(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】樹脂容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/22 20060101AFI20250210BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
B29C49/22
B65D1/00 111
B65D1/00 120
(21)【出願番号】P 2024089233
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524208489
【氏名又は名称】幸生樹脂工業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183575
【氏名又は名称】老田 政憲
(72)【発明者】
【氏名】東 忠生
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-008355(JP,A)
【文献】特開平06-270355(JP,A)
【文献】特開平11-348105(JP,A)
【文献】特開平08-309836(JP,A)
【文献】特開平09-155960(JP,A)
【文献】特公昭59-026469(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00-49/80
B65D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層ダイレクトブロー成形装置により、第1樹脂からなる外層と第2樹脂からなる内層とを含む多層構造の樹脂容器を製造する方法であって、
前記多層ダイレクトブロー成形装置のヘッドから、溶融状態の前記第1樹脂である第1溶融樹脂と、溶融状態の前記第2樹脂である第2溶融樹脂とを積層状態で吐出して多層のパリソンを形成する工程と、
前記多層のパリソンを加圧してブロー成形する工程とを含み、
前記第1樹脂のMFR値は、前記第2樹脂のMFR値よりも大きく、且つ、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、
前記パリソンの形成工程では、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の温度を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の温度よりも低い温度であって180℃以上且つ220℃以下に設定すると共に、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の圧力を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の圧力よりも低い圧力であって4MPa以上且つ9MPa以下に設定することにより、前記第1溶融樹脂及び前記第2溶融樹脂が互いに積層された前記多層のパリソンを形成する、樹脂容器の製造方法。
【請求項2】
多層ダイレクトブロー成形装置により、第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層と、前記外層及び前記内層の間に介在されて第3樹脂からなる接着層とを含む多層構造の樹脂容器を製造する方法であって、
前記多層ダイレクトブロー成形装置のヘッドから、溶融状態の前記第1樹脂である第1溶融樹脂と、溶融状態の前記第2樹脂である第2溶融樹脂と、溶融状態の前記第3樹脂である第3溶融樹脂とを積層状態で吐出して多層のパリソンを形成する工程と、
前記多層のパリソンを加圧してブロー成形する工程とを含み、
前記第1樹脂のMFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、
前記第2樹脂のIV値は、0.7以上且つ1.2以下であり、
前記第3樹脂のMFR値は、0.7g/10min以上且つ
2.6g/10min以下であり、
前記パリソンの形成工程では、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の温度を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の温度よりも低い温度であって180℃以上且つ220℃以下に設定すると共に、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の圧力を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の圧力よりも低い圧力であって4MPa以上且つ9MPa以下に設定することにより、前記第1溶融樹脂、前記第2溶融樹脂及び前記第3溶融樹脂が互いに積層された前記多層のパリソンを形成する、樹脂容器の製造方法。
【請求項3】
第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層とを含む多層の樹脂層を有し、多層ダイレクトブロー成形された樹脂容器であって、
前記第1樹脂は、マット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であり、
前記第1樹脂のMFR値は、前記第2樹脂のMFR値よりも大きく、且つ、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、
前記第1樹脂が、当該樹脂容器の外表面の全体に亘って形成されている、樹脂容器。
【請求項4】
第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層と、前記外層及び前記内層の間に介在されて第3樹脂からなる接着層とを含む多層の樹脂層を有し、多層ダイレクトブロー成形された樹脂容器であって、
前記第1樹脂は、マット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であり、
前記第1樹脂のMFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、
前記第2樹脂のIV値は、0.7以上且つ1.2以下であり、
前記第3樹脂のMFR値は、0.7g/10min以上且つ
2.6g/10min以下であり、
前記第1樹脂が、当該樹脂容器の外表面の全体に亘って形成されている、樹脂容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ダイレクトブロー成形された多層構造を有する樹脂容器、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂材料により成形された樹脂容器は、例えば化粧品容器や食品容器等として広く使用されている。この種の樹脂容器は、多層ダイレクトブロー成形によって製造することが可能である。そのことにより、外観の質感を高めるための外層や、酸素の透過を防ぐバリア層等の複数の樹脂層を含む多層構造を備えた付加価値の高い樹脂容器を得ることができる。
【0003】
例えば特許文献1には、熱可塑性合成樹脂をダイレクトブロー成型する多層構造の容器において、多層構造樹脂容器の全ての層にダイレクトブロー成形できるポリエチレンテレフタレート樹脂を用いると共に、当核最外層部の透明ポリエチレンテレフタレート樹脂層に光輝性顔料を配合した樹脂を用いた多層構造樹脂容器が記載されている。このような多層構造によって、光沢がある外観や特性が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、外層に適用したい機能を有する樹脂材料があっても、そのMFR値が低過ぎる場合(例えばインジェクション成形用の樹脂材料等)、通常は、パリソンを形成できないので、当該樹脂材料を多層ダイレクトブロー成形に使用することはできない。
【0006】
これに対し、ブロー成形した樹脂容器本体の表面に塗装を施すことによって、所望の外観を得ることも知られている。例えば、化粧品容器等において、光沢が抑えられたマット調の外観とするニーズがある。そこで、例えばポリプロピレン等をダイレクトブロー成形して樹脂容器本体を作製し、その樹脂容器本体に所定の塗料を吹き付けることによって、マット調の外観(塗膜)を有する樹脂容器を製造できる。
【0007】
しかしながら、上記従来のように外層を塗装によって形成する方法では、ブロー成形の工程と、塗装工程の2工程が必要であるため、製造コストが嵩むことが避けられない。しかも、塗装工程は、クリーンルーム内で樹脂容器本体に塗料を噴霧することから、大量の塗料が必要であって環境負荷が大きいという問題がある。また、塗装工程では塗装ムラが生じやすく、ブロー成形の工程で問題がない良品であっても塗装工程において不良品になる場合があり、製品の歩留まりが悪いという問題もある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主たる目的とするところは、MFR値が比較的大きい樹脂材料からなる外層を含みながらも、多層ダイレクトブロー成形が可能である樹脂容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る樹脂容器の製造方法は、多層ダイレクトブロー成形装置により、第1樹脂からなる外層と第2樹脂からなる内層とを含む多層構造の樹脂容器を製造する方法であって、前記多層ダイレクトブロー成形装置のヘッドから、溶融状態の前記第1樹脂である第1溶融樹脂と、溶融状態の前記第2樹脂である第2溶融樹脂とを積層状態で吐出して多層のパリソンを形成する工程と、前記多層のパリソンを加圧してブロー成形する工程とを含み、前記第1樹脂のMFR値は、前記第2樹脂のMFR値よりも大きく、且つ、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、前記パリソンの形成工程では、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の温度を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の温度よりも低い温度であって180℃以上且つ220℃以下に設定すると共に、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の圧力を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の圧力よりも低い圧力であって4MPa以上且つ9MPa以下に設定することにより、前記第1溶融樹脂及び前記第2溶融樹脂が互いに積層された前記多層のパリソンを形成する。
【0010】
上記の方法によれば、外層のMFR値が、内層のMFR値よりも大きくて且つ4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、外層の第1溶融樹脂が単独ではパリソンを形成できないような場合であっても、装置のヘッドから吐出される第1及び第2溶融樹脂の温度と圧力を上記の通り設定することによって、第1溶融樹脂を第2溶融樹脂と一体的に流下させることができ、多層状態のパリソンを適切に形成できるということを、本発明者は見出したのである。その結果、単独ではパリソンを形成できないような第1溶融樹脂を外層に含む多層構造の樹脂容器をダイレクトブロー成形できることとなる。
また、単独ではパリソンを形成できないような樹脂材料を外層に用いることができ、種々の機能を有する樹脂材料を外層に適用することが可能である。しかも、外層及び内層が多層ダイレクトブロー成形された構造であるため、外層が塗膜である場合に比べて、耐溶媒性及び耐衝撃性が高い樹脂容器とすることができるのである。
【0011】
また、本発明に係る樹脂容器の製造方法は、多層ダイレクトブロー成形装置により、第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層と、前記外層及び前記内層の間に介在されて第3樹脂からなる接着層とを含む多層構造の樹脂容器を製造する方法であって、前記多層ダイレクトブロー成形装置のヘッドから、溶融状態の前記第1樹脂である第1溶融樹脂と、溶融状態の前記第2樹脂である第2溶融樹脂と、溶融状態の前記第3樹脂である第3溶融樹脂とを積層状態で吐出して多層のパリソンを形成する工程と、前記多層のパリソンを加圧してブロー成形する工程とを含み、前記第1樹脂のMFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、前記第2樹脂のIV値は、0.7以上且つ1.2以下であり、前記第3樹脂のMFR値は、0.7g/10min以上且つ2.6g/10min以下であり、前記パリソンの形成工程では、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の温度を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の温度よりも低い温度であって180℃以上且つ220℃以下に設定すると共に、前記ヘッドから吐出される前記第1溶融樹脂の圧力を、当該ヘッドから吐出される前記第2溶融樹脂の圧力よりも低い圧力であって4MPa以上且つ9MPa以下に設定することにより、前記第1溶融樹脂、前記第2溶融樹脂及び前記第3溶融樹脂が互いに積層された前記多層のパリソンを形成する。
【0012】
本発明に係る樹脂容器は、第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層とを含む多層の樹脂層を有し、多層ダイレクトブロー成形された樹脂容器であって、前記第1樹脂は、マット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であり、前記第1樹脂のMFR値は、前記第2樹脂のMFR値よりも大きく、且つ、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、前記第1樹脂が、当該樹脂容器の外表面の全体に亘って形成されている。
【0013】
上記の構成によれば、単独ではパリソンを形成できないような樹脂材料を外層に用いることができ、当該樹脂容器の外表面の全体をマット調の外観としながらも、高い耐溶媒性と高い耐衝撃性とを備えた樹脂容器とすることができる。
【0014】
また、本発明に係る樹脂容器は、第1樹脂からなる外層と、第2樹脂からなる内層と、前記外層及び前記内層の間に介在されて第3樹脂からなる接着層とを含む多層の樹脂層を有し、多層ダイレクトブロー成形された樹脂容器であって、前記第1樹脂は、マット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であり、前記第1樹脂のMFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下であり、前記第2樹脂のIV値は、0.7以上且つ1.2以下であり、前記第3樹脂のMFR値は、0.7g/10min以上且つ2.6g/10min以下であり、前記第1樹脂が、当該樹脂容器の外表面の全体に亘って形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、MFR値が比較的大きい樹脂材料を含みながらも、多層ダイレクトブロー成形が可能である樹脂容器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態1における樹脂容器の外観を示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1における側壁部分Aの縦断面を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態1における樹脂容器の製造条件を示す表である。
【
図4】
図4は、参考例のパリソンを示す説明図である。
【
図5】
図5は、従来の塗装工程を含む樹脂容器の製造方法を示す説明図である。
【
図6】
図6は、本実施形態2における樹脂容器の縦断面を示す
図2相当図である。
【
図7】
図7は、本実施形態2における樹脂容器の製造条件を示す表である。
【
図8】
図8は、実施例のエタノール浸漬後の表面を示す顕微鏡画像である。
【
図9】
図9は、比較例のエタノール浸漬後の表面を示す顕微鏡画像である。
【
図10】
図10は実施例の表面における圧痕近傍を示す顕微鏡画像である。
【
図11】
図11は比較例の表面における圧痕近傍を示す顕微鏡画像である。
【
図12】
図12は比較例の表面における圧痕近傍を示す顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
《実施形態1》
図1は、本実施形態1における樹脂容器1の外観を示す正面図である。
図2は、
図1における側壁部分Aの縦断面を拡大して示す断面図である。
【0018】
本実施形態1における樹脂容器1は、多層ダイレクトブロー成形された樹脂容器1であって、例えば化粧品容器に好適である。尚、樹脂容器1は、化粧品容器に限らず、例えば飲料容器、食品容器及び薬品容器、その他の樹脂容器として広く適用できる。また、本明細書において「多層」とは、2層以上の層をいう。
【0019】
図2に示すように、樹脂容器1は、外層11及び内層12を含む多層の樹脂層を有する。本実施形態1では、一例として、外層11及び内層12からなる2層の樹脂層を有する樹脂容器1について説明する。
【0020】
尚、本発明は3層以上の樹脂層を有する樹脂容器についても同様に適用することができ、例えば、本実施形態1における外層11及び内層12の間に接着層が介在された3層構造であってもよい。
【0021】
図1に示すように、樹脂容器1は、中空の容器本体5と、容器本体5の上部に連続して一体形成された筒状のネック部6とを有する。図示を省略するが、ネック部6は雄ネジ状の外周面を有し、別部品であるキャップ(図示省略)によって閉塞されるようになっている。
【0022】
本実施形態1の内層12は、ポリプロピレン樹脂(PP)によって構成されおり、例えば樹脂層全体の例えば80%以上且つ85%以下の厚みを占める。よって、内層12は、厚みが比較的大きい樹脂容器1のベース層となっている。内層12は、所望の色を呈する顔料を含んでいてもよい。一方、外層11を構成する樹脂材料は、マット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂である。外層11は、樹脂層全体の例えば15%以上且つ20%以下の厚みを占める。このように、外層11の厚みは、内層12の厚みよりも薄い。
【0023】
また、外層11は、容器本体5からネック部6に亘る樹脂容器1の外表面における全体に亘って形成されている。そのことにより、樹脂容器1の外表面全体がマット調を呈している。
【0024】
外層11を構成する樹脂材料は、内層12を構成する樹脂材料よりも低い溶融粘度を有している。
図3にも示すように、内層12のMFR(メルトマスフローレート)値が0.75g/10min以上であるのに対し、外層11のMFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下である。したがって、内層12は、単体であってもダイレクトブロー成形が可能である一方、外層11は、単体ではダイレクトブロー成形に適さない溶融粘度を有する。しかしながら、後述するように、本実施形態1では、所定の条件で成形することにより、外層11の溶融粘度が単体ではダイレクトブロー成形に適さない場合であっても、多層ダイレクトブロー成形により樹脂容器1を製造することができる。
【0025】
次に、多層ダイレクトブロー成形装置を使用して、上記外層11及び内層12を含む多層構造の樹脂容器1を製造する方法について説明する。ここで、
図3は、本実施形態1における樹脂容器1の製造条件を示す表である。
図4は、参考例のパリソンを示す説明図である。
【0026】
外層11及び内層12からなる2層構造の樹脂容器1を製造する場合、まず、多層ダイレクトブロー成形装置から吐出される第1溶融樹脂21及び第2溶融樹脂22について、第1溶融樹脂21を、第2溶融樹脂22よりも溶融粘度が低いものを選択する。ここで、第1溶融樹脂21は外層11となるマット調を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であり、上述のように、MFR値は、4g/10min以上且つ6g/10min以下である。一方、第2溶融樹脂22は内層12となるポリプロピレン樹脂であり、MFR(メルトフローレート)値が0.75g/10min以上である。
【0027】
続いて、マット調の外層11となるポリプロピレン樹脂のペレットを加熱溶融するとともに、ベース層の内層12となるポリプロピレン樹脂のペレットを加熱溶融する。さらに、外層11又は内層12となる各溶融樹脂21,22をそれぞれスクリューにより加圧しながら搬送し、装置のヘッドにおいて積層状態となるように合流させて吐出する。
【0028】
このとき、第1溶融樹脂21の温度を第2溶融樹脂22の温度よりも低く設定する。第1溶融樹脂21の温度は、例えば180度以上且つ220度以下とする。
図3の表に示すように、第1溶融樹脂21の温度は、185度以上且つ195度以下とすることがさらに好ましい。一方、第2溶融樹脂22の温度は、例えば195度以上且つ210度以下とする。
【0029】
さらに、第1溶融樹脂21の圧力を第2溶融樹脂22の圧力よりも低く設定する。例えば、
図3の表に示すように、第1溶融樹脂21の圧力は、例えば4.0MPa以上且つ9.0MPa以下とする。一方、第2溶融樹脂22の圧力は、例えば20MPa以上且つ35MPa以下とする。
【0030】
そのことにより、多層ダイレクトブロー成形装置から吐出される第1溶融樹脂21及び第2溶融樹脂22を、互いに積層した状態のパリソンとして形成する。続いて、その多層構造のパリソンを加圧し、第1溶融樹脂21が硬化した外層11と、第2溶融樹脂22が硬化した内層12とを含む多層の樹脂容器1を製造する。
【0031】
ここで、MFR値が4g/10min以上且つ6g/10min以下である樹脂材料は、溶融粘度が低過ぎて(つまり、流動性が高すぎて)、単層でパリソンを形成することが特に困難である。しかしながら、本実施形態1によれば、このようなMFR値を有する樹脂材料を外層11として含む場合であっても、外層11となる第1溶融樹脂21の温度を、内層12となる第2溶融樹脂22の温度よりも低くして適切な条件設定をすることにより、多層ダイレクトブロー成形することが可能になる。
【0032】
例えば、もし第1溶融樹脂21の温度が、第2溶融樹脂22の温度よりも高くて220度より高い場合、
図4に矢印21で示すように、第1溶融樹脂21は、第2溶融樹脂22(12)に対して相対的に流下してしまう。したがって、第1溶融樹脂21及び第2溶融樹脂22が積層状態にならないので、多層構造のパリソンを形成できない。
【0033】
これに対し、本実施形態1によれば、第1溶融樹脂21の溶融粘度が第2溶融樹脂22の溶融粘度よりも低くて、第1溶融樹脂21が単独ではパリソンを形成できないような場合であっても、第1溶融樹脂21の温度を第2溶融樹脂22の温度よりも低く設定し、特に、第1溶融樹脂21の温度を180度以上且つ220度以下とすることによって、第1溶融樹脂21を第2溶融樹脂22と一体的に吐出口から流下させることが可能になる。これは、第1溶融樹脂21が第2溶融樹脂22から受ける摩擦抵抗の影響が大きくなるためであると考えられる。
【0034】
また、仮に第1溶融樹脂21の圧力が4.0MPaよりも低ければ、第1溶融樹脂21が第2溶融樹脂22に積層された状態でパリソンを形成することは難しい。したがって、第1溶融樹脂21の圧力を第2溶融樹脂22の圧力よりも低くなるように設定し、特に、第1溶融樹脂21の圧力を4.0MPa以上且つ9.0MPa以下とし、且つ第2溶融樹脂22の圧力を20MPa以上且つ35MPa以下に設定することが好ましい。そのことにより、第1溶融樹脂21を成形可能状態で安定して第2溶融樹脂22と一体に流下させ、積層状態のパリソンをより一層適切に形成できる。
【0035】
したがって、本実施形態1によれば、外層11が、マット調を発現する添加剤を含むポリプロピレン樹脂のように、溶融粘度が比較的低くて本来はダイレクトブロー成形に不向きな樹脂材料であっても、当該外層11と内層12とが積層構造となった樹脂容器1を多層ダイレクトブロー成形することができるのである。
【0036】
さらに、本実施形態1によれば、従来は内層のブロー成形工程と外層の塗装工程との2程が必要であった樹脂容器を、1工程のブロー成形で製造できるようにしたので、製造コストを飛躍的に低下させることができる。しかも、大量の塗料が必要になる塗装工程が不要であることから、環境負荷を少なく抑えながらも樹脂容器1を製造できる上、ブロー整形自体に問題がなくても塗装ムラのために不良品が発生してしまうといった無駄も無くすことができるという顕著な効果を奏する。
【0037】
ここで、
図5は、従来の塗装工程を含む樹脂容器の製造方法を示す説明図である。従来の塗装工程では、ブロー成形した容器本体105を上下反転し、ネック部106に治具110を外嵌合して装着させる。この状態で、塗料111を噴霧して容器本体105に塗膜107を形成する。したがって、完成した樹脂容器100は、そのネック部106の少なくとも一部に塗膜(外層)107を形成することができない。
【0038】
これに対し、本実施形態1の樹脂容器1では、多層ダイレクトブロー成形によって製造するので、樹脂容器1の全体に亘ってマット状の外層11を形成でき、良好な外観を得ることができる。
《実施形態2》
【0039】
次に、本発明の実施形態2について説明する。尚、以降の実施形態では、上記実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。ここで、
図6は、本実施形態2における樹脂容器1の縦断面を示す
図2相当図である。
図7は、本実施形態2における樹脂容器1の製造条件を示す表である。
【0040】
上記実施形態1では、外層11及び内層12の2層からなる多層構造の樹脂容器1及びその製造方法について説明したが、本実施形態2は、樹脂層が3層構造である樹脂容器1に関するものである。
【0041】
すなわち、
図6に示すように、樹脂容器1は、外層11と、内層12と、外層11及び内層12の間に設けられた接着層13とを有している。接着層13は、外層11と内層12とを互いに剥離しないように接着するものである。
【0042】
本実施形態2の内層12は、ポリエチレンテレフタラート(PET)によって構成されおり、例えば樹脂層全体の例えば約80%の厚みを占めており、樹脂容器1のベース層となっている。内層12は、透明であってもよく、所望の色を呈する顔料を含んでいてもよい。
【0043】
外層11を構成する樹脂材料は、上記実施形態1と同じくマット調の外観を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂である。外層11は、樹脂層全体の約15%の厚みを占める。接着層13は、樹脂層全体の約5%の厚みを占める。このように、外層11の厚みは、内層12の厚みよりも薄く、外層11よりも内側の層(つまり、接着層13及び内層12)の厚みよりも薄い。
【0044】
外層11を構成する樹脂材料は、内層12を構成する樹脂材料よりも低い溶融粘度を有する。
図7にも示すように、内層12(PET)のIV値は、0.7以上且つ1.2以下であり、外層11のMFR値は、上記実施形態1と同じく、4g/10min以上且つ6g/10min以下である。したがって、内層12は、単体であってもダイレクトブロー成形が可能である一方、外層11は、単体ではダイレクトブロー成形に適さない溶融粘度を有する。
次に、多層ダイレクトブロー成形装置を使用して、上記外層11、内層12及び接着層13を含む多層構造の樹脂容器1を製造する方法について説明する。
【0045】
上記実施形態1と同様に、第1溶融樹脂21を、第2溶融樹脂(PET)22よりも溶融粘度が低いものを選択する。第1溶融樹脂21は外層11となるマット調を発現する添加剤が配合されたポリプロピレン樹脂であって、上記実施形態1と同じである。接着層13のMFR値は、
図7の表に示すように、0.7g/10min以上且つ2.6g/10min以下である。
【0046】
続いて、外層11、内層12又は接着層13となる樹脂ペレットを加熱溶融し、それぞれ加圧しながら搬送し、装置のヘッドにおいて積層状態となるように合流させて吐出する。
【0047】
このとき、第1溶融樹脂21の温度を、構成する第2溶融樹脂(PET)22の温度よりも低く設定する。第1溶融樹脂21の温度設定は、上記実施形態1と同じであって、例えば180度以上且つ220度以下(好ましくは、185度以上且つ195度以下)である。一方、第2溶融樹脂(PET)22の温度は、例えば195度以上且つ210度以下とする。接着層13となる第3溶融樹脂23の温度も、同じく例えば195度以上且つ210度以下とする。
【0048】
さらに、第1溶融樹脂21の圧力を第2溶融樹脂(PET)22の圧力よりも低く設定する。例えば、
図7の表に示すように、第1溶融樹脂21の圧力は、上記実施形態1と同じであって、例えば4.0MPa以上且つ9.0MPa以下とする。一方、第2溶融樹脂(PET)22の圧力は、例えば18MPa以上且つ28MPa以下とする。また、接着層13となる第3溶融樹脂の圧力は、例えば10MPa以上且つ20MPa以下とする。
【0049】
そのことにより、多層ダイレクトブロー成形装置から吐出される第1~第3溶融樹脂を、互いに積層した状態のパリソンとして形成する。続いて、その多層構造のパリソンを加圧し、第1溶融樹脂21が硬化した外層11と、第2溶融樹脂(PET)22が硬化した内層12と、第3溶融樹脂23が硬化した接着層13とを含む多層の樹脂容器1を製造する。
【0050】
本実施形態2によっても、上記実施形態1と同様に、溶融粘度が低くて流動性が高い外層11を含む樹脂容器1を多層ダイレクトブロー成形することができる。すなわち、外層11よりも内側の層である内層12(及び接着層13)については、それ自体ブロー成形が可能であり、外層11となる第1溶融樹脂21の温度を、内層12となる第2溶融樹脂(PET)22の温度よりも低くして適切な条件設定をする。接着層13となる第3溶融樹脂23についても、第2溶融樹脂22と同じ温度条件に設定する。そのことにより、吐出口から一体に流下する第2溶融樹脂(PET)22及び第3溶融樹脂23から第1溶融樹脂21が受ける摩擦抵抗の影響が大きくなって、これら3層のパリソンを形成できるものと考えられる。
【0051】
また、第1溶融樹脂21の圧力を第2溶融樹脂(PET)22の圧力よりも低くなるように設定し、特に、第1溶融樹脂21の圧力を4.0MPa以上且つ9.0MPa以下とし、且つ第2溶融樹脂(PET)22の圧力を18MPa以上且つ28MPa以下に設定する。第3溶融樹脂23の圧力についても、10MPa以上且つ20MPa以下として第1溶融樹脂21の圧力の方が低くなるように設定する。そのことにより、第1溶融樹脂21を成形可能状態で安定して第2溶融樹脂(PET)22及び第3溶融樹脂23と一体に流下させ、積層状態のパリソンをより一層適切に形成できる。
したがって、本実施形態2によっても、上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、本実施形態1及び2において製造された樹脂容器1は、内層12よりも低い溶融粘度を有する樹脂材料を外層11に用いることにより、種々の機能を有する樹脂材料を外層11に適用することが可能である。しかも、外層11及び内層12が多層ダイレクトブロー成形された構造であるため、外層11が塗膜である場合に比べて、耐溶媒性及び強度が高い樹脂容器とすることができる。
【0053】
ここで、本発明の実施例について説明する。多層ダイレクトブロー成形によりマット状の外層11を形成した樹脂容器の実施例と、塗膜からなる外層を有する樹脂容器の比較例に対して、以下の実験を行った。ここで、実施例は、PETからなる内層12と、接着層13と、マット調のPPからなる外層11とを有する樹脂容器である。比較例は、PETからなる内層と、マット調の塗膜からなる外層とを有する樹脂容器である。なお、実施例及び比較例の樹脂容器の表面には、それぞれ装飾用の印刷が施されている。
(実施例1)
【0054】
実施例1では、耐溶媒性の比較実験を行った。実施例及び比較例の樹脂容器をエタノールと、アセトンにそれぞれ浸漬し、一定時間後に取り出して、目視及び共焦点顕微鏡で観察した。
図8及び
図9は、それぞれ実施例及び比較例におけるエタノール浸漬後の表面を示す顕微鏡画像である。
【0055】
エタノールに浸漬したものでは、目視では両者に目立った差異はみられなかった。さらに、共焦点顕微鏡で観察した結果、実施例の表面にクラックは確認されなかった(
図8参照)。一方、比較例には、多数の細かいクラックが生じていることが確認された(
図9参照)。
次に、アセトンに浸漬したものでは、目視により、比較例における表面の白化が確認された。一方、実施例に白化はみられなかった。
したがって、これらの結果より、実施例による樹脂容器1は比較例に比べて高い耐溶媒性を有することを確認できた。
(実施例2)
【0056】
実施例1では、表面強度の比較実験を行った。実施例及び比較例の樹脂容器表面に対し、ロックウェル試験機によって60kgfの点荷重を加えた結果を観察した。
図10は実施例の表面における圧痕近傍を示す顕微鏡画像である。
図11及び
図12は比較例の表面における圧痕近傍を示す顕微鏡画像である。
【0057】
共焦点顕微鏡で観察した結果、実施例の表面における圧痕近傍には、クラックは見られなかった(
図10参照)。一方、比較例の表面における圧痕近傍には、比較的大きいクラック(
図11参照)と、細かい多数のクラック(
図12参照)とが確認された。特に細かい多数のクラックは比較的進展しやすく、耐衝撃性の低下に繋がるものと考えられる。
したがって、これらの結果より、実施例による樹脂容器1は比較例に比べて高い表面強度を有することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明は、多層ダイレクトブロー成形された多層構造を有する樹脂容器、及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 樹脂容器
11 外層
12 内層
13 接着層
21 第1溶融樹脂
22 第2溶融樹脂
23 第3溶融樹脂
【要約】 (修正有)
【課題】溶融粘度が比較的低い樹脂材料を含みながらも、多層ダイレクトブロー成形が可能である樹脂容器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多層ダイレクトブロー成形装置から吐出される第1溶融樹脂及び第2溶融樹脂について、第1溶融樹脂を第2溶融樹脂よりも溶融粘度が低いものとする。次いで、第1溶融樹脂の温度を第2溶融樹脂の温度よりも低く設定することにより、多層ダイレクトブロー成形装置から吐出される第1溶融樹脂及び第2溶融樹脂を積層状態としてパリソンを形成する。そうして、第1溶融樹脂が硬化した外層と、第2溶融樹脂が硬化した内層とを含む多層の前記樹脂容器1を製造する。
【選択図】
図1