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特許7626500アルコール飲料製造装置、発酵タンクおよびアルコール飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】アルコール飲料製造装置、発酵タンクおよびアルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/06 20060101AFI20250128BHJP
   C12C 11/02 20060101ALI20250128BHJP
   C12C 13/02 20060101ALI20250128BHJP
   C12C 13/00 20060101ALI20250128BHJP
   C12H 6/02 20190101ALI20250128BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C12C7/06
C12C11/02
C12C13/02 Z
C12C13/00
C12H6/02
C12C11/00 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024148075
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2024031996の分割
【原出願日】2024-03-04
【審査請求日】2024-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515012343
【氏名又は名称】アウグスビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健二
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/142879(WO,A1)
【文献】特開2013-132282(JP,A)
【文献】特開2016-059326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
C12H
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクと、を少なくとも備え、
前記仕込みタンク、前記煮沸タンクおよび前記発酵タンクをビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用しており、
前記発酵タンクにおいて、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えることを特徴とするアルコール飲料製造装置。
【請求項2】
前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、をさらに備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別するための発酵対象判別部と、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための液温判別部と、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための供給決定部と、
前記発酵対象判別部において判別された前記発酵対象および前記供給決定部の決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信するための酵母供給信号送信部と、を含み、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信部からの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加することを特徴とする請求項1に記載のアルコール飲料製造装置。
【請求項3】
前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する酵母の上限温度を記憶し、
前記第一制御ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別するための酵母温度判別部と、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を進行させる一方、酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を停止するための進行/停止部と、を備えることを特徴とする請求項に記載のアルコール飲料製造装置。
【請求項4】
前記煮沸タンクにおける処理対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第二入力装置と、
前記煮沸タンク内の液体を加熱するための加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御するための第二制御ユニットと、をさらに備え、
前記第二制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれに適した処理を行うための前記加熱手段の作動条件を少なくとも記憶するための第二記憶部と、
前記第二入力装置において選択される前記処理対象を判別するための処理対象判別部と、
前記第二入力装置における選択および前記第二記憶部内の前記加熱手段の作動条件に基づき、前記加熱手段への作動を行うための加熱信号送信部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のアルコール飲料製造装置。
【請求項5】
ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店向けのアルコール飲料製造装置であって、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための2以上の発酵タンクと、を備え、
前記発酵タンクにおいて、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えており、
需要に応じて、前記2以上の発酵タンクのうちどれをビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択可能としたことを特徴とするアルコール飲料製造装置。
【請求項6】
ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店向けのアルコール飲料製造装置であって、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための3以上の発酵タンクと、を備え、
前記発酵タンクにおいて、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えており、
前記3以上の発酵タンクのうちどれを特定種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを前記特定種以外の種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビールまたは発泡酒および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能としたことを特徴とするアルコール飲料製造装置。
【請求項7】
煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクであって、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えることを特徴とする発酵タンク。
【請求項8】
前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、
前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、をさらに備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別するための発酵対象判別部と、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための液温判別部と、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための供給決定部と、
前記発酵対象判別部において判別された前記発酵対象および前記供給決定部の決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信するための酵母供給信号送信部と、を備え、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信部からの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加することを特徴とする請求項に記載の発酵タンク。
【請求項9】
前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する上限温度を記憶し、
前記第一制御ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別する酵母温度判別部と、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を進行させる一方、酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を停止するための進行/停止部と、を備えることを特徴とする請求項に記載の発酵タンク。
【請求項10】
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクと、を少なくとも備え
前記発酵タンクにおいて、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えるアルコール飲料製造装置を用いて、
前記仕込みタンク、前記煮沸タンクおよび前記発酵タンクをビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用することを特徴とするアルコール飲料製造方法。
【請求項11】
前記アルコール飲料製造装置に複数の前記発酵タンクを備え、
複数の前記発酵タンクの内の一部の前記発酵タンクにおいてビールまたは発泡酒の発酵を行うのと同時期に、一部の前記発酵タンクを除く他の前記発酵タンクにおいて蒸留酒の発酵を行うことを特徴とする請求項10に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項12】
記発酵タンクにおいてビールまたは発泡酒の発酵処理を行った後に、前記ビールまたは発泡酒用の抽出口よりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、前記ビールまたは発泡酒用の抽出口からビールまたは発泡酒を外部に抽出することを特徴とする請求項10または11に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項13】
記発酵タンクにおいて蒸留酒の発酵処理を行った後に、前記蒸留酒用の抽出口よりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、前記蒸留酒用の抽出口から蒸留酒用の発酵処理液を外部に抽出することを特徴とする請求項10または11に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項14】
前記アルコール飲料製造装置は、前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、
前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、を備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
第一中央処理ユニットと、を含み、
前記第一中央処理ユニットは、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別する発酵対象判別ステップと、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別する液温判別ステップと、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定する供給決定ステップと、
前記発酵対象判別ステップにおいて判別された前記発酵対象および前記供給決定ステップによる決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信する酵母供給信号送信ステップと、を実行し、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信ステップからの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加することを特徴とする請求項10または11に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項15】
前記アルコール飲料製造装置は、前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する上限温度を記憶し、
前記第一中央処理ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別する酵母温度判別ステップと、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定ステップの決定以後の各ステップを進行させる進行ステップと、
酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定ステップの決定以後の各ステップを停止する停止ステップと、を実行することを特徴とする請求項14に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項16】
前記アルコール飲料製造装置は、
前記煮沸タンクにおける処理対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第二入力装置と、
前記煮沸タンク内の液体を加熱するための加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御するための第二制御ユニットと、をさらに備え、
前記第二制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれに適した処理を行うための前記加熱手段の作動条件を少なくとも記憶するための第二記憶部と、
第二中央処理ユニットと、を含み、
前記第二中央処理ユニットは、
前記第二入力装置において選択される前記処理対象を判別する処理対象判別ステップと、
前記第二入力装置からの選択および前記第二記憶部内の前記加熱手段の作動条件に基づき、前記加熱手段への作動を行う加熱信号送信ステップと、を実行することを特徴とする請求項10または11に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項17】
ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店におけるアルコール飲料製造方法であって、
前記アルコール飲料製造装置は、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための3以上の発酵タンクと、を備え、
前記発酵タンクにおいて、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えており、
前記3以上の発酵タンクのうちどれを特定種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを前記特定種以外の種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビールまたは発泡酒および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能としたことを特徴とするアルコール飲料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料製造装置、発酵タンクおよびアルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料は、発酵したものをそのまま飲む「醸造酒」と、発酵後に蒸留してつくる「蒸留酒」と、さらに、これらを基にしてつくられる「混成酒」とに大別される。代表的な醸造酒は、ビール、ワイン、日本酒である。代表的な蒸留酒は、ウイスキー、ブランデー、焼酎である。例えば、ビールは、一般的に、麦芽を粉砕する「麦芽の製造工程」、粉砕された麦芽に温水を加えて、麦芽に含まれるデンプンを糖化することにより糖化醪を調整する「糖化工程」、発酵の際の雑菌の発生を防ぐために糖化醪を煮沸する「煮沸工程」、煮沸された糖化醪を冷却する「冷却工程」、冷却された糖化醪に酵母を加えて発酵させることにより発酵醪を調製する「発酵工程」、および発酵醪から得られたビールを熟成・貯蔵する「貯酒工程」を経て生産される(非特許文献1を参照。)。一方、蒸留酒であるウイスキーは、一般的に、「麦芽の製造工程」、「糖化工程」、「発酵工程」を経た後に、発酵醪を蒸留する「蒸留工程」、および得られた蒸留液を長期間にわたって樽の中で熟成する「熟成工程」を経て生産される(非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】藤沢 英夫、“日本におけるビール醸造設備発展の推移”、醸協第105巻第10号、2010(628~640頁)
【文献】三鍋 昌春、“日本におけるウイスキー製造の現状と将来”、醸協第96巻第7号、2001(466~474頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、アルコール飲料の国内消費量が減少する中、消費者の様々なニーズに合わせた多品種化が進行し、多品種のアルコール飲料を少量生産する傾向もみられる。本発明者は、アルコール飲料を提供する店舗内で、ビールまたは発泡酒(以下、単に「ビール等」ともいう。)と、ウイスキー等の蒸留酒を製造する様子を見てもらいながら、お客様に飲食を楽しんでもらうことを考えた。
【0005】
しかし、ビール等と蒸留酒を少量生産する場合、急激な需要の増加に対処できない場合がある。対処する方法の一つは、設備の大規模化であるが、狭いスペースしか持たない店舗では、自ずと限界がある。また、設備の大規模化では、急激に需要が減少したとき、余剰在庫の問題が発生する。これは、小規模経営の店舗や、地域おこしをしようとする地方自治体にとって問題になる。設備の大規模化を図らずに、需要動向に柔軟に対処する必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ビール等と蒸留酒の各需要に迅速対応でき、かつ製造スペースの低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクと、を少なくとも備え、
前記仕込みタンク、前記煮沸タンクおよび前記発酵タンクをビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用する。
(2)別の実施形態に係るアルコール飲料製造装置において、好ましくは、前記発酵タンクにおいて、1以上の蒸留酒用の抽出口と、前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備えてもよい。
(3)別の実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、好ましくは、
前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、
前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、をさらに備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別するための発酵対象判別部と、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための液温判別部と、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための供給決定部と、
前記発酵対象判別部において判別された前記発酵対象および前記供給決定部の決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信するための酵母供給信号送信部と、を含み、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信部からの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加するようにしてもよい。
(4)別の実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、好ましくは、前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する酵母の上限温度を記憶し、
前記第一制御ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別するための酵母温度判別部と、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を進行させる一方、酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を停止するための進行/停止部と、を備えてもよい。
(5)別の実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、好ましくは、
前記煮沸タンクにおける処理対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第二入力装置と、
前記煮沸タンク内の液体を加熱するための加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御するための第二制御ユニットと、をさらに備え、
前記第二制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれに適した処理を行うための前記加熱手段の作動条件を少なくとも記憶するための第二記憶部と、
前記第二入力装置において選択される前記処理対象を判別するための処理対象判別部と、
前記第二入力装置における選択および前記第二記憶部内の前記加熱手段の作動条件に基づき、前記加熱手段への作動を行うための加熱信号送信部と、を備えてもよい。
(6)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店向けのアルコール飲料製造装置であって、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための2以上の発酵タンクと、を備え、
需要に応じて、前記2以上の発酵タンクのうちどれをビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択可能とする。
(7)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造装置は、ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店向けのアルコール飲料製造装置であって、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための3以上の発酵タンクと、を備え、
前記3以上の発酵タンクのうちどれを特定種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを前記特定種以外の種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビールまたは発泡酒および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能とする。
(8)上記目的を達成するための一実施形態に係る発酵タンクは、煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクであって、
1以上の蒸留酒用の抽出口と、
前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備える。
(9)別の実施形態に係る発酵タンクは、好ましくは、
前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、
前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、をさらに備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別するための発酵対象判別部と、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための液温判別部と、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための供給決定部と、
前記発酵対象判別部において判別された前記発酵対象および前記供給決定部の決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信するための酵母供給信号送信部と、を備え、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信部からの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加するようにしてもよい。
(10)別の実施形態に係る発酵タンクは、好ましくは、前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する上限温度を記憶し、
前記第一制御ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別する酵母温度判別部と、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を進行させる一方、酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定部の決定以後の各処理を停止するための進行/停止部と、を備えてもよい。
(11)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造方法は、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンクと、を少なくとも備えるアルコール飲料製造装置を用いて、
前記仕込みタンク、前記煮沸タンクおよび前記発酵タンクをビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用する。
(12)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記アルコール飲料製造装置に複数の前記発酵タンクを備え、
複数の前記発酵タンクの内の一部の前記発酵タンクにおいてビールまたは発泡酒の発酵を行うのと同時期に、一部の前記発酵タンクを除く他の前記発酵タンクにおいて蒸留酒の発酵を行うようにしてもよい。
(13)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記発酵タンクに、1以上の蒸留酒用の抽出口と、前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備え、
前記発酵タンクにおいてビールまたは発泡酒の発酵処理を行った後に、前記ビールまたは発泡酒用の抽出口よりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、前記ビールまたは発泡酒用の抽出口からビールまたは発泡酒を外部に抽出するようにしてもよい。
(14)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記発酵タンクに、1以上の蒸留酒用の抽出口と、前記蒸留酒用の抽出口よりも高い位置に配置される1以上のビールまたは発泡酒用の抽出口と、を備え、
前記発酵タンクにおいて蒸留酒の発酵処理を行った後に、前記蒸留酒用の抽出口よりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、前記蒸留酒用の抽出口から蒸留酒用の発酵処理液を外部に抽出するようにしてもよい。
(15)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記アルコール飲料製造装置は、
前記発酵タンクにおける発酵対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第一入力装置と、
前記発酵タンクに酵母を供給するための酵母供給装置と、
前記酵母供給装置から前記発酵タンクへの酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニットと、
前記発酵タンク内の液体の温度を測定するための醪温度センサと、を備え、
前記第一制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部と、
第一中央処理ユニットと、を含み、
前記第一中央処理ユニットは、
前記第一入力装置において選択される前記発酵対象を判別する発酵対象判別ステップと、
前記醪温度センサにより測定された液温が前記第一記憶部に格納される液温範囲に入るか否かを判別する液温判別ステップと、
前記液温が前記液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定する供給決定ステップと、
前記発酵対象判別ステップにおいて判別された前記発酵対象および前記供給決定ステップによる決定に基づき、前記酵母供給装置に向けて酵母を供給させる信号を送信する酵母供給信号送信ステップと、を実行し、
前記酵母供給装置は、前記酵母供給信号送信ステップからの信号を受けて、前記第一記憶部内の前記発酵に適した酵母の添加量に基づき、前記発酵タンクに酵母を添加するようにしてもよい。
(16)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記アルコール飲料製造装置は、前記酵母供給装置内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサをさらに備え、
前記第一記憶部は、酵母の供給に適する上限温度を記憶し、
前記第一中央処理ユニットは、
前記酵母温度センサにより測定された酵母の温度と前記第一記憶部内の前記上限温度とを比較して、酵母の温度が前記上限温度以下かどうかを判別する酵母温度判別ステップと、
酵母の温度が前記上限温度以下の場合には前記供給決定ステップの決定以後の各ステップを進行させる進行ステップと、
酵母の温度が前記上限温度を超える場合には前記供給決定ステップの決定以後の各ステップを停止する停止ステップと、を実行するようにしてもよい。
(17)別の実施形態に係るアルコール飲料製造方法において、好ましくは、
前記アルコール飲料製造装置は、
前記煮沸タンクにおける処理対象がビールまたは発泡酒か蒸留酒かの選択を行うための第二入力装置と、
前記煮沸タンク内の液体を加熱するための加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御するための第二制御ユニットと、をさらに備え、
前記第二制御ユニットは、
ビールまたは発泡酒および蒸留酒のそれぞれに適した処理を行うための前記加熱手段の作動条件を少なくとも記憶するための第二記憶部と、
第二中央処理ユニットと、を含み、
前記第二中央処理ユニットは、
前記第二入力装置において選択される前記処理対象を判別する処理対象判別ステップと、
前記第二入力装置からの選択および前記第二記憶部内の前記加熱手段の作動条件に基づき、前記加熱手段への作動を行う加熱信号送信ステップと、を実行するようにしてもよい。
(18)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造方法は、ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店におけるアルコール飲料製造方法であって、
前記アルコール飲料製造装置は、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための2以上の発酵タンクと、を備え、
需要に応じて、前記2以上の発酵タンクのうちどれをビールまたは発泡酒の製造に用いどれを蒸留酒の製造に用いるかを選択可能とする。
(19)上記目的を達成するための一実施形態に係るアルコール飲料製造方法は、ビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店におけるアルコール飲料製造方法であって、
前記アルコール飲料製造装置は、
アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための1以上の仕込みタンクと、
前記仕込みタンクから移送された液体を煮沸するための1以上の煮沸タンクと、
前記煮沸タンクから移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための3以上の発酵タンクと、を備え、
前記3以上の発酵タンクのうちどれを特定種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを前記特定種以外の種類のビールまたは発泡酒の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビールまたは発泡酒および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビール等と蒸留酒の各需要に迅速対応でき、かつ製造スペースの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係るアルコール飲料製造装置の一部の概略構成図を示す。
図2図2は、図1のアルコール飲料製造装置に備えられる発酵タンクのより好ましい構成を示す。
図3図3は、図1のアルコール飲料製造装置に好適に備えられる酵母供給システムの構成を示す。
図4図4は、図3の酵母供給システムを備える発酵タンクを示す。
図5図5は、図3の酵母供給システムの変形例の構成を示す。
図6図6は、図5の変形例に係る酵母供給システムを備える発酵タンクを示す。
図7図7は、図1のアルコール飲料製造装置に好適に備えられる煮沸システムの構成を示す。
図8図8は、図7の煮沸システムを備える煮沸タンクを示す。
図9図9は、ビールとウイスキーの発酵処理を同時期に行う状況を説明するための図を示す。
図10図10は、酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
図11図11は、変形例に係る酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
図12図12は、煮沸システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
図13図13は、本発明の実施形態に係る酵母供給システムおよび煮沸システムを有するアルコール飲料製造装置を店舗で運用する場合の概略図を示す。
図14図14は、本発明の実施形態に係るアルコール飲料製造装置を用いて醸造酒と蒸留酒を生産する場合の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るアルコール飲料製造装置、およびアルコール飲料製造方法の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲を限定するものでなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
1.アルコール飲料製造装置の概略構成
図1は、本発明の実施形態に係るアルコール飲料製造装置の一部の概略構成図を示す。
【0012】
以下の実施形態に係るアルコール飲料製造装置、発酵タンクおよびアルコール飲料製造方法では、主に、醸造酒としてビール、および蒸留酒としてウイスキーを例示して、ビール等とウイスキーとを製造する形態を説明する。ただし、蒸留酒として、ウイスキー以外に、ウォッカ、ジン、テキーラまたはラム酒を採用してもよい。この実施形態に係るアルコール飲料製造装置1は、仕込みタンク2と、煮沸タンク3と、発酵タンク4と、を備える。仕込みタンク2と煮沸タンク3とは、好ましくは、移送パイプ11aを介して連結されている。煮沸タンク3と発酵タンク4とは、好ましくは、移送パイプ11bを介して連結されている。仕込みタンク2内および煮沸タンク3内の各液体は、ここでは麦汁と称する。発酵タンク4内の蒸留酒用の液体は、特に、発酵処理液と称する。この実施形態において、タンク内に貯留された液体(麦汁)の大部分を取り出すため、移送パイプ11a,11bの一方の端は、好ましくは、仕込みタンク2および煮沸タンク3の底部、または、図示されるように底部に近い側壁に、それぞれ取り付けられている。一方、移送パイプ11a,11bの他方の端は、煮沸タンク3および発酵タンク4の上部から底部の間のいずれかの部分に取り付けることができる。しかし、図示されるように、煮沸タンク3および発酵タンク4の底部に取り付ける方が移送パイプ11a,11bの長さを短くできることから、より好ましい。仕込みタンク2は、アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うためのタンクである。この実施形態では、原料として大麦を用いている。ただし、蒸留酒の原料として、大麦以外の原料(例えば、とうもろこし)を使用してもよい。この実施形態において、仕込みタンク2は、特に、粉砕した麦芽に温水を加えて麦汁を製造する、いわゆる「もろみづくり」、デンプンを糖化させる「糖化」、糖化後の麦汁から固形物を除去して液の透明度を上げる「濾過」などを行って透明度の高い麦汁をつくるためのタンクである。煮沸タンク3は、仕込みタンク2にて濾過を終えた麦汁を加熱して菌を減ずるためのタンクである。ビールの製造の場合、ビールに苦味および/またはコクを与えるべく、煮沸タンク3にホップを入れて煮沸が行われる。発酵タンク4は、煮沸タンク3から移送されてきた麦汁に酵母を加えて糖を分解する発酵工程を行うためのタンクである。以下、アルコール飲料製造装置1の構成および各工程について、より詳細に説明する。
【0013】
移送パイプ11aの経路には、仕込みタンク2から煮沸タンク3に移送される麦汁(糖化醪ともいう。)の流量調整および/または移送停止を行うためのバルブ12aと、麦汁の移送を行うためのポンプ13aとが取り付けられている。バルブ12aとポンプ13aを取り付ける順序は、図示されるような順序に限定されない。バルブ12aは、ポンプ13aの後ろに取り付けてもよい。また、移送パイプ11bの経路には、煮沸タンク3から発酵タンク4に移送される麦汁の流量調整および/または移送停止を行うためのバルブ12bと、麦汁の移送を行うためのポンプ13bと、熱交換器14とが取り付けられている。バルブ12b、ポンプ13bおよび熱交換器14を取り付ける順序は、図示されるような順序に限定されない。バルブ12bは、ポンプ13bの後ろに取り付けてもよい。熱交換器14は、図示するようにバルブ12bおよびポンプ13bの間に取り付けてもよいし、両者の前または後ろに取り付けてもよい。熱交換器14は、煮沸タンク3から発酵タンク4へと移送される麦汁の温度が発酵温度より高い場合に当該麦汁を冷却して、その温度を下げるための機器である。
【0014】
仕込みタンク2は、開閉可能な蓋8を備える。蓋8は、タンクの洗浄を容易にする他、粉砕した麦芽等のアルコール飲料用の原料を仕込みタンク2に入れるためにも使用可能である。仕込みタンク2は、より好ましくは、蓋15によって密封可能な開口部を備える。前記開口部は、主にタンクを洗浄する際、麦芽粕の取出し口としての役割を果たす。仕込みタンク2の構成材料は、例えば、金属、木材、ガラスまたは樹脂であり、仕込みタンク2の耐久性と洗浄容易性の観点から好ましくはSUSまたはアルミニウム合金である。
【0015】
煮沸タンク3は、仕込みタンク2から移送されてきた麦汁の加熱滅菌処理を行うための加熱手段61を備える。加熱手段61として、投げ込み式ヒータを用いることができる。また、加熱手段61として、煮沸タンク3の側壁の外部または内部を渦巻状に取り囲むヒータを用いてもよい。加熱手段61は、電熱式のヒータの他、中空パイプ内に湯(熱媒体の一例)を還流する構造のものでもよい。ウイスキーの製造の場合、発酵工程後に、滅菌をも可能とする蒸留工程を経ることから、必ずしも煮沸タンク3における煮沸を要しない。一方、ビールの製造の場合には、通常、その後に加熱工程を経ない可能性もあることから、煮沸タンク3における煮沸を要する。ただし、発酵タンク4に酵母以外の菌の侵入を低減または防止する観点から、ウイスキーの製造において煮沸を行うこともできる。
【0016】
煮沸タンク3は、好ましくは、麦汁を攪拌するための攪拌装置を備える(不図示)。麦汁を攪拌しながら加熱することにより、麦汁全体を均一に煮沸処理することができる。攪拌は、好ましくは、麦汁を煮沸タンク3の内壁に沿って一方向に流すことにより行う。これにより、煮沸タンク3はワールプールタンクとしての役割を果たす。ワールプールタンクでは、麦汁がタンク内で回転することにより、渦(ワールプール)を形成する。渦の中心に発酵に不要な不純物が集まる。
【0017】
麦汁の渦を発生させるため、好ましくは、仕込みタンク2から煮沸タンク3の内部へ麦汁を注入するときに、麦汁の流入が煮沸タンク3の内壁に沿った一方向に向くようにしてもよい。このような煮沸タンク3の内部での麦汁の流れにより、麦汁の渦が発生する。また、煮沸タンク3は、その底部に回転可能なスクリューを備えてもよい。
【0018】
煮沸タンク3から発酵タンク4への移送は、不純物が渦の中心に集まった後に行うことができる。これにより、発酵に不要な不純物を除去することができる。移送は、攪拌後、しばらく麦汁を静置し、不純物が煮沸タンク3の底に沈殿した後に行うこともできる。
【0019】
このように、本発明に係るアルコール飲料製造装置は、仕込みタンク2での麦汁の濾過と、煮沸タンク3における麦汁の渦による不純物の除去という、不純物除去のための二つの機能を有する。様々なアルコール飲料の生産において、これらの機能を適宜組み合わせて利用することができる。
【0020】
例えば、醸造酒であるビールの生産は、蒸留工程を含まない。したがって、発酵タンク4で発酵された麦汁が、蒸留工程を経ずに需要者に供給される。そこで、発酵タンク4に麦汁を注入する前に、仕込みタンク2で濾過された麦汁に含まれた不純物を、煮沸タンク3でさらに除去することにより、得られるビールの透明度を高めることができる。一方、蒸留酒であるウイスキーは蒸留工程を含む。このため、不純物がウイスキーの透明度に与える影響は小さい。また、ウイスキーに独特の風味を添加するのに、不純物の中に含まれる成分が必要になる場合もあり得る。したがって、二つの不純物除去を同時に行うか、一方の除去を行うか、またはいずれの除去も行わないことを選択できることにより、様々なバリエーションのウイスキーを生産することができる。
【0021】
煮沸タンク3は、開閉可能な蓋9を備える。蓋9は、煮沸中にホップなどの副原料を投入する等の目的で、更に、タンクの洗浄を容易にする等の目的で使用可能である。煮沸タンク3は、より好ましくは、蓋16によって密封可能な開口部を備える。前記開口部は、主にタンクを洗浄する際、ホップ粕の取出し口としての役割を果たす。煮沸タンク3の構成材料は、例えば、金属、木材、ガラスまたは樹脂であり、煮沸タンク3の耐久性、耐熱性および洗浄容易性の観点から好ましくはSUSまたはアルミニウム合金である。
【0022】
発酵タンク4は、開閉可能な蓋10を備える。蓋10は、タンクの洗浄を容易にする等の目的で使用可能である。発酵タンク4は、より好ましくは、蓋17によって密封可能な開口部を備える。前記開口部は、主にタンクを洗浄する際、残余物の取出し口としての役割を果たす。発酵タンク4の構成材料は、例えば、金属、木材、ガラスまたは樹脂であり、発酵タンク4の耐久性および洗浄容易性の観点から好ましくはSUSまたはアルミニウム合金である。
【0023】
以上のように、アルコール飲料製造装置1は、麦汁の製造、糖化および濾過を行うための仕込みタンク2と、仕込みタンク2から移送された麦汁を煮沸するための煮沸タンク3と、煮沸タンク3から移送された麦汁に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンク4と、を少なくとも備え、仕込みタンク2、煮沸タンク3および発酵タンク4をビールの製造とウイスキーの製造に共用するようにしている。このため、ビールとウイスキーを製造するスペースの低減を図ることができる。
【0024】
2.アルコール飲料製造装置を構成する発酵タンク
図2は、図1のアルコール飲料製造装置に備えられる発酵タンクのより好ましい構成を示す。
【0025】
発酵タンク4は、上方から下方に窄まる略逆円錐状の底部と当該底部の上方に円環状の側壁とを接続した形態の容器と、その容器の上方開口面を塞ぐ蓋10とを備える。蓋10は、好ましくは開閉自在である。発酵タンク4は、その底部に、排出口21を備える。排出口21は、好ましくは、その外部に延出する排出用パイプ22を備える、排出用パイプ22の管径や材質は、排出される残渣含有液の量や濃度に応じて適宜選択できる。
【0026】
発酵タンク4は、1つのウイスキー用の抽出口20bと、当該抽出口20bより高い位置に配置される1つのビール用の抽出口20aと、を備える。抽出口20aと抽出口20bとの高さを上記のような位置関係にする方が好ましい理由は、以下のとおりである。ビールを製造する場合、通常、煮沸タンク3にホップを添加するため、ホップの添加を必要としないウイスキーの製造と比べ、発酵タンク4の底に溜まる残渣が多くなる傾向にある。残渣を発酵タンク4内に残しつつ、できるだけ多くのアルコール飲料を外部に抽出するためには、抽出口20bを、抽出口20aと同じ高さではなく、より低い位置に配置するのが好ましいからである。
【0027】
発酵タンク4は、その外部から内部に貫通する抽出用パイプ23bと抽出用パイプ23aが挿着されてもよい。その場合、抽出口20aは、発酵タンク4の内部に挿入された抽出用パイプ23aの先端口を意味する。同様に、抽出口20bは、発酵タンク4の内部に挿入された抽出用パイプ23bの先端口を意味する。タンク内部に位置する抽出用パイプ23aの先端は、タンク内部に位置する抽出用パイプ23bの先端よりも高い位置にある。抽出用パイプ23aのタンク外部の先端は、抽出用パイプ23bのタンク外部の先端と比べて、同一、より低い位置またはより高い位置のいずれでもよい。抽出用パイプ23a,23bは、いずれも、直管である必要はなく、例えば、屈曲管または湾曲管でもよい。屈曲管または湾曲管は、発酵タンク4内におけるアルコール飲料を吸入する所望の高さや位置に応じて、図2に図示するような下向きを含むあらゆる方向に向けてもよい。抽出用パイプ23a,23bの管径および材質は、抽出されるアルコール飲料の量等に応じて適宜選択することができる。アルコール飲料の吸入位置は、好ましくは、発酵タンク4の平面視における略中央であるが、これに限定されない。
【0028】
また、抽出用パイプ23a,23bを設けずに、発酵タンク4の壁面に形成された抽出口20a,20bからタンク外方向に延出する管24a,24bを設けるようにしてもよい。その場合には、抽出口20aの位置は、抽出口20bの位置よりも高い。
【0029】
なお、抽出口20bおよび抽出口20aの各数は、1つに限定されず、1以上であれば、2つ、3つまたはそれ以上でもよい。この場合、残渣の量に応じて、いずれか2つの抽出口を、それぞれビールおよびウイスキー用に適宜選択すればよい。また、麦汁の中の異なる高さに分散した固形物を選択的に回収したい場合には、ビールまたはウイスキーの生産に際して、二つ以上の抽出口を同時に使用してもよい。抽出口20bおよび抽出口20aの少なくともいずれかは、発酵タンク4の周囲に沿って複数個形成されていてもよい。
【0030】
以上のように、アルコール飲料製造装置1は、発酵タンク4に、1以上のウイスキー用の抽出口20bと、当該ウイスキー用の抽出口20bよりも高い位置に配置される1以上のビール用の抽出口20aと、を備える。このため、ビールおよびウイスキーのいずれの製造であっても、残渣を発酵タンク4内に残しつつ、できるだけ多くのアルコール飲料を外部に抽出することができる。
【0031】
なお、ウイスキーの製造において、発酵タンク4から得られた発酵処理液(ウイスキーの前段階の液)は、その後に蒸留装置に移送されアルコール度数を上げる処理(蒸留工程という)に供される。蒸留工程を経た液は、樽に入れられて熟成される。この熟成の際に、一般的な200Lの容量よりも小容量の樽、具体的には10Lまたは20Lの樽に小分けして熟成するのが好ましい。このような小分けした熟成により、樽を構成する木材と、樽内の内容物との接触面積/内容物の単位量をアップすることができる。この結果、通常の熟成期間(3年以上)の1/3~1/2という短期間にて熟成を完了できる。
【0032】
3.アルコール飲料製造装置に備えられる酵母供給システム
(1)酵母供給システムの基本構成
図3は、図1のアルコール飲料製造装置に好適に備えられる酵母供給システムの構成を示す。
【0033】
酵母供給システム30aは、酵母供給装置31、第一入力装置32、醪温度センサ33および第一制御ユニット34を備えており、酵母の供給を制御可能な装置である。
【0034】
酵母供給装置31は、発酵タンク4に酵母を供給するための装置であり、好ましくは、酵母収納用容器31aと、酵母の添加を行うためのモータ31bと、酵母注入用パイプ31cと、を備える。酵母供給装置31は、第一制御ユニット34からの指令に従いモータ31bを駆動または停止して、酵母収納用容器31a内の酵母を、酵母注入用パイプ31cを通じて発酵タンク4に供給し、または酵母の供給を停止することができる。
【0035】
第一入力装置32は、発酵タンク4における発酵対象がビールかウイスキーかの選択を行うための装置であり、好ましくは、キーボード、タッチパネル、音声入力装置に代表される入力装置である。アルコール飲料の製造者は、第一入力装置32を通じて、製造対象をウイスキーにするか、それともビールにするかを選択できる。
【0036】
醪温度センサ33は、発酵タンク4内の麦汁(醪ともいう。)51の温度を測定し、当該温度のデータを第一制御ユニット34に送信可能なセンサであり、接触式および非接触式のいずれの温度センサであってもよい。この実施形態において、「醪温度センサ」は、発酵タンク4内の液体の一例である麦汁(醪)の温度を測定するためのセンサである。また、接触式温度センサは、電気式および機械式のいずれの温度センサであってもよい。電気信号への変換の容易さから、電気式の温度センサが好ましく、抵抗式の温度センサが、より好ましい。非接触式の温度センサとしては、熱型と量子型のいずれの温度センサを用いることができる。コストの面から、熱型の温度センサが好ましい。なお、図3以外では、「麦汁」に符号51を付けない。
【0037】
第一制御ユニット34は、発酵タンク4への酵母の供給の有無および供給量を制御するためのユニットである。第一制御ユニット34は、第一記憶部40、発酵対象判別部41、液温判別部42、供給決定部43および酵母供給信号送信部44を備える。第一記憶部40は、ビールおよびウイスキーのそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための記憶装置(メモリ)64に含まれる。メモリ64としては、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、データの消去や書き換えが可能なメモリ(EEPRОМ)、読み書き自在なメモリ(RAМ)等を挙げられる。第一記憶部40は、醪温度センサ33から送信された温度データを記憶可能な構成部であってもよい。
【0038】
発酵対象判別部41、液温判別部42、供給決定部43および酵母供給信号送信部44は、第一中央処理ユニット(CPU)65によって実行される部分である。
【0039】
発酵対象判別部41は、第一入力装置32において選択された結果に基づき、発酵対象を判別するための構成部である。液温判別部42は、醪温度センサ33により測定された液温が第一記憶部40に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための構成部である。液温範囲は、一例では、27℃以上29℃以下である。供給決定部43は、液温が先の液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための構成部である。酵母供給信号送信部44は、発酵対象判別部41において判別された発酵対象および供給決定部43の決定に基づき、酵母供給装置31に向けて酵母を供給させる信号を送信するための構成部である。
【0040】
このように、酵母供給装置31は、酵母供給信号送信部44からの信号を受けて、第一記憶部40内の発酵に適した酵母の添加量に基づき、発酵タンク4に酵母を添加することができる。酵母の添加量は、500Lの発酵タンク4を発酵に用いた際の一例としては、ビールが選択された場合には750g/500L、ウイスキーが選択された場合には1000g/500Lである。ビールが選択された場合には、酵母供給信号送信部44は、500L当たり750gの酵母を供給する信号を酵母供給装置31に向けて送信する。一方、ウイスキーが選択された場合には、酵母供給信号送信部44は、500L当たり1000gの酵母を供給する信号を酵母供給装置31に向けて送信する。発酵タンク4の容量の全てを発酵に用いない場合には、減じた麦汁の量に応じて、使用する酵母の量を減ずることができる。この場合、発酵タンク4に収容された麦汁の量は、蓋10を開けて目視により確認することができる。また、発酵タンク4は、その底部および側壁の一部に、麦汁の量を確認するための窓を備えていてもよい。前記窓は、例えば、ガラスやアクリル樹脂によって形成されてもよい。さらに、麦汁の量は、例えば、煮沸タンク3から発酵タンク4へ麦汁を移送する前と後における煮沸タンク3および/または発酵タンク4の重量の変化から求めてもよい。よって、煮沸タンク3および/または発酵タンク4は、重量の変化を測定するための重量計を備えてもよい。さらに、発酵タンク4に麦汁の液面を測定するための液面センサを設けて、麦汁の液面の高さから麦汁の量を求めてもよい。さらに、移送パイプ11bに流量計を設けて、煮沸タンク3から発酵タンク4へ麦汁を移送する際の流速と移送に要する時間から、麦汁の量を求めてもよい。
【0041】
以上のように、アルコール飲料製造装置1は、発酵タンク4における発酵対象がビールかウイスキーかの選択を行うための第一入力装置32と、発酵タンク4に酵母を供給するための酵母供給装置31と、酵母供給装置31から発酵タンク4への酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニット34と、発酵タンク4内の麦汁の温度を測定するための醪温度センサ33と、をさらに備える。第一制御ユニット34は、ビールおよびウイスキーのそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための第一記憶部40と、第一入力装置40において選択される発酵対象を判別するための発酵対象判別部41と、醪温度センサ33により測定された液温が第一記憶部40に格納される液温範囲に入るか否かを判別するための液温判別部42と、液温がその液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するための供給決定部43と、発酵対象判別部41において判別された発酵対象および供給決定部43の決定に基づき、酵母供給装置31に向けて酵母を供給させる信号を送信するための酵母供給信号送信部44と、を含む。酵母供給装置31は、酵母供給信号送信部44からの信号を受けて、第一記憶部40内の発酵に適した酵母の添加量に基づき、発酵タンク4に酵母を添加する。このため、ビールまたはウイスキーにそれぞれ適した量の酵母を、発酵タンク4内の液温が発酵に適したときに自動的に供給できる。したがって、酵母を無駄にすることなく、最適な発酵条件にて発酵工程を実現できる。これにより、ユーザにとっては、ビールまたはウイスキーの生産ごとに発酵工程を監視する手間が軽減されて。アルコール飲料製造装置1をビールまたはウイスキーの生産で共用するのが容易になる。
【0042】
(2)酵母供給システムを搭載した発酵タンク
図4は、図3の酵母供給システムを備える発酵タンクを示す。
【0043】
発酵タンク4は、酵母供給システム30aを備えている。酵母注入用パイプ31cは、発酵タンク4内に挿入されている。酵母注入用パイプ31cの挿入は、蓋10を開けて行ってもよい。醪温度センサ33として、接触式温度センサを用いる場合、醪温度センサ33は、発酵タンク4の内部または外部に設置できる。醪温度センサ33は、図示するように、測定精度を高める観点から、好ましくは、発酵タンク4内の液と接するように設置される。発酵タンク4の外部に醪温度センサ33を設置する場合には、醪温度センサ33は、好ましくは、発酵タンク4の底部または側壁であって発酵対象の麦汁が収容される位置に接するように設置される(不図示)。醪温度センサ33として非接触式の温度センサを用いる場合には、醪温度センサ33は、醪と接しないように設置される。発酵タンク4の内部に醪温度センサ33を設置する場合には、醪温度センサ33は、醪の上部に生じた空間に設置することができる。発酵タンク4の外部に醪温度センサ33を設置する場合には、醪温度センサ33は、発酵タンク4の底部または側壁から発せられる赤外線を検知するように設置することができる。醪温度センサ33は、好ましくは、醪が発する赤外線を直接検知する位置に設置される。醪温度センサ33は、好ましくは、第1制御ユニット34(特に、液温判別部42)に電気的に接続される。
【0044】
以上のように、発酵タンク4は、第一入力装置32と、酵母供給装置31と、第一制御ユニット34と、醪温度センサ33と、をさらに備える。第一制御ユニット34は、第一記憶部40と、発酵対象判別部41と、液温判別部42と、供給決定部43と、酵母供給信号送信部44と、を含む。酵母供給装置31は、酵母供給信号送信部44からの信号を受けて、第一記憶部40内の発酵に適した酵母の添加量に基づき、発酵タンク4に酵母を添加する。このため、ビールまたはウイスキーにそれぞれ適した量の酵母を、発酵タンク4内の液温が発酵に適したときに自動的に供給できる。したがって、酵母を無駄にすることなく、最適な発酵条件にて発酵工程を実現できる。これにより、ユーザにとっては、ビールまたはウイスキーの生産ごとに発酵工程を監視する手間が軽減されて、発酵タンク4をビールまたはウイスキーの生産で共用するのが容易になる。
【0045】
(3)酵母供給システムの変形例
図5は、図3の酵母供給システムの変形例の構成を示す。
【0046】
変形例に係る酵母供給システム30bは、図3の酵母供給システム30aの各構成部に加えて、酵母温度センサ35と、酵母温度判別部45と、進行/停止部46と、をさらに備える。また、第一記憶部40は、さらに、酵母の供給に適する上限温度のデータを記憶している。酵母温度センサ35は、酵母供給装置31内の酵母の温度を測定するためのセンサである。酵母温度判別部45は、酵母温度センサ35により測定された酵母の温度と第一記憶部40内の上限温度とを比較して、酵母の温度が上限温度以下かどうかを判別するための構成部である。進行/停止部46は、酵母の温度が上限温度以下の場合には供給決定部43の決定以後の各処理を進行させる一方、酵母の温度が上限温度を超える場合には供給決定部43の決定以後の各処理を停止するための構成部である。ここで、上限温度としては、32℃~35℃の範囲の温度、より好ましくは33℃以上34℃以下の温度を例示できる。酵母温度判別部45および進行/停止部46は、第一中央処理ユニット(CPU)65によって実行される部分である。酵母温度判別部45および進行/停止部46は、第一制御ユニット34に含まれる。酵母温度センサ35は、第一制御ユニット34(特に、酵母温度判別部45)に接続されている。酵母温度センサ35は、酵母収納用容器31a内の酵母50の温度を測定し、第一制御ユニット34に送信可能な温度センサである。使用できる温度センサの種類は、醪温度センサ33の場合と同様であるので、ここでは省略する。酵母50は固体であって、測定位置によって得られる温度のデータに誤差が生じやすい。したがって、酵母温度センサ35として接触式の温度センサを用いる場合には、測定精度を高める観点から、温度センサの先端が酵母収納用容器31aの平面視における略中央に位置するように酵母温度センサ35を設置する方が好ましい。
【0047】
酵母温度判別部45および進行/停止部46は、第一中央処理ユニット(CPU)65によって実行される部分である。
【0048】
以上のように、アルコール飲料製造装置1は、酵母供給装置31内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサ35をさらに備える。第一記憶部40は、酵母の供給に適する上限温度を記憶している。第一制御ユニット34は、上述した酵母温度判別部45および進行/停止部46と、を備える。このため、酵母の温度を測定して、発酵に適さない温度の場合には、発酵タンク4内の液温が好ましい温度であっても、酵母の供給を行わないようにすることができる。したがって、無駄な酵母の供給を防止でき、かつ酵母の温度と発酵タンク4内の液温が発酵に適している場合に、酵母を供給して発酵工程を実行することができる。
【0049】
(4)変形例に係る酵母供給システムを搭載した発酵タンク
図6は、図5の変形例に係る酵母供給システムを備える発酵タンクを示す。
【0050】
発酵タンク4は、酵母供給システム30bを備えている。酵母注入用パイプ31cは、発酵タンク4内に挿入されている。醪温度センサ33は、発酵タンク4内の液中に接するように設置されている。醪温度センサ33は、第1制御ユニット34(特に、液温判別部42)に電気的に接続されている。
【0051】
以上のように、発酵タンク4は、酵母供給装置31内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサ35をさらに備える。第一記憶部40は、酵母の供給に適する上限温度を記憶している。第一制御ユニット34は、上述した酵母温度判別部45および進行/停止部46と、を備える。このため、酵母の温度を測定して、発酵に適さない温度の場合には、発酵タンク4内の液温が好ましい温度であっても、酵母の供給を行わないようにすることができる。したがって、無駄な酵母の供給を防止でき、かつ酵母の温度と発酵タンク4内の液温が発酵に適している場合に、酵母を自動的に供給して発酵工程を実行することができる。
【0052】
4.アルコール飲料製造装置に備えられる煮沸システム
(1)煮沸システムの構成
図7は、図1のアルコール飲料製造装置に好適に備えられる煮沸システムの構成を示す。
【0053】
煮沸システム60は、ヒータを一例とする加熱手段61、第二入力装置62および第二制御ユニット63を備えており、煮沸タンク3内の煮沸を制御する装置である。
【0054】
加熱手段61は、煮沸タンク3内の麦汁を加熱するための構成部である。
【0055】
第二入力装置62は、煮沸タンク3における処理対象がビールかウイスキーかの選択を行うための構成部であり、好ましくは、キーボード、タッチパネル、音声入力装置に代表される入力装置である。アルコール飲料の製造者は、第二入力装置62を通じて、製造対象をウイスキーにするか、それともビールにするかを選択できる。
【0056】
第二制御ユニット63は、加熱手段61の作動を制御するためのユニットである。第二制御ユニット63は、第二記憶部70と、処理対象判別部71と、加熱信号送信部72と、を備える。第二記憶部70は、ビールおよびウイスキーのそれぞれに適した処理を行うための加熱手段61の作動条件を少なくとも記憶するための記憶装置(メモリ)64に含まれる。メモリ64は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、データの消去や書き換えが可能なメモリ(EEPRОМ)、読み書き自在なメモリ(RAМ)等である。
【0057】
処理対象判別部71および加熱信号送信部72は、第二中央処理ユニット(CPU)66によって実行される部分である。
【0058】
処理対象判別部71は、第二入力装置62において選択される処理対象を判別するための構成部である。加熱信号送信部72は、第二入力装置62からの選択および第二記憶部70内の加熱手段61の作動条件に基づき、加熱手段61への作動を行うための構成部である。
【0059】
以上のように、アルコール飲料製造装置1は、煮沸タンク3における処理対象がビールかウイスキーかの選択を行うための第二入力装置62と、煮沸タンク3内の麦汁を加熱するための加熱手段61と、加熱手段61の作動を制御するための第二制御ユニット63と、をさらに備える。第二制御ユニット63は、ビールおよびウイスキーのそれぞれに適した処理を行うための加熱手段61の作動条件を少なくとも記憶するための第二記憶部70と、第二入力装置62において選択される処理対象を判別するための処理対象判別部71と、第二入力装置62からの選択および第二記憶部70内の加熱手段61の作動条件に基づき、加熱手段61への作動を行うための加熱信号送信部72と、を備える。このため、ビールの製造とウイスキーの製造のそれぞれに適した加熱条件にて煮沸タンク3内の処理を実行できる。例えば、ビールの製造の場合には、90℃以上100℃以下の温度まで加熱して煮沸処理する一方、ウイスキーの製造の場合には、50℃以上70℃以下の温度まで加熱し、または非加熱とすることもできる。
【0060】
(2)煮沸システムを搭載した煮沸タンク
図8は、図7の煮沸システムを備える煮沸タンクを示す。
【0061】
煮沸タンク3は、煮沸システム60を備えている。加熱手段61は、煮沸タンク3内に配置され、または煮沸タンク3の外壁に接するように配置されている。このため、ビールの製造とウイスキーの製造のそれぞれに適した加熱条件にて煮沸タンク3内の麦汁の処理を自動的に実行する。これにより、ユーザにとっては、ビールまたはウイスキーの生産ごとに煮沸の条件を変更する手間が軽減されて。アルコール飲料製造装置1をビールまたはウイスキーの生産で共用するのが容易になる。
【0062】
5.アルコール飲料製造方法
(1)ビールの製造とウイスキーの製造における各タンクの共用
この実施形態に係るアルコール飲料製造方法では、麦汁の製造、糖化および濾過を行うための仕込みタンク2と、仕込みタンク2から移送された麦汁を煮沸するための煮沸タンク3と、煮沸タンク3から移送された麦汁に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンク4と、を少なくとも備えるアルコール飲料製造装置1が用いられる。当該アルコール飲料製造方法は、仕込みタンク2、煮沸タンク3および発酵タンク4をビールの製造とウイスキーの製造に共用して行われる。本願の「共用」は、ビールの製造に用いる各タンク2,3,4は、ウイスキーの製造においても使用することを意味する。
【0063】
(2)複数の発酵タンクをビール製造用とウイスキー製造用に分けた使用
この実施形態に係るアルコール飲料製造方法では、好ましくは、複数の発酵タンク4を備えるアルコール飲料製造装置1が用いられる。当該アルコール飲料製造方法では、複数の発酵タンク4の内の一部の発酵タンク4においてビールの発酵を行うのと同時期に、他の発酵タンク4においてウイスキーの発酵を行う。
【0064】
以下に、5つの発酵タンク4を備えるアルコール飲料製造装置1を用いてビールとウイスキーの製造を行う例にてアルコール飲料製造方法を説明する。
【0065】
煮沸タンク3から1つの空の発酵タンク4に麦汁を移送する。これを3回繰り返して、合計3つの発酵タンク4への麦汁の移送を完了する。3つの発酵タンク4に移送された麦汁は、ビール製造用の麦汁である。次に、煮沸タンク3から1つの空の発酵タンク4に麦汁を移送する。これを2回繰り返して、合計2つの発酵タンク4への麦汁の移送を完了する。2つの発酵タンク4に移送された麦汁は、ウイスキー製造用の麦汁である。すなわち、5つの発酵タンク4の内の3つにビール製造用の麦汁が入っており、残る2つの発酵タンク4内にウイスキー製造用の麦汁が入っている。
【0066】
5つの発酵タンク4では、約4日間(約96時間)の発酵が行われる。次に、ウイスキー用の2つの発酵タンク4内の発酵物は、ポットスティルと称する蒸留装置に移送されて、蒸留に供される。一方、ビール用の3つの発酵タンク4内の発酵物は、引き続き、発酵タンク4内に入れた状態で14日間~20日間(336時間~480時間)、熟成される。このように、ビール用の発酵物は、ウイスキー用の発酵物に比べて、長時間、発酵タンク4に留まる。このような製造上の時間差を利用して、複数の発酵タンク4を、ビール用とウイスキー用に分けて、同時期に発酵(ビールの場合には発酵+熟成)の処理に使用できる。一般に、店舗では、ビールの消費量とウイスキーの消費量が季節により変動する。ある時期には、5つの発酵タンク4の内の1つをウイスキーの製造用に使用し、残る4つの発酵タンク4をビールの製造用に使用することもある。一方、別の時期には、5つの発酵タンク4の内の3つをウイスキーの製造用に使用し、残る2つの発酵タンク4をビールの製造用に使用することもある。複数の発酵タンク4を備えるアルコール飲料製造装置1は、このような各アルコール飲料の必要量に応じて、各アルコール飲料用に発酵タンク4の占有数を変えることを可能とする。
【0067】
ビールとウイスキーのアルコール度数は、それぞれ約5%と43%以上と大きく異なる。このため、両者の消費期限は本質的に異なる。つまり、ビールは所定の消費期限があるのに対し、ウイスキーは長期熟成されたものの価値が高まる傾向にある。さらに、ウイスキーの生産工程には、長期間の樽熟成が含まれる。よって、ウイスキーを生産するために要する時間は、通常、ビールを生産する場合と比較して長い。ビールとウイスキーを効率的に生産するためには、短期的および長期的の需要動向を、それぞれ検討する必要がある。この実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、この必要性に応じるものである。つまり、2以上の発酵タンクのうちどれをビール製造に用い、どれをウイスキー製造に用いるか、または、ビールとウイスキーを同時並行して製造すべきか否かを選択可能な製造方法である。これらの選択を容易にするシステムについては後に述べる。
【0068】
(3)複数のアルコール飲料に共用の発酵タンクを用いたアルコール飲料製造方法
この実施形態に係るアルコール飲料製造方法は、好ましくは、1以上のウイスキー用の抽出口20bと、ウイスキー用の抽出口20bよりも高い位置に配置される1以上のビール用の抽出口20aと、を備えた発酵タンク4(共用の発酵タンク4ともいう。)を有するアルコール飲料製造装置1を使用することができる(図2参照)。ビールを製造する場合には、発酵タンク4においてビールの発酵処理を行った後に、ビール用の抽出口20aよりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、ビール用の抽出口20aからビールを外部に抽出することができる。一方、ウイスキーを製造する場合には、発酵タンク4においてウイスキーの発酵処理を行った後に、ウイスキー用の抽出口20bよりも下方に溜まる残渣の排出を低減または防止しながら、ウイスキー用の抽出口20bからウイスキー用の発酵処理液を外部に抽出することができる。
【0069】
(4)共用の発酵タンクを複数用いたアルコール飲料製造方法
図9は、ビールとウイスキーの発酵処理を同時期に行う状況を説明するための図を示す。図9において、(A)はビール用の発酵タンク4を、(B)はウイスキー用の発酵タンク4を、それぞれ示す。3つ以上の発酵タンク4を備えたアルコール飲料製造装置1を用いる場合には、第3の発酵タンク4(図9中の点線で描かれた部分)も使用される。
【0070】
発酵タンク4は、図9に示すように、ビール用の抽出口20aと、ウイスキー用の抽出口20bとを備えた、ビールとウイスキー共用の発酵タンク4である。かかる発酵タンク4を用いると、発酵タンク4を、ビール専用またはウイスキー専用のタンクとせずに、両方に共用可能なタンクにできる。したがって、発酵タンク4をビール用に使用した際には、残渣52aの排出を低減または防止しながら、より高い位置に設けられたビール用の抽出口20aから発酵処理液(この場合にはビール)51aを外部に抜くことができる。一方、発酵タンク4をウイスキー用に使用した際には、残渣52bの排出を低減または防止しながら、より低い位置に設けられたウイスキー用の抽出口20bから発酵処理液(この場合にはウイスキーの前段階の液)51bを外部に抜くことができる。なお、図9以外では、「残渣」に符号をつけない。
【0071】
(5)酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法
図10は、酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
【0072】
このアルコール飲料製造方法は、発酵タンク4における発酵対象がビールかウイスキーかの選択を行うための第一入力装置32と、発酵タンク4に酵母を供給するための酵母供給装置31と、酵母供給装置31から発酵タンク4への酵母の供給の有無および供給量を制御するための第一制御ユニット34と、発酵タンク4内の麦汁の温度を測定するための醪温度センサ33と、を備えるアルコール飲料製造装置1を用いて行われる。第一制御ユニット34は、第一記憶部40を含むメモリ64と、第一中央処理ユニット(CPU)65と、を含む。第1記憶部40は、ビールおよびウイスキーのそれぞれにおいて発酵に適した酵母の添加量および酵母の添加を開始するときの液温範囲の各データを少なくとも記憶するための構成部(メモリ)64に含まれる。
【0073】
図10のアルコール飲料製造方法は、発酵対象判別ステップ(S100)と、液温判別ステップ(S110,S120)と、供給決定ステップ(S130,S140)と、酵母供給信号送信ステップ(S170,S180)と、を含む。これらの各ステップは、第一制御ユニット34の各処理を実行する第一中央処理ユニット(CPU)により行われる。以下、各ステップを説明する。
【0074】
・発酵対象判別ステップ(S100)
このステップは、第一入力装置32において選択される発酵対象を判別するステップである。この実施形態では、ユーザがビールの製造を選択したか否かが判別される。この結果、発酵対象がビールの場合にはS110に進む。また、発酵対象がウイスキーの場合にはS120に進む。
【0075】
・液温判別ステップ(S110,120)
このステップは、醪温度センサ33により測定された液温が、メモリの一部を構成する第一記憶部40に格納される液温範囲に入るか否かを判別するステップである。この実施形態では、ビールが選択された場合にはビールについて決められた液温範囲に入るか否か(S110)、ウイスキーが選択された場合にはウイスキーについて決められた液温範囲に入るか否か(S120)が判別される。S110の判別の結果、液温が所定の液温範囲に入る場合にはS130に進む。一方、液温が所定の液温範囲に入らない場合にはS110の判別に戻る。また、S120の判別の結果、液温が所定の液温範囲に入る場合にはS140に進む。一方、液温が所定の液温範囲に入らない場合にはS120の判別に戻る。
【0076】
・供給決定ステップ(S130,S140)
このステップは、S110またはS120において、液温が液温範囲に入ると判別された場合に酵母の供給を行うことを決定するステップである。
【0077】
・酵母供給信号送信ステップ(S170,S180)
このステップは、上記発酵対象判別ステップにおいて判別された発酵対象および上記供給決定ステップによる決定に基づき、酵母供給装置31に向けて酵母を供給させる信号を送信するステップである。酵母の供給量は、前述の通り、ビールまたはウイスキーに適した量であり、メモリ(第一記憶部40またはそれ以外の記憶部)に記憶されている。CPUは、メモリにアクセスして、上記供給量のデータを読み出すことができる。
【0078】
酵母供給装置31は、酵母供給信号送信ステップからの信号を受けて、第一記憶部40内の発酵に適した酵母の添加量に基づき、発酵タンク4に酵母を添加する。
【0079】
(6)変形例に係る酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法
図11は、変形例に係る酵母供給システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
【0080】
図11のアルコール飲料製造方法は、図10における発酵対象判別ステップ(S100)、液温判別ステップ(S110,S120)、供給決定ステップ(S130,S140)、酵母供給信号送信ステップ(S170,S180)に加えて、酵母温度判別ステップ(S150,S160)、進行ステップ(S155,S165)および停止ステップ(S156,S166)を含む。これらの各ステップは、第一制御ユニット34の機能を持つハードウェアに含まれる第一中央処理ユニット(CPU)により行われる。以下、酵母温度判別ステップ(S150,S160)、進行ステップ(S155,S165)および停止ステップ(S156,S166)の各ステップを説明する。
【0081】
なお、図11の各ステップの内、図10の各ステップと共通するステップについては、図10を参照して説明した内容を代用できるので、ここでは重複した説明を省略する。また、アルコール飲料製造装置1は、酵母供給装置31内の酵母の温度を測定するための酵母温度センサ35をさらに備える。第一記憶部40は、酵母の供給に適する上限温度を記憶している。
【0082】
・酵母温度判別ステップ(S150,160)
このステップは、酵母温度センサ35により測定された酵母の温度と第一記憶部40内の上限温度とを比較して、酵母の温度が上限温度以下かどうかを判別するステップである。S150による判別は、S130の次に行われる。この結果、酵母の温度が上限温度以下の場合には、S155に進む。一方、酵母の温度が上限温度を超えている場合には、S156に進む。また、S160による判別は、S140の次に行われる。この結果、酵母の温度が上限温度以下の場合には、S165に進む。一方、酵母の温度が上限温度を超えている場合には、S166に進む。
【0083】
・進行ステップ(S155,165)
このステップは、酵母の温度が上限温度以下の場合に、供給決定ステップの決定以後の各ステップを進行させるステップである。
【0084】
・停止ステップ(S156,166)
このステップは、酵母の温度が上限温度を超える場合に、供給決定ステップの決定以後の各ステップを停止するステップである。
【0085】
この実施形態では、停止ステップの後に処理を終了している。しかし、図11のアルコール飲料製造方法は、停止ステップの後に、S150,S160の直前、S130,S140の直前、S110,S120の直前、S100の直前に戻るようにしてもよい。
【0086】
(7)煮沸システムを用いたアルコール飲料製造方法
図12は、煮沸システムを用いたアルコール飲料製造方法の主な工程のフローを示す。
【0087】
図12のアルコール飲料製造方法は、煮沸タンク3における処理対象がビールかウイスキーかの選択を行うための第二入力装置62と、煮沸タンク3内の麦汁を加熱するための加熱手段61と、加熱手段61の作動を制御するための第二制御ユニット63と、を備えるアルコール飲料製造装置1を用いて行われる。第二入力装置62、加熱手段61および第二制御ユニット63は、好ましくは、煮沸タンク3に備えられる。第二制御ユニット63は、第二記憶部70と、第二中央処理ユニットと、を備える。第二記憶部70は、ビールおよびウイスキーのそれぞれに適した処理を行うための加熱手段61の作動条件を少なくとも記憶するための構成部(メモリ)である。第二中央処理ユニットは、CPUである。
【0088】
図12のアルコール飲料製造方法は、処理対象判別ステップ(S200)と、加熱信号送信ステップ(S210)と、を含む。これらの各ステップは、第一制御ユニット34の各処理を実行する第一中央処理ユニット(CPU)により行われる。以下、各ステップを説明する。
【0089】
・処理対象判別ステップ(S200)
このステップは、第二入力装置62において選択される処理対象、すなわち、ビールかウイスキーかを判別するステップである。この実施形態では、ビールの製造が選択されたか否かが判別される。この結果、ビールの製造が選択された場合には、S210に進む。一方、ウイスキーの製造が選択された場合には、CPUは、加熱手段61への作動を実行することなく処理を終了する。
【0090】
・加熱信号送信ステップ(S210)
このステップは、第二入力装置62からの選択および第二記憶部70内の加熱手段61の作動条件のデータに基づき、加熱手段61への作動を行うステップである。
【0091】
6.アルコール飲料製造装置の店舗における運用
図13は、酵母供給システムおよび煮沸システムを有するアルコール飲料製造装置を店舗で運用する場合の一例を示す。
【0092】
ユーザは丹精込めて製造したアルコール飲料を飲食店にて顧客(アルコール飲料の需要者)に提供する。顧客は店舗内のアルコール飲料製造装置を見ながら飲食を楽しむ。以下で詳細に示すように、アルコール飲料製造装置の店舗における運用では、好ましくは、PC(Personal Computer)が利用される。PCには、飲食店から送信された需要動向に関するデータが収集され、顧客の要望として保存される。この要望(需要動向)は、ユーザが提供したアルコール飲料の種類、アルコール度数、同時に提供された料理の種類、並びにユーザによって評価されたアルコール飲料の味および風味等の味覚情報等と共に保存されてもよい。これにより、ユーザは、所定の時間(時期)および場所において、顧客が好むアルコール飲料の種類、アルコール度数、提供された料理との相性、アルコール飲料の味および風味等を傾向として知る。また、これらをデータベース化することもできる。
【0093】
さらに、PCには、以下で詳述するPLC(Programmable Logic Controller)から送信された、仕込みに用いた原料、酵母の種類、酵母の添加量および添加時期、並びに煮沸条件等のデータが収集され、保存される。この結果、ユーザは、アルコール飲料の味等を制御する際に、これらの定量データを用いることが容易になる。
【0094】
さらに、PCは、上記の顧客の好みの傾向に合致する条件で、煮沸および/または酵母の添加をするよう、煮沸システムおよび酵母供給システムに指令を送ってもよい。この指令は自動的に行われてもよいし、ユーザがマニュアル操作で行ってもよい。このことにより、顧客の要望に迅速に対応でき、種々のアルコール飲料を製造販売可能な飲食店(チェーン店も)を実現できる。
【0095】
さらに、本発明に係る製造装置、発酵タンクおよび製造方法を用いれば、同一の原料(麦、トウモロコシ等)にて、ビール等またはウイスキー等を作り分けることができる。ユーザにとっては、「今日はビール、明日はウイスキー」の製造選択ができる。また、来客した顧客(特に観光客)にとっては、特定の地域において、同一原料から生産された種々のアルコール飲料を選択し、楽しむことができる。これは地域性を実感したい顧客にとっては、満足度の向上につながる。なお、本発明に係る、製造装置、発酵タンクおよび製造方法は、スムーズにしかも簡単に、飲食店に導入できる。
【0096】
ここでは、アルコール飲料製造装置の店舗における運用について、より詳細に述べる。この実施形態に係る酵母供給システムおよび煮沸システムは、いわゆるPLCを含む。図示するように、好ましくは、PLCにはPCが接続される。接続されたPCは、必要に応じて第一中央処理ユニットおよび第二中央処理ユニットに書き込まれたプログラムを選択し、実行し、または書き換えることができる。
【0097】
PCは、好ましくは、店舗における各アルコール飲料の生産量に関する情報、例えば、ビールおよびウイスキーが選択された回数と仕込まれた麦汁の量を、PLC(酵母供給システムおよび/または煮沸システム)から収集する。また、需要者の需要動向等に関する情報、例えば、販売量を店舗から収集する。これらの情報に基づいて、各アルコール飲料を増産すべきか減産すべきか予想して、ユーザに示す。予想は、各アルコール飲料の生産量および需要量の各値を時間ごとにプロットして、回帰分析することによって行ってもよい。増産または減産すべき各アルコール飲料の量は、得られた回帰直線(または回帰曲線)の将来の時期における両者の差として決定してもよい。増産すべきなのは、将来に予想される生産量が需要量を下まわったときである。一方、減産すべきなのは、将来に予想される生産量が需要量を上まわったきである。これらの結果に基づき、ユーザは、設置すべき仕込みタンク2、煮沸タンク3および発酵タンク4の数、ならびに、仕込むべき麦汁の量および生産開始時期等を決定することができる。また、需要に応じて、前記2以上の発酵タンクのうちどれをビール製造に用い、どれをウイスキー製造に用いるか、または、ビールとウイスキーを同時並行して製造すべきか否かを選択するのが容易となる。
【0098】
また、PCは、好ましくは他店舗のPCと連携する(不図示)。連携は、有線または無線にて自店舗のPCを他店舗のPCに接続する他、インターネットを介して他店舗のPCに接続することにより行う。連携されたPC同士は、自店舗に加え他店舗のアルコール飲料の生産量や需要者の需要動向等に関する情報を収集する。自店舗に供給不足が生じ、他店舗に余剰在庫が生じると予想される場合には、他店舗の在庫から必要な量のアルコール飲料の供給を受ける。また、逆に、自店舗に余剰在庫が生じ、他店舗に供給不足が生じると予想される場合には、自店舗の在庫から多店舗に必要な量のアルコール飲料を供給する。さらに、自店舗および他店舗のいずれにも供給不足または余剰在庫が生じると予想される場合には、全ての店舗は、アルコール飲料を増産または生産停止する。このようなPC同士の連携を特定の地域に広げて、ネットワークを形成することができる。このネットワークにより、小規模経営の飲食店(又はレストラン、カフェ、バー、ビール専門店)でも、急激な需要動向の変化に対処しつつ、地域ごとに特色あるアルコール飲料を提供できる。
【0099】
なお、接続される情報通信機器は、PLCと接続可能であれば、PCに限定されず、スマートフォン等を含むICT(Information and Communication Technology)であってもよい。
【0100】
以上のように、ビールを含む低アルコール飲料の製造と、ウイスキーを含む高アルコール飲料の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置1を店内に備える飲食店(又はレストラン、カフェ、バー、ビール専門店)は、1以上の仕込みタンク2と、1以上の煮沸タンク3と、2以上の発酵タンク4とを備えるアルコール飲料製造装置1を有し、需要に応じて、2以上の発酵タンク4のうちどれをビールの製造に用い、どれをウイスキー等含む蒸留酒の製造に用いるかが選択可能である。アルコール飲料製造装置1は、好ましくは、ビールを含む低アルコール飲料の製造と、ウイスキーを含む高アルコール飲料を選択可能とする装置であって情報通信技術(ICT)を含む装置を有する。
【0101】
7.ビールおよびウイスキー以外のアルコール飲料への転用
図14は、本発明の実施形態に係るアルコール飲料製造装置を用いて醸造酒と蒸留酒を生産する場合の概略図を示す。
【0102】
上記したように、アルコール飲料製造装置1から得られた発酵処理液は、その用途に応じてビールおよび蒸留酒の生産に用いることができる。ビールの生産の場合、発酵処理液は貯蔵容器81で貯蔵された後、ビールとして顧客に提供される。一方、蒸留酒の生産の場合、発酵処理液は蒸留器82での蒸留に供される。得られた蒸留液が必要に応じて樽83内で熟成された後、蒸留酒として顧客に提供される。
【0103】
図1に示されたアルコール飲料製造装置1は、発酵タンク4と、その前に設置された2つのタンク(仕込みタンク2および煮沸タンク3)と、を備える。これは、ビールおよびウイスキーが、いずれも単行複発酵酒であり、生産に際して麦汁の糖化工程を含むからである。また、ビールの生産に際して煮沸処理が必要だからである。
【0104】
一方、ワインのような単発酵酒の生産では、アルコール飲料製造装置1を、例えば、以下のように利用する。ワインの生産は、原料であるブドウそのものに糖分が含まれるので、糖化工程を含まない。さらに煮沸処理を必要としない。したがって、ワインの生産に際して、仕込みタンク2は発酵前のマセレーションを行うのに用いられる。マセレーション後、粉砕されたブドウは圧搾される。圧搾は、ポンプ13aを作動させるとともに、仕込みタンク2内のブドウに圧力を加えることにより行う。圧搾された果汁について、必要に応じて、煮沸3におけるワールプールを用いた不純物の除去が行われる。この際に、煮沸処理は行わない。その後、果汁は発酵タンク4で発酵される。発酵された果汁の抽出は、低い位置に形成された抽出口から行う。発酵が進むにつれて、「果帽」と呼ばれる果肉と果皮の固形物が果汁の表面に浮き上がってくるからである。発酵タンク4から抽出された発酵処理液は、貯蔵容器81に貯蔵され、ワインとして顧客に提供される。また、発酵された果汁が、蒸留器82での蒸留に供され、得られた蒸留液が樽83内で熟成された後、ブランデーとして顧客に提供される。
【0105】
このように、本発明に係るアルコール飲料製造装置よれば、設備の再建をすることなく、他の醸造酒と蒸留酒の組み合わせ、例えば、ワインとブランデーを生産することができる。本発明に係るアルコール飲料製造装置の一部または全部を用いて、他の醸造酒や、他の蒸留酒(例えば、ウォッカ、ジン、テキーラおよびラム酒)を製造することができる。
【0106】
8.その他の実施形態
本発明は、ビールに代えて発泡酒の製造にも利用できる他、上記の実施形態に限定されず、種々変更して実施可能である。
【0107】
アルコール飲料製造装置1は、好ましくは、発酵タンク4を複数備えるが、仕込みタンク2および煮沸タンク3のいずれか一種類のタンクを複数備えてもよい。
【0108】
第一制御ユニット34および第二制御ユニット63における各構成部は、ファンクションボックスとして図面に描かれている。各構成部の処理は、実際には、1または複数のCPU、1または複数のメモリというハードウェアと、メモリ内のコンピュータプログラムというソフトウエアとの協働により行われる。
【0109】
また、変形例に係るアルコール飲料製造装置1は、ビール等の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店向けの装置であって、1以上の仕込みタンク2と、1以上の煮沸タンク3と、2以上の発酵タンク4と、を備え、需要に応じて、2以上の発酵タンク4のうちどれをビールの製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択可能とするものでもよい。
【0110】
さらに、別の変形例に係るアルコール飲料製造装置1は、1以上の仕込みタンク2と、1以上の煮沸タンク3と、3以上の発酵タンクと、を備え、3以上の発酵タンク4のうちどれを特定種類のビール等の製造に用い、どれを当該特定種以外の種類のビール等の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビール等および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能とするものでもよい。
【0111】
また、変形例に係るアルコール飲料製造方法は、ビール等の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店におけるアルコール飲料製造方法であって、そのアルコール飲料製造装置は、1以上の仕込みタンク2と、1以上の煮沸タンク3と、2以上の発酵タンク4と、を備え、需要に応じて、2以上の発酵タンク4のうちどれをビール等の製造に用いどれを蒸留酒の製造に用いるかを選択可能とする製造方法でもよい。
【0112】
さらに、別の変形例に係るアルコール飲料製造方法は、ビール等の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置を店内に備える飲食店におけるアルコール飲料製造方法であって、そのアルコール飲料製造装置は、1以上の仕込みタンク2と、1以上の煮沸タンク3と、3以上の発酵タンク4と、を備え、3以上の発酵タンク4のうちどれを特定種類のビール等の製造に用い、どれを当該特定種以外の種類のビール等の製造に用い、どれを蒸留酒の製造に用いるかを選択することにより、少なくとも2種類のビール等および少なくとも1種類の蒸留酒を同時並行して製造可能とする製造方法でもよい。
【0113】
上記のいずれかの実施形態に係るアルコール飲料製造装置1の仕込みタンク2、煮沸タンク3および/または発酵タンク4において、好ましくは、その各内容積が500L以下である。当該内容積が小さいことにより、アルコール飲料の製造サイクルが短くなり、多種多様のアルコール飲料を効率的に提供できる。また、発酵タンク4からの発酵処理液は、ポットスティルを用いて蒸留され、ウイスキーの原液となる。この原液は、80L、好ましくは40L以下、より好ましくは20L以下、さらに好ましくは10L以下の小さな木樽の中で熟成させる方が好ましい。この結果、熟成期間を短縮でき、加えてそれぞれ異なった種類の木樽に小分けすることができるので、多種多様なウイスキーを効率的に提供できるようになる。
【0114】
上記実施形態によれば、ビール等の製造と、ウイスキー等の蒸留酒の製造を融合することができ、飲食店のオーナーにとって、店舗スペースの低減、店舗建設のための初期投資の低減とランニングコストの低減、さらにはアルコール飲料製造装置1の設置のための初期投資の低減、アルコール飲料製造装置1の効率的稼働によるランニングコスト低減などの効果を得ることができる。また、来店した顧客にとって、店内にあるアルコール飲料製造装置1を見ながら、新鮮で個性的なビール等、熟成されたウイスキーを食事とともに楽しむことができる。この結果、顧客満足度の向上およびリピート率の向上を期待できる。
【0115】
また、飲食店に、「マイクロブルワリーの機能」と「マイクロディスティラリーの機能」の両方の機能をもたせることにより、地産地消の多種多様な個性をもったクラフトビール等に加えて、地産地消のクラフトウイスキーを顧客に提供することが可能となる。これにより、顧客に対してはもちろんのこと、社会に対しても新しい価値・新しい文化を提供できる。
【0116】
上記実施形態中の構成要素は、組み合わせ不可能な場合を除き、適宜組み合わせて実施することもできる。例えば、アルコール飲料製造装置1の別の実施形態は、酵母供給システム30a,30bを発酵タンク4に備えて、かつ煮沸システム60を煮沸タンク3に備えてもよい。また、酵母供給システムの制御部分と煮沸システムの制御部分とをまとめた制御盤をアルコール飲料製造装置1に備えるようにしてもおよび。その他、特許請求の範囲の各請求項は、任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、ビール等およびウイスキーの生産に利用できる他、仕込み、煮沸、発酵を共有可能な複数種類の醸造酒と蒸留酒の組み合わせ、例えば、ワインとブランデーの製造にも利用し得る。さらに、他の蒸留酒、例えば、ウォッカ、ジン、テキーラおよびラム酒の製造にも転用可能である。
【符号の説明】
【0118】
1:アルコール飲料製造装置、2:仕込みタンク、3:煮沸タンク、4:発酵タンク、20a,20b:抽出口、30a,30b:酵母供給システム、31:酵母供給装置、32:第一入力装置、33:醪温度センサ、34:第一制御ユニット、35:酵母温度センサ、40:第一記憶部、41:発酵対象判別部、42:液温判別部、43:供給決定部、44:酵母供給信号送信部、45:酵母温度判別部、46:進行/停止部、50:酵母、51:麦汁(液体の一例)、51b:発酵処理液、52a,52b:残渣、61:加熱手段(一例としてヒータ)、62:第二入力装置、63:第二制御ユニット、64:メモリ、65:第一中央処理ユニット、66:第二中央処理ユニット、70:第二記憶部、71:処理対象判別部、72:加熱信号送信部。
【要約】
【課題】
ビールまたは発泡酒と蒸留酒の各需要に迅速対応でき、かつ製造スペースの低減を図る。
【解決手段】
本発明は、アルコール飲料の原料を投入して仕込みを行うための仕込みタンク2と、仕込みタンク2から移送された液体を煮沸するための煮沸タンク3と、煮沸タンク3から移送された液体に酵母を添加して発酵を行うための発酵タンク4とを少なくとも備え、仕込みタンク2、煮沸タンク3および発酵タンク4をビールまたは発泡酒の製造と蒸留酒の製造に共用可能なアルコール飲料製造装置1に関する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14