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特許7634324円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20250214BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20250214BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
G11B5/84 A
G11B5/73
G11B5/82
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023216244
(22)【出願日】2023-12-21
【審査請求日】2024-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524259126
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・ハードディスク
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久志野 高宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亘
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-145958(JP,A)
【文献】特開2012-099173(JP,A)
【文献】特開平08-020765(JP,A)
【文献】特開2012-099172(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103296(WO,A1)
【文献】特開2017-199442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0256595(US,A1)
【文献】特表2007-508442(JP,A)
【文献】特開2015-170373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84 - 5/858
G11B 5/62 - 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削液にて研削加工された円盤状基板を、(1)加熱、(2)イソプロピルアルコール及びハイドロフルオロエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行って、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去し、
前記処理を行った後の前記円盤状基板の表面の水接触角が、45°以下である、円盤状基板の製造方法。
【請求項2】
研削液にて研削加工された円盤状基板を、(1)加熱、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行って、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去する、円盤状基板の製造方法。
【請求項3】
円盤状基板を研削液にて研削加工する削加工工程と、円盤状基板にめっき層を形成するめっき層形成工程を有し、
前記研削加工工程後であって前記めっき層形成工程の前に、前記円盤状基板をイソプロピルアルコール及びハイドロフルオロエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤で洗浄し、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去する、円盤状基板の製造方法。
【請求項4】
前記研削液が、油性剤、極圧添加剤、界面活性剤、防腐剤及び消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の円盤状基板の製造方法。
【請求項5】
前記円盤状基板が、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板、又はガラス基板である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の円盤状基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)に用いられる磁気記録媒体には円盤状基板が用いられており、円盤状基板としては、一般的に、アルミニウム基板又はアルミニウム合金基板が用いられ、近年ではガラス基板の需要も増えつつある。
【0003】
円盤状基板は、中心に円形の貫通孔を有するドーナツ形に加工され、主面及び端面に対して研削液を用いて研削加工が施される。研削加工された円盤状基板は、次工程で、アルミニウム基板及びアルミニウム合金基板ではめっき液(例えば、特許文献1参照。)を用いて、ガラス基板では化学強化液(例えば、特許文献2参照。)等を用いて、それぞれ表面処理される。これらの処理後に、磁性層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-107382号公報
【文献】国際公開第2015/041301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の表面処理によって得られるめっき層及び化学強化層は、厚さの均一性が低い場合がある。
めっき層の厚さの均一性が低く平坦性に優れない場合、めっき層上に設ける磁性層はめっき層の表面形状に追従して平坦性が低下し、磁気ヘッド素子による書き込み性及び読み出し性が低下する。
また、化学強化層の厚さの均一性が低く、化学強化層の薄い部分が存在すると、その部分からガラス基板が割れやすくなるといった不具合が生じる。特に近年では、磁気記録媒体の薄型化が求められており、ガラス基板が割れやすい状況となっている。
そこで本開示では、めっき層の平坦性、及び化学強化層の厚さの均一性に優れる円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0006】
本開示は、以下の形態を含む。
<1> 研削液にて研削加工された円盤状基板を、(1)加熱、(2)有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行って、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去する、円盤状基板の製造方法。
<2> 前記研削液が、油性剤、極圧添加剤、界面活性剤、防腐剤及び消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種を含む、<1>に記載の円盤状基板の製造方法。
<3> 前記円盤状基板が、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板、又はガラス基板である、<1>又は<2>に記載の円盤状基板の製造方法。
<4> 前記処理を行った後の前記円盤状基板の表面の水接触角が、45°以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の円盤状基板の製造方法。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法によって得られる円盤状基板と、
前記円盤状基板上に設けられる磁性層と、
を有する、磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、めっき層の平坦性、及び化学強化層の厚さの均一性に優れる円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示に係る円盤状基板を磁気記録媒体用基板として適用するアシスト磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図2】本開示に係る磁気記録媒体を用いる磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0010】
<円盤状基板の製造方法>
本開示の円盤状基板の製造方法は、研削液にて研削加工された円盤状基板を、(1)加熱、(2)有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行って、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去する。
上記構成を有する製造方法において、上記課題が解決される理由は以下のように考えられる。
【0011】
研削液にて研削加工された円盤状基板の表面には、研削液に含まれる高分子成分が付着していることが判明した。この高分子成分の存在によって、次工程でのめっき液及び化学強化液の濡れ性、あるいは濡れ性以外の物性に影響を与えて、めっき層の平坦性、及び化学強化層の厚さの均一性が低下しているものと考えられる。
そこで、めっき液又は化学強化液を付与する前に、研削加工後の円盤状基板を(1)加熱、(2)有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行う。円盤状基板を加熱することで、表面に存在する高分子成分の少なくとも一部が焼き飛ばされる。円盤状基板を有機溶剤で洗浄することで、表面に存在する高分子成分の少なくとも一部が洗い流される。円盤状基板を紫外線照射処理することで、高分子成分の少なくとも一部の分子鎖が切断されて低分子化し、高分子成分の少なくとも一部が除去される。これらの処理によって高分子成分が表面から除去された円盤状基板は、次工程で形成するめっき層の平坦性、又は化学強化層の厚さの均一性が向上すると考えられる。
【0012】
円盤状基板は、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板、又はガラス基板であってよい。以降、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板及びガラス基板を総称して「基板」ともいう。また、アルミニウム基板及びアルミニウム合金基板を総称して「アルミニウム基板」ともいう。
【0013】
アルミニウム基板は、当分野で通常用いられるものを適用することができ、強度、めっき性、研削性等の観点から、JIS-A5086のアルミニウム合金が好ましい。
【0014】
ガラス基板としては、通常の磁気記録媒体用のガラス基板として用いられるアモルファス、結晶化ガラス等で構成されるものを用いることができる。具体的には、例えば、ソーダライム、アルミノシリケート、リチウムシリケート、リチウムアルミノシリケート、アルミノホウケイ酸等のガラスで構成されるガラス基板が挙げられる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、ガラスを制御された条件下で再加熱して、多数の微小な結晶を析出成長させて得られるものが挙げられる。また、結晶化ガラスとしては、Al3-SiO2-Li2O系、B23-Al23-SiO2-Li2O系のガラス等が挙げられる。
磁気記録媒体用のガラス基板の厚みは、特に限定されず、通常、0.4mm~1mm程度の厚みのものが用いられる。
【0015】
中心に円形の貫通孔を有する基板は、主面及び端面に対して研削液を用いて研削加工が施される。主面の研削加工と端面の研削加工とは、一括して行ってもよく、一連で行ってもよく、別個に行ってもよい。端面の研削加工は、基板の内外周端面に対して行ってもよく、さらに面取り加工を行ってもよい。
研削加工及び端面加工は、例えば、主面研削工程、内外周端面研削工程の順に行ってもよい。
【0016】
主面研削工程では、基板の両主面(最終的に磁気記録媒体の記録面となる面)に研削加工を施す。研削工程では、互いに逆向きに回転する一対の定盤の間に基板を挟み込み、研削液を供給し、定盤に設けられた研削パッドにより基板の両主面を研削する。一対の定盤の間に複数枚の基板を配置して、複数枚を一括して研削加工してもよい。研削パッドには、ダイヤモンド等の砥粒が結合剤で固定され、この砥粒によって基板の両主面が研削される。
【0017】
研削液は環境負荷の低減の観点から、水を媒体とする水溶液であることが好ましく、研削中の潤滑、冷却、切り粉の除去等の観点から、油性剤、極圧添加剤、界面活性剤、防腐剤及び消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。これらの少なくとも一部が、高分子成分として研削加工後の円盤状基板の表面に残存する場合がある。特に、油性剤、消泡剤等は、高分子成分として研削加工後の円盤状基板の表面に残存する傾向がある。
【0018】
油性剤としては、研削材用途に通常用いられるものであれば特に制限はなく、動植物油及びこれらの水素添加物;脂肪酸及びその塩;脂肪酸エステル;不飽和カルボン酸の硫化物;ポリオキシアルキレン化合物等が挙げられる。
油性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
脂肪酸としては、研削材用途に通常用いられるものであれば特に制限はなく、炭素数14以上、好ましくは炭素数16~24の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。脂肪酸は、直鎖状であっても、分岐を有していてもよい。脂肪酸の具体例としては、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、マレイン酸等が挙げられる。
脂肪酸は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
脂肪酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。
【0021】
脂肪酸エステルとしては、前述の脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0022】
不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えばオレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0023】
ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(1)又は(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0024】
O-(RO)-R (1)
【0025】
式(1)中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基を表し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を表し、iは一般式(1)で表される化合物の数平均分子量が100~3500となるような整数を表す。
【0026】
E-[(RO)-R (2)
【0027】
式(2)中、Eは、水酸基を3~10個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部又は全てを取り除いた残基を表し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基を表し、jは一般式(2)で表される化合物の数平均分子量が100~3500となるような整数を表し、kはEにおける水酸基から取り除かれた水素原子の個数と同じ数を表す。
【0028】
極圧添加剤としては、硫化脂肪油等の硫黄系極圧添加剤、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル等の塩素系極圧添加剤、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛等の燐系添加剤などを挙げることができる。
極圧添加剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤を含むことが好ましく、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを併用してもよい。
【0030】
アニオン性界面活性剤としては、研削材用途に通常用いられるものであれば特に制限はなく、高級アルキル硫酸エステル塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸カリウム)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、POE-ラウリル硫酸トリエタノールアミン、及びPOE-ラウリル硫酸ナトリウム、POEはポリオキシエチレンを表す。)等を挙げることができる。
【0031】
非イオン性界面活性剤としては、研削材用途に通常用いられるものであれば特に制限はなく、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレエート、グリセリン又はポリグリセリン脂肪酸類(例えば、モノステアリン酸グリセリン)、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0032】
防腐剤としては、有機アミンが好ましく、水酸基を含む有機アミンがより好ましい。
有機アミンとしては、研削材用途に通常用いられるものであれば特に制限はなく、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン等のトリアルコールアミンを挙げることができる。
防腐剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、ポリオキシアルキレン系消泡剤、鉱油系消泡剤等を挙げることができる。シリコーン系消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン、変性ポリシロキサン等を挙げることができる。ポリオキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等を挙げることができる。鉱油系消泡剤としては、ナフテン系、パラフィン系等を挙げることができる。
消泡剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
研削液にて研削加工された基板に対して、(1)加熱、(2)有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行う。
【0035】
基板の加熱は、250℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、290℃以上がさらに好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、基板の加熱による損傷を抑える観点からは、アルミニウム基板の場合には、360℃以下が好ましく、340℃以下がより好ましく、310℃以下がさらに好ましく、ガラス基板の場合には、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、500℃以下がさらに好ましい。
【0036】
加熱時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましく、20分以上がさらに好ましい。また、エネルギー負荷の低減の観点からは、60分以下が好ましく、45分以下がより好ましく、30分以下がさらに好ましい。
【0037】
加熱装置としては、目的の温度に加熱することができれば、特に限定されることなく、公知の加熱装置を用いることができる。具体的には、加熱装置としては、オーブン、電気炉等を用いることができる。
【0038】
洗浄に用いる有機溶剤としては、前工程の研削液が水溶液であることから、非極性溶剤であることが好ましい。非極性溶剤としては、イソプロピルアルコール(IPA)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等が挙げられる。
【0039】
有機溶剤での洗浄方法は特に制限されず、通常の洗浄方法及び洗浄装置を適用することができる。例えば、スピンリンス装置を用いて常温でスピンリンスする方法が挙げられる。
【0040】
紫外線照射処理は、エキシマレーザー、高圧水銀灯、アーク灯等の光源を用いて行なうことができる。
【0041】
紫外線照射処理の照射照度は、円盤状基板の表面に残存する高分子成分の分子鎖を効果的に切断する観点から、300mW/m以上が好ましく、600mW/m以上がより好ましく、1200mW/m以上がさらに好ましい。
【0042】
紫外線照射処理の照射時間は、照射範囲の均等化の観点から、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であってもよく、7秒以上であってもよい。
【0043】
次工程のめっき液又は化学強化液の濡れ性を高める観点から、(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行った後の円盤状基板の表面の水接触角は、45°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、20°以下がさらに好ましく、15°以下であることが特に好ましい。
【0044】
水接触角の測定は、接触角計を用い、25℃における基板表面上の水滴(純水、2.0μL)の接触角(0.2秒後)として測定する。
【0045】
円盤状基板の表面における高分子成分の量は、(1)~(3)の処理前を基準(100質量%)として、(1)~(3)の処理後において、0.001質量%以下に低減していることが好ましく、0質量%であってもよい。
円盤状基板の表面における高分子成分の量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって測定できる。
【0046】
(1)~(3)の処理後、アルミニウム基板に対してはめっき液によってめっき層が形成され、ガラス基板に対しては化学強化液によって化学強化層が形成される。
【0047】
めっき法としては、公知の方法を用いることができ、無電解めっき法を用いることが好ましい。一般的には、NiP系のニッケル合金めっき層を形成する。NiP合金めっき層を形成するのに用いるめっき液としては、例えば、ニッケル源として硫酸ニッケルを含み、リン源として次亜リン酸塩を含むめっき液が挙げられる。めっき液にMo塩又はW塩をさらに添加して、NiMoP合金めっき層又はNiWP合金めっき層を形成してもよい。
【0048】
化学強化処理は、ガラス基板を化学強化液に浸して、化学強化液中のイオンとガラス中のイオンとを交換させる処理である。化学強化処理は、ガラス基板に対して行われる公知の方法を用いることができる。化学強化液は、高温熔融塩とすることができ、KNO、NaNO等を含むことが好ましい。
【0049】
本開示の製造方法によって得られる円盤状基板は、ハードディスクドライブ(HDD)に用いられる磁気記録媒体として好適に用いることができる。
【0050】
<磁気記録媒体>
本開示の磁気記録媒体は、本開示の製造方法により得られる円盤状基板と、前記円盤状基板上に設けられる磁性層と、を有する。
本開示の製造方法によって得られる円盤状基板は、めっき層又は化学強化層を形成したときに、これらの層の厚さの均一性に優れる。
【0051】
平坦性に優れるめっき層上に磁性層を設けると、磁性層の平坦性に優れ、磁気ヘッド素子による書き込み性及び読み出し性に優れる。円盤状基板上のめっき層の凹欠陥は、片面において500個以下とすることができ、50個以下であることが好ましく、30個以下がより好ましく、4個以下がさらに好ましい。めっき層の凹欠陥の個数は、光学式検査機(例えば、KLA Tencor社製 OSA7100)による観察で確認することができる。
【0052】
また、本開示の製造方法によれば、化学強化層の厚さの均一性に優れるため、ガラス基板の部分的な強度の低下が抑えられ、破損欠陥の発生頻度が低減される。
【0053】
磁気記録媒体は、磁性層の上に炭素保護層、潤滑剤層等をさらに有してもよい。
磁気記録媒体は、基板と磁性層との間に、密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層等をさらに有してもよい。これらの層は、それぞれ1層であっても、2層以上であってもよい。
磁性層、炭素保護層、潤滑剤層、密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層等を形成する材料は、磁気記録媒体に使用される一般的な材料を用いることができる。
【0054】
図1は、本開示に係る円盤状基板を磁気記録媒体用基板1として適用するアシスト磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。図1に示すように、アシスト磁気記録媒体40は、磁気記録媒体用基板1、シード層41、第1の下地層42、第2の下地層43、磁性層44、保護層45及び潤滑剤層46をこの順に積層して備える。磁気記録媒体40は、磁気記憶装置に用いることができる。
【0055】
図2は、本開示に係る磁気記録媒体を用いる磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。図2に示すように、磁気記憶装置50は、アシスト磁気記録媒体40と、アシスト磁気記録媒体40を回転させるための磁気記録媒体駆動部51と、磁気ヘッド52と、磁気ヘッド52を移動させるためのヘッド移動部53と、記録再生信号処理部54とを備える。磁気ヘッド52は、図示しない記録ヘッドと再生ヘッドとを有し、記録ヘッドは、アシスト磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
磁気記憶装置50は、アシスト磁気記録媒体40の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動されるアシスト磁気記録媒体40の面上を磁気ヘッド52が浮上走行しながら、アシスト磁気記録媒体40に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【実施例
【0056】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[比較例1]
(アルミニウム合金基板の製造)
アルミニウム合金の板材として、A5086相当品(Mg:4質量%、Mn:0.5質量%、Fe:0.3質量%、Cr:0.2質量%、Si:0.2質量%、Zn:0.2質量%、残部Al)を用いた。なお、この板材は半連続鋳造法でアルミニウム合金塊を得た後、これを圧延することで製造した。
【0058】
次に、厚さ1.2mmの板材をドーナツ円盤状に打ち抜き、中心孔を有する直径97mmのアルミニウム合金基板を得た後、これを380℃で1時間焼鈍した。その後、アルミニウム合金基板の両主面及び端面をダイヤモンドバイトにより切削加工し、直径95mm、厚さ0.8mmのアルミニウム合金基板を得た。
【0059】
次に、このアルミニウム合金基板に対し、研削加工装置を用いて、各キャリアプレートの開口部に保持された複数枚のアルミニウム合金基板を遊星運動させながら、その両主面を上定盤及び下定盤に設けられた砥石により研削した。
【0060】
研削加工装置には、4ウエイタイプ両面研削盤(浜井産業株式会社製16B型)を用い、定盤の回転数を30rpm、加工圧力を110g/cmとして、5分間研削を行った。研削液には、オレイン酸30質量%を含む水溶性研削液を1.0質量%に水で希釈して使用した。
【0061】
(水接触角の測定)
研削加工後のアルミニウム合金基板に対して、協和界面化学(株)製DM-501を用い、25℃における基板表面上の水滴(純水、2.0μL)の接触角(0.2秒後)を測定した。
【0062】
(めっき層の形成)
得られたアルミニウム合金基板をNiP系めっき液に浸漬し、無電解めっき法を用いてアルミニウム合金基板の表面に、NiP系めっき層として、88Ni-12P(Pの含有量12質量%、残部Ni)層を形成した。
【0063】
NiP系めっき液には、硫酸ニッケル(ニッケル源)と、次亜リン酸ナトリウム(リン源)とを含み、上記組成のNiP系めっき層が得られるように、成分の分量を調整したものを用いた。NiP系めっき層を形成するのに使用したNiP系めっき液は、液温を90℃に調整した。アルミニウム合金基板のNiP系めっき液への浸漬時間は2時間とした。
【0064】
次に、NiP系めっき層が形成されたアルミニウム合金基板を所要の温度・時間で加熱して、NiP系めっき層付きアルミニウム合金基板を得た。
NiPめっき層の凹凸除去のため、発泡ポリウレタン製の研磨布を上下定盤に有した研磨装置を用い、アルミナ・ジルコニア・チタニア・コロイダルシリカ等を含んだ研磨剤を吐出させながら、上下定盤を遊星運動させることにより基板表面を研磨した。
【0065】
(めっき層の凹欠陥の評価)
アルミニウム合金基板の全面を光学式検査機(KLA Tencor社製 OSA7100)によって観察し、基板全面の凹欠陥の個数を数えた。基板片面の凹欠陥の個数に基づく評価基準は以下のとおりである。A及びBを合格とする。
【0066】
A:凹欠陥の個数が50個以下である。
B:凹欠陥の個数が50個を超え500以下である。
C:凹欠陥の個数が500個を超え1000個以下である。
D:凹欠陥の個数が1000個を超える。
【0067】
[比較例2]
比較例1において、めっき層を形成する前に、研削加工後のアルミニウム合金基板を、常温で、洗剤(非イオン性界面活性剤)を吐出しながらポリビニルアルコール(PVA)製のスポンジで擦り洗いを2回行った後、純水を吐出しながらスピンリンス装置でスピンリンスし、その後スピンドライを行った。
【0068】
洗浄後のアルミニウム合金基板について、上記の方法で水接触角を測定した。
また、洗浄後のアルミニウム合金基板に、比較例1と同様の方法で、めっき層を形成した。
【0069】
[実施例1]
比較例2において、洗剤をHFEの非極性溶媒に代えて洗浄を行った。
洗浄後のアルミニウム合金基板について、上記の方法で水接触角を測定した。
また、洗浄後のアルミニウム合金基板に、比較例1と同様の方法で、めっき層を形成した。
【0070】
[実施例2]
比較例1において、めっき層を形成する前に、研削加工後のアルミニウム合金基板を300℃で30分、加熱を行った。加熱は、電気炉としてコンベア式の連続大気炉装置を用いて行った。
加熱後のアルミニウム合金基板について、上記の方法で水接触角を測定した。
また、加熱後のアルミニウム合金基板に、比較例1と同様の方法で、めっき層を形成した。
【0071】
[実施例3]
実施例2において、温度を200℃に代えて加熱を行った。
加熱後のアルミニウム合金基板について、上記の方法で水接触角を測定した。
また、加熱後のアルミニウム合金基板に、比較例1と同様の方法で、めっき層を形成した。
【0072】
[実施例4]
比較例1において、めっき層を形成する前に、1200mW/mで2秒間、紫外線照射処理を行った。紫外線照射処理にはSUN ENERGY社製の製品名Ballast for High power UV Lampを用いた。
紫外線照射処理後のアルミニウム合金基板について、上記の方法で水接触角を測定した。
また、紫外線照射処理後のアルミニウム合金基板に、比較例1と同様の方法で、めっき層を形成した。
【0073】
【表1】
【0074】
めっき層を形成する前に、有機溶剤で洗浄を行った実施例1、焼鈍を行った実施例2及び3、並びに紫外線照射処理を行った実施例4は、これらの処理を行わなかった比較例1に比べて、めっき凹欠陥が著しく低減されていることがわかる。
また、比較例2は、めっき層を形成する前に水で洗浄しているが、めっき凹欠陥の数はあまり低減しないことがわかる。
【要約】
【課題】めっき層の平坦性、及び化学強化層の厚さの均一性に優れる円盤状基板の製造方法、及び磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】研削液にて研削加工された円盤状基板を、(1)加熱、(2)有機溶剤での洗浄、及び(3)紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を行って、前記円盤状基板の表面における前記研削液の高分子成分の少なくとも一部を除去する、円盤状基板の製造方法。
【選択図】なし
図1
図2