(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/26 20060101AFI20250128BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20250128BHJP
A23L 23/10 20160101ALN20250128BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20250128BHJP
A23L 7/10 20160101ALN20250128BHJP
【FI】
A21D2/26
A23L7/104
A23L23/10
A23L9/20
A23L7/10 B
(21)【出願番号】P 2020152754
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】500015984
【氏名又は名称】清田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-014230(JP,A)
【文献】特開2000-236802(JP,A)
【文献】特開2004-008007(JP,A)
【文献】特開2000-175636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物
又は芋
類からなる原材料を利用
し、別途ペクチンを添加することなく製造する食品
において、常温、冷蔵又は冷凍にて保存した後に、保存後の当該食品に対して電子レンジによる加熱をすることなく食した際の食味及び/又は食味安定性を改良するための食品性能改良剤であって、
酵素としてペクチナーゼを含有することを特徴とする食品性能改良剤。
【請求項2】
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする請求項1に記載の食品性能改良剤。
【請求項3】
前記穀物
又は芋
類からなる原材料は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品性能改良剤。
【請求項4】
穀物
又は芋
類からなる原材料を利用
し、別途ペクチンを添加することなく製造する食品
において、常温、冷蔵又は冷凍にて保存した後に、保存後の当該食品に対して電子レンジによる加熱をすることなく食した際の食味及び/又は食味安定性を改良する食品の製造方法であって、
前記穀物
又は芋
類からなる原材料は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有しており、
前記穀物
又は芋
類からなる原材料又は仕掛工程品に酵素としてペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品において、前記酵素を賦活化する賦活工程とを有し、
前記賦活工程において、前記食品に含まれるペクチンを改質することを特徴とする食品の製造方法。
【請求項5】
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする請求項
4に記載の食品の製造方法。
【請求項6】
前記賦活工程には、前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれ、
前記加熱工程において、前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、15℃~75℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする請求項
4又は
5に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食味や食味安定性などの食品の性能を改良するための食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品業界において、食味改良など食品の性能を向上させることは重要なテーマである。例えば、パンや焼き菓子などの小麦粉製品においては、製造時のしっとりした食感やサクサクした食感などが求められる。これらの良好な食感を出す方法としては、例えば、加工デンプンを加えるなどの方法がある。しかし、この方法では食感変化が十分ではなく、また加工デンプン表示を必要として、消費者に敬遠されるという問題があった。
【0003】
また、製造時に良好であった食味や改良した食味が、経時的に変化するということも重要なテーマである。例えば、パンや焼き菓子などの小麦粉製品においては、製造後の保管時に食感が硬くなるという問題がある。これは、調理段階においてα化していた小麦粉のデンプンが、経時的にβ化するいわゆる老化によるものと考えられている。この点においては、製造時に加工デンプンを併用しても老化が進み改善が必要とされていた。
【0004】
また、水分を多く含有する食品も、日持ちしにくいものとされる。例えば、パン、冷蔵保存されるスフレチーズケーキやシュー皮、常温で保管されるパウンドケーキなどは、水分活性Aw(食品の保存性の指標)が0.7以上あり、日持ちしにくい食品とされる。更に、これら水分を多く含む食品も、だんだんと硬くなる老化が認められるため、食感をしっとりと保ち続けることが要求される。
【0005】
一方、小麦粉製品に限らず米製品においても同様の問題がある。例えば、炊飯後の米飯は、もちもちとして、みずみずしく良好な食味を有している。しかし、米飯も炊飯後に経時的に食感が固くなり食味が低下する。これもデンプンのβ化による老化によるものと考えられている。
【0006】
米飯の炊飯後の良好な食感を経時的に維持する方法として、pH調整剤、炊飯油、デンプン改質酵素(α-アミラーゼ)などを併用する方法が行われている。しかし、食感変化が十分ではなく、また違和感のある呈味が付与される、食品添加物表示を必要とするなどの問題があった。なお、デンプン改質酵素による方法は、多く検討され一定の評価があるものの、冷蔵時の老化に関しては十分なものではなかった。
【0007】
また、下記特許文献1において、新規デンプン性組成物およびその製造方法が提案されている。この方法は、デンプン中のアミロースおよびアミロペクチンの含有量を、酵素処理によって人為的に変化させることを意図したものである。すなわち、デンプンからアミロースのみを除去すれば、より老化し難いデンプンが生成されるとする。この方法によれば、単にα-アミラーゼで処理するのではなく、デンプン中のアミロースおよびアミロペクチンに対して独特の作用を有する酵素でデンプンを処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献1においては、従来のα-アミラーゼとは異なる特殊な酵素を使用しなければならない。また、実施例の食品への応用においては、わらび餅、炊飯米、及び、餅への効果について説明するが、製造直後の食感を官能評価するものであって経時的な老化に関する評価が行われていない。
【0010】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、穀物又は芋類からなる原材料を利用する食品の製造後の食味を改良すると共に、経時的な食味安定性を改良することのできる食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、穀物又は芋類からなる原材料に含まれるペクチンに着目し、これを改質する特定の酵素を併用することにより食品の食味と食味安定性を改良できることを見出して本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る食品性能改良剤は、請求項1の記載によれば、
穀物又は芋類からなる原材料を利用し、別途ペクチンを添加することなく製造する食品において、常温、冷蔵又は冷凍にて保存した後に、保存後の当該食品に対して電子レンジによる加熱をすることなく食した際の食味及び/又は食味安定性を改良するための食品性能改良剤であって、
酵素としてペクチナーゼを含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の食品性能改良剤であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の食品性能改良剤であって、
前記穀物又は芋類からなる原材料は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る食品の製造方法は、請求項4の記載によれば、
穀物又は芋類からなる原材料を利用し、別途ペクチンを添加することなく製造する食品において、常温、冷蔵又は冷凍にて保存した後に、保存後の当該食品に対して電子レンジによる加熱をすることなく食した際の食味及び/又は食味安定性を改良する食品の製造方法であって、
前記穀物又は芋類からなる原材料は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有しており、
前記穀物又は芋類からなる原材料又は仕掛工程品に酵素としてペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品において、前記酵素を賦活化する賦活工程とを有し、
前記賦活工程において、前記食品に含まれるペクチンを改質することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項4に記載の食品の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項4又は5に記載の食品の製造方法であって、
前記賦活工程には、前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれ、
前記加熱工程において、前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、15℃~75℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、本発明に係る食品性能改良剤は、穀物又は芋類からなる原材料を利用し、別途ペクチンを添加することなく製造する食品において、常温、冷蔵又は冷凍にて保存した後に、保存後の当該食品に対して電子レンジによる加熱をすることなく食した際の食味及び/又は食味安定性を改良する。また、このペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であってもよい。また、穀物又は芋類からなる原材料には、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有していてもよい。これらのことにより、穀物又は芋類からなる原材料を利用する食品の製造後の食味を改良すると共に、経時的な食味安定性を改良することのできる食品性能改良剤及びこれを用いた食品を提供することができる。
【0020】
また、上記構成によれば、本発明に係る食品の製造方法は、付与工程と賦活工程とを有している。付与工程においては、穀物又は芋類からなる原材料又は仕掛工程品に酵素としてペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する。また、賦活工程においては、食品に含まれるペクチンを改質する。ここで、穀物又は芋類からなる原材料は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有しており、賦活工程において、このペクチンを改質する。
【0021】
また、上記構成によれば、ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であってもよい。また、賦活工程には、付与工程後の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれていてもよい。この加熱工程において、食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、15℃~75℃の温度範囲で加熱処理を施すようにしてもよい。これらのことにより、穀物又は芋類からなる原材料を利用する食品の製造後の食味を改良すると共に、経時的な食味安定性を改良することのできる食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において食味や食味安定性を改良する食品は、穀物又は芋類からなる原材料を利用している。ここで、穀物(豆類を含む)とは、一般にはイネ科の植物及びマメ科、タデ科の植物を指し、デンプン質を主体とする種子を食用とする物と定義される。例えば、小麦、大麦、イネ(米)、蕎麦、アワ、キビ、ヒエ、トウモロコシ、その他の豆類などが挙げられる。また、芋類には、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、コンニャクイモ、タロイモ、サトイモ、ヤムイモ、その他多くのものが挙げられる。
【0023】
これらの穀物又は芋類は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有している。本発明に係る食品性能改良剤が含有するペクチナーゼは、このペクチンに作用する。特に、ペクチナーゼが有するペクチンメチルエステラーゼは、デンプンと共に含まれるペクチンを基質として、ペクチン分子鎖を分解することなく、メトキシル基を脱メチル化してカルボキシル基とする。よって、本発明においては、デンプンと共に含まれるペクチンを低メチルエステル含量の多い(ガラクツロン酸含量の多い)ペクチンに改質することができる。
【0024】
本発明において使用するペクチナーゼは、粗酵素の状態であってもよく、複合酵素のペクチナーゼであってもよい。また、ペクチンメチルエステラーゼとして分画された酵素でもよい。なお、ペクチナーゼを使用する場合には、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼなどの複合酵素を使用することもできる。なお、本発明においては、特にペクチンメチルエステラーゼ活性の強い酵素を使用することが好ましい。
【0025】
また、本発明において使用するペクチナーゼは、その基原を特に限定するものではない。ペクチナーゼの基原としては、例えば、Aspergillus kawachii、Aspergillus usamii mutant shirousamii、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus tamarii、Aspergillus niger、Aspergillus awamori、Aspergillus pulverulentus、Aspergillus aculeatus、Trichoderma viride、Rhizopus oryzaeなどが挙げられる。
【0026】
なお、本発明においては、食品の製造段階(調理段階)の材料にペクチナーゼ、特にペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素を含有する食品性能改良剤を付与し、調理の際に材料を馴染ませ酵素を賦活する段階(賦活工程)で酵素活性が発現するものと考えられる。本発明において、賦活工程とは、所定のpHや温度によって酵素機能が発現する状態をいう。従って、必ずしも酵素の至適pH付近や至適温度付近である必要はない。例えば、0℃~15℃の温度範囲、或いはそれ以上の温度範囲や、逆に0℃以下の温度範囲であってもよい。
【0027】
また、賦活工程には、酵素付与後の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれていてもよい。賦活工程中の加熱工程においては、特に酵素の至適pH付近や至適温度付近が含まれることとなり、酵素活性がより発現するものと考えられる。従って、加熱処理においては、15℃~75℃の温度範囲、より好ましくは25℃~65℃の温度範囲で加熱処理を施すことがよい。なお、75℃を超える温度での加熱処理においては、役割を終えた酵素を失活させる効果を持たせることもできる。
【0028】
ここで、ペクチナーゼの基質であるペクチンは、本発明の対象である食品の材料(穀物又は芋類からなる原材料)にデンプンと共に含まれることがある。これらのデンプンと共にペクチンを含むものとしては、例えば、小麦デンプン、米もちデンプン、米うるちデンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、サツマイモデンプン、タピオカデンプンなどが挙げられる。
【0029】
なお、食品の原材料中にデンプンとペクチンが併存していることに関しては、多くの文献がある。植物壁の1次細胞壁は、セルロース微繊維の骨格をキシログルカンが架橋し、その間にペクチンが充填されている。このことから、小麦フスマや米ヌカ中には、多くのペクチンが含まれている。また、小麦の表皮、胚芽、胚乳の全てを粉にした全粒小麦はもちろん、胚乳のみを粉にした小麦粉にもペクチンが含まれている。また、米ヌカを除いた精米には、総ペクチンが0.44%、不溶性ペクチンが0.22%含まれているという報告もある(家政学会誌 Vol.21 No.2 P.92-94(1970))。
【0030】
なお、本発明は、デンプンとペクチンが併存していない場合(例えば、精製デンプンなど)、或いは、食品の原材料の種類や精粉法によってデンプン量に対して極少量しかペクチンが併存していない場合に対しても有効である。これらの場合には、人為的にペクチンを添加するなどすることが好ましい。
【0031】
また、食品性能改良剤には、ペクチナーゼ以外に、他の添加剤を併用することができる。例えば、酵素活性を阻害しないと考えられるデキストリン、マルトトリオース、マルトースなどのα-グルカン類を併用してもよい。
【0032】
本発明に係る食品性能改良剤を食品の製造に使用することにより、食品の食味が改良され、食味安定性が改良される。食品性能改良剤の効果については、後述する各実施例において詳細に説明するが、例えば、食味改良については、常温保管の焼き菓子や生洋菓子の焼成後の嵩、しっとり感などが向上し、焼き菓子のサクサク感、粉っぽさなどが向上する。また、食味安定性の改良については、パンの焼き上がりのしっとり感が経時的に維持され、米飯や団子の保水性、もちもち感、表面のやわらかさなどが経時的に維持される。
【0033】
本発明による食品の食味改良については、上述のデンプンのβ化による老化の防止では説明がつかない。また、経時的な食味安定性の改良についても、デンプンのβ化による老化の防止だけによるものか否かは明確ではない。しかし、本発明者は、次のように考えている。デンプンと併存するペクチンが、ペクチナーゼ、特にペクチンメチルエステラーゼ活性の作用を受けて、メトキシル基を脱メチル化してカルボキシル基となりペクチン酸となる。このようにして、ペクチンが低メチルエステル含量の多い(ガラクツロン酸含量の多い)ペクチンに改質される。その結果、デンプンと併存するペクチンは、負電荷が増加してより親水性となる。また、静電的な反発力の増大によりデンプン中のアミロースやアミロペクチン、特にアミロース同士の水素結合を阻害するなどの作用により本発明の効果が発現するのではないかと考えている。
【0034】
次に、本発明に係る食品性能改良剤を使用した食品及びその製造方法について、各実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例にのみ限定されるものではなく、ここに挙げた具体的な食品にのみ限定されるものではない。
【0035】
また、以下の各実施例においては、ペクチナーゼとして、Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)より産生されたペクチナーゼを使用した。このペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素(以下、各実施例において「PME」という)であって、ポリガラクツロナーゼ活性、ペクチンリアーゼ活性を殆ど含まず、ペクチンメチルエステラーゼ活性の強い酵素であった。この酵素は、至適pH4.5、至適温度50℃であって、ペクチンメチルエステラーゼ活性(力価)を1分間にペクチンのメチルエステルを分解して1μmolのカルボキシル基を生成する酵素活性単位(PMEU)と定義した。
【0036】
なお、本発明における食品性能改良剤の使用量は、食品中のデンプンの使用量とそのデンプンと併存するペクチンの量などによって変化する。そこで、食品性能改良剤のペクチンメチルエステラーゼ活性(PMEU)によって調整する。なお、本発明においては、食品性能改良剤の添加量を特に限定するものではない。例えば、デンプン1g当たり0.02PMEU以上であればよく、0.05PMEU以上であることが好ましく、更に0.1PMEU以上であることがより好ましい。
【実施例1】
【0037】
本実施例1は、生洋菓子(スフレチーズケーキ)を対象とするものであり、小麦粉を含む生洋菓子に対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。スフレチーズケーキは、水分活性Aw(食品の保存性の指標)が0.9~0.8程度と高く、小麦粉の粉っぽさやその食感が不良という課題がある。
【0038】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、牛乳297gに薄力粉119g、卵黄77g、グラニュー糖18g、クリームチーズ190g、マーガリン47gを混合して材料を調整した。調整した材料を8区分して、実施例1a~1dの4試料には、それぞれ、小麦粉1g当たり0.002、0.01、0.05、0.3PMEUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例1a~1dの4試料は、それぞれ、無添加(1a)、薄力粉2%減・牛乳2%増(1b)、薄力粉2%減・マーガリン2%増(1c)、α-アミラーゼ0.3Unit添加(1d)とした。調整した各材料に、別に立てたメレンゲ(卵白148g+グラニュー糖104g)を追加し、スフレチーズケーキの生地を得た。
【0039】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、各試料の生地を50gずつカップに流し、170℃で27分間焼成して実施例1a~1d及び比較例1a~1dの8試料のスフレチーズケーキを作製した。なお、本実施例1においては、生地の調整時から常温~170℃の焼成時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0040】
3.評価
本実施例1においては、スフレチーズケーキの焼成後、16時間冷蔵した後に見た目(出来上がった製品の高さ(嵩))と、官能評価による食感(しっとり感)を点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、しっとり感とは、表面がしっとりしており、舌にざらつきを感じにくい状態とし、評点が高いほどしっとり感が良好であり好ましい。また、総合評価として、評価項目の2項目の合計が7点以上をA、6点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1から分かるように、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例1a~1dの全ての試料において、総合評価A又はBと判断された。特に、0.01PMEU以上添加した実施例1b~1dについては、総合評価Aという高い評価を得た。これに対して、比較例1a~1dの全ての試料において、総合評価Cという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、スフレチーズケーキの食味改良に対して良好な効果を得ることが確認された。
【実施例2】
【0043】
本実施例2は、焼き菓子(クッキー)を対象とするものであり、小麦粉を含む焼き菓子に対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。クッキーは、水分活性Awが0.6~0.5程度と低く、小麦粉のサクサク感が不良となる課題がある。
【0044】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、マーガリン260gと上白糖180gを混合し、これに全卵を70g混合し、更に薄力粉500gを混合して生地を調整した。調整した材料を9区分して、実施例2a~2dの4試料には、それぞれ、小麦粉1g当たり0.002、0.01、0.05、0.3PMEUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例1a~1eの5試料は、それぞれ、無添加(2a)、薄力粉10%を加工デンプンに置換(2b)、薄力粉10%をコーンスターチに置換(2c)、全卵7%減・薄力粉7%増(2d)、α-アミラーゼ0.3Unit添加(2e)とした。
【0045】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、各試料の生地を型抜きして、オーブンにて170℃で13分間焼成して実施例2a~2d及び比較例2a~2eの9試料のクッキーを作製した。なお、本実施例2においては、生地の調整時から常温~170℃の焼成時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0046】
3.評価
本実施例2においては、クッキーの焼成後、常温に冷やした後に生地物性(出来上がったクッキーの成型性)と、官能評価による食感(サクサク感と粉っぽさがない)を点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、サクサク感とは、噛み込んだ際にすぐに崩壊する食感であり、評点が高いほどサクサク感が良好であり好ましい。また、粉っぽさがないとは、崩壊した後舌にざらつきを感じにくい状態である。評点が高いほど粉っぽさがなく良好であり好ましい。また、総合評価として、生地物性と官能評価の3項目の合計が10点以上をA、8点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
表2から分かるように、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例2a~2dの全ての試料において、総合評価Aという高い評価を得た。これに対して、比較例2a~2dの試料において総合評価C、比較例2eにおいても総合評価Bという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、クッキーの食味改良に対して良好な効果を得ることが確認された。
【実施例3】
【0049】
本実施例3は、パンを対象とするものであり、小麦粉を含むパンに対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。パンは、水分活性Awが高く、経時的な老化による食感低下という課題がある。また、加水時の生地物性という課題がある。
【0050】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、強力粉(スーパーカメリア)371gにイースト(サフ・イースト赤)を7g、市水220gをモルダーに投入し、低速で3分間混合し、中速で1分間混合して生地を得た。その後、生地を温度28℃、湿度78%にて、2時間ホイロにて発酵させ中種を得た。その後、中種に、強力粉159.4g、55g、脱脂粉乳10g、食塩10g、水146.2gを添加した。ここで、実施例3の試料には、小麦粉1g当たり0.03PMEUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例3の試料には、何も添加していない。本捏ねは、低速30秒、中速3分行ったところで、マーガリン21gを添加した。その後、低速で1分混合し、4分間中速で更に捏ねた。
【0051】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、得られた生地を、24℃で20分寝かし、その後生地を成型したのち、再度24℃で20分寝かし、丸めて成型した。更に、ホイロに生地を入れ、温度38℃、湿度85%にて53分発酵させた。発酵後、焼成条件210℃で27分間焼成して実施例3及び比較例3の2試料のパンを作製した。なお、本実施例3においては、生地の調整時(本捏ねと寝かし)及び常温~210℃の焼成時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0052】
3.評価
本実施例3においては、パンの焼成後、1日後と3日後の食感(しっとり感)を官能評価により点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、しっとり感とは、表面がしっとりしており、舌にざらつきを感じにくい状態とし、評点が高いほどしっとり感が良好であり好ましい。また、総合評価として、官能評価が4点以上をA、2.5点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
表3から分かるように、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例3の試料において、焼成1日後に総合評価Aという高い評価を得た。また、焼成3日後においても総合評価Bという評価を得た。これに対して、比較例3の試料においては、焼成1日から総合評価Cという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、パンにしっとり感が付与され、また経時的な老化も抑制されている。
【実施例4】
【0055】
本実施例4は、小麦粉を含むカレールーを対象とするものであり、小麦粉を含むカレールーに対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。カレールーを作製後に放置した場合、表面に幕が生じて、なめらかな食感がなくなってしまうという課題がある。
【0056】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、サラダ油を熱し、玉ねぎ、にんにく、しょうがを入れ、炒める。別にバターを加熱し、薄力粉を加え茶色に色づくまで炒める。先に炒めた玉ねぎ等とクミンパウダー等調味料を入れ混合する。ここで、実施例4の試料には、小麦粉1g当たり0.03PMEUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例4aの試料には何も添加せず、比較例4bの試料にはα-アミラーゼ0.03Unitを添加した。
【0057】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、各カレールーを通常の方法に従って100℃前後で20分加熱して、実施例4及び比較例4a、4bのカレールーを作製した。なお、本実施例4においては、カレールーの調整時から常温~100℃の加熱時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0058】
3.評価
本実施例4においては、カレールーの作製後、冷蔵庫(4℃)で1日保管し、表面に膜が張ったところで評価した。なお、実施例と比較例のいずれの試料においても表面に膜が張るが、カレールーの物性(粘性)と喫食による官能評価(膜のやわらかさ、内部の滑らかさ)を点数化して評価した。官能評価に関しては、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、膜のやわらかさは、表面の膜が殆どなく滑らかな状態とし、評点が高いほど膜がなく滑らかで好ましい。また、内部の滑らかさとは、カレールーの膜の下の部分を喫食評価したときに感じる滑らかさであり、評点が高いほど滑らかさが良好であり好ましい。また、評価項目の3項目の合計が10点以上をA、8点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表4に示す。
【0059】
【0060】
表4から分かるように、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例4の試料は、総合評価Aという高い評価を得た。実施例4の試料においては、カレールーとしての粘性はありつつも、表面の膜がほとんど形成されず柔らかく、内部の滑らかさも際立っていた。
【0061】
これに対して、比較例4a、4bの試料は、総合評価Cという結果であった。比較例4aの無添加の試料においては、1日保管後に表面に膜が張り、内部のざらつきが感じられた。また、比較例4bのα-アミラーゼ添加の試料においては、膜が殆ど形成されず柔らかいが、そもそもカレールーとしての粘性がなくなっており、カレールーとしての使用に耐えるものではなかった。
【0062】
このことにより、PME含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、カレールーの食味安定性の改良に対して良好な効果を得ることが確認された。また、カレールー以外の小麦粉や米粉を含有する粘性のあるソース(例えば、クリームコロッケ)等に使用することで、粘度低下を引き起こすことなく、内部の滑らかさを得ることが可能となる。また表面の膜形成を抑制できる。
【実施例5】
【0063】
本実施例5は、カスタードフィリングを対象とするものであり、小麦を含むカスタードフィリングに対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。ここでは、カスタードフィリングに滑らかな食感を向上させるという課題がある。
【0064】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、卵黄13%、牛乳64%、グラニュー糖15%、デンプン8%を混合する。なお、使用するデンプンは、実施例5、比較例5a、5cにおいては薄力粉を使用し、比較例5bにおいては加工デンプン(リン酸架橋デンプン)を使用した。また、実施例5の試料には、小麦粉1g当たり0.03PMEUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例5a、5bの試料には何も添加せず、比較例5cの試料にはα-アミラーゼ0.03Unitを添加した。
【0065】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、各試料を通常の方法に従って100℃前後で20分加熱して、実施例5及び比較例5a、5b、5cのカスタードフィリングを作製した。なお、本実施例5においては、材料の調整時から常温~100℃の加熱時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0066】
3.評価
本実施例5においては、カスタードフィリングの作製後に冷凍保存し、解凍後に評価した。まず、カスタードフィリングの物性(粘性と高さ)をへらで混ぜ確認した。また、喫食による官能評価として、内部の滑らかさ、味(デンプンの異風味がない)を点数化して評価した。官能評価に関しては、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。
【0067】
ここで、内部の滑らかさとは、舌にあたる食感が滑らかな状態とし、評点が高い方が膜もなく滑らかで好ましい。また、味(デンプンの異風味がない)とは、デンプン特有の風味や呈味がない状態とし、評点が高いほうが好ましい。更に、冷蔵/冷解凍時の離水抑制についても評価した。また、総合評価として、評価項目の5項目の合計が15点以上をA、それ以外をCとした。評価結果を表5に示す。
【0068】
【0069】
表5から分かるように、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例5の試料は、総合評価Aという高い評価を得た。実施例5の試料においては、PMEが小麦中のペクチンに作用して保水性を上げるため、滑らかさや冷解凍時の離水が抑えられるものと考えられる。
【0070】
これに対して、比較例5a、5b、5cの試料は、総合評価Cという結果であった。比較例5aの無添加の試料においては、薄力粉を使用しておりデンプンの異風味はないが、冷解凍時や長期保管時に離水を生じやすい。また、比較例4bの無添加の試料においては、加工デンプン(リン酸架橋デンプン)を使用しており離水抑制効果は良好なものの、デンプンの異風味を生じ、またカスタードフィリングを炊いたあと高さが出辛い。また、比較例4cのα-アミラーゼ添加の試料においては、粘度が大幅に低下し、カスタードフィリングとしての体をなさない。
【0071】
このことにより、PME含有の食品性能改良剤を小麦粉使用のカスタードフィリングに使用することで、粘度低下や高さの低下を引き起こすことなく、内部の滑らかさを得ることが可能となり、カスタードフィリングの食味改良に対して良好な効果を得ることが確認された。
【実施例6】
【0072】
本実施例6は、炊飯米飯を対象とするものであり、米飯に対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。水分活性Awの高い米飯には、冷蔵時の硬さ抑制と、炊飯後の釜内での加熱劣化による硬さ抑制という2つの課題がある。
【0073】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、生米(あいちのかおり)150gを水洗し、その後、水と米の合計が375gになるように150%加水量で水に浸けた。このように調整した実施例6の試料には、生米1g当たり0.03PMEUの食品性能改良剤を添加した。また、比較例6の試料は、無添加とした。
【0074】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、実施例6及び比較例6の各試料を市販の電気炊飯器(電気釜)の通常の炊飯モードにて炊飯を行った。なお、本実施例6においては、食品性能改良剤を添加してから常温~100℃の炊飯時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0075】
3.評価
本実施例6においては、米飯の食感の経時変化を電気釜内の劣化(加熱劣化)と冷蔵庫内の劣化(冷蔵劣化)の両方で確認した。電気釜内の劣化の確認としては、炊飯後の各試料を電気釜の保温モードにて保管し、4時間後、6時間後の食感を確認した。一方、冷蔵庫内の劣化の確認としては、炊飯直後の各試料に酢を混ぜ、その後プラスチック容器に移し、冷蔵庫(4℃)にて保管し、16時間後、24時間後の食感を確認した。食感の評価は、保水感、もちもち感、表面のやわらかさ、の3項目を官能評価により点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。
【0076】
ここで、保水感とは、表面がみずみずしいが、米粒が水を抱きかかえている状態とし、評点が高いほど方保水感が良好であり好ましい。もちもち感とは、噛み込んだ際に歯に感じるもちもちとした反発力とし、評点が高い方がもちもち感が良好であり好ましい。表面のやわらかさとは、噛み初めに歯に感じる反発力がないこととし、評点が高いほどやわらかさが良好であり好ましい。また、総合評価として、官能評価の3項目の合計が12点以上をA、8点以上をB、それ以外をCとした。評価結果として、電気釜内の劣化(加熱劣化)を表6に示し、冷蔵庫内の劣化(冷蔵劣化)を表7に示す。
【0077】
【0078】
表6から分かるように、加熱劣化を評価する電気釜内での保管において、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例6の試料は、釜内保管4時間後において総合評価Aという高い評価を得た。また、釜内保管6時間後においても総合評価Bという評価を得た。これに対して、比較例6の試料は、釜内保管4時間後及び6時間後のいずれにおいても総合評価Cという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤を米飯に使用することで、加熱劣化に対しても良好な効果を得ることが確認された。
【0079】
【0080】
表7から分かるように、冷蔵劣化を評価する冷蔵庫内での保管において、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例6の試料は、冷蔵保管16時間後及び24時間後のいずれにおいても総合評価Bという評価を得た。これに対して、比較例6の試料は、冷蔵保管16時間後及び24時間後のいずれにおいても総合評価Cという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤を米飯に使用することで、冷蔵劣化に対しても良好な効果を得ることが確認された。
【実施例7】
【0081】
本実施例7は、団子を対象とするものであり、モチ米粉を含む団子に対するPME含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。水分活性Awの高い団子には、冷蔵時の硬さ抑制という課題がある。
【0082】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、もち米粉100gに対して水を100g添加しよく混ぜ、実施例7の試料には、もち米粉1g当たり0.03PMEUの食品性能改良剤を添加して団子状に成型した。また、比較例7の試料は、無添加として団子状に成型した。
【0083】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、鍋に沸騰水を用意し、実施例7及び比較例7の各試料を入れて8分煮込んだ後、氷水にて急冷した。なお、本実施例7においては、食品性能改良剤を添加してから常温~100℃の煮込み時において、特に常温から75℃程度までの間にPMEが作用したと考えられる。
【0084】
3.評価
本実施例7においては、冷蔵時の硬さ抑制を確認するために、下記試料の団子を皿に入れ、冷蔵庫(4℃)にて保管し、4時間後、24時間後の食感を確認した。食感の評価は、保水感、もちもち感、表面のやわらかさ、の3項目を官能評価により点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。
【0085】
ここで、保水感とは、表面がみずみずしいが、米粒が水を抱きかかえている状態とし、評点が高いほど方保水感が良好であり好ましい。もちもち感とは、噛み込んだ際に歯に感じるもちもちとした反発力とし、評点が高い方がもちもち感が良好であり好ましい。表面のやわらかさとは、噛み初めに歯に感じる反発力がないこととし、評点が高いほどやわらかさが良好であり好ましい。また、総合評価として、官能評価の3項目の合計が12点以上をA、8点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表8に示す。
【0086】
【0087】
表8から分かるように、冷蔵劣化を評価する冷蔵庫内での保管において、PME含有の食品性能改良剤を添加した実施例7の試料は、冷蔵保管4時間後において総合評価Aという高い評価を得た。また、冷蔵保管24時間後においても総合評価Bという評価を得た。これに対して、比較例7の試料は、冷蔵保管4時間後及び24時間後のいずれにおいても総合評価Cという結果であった。このことにより、PME含有の食品性能改良剤をもち米粉に使用することで、冷蔵劣化に対して良好な効果を得ることが確認された。
【0088】
以上説明したように、本発明によれば、穀物又は芋類からなる原材料を利用する食品の製造後の食味を改良すると共に、経時的な食味安定性を改良することのできる
食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法を提供することができる。
【0089】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施例に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施例においては、食品性能改良剤に含まれる酵素としてアスペルギルス・ニガーより産生されたペクチナーゼを使用した。しかし、これに限るものではなく、その他の微生物を基原とするペクチナーゼを使用するようにしてもよい。
(2)上記各実施例においては、食品性能改良剤に含まれる酵素としてポリガラクツロナーゼ活性、ペクチンリアーゼ活性を殆ど含まず、ペクチンメチルエステラーゼ活性の強いペクチナーゼを使用した。しかし、これに限るものではなく、ポリガラクツロナーゼ活性、ペクチンリアーゼ活性を有する酵素を使用するようにしてもよい。
(3)上記各実施例においては、食品性能改良剤を作用する食品の原材料として小麦粉(小麦デンプン)、精米(米うるちデンプン)、もち米粉(米もちデンプン)を使用した。しかし、これに限るものではなく、その他の原材料、例えば、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、サツマイモデンプン、タピオカデンプンなどを使用するようにしてもよい。