(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】タンク及び強化繊維のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20250109BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20250109BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20250109BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20250109BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29C70/32
B29B17/00 ZAB
B29C70/16
B29C70/68
F16J12/00 A
(21)【出願番号】P 2022126054
(22)【出願日】2022-08-08
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】助田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大祐
(72)【発明者】
【氏名】石井 博行
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-14019(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0103964(US,A1)
【文献】特表2019-529177(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099010(WO,A1)
【文献】特開2018-167507(JP,A)
【文献】特開2009-52654(JP,A)
【文献】特開2009-191927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
B29C 70/00-70/88
B29B 17/00-17/04
C08J 11/00-11/28
F16J 12/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナー、及びライナーの外周面の上に配置され、強化繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸繊維束がライナーに巻かれるように構成された第一の保護層を有するタンクであって、
樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する、タンク。
【請求項2】
折り曲げ箇所が、樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺に及んでいる、請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
折り曲げ方向が巻きつけ方向と異なるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている、請求項1に記載のタンク。
【請求項4】
タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度が、1°超180°未満である、請求項3に記載のタンク。
【請求項5】
折り曲げ角度が、1°以上150°以下であり、例えば、10°以上120°以下、又は20°以上90°以下である、請求項4に記載のタンク。
【請求項6】
折り曲げ方向が巻きつけ方向と同じになるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている、請求項1に記載のタンク。
【請求項7】
タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度が、1°未満である、請求項6に記載のタンク。
【請求項8】
折り曲げ箇所に、樹脂含浸繊維束とは別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置されている、請求項1に記載のタンク。
【請求項9】
別の材料の形状が、リング状又は板状である、請求項8に記載のタンク。
【請求項10】
強化繊維束が、ガラス繊維束又は炭素繊維束である、請求項1に記載のタンク。
【請求項11】
強化繊維束が、ガラス繊維束である、請求項10に記載のタンク。
【請求項12】
第一の保護層が、ガラス繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸ガラス繊維束がライナーに巻かれるように構成されており、
第一の保護層とライナーの間に、炭素繊維束及び第二のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸炭素繊維束がライナーに巻かれるように構成された補強層をさらに有する、請求項11に記載のタンク。
【請求項13】
樹脂含浸炭素繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸炭素繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する、請求項12に記載のタンク。
【請求項14】
第一の保護層の上に、第一のマトリックス樹脂から構成される第二の保護層を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載のタンク。
【請求項15】
強化繊維をリサイクルする方法であって、
請求項1~13のいずれか1項に記載のタンクを用意する工程、
巻き終わり端部の折り曲げ箇所をタンク表面から剥離する工程、及び
剥離した巻き終わり端部を引っ張り、樹脂含浸繊維束を引き出す工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンク、及び強化繊維をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量かつ高剛性であり、高圧ガスに耐え得る材料である。そのため、燃料電池(FC)車の水素タンク等に補強材として用いられている。また、炭素繊維強化樹脂層上に、ガラス繊維強化樹脂(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastic)層が保護材として配置されたハイブリッド型の繊維強化プラスチックも採用されている。
【0003】
しかしながら、炭素繊維強化樹脂又はガラス繊維強化樹脂に含まれる炭素繊維やガラス繊維は、高価であり、また、製造時CO2発生量が多く且つ廃棄処理が困難であるため環境負荷が高い。そこで、使用済みの繊維強化樹脂から炭素繊維やガラス繊維を回収し、リサイクルする方法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、強化繊維が巻き取られ且つ樹脂に含浸された強化部品から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング段階と、繰り出された強化繊維をサイジング液に通過させて強化繊維にサイジング液をコートするサイジング段階と、サイジング液がコートされた強化繊維をマンドレルに巻き取るワインディング段階とを含んでなることを特徴とする、強化繊維回収方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等に開示されるように、繊維強化樹脂(以下、樹脂含浸繊維束とも称す)から強化繊維をリサイクルする方法が検討されている。強化繊維をリサイクルする方法においては、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部をスクレーパー等を用いてタンク表面から剥離し、剥離した端部を巻き取りローラーに固定してローラーの回転駆動により引き出すことが行われている。
【0007】
しかし、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を表面から剥離する際に、強化繊維束を含んでなる樹脂含浸繊維束を綺麗に剥離することが困難である場合があった。
【0008】
当該課題について、
図1~3を参照して具体的に説明する。従来のタンクでは、一般的に、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部は、
図1に示されるように、折り曲げられずに、下に位置する樹脂含浸繊維束に貼り付けられた状態で硬化又は固化されて固定される。樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部は、スクレーパー等の器具を巻き終わり端部とその下に位置する樹脂含浸繊維束の間に差し込むようにして剥離されるが、その際、巻き終わり端部の末端には強化繊維の末端が露出又は近接する構成を有するため、完全にその間に器具を差し込むことができず、
図2に示されるように、強化繊維束の上部分だけが剥離し、下側が残ってしまう場合がある(上下方向の裂け)。また、強化繊維束が上側と下側に裂けるだけではなく、
図3に示されるように、強化繊維束が左右に裂けてしまう場合もある(左右方向の裂け)。裂けが生じた状態で樹脂含浸繊維束を引き出すと、強化繊維束に裂けが生じたままタンク表面から剥離してしまい、強化繊維をボビンに精度よく回収できなかったり、強化繊維の切れが発生したり、作業性が低下したりする等の問題が生じ得る。
【0009】
そこで、本開示の目的は、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を容易に剥離することができるタンクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0011】
(1) ライナー、及びライナーの外周面の上に配置され、強化繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸繊維束がライナーに巻かれるように構成された第一の保護層を有するタンクであって、
樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する、タンク。
(2) 折り曲げ箇所が、樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺に及んでいる、(1)に記載のタンク。
(3) 折り曲げ方向が巻きつけ方向と異なるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている、(1)又は(2)に記載のタンク。
(4) タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度が、1°超180°未満である、(3)に記載のタンク。
(5) 折り曲げ角度が、1°以上150°以下であり、例えば、10°以上120°以下、又は20°以上90°以下である、(4)に記載のタンク。
(6) 折り曲げ方向が巻きつけ方向と同じになるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている、(1)又は(2)に記載のタンク。
(7) タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度が、1°未満である、(6)に記載のタンク。
(8) 折り曲げ箇所に、樹脂含浸繊維束とは別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置されている、(1)~(7)のいずれか1つに記載のタンク。
(9) 別の材料の形状が、リング状又は板状である、(8)に記載のタンク。
(10) 強化繊維束が、ガラス繊維束又は炭素繊維束である、(1)~(9)のいずれか1つに記載のタンク。
(11) 強化繊維束が、ガラス繊維束である、(10)に記載のタンク。
(12) 第一の保護層が、ガラス繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸ガラス繊維束がライナーに巻かれるように構成されており、
第一の保護層とライナーの間に、炭素繊維束及び第二のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸炭素繊維束がライナーに巻かれるように構成された補強層をさらに有する、(11)に記載のタンク。
(13) 樹脂含浸炭素繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸炭素繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する、(12)に記載のタンク。
(14) 第一の保護層の上に、第一のマトリックス樹脂から構成される第二の保護層を有する、(1)~(13)のいずれか1つに記載のタンク。
(15) 強化繊維をリサイクルする方法であって、
(1)~(14)のいずれか1つに記載のタンクを用意する工程、
巻き終わり端部の折り曲げ箇所をタンク表面から剥離する工程、及び
剥離した巻き終わり端部を引っ張り、樹脂含浸繊維束を引き出す工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を表面から容易に剥離することができるタンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来のタンクのように、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部が折り曲げられずに硬化又は固化されて固定される、巻き終わり端部の形態を示す模式図である。
【
図2】
図1に示すような形態の巻き終わり端部をスクレーパー等の器具を用いて剥離する際に生じ得る、繊維束の上下方向の裂けの問題を説明するための模式図である。
【
図3】
図1に示すような形態の巻き終わり端部をスクレーパー等の器具を用いて剥離する際に生じ得る、繊維束の左右方向の裂けの問題を説明するための模式図である。
【
図4】折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の上になるように折り曲げられて固定された形態を示す模式図である。
【
図5】折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り曲げられて固定された形態を示す模式図である。
【
図6】折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の上になるように折り返されて固定された形態を示す模式図である。
【
図7】折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り返されて固定された形態を示す模式図である。
【
図8】折り曲げ角度θについて説明するための模式図であり、タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合の模式図である。
【
図9】本実施形態に係る一形態としてのタンク100の構成例を示す模式的断面図であって、軸方向に沿った面による断面図である。
【
図10】
図9に示すタンク100の表面層としての第二の保護層30bを部分的に除去し、第一の保護層30aの巻き終わり端部を露出させた状態を示す模式図である。
【
図11】本実施形態に係る方法の一形態を説明するためのフローチャートの例である。
【
図12】本実施形態における加熱下での引き出し工程を説明するための模式図である。
【
図13A】エポキシ樹脂の熱特性の一例を示すグラフであり、窒素雰囲気下で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャート(TG曲線)を示すグラフ(横軸:温度、縦軸:重量減少率)である。
【
図13B】エポキシ樹脂の熱特性の一例を示すグラフであり、大気雰囲気下で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャート(TG曲線)を示すグラフ(横軸:温度、縦軸:重量減少率)である。
【
図14】強化繊維の一例としての炭素繊維の熱特性を示すグラフであり、所定の温度(300℃、400℃、500℃)で所定の時間(横軸)、大気中で炭素繊維を加熱した際の強度比(加熱後の引張強度/加熱前の引張強度)を示すグラフである。
【
図15】樹脂(エポキシ樹脂)の所定の温度における引張せん断強度比を示すグラフである。
【
図16】
図15に示す引張せん断強度比を測定するための引張せん断試験に用いたテストピースの構成を説明するための模式図である。
【
図17】低出力(平均出力:30W)の炭酸ガスレーザ(10.6μm、連続波)で第二の保護層としてのエポキシ樹脂を除去した後の状態を示す画像である。
【
図18】低出力(平均出力:30W)の炭酸ガスレーザ(10.6μm、連続波)で第二の保護層としてのエポキシ樹脂を除去した際における、レーザ照射回数と、エッチング深さ(mm)との関係を示すグラフである。
【
図19】
図18に示す実験において、照射回数10回目、20回目及び50回目におけるタンク表面を示す画像である。
【
図20】リング状の別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置された形態を示す模式図である。
【
図21】板状の別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置された形態を示す模式図である。
【
図22】リング状の別の材料が折り曲げ箇所に固定された形態を採用するタンクにおいて、表面層を部分的に除去し、巻き終わり端部を露出させた状態を示す模式図である。
【
図23】板状の別の材料が折り曲げ箇所に固定された形態を採用するタンクにおいて、表面層を部分的に除去し、巻き終わり端部を露出させた状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、ライナー、及びライナーの外周面の上に配置され、強化繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸繊維束がライナーに巻かれるように構成された第一の保護層を有するタンクであって、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する、タンクである。
【0015】
本実施形態によれば、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を容易に剥離することができるタンクを提供することができる。具体的には、本実施形態に係るタンクは、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有するため、折り曲げ箇所とその下の層との間にスクレーパー等の器具を差し込むことにより、折り曲げ箇所から巻き終わり端部を容易に剥離することができる。
【0016】
樹脂含浸繊維束(繊維強化樹脂層)の強化繊維束に用いられる強化繊維としては、特に制限されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の合成有機繊維、及び綿等の天然有機繊維が用いられる。これらの繊維は、1種を単独で使用してもよいし、混合して(混繊として)使用してもよい。
【0017】
樹脂含浸繊維束に用いられる第一のマトリックス樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
第一のマトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を挙げることができる。第一のマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、又は熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、直鎖型であっても分岐型であってもよい。第一のマトリックス樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
樹脂含浸繊維束からなる層(繊維強化樹脂層)の形成に用いられる樹脂含浸繊維束は、当該技術分野において従来知られている方法により調製することができる。樹脂含浸繊維束は、特に制限されるものではないが、例えば、強化繊維束に液状の樹脂を含浸させるプリプレグ成形により調製することができる。
【0020】
樹脂含浸繊維束を巻き付ける方法は、従来知られている方法により実施することができる。例えば、樹脂含浸繊維束の巻回には、従来知られているフィラメントワインディング装置を用いることができる。フィラメントワインディング装置は、型の外周に、樹脂含浸繊維束を繰り返し巻回することができ、型の外周に、樹脂含浸繊維束による繊維層を形成することができる。樹脂として熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)を使用する場合には、型の外周に、繊維層としてエポキシ樹脂が含浸された繊維層が形成される。その後、加熱等により樹脂を硬化させる。巻回の回数は限定されないが、樹脂含浸繊維束は、型の外周に形成される繊維層の厚さが、通常10mm~30mmになるまで巻回される。巻回した後、適宜加熱処理することにより、樹脂含浸繊維を硬化させ、繊維強化樹脂層を得ることができる。加熱処理は、例えば熱硬化炉を用いることができる。
【0021】
本実施形態に係るタンクは、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有する。本実施形態において、折り曲げ箇所とは、樹脂含浸繊維束の折り曲げにより生じる端を意味する。
【0022】
従来のタンクでは、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部は、特に本実施形態のように折り曲げられることはなく、樹脂含浸繊維束からなる層(繊維強化樹脂層)の表面に貼り付けられた状態で硬化又は固化されて固定される(
図1)。
図1において、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部のみが示されており、下に位置する層、具体的には樹脂含浸繊維束は省略されている。また、タンクは、通常、曲面を有するため、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部はその局面に沿って固定されている。一方、本実施形態に係るタンクでは、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部は、折り曲げられた状態で硬化又は固化されて固定される。折り曲げられた状態とは、折り曲げ箇所より後部分(巻き終わりの先端側の部分)の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分(先に巻き付けられた部分、巻き終わりの先端側とは反対側の部分)の樹脂含浸繊維束の上になるように折り曲げられていてもよく、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り曲げられていてもよい。
図4は、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の上になるように折り曲げられて固定された形態を示す模式図である。
図5は、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り曲げられて固定された形態を示す模式図である。
【0023】
樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている形態としては、特に制限されるものではないが、例えば、折り曲げられた状態で強化繊維束中に含浸された樹脂が硬化又は固化して固定された形態が挙げられる。固定は、例えば、巻き終わり端部を折り曲げた状態で熱処理を行って硬化させることにより行うことができる。例えば、巻き終わり端部を折り曲げた状態で巻き終わり端部付近に熱風を吹き付けて硬化させてもよい。
【0024】
上述の通り、樹脂含浸繊維束から強化繊維をリサイクルする際、巻き取りローラーに端部を固定するために、まずは、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部をスクレーパー等の器具を用いてタンク表面から剥離することが行われる。この際、本実施形態のように、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部において樹脂含浸繊維束を折り曲げられた状態で固定しておくことにより、巻き終わり端部における折り曲げ箇所とその下に位置する樹脂含浸繊維束の間に、スクレーパー等の器具を差し込み易くなる。これは、樹脂含浸繊維束を折り曲げて固定することで形成された折り曲げ部分が、スクレーパー等の器具を差し込む際に、剥離対象部分の巻き終わり端部とその下に存在する樹脂含浸繊維束との間へのガイドとして機能し、折り曲げ箇所から樹脂含浸繊維束を裂けの発生を抑制して容易に剥がすことができるためである。
【0025】
本実施形態において、折り曲げ箇所は、樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺に及んでいることが好ましい。すなわち、樹脂含浸繊維束を折り曲げることにより形成される端辺が樹脂含浸繊維束の2つの(両側の)長手方向辺に達していることが好ましい。樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺に及ぶように折り曲げることにより、折り曲げ箇所から樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を剥離する際に、繊維束の裂けをより効果的に抑制できる。
【0026】
本実施形態において、
図4及び
図5に示すように、折り曲げ方向が巻きつけ方向と異なるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられていることが好ましい。また、本実施形態において、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部は、折り返された状態で固定されていてもよい。本明細書において、「折り返された状態」とは、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の両方の長手方向辺と一致するように折り曲げられた状態を意味し、「折り曲げられる」形態の一態様を示す用語である。
図6は、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の上になるように折り返されて固定された形態を示す模式図である。
図7は、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り返されて固定された形態を示す模式図である。
【0027】
図4及び
図5は、折り曲げ方向が巻きつけ方向と異なるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている形態を示す模式図である。また、
図8は、折り曲げ角度について説明するための模式図であり、タンクの外から折り曲げ箇所を径方向に見た場合の模式図である。
図8において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向(点線矢印)と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向(実線矢印)との間の折り曲げ角度がθで示されている。本実施形態において、折り曲げ方向が巻きつけ方向と異なるとは、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度θが、1°超180°未満であることを意味することが好ましい。本実施形態において、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度θは、1°以上であることが好ましく、5°以上であることが好ましく、10°以上であることが好ましく、15°以上であることが好ましく、20°以上であることが好ましい。また、上記折り曲げ角度は、150°以下であることが好ましく、120°以下であることが好ましく、90°以下であることが好ましく、80°以下であることが好ましい。これらの数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、上記折り曲げ角度は、1°以上150°以下であり、10°以上120°以下、又は20°以上90°以下である。
【0028】
図6及び
図7は、折り曲げ方向が巻きつけ方向と同じになるように樹脂含浸繊維束が折り曲げられている形態を示す模式図である。本実施形態において、折り曲げ方向が巻きつけ方向と同じとは、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の長手方向と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長手方向との間の折り曲げ角度θが、1°未満であることを意味することが好ましい。
【0029】
また、上記折り曲げ角度θは、折り曲げ箇所の前部分(直前部分)の樹脂含浸繊維束の短手方向の中心線(
図8の点線矢印に沿った線)を通りかつタンクの軸(
図9の一点鎖線X)に垂直である面と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の短手方向の中心線(
図8の実線矢印に沿った線)を通りかつタンクの軸に垂直である面との間の角度と定義してもよい。その好ましい数値範囲は上述の範囲が適用され得る。
【0030】
折り曲げる長さについて、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束の長さは、特に制限されるものではないが、例えば、10mm~300mmである。
【0031】
本実施形態において、折り曲げ箇所に、樹脂含浸繊維束とは別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置されていてもよい。別の材料の形状としては、例えば、リング状又は板状が挙げられる。このような形態を採用することにより、別の材料が剥がしの起点となり得る。
【0032】
図20は、
図7に記載の、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り返されて固定された形態において、リング状の別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置された形態を示す模式図である。
図20において、別の材料は、リング状を有し、リング状の別の材料の一部分が折り曲げ箇所に挟まれて固定されている。
【0033】
図21は、
図7に記載の、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束の下になるように折り返されて固定された形態において、板状の別の材料が、折り曲げ箇所より前部分の樹脂含浸繊維束と、折り曲げ箇所より後部分の樹脂含浸繊維束との間に挟まれて配置された形態を示す模式図である。
図21において、別の材料は、板状を有し、板状の別の材料の一部分が折り曲げ箇所に挟まれて固定されている。
【0034】
図22及び
図23は、
図20のリング状の別の材料(
図22)又は
図21の板状の別の材料(
図23)が折り曲げ箇所に固定された形態を採用するタンクにおいて、表面層を部分的に除去し、巻き終わり端部を露出させた状態を示す模式図である。
図22及び23に示すように、リサイクルするために樹脂含浸ガラス繊維束を引き出す際、別の部材を剥がしの起点として利用することにより、裂けの発生を抑制しつつ、巻き終わり端部を容易に剥離することができる。
【0035】
別の材料の材質としては、250℃の加熱で変形や変質を生じないものが望ましく、例えば、アルミニウムや鉄等の金属材料が挙げられる。また、別の材料の厚さは、タンクの凸凹の発生を抑制するため、薄い方が望ましい。
【0036】
以下、本実施形態に係る一形態ついて詳細に説明する。
【0037】
以下、
図9を参照しながら、本実施形態に係るタンクの構成例について説明する。なお、以下の構成例は、実施形態の一形態を示すものであり、本実施形態を以下の構成例の説明により制限されることを意図したものではない。
【0038】
図9は、本実施形態に係る一形態としてのタンク100の構成例を示す断面図である。
図9は、タンク100の中心軸に平行でかつ中心軸を通る面で切断された断面図を示している。タンク100の中心軸(点線X)は、略円筒状を有するタンク本体の円の中心を通る軸と一致する。タンク100は、例えば、圧縮水素等の気体を充填するために用いることができる。例えば、タンク100は、圧縮水素が充填された状態で、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車に搭載される。
【0039】
図9は、本実施形態に係るタンク100の軸方向に沿った模式的断面図である。タンク100は、中心軸Xを中心とする中空の容器であり、高圧水素ガスや高圧天然ガスなどの高圧流体を貯蔵するための圧力容器である。
図9に示すように、タンク100は、ガスを収容する樹脂製のライナー10と、ライナー10の外周面を被覆している補強層20と、補強層20の外周面を被覆している保護層30と、を少なくとも備えている。また、タンク100の両端には、それぞれ、バルブ側口金40とエンド側口金60が設けられている。バルブ側口金40にはバルブ50が取り付けられている。
【0040】
ライナー10は、胴体部と2つの側端部とを備え、ガスを貯蔵するための内部空間を形成しており、水素等のガスが外部に漏れないように内部空間を密閉するガスバリア性を有する。胴体部は、
図9に示すタンク100の中心軸Xに沿って、所定の長さを有して延在する筒状部分である。側端部は、胴体部の両側に連続して形成されたドーム状の部分であり、各側端部は、胴体部から遠ざかるにつれて縮径しており、最も縮径した部分の中心に開口部が形成されており、各開口部には、バルブ側口金40とエンド側口金60が設けられている。
【0041】
ライナー10は、ガスバリア性を有する樹脂で形成されている。このような樹脂の例として、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はナイロン樹脂等を挙げることができる。樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ライナー10は、上述した樹脂に水素吸蔵合金などのガス不透過材料を混入して形成されてもよい。
【0042】
補強層20は、炭素繊維束及び第二のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸炭素繊維束(炭素繊維強化樹脂(CFRP))で形成されている。補強層20は、炭素繊維束及び第二のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸炭素繊維束がライナーに巻かれるように構成されている。補強層20は、例えば、樹脂含浸炭素繊維束の繊維をフープ巻及び/又はヘリカル巻でライナー10の外周面に巻きつけて形成され得る。樹脂含浸炭素繊維束からなる層(炭素繊維強化樹脂層)20は、主に、ライナー10を補強する機能を有する(補強層)。炭素繊維束に含浸される第二のマトリックス樹脂として、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を挙げることができる。炭素繊維は、当該技術分野において従来知られている方法により調製することができる。炭素繊維としては、炭素を主成分とする材料であればよく、例えば、アクリルを原料とする炭素繊維、ピッチを原料とする炭素繊維、又はポリビニルアルコールを原料とする炭素繊維等が挙げられる。中でも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維が好ましい。
【0043】
保護層30は、第一の保護層30a及び第二の保護層30bから構成されている。第一の保護層30aは、ガラス繊維束を強化繊維束とした樹脂含浸ガラス繊維束(ガラス繊維強化樹脂(GFRP))で形成され、ガラス繊維束及び第一のマトリックス樹脂を含む樹脂含浸繊維束がライナーに巻かれるように構成されている。具体的には、第一の保護層30aは、樹脂含浸ガラス繊維束のガラス繊維を、例えばヘリカル巻及び/又はフープ巻で補強層20の外周面に巻き付けて、形成されている。ガラス繊維束に含浸される第一のマトリックス樹脂として、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0044】
保護層30は、補強層20の外周面を被覆する第一の保護層30aと、第一の保護層30aの外周面を被覆する第二の保護層30bとを備えている。第二の保護層30bは、巻き終わり後の熱硬化工程において、第一の保護層30aを形成するために巻き付けられたガラス繊維強化樹脂の表面に、ガラス繊維束に含浸した第一のマトリックス樹脂の一部がにじみ出た状態で硬化して形成された層であり得る。
【0045】
第一の保護層30aは、ガラス繊維と第一のマトリックス樹脂とで構成された樹脂含浸繊維束からなる。第一の保護層30aに含まれる第一のマトリックス樹脂としては、例えば、補強層20の第二のマトリックス樹脂と同じ材料のものであってもよい。また、第一の保護層30aに含まれる第一のマトリックス樹脂は、補強層20に含まれる第二のマトリックス樹脂と同じ材料のものでもよく、異なる材料のものでもよい。
【0046】
第二の保護層30bは、第一のマトリックス樹脂を含み、これを主材としている。この第一のマトリックス樹脂は、上述したように、第一の保護層30aのガラス繊維束に含浸した第一のマトリックス樹脂の一部が、第一の保護層30aの表面にじみ出たものであり得、第二の保護層30bの第一のマトリックス樹脂の含有率は、第一の保護層30aの第一のマトリックス樹脂の含有率よりも高い。このような第二の保護層30bは、第一のマトリックス樹脂のみでもよく、第一の保護層30aから分離したガラス繊維の一部を含んでもよい。
【0047】
図9において、バルブ側口金40は、略円筒状を成し、ライナー10と補強層20との間に嵌入されて、固定されている。バルブ側口金40の略円柱状の開口が、タンク100の開口として機能する。本実施形態において、バルブ側口金40は、例えば、ステンレスから形成できるが、アルミニウム等の他の金属から成るものであってもよいし、樹脂製であってもよい。バルブ50は、円柱状の部分に、雄ねじが形成されており、バルブ側口金40の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ50によって、バルブ側口金40の開口が閉じられる。エンド側口金60は、例えばアルミニウムから成り得、一部分が外部に露出した状態で組み立てられ、タンク内部の熱を、外部に導く働きをする。
【0048】
第二のマトリックス樹脂は、第一のマトリックス樹脂とは独立しているが、例えば、第一のマトリックス樹脂と同じ材料のものが挙げられる。第二のマトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を挙げることができる。第一のマトリックス樹脂及び第二のマトリックス樹脂は、上述の通り、それぞれ同じ材料のものであっても、異なる材料のものであってもよい。第二のマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂として、例えば、第一のマトリックス樹脂について上述したものを挙げることができる。第二のマトリックス樹脂も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
樹脂含浸繊維束からなる層(繊維強化樹脂層)は、例えば、フィラメントワインディング法により形成することができる。フィラメントワインディング成形品は、強化繊維束を必要に応じて複数本引き揃え、マトリックス樹脂を含浸させて、回転する基体や金型に適宜の厚さまでテンションを掛けながら適宜の角度で巻き付けることにより製造することができる。
【0050】
図10は、
図9に示すタンク100の表面層としての第二の保護層30bを部分的に除去し、第一の保護層30aの巻き終わり端部を露出させた状態を示す模式図である。
図10に示すように、第一の保護層30aを構成する樹脂含浸ガラス繊維束(ガラス繊維強化樹脂)の巻き終わり端部は、折り曲げられた状態で硬化又は固化されて固定されている。そのため、リサイクルするために樹脂含浸ガラス繊維束を引き出す際に、折り曲げ箇所とその下の層との間にスクレーパー等の器具を差し込むことにより、裂けの発生を抑制して、巻き終わり端部を容易に剥離することができる。また、補強層(中間層)20を構成する樹脂含浸炭素繊維束の巻き終わり端部も、折り曲げられた状態で硬化又は固化されて固定されていてもよい。これにより、中間層を構成する樹脂含浸繊維束を引き出す際も、巻き終わり端部を容易に剥離することができる。
【0051】
本実施形態の一態様として、本実施形態に係るタンクから強化繊維をリサイクルする方法も挙げられる。以下、本実施形態に係るリサイクル方法について説明する。
【0052】
図11に、本実施形態に係る方法を説明するためのフローチャートの例を示す。
図11に示すように、本実施形態は、タンク用意工程、折り曲げ箇所剥離工程、及び引き出し工程を少なくとも含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0053】
(タンク用意工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、本実施形態に係るタンクを用意する工程を含む。すなわち、本実施形態に係るリサイクル方法は、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部に、樹脂含浸繊維束が折り曲げられた状態で固定されている折り曲げ箇所を有するタンクを用意する工程を含む。
【0054】
用意されるタンクとしては、例えば、製造後に各用途に使用され、その後回収されたものや、製造段階での不良品等が挙げられる。
【0055】
(折り曲げ箇所剥離工程)
次に、本実施形態に係るリサイクル方法は、巻き終わり端部の折り曲げ箇所をタンク表面から剥離する工程を含む。
【0056】
剥離工程において、上述の通り、例えばスクレーパー等の器具を折り曲げ箇所とその下の層との間に差し込むことにより折り曲げ箇所を剥離する。この際、樹脂含浸繊維束を折り曲げて固定することで形成された折り曲げ部分が、スクレーパー等の器具を差し込む際に、折り曲げ箇所とその下に存在する樹脂含浸繊維束との間へのガイドとして機能するため、裂けの発生を抑制しつつ、折り曲げ箇所から樹脂含浸繊維束を容易に剥がすることができる。
【0057】
(引き出し工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、剥離した巻き終わり端部を引っ張り、樹脂含浸繊維束を引き出す工程を含む。
【0058】
引き出し工程は、タンクに加熱処理を施しながら樹脂含浸繊維束を引き出す工程であることが好ましい。加熱処理の温度は、樹脂(第一のマトリックス樹脂)のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ強化繊維の熱劣化温度未満であることが好ましい。
【0059】
加熱処理により、樹脂(第一のマトリックス樹脂)の熱分解及び強化繊維の強度低下を抑制しつつ、樹脂含浸繊維束中の樹脂を軟化させることができる。樹脂のガラス転移温度以上でタンクを加熱するため、樹脂含浸繊維束中の樹脂は軟化する。樹脂が軟化した状態で引き出し工程を行うことにより、樹脂含浸繊維束を容易に引き出すことができる。具体的には、より小さな張力で樹脂含浸繊維束をタンクから引き出すことができる。小さい張力による引き出しにより、強化繊維の切れや損傷等を抑制することができる。また、熱分解開始温度未満の温度でタンクを加熱することにより、樹脂の熱分解を抑制することができる。樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の過度な変形や炭化を抑制することができ、その結果、後工程で溶解処理が行われる場合でも、樹脂含浸繊維束中の樹脂を容易に溶解させることができる。また、樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の強度低下を抑制することができるため、引き出した樹脂含浸繊維束を、樹脂の除去工程を経ることなく、そのまま又は所望の加工(切断等)を施して他の用途に用いることも可能である。さらに、強化繊維の熱劣化温度未満で加熱処理を行うことにより、強化繊維の熱劣化を抑制することができ、強化繊維の強度低下を抑制することができる。
【0060】
本実施形態において、「樹脂含浸繊維束を引き出す」とは、タンクから樹脂含浸繊維束を連続した状態で引き出すことを意味し、樹脂含浸繊維束をタンクから引き剥がす概念も含む。一実施形態では、加熱によりタンク中の樹脂が軟化している状態で樹脂含浸繊維束を引き出すため、樹脂含浸繊維束を容易に引き出すことができる。樹脂含浸繊維束をタンクから引き出す際に、刃状の治具を用いて引き剥がしてもよい。タンクと樹脂含浸繊維束との間の接着部(樹脂部分)を切断するように刃状の治具を樹脂含浸繊維束とタンク表面の間の部分(樹脂部分)に当接させることにより、樹脂含浸繊維束を引き剥がし易くすることができる。
【0061】
樹脂含浸繊維束を引き出す方法は、特に制限されるものではなく、例えば、巻き取りローラーに樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を直接的に又は間接的に繋ぎ、該ローラーを回転させることにより引き出すことができる。
【0062】
加熱処理は、例えば、熱処理チャンバー内で行うことができる。タンクを熱処理チャンバー内で加熱して、タンクのマトリックス樹脂を軟化させる。熱処理チャンバーは、加熱炉であってもよく、また、加熱媒体を内部に導入及び/又は排出可能に構成された空間を有する加熱装置であってもよい。
【0063】
タンクに加熱処理を施しながら樹脂含浸繊維束を引き出す方法としては、例えば、
図12に示すように、タンクを熱処理チャンバー内に配置し、加熱処理を行いながら樹脂含浸繊維束の一部を熱処理チャンバーから引き出す方法が挙げられる。樹脂含浸繊維束は、例えば、熱処理チャンバーの一部に設けた搬出口から外部に搬送することができる。樹脂含浸繊維束の搬送は、例えば、搬送ローラーにより連続して行うことができる。
【0064】
強化繊維としてガラス繊維を用いる一実施形態において、加熱処理の温度は、第一のマトリックス樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつガラス繊維の熱劣化温度未満である。また、強化繊維として炭素繊維を用いる一実施形態において、加熱処理の温度は、第一のマトリックス樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満である。
【0065】
樹脂の熱分解開始温度は、熱重量測定装置を用いて測定することができる。
【0066】
一実施形態において、熱分解開始温度は、好ましくは、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて3%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて1%の重量減少を示す温度である。一般に、窒素雰囲気下での上記熱分解開始温度は、樹脂の主鎖及び/又は側鎖の分解が開始する温度と考えられる。
【0067】
一実施形態において、熱分解開始温度は、好ましくは、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて3%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて1%の重量減少を示す温度である。一般に、大気中における加熱では、大気中に含まれる酸素により酸化分解が進むため、重量減少率を同じと仮定した場合、大気雰囲気中で測定される熱分解開始温度は、窒素雰囲気中で測定される熱分解開始温度よりも低くなる。
【0068】
強化繊維としてガラス繊維を用いる一実施形態において、ガラス繊維の熱劣化温度未満でタンクを加熱することにより、ガラス繊維の強度低下を抑制することができる。ガラス繊維の熱劣化温度は、ガラス繊維を大気中で加熱処理した場合に、引張強度の低下が1%以上生じるときの最低温度と定義し得る。樹脂含浸繊維束に使用されるガラス繊維について加熱処理の前後で引張強度を測定することで、強度の低下を算出することができる。
【0069】
強化繊維として炭素繊維を用いる一実施形態において、炭素繊維の熱劣化温度未満でタンクを加熱することにより、炭素繊維の強度低下を抑制することができる。炭素繊維の熱劣化温度は、炭素繊維を大気中で加熱処理した場合に、引張強度の低下が1%以上生じるときの最低温度と定義し得る。樹脂含浸繊維束に使用される炭素繊維について加熱処理の前後で引張強度を測定することで、強度の低下を算出することができる。
【0070】
一実施形態において、加熱処理の温度は、好ましくは100℃以上であり、好ましくは120℃以上であり、好ましくは140℃以上であり、好ましくは160℃以上であり、好ましくは180℃以上であり、好ましくは200℃以上である。また、加熱処理の温度は、好ましくは400℃未満であり、好ましくは390℃以下であり、好ましくは380℃以下であり、好ましくは370℃以下であり、好ましくは360℃以下であり、好ましくは350℃以下であり、好ましくは340℃以下であり、好ましくは330℃以下であり、好ましくは320℃以下であり、好ましくは310℃以下であり、好ましくは300℃以下であり、好ましくは290℃以下であり、好ましくは280℃以下である。加熱処理の温度が100℃以上である場合、樹脂含浸繊維束中の樹脂を効果的に軟化させることができる。加熱処理の温度が400℃未満である場合、樹脂含浸繊維束中の樹脂の熱分解を抑制し易くでき、また、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維の劣化も抑制し易くできる。これらの数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0071】
一例として、エポキシ樹脂のガラス転移温度は100℃から200℃程度であり、エポキシ樹脂の熱分解開始温度は240℃から360℃程度である。熱分解開始温度以上で加熱すると、樹脂の熱分解が過度に起こり、樹脂の強度が大きく低下する。また、樹脂の過度な変形や炭化が起こり、樹脂が溶解液で溶解除去し難くなる。
図13Aは、一例としてのエポキシ樹脂について、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートを示す。
図13Aにおいて、5%の重量減少を示す温度は約350℃であり、この温度を熱分解開始温度と規定することができる。また、
図13Bは、一例としてのエポキシ樹脂について、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートを示す。
図13A及び
図13Bにおいて、変曲点も示されている。
図13Bにおいて、5%の重量減少を示す温度は340℃であり、この温度を熱分解開始温度と規定することもできる。上述の通り、大気中における加熱では、大気中に含まれる酸素により酸化分解が進むため、重量減少率を同じにした場合、大気雰囲気中で測定される熱分解開始温度は、窒素雰囲気中で測定される熱分解開始温度よりも低くなる。熱分解開始温度以上では、樹脂の熱分解が過度に生じ、樹脂の主鎖及び/又は側鎖の分解が過度に生じ、場合によっては樹脂の炭化が生じる。このような熱分解が起こると、樹脂を溶解液で溶解除去し難くなる。また、樹脂の強度が低下するため、樹脂含浸繊維束そのものを再利用できなくなる。一方、一実施形態において規定するガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満の範囲では、熱分解を抑制しつつ樹脂を軟化させることができるため、その状態で樹脂含浸繊維束を引き出すことで、良質の連続樹脂含浸繊維束を容易に得ることができる。熱重量分析は、物質の温度を所定のプログラムで変化させた場合の重量変化を測定する方法である。一実施形態においては、熱重量分析は、例えば、アルミ製、アルミナ製又は白金製の容器内に約10mgの試験片を配置し、一定の加熱速度(5℃/分)で昇温させた場合の重量変化を測定することにより行うことができる。
【0072】
樹脂の熱分解をより効果的に抑制するという観点から、加熱処理の温度は、熱分解開始温度よりも1℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも5℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも10℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも15℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも20℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも25℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも30℃以上低い温度であることが好ましい。
【0073】
図14は、強化繊維の一例としての炭素繊維の熱特性を示すグラフであり、所定の温度(300℃、400℃、500℃)で所定の時間(横軸)、大気中で炭素繊維を加熱した際の強度比(加熱後の引張強度/加熱前の引張強度)を示している。
図14で示されるように、炭素繊維は400℃で加熱しても強度が低下しないことがわかる。一方で、炭素繊維を従来の一般的な加熱処理の温度である500℃で加熱すると、強度が低下することがわかる。これは、熱と酸素により炭素繊維の酸化劣化が生じたためと考えられる。一般的に、樹脂の熱分解開始温度は炭素繊維の熱劣化温度よりも低い場合が多いと考えられる。
【0074】
図15は、樹脂(エポキシ樹脂)の所定の温度における引張せん断強度比を示すグラフである。具体的には、
図15は、所定の温度(23℃、100℃、150℃、250℃、横軸)における引張せん断強度比(加熱時の引張せん断強度/加熱前の引張せん断強度(23℃における強度)、縦軸、●印)を示す。なお、250℃から350℃までの点線は、仮想曲線を示す。なお、引張せん断強度は、
図16に示すように二枚の板を樹脂で接着し、被着体同士を反対方向にずれさせようとする荷重であるせん断応力によって接着接合部が破断したときの強さである。
図15に示されるように、樹脂の加熱温度を高くするにつれて、引張せん断強度が低下することがわかる。引張せん断強度が低下した状態にある場合、樹脂含浸繊維束を容易に引き出すことができる。例えば、加熱温度が150℃である場合、引張せん断強度比が0.2以下であり、加熱前の引張せん断強度に比べて加熱時の引張せん断強度は20%以下となっており、より小さい力で樹脂含浸繊維束を引き出すことができることがわかる。本実施形態において、加熱処理の温度は、引張せん断強度比が20%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が15%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が10%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が5%以下となる温度であることが好ましい。
【0075】
本実施形態では、タンクの破砕や粉砕は通常行わない。タンクとして、タンクの筒状部分のみを用いてもよい。タンク中の金属部品等は、加熱工程前に取り外してもよいし、加熱工程後に取り外してもよい。
【0076】
一実施形態における加熱方法は、特に制限されるものではない。加熱方法として、例えば、大気中での加熱を挙げることができる。大気中での加熱処理は、簡便に行うことができ、また、コストの面でも有利である。特に、大気等の酸素が存在する状況下でも、炭素繊維の劣化を抑制することができるため、有効である。また、加熱処理は、過熱水蒸気を用いて行うことができる。過熱水蒸気を用いることにより、処理雰囲気中の酸素を含む空気の比率を下げることができるため、強化繊維の分解・損傷を効果的に抑制することができる。例えば、加熱処理は、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。また、加熱処理は、特に制限されるものではないが、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよい。熱処理チャンバー内に加熱した過熱水蒸気及び/又は不活性気体(窒素等)を供給しながら加熱処理を行ってもよい。
【0077】
本実施形態に係るリサイクル方法において、引き出し工程で引き出された樹脂含浸繊維束は、強化繊維及びマトリックス樹脂により束状の形態が保たれている。一実施形態では、この樹脂含浸繊維束は、樹脂及び強化繊維の強度の低下が抑制されているため、そのまま再利用することができる。また、場合に応じて、得られた樹脂含浸繊維束に所望の加工処理を施して再利用してもよい。加工処理としては、例えば、所望の寸法に切断する処理が挙げられる。例えば、切断した樹脂含浸繊維束をバインダー樹脂等と適宜混合して固化させることにより、シート状製品を製造することができる。
【0078】
(除去工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、樹脂含浸繊維束中の樹脂を除去して強化繊維を得る工程を含み得る。樹脂含浸繊維束中の樹脂の除去方法は、特に制限されるものではないが、好ましくは、溶解液による溶解除去が挙げられる。溶解液による溶解除去によれば、強化繊維(例えばガラス繊維又は炭素繊維)の劣化を抑制することができる。
【0079】
以下、樹脂を除去する工程の一例としての溶解液による溶解除去工程について説明する。
【0080】
溶解除去工程は、引き出した樹脂含浸繊維束中の樹脂を溶解液により溶解させて除去する工程である。
【0081】
一実施形態において、引き出した樹脂含浸繊維束中の樹脂は、溶解除去工程により除去される。樹脂含浸繊維束を溶解液に接触させることにより樹脂を溶解除去することができる。溶解除去によれば、熱によるストレスを避けることができ、強化繊維(例えばガラス繊維又は炭素繊維)の劣化を抑制することができる。具体的には、溶解液による除去は、熱分解による除去よりも強化繊維の劣化が少ない。また、一実施形態において、前工程である加熱下での引き出し工程において樹脂の過度な変形や炭化が抑制されているため、樹脂含浸繊維束中の樹脂を効率的に溶解させることができる。
【0082】
樹脂の溶解は、樹脂含浸繊維束中の樹脂を溶解可能な溶解液を用いて行う。溶解液としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を含む。これらの液体は、樹脂を溶解させたり、樹脂を膨潤させたりすることが可能であり、効率的に樹脂を除去することができる。溶解液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
酸性溶液としては、例えば、リン酸や硫酸等が挙げられる。酸性溶液としては、特開2020-37638号公報に記載されるような、硫酸を含む溶液(例えば、90質量%以上の濃度)、特開2020-50704号公報に記載されるような、リン酸を含む溶液等が挙げられる。酸性成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、樹脂含浸繊維束を濃硫酸に浸漬させることにより樹脂を溶解除去することができる。濃硫酸の温度は、例えば、100~300℃であり得る。また、溶解液により樹脂を除去した後の炭素繊維に実質的な強度の低下は認められない。
【0084】
有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、又はエステル系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、又はオクタン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等が挙げられる。2種以上の成分を含む有機溶媒としては、例えば、石油ベンジン又はリグロイン等が挙げられる。有機溶媒には、分解触媒が含まれていてもよい。分解触媒としては。例えば、特開2020-45407号公報に記載されるような、アルカリ金属化合物が挙げられる。
【0085】
イオン液体としては、例えば、カチオンとして、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系、第4級アンモニウム系、及び第4級ホスホニウム系から選択される少なくとも1種のカチオンを含む、イオン液体が挙げられる。イオン液体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
樹脂の溶解除去は、溶解液を樹脂含浸繊維束に接触させることにより行われる。溶解液を樹脂含浸繊維束に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、又はグラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、溶解液は、浴内に配置された溶解液に浸漬するように樹脂含浸繊維束をローラーで搬送することにより強化繊維に接触させることができる。一実施形態において、引き出された樹脂含浸繊維束を搬送ローラー等により搬送させながら、樹脂含浸繊維束を溶解液中に浸漬させることができる。
【0087】
溶解除去工程における樹脂の溶解度合いは、溶解液の種類、処理温度又は処理時間等で調整することができる。処理時間は、例えば、樹脂含浸繊維束の搬送速度で調整することができる。処理時間は、特に制限されるものではなく、溶解液や樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0088】
溶解液の温度(液温)は、溶解除去の程度を考慮して適宜設定することができる。溶解液の温度(液温)は、例えば、20℃以上であり、40℃以上であり、60℃以上であり、80℃以上であり、また、例えば、300℃以下であり、250℃以下であり、200℃以下であり、150℃以下であり、100℃以下である。
【0089】
樹脂の溶解除去は、溶解液を樹脂含浸繊維束に噴射することにより行ってもよい。すなわち、溶解液に噴射圧力をかけて樹脂含浸繊維束と接触させることにより、その噴射圧力を利用して樹脂含浸繊維束中の樹脂を除去することができる。溶解液を噴射するために用いる噴射装置としては、特に制限はなく、例えば、高圧洗浄装置等を用いることができる。
【0090】
溶解液を噴射する際のノズル圧力は、好ましくは1MPa以上であり、好ましくは5MPa以上であり、好ましくは8MPa以上であり、好ましくは10MPa以上である。前記圧力であれば、樹脂含浸繊維束から樹脂を効率的に除去できる。また、ノズル圧力は、好ましくは30MPa以下であり、好ましくは25MPa以下であり、好ましくは22MPa以下であり、好ましくは20MPa以下である。前記圧力であれば、強化繊維を溶解液で損傷させることを効果的に抑制できる。溶解液を噴射する際のノズルと噴射対象としての樹脂含浸繊維束との距離は、好ましくは10~200cmであり、好ましくは30~100cmである。
【0091】
樹脂の溶解除去は、溶解液への浸漬及び溶解液の噴射を組み合わせて行ってもよい。
【0092】
(サイジング剤付与工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、樹脂を除去して得られた強化繊維(例えばガラス繊維又は炭素繊維)にサイジング剤を付着させる工程を含んでもよい。
【0093】
除去工程後の強化繊維は、樹脂が実質的に全て除去されており、強化繊維の束が解れて単繊維の形態になっている。この強化繊維にサイジング剤を付与することにより、強化繊維束をボビンとして容易に巻き取ることができ、また、強化繊維の毛羽立ち・単繊維の絡まりの発生を抑制することができる。
【0094】
サイジング剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレンやポリプロピレン)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、又はポリオレフィン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。サイジング剤としてエポキシ樹脂を用いることで、強化繊維とエポキシ樹脂の接着性を向上することができる。サイジング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
強化繊維へのサイジング剤の付与は、サイジング剤を強化繊維に接触させることにより行われる。サイジング剤の付与方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、又はグラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、サイジング剤は、サイジング浴内に配置されたサイジング剤に浸漬するように強化繊維をローラーで搬送することにより強化繊維に付与することができる。サイジング剤は、水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解させ、分散液又は溶液として使用することが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加してもよい。
【0096】
(巻き取り工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、除去工程により得られた樹脂が除去された強化繊維を巻き取る工程を含んでいてもよい。強化繊維を巻き取る工程は、除去工程の後に行われ、サイジング剤付与工程を含む場合には、サイジング剤付与工程の後に行われることが好ましい。
【0097】
巻き取りは、例えば、巻き取りローラーを用いて行うことができる。巻き取りローラーには、強化繊維を巻き取るための駆動力を与える駆動装置が取り付けられている。また、一部のガイドローラーにも、ガイドローラーを回動させる駆動装置が取り付けられていてもよい。巻き取り張力、すなわち強化繊維に付与する張力は、より小さい方が望ましい。巻き取り張力を適切な範囲に設定することにより、強化繊維の糸切れや巻きずれを防止することができ、その結果、より長い連続繊維を得ることができる。
【0098】
一実施形態は、加熱処理を施しながら樹脂含浸繊維束を引き出す工程と、引き出されて搬送された樹脂含浸繊維束中の樹脂を除去する工程と、樹脂が除去されて搬送された強化繊維を巻き取る工程とを含み、上流で樹脂含浸繊維束を引き出しながら、下流で強化繊維が巻き取られる。すなわち、一実施形態において、上流で樹脂含浸繊維束を加熱下で引き出す工程を行いながら、下流で強化繊維を巻き取る工程を行い、上流の引き出し工程と下流の巻き取り工程の間に、除去工程及び場合によりサイジング剤付与工程が行われる。また、一実施形態において、上流で樹脂含浸繊維束を加熱下で引き出す工程を行いながら、下流で強化繊維を巻き取る工程を行い、上流の引き出し工程と下流の巻き取り工程の間に、溶解除去工程及び場合によりサイジング剤付与工程が行われる。このような実施形態は、加熱下での引き出し工程の後に、直ぐに溶解除去工程を実施することができ、樹脂含浸繊維束の温度が高い状態で溶解液に接触させることができるため、溶解液で効率的に樹脂を除去することができる。具体的には、タンクから樹脂含浸繊維束の一部(好ましくは端部)を取り出し、この取り出した樹脂含浸繊維束の一部を、巻き取り機に直接的又は間接的に繋ぎ、巻き取り機により樹脂含浸繊維束に張力を与え、連続繊維の状態で樹脂含浸繊維束を引き出す。引き出された樹脂含浸繊維束は、溶解液により樹脂が除去される。そして、樹脂が除去されて得られた強化繊維は巻き取り機で巻き取られる。
【0099】
(第二の保護層の部分的除去工程)
本実施形態において、折り曲げ箇所剥離工程の前に、巻き終わり端部の折り曲げ箇所を露出させるために、樹脂含浸繊維束からなる第一の保護層の上に存在し得る第二の保護層を部分的に除去する工程を含んでもよい。すなわち、本実施形態は、折り曲げ箇所剥離工程の前に、第二の保護層の一部を除去し、樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を露出させる工程を含み得る。
【0100】
図10は、
図9に示すタンク100の表面を構成する第二の保護層30bを部分的に除去し、第一の保護層30aを露出させた状態を示す模式図である。また、
図10の下側図は、
図10の上側図における点線で囲まれた部分の拡大模式図であり、露出された樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を示す模式図である。
【0101】
第二の保護層の一部を除去する方法は、特に制限されるものではなく、第二の保護層の一部を除去して樹脂含浸繊維束の巻き終わり端部を露出させることができる方法であればよい。第二の保護層の一部を除去する方法は、例えば、レーザ処理、溶解処理、加熱処理、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0102】
上述の通り、第二の保護層の一部を除去する方法として、レーザ処理を利用することができる。レーザ処理に用いるレーザとしては、例えば、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)、YAGレーザ、ファイバーレーザ、又は半導体レーザ等が挙げられる。これらの中でも、炭酸ガスレーザを用いることが好ましい。炭酸ガスレーザは、ガスレーザの一種であり、気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を媒質に赤外線領域の連続波や高出力のパルス波を得るレーザである。炭酸ガスレーザにおいて一般的に用いられている10.6μmの波長帯によるレーザ光は、樹脂、特にエポキシ樹脂に吸収され易いため、効率的に第二の保護層の一部を除去することができる。一方で、炭酸ガスレーザは樹脂を効率的に除去できるものの、ガラス繊維又は炭素繊維等の強化繊維にもダメージを与え易い傾向がある。そこで、炭酸ガスレーザは、低出力であることが好ましい。例えば、連続波の炭酸ガスレーザの平均出力は、100W以下であることが好ましく、50W以下であることが好ましく、40W以下であることが好ましく、30W以下であることが好ましい。
【0103】
図17は、低出力(平均出力:30W)の炭酸ガスレーザ(10.6μm、連続波)で第二の保護層としてのエポキシ樹脂を除去した後の状態を示す画像である。低出力の炭酸ガスレーザを用いることにより、第一の保護層中のガラス繊維を傷めずに樹脂層を効率的に除去できることが確認される。なお、第二の保護層をレーザにより除去する際、第一の保護層中の第一のマトリックス樹脂も部分的に除去されてもよい。
【0104】
図18は、低出力(平均出力:30W)の炭酸ガスレーザ(10.6μm、連続波)で第二の保護層としてのエポキシ樹脂を除去した際における、レーザ照射回数と、エッチング深さ(mm)との関係を示すグラフである。1回のレーザ照射は、所定のビーム断面積を有する連続波の炭酸ガスレーザを一定の速度で対象領域全体に照射されるように走査させることにより行われる。1回のレーザ照射において、なるべく同じ箇所を重複して照射しないようにレーザを走査する。エッチング深さについて、点線で示した深さは、第二の保護層の表面から第一の保護層のガラス繊維束表面までの距離を表し、実線で示した深さは、第二の保護層の表面から第一の保護層中の樹脂表面までの距離を表す。
図18に示されるように、第一の保護層中の樹脂表面までのエッチング深さは、照射回数が増えるごとに深くなっている一方で、ガラス繊維束表面までのエッチング深さは、照射回数が15回程度のところから一定となっている。このことは、低出力の炭酸ガスレーザを用いることにより、第一の保護層中のガラス繊維を傷めずに樹脂層を効率的に除去できることを示している。
【0105】
図19は、
図18に示す実験において、照射回数10回目、20回目及び50回目におけるタンク表面を示す画像である。当該画像からも、照射回数が増えるに従って樹脂がエッチングされ、また、照射回数20回目及び50回目においても、ガラス繊維は傷ついていないことが確認される。
【0106】
上述の通り、第二の保護層の一部を除去する方法として、溶解処理を利用することができる。具体的には、第二の保護層の一部は、溶解液を第二の保護層の一部に接触させることにより除去され得る。
【0107】
第二の保護層を構成する第一のマトリックス樹脂の溶解は、当該樹脂を溶解可能な溶解液を用いて行う。溶解液としては、第一のマトリックス樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、上述の、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を含む。これらの液体は、樹脂を溶解させたり、樹脂を膨潤させたりすることが可能であり、効率的に樹脂を除去することができる。溶解液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
第二の保護層の一部に溶解液を接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、溶解液を浸したスポンジ部材等を第二の保護層の対象領域に接するように配置する方法が挙げられる。
【0109】
本実施形態において、第二の保護層の一部を除去する方法として、レーザ処理及び溶解処理の組み合わせを利用してもよい。例えば、まず、レーザ処理により樹脂を粗く除去しておき、次に溶解液により残存する樹脂を除去することができる。
【0110】
上述の通り、第二の保護層の一部を除去する方法として、加熱処理を利用することができる。具体的には、第二の保護層の一部を選択的に加熱することにより除去することができる。加熱処理の温度は、樹脂を熱分解させる観点から、例えば、550℃以上700℃以下であり得る。
【0111】
第二の保護層を部分的に加熱する手段としては、特に制限されるものではないが、例えば、ヒータを用いることができる。
【0112】
以上の工程を有する本実施形態に係る強化繊維のリサイクル方法では、再利用に適した強化繊維を効率的に得ることができる。
【0113】
以上説明した本実施形態の強化繊維のリサイクル方法によれば、再利用に適した良質な強化繊維を効率的に得ることができる。得られた強化繊維は、幅広い用途に適用可能である。
【0114】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0115】
本明細書を通して、「1つの(one)実施形態」、「1つの(a)実施形態」、又は「実施形態」についてのいかなる言及も、その実施形態に関して述べた特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味している。したがって、本明細書を通して述べた、引用した語句又はその変形は、必ずしも同一の実施形態を参照する全てではない。
【0116】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0117】
10 ライナー
20 補強層(中間層)
30 保護層
30a 第一の保護層
30b 第二の保護層
40 バルブ側口金
50 バルブ
60 エンド側口金
100 タンク