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特許7634910α-グルコシターゼ阻害剤を生産する新規なバチルス・コアギュランスCC株
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】α-グルコシターゼ阻害剤を生産する新規なバチルス・コアギュランスCC株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20250217BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20250217BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20250217BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250217BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20250217BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20250217BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20250217BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20250217BHJP
   A61K 31/445 20060101ALN20250217BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/20 E
A23L33/135
A61P3/04
A61P3/10
A61K35/742
A23K10/18
C12P1/04 Z
C12N15/31
A61K31/445
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023522349
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 KR2021013460
(87)【国際公開番号】W WO2022075660
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0128609
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC  KCTC 14267BP
(73)【特許権者】
【識別番号】523129398
【氏名又は名称】リ,ヘ イク
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】リ,ヘ イク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒ ウン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046652(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0116262(KR,A)
【文献】特開昭53-079097(JP,A)
【文献】特開2007-068538(JP,A)
【文献】特表2019-517810(JP,A)
【文献】特開昭55-114294(JP,A)
【文献】特開2012-060902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシターゼ阻害剤を生産する能力が向上した新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)。
【請求項2】
前記菌株は、配列番号1の16s rRNAの塩基配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項3】
前記菌株は、嫌気性であることを特徴とする、請求項1に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項4】
前記菌株は、菌株が投与された後、生物体から2~4週間以内に排泄されることを特徴とする、請求項1に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項5】
前記菌株は、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を生産することを特徴とする、請求項1に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項6】
前記腸内で生産されたα-グルコシターゼ阻害剤は、菌株が投与された後、生物体から2~4週間以内に排泄されることを特徴とする、請求項5に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項7】
前記α-グルコシターゼ阻害剤は、1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)であることを特徴とする、請求項1に記載のバチルス・コアギュランスCC株。
【請求項8】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、肥満の予防または改善用食品組成物。
【請求項9】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、肥満の予防または改善用飼料組成物。
【請求項10】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、肥満の予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、高血糖または糖尿病の予防および改善用食品組成物。
【請求項12】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、高血糖または糖尿病の予防および改善用飼料組成物。
【請求項13】
新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、高血糖または糖尿病の予防および治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内でα-グルコシターゼ(α-glucosidase)阻害剤を大量生産する新菌株であるバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は、体内で消化されると、マルトースのような二糖類に分解され、次いでα-グルコシダーゼと呼ばれる酵素によりグルコースなどの単糖類に分解され、血管に吸収される。この過程でα-グルコシダーゼの作用を阻害すると、二糖類の分解が遅くなり、糖類の吸収を抑えることが可能となる。よって、α-グルコシターゼ阻害剤は、食後過血糖を著しく抑制するので、糖尿病、肥満などの予防または改善に有効である。
【0003】
α-グルコシターゼ阻害剤は、一部の植物や微生物などに分布する。植物由来のα-グルコシターゼ阻害剤としては、桑の葉に含まれるアザ糖(aza sugar)類、大豆に含まれるイソフラボン(isoflavone)及びフラボン配糖体(flavone glycoside)等が知られており、微生物由来のα-グルコシターゼ阻害剤としては、アクチノプラネス属(Actinoplanes)菌株由来の疑似オリゴ糖(pseudooligosaccharide)、ストレプトミセス属(Streptomyces)またはバチルス属(Bacillus)などの微生物が生産する1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynoji)、トリス塩(tris base)などが知られており、医薬品としては、数種のα-グルコシターゼ阻害剤がすでに糖尿病の治療剤として販売されている。
【0004】
近年、1-デオキシノジリマイシンに代表される桑の葉抽出物や納豆などの天然物由来のα-グルコシターゼ阻害剤の有効性を検証するために数多くの研究が行われている(非特許文献005)。また、これらの一次加工品または抽出物が量産されているが、共通して、臭い、色などの嗜好性を低下させる因子を有しているので、製品の多様化に限界がある。また、これらは植物または微生物が生産した二次代謝産物を用いる場合であるため、有効成分の濃度が低く、一日に数回一定量を服用しなければ、所期の目的を達成できないという欠点がある。
【0005】
一方、通性嫌気性菌は、動物の腸内などの嫌気的条件下で増殖し得る。したがって、α-グルコシターゼ阻害剤を生産する能力を有する通性嫌気性菌は、腸内で増殖し、絶え間なくα-グルコシターゼ阻害剤を生産し、腸内環境に供給することが予想される。微生物を用いたα-グルコシターゼ阻害剤の生産に用いられるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)菌株は、好気性菌であって、腸内で増殖するのが難しいために、α-グルコシターゼ阻害剤を腸内に供給することが難しいのが実情である。これまでのα-グルコシターゼ阻害剤にまつわる技術を鋭意注視し、安全性が高く、胞子形成により腸内に到達する能力が高く、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を量産することを目的として研究を重ねた結果、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を量産する菌株を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者らは、α-グルコシターゼ阻害活性が強く、腸内で生育可能な微生物を選抜すべく、広範な自然試料から慎重に探索した。その結果、α-グルコシターゼ阻害活性を示す微生物の中から、通性嫌気性であって、胞子を形成し、かつ安全な菌として、動物の腸内でα-グルコシターゼ阻害剤及びその主な成分である1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)を量産する新規なバチルス・コアギュランスCC(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)株を単離し、同定した。前記微生物の発酵物または胞子を含む栄養細胞は、体重減少、血糖降下、糖尿病および便秘の解消などを目的とし、食品、医薬品および飼料などに有用に使用し得ることを確認した。そこで、本発明では、α-グルコシターゼ阻害剤を大量生産する新規な菌株であるバチルス・コギュランスCC(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)株に関する技術内容を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述のような技術的課題を達成するために、本発明は、α-グルコシターゼ阻害剤を生産する能力が向上した新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、配列番号1の16s rRNAの塩基配列を含むものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、嫌気性であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、菌株が投与された後、生物体から2~4週間以内に排泄されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を生産するものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記腸内で生産されたα-グルコシターゼ阻害剤は、菌株が投与された後、生物体から2~4週間以内に排泄されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記α-グルコシターゼ阻害剤は、1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0014】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む、肥満の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む肥満の予防または改善用飼料組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む肥満の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む高血糖または糖尿病の予防および改善用食品組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む高血糖または糖尿病の予防および改善用飼料組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む高血糖または糖尿病の予防および治療用医薬組成物を提供する。
【0020】
最後に、本発明は、前記肥満の予防または治療用医薬組成物を投与する工程を含む肥満の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る新規なバチルス・コアギュランスCC(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)株は、嫌気性条件下でも生息可能な新菌株であって、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を生産し、供給することによって、α-グルコシターゼおよびこれらの有効成分である1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)が作用する小腸内で有効濃度を一定に保ち、単糖類の吸収を最大限に阻害できるので、体重減少および血糖降下の効果を奏することができる。本発明のバチルス・コアギュランスCC株(KCTC14267BP)は、腸内に固着せず、一時的に生息する特性を示し、必要に応じて投与される菌株または菌株が生産したα-グルコシターゼ阻害剤およびこれらの有効成分である1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)は、一定時間経過後に排出が可能なため、安全に使用することができる。
【0022】
微生物を用いたα-グルコシターゼ阻害剤を生産する場合、発酵コスト、精製コストなど生産費の負担が大きく、多くの労力を必要とするが、バチルス・コアギュランスCC株(KCTC14267BP)を用いるとα-グルコシターゼ阻害剤およびそれの有効成分である1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)が腸内で生産され供給されるので、胞子生産費用以外の追加の発酵コストや加工費が必要でないのため、生産コストを抑えることができ、発酵臭などの問題が発生しないので、様々な形態の食品、飼料および医薬組成物に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】バチルス・コアギュランスCC株が生産するα-グルコシターゼ阻害剤の主な成分である1-デオキシノジリマイシンをHPLCにより分析確認した結果である。
図2】高炭水化物食給与時、バチルス・コアギュランスCC株胞子の投与がマウスの体重に及ぼす影響を示すグラフであり、標準食群(○)、高炭水化物食群(□)および高炭水化物食+CC胞子投与群(■)をそれぞれ示す。
図3図2の11週目の時点で、標準食群(Normal-Diet)、高炭水化物食群(HC-Diet)及び高炭水化物食+CC胞子投与群(HC-Diet+CC Spore)のマウスをCT撮影を通じてそれぞれ胸部と腹部の脂肪分布を観察した結果である。
図4】高脂肪食給与時、バチルス・コアギュランスCC株胞子の投与がマウスの体重に及ぼす影響を示すグラフであり、標準食群(○)、高脂肪食群(□)および高脂肪食+CC胞子投与群(■)をそれぞれ示す。
図5図4の11週目の時点で、標準食群(Normal-Diet)、高脂肪食群(HF-Diet)及び高脂肪食+CC胞子投与群(HF-Diet+CC Spore)のマウスをCT撮影を通じてそれぞれ胸部と腹部の脂肪分布を観察した結果である。
図6】マウスの糞便1gに含まれたα-グルコシダーゼの阻害活性を示すグラフであり、高炭水化物食+CC胞子投与群(gray)および高脂肪食+CC胞子投与群(black)をそれぞれ示す。CC胞子は、7週間投与し、その後は胞子のない高炭水化物食または高脂肪食を給与した。矢印はCC胞子投与を中止した時点である。
図7】マウスの糞便中に排泄されるバチルス・コアギュランスCC株の分布を示すグラフであり、高炭水化物食+CC胞子投与群(gray)および高脂肪食+CC胞子投与群(black)をそれぞれ示す。CC胞子は、7週間投与し、その後は胞子のない高炭水化物食または高脂肪食を給与した。矢印はCC胞子投与を中止した時点である。
図8】バチルス・コアギュランスCC株の分類学的位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、α-グルコシターゼ阻害剤を生産する能力が向上した新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC、受諾番号KCTC14267BP)を提供する。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、干し草を試料として耐熱性胞子を形成する菌を分離し、通性嫌気的に生育が可能であり、α-グルコシターゼ阻害剤を高生産する菌株を選別することにより得られる。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、配列番号1の塩基配列で表される16s rRNAを含むことができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、α-グルコシターゼ阻害剤を腸内で高収率で生産する嫌気性特性と、in vitroでもα-グルコシターゼ阻害剤を生産する好気的特性を同時に有することができる。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記菌株は、胞子を形成することができ、腸内に固着することなく、一時的に生息する特性を示し、必要に応じて投与された菌株を腸内から排出することが可能なため、安全に使用することができる。好ましくは、前記菌株は、生物体に投与してから2週間~4週間が経過する時点から生物の体外に排泄され得、より好ましくは、1週間を経過する時点に排泄されることができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記の菌株は、腸内で前記α-グルコシターゼ阻害剤を生産することができるので、α-グルコシターゼ阻害剤の有効濃度を腸内で一定に維持することができ、腸内で生産された前記α-グルコシターゼ阻害剤は、排泄が可能なため、安全に使用することができる。好ましくは、前記α-グルコシターゼ阻害剤は、菌株が生物体に投与してから2週間~4週間間が経過する時点から生物の体外に排泄されることができる。
【0030】
このことから、前記菌株を含む組成物を摂取する方法によって投与し、腸内でα-グルコシターゼ阻害剤を高収率で生産することができ、一定期間後、体外に排出可能なため、体重減少と血糖降下の目的で効果的に使用することができる。腸内で多量に生産されたα-グルコシターゼ阻害剤の作用により分解されなかったオリゴ炭水化物は、大腸まで到達し、腸内の微生物の餌となってプレバイオティクスとして機能し、便秘を解消しうるので、便秘を軽減させる目的で使用することができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記菌株が胞子の形態で含まれることができ、1g当たり10~1014個の胞子として含まれてもよく、これに限定されない。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記菌株が生成するα-グルコシターゼ阻害剤は、1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)であってもよく、これに限定されない。
【0033】
本明細書における「発酵物」という用語は、液体/固体培地で培養した発酵物そのもの、前記発酵物を濾過または遠心分離して菌株を除去した濾液(遠心分離した上澄み液)または菌を含有した沈殿物などの発酵物そのものに由来する加工物を含むことができる。
【0034】
本明細書における「培養」という用語は、微生物を適度に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。
【0035】
前記バチルス・コアギュランスCC株は、通常の培地で生育可能であり、一例としてニュートリエンスブロス(Nutrient broth)培地で培地することができる。前記培地は、特定の微生物を培養するために、培養の対象、すなわち培養体となる微生物が必要とする栄養物質を含むものであって、特定の目的物質がさらに添加され混合されたものであってもよい。前記培地は、培養器または培養液とも呼ばれ、天然培地、合成培地または選択培地を全て含む概念である。前記菌株は、通常の培養方法に従って培養することができる。
【0036】
培養に使用する培地は、適切な炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタミンなどを含む通常の培地内で、温度、pHなどを調整しながら、適切な方法で特定の菌株の要件を充足しなければならない。使用できる炭素源としては、ブドウ糖を主炭素源として使用する以外に、スクロース、ラクトース、フラクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖類や炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油および脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセロール、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの材料は、個別にまたは混合物として使用することができる。使用できる窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸およびペプトン、NZ-アミン、肉抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆箔(ミール)またはその分解生成物などの有機窒素源を使用することができる。これらの窒素源は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。前記培地には、リン酸源としてリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、および対応するナトリウム含有塩を含むことができる。使用し得るリン酸源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム含有塩が含まれる。また、無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、および炭酸カルシウムなどを用いることができる。最後に、前記物質に加えて、アミノ酸およびビタミンなどの必須成長物質を使用することができる。
【0037】
また、培養培地に適した前駆体を用いることができる。前記原料は、培養工程において培養物に適切な方法でバッチ様式、フェドバッチ培養様式または連続様式で添加することができるが、特にこれらに限定されない。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの基礎化合物、またはリン酸または硫酸などの酸化合物を適切な方法で使用し、培養物のpHを調節することができる。
【0038】
また、本発明は、新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)、その培養液、培養濾液または発酵物を有効成分として含む肥満の予防または改善用食品組成物、飼料組成物および医薬組成物を提供する。
【0039】
前記肥満の予防または改善用食品組成物、飼料組成物および医薬組成物は、上述の新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)を含むため、上述した本発明の菌株と重複する内容については、重複した内容の記載による本明細書の過度なる複雑性を避けるためにその説明を省略する。
【0040】
本発明の食品組成物は、有効成分を含有することに加えて、通常の食品組成物のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加の成分として含有することができる。
【0041】
前述の天然炭水化物の例としては、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、フルクトースなど;ジサッカライド、例えば、マルトース、スクロースなど;およびポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどの通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述の香味剤は、天然香味剤(タウマチン)、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリチルリチンなど)および合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を好適に用いることができる。本発明の食品組成物は、前記医薬組成物と同様の方式で製剤化し、機能性食品として用いるまたは各種食品に添加することができる。本発明の組成物を添加できる食品としては、例えば、飲料類、肉類、チョコレート、食品類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、キャンディー類、アイスクリーム類、アルコール飲料類、ビタミン複合体および健康補助食品類などがある。
【0042】
また、前記食品組成物は、有効成分である抽出物の他に、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤等の風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調整剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。さらに、本発明の食品組成物は、天然果汁、果汁飲料、および野菜飲料の調製するための果肉を含有することができる。
【0043】
本発明の機能性食品組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの形態で調製および加工することができる。本発明における「健康機能性食品組成物」とは、健康機能食品法第6727号に規定する人体に有用な機能性を有する原料や成分を使用して調製及び加工した食品をいい、人体の構造および機能に対して栄養素を調節したり、生理学的作用などの保健用途に有用な効果が得られることを目的として摂取することを意味する。本発明の健康機能食品は、通常の食品添加物を含むことができ、食品添加物としての適否は、特段の断りがない限り、食品医薬品安全庁によって承認された食品添加物公定書の総則及び一般試験法等によって当該品目に関する規格及び基準によって判定する。前記「食品添加物公定書」に収載された品目としては、例えば、ケトン類、グリシン、クエン酸カルシウム、ニコチン酸、桂皮酸などの化学合成物;カキ色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コウリャン色素、グアーガムなどの天然添加物;L グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類添加アルカリ製剤、保存料製剤、タール色素製剤などの混合製剤類が挙げられる。例えば、錠剤形態の健康機能食品は、本発明の有効成分を賦形剤、結合剤、崩壊剤、及びその他の添加剤と混合した混合物を通常の方法により顆粒化した後、滑沢剤等を入れて圧縮成形したり、前記混合物を直接圧縮成形することができる。また、錠剤形態の健康機能食品は、必要に応じてうま味調味料などを含有してもよい。カプセル形態の健康機能食品のうち、硬質カプセル剤は、通常の硬質カプセルに本発明の有効成分を賦形剤等の添加剤と混合した混合物を充填して調製することができ、軟質カプセル剤は、本発明の有効成分を賦形剤等の添加剤と混合物した混合物をゼラチンなどのカプセル基剤に充填して調製することができる。前記軟質カプセル剤は、必要に応じてグリセリンまたはソルビトールなどの可塑剤、着色剤、保存剤などを含有してもよい。丸剤形態の健康機能食品は、本発明の有効成分と賦形剤、結合剤、崩壊剤等を混合した混合物を従来の公知方法で成形して調製することができ、必要に応じて白糖や他のコーティング剤でコーティングすることができ、またはデンプン、タルクなどの材料で表面をコーティングすることもできる。顆粒形態の健康機能食品は、本発明の有効成分の賦形剤、結合剤、崩壊剤等を混合した混合物を従来の公知方法により顆粒状に調製することができ、必要に応じて着香剤、うま味調味料等を含有することができる。
【0044】
本発明の飼料組成物は、肥満の抑制、血糖降下などの効果を示すところ、動物体の健康状態を良好にする効果が期待できる。本発明の飼料組成物は、発酵飼料、配合飼料、ペレット形態およびサイレージなどの形態で調製することができる。前記発酵飼料は、本発明のバチルス・コアギュランスCCを添加することにより有機物を発酵させて調製することができ、配合飼料は、様々な種類の一般飼料と本発明のバチルス・コアギュランスCC株の胞子及び発酵物とを混合して調製することができる。ペレット状の飼料は、前記配合飼料等をペレット製造機で熱と圧力を加えて調製することができ、サイレージは、青刈り飼料を本発明に係る微生物で発酵させることにより調製することができる。湿式発酵飼料は、食品ゴミなどの有機物を集めて運搬し、殺菌過程と水分調節のための賦形剤を一定の比率で混合した後、発酵に適した温度で24時間以上発酵させ、水分含有量が約70%になるように調整して調製することができる。発酵乾燥飼料は、湿式発酵飼料をさらに乾燥過程を経て、水分の含有量が30%~40%程になるように調整して調製することができる。
【0045】
本発明の飼料組成物は、従来の飼料に添加される成分をさらに含むことができる。このような飼料に添加される成分の一例として、穀物粉、肉粉、豆類などを含むことができる。前記穀物粉は、米粉、小麦粉、大麦粉、及びトウモロコシ粉の中から選択される1種以上を使用することができる。前記肉粉は、鶏肉、牛肉、豚肉、およびダチョウ肉から選ばれるいずれか一種以上を粉末化した肉粉を使用することができる。前記豆類は、大豆、インゲン、エンドウ豆、黒豆の中から選ばれた1種以上を使用することができる。
【0046】
本発明の飼料組成物は、前述のような従来の飼料に添加される成分である穀物粉、肉粉、及び豆類の他にも、飼料の栄養価を高めるために栄養剤、及び無機物のうちから選ばれたいずれか一つ以上を添加することができ、飼料品質の低下を防ぐために、抗カビ剤、抗酸化剤、抗凝固剤、乳化剤、及び結着剤の中から選択された1種以上を含むことができる。
【0047】
本発明による医薬組成物は、有効成分を薬学的に許容される担体に混入させた形態で調製することができる。ここで、薬学的に許容される担体としては、製薬分野で通常使用される担体、賦形剤および希釈剤を含む。本発明の医薬組成物に用いることができる薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどに製剤化して使用することができる。
【0049】
製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、これらの固形製剤は有効成分に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤することができる。また、単純な賦形剤に加えて、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤も使用することができる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、一般的に用いられる希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含むことができる。
【0050】
前記医薬組成物は、多様な投与経口投与形態で剤形化することができる。
【0051】
経口投与用の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、硬カプセルおよび軟カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤等があるが、これらの剤形は有効成分以外に希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/またはグリシン)、滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸及びそのマグネシウム又はカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)をさらに含むことができる。また、前記錠剤は、マグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/またはポリビニルピロリジンのような結合剤を含むことができ、場合によって澱粉、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩などの崩解剤または発泡混合物及び/または吸収剤、着色剤、香味剤および甘味剤を含有することができる。前記剤形は一般的な混合、顆粒化又はコーティング方法によって調製することができる。
【0052】
また、本発明は、新規なバチルスCC株(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)またはその培養液、培養濾液または醗酵物を有効成分として含む高血糖および糖尿の予防または改善用食品組成物、飼料組成物、及び医薬組成物を提供する。
【0053】
前記高血糖及び糖尿病の予防又は改善用食品組成物、飼料組成物及び医薬組成物は、上述した新規なバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)(KCTC14267BP)を含むため、上述した本発明の菌株と重複した内容については、重複した内容の記載による本明細書の過度なる複雑性を避けるためにその説明を省略する。
【0054】
本発明は、前記肥満の予防または治療用医薬組成物を投与する工程を含む肥満の予防または治療方法を提供する。
【0055】
本発明の医薬組成物は、治療的有効量または薬学的に有効な量で投与することができる。
【0056】
本発明で使用される用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受益/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、個体の種類および重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路および排出率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素、およびその他の医学分野で周知の要素によって決定することができる。
【0057】
また、前記医薬組成物の投与方法としては、特に限定されず、例えば、皮膚に塗布、皮内注射、皮下注射などの方法を挙げることができる。
【0058】
また、本発明の「個体」とは、疾病の予防、調節又は治療方法を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、犬、猫、馬、牛などの哺乳類を意味する。時にはヒトを除外してもよい。
【0059】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>菌株の検索
韓国国内の各地で収集した約800点の干し草を試料とし、微生物を分離した。各試料に滅菌食塩水を少量加えて懸濁させた後、80℃の恒温水槽で20分間熱処理し、得られた胞子液を1.5%の寒天を含有するBCP Plate Count Agar平板培地に塗抹し、55℃の培養器で2日間嫌気的に培養し、細菌コロニーを形成する菌体を分離した。α-グルコシターゼ阻害剤の生産量を調べるために、分離された菌株は、5%の大豆粉を懸濁した培地5mlに接種し、37℃で24時間振とう培養した。前記培養液を遠心分離し、上澄み液からα-グルコシターゼ阻害活性を測定した。
【0061】
<実施例2>α-グルコシターゼ阻害活性の測定
α-グルコシダーゼは、ブタの小腸から抽出して部分精製したものを酵素源として使用した。α-グルコシターゼ酵素液は、24unit/mlになるように0.5Mのリン酸緩衝溶液(pH 7.0)で適当に希釈して使用し、基質は、p-nitrophenyl α-D-glucopyranoside(pNPG)を用いた。試験管に培養上澄み液30μlと酵素50μlとを混合し、37℃で10分間予備保温をした後、3mM pNPG 50μlを添加し、37℃で20分間反応させた。反応液に0.1Mの炭酸ナトリウムを加えて反応を停止させ、分光光度計で405nmにおける吸光度を測定することにより、α-グルコシターゼ阻害活性を測定した。このとき、阻害剤の代わりに水を入れたものを対象群とし、下記数1に基づいて阻害率を計算した。
【0062】
【数1】
【0063】
前記式中、Aは、対照群の吸光度であり、Bは、阻害剤を入れた試料の吸光度である。
【0064】
このとき、α-グルコシターゼ阻害単位(α-glucosidase inhibition unit、AGI unit)は、活性測定に使用されたα-グルコシダーゼ(α-glucosidase)を1%阻害するときの阻害剤の量として定義した。
【0065】
<実施例3>菌株の選抜
前記の実施例2の工程により、約50種の細菌をα-グルコシターゼ阻害剤の生産菌として1次選抜した後、55℃で嫌気的に生育可能であり、プロピオン酸(propionic acid)が含有された培地で生育されない菌株の培養液を遠心分離し、上澄み液からα-グルコシターゼ阻害活性を測定し、α-グルコシターゼ阻害活性の高い3種を2次選抜した。前記3種の菌株のうち、バージスマニュアル(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology、2002)による分類学的特性の分析方法によってバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)に分類され、α-グルコシターゼ阻害剤の生産性が高く、胞子形成が容易なDH-128菌を最終的に選抜した(表1参照)。
【0066】
【表1】
【0067】
<実施例4>DH-128菌株の突然変異誘発
<4.1>新規なバチルス・コアギュランスCCの選抜および特徴の確認
DH-128菌株をニトロソグアニジン(nitrosoguanidine、100μg/ml)で死滅率が99.9%になるように処理し、突然変異を誘発させた後、BCP Plate Count Agar平板培地に1枚当たり200~300匹になるように塗抹し、40℃で2日間培養した。生産されたコロニーは、ランダムに5%の大豆粉培地に接種し、40℃で2日間振とう培養した後、上澄み液を遠心分離し、α-グルコシターゼ阻害活性を測定した。α-グルコシターゼ阻害活性が上昇した5菌株を選抜し、胞子形成能とα-グルコシターゼ阻害活性を考慮し、DH-128-46Y93を選抜した。DH-128-46Y93菌株は、前記と同様の方法により突然変異を繰り返し、α-グルコシターゼ阻害活性が高く、胞子形成能の高い菌株を選抜し、バチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)と命名し、韓国生命工学研究院生物資源センター(KCTC)に2020.08.06.付で寄託した(受諾番号KCTC14267BP)。
【0068】
対照菌株としてα-グルコシターゼ阻害剤生産納豆菌株であるバチルス・サブチルスDC-15とα-グルコシターゼ阻害剤非生産株であるバチルス・コアギュランスATCC 7050を使用し、突然変異菌株であるDH-128、DH-128-46Y93およびバチルス・コアギュランスCC株(Bacillus coagulans CC)を5%の大豆粉培地でそれぞれ40℃で2日間好気的または嫌気的に培養し、生成されたα-グルコシターゼ阻害活性を下記表2に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
前記表2に示すように、選抜菌株であるDH-128から順次的な突然変異育種によりα-グルコシターゼ阻害活性が大幅に増加したバチルス・コアギュランスCC株が育種された。対照菌株であるバチルス・サブチルスDC-15は、納豆生産に使用される好気性菌であって、好気的な条件では相当量のα-グルコシターゼ阻害剤を生産するが、嫌気的な条件では全く生産されず、バチルス・コアギュランスATCC 7050は、好気的でも嫌気的でもα-グルコシターゼ阻害剤が生産されない。したがって、バチルス・コアギュランスCC株は、腸内のような嫌気的環境でも、α-グルコシターゼ阻害剤を生産する能力を示すことにより、α-グルコシターゼ阻害剤を生産する他の好気性菌とは非常に異なる特徴がある。
【0071】
<4.2>分離されたバチルス・コアギュランスCC株の形態学的および生化学的特性の究明
前記の分離過程を経て育種されたバチルス・コアギュランスCC株のL-broth寒天平板培地で形成された細菌コロニーは、小さくて平たく、縁部は滑らかな丸みを帯びた形状であり、表面は、光沢のない白色の様相を呈した。菌の成長に及ぼす温度の影響は、25℃以上40℃以下の範囲で成長が良好であり、60℃以上では菌体の成長が確認されなかった。硝酸塩の還元力は陽性であり、クエン酸を用いて、Voges-Proskauer試験は陰性であった。また、カゼイン、ゼラチン、澱粉を分解し、ブドウ糖から酸を生成し、アラビノース、キシロース、マンニトールからは酸が生成されず、カタラーゼ陽性であり、好気的条件と嫌気的条件で成長する。L-broth液体培地を利用した菌体成長の対数期を顕微鏡で観察した結果、短い棒状の外形として比較菌株であるバチルス・コアギュランスと類似しており、グラム陽性であった。
【0072】
また、API50CHBキット(BioMerieux社、France)を用いて、分離された菌株の生化学的特性などを調査したところ、下記の表3に示したような生化学的特性(API test結果)を有することが確認できた。
【0073】
【表3】
【0074】
バージスマニュアル(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology、2002)によるバチルス属菌株の分類学的特性を分析した結果は、下記表4に要約してあり、バチルス・コアギュランスCC(Bacillus coagulans CC)は、前記菌株が下記の配列番号1の16s rRNA配列を有することが確認できた。
【0075】
【表4】
【0076】
[配列番号1]
CCGTTGGGGTCTCCCAGCGGAGTGCTTAATGCGTTAGCTGCAGCACTAAAGGGCGGAAACCCTCTAACACTTAGCACTCATCGTTTACGGCGTGGACTACCAGGGTATCTAATCCTGTTTGCTCCCCACGCTTTCGCGCCTCAGCGTCAGTTACAGACCAGAGAGCCGCCTTCGCCACTGGTGTTCCTCCACATCTCTACGCATTTCACCGCTACACGTGGAATTCCACTCTCCTCTTCTGCACTCAAGCCTCCCAGTTTCCAATGACCGCTTGCGGTTGAGCCGCAAGATTTCACATCAGACTTAAGAAGCCGCCTGCGCGCGCTTTACGCCCAATAATTCCGGACAACGCTTGCCACCTACGTATTACCGCGGCTGCTGGCACGTAGTTAGCCGTGGCTTTCTGGCCGGGTACCGTCAAGGCGCCGCCCTGTTCGAACGGCACTTGTTCTTCCCCGGCAACAGAGTTTTACGACCCGAAGGCCTTCTTCACTCACGCGGCGTTGCTCCGTCAGACTTTCGTCCATTGCGGAAGATTCCCTACTGCTGCCTCCCGTAGGAGTTTGGGCCGTGTCTCAGTCCCAATGTGGCCGATCACCCTCTCAGGTCGGCTACGCATCGTTGCCTTGGTGAGCCGTTACCCCACCAACTAGCTAATGCGCCGCGGGCCCATCTGTAAGTGACAGCCGAAGCCGTCTTTCCTTTTTCCTCCATGCGGAGGAAAAAACTATCCGGTATTAGCCCCGGTTTCCCGGCGTTATCCCGATCTTACAGGCAGGTTGCCCACGTGTTACTCACCCGTCCGCCGCTAACCTTTTAAAAGCAAGCTTTTAAAAGGTCCGCACGACTTGCATGTATTAGGCACGCCGCCAGCGTTCGTCCTGAGCAGAGAACAAAACCCAAAAAAAGGGGCCAATACCGGGAAAGTTTATTCCTCCGCCTGGGAGGAGAAAGGAAAGACGGCATCGGCGGGCCCCTACAGAAGGGCCCGCGGCGCAATAGCCAGTTGGGCGGGGAACGGCTCACCAAGGCAACGATGCGTAGCCGACCCGAGAAGGGGAGCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGGCCCAAACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGGAATCTTCCGCAATGGACGAAAGTCTGACGGAGCCACCGCCGCGTGAGTGAAGAAGGCCTTCGGGGCGTAAAAACTCCGTTGCCGGGGGAAGAACAAGGGCCGTTCCAACAGGGCGGGGCCTTTGGCGGTACCGGGCCAAAAAGGCCCGGGTCACCTCCTGTCCCCACAAGCCGCGCGTAATACTGAGGGGGGAAAGGGTTTCTCGCGAAAATTTGGGGGTGAAAAAGCGGCCCCGCGGCGGGGTTTTTAAATATGTGTGGGTTAAAATTTTTGGCGCCCCCCCCCGGCGGGCGTTTTTTAAAACGGGGGGGGGCTGTGTGGAAAAAAGAGAAAGGGTATAAATCTCCCGTATTGTTGTGGAAAAAGTATATAAAATGTGGGAAAAACACAAGGGCGGAGGGGGCCTCGGTGGAAA
【0077】
<実施例5>バチルス・コアギュランスCC株が生産する1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)分析
バチルス・コアギュランスCC株を5%の大豆粉培地で37℃、48時間培養した培養液を遠心分離し、上澄み液をTLCで展開した後、0.5cm間隔で掻き取った後、水で抽出し、α-グルコシターゼ阻害活性を測定した。α-グルコシターゼ阻害活性は、1-デオキシノジリマイシンと同じ一か所で見られ、暫定的にα-グルコシターゼ阻害剤の主な成分は、1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)で判定した。1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)のさらなる確認のためにHPLCで分析した。バチルス・コアギュランスCC株を5mlの5%の大豆粉培地に接種した後、37℃で48時間嫌気的に培養した。このうちの1mlを取り、0.4Mのホウ酸カリウム緩衝液(pH 8.5)20μl、アセトニトリルに溶解した5mMのクロロギ酸9-フルオレニルメチル20μlを加え、室温で30分間遮光して反応し、標準品である1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)の誘導体と比較した。0.1Mのグリシン20μlを加えて反応停止し、HPLC分析試料とした。HPLC分析用のカラムは、Agilent TC-C18カラム(250×4.60mm、5μm)を使用し、移動相は、アセトニトリル:0.1%酢酸=35:65であり、流量は1.2ml/min、カラムオーブン温度は40℃、254nmで検出した。図1に示すように、バチルス・コアギュランスCC株の生成物と1-デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin)は同じ保持時間を示すところ、同じ物質であることが確認できた。
【0078】
<実施例6>バチルス・コアギュランスCC株の食餌実験
バチルス・コアギュランスCC株が動物の腸管内でα-グルコシターゼ阻害剤を効率的に生産するか否かを確認するために、マウスを飼育しながら、バチルス・コアギュランスCC株の胞子を経口投与し、菌株の腸内の増殖および体外排出可否、腸内におけるα-グルコシターゼ阻害剤の生産可否、体重変化などを検討した。これのために、市販の標準飼料と水を自在給与し、雄マウス(3週齢)を1週間の予備飼育後、使用した。明暗サイクルは、08:00時~20:00時を明期、20:00時~08:00時を暗期とし、22.5±0.5℃の温度および50~60%の湿度が維持される環境下で飼育した。食餌は、下記表5の組成によりそれぞれ調製した。マウスは、標準食群、高炭水化物食群、高炭水化物食+CC胞子群、高脂肪食群、高脂肪食+CC胞子群などの5個の群(それぞれ8匹)に分け、12週間飼育した。バチルス・コアギュランスCC株胞子は、高炭水化物食+CC胞子群、高脂肪食+CC胞子群に対して10cell/kg体重になるように生理食塩水100μlに希釈して1日おきに投与し、残りの標準食群、高炭水化物食群、高脂肪食群は、胞子希釈液の代わりに生理食塩水を100μlを一日おきに投与した。飼育を進め、糞便を定期的に採取し、糞便中のα-グルコシターゼ阻害活性と排出されるバチルス・コアギュランスCC株を測定するための試料とした。
【0079】
【表5】
【0080】
<6.1>高炭水化物食給与時、バチルス・コアギュランスCC株胞子の投与がマウスの体重に及ぼす影響の分析
高炭水化物食が給与されたマウスの体重にバチルス・コアギュランスCC株胞子の投与が及ぼす影響を分析した結果、図2に示すように、高炭水化物食群は、標準食群に比べて顕著な体重増加をみせたが、高炭水化物食+CC胞子投与群では、高炭水化物食群より著しく減少した体重増加様相を示すことが確認できた。この実験の11週目で各群別にマウスのCTを撮影し、体内の脂肪分布を観察した。図3は、その結果として、写真における矢印で表示した明るい部分は、脂肪層を示すものであって、標準食に比べて高炭水化物食では胸部および腹部に多量の脂肪が蓄積されていることが分かる。一方、バチルス・コアギュランスCC株胞子を投与した高炭水化物食群では、体内脂肪の蓄積が顕著に減少し、標準食において同様の傾向を示すバチルス・コアギュランスCC株胞子の投与により体重増加および体脂肪の蓄積を効率的に阻害することを示している。
【0081】
<6.2>高脂肪食給与時、バチルス・コアギュランスCC株胞子の投与がマウスの体重に及ぼす影響
高脂肪食が給与されたマウスの体重にバチルス・コアギュランスCC株胞子の投与が及ぼす影響を分析した結果、図4に示すように、高脂肪食群は、標準食群に比べて著しい体重増加がみられるが、高炭水化物食+CC胞子投与群と同様の様相で高脂肪食群より著しく減少した体重増加の様相を示すことが確認できた。高脂肪食群も同様に実験の11週目で各群別にマウスのCTを撮影し、体内の脂肪分布を観察した。図5は、その結果として高炭水化物食よりは脂肪蓄積され難いが、標準食に比べて高脂肪食において胸部および腹部に大量の脂肪が蓄積されているが、バチルス・コアギュランスCC株胞子の投与により体重増加および体脂肪の蓄積を効率的に阻害することを示す。
【0082】
<実施例7>糞便の分析
前記バチルス・コアギュランスCC株の食餌実験を行いながら、定期的に糞便を回収し、糞便中に排泄されるα-グルコシターゼ阻害剤とバチルス・コアギュランスCC株の量を測定した。α-グルコシターゼ阻害剤は、α-グルコシターゼ阻害活性を測定し、バチルス・コアギュランスCC株菌数は、糞便の一定量に滅菌水を加え、よく懸濁させ、上澄み液をBCP平板培地に塗抹した後、55℃で2日間嫌気的に培養した後にあらわれるコロニーの数を測定した。
【0083】
<7.1>糞便中に排泄されるバチルス・コアギュランスCC株の変化
バチルス・コアギュランスCC株胞子が投与されたマウスの糞便に含まれた胞子数を測定し、糞便に排泄される菌株の変化を分析した結果、図6に示すように、5週目までは排泄される菌の量が着実に増加し、それ以降は、糞便1g当たり10個を維持するため、投与されたバチルス・コアギュランスCC株は、腸内で増殖し、その一部が体外に排出されるものと判断することができる。一方、菌の投与を中止した時点である8週目から緩やかに減少するので、バチルス・コアギュランスCC株が腸内で固着されず、滞留する時間があまり長くないことを示す。したがって、本菌株の投与を中断すると、腸内の菌叢の変化が予想されるので、必要に応じて腸内で本菌株の除去も可能であるという長所があることを確認することができた。標準食を給与したマウスの糞便ではコロニーの形成が観察されないので、あらわれたコロニーはバチルス・コアギュランスCC株であることを特定することができる。
【0084】
<7.2>糞便中に排泄されるα-グルコシターゼ阻害活性の変化
バチルス・コアギュランスCC株の胞子が投与されたマウスの糞便に排泄されるα-グルコシダーゼの阻害活性を分析した。図7に示すように、バチルス・コアギュランスCC株(KCTC14267BP)は、便中に排出される程に腸内で旺盛に増殖し、α-グルコシターゼ阻害剤が生産されることが確認できた。図6に示すように、5週目から7週目までは排出されるバチルス・コアギュランスCC株の量が安定化する時期に排出されるα-グルコシターゼ阻害剤の量も一定であることを確認することができた。すなわち、α-グルコシターゼ阻害剤は、常に腸内で生産されるので、腸内における濃度が一定量維持され、効率が高く作用する長所があり、生産された阻害剤の一定量が排出されるものであることが分かる。
【0085】
前記の結果をみると、工業的過程で発酵して生成された生理活性物質を体内に投与する方式ではなく、本発明に係るバチルス・コアギュランスCC株が体内で生理活性物質を連続して供給することが可能であることを示す。これは、α-グルコシターゼ阻害剤を生成するための別途の発酵コスト及び加工費が必要でないので、製造コストを節減することができ、体内で連続して生産することによってα-グルコシターゼ阻害剤の作用点である小腸で有効な濃度を一定に維持することができる長所があることが確認された。また、バチルス・コアギュランスCC株の胞子を用いることによって製品加工において発酵臭、体積及び色沢などの問題が発生しないので、多様な形態の食品に適用することができる長所がある。
【0086】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受諾番号:KCTC14267BP
受託日付:20200806
【0087】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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