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特許7621022水硬性組成物、硬化体、硬化体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】水硬性組成物、硬化体、硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20250117BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 28/26 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B22/08 Z
C04B28/26
C04B40/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024111471
(22)【出願日】2024-07-11
【審査請求日】2024-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2024062854
(32)【優先日】2024-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592088622
【氏名又は名称】マチダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】本田 隆
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-113744(JP,A)
【文献】特開2009-091207(JP,A)
【文献】特開平07-081986(JP,A)
【文献】特開2023-095192(JP,A)
【文献】特開昭51-067288(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107324727(CN,A)
【文献】特表2011-527277(JP,A)
【文献】特開平08-067545(JP,A)
【文献】国際公開第2012/083384(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/210418(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材と、硬化促進剤とを含み、セメントを含んでおらず、
前記水硬性材は、高炉スラグ粉末を含み、
前記硬化促進剤は、無機過酸化物のみから構成され、前記無機過酸化物以外のアルカリ刺激剤を含まない、水硬性組成物。
【請求項2】
前記無機過酸化物が過酸化カルシウムおよび過酸化マグネシウムから選択された1種類以上を含む、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記水硬性材100質量部に対して、前記硬化促進剤を3質量部以上25質量部以下の割合で含む、請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
水をさらに含み、単位水量が130L/m以下である、請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物の硬化体。
【請求項6】
水硬性材と、硬化促進剤と、水とを混練し、水硬性組成物とする混練工程と、
前記水硬性組成物を型に充填し、成形体とする成形工程と、
前記成形体を前記型から脱型する脱型工程と、を有し、
前記水硬性材が高炉スラグ粉末を含み、
前記硬化促進剤が無機過酸化物のみから構成され、前記無機過酸化物以外のアルカリ刺激剤を含んでおらず、
前記水硬性組成物は、セメントを含んでいない、硬化体の製造方法。
【請求項7】
前記混練工程で得られた前記水硬性組成物の単位水量が130L/m以下である、請求項に記載の硬化体の製造方法。
【請求項8】
前記脱型工程の後に、前記成形体を、40℃以上の環境下で蒸気養生する養生工程を有する、請求項または請求項に記載の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、硬化体、硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、結合材と骨材とを含み、前記結合材が30重量%以上の高炉スラグ微粉末を含有するコンクリート素材を打設してコンクリートブロックを成形する工程と、前記コンクリートブロックの表面に意匠加工を施す工程と、前記コンクリートブロックの意匠加工面を酸化処理する工程と、を有することを特徴とするコンクリートブロックの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-91207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水硬性材の一部に高炉スラグ粉末を用いた水硬性組成物や、その硬化体が知られている。しかしながら、高炉スラグ粉末を用いた水硬性組成物の硬化体においては、養生直後等に青色の色味を生じることが知られている。
【0005】
係る硬化体における青色の色味は、時間の経過とともに退色するものの、退色するまでに数か月程度を要する場合もある。また、硬化体は積み重ねて保管することも多いため、外気と接しにくい面等は、数か月経過しても青色の色味が退色しない場合もあった。このため、水硬性組成物の硬化体として、コンクリートブロック等を製造する場合、青色の色味が十分に退色するまで出荷を待つ必要があり、コンクリートブロックの検品や、コンクリートブロックの出荷に大きな支障となる。そこで、従来は硬化体について青色を退色させるための処理等が行われていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、硬化体とした場合の養生直後の青色の色味を低減できる、高炉スラグ粉末を含む水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の水硬性組成物は、水硬性材と、硬化促進剤とを含み、セメントを含んでおらず、
前記水硬性材は、高炉スラグ粉末を含み、
前記硬化促進剤は、無機過酸化物のみから構成され、前記無機過酸化物以外のアルカリ刺激剤を含まない

【発明の効果】
【0008】
本発明は、硬化体とした場合の養生直後の青色の色味を低減できる、高炉スラグ粉末を含む水硬性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[水硬性組成物]
本実施形態の水硬性組成物は、水硬性材と、硬化促進剤とを含む。そして、水硬性材は、高炉スラグ粉末を含む。また、硬化促進剤は、無機過酸化物を含む。
【0010】
本明細書において、水硬性組成物とは、水と混合した場合に、化学反応で硬化が進行する組成物を意味する。水硬性組成物は、水を含まない、固体の粉末等の混合物であってもよく、後述するように水を含有する場合も含む。なお、水硬性組成物について、水を含まない場合と、水を含む場合とを区別する必要がある場合には、水を含まない場合について水硬性粉体のように表記してもよい。また、水を含む場合について、水含有水硬性組成物のように表記してもよく、特に水の含有量が多く、流動性が高い場合には水硬性スラリーのように表記してもよい。
(1)水硬性組成物が含有する成分について
以下、本実施形態の水硬性組成物が含有する成分について説明する。
(1-1)水硬性材
本実施形態の水硬性組成物は、水硬性材を含有できる。
【0011】
水硬性材は、水を加えることで、もしくはさらにアルカリ刺激等を加えることで硬化する材料を意味する。
【0012】
そして、水硬性材は、高炉スラグ粉末を含むことができる。
【0013】
高炉スラグ粉末は、溶鉱炉で銑鉄を製造する際に得られる副産物である。高炉スラグ粉末は、銑鉄を製造する高炉で鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分や、副原料である石灰石、コークス中の灰分等が反応して得られたスラグの粉砕物になる。
【0014】
高炉スラグ粉末は、アルカリ刺激を与えることで硬化する性質である、潜在水硬性を有している。高炉スラグ粉末は、製鉄の副産物であるため、製造する際の二酸化炭素排出量は製鉄で計上されることになる。このため、高炉スラグ粉末を含む本実施形態の水硬性組成物は二酸化炭素排出量を少なくでき、環境負荷の少ない材料といえる。
【0015】
高炉スラグ粉末としては特に限定されないが、水硬性組成物の硬化体における初期強度を高める観点からブレーン値が高いことが好ましく、例えば3000ブレーン以上であることが好ましく、4000ブレーン以上であることがより好ましい。
【0016】
高炉スラグ粉末のブレーン値の上限は特に限定されないが、ブレーン値が高くなると貯蔵サイロ内に付着する等、取り扱い性が悪くなる傾向があるため、8000ブレーン以下であることが好ましい。
【0017】
このため、高炉スラグ粉末としては、例えば3000ブレーン以上8000ブレーン以下の材料を用いることができ、4000ブレーン以上8000ブレーン以下であってもよい。ブレーン値が上記範囲の場合、高炉スラグ粉末は粒径の小さな微細な粉末となることから高炉スラグ粉末は、高炉スラグ微粉末と表記してもよい。
【0018】
なお、上記高炉スラグ粉末のブレーン値は、JIS A 6206(2013)のコンクリート用高炉スラグ微粉末に関する規格において、高炉スラグ微粉末3000等のように高炉スラグ微粉末の種類(品質)を表記する際に添えられるブレーン値を意味している。
【0019】
上記JIS規格において、高炉スラグ微粉末3000(ブレーン値3000)の場合、具体的なブレーン比表面積は、2750cm/g以上3500cm/g未満になる。
【0020】
高炉スラグ微粉末4000(ブレーン値4000)の場合、具体的なブレーン比表面積は、3500cm/g以上5000cm/g未満になる。
【0021】
高炉スラグ微粉末6000(ブレーン値6000)の場合、具体的なブレーン比表面積は、5000cm/g以上7000cm/g未満になる。
【0022】
高炉スラグ微粉末8000(ブレーン値8000)の場合、具体的なブレーン比表面積は、7000cm/g以上10000cm/g未満になる。
【0023】
従って、3000ブレーン以上8000ブレーン以下の高炉スラグ粉末とは、ブレーン比表面積では、2750cm/g以上10000cm/g未満であることを意味する。また、4000ブレーン以上8000ブレーン以下の高炉スラグ粉末とは、ブレーン比表面積では、3500cm/g以上10000cm/g未満であることを意味する。
【0024】
具体的なブレーン比表面積はJIS R 5201(2015)により評価できる。本明細書におけるブレーン比表面積とは、JIS R 5201(2015)に記載されているように、ブレーン空気透過装置を用いて評価した比表面積を意味する。
【0025】
本実施形態の水硬性組成物の水硬性材は、高炉スラグ粉末のみで構成してもよく、さらに他の成分を含有することもできる。
【0026】
本実施形態の水硬性組成物は、水硬性材として、高炉スラグ粉末以外にフライアッシュや、石灰石粉末を含有することもできる。本実施形態の水硬性組成物が、水硬性材として、高炉スラグ粉末以外の成分を含有する場合、その含有量は、高炉スラグ粉末を100質量部とした場合に0質量部以上30質量部以下であることが好ましい。なお、本実施形態の水硬性組成物が、水硬性材として高炉スラグ粉末以外の成分を複数種類含有する場合、その合計が上記範囲を充足することが好ましい。
【0027】
本実施形態の水硬性組成物における水硬性材の配合割合は特に限定されず、本実施形態の水硬性組成物に求められる強度等に応じて選択できる。
【0028】
本実施形態の水硬性組成物が含有する水硬性材と、後述する硬化促進剤との合計の単位量である、単位水硬性材-硬化促進剤量は、200kg/m以上800kg/m以下であってもよく、250kg/m以上800kg/m以下であってもよい。
【0029】
例えば単位水硬性材-硬化促進剤量は、200kg/m以上600kg/m以下としてもよく、200kg/m以上550kg/m未満としてもよい。単位水硬性材-硬化促進剤量は、200kg/m以上600kg/m以下とすることで、少なくともJIS A 5406(2023)の基本形ブロックにおける圧縮強さ区分A(08)を満たすことができる。
【0030】
特に、本実施形態の水硬性組成物の硬化体について高い強度が求められる場合には、単位水硬性材-硬化促進剤量は、550kg/m以上800kg/m以下であってもよい。
【0031】
なお、単位量は、硬化体を製造する過程で調製する、例えば後述する混練工程で調製する、水を含む水硬性組成物の混練物の単位体積当たりに含まれる、対象とする材料の質量を意味する。このため、単位水硬性材-硬化促進剤量は、水を含む水硬性組成物の混練物の単位体積当たりに含まれる、水硬性材と硬化促進剤との合計の質量を意味する。
(1-2)硬化促進剤
(1-2-1)硬化促進剤について
高炉スラグ粉末は、アルカリ刺激を与えることで硬化する性質である、潜在水硬性を有している。そして、硬化促進剤は、高炉スラグ粉末と共に水と混合した際に、高炉スラグ粉末にアルカリ刺激を与える材料となる。このため、硬化促進剤は、水と共に混合することで高炉スラグ粉末にアルカリ刺激を与えることが可能な材料となる。
(無機過酸化物)
水硬性組成物における高炉スラグ粉末の含有量が増加するほど、また水硬性組成物を成形した後、蒸気を用いた促進養生を行うほど、該水硬性組成物の硬化体は、養生直後における青色の色味が強くなり易い。これは高炉スラグ粉末に含まれる硫黄成分が硫黄塩を形成して、該硫黄塩が発色することで青色の色味が生じているためと考えられる。
【0032】
係る硬化体における青色の色味は、時間の経過とともに退色するものの、退色するまでに数か月程度を要する場合もある。また、硬化体は積み重ねて保管することも多いため、外気と接しにくい面等は、数か月経過しても青色の色味が退色しない場合もあった。このため、水硬性組成物の硬化体として、コンクリートブロック等を製造する場合、青色の色味が十分に退色するまで出荷を待つ必要があり、コンクリートブロックの検品や、コンクリートブロックの出荷に大きな支障となる。
【0033】
そこで、本発明の発明者が検討を行ったところ、硬化促進剤が無機過酸化物を含む場合、硬化体における青色の色味を低減できることを見出した。なお、硬化促進剤は無機過酸化物のみから構成されていてもよく、後述するように無機過酸化物を含みさらに他の成分を含有してもよい。
【0034】
硬化促進剤が無機過酸化物を含むことで、硬化体における養生直後の青色の色味が低減するメカニズムについて、以下のように推認している。
【0035】
無機過酸化物が水と反応すると、水酸化物塩と過酸化水素を生成する。
【0036】
無機過酸化物が過酸化カルシウムの場合、過酸化カルシウムと水とが、以下の式(1)に示す化学式に沿って反応し、水酸化カルシウムと過酸化水素とを生成する。
【0037】
CaO+2HO→Ca(OH)+H ・・(1)
そして、過酸化水素は酸化剤として機能するため、水硬性組成物が無機過酸化物を含有することで、高炉スラグ粉末に含まれる硫黄成分が酸化され、水硬性組成物の硬化体における養生直後の青色の色味を低減できると考えられる。
【0038】
無機過酸化物は、上述のように、水と反応した際、過酸化水素に加えて、水酸化物塩を生成する。そして、水酸化物塩は水に溶解してアルカリ性を示すため、高炉スラグ粉末に対してアルカリ刺激を与え、硬化促進剤としても機能することになる。
【0039】
無機過酸化物としては特に限定されないが、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選択された1種類以上の元素を含む無機過酸化物であることが好ましい。本実施形態の水硬性組成物は、含有する元素の異なる複数種類の無機過酸化物を含有することもできる。
【0040】
本明細書において、アルカリ金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)が挙げられる。
【0041】
本明細書において、アルカリ土類金属元素は、広義な意味でのアルカリ土類金属元素を意味する。すなわち、アルカリ土類金属元素は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられる。
【0042】
無機過酸化物としては、過酸化リチウム(Li)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化カリウム(K)、過酸化マグネシウム(MgO)、過酸化カルシウム(CaO)、過酸化バリウム(BaO)から選択された1種類以上を用いることが好ましい。特に、コストが低く、取り扱い性にも優れることから、無機過酸化物は、過酸化カルシウムおよび過酸化マグネシウムから選択された1種類以上を含むことが好ましく、無機過酸化物は過酸化カルシウムおよび過酸化マグネシウムから選択された1種類以上のみから構成されていても良い。
【0043】
特にコストが低く、入手も容易であることから、無機過酸化物は、過酸化カルシウムを含むことが好ましく、無機過酸化物は過酸化カルシウムのみから構成されていても良い。
【0044】
無機過酸化物は粉体のまま用いてもよく、顆粒状(ペレット状)に成形したものを用いることもできる。無機過酸化物を粉体のまま用いることで、水硬性組成物を調製する際に、無機過酸化物の分散性を高められる。無機過酸化物を顆粒状等の成形体とすることで、計量等の操作を行う際の作業性を高められる。
【0045】
無機過酸化物は、取り扱い性を高めるため、他の嵩増し剤等と混合し、混合物としてもよい。他の嵩増し剤と混合して混合物とした場合の、該混合物に含まれる無機過酸化物の濃度は特に限定されないが、例えば10質量%以上35質量%以下にできる。混合物に含まれる無機過酸化物の濃度を10質量%以上とすることで混合物中の無機過酸化物の濃度を十分に高くでき、水硬性組成物を調製する際に添加する混合物の量を低減できる。また、混合物に含まれる無機過酸化物の濃度を35質量%以下とすることで、混合物における無機過酸化物の反応性を調整でき、安定させることができるため、取り扱い性を高められる。なお、混合物が複数種類の無機過酸化物を含む場合、合計した無機過酸化物の濃度が上記範囲を充足することが好ましい。また、混合物についても上述のように粉体のまま用いてもよく、顆粒状等の成形体として用いてもよい。
(アルカリ刺激剤)
硬化促進剤は、さらにアルカリ刺激剤を含むこともできる。
【0046】
アルカリ刺激剤としては、無機過酸化物以外の、水と共に混合することで水硬性材にアルカリ刺激を与えることが可能な材料を用いることができる。
【0047】
アルカリ刺激剤としては、例えば水酸化物、炭酸塩から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。また、アルカリ刺激剤は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選択された1種類以上の元素を含むことが好ましい。
【0048】
このため、アルカリ刺激剤は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選択された1種類以上の元素を含み、かつ水酸化物、炭酸塩から選択された1種類以上の塩であってもよい。アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素については既に説明したため、説明を省略する。本実施形態の水硬性組成物は、含有する元素や塩の種類が異なる複数種類のアルカリ刺激剤を含有することもできる。
【0049】
アルカリ刺激剤としては、例えば水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)から選択された1種類以上をより好ましく用いることができる。
【0050】
本実施形態の水硬性組成物の硬化体における強度を高める観点から、アルカリ刺激剤は、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、および水酸化カルシウムから選択された1種類以上であることがさらに好ましい。
【0051】
硬化促進剤は、無機過酸化物のみから構成され、アルカリ刺激剤を含まないこともできる。しかしながら、無機過酸化物と比較して、炭酸ナトリウム等のアルカリ刺激剤はコストが低く、入手し易いことから、硬化促進剤は無機過酸化物とアルカリ刺激剤との混合物であることが好ましい。
【0052】
ただし、硬化促進剤に含まれるアルカリ刺激剤の割合が高くなると、硬化促進剤に含まれるアルカリ刺激剤の割合が低い場合と比較して、水硬性組成物の硬化体の青色の色味が相対的に強くなる場合がある。また、硬化促進剤に含まれるアルカリ刺激剤の割合が高くなると、硬化促進剤に含まれるアルカリ刺激剤の割合が低い場合と比較して、成形体や、硬化体の表面に白色の析出物である白華が生じ易くなる。
【0053】
一般的なセメントの硬化体であるコンクリートにおける白華は、セメント成分に含まれるアルカリ性の灰汁が、コンクリート等の表面に析出して形成されている。このため、一般的なコンクリートにおける白華の主成分は、炭酸カルシウム(CaCO)であり、セメントの主成分の酸化カルシウム(CaO)が水や炭酸ガスと反応して析出するものである。
【0054】
本発明の発明者が水硬性組成物について検討を進めていく中で、硬化促進剤として無機過酸化物や、セメント成分を添加せず、アルカリ刺激剤として炭酸ナトリウムを用いた水硬性組成物とした際に、成形体や硬化体の表面に白華が析出する場合があった。すなわち、一般的なコンクリートにおける白華は、炭酸カルシウムを主成分としているところ、カルシウム成分を添加していないにも関わらず白色の析出物が観察される場合があった。
【0055】
そこで、析出した白華について、X線マイクロアナライザーを用いて、含有する元素の定性分析を行ったところ、主な含有元素は酸素、ナトリウム、硫黄、炭素であった。このため、観察された白華は、アルカリ刺激剤として添加した炭酸ナトリウムを主成分として含んでいることが判明した。そして、硬化促進剤としてアルカリ刺激剤以外に、無機過酸化物を添加することで、白華の発生量が低減することが確認できた。
【0056】
以上のように、硬化促進剤は、無機過酸化物を含有することで、成形体や、硬化体における白華の発生を低減することができる。そして、硬化促進剤における無機過酸化物の割合を高めることで、白華の発生を特に低減することができる。このため、硬化体等に要求される白華の発生の低減の程度や、青色の色味の程度等に応じて、硬化促進剤における無機過酸化物とアルカリ刺激剤との混合比率を選択することもできる。例えば硬化促進剤における無機過酸化物とアルカリ刺激剤との合計のうち、無機過酸化物の割合は1質量%以上100質量%以下としてもよく、2質量%以上80質量%以下としてもよく、5質量%以上50質量%以下としてもよく、5質量%以上30質量%以下としてもよい。
【0057】
本実施形態の水硬性組成物は、高炉スラグ粉末を用いた水硬性組成物で従来アルカリ刺激剤等として用いられていた各種セメントを含有しないことが好ましい。なお、セメントは水硬性材としても機能する場合があるが、本実施形態の水硬性組成物は、その機能によらず、各種セメントを含有しないことが好ましい。
【0058】
セメントは、製造過程で主成分となる酸化カルシウム(CaO)を製造するために、石灰石(CaCO)を高温で焼成し、脱炭酸が行われることになる。このため、セメントは製造過程で多くの二酸化炭素の排出があり、本実施形態の水硬性組成物は、各種セメントを含有しないことで、製造過程での二酸化炭素排出量を少なくでき、環境負荷の少ない材料にできるためである。
【0059】
本実施形態の水硬性組成物が各種セメントを含有しないことは、例えばクリンカー粉砕物を含まないと言い換えることもできる。
【0060】
ここで、本実施形態の水硬性組成物が各種セメントを含有しない、すなわちクリンカー粉砕物を含まないとは、意図して添加していないことを意味し、製造過程等で不可避不純物として混入することを排除するものではない。本実施形態の水硬性組成物は、例えば不可避不純物等の混入を考慮して、クリンカー粉砕物の含有量を1質量%以下にできる。
(1-2-2)硬化促進剤の含有量について
本実施形態の水硬性組成物における硬化促進剤の含有量は特に限定されず、水硬性組成物に要求される強度等に応じて選択できる。本実施形態の水硬性組成物は、例えば水硬性材100質量部に対して、硬化促進剤を3質量部以上25質量部以下の割合で含むことが好ましく、3質量部以上20質量部以下の割合で含むことがより好ましい。なお、水硬性材は、高炉スラグ粉末のみから構成されていてもよく、高炉スラグ粉末に加えて、フライアッシュや、石灰石を含んでいてもよい。
【0061】
本実施形態の水硬性組成物が、水硬性材100質量部に対して、硬化促進剤を3質量部以上の割合で含有することで、硬化体の強度を高められる。また、水硬性材に対する硬化促進剤の割合を高めることで、硬化体の強度も高くなるものの、硬化体の強度の上昇の程度も、水硬性材100質量部に対する硬化促進剤の割合が25質量部程度で飽和する。このため、本実施形態の水硬性組成物は、水硬性材100質量部に対して、硬化促進剤を25質量部以下の割合で含有することが好ましい。
(1-3)その他の添加成分
本実施形態の水硬性組成物は、さらにその他の添加成分を含有することもできる。
(1-3-1)水
本実施形態の水硬性組成物は、さらに水を含むことができる。
【0062】
本実施形態の水硬性組成物が含有する水の量は特に限定されず、水硬性組成物に要求される流動性や、硬化体に要求される強度等に応じて選択できる。
【0063】
本実施形態の水硬性組成物は、例えば型を用いて成形し、コンクリートブロック等にして使用することができる。そして、硬練りの水硬性組成物とし、ゼロスランプとすることで、型に充填後、即時脱型することが可能になる。すなわち、ゼロスランプの水硬性組成物とすることで、即時脱型しても成形した形状を維持することが可能になり、型に充填後、放置している時間を短くできるため、生産性を高められる。
【0064】
このため、本実施形態の水硬性組成物は、単位水量を130L/m以下にしてもよい。本実施形態の水硬性組成物は、単位水量を130L/m以下にすることで、ゼロスランプとすることができ、コンクリートブロック等の硬化体の生産性を高められる。
【0065】
なお、本実施形態の水硬性組成物の単位水量の下限値は特に限定されないが、例えば60L/m以上にできる。
【0066】
また、例えば流し込み成型等するために、本実施形態の水硬性組成物の単位水量を、130L/mより多くすることもできる。この場合、本実施形態の水硬性組成物の単位水量の上限値は特に限定されないが、例えば500L/m以下としてもよい。このため、本実施形態の水硬性組成物は、単位水量を130L/mより多く、500L/m以下としてもよい。
【0067】
単位水量は、硬化体を製造する過程で調製する、例えば後述する混練工程で調製する、水を含む水硬性組成物の混練物の単位体積当たりの水の量を意味する。なお、水の密度は1g/cmになるので、L/mは、kg/mとしてもよい。
(1-3-2)骨材
本実施形態の水硬性組成物は、骨材を含有することもできる。
【0068】
骨材としては、砂、砂利、砕砂、砕石、各種スラグなどから選択された1種類以上が挙げられる。砂は、川砂などの天然骨材であってもよい。砕石は、岩石や玉石の破砕物であってもよい。
【0069】
(1-3-3)その他添加剤
本実施形態の水硬性組成物は、上記の材料以外にも、AE剤や減水剤などの混和剤や、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、酸化チタンなどの着色剤を含有することもできる。
[硬化体]
本実施形態の硬化体は、本開示の一態様に係る水硬性組成物の硬化体とすることができる。
【0070】
既述の水硬性組成物によれば、水硬性材と硬化促進剤とを含み、水硬性材は高炉スラグ粉末を含み、硬化促進剤は無機過酸化物を含む。このため、本実施形態の硬化体によれば、養生直後においても青色の色味を低減し、白華の発生も抑制できる。
【0071】
さらに、本実施形態の硬化体によれば、製造時の二酸化炭素排出量を低減し、環境負荷の低い硬化体とすることができる。
【0072】
本実施形態の硬化体は、本開示の一態様に係る水硬性組成物を所定の形状に成形した成形体の硬化物であってもよい。本実施形態の硬化体としては、コンクリートブロックが挙げられ、例えば空洞ブロックや型枠状ブロック等の建築用コンクリートブロック、インターロッキングブロック等の舗装用コンクリートブロックから選択された1種類以上であってもよい。なお、慣用の商品名を用いているため、コンクリートブロックと表記しているが、本開示の一態様に係る水硬性組成物はセメントを含有しないことが好ましいため、その硬化物であるコンクリートブロックについてもセメント成分を含有しないことが好ましい。
【0073】
本実施形態の硬化体は、養生直後、例えば養生終了後7日以内、もしくは促進養生工程等の養生工程終了後7日以内における表面での青みを低減できる。例えば、本実施形態の硬化体に用いる水硬性組成物に含まれる硬化促進剤が無機過酸化物を含まず、アルカリ刺激剤のみを含有する場合と比較して、L色空間(JIS Z 8781-4(2013))におけるbを大きくできる。なお、色味の比較は、例えば無機過酸化物を同じ質量のアルカリ刺激剤で置換した水硬性組成物を用いた硬化体との間で実施できる。また、色味の比較は、硬化促進剤として無機過酸化物を含有せず、アルカリ刺激剤のみを含有し、その他の成分の単位量が同じ水硬性組成物を用いた硬化体との間で実施してもよい。
【0074】
本実施形態の硬化体は、例えばL色空間におけるbを0より大きくすることもできる。
[硬化体の製造方法]
本実施形態の硬化体の製造方法は、以下の混練工程、成形工程、脱型工程を有することができる。なお、本実施形態の硬化体の製造方法により、本開示の一態様に係る硬化体を製造でき、その過程で水硬性組成物も製造できるため、既に説明した事項は一部説明を省略する。以下、各工程について説明する。
(1)混練工程
混練工程では、水硬性材と、硬化促進剤と、水とを混練し、水硬性組成物とすることができる。水硬性材は高炉スラグ粉末を含むことができる。また、硬化促進剤は無機過酸化物を含むことができる。
【0075】
混練工程では、水硬性組成物が含むことができる成分を混練することができる。各成分については既に説明したため、説明を省略する。なお、混練工程では水も添加していることから、水を含む水硬性組成物である水含有水硬性組成物が得られる。
【0076】
混練工程で得られた水硬性組成物の単位水量は特に限定されないが、例えば130L/m以下であってもよい。単位水量を130L/m以下にすることで、ゼロスランプとすることができ、成形工程で即時脱型を行うこともできるため、コンクリートブロック等の生産性を高められる。
【0077】
また、流し込み成型等をする場合、単位水量を130L/mより多く、500L/m以下としてもよい。
(2)成形工程
成形工程では、水硬性組成物を型に充填し、成形体とすることができる。
【0078】
成形工程で用いる型は特に限定されず、製造するコンクリートブロック等に合わせた形状を有することができる。
(3)脱型工程
脱型工程では、成形体を型から脱型できる。
【0079】
脱型するタイミングは特に限定されないが、脱型した成形体が所望の形状を維持できるように、成形体を構成する水硬性組成物の流動性等に応じたタイミングで脱型できる。
【0080】
例えば、混練工程で得られた水硬性組成物の単位水量が十分に少ない場合には、成形工程の直後に脱型工程を実施できる。すなわち即時脱型を実施することもできる。即時脱型できるようにすることで、硬化体の生産性を高められる。
(4)その他の工程
本実施形態の硬化体の製造方法は、さらに任意の工程を有することもできる。
(4-1)養生工程
本実施形態の硬化体の製造方法は、脱型工程の後、成形体を養生する養生工程を有することもできる。
【0081】
養生工程の条件は特に限定されないが、例えば蒸気養生設備を用いた蒸気養生を行うことができる。蒸気養生は、例えば40℃以上の環境下で行うことができる。
【0082】
養生工程の、蒸気養生の際の温度の上限は特に限定されないが、例えば65℃以下とすることができる。蒸気養生を行う時間は特に限定されないが、例えば上記温度域になるように加熱している時間を2時間以上12時間以下としてもよい。
【0083】
養生工程では、オートクレーブを用いた養生を行うこともでき、この場合、180℃以上190℃以下の温度で、10気圧以上11気圧以下の圧力条件で、3時間以上5時間以下程度保持して養生できる。なお、オートクレーブを用いた養生を行う場合、上記温度、圧力に到達後、温度、圧力を保持した等温、等圧の条件で養生を行うことが好ましい。
【0084】
成形体を促進養生すれば、水硬性材における高炉スラグ粉末の含有量が多くても、硬化体の初期強度を増進することができる。特にオートクレーブを用いた養生を行うことで、白華の発生も低減できる。
【実施例
【0085】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
(1)圧縮強さ
JIS A 5406(2023)の附属書Bで規定する圧縮強さ試験方法により評価した。
【0086】
測定は、養生工程後に実施した。
(2)色評価
養生工程後7日間、硬化体の少なくとも1つの面を水に浸漬させた後において、硬化体の表面における色を、色度計(ミノルタ社製、型式:CR-310)を用いて測定した。
[実験例1]
[実施例1-1]
以下の手順により、水硬性組成物、硬化体の製造を行った。
【0087】
表1に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。なお、用いた高炉スラグ粉末としては、JIS A 6206(2013)で規定される高炉スラグ微粉末4000を用いており、具体的なブレーン比表面積の評価値は4720cm/gであった。以下の他の実施例、比較例でも配合表中、「高炉スラグ粉末 4000ブレーン」と表記してある高炉スラグ粉末は、同じ高炉スラグ粉末を用いている。
【0088】
次いで、得られた水硬性組成物を型に充填し、成形体とした(成形工程)。
【0089】
成形体を型から脱型した(脱型工程)。なお、脱型工程は、成形工程の直後に時間をあけずに実施する即時脱型としている。
【0090】
脱型工程後、成形体を65℃の環境下、蒸気養生した。蒸気養生の後、さらに7日間自然養生も行った(養生工程)。すなわち、蒸気養生後、7日間経過した後の硬化体について以下の評価を行っている。
【0091】
得られた硬化体について、既述の評価を行った。評価結果を表2に示す。
[比較例1-1]
表1に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。比較例1-1では、硬化促進剤として、無機過酸化物である過酸化カルシウムを添加せず、過酸化カルシウムを炭酸ナトリウムであるソーダ灰に置き換えている。
【0092】
以上の点以外は実施例1-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
[実施例1-2]
表1に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。実施例1-2では、白華の発生の有無を確認できるように、黒顔料をさらに添加している。
【0093】
以上の点以外は実施例1-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
[比較例1-2]
表1に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。なお、比較例1-2では、硬化促進剤として、無機過酸化物である過酸化カルシウムを添加せず、過酸化カルシウムをソーダ灰に置き換えている。
【0094】
以上の点以外は実施例1-2と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
[実施例1-3~実施例1-5]
表1に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。
【0095】
実施例1-3では、硬化促進剤として、アルカリ刺激剤を用いず、無機過酸化物である過酸化カルシウムのみを添加した。硬化促進剤の単位量が、実施例1-1の場合と同じ値となるようにしている。
【0096】
実施例1-4についても、硬化促進剤として、アルカリ刺激剤を用いず、無機過酸化物である過酸化カルシウムのみを添加した。この際、無機過酸化物の単位量が表1に示した値となるように、実施例1-3の場合よりも多く添加している。
【0097】
実施例1-5についても、硬化促進剤として、アルカリ刺激剤を用いず、無機過酸化物である過酸化カルシウムのみを添加した。この際、過酸化カルシウムとしては、嵩増し剤と混合し、過酸化カルシウムの濃度を35質量%として、取り扱い性を高めたものを用いた。過酸化カルシウムは35質量%以下とすることで、消防法上の危険物の適用を受けなくなる。そして、嵩増し剤と混合した無機過酸化物の単位量が、表1に示した値となるように添加している。
【0098】
このため、表1中、無機過酸化物(過酸化カルシウム)の単位量を110kg/mと表記しているが、嵩増し剤を除いた過酸化カルシウム分の単位量としては38.5kg/mになる。
【0099】
以上の点以外は実施例1-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
表2に示した結果によれば、実施例1-1、実施例1-2のいずれにおいても圧縮強さは16N/mmを超えており、高い圧縮強さを備えていることを確認できた。
【0102】
実施例1-3については、圧縮強さが16N/mm以下になったものの、無機過酸化物の添加量を増やした実施例1-4、実施例1-5では圧縮強さが16N/mmを超えることを確認できた。
【0103】
表2に示した結果によれば、硬化促進剤として過酸化カルシウムを添加した実施例1-1、実施例1-2では、それぞれ対応する比較例1-1、比較例1-2よりもbの値が大きくなっており、青色の色味が低減されていることを確認できた。さらに、bの値は0よりも大きくなっていることを確認できた。
【0104】
実施例1-3についても、対応する比較例1-1よりもbの値が大きくなっており、青色の色味が低減されていることを確認できた。さらに、bの値は0よりも大きくなっていることを確認できた。
【0105】
無機過酸化物の添加量を実施例1-3の場合よりもさらに増やした実施例1-4、実施例1-5についても、比較例1-1よりもbの値が大きくなっており、青色の色味が低減されていることを確認できた。さらに、bの値は0よりも大きくなっていることを確認できた。
【0106】
また、黒色の顔料を添加した実施例1-2と、比較例1-2とを比較すると、比較例1-2の方がL(明度)が高くなっており、実施例1-2では白華の発生を低減できていることを確認できた。なお、実施例1-1、実施例1-3、実施例1-4、実施例1-5と、比較例1とは黒色に色を付けていないため、L(明度)からは白華の発生は判断できない。
[実験例2]
実験例2では、無機過酸化物として過酸化マグネシウムを用いた場合や、アルカリ刺激剤として水酸化カルシウムを用いた場合について検討を行った。
[実施例2-1]
以下の手順により、水硬性組成物、硬化体の製造を行った。
【0107】
表3に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。なお、用いた高炉スラグ粉末としては、JIS A 6206(2013)で規定される高炉スラグ微粉末4000を用いている。
【0108】
また、本実施例では、無機過酸化物として、過酸化マグネシウムを用いている。本実施例ではアルカリ刺激剤の添加を行っていない。
【0109】
次いで、得られた水硬性組成物を型に充填し、成形体とした(成形工程)。
【0110】
成形体を型から脱型した(脱型工程)。なお、脱型工程は、成形工程の直後に時間をあけずに実施する即時脱型としている。
【0111】
脱型工程後、成形体を65℃の環境下、蒸気養生した。蒸気養生の後、さらに7日間自然養生も行った(養生工程)。
【0112】
得られた硬化体について、既述の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例2-2]
表3に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。実施例2-2では、無機過酸化物である過酸化マグネシウムについて表3に示した単位量とし、アルカリ刺激剤としてソーダ灰を添加している。
【0113】
以上の点以外は実施例2-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例2-3]
表3に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。実施例2-3では、無機過酸化物である過酸化カルシウムを用い、表3に示した単位量としている。この際、過酸化カルシウムとしては、嵩増し剤と混合し、過酸化カルシウムの濃度を32質量%として、取り扱い性を高めたものを用いた。そして、嵩増し剤と混合した無機過酸化物の単位量が、表3に示した値となるように添加している。
【0114】
このため、表3中、無機過酸化物である過酸化カルシウムの単位量を20kg/mと表記しているが、嵩増し剤を除いた過酸化カルシウム分の単位量としては6.4kg/mになる。
【0115】
アルカリ刺激剤としてソーダ灰にかえて、水酸化カルシウムを添加している。
【0116】
以上の点以外は実施例2-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
表4によれば、実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3のいずれにおいても、圧縮強さは、少なくともJIS A 5406(2023)建築用コンクリートブロックの圧縮強さ区分08の低い区分ではあるものの、満たしていることを確認できた。すなわち、無機過酸化物や、アルカリ刺激剤の種類によらず、本開示の一態様に係る水硬性組成物は、硬化する特性を備え、十分な圧縮強さを有することを確認できた。特に、アルカリ刺激剤を添加している実施例2-2、実施例2-3では、圧縮強さは16N/mmを超えており、高い圧縮強さを備えていることを確認できた。
【0119】
表4に示した結果によれば、硬化促進剤として過酸化マグネシウムを添加した実施例2-1、実施例2-2、アルカリ刺激剤として水酸化カルシウムを用いた実施例2-3のいずれにおいても、bの値が0よりも大きくなっていることを確認できた。すなわち、無機過酸化物や、アルカリ刺激剤の種類によらず、実施例2-1~実施例2-3のいずれの硬化体においても、青色の色味が低減できることを確認できた。
[実験例3]
実験例3では、高炉スラグ粉末のブレーン比表面積による影響の検討を行った。
[実施例3-1]
以下の手順により、水硬性組成物、硬化体の製造を行った。
【0120】
表5に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。なお、用いた高炉スラグ粉末としては、JIS A 6206(2013)で規定される高炉スラグ微粉末6000を用いており、具体的なブレーン比表面積の評価値は5840cm/gであった。
【0121】
実施例3-1では、無機過酸化物である過酸化カルシウムを用い、表5に示した単位量としている。この際、過酸化カルシウムとしては、嵩増し剤と混合し、過酸化カルシウムの濃度を32質量%として、取り扱い性を高めたものを用いた。そして、嵩増し剤と混合した無機過酸化物の単位量が、表5に示した値となるように添加している。
【0122】
このため、表5中、無機過酸化物である過酸化カルシウムの単位量を110kg/mと表記しているが、嵩増し剤を除いた過酸化カルシウム分の単位量としては35.2kg/mになる。
【0123】
次いで、得られた水硬性組成物を型に充填し、成形体とした(成形工程)。
【0124】
成形体を型から脱型した(脱型工程)。なお、脱型工程は、成形工程の直後に時間をあけずに実施する即時脱型としている。
【0125】
脱型工程後、成形体を65℃の環境下、蒸気養生した。蒸気養生の後、さらに7日間自然養生も行った(養生工程)。
【0126】
得られた硬化体について、既述の評価を行った。評価結果を表6に示す。
[実施例3-2]
高炉スラグ粉末として、JIS A 6206(2013)で規定される高炉スラグ微粉末8000を用いており、具体的なブレーン比表面積の評価値は8150cm/gであった。
【0127】
以上の点以外は実施例3-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
表6に示した結果によれば、実施例3-1、実施例3-2のいずれにおいても圧縮強さは16N/mmを超えており、高炉スラグ粉末のブレーン値によらず、高い圧縮強さを備えていることを確認できた。
【0130】
表6に示した結果によれば、高炉スラグ粉末のブレーン比表面積によらず、bの値が0よりも大きくなっていることを確認できた。すなわち、実施例3-1、実施例3-2のいずれの硬化体においても、青色の色味が低減されていることを確認できた。
[実験例4]
実験例4では、流し込み成型による硬化体の製造の検討を行った。
[実施例4-1]
以下の手順により、水硬性組成物、硬化体の製造を行った。
【0131】
表7に示した割合となるように秤量した原料を混練し、水硬性組成物を調製した(混練工程)。なお、用いた高炉スラグ粉末としては、JIS A 6206(2013)で規定される高炉スラグ微粉末4000を用いている。
【0132】
実施例4-1では、無機過酸化物である過酸化カルシウムを用い、表7に示した単位量としている。この際、過酸化カルシウムとしては、嵩増し剤と混合し、過酸化カルシウムの濃度を32質量%として、取り扱い性を高めたものを用いた。そして、嵩増し剤と混合した無機過酸化物の単位量が、表7に示した値となるように添加している。
【0133】
このため、表7中、無機過酸化物である過酸化カルシウムの単位量を34kg/mと表記しているが、嵩増し剤を除いた過酸化カルシウム分の単位量としては10.88kg/mになる。
【0134】
単位水量が過度に多くならないように、表7に示すように、コンクリート用化学混和剤である減水剤を用いている。
【0135】
次いで、得られた水硬性組成物を型に流し込み、成形体とした(成形工程)。
【0136】
成形体を型から脱型した(脱型工程)。なお、脱型工程は、成形工程の後、成形体が十分に硬化したことを確認してから実施している。
【0137】
脱型工程後、水中養生を行った(養生工程)。
【0138】
得られた硬化体について、既述の評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0139】
なお、3日間(3d)、7日間(7d)、14日間(14d)、28日間(28d)と、養生の日数(材齢日数)が異なる4種類の試験体(硬化体)を作製し、圧縮強さの試験を行っている。色度計による色評価は、養生の日数が3日間の試験体について評価を行った。
[実施例4-2]
無機過酸化物である過酸化カルシウムの単位量を変更し、アルカリ刺激剤であるソーダ灰の添加を行わなかった。また、過酸化カルシウム、ソーダ灰以外の成分について、表7に示した単位量となるように秤量、混合した。
【0140】
以上の点以外は実施例4-1と同じ条件で成形体、硬化体を製造し、評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0141】
【表7】
【0142】
【表8】
表8に示した結果によれば、実施例4-1、実施例4-2のいずれにおいても圧縮強さは材齢日数によらず、16N/mmを超えおり、高い圧縮強さを備えていることを確認できた。特に、材齢日数の長い試験体ほど、圧縮強さが高くなっており、他の実験例と比較して高い圧縮強さを備えていることを確認できた。
【0143】
表8に示した結果によれば、実施例4-1、実施例4-2では、最も青色の色味が強く出やすい養生の日数が3日間の試験体にも関わらず、bの値が0よりも大きくなっており、青色の色味が低減されていることを確認できた。
【要約】
【課題】硬化体とした場合の養生直後の青色の色味を低減できる、高炉スラグ粉末を含む水硬性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】水硬性材と、硬化促進剤とを含み、
前記水硬性材は、高炉スラグ粉末を含み、
前記硬化促進剤は、無機過酸化物を含む、水硬性組成物。
【選択図】なし