、インバータ18を介してバッテリ16から供給される電力によって走行用の動力を発生させる。また、電動機MGは、駆動輪12側から入力される被駆動力によって発電可能に構成されている。電動機MGによって発電させられた電力は、インバータ18を経由してバッテリ16に蓄電される。
【0021】
インバータ18は、バッテリ16からの直流電流を交流電流(三相交流電流)に変換して電動機MGに供給したり、電動機MGで発電された交流電流を直流電流に変換してバッテリ16に蓄電したりする。
【0022】
動力伝達装置14は、電動機MGと駆動輪12との間の動力伝達経路を構成している。動力伝達装置14は、例えば有段式または無段式の変速機、差動歯車装置、ドライブシャフト等を含んで構成され、電動機MGから出力されるMGトルクTmを駆動輪12側に伝達する。
【0023】
また、動力伝達装置14は、車両10のシフトレンジが駐車レンジであるパーキングレンジ(以下、Pレンジ)に切り替えられたときに作動させられるパーキングロック機構22を備えている。
【0024】
図2は、図1のパーキングロック機構22の全体構成を示す図である。また、図3は、図2の後述するカム機構36の内部構造を示す断面図である。パーキングロック機構22は、ドライブギヤ26に一体的に設けられているパーキングギヤ28と、パーキングギヤ28と噛合可能なロック歯30が形成されているパーキングポール32と、パーキングポール32と接触するカム34(図3参照)を有し、カム34をパーキングギヤ28の回転軸線CL(以下、軸線CL)に対して平行に移動することでパーキングポール32を回動させるカム機構36と、カム機構36を駆動するアクチュエータ38とを、含んで構成されている。
【0025】
パーキングギヤ28は、電動機MGと駆動輪12との間の動力伝達経路上に設けられている。パーキングギヤ28には、パーキングポール32のロック歯30と噛み合うための噛合歯28aが、周方向で等角度間隔に複数個形成されている。噛合歯28aがロック歯30と噛み合うと、パーキングギヤ28およびドライブギヤ26が回転停止させられ、ドライブギヤ26に機械的に連結されている駆動輪12についても回転停止させられる。
【0026】
パーキングポール32は、パーキングギヤ28の噛合歯28aと噛合可能なロック歯30が形成されている、長手状に伸びる板状の部材である。パーキングポール32は、軸線CLと平行な回動軸40を中心にして回動可能に構成されており、パーキングポール32が、図2に示す矢印A側に回動するとロック歯30と噛合歯28aとが噛み合わされてロック状態に切り替えられる。一方、パーキングポール32が矢印B側に回動するとロック歯30と噛合歯28aとの噛合が解除される非ロック状態に切り替えられる。このように、パーキングポール32は、回動させられることによって、ロック歯30とパーキングギヤ28の噛合歯28aとが噛み合うロック状態と、ロック歯30とパーキングギヤ28の噛合歯28aとの噛合が解除される非ロック状態と、に切り替える機能を有している。
【0027】
次に、カム機構36の構造について説明する。図3は、カム機構36の内部構造を示す断面図である。なお、図3は、パーキングロック機構22において、パーキングポール32のロック歯30とパーキングギヤ28の噛合歯28aとが噛み合った状態(噛合状態、ロック状態)を示している。
【0028】
カム機構36は、パーキングポール32に接触するカム34と、先端側にカム34が取り付けられ、軸線CLに対して平行に移動することで、カム34を移動させるパーキングロッド42と、パーキングロッド42を収容するカバー44と、カム34を案内するパーキングスリーブ46と、パーキングスリーブ46を保持するプレート48と、カム34に付勢力を付与するカムスプリング52と、を備えている。
【0029】
カム34は、円錐状のテーパ面50が形成される環状の部材であり、パーキングロッド42の先端側に取り付けられている。具体的には、カム34は、パーキングロッド42に、そのパーキングロッド42に対して軸方向への相対移動可能な状態で挿し通されている。カムスプリング52は、コイルスプリングからなり、内部をパーキングロッド42が貫通している。カムスプリング52は、パーキングロッド42に移動不能に固定されているリング53とカム34との間に介挿されており、カム34をパーキングロッド42の先端側に付勢している。また、パーキングロッド42の先端には、カム34の軸方向への移動を規制する大径部54が形成されている。これより、カム34が、カムスプリング52によってパーキングロッド42の先端側に付勢され、通常の状態では、図3に示すように、カム34が、パーキングロッド42の先端側に形成されている大径部54に当接させられる。
【0030】
パーキングロッド42は、アクチュエータ38を介して、図2図3の矢印で示すC方向およびD方向(すなわちパーキングロッド42の軸方向)に移動可能とされている。なお、図3は、パーキングロッド42が矢印C方向(すなわちプレート48側)に移動した状態を示している。パーキングスリーブ46には、パーキングロッド42とともにカム34が移動した際に、カム34を案内する案内溝56が形成されている。カム34は、この案内溝56に沿って移動させられる。
【0031】
プレート48には、パーキングスリーブ46が貫通する穴60が形成されている。また、プレート48には、リターンスプリング62を支持する支持軸64が設けられている。リターンスプリング62は、パーキングポール32に当接し、パーキングポール32のロック歯30とパーキングギヤ28の噛合歯28aとの噛合が解除される非ロック側に、パーキングポール32を常時付勢している。従って、パーキングロック機構22がロック状態から非ロック状態に切り替わる際には、パーキングポール32がリターンスプリング62によって非ロック側に速やかに回動させられる。また、運転者の意図しない、パーキングロック機構22のロック状態への切り替わりも防止される。
【0032】
アクチュエータ38は、回転軸66を回転させることにより、パーキングロッド42を軸方向に移動させる。回転軸66は、中間部材68を介してパーキングロッド42のカム34の取付位置と反対側の軸端部に連結されている。従って、回転軸66が回転すると、中間部材68とパーキングロッド42との連結部70の位置が変化し、この連結部70の位置に応じてパーキングロッド42およびカム34が軸方向に移動する。
【0033】
回転軸66には、ディテント機構72が設けられている。ディテント機構72は、回転軸66に連動するディテントプレート74と、ディテントプレート74に形成されている後述する波状面76に先端部が押し付けられるディテントスプリング78とを、備えている。ディテントプレート74には、山と谷が交互に連続して形成された波状面76が形成されている。ディテントスプリング78の先端部が、この波状面76に押し付けられており、回転軸66が所定のシフトポジションに対応する回転位置に到達すると、ディテントスプリング78の先端部が、波状面76の所定のシフトポジションに対応する谷の位置に移動させられる。
【0034】
シフトレバー104(図4参照)のシフト操作ポジションPshが駐車ポジションであるパーキングポジション(以下、Pポジション)に切り替えられると、アクチュエータ38によってパーキングポール32が回動軸40を中心に反時計回りに回動させられることで、ロック歯30がパーキングギヤ28と噛み合う位置に移動させられ、パーキングギヤ28とロック歯30とが噛み合わされる。このとき、パーキングギヤ28は、駆動輪12に機械的に連結されているため、パーキングギヤ28とロック歯30とが噛み合うことで、パーキングギヤ28および駆動輪12の回転が阻止される。従って、パーキングロック機構22が、駆動輪12の回転が阻止されるパーキングロック状態(パーキングロックON)に切り替えられ、シフトレンジがPレンジとなる。
【0035】
また、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられた状態から、シフト操作ポジションPshがPポジション以外のシフトポジションに切り替えられると、アクチュエータ38によってパーキングポール32が回動軸40を中心にして時計回りに回動させられることで、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除される。このとき、パーキングギヤ28の回転が許容され、パーキングロック機構22が非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替えられ、シフトレンジがPレンジから他のシフトレンジに切り替えられる。
【0036】
上述したように、パーキングポール32は、アクチュエータ38によって回動軸40を中心にして回動させられる。アクチュエータ38は、例えば電動モータから構成され、電子制御装置20から出力される指令信号Sparkによって駆動させられる。例えば、電子制御装置20からパーキングロック機構22をパーキングロックに切り替える指令信号Sparkが出力されると、アクチュエータ38を介して、パーキングポール32が図2において矢印A方向に回動させられる。このとき、パーキングギヤ28とロック歯30とが噛み合わされることによって、パーキングギヤ28および駆動輪12の回転が阻止される。
【0037】
一方、電子制御装置20からパーキングロック機構22のパーキングロックを解除する指令信号Sparkが出力されると、アクチュエータ38を介して、パーキングポール32が図2において矢印B方向に回動させられる。このとき、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除され、パーキングギヤ28および駆動輪12の回転が許容される。
【0038】
電子制御装置20は、走行制御などの各種制御を実行する。例えば、電子制御装置20は、電動機MGのMG回転角θm、MG回転速度Nm等に基づいて、電動機MGのMGトルクTmを制御する。
【0039】
電子制御装置20は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置20は、必要に応じて電動機制御用、制動制御用等の複数の制御装置から構成される。
【0040】
電子制御装置20には、各種センサなどから各種車両情報が入力される。図4は、各種センサから電子制御装置20に入力される各種車両情報を具体的に説明するとともに、電子制御装置20の制御機能を説明するための機能ブロック線である。
【0041】
電子制御装置20には、車両10に備えられた各種センサ(例えばMG回転角センサ80、車輪回転角センサ82、シフトポジションセンサ84、アクセル開度センサ86、MGトルクセンサ88、マスタシリンダ油圧センサ90、ホイルシリンダ油圧センサ92、前輪車軸サスストロークセンサ94、後輪車軸サスストロークセンサ96、オイルレベルセンサ98、ブレーキストロークセンサ100、勾配センサ102など)による検出値に基づく各種信号(例えば、電動機MGのMG回転角θm[deg]およびMG回転速度Nm[rpm]、各車輪(駆動輪12を含む)の車輪回転角θr[deg]および車輪回転速度Nr[rpm]、シフトレバー104の操作位置であるシフト操作ポジションPsh、アクセルペダル106の操作量であるアクセル開度θacc[%]、電動機MGのMGトルクTm[Nm]、ブレーキマスタシリンダのマスタ油圧Pm[Pa]、各車輪に設けられたブレーキの制動力を調整するブレーキホイルシリンダのホイル油圧Pwl[Pa]、前輪車軸サスペンションのストローク量STf[mm]、後輪車軸サスペンションのストローク量STr[mm]、動力伝達装置14のオイルパン152(図10図11参照)に貯留されているオイルの油面の高さであるオイルレベルLo[mm]、ブレーキペダル108のストローク量STbrk[mm]、路面勾配θ[deg]および路面勾配θの方向など)が、それぞれ供給される。
【0042】
電子制御装置20からは、車両10に備えられた各装置(例えばインバータ18、アクチュエータ38など)に各種指令信号(例えば電動機MGを制御するための指令信号Sm、アクチュエータ38を駆動させるための指令信号Sparkなど)が、それぞれ出力される。
【0043】
上記のように構成される車両10において、坂路でシフトレバー104をパーキングポジション(Pポジション)に操作した後、パーキングブレーキをかけずにブレーキペダル108の踏込を解除すると、パーキングギヤ28から駆動輪12の間の動力伝達経路を構成する回転部材(ドライブシャフトなど)が、路面勾配θに応じて捩られ、この回転部材の捩りによる捩りトルクTtwが発生する。この状態から車両10を発進させるため、ブレーキペダル108を踏み込んだ状態からシフトレバー104を走行ポジション(DポジションまたはRポジション)に切り替えると、パーキングギヤ28とパーキングポール32のロック歯30との間で生じる抵抗力が大きいため、アクチュエータ38にかかる負荷が大きくなる。また、アクチュエータ38が駆動してパーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除されたとき、捩りトルクTtwが放出されることによるショックが発生する虞がある。
【0044】
これに対して、電子制御装置20は、車両10が駐車された状態から車両10を発進させるため、車両10が停止した状態でシフト操作ポジションPshがPポジションから他のシフトポジションに切り替えられると、車両10が駐車する路面が坂路であるか否かを判定し、路面が坂路である場合には、電動機MGから路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に抗う回転方向に作用するMGトルクTmを出力させ、且つ、電動機MGの回転が検出されるまでの間、電動機MGのMGトルクTmを増加させる。以下、車両10が坂路に駐車した状態からの車両10の発進制御について説明する。
【0045】
電子制御装置20は、車両10が駐車した状態から車両10を発進させるに当たり実行される、シフトレバー切替判定手段としてのシフトレバー切替判定部120、坂路判定手段としての坂路判定部122、発進時MGトルク制御手段としての発進時MGトルク制御部124、MG回転判定手段としてのMG回転判定部126、およびアクチュエータ制御手段としてのアクチュエータ制御部128を、機能的に備えている。
【0046】
シフトレバー切替判定部120は、運転者によって、シフトレバー104が、車両駐車ポジションであるPポジションから走行ポジションであるDポジションまたはRポジションに切り替えられたか否かを判定する。シフトレバー切替判定部120は、シフトポジションセンサ84によって検出される、シフトレバー104のシフト操作ポジションPshが、PポジションからDポジションまたはRポジションに切り替わったことを検知すると、PポジションからDポジションまたはRポジションに切り替えられたと判定する。
【0047】
坂路判定部122は、シフト操作ポジションPshがPポジションからDポジションまたはRポジションへ切り替えられたことが判定されると、車両10が駐車している路面が坂路であるか否かを判定する。また、坂路判定部122は、路面が坂路であった場合には、路面勾配θの方向を判定する。ここで、路面勾配θの方向とは、車両10の進行方向に対する路面の変化方向に対応する。例えば、登坂路であれば路面勾配θが正の方向となり、降坂路であれば路面勾配θが負の方向となる。言い換えれば、路面勾配θの方向を判定することは、路面が登坂路および降坂路の何れであるかを判定することと同意である。
【0048】
坂路判定部122は、例えば、車両10を駐車させる過渡期に発生する車両10のずり下がりから、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を判定する。坂路判定部122は、車両10を駐車させる過渡期において、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられた後、ブレーキペダル108の踏込が解除されたときに発生する、電動機MGのMG回転角θmの変化に基づいて、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向(すなわち路面が登坂路および降坂路の何れであるか)を判定する。
【0049】
車両10を駐車させるときには、通常、運転者がブレーキペダル108を踏み込むことで車両10を停止させ、その後に運転者がシフトレバー104をPポジションに操作することで、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられる。その後は、運転者がブレーキペダル108の踏込を解除する。このとき、車両10が坂路にあると、パーキングギヤ28とパーキングポール32のロック歯30とが噛み合うまでの間、車両10のずり下がりが発生する。
【0050】
そこで、坂路判定部122は、運転者がブレーキペダル108の踏込を解除した後、車両10のずり下がりによるMG回転角θmの変化が検出されると、路面が坂路であると判定する。このとき、坂路判定部122は、車両10がずり下がったときのMG回転角θmの回転変化方向に基づいて、路面勾配θの方向を判定する。例えば、登坂路であれば、MG回転角θmが後進回転方向に変化し、降坂路であれば、MG回転角θmが前進回転方向に変化する。従って、坂路判定部122は、MG回転角θmが後進回転方向に変化した場合には登坂路と判定し、MG回転角θmが前進回転方向に変化した場合には降坂路と判定する。
【0051】
また、坂路判定部122は、電動機MGのMG回転角θmに代わって、車輪回転角センサ82によって検出される、車輪の車輪回転角θrに基づいて、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を判定することもできる。車輪回転角θrは、駆動輪12の車輪回転角θrだけでなく、駆動輪12とは別個に設けられた従動輪の車輪回転角θrを適用することもできる。なお、具体的な判定方法については、上述したMG回転角θmに基づく判定と同じであるため、その説明を省略する。
【0052】
図5は、車両10を坂路に駐車させたときの車両挙動を示すタイムチャートである。図5において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が、シフト操作ポジションPsh、ブレーキペダル108の踏込の有無、パーキングロック機構22の作動状態、電動機MGのMG回転角θm[deg]または車輪回転角θr[deg]、捩りトルクTtw[Nm]を、それぞれ示している。なお、捩りトルクTtwとは、パーキングギヤ28から駆動輪12の間の動力伝達経路を構成する回転部材(ドライブシャフトなど)の捩れによって、前記回転部材内に蓄積されるトルクに対応する。
【0053】
図5のt1時点では、車両10を停止させるためにブレーキペダル108が踏み込まれている(ブレーキペダルON)。t1時点から所定時間経過したt2時点では、車両10が停止したことで、車両10を駐車させるためにシフトレバー104のシフト操作ポジションPshが、DポジションまたはRポジションからPポジションに切り替えられている。これに伴い、パーキングロック機構22が、非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)からパーキングロック状態に(パーキングロックON)に切り替えられる。t3時点では、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替わったことで、ブレーキペダル108の踏込が解除されている(ブレーキペダルOFF)。このとき、車両10が坂路にあるため、パーキングロック機構22を構成するパーキングギヤ28とパーキングポール32のロック歯30とが噛み合うまでの間、車両10がずり下がるため、MG回転角θmおよび車輪回転角θrに変化が生じる。このMG回転角θmまたは車輪回転角θrの変化が検出されることで、坂路であるか否かが判定される。また、MG回転角θmの変化方向および車輪回転角θrの変化方向から、路面勾配θの方向、すなわち坂路が登坂路および降坂路の何れであるか判定される。また、車両10が坂路にあると、パーキングギヤ28から駆動輪12までの間の動力伝達経路を構成する回転要素(ドライブシャフトなど)が捩られるため、この捩りによる捩りトルクTtwが発生している。
【0054】
路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向は、他の判定方法に基づいて判定することもできる。以下、上述した判定方法以外の他の判定方法について説明する。
【0055】
例えば、車両10を駐車させる路面を走行中の、アクセルペダル106の操作量であるアクセル開度θaccに対する、MG回転速度Nmの変化勾配すなわちMG角加速度αm、または車輪回転速度Nrの変化勾配すなわち車輪角加速度αrから、坂路である否か、および、路面勾配θの方向を判定することができる。
【0056】
車両10が平坦路を走行中における、所定のアクセル開度θaccでの電動機MGのMG角加速度αmまたは車輪の車輪角加速度αrを基準角加速度αstとしたとき、登坂路を走行中は、同じ所定のアクセル開度θaccでの電動機MGのMG角加速度αmおよび車輪の車輪角加速度αrが、基準角加速度αstよりも低くなる。一方、降坂路を走行中は、同じ所定のアクセル開度θaccでの電動機MGのMG角加速度αmおよび車輪の車輪角加速度αrが、基準角加速度αstよりも高くなる。
【0057】
そこで、坂路判定部122は、走行中のMG回転速度Nmの変化から電動機MGのMG角加速度αmを算出し、そのMG角加速度αmが、アクセル開度θacc毎に規定される、平坦路を走行時の基準角加速度αstから所定値以上乖離している場合、路面が坂路であると判定する。このとき、坂路判定部122は、MG角加速度αmが基準角加速度αstよりも低い場合には、坂路が登坂路と判定し、MG角加速度αmが基準角加速度αstよりも高い場合には、坂路が降坂路と判定する。
【0058】
或いは、坂路判定部122は、走行中の車輪回転速度Nrの変化から車輪の車輪角加速度αrを算出し、その車輪角加速度αrが、アクセル開度θacc毎に規定される、平坦路を走行時の基準角加速度αstから所定値以上乖離している場合、路面が坂路であると判定する。このとき、坂路判定部122は、車輪角加速度αrが基準角加速度αstよりも低い場合には、坂路が登坂路と判定し、車輪角加速度αrが基準角加速度αstよりも高い場合には、坂路が降坂路と判定する。ここで、平坦路を走行時のアクセル開度θacc毎の基準角加速度αstは、予め実験的または設計的に求められ、アクセル開度θaccをパラメータとする基準角加速度αstの関係マップとして記憶されている。なお、上記判定方法は、例えば、車両10を駐車させる路面を走行中にアクセル操作が為された場合、具体的には、車両10を停止させる直近の時点でアクセル操作が為された場合に判定可能になる。
【0059】
図6は、車両10が登坂路を走行中の車両挙動を示すタイムチャートである。図6において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が、シフト操作ポジションPsh、アクセル開度θacc[%]、電動機MGのMG回転速度Nm[rpm]または車輪の車輪回転速度Nr[rpm]を、それぞれ示している。
【0060】
図6のt1時点では、アクセルペダル106が踏み込まれることによってアクセル開度θaccが増加し、t1時点から所定時間経過するとアクセル開度θaccが所定値K1で維持されている。このとき、実線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrが、アクセル開度θaccの増加に伴って上昇している。また、破線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrは、基準角加速度αstに基づくMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nr、すなわち平坦路でアクセル操作されたときのMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrを示している。図6のタイムチャートでは、登坂路を走行中であって、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrが基準角加速度αstよりも低くなるため、時間tが経過するに伴って、実線のMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrと、破線のMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrとの乖離量が増加している。なお、図示しないが、路面が降坂路である場合には、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrが基準角加速度αstよりも高いため、実線のMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrが、破線の基準速度Nstよりも高くなる。
【0061】
また、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を、ブレーキペダル108の操作量に対する、電動機MGのMG角加速度αm、または、車輪の車輪角加速度αrから判定することができる。なお、ブレーキ操作が為された場合には、電動機MGのMG角加速度αmおよび車輪の車輪角加速度αrは、何れも負の値となる。
【0062】
車両10が平坦路を走行中における、所定のブレーキペダル108の操作量での電動機MGのMG角加速度αmまたは車輪の車輪角加速度αrを基準角加速度αstとしたとき、登坂路を走行中は、同じ所定のブレーキ操作量における電動機MGのMG角加速度αmおよび車輪の車輪角加速度αrが、基準角加速度αstよりも負側に大きくなる。すなわち、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrの絶対値が、基準角加速度αstの絶対値よりも大きくなる。一方、降坂路を走行中は、同じ所定のブレーキ操作量における電動機MGのMG角加速度αmおよび車輪の車輪角加速度αrが、基準角加速度αstよりも負側に小さくなる。すなわち、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrの絶対値が、基準角加速度αstの絶対値よりも小さくなる。
【0063】
そこで、坂路判定部122は、走行中のMG回転速度Nmの変化から電動機MGのMG角加速度αmを算出し、そのMG角加速度αmの絶対値が、そのときのブレーキ操作量に基づいて決定される基準角加速度αstの絶対値に対して所定値以上乖離している場合、路面が坂路であると判定する。このとき、坂路判定部122は、MG角加速度αmの絶対値が、基準角加速度αstの絶対値よりも大きい場合、坂路が登坂路と判定し、MG角加速度αmが基準角加速度αstよりも小さい場合には、坂路が降坂路であると判定する。
【0064】
或いは、坂路判定部122は、走行中の車輪回転速度Nrの変化から車輪の車輪角加速度αrを算出し、その車輪角加速度αrの絶対値が、そのときのブレーキ操作量に基づいて決定される基準角加速度αstの絶対値に対して所定値以上乖離している場合、路面が坂路であると判定する。このとき、坂路判定部122は、走行中の車輪角加速度αrの絶対値が、基準角加速度αstの絶対値よりも大きい場合、坂路が登坂路と判定し、車輪角加速度αrの絶対値が、基準角加速度αstの絶対値よりも小さい場合、坂路が降坂路と判定する。平坦路を走行中におけるブレーキ操作量毎の基準角加速度αstは、予め実験的または設計的に求められ、ブレーキ操作量をパラメータとする基準角加速度αstの関係マップとして記憶されている。ブレーキ操作量として、例えば、ブレーキペダル108のストローク量STbrk、ブレーキマスタシリンダのマスタ油圧Pm、ホイルシリンダのホイル油圧Pwlなどが適用される。これらは、何れもブレーキ操作量の関連値である。なお、上記判定方法は、例えば、車両10が駐車させる路面を走行中にブレーキ操作が為された場合、具体的には、車両10を停止させる直近の時点でブレーキ操作が為された場合に判定可能になる。
【0065】
図7は、車両10を登坂路に停止させるときの車両挙動を示すタイムチャートである。図7において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が、シフト操作ポジションPsh、ブレーキ油圧Pbrk[Pa]、電動機MGのMG回転速度Nm[rpm]または車輪回転速度Nr[rpm]を、それぞれ示している。
【0066】
図7のt1時点では、ブレーキペダル108が踏み込まれることによって、ブレーキ操作量に相当するブレーキ油圧Pbrk(例えばブレーキマスタシリンダのマスタ油圧Pm)が増圧し、t1時点から所定時間経過すると、ブレーキ油圧Pbrkが油圧K2で保持されている。このとき、実線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrが、ブレーキ油圧Pbrkの増加に伴って低下している。また、破線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrは、基準角加速度αstに基づくMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nr、すなわち平坦路でブレーキ操作されたときのMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrを示している。図7のタイムチャートでは、登坂路を走行中であって、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrの負側の絶対値が基準角加速度αstの絶対値よりも大きいため、MG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrが、破線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrよりも減速の勾配が大きくなっている。なお、図示しないが、路面が降坂路である場合には、MG角加速度αmおよび車輪角加速度αrの絶対値が基準角加速度αstの絶対値よりも小さいため、MG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrが、破線で示すMG回転速度Nmまたは車輪回転速度Nrよりも減速の勾配が小さくなる。
【0067】
また、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を、勾配センサ102によって検出される路面勾配θおよび路面勾配θの方向に基づいて直接判定することもできる。すなわち、坂路判定部122は、車両10が停止すると、勾配センサ102によって検出される路面勾配θに基づいて、坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を判定する。
【0068】
また、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を、前輪車軸サスストロークセンサ94(以下、前輪ストロークセンサ94)および後輪車軸サスストロークセンサ96(以下、後輪ストロークセンサ96)によって検出される、前輪車軸サスペンション144のストローク量STfおよび後輪車軸サスペンション150のストローク量STrに基づいて判定することもできる。
【0069】
図8は、車両10が例えば登坂路に停止した状態を示している。前輪140(車輪)の前輪車軸142は、破線で示す前輪車軸サスペンション144によって支持されている。前輪車軸サスペンション144には、前輪ストロークセンサ94が取り付けられており、前輪車軸サスペンション144の変位量であるストローク量STfが検出される。また、後輪146(車輪)の後輪車軸148は、破線で示す後輪車軸サスペンション150によって支持されている。後輪車軸サスペンション150には、後輪ストロークセンサ96が取り付けられており、後輪車軸サスペンション150の変位量であるストローク量STfが検出される。なお、前輪140(車輪)および後輪146(車輪)の少なくとも一方が駆動輪12として機能する。
【0070】
車両10が図8に示す登坂路に停止した状態では、下式(1)で算出される重量Wmvだけ、前輪車軸142側から後輪車軸148側に重量が移動する。式(1)において、Wが車両全体の重量を示し、Hが路面から車両10の重心までの高さを示し、θが路面勾配を示している。車両10が登坂路に停車した状態では、式(1)で算出される重量Wmvだけ前輪車軸142にかかる重量が後輪車軸148側に移動するため、前輪車軸サスペンション144の縮み量が低減する一方で、後輪車軸サスペンション150の縮み量が増加する。一方、車両10が降坂路に停止した状態では、式(1)によって算出される重量Wmvだけ、後輪車軸148側にかかる重量が前輪車軸142側に移動する。このとき、前輪車軸サスペンション144の縮み量が増加する一方で、後輪車軸サスペンション150の縮み量が低減する。
Wmv=(W×H×tanθ)/L・・・(1)
【0071】
上記を考慮して、前輪車軸サスペンション144(以下、前輪サス144)のストローク量STfおよび後輪車軸サスペンション150(以下、後輪サス150)のストローク量STrに基づいて、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を判定することができる。
【0072】
図9は、前輪サス144のストローク量STfおよび後輪サス150のストローク量STrと、路面の状態との関係を示している。図9において、車両10が平坦路にある状態が基準状態として規定されている。具体的には、車両10が平坦路にあるときの前輪サス144のストローク量STf、および、後輪サス150のストローク量STfが基準値として予め規定されている。また、車両10が登坂路にある場合には、前輪サス144にかかる重量が平坦路に比べて減少するとともに後輪サス150にかかる重量が平坦路に比べて増加するため、前輪サス144のストローク量STfが基準値に対して伸び側に変化するとともに後輪サス150のストローク量STrが基準値に対して縮み側に変化する。また、車両10が降坂路にある場合には、前輪サス144にかかる重量が平坦路に比べて増加するとともに後輪サス150にかかる重量が平坦路に比べて減少するため、前輪サス144のストローク量STfが基準値に対して縮み側に変化するとともに後輪サス150のストローク量STrが基準値に対して伸び側に変化する。
【0073】
これより、坂路判定部122は、前輪サス144のストローク量STfが基準値に対して伸び側に変化するとともに、後輪サス150のストローク量STrが基準値に対して縮み側に変化した場合、路面が坂路であって、坂路が登坂路であると判定する。また、坂路判定部122は、前輪サス144のストローク量STfが基準値に対して縮み側に変化するとともに、後輪サス150のストローク量STrが基準値に対して伸び側に変化した場合、路面が坂路であって、坂路が降坂路であると判定する。このように、前輪サス144のストローク量STfの変化方向と後輪サス150のストローク量STrの変化方向とが異なる場合には、車両10が坂路にあるものと判定される。また、前輪サス144のストローク量STfの変化方向および後輪サス150のストローク量STrの変化方向に応じて、坂路が登坂路および降坂路の何れであるか判定される。
【0074】
なお、車両10に人が乗車したり、荷物が積載される場合には、前輪サス144のストローク量STfが基準値に比べて縮み側に変化するとともに、後輪サス150のストローク量STrが基準値に比べて縮み側に変化する。また、車両10から人が降車したり、車両10の荷物が運び出されたりした場合には、前輪サス144のストローク量STfが基準値に比べて伸び側に変化するともに、後輪サス150のストローク量STrが基準値に比べて伸び側に変化する。このように、前輪サス144のストローク量STfの変化方向と後輪サス150のストローク量STrの変化方向とが同じ場合には、人や荷物等による重量変化が発生したと判断される。
【0075】
また、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を、オイルレベルセンサ98によって検出される、動力伝達装置14のオイルパン152に貯留されているオイルの油面の高さであるオイルレベルLoに基づいて判定することもできる。
【0076】
図10は、車両10が平坦路にある場合の、動力伝達装置14の下部に配置されるオイルパン152に貯留されるオイルの状態を示している。図11は、車両10が登坂路にある場合の、動力伝達装置14の下部に配置されるオイルパン152に貯留されるオイルの状態を示している。
【0077】
図10に示す車両10が平坦路にある場合のオイルレベルLoが、基準オイルレベルLstとして予め規定されている。また、車両10が登坂路に停止した場合には、図11に示すように、車両10とともにオイルパン152が傾斜することで、オイルレベルLoが変化する。具体的には、車両10が登坂路にある場合、図11に示すように、オイルレベルLoが基準オイルレベルLstよりも高くなる。一方、図示しないが、車両10が降坂路にある場合、オイルレベルLoが基準オイルレベルLstよりも低くなる。
【0078】
そこで、坂路判定部122は、オイルレベルセンサ98によって検出されるオイルレベルLoが基準オイルレベルLstに対して所定値以上乖離している場合、車両10が坂路にあると判定する。このとき、坂路判定部122は、オイルレベルLoが基準オイルレベルLstよりも高い場合、路面が登坂路であると判定し、オイルレベルLoが基準オイルレベルLstよりも低い場合には、路面が降坂路であると判定する。
【0079】
坂路判定部122は、上述した複数の判定方法のうちの1つまたは複数を組み合わせて坂路の判定を実行する。例えば、判定方法の優先順位が予め規定され、その優先順位に従って判定される。具体的には、最も優先順位の高い判定方法が実行困難な場合、二番目に優先順位の高い判定方法が実行され、二番目に優先順位の高い判定方法が実行困難な場合、三番目に優先順位の高い判定方向が実行される。このように、優先順位の高い判定方法から順次実行される。なお、優先順位は、判定の信頼性が高いこと、判定を実行するに当たって専用のセンサ等を必要としないことなどを考慮して決定される。例えば、車両10を駐車させたときの車両10のずり下がりに基づいて判定する判定方法は、路面勾配θの方向の誤検出が発生しにくく、且つ、専用のセンサを必要としないことから優先順位が最も高く設定される。
【0080】
発進時MGトルク制御部124は、路面が坂路であることが判定されると、電動機MGから路面勾配θの方向に応じたMGトルクTmを出力させる。すなわち、発進時MGトルク制御部124は、路面が坂路である場合、路面勾配θの方向に基づいて、路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に抗う電動機MGの回転方向を判定する。次いで、発進時MGトルク制御部124は、駆動輪12の回転方向に抗う回転方向のMGトルクTmを電動機MGから出力させる。例えば、路面が登坂路の場合、駆動輪12が後進回転方向に回転するため、この後進回転に抗うように、電動機MGから前進回転方向のMGトルクTmが出力される。また、路面が降坂路の場合、駆動輪12が前進回転方向に回転するため、この前進回転に抗うように、電動機MGから後進回転方向のMGトルクTmが出力される。発進時MGトルク制御部124は、電動機MGからMGトルクTmを出力すると、電動機MGの回転が検知されるまでの間、電動機MGのMGトルクTmのトルク量を増加させる。
【0081】
MG回転判定部126は、電動機MGからMGトルクTmが出力されると、電動機MGが回転したか否かを判定する。MG回転判定部126は、MGトルクTmが出力された時点を基準にしたMG回転角θmの変化量が、予め設定されている閾値θx以上になると、電動機MGが回転したものと判定する。閾値θxは、予め実験的または設計的に求められ、電動機MGが回転したと判断できる値に設定されている。なお、パーキングロック機構22がパーキングロック状態(パーキングロックON)にあるため、電動機MGは、パーキングロック機構22のパーキングギヤ28とパーキングポール32のロック歯30との間に形成される隙間(バックラッシュ)に応じた回転角分しか回転できない。従って、閾値θxは、上記隙間に応じた回転角よりも小さい極微小な値に設定されている。
【0082】
アクチュエータ制御部128は、電動機MGの回転が検知されると、アクチュエータ38を駆動させて、パーキングロック機構22を非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替える。すなわち、アクチュエータ38を駆動させてパーキングポール32を回動させることにより、ロック歯30をパーキングギヤ28との噛合が解除される位置まで移動させる。このとき、アクチュエータ38を駆動を開始する時点では、電動機MGのMGトルクTmによってパーキングギヤ28が回転し、パーキングギヤ28とパーキングポール32のロック歯30との歯面間で作用する荷重がゼロまたはそれに近い状態であるため、アクチュエータ38にかかる負荷が増加することなくパーキングロック機構22を非パーキング状態(パーキングロックOFF)に切り替えることができる。これに関連して、アクチュエータ38に必要とされる出力が小さくなるため、アクチュエータ38の低出力化および小型化が可能になる。
【0083】
また、本実施例では、従来技術のようにアクチュエータ38を駆動させ、パーキングロック機構22の非パーキングロック状態への切替が困難か否かを判定する行程が不要になるため、アクチュエータ38の作動回数が増加せず、電力消費量も低減される。さらに、アクチュエータ38にかかる負荷も小さくなることで、アクチュエータ38の耐久性低下も抑制される。また、パーキングギヤ28が回転したときに捩りトルクTtwが解放されるため、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除されたときに捩りトルクTtwが放出されることによるショックが抑制される。
【0084】
また、電動機MGからMGトルクTmを出力するに当たり、電動機MGの回転が検知されるまでMGトルクTmを増加させるだけであるため、MGトルクTmを精緻に制御することが不要になる。MGトルクTmを精緻に制御する場合には、例えば路面勾配θが必要になり、路面勾配θを正確に検出する必要が生じる。一方で、上述した坂路判定方法によっては、路面勾配θを正確に求めることができない。これに対して、本実施例では、路面勾配θの方向だけを把握するだけで済むため、制御が簡素化されて電子制御装置20にかかる負荷が低減される。なお、パーキングロック機構22が非パーキングロック状態に切り替えられた後、シフトレバー104のシフト操作ポジションPshに応じて、車両走行レンジである前進走行レンジ(Dレンジ)または後進走行レンジ(Rレンジ)に切り替えられる。
【0085】
図12は、電子制御装置20の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。図12では、車両10を坂路に駐車させ、その後に車両10を発進させるまでのタイムチャートが示されている。図12において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が、上から順番に、シフト操作ポジションPsh、ブレーキペダル108の作動状態、ブレーキ油圧Pbrk[Pa]、パーキングロック機構22の作動状態、アクチュエータ38の操作荷重Fac[N]、電動機MGのMGトルクTm[Nm]、電動機MGのMG回転角θm、捩りトルクTtw[Nm]を、それぞれ示している。なお、ブレーキ油圧Pbrkは、具体的には、ブレーキマスタシリンダのマスタ油圧Pm、または、ブレーキホイルシリンダのホイル油圧Pwlに相当する。
【0086】
図12のt1時点では、車両10を停止させるためにブレーキペダル108が踏み込まれ、これに伴って、t1時点においてブレーキ油圧Pbrkが増加している。t2時点では、車両10が停止したことで、シフト操作ポジションPshが、DポジションまたはRポジションからPポジションに切り替えられている。これに従って、t2時点において、アクチュエータ38が駆動し、パーキングロック機構22がパーキングロック状態(パーキングロックON)に切り替えられている。また、t3時点では、t2時点でパーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられたことで、ブレーキペダル108の踏込が解除され、それに伴ってブレーキ油圧Pbrkが低下している。このとき、駆動輪12の回転が許容されることから、駆動輪12が路面勾配θに応じて回転し、パーキングギヤ28と駆動輪12との間の動力伝達経路を構成する回転部材(ドライブシャフトなど)が捩られることで捩りトルクTtwが発生する。
【0087】
t4時点では、車両10を発進させるためにブレーキペダル108が踏み込まれ、これに伴ってブレーキ油圧Pbrkが増加している。t4時点から所定時間経過したt5時点では、シフト操作ポジションPshがPポジションからDポジションまたはRポジションに切り替えられる。このとき、車両10が停止している路面が坂路であるため、電動機MGから路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に抗う回転方向に作用するMGトルクTmが出力される。また、MGトルクTmが出力されるのに合わせて捩りトルクTtwが減少する。MGトルクTmが増加し、捩りトルクTtwが所定値以下になると、t6時点において電動機MGが回転し始めることで、MG回転角θmが増加している。このとき、電動機MGの回転が検知され、MGトルクTmの増加が停止する。さらに、電動機MGの回転が検知されることで、t7時点において、パーキングロック機構22のアクチュエータ38が駆動し、パーキングロック機構22が非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替えられる。ここで、t7時点では捩りトルクTtwが解消されているため、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除されたときに発生する、捩りトルクTtwの放出によるショックが抑制される。なお、破線で示す捩りトルクTtwは、MGトルクTmが付与されない場合の車両挙動を示している。MGトルクTmが付与されない場合には、破線で示すようにアクチュエータ38の操作荷重Facが大きくなる。また、捩りトルクTtwが高い状態で維持されているため、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除されたとき、破線で示すように捩りトルクTtwが放出されることでショックが発生する。また、t8時点では、ブレーキペダル108の踏込が解除され、それに応じてブレーキ油圧Pbrkが低下している。また、t8時点において、MGトルクTmの付与が終了する。
【0088】
図13は、電子制御装置20の制御作動の要部を説明するためのフローチャートであり、坂路で車両10を発進させるに当たって適切にパーキングロック機構22を非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替えることができる制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、車両10の発進時に実行される。
【0089】
先ず、シフトレバー切替判定部120の制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)S10において、シフトレバー104のシフト操作ポジションPshが、PポジションからDポジションまたはRポジションに切り替えられたか否かが判定される。S10の判定が否定された場合、再度S10に戻され、S10の判定が肯定されるまで繰り返し実行される。S10の判定が肯定された場合、坂路判定部122の制御機能に対応するS20において、車両10が停車している路面が坂路であるか否かが判定される。S20の判定が否定された場合、アクチュエータ制御部128の制御機能に対応するS70において、アクチュエータ38が駆動されてパーキングロック機構22が非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替えられる。S20の判定が肯定された場合、坂路判定部122の制御機能に対応するS30において、路面勾配θの方向に応じて、電動機MGから出力されるMGトルクTmの方向が決定される。すなわち、路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に対して抗う回転方向が決定される。次いで、発進時MGトルク制御部124の制御機能に対応するS40において、S30で決定された方向のMGトルクTmが出力される。MG回転判定部126の制御機能に対応するS50では、電動機MGが回転したか否かが判定される。S50の判定が否定された場合、発進時MGトルク制御部124の制御機能に対応するS60において、MGトルクTmの値が増加させられる。一方、S50の判定が肯定された場合、アクチュエータ制御部128の制御機能に対応するS70において、アクチュエータ38が駆動されてパーキングロック機構22が非パーキングロック状態(パーキングロックOFF)に切り替えられる。
【0090】
上述のように、本実施例によれば、シフト操作ポジションPshがPポジションからDポジションまたはRポジションに切り替えられたとき、電動機MGから路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に抗う回転方向に作用するMGトルクTmを出力し、且つ、電動機MGの回転が検知されるまでの間、電動機MGのMGトルクTmを増加させるため、車両10が坂路に停車することで、パーキングギヤ28とロック歯30との間にかかる荷重が大きい場合であっても、電動機MGの回転が検知されるまで電動機MGから出力されるMGトルクTmが増加することで、パーキングギヤ28とロック歯30との間の荷重が減少し、電動機MGの回転が検知された時点では、パーキングギヤ28とロック歯30との間にかかる荷重がゼロまたは略ゼロになる。この状態で、パーキングロック機構22のパーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除されることで、アクチュエータ38にかかる負荷が小さくなる。また、電動機MGが回転したときに、パーキングギヤ28と駆動輪12との間の動力伝達経路で生じた捩りトルクTtwが解消されることで、車両10を発進させるときに発生する、捩りトルクTtwに起因するショックも抑制される。また、本実施例では、アクチュエータ38を駆動させて、パーキングギヤ28とロック歯30との噛合が解除できないかを判断する必要がないため、アクチュエータ38の作動回数が増加せず、電力消費量も低減される。また、アクチュエータ38にかかる負荷も小さくなり、アクチュエータ38の耐久性低下も抑制される。
【0091】
また、本実施例によれば、坂路に車両10を停止させる過渡期において、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられた後に、ブレーキペダル108の踏込が解除されたときに発生する、電動機MGのMG回転角θmの変化または車輪の車輪回転角θrの変化に基づいて、路面が坂路であるか否か、および、路面勾配θの方向を正確に判定することができる。また、シフト操作ポジションPshがDポジションからDポジションまたはRポジションに切り替えられると、路面が坂路であるか否かを判定し、路面が坂路である場合、電動機MGから路面勾配θによる駆動輪12の回転方向に抗う回転方向に作用するMGトルクTmを出力させるため、路面が平坦路と判定された場合には、電動機MGからMGトルクTmを出力することが回避されることで、電力消費量が低減される。
【0092】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0093】
例えば、前述の実施例では、車両10は、電動機MGを走行用の駆動力源とする電気自動車であったが、本発明は必ずしもこれに限定されない。具体的には、エンジンおよび電動機を走行用の駆動力源とするハイブリッド車両であっても本発明を適用できる。なお、車両がエンジンを備える場合には、エンジンのオイルパン内の油面の高さを検出するエンジンオイルレベルセンサを設け、そのセンサによって検出されるエンジンのオイルレベルから路面勾配θの方向を判定することもできる。
【0094】
また、前述の実施例では、電動機MGのMG角加速度αmが、随時検出されるMG回転速度Nmの変化から算出されるものであったが、電動機MGに角加速度センサを設置し、その角加速度センサによってMG角加速度αmを直接検出するものであっても構わない。同様に、前述の実施例では、車輪の車輪角加速度αrが、随時検出される車輪の車輪回転速度Nrの変化から算出されるものであったが、車輪の角加速度センサを設置し、その角加速度センサによって車輪角加速度αrを直接検出するものであっても構わない。
【0095】
また、前述の実施例では、車両10を駐車させる路面を走行中の、アクセル開度θaccに対する、電動機MGのMG角加速度αmまたは車輪の車輪角加速度αrに基づいて、路面が坂路である否か、および、路面勾配θの方向を判定していたが、アクセル開度θaccに代わって、MGトルクセンサ88によって検出される電動機MGのMGトルクTmに基づいて、路面が坂路である否か、および、路面勾配θの方向を判定することもできる。
【0096】
また、前述の実施例では、シフト操作ポジションPshがPポジションから走行ポジションであるDポジションまたはRポジションに切り替えられた場合について説明するものであったが、必ずしも走行ポジションに限定されず、他のシフトポジションとして、例えばNポジションに切り替えられた場合であっても本発明を適用することができる。
【0097】
また、前述の実施例では、アクチュエータ38が駆動されると、カム機構36などを経由してパーキングポール32が回動させられることによって、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられるように構成されていたが、本発明は必ずしも上記態様に限定されない。例えば、アクチュエータ38とパーキングポール32とが直接連結されていても構わない。要は、アクチュエータ38によってパーキングポール32が回動させられることで、パーキングロック機構22がパーキングロック状態に切り替えられる構造であれば、本発明を適宜適用することができる。
【0098】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0099】
10:車両
12:駆動輪(車輪)
20:電子制御装置(制御装置)
22:パーキングロック機構
28:パーキングギヤ
30:ロック歯
38:アクチュエータ
108:ブレーキペダル
MG:電動機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13