(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】高温融体ポンプ、及び高温融体ポンプシステム
(51)【国際特許分類】
G21C 15/247 20060101AFI20250128BHJP
F04B 15/04 20060101ALI20250128BHJP
G21D 3/04 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
G21C15/247
F04B15/04
G21D3/04 E
(21)【出願番号】P 2024560647
(86)(22)【出願日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2024000753
(87)【国際公開番号】W WO2024154685
(87)【国際公開日】2024-07-25
【審査請求日】2024-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2023005607
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523020534
【氏名又は名称】株式会社TEIRY
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100212510
【氏名又は名称】笠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】阿蘇 伸生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 定利
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-298699(JP,A)
【文献】特開平9-25900(JP,A)
【文献】特開昭62-148891(JP,A)
【文献】特開2016-169693(JP,A)
【文献】特開平2-181100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/247
G21D 3/04
F04B 15/04
F04F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内の高温融体を所定の方向に輸送する高温融体ポンプであって、
前記配管と、
前記配管の途中に設けられる複数の流体ダイオードと、
前記配管が接続され且つ前記高温融体に接するカバーガスが封入されたポンプ本体容器と、
ピストンの往復駆動により発生させた前記カバーガスの往復運動を介して前記ポンプ本体容器内の前記高温融体に振動を伝達させるガス振動発生装置と、
を含んで構成さ
れ、
前記ガス振動発生装置が、前記複数の流体ダイオード及び前記ポンプ本体容器が前記配管と共に収容されている格納容器の外側の、当該格納容器内の温度よりも低温となっている外部環境に配設されている、高温融体ポンプ。
【請求項2】
複数の請求項1に記載の高温融体ポンプと、
前記複数の高温融体ポンプの各ガス振動発生装置による振動の位相を調整する駆動制御装置と、
を含んで構成される、高温融体ポンプシステム。
【請求項3】
前記複数の高温融体ポンプを構成する配管の下流側に配置されて、前記振動が伝達された高温融体の脈動を吸収する脈動調整装置又は2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置を更に含む、
請求項2に記載の高温融体ポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温融体ポンプ、及び高温融体ポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高速炉で用いられるナトリウムポンプについての技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
核融合炉、溶融塩原子炉、溶融金属冷却高速炉など、溶融塩又は溶融金属等(以下、溶融塩及び溶融金属以外の高温の液体を含め「高温融体」と呼ぶ)を冷媒として熱を輸送したり原子炉等を冷却したりする装置では、それらの高温融体を循環するためのポンプ(以下「高温融体ポンプ」と呼ぶ)が必要である。
高温融体ポンプは、極めて温度が高い高温融体を一定の流速以上で輸送しつつ、高温融体ポンプからの高温融体及び高温融体ポンプ内のカバーガスの漏洩を防止するシール構造を具備し、さらには定期的なメンテナンスにも対応できなければならないため、所要の性能を実現できる高温融体ポンプの実現は難易度が高い。
【0005】
高温融体ポンプの最も一般的な方式は、オークリッジ国立研究所の溶融塩実験炉MSREの高温融体ポンプや高速炉の常陽及びもんじゅでもナトリウムポンプとして使用されている、インペラを使用して高温融体を輸送する遠心ポンプ又は斜流ポンプといったターボ型ポンプである。
インペラを回転させるシャフトに軸受が必要不可欠であるものの、高温環境下で安定的に機能する軸受方式の設計や、高温融体及び高温融体ポンプ内のカバーガスの漏洩を防ぐためのシールの設計には相当の工夫が必要となる。さらには、シャフトを回転させるためのモーターが高温下では機能しなくなるため、シャフト長を相当長くするか、特別な冷却システムを検討しなければならない。
【0006】
軸受問題について、MSREではボールベアリング軸受を使用すると共に冷却材を兼ねたオイル潤滑剤を使用している。しかしながら、このオイルが燃料塩に混入するという問題が発生している。オイルの混入は、4年程度の稼働にとどまる実験炉で許容されても、数十年以上の稼働を考えなければならない商用炉では許容することは難しい。
【0007】
一方、常陽やもんじゅにおける、液体ナトリウムに浸かる下部軸受では、この液体ナトリウムを潤滑剤として利用する流体軸受が採用されている。高速炉では液体ナトリウムが冷却材としてのみ使用されるため不純物が混入する可能性が低く、特に問題はないが、溶融塩炉では溶融塩中に核分裂生成物のレアアースやレアメタルが存在する。それらの核分裂生成物は析出し、軸受を損傷させる可能性があり、流体軸受を使用することは適切でない。
【0008】
流体軸受が利用できない場合は、セラミック軸受又は磁気軸受を選択することになるが、セラミック軸受は摺動部の摩耗の問題があり長期安定的な可動に課題がある。一方、磁気軸受は摩擦の問題は解消されるが、磁力で軸受を行うため、200℃以上の高温環境下では使用できない。磁気軸受を使用するためには、200℃未満への冷却が必要である。
【0009】
インペラの駆動装置となるモーターも磁気で駆動するため、200℃以上の高温環境下で使用可能な製品はほとんど存在しない。そのため、モーター部分を200℃未満に冷却する設計が不可欠となる。
【0010】
以上の課題を解決し所要条件を満足できる高温融体ポンプは、極めて複雑な構造とならざるを得ない。軸受やモーター等の駆動装置の冷却のため、高温融体に直接接するインペラと駆動装置とを繋ぐシャフトは相当な長さが必要になり、もんじゅでは7m程度、常陽でも5m程度のシャフト長が必要となっている。
【0011】
そのような複雑な構造の高温融体ポンプはメンテナンスも難易度が高くなり、経済性及び実用性にも様々な困難が生じる。
【0012】
これら諸課題を解決するためには、基本的にポンプ内に可動部分を必要とせず、ポンプ自体をシンプルな構造とし、ほとんどメンテナンスフリーで運用できる高温融体ポンプをいかに実現できるかという発想の根本的な転換が必要である。
【0013】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、高温融体の循環を必要とする装置に利用可能な、より経済性及び実用性の高い高温融体ポンプの実現に係る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の高温融体ポンプでは、ピストンポンプやダイアフロムポンプに類する往復型の容積型ポンプを採用した。これらの往復型の容積型ポンプでは、ピストン又はダイアフロムが往復運動を行って液体を輸送する。往復型の容積型ポンプでは、液体の吸い込みと吐き出しを交互に繰り返すため、一般的な往復型の容積型ポンプと同様に液体を所定の方向に輸送するための仕掛けとして流体ダイオードを備えている。
ただし、一般的な往復型の容積型ポンプではピストン又はダイアフロムが液体に直接接しているが、ダイアフロムの場合は高温融体のように高温の液体で使用可能な材料がなく、ピストンの場合は摺動部が流体軸受と同様に機能するため、溶融塩炉ではターボ型ポンプと同様の問題が発生する。また、ピストンの駆動装置(モーター等)はピストンに連結しているため、前述したターボ型ポンプの場合と同様の高温下でのモーター駆動の問題が発生する。
そこで本発明では、ピストンの往復運動で高温融体を直接輸送するのではなく、ピストンでカバーガスの往復運動を発生させ、その運動エネルギーを高温融体に伝達させ、高温融体の吸い込みと吐き出しを交互に繰り返す動きを発生させ、一般的な往復型の容積型ポンプと同様の機能を実現させるものである。ピストンはカバーガスの往復運動を発生させる装置であるため、必ずしも高温融体の近傍に置く必要はなく、容易に冷却することが可能であり、ピストン摺動部の軸受機構についても様々な方法が選択できる。
したがって、本発明の一態様の高温融体ポンプは、
配管内の高温融体を所定の方向に輸送する高温融体ポンプであって、
前記配管と、
前記配管の途中に設けられる複数の流体ダイオードと、
前記配管が接続され且つ前記高温融体に接するカバーガスが封入されたポンプ本体容器と、
前記カバーガスを介して前記ポンプ本体容器内の前記高温融体に振動を伝達させるガス振動発生装置と、
を含んで構成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温融体の循環を必要とする装置に利用可能な、より経済性及び実用性の高い高温融体ポンプの実現に係る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の高温融体ポンプ、及び高温融体ポンプシステムの一例を示す構成図である。
【
図3】
図2の流体ダイオードの一例であるテスラバルブの拡大断面図である。
【
図4】
図1の3連のエキセントリック機構によりピストンを駆動させるガス振動発生装置における振動圧力の推移の一例を示す図である。
【
図5】
図1のポンプ本体におけるポンプ輸送量推移の一例を示す図である。
【
図6】
図1の3連のエキセントリック機構に代えて、2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置における振動圧力の推移の一例を示す図である。
【
図7】
図6で想定したガス振動発生装置を使用した場合のポンプ本体におけるポンプ輸送量推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下で説明するのは、あくまでも一例であって、本発明の技術的範囲がこれに限られるものでないのは勿論である。
図1は、本実施形態に係る高温融体ポンプ、及び高温融体ポンプシステムの一例を示す構成図である。
本実施例では、溶融塩原子炉プラントを一例に挙げて以下に説明をする。なお、溶融塩原子炉プラントに限らないものとする。核融合炉や高速炉等でも本発明を適用して実施することができるものとする。この他、例えば太陽熱を蓄熱する際に溶融塩を用いる太陽熱発電システム及び高温融体を使用する素材製造プラント等でも本発明を適用して実施できるものとする。
【0018】
<溶融塩原子炉プラントについて>
図1に示す溶融塩原子炉プラントは、格納容器1と、この格納容器1に囲われる溶融塩原子炉2(原子炉)と、同じく格納容器1に囲われる図示しないドレインタンクと、高温融体ポンプシステム3と、熱交換器4と、溶融塩原子炉2の炉心5及び熱交換器4を接続する配管6とを含んで構成される。
【0019】
溶融塩原子炉プラントにおいては、溶融塩原子炉2の炉心5内に後述する燃料塩10が流れると、その際に核分裂反応が起こり、核分裂反応によって発生した熱エネルギーは、熱交換器4を介して取り出される。そして、取り出された熱エネルギーは回転エネルギーに変換され、さらに発電機によって電気エネルギー変換されて発電がなされるようになる。
【0020】
前述の熱交換器4は、核分裂反応によって発生した熱エネルギーを二次系ループの冷却塩に伝えるために備えられる。高温融体ポンプシステム3は、後述する燃料塩10を強制的に対流させるために設けられる。熱交換器4には、冷却塩が流れる二次系ループの配管が接続される。
【0021】
<高温融体ポンプシステム3について>
図1及び
図2を参照しながら高温融体ポンプシステム3について説明する。
図1は前述の通り、本発明の高温融体ポンプ、高温融体ポンプシステム、及び原子炉プラントの一例を示す構成図であり、
図2は、
図1の高温融体ポンプの拡大図である。
【0022】
このような高温融体ポンプシステム3は、複数の高温融体ポンプ(
図1は3つのポンプの事例であり、単体の高温融体ポンプは
図2で示す)と、駆動制御装置8と、脈動調整装置9とを含んで構成される。
高温融体ポンプシステム3は、溶融塩原子炉2と熱交換器4との間で機能し、溶融塩原子炉2から熱交換器4へ向けた方向に燃料塩10を輸送する。
【0023】
<高温融体ポンプについて>
高温融体ポンプは、主としてポンプ本体11と、ガス振動発生装置12とを含んで構成される。また、高温融体ポンプは、必要に応じて脈動調整装置9が含まれる。高温融体ポンプは、ポンプ本体11が格納容器1の内側に配置され、ガス振動発生装置12は格納容器1の外側に配置される。
なお、トリウム溶融塩炉としての使用例では、格納容器1の内側に充填されるカバーガス13の温度は約500℃で保持され、格納容器1の外側となる外部環境14では例えば100℃以下の温度を想定する。
【0024】
[ポンプ本体11について]
ポンプ本体11は、配管15と、流体ダイオード16と、燃料塩10が保持され且つカバーガス17が封入されたポンプ本体容器7とを含んで構成される。ポンプ本体11は、配管19を介してガス振動発生装置12と接続される。
なお、
図1ではポンプ本体11が溶融塩原子炉2と格納容器1との間に位置するように示されるが、ポンプ本体11の位置は特に
図1に限定されないものとする。
【0025】
[配管15について]
配管15は、上流側の第1配管151と、下流側の第2配管152とを含んで構成される。第1配管151は、一方の端部となる配管上流側端部151aが溶融塩原子炉2の上部に接続される。また、第1配管151は、他方の端部151bがポンプ本体容器7の内側に配置される。
図1及び
図2に示す状態にて説明を続けると、第1配管151は、配管上流側端部151aから上方に真っ直ぐ管が伸び、ポンプ本体容器7の上部位置でUターンしてポンプ本体容器7の内部に入り込む。そして、第1配管151の他方の端部151bがポンプ本体容器7の内側下部に配置される。他方の端部151bの側となる第1配管151の途中には、流体ダイオード16が設けられる。
【0026】
第2配管152は、一方の端部152aがポンプ本体容器7の内側下部に配置される。一方の端部152aは、第1配管151の他方の端部151bよりも低い位置に配置される。第2配管152は、一方の端部152aから上方に真っ直ぐ管が伸び、ポンプ本体容器7の上部位置でUターンしてポンプ本体容器7の外部に引き出される。ポンプ本体容器7の外部に引き出された第2配管152の途中には、流体ダイオード16が設けられる。
第2配管152の他方の端部となる配管下流側端部152bが脈動調整装置9を介して熱交換器4に接続される。
【0027】
[流体ダイオード16について]
図3を参照しながら流体ダイオード16について説明する。
図3は、
図1及び
図2の流体ダイオードの拡大断面図の一例である。なお、必要に応じて
図1及び
図2も参照する。
【0028】
流体ダイオード16は、燃料塩10を所定の方向に流すものである。即ち、流体ダイオード16は、所定の方向には液体を流すが、逆方向には全く流さないか僅かな量しか流さない機能を有するものである。流体ダイオード16は、ここではシンプルな構造の「テスラバルブ」又は「逆止弁」が採用される。
図3は、流体ダイオード16を「テスラバルブ」とする場合の一例を示すものであり、配管15と同様の金属製であって、流体ダイオード本体161内に流路162が形成される。流路162は、しずく形のループ163を複数連結したような形状に形成される。このような形状の流路162は、順方向に対してスムーズに燃料塩10を流すものの、逆方向に対しては流れを阻害するような機能を有する。
ポンプ本体容器7の内側の流体ダイオード16は、ポンプ本体容器7内に燃料塩10を流し、ポンプ本体容器7の外側の流体ダイオード16は、熱交換器4に向けて燃料塩10を流すように配置される。
【0029】
[ポンプ本体容器7について]
ポンプ本体容器7は、前述の通り、燃料塩10が保持され且つカバーガス17が封入された金属容器である。ポンプ本体容器7では、燃料塩10に接するカバーガス17で発生した振動が燃料塩10に伝達される。振動は、以下で説明するガス振動発生装置12により発生する。
【0030】
[ガス振動発生装置12について]
ガス振動発生装置12は、カバーガス17の振動を発生させるための装置であって、ピストンを有するピストン部20と、ピストンを上下動させるモーター21とを含んで構成される。ガス振動発生装置12は、駆動制御装置8により制御される。
【0031】
ピストン部20は、ピストンと、シリンダーと、駆動軸と、連接棒とを含んで構成される。ピストン部20は、カバーガス17が封入された金属容器22により囲われる。
前述の図示しない駆動部は、ピストン部20の駆動軸を回転させる装置であって、モーターや配線、電源等を含んで構成される。
【0032】
ガス振動発生装置12は、前述のようなピストン方式以外でも、ガスの振動を発生させることが可能であれば特に限定されないものとする。
【0033】
[脈動調整装置9について]
脈動調整装置9は、熱交換器4に流入する前の燃料塩10を流入させて、燃料塩10に生じた脈動を吸収するためのタンク(調整するタンク)である。脈動調整装置9は、エアチャンバー18等により過剰な脈動を吸収する装置である。
【0034】
<駆動制御装置8について>
駆動制御装置8は、複数の高温融体ポンプの各ガス振動発生装置12による振動の発生状況を管理・調整する装置である。
駆動制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access
Memory)と、入出力部と、記憶部と、通信部及び必要に応じてインバーター等とを含んで構成され、各ガス振動発生装置12の駆動を制御しガス振動の周波数等を制御することで、ポンプ輸送速度を制御する。
【0035】
<高温融体ポンプシステム3の作用について>
カバーガス17で発生した振動は、カバーガス17が接する燃料塩10に伝達され、燃料塩10が溶融塩原子炉2の上部から第1配管151及び流体ダイオード16を流れてポンプ本体容器7内に流入し、この後に第2配管152及び流体ダイオード16を流れて脈動調整装置9に流入する。そして、熱交換器4に流入した後の燃料塩10は、配管6を介して溶融塩原子炉2の下部から炉心5に戻る。
【0036】
<高温融体ポンプシステム3における脈動の解消について>
図4乃至
図7を参照しながら位相調整による脈動の解消方法について説明する。なお、必要に応じて
図1乃至
図3も参照する。
図4は、
図1の3連のエキセントリック機構によりピストンを駆動させるガス振動発生装置における振動圧力の推移の一例を示す図である。
また、
図5は、
図1のポンプ本体におけるポンプ輸送量推移の一例を示す図であり、3つのポンプの輸送量を重ね合わせた全体の輸送量が実線で示されている。ガス振動発生装置12内ではエキセントリック機構によりピストンを駆動させ、3つのピストンが3分の1回転ずつ、ずれて連動して動くため、振動圧力はそれぞれ正弦曲線を描いて推移する。
図2に示すように、それぞれのポンプではテスラバルブ(流体ダイオード16)を使用しているので、ガス振動発生装置12からの振動圧力が正圧の場合は燃料塩10の大量の輸送が発生し、負圧の場合はわずかに燃料塩10の逆流が発生する。3つのポンプ本体11からのポンプ輸送量は、全体としては
図5のような波形で重なり、脈動調整装置9に流れ込む燃料塩10のポンプ輸送量の脈動はかなり軽減される。理論的な計算値では、平均のポンプ輸送量に対する脈動の割合は±7%程度である。
この3連の高温融体ポンプによる方式では、完全に脈動を解消できないが、脈動調整装置9によって更に相当程度の脈動を吸収させることができる。
【0037】
図6は、
図1の3連のエキセントリック機構に代えて、2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置における振動圧力の推移の一例を示す図である。
また、
図7は、
図6で想定したガス振動発生装置を使用した場合のポンプ本体におけるポンプ輸送量推移の一例を示す図である。
脈動をほぼ完全に解消する必要がある場合には、
図1の3連のエキセントリック機構に代えて、2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置を利用して、
図6のような振動圧力の変動を発生させる方法が考えられる。テスラバルブ(流体ダイオード16)を使用することにより発生する逆流量に相当する正圧が加算されるようなピストンの動きをカムに組み込んでおくことにより、
図7に示すように、2つのポンプ本体から輸送されてくる高温融体のポンプ輸送量全体では、ほぼ脈動が解消される。この場合の脈動調整装置9には、エアチャンバー18を特に設置しなくても良い。
なお、脈動解消については、上記の方法のみに限定するものではなく、その他の方法での脈動解消の手段を利用することもできる。
【0038】
<効果>
以上、
図1乃至
図7を参照しながら説明してきたように、燃料塩10が保持されているポンプ本体11は、極めて単純な構造のポンプを提供することができ、特に、流体ダイオード16にテスラバルブを使用した場合は、ポンプ本体11を可動部分の無い極めて単純な構造とすることができる。
ポンプ本体11の構造が極めて単純であることから、例えば故障の原因を限定し易くすることができ、基本的にメンテナンスフリーで設計することもできる。また、メンテナンス対象が格納容器1の外側のガス振動発生装置12のみになることから、メンテナンスの負荷を格段に低下させることもできる。
【0039】
高温融体ポンプは、前述の構成及び構造から分かるように、公知のターボ型ポンプに比べてポンプの構造を極端に単純化することができる。特にポンプ本体11は、配管15、流体ダイオード16及びポンプ本体容器7のみで構成されることから、部品点数を大幅に削減することができる。
高温融体ポンプは、ガス振動発生装置12が格納容器1の外側に配置されることから、図示しない冷却構造を単純化することができ、結果、部品点数を削減することができる。
以上のことから、ターボ型ポンプに比べると、高温融体ポンプでは相当程度のコストダウンを期待することができる。
【0040】
高温融体ポンプは、ガス振動発生装置12を、格納容器1の内側に配置されるポンプ本体11から任意の位置に遠ざけることが可能である。そのため、公知のターボ型ポンプに比べてガス振動発生装置12の図示しない駆動部の冷却が容易になり、結果、相当程度の高温の高温融体であっても対応することができる。
また、高温融体ポンプは、流体軸受等を使用しない構造であるため、流体ダイオード16にテスラバルブを使用した場合には、流路162よりも相当程度小さな大きさであれば、微細な固形物が混入する高温融体にも適用することができる。
【0041】
<まとめ>
以上、
図1乃至
図7を参照しながら説明してきたように、高温融体の循環を必要とする装置に利用可能な、より経済性及び実用性の高い高温融体ポンプの実現に係る技術を提供することができるという効果を奏する。
【0042】
本発明の一実施形態及び他の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されないものとする。また、実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果の列挙に過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載されたものに限定されないものとする。
【0043】
本発明が適用される高温融体ポンプは、次のような構成を取れば足り、各種各様な実施形態を取ることができる。
即ち、(1)本発明が適用される高温融体ポンプ(例えば、
図1の高温融体ポンプ)は、
配管(例えば、
図1の配管15)内の高温融体(例えば、
図1の燃料塩10)を所定の方向に輸送する高温融体ポンプであって、
前記配管と、
前記配管の途中に設けられる複数の流体ダイオード(例えば、
図1の流体ダイオード16)と、
前記配管が接続され且つ前記高温融体に接するカバーガス(例えば、
図1のカバーガス17)が封入されたポンプ本体容器(例えば、
図1のポンプ本体容器7)と、
前記カバーガスを介して前記ポンプ本体容器内の前記高温融体に振動を伝達させるガス振動発生装置(例えば、
図1のガス振動発生装置12)と、
を含んで構成される、ことを特徴とする。
【0044】
本発明によれば、高温融体の循環を必要とする装置に利用可能な、より経済性及び実用性の高い高温融体ポンプを実現することができるという効果を奏する。
【0045】
また、(2)本発明が適用される高温融体ポンプシステム(例えば、
図1の高温融体ポンプシステム3)は、
複数の請求項1に記載の高温融体ポンプと、
前記複数の高温融体ポンプの各ガス振動発生装置による振動の位相を調整する駆動制御装置(例えば、
図1の駆動制御装置8)と、
を含んで構成される、ことを特徴とする。
【0046】
本発明によれば、高温融体の循環を必要とする装置に利用可能な、より経済性及び実用性の高い高温融体ポンプを含む高温融体ポンプシステムを実現することができるという効果を奏する。
【0047】
また、(3)本発明が適用される高温融体ポンプシステムは、(2)の高温融体ポンプシステムにおいて、
前記複数の高温融体ポンプを構成する配管の下流側に配置されて、前記振動が伝達された高温融体の脈動を吸収する脈動調整装置(例えば、
図1の脈動調整装置9)を更に含む、ことを特徴とする。
また、
図1の3連のエキセントリック機構に代えて、2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置を利用する方法を更に含む、ことを特徴とする。
【0048】
本発明によれば、配管の下流側に脈動調整装置が配置されることにより、又は3連のエキセントリック機構に代えて、2連のカム機構によるピストン駆動のガス振動発生装置が設置されることにより、高温融体に生じた脈動を吸収することができるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0049】
1・・・格納容器
2・・・溶融塩原子炉(原子炉)
3・・・高温融体ポンプシステム
4・・・熱交換器
5・・・炉心
6・・・配管
7・・・ポンプ本体容器
8・・・駆動制御装置
9・・・脈動調整装置
10・・・燃料塩
11・・・ポンプ本体
12・・・ガス振動発生装置
13・・・カバーガス
14・・・外部環境
15・・・配管
151・・・第1配管
151a・・・配管上流側端部
151b・・・他方の端部
152・・・第2配管
152a・・・一方の端部
152b・・・配管下流側端部
16・・・流体ダイオード
161・・・流体ダイオード本体
162・・・流路
163・・・しずく形のループ
17・・・カバーガス
18・・・エアチャンバー
19・・・配管
20・・・ピストン部
21・・・モーター
22・・・金属容器