(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両用支持構造体
(51)【国際特許分類】
B62D 7/18 20060101AFI20250109BHJP
B60G 15/06 20060101ALN20250109BHJP
B60G 3/06 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
B62D7/18 Z
B60G15/06
B60G3/06
(21)【出願番号】P 2022505774
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047586
(87)【国際公開番号】W WO2021181814
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2020041147
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】淀野 晋
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰明
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第10212873(DE,A1)
【文献】特開2018-002103(JP,A)
【文献】特開2014-091468(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10158102(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010023232(DE,A1)
【文献】西独国特許出願公開第2624704(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012024654(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011016628(DE,A1)
【文献】国際公開第2016/134699(WO,A1)
【文献】特開2015-054554(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01512610(EP,A1)
【文献】特開2007-022250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪支持体に取り付けられる本体部と、該本体部の上方に位置しダンパーが取り付けられるダンパー取付部と、車両の前後方向のいずれか一方に前記本体部から延出されタイロッドが取り付けられるタイロッド取付部と、前記本体部の下方に位置しロアアームが取り付けられるロアアーム取付部とを具備し、前記ダンパー取付部と前記タイロッド取付部とを繋ぐ第1のリブと、前記タイロッド取付部と前記ロアアーム取付部を繋ぐ第2のリブと、前記第1のリブと前記第2のリブを繋ぐ第3のリブが形成された車両用支持構造体において、
前記第1のリブが、前記ダンパー取付部から前記タイロッド取付部に向けて漸次高さが低くなるように傾斜することにより、第1の傾斜部および該第1の傾斜部の底部となる第1の肉薄部を有し、
前記第3のリブが、前記第2のリブから前記第1のリブに向けて漸次高さが低くなるように傾斜することにより、第2の傾斜部および該第2の傾斜部の底部となる第2の肉薄部を有することを特徴とする車両用支持構造体。
【請求項2】
請求項1記載の車両用支持構造体において、
前記本体部の側面側から見て前記第1の肉薄部と前記第2の肉薄部が重なるように、前記第1の傾斜部と前記第2の傾斜部が形成されていることを特徴とする車両用支持構造体。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用支持構造体において、
前記本体部の、前記第1の肉薄部と前記第2の肉薄部の近傍となる側面部に車輪速センサ取付用の貫通孔が形成されていることを特徴とする車両用支持構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に不用意な外力が加わった際に破壊を誘発する構造を有する車両用支持構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2014-91469号公報)に示されるように、車両用支持構造体(ステアリングナックル)においては高い剛性を維持するため、ダンパー取付部とタイロッド取付部を繋ぐ第1のリブ、タイロッド取付部とロアアーム取付部を繋ぐ第2のリブ、およびこれらのリブを補強するための第3のリブを形成することにより強度を確保している。
【0003】
第1のリブ、第2のリブ、および第3のリブは、所要の幅と高さを有しており、これらのリブは正面視三角形状をなすことから、車両用支持構造体20の強度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばステアリングナックルのような車両支持構造体において、車両の前側方および斜め前側方に不用意な外力が加わった場合に、車輪と共にステアリングナックルに前側方向もしくは斜め前方向の力が作用し、車両の後方を向いているタイロッド取付部が車室方向に向いて、タイロッド取付部に連結された部材が車室内に侵入する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施の形態では、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、必要な強度を確保した上に、外部から不用意な力が加わった際には破壊される破壊強度を満足する車両用支持構造体を提供することにある。
【0007】
本実施の形態に係る車両用支持構造体は、車輪支持体に取り付けられる本体部と、該本体部の上方に位置しダンパーが取り付けられるダンパー取付部と、車両の前後方向のいずれか一方に前記本体部から延出されタイロッドが取り付けられるタイロッド取付部と、前記本体部の下方に位置しロアアームが取り付けられるロアアーム取付部とを具備し、前記ダンパー取付部と前記タイロッド取付部とを繋ぐ第1のリブと、前記タイロッド取付部と前記ロアアーム取付部を繋ぐ第2のリブと、前記第1のリブと前記第2のリブを繋ぐ第3のリブが形成された車両用支持構造体において、前記第1のリブが、前記ダンパー取付部から前記タイロッド取付部に向けて漸次高さが低くなるように傾斜することにより、第1の傾斜部および該第1の傾斜部の底部となる第1の肉薄部を有し、前記第3のリブが、前記第2のリブから前記第1のリブに向けて漸次高さが低くなるように傾斜することにより、第2の傾斜部および該第2の傾斜部の底部となる第2の肉薄部を有することを特徴とする。
【0008】
前記本体部の側面側から見て前記第1の肉薄部と前記第2の肉薄部が重なるように、前記第1の傾斜部と前記第2の傾斜部を形成することができる。
前記本体部の、前記第1の肉薄部と前記第2の肉薄部の近傍となる側面部に車輪速センサ取付用の貫通孔を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1によれば、剛性を確保しつつ、車室側に位置するタイロッド取付部が、車両衝突等の際の外部からの衝撃により車両前方側から車室側に押された際に、タイロッドが車室に侵入しない方向にタイロッド取付部が曲がるように破壊されることにより、車室への影響を抑制することができる。
請求項2によれば、破壊の起点をコントロールすることができるため効率的に破壊強度を満足できる。
請求項3によれば、前記第1の肉薄部と前記第2の肉薄部の近傍となる側面部に車輪速センサ取付用の貫通孔を形成することで、より容易に破壊起点のコントロールが行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る車両用支持構造体の正面図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る車両用支持構造体の右側面図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る車両用支持構造体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係る車両用支持構造体20の正面図(車両側から見た図面)であり、
図2は車両用支持構造体20の右側面図であり、
図3は車両用支持構造体20の斜視図である。
本実施の形態に係る車両用支持構造体(ステアリングナックル:以下単にナックルという)20は、アルミニウム製であり、主として重力鋳造法によって鋳造される。
図1~3は、右前輪の車輪用のナックル20を示している。左前輪用のナックルは
図1に示すナックル20と左右対称な形状になる。
【0012】
ナックル20の基本構造、機能そのものは公知であるので、以下簡単に説明する。
図3に示すように、ナックル20は、車輪取付部側が底部となる凹状の本体部22を有する。本体部22の凹部底面の中央には、車輪の車軸が回転自在に嵌入される軸孔21が形成されている。軸孔21の周囲となる本体部22の底部には、車輪支持体たるホイールハブ(図示せず)のボルトが螺合接合される4個のボルト孔22a、22b、22c、22dが形成されている。
【0013】
本体部22から各種部材が連結される複数の支持アームが延設されている。
本体部22の上方に延びる支持アーム24aの先端部には、サスペンションにおけるダンパー(図示せず)が連結されるダンパー取付部24が形成されている。
本体部22から車両の前後方向のいずれか一方(
図1においては車両の後方側)に延びる支持アーム26aの先端部には、ステアリング(図示せず)からの操舵力を伝達するタイロッド(図示せず)が連結されるタイロッド取付部26が形成されている。
【0014】
本体部22の下方には、サスペンションにおけるコントロールアームであるロアアーム(図示せず)が連結されるロアアーム取付部28が形成されている。
本体部22の、タイロッド取付部26が位置する反対側となる側面部には、ブレーキキャリパー(図示せず)を取り付けるための取付孔30a、30bが形成されている。
【0015】
ダンパー取付部24とタイロッド取付部26との間には両者を繋ぐ第1のリブ32が形成されている。第1のリブ32は、本体部22の底面から見て所要の高さを有すると共に、所要の幅を有している。
タイロッド取付部26とロアアーム取付部28との間には両者を繋ぐ第2のリブ34が形成されている。第2のリブ34は、本体部22の底面から見て所要の高さを有すると共に、所要の幅を有している。
第1のリブ32よりも第2のリブ34の方が幅広に形成されている。
【0016】
第1のリブ32と第2のリブ34との間には両者を橋渡し状に繋ぐ第3のリブ36が形成されている。第3のリブ36は、凹状の本体部22の壁部の一部を構成している。
これらリブが所要幅を有するように、第1のリブ32と第2のリブ34と第3のリブ36で囲まれる部位には鋳抜きによる凹部38が形成されている。
【0017】
所要高さおよび所要幅を有する第1のリブ32、第2のリブ34、第3のリブ36により、正面視三角形状をなす構造体が形成され、これにより鉄製のナックルに比べて強度の低いアルミニウム製のナックルにおいても、必要な強度(剛性)が確保される。
なお、40は、本体部22の側面部に設けた車輪速センサ取付用の貫通孔である。
【0018】
本実施の形態では、第1のリブ32に、ダンパー取付部24からタイロッド取付部26に向けて漸次高さが低くなるように傾斜する第1の傾斜部32aが形成され、第1の傾斜部32aの底部となる、高さの低い第1の肉薄部32bが形成されている。
【0019】
また、第3のリブ36に、第2のリブ34から第1のリブ32に向けて漸次高さが低くなるように傾斜する第2の傾斜部36aが形成され、第2の傾斜部36aの底部となる第2の肉薄部36bが形成されている。
したがって、ナックル20の側面側から見て(
図2)、第1の傾斜部32aの傾斜面と第2の傾斜部36aの傾斜面とがほぼV字状に交差する。またナックル20の側面側から見て、第1の肉薄部32bと第2の肉薄部36bがほぼ重なるように、第1の傾斜部32aと第2の傾斜部36aが形成されている。
また、本実施の形態においては、本体部22の側面部に設けた前記車輪速センサ取付用の貫通孔40が第1の肉薄部32bと第2の肉薄部36bの近傍となるようにその位置設定がなされている。
【0020】
このように、第1のリブ32および第3のリブ36は肉薄部を短くすることにより所要の高さのリブが比較的長くなるように確保されている。これにより、第1のリブ32、第2のリブ34および第3のリブ36による三角形の構造体が確保され、通常状態時における必要な強度(剛性)が維持される。
【0021】
一方、第1の肉薄部32bと第2の肉薄部36bは、それぞれ第1のリブ32および第3のリブ36の折れ曲がりの起点となる。前側方向もしくは斜め前方向からの不用意な外力が加わることにより、ナックル20に前側方向もしくは斜め前方向からの外力が作用した場合に、第1の肉薄部32bと第2の肉薄部36bがそれぞれ第1のリブ32と第3のリブ36の折れ曲がりの起点となって、第1のリブ32と第3のリブ36が折れ曲がり、ナックル20が全体としてダンパー取付部24とタイロッド取付部26との間で折れ曲がり、タイロッド取付部26が車室に侵入する可能性を低減して、車室への影響を抑制できる。
第1の傾斜部32aの長さ、したがって第1の肉薄部32bの位置、および第2の傾斜部36a、したがって第2の肉薄部36bの位置を適宜設定することにより、折れ曲がり(破壊)の起点をコントロールすることができる。
【0022】
また、上述のように、本体部22の側面部に設けた前記車輪速センサ取付用の貫通孔40が第1の肉薄部32bと第2の肉薄部36bの近傍となるようにその位置設定をした場合には、第1の肉薄部32bおよび第2の肉薄部36bの強度がさらに低くなっているので、外部から不用意な力が加わった際に、当該部位でナックル20が折れ曲がりやすくなり、車室への影響を更に抑制できる。