(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ガンマ定常領域(Cγ1)とイプシロン定常領域(Cε2-4)とが融合された重鎖及び軽鎖の定常領域からなる抗体断片及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20250130BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250130BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250130BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250130BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 M
A61P37/06
A61P37/08
C12N15/13
G01N33/53 N
(21)【出願番号】P 2023512658
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 KR2021011105
(87)【国際公開番号】W WO2022039547
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0105462
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0109364
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524474062
【氏名又は名称】ファチアブジェン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FatiAbGen Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ミョンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンジェ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジュホ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ヨンシル
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-537991(JP,A)
【文献】KIM, M et al.,Applications of the immunoglobulin Cw fragment (IgCw) composed of the constant regions of heavy and light (CH and CL) chains,Biochemical and Biophysical Research Communications,2019年05月07日,Vol. 512, No. 3,pp. 571-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cγ1
からなるIgG抗体の重鎖の定常領域(constant region)断片及びCε2、Cε3及びCε4
からなるIgE抗体の重鎖の定常領域断片;並びに前記IgG抗体の前記重鎖の定常領域断片と連結されたCκ又はCλ
からなる軽鎖の定常領域断片;を含む抗体断片であって、
前記IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片は、N末端からC末端方向にCγ1-Cε2-Cε3-Cε4の形態で連結され、
前記抗体断片は抗体の可変領域(variable domains)を含まない、抗体断片。
【請求項2】
前記IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片は、ヒンジを介して連結されることを特徴とする、請求項1に記載の抗体断片。
【請求項3】
前記重鎖の定常領域断片と連結された軽鎖の定常領域断片は、二硫化結合によって結合されたり、又はペプチドリンカーで結合されたことを特徴とする、請求項1に記載の抗体断片。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片をコードする核酸。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片を含むキット。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片を含む抗体効能評価用組成物。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片を含む抗体濃度測定用組成物。
【請求項8】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片を含むアレルギー反応抑制用組成物。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体断片を含む自己免疫反応抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の定常領域(constant region)でのみ構成された抗体断片に関し、より詳細には、抗体の可変領域(variable region)がない、重鎖(CH)及び軽鎖(CL)の定常領域でのみ構成された抗体断片に関する。例えば、ガンマ定常領域(Cγ1)とイプシロン定常領域(Cε2-4)とが融合された重鎖及び軽鎖の定常領域(CL)で構成された抗体断片(IgCw-γ1ε2-4/κと命名し、IgCw-γεκと略称する。)、これをコーディングする核酸、これを含むキット及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
組換え抗体のin vitro、in vivo効能を立証するために、レファレンス(reference)抗体、すなわち、効能を評価するための抗体の標的分子(抗原)と結合しないコントロール抗体(control antibody)が必要である。レファレンス抗体は、多クローン(polyclonal)抗体から分離したり、抗体の重鎖及び軽鎖領域を暗号化した発現構成物をトランスフェクションした細胞の培養から生産され得る。
【0003】
レファレンス抗体が、効能を評価するための抗体が結合する標的分子とは結合しないと予想される場合にも、レファレンス抗体もいずれかの抗原との結合に関与する可変領域を有しているので、雑音正信号(noise positive signal)が発生する交差反応性(cross-reactivity)の可能性、特に、他の抗原との反応による効果(off-target effect)が発生する可能性を完全に排除することはできない。
【0004】
一方、免疫グロブリンE(IgE)は、血液中に非常に低い濃度で存在する抗体である。血液中のIgEの濃度を測定することは、IgE-関連免疫疾患の診断及び治療効果の追跡管理において重要であるが、IgEの定量のためには、レファレンスIgEタンパク質が必ず必要である。また、多様な免疫学的定性実験においてIgEタンパク質が必要な状況である。
【0005】
現在、市販中のヒトIgEタンパク質は、次の通りである:1)血液中のIgEの濃度が高い患者(例:IgE骨髄腫(myeloma)患者)の血液から精製した単クローンIgE(例:Abcam、Athens Research & Technology、MyBioSource、Fitzgerald Industries International、Molecular innovations、and Merck Millipore社の製品)、2)健康な人から由来したB細胞と骨髄腫細胞(myeloma)とを融合して作ったハイブリドーマ細胞の培養液から精製した単クローンIgE、3)IgE遺伝子をトランスフェクションして得た細胞株の培養液から精製した単クローンIgE。
【0006】
これらのIgE抗体は、価格がIgGに比べて100倍以上高く、可変領域(VH及びVL)を含んでいるので、IgE定量実験及び多様な免疫学的実験において、未知の抗原に対する非特異的結合力を示す可能性がある。血液中の総IgEの定量のために使用されている共益的目的の国際標準IgE[WHO IgE International standard、the most recent is the 3rd International Reference Preparation(IRP)、coded 11/234]が存在し、WHO IRP 11/234は、血液中のIgEの濃度が高い多くの国の患者達の血漿(又は血清)を集めた後、これらを各アンプルに入れて凍結乾燥したものであって、血液成分を含んでおり、バイオハザード(biohazard)と見なされるため実験室での使用時に注意が要求され、多クローンであり、未知の抗原に対する非特異的結合可能性を排除できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明者等は、既存に知られているlgEレファレンス抗体の各短所を避けながらもlgEレファレンス抗体に取り替えられる、新しい形態の抗体断片を開発しようとした。また、高い生産収率を有しながらもFcイプシロン受容体(FcεR)に結合できることによって、IgEの濃度を測定するための定量的実験のみならず、FcεR-IgE相互作用を抑制するための定性的実験においてIgEに取り替えられる分子を開発しようと努力した。
【0008】
その結果、定常領域のみからなっており、可変領域は有していない分子、特に、ガンマ定常領域(Cγ1)-ヒンジ(hinge)とイプシロン定常領域(Cε2-4)とが融合された重鎖(Cγ1-hinge-Cε2-4)及び軽鎖のカッパ定常領域(CK)で構成された抗体断片(IgCw-γεκ)を開発した。このIgCw-γεκ分子が、IgEの濃度測定実験、FcεR-IgE相互作用による免疫学研究においてIgE代替薬として利用可能であり、IgE-媒介過敏反応疾患を抑制できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本背景技術部分に記載の前記情報は、本発明の背景に対する理解を向上させるためのものに過ぎなく、そのため、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に既に知られている先行技術を形成する情報を含まない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、抗体の可変領域がない、重鎖(CH)及び軽鎖(CL)の定常領域でのみ構成された抗体断片を提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、前記抗体断片をコーディングする核酸を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、前記抗体断片を含むキットを提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、前記抗体断片を含む抗体効能評価用組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の目的は、前記抗体断片を含む抗体濃度測定用組成物を提供することにある。
【0015】
本発明の目的は、前記抗体断片を含むアレルギー反応抑制用組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の目的は、前記抗体断片を含むIgE-媒介自己免疫反応抑制用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片;及び前記重鎖の定常領域断片と連結された軽鎖の定常領域断片;を含む抗体断片を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記抗体断片をコーディングする核酸を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記抗体断片を含むキットを提供する。
【0020】
また、本発明は、前記抗体断片を含む抗体効能評価用組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、前記抗体断片を含む抗体濃度測定用組成物を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記抗体断片を含むアレルギー反応抑制用組成物を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記抗体断片を含むIgE-媒介自己免疫反応抑制用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】IgCw-γ1ε2-4/κ(簡単にIgCw-γεκ)タンパク質の構造を示す図である。ヒト抗体のCγ1-ヒンジ領域及びCε2-Cε3-Cε4からなる抗体断片(約130kDa)を示す。
【
図2】精製した各抗体タンパク質の精製純度及びインテグリティ(integrity)を分析した結果を示す図である。各抗体遺伝子を発現するベクターでトランスフェクションしたHEK293f細胞の培養液から精製した各抗体タンパク質の精製純度及びインテグリティの分析結果であって、予想どおり、IgCw-γεκが約130kDaの分子量を有していることを示す。Aは、SDS-PAGE後のクマシー(Coomassie)染色結果を示し、Bは、サイズ排除(size exclusion)クロマトグラフィー結果を示す。
【
図3】IgCw-γεκとFcεRとの結合分析を示す図である。IgCw-γεκ抗体断片タンパク質が、RBL-2H3-FcεRIα細胞の表面に発現された高親和度のヒトFcε受容体(FcεR1)に対照IgEと同じ程度によく結合できることを示すフローサイトメトリー(flow cytometry)結果を示す。
【
図4】IgCw-γεκの交差結合(cross-linking)による脱顆粒反応を確認した結果を示す図である。RBL-2H3-FcεRIα細胞にIgCw-γεκを処理して感作(sensitization)させた後、抗-Cκ抗体を処理したとき(FcεR1の交差結合誘導)、IgCw-γεκが、対照であるフルサイズ(full-size)IgEと類似するレベルでβ-ヘキソサミニダーゼ放出(脱顆粒反応)を誘導できることを示す実験結果である。Aは実験デザインを示し、Bは実験結果を示す。
【
図5】IgE-感作(sensitized)細胞において、IgCw-γεκによる脱顆粒反応を抑制した結果を示す図である。IgCw-γεκが、RBL-2H3-FcεRIα細胞において6C407 IgE+タンパク質-L-ビオチン+ストレプトアビジンによるβ-ヘキソサミニダーゼ放出(脱顆粒反応)を抑制できることを示す実験結果である。Aは実験デザインを示し、Bは、6C407 IgEとIgCw-γεκとの混合物を処理したRBL-2H3-FcεRIα細胞におけるβ-ヘキソサミニダーゼ放出程度を測定した結果を示し、Cは、6C407 IgEをRBL-2H3-FcεRI細胞に前処理した後でIgCw-γεκを処理し、細胞におけるβ-ヘキソサミニダーゼ放出程度を測定した結果を示す。
【
図6】ヒトIgE抗体の定量のためのレファレンス分子としてのIgCw-γεκの結果を示す図である。IgCw-γεκタンパク質をIgE抗体の定量のためのレファランスとして使用できることを示すELISA結果である。Aは、6C407 IgEを用いて生成した標準曲線を示し、Bは、IgCw-γεκを用いて生成した標準曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同一の意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法は、本技術分野でよく知られており、通常的に使用されるものである。
【0026】
ヒトIgE抗体で定常領域のみからなるIgCw-εκ抗体断片を製作しようとしたが、イプシロン重鎖及びカッパ軽鎖の定常領域でのみ構成されたIgCw-εκには重鎖と軽鎖の定常領域間の二硫化結合が形成されておらず、ヒトカッパ定常領域に結合するカッパXP-アガロース(Kappa XP-Agarose)で精製したとき、重鎖の定常領域とは結合できず、カッパ軽鎖の定常領域のみを精製することができた。
【0027】
最終的に、ガンマ定常領域(Cγ1)-ヒンジとイプシロン定常領域(Cε2-4)とが融合された重鎖及び軽鎖の定常領域からなる抗体断片IgCw-γεκには、定常領域間の二硫化結合が正常に形成されており、発現レベル及び精製収率もコントロール6C407 IgEに類似していた。このように、ガンマ定常領域(Cγ1)とイプシロン定常領域(Cε2-4)との融合は、IgCw-γεκタンパク質の構造的安定性及び高い精製収率を付与する。
【0028】
また、本発明では、既存に知られているIgEレファレンス抗体の各短所を避けながらもIgEレファレンス抗体に取り替えられる、新しい形態の抗体断片(IgCw-γ1ε2-4/κと命名し、IgCw-γεκと略称する。)を開発した。IgCw-γεκは、二つのCγ1-ヒンジ-Cε2-4のハイブリッド重鎖(heavy chain)及び二つのCκ軽鎖(light chain)からなる抗体断片であって、定常領域のみからなっており、可変領域は有していない分子である。
【0029】
これに基づいて、一観点において、本発明は、IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片;及び前記重鎖の定常領域断片と連結された軽鎖の定常領域断片;を含む抗体断片に関する。
【0030】
本発明において、「抗体断片」は、新規の抗体フォーマットとして、抗体の可変領域がないIgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片;及び前記重鎖の定常領域断片と連結された軽鎖の定常領域断片;を含む抗体断片を開発し、このような新しい構造を有するIgCw-γεκが、多様な長所を有しており、抗体効能評価などの臨床分野で幅広く使用可能であることを究明した。
【0031】
断片化されていない抗体は、二硫化結合によって連結された2個の重鎖及び2個の軽鎖を含む。それぞれの単一軽鎖は、二硫化結合によって重鎖のうち一つに連結される。抗体の重鎖部分は、N-末端部に、可変ドメイン(VH)と、次の多数の不変ドメイン(抗体のタイプによって、3個又は4個の不変ドメイン、CH1、CH2、CH3及びCH4)とを有する。それぞれの軽鎖部分は、N-末端部に可変領域(VL)を、その他の末端(C-末端)に定常領域(CL)を有し、軽鎖の定常領域は重鎖の第1定常領域(CH1)と整列され、軽鎖の可変領域(VL)は重鎖の可変領域(VH)と整列される。
【0032】
定常領域は、可変領域以外の抗体のドメインの総合を意味する。定常領域は、抗体とその標的抗原との結合に直接関与しないが、これらは、生体内で多様なエフェクター機能に関与する。重鎖及び軽鎖の定常領域は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのみならず、IgY、IgW及びIgNARから由来したものを全て含む意味で使用される。
【0033】
一つの実施例において、前記IgGは、サブタイプ(subtype)として、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むことができる。
【0034】
一つの実施例において、前記IgG抗体の重鎖の定常領域断片はCγ1を含むことができる。前記IgE抗体の重鎖の定常領域断片は、Cε2、Cε3及びCε4で構成された群から選ばれる一つ以上を含むことができる。
【0035】
具体的な実施例において、本発明に係る抗体断片は、IgG抗体の重鎖の定常領域断片Cγ1、IgE抗体の重鎖の定常領域断片Cε2、Cε3及びCε4を含み、IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片は、N末端からC末端方向にCγ1-Cε2-Cε3-Cε4の形態で連結され得る。
【0036】
前記IgG抗体の重鎖の定常領域断片及びIgE抗体の重鎖の定常領域断片は、ヒンジを介して連結され得る。
【0037】
一つの実施例において、前記軽鎖の定常領域はCκ又はCλを含むことができる。前記重鎖の定常領域断片と連結された軽鎖の定常領域断片は、例えば、二硫化結合(disulfide bond)によって結合されたり、又はペプチドリンカー(linker)で結合され得る。
【0038】
組換え抗体フォーマットは、有用性及び費用性に影響を与え得る低い精製収率により、頻繁に困難に直面してきた。抗体の生産収率は、重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)の特性(アミノ酸配列)に依存する。よって、組換え抗体の生産収率は、よく確立された製造工程でも可変ドメイン(V domain)のアミノ酸配列に依存するので、相当可変的であり得る。本発明の一実施例において、本発明に係る抗体の定常領域でのみ構成された抗体断片が、高い収率で生産可能であることを確認した。
【0039】
本発明は、他の観点において、前記抗体断片をコーディングする核酸に関する。前記核酸を分離し、抗体断片を組換え形態で生産することができる。核酸を分離し、これを複製可能なベクター内に挿入した後で追加的にクローニングしたり(DNAの増幅)、又は追加的に発現させる。これに基づいて、本発明は、更に他の観点において、前記核酸を含むベクターに関する。
【0040】
「核酸」は、DNA(gDNA及びcDNA)及びRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸において基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドのみならず、糖又は塩基部位が変形した類似体(analogue)も含む。本発明の重鎖及び軽鎖の可変領域をコーディングする核酸の配列は変形可能である。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失、非保存的置換又は保存的置換を含む。
【0041】
前記抗体断片を暗号化するDNAは、通常的な過程を使用することによって(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖を暗号化するDNAと特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に分離又は合成する。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分には、一般に、次のうち一つ以上が含まれるが、これに制限されない:信号配列、複製起点、一つ以上のマーカー遺伝子、増強因子要素、プロモーター、及び転写終決配列。
【0042】
本明細書で使われる用語である「ベクター」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段として、プラスミドベクター;コスミドベクター;バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターなどを含む。前記ベクターにおいて、抗体断片をコーディングする核酸はプロモーターと作動的に連結されている。
【0043】
「作動的に連結」は、核酸発現調節配列(例:プロモーター、シグナル配列、又は転写調節因子結合位置のアレイ)と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これによって、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/又は解読を調節するようになる。
【0044】
原核細胞を宿主とする場合は、転写を進行できる強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、lppプロモーター、pLλプロモーター、pRλプロモーター、rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP6プロモーター、trpプロモーター及びT7プロモーターなど)、解読の開始のためのリボソーム結合部位及び転写/解読終決配列を含むことが一般的である。また、例えば、真核細胞を宿主とする場合は、哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーター(例:メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトヘログロビンプロモーター及びヒト筋肉クレアチンプロモーター)又は哺乳動物ウイルスから由来したプロモーター(例:アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HSVのtkプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVのLTRプロモーター、モロニーウイルスのプロモーターエプスタインバーウイルス(EBV)のプロモーター及びラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)が利用可能であり、転写終決配列としてポリアデニル化配列を一般的に有する。
【0045】
場合によって、ベクターは、それから発現される抗体断片の精製を容易にするために他の配列と融合される場合もある。融合される配列としては、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia、USA)、マルトース結合タンパク質(NEB、USA)、FLAG(IBI、USA)及び6x His(hexahistidine;Quiagen、USA)などがある。
【0046】
前記ベクターは、選択標識として当業界で通常的に用いられる抗生剤耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子がある。
【0047】
本発明は、更に他の観点において、前記言及したベクターで形質転換された細胞に関する。本発明の抗体を生成させるために使用された細胞は、原核生物、酵母又は高等真核細胞であり得るが、これに制限されることはない。
【0048】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サブティリス及びバチルス・チューリンゲンシスなどのバチルス属菌株、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)(例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida))、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)(例えば、スタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylocus carnosus))などの原核宿主細胞を用いることができる。
【0049】
ただし、動物細胞に対する関心が最も大きく、有用な宿主細胞株の例は、COS-7、BHK、CHO、CHOK1、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、BHK、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL 3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC 5、FS4、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、又はHT1080であり得るが、これに制限されることはない。
【0050】
本発明は、更に他の観点において、(a)前記細胞を培養する段階;及び(b)前記培養された細胞から抗体断片を回収する段階;を含む前記抗体断片の製造方法に関する。
【0051】
前記細胞は、各種培地で培養することができる。市販用培地は、いずれも制限なく培養培地として使用することができる。当業者に公知となっているその他の全ての必須補充物が適当な濃度で含まれる場合もある。培養条件、例えば、温度、pHなどが、発現のために選別された宿主細胞と共に既に使用されており、これは当業者にとって明白であろう。
【0052】
前記抗体断片の回収は、例えば、遠心分離又は限外ろ過によって不純物を除去し、その結果物を、例えば、親和クロマトグラフィーなどを用いて精製することができる。追加的な他の精製技術として、例えば、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどが使用され得る。
【0053】
本発明は、他の観点において、抗体断片を含むキットに関する。前記キットは、抗体断片を含む容器、その他の試薬又はサンプルを含む容器を含むことができる。
【0054】
前記キットは、瓶、チューブなどの一つ以上の容器を含有するのに適しており、各容器は、本発明の方法に使用される独立的な各構成要素を含有する。本発明の明細書において、当該分野で通常の知識を有する者は、容器中の必要な製剤を容易に分配することができる。
【0055】
本発明は、他の観点において、前記抗体断片を含む抗体効能評価用組成物に関する。
【0056】
抗原-特異的抗体によるいずれかの影響を立証する実験においては、抗原-特異的抗体信号から非特異的な背景信号を区別するために、レファレンス(又は関係のないアイソタイプコントロール)抗体が陰性対照群として一般的に使用される。しかし、既存のレファレンス抗体は、未だによく知られていない交差反応性のために依然として所望でない雑音信号を与え得る。
【0057】
本発明に係る抗体断片は、抗原結合能力がなく、予想できない交差反応性の可能性を排除できるので、関係のないIgEコントロールと比較して、多くの実験的な環境及び状況でさらに良いレファレンス抗体になり得る。
【0058】
本発明は、他の観点において、前記抗体断片を含む抗体濃度測定用組成物に関する。本発明に係る抗体断片は、生物学的標本で免疫グロブリンの濃度を測定するためのレファレンスとして使用され得る。
【0059】
本発明は、他の観点において、抗体断片を含むアレルギー反応抑制用組成物に関する。
【0060】
ほとんどのアレルギー疾患は、免疫グロブリンE(IgE)の過剰免疫反応によって誘発される。IgEは、正常状態では血清中に非常に低い濃度で存在する抗体である。IgEは、一般に、無害な抗原によって生成されることもあり、特別な刺激がなくてもIgEが増加する場合があるが、この場合にアレルギー疾患がもたらされ得る。非正常的に増加したIgEは、肥満細胞(mast cell)及び好塩基性顆粒球(basophils)などの表面に発現される高親和性IgE Fc受容体(FcεRI)に結合することができる。FcεRIにIgE分子が結合されている状態で抗原(主に無害な抗原)が同時に多くのIgE分子に結合すると、各FcεRI受容体間の交差結合が起こり、肥満細胞及び好塩基性顆粒球内への信号伝逹によって活性化される。このような細胞の活性化結果として、肥満細胞や好塩基性顆粒球は、ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、ブラジキニン及び血小板-活性化因子などの化学媒介子を放出するようになる。このような化学媒介子の放出によってアレルギー症状が発生する。本発明に係る抗体断片は、アレルギー反応を抑制するためのFcε受容体(FcεRI)のブロッカーとして使用され得る。
【0061】
本発明は、他の観点において、抗体断片を含む自己免疫反応抑制用組成物に関する。
【0062】
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus、SLE)などの自己免疫疾患の病因メカニズムのうち一つは、形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell、pDC)による大量の炎症性サイトカイン(IFN-α、TNF、IL-6)分泌である。肥満細胞と同様に、pDC細胞は、表面にFcεRIを発現しており、活性化時に他の細胞類型よりも1,000倍多いIFN-αを分泌することができる。pDC表面のFcεRIにIgEアイソタイプの自己抗体とDNA抗原の複合体(免疫複合体)が結合すると、FcεRIを介して免疫複合体が細胞内に入るようになる。細胞内に入った免疫複合体は、トル様受容体(Toll-like receptor、TLR)-7及び-9などの細胞内受容体を刺激し、pDC細胞が活性化された結果、多量の炎症性サイトカインが分泌され、疾患を悪化させることが知られている。本発明に係る抗体断片は、IgE自己抗体によって媒介される自己免疫反応を抑制するためのFcイプシロン受容体(FcεRI)のブロッカーとして使用され得る。
【0063】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0064】
実施例1:試料の準備
実施例1-1:プラスミドベクター
2個のCMVプロモーター(promoter)がそれぞれ遺伝子を調節し、リーダー配列(leader sequence)を有するヒト(human)Cγ1/ε2-4とヒトCκを同時に発現するKV10-IgCw-γεκベクターを作るために、KV10-IgCWγκベクターのNcoIとBamHI制限部位間にヒト重鎖の定常領域Cγ1とε2-4がハイブリッドされて暗号化されたDNA断片をクローニングした。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
キメリックIgE(6C407、3D8)を発現するためのプラスミドベクターを作るために、KV12-HLベクターのMluIとNhEI制限部位間と、DraIIIとBstWI制限部位間にそれぞれVHとVKドメイン(Domain)が暗号化されたDNA断片をクローニングした。
【0069】
2個のCMVプロモーターがそれぞれ遺伝子を調節し、リーダー配列を有するヒトCε1-4とヒトCκを同時に発現するKV10-IgCw-εκベクターを作るために、KV10-IgCWγκベクターのNcoIとBamHI制限部位間にヒト重鎖の定常領域(Cε1-4)が暗号化されたDNA断片をクローニングした。
【0070】
ヒトFcεRIαを発現するレンチウイルスベクターを作るために、pCDH-CMV-MCS-EF1-PuroベクターのEcoIとBamHI制限部位間にヒトFcεRIαが暗号化されたDNA断片をクローニングした。
【0071】
実施例1-2:HEK293F細胞を用いた免疫グロブリンタンパク質の準備
血清のない条件で浮遊培養によって育つように適応されたFreeStyleTM 293-F細胞株(Thermo Fisher Scientific)を、抗体の生産のために使用した。
【0072】
トランスフェクション時に2×106cells/mlの細胞密度を有するように、トランスフェクションする24時間前に500mlのフラスコ(Corning Cat# 431145)にFreeStyle HEK293F細胞を1×106cells/mlで100ml入れて培養した。FreeStyle 293-F細胞は、血清のないFreeStyle 293培地(Invitrogen Cat# 12338)で8%のCO2及び37℃の培養器で130rpmで振盪(shaking)培養した。6C407 IgE、IgCw-εκ、IgCw-γεκタンパク質を発現させるために、各遺伝子が暗号化されたKVプラスミド200μg、及びポリエチレンイミン(polyethylenimine;PEI)試薬(Polyscience Cat# 23966-2)400μgをFreeStyle 293培地5mlにそれぞれ入れた後、室温で10分間据え置いた。そして、DNAが含まれた培地5mlを0.22μmのシリンジフィルター(Syringe filter、Millipore Cat# SLGV033RB)でろ過した後、ポリエチレンイミンが含まれた培地5mlと混ぜ、室温で10分間据え置いた。最終的に、ポリエチレンイミンの濃度が4μg/mlになるように、Freestyle 293-F細胞の100mlに一過性トランスフェクションを行った。7日後に培養液を4℃及び400gで20分間遠心分離することによって上澄み液を獲得し、0.45μmのセルロースアセテートフィルター(cellulose acetate filter、Sartorius Cat# 11106-47-N)でろ過した後、CaptureSelectTM KappaXP(Thermo Fisher Scientific;Cat# 2943212005)カラム又はCaptureSelectTM IgG-CH1(Thermo Fisher Scientific;Cat# 194320005)カラムに通過させた。カラムをPBS(phosphate-buffered saline、pH7.4)で洗浄した後、0.1Mのグリシン溶液(glycine-HCl、pH3.0)でタンパク質を溶出させた。溶出されたタンパク質は、Vivaspin 20(molecular cut-off 50,000、Sartorius Cat# VS2032)を用いて濃縮した(4℃、1500g)。
【0073】
精製されたタンパク質の濃度は、280nmでの吸光度(absorbance)及び吸光係数(extinction coefficient)を用いて決定した。280nmでのモル吸光係数は、6C407 IgEの場合は1.49、IgCw-εκの場合は1.34、IgCw-γεκの場合は1.17であり、各アミノ酸配列からhttp://web.expasy.org/protparam/ウェブページを通じて計算した。
【0074】
実施例1-3:細胞培養
ラット(rat)の好塩基球性白血病細胞から由来したRBL-2H3(ATCC(登録商標)number:CRL-2256TM)細胞株及びヒト胚性腎臓293細胞株HEK293T(ATCC(登録商標)number:CRL-3216TM)は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、Welgene Inc.)培地で培養した。DMEM培地に、10%のウシ胎児血清(fetal bovine serum、Sigma Inc.)、100U/mlのペニシリン(penicillin、Welgene Inc.)、及び100μg/mlのストレプトマイシン(streptomycin、Welgene Inc.)を添加して使用した。全ての細胞は、5%のCO2及び37℃の培養器で培養した。
【0075】
実施例1-4:細胞構築
ヒト胚性腎臓293細胞株HEK293Tを、FcεRIαを発現するレンチウイルスが含まれた上澄み液の生産のために使用した。
【0076】
トランスフェクション時に3×106cellsの細胞数を有するように、トランスフェクションする24時間前に、60mm2の培養皿(SPL;Cat# 11060)に、HEK293T細胞を、1.5×106cells/wellでDMEM培地を4ml入れて培養した。24時間後に培地を捨てた後、DMEM培地3.8mlに、FcεRIαを発現させるために遺伝子が暗号化されたpCDHプラスミド4μg、gag/pol(addgene cat# 14887)3μg、VSV-G(addgene cat# 14888)1μg、及びポリエチレンイミン(polyethylenimine;PEI)試薬(Polyscience Cat# 23966-2)16μgをそれぞれ入れたOpti-MEMTM(Thermo Fisher Scientific;Cat# 31985070)200μlを混合した。5%のCO2及び37℃で16時間培養した後で培地を捨て、DMEM4mlを入れた後で再び24時間培養した。24時間後に培地を集め、2000rpmで3分間遠心分離することによって上澄み液を獲得し、0.45μmのシリンジフィルター(Syringe filter、Millipore Cat# SLHV033RS)でろ過した後、レンチウイルスが含まれた上澄み液を得た。
【0077】
RBL-2H3細胞に、ヒトIgEを認識する受容体の発現のためのレンチウイルスが含まれた上澄み液を準備した。
【0078】
インフェクション時に2×106cellsの細胞数を有するように、インフェクションする24時間前に、60mm2の培養皿に、RBL-2H3細胞を、1×106cells/wellでDMEM培地を4ml入れて培養した。24時間後に培地を除去し、PBS(phosphate-buffered saline、pH7.4)で細胞を1回洗浄した後、DMEM 3mlとレンチウイルスが含まれた上澄み液1mlとを混ぜ、ポリブレン(Polybrene)(Sigma-Aldrich;Cat# H9268)を10μg/mlの濃度になるように入れた。24時間培養した後で培地を捨て、DMEM培地を4ml入れた後で再び12時間培養した。その後、ピューロマイシン(puromycin)(Sigma-Aldrich;Cat# 540411)を5μg/mlの濃度で入れながら細胞を培養した。
【0079】
実施例2:分析方法
実施例2-1:フローサイトメトリー
ヒトFcε受容体を発現させたRBL-2H3-hFcεRIα細胞への受容体の発現有無を確認するために、細胞(1×106cells)を冷たいPBSで洗浄した後、PBSに希釈した4%のパラホルムアルデヒド(Paraformaldehyde)を室温で20分間細胞に処理して固定させた。検出抗体であるAPC-コンジュゲートマウス抗ヒトFcイプシロンRIAb(APC-conjugated mouse anti-human Fc epsilon RIAb)(Abcam;Cat# 155369)を、バッファーS(PBSに希釈した0.5%のBSA、2mMのEDTA、pH8.5)に希釈して使用した。結果物を4℃で1時間据え置いた後、冷たいPBSを用いて3回ずつ洗浄した。各試料は、FACS CantoII分析機(BD Biosciences)を通じて分析した。
【0080】
細胞の表面に発現されるFcε受容体にIgCw-γεκが結合するかどうかを確認するために、FcεR-RBL-2H3、FcεR+RBL-2H3-hFcεRIα細胞(1×106cells)に免疫グロブリンタンパク質を最終濃度1μM及び37℃で3時間処理した。冷たいPBSで細胞を洗浄した後、PBSに希釈した4%のパラホルムアルデヒドを室温で20分間細胞に処理して固定させた。RBL-2H3とRBL-2H3-hFcεRIα細胞は、一次抗体としてヤギ抗ヒトIgE(goat anti-Human IgE)(ε-chain specific)抗体(Sigma-Aldrich;Cat# I6284)を、二次抗体としてPE-コンジュゲートロバ抗ヤギIgG抗体 (PE-conjugated donkey anti-goat IgG)抗体(Abcam;Cat# Ab7004)をバッファーSに希釈して使用した。そして、各据え置き段階(4℃、1時間)ごとに冷たいPBSを用いて3回ずつ洗浄した。各試料は、FACS CantoII分析機(BD Biosciences)を通じて分析した。
【0081】
実施例2-2:IgEの濃度を測定するための酵素免疫分析法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)
ヒトのIgEを定量するためのヒト(Human)IgE ELISA Ready-SET-Go(Invitrogen;Cat# 88-50610)キットを用いてキットに含まれたフルサイズIgEとIgCw-γεκの標準曲線を作るための酵素免疫分析法を行った。実験方法は、キットの手順に従った。
【0082】
96-ウェルポリスチレンプレート(96-well polystyrene plate)のウェルにコーティング抗体を処理した後、4℃で16時間にわたってコーティングした。その後、据え置き段階(室温)ごとに0.05%のTween-20が含まれているTBS(TRIS-buffered saline;50mMのTRIS-Cl、50mMのNaCl、pH7.4)を用いて4回ずつ洗浄した。非特異的な抗体の結合を遮断(blocking)するために、3%のBSA(bovine serum albumin)を室温で2時間処理した。ヒト多クローンIgEとIgCw-γεκをそれぞれ250ng/mlの開始濃度で2倍ずつ階段希釈した後、ウェルに室温で2時間処理し、検出抗体を室温で1時間処理した。最後に、反応基質溶液を各ウェルに添加し、450nmでマイクロプレートリーダー(microplate reader;Molecular Devices Inc.)を用いて吸光度を測定した。
【0083】
濃度を知らない抗体の濃度を測定するために、96-ウェルポリスチレンプレートのウェルにコーティング抗体を4℃で16時間にわたってコーティングした。単クローン6C407 IgE又は3D8 IgEを処理した後、検出抗体を処理した(いずれも室温で1時間処理)。濃度を知っているヒトIgEとIgCw-γεκをそれぞれ用いて作った2つの異なる標準曲線において、Y軸値の補間法(interpolation)を通じてIgE試料の濃度を決定した。
【0084】
実施例2-3:β-ヘキソサミニダーゼ放出測定(Degranulation assay:beta hexosaminidase release assay)
IgEとFcε収容体とが結合された複合体が脱顆粒現象を示すかどうかを確認するために、β-ヘキソサミニダーゼ放出を測定した。RBL-2H3-hFcεRIα細胞の数を5×105cells/wellに調節するために、24時間前に2.5×105cells/wellを培地DMEM 400μlで24-ウェルプレート(SPL;Cat# 30024)に培養した。24時間後にIgEを感作させるために、ウシ胎児血清、ペニシリン、及びストレプトマイシンが入っていないDMEM培地400μlにIgEを10nMの濃度で入れた後で3時間培養した。IgEを除去した後、シラガニアンバッファー(Siraganian buffer)(119mMのNaCl、5mMのKCl、5.6mMのグルコース、0.4mMのMgCl2、25mMのPIPES、40mMのNaOH、1mMのCaCl2、0.1%のBSA、pH7.2)500μlで細胞を2回洗浄した。結果物をシラガニアンバッファー160μlで10分間5%のCO2及び37℃の培養器で据え置いた。最終濃度が10μg/mlになるようにヤギ抗ヒトカッパ軽鎖(goat anti-Human Kappa Light chain)抗体(Invitrogen;Cat# 31129)をシラガニアンバッファーに混ぜた後、ウェルに20μlずつ入れて20分間据え置いた。コントロールとして使用した0.1%のTriton X-100は、1時間にわたって5%のCO2及び37℃の培養器で据え置いた。結果物を5%のCO2及び37℃の培養器で20分間据え置いた後、96-ウェルポリスチレンプレート(96-well polystyrene plate)のウェルに50μlずつ入れた後、1mMのp-NAG(p-nitrophenyl N-acetyl-beta-D-glucosamine in 0.1M citrate buffer、pH4.5)を50μlずつ入れた。37℃で1時間にわたって処理した後、200μlの停止液(stop solution)(0.1MのNa2CO3/NaHCO3、pH10.0)を各ウェルに添加し、405nmでマイクロプレートリーダー(microplate reader;Molecular Devices Inc.)を用いて吸光度を測定した。
【0085】
実施例2-4:Fcε受容体のブロッカー(blocker)としての役割を確認するためのβ-ヘキソサミニダーゼ放出測定
IgEとFcε収容体とが結合された複合体が、他のIgEによる脱顆粒現象を防止する役割をするFcε受容体のブロッカーとしての役割をするかどうかを確認するために、β-ヘキソサミニダーゼ放出を測定した。RBL-2H3-hFcεRIα細胞を5×105cells/wellに作るために、24時間前に2.5×105cells/wellを培地DMEM 400μlで24-ウェルプレートに入れて培養した。24時間後にIgEを感作させるために、ウシ胎児血清、ペニシリン、及びストレプトマイシンが入っていないDMEM培地400μlにIgE 10nMとブロッカーIgEを20nMの開始濃度から2倍ずつ階段希釈して入れた後で3時間培養した。その後、シラガニアンバッファー500μlで細胞を2回洗浄し、シラガニアンバッファー160μlで10分間5%のCO2及び37℃の培養器で据え置いた。最終濃度が140nMの組換えビオチン化タンパク質L(recombinant biotinylated Protein L)(Thermo Fisher Scientific;Cat# 29997)、及び70nMのストレプトアビジン-フルオレセイン(Vector Laboratories;Cat# SA-5001)をシラガニアンバッファーに混ぜた後、各ウェルに20μlずつ入れて20分間据え置いた。コントロールとして使用した0.1%のTriton X-100は、1時間にわたって5%のCO2及び37℃の培養器で据え置きた。結果物を5%のCO2及び37℃の培養器で20分間据え置き、96-ウェルポリスチレンプレート(96-well polystyrene plate)のウェルに50μlずつ入れた後、1mMのp-NAG(p-nitrophenyl N-acetyl-beta-D-glucosamine in 0.1M citrate buffer、pH4.5)を50μlずつ入れた。結果物を37℃で1時間にわたって処理した後、200μlの停止液(0.1MのNa2CO3/NaHCO3、pH10.0)を各ウェルに添加し、405nmでマイクロプレートリーダー(microplate reader;Molecular Devices Inc.)を用いて吸光度を測定した。
【0086】
実施例3:IgCw-γεκの精製収率確認
KV10-IgCw-γεκ、KV12-6C407 IgE、KV10-IgCw-εκ、及びプラスミドをそれぞれHEK293F細胞に一過性トランスフェクションした浮遊培養によって生産された各免疫グロブリン分子の収率を比較した(表1)。発現されたタンパク質の予想される構造を
図1に示した。全てのタンパク質は、トランスフェクションしてから7日後に、ヒトカッパ定常領域に結合するカッパXP-アガロース(Kappa XP-Agarose)を用いて精製した。イプシロン重鎖及びカッパ軽鎖の定常領域でのみ構成されたIgCw-εκは、重鎖と軽鎖の定常領域間に二硫化結合が形成されないので、カッパ定常領域のみを精製することができた(
図2)。その一方で、ガンマ定常領域(Cγ1)とイプシロン定常領域(Cε2-4)とが融合された重鎖及び軽鎖の定常領域からなる抗体断片IgCw-γεκは、定常領域間の二硫化結合が正常に形成されており、発現レベルもコントロール6C407 IgEと類似し(
図2)、平均収率は、KappaXP-アガロースで精製したときに6C407 IgEと同一の~17mg/Lで、IgG-C
H1-アガロースで精製したときに~27mg/Lである(表1)。これは、IgCw-γεκタンパク質が、IgCw-εκタンパク質より構造的に安定しており、精製収率にも優れることを示す。
【0087】
【0088】
精製方法によって、IgCw-γεκタンパク質の精製収率がIgEと類似したり、又はそれより高いことを示している。
【0089】
実施例4:RBL-2H3細胞のヒトのFcε受容体に対する発現有無を確認
ヒトのFcε受容体を発現させたRBL-2H3-hFcεRIα細胞において、hFcεRの発現を確認するためにフローサイトメトリーを行った。
【0090】
抗-Fcε抗体は、野生型RBL-2H3細胞には結合しないが、Fcε受容体を発現させたRBL-2H3-hFcεRIα細胞には結合した(
図3)。これは、ヒトのFcε受容体が、野生型のRBL-2H3細胞には発現しなく、ヒトのFcε受容体を発現させたRBL-2H3-hFcεRIα細胞にのみ存在することを意味する。
【0091】
実施例5:IgCw-γεκのFcε受容体に対する結合確認及び背景信号(background signal)確認
ヒトのFcε受容体を表面に発現する細胞の各Fcε受容体にIgCw-γεκが結合するかどうかを確認するために、フローサイトメトリーを行った。
【0092】
IgCw-γεκは、フルサイズIgEと同様にhFcεRIαが発現するように作ったRBL-2H3-hFcεRIα細胞に結合するが、何らhFcεRIαもないRBL-2H3細胞には結合しない(
図3)。これは、IgCw-γεκがフルサイズIgEのようにFcε受容体を認識できることを意味する。
【0093】
実施例6:IgEを用いた脱顆粒性実験のレファレンスとしてのIgCw-γεκの使用
脱顆粒性分析実験のようにIgEが使用される実験において、フルサイズのIgEの代わりにIgCw-γεκが使用されるかどうかを、β-ヘキソサミニダーゼ放出実験で確認した。
【0094】
多クローンIgE及び6C407 IgEと共に、コントロールとして使用した6C407 IgG及びPBSに対しても実験を行った。RBL-2H3-hFcεRIα細胞からのβ-ヘキソサミニダーゼ放出は、ネガチブコントロールである6C407 IgGとPBSでは現れておらず、IgEを処理したサンプルでのみβ-ヘキソサミニダーゼ放出が観察された(
図4)。フルサイズIgEと類似したり、又はそれより高い分泌パーセントをIgCw-γεκが示したので、IgCw-γεκの機能がフルサイズと類似していることを示す。これは、IgCw-γεκが、ヒトIgEの代わりに、脱顆粒実験でレファレンス分子として使用され得ることを示す。
【0095】
実施例7:Fcε受容体のブロッカーとしてのIgCw-γεκの使用
Fcε受容体のブロッカーとしてIgCw-γεκが使用されるかどうかを確認した。
【0096】
IgCw-γεκは、可変領域がないので、タンパク質(Protein)Lに付くことができない。そのため、RBL-2H3-hFcεRIα細胞の活性化信号は、フルサイズIgEがFcεに結合した場合にのみ観察することができる。6C407 IgEとIgCw-γεκとの混合物をRBL-2H3-hFcεRIα細胞に処理した場合(
図5B)のみならず、6C407 IgEをRBL-2H3-hFcεRIα細胞に前処理した後でIgCw-γεκを処理した場合(
図5C)にも、IgCw-γεκの濃度が増加するほど6C407 IgEに対する信号が減少した(
図5)。これは、IgCw-γεκが、フルサイズIgEとFcε受容体との結合を妨害したことを意味するので、IgCw-γεκがFcε受容体のブロッカーとして使用され得ることを示す。
【0097】
実施例8:IgGの濃度定量のためのレファレンスとしてのIgCw-γεκの使用
IgGの濃度を決定するために使用されるレファレンスであるフルサイズIgEに対する代替薬として、IgCw-γεκが使用されるかどうかを確認した。
【0098】
二つのログ標準曲線は、それぞれヒト多クローンIgE(
図6A)とIgCw-γεκ(
図6B)の知られている濃度値を用いた酵素免疫分析法(enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)によって作った。濃度を知らない二つの単クローンIgE標本(6C407と3D8)を用いて同一の実験を行った。IgEの濃度は、それぞれのカーブで補間法によって決定され(表2)、使用した線形補間公式(https://formulas.tutorvista.com/math/interpolation-formula.html)は、x=x
1+(x
2-x
1)×(y-y
1)/(y
2-y
1)である。
【0099】
【表2】
*IgCw-γεκの標準曲線によって決定されたIgEの濃度は、その値を補正するために分子量の比率を掛けた[IgE(~190kDa):IgCw-γεκ(~130kDa)の分子比=1.462:1]。
【0100】
正規化された6C407 IgEと3D8 IgEの濃度は、それぞれ75.366ng/mlと24.737ng/mlで、これは、ヒト多クローン抗体を用いた標準曲線によって決定された濃度(6C407 IgE:70.42ng/ml、3D8 IgE:25.01ng/ml)と非常に類似している。これは、IgCw-γεκが、ヒトIgEの濃度を決定するためのレファレンス分子として使用され得ることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係る抗体断片は、多様な免疫学研究で使用されているIgEレファレンス抗体の代替薬として広範囲に使用可能であり、試料内のIgE抗体の濃度の測定のためのレファレンス分子として使用することができ、第1型アレルギー反応を抑制するためのFcイプシロン受容体(FcεRI)のブロッカーとして使用することができる。
【0102】
また、本発明に係る抗体断片は、IgEアイソタイプの自己抗体と関連した自己免疫反応を抑制するためのブロッカーとして使用することができる。
【0103】
また、本発明に係る抗体断片は、可変領域を含まないので、既存に使用されている全長アイソタイプ対照抗体の短所である非特異的交差反応、すなわち、他の抗原との反応によるオフターゲット効果を完全に排除できることによって、IgEの定量及び定性的実験でさらに適切に使用することができ、実験用/治療用抗体の活性に対する有効性評価でアイソタイプ対照抗体として使用することができる。
【0104】
以上では、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は好ましい実施様態に過ぎなく、これによって本発明の範囲が制限されないことは明白であろう。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の各請求項とそれらの等価物によって定義されると言えるだろう。
【配列表フリーテキスト】
【0105】
電子ファイルを添付した。
【配列表】