(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】複合粒子、正極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20250115BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250115BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250115BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250115BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250115BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022068300
(22)【出願日】2022-04-18
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル メンドザ ヘイディ ホデス
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/142275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、
コーティング膜と、
を含み、
前記コーティング膜は、前記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コーティング膜は、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含み、
下記式(1):
0.1<I
OH/I
CO3≦3.0…(1)
の関係を満たし、
さらに
下記式(2):
0.01≦I
OH
≦0.10…(2)
および
下記式(3):
0.03≦I
CO3
≦0.09…(3)
の少なくとも一方の関係を満たし、
上記式(1)
~(3)中、
I
OHおよびI
CO3は、それぞれ、拡散反射フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおけるピークの高さを示し、
I
OHは、OH基に由来するピークの高さを示し、
I
CO3は、CO
3基に由来するピークの高さを示す、
複合粒子。
【請求項2】
前記ガラスネットワーク形成元素は、リン、ホウ素、珪素
、硫黄、
および、ゲルマニウ
ムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記コーティング膜は、5~50nmの厚さを有する、
請求項1に記載の複合粒子。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の複合粒子と、硫化物固体電解質とを含む、
正極。
【請求項5】
前記硫化物固体電解質は、60%以上の第1伝導相と、残部とからなり、
前記残部は、第2伝導相と第3伝導相とを含み、
前記第1伝導相は、PS
4の結晶相を含み、
前記第2伝導相は、PS
4のアモルファス相を含み、
前記第3伝導相は、P
2S
6の結晶相を含む、
請求項
4に記載の正極。
【請求項6】
請求項
4に記載の正極を含む、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合粒子、正極および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-135090号公報(特許文献1)は、正極活物質と、固体電解質材料との界面に形成された反応抑制部を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫化物系全固体電池(以下「全固体電池」と略記され得る。)が開発されている。全固体電池は、硫化物固体電解質を含む。硫化物固体電解質が正極活物質粒子と直接接触すると、硫化物固体電解質が劣化し得る。硫化物固体電解質(イオン伝導パス)の劣化により、電池抵抗が増大し得る。そこで、正極活物質粒子の表面にコーティング膜を形成することが提案されている。コーティング膜が正極活物質粒子と硫化物固体電解質との直接接触を阻害することにより、硫化物固体電解質の劣化が軽減され得る。しかし、電池抵抗に改善の余地がある。
【0005】
本開示の目的は、電池抵抗の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0007】
1.複合粒子は、正極活物質粒子とコーティング膜とを含む。コーティング膜は、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜は、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含む。
複合粒子は、下記式(1)の関係を満たす。
0<IOH/ICO3≦3.0…(1)
上記式(1)中、IOHおよびICO3は、それぞれ、拡散反射フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおけるピークの高さを示す。IOHは、OH基に由来するピークの高さを示す。ICO3は、CO3基に由来するピークの高さを示す。
【0008】
コーティング膜と硫化物固体電解質との界面における抵抗(以下「界面抵抗」と略記され得る。)は、電池抵抗の一部を構成する。本開示の新知見によると、コーティング膜がOH基を有することにより、コーティング膜と硫化物固体電解質との間に結合が形成され得る。結合の形成により、界面抵抗の低減が期待される。ただし、OH基が過度に多いと、抵抗層が形成され、かえって電池抵抗が増加する可能性がある。
【0009】
コーティング膜は、OH基に加えて、CO3基も有し得る。本開示の新知見によると、OH基とCO3基との量的バランスにより、界面における結合の形成量と抵抗層の形成量とのバランスが変化し得る。OH基とCO3基との量的バランスは、拡散反射フーリエ変換赤外吸収(Diffuse Reflectance Infrared Fourier Transform ,DRIFT)スペクトルのピーク強度比(高さ比)により特定され得る。上記式(1)が満たされる時、抵抗層の形成が阻害され、かつ結合の形成が促進され得る。すなわち、電池抵抗の低減が期待される。
【0010】
2.上記「1.」に記載の複合粒子は、例えば、下記式(2)および(3)の少なくとも一方の関係を満たしていてもよい。
0.01≦IOH≦0.10…(2)
0.03≦ICO3≦0.09…(3)
【0011】
上記式(2)および(3)の少なくとも一方の関係が満たされることにより、電池抵抗の低減が期待される。
【0012】
3.上記「1.」または「2.」に記載の複合粒子において、ガラスネットワーク形成元素は、例えば、リン(P)、ホウ素(B)、珪素(Si)、窒素(N)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、および水素(H)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0013】
4.上記「1.」~「3.」のいずれか1項に記載の複合粒子において、コーティング膜は、例えば5~50nmの厚さを有していてもよい。
【0014】
5.正極は、上記「1.」~「4.」のいずれか1項に記載の複合粒子と、硫化物固体電解質とを含む。
【0015】
6.上記「5.」に記載の正極において、硫化物固体電解質は、例えば、60%以上の第1伝導相と、残部とからなっていてもよい。残部は、第2伝導相と第3伝導相とを含む。第1伝導相は、PS4の結晶相を含む。第2伝導相は、PS4のアモルファス相を含む。第3伝導相は、P2S6の結晶相を含む。
【0016】
第1伝導相の構成比率が60%以上であることにより、電池抵抗の低減が期待される。
【0017】
7.全固体電池は、上記「5.」または「6.」に記載の正極を含む。
【0018】
全固体電池は、低い電池抵抗を有し得る。界面抵抗が小さいためである。
【0019】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、DRIFTスペクトルの一例である。
【
図2】
図2は、本実施形態における複合粒子を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における全固体電池を示す概念図である。
【
図4】
図4は、I
OH/I
CO3と、初期抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<用語およびその定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0022】
「AおよびBの少なくとも一方」は、「AまたはB」ならびに「AおよびB」を含む。「AおよびBの少なくとも一方」は、「Aおよび/またはB」とも記され得る。
【0023】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0024】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0025】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0026】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0027】
幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0028】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0029】
「D50」は、体積基準の粒子径分布において、粒子径が小さい側からの頻度の累積が50%に到達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折法により測定され得る。
【0030】
「ガラスネットワーク形成元素」は、ガラス形成能を有する元素を示す。「ガラス形成能」は、対象元素が酸素(O)と結合することにより、ネットワーク構造を有する酸化物ガラスを形成し得ることを示す。
【0031】
《DRIFTスペクトル測定》
DRIFTスペクトルは、次の手順で測定され得る。試料が準備される。試料は複合粒子からなる。試料はKBrを含まない。KBrはOH基を含むため、測定結果に影響する可能性がある。試料が測定装置にセットされる。測定装置および測定条件は下記のとおりである。ただし、測定装置は一例に過ぎず、同等品により代用されてもよい。
【0032】
測定装置(フーリエ変換赤外分光光度計および拡散反射アタッチメント):FT-IR/DR-500型、日本分光工業社製
積算回数:256
スペクトル分解能:4cm-1
【0033】
図1は、DRIFTスペクトルの一例である。
OH基に由来するピークは、例えば3300~2550cm
-1の範囲に現れ得る。
CO
3基に由来するピークは、例えば1600~1400cm
-1の範囲に現れ得る。
Me-O結合に由来するピークは、例えば1210~980cm
-1の範囲に現れ得る。
図1のDRIFTスペクトルは、Me-O結合に由来するピークの一例として、Ni-O結合に由来するピークを含む。
【0034】
《XPSスペクトル測定》
被覆率は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)スペクトルから求まる。XPSスペクトルは、次の手順で測定され得る。測定装置が準備される。試料(複合粒子)が測定装置にセットされる。224eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施される。測定データが解析ソフトフェアにより処理される。測定データが解析されることにより、C1s、O1sの各ピーク面積から、各元素の元素比率が求まる。ガラスネットワーク形成元素(Z)に由来するピーク面積から、Zの元素比率が求まる。例えば、P2p、B1s等のピーク面積が測定され得る。
下記式(4)により被覆率が求まる。
Θ={Z/(Z+O+C+Me)}×100…(4)
Θは被覆率(%)を示す。Z、O、C、Meは各元素の元素比率を示す。コーティング膜が複数種のZを含む場合、各元素比率の合計が、Zの元素比率とみなされる。例えば、コーティング膜が、PおよびBを含む場合、式「Z=P+B」によりZの元素比率が求まる。Meは、正極活物質粒子の構成元素であって、LiおよびO以外の元素を示す。Meは、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。元素に応じて、例えば、Me2p3/2(またはMe2p)のピーク面積が測定され得る。Meが複数種の元素を含む場合、各元素比率の合計が、Meの元素比率とみなされる。例えば、正極活物質粒子がNi、CoおよびMnを含む場合、式「Me=Ni+Co+Mn」によりMeの元素比率が求まる。
【0035】
以下に測定装置等が示される。ただし、これらは一例に過ぎず、同等品により代用されてもよい。
測定装置:製品名「PHI X-tool」、アルバック・ファイ社製
解析ソフトウエア:製品名「MulTiPak」、アルバック・ファイ社製
【0036】
《NMRスペクトル測定》
硫化物固体電解質における第1伝導相の構成比率は、下記式(5)により求まる。
R1={I1/(I1+I2+I3)}×100…(5)
R1(%)は、第1伝導相の構成比率を示す。
I1、I2、I3は、マジック角試料回転法によるリン31核磁気共鳴法(31P Magic Angle Spinning Nuclear Magnetic Resonance,31P MAS NMR)により測定される。
I1は、31P MAS NMRスペクトルにおいて、78ppmの化学シフトにおけるピークの面積(積分値)と、83.7ppmの化学シフトにおけるピークの面積と、92ppmの化学シフトにおけるピークの面積との合計を示す。78ppmのピークは、PS4 2bに対応すると考えられる。92ppmのピークは、PS4 4dに対応すると考えられる。
I2は、31P MAS NMRスペクトルにおいて、85ppmの化学シフトにおけるピークの面積と、88ppmの化学シフトにおけるピークの面積との合計を示す。
I3は、31P MAS NMRスペクトルにおいて、106ppmの化学シフトにおけるピークの面積を示す。
【0037】
同じ31P MAS NMRスペクトルに基づいて、硫化物固体電解質における第2伝導相(低イオン伝導相)の構成比率(R2)が、下記式(6)により求まる。
R2={I2/(I1+I2+I3)}×100…(6)
さらに、硫化物固体電解質における第3伝導相(低イオン伝導相)の構成比率(R3)が、下記式(7)により求まる。
R3={I2/(I1+I2+I3)}×100…(7)
【0038】
31P MAS NMRスペクトル測定の条件は下記のとおりであり得る。ただし測定装置は一例である。測定装置は同等品で代用されてもよい。
測定装置:「AVANCE III 600」、Bruker社製
観測周波数:242.94MHz
観測幅:250kHz
測定法:シングルパルス法
フリップ角:90°パルス
繰り返し待ち時間:T1の5倍以上
プローブ:4.0mm
MAS回転速度:15kHz
化学シフトの標準物質:85%リン酸水溶液(0ppm)
【0039】
《膜厚測定》
コーティング膜の厚さ(膜厚)は、次の手順で測定され得る。複合粒子が樹脂材料に包埋されることにより、試料が準備される。イオンミリング装置により、試料に断面出し加工が施される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のイオンミリング装置「製品名 Arblade(登録商標)5000」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。試料の断面がSEM(Scanning Electron Microscope)により観察される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のSEM装置「製品名 SU8030」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。10個の複合粒子について、それぞれ、20個の視野で膜厚が測定される。合計で200箇所の厚さの算術平均が、膜厚とみなされる。
【0040】
「中空粒子」は、粒子の断面画像(例えばSEM画像)において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%以上である粒子を示す。「中実粒子」は、粒子の断面画像において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%未満である粒子を示す。
【0041】
<複合粒子>
図2は、本実施形態における複合粒子を示す概念図である。複合粒子100は、例えば「被覆正極活物質」等と称され得る。複合粒子100は、正極活物質粒子110とコーティング膜120とを含む。複合粒子100は、例えば凝集体を形成していてもよい。すなわち1個の複合粒子100が、2個以上の正極活物質粒子110を含んでいてもよい。複合粒子100は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、5~15μmのD50を有していてもよい。
【0042】
《コーティング膜》
コーティング膜120は、複合粒子100のシェルである。コーティング膜120は、正極活物質粒子110の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜120は、正極活物質粒子110と硫化物固体電解質との接触を阻害し得る。
【0043】
コーティング膜120は、例えば、5~50nmの厚さを有していてもよいし、10~30nmの厚さを有していてもよいし、20~30nmの厚さを有していてもよい。
【0044】
被覆率は、例えば、80~100%であってもよいし、90~100%であってもよいし、95~100%であってもよい。
【0045】
コーティング膜120は、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含む。ガラスネットワーク形成元素は、例えば、P、B、Si、N、S、Ge、およびHからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ガラスネットワーク形成元素は、例えば、PおよびBからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0046】
ガラスネットワーク形成元素と、酸素とが、酸化物ガラスを形成していてもよい。すなわちコーティング膜120は、ネットワーク構造を有する酸化物ガラスを含んでいてもよい。酸化物ガラスは、例えば、リン酸骨格およびホウ酸骨格等を含んでいてもよい。すなわち、コーティング膜120は、例えば、リン酸骨格およびホウ酸骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば、複合粒子100のTOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)において、PO2
-、PO3
-等のフラグメントが検出される時、コーティング膜120がリン酸骨格を含むとみなされる。例えば、複合粒子100のTOF-SIMSにおいて、BO2
-、BO3
-等のフラグメントが検出される時、コーティング膜120がホウ酸骨格を含むとみなされる。
【0047】
コーティング膜120は、例えば、リチウム(Li)等をさらに含んでいてもよい。複合粒子100は、例えば、下記式(8)の関係を満たしていてもよい。
CLi/Cz≦2.5…(8)
CLi、Czは、XPSにより測定される元素比率を示す。CLiは、Liの元素比率を示す。Czは、ガラスネットワーク形成元素の元素比率を示す。コーティング膜120が複数種のガラスネットワーク形成元素を含む場合、Czは、各ガラスネットワーク形成元素の元素比率の合計を示す。CLi/Czは、コーティング膜120におけるLiの組成比を反映していると考えられる。CLi/Czが2.5以下である時、電池抵抗の低減が期待される。CLi/Czは、例えば1以下であってもよいし、0.5以下であってもよい。
【0048】
コーティング膜120は、OH基(水酸基)およびCO3基(炭酸基)を含み得る。例えば、コーティング膜120の表面に、OH基およびCO3基が存在していてもよい。OH基およびCO3基は、特定の量的バランスを満たす。すなわち、DRIFTスペクトルにおいて、IOH/ICO3が0より大きく、3.0以下である〔上記式(1)参照〕。これにより、コーティング膜120と硫化物固体電解質との界面において、抵抗層の形成が阻害され、かつ結合の形成が促進されることが期待される。IOH/ICO3は、例えば、1.4以下であってもよいし、1.0以下であってもよい。IOH/ICO3は、例えば、1.0以上であってもよいし、1.4以上であってもよい。
【0049】
IOHは、例えば、0.01~0.10であってもよい〔上記式(2)参照〕。IOHは、例えば、0.07以上であってもよいし、0.08以下であってもよい。
【0050】
ICO3は、例えば、0.03~0.09であってもよい〔上記式(3)参照〕。ICO3は、例えば、0.05以上であってもよいし、0.07以下であってもよい。
【0051】
《正極活物質粒子》
正極活物質粒子110は、複合粒子100のコアである。正極活物質粒子110は、二次粒子(一次粒子の集合体)であってもよい。正極活物質粒子110(二次粒子)は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、5~15μmのD50を有していてもよい。一次粒子は、例えば、0.1~3μmの最大フェレ径を有していてもよい。正極活物質粒子は、例えば、中空粒子であってもよい。正極活物質粒子は、例えば中実粒子であってもよい。
【0052】
正極活物質粒子110は、任意の成分を含み得る。正極活物質粒子110は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.7Co0.1Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)O2は、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2等を含んでいてもよい。
【0053】
DRIFTスペクトルは、正極活物質粒子110の情報も含み得る。DRIFTスペクトルは、例えば、Me-O結合に由来するピークを含んでいてもよい。Meは、正極活物質粒子110の構成元素を示す。Meは、例えば、Ni、Co、Mn、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Meは、例えば、Niであってもよい。複合粒子100は、例えば下記式(9)の関係を満たしていてもよい。下記式(9)の関係が満たされることにより、電池抵抗が低減する可能性がある。
0.02≦IOH/INi-O≦0.29…(9)
INi-Oは、Ni-O結合に由来するピークの高さを示す。IOH/INi-Oは、例えば、0.21以下であってもよいし、0.19以下であってもよい。IOH/INi-Oは、例えば、0.06以上であってもよい。
【0054】
複合粒子100は、例えば下記式(10)の関係を満たしていてもよい。下記式(10)の関係が満たされることにより、電池抵抗が低減する可能性がある。
0.10≦ICO3/INi-O≦0.46…(10)
ICO3/INi-Oは、例えば、0.26以下であってもよいし、0.21以下であってもよい。ICO3/INi-Oは、例えば、0.13以上であってもよい。
【0055】
《複合粒子の形成方法》
複合粒子100は、任意の方法により形成され得る。例えば、スプレードライ法により、複合粒子100が形成されてもよい。
【0056】
コーティング液が準備される。コーティング液は、溶質と溶媒とを含む。溶質は、コーティング膜120の原料を含む。溶質は、例えば、リン酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム化合物等を含んでいてもよい。溶質は、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、水酸化リチウム、および硝酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。溶媒は、溶質が溶解し得る限り、任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、水、有機溶媒等を含んでいてもよい。
【0057】
正極活物質粒子110がコーティング液に分散されることにより、懸濁液が形成され得る。スプレードライヤーにより、懸濁液が噴霧される。正極活物質粒子110の表面に付着したコーティング液が熱風中で乾燥されることにより、コーティング膜120が形成され得る。すなわち複合粒子100が形成され得る。複合粒子100の形成後、複合粒子100に熱処理が施されてもよい。該熱処理は「焼成」とも称され得る。
【0058】
OH基とCO3基との量的バランスは、例えば、下記条件により調整され得る。上記式(1)を満たす複合粒子100が形成されるように、下記条件が組み合わされ得る。
【0059】
例えば、コーティング液の溶媒組成により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。例えば、コーティング液における、水と有機溶媒との混合比により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。
【0060】
例えば、コーティング液における溶質組成により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。例えば、水酸化リチウム(LiOH)の添加量により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。
【0061】
例えば、コーティング液が使用の直前に希釈されてもよい。コーティング液は、固形分率が50%以上の範囲で希釈され得る。固形分率は、溶媒以外の成分の合計質量分率を示す。コーティング液の希釈により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。
【0062】
例えば、スプレードライヤーの乾燥条件により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。例えば、乾燥温度が80~400℃の範囲内で調整されてもよい。
【0063】
例えば、スプレードライ処理後の熱処理(焼成)条件により、OH基とCO3基との量的バランスが調整されてもよい。例えば、焼成温度が80~300℃の範囲内で調整されてもよい。
【0064】
<全固体電池>
図3は、本実施形態における全固体電池を示す概念図である。全固体電池200は、発電要素250を含む。全固体電池200は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が、発電要素250を収納していてもよい。外装体は任意の形態を有し得る。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。
【0065】
全固体電池200は、1個の発電要素250を単独で含んでいてもよいし、複数個の発電要素250を含んでいてもよい。複数個の発電要素250は、例えば、直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0066】
発電要素250は、正極210と固体電解質層230と負極220とを含む。すなわち全固体電池200は、正極210と固体電解質層230と負極220とを含む。
【0067】
《正極》
正極210は層状である。正極210は、例えば、正極活物質層と、正極集電体とを含んでいてもよい。例えば、正極集電体の表面に正極合材が塗着されることにより、正極活物質層が形成されていてもよい。正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0068】
正極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層は、固体電解質層230に密着している。正極活物質層は、複合粒子と、硫化物固体電解質とを含む。複合粒子の詳細は、前述のとおりである。正極活物質層は、導電材、およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0069】
硫化物固体電解質は、正極活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物固体電解質の配合量は、100体積部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、50~100体積部であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、Li、P、およびSを含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、O、Si等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばハロゲン等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばヨウ素(I)、臭素(Br)等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0070】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物固体電解質を示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物固体電解質が生成されてもよい。「Li2S-P2S5」はLi3PS4を含む。Li3PS4は、例えばLi2SとP2S5とが「Li2S/P2S5=75/25(モル比)」で混合されることにより生成され得る。
【0071】
硫化物固体電解質の主相は、高いイオン伝導性を有していてもよい。例えば、硫化物固体電解質は、60%以上の第1伝導相と、残部とからなっていてもよい。残部は、第2伝導相および第3伝導相を含む。残部は、例えば、不可避不純物をさらに含んでいてもよい。下記表1に構成比率の一例が示される。
【0072】
【0073】
上記表1の構成比率は、31P MAS NMRスペクトルと、上記式(5)~(7)とにより求まる。第1測定例は、ガラスセラミックスの測定結果の一例である。第2測定例は、セラミックスの測定結果の一例である。ガラスセラミックスは、PS4の結晶相に加えて、PS4のアモルファス相と、P2S6の結晶相とを含み得る。セラミックスは、実質的にPS4の結晶相からなる。
【0074】
第1伝導相は、PS4の結晶相を含む。第1伝導相は、PS4の結晶相からなっていてもよい。第1伝導相は、高いイオン伝導率を有し得る。第1伝導相の構成比率が高い程、拡散抵抗の低減が期待される。さらに、PS4の結晶相は、OH基と結合しやすい傾向がある。第1伝導相の構成比率は、例えば、61.6%以上であってもよいし、70%以上であってもよいし、80%以上であってもよいし、90%以上であってもよいし、100%であってもよい。
【0075】
第2伝導相は、PS4のアモルファス相を含む。第2伝導相は、PS4のアモルファス相からなっていてもよい。第2伝導相は、低いイオン伝導率を有し得る。第2伝導相の構成比率は、例えば、31.7%以下であってもよいし、20%以下であってもよいし、10%以下であってもよいし、0%であってもよい。
【0076】
第3伝導相は、P2S6の結晶相を含む。第3伝導相は、P2S6の結晶相からなっていてもよい。第3伝導相は、低いイオン伝導率を有し得る。第3伝導相の構成比率は、例えば、6.2%以下であってもよいし、6%以下であってもよいし、3%以下であってもよいし、1%以下であってもよいし、0%であってもよい。
【0077】
硫化物固体電解質は、例えば、第1伝導相と、不可避不純物とからなっていてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、第1伝導相と、残部の第2伝導相および不可避不純物とからなっていてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、第1伝導相と、残部の第3伝導相および不可避不純物とからなっていてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、第1伝導相と、残部の第2伝導相、第3伝導相および不可避不純物とからなっていてもよい。
【0078】
正極活物質層は、例えば導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は、正極活物質層内に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック(CB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0079】
正極活物質層は、例えばバインダをさらに含んでいてもよい。バインダは固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0080】
《負極》
負極220は層状である。負極220は、例えば、負極活物質層と、負極集電体とを含んでいてもよい。例えば、負極集電体の表面に負極合材が塗着されることにより、負極活物質層が形成されていてもよい。負極集電体は、例えば、銅(Cu)箔、ニッケル(Ni)箔等を含んでいてもよい。負極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0081】
負極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層は、固体電解質層230に密着している。負極活物質層は負極合材を含む。負極合材は、負極活物質粒子と硫化物固体電解質とを含む。負極合材は、導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。負極合材と正極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。負極活物質粒子は、任意の成分を含み得る。負極活物質粒子は、例えば、黒鉛、Si、SiOx(0<x<2)、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0082】
《固体電解質層》
固体電解質層230は、セパレータとも称され得る。固体電解質層230は、正極210と負極220との間に介在している。固体電解質層230は、正極210を負極220から分離している。固体電解質層230は、硫化物固体電解質を含む。固体電解質層230はバインダをさらに含んでいてもよい。固体電解質層230と正極210との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。固体電解質層230と負極220との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。
【実施例】
【0083】
<試料の製造>
以下のように、No.1~6に係る複合粒子、正極および全固体電池が製造された。以下、例えば「No.1に係る複合粒子」等が「No.1」と略記され得る。
【0084】
<No.1>
《正極の作製》
166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のオルトリン酸(85%、キシダ化学社製)が溶解されることにより、リン酸溶液が形成された。さらに、Pに対するLiのモル比が3となるように、リン酸溶液に硝酸リチウムが溶解されることにより、コーティング液が準備された。
【0085】
正極活物質粒子として、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(以下「NCM」と略記され得る。)が準備された。NCMは中空粒子であった。50質量部の正極活物質粒子の粉末が、53.7質量部のコーティング液に分散されることにより、懸濁液が準備された。BUCHI社製のスプレードライヤー「製品名 Mini Spray Dryer B-290」が準備された。懸濁液がスプレードライヤーに供給されることにより、複合粒子の粉末が製造された。スプレードライヤーの給気温度は200℃であり、給気風量は0.45m
3/minであった。複合粒子が空気中で熱処理された。熱処理温度は200℃であった。熱処理時間は5時間であった。複合粒子は、正極活物質粒子と、コーティング膜とを含むと考えられる。前述の方法により、複合粒子のDRIFTスペクトルが測定された。
図1に、No.1~6のDRIFTスペクトルが示される。
【0086】
下記材料が準備された。
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=0.8μm)
導電材:VGCF
バインダ:BR
分散媒:ヘプタン
正極集電体:Al箔
【0087】
複合粒子と、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、スラリーが準備された。複合粒子と硫化物固体電解質との混合比は「複合粒子/硫化物固体電解質=7/3(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して3質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して0.7質量部であった。超音波ホモジナイザー(製品名「UH-50」、SMT社製)により、スラリーが十分攪拌された。スラリーが正極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより正極原反が製造された。正極原反から、円盤状の正極が切り出された。正極の面積は1cm2であった。
【0088】
《負極の作製》
下記材料が準備された。
負極活物質粒子:Li4Ti5O12(D50=1μm)
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=0.8μm)
導電材:VGCF
バインダ:BR
分散媒:ヘプタン
負極集電体:Cu箔
【0089】
攪拌装置〔フィルミックス(登録商標)「形式 30-L型」、プライミクス社製〕により、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、スラリーが準備された。攪拌速度(回転数)は2000rpmであり、攪拌時間は30分であった。30分攪拌後、負極活物質粒子がスラリーに追加され、スラリーがさらに攪拌された。攪拌速度は15000rpmであり、攪拌時間は60分であった。
【0090】
負極活物質粒子と硫化物固体電解質との混合比は「負極活物質粒子/硫化物固体電解質=6/4(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の負極活物質粒子に対して1質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質粒子に対して2質量部であった。
【0091】
スラリーが負極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより負極原反が製造された。負極原反から、円盤状の負極が切り出された。負極の面積は1cm2であった。
【0092】
《固体電解質層の作製》
下記材料が準備された。
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=2.5μm)
【0093】
セラミックス製の筒状治具が準備された。中空断面(軸方向と垂直な断面)の面積は、1cm2であった。筒状治具内に硫化物固体電解質の粉末が充填された。粉末が平滑に均された。筒状治具内で硫化物固体電解質にプレス加工が施されることにより、固体電解質層が形成された。プレス加工の圧力は、1tоn/cm2であった。
【0094】
《組立》
筒状治具内において、正極と固体電解質層と負極とが積層されることにより、積層体が形成された。固体電解質層は正極と負極との間に配置された。積層体にプレス加工が施されることにより、発電要素が形成された。プレス加工の圧力は、6tоn/cm2であった。発電要素を挟むように、2本のステンレス棒が筒状治具内に挿入された。発電要素に1tоnの荷重が加わるように、ステンレス棒が拘束された。ステンレス棒は端子機能を有し得る。以上より全固体電池が製造された。
【0095】
<No.2>
166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のオルトリン酸(85%、キシダ化学社製)が溶解されることにより、リン酸溶液が形成された。さらに、Pに対するLiのモル比が0.45となるように、リン酸溶液に水酸化リチウム・1水和物が溶解されることにより、コーティング液が準備された。正極活物質粒子として、NCMが準備された。NCMは中実粒子であった。これらを除いては、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0096】
<No.3>
No.2と同様に、コーティング液が準備された。正極活物質粒子として、NCM(中空粒子)が準備された。No.2においては、コーティング液の使用直前に、コーティング液がイオン交換水で希釈された。これらを除いては、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0097】
<No.4>
スプレードライヤーの給気温度が80℃に変更されることを除いては、No.3と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0098】
<No.5>
166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、リン酸溶液が形成された。さらにPに対するBのモル比が1.0となるように、リン酸溶液にホウ酸(ナカライテスク社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。これらを除いては、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0099】
<No.6>
コーティング液が希釈されないことを除いては、No.4と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0100】
<評価>
全固体電池(以下「セル」とも記される。)の初期容量が確認された。充放電条件は下記のとおりである。
充電:定電流-定電圧方式、レート=1/3C
放電:定電流方式、レート=1/3C
【0101】
初期容量の確認後、セルのSOCが40%に調整された。2Cのレートにより、セルが5秒間放電された。5秒経過時の電圧降下量から初期抵抗が求められた。下記表2の初期抵抗は相対値である。No.2の初期抵抗が「1」と定義される。その他の試料の初期抵抗は、No.2の初期抵抗に対する比として表される。
【0102】
初期抵抗の測定後、セルが60℃の恒温槽内で14日間保存された。保存中、正極電位が4.5V vs.Li/Li+を維持するように、セルにトリクル充電が施された。14日経過後、初期抵抗と同じ条件により耐久後抵抗が測定された。耐久後抵抗が初期抵抗で除されることにより抵抗増加比が求められた。
【0103】
【0104】
<結果>
図4は、I
OH/I
CO3と、初期抵抗との関係を示すグラフである。I
OH/I
CO3が3.0以下である時、初期抵抗が顕著に低減する傾向がみられる。コーティング膜と硫化物固体電解質との界面において、抵抗層の形成が阻害され、かつ結合の形成が促進され得るためと考えられる。
【0105】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0106】
100 複合粒子、110 正極活物質粒子、120 コーティング膜、200 全固体電池、210 正極、220 負極、230 固体電解質層、250 発電要素。