(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム
(51)【国際特許分類】
B60K 28/06 20060101AFI20250121BHJP
A61B 5/1172 20160101ALI20250121BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
B60K28/06 B
A61B5/1172
A61B5/145
(21)【出願番号】P 2022176038
(22)【出願日】2022-11-02
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】522296653
【氏名又は名称】コンチネンタル・オートモーティヴ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Continental-Plaza 1, 30175 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】トン・ユエンルン
(72)【発明者】
【氏名】ホルマー-ゲールト・グルントマン
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-294045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0317052(US,A1)
【文献】特表2016-538193(JP,A)
【文献】特開2018-15054(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225598(WO,A1)
【文献】特開2019-200611(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0295005(US,A1)
【文献】特許第4706733(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/181835(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0204290(US,A1)
【文献】岩崎渉,野上大史,伊藤宏記,木村義則,尾上篤,日暮栄治,澤田廉士,“MEMS血流量センサを用いた飲酒センシング”,2010年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,日本,公益社団法人精密工学会,2010年,pp.861-862,DOI: 10.11522/pscjspe.2010S.0.861.0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 28/06,
B60R 25/00,
A61B 5/02, 5/117, 5/145,
F02N 15/00,
F02D 29/02,
G06V 40/00,
G06T 1/00, 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指紋検出範囲を備え、指紋検出範囲でユーザの指の指紋データを検出して取得する、静電容量式の指紋センサと、
血流検出範囲を備え、血流検出範囲で前記指から、
血中酸素飽和度以外の乗り物の運転適否の判定基準に使う所定の成分の血中濃度と、血中酸素飽和度とを検出してデータを取得する、血流センサと、
乗り物の運転者として予め登録された人物の登録指紋データと、
前記所定の成分の血中濃度のデータと、
前記血中酸素飽和度のデータとを格納した記憶手段と、
前記指紋センサが取得した指紋データを、前記登録指紋データと照合して認証結果を作成することと、血流センサが取得したデータを、
前記記憶手段に格納されている前記所定の成分の血中濃度のデータと比較して前記ユーザに対して運転適否を判定することとを実行する処理部と、
前記指紋検出範囲と前記血流検出範囲とが設けられた、ユーザの指の腹に対向する面とを備える、乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムにおいて、
少なくとも前記指紋センサと前記血流センサとが、乗り物の動作のためにユーザが指で触れる部分に取り付けられていて、前記面に前記指が接するか又は前記面を前記指が押すと前記システムが作動開始となることを特徴とする、乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項2】
前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のイグニションスイッチである、請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項3】
前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のスマートキーである、請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項4】
前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のシフトスイッチ、ステアリングホイール又は運転席前面の計器盤に配置されている、請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項5】
取得した指紋データによって、ユーザが、予め登録された運転者であると認証されなかった場合、前記処理部は、前記乗り物を作動させないための信号を前記乗り物の備える制御手段に送信する、請求項1から4のいずれか一項に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項6】
前記処理部は、血流センサが作成したデータを前記
所定の成分の血中濃度のデータと比較した結果が前記乗り物の運転に適さないと判定すると、前記乗り物を作動させないための信号を前記乗り物の備える制御手段に送信する、請求項1から4のいずれか一項に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項7】
所定の前記成分の血中濃度が、血中アルコール濃度である、請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項8】
前記血流センサは、MEMS技術を用いた集積化装置である、請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
【請求項9】
請求項1に記載の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムを備えた、乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物を運転しようとする者の指紋を認証すると共に、血中濃度を、その者の指の血流からある物質の血中濃度を検知するシステムに関する。特に、静電容量式で指紋認証し、乗り物の運転を避けるべき条件に用いられる物質の血中濃度を検知するシステムに関する。乗り物は、各種自動車、各種車両、船舶、航空機を含む。
【背景技術】
【0002】
日本において2022年4月1日より施行された改正道路交通法施行規則では、安全運転管理者に対して、自動車の運転者の酒気帯びの有無(いわゆる「アルコールチェック」)を目視で確認することが義務付けられた。今回の改正により、自家用の自動車の運転者についても、新たにアルコールチェックが義務付けられたことになった。2022年10月1日を施行日として、目視に加えてアルコール検知器による酒気帯び確認も義務付けられる。国家公安委員会が定めたアルコール検知器の基準は「呼気中のアルコールを検知し、その有無又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有するもの」としている。アルコール検知器の性能は「酒気帯びの有無を音、色、数値等により確認できるものであれば足り、特段の性能上の要件は問わないものとする」としてされているが、正常に作動し故障がない状態で保持しておくことが求められている。
【0003】
そのように定められた、呼気中アルコールに対するアルコール検知器とは別に、自動車の運転者自身が自分の状態を確認できる、より小型の検知手段もニーズがあるだろう。この背景には、血中濃度を検知するセンサ類として、スマートウォッチや血中酸素飽和度測定器が近年幅広く身近になってきていることがある。
【0004】
血中濃度とは別に、自動車と運転者との関係では、ある人物がその自動車の持ち主であるか否か、その自動車の運転者として予め登録した人物なのか否かを確認したい場合があり、自動車に対する運転者の認証手段のニーズも存在する。物に対するユーザの認証手段としては、静電容量式、光学式、超音波式のセンサが実用化していて、静電容量式指紋センサは、スマートフォンに採用されていることでも知られている。
【0005】
特許文献1には、運転者の飲酒状態の検出及び運転者の個人認証に基づいてエンジン始動の禁止許可を制御するシステムが記載されている。このシステムは、個人認証のために検出部位を撮影するカメラと、運転者の飲酒状態の検出のため検出部位の脈波信号を検出する受光素子とが、1つの筐体の中に収められていて、筐体に検出部位が近づけられたときに、カメラによる個人認証及び受光素子による飲酒状態の検出が実行される。
【0006】
特許文献2には、指に超音波を送達するセンサと、指の指紋の画像データ及びセンサによって指に送達された超音波によるエネルギーへの応答の表示に基づいて、指ひいてはその指の人物を認証するプロセッサを備える、対話型生体タッチスキャナなど生体感知装置が記載されている。この文献には、さらに、指紋スキャナとして静電容量型と、生体感知装置における静脈又は動脈のスキャンから血流、心拍数、血中酸素レベルの測定、脈拍パターンの推測も記載されている。
【0007】
特許文献3には、携帯型ボード上に構成された生体認証親指読み取り装置、全地球測位システム(GPS)及びアルコールセンサを組み合わせた携帯装置用マザーボードが記載されている。任意の活動や作業を行っている間に、人の血中アルコール濃度を測定する呼気検査を実施可能であり、労働者、警備員といった任意の作業要員をリアルタイムで識別、承認、追跡、監視、管理するシステムがこの文献には記載されている。
【0008】
特許文献4には、車両の乗員の同一性を検出するシステム及び方法が記載されている。このシステムは、車両に搭載された光学式センサモジュールを備える。このセンサモジュールは、車両の乗員を特定する車両乗員の一部(皮膚や皮下組織)の画像を光学的に取得する乗員センサを備える。この方法には、車両乗員識別システムを起動すると、車両乗員のメンバーと仮定する人物の画像を取得し、この取得画像を、予めメンバーであるとした人物の少なくとも1つの記憶画像と比較し、当該取得画像が当該記憶画像と一致するか否かを判定して、車両乗員が識別されたか否かの評価を行うことが含まれている。また、乗員確認に限らず、労働環境や経済取引に適用を想定するバイオメトリックシステムが記載されていて、その適用下での、アルコール濃度検知、心拍、血圧、血中酸素飽和度、体温といった、安全性や健康管理用の生体データの把握も記載されている。
【0009】
非特許文献1には、集積型レーザドップラ血流計(MEMS血流量センサ)を用いた飲酒センシングについて、耳たぶ血流、呼気中アルコール濃度と、MEMS血流量センサでの飲酒検知の相関性が記載されている。また、血流量センサを用いた場合は測定と同時に指紋認証などの実施が容易であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4706733号公報
【文献】米国特許出願公開第2021/295005号明細書
【文献】インド国特許出願第1794/MUM/2014号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/204290号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】岩崎渉、外6名、「MEMS血流量センサを用いた飲酒センシング」、[online]、2010年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、[令和4年9月3日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2010S/0/2010S_0_861/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術における、カメラを用いる光学式や超音波式の指紋認証を用いるシステムは、自動車用としては、計算量や費用が比較的大きくなり、計測装置自体の大きさでも実用化には問題があることを、発明者は認識した。併せて、発明者は、呼気のアルコール検知とは別に、自動車の運転を避けるべき指標を簡便に得られるアルコール検知のニーズを認識した。また、運転適否の判定が望まれるのは、2輪自動車、4輪自動車に限らず、車両、船舶、航空機、鉄道車両、さらに乗り物にとどまらず産業機械、輸送機械もある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題の解決手段は、指紋検出範囲を備え、指紋検出範囲でユーザの指の指紋データを検出して取得する、静電容量式の指紋センサと、
血流検出範囲を備え、血流検出範囲でその指から、所定の少なくとも1成分の血中濃度のデータを検出して取得する、血流センサと、
乗り物の運転者として予め登録された人物の登録指紋データと、乗り物の運転適否の判定基準とする身体状態のデータとを格納した記憶手段と、
指紋センサが取得した指紋データを、前記登録指紋データと照合して認証結果を作成することと、血流センサが取得したデータを、前記身体状態のデータと比較して前記ユーザに対して運転適否を判定することとを実行する処理部と、
前記指紋検出範囲と前記血流検出範囲とが設けられた、ユーザの指の腹に対向する面と
を備える、乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムにおいて、少なくとも前記指紋センサと前記血流センサとが、乗り物の動作のためにユーザが指で触れる部分に取り付けられていて、前記面にユーザの指が接するか又は前記面をユーザの指が押すと前記システムが作動開始となることである。
【発明の効果】
【0014】
血流データから得られる各種の指標を用いた乗り物の運転適否判定と、乗り物の運転者の指紋認証とを実施するシステムを、乗り物の動作に結び付く付属装置に接続又は組み込んで構成することで、そのような指標の取得と指紋認証の実施が格別に便利になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、1実施形態による指紋認証及び血中濃度検出システムの備える計測手段と、ユーザの指との位置関係の概要図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した計測手段の概要的な側面図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示した計測手段の向きが異なる状態を示すと共に指紋検出範囲と血中濃度検出範囲との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、1実施形態による指紋認証及び血中濃度検出システムの主要部品間のデータ通信上の概略接続関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明による乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム1の備える、計測手段と、ユーザの指との位置関係の概要を示す。ここで、乗り物は、各種自動車、船舶、航空機を含む、運転者又は操縦者によって動かされるさまざまな機械である。また、運転者又は操縦者を、便宜的に「ユーザ」ということとする。
【0017】
より具体的には、
図1の右下に、計測手段に対してユーザの指Fが白い矢印のように近づいていく様子を表し、
図1の左側に、ユーザの指Fの腹Bに、所定の計測に用いる面が対向している概要を表している。
【0018】
計測手段は、指紋認証と血中濃度検出に必要な、ユーザの指Fの腹Bの範囲を全て包含できるカバー2を持つ。カバー2の内側に、前述の所定の計測に用いる面がある。この面は、指Fの腹Bに対向する平面又は湾曲面であり、この面に指紋検出範囲32と、血中濃度検出範囲42とが存在する。その面に、指紋検出範囲32と血中濃度検出範囲42の大きさと位置とは、指紋検出及び血中濃度検出を実施できる程度の範囲で構成自由である、。
図1では、指紋検出範囲32の内側に血中濃度検出範囲42が配置されているが、これは1例であって、
図3を参照して後述するように、この例に制限されない。
【0019】
図1に例示するように、指Fの腹Bに対向する指紋検出範囲32は、指の幅方向に幅Wと、指の長さ方向に長さLを持つ。血中濃度検出範囲42は、同様に、直径φを持つ。
【0020】
指紋検出は、静電容量式の指紋センサ3を用いる。指紋センサ3が指紋検出範囲32を備える。図示の指紋センサ3は外形が矩形状であり、その略中央に開口部を持つが、その他の形状もあり得る。指紋センサ3の持つ開口部の位置は、一体に構成する他の部品の支持を確保できる範囲で、自由であって、指紋センサ3の中央に制限されない。指紋センサ3の厚み(薄さ)は、より薄ければ薄いほど計測手段の小型化により有利である。また、
図1では、指紋センサ3の存在を記号化して、カバー2の外に表しているが、実際は、カバー2の内部に配置されていて、指紋検出範囲32を備えている。
【0021】
血中濃度検出は、血流センサ4を用いる。検出対象の血中濃度は、例えば血中のアルコール濃度であるが、その他の成分又は物質の濃度も想定される。さらに、血流センサ4が得るデータから、血中酸素飽和度など循環器系の状態やメンタル状態の指標などの取得とその利用も想定される。血流センサ4が血中濃度検出範囲42を備える。血流センサ4は、MEMS技術を用いた集積化装置が考えられる。また、血流センサ4は、指紋センサ3と共にカバー2内に設けられている。
【0022】
なお、ユーザの指Fは、特定の指に限定はしない。後で述べるように、システム1の起動にもつながるように構成されたイグニションスイッチ(乗り物が自動車の場合の1例)に触れたり、押す指、人差し指又は親指であり得る。
【0023】
図2は、
図1に示した計測手段に関連した1例の概略側面図である。
図2の例では、カバー2の上でイグニションボタン51に一体に構成している。つまり、乗り物の一例である自動車のイグニションスイッチに、このシステムの指紋センサ及び血流センサの起動手段5を一体に構成している。起動手段5は、前述の、指紋検出範囲32及び血中濃度検出範囲42が存在する面を備える。
図2において、指紋センサ3の存在を記号化して、カバー2の外に表しているが、実際は、カバー2の内部に配置されていて、指紋検出範囲32を備えている。
【0024】
図3の左側は、
図2での計測手段の向きを約90度変更した概略図である。この図は、ユーザの左手の人差し指Fで起動手段5を押すか、触れようとしている一例である。起動手段5を指Fが押すか、起動手段5に指Fが接触すると、指紋検出と血中濃度検出がほぼ同時に開始され、指紋認証と血中濃度検出値の判定がなされる。この判定は、少なくとも乗り物(例えば自動車)の運転適否である。起動手段5に対して指Fの押し方又は触れ方が、このシステム1の起動に不十分である場合は、起動手段5の押し方又は触れ方の修正を促す警告を音声又は視覚的に発するようにしてもよい。必要な場合は、指紋認証と血中濃度検出の間に時間差を設定することも想定される。
【0025】
このシステム1は、さらに図示しない記憶手段、又はメモリを備える。この記憶手段には、このシステムを用いる乗り物の運転者として予め定めた人物の指紋データと、特定の成分又は物質の血中濃度に対応した数値のデータとを、例えばデータベースとして、格納している。指紋データは、指紋認証用であり、特定の成分又は物質の血中濃度に対応した数値のデータは、少なくとも自動車の運転適否の判定用である。特定の成分又は物質の血中濃度に対応した数値のデータは、ユーザに対する自動車の運転適否に限らず、人の健康又は安全上のリスク判定用も考えられる。記憶手段は、指紋センサ3と、血流センサ4と共に、カバー2内に設けても、処理部6内又は隣に設けてもよいし、無線通信で少なくとも処理部6と通信可能にしてもよい。
【0026】
次に、乗り物が自動車である場合、起動手段5(ボタン51)の配置は、より具体的には、イグニションスイッチに限らず、例えば、自動車内のシフトレバーやその周辺の筐体表面、自動車に付属するスマートキー、自動車内のディスプレイ、運転席前面の計器盤などがあり得る。換言すると、ユーザが乗り物の運転に関連して指で必ず触る装置や部材への起動手段5の設置が、ユーザにとって便利であり、計測を忘れたり、計測のための動作が増えるようなめんどうにならずに、指紋認証と血中濃度検出の確実な実行が確保される。
【0027】
図3の右下には、血中アルコール濃度検出を1例とする血流センサの血中濃度検出範囲42の配置の変形例を描いている。血中濃度検出範囲42の外縁の配置は、指紋検出範囲32の内側とした場合と、外側とした場合が表されている。言い換えると、血中濃度検出範囲42と指紋検出範囲32の大きさの関係は、血中濃度と指紋検出の両方が可能な範囲で自由である。1変形例では、血中濃度検出範囲42及び指紋検出範囲32は、任意の指の腹の任意の場所を想定して、配置を決定してよい。別の変形例では、血中濃度検出範囲42は、指紋検出範囲32の外側に配置してもよい。
【0028】
図4は、本発明による乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム1(システム1)の構成の1例の概略図である。指紋認証及び血中濃度検出システム1は、指紋センサ3と、アルコール血中濃度を検出する血流センサ4(例えば、アルコールセンサ41)と、起動手段5(例えば、イグニションスイッチ又はボタン51)と、処理部6と、前述の記憶手段(図示なし)と、システム1の作動に必要な動力源(図示なし)とが、例えば電気的に接続されていて、そして追加的又は代替的にデータ通信可能に接続されている。
【0029】
システム1の動力源としては、例えば、乗り物内の電源、あるいはシステム1を乗り物のスマートキーに設ける場合は、スマートキー内の電源(交換可能な電池)などが考えられ、システム1の作動及びユーザの利便性を確保して、任意の場所に設置してよい。動力源として電池に限らず、エネルギーハーベスティング技術の採用も考えられる。
【0030】
指紋センサ3は、指紋センサ3の検出データ処理用のサブ基板33を備える。アルコールセンサ41は、アルコールセンサ41の検出データ処理用のサブ基板43を備える。
【0031】
起動手段5は、システム1の起動用のユーザインタフェースと、ユーザインタフェースの作動に応じた信号処理用のサブ基板53とを備える。この例では、ユーザが押すボタン51が、ユーザインタフェースとなっているが、物理的に押し込むボタン51でなければならないことはない。ボタン51に替えて、タッチセンサ型のユーザインタフェースでもよい。
【0032】
処理部6は、一例ではプリント基板(PCB)上に構築された、コンピュータである。処理部6は、指紋センサ3のサブ基板33と、アルコールセンサ41のサブ基板43と、起動手段5のサブ基板53とを介して伝送される生データに対応する信号を処理し、所定の形式で出力信号を出す。処理部6は、サブ基板33、43、53が組み込まれた構造とは、別の構造に設けられていてもよいし、サブ基板33、43、53の少なくとも1つと同じ構造内に組み込まれてもよい。あるいは、サブ基板33、43、53の少なくとも1つと統合されていてもよい。処理部6は、システム1の動力源と同様に、システム1をどこに設けるかに合わせて設置場所を決めてもよいし、無線通信を使って設置場所の自由度を得てもよい。すなわち、処理部6は、乗り物内外に制約されず、所望の場所に設置してよい。
【0033】
記憶手段は、指紋センサ3と、血流センサ4と共に、カバー2内に設けても、処理部6内又は隣に設けてもよい。処理部6内又は隣に設ける場合は、処理部6の設置場所に応じた記憶手段の設置の自由度がある。また、処理部6と同様に、無線通信を使って、記録手段を、乗り物内外に制約されない、所望の場所に設置してよい。
【0034】
乗り物を運転してよい人物の指紋認証用の指紋データと、乗り物を運転してよい血中濃度データ(例えば、上限値、下限値を含む複数のデータのセット)と、指紋センサ3及び血流センサ4で取得したデータの処理プログラムを、前述の記憶手段に格納しておいてもよい。
【0035】
上述したシステム1は、乗り物と共に全体としてオープン又はクローズドネットワークに組み込まれてよい。また、システム1は、クラウドコンピューティングでの構築も想定されてよい。
【0036】
血流センサ4の検出対象には、アルコールセンサ41に限らず、指紋認証と合わせたい健康指標や乗り物の運転許可又は禁止に関する指標につながる検出対象が他にも考えられる。例えば、血中酸素飽和度、体温といった体調の指標、心拍、不整脈の有無といった循環器系の指標、ストレスレベルやメンタル状態の指標となる検出対象である。そのような各種の指標と指紋認証と、運転適否判定とを実施するシステムを、乗り物の動作につながる乗り物内の装置や部品に組み込んで構成することで、乗り物のユーザについてのさまざまな生体データ取得とさまざまな判定の実施が格別に容易になる。
【0037】
次に、本発明による別の観点からの実施形態を列挙する。
(1)指紋検出範囲を備え、指紋検出範囲でユーザの指の指紋データを検出して取得する、静電容量式の指紋センサと、
血流検出範囲を備え、血流検出範囲で前記指から、所定の少なくとも1成分の血中濃度のデータを検出して取得する、血流センサと、
乗り物の運転者として予め登録された人物の登録指紋データと、乗り物の運転適否の判定基準とする身体状態のデータとを格納した記憶手段と、
指紋センサが取得した指紋データを、前記登録指紋データと照合して認証結果を作成することと、血流センサが取得したデータを、前記身体状態のデータと比較して前記ユーザに対して運転適否を判定することとを実行する処理部と、
前記指紋検出範囲と前記血流検出範囲とが設けられた、ユーザの指の腹に対向する面と
を備える、乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムにおいて、
少なくとも前記指紋センサと前記血流センサとが、乗り物の動作のためにユーザが指で触れる部分に取り付けられていて、前記面に前記指が接するか又は前記面を前記指が押すと前記システムが作動開始となることを特徴とする、乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(2)前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のイグニションスイッチである、(1)の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(3)前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のスマートキーである、(1)の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(4)前記乗り物は自動車であって、ユーザが指で触れる前記部分が、自動車のシフトスイッチ、ステアリングホイール又は運転席前面の計器盤である、(1)の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(5)取得した指紋データによって、ユーザが、予め登録された運転者であると認証されなかった場合、前記処理部は、前記乗り物を作動させないための信号を前記乗り物の備える制御手段に送信する、(1)から(4)のいずれかの乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(6)前記処理部は、血流センサが作成したデータを前記身体状態のデータと比較した結果が前記乗り物の運転に適さないと判定すると、前記乗り物を作動させないための信号を前記乗り物の備える制御手段に送信する、(1)から(5)のいずれかの乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(7)所定の前記成分が、血中アルコール濃度である、(1)から(6)のいずれかの乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(8)所定の前記成分が、さらに、血中酸素飽和度又は脈拍の少なくとも一方を含む、(7)の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(9)前記血流センサは、MEMS技術を用いた集積化装置である、(1)から(8)のいずれかの乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システム。
(10)(1)から(9)のいずれかの乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムを備えた、乗り物。
【0038】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で、ここに開示されたもの以外の実施形態もあり得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の乗り物用の指紋認証及び血中濃度検出システムは、各種自動車、車両、船舶、航空機、鉄道車両、産業機械、輸送機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 指紋認証及び血中濃度検出システム
2 カバー
F 指
B 指の腹
3 指紋センサ
32 指紋検出範囲
W 指紋検出範囲の幅
L 指紋検出範囲の長さ
33 サブ基板
4 血流センサ
41 アルコールセンサ
42 血中濃度検出範囲
φ 直径
43 サブ基板
5 起動手段
51 ボタン
53 サブ基板
6 処理部