(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】研磨布用ドレッサー
(51)【国際特許分類】
B24B 53/017 20120101AFI20250213BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
B24B53/017 A
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2020123182
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】523228613
【氏名又は名称】日鐵精工股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】木下 俊哉
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123771(JP,A)
【文献】特許第5957317(JP,B2)
【文献】特許第5809880(JP,B2)
【文献】特開2001-210613(JP,A)
【文献】特開2003-117822(JP,A)
【文献】特開2004-025377(JP,A)
【文献】特開2008-229755(JP,A)
【文献】特開2016-087735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/017
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製支持材の表面に形成された、複数の砥粒が固着された金属固着層と、前記金属固着層を被覆する被覆層と、を備える研磨布用ドレッサーであって、
前記複数の砥粒の平均粒径dが3μm≦d<200μmであり、
前記金属固着層はNi系ろう材からなり、
前記被覆層
の全ては厚さが1μm以上の、結晶質構造のクロムめっき層であることを特徴とする研磨布用ドレッサー。
【請求項2】
研磨布用ドレッサーはさらに、
前記クロムめっき層を被覆するカバー層を備えることを特徴とする、請求項1に記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項3】
前記クロムめっき層の結晶粒径は、20μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項4】
前記クロムめっき層の結晶粒径は、2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項5】
前記クロムめっき層の厚さが3μm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項6】
前記クロムめっき層の厚さが5μm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項7】
前記砥粒の平均粒径dが3μm≦d<100μmであることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項8】
前記砥粒が、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、又は酸化アルミニウムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一つに記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項9】
前記金属製支持材がステンレス鋼であることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一つに記載の研磨布用ドレッサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的かつ機械的平面研磨(Chemical Mechanical Planarization、以下CMPと略す)の工程で、研磨布の平坦性を維持するため、および、目詰まりや異物除去を行うために使用される研磨布用ドレッサーに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの表面を研磨する装置、あるいは、集積回路を製造する途中の配線や絶縁層の表面を平坦化する装置、磁気ハードディスク基板に使用されるAl板やガラス板の表面を平坦化する装置、等ではCMP研磨が用いられている。
【0003】
このCMP研磨とは、例えば、ウレタン製の研磨パッドが貼り付けられた回転基板に、微細な砥粒を含むスラリー液を供給しながら、被研磨面を押し当てて、被研磨面を平坦化する方法である。当然のことながら、この研磨パッドの研磨能力は使用時間と共に低下していくが、この低下を抑制するために、一定時間毎に研磨パッド表層部を研削して研磨パッドの平坦性を維持しながら、常に新しい面が出るようにドレッシングしている。このドレッシングに使用する部品をドレッサーと呼び、ドレッサーは、金属基板に砥粒を電着、あるいは、ろう付け等によって接合させて得られる。
【0004】
最近では、配線ルール3nmまでの集積回路のライン/スペ-スの極狭化が要求されている。配線ルールが幅狭となるに従い、CMP工程での歩留まり向上の観点から、被研磨面に発生するミクロスクラッチ傷を無くすという要求が厳しくなってきている。また、従来は要求されてこなかったドレッサーからの金属溶出を防止するとの問題が出てきている。配線ルールが極めて狭い先端半導体においては、金属溶出による電気絶縁性の劣化が、容易に歩留まり低化の原因となるためである。これらの要求に応えていくためには、ミクロスクラッチ発生を防止しつつ、金属溶出の防止もできるドレッサーであることが必要とされる。
【0005】
特許文献1には、砥粒層に耐酸性を付与して強酸性の研磨剤使用時に砥粒層の浸食を防止できるドレッサーとして、砥粒と砥粒が固着されたニッケルめっき層とにより構成された砥粒層の表面に、ダイヤモンドライクカーボンまたは二硫化モリブデンからなる被覆層を形成したドレッサーが開示されている。
【0006】
特許文献2には、ダイヤモンド砥粒の脱落がないだけでなく、結合材及び台金の溶出による汚染がないドレッサ-として、金属製台金の表面にダイヤモンド砥粒が単層固着された結合層が形成されており、該結合層をセラミックス被覆により被覆したドレッサーが開示されている。セラミックス被覆の材質はCrN、TiN、SiC、TiAlN、Si3N4、Al2O3、DLC(Diamond Like Carbon)から選択される。
【0007】
特許文献3には、耐食性及び耐摩耗性を高めてスラリーによる腐食を生じにくくするドレッサーとして、ステンレス鋼からなる台金の一面に、砥粒が金属結合相中に固着された砥粒層を備え、該砥粒層の表面にAuめっきによる下地めっき層、その上にRhからなる硬質の耐食めっき層が形成されたドレッサーが開示されている。
【0008】
特許文献4には、スラリー中の酸性液に対する耐食性に優れたドレッサーとして、金属層により固着された砥粒を有し、固着層が環状パーフルオロエーテル構造を有するフッ素樹脂を含有する合成樹脂層で被覆されているドレッサーが開示されている。
【0009】
特許文献5には、砥粒固着力を向上させるとともに、スラリーの凝集を防止し、金属の溶出を防止することが可能なドレッサーとして、砥粒がニッケルめっき層により電着固定されており、該ニッケルめっき層の上面に撥水性コートが形成されたドレッサーが開示されている。この撥水性コートは、ニッケルと撥水樹脂からなる複合めっき層である。
【0010】
特許文献6には、耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたドレッサーとして、ニッケルめっき層によって保持された砥粒を備え、該ニッケルめっき層が非晶質クロムめっき層により被覆されたドレッサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-127046号公報
【文献】特開2001-210613号公報
【文献】特開2003-117822号公報
【文献】特開2004-25377号公報
【文献】特開2008-229775号公報
【文献】特開2013-123771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、従来から、ドレッサーからの金属溶出を防止するドレッサーが開示されている。しかし、特許文献1、2、4、5では、被覆膜としてセラミックス膜、もしくは樹脂膜を用いているため、被覆膜と金属固着層との密着性が十分ではなく、被覆膜と金属固着層との隙間に研磨スラリーが侵入し、金属溶出が起こる可能性がある。また、被覆膜の膜質の緻密性が十分ではないため、被覆膜に存在するクラックを通して金属固着層まで研磨スラリーが侵入し、金属溶出が起こる可能性がある。特許文献3では、ロジウムメッキが高価であることが問題であった。
【0013】
特許文献6においては、非晶質クロムメッキ被覆層を用いている。ここで、非晶質クロムメッキ層は非常に脆く、下地の金属固着層と非晶質クロムメッキ層との間の熱膨張率の違いやドレッサーとしての使用中に付加される応力により、非晶質クロムメッキ層に割れが生じ、膜の剥離へと進行する。非晶質クロムメッキ層自体は金属溶出防止効果を有するものの、割れ又は剥離により、下地の金属固着層が研磨スラリーに接触するため、ドレッサーとしての金属溶出防止効果は望めない。
【0014】
また、前述の特許文献1~6のいずれにおいても、ミクロスクラッチ発生を防止する技術の開示がなく、先端半導体の製造工程で使用できるドレッサーとしては不十分なものであった。
【0015】
前述の通り、従来技術は、金属溶出防止効果が不十分であるとともに、ミクロスクラッチ対策が講じられておらず、歩留まり低下が大きなドレッサーとなっている。CMP工程の更なる歩留まり向上の要求から、ミクロスクラッチを防止しつつ、金属溶出防止が可能なドレッサーが求められていた。
【0016】
本発明は、前述した課題を解決するために、ミクロスクラッチを防止し、さらには、金属溶出も抑制されたドレッサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)金属製支持材の表面に形成された、複数の砥粒が固着された金属固着層と、前記金属固着層を被覆する被覆層と、を備える研磨布用ドレッサーであって、前記複数の砥粒の平均粒径dが3μm≦d<200μmであり、前記金属固着層はNi系ろう材からなり、前記被覆層は厚さが1μm以上の、結晶質構造のクロムめっき層であることを特徴とする研磨布用ドレッサー。
(2)研磨布用ドレッサーはさらに、前記クロムめっき層を被覆するカバー層を備えることを特徴とする、(1)に記載の研磨布用ドレッサー。
【0018】
(3)前記クロムめっき層の結晶粒径は、20μm以下であることを特徴とする前項(1)または(2)に記載の研磨布用ドレッサー。
【0019】
(4)前記クロムめっき層の結晶粒径は、2μm以下であることを特徴とする前項(1)乃至(3)のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【0020】
(5)前記クロムめっき層の厚さが3μm以上であることを特徴とする前項(1)乃至(4)のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【0021】
(6)前記クロムめっき層の厚さが5μm以上であることを特徴とする前項(1)乃至(5)のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【0022】
(7)前記砥粒の平均粒径dが3μm≦d<100μmであることを特徴とする前項(1)乃至(6)のうちいずれか1つに記載の研磨布用ドレッサー。
【0023】
(8)前記砥粒が、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、又は酸化アルミニウムの少なくとも1種であることを特徴とする前項(1)乃至(7)のうちいずれか一つに記載の研磨布用ドレッサー。
【0024】
(9)前記金属製支持材がステンレス鋼であることを特徴とする前項(1)乃至(8)のうちいずれか一つに記載の研磨布用ドレッサー。
【発明の効果】
【0025】
本発明のドレッサーを用いることによって、研磨パッドの均一なパッド平坦性が確保されるため、パッド表面粗さRaを小さく維持し、低マイクロスクラッチを実現することができる。また、金属溶出も防止でき、製品歩留まりが向上する。特に、半導体製造のCMP研磨のパッドコンディショナーとして本発明のドレッサーを適用する場合、ウエハ基板の平坦性が向上して優れた品質が達成されるとともに、高い歩留まりも維持できる効果を奏でる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】本発明のドレッサーの概略平面透視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前述の通り、配線ルールが10nm未満の先端半導体のCMP研磨工程では、歩留まり向上の要求から、ミクロスクラッチの抑制と金属溶出量の少なさが重要となる。そこで、本課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行い、
図1及び
図2に示すドレッサーを発明するに至った。
図1は、本発明のドレッサーの断面の模式図を示す。
図2は、本発明のドレッサーの概略平面透視図を示す。
図1及び
図2を参照して、本発明のドレッサー100は、金属製支持材1の上に形成された、複数の砥粒4が固着された金属固着層2と、金属固着層2を被覆する被覆層3と、を備える。
【0028】
本発明者は、ミクロスクラッチの抑制は、研磨パッドのパッド表面粗さが小さい場合に実現できるという知見を見出した。研磨パッドのパッド表面粗さを小さくするためには、ドレッサーに用いる砥粒の粒径をできるだけ小さくすることが有効である。しかし、粒径を小さくしていくと、金属固着層に対する砥粒の接合強度が小さくなるため、ドレッシング中に砥粒の脱落が生じ、被研磨面にマクロクラックが入り、歩留まりが大幅に低下する。そこで、本発明者は、砥粒4の接合方法として、接合強度の高いろう付け法を用いた。ミクロスクラッチの抑制手段は従来、見いだされていなかったもので、発明者により多くの実験を通して、見いだされた発明である。
【0029】
金属溶出を抑制するために、被覆層3として、酸性溶液中で高い安定性を持つ、結晶質クロムめっき膜を用いた。また、結晶質クロムめっき層をNi系ろう材を用いた金属固着層2に被覆することにより、他のろう材(例えば、Ag系、Cu系、Ti系など)を用いた金属固着層に同様の被覆を施す場合と比較して、良好な密着性が得られ、金属溶出を抑制できることを見出した。なお、Ni系ろう材としては、ニッケルを主成分とする450℃より高い液相線温度を持つ合金であり、例えば、BNi-1、BNi-1A、BNi-2、BNi-5やBNi-7等のJIS規格材に代表されるNi-Cr-Fe-Si-B系、Ni-Cr-Si系、Ni-Cr-P系、Ni-Cr-Si-B系が挙げられるが、これらに限られない。また、組成の観点からは、Ni系ろう材として、例えば、Ni+Feを70質量%以上90質量%以下(ただし、Fe/(Ni+Fe)が0以上0.4以下)、Crを1質量%以上25質量%以下、Si+Bを2質量%以上15質量%以下(ただし、B/(Si+B)が0以上0.8以下)の組成条件を満たすNi系ろう材が用いられるが、これに限られない。本発明者は、小径の砥粒4が固着された、Ni系ろう材からなる金属固着層2に、結晶質クロムめっき層3を被覆することにより、パッド表面粗さRaを小さく維持しミクロスクラッチを抑制し、かつ、金属溶出も防止できるドレッサーを発明するに至った。CMP工程の歩留まり向上を狙って、砥粒の粒径および結晶質クロムめっき層の厚さを変えた種々のドレッサーを用いてパッド表面粗さRa、ミクロスクラッチ数および金属溶出量を評価した。
【0030】
具体的には、砥粒の粒径を変えた種々のドレッサーを用いてCMP研磨を実行し、パッド表面粗さRaおよびミクロスクラッチ数を評価することによって、砥粒の適正粒径を決定した。また、結晶質クロムめっき層の厚さを変えた種々のドレッサーを研磨スラリー中にディップし、ディップ後の研磨スラリー中の金属量を分析することにより、適正なクロムめっき層の厚さを決定した。なお、本実験及び評価結果については、実施例で詳細に示す。
【0031】
なお、本発明者は、結晶質クロムめっき層に含まれるクロム結晶の粒径を小径にコントロールすることにより、結晶質クロムめっき層の下地の金属固着層までつながる貫通クラックをさらに抑制でき、金属溶出をさらに抑制できることを見出した。この点についても、実施例で詳細に示す。
【0032】
ドレッサー100は、さらに、被覆層3(結晶質クロムめっき層)を被覆するカバー層を備えてもよい。カバー層としては、例えば、被覆層3(結晶質クロムめっき層)と同様の組成を有するクロムめっき層、被覆層3(結晶質クロムめっき層)と異なる組成を有するクロムめっき層、クロム炭化物によって形成されたクロム炭化物めっき層等が挙げられるが、これらに限られない。また、カバー層は、単層であってよいし、複層であってもよい。
【0033】
<本発明の限定理由>
砥粒4の平均粒径をdとしたとき、平均粒径dは3μm≦d<200μmである。3μm未満では砥粒が過度に小さいため、パッド研削レイトが低下し、研磨パッドの目立て性能が不足するためドレッサーとしての使用ができない。200μm以上では、パッド表面粗さRaが大きくなり、ミクロスクラッチの防止が望めない。砥粒4の平均粒径dが、3μm≦d<100μmであれば、パッド表面粗さRaはより小さくなり、ミクロスクラッチの抑制も一層有効に働く。
【0034】
なお、砥粒径は任意の方法で測定することができる。例えば、砥粒径は、固着される前の砥粒4、又は、固着した砥粒4を剥がして集めてから測定してもよい。この場合、砥粒径は、篩分級法、レーザー回折法、遠心沈降法、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)の直接観察法等により得られる数平均粒径とすることができる。本発明の場合、レーザー回折法、または、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡の直接観察法により得られる数平均粒径で行うのが好ましい。固着した砥粒4の粒径をそのまま測定する場合には、光学顕微鏡またはSEMによる直接観察法により得られる円相当径より得られる数平均粒径とすることができる。
【0035】
結晶質クロムめっき層3の厚さは1μm以上である。1μm未満では金属溶出抑制効果が不足しているが、1μm以上では金属溶出抑制効果が有効に作用する。結晶質クロムめっき層3の厚さは3μm以上であれば、より金属溶出防止効果が向上し好適である。特に結晶質クロムめっき層の厚さは5μm以上であれば、金属溶出防止効果は一層向上し、更に好ましい。
【0036】
結晶質クロムめっき層3は一般に粒径数十μm~サブミクロンの微細結晶よりなる多結晶体(結晶質構造のクロムめっき層)である。結晶質クロムめっき層3における結晶粒径の測定方法等については、既知の方法を用いることができる。結晶粒径は、既知の方法によって得られる数平均結晶粒径とすることができる。結晶質クロムめっき層の結晶粒径が小さくなる程、研磨スラリーに対する封止性が上がり、金属溶出防止効果が向上する。結晶粒径は20μm以下であることが望ましく、更に2μm以下であれば、金属溶出防止効果をより発揮することができるため、より望ましい。
【0037】
本発明の研磨布用ドレッサーを構成する砥粒4は、硬度が大きく、酸性あるいはアルカリ性のスラリーと反応しにくいものが好適であり、例えば、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化珪素、又は酸化セリウムからなる砥粒4を用いる。特に好ましいのは、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、又は酸化アルミニウムからなる砥粒4である。これらの砥粒4は一種類を単独で用いても良く、複数種の砥粒4を併用しても良い。これらの砥粒表面に、チタン、ジルコニウム、クロムから選ばれた少なくとも1種を被覆したもの、また、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化クロムから選ばれた少なくとも1種を被覆したものを用いることも可能である。
【0038】
このように、本発明のドレッサーは、ドレッサーの砥粒4の粒径を制御してミクロスクラッチを防止し、更に、Ni系ろう材を用いた金属固着層2に結晶質クロムめっき層3を被覆することにより金属溶出量を抑制できるドレッサーである。本発明はミクロスクラッチ抑制と金属溶出抑制を両立することにより、実現した発明である。
【0039】
<本発明に係るドレッサーの製造方法>
本発明に係るドレッサーは、以下のように製造される。金属製支持材1は、砥粒4同様に、酸性あるいはアルカリ性のスラリーとの反応が生じにくいステンレス鋼が好ましい。代表的なステンレスであるSUS304、SUS316、SUS430、等が好適である。炭素鋼等の一般構造用鋼の表面にNi等のめっきをしたものも使用可能である。
【0040】
また、金属製支持材1の形状は、特に限定されるものではなく、八角形、二十角形等の多角形の形状でも良いが、金属製支持材1自体が回転しながらパッドを研削するので、均一研削性を担保するためには円盤状であることが好ましい。
【0041】
次に、Ni系ろう材を金属製支持材1の表面に塗布し、塗布したNi系ろう材の上に、砥粒4を所定の間隔で単層に配列する。ここで、単層とは、金属製支持材1の表面を含む面内に砥粒4を配列することである。また、この場合、砥粒4がずれないように糊等で仮止めする。
【0042】
次に、10-3Pa程度に真空引きした後、ろう材が溶融する温度まで昇温することによって、ろう付け熱処理を行い、金属製支持材1の上に金属固着層2を形成する。なお、従来のろう材を溶融させる温度は、ろう材の融点以上であって、できるだけ低温であることが好ましく、高くても液相線温度+20℃程度以内が好ましい範囲である。
【0043】
結晶質クロムめっき層は以下のように形成される。無水クロム酸(三酸化クロム)を主成分とし、これに触媒根として、無水クロム酸に対し重量比で1/100程度の硫酸を加えたメッキ浴を用いて、浴温48~58℃、電流密度15~35アンペア/dm2の条件でめっきすることにより形成される。ただし、以上の形成方法に限られるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
平均粒径dが2μm、4μm、10μm、20μm、35μm、50μm、65μm、75μm、95μm、110μm、150μm、190μm、250μm、300μm、のダイヤモンド製の砥粒を、SUS304ステンレスからなる金属製支持材の上に形成された金属固着層に固着させ、この金属固着層の上に、表1の厚さを有する結晶質クロムめっきを被覆した、
図1及び
図2に示すドレッサーを製造した。これらのドレッサーを用いて、パッド表面粗さRa、ミクロスクラッチ数および金属溶出量を評価した。各実施例および比較例における結晶質クロムめっき層の結晶粒径は6μmであった。なお、結晶粒径の測定方法は種々あるが、本実施例においては、マイクロスコープを用いて、2次元平面での観察により、粒径を測定した。金属製支持材1は、直径108mm、厚み6mmの円盤状に形成した。金属固着層の表面形状はフラット状に形成した。金属固着層には、Ni-Cr-Si-B系ろう材を用いた。Ni-Cr-Si-B系ろう材として、東京ブレイズ社製のBNi-2を用いた。
【0045】
<パッド表面粗さRa、ミクロスクラッチ数の評価について>
作製したドレッサーをパターンウエハのCMP工程に適用し、CMP工程後、使用後のパッド表面粗さRa、及び、パターンウエハのミクロスクラッチレベルを評価した。パッド表面粗さRaはレーザー表面粗さ測定器を用いて測定し、ミクロスクラッチはKLAテンコール社製欠陥検査装置を用いて測定した。
【0046】
パッド表面粗さRa(μm/分)については、パッド表面粗さRaが4.9(μm/分)以下である場合には「表面粗さが十分に小さい」として○と評価し、4.9(μm/分)超である場合には「表面粗さが大きい」として×と評価した。また、パッド表面粗さRaが2.9(μm/分)以下である場合には「表面粗さがより十分に小さい」として◎と評価し、2.4(μm/分)以下である場合には「表面粗さがさらにより十分に小さい」として◎◎と評価した。
【0047】
ミクロスクラッチレベルは、砥粒の平均粒径が最大であるNo.14のミクロスクラッチ数を10とした。No.1~No.13のミクロスクラッチレベルは、それぞれのミクロスクラッチ数をNo.14のミクロスクラッチ数で割った値を10倍し、小数点1位を四捨五入した値とした。その結果、ミクロスクラッチレベルが8以下である場合には「ミクロスクラッチ数が十分に少ない」として○と評価し、ミクロスクラッチレベルが9以上である場合には「ミクロスクラッチ数が多い」として×と評価した。また、ミクロスクラッチレベルが3以下である場合には「ミクロスクラッチ数がより十分に少ない」として◎と評価し、ミクロスクラッチレベルが2以下である場合には「ミクロスクラッチ数がさらにより十分に少ない」として◎◎と評価した。
【0048】
<金属溶出量の評価>
ドレッサーからの金属溶出量は、製造したドレッサーを研磨スラリー中に72時間、ディップし、ディップ後のスラリーをICP分析し、金属溶出量(ppm)を評価した。この時、スラリー中に最初から含まれている金属量を把握するため、ディップ試験前のスラリーも合わせてICP分析した。ディップ後スラリーの金属量からディップ前スラリーの金属量を引いた値を、ドレッサーからの溶出金属量とした。なお、ICP分析した元素は、ニッケル、クロム、鉄、銅、マンガン、ナトリウム、アルミニウム、コバルト、カリウム、マグネシウムであり、これらの金属量の総和をドレッサーからの溶出金属量とした。その結果、金属溶出量が100ppm以下である場合には、「金属溶出が十分に抑制されている」として○と評価し、金属溶出量が100ppm超である場合には、「金属溶出が十分に抑制されていない」として×と評価した。また、金属溶出量が40ppm以下である場合には、「金属溶出がより十分に抑制されている」として◎と評価し、金属溶出量が15ppm以下である場合には、「金属溶出がさらにより十分に抑制されている」として◎◎と評価し、金属溶出量が3ppm以下である場合には、「金属溶出がほとんど生じていない」として◎◎◎と評価した。
【0049】
【0050】
表1の比較例と実施例との比較から明らかなように、本発明の実施例(試料No.2~12)では、パッド表面粗さRa、ミクロスクラッチレベル及び金属溶出量の評価がすべて「○」以上となった。一方、試料No.1(比較例)では、平均砥粒径は2μmと小さいため、パッド表面粗さRaは小さいものの、パッドの目立て性能が不足しており、ミクロスクラッチレベルの評価が「×」となった。また、試料No.13およびNo.14(比較例)では砥粒径が大きすぎるため、パッド表面粗さRaが粗くなり、ミクロスクラッチが増加し、ミクロスクラッチレベルの評価が「×」となった。また、平均砥粒径dが3μm≦d<100μm(試料No.2~9)では、パッド表面粗さRaがより小さくなった(評価「◎」以上)。実施例のように、ミクロスクラッチが少なく、金属溶出量も少ないドレッサーは従来にはなかった。
【0051】
(実施例2)
平均粒径dが50μmのダイヤモンドの砥粒4を、SUS304ステンレスからなる金属製支持材の上に形成された金属固着層に固着させ、この金属固着層の上に表2の厚さを有する結晶質クロムめっきを被覆した、
図1及び
図2に示すドレッサーを製造し、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。各実施例および比較例における結晶質クロムめっき層の結晶粒径は6μmであった。結晶粒径の測定方法等については、実施例1と同様とした。使用した金属製支持材1は、直径108mm、厚み6mmの円盤状に形成した。金属固着層の表面形状はフラット状に形成した。金属固着層には、Ni-Cr-Fe-Si-B系ろう材を用いた。Ni-Cr-Fe-Si-B系ろう材として、東京ブレイズ社製のBNi-1を用いた。
【0052】
<金属溶出量の評価>
実施例1と同様の方法で、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
表2の実施例からわかるように、結晶質クロムめっきの厚さを1μm以上とすることで(試料No.23~No.29)、金属溶出の抑制が可能となった。さらに、クロムめっき厚さ3μm以上(試料No.25)で金属溶出の抑制効果が顕著になっており、特にクロムめっき厚さ5μm以上(試料No.26~No.29)では、より望ましい金属溶出抑制効果を有している。一方、結晶質クロムめっきの厚さを1μm未満とすることで、金属溶出が十分に抑制されず、評価が「×」となった。
【0055】
(実施例3)
平均粒径dが50μmのダイヤモンドの砥粒4を、SUS304ステンレスからなる金属製支持材の上に形成された金属固着層に固着させ、この金属固着層の上に、表3に示すように結晶粒径を変化させた、厚さ9μmの結晶質クロムめっき層を被覆した、
図1及び
図2に示すドレッサーを製造し、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。また、合わせて、金属固着層に対する結晶質クロムめっき膜の密着性も評価した。結晶質クロムめっき層の結晶粒径は実施例1と同様にマイクロスコープで測定した。使用した金属製支持材1は、直径108mm、厚み6mmの円盤状に形成した。金属固着層の表面形状はフラット状に形成した。金属固着層には、Ni-Cr-Si-B系ろう材を用いた。Ni-Cr-Si-B系ろう材として、東京ブレイズ社製のBNi-2を用いた。本実施例では、比較例として、非晶質クロムめっき膜を被覆した場合及びろう材にCu-Ag-P系ろう材を用いた場合も評価した。Cu-Ag-P系ろう材として、東京ブレイズ社製のBCuP-3を用いた。
【0056】
<金属溶出量及び金属固着層に対するクロムめっき膜の密着性の評価>
実施例1と同様の方法で、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。クロムめっき層の密着性は、研磨パッドを20時間連続でドレッシングし、ドレッシング後のドレッサー表面のクロムめっき層の状態をマイクロスコープで評価した。割れ・剥がれが見られず、ドレッシング前と変わらなければ、○、割れ・剥がれが生じていれば×と評価した。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3の実施例からわかるように、Ni-Cr-Si-B系ろう材を用いた金属固着層の上に結晶質クロムめっき層を形成することにより(試料No.32~No.39)、金属溶出が抑制された(評価「◎」以上)。また、クロムめっき層の結晶粒径を20μm以下とすることにより(試料No.33~No.37)、金属溶出の抑制効果が顕著になった(評価「◎◎」)。さらに、クロムめっき層の結晶粒径を2μm以下とすることにより(試料No.38~No.39)、金属溶出の抑制効果がさらに顕著になった(評価「◎◎◎」)。結晶質クロムめっき層を被覆した場合では、割れ・剥がれは見られず、ドレッサーとして、使用できるレベルであった。
【0059】
一方、比較例である試料No.31の非晶質クロムめっき層を被覆した場合は、非晶質クロムめっき層が極めて脆いため、下地金属固着層と非晶質クロムめっき層との間の熱膨張率の違いやドレッサーとして使用中に付加される応力により、非晶質クロムめっき層の割れおよび剥がれが発生し、密着性が×となった。また、金属溶出量は187ppmとなり(評価「×」)、金属溶出は抑制できなかった。
【0060】
また、比較例である試料No.40のCu-Ag-P系ろう材を使用した場合は、結晶質クロムめっき層とCu-Ag-P系ろう材からなる金属固着層との間の密着性が不足しており、密着性評価において、結晶質クロムめっき層の割れおよび剥がれが発生し、密着性が×となった。また、金属溶出量は109ppmとなり(評価「×」)、金属溶出は抑制できなかった。
【0061】
(実施例4)
平均粒径dが50μmのダイヤモンドの砥粒4を、SUS304ステンレスからなる金属製支持材の上に形成された金属固着層に固着させ、この金属固着層の上に、表4に示すように結晶粒径を変化させた、厚さ9μmの結晶質クロムめっき層を被覆した、
図1及び
図2に示すドレッサーを製造し、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。また、合わせて、金属固着層に対する結晶質クロムめっき膜の密着性も評価した。結晶質クロムめっき層の結晶粒径は実施例1と同様にマイクロスコープで測定した。使用した金属製支持材1は、直径108mm、厚み6mmの円盤状に形成した。金属固着層の表面形状はフラット状に形成した。金属固着層には、Ni-Cr-Fe-Si-B系ろう材を用いた。Ni-Cr-Fe-Si-B系ろう材として、東京ブレイズ社製のBNi-1を用いた。本実施例では、比較例として、非晶質クロムめっき膜を被覆した場合も評価した。
【0062】
<金属溶出量及び金属固着層に対するクロムめっき膜の密着性の評価>
実施例3と同様の方法で、ドレッサーからの金属溶出量およびクロムめっき層の密着性を評価した。結果を表4に示す。
【0063】
【0064】
表4の実施例からわかるように、Ni-Cr-Fe-Si-B系ろう材を用いた金属固着層の上に結晶質クロムめっき層を形成することにより(試料No.42~No.49)、金属溶出が抑制された(評価「◎」以上)。また、クロムめっき層の結晶粒径を20μm以下とすることにより(試料No.43~No.47)、金属溶出の抑制効果が顕著になった(評価「◎◎」)。さらに、クロムめっき層の結晶粒径を2μm以下とすることにより(試料No.48~No.49)、金属溶出の抑制効果がさらに顕著になった(評価「◎◎◎」)。結晶質クロムめっき層を被覆した場合では、割れ・剥がれは見られず、ドレッサーとして、使用できるレベルであった。
【0065】
一方、比較例である試料No.41の非晶質クロムめっき層を被覆した場合は、実施例3の非晶質クロムめっき層と同様に、下地金属固着層と非晶質クロムめっき層との間の熱膨張率の違いやドレッサーとして使用中に付加される応力により、非晶質クロムめっき層の割れおよび剥がれが発生し、密着性が×となった。また、金属溶出量は181ppmとなり(評価「×」)、金属溶出は抑制できなかった。
【0066】
(実施例5)
平均粒径dが50μmのダイヤモンドの砥粒4を、SUS304ステンレスからなる金属製支持材の上に形成された金属固着層に固着させ、この金属固着層の上に、表5に示すように結晶粒径を変化させた、厚さ9μmの結晶質クロムめっき層を被覆した、
図1及び
図2に示すドレッサーを製造し、ドレッサーからの金属溶出量を評価した。また、合わせて、金属固着層に対する結晶質クロムめっき膜の密着性も評価した。結晶質クロムめっき層の結晶粒径は実施例1と同様にマイクロスコープで測定した。使用した金属製支持材1は、直径108mm、厚み6mmの円盤状に形成した。金属固着層の表面形状はフラット状に形成した。金属固着層には、Ni-Cr-Si系ろう材を用いた。Ni-Cr-Si系ろう材として、東京ブレイズ社製のBNi-5を用いた。本実施例では、比較例として、非晶質クロムめっき膜を被覆した場合も評価した。
【0067】
<金属溶出量及び金属固着層に対するクロムめっき膜の密着性の評価>
実施例3と同様の方法で、ドレッサーからの金属溶出量およびクロムめっき層の密着性を評価した。結果を表5に示す。
【0068】
【0069】
表5の実施例からわかるように、Ni-Cr-Si系ろう材を用いた金属固着層の上に結晶質クロムめっき層を形成することにより(試料No.52~No.59)、金属溶出が抑制された(評価「◎」以上)。また、クロムめっき層の結晶粒径を20μm以下とすることにより(試料No.53~No.57)、金属溶出の抑制効果が顕著になった(評価「◎◎」)。さらに、クロムめっき層の結晶粒径を2μm以下とすることにより(試料No.58~No.59)、金属溶出の抑制効果がさらに顕著になった(評価「◎◎◎」)。結晶質クロムめっき層を被覆した場合では、割れ・剥がれは見られず、ドレッサーとして、使用できるレベルであった。
【0070】
一方、比較例である試料No.51の非晶質クロムめっき層を被覆した場合は、実施例3の非晶質クロムめっき層と同様に、下地金属固着層と非晶質クロムめっき層との間の熱膨張率の違いやドレッサーとして使用中に付加される応力により、非晶質クロムめっき層の割れおよび剥がれが発生し、密着性が×となった。また、金属溶出量は186ppmとなり(評価「×」)、金属溶出は抑制できなかった。
【0071】
以上から、結晶質クロムめっき層を、Ni系ろう材からなる金属固着層に被覆することにより、金属溶出の抑制が可能となることがわかった。さらにクロムめっき層の結晶粒径が20μm以下で金属溶出の抑制効果が顕著になっており、特に2μm以下では、より望ましい金属溶出抑制効果を有している。
【符号の説明】
【0072】
1 金属製支持材
2 金属固着層
3 結晶質クロムめっき層
4 砥粒
100 ドレッサー