(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B60L15/20 K
(21)【出願番号】P 2022087549
(22)【出願日】2022-05-30
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生島 嘉大
(72)【発明者】
【氏名】中村 優誠
(72)【発明者】
【氏名】銭花 理香子
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-102011(JP,A)
【文献】特開2007-106394(JP,A)
【文献】特開平09-224301(JP,A)
【文献】特開2020-150588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0123384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前進段及び後進段を有し前記モータの出力を駆動輪に伝達する変速機と、制御装置と、を備え、前記モータが正回転しているとき、前記前進段が達成されると前進するとともに前記後進段が達成されると後進する、電動車両であって、
前記制御装置は、
前記電動車両の走行時に、前記モータが正回転するよう制御し、
前記電動車両が前進しているとき、前記変速機が前記後進段に切り替えられると、前記モータが前記正回転と逆方向に回転する逆回転を許容するとともに、前記電動車両が後進しているとき、前記変速機が前記前進段に切り替えられると、前記モータの前記逆回転を許容する、電動車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電動車両が停止するまで、前記モータの前記逆回転を許容する、請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記モータの前記逆回転を許容するとき、逆回転する方向へ前記モータからトルクが出力されるよう制御する、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モータの出力トルクを0にすることにより、前記モータの前記逆回転を許容する、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-183610号公報(特許文献1)には、モータの出力により駆動輪を駆動する電気自動車において、シフトレバーのレンジ位置がDレンジ(前進レンジ)であるときは、モータを正回転して前進し、レンジ位置がRレンジ(後進レンジ)であるときは、モータを逆回転して後進することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電気自動車は、変速機を備えていないが、効率のよい領域でモータを駆動できるようにして航続距離を延ばすため、あるいは、駆動輪の駆動トルクを高めて走行性能を改善するために、モータの出力を変速機を介して駆動輪に伝達することもある。変速機には、変速段として、前進段と後進段を備えた変速機がある。後進段は、車両の後退時(後進時)に用いられ、変速機の出力軸の回転方向を、前進段の回転方向から逆転する。以下、前進段と後進段を備えた変速機を、後進段付き変速機とも称する。
【0005】
モータの出力を後進段付き変速機を介して駆動輪に伝達する電動車両では、車両の後退時に、シフトレバー操作によって変速段を後進段に切り替え後進走行を行うことが望ましい。このような電動車両では、走行時、モータは、変速段が前進段のとき車両が前進する方向に回転する。本開示では、変速段が前進段のとき車両が前進する方向のモータの回転を「正回転」と称し、その回転方向を「正転方向」と称する。
【0006】
このように、後進段付き変速機を備えた電動車両では、モータは、正回転するよう制御され、車両の前進および後進は、変速機の変速段を切り替えることにより行われる。このため、車両の前進中に、シフトレバーが操作され、前進段から後進段に変速段が切り替えられると、正回転中のモータによって、駆動輪が後進方向に駆動され、車両に大きな衝撃が発生する。同様に、車両の後進中に、シフトレバーが操作され、後進段から前進段に変速段が切り替えられると、正回転中のモータによって、駆動輪が前進方向に駆動され、車両に大きな衝撃が発生する。
【0007】
本開示の目的は、後進段付き変速機を備えた電動車両において、前進中における後進段への切り替え、あるいは、後進中における前進段への切り替えが行われた場合であっても、車両に大きな衝撃が発生することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の電動車両は、モータと、前進段及び後進段を有しモータの出力を駆動輪に伝達する変速機と、制御装置と、を備え、モータが正回転しているとき、前進段が達成されると前進するとともに後進段が達成されると後進する、電動車両である。制御装置は、電動車両の走行時に、モータが正回転するよう制御する。制御装置は、電動車両が前進しているとき、変速機が後進段に切り替えられると、モータが正回転と逆方向に回転する逆回転を許容するとともに、電動車両が後進しているとき、変速機が前進段に切り替えられると、モータの逆回転を許容する。
【0009】
この構成によれば、電動車両の走行時、モータは正回転に制御され、変速機の前進段が達成されると前進し、後進段が達成されると後進する。電動車両の前後進は、変速機の変速段の操作によってなされる。電動車両が前進しているとき、変速機が後進段に切り替えられると、モータの逆回転を許容する。電動車両が後進しているとき、変速機が前進段に切り替えられると、モータの逆回転を許容する。モータの逆回転とは、正回転と逆方向にモータが回転することである。
【0010】
電動車両が前進中に後進段に切り替えられたとき、モータの逆回転が許容されるので、駆動輪が後進方向に駆動されることを抑制でき、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できる。電動車両が後進中に前進段に切り替えられたとき、モータの逆回転が許容されるので、駆動輪が前進方向に駆動されること抑制でき、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できる。
【0011】
好ましくは、制御装置は、電動車両が停止するまで、モータの逆回転を許容する。
この構成によれば、電動車両が前進中に後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両が後進中に前進段に切り替えられたとき、電動車両が停止するまで、モータが逆回転することを許容する。電動車両が停止すると、モータは正回転に制御され、変速機の変速段に対応した走行が可能になる。
【0012】
好ましくは、制御装置は、モータの逆回転を許容するとき、逆回転する方向へモータからトルクが出力されるように制御してもよい。
【0013】
この構成によれば、電動車両が前進中に後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両が後進中に前進段に切り替えられたとき、モータが逆回転する方向へトルクを出力するので、このトルクによってモータの正転方向の慣性力を打ち消すことができ、車両に大きな衝撃が発生することを、より好適に抑制できる。
【0014】
好ましくは、制御装置は、モータの出力トルクを0にすることにより、モータの逆回転を許容するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、電動車両が前進中に後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両が後進中に前進段に切り替えられたとき、モータの出力トルが0にされ、モータの逆回転が許容されるので、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できるとともに、車両の停止に向けて減速することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、前進中における後進段への切り替え、あるいは、後進中における前進段への切り替えが行われた場合であっても、車両に大きな衝撃が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係る電動車両の全体構成を示す図である。
【
図2】本実施の形態において、制御ECUに構成される機能ブロックを説明する図である。
【
図3】本実施の形態において、制御ECUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】制御ECUで実行される、フェールセーフ制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】逆トルクTqrを算出するためのマップである。
【
図6】変形例1において、制御ECUで実行される、フェールセーフ制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】変形例2における、逆トルクTqrを算出するためのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る電動車両の全体構成を示す図である。電動車両Vは、モータジェネレータ(MG)1と、クラッチ2と、変速機3と、ディファレンシャルギヤ4と、駆動輪5とを備える。
【0020】
MG1は、回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)同期電動機であり、本開示の「モータ」に相当する。MG1の出力軸(ロータ軸)は、クラッチ2に接続されている。クラッチ2が係合されると、MG1の出力トルクが変速機3に入力される。
【0021】
変速機3は、常時噛合式の手動変速機であり、たとえば、5速のマニュアルトランスミッションであってよい。変速機3は、変速段として前進段と後進段3aを備える。図示しないシフトレバーによって後進段3aが選択されると、変速機3の出力軸の回転方向が、前進段時における回転方向と逆方向になる。
【0022】
変速機3は、多段自動変速機であってよく、また、無段変速機であってもよい。この場合、MG1の出力トルクは、クラッチ2に代えて、トルクコンバータを介して変速機3に入力される。変速機3が遊星歯車式多段自動変速機である場合、後進段3aは、摩擦係合装置(クラッチ、ブレーキ)の係合状態を制御することにより達成される。また、無段変速機の場合、遊星歯車等からなる前後進切替装置が後進段3aに相当し、前後進切替装置が後進に切り替えられたとき、後進段が達成される。
【0023】
変速機3の出力軸は、プロペラシャフトを介してディファレンシャルギヤ4に接続されている。ディファレンシャルギヤ4は、ドライブシャフトを介して駆動輪5に接続されている。電動車両Vは、MG1から出力された出力トルク(駆動トルク)を、変速機3およびディファレンシャルギヤ4を介して駆動輪5に伝達する。
【0024】
パワーコントロールユニット(PCU)20は、MG1とバッテリ10との間で双方向に電力を変換する電力変換装置である。PCU20は、たとえば、インバータとコンバータとを含む。コンバータは、バッテリ10から供給された電圧を昇圧してインバータに供給する。インバータは、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換してMG1を駆動する。
【0025】
バッテリ10は、充電が可能な二次電池であり、複数の単電池(電池セル)が積層された組電池である。たとえば、電気的に直列に接続されて構成される。単電池は、リチウムイオン電池であってよく、ニッケル水素電池であってもよい。バッテリ10とPCU20は、システムメインリレー(SMR)30を介して接続されている。
【0026】
バッテリ10は、外部電源200を用いて充電可能とされている。電動車両Vは、インレット60を備えており、インレット60は、外部電源200のコネクタ220が接続可能になっている。外部電源200は、商用の交流(AC)電源であってよく、外部電源200からインレット60に供給された交流電力は、充電器50によって直流電力に変換され、充電リレー70を介してバッテリ10へ供給され、バッテリ10が充電される。電動車両Vの制動時には、MG1による回生電力を用いて、バッテリ10が充電されてよい。
【0027】
制御ECU(Electronic Control Unit)100は、本開示の「制御装置」に相当し、PCU20、SMR30、充電器50、および、充電リレー70、等を制御する。制御ECU100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ(たとえば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等を含む)102とを含む。制御ECU100は、各種センサからの信号、メモリ102に記憶されたマップおよびプログラム等の情報に基づいて、電動車両Vが所望の状態となるように、PCU20等の各機器を制御する。
【0028】
制御ECU100に入力される各種センサは、たとえば、アクセル開度センサ151、シフトポジションセンサ152、車速センサ153、車輪速センサ154、および、前後加速度センサ155、等である。アクセル開度センサ151は、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度ACCPを検出する。シフトポジションセンサ152は、変速機3の変速段を操作するシフトレバーの位置(シフトポジション)Pを検出する。車速センサ153は、電動車両Vの車速SPDを検出する。車輪速センサ154は、駆動輪5の速度(車輪速)WSを検出する。前後加速度センサ155は、電動車両Vの前後加速度Gxを検出する。
【0029】
制御ECU100は、電動車両Vの走行時、通常制御を行う。通常制御において、制御ECU100は、アクセル開度ACCP、車速SPD等に基づいて、目標駆動トルクTrを算出し、目標駆動トルクTrに車輪速WSを乗じて、目標出力を求める。そして、MG1から目標出力が出力されるよう、MG1の指令トルクTqtを算出する。指令トルクTqtは、変速機3の変速段が前進段のとき、電動車両Vが前進する方向(正転方向)のトルク(以下、「正トルク」とも称する)である。制御ECU100は、MG1の出力トルクが指令トルクTqtになるよう、PCU20を制御する。
【0030】
通常制御時、MG1は正転方向に回転する(正回転する)。このため、通常制御時に、MG1が正回転と逆方向に回転する逆回転する場合、システムが故障している蓋然性が高い。制御ECU100は、MG1のレゾルバあるいはロータリエンコーダの信号を用いて、MG1の逆回転を判定する。そして、制御ECU100は、通常制御時に、MG1の逆回転を検出したとき、システムが故障していると判定し、警報を発する。警報は、MIL(Malfunction Indicator Light)の点灯であってよい。
【0031】
電動車両Vでは、変速機3の変速段(前進段、後進段)を切り替えることにより、前後進の切り替えを行う。たとえば、電動車両Vを後退して駐車(バック駐車)する際に、駐車枠と電動車両Vの位置を微調整するため、前後進を繰り返す場合、変速段を後進段に切り替え後進し、変速段を前進段に切り替えて前進し、前後進を繰り返す。このような状況において、電動車両Vの前進中に、前進段から後進段に切り替えられ、変速段として後進段が達成されると、正回転中のMG1によって、駆動輪5が後進方向に駆動され、車両に大きな衝撃が発生する。また、電動車両Vの後進中に、後進段から前進段に変速段が切り替えられ、変速段として前進段が達成されると、正回転中のMG1によって、駆動輪5が前進方向に駆動され、車両に大きな衝撃が発生する。
【0032】
本実施の形態では、前進中に後進段が達成された場合、あるいは、後進中に前進段が達成された場合、MG1が逆回転することを許容して、車両に大きな衝撃が発生することを抑制する。
【0033】
図2は、本実施の形態において、制御ECU100に構成される機能ブロックを説明する図である。
図2において、進行方向検出部110は、電動車両Vの進行方向(前進、後進)を検出する。たとえば、車輪速センサ154で検出した車輪速WSに基づいて、駆動輪5の回転方向を検知し、電動車両Vの進行方向を検出する。変速段判定部120は、シフトレバーによって選択された変速段が、前進段であるか、あるいは、後進段であるかを判定する。たとえば、シフトポジションセンサ152で検出したシフトポジションPから、変速段が前進段であるか、後進段であるかを判定する。
【0034】
フェールセーフ制御部130は、MG1の逆回転を許容する「フェールセーフ制御」を実行する。進行方向検出部110で検出した進行方向が前進であり、かつ、変速段判定部120で後進段を判定したとき、フェールセーフ制御部130は、フェールセーフ制御を実行する。また、進行方向検出部110で検出した進行方向が後進であり、かつ、変速段判定部120で前進段を判定したとき、フェールセーフ制御部130は、フェールセーフ制御を実行する。
【0035】
図3は、本実施の形態において、制御ECU100で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、電動車両Vの起動中(パワースイッチがONになってから、パワースイッチがOFFになるまでの間)、所定期間毎に繰り返し処理される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、電動車両Vが前進中であるか否かを判定する。たとえば、車輪速センサ154で検出した車輪速WSが、前進方向に回転していることを示す場合、前進中であると判定され(肯定判定)、S11へ進む。また、前進中であると判定されない場合(否定判定)、S12へ進む。
【0036】
S11では、変速機3の変速段が後進段であるか否かを判定する。変速機3が、5速のマニュアルミッションの場合、シフトポジションセンサ152で検出するシフトポジションPは、「1速~5速」の前進段と「R」の後進段を示す信号を出力する。S11では、シフトポジションPが「R」を示す信号のとき、後進段であると判定し(肯定判定)、S13へ進む。シフトポジションPが「R」を示す信号でない場合、後進段でないと判定し(否定判定)、S16へ進む。
【0037】
ステップ12では、電動車両Vが後進中であるか否かを判定する。車輪速センサ154で検出した車輪速WSが、後進方向に回転していることを示す場合、後進中であると判定され(肯定判定)、S14へ進む。また、後進中であると判定されない場合(否定判定)、電動車両Vは停止しており、S16へ進む。
【0038】
S14では、変速機3の変速段が前進段であるか否かを判定する。シフトポジションセンサ152で検出したシフトポジションPが「1速~5速」を示す信号のとき、前進段であると判定し(肯定判定)、S13へ進む。シフトポジションPが「1速~5速」を示す信号でない場合、前進段でないと判定し(否定判定)、S16へ進む。
【0039】
S13では、フェールセーフ制御を実行する。たとえば、フラグFが1に設定されることにより、後述するフェールセーフ制御が実行される。S16では、通常制御を実行する。たとえばフラグFが0に設定されることにより、通常制御が実行される。通常制御は、前述のように、アクセル開度ACCP、車速SPD等に基づいて、MG1の指令トルクTqtを算出し、PCU20を制御する。通常制御における指令トルクTqtは、正トルクである。
【0040】
図4は、制御ECU100で実行される、フェールセーフ制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、S13(
図3)の処理が実行されると(フラグFが1に設定されると)実行される。
【0041】
図4において、S20では、MG1の逆回転を検出したときにシステムが故障していると判定する「故障判定」を禁止する。
【0042】
続く、S21では、車速SPDの絶対値|SPD|に基づいて、逆トルクTqrを算出する。
図5は、逆トルクTqrを算出するためのマップである。
図5において、縦軸は逆トルクTqrの大きさを表しており、横軸は時間である。
図5に示すように、逆トルクTqrの初期値は、車速SPDの絶対値|SPD|が高いほど大きな値とされ、時間の経過とともに減少し0になる。逆トルクTqrの初期値が車速SPDの絶対値|SPD|が高いほど大きな値とされるのは、車速SPD(の絶対値|SPD|)が高いほど、MG1の正回転方向の慣性力が大きいため、より大きな逆トルクTqrを用いて、MG1の慣性力を打ち消すためである。なお、このマップは、予め実験等によって設定される。
【0043】
S21では、車速センサ153で検出した車速SPDに基づいて、
図5のマップから逆トルクTqrを算出する。なお、車速SPDは、S21が処理されるとき(フラグFが1に設定され、本ルーチンが開始されたとき)に、車速センサ153で検出された車速SPDである。
【0044】
続くS22では、MG1から逆トルクTqrが出力されるよう、PCU20を制御する。逆トルクTqrは、正回転方向と逆方向に作用するトルクであり、これにより、MG1が正回転と逆方向に回転する逆回転が許容される。
【0045】
S23では、電動車両Vが停止したか否かを判定する。たとえば、車輪速WSが0になったとき、電動車両Vが停止したと判定する。電動車両Vが停止していない場合、S23で否定判定され、S22へ進む。S22では、MG1から逆トルクTqrが出力されるよう、PCU20が制御され、逆トルクTqrは時間の経過とともに減少し、0になる。
【0046】
車輪速WSが0になり、電動車両Vが停止すると、S23で肯定判定され、S24へ進む。S24では、MG1の逆回転を検出したときにシステムが故障していると判定する「故障判定」を許可したあと、今回の処理を終了する。
【0047】
本実施の形態によれば、電動車両Vの走行時、MG1は、通常制御によって、正回転に制御され、変速機3の前進段が達成されると前進し、後進段が達成されると後進する。電動車両Vの前後進は、変速機3の変速段の操作によってなされる。電動車両Vが前進しているとき、変速機3が後進段に切り替えられると、フェールセーフ制御によって、MG1の逆回転を許容する。MG1の逆回転が許容されるので、駆動輪5が後進方向に駆動されることを抑制でき、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できる。電動車両Vが後進しているとき、変速機3が前進段に切り替えられると、フェールセーフ制御によって、MG1の逆回転を許容する。MG1の逆回転が許容されるので、駆動輪5が前進方向に駆動されること抑制でき、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できる。
【0048】
MG1の逆回転は、電動車両Vが停止するまで許容される。電動車両Vが停止すると、フェールセーフ制御は終了し、通常制御が開始されるので、MG1は正回転に制御され、変速機3の変速段に対応した走行が可能になる。
【0049】
本実施の形態では、電動車両Vが前進中に後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両Vが後進中に前進段に切り替えられたとき、MG1が逆トルクTqrを出力するよう制御され、MG1が逆回転する方向へトルクを出力する。この逆トルクTqrによってMG1の正転方向の慣性力を打ち消すことができ、車両に大きな衝撃が発生することを、より好適に抑制できる。
【0050】
また、逆トルクTqrは、
図5のマップに示すように、アクセル開度ACCPの大きさに係わらず0になる。このため、アクセルペダルの操作状況に係わらず、電動車両Vは、停止に向けて減速される。
【0051】
(変形例1)
上記実施の形態では、電動車両Vの前進時に、シフトレバーによって後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両Vの後進時に、シフトレバーによって前進段に切り替えられたとき、MG1の逆回転を許容していた。シフトレバーによって、後進段、あるいは、前進段に切り替えても、クラッチ2が開放されている状況では、MG1の回転(トルク)は、変速機3に入力されないので、クラッチ2の係合状態を考慮して、MG1の逆回転を許容するようにしてもよい。
【0052】
図6は、変形例1において、制御ECUで実行される、フェールセーフ制御の処理の一例を示すフローチャートである。
図6のフローチャートは、
図4のS20~S24の処理の前に、S25の処理を加えたものであり、S20~S24の処理は、
図4のS20~S24の処理と同一である。
【0053】
変形例1では、フェールセーフ制御が開始されると、S25において、クラッチ2が係合状態であるか否かを判定する。クラッチ2が開放状態である場合は、否定判定され、クラッチ2が係合状態になるまで、再度、S25が処理される。クラッチ2が係合状態になると、S25で肯定判定され、S20へ進む。S20以降の処理は、
図4と同様であるので、その説明を省略する。
【0054】
この変形例1においても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏する。
(変形例2)
上記実施の形態では、フェールセーフ制御において、車速SPDの絶対値|SPD|に基づいて、
図5のマップから、逆トルクTqrを算出していた。変形例2では、電動車両Vの前後加速度Gxの絶対値|Gx|に基づいて、逆トルクTqrを算出する。
【0055】
図7は、変形例2における、逆トルクTqrを算出するためのマップである。
図7において、縦軸は逆トルクTqrの大きさを表しており、横軸は前後加速度Gxの絶対値|Gx|である。
図7に示すように、逆トルクTqrは、前後加速度Gxの絶対値|Gx|が大きいほど大きな値となっており、絶対値|Gx|が小さくなると、0になる。
【0056】
変形例2では、S21(
図4、
図6)の処理において、
図7のマップを用いて、逆トルクTqrを算出する。そして、変形例2では、S23で否定判定された場合、S21へ進み、S21が処理される毎に、前後加速度センサ155で検出した前後加速度Gxから絶対値|Gx|を求め、
図7のマップから逆トルクTqrを算出し、MG1から逆トルクTqrが出力されるようPCU20を制御する。
【0057】
この変形例2においても、
図7のマップから算出された逆トルクTqrによってMG1の正転方向の慣性力を打ち消すことができ、車両に大きな衝撃が発生することを、より好適に抑制できる。
【0058】
(変形例3)
上記実施の形態では、上記実施の形態では、フェールセーフ制御において、車速SPDの絶対値|SPD|に基づいて、
図5のマップから、逆トルクTqrを算出していた。フェールセーフ制御において、逆トルクTqrを算出することなく、MG1の指令トルクを0にするようにしてもよい。
【0059】
変形例3では、S21(
図4、
図7)の処理において、MG1の指令トルクTqtを、0にする。これにより、S22において、MG1から出力されるトルクが0になるよう、PCU20が制御される。
【0060】
この変形例3においても、電動車両Vが前進中に後進段に切り替えられたとき、あるいは、電動車両Vが後進中に前進段に切り替えられたとき、MG1の逆回転が許容されるので、車両に大きな衝撃が発生することを抑制できる。また、電動車両Vは、停止に向けて減速される。
【0061】
上記の実施の形態では、変速機3が常時噛合式の手動変速機である例を説明した。変速機として、遊星歯車式多段自動変速機を用いた場合、前進レンジ(Dレンジ)が選択されたとき、前進段であると判定してよく、後進レンジ(Rレンジ)が選択されたとき、後進段であると判定してよい。また、遊星歯車式多段自動変速機では、前進段である変速段の摩擦係合装置が係合を開始したとき、前進段であると判定し、後進段である変速段の摩擦係合装置が係合を開始したとき、後進段であると判定してもよい。変速機が無段変速機である場合、前後進切替装置が前進に切り替えられたとき、前進段であると判定し、前後進切替装置が後進に切り替えられたとき、後進段であると判定してもよい。
【0062】
本開示における実施態様を例示すると、次のような態様を例示できる。
1)モータ(1)と、前進段及び後進段を有しモータ(1)の出力を駆動輪(5)に伝達する変速機(3)と、制御装置(100)と、を備え、モータ(1)が正回転しているとき、前進段が達成されると前進するとともに後進段が達成されると後進する、電動車両(V)であって、制御装置(100)は、電動車両(V)の走行時に、モータ(1)が正回転するよう制御(S16)し、電動車両(V)が前進しているとき、変速機(3)が後進段に切り替えられると、モータ(1)が正回転と逆方向に回転する逆回転を許容するとともに、電動車両(V)が後進しているとき、変速機(3)が前進段に切り替えられると、モータ(2)の逆回転を許容する(S13)。
【0063】
2)上記1において、制御装置(100)は、電動車両(V)が停止するまで、アクセルペダルの操作に係わらず、モータ(1)の逆回転を許容する。
【0064】
3)上記1または上記2において、制御装置(100)は、モータ(1)の逆回転が許容されている間、モータ(1)の逆回転を検出したときに故障判定を行う故障判定を禁止する。
【0065】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 MG、2 クラッチ、3 変速機、3a 後進段、4 ディファレンシャルギヤ、5 駆動輪、10 バッテリ、20 PCU、30 SMR、50 充電器、60 インレット、70 充電リレー、100 制御ECU、101 CPU、102 メモリ、110 進行方向検出部、120 変速段判定部、130 フェールセーフ制御部、151 アクセル開度センサ、152 シフトポジションセンサ、153 車速センサ、154 車輪速センサ、155 前後加速度センサ、200 外部電源、220 コネクタ、V 電動車両。