(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】電界紡糸法によりポリマーの短繊維を製造するための装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20250213BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20250213BHJP
【FI】
D01D5/04
D04H1/728
(21)【出願番号】P 2022524588
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 AT2020060382
(87)【国際公開番号】W WO2021081573
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-10-23
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】522166334
【氏名又は名称】アイティーケイ-イノヴェイティヴ・テクノロジーズ・バイ・クレプシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】クレプシュ・ヴィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】ベルクホルト・ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】クレプシュ・ビェルン
(72)【発明者】
【氏名】アイゼンマン・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】グルッガー・マルコ
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109306528(CN,A)
【文献】特開2012-052271(JP,A)
【文献】国際公開第2016/128195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D04H 1/00 - 18/04
D06H 1/00 - 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸法によりポリマーの短繊維を製造するための、計量電極(1)とこの計量電極(1)に吐出方向
(2)に対向するコレクタ媒体(3)とを有する装置において、
前記ポリマーの少なくとも軟化温度に加熱可能な裁断格子(5)が、吐出方向(2)に前記コレクタ媒体(3)の前方に取り付けられていて、この裁断格子(5)の格子ピッチが、前記短繊維の最小の繊維長さに相当することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記裁断格子(5)は、少なくとも5μmの格子ピッチを有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記裁断格子(5)は、電気式の加熱抵抗として構成されていて、且つ前記計量電極(1)に対する対向電極として構成されている請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記計量電極(1)及び/又はこの計量電極(1)と前記裁断格子(5)との間に延在する引き伸ばし領域(6)が、温度制御流体によって冷却可能であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の装置によって、電界紡糸法によりポリマーの短繊維を製造するための方法であって、
電界が、ポリマー系用の計量電極(1)と紡糸された繊維を堆積させるためのコレクタ媒体(3)との間に生成される当該方法において、
最初に、当該電界により、1つの未加工繊維(7)が、前記計量電極(1)から引き伸ばされ、前記未加工繊維(7)の一部が、前記ポリマーの少なくとも軟化温度に加熱されることによって複数の短繊維に裁断され、その後に前記複数の短繊維が、前記コレクタ媒体(3)に堆積されることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記複数の短繊維は、コレクタ媒体(3)としての貯蔵液に堆積され、この貯蔵液中で分散されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸法によりポリマーの短繊維を製造するための、計量電極とこの計量電極に計量方向に対向するコレクタ媒体とを有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性のポリマー繊維を製造するため、ポリマー溶液又はポリマー溶融体を吐出するための計量電極と当該計量電極に計量方向に対向するコレクタプレートとを有するいわゆる電界紡糸装置が公知である。電界が、当該計量電極と対向電極として作用する当該コレクタプレートとの間に延在する引き伸ばし領域内に印加される。これにより、より細い溶液流が、計量方向に当該コレクタプレートに向かって形成されるまで、当該ポリマー溶液の液滴又はポリマー溶融体の液滴が、当該計量電極で静電気により荷電され、当該電界の影響下で引き伸ばされる。当該溶剤の蒸発によって、又は当該溶融体の凝固によって、当該コレクタプレートに堆積されるポリマー繊維が発生する。
【0003】
国際公開第2016128195号明細書に記載されているように、さらに、短繊維を堆積可能な形態で得るため、最初に、予め電界紡糸されたポリマー繊維が、エタノール/水の混合物を母材とする貯蔵液に供給される。当該貯蔵液は、当該ポリマー繊維と一緒にガラス転移温度未満に冷却される。引き続き、温度に依存して砕けやすい当該ポリマー繊維は、短繊維に裁断され、当該貯蔵液中に分散される。
【0004】
しかしながら、最初に、別の方法ステップで初めて短繊維にさらに処理され得る未加工のファイバーボール又は未加工の不織布が紡糸されなければならないので、電界紡糸法によるポリマーの短繊維の製造は、従来では時間を要し、不連続な工程だけで可能であることが欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、電界紡糸法によるポリマーの短繊維の連続する製造を可能にする上記の種類の装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、当該ポリマーの少なくとも軟化温度に加熱可能な裁断格子が計量方向に当該コレクタ媒体の前方に取り付けられていて、この裁断格子の格子ピッチが、当該短繊維の最小の繊維長さに相当することによって上記課題を解決する。
【0008】
これらの特徴に起因して、複数の短繊維が、1つの方法ステップ内に連続して生成され得る。何故なら、最初に、計量電極とコレクタ媒体との間に延在する引き伸ばし領域内で形成される未加工繊維が、加熱可能な裁断格子上に当たり、この裁断格子の通過時に複数の短繊維に裁断され、引き続きこれらの短繊維が、当該コレクタ媒体に堆積されるからである。当該未加工繊維は、当該引き伸ばし領域内で静電気による曲げ不安定性(Biegeinstabilitaeten)に起因して、計量方向に延在する円錐を輪郭として成す軌道を主に描く。その結果、個々の格子孔又は格子ピッチをそれぞれ囲んでいる外周部分が、発生する当該未加工繊維用の対応するカットエッジを形成するように、通常は、当該未加工繊維が、当該裁断格子の平面に対して鋭角を成して当該裁断格子に入射する。このため、当該未加工繊維が、それぞれの格子メッシュに接触している繊維裁断部分で当該ポリマーの軟化温度以上に局所的に加熱されるので、当該未加工繊維は、当該格子メッシュで問題なく細かく裁断され得る。引き続き、こうして形成された短繊維は、当該コレクタ媒体に堆積される。この場合、当該コレクタ媒体は、例えば、接地によって基準電位又は当該計量電極に対向する対向電極を構成する液体でもよい。当該液体は、対応する貯蔵液、例えばエタノール/水の混合物でもよい。その結果、当該短繊維は、この貯蔵液中に直接に堆積され得て、この貯蔵液中で分散され得る。連続する工程中に、後に問題なくさらに処理され得る堆積可能な短繊維の分散を得るため、当該貯蔵液を含むコレクタ容器が、液体流出口を有してもよい。当該貯蔵液は、この貯蔵液中で分散した短繊維と一緒に、例えば充填装置にさらに搬送され得る。加熱要素があると、対流が形成されるので、基本的に、当該引き伸ばし領域内の空気が加熱され、当該空気が移動し、他方では当該未加工繊維の軌道が妨害されるおそれがあり、又は当該ポリマーが当該計量電極で予測よりも早く凝固するおそれがあるが、当該裁断格子が、軟化温度の±20%の範囲内の温度に加熱されても、特に当該ポリマーの軟化温度に加熱されても、当該製造工程が損なわれないことが分かっている。当該軟化温度は、特に準結晶性のポリマーの場合の液相温度又はアモルファスポリマーの場合のガラス転移温度を意味する。簡単な構造的な手段で当該短繊維の長さの分布に対する確率密度関数による生成された短繊維の頻度(Haeufigkeit)を上げるため、当該裁断格子が少なくとも5μmの格子ピッチを有することが提唱される。当該生成された短繊維の当該短繊維の長さの分布が、当該裁断格子の格子ピッチを変更することによって調整され得ることが分かっている。この場合、確かに、5μm未満の格子ピッチでは、当該未加工繊維が、もはや裁断されないで、当該裁断格子の増大した特定の表面積に起因してこの裁断格子上に堆積し、裁断されたとしても、当該短繊維が、当該コレクタ媒体に着地できる前に、場合によっては蒸発する。格子メッシュに対する短繊維の入射角度は、当該短繊維の長さに基本的に影響しないが、所定のピッチ幅xの場合は、特に短繊維の長さIを有する短繊維の頻度が、x≦I≦x*√2の範囲内で増大され得る。この場合、ピッチ幅xは、少なくとも5μmである。裁断工程のためには、計量方向に対する法線面に沿った当該ピッチ幅の突出部分だけが重要であるので、所定のピッチ幅を有する裁断格子を用いることで、特定の範囲内でも、当該裁断格子が、その法線面から傾けられることによって、当該短繊維の長さの分布が制御され得る。
【0009】
貯蔵液をコレクタ媒体として使用する場合に特に望ましい処理条件を得るためには、裁断格子が、電気式の加熱抵抗として構成されていて、且つ計量電極に対する対向電極として構成されていることが推奨される。この手段により、電界が、当該裁断格子と当該計量電極との間に形成される。この場合、加熱電流が、2つの端子極間で当該裁断格子に通電される。当該加熱電流は、当該裁断格子に印加された2つの異なる電位によって生成される。これらの電位は、当該計量電極の電位とは著しく相違する。その結果、当該加熱電流は、電界紡糸工程に影響しない。例えば、当該裁断格子は、端子極によって接地され得る。当該短繊維の電荷の大部分が、当該裁断格子で既に中和されることによって、当該生成された短繊維が、電気力による妨害なしに当該コレクタ媒体に堆積され得るか又はこのコレクタ媒体内に格納され得る。したがって、特に、貯蔵液が、コレクタ媒体として使用される場合、当該方法は、この貯蔵液の導電率に依存しないで実行され得て、当該コレクタ媒体自体が、対向電極として機能しないで済む。
【0010】
計量電極と裁断格子との間に延在する引き伸ばし領域が、温度制御流体によって冷却可能である場合、当該製造工程の安定性及び連続性が、特に、高い液相温度を有するポリマーの使用時にさらに改良され得る。例えば、未加工繊維の軌道を妨害する、加熱した裁断格子による引き伸ばし領域内の空気の加熱が、当該冷却によって防止され得て、したがって、安定した製造工程が達成され得る。例えば、当該起動領域が、冷却された空気を供給することによって適切に温度制御され得る。この場合、未加工繊維の引き伸ばしが損なわれないように、流速が選択されなければならない。ポリマー溶液を使用する場合、計量電極自体が、温度制御流体によって冷却されると、例えば冷却空気流によって吹き付けられると、工程条件がさらに改良され得る。これにより、溶剤が早く蒸発すること、及び吐出されるポリマーが、計量電極を目詰まりさせることが回避され得る。
【0011】
本発明は、本発明の装置によってポリマーの短繊維を製造するための方法にも関する。この場合、最初に、電界が、ポリマー系を吐出するための計量電極と当該紡糸された繊維を堆積するためのコレクタ媒体との間に生成される。当該電界により、1つの未加工繊維が、当該計量電極から吐出される。この関係では、ポリマー系は、当該短繊維を製造するためのポリマーの原材料を意味し、したがって、特に水溶性で、溶媒を母材とし、且つ溶融可能な、場合によっては添加物及び充填剤を含むポリマーを意味する。当該未加工繊維の一部が、少なくとも当該ポリマーの軟化温度に加熱され、当該加熱時に複数の短繊維に裁断される。その後に、これらの短繊維が、コレクタ媒体に堆積される。これらの短繊維が、コレクタ媒体としての貯蔵液に、例えば液状のエタノール/水の混合物に堆積され、当該コレクタ媒体中で分散される場合に、特に望ましい条件が得られる。その後に、こうして紡糸された堆積可能な分散された複数の短繊維が、例えばフィルタの材料を製造するために問題なくさらに処理され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の装置は、計量電極1と、この計量電極1に計量方向2に対向するコレクタ媒体3とを有する。当該コレクタ媒体は、生成された短繊維用の貯蔵液、例えばコレクタ容器4内に存在するエタノール/水混合物でもよい。ポリマーの少なくとも軟化温度に加熱される裁断格子5が、計量方向2にコレクタ媒体3の前方に取り付けられている。この裁断格子5の格子ピッチは、生成された短繊維の最小の繊維長さに相当する。
【0014】
電界紡糸法によってポリマーの短繊維を製造するため、様々なポリマー系が、原材料として、特に水溶性で、溶剤型で且つ溶融可能なポリマーとして、場合によっては存在し得る添加物や充填剤と一緒に使用され得る。例えば、ポリメチルメタクリレートを母材とする繊維を得るためには、約20%のポリメチルメタクリレートと約55%の酢酸と約20%の酢酸エチルと場合によっては追加の添加物との質量比から成るポリマー溶液が使用され得る。非晶性のポリメチルメタクリレートの場合には、当該軟化温度は、約100℃~110℃にある当該非晶性のポリメチルメタクリレートのガラス転移温度である。
【0015】
電界を生成するため、20kV~30kVにあり得る電圧が、計量電極1と加熱された裁断格子5及び/又はコレクタ媒体3との間に印加される。ポリマー溶液が、3ml/h~9ml/hの体積流量で計量電極1を介して引き伸ばし領域6に供給される。これにより、計量電極1に発生するポリマー液滴が、静電気により荷電され、当該電界の影響下で引き伸ばされる。したがって、図に概略的に示されているように、引き伸ばし領域6内で静電気による曲げ不安定性(Biegeinstabilitaeten)に起因して、計量方向2に延在する円錐を輪郭として成す軌道を主に描く1つの未加工繊維7が発生する。
【0016】
個々の格子孔又は格子ピッチをそれぞれ囲んでいる外周部分が、発生する未加工繊維7用の対応するカットエッジを形成するように、当該未加工繊維7が、当該裁断格子の平面に対して鋭角を成して当該裁断格子7に入射することによって、この未加工繊維7の一部が、裁断格子5によって当該ポリマーの少なくとも軟化温度に加熱され、当該加熱時に複数の短繊維に裁断される。さらに、当該裁断によって生成された、図に詳しく示されなかった短繊維が、コレクタ媒体3に堆積され、このコレクタ媒体3内で分散される。その結果、こうして分散された短繊維は、例えばフィルタの材料を製造するためのフィルタの母材として問題なくさらに処理され得る。このため、コレクタ容器4が、対応する液体流出口を有してもよい。貯蔵液が、この貯蔵液中に分散した当該短繊維と一緒に充填装置にさらに搬送され得る。
【0017】
当該短繊維の長さの分布が、例えば裁断格子5の格子ピッチのピッチ幅によって調整され得る。当該調整にしたがって、当該短繊維の長さの分布に対する確率密度関数による当該生成された短繊維の頻度(Haeufigkeit)を上げるため、裁断格子5は、少なくとも5μmの格子ピッチを有し得る。
【0018】
裁断格子5が、電気式の加熱抵抗として構成されていて、且つ計量電極1に対する対向電極として構成されている場合に、望ましい処理条件が得られる。裁断格子5用の電源装置8の2つの端子極間で、裁断格子5に印加された2つの異なる電位によって生成される加熱電流が、この裁断格子5に通電する。
【0019】
幾つかの実施の形態によれば、計量電極1及び/又はこの計量電極1と裁断格子5との間に延在する引き伸ばし領域6が、温度制御流体によって冷却され得る。未加工繊維7の軌道を妨害する、加熱した裁断格子5と計量電極1の目詰まりとによる引き伸ばし領域6内の空気の加熱が、当該冷却によって防止され得る。これにより、安定した製造工程が達成され得る。
【符号の説明】
【0020】
1 計量電極
2 計量方向
3 コレクタ媒体
4 コレクタ容器
5 裁断格子
6 引き伸ばし領域
7 未加工繊維
8 電源装置