(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】新規な酸化セリウムナノ複合体およびその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 33/244 20190101AFI20250131BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20250131BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20250131BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20250131BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20250131BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20250131BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20250131BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250131BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250131BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250131BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250131BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20250131BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20250131BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250131BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250131BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20250131BHJP
C01F 17/235 20200101ALI20250131BHJP
C07C 229/08 20060101ALI20250131BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20250131BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
A61K33/244
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/18
A61K9/14
A61P29/00
A61P37/02
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P3/10
A61P17/00
A61P25/00
A61P11/00
A61P21/00
A61P1/04
A61P9/00
A61P1/16
A61P17/06
A61P21/04
A61P9/10
A61P31/04
A61P33/00
C01F17/235
C07C229/08 ZNM
C08K3/20
C08L101/02
(21)【出願番号】P 2022557793
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2021003737
(87)【国際公開番号】W WO2021194287
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0036974
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0038876
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522374124
【氏名又は名称】セニックス・バイオテック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CENYX BIOTECH INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,スンフン
(72)【発明者】
【氏名】チャ,ポンクン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ドンワン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0240161(US,A1)
【文献】米国特許第8333993(US,B1)
【文献】Wensi Song et al.,"Ceria Nanoparticles Stabilized by Organic Surface Coatings Activate the Lysosome-Autophagy System and Enhance Autophagic Clearance",ACS NANO,2014年,Vol.8,No.10,p.10328-10342,DOI: 10.1021/nn505073u
【文献】Han-Gil Jeong et al.,"Ceria Nanoparticles Synthesized With Aminocaproic Acid for the Treatment of Subarachnoid Hemorrhage",Stroke,2018年,Vol.49,No.12,p.3030-3038,DOI: 10.1161/STROKEAHA.118.022631
【文献】Chiara Martinelli et al.,"Antioxidants and Nanotechnology: Promises and Limits of Potentially Disruptive Approaches in the Treatment of Central Nervous System Diseases",Advanced Healthcare Materials,2019年12月18日,Vol.9, 1901589,p.1-28,DOI: 10.1002/adhm.201901589
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
C01F 17/235
C07C 229/08
C08K 3/20
C08L 101/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む酸化セリウムナノ複合体:
(a)酸化セリウムナノ粒子のコア層;
(b)下記化学式1で表される重合体を含む内層:
【化1】
前記化学式において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素または酸素であり、
【化2】
は単結合または二重結合を示し、lは1または2であり、mは100~1000の整数である;および
(c)PGA(polyglutamic acid)、PASP[poly(aspartic acid)]、アルギネート(alginate)、PAA[Poly(acrylic acid)]、PMAA[Poly(methacrylic acid)]、ポリメチルメタクリル酸[poly(methyl methacrylic acid)]、PMA[poly(maleic acid)]、PBMA[poly(butadiene/maleic acid)]、PVPA[Poly(vinylphosphonic acid)]、PSSA[Poly(styrenesulfonic acid)]、PVA(polyvinyl alcohol)およびデキストランから構成された群より選択される1つ以上の生体適合性分散安定剤を含む外層。
【請求項2】
前記酸化セリウムナノ粒子は、酸化セリウム(III)(Ce
2O
3)ナノ粒子、酸化セリウム(IV)(CeO
2)ナノ粒子、およびこれらの混合物から構成された群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項3】
前記化学式1において、R
1は水素であり、R
2は酸素であり、lは1であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項4】
前記外層に含まれた生体適合性分散安定剤は、PGA(polyglutamic acid)であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項5】
前記PGAは、PLGA(poly L-glutamic acid)であることを特徴とする請求項4に記載のナノ複合体。
【請求項6】
前記ナノ複合体は、下記化学式2で表される多官能基リガンドを追加的に含むことを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体:
【化3】
前記化学式において、nは3~7の整数である。
【請求項7】
前記化学式2において、nは5であることを特徴とする請求項6に記載のナノ複合体。
【請求項8】
前記ナノ複合体は、5nm~100nmの平均粒径を有することを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のナノ複合体を有効成分として含む炎症または自己免疫疾患の予防または治療用組成物。
【請求項10】
前記炎症または自己免疫疾患は、リウマチ関節炎、反応性関節炎、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症、特発性肺線維症、多発性筋炎、皮膚筋炎、限局性皮膚硬化症、全身性皮膚硬化症、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、ベーチェット病(Bechet’s disease)、川岐病(Kawasaki’s disease)、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary sclerosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、クローン病(Crohn’s disease)、乾癬(psoriasis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、自己免疫性脈管炎(autoimmune vasculitis)、原発性中枢神経系血管炎(primary angiitis of the central nervous system)、クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)、重症脳梗塞(severe cerebral infarction)、脳内出血(intracerebral hemorrhage)、低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy)、外傷性脳・脊髄損傷(traumatic brain/spinal cord injury)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome)、サイトカインストーム症侯群(cytokine storm syndrome)、敗血症(sepsis)および炎症性肝疾患から構成された群より選択される1つ以上の疾患であることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記炎症または自己免疫疾患は、クモ膜下出血、敗血症、サイトカインストーム症侯群(cytokine storm syndrome)および炎症性肝疾患から構成された群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記炎症性肝疾患は、ウイルス性肝炎(viral hepatitis)、トキソプラズマ感染症(toxoplasma hepatitis)、アルコール性肝疾患(alcoholic liver disease)、毒性肝疾患(toxic liver disease)、急性および亜急性肝不全(Acute and subacute hepatic failure)、肝膿瘍(liver abscess)、非特異性反応性肝炎(Nonspecific reactive hepatitis)、肝梗塞(liver infarction)、肝静脈閉塞性疾患(Hepatic veno-occlusive disease)、肝または胆嚢の損傷(Injury of liver or gallbladder)、肝移植関連肝炎(liver transplantation-related hepatitis)から構成された群より選択されることを特徴とする請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
以下のステップを含む酸化セリウムナノ複合体の製造方法:
(a)C
1~C
3アルコール溶媒に、セリウム前駆体、下記化学式1で表される重合体および下記化学式2で表される架橋化合物を添加して混合溶液を製造するステップ;
【化4】
前記化学式1において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素または酸素であり、
【化5】
は単結合または二重結合を示し、lは1または2であり、mは100~1000の整数である;
【化6】
前記化学式2において、nは3~7の整数である;
(b)前記混合溶液を順次に加熱および冷却して酸化セリウムナノ粒子を得るステップ;および
(c)C
1~C
3アルコール溶媒で酸化セリウムナノ粒子とPGA(polyglutamic acid)、PASP[poly(aspartic acid)]、アルギネート(alginate)、PAA[Poly(acrylic acid)]、PMAA[Poly(methacrylic acid)]、ポリメチルメタクリル酸[poly(methyl methacrylic acid)]、PMA[poly(maleic acid)]、PBMA[poly(butadiene/maleic acid)]、PVPA[Poly(vinylphosphonic acid)]、PSSA[Poly(styrenesulfonic acid)]、PVA(polyvinyl alcohol)およびデキストランから構成された群より選択される1つ以上の生体適合性分散安定剤を混合して前記生体適合性分散安定剤が改質された酸化セリウムナノ複合体を得るステップ。
【請求項14】
前記C
1~C
3アルコール溶媒は、エタノールであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記セリウム前駆体は、セリウム(III)アセテートハイドレート、セリウム(III)アセチルアセトネートハイドレート、セリウム(III)カーボネートハイドレート、セリウム(III)フルオライド、セリウム(III)クロライド、セリウム(III)クロライドヘプタハイドレート、セリウム(III)ブロミド、セリウム(III)ヨージド、セリウム(III)ナイトレートヘキサハイドレート、セリウム(III)オキサレートハイドレート、セリウム(III)スルフェートおよびセリウム(III)スルフェートハイドレートから構成された群より選択される1つ以上の前駆体であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記加熱は、60~75℃で行われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性分散安定剤が改質された酸化セリウムナノ複合体およびこれを有効成分として含む炎症疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
診断および治療分野において多様な用途に適用されているナノ粒子はナノレベルの微細な大きさによって生体内でバルク物質(bulk material)と異なる新たな物理/化学的性質を示す。現在、ナノ粒子に関する多くの研究が進められるにつれ、粒子の組成や形状、大きさ、性状などを目的に合わせて調節して、その医学的用途に合った最適な物性を示すナノ粒子の開発が活発に行われている。
一方、酸化セリウムは高温で熱的安定性を有し、格子構造によって周囲の酸素濃度に応じてCe4+/Ce3+の酸化還元作用をして、固体電池の電解質、UVフィルタの物質、酸素センサ、光学機器などに多様に応用されている。特に、医学分野では、優れた活性酸素種の除去能力によって酸化的ストレスおよび炎症を原因とする広範囲な疾患群に対する治療組成物として注目されている。
【0003】
一般的に使用される酸化セリウム粒子の製造方法では、ナノサイズで均一に製造しにくいだけでなく、10nm以下の微細な大きさに製造することも容易ではない。例えば、液相法の一つである水熱法(hydrothermal)により合成された酸化セリウムナノ粒子はおよそ数百nmから数ミクロンの大きさを有し、精密な粒径制御が困難で分散性も不良である。そのため、より小さな平均粒径および均一な粒度分布を有する酸化セリウムナノ粒子を製造する方法が提案されたが、数百℃という高温処理過程が伴う非効率的な工程が要求されて、産業的大量生産に適合しない。
そこで、50nm以下の小さな大きさに均一な分布と優れた分散性を有しかつ、生産が容易で特有の抗酸化効果も維持される酸化セリウムナノ粒子を穏やかな反応環境で効率的に生産できる方法の新たな開発が要求されている。
【0004】
本明細書全体にわたって多数の論文および特許文献が参照されてその引用が表されている。引用された論文および特許文献の開示内容はその全体として本明細書に参照により組み込まれて、本発明の属する技術分野の水準および本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ナノ粒子の生物医学的安定性、生体適合性および生産工程の効率性がさらに改善されながらも固有の薬理効果を維持する優れた酸化セリウムナノ構造体を開発するために、鋭意研究努力した。その結果、酸化セリウムナノ粒子のコアに、前記化学式1のピロリドン(Pyrrolidone)誘導体の単量体が繰り返された重合体層;および生体適合性分散安定剤層を形成させる場合、高温の強塩基および/または強酸条件のような苛酷な環境を適用しなくても十分な反応時間均一で微細な粒子を安定的かつ経済的に大量生産できることを見出すことにより、本発明を完成するに至った。
【0006】
したがって、本発明の目的は、酸化セリウムナノ複合体およびその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、本発明の酸化セリウムナノ複合体を有効成分として含む炎症または自己免疫疾患の予防または治療用組成物を提供することである。
本発明の他の目的および利点は下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲および図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、本発明は、以下を含む酸化セリウムナノ複合体を提供する:
(a)酸化セリウムナノ粒子のコア層;
(b)下記化学式1で表される重合体を含む内層:
【化1】
前記化学式において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素または酸素であり、
【化2】
は単結合または二重結合を示し、lは1または2であり、mは100~1000の整数である;および
(c)PGA(polyglutamic acid)、PASP[poly(aspartic acid)]、アルギネート(alginate)、PAA[Poly(acrylic acid)]、PMAA[Poly(methacrylic acid)]、ポリメチルメタクリル酸[poly(methyl methacrylic acid)]、PMA[poly(maleic acid)]、PBMA[poly(butadiene/maleic acid)]、PVPA[Poly(vinylphosphonic acid)]、PSSA[Poly(styrenesulfonic acid)]、PVA(polyvinyl alcohol)およびデキストランから構成された群より選択される1つ以上の生体適合性分散安定剤を含む外層。
【0008】
本発明者らは、ナノ粒子の生物医学的安定性、生体適合性および生産工程の効率性がさらに改善されながらも固有の薬理効果を維持する優れた酸化セリウムナノ構造体を開発するために、鋭意研究努力した。その結果、酸化セリウムナノ粒子のコアに、前記化学式1のピロリドン(Pyrrolidone)誘導体の単量体が繰り返された重合体層;および生体適合性分散安定剤層を形成させる場合、高温の強塩基、強酸条件のような苛酷な環境なくても十分な反応時間均一で微細な粒子を安定的かつ経済的に大量生産することができることを見出した。
【0009】
従来技術によれば、酸化セリウムナノ粒子を合成する過程で生体内安定性確保のために、PEG(polyethylene glycol)またはスクシンイミジル基で修飾されたPEG誘導体が主に使用されて、1分以内の極めて短い反応時間、95℃の高温でHClおよびNaOHなどの強酸/強塩基が要求されて、均一な粒子を大量に得ることに大きな困難を経験した。しかし、本発明のナノ複合体は、70℃下での約2時間の反応時間という安定した合成条件を確保することはもちろん、強酸性、強塩基環境を必要とせず、従来技術のデメリットを効率的に克服した。
【0010】
本明細書において、用語「コア層(core layer)」は、多層型複合体内で他の層と接している面が1つだけである最内角(innermost)層を意味する。
本明細書において、用語「多層型(multilayer)複合体」とは、異なる成分で構成される複数の層からなる複合体を意味し、積層型多層構造(laminated multilayer)、コア-シェル型多層構造(core-shell multilayer)、およびこれらが組み合わされた形態を制限なく含む。具体的には、本発明の多層型複合体は、中心にナノ粒子が存在し、外角に化学式1の重合体および生体適合性分散安定剤がこれを取り囲むコア-シェル型多層構造である。
【0011】
本明細書において、用語「内層(inner layer)」は、外層より中心(core)に近い層を意味し、用語「外層(outer layer)」は、コア-シェル構造の内層を取り囲みながら内層より中心(core)から遠い層を意味する。内層は必ずしもコア層と直接接触する層である必要はなく、内層よりコア層により近い追加的な層が存在してもよいし、外層も必ずしも最外角層である必要はなく、外層よりコアから遠く位置した最外角層が追加的に存在してもよい。
【0012】
本発明によれば、コア層と内層との間の境界は明確に区分されるが、内層と外層との境界は明確に区分されてもよく、そうでなくてもよい。内層と外層との境界が明確でない場合、内層と外層は、境界面の部分または全区間で各成分が混合されていてもよい。
【0013】
本明細書において、用語「重合体」は、同一または異なる種類の単量体が連続的に結合した合成または天然高分子化合物を指す。したがって、重合体には、単独重合体(1種類の単量体が重合化された重合体)と少なくとも2種の異なる単量体の重合によって製造された混成重合体を含み、混成重合体には、共重合体(2種の異なる単量体から製造された重合体)と2種超過の異なる単量体から製造された重合体をすべて含む。具体的には、本発明で用いられる化学式1の重合体は、単独重合体である。
【0014】
本明細書において、用語「アルキル」は、直鎖または分鎖の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどを含む。C1-C3アルキルは、炭素数1~3のアルキルユニットを有するアルキル基を意味し、C1-C3アルキルが置換された場合、置換体の炭素数は含まれないものである。
本明細書において、用語「生体適合性」は、生体内に投与されて器官の細胞、組織または体液と接触する場合、短期的あるいは長期的副作用を起こさない性質を意味し、具体的には、生体組織または血液と接触して組織を壊死させたり、血液を凝固させない組織適合性(tissue compatibility)および抗凝血性(blood compatibility)のみならず、生体投与後一定期間が経過した後に消滅する生分解性(biodegradability)および「生体投与後蓄積されずに体外に排泄される特性(excretability)」を含む意味である。したがって、用語「生体適合性分散安定剤」は、上述した生体適合性を有しかつ粒子の分散性を向上させる成分を意味する。
【0015】
本明細書において、用語「生分解性」は、pH6-8の生理的溶液(physiological solution)に露出した時、自然的に分解される性質を意味し、具体的には、生体内で体液、分解酵素または微生物などによって時間の経過とともに分解できる性質を意味する。
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明で用いられる酸化セリウムナノ粒子は、酸化セリウム(IV)(CeO2)、酸化セリウム(III)(Ce2O3)、またはこれらの混合物であってもよい。
【0016】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記化学式1において、R
1は水素であり、R
2は酸素であり、lは1である。オクテット規則(octet rule)による時、R
1が水素の場合、
【化3】
は単結合であり、R
2が酸素の場合、
【化4】
が二重結合であることは自明である。R
1は水素であり、R
2は酸素であり、lは1である化学式1の化合物は、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)である。
【0017】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記外層に含まれた生体適合性分散安定剤は、PGA(polyglutamic acid)である。PGA(ポリグルタミン酸)は、ポリ-α-グルタミン酸、ポリ-β-グルタミン酸またはポリ-γ-グルタミン酸であってもよいし、具体的には、ポリ-α-グルタミン酸である。最も具体的には、前記ポリ-α-グルタミン酸は、PLGA(poly L-glutamic acid)である。
【0018】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のナノ複合体は、下記化学式2で表される多官能基リガンドを追加的に含む:
【化5】
前記化学式において、nは3~7の整数である。
【0019】
本明細書において、用語「多官能基リガンド(multi-functional ligand)」は、2以上の活性官能基(functional group)を有し、2以上の分子と結合することにより、前記分子間の架橋(linker)の役割を果たす分子を意味する。本発明で用いられる前記化学式2の多官能基リガンドは、酸化セリウムナノ粒子に結合可能なカルボキシル基と、内層のPVPおよび/または外層のPGA、PVAまたはデキストランと結合可能なアミン基とを有し、本発明のナノ複合体がより効率的かつ安定的に形成できるようにする。
【0020】
具体的には、前記化学式2において、nは5である。nは5である化学式2の化合物は、6-アミノヘキサン酸(6-aminohexanoic acid、6-AHA)である。
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のナノ複合体は、5nm~100nmの平均粒径を有する。より具体的には5nm~80nm、最も具体的には5nm~50nmの平均粒径を有する。
本発明の他の態様によれば、本発明は、本発明のナノ複合体を有効成分として含む炎症または自己免疫疾患の予防または治療用組成物を提供する。
本発明で用いられる酸化セリウムナノ複合体についてはすでに詳述したので、過度の重複を避けるためにその記載を省略する。
【0021】
本明細書において、用語「予防」は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかる可能性がある対象体において疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。
本明細書において、用語「治療」は、(a)疾患、疾病または症状の発展の抑制;(b)疾患、疾病または症状の軽減;または(c)疾患、疾病または症状を除去することを意味する。本発明の組成物は、活性酸素種を減少させ、炎症性サイトカインの発現を抑制することにより、過度の、または所望しない免疫反応または炎症による症状の発展を抑制するか、これを除去するかまたは軽減させる役割を果たす。したがって、本発明の組成物は、それ自体でこれら疾患治療の組成物になってもよく、あるいは抗炎症効果を有する他の薬理成分とともに投与されて、前記疾患に対する治療補助剤として適用されてもよい。そこで、本明細書において、用語「治療」または「治療剤」は、「治療補助」または「治療補助剤」の意味を含む。
【0022】
本明細書において、用語「投与」は、本発明の組成物の治療的有効量を対象体に直接的に投与することにより、対象体の体内で同一の量が形成されるようにすることをいい、「移植」または「注入」と同一の意味を有する。
本発明において、用語「治療的有効量」は、本発明の組成物を投与しようとする個体に治療的または予防的効果を提供するのに十分な程度で含有された組成物の含有量を意味し、よって、「予防的有効量」を含む意味である。
本明細書において、用語「対象体」は、制限なく、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒヒまたはアカゲザルを含む。具体的には、本発明の対象体は、ヒトである。
【0023】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明の組成物で予防または治療される炎症または自己免疫疾患は、リウマチ関節炎、反応性関節炎、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症、特発性肺線維症、多発性筋炎、皮膚筋炎、限局性皮膚硬化症、全身性皮膚硬化症、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、ベーチェット病(Bechet’s disease)、川岐病(Kawasaki’s disease)、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary sclerosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、クローン病(Crohn’s disease)、乾癬(psoriasis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、自己免疫性脈管炎(autoimmune vasculitis)、原発性中枢神経系血管炎(primary angiitis of the central nervous system)、クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)、重症脳梗塞(severe cerebral infarction)、脳内出血(intracerebral hemorrhage)、低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy)、外傷性脳・脊髄損傷(traumatic brain/spinal cord injury)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome)、サイトカインストーム症侯群(cytokine storm syndrome)、敗血症(sepsis)および炎症性肝疾患から構成された群より選択される1つ以上の疾患であり、より具体的には、クモ膜下出血、敗血症、サイトカインストーム症侯群(cytokine storm syndrome)および炎症性肝疾患から構成された群より選択される。
【0024】
本明細書において、用語「炎症性肝疾患(inflammatory liver disease)」は、多様な原因によって誘発された過度の、または所望しない免疫反応または炎症反応を直接または間接的な原因として発生する肝組織の損傷を伴う一連の疾患を包括する意味である。
より具体的には、前記炎症性肝疾患は、ウイルス性肝炎(viral hepatitis)、トキソプラズマ感染症(toxoplasma hepatitis)、アルコール性肝疾患(alcoholic liver disease)、毒性肝疾患(toxic liver disease)、急性および亜急性肝不全(Acute and subacute hepatic failure)、肝膿瘍(liver abscess)、非特異性反応性肝炎(Nonspecific reactive hepatitis)、肝梗塞(liver infarction)、肝静脈閉塞性疾患(Hepatic veno-occlusive disease)、肝または胆嚢の損傷(Injury of liver or gallbladder)、肝移植関連肝炎(liver transplantation-related hepatitis)から構成された群より選択される。
【0025】
本発明の組成物が薬剤学的組成物に製造される場合、本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を含む。本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分のほか、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含むことができる。好適な薬剤学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)に詳しく記載されている。
【0026】
本発明の薬剤学的組成物は、多様な投薬ルートを通して投与可能であり、具体的には、非経口投与されてもよく、より具体的には、経口、静脈、動脈、皮下、腹腔、皮内、筋肉内、脳室内、脊椎腔内、吸入、鼻腔、関節腔内または局所投与されてもよい。
本発明の薬剤学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方可能である。本発明の薬剤学的組成物の好ましい投与量は、成人ベースで0.0001~100mg/kgの範囲内である。
【0027】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することにより、単位用量形態に製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてもよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよいし、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0028】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前述した本発明の酸化セリウムナノ複合体またはこれを有効成分として含む薬剤学的組成物を対象体に投与するステップを含む炎症または自己免疫疾患の予防または治療方法を提供する。本発明で用いられる酸化セリウムナノ複合体およびこれにより予防または治療できる炎症または自己免疫疾患についてはすでに詳述したので、過度の重複を避けるためにその記載を省略する。
【0029】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、以下のステップを含む酸化セリウムナノ複合体の製造方法を提供する:
(a)C
1~C
3アルコール溶媒に、セリウム前駆体、下記化学式1で表される重合体および下記化学式2で表される架橋化合物を添加して混合溶液を製造するステップ;
【化6】
前記化学式1において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素または酸素であり、
【化7】
は単結合または二重結合を示し、lは1または2であり、mは100~1000の整数である;
【化8】
前記化学式2において、nは3~7の整数である;
(b)前記混合溶液を順次に加熱および冷却して酸化セリウムナノ粒子を得るステップ;および
(c)C
1~C
3アルコール溶媒で酸化セリウムナノ粒子とPGA(polyglutamic acid)、PASP[poly(aspartic acid)]、アルギネート(alginate)、PAA[Poly(acrylic acid)]、PMAA[Poly(methacrylic acid)]、ポリメチルメタクリル酸[poly(methyl methacrylic acid)]、PMA[poly(maleic acid)]、PBMA[poly(butadiene/maleic acid)]、PVPA[Poly(vinylphosphonic acid)]、PSSA[Poly(styrenesulfonic acid)]、PVA(polyvinyl alcohol)およびデキストランから構成された群より選択される1つ以上の生体適合性分散安定剤を混合して前記生体適合性分散安定剤が改質された酸化セリウムナノ複合体を得るステップ。
【0030】
本明細書において、用語「改質(coating)」は、対象表面上に特定物質を塗布することにより、一定の厚さの新たな層を形成することを意味し、対象表面とコーティング物質はイオン結合または非共有結合により改質できる。用語「非共有結合」は、吸着(adsorption)、凝集(cohesion)、鎖の絡み合い(entanglement)および閉じ込め(entrapment)などのような物理的結合だけでなく、水素結合およびファンデルワールス結合のような相互作用が単独でまたは前記物理的結合とともに作用して発生する結合を含む概念である。本発明において生体適合性分散安定剤が改質される場合、安定剤層は、改質対象表面を完全に取り囲みながら密閉された層を形成してもよく、部分的に密閉された層を形成してもよい。
【0031】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記C1~C3アルコール溶媒は、エタノールである。
本発明の具体的な実施形態によれば、前記セリウム前駆体は、セリウム(III)アセテートハイドレート、セリウム(III)アセチルアセトネートハイドレート、セリウム(III)カーボネートハイドレート、セリウム(III)フルオライド、セリウム(III)クロライド、セリウム(III)クロライドヘプタハイドレート、セリウム(III)ブロミド、セリウム(III)ヨージド、セリウム(III)ナイトレートヘキサハイドレート、セリウム(III)オキサレートハイドレート、セリウム(III)スルフェートおよびセリウム(III)スルフェートハイドレートから構成された群より選択される1つ以上の前駆体である。より具体的には、セリウム(III)ナイトレートヘキサハイドレートである。
本発明の具体的な実施形態によれば、前記加熱は、60~75℃で行われる。本発明のメリットの一つが、95℃の高温で短期間だけ反応可能な従来技術とは異なり、70℃前後の温度で十分な反応過程が安定的に持続可能で、産業的規模の大量生産に適することにあることは上述した通りである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の特徴および利点をまとめると、次の通りである:
(a)本発明は、酸化セリウムナノ複合体、その製造方法およびこれを有効成分として含む炎症または自己免疫疾患の予防または治療用組成物を提供する。
(b)本発明は、最適な組み合わせからなる生体適合性分散安定剤を適用することにより、ナノ粒子の生物医学的安定性、生体適合性および生産工程の効率性を著しく改善させながらもナノ粒子の固有の薬理効果を維持することにより、効率的なナノ粒子治療組成物として有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の酸化セリウムナノ複合体の透過電子顕微鏡イメージを示す図である。
【
図2】溶媒の性質による酸化セリウムナノ複合体の形態および分散度を分析した結果を示す図である。
【
図3】化合物の存在の有無による酸化セリウムナノ複合体の粒子サイズの変化を示す図である。
【
図4】ポリビニルピロリドンの含有量による粒子サイズの変化を分析した結果を示す図である。
【
図5】動的光散乱装置を用いた酸化セリウムナノ複合体の反応時間別の粒子サイズを分析した結果を示す。
【
図6A】表面電位分析装置を用いて酸化セリウムナノ複合体の生体適合性分散安定剤のコーティングの有無を確認した結果を示す図である。
【
図6B】動的光散乱装置を用いた酸化セリウムナノ複合体の粒子サイズを分析した結果を示す。
【
図7A】酸化セリウムナノ複合体の過酸化水素の除去能力の評価結果を示す図である。
【
図7B】酸化セリウムナノ複合体のヒドロキシルラジカルの除去能力の評価結果を示す図である。
【
図8】前記実施例においてそれぞれ0.001から0.05mg/kgまでは10匹、0.1から0.6mg/kgまでは20匹のSDラットを対象に実験し、対照群では20匹のSDラットを対象に実験して、その生存率を平均値で表した。
【
図9】本発明の粒子、陽性対照群および陰性対照群において10匹のSDラットを対象に実験して、その平均値を生存率で表したグラフである。
【
図10】本発明の粒子、陽性対照群および陰性対照群において10匹のC57BL/6マウスを対象に実験して、その生存率を平均値で表したグラフである。
【
図11】ピロガロール(pyrogallol)によって毒性刺激が誘導された肝細胞(heap-1c1c7)に本発明の粒子を濃度別に処理した後、活性酸素で関連する毒性刺激を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないことは当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
実施例
【0035】
実施例1:酸化セリウムナノ複合体の合成
6-アミノヘキサン酸(6-aminohexanoic acid、6-AHA)(0.65585g、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を脱イオン水(30mL)に溶解させることにより第1溶液を製造した。前記第1溶液を撹拌しながらポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)(2.0g、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)をエチルアルコール(25mL)に溶解させた第2溶液を添加し、空気中で70℃に加熱して第3溶液を製造した。一方、セリウム(III)ナイトレートヘキサハイドレート(Ce(NO
3)
3・6H
2O、0.540g、Alfa Aeser、Ward Hill、MA)を室温(約20℃)のエチルアルコール(50mL)に溶解させて第4溶液を製造した。以後、前記第4溶液を前記第3溶液に添加して第5溶液を製造した。以後、前記第5溶液の温度を70℃に2時間維持した後、室温(約20℃)に冷却した。このような過程により6-アミノヘキサン酸とポリビニルピロリドンが表面に結合した酸化セリウムナノ粒子を得た(
図1)。以後、前記酸化セリウムナノ粒子をアセトンで3回洗浄して未反応物質を除去した。
【0036】
実施例2:溶媒による酸化セリウムナノ複合体の合成傾向
合成溶媒による粒子の形成傾向を把握するために、100%水系溶媒を使用するか、70%エチルアルコール溶媒を使用することにより、酸化セリウムナノ複合体の形成状態を確認した。
#100%水系溶媒:
6-アミノヘキサン酸(0.65585g、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を脱イオン水(30mL)に溶解させることにより第1溶液を製造し、前記第1溶液の撹拌中にポリビニルピロリドン(2.0g、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を脱イオン水(25mL)に溶解させた第2溶液を添加し、空気中で70℃に加熱して第3溶液を製造した。一方、セリウム(III)ナイトレートヘキサハイドレート(Ce(NO
3)
3・6H
2O、0.540g、Alfa Aeser、Ward Hill、MA)を室温(約20℃)の脱イオン水(50mL)に溶解させて第4溶液を製造した。以後、前記第4溶液を前記第3溶液に添加して第5溶液を製造した。以後、前記第5溶液の温度を70℃に2時間維持した後、室温(約20℃)に冷却して6-アミノヘキサン酸とポリビニルピロリドンが表面に結合した酸化セリウムナノ粒子を得た。以後、前記酸化セリウムナノ粒子をアセトンで3回洗浄して未反応物質を除去した。
#70%エチルアルコール溶媒:実施例1と同様の方法で得た。
透過電子顕微鏡分析の結果、100%水系溶媒で合成された酸化セリウムナノ複合体は、粒子の個別的な分散性を確認しにくく、クモの巣のように互いに絡み合って凝集されている形態を示すのに対し、70%エチルアルコール溶媒を用いた場合、粒子の高い分散性を確認することができた(
図2)。これにより、水溶媒に比べてアルコール溶媒が粒子の反応速度および安定した分散性の面でより有利であることが分かった。
【0037】
実施例3:合成反応物の成分による酸化セリウムナノ複合体の構造形成
合成過程中に6-アミノヘキサン酸とポリビニルピロリドンの存在の有無によるナノ複合体の構造変化を確認すべく、実施例1の合成過程で6-AHAとPVPを順次に除外し、最後にはすべての添加物が含まれた形態で実験を進行させた。粒子の大きさは動的光散乱装置を用いて分析した。
その結果、6-AHAが存在しない場合、粒子が形成できず、PVPが存在しない場合には、100nm以上の非常に大きな粒子が形成されたのに対し、6-AHAとPVPがすべて合成に添加された場合にのみ10nm水準の均一な粒子が合成されたことを確認した(
図3)。これにより、6-AHAとPVPの2つの化合物が相補的に合成に参加し、2つの化合物が同時に適用される時、生体材料として安定した大きさと分散度を有するナノ複合体が効率的に得られることを確認した。
【0038】
実施例4:PVPの含有量によるナノ複合体の形成変化
本発明において、分散安定剤の役割を果たすPVPの含有量によるナノ複合体の形成傾向を確認すべく、実施例1の合成過程で1.0、1.5、2.0および2.5gの多様な含有量のPVPを使用することによりその変化を調べようとした。動的光散乱分析により合成される粒子サイズを分析した結果、2.0g(19mg/ml)の用量でPVPを用いた時、最も小さなサイズの均一な粒子を得ることができた。ナノ複合体の大きさが分散、機能および生物学的安定性に及ぼす影響を考慮した時、これは最も適した合成条件を探索した結果といえる。
【0039】
実施例5:合成時間による酸化セリウムナノ複合体の大きさ形成傾向
前記実施例1により合成できる酸化セリウムナノ複合体の合成維持時間別の粒子サイズと安定性を把握するために、第5溶液の反応を維持する間、30、40、50、60、70、80、90、120分ごとにサンプルを採取して、動的光散乱装置を用いて粒子の大きさを分析した。その結果、反応時間が経過するほど、30nmから5nm水準まで粒子の大きさが漸進的に減少し、各時間別に採取されたサンプルごとに非常に安定した粒子サイズを有することを確認することにより、本発明の方法は、均一性が著しく優れたナノ粒子を生産できる工程であることを確認した(
図5)。
【0040】
実施例6:酸化セリウムナノ複合体の生体分散安定剤コーティング
上述した工程により製造された酸化セリウムナノ粒子3.5mgを酢酸ナトリウム緩衝液(Sodium acetate 2.5mM buffer)0.8mLに添加して懸濁液を製造した。前記懸濁液を酢酸ナトリウム緩衝液1.2mLに溶解したポリグルタミン酸(PLGA)(重量平均分子量:9,000)0.3μmolあるいは同一の重量のポリビニルアルコール(PVA)(重量平均分子量:9,500)、デキストラン(Dextran)(重量平均分子量:6,000)と混合した。前記混合物を室温で5分間撹拌して前記酸化セリウムナノ粒子の表面に結合した6-AHAの正電荷と、前記ポリグルタミン酸、ポリビニルアルコール、デキストランなどが有する表面負電荷とを静電的引力で結合させることにより酸化セリウムナノ複合体を得た。
【0041】
前記酸化セリウムナノ複合体は、生体適合性分散安定剤でコーティングを進行させる前には5mVの表面電荷値を有しており、PLGAでコーティングを進行させた後には-40mV、PVAとデキストランは-1mVに近い電荷値を有することを確認し、当該方法によりそれぞれ異なる生体適合性分散安定剤が酸化セリウムナノ粒子にコーティングされたことを確認した(
図6A)。
実際の生物医学的用途に使用するための環境を模写した生理食塩水(0.9%(w/w)塩化ナトリウム水溶液)分散環境において、生体適合性分散安定剤のコーティング前に50~100nmの大きさを有し、コーティング後にそれぞれの分散安定剤を使用した環境とも、分散の大きさが10~50nmに改善されたことを確認した(
図6B)。
【0042】
実施例7:酸化セリウムナノ複合体の抗酸化効果の評価
それぞれ異なる生体適合性分散安定剤でコーティングされた酸化セリウムナノ複合体の抗酸化効果を判断するために、代表的な活性酸素種である過酸化水素(H2O2)とヒドロキシルラジカル(・OH)の除去能力を調べた。それぞれの活性酸素種の分析のために、過酸化水素の場合、Amplex
TM Red Hydergen Peroxide/Peroxidase Assay Kitを用い、ヒドロキシルラジカルはHORAC(hydroxyl radical antioxidant capacity)アッセイを用いた。それぞれの分析により酸化セリウムナノ複合体が多様な種類の活性酸素種に対する除去機能を有するだけでなく、このような機能が粒子の濃度に比例することを確認した(
図7)。これとともに、それぞれ異なる種類の分散安定剤でコーティングされたにもかかわらず、活性酸素の除去に成功したことにより、活性酸素種の除去能力が核心粒子に由来することを確認することができた。
【0043】
実験例1:酸化セリウムナノ複合体の非感染性炎症疾患の治療効果
本発明で合成されたナノ複合体の非感染性炎症疾患の治療効果を確認するために、代表的な非感染性炎症疾患であるクモ膜下出血動物モデルを用いて実験を進行させた。要するに、SD(Sparague-Dawley)ラット(コアテック株式会社)をイソフルランで痲酔させた後、左中大脳動脈を4-0プロリン針で貫通(puncture)してクモ膜下出血(SAH)を誘導した。クモ膜下出血を誘導した時点から1時間後、各1回にわたって前記実施例7で製造された酸化セリウムナノ複合体を0.001、0.01、0.05、0.1、0.2、0.4、0.6mg/kgで5分かけて静脈注入しながら、対照群SDラットには同一の体積の生理食塩水を注射し、クモ膜下出血を誘導した時点から14日後まで前記SDラットの死亡の有無を周期的に確認した。その結果、本発明の酸化セリウムナノ複合体をSDラットに注入した場合、対照群に比べて死亡率が著しく減少することが分かったが、具体的には、対照群の死亡率は84.2%であるのに対し、酸化セリウムナノ複合体を0.6mg/kg注入した場合には、死亡率が18.2%まで減少することが分かった(
図8)。
【0044】
実験例2:非感染性炎症疾患治療のための既存の研究結果との比較効果
前記実施例7で製造された酸化セリウムナノ複合体と、本発明者らによって従来開発されたナノ複合体(大韓民国公開公報第10-2018-0043989号)の炎症性疾患の治療効果を比較評価するために、前記実験例1と同様の方法でSDラット(コアテック株式会社)に対してクモ膜下出血(SAH)を誘導した。クモ膜下出血を誘導した時点から1時間後、各1回にわたって本発明の酸化セリウムナノ複合体を0.05mg/kgで5分かけて静脈注入し、陽性対照群として従来の酸化セリウムナノ複合体0.25mg/kgをSDラットに同様の方式で注射し、対照群として同一の体積の生理食塩水を前記SDラットに注射した。クモ膜下出血を誘導した時点から14日後まで前記SDラットの死亡の有無を周期的に確認した結果、本発明の酸化セリウムナノ複合体と陽性対照群が同等の死亡率を示したことが明らかになった(
図9)。具体的には、対照群の死亡率は84.2%であり、本発明のナノ複合体注入群は38.8%、陽性対照群は40%であった。これにより、本発明の酸化セリウムナノ複合体は、陽性対照群の1/5の用量でも対等な生存率を示すことにより、陽性対照群に比べて5倍程度優れた治療効果を示すことが分かった。本実験により、本発明の新規ナノ複合体は、既存の酸化セリウムナノ複合体に比べて著しく向上した治療効果と安定性を有することにより、効率的な炎症疾患治療組成物として利用できることを確認した。
【0045】
実験例3:酸化セリウムナノ複合体の感染性炎症疾患の治療効果-敗血症
本発明のナノ複合体の感染性炎症疾患の治療効果を確認するために、代表的な感染性炎症疾患である敗血症動物モデルを用いた。生後6週齢の雄C57BL/6マウス(コアテック株式会社)に敗血症を起こすためにCLP(Cecal ligation and puncture)法を使用した。具体的には、C57BL/6マウスをイソフルランで痲酔させた後、ベタジン溶液(10重量%ポビドン-ヨード)で消毒した後、皮膚切開を施して盲膓を露出させた。以後、6-0シルクを用いて、回盲弁(ileocecal valve)遠位部で前記盲膓の結紮(ligation)を施し、前記結紮された盲膓を26-ゲージ針を用いて穿孔した。このような穿孔は腹膜への排泄物漏れを誘導して多菌性の菌血症および敗血症を起こす。前記C57BL/6マウスに敗血症を誘導した直後、各1回にわたって本発明の酸化セリウムナノ複合体を0.1mg/kgで静脈注入し、陽性対照群として従来の酸化セリウムナノ複合体0.25mg/kgを注射し、対照群として同一の体積の生理食塩水を注射した。以後、敗血症を誘導した時点から6日後まで前記C57BL/6マウスの死亡の有無を周期的に確認した結果、本発明の酸化セリウムナノ複合体が陽性対照群および対照群に比べて死亡率が著しく減少したことを確認した(
図10)。具体的には、対照群と陽性対照群の死亡率がそれぞれ60%および80%であるのに対し、陽性対照群の用量の0.4倍に過ぎない用量を投与した本発明のナノ複合体注入群は死亡率が40%に過ぎなかった。
このような結果により、本発明のナノ複合体は、従来開発されたナノ複合体に比べて低用量でも優れた薬理効果を示す著しく改善された技術であることを確認することができた。
【0046】
実験例4:酸化セリウムナノ複合体の感染性炎症疾患の治療効果-炎症性肝疾患
酸化セリウムナノ複合体の炎症による肝細胞毒性の治療効果を調べるために、ピロガロール(pyrogallol)に由来する肝毒性の程度を測定した。肝毒性を評価するために、肝細胞(heap-1c1c7)にピロガロールを処理して毒性刺激を誘導し、酸化セリウムナノ複合体を濃度別に1時間処理して活性酸素で関連する毒性刺激を評価した。
図11に示すように、本発明の酸化セリウムナノ複合体は、濃度依存的にピロガロール-誘導された肝細胞毒性を著しく減少させることを確認した。特に、500μMの酸化セリウムナノ複合体を処理した群において肝細胞毒性が陰性対照群と類似の水準に減少することを示したことにより、酸化セリウムナノ複合体が炎症による肝細胞毒性に対する優れた治療効果を有することを確認した。
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、よって、本発明の範囲が制限されないことは自明である。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。