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特許7627386単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20250129BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024192569
(22)【出願日】2024-11-01
【審査請求日】2024-11-01
(31)【優先権主張番号】202311451668.3
(32)【優先日】2023-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523476133
【氏名又は名称】中国地質科学院地質研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳文
(72)【発明者】
【氏名】杜秋怡
(72)【発明者】
【氏名】孫敬博
(72)【発明者】
【氏名】田雲濤
(72)【発明者】
【氏名】沈沢
(72)【発明者】
【氏名】張斌
(72)【発明者】
【氏名】郭自曼
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126788(JP,A)
【文献】特開2023-070337(JP,A)
【文献】特表2022-527350(JP,A)
【文献】特開2014-209119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一粒子スフェンの溶解方法であって、
単一粒子のスフェン、フッ化水素酸及び濃硝酸を混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて加熱消化(Thermal digestion)して、初期溶解サンプルが得られ、前記加熱消化の温度は180℃であり、時間は24時間であり、前記濃硝酸の体積濃度は50%であるステップと、
前記初期溶解サンプルを加熱蒸発乾燥して、蒸発乾燥されたサンプルを得るステップと、
前記蒸発乾燥されたサンプルを濃塩酸と混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて再溶解して再溶解サンプルが得られ、前記再溶解の温度は180℃、時間は24時間であるステップを含むことを特徴とする溶解方法。
【請求項2】
前記フッ化水素酸の添加量は350μLであり、前記濃硝酸の添加量は25μLであることを特徴とする請求項1に記載の溶解方法。
【請求項3】
前記濃塩酸の添加量は300μLであることを特徴とする請求項1に記載の溶解方法。
【請求項4】
前記フッ化水素酸と濃硝酸、濃塩酸の金属不純物含有量はいずれも0.01ppb未満であることを特徴とする請求項1に記載の溶解方法。
【請求項5】
前記加熱蒸発乾燥の温度は60℃であることを特徴とする請求項1に記載の溶解方法。
【請求項6】
単一粒子スフェンサンプルを選定するステップS1と、
前記単一粒子スフェンサンプルを加熱してHeを抽出し、精製して精製ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて同位体希釈法により前記精製ガス中のHe含有量を測定し、単一粒子スフェンサンプル中のHe含有量とするステップS2と、
請求項1~5のいずれに記載の溶解方法に従って前記単一粒子スフェンサンプルを溶解して、測定対象の混合溶液を調製し、ここで、加熱溶解のステップを以下のように置き換える:前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を加熱溶解し、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて同位体希釈法により測定して、前記単一粒子スフェンサンプル中の238Uと232Thの含有量を取得し、前記希釈剤溶液は、235U、238U、232Th、230Thを含む濃硝酸溶液であるステップS3と、
測定された単一粒子スフェンサンプルのHe、238U及び232Thの含有量を年代公式(1)に代入し、計算してスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代が得られ、
【数1】

式(1)において、He、238U及び232Thは測定された原子数であり、tは放射性崩壊により生成された娘同位体Heが蓄積された時間であり、λ238、λ235、λ232238U、235U、232Thの減衰定数であり、それぞれが1.55125×10-10-1、9.8485×10-10-1、4.9475×10-11-1であるステップS4を含むことを特徴とする単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法。
【請求項7】
前記単一粒子スフェンサンプルの最小幅は>80μmであることを特徴とする請求項6に記載の単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法。
【請求項8】
前記Heの加熱及び抽出は970nmのダイオードレーザーで実行され、前記Heの加熱及び抽出のレーザー電流は15Aであり、時間は10分であることを特徴とする請求項6に記載の単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法。
【請求項9】
前記ステップS2において、前記精製ガス中のHe含有量を測定するには、
前記精製ガスと希釈剤Heを混合し、サンプル混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記サンプル混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spiked Sampleと記録するステップと、
既知量のHe標準ガスと希釈剤Heを混合し、標準混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記標準混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spike standardと記録し、前記サンプル混合ガスと標準混合ガスの調製に使用する希釈剤Heの体積は同じであるステップと、
式(2)に基づいて、精製ガス中のHeの含有量を次のように計算し、
【数2】

式(2)において、HeSampleは精製ガス中のHeの含有量であり、He StandardHe標準ガス中のHeの含有量であるステップを含み、或いは、
前記単一粒子スフェンサンプルの最小幅は>80μmであり、前記ステップS2において、前記精製ガス中のHe含有量を測定するには、
前記精製ガスと希釈剤Heを混合し、サンプル混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記サンプル混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spiked Sampleと記録するステップと、
既知量のHe標準ガスと希釈剤Heを混合し、標準混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記標準混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spike standardと記録し、前記サンプル混合ガスと標準混合ガスの調製に使用する希釈剤Heの体積は同じであるステップと、
式(2)に基づいて、精製ガス中のHeの含有量を次のように計算し、
【数3】

式(2)において、HeSampleは精製ガス中のHeの含有量であり、He StandardHe標準ガス中のHeの含有量であるステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法。
【請求項10】
前記ステップS3には、
235U、238U、232Th及び230Thを含む濃硝酸溶液を希釈剤溶液として提供し、前記希釈剤溶液中の235U/238U比及び230Th/232Th比は既に標定されていることと、
238U及び232Thの含有量が既知で、230Thを含まない硝酸溶液を標準溶液として提供し、前記標準溶液中の235U/238U比は既に標定されていることと、
前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解し、測定対象の混合溶液が得られることと、
前記希釈剤溶液を標準溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解して、希釈剤-標準溶液混合液を得て、前記測定対象の混合溶液と希釈剤-標準溶液混合液の調製に使用される希釈剤溶液の体積は同じであることと、
誘導結合プラズマ質量分析計を使用して、前記測定対象の混合溶液及び希釈剤-標準溶液混合液の235U/238U比及び230Th/232Th比を測定することと、
希釈剤溶液中の238U含有量は式(3)によって計算され、238Spikeと記録され、次に単一粒子スフェンサンプル中の238U含有量は式(4)によって計算され、238Sampleと記録され、
【数4】

式(3)において、238Standardは標準溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、(235U/238U)Standardは標定された標準溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の235U/238U比であり、
【数5】

式(4)において、238Spikeは式(3)によって計算された希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された際の正確な238Uの原子数でもあり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液の235U/238U比であり、(235U/238U)Sampleはスフェンサンプル中の天然の235U/238U比であり、(235U/238U)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の235U/238U比であることと、
式(5)によって希釈剤溶液中の232Th含有量を計算し、232ThSpikeと記録し、次に、式(6)を用いて単一粒子スフェンサンプル中の232Th含有量を計算し、232ThSampleと記録し、
【数6】

式(5)において、標準溶液中の230Th/232Th比は0であり、232ThStandardは標準溶液が混合溶液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の230Th/232Th比であり、
【数7】

式(6)において、スフェンサンプル中の230Th/232Th比は0であり、232ThSpikeは式(5)に基づいて計算された、希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された際の正確な232Thの原子数でもあり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の230Th/232Th比であることが含まれることを特徴とする請求項6に記載の単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物同位体年代測定の技術分野に関し、特に単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体熱年代学技術は近年急速に発展しており、これは、地質体の年代情報を提供するだけでなく、鉱物や地質体形成時の温度、深度などの情報も提供できるため、地質体の形成や構造の進化研究において大きな可能性を持っている。(ウラン-トリウム)/ヘリウム体系が低温条件に対して敏感であるため、(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法は現在、低温熱年代学研究において最も一般的に使用されている年代測定技術の一つである。(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定技術は、地質体の年代測定、盆地及び地域の熱歴史の進化研究、古地形の復元及び進化研究、堆積物源の追跡、ソース領域の構造の熱歴史分析、構造の隆起と剥蝕の歴史研究及び鉱床の形成と隆起と露出過程の研究などにおいて、非常に重要かつ有効な手段を提供した。
(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法は、他の同位体年代測定方法と同様に、放射性崩壊の原理に基づいている。母体同位体である238U、235U、232Thはα崩壊を経て娘同位体であるHeを生成し、崩壊式は(I)~(III)となる。
238U→206Pb+8α(He)+6β(I)
235U→207Pb+7α(He)+4β(II)
232Th→208Pb+6α(He)+4β(III)
【0003】
実際にはSmを含む他の元素も崩壊して放射性Heを生成するが、ほとんどの場合、生成されるHeの含有量は他の三種類の元素に比べてはるかに少ない。実験室では通常、鉱物内に残留する238U、235U、232Thの含有量のみを測定し、これら三種類の元素によって生成されたHeは、適切な条件下で鉱物内に部分的又は完全に保持され、徐々に蓄積され、鉱物内のHe含有量を測定し、上記の放射性崩壊式及び既存のパラメータ(λ238=1.551×10-10;λ235=9.848×10-10;λ232=4.947×10-11)に基づいて、鉱物の(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代を計算することができる。ここで、自然界におけるU同位体比率は235U/238U=1/137.88である。上記の式から得られるHe年代公式は以下の通りである。
【0004】
【数1】
【0005】
式(1)が成立する条件は、年代測定対象の鉱物中に原始のHeが存在しないことを仮定することである。大気中のヘリウム含有量は非常に低く(約5×10-6)、多くの場合、大気ヘリウムの混入は無視できる。
【0006】
異なる鉱物中のヘリウムの拡散動力学が異なるため、閉鎖温度も異なり、したがって、異なる鉱物のヘリウム年代は、異なる温度範囲の熱歴史進化情報を提供でき、(ウラン-トリウム)/ヘリウム体系を利用することで、地質体の冷却歴史を得ることができる。多数の鉱物が(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定に適している可能性があるが、より詳細に研究されているのは、ジルコンやリン灰石などの少数の鉱物だけである。スフェンは単斜晶系の島状ケイ酸塩鉱物で、ウラン、トリウムを含み、副鉱物として火成岩、変成岩など各種岩石に広く分布しているため、潜在的な(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定鉱物として注目されている。スフェン内のヘリウム拡散特性の研究により、スフェンヘリウム体系の閉鎖温度は100~180℃であることが確定されており、この温度範囲は他の既存の熱年代学技術では十分に制約されていない。リン灰石の核分裂追跡温度範囲は約60~120℃であり、長石類鉱物のアルゴン-アルゴン体系は170℃を超える温度範囲の情報を提供できるため、スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム体系の応用は、低温熱年代学研究のギャップを埋めることができる。
【0007】
国内外では(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定技術に関する研究成果が多いが、スフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を行うものは比較的少ない。発表されている研究成果も散発的で、スフェンなどのサンプルを用いて(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定を行っているか、完全にジルコンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を模倣してスフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代を測定している。
【0008】
スフェンの等分割サンプルを用いた(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定の具体的な方法は、等量のスフェンサンプルを2つ準備することにあり、一つのサンプルはヘリウム含有量を測定するために使用され、もう一つのサンプルはウランとトリウムの含有量を測定するために使用される。この方法の重大な欠点は、各等分割サンプルに最小質量の制限がある点である。サンプル粒子中のウランとトリウムの含有量が均一でないため、各等分割サンプルは、各スフェン粒子中のウランとトリウムの差異が均衡させるために、十分に大きくしなければならない。一方、等分割サンプルの量はサンプルを詳細に研究することで予測しなければならないが、予測された必要なサンプル量の正確性が低く、通常、1つの等分割サンプルには少なくとも数ミリグラムのサンプル量が必要であり、必要なスフェンサンプル量は非常に多い。等分割サンプルを用いた(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定は、(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法の中では比較的原始的な方法であり、実験プロセスの改善に伴い、この精度が低くサンプル量を多く必要とする方法は、徐々に単一粒子サンプル(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定に置き換えられている。
【0009】
現在、国内外ではジルコン、リン灰石などの鉱物の単一粒子(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法が確立されており、同一粒のサンプルを測定することでウラン、トリウム及びヘリウム含有量を得ることができる。ここで、溶解工程は単一粒子(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法の重要なプロセスである。一般的な溶解方法には常圧溶解、高圧溶解、超音波溶解などがある。リン灰石は比較的溶解しやすい鉱物であり、サンプルに酸試薬を加え、超音波を使用することで、リン灰石を完全に溶解することができる。一方、ジルコンやスフェンなどのケイ酸塩鉱物は溶解が難しく、複数の酸試薬を用いて何度も溶解する必要がある。常圧溶解を使用する場合、通常は開放型容器を用いるが、これでは一部の難溶性元素が完全に溶解せず、高温下で大量の酸が揮発して環境を汚染し、実験者の健康を害する恐れがあると同時に、揮発による一部の元素の損失が発生しやすく、分析結果の正確性に重大な影響を与える。ジルコンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法では、ジルコンサンプルを溶解する際に高圧溶解法を使用し、フッ化水素酸などの非常に腐食性の強い酸を使用し、且つ単回の溶解時間は48時間以上必要であり、溶解温度も200℃以上に達する。加えて、再溶解が必要となり、サンプルを溶解する全体のステップの時間が長くなる。ジルコンの溶解プロセスをスフェンの溶解にそのまま使用すると、第一に、溶解時間が長く、溶解効率が低いこと、第二に、スフェンサンプルが完全に溶解することを保証できない。
【0010】
現在、単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定実験方法が確立された報告はまだ見られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供し、(ウラン-トリウム)/ヘリウムの年代を正確に測定し、単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定技術のギャップを埋めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記の目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決策を提供する。
本発明は、単一粒子スフェンの溶解方法を提供し、
単一粒子のスフェン、フッ化水素酸及び濃硝酸を混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて加熱消化(Thermal digestion)して、初期溶解サンプルが得られ、前記加熱溶解の温度は180℃であり、時間は24時間であるステップと、
前記初期溶解サンプルを加熱蒸発乾燥して、蒸発乾燥されたサンプルを得るステップと、
前記蒸発乾燥されたサンプルを濃塩酸と混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて再溶解して再溶解サンプルが得られ、前記再溶解の温度は180℃、時間は24時間であるステップを含む。
【0013】
好ましくは、前記フッ化水素酸の添加量は350μLであり、前記濃硝酸の添加量は25μLであり、前記濃硝酸の体積濃度は50%である。
【0014】
好ましくは、前記濃塩酸の添加量は300μLである。
【0015】
好ましくは、前記フッ化水素酸と濃硝酸、濃塩酸の金属不純物含有量はいずれも0.01ppb未満である。
【0016】
好ましくは、前記加熱蒸発乾燥の温度は60℃である。
【0017】
本発明は単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供し、
単一粒子スフェンサンプルを選定するステップS1と、
前記単一粒子スフェンサンプルを加熱してHeを抽出し、精製して精製ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて同位体希釈法により前記精製ガス中のHe含有量を測定し、単一粒子スフェンサンプル中のHe含有量とするステップS2と、
上記技術案に記載の溶解方法に従って前記単一粒子スフェンサンプルを溶解して、測定対象の混合溶液を製造し、ここで、加熱溶解のステップを以下のように置き換える:前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を加熱溶解し、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて同位体希釈法により測定して、前記単一粒子スフェンサンプル中の238Uと232Thの含有量を取得し、前記希釈剤溶液は、235U、238U、232Th、230Thを含む濃硝酸溶液であるステップS3と、
測定された単一粒子スフェンサンプルのHe、238U及び232Thの含有量を年代公式(1)に代入し、計算してスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代が得られ、
【0018】
【数2】
【0019】
式(1)において、He、238U及び232Thは測定された原子数であり、tは放射性崩壊により生成された娘同位体Heが蓄積された時間であり、λ238、λ235、λ232238U、235U、232Thの減衰定数であり、それぞれが1.55125×10-10-1、9.8485×10-10-1、4.9475×10-11-1であるステップS4を含む。
【0020】
好ましくは、前記単一粒子スフェンサンプルの最小幅は>80μmである。
【0021】
好ましくは、前記Heの加熱及び抽出は970nmのダイオードレーザーで実行され、前記Heの加熱及び抽出のレーザー電流は15Aであり、時間は10分である。
【0022】
好ましくは、前記ステップS2において、前記精製ガス中のHe含有量を測定するには、
前記精製ガスと希釈剤Heを混合し、サンプル混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記サンプル混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spiked Sampleと記録するステップと、
既知量のHe標準ガスと希釈剤Heを混合し、標準混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記標準混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spike standardと記録し、前記サンプル混合ガスと標準混合ガスの調製に使用する希釈剤Heの体積は同じであるステップと、
式(2)に基づいて、精製ガス中のHeの含有量を次のように計算し、
【0023】
【数3】

式(2)において、HeSampleは精製ガス中のHeの含有量であり、HeQStandardHe標準ガス中のHeの含有量であるステップを含む。
【0024】
好ましくは、前記ステップS3には、
235U、238U、232Th及び230Thを含む濃硝酸溶液を希釈剤溶液として提供し、前記希釈剤溶液中の235U/238U比及び230Th/232Th比は既に標定されていることと、
238U及び232Thの含有量が既知で、230Thを含まない硝酸溶液を標準溶液として提供し、前記標準溶液中の235U/238U比は既に標定されていることと、
前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解し、測定対象の混合溶液が得られることと、
前記希釈剤溶液を標準溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解して、希釈剤-標準溶液混合液を得て、前記測定対象の混合溶液と希釈剤-標準溶液混合液の調製に使用される希釈剤溶液の体積は同じであることと、
誘導結合プラズマ質量分析計を使用して、前記測定対象の混合溶液及び希釈剤-標準溶液混合液の235U/238U比及び230Th/232Th比を測定することと、
希釈剤溶液中の238U含有量は式(3)によって計算され、238Spikeと記録され、次に単一粒子スフェンサンプル中の238U含有量は式(4)によって計算され、238Sampleと記録され、
【0025】
【数4】
【0026】
式(3)において、238Standardは標準溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、(235U/238U)Standardは標定された標準溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の235U/238U比であり、
【0027】
【数5】
【0028】
式(4)において、238Spikeは式(3)によって計算された希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された際の正確な238Uの原子数でもあり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液の235U/238U比であり、(235U/238U)Sampleはスフェンサンプル中の天然の235U/238U比であり、(235U/238U)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の235U/238U比であることと、
式(5)によって希釈剤溶液中の232Th含有量を計算し、232ThSpikeと記録し、次に、式(6)を用いて単一粒子スフェンサンプル中の232Th含有量を計算し、232ThSampleと記録し、
【0029】
【数6】
【0030】
式(5)において、標準溶液中の230Th/232Th比は0であり、232ThStandardは標準溶液が混合溶液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の230Th/232Th比であり、
【0031】
【数7】
【0032】
式(6)において、スフェンサンプル中の230Th/232Th比は0であり、232ThSpikeは式(5)に基づいて計算された、希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された際の正確な232Thの原子数でもあり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の230Th/232Th比であることが含まれる。
【0033】
本発明は、完全なスフェン粒子の溶解プロセスを確立した。(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定法において、最も重要なステップの一つは鉱物粒子の溶解方法である。従来のスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定法は基本的にジルコンの実験プロセスを模倣しており、サンプルを溶解する際に使用される温度が高く、長時間かかるため、プロセスが複雑で時間がかかって効率が低く、実験過程にも危険性があった。本発明は、単一粒子スフェンに特有の溶解方法を提供した。酸の使用に関しては、スフェンがケイ酸塩鉱物であることを考慮し、フッ化水素酸がスフェンを効果的に溶解できるが、フッ化水素酸の使用により難溶性のフッ化物が生成する可能性があるため、フッ化水素酸で溶解後に加熱蒸発乾燥し、次に濃塩酸で再溶解した。
【0034】
本発明は、密閉容器内で酸を用いてスフェンサンプルを分解する方法を選択し、圧力が増加することで酸の沸点が上昇し、酸の分解能力が強化される。また、密閉容器を使用することで、揮発性成分を定量的に溶液中に保持でき、サンプルの溶解温度も相対的に低く抑えられる。本発明が確立した単一粒子スフェンの溶解方法は、高圧釜内で行われ、高圧釜内の高圧により酸の分解効果もさらに向上する。ジルコンの溶解プロセスと比較して、本発明は溶解温度を低減し、さらに溶解時間を大幅に短縮し、溶解効率を向上させた。
【0035】
さらに、本発明では精製された高純度の酸を使用するため、試料分解によって引き起こされる干渉も無視できる。
【0036】
本発明は、単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供する。従来の(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定法でウラン、トリウム、ヘリウムの含有量を測定する時に等分割サンプル法で測定したことに比べ、本発明は同一粒サンプルを測定することでウラン、トリウム、ヘリウムの含有量が得られ、これを(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代公式に直接代入して年代値を得ることができ、サンプルの調製において検討や重量測定の手間を避けることができ、測定がより簡便になるとともに、貴重なスフェンサンプルを効果的に節約できる。
【0037】
本発明が提供する単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定法では、スフェン中の娘同位体であるヘリウム及び母体同位体であるウランとトリウムの測定において、何れも同位体希釈法を採用している。同位体希釈法には以下の利点がある:標準ガス/標準溶液及びスフェンサンプルに等量の希釈剤を加えるだけで、希釈剤の正確な量を知らなくてもスフェンサンプル中の測定対象の同位体の含有量(ウラン、トリウム、ヘリウム)を得ることができる。当該方法は相対的に正確であり、通常ウランとトリウムの測定誤差は約1%から2%、ヘリウムの測定誤差は1%未満である。誤差伝達により、単一粒子スフェンの年代誤差は3%未満であることが算出された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の単一粒子スフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法のフローチャートである。
図2】スフェン粒子の測定図である。
図3】ニオブカプセルの実物図である。
図4】実施例で使用したAlphachronヘリウム同位体質量分析計の実物図である。
図5】レーザー室及びスフェンサンプルを搭載したサンプルホルダーの写真である。
図6】高圧釜の実物図である。
図7】加熱蒸発乾燥を行っている実物図である。
図8】再溶解を行っているサンプルの写真である。
図9】誘導結合プラズマ質量分析計の実物図である。
図10】比較例1~4のFCTスフェンの年代とU/Thの関係図である。
図11】比較例5~6のFCTスフェンの年代とU/Thの関係図である。
図12】比較例7~8のFCTスフェンの年代とU/Thの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、単一粒子スフェンの溶解方法を提供し、
単一粒子のスフェン、フッ化水素酸及び濃硝酸を混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて加熱消化(Thermal digestion)して、初期溶解サンプルが得られ、前記加熱溶解の温度は180℃であり、時間は24時間であるステップと、
前記初期溶解サンプルを加熱蒸発乾燥して、蒸発乾燥されたサンプルを得るステップと、
前記蒸発乾燥されたサンプルを濃塩酸と混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて再溶解して再溶解サンプルが得られ、前記再溶解の温度は180℃、時間は24時間であるステップを含む。
【0040】
本発明において、特に記載がない限り、使用される原料はすべて本分野で熟知の市販品である。本発明において、前記フッ化水素酸は市販の純フッ化水素酸であり、前記濃塩酸は本分野で熟知の市販の濃塩酸であり、質量分率は36~38%である。
【0041】
本発明は、単一粒子スフェン、フッ化水素酸、及び濃硝酸を混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて加熱溶解することで初期溶解サンプルが得られる。
【0042】
本発明では、前記単一粒子スフェンの最小幅は好ましくは80μmより大きい。
【0043】
本発明では、前記フッ化水素酸及び濃硝酸は好ましくは精製された酸であり、金属不純物含有量は0.01ppb未満である。本発明では、精製された高純度酸を採用することで、試料の分解により新たな干渉が導入されるのを防ぐことができる。本発明では、前記濃硝酸の体積濃度は、好ましくは50%(即ち、HNOと水の体積比が1:1である)である。本発明では、前記フッ化水素酸の添加量は好ましくは350μLであり、前記濃硝酸の添加量は好ましくは25μLである。本発明では、フッ化水素酸及び濃硝酸の添加量を上述の範囲内に制御することで、単一粒子スフェンの完全な溶解を保証し、実験の安全性を保証することができる。
【0044】
本発明は、好ましくは単一粒子スフェン、フッ化水素酸、及び濃硝酸をテフロン(登録商標)製溶解瓶に添加し、前記テフロン製溶解瓶を高圧釜の内張りに置き、前記高圧釜の内張りにフッ化水素酸及び体積濃度50%の濃硝酸を添加し、高圧釜を密閉して加熱溶解を行う。本発明では、前記高圧釜の内張りは好ましくはポリテトラフルオロエチレン内張りである。前記高圧釜の内張りに添加するフッ化水素酸の量は好ましくは9mLであり、濃硝酸の量は好ましくは420μLである。高圧釜内部は高温高圧の環境であり、本発明では前記高圧釜の内張りに濃硝酸及びフッ化水素酸を添加することで内部圧力のバランスを維持できる。
【0045】
本発明では、前記加熱溶解の温度は180℃であり、時間は24時間である。本発明では、フッ化水素酸及び濃硝酸を用いてスフェンを溶解するため、良好な溶解性を有するが、溶解過程において難溶性のフッ化物が生成する可能性がある。
【0046】
初期溶解サンプルを得た後、本発明では前記初期溶解サンプルを加熱蒸発乾燥し、蒸発乾燥されたサンプルを得る。本発明では、前記加熱蒸発乾燥の温度は好ましくは60℃であり、前記加熱蒸発乾燥は好ましくは加熱板上で行う。
【0047】
蒸発乾燥されたサンプルを得た後、本発明では前記蒸発乾燥されたサンプルを濃塩酸と混合し、得られた混合物を高圧釜に入れて再溶解して、再溶解サンプルが得られる。
【0048】
前記濃塩酸は好ましくは精製された濃塩酸であり、金属不純物含有量は0.01ppb未満である。本発明では、前記濃塩酸の添加量は好ましくは300μLである。本発明では、濃塩酸を用いて再溶解を行うことで、難溶性のフッ化物を効果的に溶解できる。
【0049】
本発明は、好ましくは前記蒸発乾燥されたサンプルに濃塩酸を添加し、濃塩酸を添加した蒸発乾燥されたサンプルを高圧釜の内張り置き、前記高圧釜の内張りに濃塩酸を添加し、高圧釜を密閉して再溶解を行う。本発明では、前記高圧釜の内張りに添加する濃塩酸の量は好ましくは9mLである。高圧釜内部は高温高圧の環境であり、本発明では前記高圧釜の内張りに濃塩酸を添加することで内部圧力のバランスを維持できる。
【0050】
本発明では、前記再溶解の温度は180℃、時間は24時間である。
【0051】
再溶解サンプルを得た後、本発明は、好ましくはさらに前記再溶解サンプルを酸除去することを含む。本発明では、前記酸除去の温度は好ましくは80℃である。本発明では、前記酸除去の実施プロセスについては特別な要件がなく、本分野の熟知の酸除去プロセスを採用すればよく、本発明の実施例では、具体的にはピペットを用いて前記再溶解サンプルを7mLのテフロン製溶解瓶内に移し、7mL溶解瓶を加熱板上に置いて加熱し、溶解瓶内の溶液が蒸発して残り100μLになった時点で加熱を停止する。
【0052】
本発明は、単一粒子スフェンに特有の溶解方法を提供した。酸の使用に関しては、スフェンがケイ酸塩鉱物であることを考慮し、フッ化水素酸がスフェンを効果的に溶解できるが、フッ化水素酸の使用により難溶性のフッ化物が生成する可能性があるため、フッ化水素酸で溶解後に加熱蒸発乾燥し、次に濃塩酸で再溶解する。ジルコンの溶解プロセスと比較して、本発明は溶解温度を低減するだけでなく、溶解時間を大幅に短縮し、溶解効率を向上させた。
【0053】
本発明は単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供し、
単一粒子スフェンサンプルを選定するステップS1と、
前記単一粒子スフェンサンプルを加熱してHeを抽出し、精製して精製ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて同位体希釈法により前記精製ガス中のHe含有量を測定し、単一粒子スフェンサンプル中のHe含有量とするステップS2と、
上記技術案に記載の溶解方法に従って前記単一粒子スフェンサンプルを溶解して、測定対象の混合溶液を準備し、ここで、加熱溶解のステップを以下のように置き換える:前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を加熱溶解し、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて同位体希釈法により測定して、前記単一粒子スフェンサンプル中の238Uと232Thの含有量を取得し、前記希釈剤溶液は、235U、238U、232Th及び230Thを含む濃硝酸溶液であるステップS3と、
測定された単一粒子スフェンサンプルのHe、238U及び232Thの含有量を年代公式(1)に代入し、計算してスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代が得られ、
【0054】
【数8】
【0055】
式(1)において、He、238U及び232Thは測定された原子数であり、tは放射性崩壊により生成された娘同位体Heが蓄積された時間であり、λ238、λ235、λ232238U、235U、232Thの減衰定数であり、それぞれが1.55125×10-10-1、9.8485×10-10-1、4.9475×10-11-1であるステップS4を含む。
【0056】
本発明は、まず単一粒子スフェンサンプルを選択する。
【0057】
本発明では、好ましくは単一粒子スフェンサンプルとして、結晶形が完全で、クリーンで亀裂がなく、包有体を含まないスフェン粒子を選択する。ほとんどの場合、結晶が部分的に欠けているか、ひどく損傷している場合、測定される年代が過大に見積もられる可能性があり、また、スフェン中の包有体は、スフェン結晶内部の成分分離効果を引き起こす可能性があるため、(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定のサンプルとして、好ましくは包有体を含まない純粋なスフェン粒子を選択する。本発明では、前記単一粒子スフェンサンプルの最小幅は好ましくは>80μmであり、さらに好ましくは90~120μmである。本発明は上述のサイズの単一粒子スフェンサンプルを採用することで、測定の正確性に有利であり、サイズが小さい鉱物粒子では、校正係数が過大になるため、最終的な年代結果の正確性が著しく低下する。本発明では、好ましくは顕微鏡を用いてスフェンサンプルを観察し、サイズを測定して選択する。
【0058】
単一粒子スフェンサンプルを選択した後、本発明では、前記単一粒子スフェンサンプルを加熱してHeを抽出し、精製することで精製ガスが得られ、前記精製ガス中のHe含有量は、ヘリウム同位体質量分析計を用いて同位体希釈法により測定し、これを単一粒子スフェンサンプル中のHe含有量として用いる。
【0059】
本発明では、好ましくは前記単一粒子スフェンサンプルをニオブカプセルに装填して加熱し、Heを抽出し、本発明では、前記ニオブカプセルのサイズについて特別な要件がなく、本分野の熟知のサイズを採用すればよく、本発明の実施例では、前記ニオブカプセルの長さ及び直径は約1mmである。本発明は、単一粒子スフェンサンプルをニオブカプセルに装填することで、サンプル移動時の粒子損失や、ヘリウム含有量分析時のウラン及びトリウム元素の蒸発を防止できる。本発明は、ニオブカプセルを採用することで、ヘリウムガス抽出過程での溶融を防ぎ、後続の溶解過程での溶解によるウラン及びトリウム含有量の分析への干渉も防止できる。
【0060】
本発明では、前記Heの加熱抽出は好ましくは970nmダイオードレーザーを用いて行い、前記Heの加熱抽出のレーザー電流は好ましくは15Aであり、時間は好ましくは10分間であり、真空度は好ましくは1.0×10-8トル(Torr)未満である。本発明は上述の範囲内で加熱抽出条件を制御することで、Heの十分な抽出の実現に有利である。
【0061】
本発明の実施例では、具体的には、ニオブカプセルに包有したスフェンサンプルをヘリウム同位体質量分析計のレーザー室内に配置し、サンプルを装填して、レーザー室を大気中に露出させるために、レーザー室を真空状態に戻してから加熱及びガス抽出を開始する必要がある。機械ポンプで3分間ガス抽出し、ターボ分子ポンプで18時間ガス抽出した後、システム内の真空度が1.0×10-8トル(Torr)未満になった時点で真空度が実験要件を満たし、加熱及びガス抽出を開始する。
【0062】
本発明では、システム誤差及びニオブカプセルによる誤差を排除し、測定の正確性を保証するために、本発明は、好ましくはHeの加熱抽出前に冷本底及び熱本底の試験を行う。
【0063】
前記冷本底とは、レーザー室内にニオブカプセルに包有したスフェンサンプルを装填し、同じ実験プロセス下でレーザー加熱を行わない場合の機器配管内のHe含有量を指し、熱本底とは、同じ実験プロセス下で空のニオブカプセルをレーザー加熱(レーザー電流は15A、時間は10分間)した場合の配管内のHe含有量を指す。
【0064】
冷本底及び熱本底の試験結果が0.0040ncc以内であれば、スフェンサンプルのHe測定に影響がないことを示す。冷本底が上記値を超える場合、機器の真空度、パイプラインが損傷していないか、ガス漏れが発生するかなどを検査する必要があり、熱本底が過高の場合、空のニオブカプセルが汚染されていないかを検査する必要がある。
【0065】
本発明では、好ましくは少なくとも2回の加熱抽出し、2回目のHeガス量が1回目のHeガス量の1%未満又は熱本底以下であれば、ガス抽出が十分であると判断し、そうでない場合は抽出を継続して、最後のガス量が1回目のガス量の1%未満又は熱本底以下になることを満たす時に停止する。
【0066】
本発明では、前記精製は、好ましくはジルコニウム-アルミニウムポンプ精製により行い、前記精製時間は好ましくは60~120秒である。本発明は、活性ガスのH、O、HO、CO、及びSOを精製によって効果的に除去できる。精製されたガスは、試験のためにヘリウム同位体質量分析計に入る。本発明の実施例では、分析及び試験のために特に四重極質量分析計が使用される。
【0067】
本発明では、前記精製ガス中のHe含有量の測定には、好ましくは次のステップが含まれる。
前記精製ガスと希釈剤Heを混合し、サンプル混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記サンプル混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spiked Sampleと記録するステップと、
既知量のHe標準ガスと希釈剤Heを混合し、標準混合ガスが得られ、ヘリウム同位体質量分析計を用いて前記標準混合ガスのHe/He比を測定し、(He/He)Spike standardと記録し、前記サンプル混合ガスと標準混合ガスの調製に使用する希釈剤Heの体積は同じであるステップと、
式(2)に基づいて、精製ガス中のHeの含有量を次のように計算し、
【0068】
【数9】
【0069】
式(2)において、HeSampleは精製ガス中のHeの含有量であり、He StandardHe標準ガス中のHeの含有量であるステップを含む。
【0070】
本発明では、計算された精製ガス中のHe含有量、即ち単一粒子スフェンサンプル中のHe量は体積で表示されており、理想気体状態の式PV=nRTを用いて体積をモル数に変換して、スフェンの年代を計算することに使用する必要がある。
【0071】
単一粒子スフェンサンプル中のHe含有量を測定した後、本発明では、前述のHe含有量検査を経たニオブカプセルに包有された単一粒子スフェンサンプルを、上記技術案に記載の溶解方法に従って溶解し、測定対象の混合溶液を調製し、ここでの加熱溶解ステップは以下に置き換えられる:前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を加熱溶解し、電感結合プラズマ質量分析計を用いて同位体希釈法により、前記単一粒子スフェンサンプル中の238U及び232Thの含有量を測定し、前記希釈剤溶液は235U及び230Thを含む濃硝酸溶液であり、具体的なステップには、好ましくは、
235U、238U、232Th及び230Thを含む濃硝酸溶液を希釈剤溶液(市販品)として提供し、前記希釈剤溶液中の235U/238U比及び230Th/232Th比は既に標定されて、前記希釈剤溶液の基質は、好ましくは体積濃度50%の濃硝酸であり、即ち、希釈剤溶液中のHNOの体積濃度は50%であることと、
238U及び232Thの含有量が既知で、230Thを含まない硝酸溶液を標準溶液(市販品)として提供し、前記標準溶液中の235U/238U比は既に標定されて、前記標準溶液の基質は、好ましくは体積濃度10%の硝酸であり、即ち、標準溶液中のHNOの体積濃度は10%であることと、
前記単一粒子スフェンサンプルを希釈剤溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解して、測定対象の混合溶液が得られることと、
前記希釈剤溶液を標準溶液及びフッ化水素酸と混合し、得られた混合物を順次的に加熱溶解、加熱蒸発乾燥及び濃塩酸で再溶解して、希釈剤-標準溶液混合液を得て、前記測定対象の混合溶液と希釈剤-標準溶液混合液の調製に使用される希釈剤溶液の体積は同じであることと、
誘導結合プラズマ質量分析計を使用して、前記測定対象の混合溶液及び希釈剤-標準溶液混合液の235U/238U比及び230Th/232Th比を測定することと、
本発明の式(3)によって希釈剤溶液中の238U含有量を計算し、238Spikeと記録し、次に、式(4)によって単一粒子スフェンサンプル中の238U含有量を計算し、238Sampleと記録し、
【0072】
【数10】
【0073】
式(3)において、238Standardは標準溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、(235U/238U)Standardは標定された標準溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液中の235U/238U比であり、(235U/238U)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の235U/238U比であり、
【0074】
【数11】
【0075】
式(4)において、238Spikeは式(3)によって計算された希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な238Uの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された正確な238Uの原子数でもあり、(235U/238U)Spikeは標定された希釈剤溶液の235U/238U比であり、(235U/238U)Sampleはスフェンサンプル中の天然の235U/238U比であり、(235U/238U)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の235U/238U比であることと、
式(5)によって希釈剤溶液中の232Th含有量を計算し、232ThSpikeと記録し、次に、式(6)によって単一粒子スフェンサンプル中の232Th含有量を計算し、232ThSampleと記録し、
【0076】
【数12】
【0077】
式(5)において、標準溶液中の230Th/232Th比は0であり、232ThStandardは標準溶液が混合溶液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)mixは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された希釈剤-標準溶液混合液中の230Th/232Th比であり、
【0078】
【数13】
【0079】
式(6)において、スフェンサンプル中の230Th/232Th比は0であり(天然のスフェンには230Thが含まれていないため、すべてのスフェンサンプルの230Th/232Th比は0である)、232ThSpikeは式(5)に基づいて計算された、希釈剤溶液が希釈剤-標準溶液混合液に添加された際の正確な232Thの原子数であり、即ち、希釈剤溶液が測定対象の混合溶液に添加された正確な232Thの原子数でもあり、(230Th/232Th)Spikeは標定された希釈剤溶液中の230Th/232Th比であり、(230Th/232Th)spike-sampleは誘導結合プラズマ質量分析計で測定された測定対象の混合溶液中の230Th/232Th比であることが含まれる。
【0080】
試験プロセスにおいて空白本底を提供し、試験全体で使用される試薬、ニオブカプセル、容器などの各種実験機器が汚染されていないかを監視するために、本発明では好ましくは試薬及び空のニオブカプセルを分析試験して本底とする。各本底検査には何れも溶解プロセスで使用されるすべての試薬を加えるが、本底には希釈剤(即ち235U及び230Thを含む物質)は加えず、これにより、本底中のウラン及びトリウム元素の含有量を定量的に得ることはできないが、プラズマ質量分析計で測定されたウラン及びトリウム同位体の信号量(cps)の高さに基づいて本底レベルを評価することができる。スフェンサンプル中のウラン及びトリウムの含有量を計算する際、本発明では、好ましくはまず本底中のウラン及びトリウムの同位体信号量を実測スフェンサンプル溶液中の対応する同位体信号量から差し引く。実験結果は、希釈剤を加えたスフェンサンプルの溶解後の同位体信号量が本底中の同位体信号量の約10倍以上であり、スフェンサンプルの年代結果にほとんど影響を与えないことを示している。
【0081】
以下、実施例を用いて本発明が提供する単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法について詳細に説明するが、これらを本発明の保護範囲の限定と理解してはならない。
【0082】
[実施例1]
図1に示すプロセスに従い、サンプルの調製、ヘリウム含有量分析、サンプル溶解及びウラン-トリウム含有量分析を順次的に実施し、具体的なステップは以下の通りである:
(1)サンプルの調製
顕微鏡下で、亀裂や包有体を含まない5粒のクリーンなFishCanyonTuff(FCT)スフェンを選別し、撮影及び測定(図2)を完了後、各粒のスフェンを長さ及び直径が約1ミリメートルのニオブカプセル(図3)にそれぞれ装填する。
【0083】
(2)ヘリウム含有量分析
スフェンサンプル中のHeの抽出及び分析はAlphachronヘリウム同位体質量分析計(図4)で行い、970nmダイオードレーザーを用いて加熱してガス抽出し、QMG四重極質量分析計によりヘリウム含有量を測定する。
【0084】
5粒のそれぞれニオブカプセルに包有されたスフェンサンプルをヘリウム同位体質量分析計のレーザー室(図5)に投入する。サンプルを装填して、レーザー室を大気中に露出させるために、レーザー室を真空状態に戻してから加熱及びガス抽出を開始する必要がある。機械ポンプで3分間ガス抽出し、ターボ分子ポンプで18時間ガス抽出した後、システム内の真空度が1.0×10-8トル(Torr)未満になった時点で真空度が実験要件を満たし、実験を開始する。
【0085】
スフェンサンプルのHeを測定する前に、まず冷本底及び熱本底の試験を行う。冷本底とは、同じ実験プロセス下でレーザー加熱を行わない場合の機器配管内のHe含有量を指し、熱本底とは、同じ実験プロセス下で空のニオブカプセルをレーザー加熱した場合の配管内のHe含有量を指す。複数バッチの本底試験により、冷本底及び熱本底は常に0.0010~0.0040ncc程度に維持されていることが示されている(表1)。一方、スフェンサンプル中のHe含有量は本底の100~1000倍以上であるため、スフェンサンプルのHe測定に影響を与えないことが分かる。
【0086】
【表1】
【0087】
注:表1中のCB-n(nは1~5)は冷本底、NbHB-n(nは1~5)は熱本底である。
【0088】
加熱及びガス抽出を開始し、各粒のサンプルにレーザー電流15Aを設定し、加熱時間10分とする。各粒のサンプルに対して2回のガス抽出を行う。2回のガス抽出が完了後、分析計算を行い、2回目のガス量が1回目のガス量の1%未満であれば、ガス抽出が完了したとする。
【0089】
(3)サンプル溶解
1)5粒のスフェンサンプルをそれぞれ4.5mLのテフロン製溶解瓶に転送し、スフェンサンプルを入れた溶解瓶をサンプル瓶と呼ぶ。同時に本底瓶を1つ増やし、空のニオブカプセルを入れてプロセス全体の本底検査に使用する。さらに標準溶液瓶を1つ増やし、25μLの標準溶液を加え、標準溶液には25×10-9238U及び25×10-9の232Thが含まれ、溶液の基質は体積濃度10%の硝酸である。
【0090】
2)本底瓶に25μLのblank溶液を加え、blank溶液は体積濃度50%の濃硝酸である。
【0091】
3)サンプル瓶及び標準溶液瓶にそれぞれ25μLの希釈剤溶液を加え、希釈剤溶液には235U及び230Thが含まれ、溶液の基質は体積濃度50%の濃硝酸である。
【0092】
4)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶にそれぞれ精製されたフッ化水素酸350μLを加える。
【0093】
5)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を高圧釜(図6)内に配置し、高圧釜に420μLの濃硝酸及び9mLのフッ化水素酸を加える。
【0094】
6)密閉した高圧釜をオーブンに入れ、24時間加熱し、加熱温度は180℃とする。
【0095】
7)加熱が完了した高圧釜を冷却後、オーブンから取り出し、サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を取り出して加熱板に置き、60℃の温度でサンプルを蒸発乾燥する(図7)。
【0096】
8)各瓶の溶液が蒸発乾燥した後、各瓶にそれぞれ300μLの濃塩酸(図8)を加え、高圧釜に9mLの濃塩酸を加える。再度高圧釜を密閉し、オーブンに入れて24時間加熱し、加熱温度は180℃とする。
【0097】
9)再溶解が完了した後、ピペットを用いて各瓶の溶液を7mLのテフロン製溶解瓶にそれぞれ転送し、7mL溶解瓶を加熱板に置き、80℃の温度で加熱する。溶解瓶内の溶液が蒸発して残り100μLになった時点で加熱を停止し、冷却後、各溶解瓶にそれぞれ300μLの超純水を加えて希釈し、ウラン-トリウム含有量を分析する溶液を得る。溶液を溶解瓶から1.5mLの遠心管に転送し、質量分析の準備を行う。
【0098】
(4)ウラン-トリウム含有量分析
ウラン及びトリウムの含有量分析は電感結合プラズマ質量分析計(図9)で行い、主に質量数が230、232、235及び238の同位体カウントを測定する。サンプル中の同位体カウントから本底カウントを差し引き、230/232及び235/238の比率を得て、標準溶液を用いて238U及び232Thを算出した。
【0099】
測定されたHe、238U及び232Thを年代公式に代入して、FCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代を算出した。FCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は表2に示される。
【0100】
[実施例2]
実施例2は実施例1とほぼ同じであり、異なる点はFCTスフェンの粒度が異なることであり、(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は表2に示される。
【0101】
[実施例3]
実施例3は実施例2とほぼ同じであり、異なる点はFCTスフェンの粒度が異なることであり、(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は表2に示される。
【0102】
【表2】
【0103】
表1の結果から、本発明は異なるスフェンサンプルに対して良好な適用性を有することが示されている。具体的には、実施例1~3ではそれぞれ異なる粒度のスフェン粒子を選択し、得られた年代結果はすべて誤差範囲内で一致しており、参照値とも誤差範囲内で一致している。これは、本発明の方法の信頼性を示し、本発明で測定された年代が再現性を有することを証明している。また、本発明は半径が250μmを超える大型のスフェン粒子を含む、さまざまな粒度のスフェン粒子を完全に溶解できる。
【0104】
表2において、参考値1の出典:ReinersPW,Farley KA,1999.Helium diffusion and(U-Th)/He thermochronometry of titanite. Geochimica et Cosmochimica Acta, 63(22): 3845-3859.
参考値2の出典:AlexandraM.Hornea,MatthijsC.van Soest,KipV.Hodges,et al,2016.Integrated single crystal laser ablation U/Pb and(U-Th)/He dating of detrital accessory minerals-Proof-of-concept studies of titanites and zircons from the Fish Canyon tuff. Geochimica et Cosmochimica Acta,178:106-123.
【0105】
サンプル溶解プロセスの最適な加熱温度、加熱時間及び再溶解条件を得るために、複数の比較例を設定した。比較例1~6は初回溶解条件に対する対照試験であり、比較例7~8は再溶解条件に対する対照試験である。
【0106】
[比較例1]
1)5粒のスフェンサンプルをそれぞれ4.5mLのテフロン製溶解瓶に転送し、スフェンサンプルを入れた溶解瓶をサンプル瓶と呼ぶ。同時に本底瓶を1つ増やし、空のニオブカプセルを入れてプロセス全体の本底検査を行う。さらに標準溶液瓶を1つ増やし、25μLの標準溶液を加える。
2)本底瓶に25μLのblank溶液を加える。
3)サンプル瓶及び標準溶液瓶にそれぞれ25μLの希釈剤溶液を加える。
4)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶にそれぞれ精製されたフッ化水素酸350μLを加える。
5)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を高圧釜内に配置し、高圧釜に420μLの濃硝酸及び9mLのフッ化水素酸を加える。
6)密閉した高圧釜をオーブンに入れ、60時間加熱溶解し、加熱温度は220℃とする。
7)加熱が完了した高圧釜を冷却後、オーブンから取り出し、サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を取り出して加熱板に置き、60℃の温度でサンプルを蒸発乾燥する。
8)各瓶の溶液が蒸発乾燥した後、各瓶にそれぞれ300μLの濃塩酸を加え、高圧釜に9mLの濃塩酸を加える。再度高圧釜を密閉し、オーブンに入れて再溶解し、加熱時間は24時間、加熱温度は180℃とする。
9)再溶解が完了した後、ピペットを用いて各瓶の溶液を7mLのテフロン製溶解瓶にそれぞれ転送し、7mL溶解瓶を加熱板に置き、80℃の温度で加熱する。溶解瓶内の溶液が蒸発して残り100μLになった時点で加熱を停止し、冷却後、各溶解瓶にそれぞれ300μLの超純水を加えて希釈し、ウラン-トリウム含有量を分析する溶液を得る。溶液を溶解瓶から1.5mLの遠心管に転送し、質量分析の準備を行う。
最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図10に示される。
【0107】
[比較例2]
比較例2は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は初回溶解条件を48時間220℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図10に示される。
【0108】
[比較例3]
比較例3は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は初回溶解条件を36時間220℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図10に示される。
【0109】
[比較例4]
比較例4は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は初回溶解条件を24時間220℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図10に示される。
【0110】
[比較例5]
比較例5は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は初回溶解条件を12時間220℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図11に示される。
【0111】
[比較例6]
比較例6は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は初回溶解条件を12時間180℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図11に示される。
【0112】
[比較例7]
1)5粒のスフェンサンプルをそれぞれ4.5mLのテフロン製溶解瓶に転送し、スフェンサンプルを入れた溶解瓶をサンプル瓶と呼ぶ。同時に本底瓶を1つ増やし、空のニオブカプセルを当該本底瓶の中に入れてプロセス全体の本底検査を行う。さらに標準溶液瓶を1つ増やし、25μLの標準溶液を加える。
2)本底瓶に25μLのblank溶液を加える。
3)サンプル瓶及び標準溶液瓶にそれぞれ25μLの希釈剤を加える。
4)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶にそれぞれ精製されたフッ化水素酸350μLを加える。
5)サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を高圧釜内に配置し、高圧釜に420μLの濃硝酸及び9mLのフッ化水素酸を加える。
6)密閉した高圧釜をオーブンに入れ、12時間加熱し、加熱温度は180℃とする。
7)加熱が完了した高圧釜を冷却後、オーブンから取り出し、サンプル瓶、本底瓶、標準溶液瓶を取り出して加熱板に置き、60℃の温度でサンプルを蒸発乾燥する。
8)各瓶の溶液が蒸発乾燥した後、各瓶にそれぞれ300μLの濃塩酸を加え、高圧釜に9mLの濃塩酸を加える。再度高圧釜を密閉し、オーブンに入れて再溶解し、加熱時間は24時間、加熱温度は220℃とする。
9)再溶解が完了した後、ピペットを用いて各瓶の溶液を7mLのテフロン製溶解瓶にそれぞれ転送し、7mL溶解瓶を加熱板に置き、80℃の温度で加熱する。溶解瓶内の溶液が蒸発して残り100μLになった時点で加熱を停止し、冷却後、各溶解瓶にそれぞれ300μLの超純水を加えて希釈し、ウラン-トリウム含有量を分析する溶液を得る。溶液を溶解瓶から1.5mLの遠心管に転送し、質量分析の準備を行う。
最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図12に示される。
【0113】
[比較例8]
比較例8は比較例1とほぼ同じであり、異なる点は再溶解条件を12時間220℃に設定したことである。最終的に得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代の結果は図12に示される。
【0114】
対照実験により、以下のことが明らかとなった: 初回溶解時の加熱時間が24時間を超え、加熱温度が180℃を超える場合、得られたFCTスフェン(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代は誤差範囲内で、全て参考値と一致し、離散度が低い。初回溶解時の加熱時間が12時間である場合、加熱温度が180℃又は220℃であっても、得られた年代の離散度が大きく、U/Th比が増加するにつれて年代が増加する傾向が見られ、これは、スフェン粒子が完全に溶解されていない可能性があり、その結果、ウラン、トリウムの実験分析で得られた含有量が実際の含有量よりも低くなっていることを説明している。加熱時間が24時間を超え、加熱温度が180℃を超えれば、スフェンを完全に溶解できるが、実験効率及び環境保護とエネルギー節約を考慮して、本発明では加熱温度180℃、加熱時間24時間が最適な初回溶解条件である。
【0115】
再溶解プロセスについても同様に、最適な条件を得るために、対照実験を設定した。再溶解時に220℃で12時間加熱した場合、得られたスフェンの年代は誤差範囲内で全て参考値と一致するが、離散度が大きく、U/Th比の増加に伴い年代が微小的に増加する傾向が見られた。実験結果の正確性と精度を保証するために、220℃で12時間加熱する条件は放棄された。180℃で24時間加熱することにより得られる年代は誤差範囲内で参考値と一致し、離散度が低いため、本発明では180℃で24時間加熱することが最適な再溶解条件である。
【0116】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、当業者は、本発明の原理から逸脱することがない前提で、いくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も本発明の保護範囲とみなされるべきであることに留意されたい。
【要約】
本発明は単一粒子スフェンの溶解方法及び単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供し、鉱物同位体年代測定の技術分野に関する。本発明は、単一粒子スフェンに特有する溶解方法を提供し、ジルコンの溶解プロセスと比較して、本発明は溶解温度を低減し、さらに溶解時間を大幅に短縮し、溶解効率を向上させた。本発明は単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定方法を提供し、単一粒子スフェンの(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定技術のギャップを埋めた。従来の(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代測定法でウラン、トリウム、ヘリウムの含有量を測定する時に等分割サンプル法で測定したことに比べ、本発明は同一粒サンプルを測定することでウラン、トリウム、ヘリウムの含有量が得られ、これを(ウラン-トリウム)/ヘリウム年代公式に直接代入して年代値を得ることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12