(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】流体圧式制動システムの圧力ピークを低減する方法及びそのための制動システム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/02 20060101AFI20250123BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20250123BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B60T17/02
B60T8/17 Z
B60T8/17 B
B60T13/138 A
(21)【出願番号】P 2023558448
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 DE2022200058
(87)【国際公開番号】W WO2022228622
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】102021204111.6
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522296653
【氏名又は名称】コンチネンタル・オートモーティヴ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Continental-Plaza 1, 30175 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】シュタノイコフスキー・アレクサンダー
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0039492(US,A1)
【文献】実開平05-054138(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動加圧デバイス(5)を含む流体圧ブレーキシステムの圧力ピークを低減する方法において、前記
電動加圧デバイス(5)の駆動抵抗変数、特にトルクが測定され、前記
電動加圧デバイス(5)の速度変数が測定され、前記駆動抵抗変数と前記速度変数の商(201)が計算され、このようにして決定された前記商(201)は、急激な変化の発生に関して監視され、急激な変化が特定された場合、前記
電動加圧デバイス(5)の速度要件が低減される、及び/又は圧力の消散のための流体圧弁(6、122)が作動される
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記
電動加圧デバイス(5)は、リニアアクチュエータとして構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記計算された商(201)の絶対値が第1の閾値(202)を超える場合に、急激な変化が検出されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の閾値(202)は、1mNm/rpm~2mNm/rpmであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記商(201)の時間的プロファイルが格納され、前記格納されたプロファイルの前記計算された商(201)
の勾配(203)が第2の閾値(204)を超えた場合に急激な変化が検出されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の閾値(204)は、0.1Nm/rpm*sec~0.3Nm/rpm*secであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記商(201)の時間的プロファイルが格納され、前記格納されたプロファイルの前記計算された商(201)の曲率が第3の閾値を超えた場合に急激な変化が検出されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記流体圧弁(122)は、少なくとも部分的に開くように作動されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記流体圧弁(122)の前記作動は、前記
電動加圧デバイス
(5)も調整するものと同じ制御ユニットによって実行されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記流体圧弁(122)は、前記
電動加圧デバイス(5)と非加圧ブレーキ流体リザーバ(4)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記流体圧弁は、前記
流体圧ブレーキシステムの車輪ブレーキ(8)の少なくとも1つの入口弁(6)を含み、前記入口弁(6)の制御電流は低減されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されていることを特徴とする自動車用のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動加圧デバイスを含む流体圧ブレーキシステムの圧力ピークを低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最新のブレーキシステムでは、運転者から独立してブレーキに介入する場合、ブレーキシステムの流体圧式システムの圧力作動は、電動加圧デバイスによってもたらされる。ブレーキバイワイヤブレーキシステムとして知られるものの場合、ブレーキ介入が運転者によって引き起こされる場合であっても、圧力作動は、電動加圧デバイスによってもたらされる。多くの動作状態において、加圧デバイスは、閉鎖した弁に対して、したがって、非常に高剛性のシステムに対して少なくとも短時間動作する。これは、例えば、加圧デバイスが能動的に容量送出している際に、車輪ブレーキの入口弁が突如閉じる場合に当てはまる。その結果、加圧デバイスの質量慣性モーメントにより数百バールのレベルの圧力ピークが数ミリ秒以内に発生する可能性があり、この圧力ピークは、流体圧構成要素の耐用年数に悪影響を及ぼす。
【0003】
この種の圧力ピークを回避するために、システム圧力センサのデータを評価し、過度に高い圧力が発生した場合には車輪の圧力調整に介入が行われることが知られている。ブレーキシステムは、通常、高い冗長性を有していなければならないため、一部のシステムが故障した場合であっても車両の信頼性の高い制動を確保できるようにするために、多くの場合、インターフェースを介して互いに通信する複数の制御ユニットが用いられる。しかしながら、この種の通信には大きな時間遅延が伴うため、行われる調整操作が、圧力ピークの発生を確実に防ぐのには遅すぎることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、高度に冗長なブレーキシステムにおいても圧力ピークの発生を防止することができる方法を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の電動加圧デバイスを含む流体圧ブレーキシステムの圧力ピークを低減する方法によって達成される。加圧デバイスの駆動抵抗変数、特にトルクが測定され、加圧デバイスの速度変数が測定される。これら2つの測定値、駆動抵抗変数と速度変数から商が計算される。この2つの測定値は、急激な変化が発生した場合には、反対方向に有効性を失うことが示されており、その効果は、本発明による商の形成によって増幅される。このようにして決定された商を、急激な変化の発生に関して監視した場合、急激な変化は、特に初期段階に、特に明確に示される。急激な変化が特定された場合、加圧デバイスの速度要件が低減される及び/又は圧力の消散のための流体圧弁が作動される。その結果、圧力ピークは、最初に既に効率的に抑制される。
【0006】
本発明の1つの好ましい実施形態では、加圧デバイスは、リニアアクチュエータとして構成されている。これは、車輪ブレーキに流体圧的に接続され得る圧力提供デバイスであり、車輪ブレーキの圧力を能動的に上昇させるためのシステム圧力を提供するために、モータの補助で圧力チャンバ内に移動させることができる圧力ピストンを有する。ここでは、モータは、典型的には、回転/並進歯車機構を介してピストンに接続されている。速度変数として、モータの回転速度が測定され得る。この目的のために、例えば、加圧デバイスのロータ位置センサを利用することができる。作用するトルクは、例えばモータの消費電力から決定され得る、或いは、この目的のために設けられたセンサによって測定され得る。
【0007】
本発明の更に好ましい実施形態では、計算された商の絶対値が第1の閾値を超える場合に、急激な変化が検出される。このタイプの評価は、特に簡単な手法で実施することができ、特に、測定値が比較的不正確な場合に、又は測定値のノイズが非常に多い場合に有利である。
【0008】
本発明の1つの特に好ましい実施形態では、第1の閾値は、1mNm/rpm~2mNm/rpm、好ましくは1.5mNm/rpmである。ここで、速度変数は、回転速度として選択され、毎分回転数(rpm)で測定されている。トルクは、ミリニュートンメートル(mNm)で示される。
【0009】
本発明の更に好ましい実施形態では、商の時間的プロファイルが格納され、格納されたプロファイルの計算された商の勾配が第2の閾値を超えた場合に急激な変化が検出される。勾配の監視は、絶対値の監視の代わりとして又は絶対値の監視に加えて使用することができる。本方法の精度を向上させるために、計算された商は、平滑化することができる。この目的のために、例えば、時間的平均化が行われ得る。
【0010】
本発明の1つの特に好ましい実施形態では、第2の閾値は、0.1Nm/rpm*sec~0.3Nm/rpm*sec、特に、0.15Nm/rpm*secである。
【0011】
本発明の更に好ましい実施形態では、商の時間的プロファイルが格納され、格納されたプロファイルの計算された商の曲率が第3の閾値を超えた場合に急激な変化が検出される。したがって、商の時間に対する第2の微分が形成され、監視される。特に、測定値が正確に良好に平滑化される場合、この種の監視により、特に初期段階で予想される急激な変化、したがって圧力ピークを確実に検出することができる。
【0012】
本発明の更に好ましい実施形態では、流体圧弁は、少なくとも部分的に開くように作動される。このようにして、流体圧容量又はブレーキ流体は流体圧弁を通って流出することができ、その結果、圧力ピークが最小化される。
【0013】
本発明の更に好ましい実施形態では、流体圧弁の作動は、加圧デバイスも調整するものと同じ制御ユニットによって実行される。特に、ブレーキシステムのシステム圧力センサは、異なる制御ユニットに配置されており、流体圧弁及び加圧デバイスのコントローラと同じ制御ユニットには配置されていない。このようにして、異なる制御ユニット間の通信による待ち時間が回避され、監視は、特に迅速に反応することができる。
【0014】
本発明の更に好ましい実施形態では、流体圧弁は、加圧デバイスと非加圧ブレーキ流体リザーバ又は圧力媒体貯蔵容器との間に配置されている。特に、流体圧弁は、これら構成要素の間に直接配置されている。このようにして、生じた圧力ピークが検出されるとすぐに、特に急速な圧力の消散が可能である。
【0015】
本発明の更に好ましい実施形態では、流体圧弁は、ブレーキシステムの車輪ブレーキの少なくとも1つの入口弁を含む。ここで、入口弁は単に開かれるのではなく、入口弁の制御電流が低減される。入口弁は、冗長性の理由から常時開の弁である。すなわち、入口弁には、閉鎖して、閉位置に保つための電流が供給される。加圧デバイスに面する側の高い圧力と車輪ブレーキに面する側の低い圧力の圧力差が、弁を押し開こうとする。閉鎖電流によりこの力を相殺し、弁を閉位置に保つ。しかしながら、設定される閉鎖電流によっては、入口弁が密閉された状態をもはや保てず、流体圧容量が通過し得る流体圧がある。したがって、入口弁の閉鎖電流は、特に、通常動作時に流体圧弁を閉じた状態になお保つが、圧力ピーク(100~300bar)に対応する圧力値では流体圧容量が通過することを可能にする値まで低減される。
【0016】
更に、目的は、上記方法の1つを実行するように構成された自動車用のブレーキシステムによって達成される。
【0017】
本発明の更なる特徴、利点、及び可能な用途は、以下の例示的な実施形態の説明及び図面からも得られる。説明された及び/又は図示された全ての特徴は、個々にも、任意の組み合わせにおいても、特許請求の範囲又はその引用におけるそれらの要約とは無関係に、本発明の主題に属する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるブレーキシステムを概略的に示す。
【
図2】
図1のブレーキシステムの電子構造を概略的に示す。
【
図3】本発明の第2の実施形態によるブレーキシステムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示される自動車用のブレーキシステムは、4つの流体圧的に作動可能な車輪ブレーキ8a~8dを含む。ブレーキシステムは、作動又はブレーキペダル1によって作動され得るブレーキマスターシリンダ2と、ブレーキマスターシリンダ2と相互作用する移動シミュレータ又はシミュレーションデバイス3と、大気圧下の圧力媒体貯蔵容器4と、電気的に制御可能な加圧デバイス5と、入口弁6a~6d及び出口弁7a~7dとして例に従って構成された車輪別ブレーキ圧力調整弁とを含む。更に、ブレーキシステムは、ブレーキシステムの電気的に作動可能な構成要素を作動させるための複数の制御ユニットを含む電子制御及び調整システム12を含む。
【0020】
例によれば、車輪ブレーキ8aは、左前輪(FL)に割り当てられ、車輪ブレーキ8bは、右前輪(FR)に割り当てられ、車輪ブレーキ8cは、左後輪(RL)に割り当てられ、車輪ブレーキ8dは、右後輪(RR)に割り当てられている。
【0021】
ブレーキマスターシリンダ2は、ハウジング16内に、流体圧チャンバ17を画定するブレーキマスターシリンダピストン15を有し、単回路ブレーキマスターシリンダを構成する。圧力チャンバ17は、ブレーキマスターシリンダ2が作動していない状態で、ピストン15を始動位置に配置する復元ばね9を収容している。
【0022】
圧力チャンバ17は、第1に、ピストン15内に構成された半径方向のボアと対応する圧力等化ライン41とを介して圧力媒体貯蔵容器4に接続されており、これらは、ハウジング16内のピストン17の相対運動によって遮断され得る。第2に、圧力チャンバ17は、流体圧ラインセクション(第1のフィードラインとも呼ばれる)22によって、入口弁6a~6dの入口ポートが接続されたブレーキ供給ライン13に接続されている。したがって、ブレーキマスターシリンダ2の圧力チャンバ17は、全ての入口弁6a~6dに接続されている。
【0023】
本実施形態においては、弁、特に電気的に又は流体圧的に作動可能な弁、及び逆止弁は、圧力等化ライン41内に、又は圧力チャンバ17と圧力媒体貯蔵容器4との間の接続部に配置されていない。
【0024】
代替として、診断弁(特に、常時開)を、圧力等化ライン41内に、又はブレーキマスターシリンダ2と圧力媒体貯蔵容器4との間に、好ましくは、常時開診断弁と圧力媒体貯蔵容器4に対して閉じる逆止弁との並列接続部に含むことができる。
【0025】
隔離弁23が、圧力チャンバ17に接続されたフィードライン22とブレーキ供給ライン13との間に配置されている、又は圧力チャンバ17は、隔離弁23を有する第1のフィードライン22を介してブレーキ供給ライン13に接続されている。隔離弁23は、電気的に作動可能な、好ましくは常時開の2/2方向弁として構成されている。隔離弁23は、圧力チャンバ17とブレーキ供給ライン13との間の流体圧接続部を遮断することを可能にする。
【0026】
ピストンロッド24は、ペダル作動の結果としてのブレーキペダル1の枢動運動をブレーキマスターシリンダピストン15の並進運動に結合し、その作動移動は、好ましくは冗長構成の変位センサ25によって検出される。その結果、対応するピストン移動信号は、ブレーキペダル作動角度の指標である。これは、車両運転者の制動要求を表す。
【0027】
第1のフィードライン22に接続された圧力センサ20は、ピストン15の変位の結果として圧力チャンバ17内に蓄積した圧力を検出する。この圧力値は、同様に、車両運転者の制動要求を特徴付ける又は決定するために評価され得る。圧力センサ20の代替として、車両運転者の制動要求を決定するために、力センサ20も使用することができる。
【0028】
例によれば、シミュレーションデバイス3は、流体圧式構成のものであり、ブレーキマスターシリンダ2に流体圧的に結合されている。シミュレーションデバイス3は、例えば、実質的に、シミュレータチャンバ29、シミュレータ後部チャンバ30と、2つのチャンバ29、30を互いに切り離すシミュレータピストン31とを有する。シミュレータピストン31は、シミュレータ後部チャンバ30(例によればドライ)内に配置された弾性要素33(例えば、シミュレータばね)を介してハウジング上に支持されている。例によれば、流体圧式シミュレータチャンバ29は、好ましくは電気的に作動可能な、好ましくは常時閉のシミュレータイネーブル弁32によって、ブレーキマスターシリンダ2の圧力チャンバ17に接続されている。
【0029】
流体圧的に作動可能な車輪ブレーキ8a~8dごとに、制動システム又はブレーキシステムは、入口弁6a~6d及び出口弁7a~7dを含み、入口弁6a~6d及び出口弁7a~7dは、中央ポートを介して互いに対で流体圧的に接続されるとともに、車輪ブレーキ8a~8dに接続されている。ブレーキ供給ライン13に対して開く逆止弁(詳細には図示せず)が、いずれの場合においても、入口弁6a~6dに並列で接続されている。出口弁7a~7dの出口ポートは、共通の戻りライン14を介して圧力媒体貯蔵容器4に接続されている。
【0030】
電気的に制御可能な圧力提供デバイス5は、流体圧シリンダ/ピストン配置(又は単回路の電気流体圧式アクチュエータ(リニアアクチュエータ))として構成されており、そのピストン36は、概略的に示される電動機35によって作動され得、ピストン36と電動機35との間に接続された、同様に概略的に示される回転/並進歯車機構39を有する。ピストン36は、圧力提供デバイス5の単一の圧力空間37を画定する。単に概略的に示される、電動機35のロータ位置を検出する役割を果たすロータ位置センサが参照符号44によって示されている。これは、現在の回転速度を評価するために使用され得る。
【0031】
ラインセクション(第2のフィードラインとも呼ばれる)38が、電気的に制御可能な加圧デバイス5の圧力空間37に接続されている。フィードライン38は、電気的に作動可能な、好ましくは常時閉のシーケンス弁26を介してブレーキ供給ライン13に接続されている。シーケンス弁26は、電気的に制御可能な圧力提供デバイス5の圧力空間37とブレーキ供給ライン13(したがって、入口弁6a~6dの入口ポート)との間の流体圧接続部を制御された手法で開閉することを可能にする。
【0032】
圧力空間37内に収容された圧力媒体に対するピストン36の力の作用によって生成されたアクチュエータ圧力は、第2のフィードライン38に供給される。「ブレーキバイワイヤ」作動タイプでは、特に、ブレーキシステムの障害のない状態において、フィードライン38は、シーケンス弁26を介してブレーキ供給ライン13に接続されている。このようにして、通常の制動時に、ピストン36の前方及び後方への移動の結果として、全ての車輪ブレーキ8a~8dの車輪ブレーキ圧力の上昇及び圧力の消散が生じる。
【0033】
ピストン36の後方への移動による圧力の消散の場合、圧力提供デバイス5の圧力空間37から車輪ブレーキ8a~8d内に前に変位した圧力媒体は、同様に、圧力空間37に再び流入する。
【0034】
代替として、異なる車輪ブレーキ圧力を、入口弁6a~6d及び出口弁7a~7dによって、単純に車輪別の手法で設定することができる。対応する圧力の消散の場合、出口弁7a~7dを介して排出される圧力媒体部分は、戻りライン14を介して圧力媒体貯蔵容器4に流入する。
【0035】
圧力空間37への圧力媒体の補充は、シーケンス弁26が閉鎖されている場合にピストン36の後退によって可能であり、それによって、逆止弁53がアクチュエータ5への流れの方向に開いた状態で、圧力媒体が容器4からライン42を介して、アクチュエータ圧力空間又は圧力空間37に流出することが可能である。例によれば、圧力空間37は、更に、ピストン36の非作動状態において、1つ以上の漏出穴を介して圧力媒体貯蔵容器4に接続されている。圧力空間37と圧力媒体貯蔵容器4との間のこの接続は、ピストン36が作動方向27に(十分に)作動すると切り離される。
【0036】
ブレーキ供給ライン13内に、電気的に作動可能な、常時開回路の隔離弁40が配置されており、隔離弁40によって、ブレーキ供給ライン13は、(隔離弁23を介して)ブレーキマスターシリンダ2に接続された第1のラインセクション13aと、(シーケンス弁26を介して)圧力提供デバイス5に接続された第2のラインセクション13bとに分離され得る。第1のラインセクション13aは、車輪ブレーキ8a、8bの入口弁6a、6bに接続されており、第2のラインセクション13bは、車輪ブレーキ8c、8dの入口弁6c、6dに接続されている。
【0037】
回路隔離弁40が開かれた状態では、ブレーキシステムは単回路設計である。回路隔離弁40を閉じることにより、特に状況に適した手法で制御されるブレーキシステムは、2つのブレーキ回路IとIIとに分離又は分割することができる。ここで、第1のブレーキ回路Iにおいては、ブレーキマスターシリンダ2が、(隔離弁23を介して)フロントアクスルVAの車輪ブレーキ8a、8bの入口弁6a、6bのみに接続されており、第2のブレーキ回路IIにおいては、圧力提供デバイス5が、(シーケンス弁26が開かれた状態で)リヤアクスルHAの車輪ブレーキ8c及び8dのみに接続されている。
【0038】
隔離弁40が開いている場合、第1の作動タイプ(例えば、「ブレーキバイワイヤ」作動タイプ)においては、全ての入口弁6a~6dの入口ポートは、圧力提供デバイス5によって提供されるブレーキ圧力に対応する圧力が、ブレーキ供給ライン13によって供給され得る。第2の作動タイプ(例えば、無電流フォールバック作動タイプ)においては、ブレーキ供給ライン13には、ブレーキマスターシリンダ2の圧力チャンバ17の圧力がかかり得る。
【0039】
ブレーキシステムは、有利には、圧力媒体貯蔵容器4内の圧力媒体レベルを決定するためのレベル測定デバイス50を含む。回路隔離弁40による回路分離の状況認識は、有利には、レベル測定デバイス50を介して行われる。
【0040】
例によれば、流体圧構成要素、すなわちブレーキマスターシリンダ2、シミュレーションデバイス3、圧力提供デバイス5、弁6a~6d、7a~7d、23、26、40及び32、及びブレーキ供給ライン13を含む流体圧接続部は、(単一の)流体圧制御及び調整ユニット60(HCU)内に一緒に配置されている。流体圧制御及び調整ユニット60には、複数の制御ユニットを有する電子制御及び調整システム(ECU)12が割り当てられている。流体圧及び電子制御及び調整ユニット60、12は、好ましくは、1つのユニット(HECU)として構成されている。
【0041】
ブレーキシステムは、圧力提供デバイス5によって提供される圧力を検出するための圧力センサ19又はシステム圧力センサを含む。ここで、圧力センサ19は、圧力提供デバイス5の圧力チャンバ37から見た場合に、シーケンス弁26の下流に配置されている。
【0042】
図2は、
図1のブレーキシステムの制御システム12を示す。制御システム12は、ブレーキシステムの部分領域を制御及び調整するようにそれぞれ設計された2つの別個の制御ユニット45、46を含む。ここでその名称の由来となるコントローラとして、モータ制御ユニットは、加圧デバイスのモータ49を調整するモータコントローラ47を含む。弁制御デバイス46は、その名称の由来となる弁コントローラ48に加えて、システム圧力センサ50を読み取るための電子機器を含む。2つの制御ユニットは、インターフェースを介して互いに通信することができる。圧力ピークを回避するために圧力センサ50のデータに依存した調整操作が実行される場合、モータコントローラ47の介入を行うために、2つの制御ユニット46と47との間で通信を行わなければならない。このタイプの通信は遅延を招き、その結果、圧力ピークを十分に迅速に防止することはできない。本発明によれば、本方法は、したがって、モータ制御ユニット45のみで行われ得る。
【0043】
図3は、更に好ましい実施形態におけるブレーキシステムを示す。ブレーキシステムは、それぞれ別個の制御及び調整ユニット80、82、84を含む3つのモジュール70、72、74を含む。モジュール70は、プライマリチャンバ90とセカンダリチャンバ92とを有するタンデムブレーキマスターシリンダとして構成されたブレーキマスターシリンダ2と、シミュレータ又はシミュレーションデバイス3とを含む。シミュレータイネーブル弁32を用いて、プライマリチャンバ90は、シミュレータチャンバ29にバイワイヤモードで接続され得る。ブレーキマスターシリンダの2つのチャンバ90、92は、圧力媒体貯蔵容器4aに流体圧的に接続され得る。この容器内の隔壁100により、いずれの場合においてもチャンバ90、92に接続されている2つのブレーキ回路I、IIのうちの一方が漏れた場合であっても、他方のブレーキ回路が圧力媒体をなお利用可能であることを確実にする。モジュール80の制御及び調整ユニット80は、弁32を実質的に制御する役割を果たす。
【0044】
ブレーキシステムは、ペダル移動センサ25とブレーキマスターシリンダ内の圧力を測定するための圧力センサ20とを含む運転者ブレーキ要求検出手段を有する。制御及び調整ユニット82を有する第2のモジュール72は、圧力提供デバイス5と、2つのシーケンス弁26a、26bとを含み、2つのシーケンス弁26a、26bを介して、圧力提供デバイス5の圧力空間37を車輪ブレーキに流体圧的に接続することができる。更に、第2のモジュール72は、1つのロータ位置センサ44と、プライマリチャンバ90内の圧力を測定するための圧力センサ20とを含む。2つのチャンバ90、92は、ブレーキバイワイヤモードでは隔離弁23a、23bを用いて車輪ブレーキから流体圧的に切り離すことができ、その結果、シミュレータイネーブル弁22が開いている場合、運転者は、ブレーキ流体をプライマリチャンバ90からシミュレータチャンバ29に移動させる。
【0045】
圧力チャンバ37は、圧力媒体貯蔵容器4bに流体圧的に接続されており、圧力媒体貯蔵容器4bからブレーキ媒体を補充することができ、圧力チャンバ37から容器4bへの圧力媒体の戻り流は逆止弁120によって阻止される。
【0046】
バイワイヤ操作中に隔離弁23a、23bが閉じられ、ブレーキマスターシリンダ2を車輪ブレーキ8a~8dから流体圧的に切り離す場合、過剰なブレーキ容量が、ライン124及び排出弁122の開口部を介して容器4bに搬送され得る。
【0047】
中間壁130が圧力媒体貯蔵容器4b内に設けられており、この中間壁130は、充填レベルが中間壁130の高さを下回ったときに2つの別個のチャンバを画定する。制御及び調整ユニット82は、圧力提供デバイス5及び弁26a、26b、23a、23b、122を作動させる役割を果たす。
【0048】
制御及び調整ユニット84を有する第3のモジュール74は、車輪ブレーキに割り当てられた入口弁6a~6d及び出口弁7a~7dを含む。いずれの場合においても吸入経路内のポンプシーケンス弁160、162を介して圧力提供デバイスに流体圧的に接続され得るポンプ140、142は、いずれの場合においても各ブレーキ回路内に設けられている。
【0049】
各ポンプ140、142を用いて上昇させることができる圧力は、いずれの場合においてもオーバフロー弁150、153を用いて設定することができる。ポンプ140、142が過度の量を送出し、圧力が上昇した場合、この弁150、152は押し開かれ、ポンプ空間内の圧力は、この弁150、152及びその流れによって依然として調整可能である。
【0050】
更に、低圧アキュムレータ164、166が、いずれの場合においても2つのブレーキ回路のそれぞれに設けられている。ポンプ140、142の送出回路から出口弁7a~7dの方向における圧力媒体の流出は、いずれの場合においても逆止弁168、170を用いて阻止される。制御及び調整ユニット84は、ポンプ140、142及び弁67a~67d、7a~7d、160、162、150、152を作動させる役割を果たす。更に、モジュール74は、システム圧力センサ19を含む。
【0051】
2つの圧力媒体貯蔵容器4a、4bは、共通の圧力媒体貯蔵容器4に流体圧的に接続されている。
【0052】
このブレーキシステムにおいて、圧力提供デバイス5は、システム圧力を提供する役割を果たし、ポンプ140、142は、特に、動作を調整し、圧力提供デバイス5による圧力上昇を支援するために使用される。
【0053】
3つの制御及び調整ユニット80、82、84は、特にCANバスを介して信号側で互いに接続されている。
【0054】
したがって、本発明による方法を、有利には、第2の制御ユニット82で実施することができる。第2の制御ユニット82は、リニアアクチュエータ5を調整し、したがって、特にロータ位置センサ44のデータを含む。ECU2 82がトルクと回転速度の商の急激な変化を特定した場合、特に、同じプリント回路基板上で制御される排出弁122を開くことができる。したがって、圧力ピークの発生に非常に迅速に反応する。
【0055】
図4は、リニアアクチュエータの測定されたトルクと回転速度の商を例として示す。通常動作(測定の前方範囲)において、商の値は、約0.5mNm/rpmだけ変動する。入口弁が突如閉じられるとすぐに、商の値も急激に上昇し、第1の閾値1.5mNm/rpmを超える。その後、システムは圧力ピークを想定し、対応する対策を開始する。
【0056】
図5は、商の勾配203の評価を示す。データは、
図4の商の微分によって計算され、時間平均されている。通常動作において、値は、第2の閾値204を下回って変動する。入口弁が閉じられるとすぐに、勾配は急激に増加し、第2の閾値204を超え、対応する対策が開始される。
【0057】
したがって、本発明による方法により、コントローラを複数の制御ユニットに分割する冗長ブレーキシステムの場合であっても圧力ピークの信頼性の高い回避を確実にし、したがって、流体圧構成要素の耐用年数を延長することができる。
なお、本発明は、以下の態様も包含し得る:
1.電動加圧デバイス(5)を含む流体圧ブレーキシステムの圧力ピークを低減する方法において、前記加圧デバイス(5)の駆動抵抗変数、特にトルクが測定され、前記加圧デバイス(5)の速度変数が測定され、前記駆動抵抗変数と前記速度変数の商(201)が計算され、このようにして決定された前記商(201)は、急激な変化の発生に関して監視され、急激な変化が特定された場合、前記加圧デバイス(5)の速度要件が低減される、及び/又は圧力の消散のための流体圧弁(6、122)が作動される
ことを特徴とする、方法。
2.前記加圧デバイス(5)は、リニアアクチュエータとして構成されていることを特徴とする、上記1.に記載の方法。
3.前記計算された商(201)の絶対値が第1の閾値(202)を超える場合に、急激な変化が検出されることを特徴とする、上記1.又は2.に記載の方法。
4.前記第1の閾値(202)は、1mNm/rpm~2mNm/rpmであることを特徴とする、上記3.に記載の方法。
5.前記商(201)の時間的プロファイルが格納され、前記格納されたプロファイルの前記計算された商(201)の前記勾配(203)が第2の閾値(204)を超えた場合に急激な変化が検出されることを特徴とする、上記1.~4.のいずれか一つに記載の方法。
6.前記第2の閾値(204)は、0.1Nm/rpm*sec~0.3Nm/rpm*secであることを特徴とする、上記5.に記載の方法。
7.前記商(201)の時間的プロファイルが格納され、前記格納されたプロファイルの前記計算された商(201)の曲率が第3の閾値を超えた場合に急激な変化が検出されることを特徴とする、上記1.~6.のいずれか一つに記載の方法。
8.前記流体圧弁(122)は、少なくとも部分的に開くように作動されることを特徴とする、上記1.~7.のいずれか一つに記載の方法。
9.前記流体圧弁(122)の前記作動は、前記加圧デバイスも調整するものと同じ制御ユニットによって実行されることを特徴とする、上記1.~7.のいずれか一つに記載の方法。
10.前記流体圧弁(122)は、前記加圧デバイス(5)と非加圧ブレーキ流体リザーバ(4)との間に配置されていることを特徴とする、上記1.~9.のいずれか一つに記載の方法。
11.前記流体圧弁は、前記ブレーキシステムの車輪ブレーキ(8)の少なくとも1つの入口弁(6)を含み、前記入口弁(6)の制御電流は低減されることを特徴とする、上記1.~10.のいずれか一つに記載の方法。
12.上記1.~11.のいずれか一つに記載の方法を実行するように構成されていることを特徴とする自動車用のブレーキシステム。
【符号の説明】
【0058】
1 ブレーキペダル
2 ブレーキマスターシリンダ
3 シミュレーションデバイス
4 圧力媒体貯蔵容器
5 加圧デバイス
6a~d 入口弁
7a~d 出口弁
8a~d 車輪ブレーキ
9 復元ばね
12 制御システム
13 ブレーキ供給ライン
14 戻りライン
16 ハウジング
17 圧力チャンバ
19 システム圧力センサ
20 マスターシリンダ圧力センサ
22 第1のフィードライン
23 隔離弁
24 ピストンロッド
25 変位センサ
26 シーケンス弁
29 シミュレータチャンバ
30 シミュレータ後部チャンバ
31 シミュレータピストン
32 シミュレータイネーブル弁
33 弾性要素
35 ピストン
36 電動機
37 圧力空間
38 フィードライン
39 回転/並進歯車機構
40 回路隔離弁
41 圧力等化ライン
42 ライン
44 ロータ位置センサ
45 モータ制御ユニット
46 弁制御ユニット
47 モータコントローラ
48 弁コントローラ
49 モータ
50 システム圧力センサモジュール
70 第1のモジュール
72 第2のモジュール
74 第3のモジュール
80 第1の制御ユニット
82 第2の制御ユニット
84 第3の制御ユニット
90 プライマリチャンバ
92 セカンダリチャンバ
120 逆止弁
122 排出弁
124 ライン
130 中間壁
140 第1のポンプ
142 第2のポンプ
150 第1のオーバフロー弁
152 第2のオーバフロー弁
160 第1のポンプシーケンス弁
162 第2のポンプシーケンス弁
164 第1の低圧アキュムレータ
166 第2の低圧アキュムレータ
168 第1の逆止弁
170 第2の逆止弁
201 トルク/回転速度の商
202 第1の閾値
203 商の微分
204 第2の閾値