(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】水位予測システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
(21)【出願番号】P 2024182564
(22)【出願日】2024-10-18
【審査請求日】2024-11-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本気象学会、2023年日本気象学会秋季大会講演予稿集B469、令和5年10月19日 公益社団法人日本気象学会、2023年日本気象学会秋季大会、令和5年10月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511145568
【氏名又は名称】村田 修
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 康郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 則昭
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 光男
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-050903(JP,A)
【文献】特開2024-080066(JP,A)
【文献】特開2023-143296(JP,A)
【文献】特開2000-276235(JP,A)
【文献】特開2021-140536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104392111(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の予測地点での未来の水位を予測する水位予測システムであって、
前記予測地点に対する集水域の未来の降雨量を取得する降雨量取得部と、
前記降雨量を入力、前記河川の前記予測地点での水位を出力とする一次遅れ系のパラメータを記憶する記憶部と、
前記降雨量取得部により取得した前記降雨量を入力とし、前記記憶部に記憶された前記一次遅れ系のパラメータを用いて、前記一次遅れ系から、前記河川の前記予測地点での予測水位を算出する水位予測部と、を有し、
前記一次遅れ系の時定数は、前記河川の前記予測地点での水位に応じて設定されている、水位予測システム。
【請求項2】
前記遅れ系における時定数は、雨が止んだ後の前記河川の前記予測地点での水位を測定し、その測定した水位の低下特性に基づき設定されている、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項3】
前記降雨量取得部は、気象庁の降雨予報データを前記降雨量として取得する、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項4】
前記水位予測部は、前記気象庁の降雨予報データについて時間的に等間隔にし、値を平滑化したデータに変換し、そのデータを単位時間当たりの前記降雨量として用いる、請求項3に記載の水位予測システム。
【請求項5】
前記降雨量取得部は、現時刻から1時間先までの前記降雨量として、気象庁の降水ナウキャスト(5分)のデータを取得し、1時間よりも先の前記降雨量として、気象庁の速報版解析雨量・速報版降水短時間予報のデータを取得する、請求項3または請求項4に記載の水位予測システム。
【請求項6】
さらに、前記河川の前記予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、
前記水位予測部は、前記予測水位に対して第1補正を行い、
前記第1補正は、現時刻における前記予測水位の値と、前記水位測定部により測定した現時刻における実水位の値とが一致するように行う、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項7】
前記水位予測部は、前記第1補正後の前記予測水位に対して第2補正を行い、
前記第2補正は、現時刻における前記第1補正後の前記予測水位の時間変化の値と、前記水位測定部により測定した現時刻における実水位の時間変化の値とが一致するように行う、請求項6に記載の水位予測システム。
【請求項8】
前記水位予測部は、
現時刻から所定時間先までの水位については、前記第1補正と前記第2補正の双方を行い、
所定時間よりも先の水位については、前記第1補正を行い前記第2補正は行わない、請求項7に記載の水位予測システム。
【請求項9】
前記水位予測部は、前記第1補正と前記第2補正の双方を行い、その補正後の前記予測水位に所定の上限値を超える区間がある場合には、その区間について、前記第1補正を行い前記第2補正は行わない値に戻す、請求項7または請求項8に記載の水位予測システム。
【請求項10】
さらに、前記河川の前記予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、
前記水位予測部は、前記予測水位に係数を乗じて前記予測水位の補正を行い、
前記係数は、ある時間における前記水位測定部により測定した実水位と前記予測水位の差の和が0となるように決定する、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項11】
さらに、前記河川の前記予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、
前記水位予測部は、前記予測水位に係数を乗じて前記予測水位の補正を行い、
前記係数は、ある時間における前記水位測定部により測定した実水位と前記予測水位の差の平方和が最小となるように決定する、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項12】
さらに、前記河川の前記予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、
前記水位予測部は、前記予測水位の補正を行い、前記実水位の変曲点を算出し、前記変曲点の時刻以後の補正量の絶対値を、前記変曲点の時刻以前の補正量の絶対値よりも小さくする、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項13】
さらに、前記集水域に配置され、衛星放送の電波を受信する衛星電波強度計を有し、
前記水位予測部は、前記衛星電波強度計が受信した電波の強度から降雨量を算出し、その算出した降雨量を用いて前記降雨量取得部が取得した前記降雨量を補正する、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項14】
前記水位予測部は、降雨地点から前記予測地点までの前記河川の流路長と、前記河川を流れる水の流速から、水が前記降雨地点から前記予測地点に到達までの遅延時間を算出し、前記降雨量に前記遅延時間の補正を行う、請求項1に記載の水位予測システム。
【請求項15】
さらに、前記予測水位と、降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報に基づく降雨量とを表示する表示部を有し、
前記予測水位の更新を、降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報の更新に同期させる、請求項5に記載の水位予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水位予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
河川の水位を予測する水位予測システムとして、AI、ニューラルネットワークや確率、統計的な手法を用いたものが各種知られている(たとえば非特許文献1)。それらの水位予測システムは、大規模な河川の中流域、下流域を対象としている。
【0003】
また、特許文献1には、小規模な河川を対象とした水位予測システムが記載されている。特許文献1では、予測地点に流れ込む降水量を推定し、その推定した降水量と河川モデルによって水位を予測することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】富士通株式会社、AI水管理予測システム、<URL:https://www.fujitsu.com/jp/products/network/managed-services-network/resilience/river-prediction-ai/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
山岳地帯あるいはそれに隣接する地域にある中小河川には、大規模河川の中流域、下流域のような本格的な堤防はないことが多い。河川の傾斜が急で強い雨が降っても高速で流れるので、堤防がなくても氾濫することがなかったためである。
【0007】
従来の水位予測は、一般に国が管理する一級河川が対象であり、都道府県が管理する中小河川では水位予測が行われてこなかった。これは、中小河川の数が多いことと、上述のように氾濫の可能性がないと考えられてきたためである。
【0008】
しかし、昨今の地球温暖化の影響で、鬼怒川、球磨川などの中小河川が氾濫しており、今まで経験したことのない水害が発生するようになっている。今後、人命が失われるような大きな水害が中小河川の上流部に多く発生することが予想される。そこで、中小河川でも水位予測を可能とする安価で簡易な水位予測システムが求められていた。
【0009】
また、特許文献1は小規模河川にも適用できる水位予測システムであるが、予測精度の高い河川モデルを作成することは難しかった。
【0010】
本開示は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、簡易に河川の水位を予測することができる水位予測システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、
河川の予測地点での未来の水位を予測する水位予測システムであって、
前記予測地点に対する集水域の未来の降雨量を取得する降雨量取得部と、
前記降雨量を入力、前記河川の前記予測地点での水位を出力とする一次遅れ系のパラメータを記憶する記憶部と、
前記降雨量取得部により取得した前記降雨量を入力とし、前記記憶部に記憶された前記一次遅れ系のパラメータを用いて、前記一次遅れ系から、前記河川の前記予測地点での予測水位を算出する水位予測部と、を有し、
前記一次遅れ系の時定数は、前記河川の前記予測地点での水位に応じて設定されている、水位予測システムにある。
【発明の効果】
【0012】
上記態様では、降雨量を入力、河川の予測地点での水位を出力とする一次遅れ系によって予測水位を算出し、一次遅れ系の時定数は河川の予測地点での水位に応じて設定されている。そのため、予測水位を簡易に算出することができる。
【0013】
以上、上記態様によれば、簡易に河川の水位を予測することができる水位予測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における水位予測システムの構成を示したブロック図である。
【
図2】水位予測対象の河川の集水域を模式的に示した図である。
【
図3】衛星電波強度計の構成を模式的に示した図である。
【
図4】予測地点近傍における降雨量と、予測地点における水位を示した図である。
【
図5】水位、川幅、水位の減少の関係を模式的に示した図。
【
図6】川の勾配と水位の減少の関係を模式的に示した図。
【
図7】河川規模の違いと水位の減少との関係を模式的に示した図。
【
図9】地点Aに降った雨の遅れを模式的に示した図。
【
図10】地点Bに降った雨の遅れを模式的に示した図。
【
図12】第1実施形態における水位予測システムの動作について説明するフローチャートを示した図である。
【
図13】実水位と予測水位の曲線を示したグラフである。
【
図14】実水位と予測水位の曲線を示したグラフである。
【
図15】実水位と予測水位の曲線を示したグラフである。
【
図16】予測地点の水位と時定数の値の関係を示したグラフである。
【
図17】降雨強度、予測水位、実水位を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水位予測システムは、河川の予測地点での未来の水位を予測する水位予測システムであって、予測地点に対する集水域の未来の降雨量を取得する降雨量取得部と、降雨量を入力、河川の予測地点での水位を出力とする一次遅れ系のパラメータを記憶する記憶部と、降雨量取得部により取得した降雨量を入力とし、記憶部に記憶された一次遅れ系のパラメータを用いて、一次遅れ系から、河川の予測地点での予測水位を算出する水位予測部と、を有し、一次遅れ系の時定数は、河川の予測地点での水位に応じて設定されている。
【0016】
上記水位予測システムにおいて、一次遅れ系における時定数は、雨が止んだ後の河川の予測地点での水位を測定し、その測定した水位の低下特性に基づき設定されていてもよい。時定数を精度よく設定することができ、水位の予測精度を向上させることができる。
【0017】
上記水位予測システムにおいて、降雨量取得部は、気象庁の降雨予報データを降雨量として取得してもよい。
【0018】
上記水位予測システムにおいて、水位予測部は、気象庁の降雨予報データについて時間的に等間隔にし、値を平滑化したデータに変換し、そのデータを単位時間当たりの降雨量として用いてもよい。予測精度の向上を図ることができる。
【0019】
上記水位予測システムにおいて、降雨量取得部は、現時刻から1時間先までの降雨量として、気象庁の降水ナウキャスト(5分)のデータを取得し、1時間よりも先の前記降雨量として、気象庁の速報版解析雨量・速報版降水短時間予報のデータを取得してもよい。
【0020】
上記水位予測システムにおいて、さらに、河川の予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、水位予測部は、予測水位に対して第1補正を行い、第1補正は、現時刻における予測水位の値と、水位測定部により測定した現時刻における実水位の値とが一致するように行ってもよい。水位の予測精度を向上させることができる。
【0021】
上記水位予測システムにおいて、水位予測部は、第1補正後の予測水位に対して第2補正を行い、第2補正は、現時刻における第1補正後の予測水位の時間変化の値と、水位測定部により測定した現時刻における実水位の時間変化の値とが一致するように行ってもよい。水位の予測精度をさらに向上させることができる。
【0022】
上記水位予測システムにおいて、水位予測部は、現時刻から所定時間先までの水位については、第1補正と第2補正の双方を行い、所定時間よりも先の水位については、第1補正を行い第2補正は行わないようにしてもよい。所定時間よりも先の水位の予測精度を向上させることができる。
【0023】
上記水位予測システムにおいて、水位予測部は、第1補正と第2補正の双方を行い、その補正後の予測水位に所定の上限値を超える区間がある場合には、その区間について、第1補正を行い第2補正は行わない値に戻すようにしてもよい。水位の予測精度をさらに向上させることができる。
【0024】
上記水位予測システムにおいて、さらに、河川の予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、水位予測部は、予測水位に係数を乗じて予測水位の補正を行い、係数は、ある時間における水位測定部により測定した実水位と予測水位の差の和が0となるように決定してもよい。水位の予測精度をより向上させることができる。
【0025】
上記水位予測システムにおいて、さらに、河川の予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、水位予測部は、予測水位に係数を乗じて予測水位の補正を行い、係数は、ある時間における水位測定部により測定した実水位と予測水位の差の平方和が最小となるように決定してもよい。水位の予測精度をより向上させることができる。
【0026】
上記水位予測システムにおいて、さらに、河川の予測地点での実水位を測定する水位測定部を有し、水位予測部は、予測水位の補正を行い、実水位の変曲点を算出し、変曲点の時刻以後の補正量の絶対値を、変曲点の時刻以前の補正量の絶対値よりも小さくしてもよい。水位の予測精度をより向上させることができる。
【0027】
上記水位予測システムにおいて、さらに、集水域に配置され、衛星放送の電波を受信する衛星電波強度計を有し、水位予測部は、衛星電波強度計が受信した電波の強度から降雨量を算出し、その算出した降雨量を用いて降雨量取得部が取得した降雨量を補正してもよい。水位の予測精度を向上させることができる。特に、山岳地帯においては、気象レーダの電波が山よりも高い位置を見ており、山よりも低い高度の雨雲は見えない。そこで衛星電波強度計により降雨量を補正すれば、水位の予測精度を向上させることができる。
【0028】
上記水位予測システムにおいて、水位予測部は、降雨地点から予測地点までの河川の流路長と、河川を流れる水の流速から、水が降雨地点から予測地点に到達までの遅延時間を算出し、降雨量に遅延時間の補正を行ってもよい。水位の予測精度を向上させることができる。
【0029】
上記水位予測システムにおいて、さらに、予測水位と、降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報に基づく降雨量とを表示する表示部を有し、予測水位の更新を、降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報の更新に同期させてもよい。需要者に対して予測水位を分かりやすく表示することができる。
【0030】
(第1実施形態)
1.水位予測システムの構成
図1は、第1実施形態における水位予測システムの構成を示したブロック図である。第1実施形態における水位予測システムは、水位予測対象の河川における予測地点での水位を予測するシステムである。
図1に示すように、第1実施形態における水位予測システムは、降雨量取得部1と、記憶部2と、水位予測部3と、表示部4と、流速計5と、水位計6と、衛星電波強度計7と、雨量計8と、を有している。
【0031】
降雨量取得部1は、集水域20内の降雨量データを気象庁サーバ10からネットワークNWを介して取得する。また、降雨量取得部1は、クラウドサーバ11からネットワークNWを介して流速計5、水位計6、衛星電波強度計7、雨量計8からの各種データを取得する。
【0032】
図2は、水位の予測対象の河川と、その集水域20を模式的に示した図である。集水域20は、河川の予測地点よりも上流の地域であって、降雨時にその河川に雨が流れ込む地域である。
【0033】
降雨量データは、集水域20の各地点の降雨量を予測したデータである。降雨量データは、現時刻から1時間先までは降水ナウキャスト(5分)のデータを用い、1時間よりも先は速報版解析雨量・速報版降水短時間予報のデータを用いる。加えて、現時刻より前の実際の降雨量データを用いてもよい。
【0034】
降水ナウキャスト(5分)のデータは、1km四方のメッシュごとに、5分ごとに1時間先まで降雨強度を予測したデータである。速報版解析雨量・速報版降水短時間予報のデータは、1km四方のメッシュごとに、10分ごとに1時間先から6時間先まで降雨強度を予測したデータ、5km四方のメッシュごとに、1時間ごとに6時間先から15時間先まで降雨量を予測したデータである。
【0035】
現時刻から30分先、または現時刻から1時間先までの範囲について、降水ナウキャスト(5分)に替えて高解像度降水ナウキャストのデータを用いてもよい。水位の予測精度をより向上させることができる。また、他の気象庁が提供する降雨量データを用いてもよい。具体的には、全国降水ナウキャストGPV、解析雨量・降水短時間予報・降水15時間予報を用いてもよい。
【0036】
なお、降雨量データは気象庁以外から入手してもよいし、気象庁と、気象庁以外からの双方から入手してもよい。
【0037】
記憶部2は、降雨量を入力、河川の水位予測地点の水位を出力とする一次遅れ系の各種パラメータ、流速計5、水位計6、衛星電波強度計7、および雨量計8から取得した各種データを記憶している。一次遅れ系の各種パラメータは時定数を含む。また、記憶部2は、集水域20のマップデータを記憶している。また、記憶部2は、集水域20の各地点から予測地点までの流路長を記憶している。
【0038】
時定数は、河川の予測地点での水位に応じて設定されている。これにより、河川の形状などを水位の予測に反映させることができ、水位の予測精度を向上させることができる。一次遅れ系の時定数は、たとえば、雨が止んだ後の河川の予測地点での水位を測定し、その測定した水位の低下特性に基づき設定する。雨が止むと降雨中に比べて水位が安定するため、時定数を精度よく求めることができる。また、水位の上昇中は降雨による水位変動があり、時定数の測定が難しい。水位の低下中の特性を用いれば、簡便に時定数を測定することができる。
【0039】
水位予測部3は、降雨量取得部1により取得した降雨量データのうち、集水域20の降雨量を入力とする一次遅れ系の応答特性として予測地点での予測水位を算出する。一次遅れ系の計算には、記憶部2に記憶された一次遅れ系の時定数を使用する。上記のように、時定数は一般の一次遅れ系で使われている定数ではなく、河川の予測地点での水位に応じて設定されている。そこで、以下では一般の一次遅れ系との区別のため非線形一次遅れ系と呼ぶことがある。また、降雨量データは、流速計5、水位計6、衛星電波強度計7、および雨量計8から取得した各種データを用いて補正する。具体的な予測水位の算出方法は後述する。
【0040】
表示部4は、水位予測部3によって予測された水位を表示する装置である。たとえば、スマートフォン、タブレット端末、PCのディスプレイなどに予測水位を示す。
【0041】
予測水位の表示は、次のようにしてもよい。予測地点付近の地図を表示し、予測水位をその高さに応じて異なる色に分け、地図上の予測地点の色を予測水位に応じた色に変えて表示する。予測水位は、気象庁の降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報の更新に同期して更新してもよい。これにより、予測水位を需要者に分かりやすく表示することができる。
【0042】
また、予測水位が規定の水位を超えた場合に、警告を表示するようにしてもよい。警告は音声によって行ってもよい。また、予測水位が規定の水位を超えた場合に、予測水位の情報を自治体の首長や管理者が保有するスマートフォン、タブレット端末などに送信して知らせるようにしてもよい。
【0043】
流速計5は、河川を流れる水の流速を測定する装置である。また、流速計5は通信装置を有し、測定した流速データはクラウドサーバ11に送信する。また、
図2に示すように、流速計5は、予測対象の河川であって予測地点よりも上流の位置に複数配置されている。流速計5の配置間隔は、たとえば、河川の流路長1~5kmごとである。
【0044】
水位計6は、河川の水位を測定する装置である。また、水位計6は、通信装置を有し、測定した水位データはクラウドサーバ11に送信する。また、
図2に示すように、水位計6は、予測対象の河川であって予測地点の近傍に配置され、さらに予測地点よりも上流の位置に複数配置されている。水位計6の配置間隔は、たとえば、河川の流路長1~5kmごとである。
【0045】
衛星電波強度計7は、衛星放送の電波を受信してその受信強度を測定する装置である。衛星電波強度計7は、その衛星電波強度のデータをクラウドサーバ11に送信する。
図2に示すように、衛星電波強度計7は、集水域20内に複数個所設置される。たとえば、5~10km四方程度の間隔で配置される。
【0046】
図3は、衛星電波強度計7の構成を模式的に示した図である。
図3に示すように、衛星電波強度計7は、アンテナ70と、データ生成部71と、ソーラーパネル72と、電源装置73と、無線装置74と、を有している。
【0047】
アンテナ70は、衛星放送の電波を受信する装置である。受信する電波の周波数は、たとえば12GHz帯である。データ生成部71は、アンテナ70により受信した電波の受信強度のデータを生成する装置である。ソーラーパネル72は、太陽光エネルギーを電力に変換して出力する装置である。電源装置73は、データ生成部71および無線装置74を駆動する装置である。また、電源装置73は蓄電池を有している。その蓄電池は、ソーラーパネル72からの電力によって充電される。無線装置74は、データ生成部71によって生成された受信強度のデータをクラウドサーバ11に送信する。
【0048】
衛星電波強度計7により測定された衛星電波強度のデータは、その衛星電波強度計7の設置された地域における降雨量の測定に利用する。受信した衛星電波のレベルと雨量には相関がある。降雨により衛星電波は減衰し、その減衰量が降雨強度と関係性を有する。そのため、衛星電波強度のデータから降雨量を算出することができる。
【0049】
雨量計8は、降雨量を測定する装置である。また、雨量計8は通信装置を有し、降雨量データをクラウドサーバ11に送信する。
図2に示すように、雨量計8は、集水域20内に複数個所設置される。また、雨量計8による降雨量の測定は、たとえば1~5分毎に行う。
【0050】
2.水位予測の概要
次に、第1実施形態における水位予測の概要を説明する。
【0051】
ある予測地点における河川の水位を予測するため、予測地点における降雨量と水位の関係を考察する。水位予測の基本的なモデルとして、タンクモデルがある。これは、降雨量と水位との関係を、タンクに流入する水量とタンクから流出する水量との関係に近似するものである。つまり、予測地点における降雨量を入力、予測地点の水位を出力とする一次遅れ系によって水位を予測する。
【0052】
図4は、予測地点における降雨量と、予測地点における水位を示した図である。ある時刻t0において予測地点にパルス状の降雨があった場合、水位は時刻t0において瞬時にある値まで増加した後、次第に減少していく。ここで、水位の減少曲線の時刻t0における接線についての水位が0となるときの時刻をt1として、t0からt1となる時間を時定数Tと定義する。
【0053】
ここで、実際の水位は、河川の形状、勾配、雨が河川にたどり着くまでの時間などの影響がある。たとえば、
図5のように、河川の河岸が傾斜している場合、水位が高いほど川幅が広がる。そのため、水位が低い場合は水位の減少は緩やかとなり、時定数Tは大きくなると考えられる。一方、水位が高い場合は水位の減少は急となり、時定数Tは小さくなると考えられる。
【0054】
また、
図6のように、河川の勾配が緩やかな場合、水の流速が遅くなるので水位の減少は緩やかとなり、時定数Tは大きくなると考えられる。一方、河川の勾配が急な場合、水の流速が速くなるので水位の減少は急となり、時定数Tは小さくなると考えられる。
【0055】
このように、実際の河川では、河川の形状、勾配などに応じて時定数Tが異なってくると考えられる。
図7は、大河川、中河川、小河川それぞれについて、水位の減少を模式的に示した図である。中小河川では川幅が狭くて川底が浅く、さらに勾配も急であることから、時定数Tは小さくなる傾向にあり、大河川では川幅が広くて川底が深く、さらに勾配は緩やかであることから、時定数Tは大きくなる傾向にある。また、大河川では降雨時の水位上昇は小さく、中小河川では降雨時の水位上昇は大きくなる。
【0056】
そこで発明者らは、一次遅れ系の時定数Tを一定とするのではなく、水位の関数と捉えれば、河川の形状、勾配などに応じて時定数Tが異なってくることを考慮できるのではと考えた。つまり、時定数Tを水位の関数として、入力を降雨量、出力を水位とする非線形一次遅れ系によって水位を予測することを思い付いた。そして、後述のように、非線形一次遅れ系によって水位を精度よく予測できることを見出した。第1実施形態における水位予測システムは、このような時定数Tを水位の関数とする非線形一次遅れ系によって水位を予測するシステムである。
【0057】
また、実際の水位予測では、降雨地点から予測地点に到達するまでの時間遅れがある。
図8は、河川と水位の予測地点を模式的に示した図である。
図8のように、河川のうち予測地点よりも上流の位置に地点Aを取り、地点Bよりもさらに上流の位置に地点Bを取る。そして、ある時刻t0において地点A、Bにパルス状の降雨があったものと仮定する。
【0058】
地点Aに降った雨は、河川に流れ込み、河川に沿って予測地点まで到達する。つまり、
図9に示すように、地点Aに降った雨は、地点Aから予測地点までの流路長に応じて遅れて予測地点まで到達する。たとえば、地点Aから予測地点までの流路長をLA、河川を流れる水の流速をv、予測地点に到達する時刻をtAとすれば、tA=t0+LA/vとなる。
【0059】
また、
図10に示すように、地点Bに降った雨も同様に、地点Aから予測地点までの流路長に応じて遅れて予測地点まで到達する。ここで、地点Bは地点Aよりも上流であるため、地点Aで降った雨よりもさらに遅れて予測地点まで到達する。予測地点に到達する時刻をtBとすれば、tB>tAとなる。
【0060】
予測地点に到達する雨は、地点Aに降った雨と地点Bに降った雨の合計となる。そのため、
図11に示すように、予測地点での降雨量は、地点Aでの降雨量をtA遅らせたものと、地点Bでの降雨量をtB遅らせたものとの合計となる。この合計の降雨量を、非線形一次遅れ系の入力として用いる。
【0061】
以上のように、非線形一次遅れ系の入力に用いる降雨量は、降雨地点から予測地点までの流路長に応じた遅れの補正を行う。これにより、水位予測精度の向上を図ることができる。
【0062】
3.水位予測システムの動作
次に、第1実施形態における水位予測システムの動作について、
図12のフローチャートを参照に説明する。
【0063】
まず、降雨量取得部1は、気象庁サーバ10から降雨予報データを取得し、記憶部2に記憶する。降雨予報データとして、現時刻から1時間先の範囲では、降水ナウキャスト(5分)のデータを取得し、1時間よりも先の範囲では、速報版解析雨量・速報版降水短時間予報のデータを取得する。そして、水位予測部3は、降雨予報データと記憶部2に記憶された集水域20のマップデータとを比較して、集水域20の降雨予報データを抽出する(
図12のステップS1)。
【0064】
また、降雨量取得部1は、流速計5、水位計6、衛星電波強度計7、および雨量計8から各種データを取得する。記憶部2は、降雨量取得部1が取得した各種データを記憶する。
【0065】
また、これに平行して、水位予測部3は、衛星電波強度のデータから衛星電波強度計7の設置地域における降雨量を算出する。衛星電波強度と降雨量の関係は、あらかじめ記憶部2に記憶しておき、その関係を用いて降雨量を算出する。記憶部2は、算出された降雨量を記憶する。
【0066】
次に、水位予測部3は、衛星電波強度計7から求めた衛星電波強度計7の設置地域における降雨量、および雨量計8により測定した雨量計8の設置地域における降雨量に基づき、降雨予報データを補正する(
図12のステップS2)。たとえば、気象庁の降雨量データを1分毎に分割し、現時刻から1分先のデータを、衛星電波強度計7の衛星電波強度から求めた降雨量や、雨量計8により測定した降雨量に置き換える。
【0067】
気象庁の降雨量データは、山岳地帯での山の反射を避けるために高度3000m付近の雨雲をレーダによる反射で捉え、それにより降雨量を予測している。また、山の形状の影響が十分に考慮されていない場合がある。そのため、山よりも低い雨雲からの降雨は精度よく予測できない場合がある。これに対し、衛星電波強度による降雨量の測定では、山よりも低い雨雲からの降雨も精度よく測定できる。
【0068】
このように、気象庁の降雨予報データを衛星電波強度計7や雨量計8で実測した降雨量により補正することで、降雨量の予測精度を高めることができる。その結果、水位の予測精度向上を図ることができる。
【0069】
次に、水位予測部3は、河川の水の遅延時間に基づき降雨予報データを補正する(
図12のステップS3)。集水域20のある地点に降った雨は、河川を通して予測地点に到達する。そのため、河川の流路長と水の流速に応じて遅延する。その遅延時間は、降雨地点から予測地点までの流路長を流速で割ることで求められる。そこで、水位予測部3は、記憶部2に記憶された各地点から予測地点までの流路長と、流速計5によって測定した流速から、遅延時間を算出する。そして、各地点の降雨量を遅延時間分シフトする。たとえば、ある地点iの降雨量がui(t)、遅延時間がtiであれば、ui(t-ti)とする。このように、降雨予報データを遅延時間によって補正することにより、水位の予測精度向上を図ることができる。
【0070】
なお、第1実施形態では、遅延時間の算出に流速計5によって測定した流速を用いているが、降雨量などから予測した流速を用いてもよい。また、その予測した流速を、流速計5によって測定した流速を用いて補正し、その補正した流速を用いて遅延時間を算出してもよい。また、各水位計により計測した水位を用いて遅延時間を補正してもよい。
【0071】
次に、水位予測部3は、降雨予報データの各地点の降雨量を所定の時間間隔で等間隔に分割して単位時間当たりの降雨量に変換し、降雨量の時間的変化がより滑らかとなるように単位時間当たりの降雨量を補正して平滑化する(
図12のステップS4)。そして、水位予測部3は、各地点の降雨量(単位時間当たりの降雨量)を足し合わせて全体の降雨量を算出する。先に各地点の降雨量を足し合わせてから平滑化を行ってもよい。たとえば、降雨量の時間経過を所定の区間で区切り、その各区間を多項式で近似し、各多項式を繋ぎ合わせる。
【0072】
次に、水位予測部3は、平滑化した降雨量を入力とし、予測地点の水位を出力とする一次遅れ系から、出力である予測水位を算出する(
図12のステップS5)。ここで、一次遅れ系の時定数は、予測地点での水位に応じて変化する値を用いる。
【0073】
次に、水位予測部3は、算出された予測水位を補正する(
図12のステップS6)。具体的な補正方法について
図13を参照に説明する。
図13(a)は、実水位と補正前の予測水位の曲線を示したグラフである。
図13(a)に示すように、通常、実水位の現時刻における値と、算出された予測水位の現時刻における値とは一致していない。
【0074】
まず、
図13(b)に示すように、水位計6によって測定された予測地点近傍の実水位の現時刻における値と、算出された予測水位の現時刻における値とが一致するように、予測水位の曲線に係数を乗じる補正を行う。以下、第1補正とする。次に、
図13(c)に示すように、現時刻における実水位の傾き(実水位の時間変化)と、現時刻における予測水位の傾きとが一致するように、予測水位の曲線を、現時刻における水位の値を中心として回転させる。以下第2補正とする。以上のように予測水位を第1補正、第2補正の2回補正することにより、実水位と予測水位とが現時刻付近において十分に一致する。つまり、水位の予測精度向上を図ることができる。
【0075】
また、第2補正を行う際に時間範囲による制限を加えてもよい。
図14に示すように、現時刻から所定時間先まで範囲については第1補正と第2補正の予測水位、所定時間よりも先については第1補正のみの予測水位としてもよい。これにより、予測精度のさらなる向上を図ることができる。たとえば、第2補正を行う際の時間範囲は、現時刻から1~2時間先の範囲までである。
【0076】
また、第2補正を行う際に水位による制限を加えてもよい。
図15に示すように、第2補正後の予測水位について上限水位以下の範囲については第1補正と第2補正の予測水位とし、上限水位を超えている範囲については第2補正をせず第1補正の予測水位に戻してもよい。これにより、予測精度のさらなる向上を図ることができる。上限水位は、たとえば現時刻の実水位の200~300%の範囲である。
【0077】
予測水位の補正は、所定時間先の予測水位を算出するたびに逐次行うようにするとよい。予測精度の向上を図ることができる。たとえば、1~6時間先の予測水位を算出するたびに逐次補正を行ってもよい。特に、1~3時間先までの予測水位を算出するたびに逐次補正を行えば、より高い精度で水位を予測することができる。
【0078】
次に、表示部4は、水位予測部によって算出された予測水位を表示する。表示部4は、予測水位を数値で表示してもよい。また、予測地点付近の地図を表示し、その地図上の予測地点に予測水位に対応する色で表示してもよい。また、地図に降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報に基づく降雨量を合わせて表示し、予測水位の更新を降水ナウキャスト(5分)および速報版解析雨量・速報版降水短時間予報の更新に同期させてもよい。これにより、予測水位を需要者により分かりやすく表示することができる。特に、予測地点が複数ある場合に好適である。
【0079】
予測水位が所定の基準値を超えていたら、警報音を鳴らすようにしてもよい。また、自治体の管理者や首長の所持するスマートフォン、タブレットなどに予測水位を通知するようにしてもよい。
【0080】
以上、第1実施形態における水位予測システムでは、入力を集水域の降雨量とする非線形一次遅れ系の出力として河川の水位を予測している。非線形一次遅れ系の時定数は河川の予測地点での水位に応じて設定されている。そのため、河川の予測地点での水位を簡易かつ精度よく予測することができる。また、第1実施形態における水位予測システムは、中小河川の水位予測に好適であり、特に山間部の中小河川に好適である。
【0081】
次に、第1実施形態における水位予測システムについてのシミュレーション結果を説明する。
【0082】
第1実施形態の水位予測システムを用い、2019年10月の津保川の水位を予測した。予測地点は関市上之保のとある地点とした。時定数は、2018年4月から2021年3月にかけて、降雨後の水位低下を測定して求めた。
図16は、予測地点の水位と時定数の値の関係を示したグラフである。
【0083】
図16に示す時定数を用いた非線形一次遅れ系により予測水位を算出した。また、入力の降雨量は集水域20における気象庁の測定値を用いた。また、予測水位のピークと実水位のピークを一致させるようにした。
図17は、降雨強度、予測水位、実水位を示したグラフである。予測水位の曲線は、実水位の曲線とおおよそ一致していることが確かめられた。
【0084】
また、1時間先までの予測水位を算出した後、予測水位に対し、現時刻における実水位の値と予測水位の値を一致させ、さらに現時刻における実水位の傾きと予測水位の傾きを一致させる補正を行った。この補正をさらに1時間先までの予測水位を算出するごとに繰り返した。
【0085】
図18は、実水位と予測水位を示したグラフである。
図18に示すように、実水位と予測水位の曲線はほとんど一致しており、予測水位を逐次補正することにより非常に高い精度で予測地点の水位を予測できることが分かった。
【0086】
また、1時間先から3時間先に変更して、
図18の場合と同様の逐次補正を3時間先までの予測水位を算出するごとに繰り返した。
図19は、実水位と予測水位を示したグラフである。
図19のように、3時間ごとの補正の場合も、実水位と予測水位の曲線はおよそ一致しており、高い精度で予測地点の水位を予測できていることが分かった。
【0087】
図18、19のように、1時間先、または3時間先の水位予測を算出するごとに予測水位を逐次補正することによって、予測水位と実水位をほぼ一致させることができた。
【0088】
(第1実施形態の変形形態)
第1第1実施形態では、予測水位に対して現時刻における実水位と予測水位を一致させ、かつ現時刻における実水位の傾きと予測水位の傾きとを一致させる補正を行っているが、他の補正方法を用いてもよい。
【0089】
たとえば、実水位と予測水位の差の和が0となるように、予測水位に乗ずる係数Aを決定してもよい。つまり、ある時刻tにおける実水位をW(t)、予測水位をR(t)として、ある時刻t0からある時刻tiまでの実水位W(t)と予測水位R(t)の差の和をSとして、S=Σ(W(t)-A×R(t))=0を満たすようにAを決定する。たとえば、現時刻の3時間前から現時刻までについてS=0を満たすようにAを決定する。このようにしてAを求め、予測水位R(t)をA×R(t)と補正することにより、予測水位を実水位に近づけることができる。
【0090】
また、たとえば、予測水位に乗ずる係数Bを最小二乗法によって決定してもよい。つまり、ある時刻tにおける実水位をW(t)、予測水位をR(t)として、ある時刻t0からある時刻tiまでの実水位W(t)と予測水位R(t)の差の平方和をRSSとして、RSS=Σ(W(t)-B×R(t))2が最小となるように係数Bを決定する。このようにしてBを求め、予測水位R(t)をB×R(t)と補正することにより、予測水位を実水位に近づけることができる。
【0091】
また、実水位の変曲点を求め、変曲点の時刻以後の予測水位について補正量の絶対値を変曲点の時刻以前の補正量よりも小さくしてもよい。たとえば、変曲点の時刻以前においては上記係数A、Bを用い、変曲点の時刻以後においては係数A、Bよりも小さな係数を用いる。水位がピークに近づくと、水位の1階の時間微分が最大となり、水位の2階の時間微分が0となる変曲点が現れる。この変曲点の時刻以後では、水位の増加が鈍くなる。そこで、変曲点の時刻前後で予測水位の補正量を上記のように変えることにより、水位の予測精度を向上させることができる。
【0092】
一次遅れ系の時定数は、随時更新することが好ましい。たとえば、降雨量データから雨が止んだ後の時間帯を検出し、そのような時間帯を検出するたびに、その時間帯における河川の予測地点での水位の低下特性に基づき、時定数を設定、更新する。このとき、降雨量データは、衛星電波強度計7や雨量計8により取得したデータを用い、予測地点での水位は、水位計6により取得したデータを用いる。
【符号の説明】
【0093】
1:降雨量取得部
2:記憶部
3:水位予測部
4:表示部
5:流速計
6:水位計
7:衛星電波強度計
8:雨量計
10:気象庁サーバ
11:クラウドサーバ
20:集水域
【要約】
【課題】簡易に河川の水位を予測する予測システムを提供する。
【解決手段】河川の予測地点での未来の水位を予測する水位予測システムは、予測地点に対する集水域の未来の降雨量を取得する降雨量取得部1と、降雨量を入力、河川の予測地点での水位を出力とする一次遅れ系のパラメータを記憶する記憶部2と、降雨量取得部1により取得した降雨量を入力とし、記憶部2に記憶された一次遅れ系のパラメータを用いて、一次遅れ系から、河川の予測地点での予測水位を算出する水位予測部3と、を有し、一次遅れ系の時定数は、河川の予測地点での水位に応じて設定されている。
【選択図】
図1