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7630006抗がんウイルス及びその用途(Oncolytic Virus and Uses Thereof)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】抗がんウイルス及びその用途(Oncolytic Virus and Uses Thereof)
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/863 20060101AFI20250206BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20250206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 15/27 20060101ALN20250206BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20250206BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20250206BHJP
   C12N 15/39 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
C12N15/863 Z ZNA
C12N7/01
A61K35/768
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
C12N15/27
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/39
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023552253
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 KR2022002805
(87)【国際公開番号】W WO2022182206
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026782
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523325554
【氏名又は名称】シルラジェン,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SILLAJEN,INC.
【住所又は居所原語表記】9th FL.,109,Sogong-ro,Jung-gu,Seoul 04525,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】オ,クンヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ナミ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ビョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュン スン
(72)【発明者】
【氏名】カン,キョン テ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-521497(JP,A)
【文献】国際公開第2020/086423(WO,A1)
【文献】特表2020-519230(JP,A)
【文献】特開平10-313865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チミジンキナーゼ(TK、thymidine kinase)遺伝子の発現が抑制され、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)および補体調節タンパク質をコードする遺伝子を含む抗がんウイルスであって、
前記抗がんウイルスは、抗がんウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメイン(transmembrane domain)をコードする遺伝子をさらに含み、
前記抗がんウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子は、前記補体調節タンパク質をコードする遺伝子と融合され、
前記抗がんウイルスは、細胞内成熟ウイルス(Intracellular Mature Virus、IMV)の形態であり、前記補体調節タンパク質は、当該ウイルスの表面に発現し、
前記補体調節タンパク質をコードする遺伝子は、CD55をコードする配列番号1の配列で構成される遺伝子であり、
前記抗がんウイルス膜タンパク質は、H3Lであり、
前記抗がんウイルスは、ワクシニアウイルスである、抗がんウイルス
【請求項2】
前記チミジンキナーゼ遺伝子の発現が抑制されるのは、遺伝子の一部または全部の欠失、または遺伝子内部への外来遺伝子挿入によるものである、
請求項1に記載の抗がんウイルス。
【請求項3】
前記チミジンキナーゼ遺伝子の発現が抑制されるのは、前記チミジンキナーゼ遺伝子の領域の一部または全部への外来遺伝子挿によるものである、
請求項2に記載の抗がんウイルス。
【請求項4】
前記GM-CSFおよび補体調節タンパク質は、それぞれ後期(late)-初期(early)VACV p7.5プロモーター、ワクシニア合成初期-後期プロモーター(pSEL)、ワクシニア合成後期プロモーター(pSL)、ワクシニア変形されたH5(mH5)プロモーター、ワクシニア短い合成初期-後期pSプロモーター、pLateプロモーター、pC11Rプロモーター、pF11Lプロモーター、psFJ1-10合成初期プロモーター、pHyb合成初期プロモーター、任意の天然ワクシニア初期プロモーター、または後期-初期最適化された(LEO)プロモーターの制御下で発現する、
請求項1に記載の抗がんウイルス。
【請求項5】
前記ワクシニアウイルスは、ウエスタンリザーブ(Western Reserve、WR)、NYVAC(New York Vaccinia Virus)、ワイス(Wyeth)、LC16m8、リスター(Lister)、コペンハーゲン(Copenhagen)、ティアンタン(Tian Tan)、USSR、タシケント(TashKent)、エバンス(Evans)、IHD-J(International Health Division-J)、またはIHD-W(International Health Division-White)ストレイン(strain)である、
請求項に記載の抗がんウイルス。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の抗がんウイルスを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記癌は固形癌または血液癌である、
請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記固形がんは、肺がん、大腸がん、前立腺がん、甲状腺がん、乳がん、脳がん、頭頸部がん、食道がん、皮膚がん、胸腺がん、胃がん、結腸がん、肝がん、卵巣がん、子宮がん、膀胱がん、直腸がん、胆嚢がん、胆道がん、膵がん、腎臓癌、骨肉腫、肉腫、軟骨肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかである、
請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記血液癌は、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかである、
請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記組成物は、腫瘍内、血管内、筋肉内、または腹腔内に投与用である、
請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記組成物は静脈または動脈投与用である、
請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)をコードする遺伝子、ワクシニアウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子、および補体調節タンパク質をコードする遺伝子の全部または一部を含み、発現のための初期-後期プロモーターおよび後期プロモーターと作動可能に連結された、抗がんウイルスへの挿入のための遺伝子構築物(construct)であって、
前記初期-後期プロモーターは、前記GM-CSFをコードする遺伝子の全部または一部と作動可能に連結され、および、前記後期プロモーターは、前記補体調節タンパク質をコードする遺伝子の全部または一部と作動可能に連結されており、
前記抗がんウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子は、前記補体調節タンパク質をコードする遺伝子と融合され、
前記抗がんウイルスは、細胞内成熟ウイルスの形態であり、前記補体調節タンパク質は、当該ウイルスの表面に発現し、
前記補体調節タンパク質をコードする遺伝子は、CD55をコードする配列番号1の配列で構成される遺伝子であり、
前記抗がんウイルス膜タンパク質は、H3Lであり、
前記抗がんウイルスは、ワクシニアウイルスである、遺伝子構築物
【請求項13】
前記遺伝子構築物が、抗がんウイルスの不活性化されたチミジンキナーゼ遺伝子領域への挿入のためのものである、
請求項12に記載の遺伝子構築物。
【請求項14】
前記遺伝子構築物が、抗がんウイルスの不活性化されたチミジンキナーゼ遺伝子領域への挿入のためのものである、
請求項12に記載の遺伝子構築物。
【請求項15】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の抗がんウイルスを有効成分として含む、抗がん補助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がんウイルス及びその用途に関するものであり、具体的には、チミジンキナーゼ(TK、thymidine kinase)遺伝子の発現が抑制され、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)および補体調節タンパク質をコードする遺伝子を含む抗がんウイルス;およびそのような抗がんウイルスの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は世界的に主要な死亡要因となっており、個人的、社会的に莫大な負担を負わせることにより革新的な抗がん治療剤の開発に対する重要性は日々高まっており、これに伴い、分子生物学的発展にともなう様々なアプローチが試みられている実情である。
【0003】
最近、脚光を浴びている抗がん治療剤である抗がんウイルス(Oncolytic virus)は、複製が可能で感染力のあるウイルスであり、野生型(Wild-type)または弱毒化されたウイルスに腫瘍細胞内の遺伝的に異常部位をターゲット(Target)とする特定遺伝子を挿入してがん治療に使用するウイルスである。これらの遺伝子組換えられた抗がんウイルスは、ウイルスの複製後に細胞溶解と共に組織を通じたウイルスの拡散ががん細胞及びがん細胞周辺の血管内で選択的に起こる。代表的な抗がんウイルスとしては、2015年10月、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)から黒色腫(Melanoma)治療剤として承認を受けた米国アムジェン(Amgen)のイムリジック(lmlygic, talimogene laherparepvec)がある。
【0004】
一方、医薬品の静脈注射は、経口投与が不可能な薬剤を全身へと素早く伝達するための容易な方法であり、投与が簡便で最も好まれる形態の投与方法の一つである。しかし、抗がんウイルス製剤は静脈注射時に体内の免疫系によって素早く除去されるため、静脈注射を通じて投与するとその効能が低下するという限界がある。したがって、抗がんウイルス製剤は、ウイルスが腫瘍に到達する確率を高めるために、静脈注射ではなく標的腫瘍に直接注射する方式が一般的に使用されている。
【0005】
腫瘍内注射方式は、黒色腫、乳がん、頭頸部癌などの接近が容易な表在性癌で概ね有効に適用できるが、深部固形がんのような癌腫では有効用量の投与が施術者である医師の技術的能力に依存するという欠点があり、腫瘍内注射は施術過程が非常に侵襲的であるため、繰り返し治療方法として使用するには静脈注射に比べて容易ではない。
【0006】
静脈注射の利点にもかかわらず、抗がんウイルスが静脈注射形態で投与されにくい理由は、血液中に投与された外来物質(すなわち、ウイルス)が人体の防御機構によって徐々に除去され、抗がんウイルスの活性が低下するためである。すなわち、ウイルスが血管に乗って体内を移動する場合、人体はこれを敵と認識し、自然免疫を活性化させて中和・除去することになる。
【0007】
人体が外部から侵入した細菌やウイルスに露出すれば、自然免疫システム(innate immune system)の最前線にある防御機構である補体システム(complement system)が一番先に作用する。補体(complement)は血液中に存在するタンパク質で、外来微生物の表面を囲んで、マクロファージや好中球の食菌作用を容易にする役割をする。具体的には、血液中にウイルスが浸透する場合、まずウイルス表面のタンパク質が補体と結合して互いに凝集(Aggregation)し、補体が活性化される。活性化された補体はウイルス表面を囲み、食細胞の貪食作用を容易にし(オプソニン作用、Opsonization)、ウイルス表面に穴を開けてウイルスを溶解(lysis)させる。このように溶解したウイルスの残骸は、マクロファージの捕食作用(phagocytosis)によって完全に除去される。
【0008】
人体は、過度な補体システムの活性化による周辺正常細胞の損傷を防御するために、CD55、CD46、CD59などの補体調節タンパク質を細胞表面に発現して過度な補体の作用を調節する。このうち、CD46及びCD59タンパク質は補体活性化経路の一部のみを抑制するが、CD55タンパク質(崩壊促進因子、Decay Acceleration Factor、DAF)は全ての補体活性化段階に関与し、より強力に補体活性化を阻害する。
【0009】
宿主細胞内で増殖した抗がんウイルスの一部(約5~20%)は、感染した細胞の細胞膜に囲まれた方法で産生される「細胞外性被覆ウイルス」(Extracellular Enveloped Virus、EEV)の形態をとる特徴がある。このようなEEVは補体の活性化を避けて血中生存期間が長いことと知られており、そのメカニズムは、ウイルスが包んで出た宿主細胞の細胞膜に発現するCD55、CD46、CD59などの補体調節タンパク質によることがわかった。例えば、産生された抗がんワクシニアウイルスは、ほとんどが「細胞内成熟ウイルス」(Intracellular Mature Virus、IMV)の形態であり、これは表面に補体調節タンパク質を発現せず、補体によって活性が大幅に減少する。このため、抗がんウイルスの静脈注射時の抗がん活性改善のための研究開発が必要な実情である。
[発明の詳細な説明]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、新規な抗がんウイルスを提供することであり、具体的にはチミジンキナーゼ(TK、thymidine kinase)遺伝子の発現が抑制され、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)および補体調節タンパク質をコードする遺伝子を含む抗がんウイルスを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、前記抗がんウイルスを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子をコードする遺伝子、抗がんウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子、および補体調節タンパク質をコードする遺伝子の全部または一部を含み、発現のために初期-後期プロモーターおよび後期プロモーターと作動可能に連結された、抗がんウイルスへの挿入のための遺伝子構築物(construct)を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、抗がんウイルスを有効成分として含む抗がん補助剤を提供することである。
【0014】
本発明のもう一つの目的は、前記抗がんウイルスを有効成分として含む組成物を個体に投与する段階を含む、がんの予防または治療方法を提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、がんの予防または治療のための、前記抗がんウイルスまたはそれを含む組成物の用途を提供することである。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、がんの予防または治療用薬剤の製造のための、前記抗がんウイルスまたはそれを含む組成物の用途を提供することである。
【0017】
本明細書に開示された発明の技術的思想によって成し遂げようとする技術的課題は、以上で言及した問題を解決するための課題と制限されず、言及されていない他の課題は、以下の記載から通常の技術者に明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これを具体的に説明すると次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明および実施形態は、それぞれの他の説明および実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された多様な要素のすべての組み合わせが本出願の範疇に属する。さらに、以下に記載された具体的な叙述によって本出願の範疇が制限されると見られない。
【0019】
本発明では、前記提示した抗がんウイルスの静脈注射時の抗がん活性改善のために補体調節タンパク質、例えば、活性度が最も高いCD55を「細胞内成熟ウイルス」(IMV)表面に発現させて補体の攻撃から抗がんウイルスを保護できるように開発するための研究努力を進め、本発明を完成した。
【0020】
前記の本発明の目的を達成するための一態様として、本発明はチミジンキナーゼ(TK、thymidine kinase)遺伝子の発現が抑制され、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating)および補体調節タンパク質をコードする遺伝子を含む抗がんウイルスを提供する。
【0021】
特に、本発明では、一例として、このような抗がんウイルス自体の膜タンパク質にある細胞膜貫通ドメイン(transmembrane domain)をCD55遺伝子と連結して、CD55タンパク質が「細胞内成熟ウイルス」(IMV)表面に発現するようにしており、これにより、人体の補体システムから抵抗力を持って静脈注射時に安定的な抗がん活性を維持するだけでなく、抗がんウイルス投与量を減少させて治療副作用を最小化するようにした。
【0022】
本発明の用語「抗がんウイルス(Oncolytic vaccinia virus)」は、「腫瘍溶解性ウイルス」として言及でき、 これは内在遺伝子の全部または一部欠失、外来遺伝子の導入を通じてエンジニアリングされた「組換えウイルス」を含む。このような抗がんウイルスは、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レオウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、又はヘルペスウイルスなどであり得る。
【0023】
本発明の用語「チミジンキナーゼ(TK、thymidine kinase)」は、ヌクレオチドの生合成に関与する酵素である。前記TK遺伝子によってコードされたチミジンキナーゼは、ATPのガンマ(γ)位置のリン酸をチミジンに結合させてウイルスDNAを構成するヌクレオチドを作ることができる。前記TKは、GenBank:AAR17937.1またはAY313847.1などの配列であり得るが、これらに制限されない。具体的には、前記TKまたはその遺伝子は、GenBank:AAR17937.1のアミノ酸配列またはGenBank:AY313847.1の塩基配列で構成することができるが、これらに制限されない。また、前記TKまたはその遺伝子は、GenBank:AAR17937.1のアミノ酸配列またはGenBank:AY313847.1の塩基配列と約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性を有することができる。
【0024】
本発明の用語「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF, granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)」は、より多くの白血球、特に顆粒球、マクロファージ、および血小板になる細胞が作られるように助ける物質である。これは造血剤(血液形成剤)という薬物系列に属するサイトカインであり、サルグラモスチム(sargramostim)としても知られている。GM-CSFは、サイトカインまたは免疫および炎症刺激に反応して、多くの相違する細胞の種類(例えば、活性化されたT細胞、B細胞、マクロファージ、肥満細胞、内皮細胞、および線維芽細胞)によって産生される。顆粒球-マクロファージ前駆細胞以外にも、GM-CSFはまた、赤血球、巨核球、および好酸球前駆細胞に対する成長因子である。成熟した造血細胞に対して、GM-CSFは顆粒球、単核球/マクロファージ、および好酸球に対する生存因子であり、それらの効果因子機能を活性化させる。GM-CSFはまた、非-造血細胞に対して機能的な役割を有することが報告されている。これは、ヒト内皮細胞が移動して増殖するように誘導することができる。
【0025】
前記GM-CSFは、GenBank:M10663.1等の配列であり得るが、これに制限されない。具体的には、前記GM-CSF遺伝子は、GenBank:M10663.1の塩基配列で構成されるか、または前記配列の一部であり得、前記GM-CSFの遺伝子は、GenBank:M10663.1の塩基配列と約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性を有することができる。
【0026】
本発明の用語「補体調節タンパク質」は、補体活性化経路を生体内で巧妙に調節するタンパク質である。血清型(水溶性)調節タンパク質群と膜結合性調節タンパク質群に大別する。血清型には、C4b結合タンパク質、H因子、SGP120、プロペルジン(P)などがあり、膜型には、CRI(CD35)、CR2(CD21)、CR3(CD11b/CD18)、CR4(CD11c/CD18)、DAF(CD55)、膜補因子タンパク質(MCP、CD46)、CD59がある。この中で、Pのみは補体活性を強くする方向に作用するが、他は減弱させる方向に作用する。本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる前記補体調節タンパク質は、CD35、CD21、CD18、CD55、CD46、またはCD59であり得、具体的にはCD55であり得るが、これらに制限されない。具体的には、前記CD55の遺伝子は、Genbank:NM_000574.3の塩基配列で構成されるか、または前記配列の一部であり得、前記CD55の遺伝子は、NCBI Reference Sequence:NM_000574.3の塩基配列と約90%、91%、92、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性を有することができる。より具体的には、前記CD55は、配列番号1の塩基配列または配列番号2のアミノ酸配列で構成されたものであり得る。
【0027】
本発明の用語「細胞膜貫通ドメイン(transmembrane domain)」とは、膜貫通領域または膜横断領域とも呼ばれ、膜タンパク質(membrane protein)の脂質二重膜(lipid bilayer)を貫通して横断する領域をいう。
【0028】
本発明による抗がんウイルスは、抗がんウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子をさらに含むことができる。具体的には、ワクシニアウイルスの膜タンパク質は、D8L、A16L、F9L、G9R、H3L、L1R、A9L、A13L、A21L、A28L、E10R、G3L、H2R、I2L、J5L、L5R、またはO3Lであり得、前記タンパク質配列の全部または一部を含むものであり得、一例として下記表1に示す通りである。
【0029】
本発明の前記補体調節タンパク質は、細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子とは独立的に別個に発現することもでき、連結された融合(fusion)形態に操作されて発現することもできる。
【0030】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0031】
このとき、補体調節タンパク質と抗がんウイルスタンパク質の細胞膜貫通ドメインは、遺伝子組換え過程を通じて全部または一部の遺伝子を含むように設計することができる。具体的には、抗がんウイルスのうち、ワクシニアウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインは、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、または配列番号15のアミノ酸配列、または配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、または配列番号16の塩基配列で構成されるものであり得るが、これに制限されない。
【0032】
本発明による遺伝子の発現抑制又は遺伝子不活性化とは、遺伝子の一部又は全部の欠失、または遺伝子内部に外来遺伝子が挿入されることにより、遺伝子が発現しないか、遺伝子の一部のみが発現し、遺伝子がコードするタンパク質の活性が現れないことを意味する。前記遺伝子を欠失させる方法、または外来遺伝子を挿入する方法は、通常の技術分野で周知の方法で行うことができる。例えば、Methods described in Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, by J. Sambrook, E. F. Fritsch and T. Maniatis (2003), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Virology Methods Manual, edited by Brian W J Mahy and Hiliar O Kangro (1996) Academic Press and Expression of genes by Vaccinia virus vectors. Current Protocols in Molecular Biology, published by John Wiley and Son (1998), Chapter 16に開示されている外来遺伝子を挿入する方法で行うことができる。具体的には、前記チミジンキナーゼ遺伝子の発現が抑制されるのは、チミジンキナーゼJ2R領域の一部または全部に外来遺伝子が挿入されたことであり得る。より具体的には、本発明の一実施例では、T-BluntTM PCR Cloning Kit(Solgent、Korea Cat No. SOT01-K020)を用いて外来遺伝子を挿入した。本発明の抗がんウイルスに含まれるGM-CSFおよび補体調節タンパク質は、それぞれ後期(late)-初期(early)VACV p7.5プロモーター、ワクシニア合成初期-後期プロモーター(pSEL)、ワクシニア合成後期プロモーター(pSL)、ワクシニア変形されたH5(mH5)プロモーター、ワクシニア短い合成初期-後期pSプロモーター、pLateプロモーター、pC11Rプロモーター、pF11Lプロモーター、psFJ1-10合成初期プロモーター、pHyb合成初期プロモーター、任意の天然ワクシニア初期プロモーター 、または後期-初期最適化された(LEO)プロモーターの制御下で発現することができるが、これらに制限されない。一例では、前記GM-CSFはpSELプロモーター、前記補体調節タンパク質またはCD55はpLateプロモーターの制御下で発現することができる。より具体的には、前記GM-CSFは配列番号3のpSELプロモーター、前記補体調節タンパク質は配列番号4のpLateプロモーターの制御下で発現することができる。
【0033】
本発明の抗がんウイルスは、がん治療効果を高めることができる遺伝子をさらに含むことができる。このような遺伝子に限定されることはないが、例えば、抗がん治療遺伝子、各種免疫調節因子、腫瘍内繊維質などの構造物分解因子などを含むことができ、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-24、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、CCL3、CCL5、CXCR4、CXCL9、CXCL10、CXCL11、インターロイキン過作用薬(interleukin superagonist;IL-2 superagonist、IL-15 superagonist)、TGF-β遮断薬(blockade)、TLR-2作用薬(agonist)、TLR-3作用薬、TLR-7作用薬、STAT-3阻害薬(inhibitor)、PTENα、p53、p63、p73、アデノシンデアミナーゼ-2(adenosine deaminase-2)、がん特異的抗原(cancer-specific antigen)、がん関連抗原(cancer-associated antigen)、ヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase)、コラゲナーゼ(Collagenase)、プロテアーゼ (Protease)などをさらに含むことができるが、これに制限されるものではない。
【0034】
本発明において、抗がんウイルスは、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レオウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルスなどを含み、一例として、ワクシニアウイルスは、ウエスタンリザーブ(Western Reserve、WR)、NYVAC(New York Vaccinia Virus)、ワイス(Wyeth)、LC16m8、リスター(Lister)、コペンハーゲン(Copenhagen)、ティアンタン(Tian Tan)、USSR、タシケント(TashKent)、エバンス(Evans)、IHD-J(International Health Division-J)、またはIHD-W(International Health Division-White)ストレイン(strain)である可能性があるが、これに制限されない。
【0035】
前記目的を達成するための他の態様として、本発明は、前記抗がんウイルスを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0036】
本発明の用語「有効成分」とは、単独で目的とする活性を示すか、またはそれ自体は活性のない担体と共に活性を示すことができる成分を意味する。
【0037】
本発明の用語「癌(または腫瘍)」は、原発癌または転移癌を区別せず、すべてを含む。本発明において、前記の癌は固形癌または血液癌であり得る。前記固形がんは、肺がん、大腸がん、前立腺がん、甲状腺がん、乳がん、脳がん、頭頸部がん、食道がん、皮膚がん、胸腺がん、胃がん、結腸がん、肝がん、卵巣がん、子宮がん、膀胱がん、直腸がん、胆嚢がん、胆道がん、膵がん、腎臓癌、骨肉腫、肉腫、軟骨肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであり得るが、これらに制限されない。前記血液癌は、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであり得るが、これらに制限されない。
【0038】
本発明の用語「転移癌」は、癌細胞が原発臓器を離れて他の臓器に移動して増殖して発生した癌を意味する。前記転移癌は、原発癌から癌組織が成長して直接的に周囲臓器を侵襲すること、そして、遠くある他の臓器に血管やリンパ管に沿って遠隔転移をすることの両方を含むことができるが、これに制限されるものではない。
【0039】
本発明の用語「予防」は、本発明の薬学的組成物の投与を通じて癌の発症を抑制または遅延させる全ての行為を意味し、本発明の用語「治療」は、本発明の薬学組成物を投与することによって、癌が好転または緩和されるが、有益に変わる全ての行為を意味する。
【0040】
本発明の抗がんウイルスを含む薬学的組成物の具体的な投与量は、製剤化方法、患者の状態及び体重、患者の性別、年齢、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び期間、排泄速度、反応感応性等のような要因に応じて通常の技術者によって様々に選択することができ、投与量および回数はいかなる点でも本発明の範囲を限定するものではない。具体的には、本発明の薬学的組成物は、10乃至約1013pfu(プラーク形成単位)の抗がんウイルスを含むことができるが、これに制限されることではない。
【0041】
本発明の用語「薬学的組成物」は、疾患の予防または治療を目的として製造されたものを意味し、それぞれ通常の方法に従って様々な形態に製剤化して使用することができる。例えば、投与経路に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの経口型製剤に製剤化することができ、外用剤および滅菌注射溶液の形態に製剤化して使用することができる。具体的には、前記投与経路は、局所経路、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を通じた直接吸収を含む任意の適切な経路である可能性があり、2つ以上の経路を組み合わせて使用することもできる。2つ以上の経路の組み合わせの例は、投与経路に応じた2つ以上の製剤の薬剤が組み合わせられた場合であり、例えば、一次的にある薬剤は静脈内経路で投与し、二次的に他の薬剤は局所経路で投与する場合である。
【0042】
本発明の薬学的組成物は、腫瘍内、血管内、筋肉内、または腹腔内で投与用であり、一例として静脈または動脈投与用であり得る。
【0043】
本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、または希釈剤をさらに含む癌の治療または予防用薬学的組成物の形態に製造することができるが、前記担体は非自然的担体(non-naturally occuring carrier)を含むことができる。具体的には、前記薬学的組成物は、それぞれ通常の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾル等の経口型製剤、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態に製剤化して使用することができる。本発明において、前記薬学的組成物に含まれる担体、賦形剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、 カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸塩、プロピルヒドロキシ安息香酸塩、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱物油が挙げられる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製される。また、単純な賦形剤に加えて、マグネシウムスチレート、タルクなどの潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内容液剤、乳剤、シロップ剤等が該当するので、よく使用される単純希石剤である水、リキッドパラフィン以外にも様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれる。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用できる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用できる。
【0044】
薬学的組成物の具体的な製剤化に関しては、当業界に告知されており、例えば、文献[Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)]などを参照することができる。前記文献は、本明細書の一部とみなされる。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、ネズミ、犬、猫、牛、馬、豚、人間などの哺乳動物に多様な経路を通じて投与することができ、人間である場合が好ましい。投与のすべての方式は予想することができ、例えば、経口、静脈、動脈、筋肉、または皮下注射によって投与することができるが、これらに制限されない。
【0046】
一例として、本発明の抗がんウイルスは、人体の補体システムから抵抗力を持ち、静脈注射時に安定的な抗がん活性を維持するだけでなく、抗がんウイルス投与量を減少させて治療効能を最大化するので、静脈投与でも十分な治療効能を示すことができる。
【0047】
前記目的を達成するためのもう一つの態様として、本発明は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF, granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)をコードする遺伝子、ワクシニアウイルス膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインをコードする遺伝子、および補体調節タンパク質をコードする遺伝子の全部または一部を含み、発現のための初期-後期プロモーターおよび後期プロモーターと作動可能に連結された、ワクシニアウイルスへの挿入のための遺伝子構築物(construct)およびそれを含むベクターを提供する。
【0048】
本発明において、前記遺伝子構築物(または遺伝子作製物)は、抗がんウイルスの不活性化されたチミジンキナーゼ遺伝子領域へ挿入のためのものであり得る。
【0049】
本発明において、前記不活性化されたチミジンキナーゼ遺伝子領域は、チミジンキナーゼ遺伝子の全部または一部が欠失したものを含む。
【0050】
本発明において、遺伝子構築物は、抗がんウイルス内のJ1R領域とJ3R領域との間に位置することを含む。
【0051】
本発明において、前記遺伝子構築物は、図1に例示したものを含むことができるが、これに制限されるものではなく、遺伝子の発現調節のための様々なプロモーター、調節配列を作動可能に連結された形態にさらに含むことができる。
【0052】
本発明の用語「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF, granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)」、「細胞膜貫通ドメイン」、および「補体調節タンパク質」は、前記の通りである。
【0053】
本発明における前記遺伝子構築物は、ワクシニアウイルスのチミジンキナーゼの全部または一部への挿入のためのものであり、具体的には、チミジンキナーゼJ2R領域の全部または一部に挿入するためのものである。
【0054】
前記目的を達成するためのもう一つの態様として、本発明は、前記組換えワクシニアウイルスを有効成分として含む抗がん補助剤を提供する。
【0055】
前記抗がん補助剤は、抗がん剤の抗がん効果を増大させるため、または抗がん剤の副作用を抑制または改善するための全ての形態を意味する。本発明の抗がん補助剤は、様々な種類の抗がん剤または抗がん補助剤と併用投与することができ、併用投与時に通常の抗がん剤の投与量よりも低いレベルで抗がん剤を投与しても同等のレベルの抗がん治療効果を示すことができるので、より安全な抗がん治療を行うことができる。
【0056】
前記抗がん補助剤の投与経路は、目的組織に到達できる限り、いかなる一般的な経路を通じて投与することができる。本発明の抗がん補助剤は、目的に応じて腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、肺内投与、直腸内投与をすることができるが、これらに制限されない。さらに、前記抗がん補助剤は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与することができる。
【0057】
本発明の抗がん補助剤は、投与のために有効成分以外に、追加で薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含めて抗がん補助剤として好ましく製剤化することができる。本発明の抗がん治療補助剤に含まれる担体、賦形剤、又は希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、 カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸塩、プロピルヒドロキシ安息香酸塩、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱物油を含むが、これらに制限されない。
【0058】
本発明の抗がん補助剤は、非経口投与のための製剤である可能性があり、製剤に対する説明は前記薬学的組成物の製剤に対する記載に代わる。
【0059】
また、本技術分野に開示された抗がん補助剤であれば、大きく制限無しに本発明に適用可能である。
【0060】
本発明の一実施例において、前記抗がん剤は、化学療法剤、生物学的治療剤、放射線治療用法、免疫治療用法、ホルモン治療剤、抗血管治療剤、凍結治療剤、毒素治療剤のうち選択される少なくとも1つであり得るが、これらに制限されるものではない。
【0061】
前記目的を達成するためのもう一つの態様として、本発明は、前記組換えワクシニアウイルスを有効成分として含む組成物を個体に投与する段階を含む癌の予防または治療方法を提供する。
【0062】
本発明の用語「癌」、「予防」、および「治療」は前記の通りである。
【0063】
前記個体は哺乳動物であり得、具体的には、人間、牛、羊、ヤギ、馬、豚、犬、猫、ウサギ、ラット、マウス、魚、鳥などであり得るが、これらに制限されない。
【0064】
前記組換えワクシニアウイルスを有効成分として含む組成物は、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、投与経路に応じて、通常の技術者によって適切に投与することができる。前記投与は1日1回または1日数回であり得、適切な周期で繰り返し投与することができる。
【0065】
前記組換えワクシニアウイルスを有効成分として含む組成物の投与量は、個体の状態および体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なり、通常の技術者により適宜選択されることが可能である。具体的には、個体に105乃至約1013pfu(プラーク形成単位)を投与することができ、前記範囲内の多様な数値または範囲を含むことができる。
【0066】
本発明の癌を治療する方法において、前記組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、いかなる一般的な経路を通じても投与することができる。本発明の組成物は特にこれに制限されないが、経口投与、直腸内投与などの経路を通じて投与することができ、場合によっては目的に応じて他の経路でも投与することができる。
【0067】
本発明において、前記癌治療方法は、従来知られている抗がん剤及び抗がん療法との併用投与による治療方法を含む。
【0068】
前記目的を達成するための本発明のもう一つの態様は、癌の予防または治療のための、前記抗がんウイルスまたはそれを含む組成物の使用を提供する。
【0069】
前記目的を達成するための本発明のもう一つの態様は、癌の予防または治療用薬剤の製造のための、前記抗がんウイルスまたはそれを含む組成物の用途を提供する。
【発明の効果】
【0070】
本発明の抗がんウイルスは、静脈注射時にも効能が維持されるため、表在性固形がんの他、様々な固形がん腫、血液がん、及び転移がんの治療にも適用が可能である。また、本発明の抗がんウイルスは、補体調節タンパク質を発現することにより体内補体システムから抵抗性を有し、特に静脈注射時に安定的な抗がん活性を維持するので、前記ウイルスの投与量を減少させて抗がん剤副作用を最小化することができる。したがって、本発明の抗がんウイルスは、癌の予防または治療用として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1図1は、TK遺伝子が欠失し、GM-CSFおよび細胞膜貫通ドメインと融合したCD55が導入された本発明の抗がんウイルスである組換えワクシニアウイルスを図式化したものである。
図2図2は、本発明の組換えワクシニアウイルス(SJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608)で感染させた骨肉腫細胞で、CD55が発現するか否かをFACSで確認した結果である。
図3図3は、本発明の組換えワクシニアウイルス(SJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608)がCD55を発現するか否かをウエスタンブロッティングにより確認した結果である。
図4図4は、20% active human serumで、本発明の組換えワクシニアウイルス(SJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608)の生存率を確認した結果である。
図5図5は、20% active human serumで、本発明の組換えワクシニアウイルス(SJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608)のrecoveryを確認した結果である。
図6図6は、20%および50% active human serumで、JX-594及びSJ-v607の生存率を確認した結果である。
図7図7は、A549肺癌異種移植モデルにおけるJX-594及びSJ-v607の抗腫瘍効能を腫瘍体積変化を通じて確認した結果である。
図8図8は、A549肺癌異種移植モデルに、JX-594及びSJ-v607の投与後、期間経過による体重変化を確認した結果である。
図9図9は、HCT-116大腸がん異種移植モデルにおけるJX-594及びSJ-v607の抗腫瘍効力を腫瘍体積変化を通じて確認した結果である。
図10図10は、HCT-116大腸がん異種移植モデルに、JX-594及びSJ-v607の投与後、期間経過による体重変化を確認した結果である。
【発明の実施のための最善の形態】
【0072】
以下、実施例を通じて本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれによって限定されるものではない。
【0073】
本発明者らは、ヒトGM-CSF及びヒトCD55遺伝子が挿入されたベクターを作製し、前記ベクターとワクシニアウイルスとの相同組換えにより前記遺伝子の発現が誘導された組換えベクシニアウイルスを製造して抗がん物質としての特徴を確認した。
【0074】
製造例1:TKが欠失し、GM-CSF及びCD55を発現する組換えワクシニアウイルスSJ-v601の製造
図1に示すように、ワクシニアウイルス中のワイス菌株にチミジンキナーゼ領域中のJ2R領域を完全に欠失させ、この場にCD55とGM-CSFを挿入した。また、前記CD55をウイルスの外皮膜に発現させるために、hCD55のGPIアンカー領域を削除した遺伝子とワクシニアウイルス膜タンパク質の細胞貫通ドメインと細胞膜ドメインを融合させ、発現のためのプロモーターはpLateを用いた。具体的な過程は以下の通りである。
【0075】
1. hGM-CSFおよびhCD55遺伝子の発現が誘導されたプラスミドベクターの作製
ワクシニアウイルスJ2R領域を欠失させるために、T-bluntTMベクター(Solgent)にJ2R領域左右フランキング領域であるJ1RおよびJ3R遺伝子をNEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEW ENGLAND BioLabs, Catalog No. M5520A)にクローニングした。J1RおよびJ3R DNAは、JX-594(Pexastimogene Devacirepvec、Pexa-Vec、ペクサベック)の当該位置をPCR増幅して使用した。前記J1Rは、ワクシニアウイルスAcamins2000菌株のJ1R(Protein id=AAR17936.1)のアミノ酸1乃至154位置領域と同じであるが、二重アミノ酸118番がアラニン(Alanine)からセリン(Serine)に置換されている。J3R(Protein id = AAR17938.1)はアミノ酸1乃至145位の領域である。このベクターに再びワクシニアウイルス合成初期-後期プロモーターで発現するhGM-CSF(GenBank:M10663.1)とワクシニアウイルス後期プロモーターで発現する補体調節タンパク質hCD55遺伝子(GenBank:NM_000574.3)、そしてワクシニアウイルスD8Lの細胞膜貫通ドメイン領域をクローニングしてシャトルベクターを完成した。使用したhCD55の遺伝子配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1および2に示した。hGM-CSFおよびD8Lの細胞膜貫通ドメイン領域は、JX-594でPCR増幅し、hCD55は、pCMV3プラスミドにクローニングした(Sinobio、Catalog No. HG10101-UT)ベクターでPCR増幅した。GM-CSF(GenBank:M10663.1)は、アミノ酸1乃至145位置領域であり、合成初期-後期プロモーター(aaaaattgaaattttttttttttttggaataaaata、配列番号3、pSEL、ペクサベックでPCR増幅して使用)で発現させた。hCD55(GenBank:NM_000574.3)は、GPIアンカー領域を削除した、アミノ酸1乃至352位置領域であり、発現のためのプロモーターは合成後期プロモーター(ttttttttttttttttttttggcatataaata、配列番号4、pLate、Macrogenに合成依頼)である。hCD55遺伝子の3'endは、ワクシニアウイルスD8Lの細胞膜貫通ドメイン領域と連結してCD55がウイルスの外皮膜に発現するようにし、使用したD8Lの細胞膜貫通ドメイン領域に対する情報および塩基配列は表2及び表3に示した。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
2. 相同組換えによるSJ-v601組換えワクシニアウイルスの製造
SJ-v601組換えワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスワイス菌株と、以前に作製されたhGM-CSFおよびhCD55遺伝子の発現が誘導されたプラスミドベクターとを相同組換え方式で組換えして製造した。
【0079】
野生型ワイス菌株は、JX-594(Pexastimogene Devacirepvec、Pexa-Vec、ペクサベック)の不活性化されたJ2R領域(TK領域)にワクシニアウイルスウエスタンリザーブ(Western Reserve, WR)菌株(ATCC, Catalog No. VR-1354)のJ2R領域遺伝子を挿入して準備した。ウエスタンリザーブ菌株のJ2R(Protein id = YP_232976.1)は、アミノ酸1乃至178の位置領域である。ウエスタンリザーブ菌株のJ2R領域遺伝子はPCRで増幅し、このPCR productとJX-594とを相同組換えして野生型ワイス菌株を完成した。
【0080】
SJ-v601を組換えるために、143B骨肉腫細胞(Creative Bioarray)に前記野生型ワイス菌株を感染させ、hGM-CSFとhCD55を発現するプラスミドベクターを形質注入した。TK領域が欠失した組換えウイルスSJ-v601プラークを選別するために、143B骨肉腫細胞にワクシニアウイルス感染およびプラスミドベクターを形質注入した細胞溶解物をTK欠失選別試薬5-Bromo-2'-deoxyuridine(BrdU)を処理して培養した。選択した組換えウイルスプラークを再び143B細胞で2回追加継代培養し、精製した単一クローンSJ-v601を得た。SJ-v601の組換え部位の塩基配列は、シーケンシングによって最終的に確認した。
【0081】
製造例2:TKが欠失し、hGM-CSF及びCD55を発現する組換えワクシニアウイルスSJ-v604乃至SJ-v608の製造
前記実施例1において、D8Lの細胞膜貫通ドメイン(transmembrane domain)を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で組換えに用いたプラスミドベクターを作製し、他の膜タンパク質の細胞膜貫通ドメインを用いてSJ-v604乃至SJ-v608を製造した。SJ-v604乃至SJ-v608を製造するために使用した細胞膜貫通ドメインに対する情報は下表に示し、それぞれの膜タンパク質の細胞膜貫通ドメイン配列も下表に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5-1】
【表5-2】
【0084】
最後に、前記製造例1及び2で製造したSJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608の構造は下表の通りである。
【0085】
【表6】
【0086】
実施例1:骨肉腫細胞におけるSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608のCD55発現確認
【0087】
前記製造例1及び2で製造した組換えワクシニアウイルスSJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608で骨肉腫細胞であるU-2 OSを感染させ、16時間後にFACS分析を行い、CD55の発現有無を確認した。ポジティブコントロールとしてHeLa細胞を使用し、ネガティブコントロールとしてTKを欠失しGM-CSF及びLac-Zを発現するJX-594(Pexa-vec)を使用した。
【0088】
具体的には、U-2 OSを6-ウェルプレートにウェル当たり4×105 セルでシーディングし、オーバーナイトして培養した。翌日、組換えワクシニアウイルスSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608を、2.5%の熱失活したFBS(heat-inativated FBS)を含むDMEM培地で細胞1個当たり0.5 プラーク形成単位(plaque forming unit、PFU)になるように希釈した。前日に接種したU-2 OS細胞に希釈したウイルスを加え、37℃で16時間感染させた。16時間後、感染した細胞を回収し、PBSで洗浄した後、Fixation/Permeabilization solution(BD, Catalog No. 565388)を処理して細胞固定及び透過を行った。その後、APC蛍光因子と結合した抗hCD55抗体(BioLegend、Catalog No.311312)で染色し、APCの発現をFACS(BD LSR Fortessa)で測定した後、Flowjoソフトウェアで分析した。
【0089】
その結果、図2に示すように、SJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608ウイルスに感染した細胞でCD55が発現することを確認した。
【0090】
また、精製された細胞内成熟ウイルス(IMV、Intracellular mature virus)形態のウイルスを溶解させてウエスタンブロッティングを行った結果、図3に示すように、SJ-v601及びSJ-v604乃至SJ-v608ウイルス自体にCD55が発現したことを確認した。
【0091】
具体的には、組換えワクシニアウイルスSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608をそれぞれHeLa細胞に約40~48時間感染させて増殖させ、感染細胞を遠心分離して培養液を除去した後、細胞溶解緩衝液を添加して細胞を溶解した。細胞溶解物にはBenzonaseを処理して細胞由来のDNAを除去し、セルロースアセテートフィルターで濾過して細胞副産物を除去した。濾液を36% sucrose cushion遠心分離法を用いて濃縮し、精製した組換えワクシニアウイルスを準備した。
【0092】
精製されたウイルスに存在するタンパク質を分離するために、遠心分離したウイルス沈殿物をRIPA lysis buffer(Thermo scientific、Catalog No. 89900)で溶解し、タンパク質の量をBCA protein assay(Thermo scientific、Catalog No. 23227)で定量した。各ウイルスから得たタンパク質はローディングバッファー(Biosesang, Catalog No. S2002)で希釈してlane当り1ugをローディングするように準備し、SDS-PAGE gel(BIO-RAD, Catalog No. 4561083)で電気泳動を行った。電気泳動したgelは再びニトロセルロースメンブレン(BIO-RAD, Catalog No. 1704270)に移した。メンブレンは、目的とするタンパク質の検出のために、5% skim milk(Difco, Catalog No. 232100)で1時間blockingし、抗hCD55抗体(SantaCruz, Catalog No. sc-51733)、抗ワクシニアウイルスA27抗体(beiResources, Catalog) NR-627)、抗β-actin抗体(invitrogen, Catalog No. MA5-15739)と4℃でオーバーナイトして処理した。翌日、メンブレンを1×TSBTで3~4回洗浄し、HRPと結合した二次抗体を処理した後、ヒドロゲンペルオキシドとルミノールサブストレートを処理し、化学発光を検出器で確認した。
【0093】
実施例2:血清におけるSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608の血清安定性の確認
ウイルス外皮膜に発現したCD55が血液中に存在する補体を調節するかを確認するために、in vitro POCで血清での安定性を測定した。具体的には、補体機能が生きているヒトの血清(20% active human serum)をウイルスと混合してプラークアッセイ(plaque assay)を行った。
【0094】
具体的には、U-2 OS骨肉腫細胞を12-ウェルティッシュカルチャープレート(tissue culture plate)にウェル当たり2.5×105 セルでシーディングし、オーバーナイトして培養した。翌日、細胞がほぼ100%培養密度(confluency)になった時、組換えワクシニアウイルスSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608を、血清を含まないDMEM培地で希釈し、1ウェル当り約100 PFUになるように希釈した。希釈したウイルスに再びヒト血清を全体用量の20%になるように添加し、U-2 OS細胞が培養されたプレートに2時間処理した。対照群は、ヒト血清の代わりに血清を含まないDMEM培地を使用した。2時間後、ウイルスを12-ウェルプレートから除去し、1.5%カルボキシメチルセルロース溶液を処理した。12-ウェルプレートを37℃で72時間培養し、形成されたプラークを0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色して計数した。血清を含まない場合に生成されたプラーク数を100%とした時、ヒト血清を20%処理して培養した各組換えウイルスで生成されたプラーク数の割合は図4と同じである。同じ結果を、hCD55を発現しない対照群ウイルスJX-594で生成されたプラーク数を100%として比較したときの結果は図5と同じである。
【0095】
その結果、図4及び図5に示すように、本発明によるSJ-v600シリーズウイルスの生存率が対照群であるJX-594に比べて高く現れたことを確認した。例えば、JX-594は、28%のプラークしか残っていない反面、最も高い生存率を見せたSJ-v607の場合は76%の生存率を示した。
【0096】
実施例3:血清におけるSJ-v607の血清安定性の確認
ウイルス外皮膜に発現したCD55が血液中に存在する補体を調節するかを確認するために、in vitro POCで血清での安定性を測定した。具体的には、補体機能が生きているヒトの血清(20%~50% active human serum)をウイルスと混合してプラークアッセイ(plaque assay)を行った。
【0097】
U-2 OS骨肉腫細胞を12-ウェルティッシュカルチャープレート(tissue culture plate)にウェル当たり2.5×105 セルでシーディングし、オーバーナイトして培養した。翌日、細胞がほぼ100%培養密度(confluency)になった時、組換えワクシニアウイルスSJ-v601およびSJ-v604乃至SJ-v608を、血清を含まないDMEM培地で希釈し、1ウェル当り約100 PFUになるように希釈した。希釈したウイルスに再びヒト血清を全体用量の20%~50%になるように添加し、U-2 OS細胞が培養されたプレートに2時間処理した。対照群は、熱失活(heat-inactivation)して血清中の補体を不活性化した50%ヒト血清を使用した。2時間後、ウイルスを12-ウェルプレートから除去し、1.5%カルボキシメチルセルロース溶液を処理した。12-ウェルプレートを37℃で72時間培養し、形成されたプラークを0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色して計数した。50% 熱失活(heat-inactivation)されたヒト血清対照群で生成されたプラーク数を100%とした時、ヒト血清を20%~50%処理して培養した各組換えウイルスで生成されたプラーク数の割合は、図6と同じである。
【0098】
対照群JX-594と本発明の組換えワクシニアウイルスであるSJ-v607を20%および50%の血清で生存率を測定した結果、SJ-v607の生存率がより高く、50%血清より20%血清で生存率が高いことが確認された(図6)。
【0099】
実施例4:肺癌移植モデルにおける抗腫瘍効果の評価
A549ヒト肺癌細胞をNSG免疫不全マウスの片側脇腹に2×106 個の皮下注射して異種移植マウス腫瘍モデルを確立した。腫瘍の大きさが約120 mm3に達したとき、SJ-v607または対照群であるJX-594を静脈注射で単回投与し、腫瘍成長抑制効果を比較した。SJ-v607およびJX-594は、それぞれ低濃度(1×106 pfu)または高濃度(5 x 106 pfu)で投与した。
【0100】
腫瘍の大きさは、すべてのグループで週に2~3回カリバスを用いて長軸と短軸を測定した。腫瘍の大きさは(短軸×短軸×長軸)÷2で算出した。また、マウスの体重を評価するために、毎回、腫瘍の大きさを測定する時点ごとに重量を測定した。腫瘍の大きさが1,500~2,000mm3以上に達したときに実験を終了した。
【0101】
その結果、図7に示すように、本発明の組換えワクシニアウイルスであるSJ-v607を投与した場合、対照群であるJX-594に比べて腫瘍の大きさが小さく、約24日(ウイルス注射後6日)が過ぎた後からJX-594とは異なり、腫瘍の大きさが減少することが示されており、SJ-v607を高濃度投与(5×106 pfu)した場合、低濃度投与(1×106 pfu)に比べて腫瘍の大きさがより小さいことが示され、本発明の組換えワクシニアウイルスが著しく優れた抗腫瘍効果を有することを確認した。さらに、抗がん剤を投与していない対照群に比べて抗がんウイルスを投与した場合には一時的な体重減少があったが、すぐに回復し、腫瘍の大きさの減少に伴い体重も正常範囲を維持した(図8)。
【0102】
実施例5:大腸がん移植モデルにおける抗腫瘍効能の評価
HCT-116ヒト大腸癌細胞をNSG免疫不全マウスの片方の脇腹に5×105個の皮下注射して異種移植マウス腫瘍モデルを確立した。腫瘍の大きさが約120 mm3に達したとき、SJ-v607または対照であるJX-594を5×106 pfuで静脈注射(単回投与)し、腫瘍成長抑制効能を比較した。腫瘍の大きさは、すべてのグループで週に2~3回カリパスを用いて長軸と短軸を測定した。腫瘍の大きさは(短軸×短軸×長軸)÷2で算出した。また、マウスの体重を評価するために、毎回、腫瘍の大きさを測定する時点ごとに重量を測定した。腫瘍の大きさが1,500~2,000mm以上に達したときに実験を終了した。
【0103】
その結果、図9に示すように、本発明の組換えワクシニアウイルスであるSJ-v607を投与した場合、対照群であるJX-594に比べて投与後の全期間で腫瘍の大きさがより小さいことが示され、顕著に優れた抗腫瘍効果を示すことを確認した。さらに、抗がん剤を投与していない対照群に比べて抗がんウイルスを投与した場合には一時的な体重減少があったが、すぐに回復し、腫瘍の大きさの減少に伴い体重も正常範囲を維持した(図10)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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