(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】化合物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07C 229/36 20060101AFI20250218BHJP
C07C 237/06 20060101ALI20250218BHJP
C09K 15/20 20060101ALI20250218BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20250218BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250218BHJP
C09K 15/22 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C07C229/36 CSP
C07C237/06
C09K15/20
A61K31/216
A61P43/00 107
C09K15/22
(21)【出願番号】P 2022500476
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005302
(87)【国際公開番号】W WO2021162103
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2020023164
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020023221
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520054149
【氏名又は名称】株式会社フェリクス
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】山田 健一
(72)【発明者】
【氏名】國信 健一郎
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第19/009355(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第00936074(GB,A)
【文献】OGURI, T. et al.,Amino acids and peptides. XXVIII. A new synthesis of α-amino acid derivatives by alkylation of schi,Chem. Pharm. Bull.,1977年,Vol.25, No.9,pp.2287-2291,DOI:10.1248/cpb.25.2287
【文献】Databese REGISTRY,2019年07月08日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN:2352975-47-2
【文献】Databese REGISTRY,2019年03月15日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN:2287247-96-3
【文献】Database REGISTRY,2014年03月10日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN:1565206-30-5
【文献】Databese REGISTRY,2019年07月09日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN:2354426-71-2
【文献】Databese REGISTRY,2019年07月09日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN2354426-58-5
【文献】Databese REGISTRY,2019年07月15日,STN international [online],[検索日 2020.03.18], RN:2358591-41-8
【文献】SAARI, W. S. et al.,Synthesis and antihypertensive activity of some ester progenitors of methyldopa,Journal of Medicinal Chemistry,1978年,Vol.21, No.8,pp.746-753,DOI:10.1021/jm00206a006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)
または(5)で表される
、化合物またはその塩。
【化3】
【化5】
【請求項2】
下記式(1)で表される、化合物またはその塩と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
前記式(1)中、
R
1
およびR
2
は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3
は、-OR
4
または-NHR
5
であり、
R
4
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【請求項3】
下記式(1A)で表される化合物またはその塩を含む、抗酸化剤:
【化1A】
前記式(1A)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4またはNHR
5であり、
R
4は、アルキル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
【請求項4】
下記式(2)で表される、請求項
3記載の抗酸化剤:
【化2】
前記式(2)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
4は、アルキル基である。
【請求項5】
下記式(3)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化3】
【請求項6】
下記式(4)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化4】
【請求項7】
下記式(5)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化5】
【請求項8】
下記式(7)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化7】
【請求項9】
下記式(8)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化8】
【請求項10】
下記式(9)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化9】
【請求項11】
下記式(10)で表される、請求項
3または
4記載の抗酸化剤。
【化10】
【請求項12】
下記式(6)で表される、請求項
3記載の抗酸化剤:
【化6】
前記式(6)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
【請求項13】
下記式(1)で表される、化合物またはその塩、または請求項
3から
12のいずれか一項に記載の抗酸化剤を含む、細胞保護剤。
【化1】
前記式(1)中、
R
1
およびR
2
は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3
は、-OR
4
または-NHR
5
であり、
R
4
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【請求項14】
下記式(1)で表される、化合物またはその塩、または請求項
3から
12のいずれか一項に記載の抗酸化剤を含む、細胞増殖促進剤。
【化1】
前記式(1)中、
R
1
およびR
2
は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3
は、-OR
4
または-NHR
5
であり、
R
4
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5
は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【請求項15】
請求項
3から
12のいずれか一項に記載の抗酸化剤を
in vitroまたはin vivo(ただし、ヒトを除く)で使用する、酸化防止方法。
【請求項16】
前記抗酸化剤と接触させる接触工程を含む、請求項
15記載の酸化防止方法。
【請求項17】
請求項
13に記載の細胞保護剤を
in vitroまたはin vivo(ただし、ヒトを除く)で使用する、細胞の保護方法。
【請求項18】
細胞と、前記細胞保護剤とを共存させる、請求項
17記載の細胞の保護方法。
【請求項19】
請求項
14に記載の細胞増殖促進剤を
in vitroまたはin vivo(ただし、ヒトを除く)で使用する、細胞増殖の促進方法。
【請求項20】
細胞と、前記細胞増殖促進剤とを共存させる、請求項
19記載の細胞増殖の促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質過酸化反応における脂質ラジカルが関与する疾患は、心血管系、中枢系、呼吸器系、および抗菌薬等の広い疾患領域に及ぶ(非特許文献1)。しかしながら、脂質過酸化反応が原因である疾患には、疾患毎に多数の脂質過酸化物およびその代謝産物が関与しているため、疾患毎に有用な治療薬を探索することは容易ではない。また、多数の抗酸化物質が知られているものの、医薬品として承認されているものは、エダラボン(5-methyl-2-phenyl-2,4-dihydro-3H-pyrazol-3-one、商品名:ラジカット、田辺三菱製薬社製)のみである。このため、脂質過酸化反応の抑制効果を示す薬物を供することが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Jeroen Frijhoff et.al., “Clinical Relevance of Biomarkers of Oxidative Stress.”, Antioxidants & Redox Signaling, Vol. 23, No. 14, pages 1144-1170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、降圧剤であるメチルドパ(アルドメット(登録商標))が、抗酸化剤として機能することを見出した。しかしながら、本発明者らは、メチルドパでは、ペルオキシルラジカル(LOO・)の消去能(LOO・消去能)が、高いものの、LOO・と比較して反応性が高いとされる、アルコキシルラジカル(LO・)の消去能(LO・消去能)が、LOO・消去能と比較して低いという課題を見出した。
【0005】
また、エダラボンについて、LO・消去能とLOO・消去能とを検討したところ、エダラボンでは、LO・とLOO・とに対して同程度の消去能を有していた。このため、抗酸化剤を薬物として適用する場合、前記抗酸化剤は、LO・消去能とLOO・消去能とのバランスが取れている方が望ましいと考えられた。
【0006】
そこで、本発明は、メチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れた化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の化合物またはその塩は、下記式(1)で表される:
【化1】
前記式(1)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4または-NHR
5であり、
R
4は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【0008】
本発明の医薬組成物は、本発明の化合物またはその塩と薬学的に許容される担体とを含む。
【0009】
本発明の抗酸化剤は、下記式(1A)で表される化合物またはその塩を含む:
【化1A】
前記式(1A)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4またはNHR
5であり、
R
4は、アルキル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
【0010】
本発明の細胞保護剤は、本発明の化合物またはその塩、または本発明の抗酸化剤を含む。
【0011】
本発明の細胞増殖促進剤は、本発明の化合物またはその塩、または本発明の抗酸化剤を含む。
【0012】
本発明の酸化防止方法は、本発明の抗酸化剤を使用する。
【0013】
本発明の細胞の保護方法は、本発明の細胞保護剤を使用する。
【0014】
本発明の細胞増殖の促進方法は、本発明の細胞増殖促進剤を使用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物またはその塩は、メチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1における化合物(3)のNMRの測定結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1における化合物(4)のNMRの測定結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1における化合物(5)のNMRの測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2におけるLOO・消去能とLO・消去能とを示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3における細胞生存率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例4における細胞生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<化合物またはその塩>
本発明の化合物またはその塩は、前述のように、下記式(1)で表される:
【化1】
前記式(1)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4または-NHR
5であり、
R
4は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【0018】
本発明の化合物またはその塩は、前記式(1)で表される化合物(以下、「本発明の化合物」ともいう)またはその塩を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の化合物またはその塩は、メチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れている。このため、本発明の化合物またはその塩は、生体において、優れた抗酸化剤として機能すると推定される。以下の説明において、特に言及しない限り、本発明の化合物の説明は、本発明の化合物の塩またはそれらの溶媒和物の説明に援用できる。
【0019】
本発明者らは、メチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れる化合物について鋭意研究の結果、メチルドパのカルボキシル基をエステル化した化合物またはカルボキシル基の水酸基をアミド化し、アルキル基を導入した化合物では、メチルドパと比較して、同等またはそれ以上のLO・消去能を有し、かつLOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れていることを見出して、本発明を完成した。本発明の化合物は、例えば、LOO・消去能とLO・消去能を有し、かつメチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れる。本発明の化合物は、LOO・消去能およびLO・消去能に加えて、脂質ラジカル(L・)等の他の脂質過酸化反応の阻害活性を有してもよい。すなわち、本発明の化合物は、例えば、LOO・および/またはLO・に起因する脂質ラジカル反応の阻害活性に加えて、L・等に起因する脂質過酸化反応の阻害活性を有してもよい。
【0020】
本発明の化合物は、前述のように、アルコキシルラジカル消去能を有する。本発明において、「アルコキシルラジカル消去能」は、例えば、LO・を消去する能力を意味する。前記LO・消去能は、例えば、活性値により評価できる。前記LO・消去能の活性値は、例えば、国際公開公報第2019/009355号公報のリポソーム-Fe
2+系により評価でき、より具体的には、後述の実施例1に準じて測定できる。具体例として、前記LO・消去能の活性値は、下記(i)~(v)のステップで測定できる。
(i)式(A)で表される化合物およびリポソームを含む緩衝液を調製する、
(ii)二価の鉄イオン供給源物質を添加する、
(iii)被検化合物を添加する、
(iv)蛍光を測定する、
(v)蛍光測定の結果から、下記式により被検化合物の活性値を求める。
LO・消去能の活性値=1-(AUC
Sample/AUC
Control)
AUC
Sample:Fe
2+あり、被検化合物あり(n=1)の蛍光強度から算出した曲線下面積
AUC
Control:Fe
2+あり、被検化合物なしの蛍光強度から算出した曲線下面積
【化A】
【0021】
前記(i)において、式(A)で表される化合物の濃度は、例えば、1~20μmol/lであり、典型的には、5μmol/lである。前記リポソームは、例えば、卵黄由来ホスファチジルコリン(Egg PC)およびリン酸水素ジヘキサデシル(DCP)から調製されるものである。前記卵黄由来ホスファチジルコリンの濃度は、例えば、5~10mg/mlであり、典型的には、2.5mg/mlである。前記リン酸水素ジヘキサデシルの濃度は、例えば、0.01~1mg/mlであり、典型的には、0.1mg/mlである。
【0022】
前記(ii)において、二価の鉄イオン供給源物質の濃度は、例えば、0.5~5mmol/lであり、典型的には、1mmol/lである。前記二価の鉄イオン供給源物質は、例えば、硫酸鉄(II)である。
【0023】
前記(iii)において、前記被検化合物の濃度は、5~100μmol/lであり、具体例として、10μmol/lである。
【0024】
前記(iv)において、前記蛍光測定時の励起光の波長は、例えば、470nmとでき、蛍光波長は、例えば、530nmとでき、530nmの蛍光強度を測定できる。前記蛍光の測定時間は、例えば、前記(iii)を基準として、0~240分間、0.1~5分間隔であり、典型的には、180分間、3分間隔である。
【0025】
本発明において、前記LO・消去能の活性値が、例えば、エダラボンを超える場合、当該化合物は、優れたLO・消去能を示すということができる。前記LO・消去能の活性値は、例えば、0.3以上であり、好ましくは、0.4以上である。
【0026】
本発明の化合物は、前述のように、ペルオキシルラジカル消去能を有する。本発明において、「ペルオキシルラジカル消去能」は、例えば、LOO・を消去する能力を意味する。前記LOO・消去能は、例えば、活性値により評価できる。前記LOO・消去能の活性値は、例えば、国際公開公報第2019/009355号公報のリポソーム-AAPH(2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩)系により評価でき、より具体的には、後述の実施例1に準じて測定できる。具体例として、前記LOO・消去能の活性値は、下記(vi)~(x)のステップで測定できる。
(vi)式(A)で表される化合物およびリポソームを含む緩衝液を調製する、
(vii)2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩を添加する、
(viii)被検化合物を添加する、
(ix)蛍光を測定する、
(x)蛍光測定の結果から、下記式により被検化合物の活性値を求める。
LOO・消去能の活性値=1-(FluSample-FluBackground)/(FluControl-FluBackground)
FluSample:AAPHあり、被検化合物あり(n=1)の蛍光強度
FluBackground:AAPHなしの蛍光強度
FluControl:AAPHあり、被検化合物なしの蛍光強度
【0027】
前記(vi)において、式(A)で表される化合物の濃度は、例えば、1~20μmol/lであり、典型的には、5μmol/lである。前記リポソームは、例えば、卵黄由来ホスファチジルコリンおよびリン酸水素ジヘキサデシルから調製されるものである。前記卵黄由来ホスファチジルコリンの濃度は、例えば、5~10mg/mlであり、典型的には、2.5mg/mlである。前記リン酸水素ジヘキサデシルの濃度は、例えば、0.01~1mg/mlであり、典型的には、0.1mg/mlである。
【0028】
前記(vii)において、AAPHの濃度は、例えば、5~50mmol/lであり、典型的には、20mmol/lである。
【0029】
前記(viii)において、前記被検化合物の濃度は、5~100μmol/lであり、具体例として、10μmol/lである。
【0030】
前記(ix)において、前記蛍光測定時の励起光の波長は、例えば、470nmとでき、蛍光波長は、例えば、530nmとでき、530nmの蛍光強度を測定できる。前記蛍光の測定時間は、例えば、前記(viii)を基準として、1~120分後であり、典型的には、30~40分後である。
【0031】
本発明において、前記LOO・消去能の活性値が、例えば、エダラボンを超える場合、当該化合物は、優れたLOO・消去能を示すということができる。前記LOO・消去能の活性値は、例えば、0.3以上であり、好ましくは、0.4以上である。
【0032】
本発明において、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスは、例えば、前記LO・消去能の活性値(R)と、前記LOO・消去能の活性値(L)との比(R/L)により表すことができる。本発明において、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れているとは、例えば、被検化合物のR/Lが、0.5~2の範囲内、0.6~1.67の範囲内、0.7~1.4の範囲内、または0.8~1.25の範囲内であることを意味する。このような範囲に、R/Lを設定することにより、本発明の化合物は、例えば、LO・およびLOO・の両者を好適に捕捉できる。なお、メチルドパのR/Lは、約0.26である。
【0033】
以下、前記式(1)で表される化合物における各置換基について、例を挙げて説明する。各置換基の説明において、特に言及がない場合、他の置換基の説明における具体例を援用できる。また、以下の説明で特に言及がない場合、前記式(1)で表される化合物の説明は、例えば、前記式(1)で表される化合物の塩の説明に援用できる。
【0034】
本発明の化合物は、不斉炭素原子を有する。このため、本発明の化合物は、例えば、ラセミ体、そのRおよびSのエナンチオマー、またはRおよびSの任意の割合の混合物として存在してもよい。本発明の化合物は、2以上の不斉中心を有してもよい。この場合、本発明の化合物は、ジアステレオマーおよびその混合物を含んでもよい。本発明の化合物が分子中に2重結合を有する場合、本発明の化合物は、例えば、シスおよびトランス異性体の幾何異性体の形態を含んでもよい。本発明の化合物は、例えば、D体およびL体、またはその混合物としても存在してもよく、好ましくは、L体である。本発明の化合物をL体とすることにより、例えば、アミノ酸トランスポータにより、本発明の化合物が効率よく細胞内に取り込まれると期待される。
【0035】
R1およびR2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、またはアシル基である。前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~6の直鎖状、分枝状、もしくは環状の飽和または不飽和アルキル基である。具体例として、前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso(i)-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、tert(t)-ブチル基、sec(s)-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、t-ヘキシル基、n-ヘプチル基、i-ヘプチル基、t-ヘプチル基、n-オクチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、t-ノニル基、n-デシル基、i-デシル基、t-デシル基、n-ウンデシル基、i-ウンデシル基、n-ドデシル基、i-ドデシル基、n-トリデシル基、i-トリデシル基、n-テトラデシル基、i-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、i-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、i-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、i-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、i-オクタデシル基、n-ノナデシル基、i-ノナデシル基等があげられる。前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~5の直鎖状の飽和アルキル基が好ましい。
【0036】
前記アシル基(アルカノイル基)は、炭素原子数1~6のアシル基があげられる、前記アシル基は、例えば、フォルミル基、アセチル基、プロピニル基、ブチリル基、iso-ブチリル基(iso-バレリル基)、sec-ブチリル基、tert-ブチリル基(ピバロイル基)、バレリル基、ヘキサニル基(カプロイル基)等があげられる。
【0037】
R1およびR2は、例えば、保護基であってもよい。前記保護基は、例えば、TBS(tert-ブチルジメチルシリル基)、Fmoc基(塩化フルオレニルメチルオキシカルボニル基)、Boc基(tert-ブトキシカルボニル基)、Cbz基(ベンジルオキシカルボニル基)等があげられる。
【0038】
前記式(1)で表される化合物において、アミノ基の水素は、前記保護基に置換されてもよい。
【0039】
ある態様において、前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(2)で表される。
【化2】
【0040】
前記式(2)中、
R1およびR2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基であり、
R4は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【0041】
具体例として、前記式(1)で表される化合物は、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。下記式(3)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(3)で表される化合物は、例えば、s-butyl (2S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(3)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化3】
【0042】
具体例として、前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。下記式(4)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(4)で表される化合物は、例えば、t-butyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(4)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化4】
【0043】
具体例として、前記式(1)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物であることが好ましい。下記式(5)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(5)で表される化合物は、例えば、isobutyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(5)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化5】
【0044】
ある態様において、前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(6)で表される。
【化6】
【0045】
前記式(6)中、
R1およびR2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基であり、
R5は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
【0046】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、異性体でもよい。前記異性体は、例えば、互変異性体または立体異性体があげられる。前記互変異性体または立体異性体は、例えば、理論上可能なすべての互変異性体もしくは立体異性体があげられる。また、本発明において、各置換基の立体配置は、特に制限されない。本発明の化合物は、例えば、前記式(1)で表される化合物またはその塩の水和物等の溶媒和物でもよい。以下、本発明の化合物の説明は、本発明の化合物の塩またはそれらの溶媒和物の説明に援用できる。
【0047】
本発明において、本発明の化合物の塩は、特に制限されず、例えば、薬学的に許容される塩である。本発明の化合物は、例えば、置換基の種類によって、酸付加塩または塩基との塩を形成する。前記薬学的に許容される塩は、特に制限されず、例えば、前記薬学的に許容される塩はナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、ピルビン酸塩、フェニル酢酸塩、安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、アントラニル酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、パモ酸塩、グルコン酸塩、ニコチン酸塩等の脂肪族有機酸または芳香族有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ハロベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、スルファニル酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩等のスルホン酸塩;等があげられる。
【0048】
前記式(1)の化合物およびその塩は、その基本構造あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。前記製造においては、例えば、官能基の種類によっては、保護基を導入して反応を行なった後に、必要に応じて保護基を除去してもよい。前記式(1)の化合物またはその塩は、例えば、メチルドパのカルボキシル基をエステル化、またはカルボキシル基の水酸基をアミド化した後に、アルキル基を導入することにより製造できる。また、前記式(1)の化合物またはその塩は、例えば、必要に応じて、カテコール基の水酸基をアシル化またはエーテル化することにより製造できる。
【0049】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、前述のように、前記本発明の化合物またはその塩と、薬学的に許容される担体とを含む。本発明の医薬組成物は、前記本発明の化合物またはその塩、すなわち、前記式(1)で表されてる化合物またはその塩を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の化合物またはその塩は、前述のように、LO・消去能およびLOO・消去能を有し、かつメチルドパと比較して、LO・消去能とLOO・消去能とのバランスに優れる。このため、本発明の医薬組成物は、例えば、エダラボンが治療に用いられるような、ラジカルに起因する疾患に治療に適用できると期待される。
【0050】
本発明の医薬組成物は、例えば、in vivoで使用してもよいし、in vitroで使用してもよい。
【0051】
本発明の医薬組成物の投与対象は、特に制限されない。本発明の医薬組成物をin vivoで使用する場合、前記投与対象は、例えば、ヒト、またはヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、サル、モルモット等の哺乳類、鳥類、魚類等があげられる。前記本発明の医薬組成物をin vitroで使用する場合、前記投与対象は、例えば、細胞、組織、器官等があげられ、前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞、培養細胞等があげられ、前記組織または器官は、例えば、生体から採取した組織(生体組織)または器官等があげられる。
【0052】
本発明の化合物の使用条件(投与条件)は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。
【0053】
本発明の化合物の投与量は、特に制限されない。本発明の医薬組成物をin vivoで使用する場合、例えば、投与対象の種類、症状、年齢、投与方法等により適宜決定できる。具体例として、ヒトに投与する場合、1日あたりの化合物の投与量は、合計が、例えば、0.01~50mg/kgである。1日あたりの投与回数は、例えば、1~5回である。
【0054】
本発明の医薬組成物の投与形態は、特に制限されず、例えば、経口投与でもよいし、非経口投与でもよい。
【0055】
本発明の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、例えば、前記投与形態に応じて適宜決定できる。前記剤型は、例えば、液体状、固体状があげられる。前記投与形態が経口投与の場合、前記剤型は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等があげられる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、例えば、必要に応じて、添加剤を含んでもよく、本発明の医薬組成物を医薬または医薬組成物として使用する場合、前記添加剤は、薬学的に許容可能な添加剤または薬学的に許容可能な担体を含むことが好ましい。前記添加剤は、特に制限されず、例えば、基剤原料、賦形剤、着色剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、コーティング剤、保存剤、香料等の矯味矯臭剤等があげられる。本発明において、前記添加剤の配合量は、本発明の化合物の機能を妨げるものでなければ、特に制限されない。
【0057】
前記賦形剤は、例えば、乳糖、乳糖水和物、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、αデンプン、デキストリン等のデンプン誘導体;結晶セルロース等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン等の有機系賦形剤;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩誘導体;リン酸水素カルシウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩等の無機系賦形剤があげられる。前記着色剤は、例えば、黄色三二酸化鉄等があげられる。前記滑沢剤は、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;タルク;ポリエチレングリコール;シリカ;硬化植物油等があげられる。前記矯味矯臭剤は、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等の香料、甘味料、酸味料等があげられる。前記結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等があげられる。前記崩壊剤は、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム等の化学修飾デンプンおよび化学修飾セルロース類等があげられる。前記安定剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾール等のフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;ソルビン酸等があげられる。前記コーティング剤は、例えば、ヒプロメロース、マクロゴール6000等のマクロゴール、タルク、酸化チタン等があげられる。
【0058】
<抗酸化剤>
別の態様において、本発明は、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れた抗酸化剤を提供する。本発明の抗酸化剤は、前述のように、下記式(1A)で表される化合物またはその塩を含む:
【化1A】
前記式(1A)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4または-NHR
5であり、
R
4は、アルキル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
【0059】
本発明の抗酸化剤は、前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の抗酸化剤は、前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むため、ラジカルを消去できる。また、本発明の抗酸化剤における化合物またはその塩は、メチルドパと比較して、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れている。このため、本発明の抗酸化剤は、生体において、優れた抗酸化剤として機能すると推定される。以下の説明において、特に言及しない限り、本発明の抗酸化剤における化合物の説明は、本発明の化合物の塩またはそれらの溶媒和物の説明に援用できる。本発明の抗酸化剤は、前記本発明の化合物または塩および医薬組成物の説明を援用できる。
【0060】
本発明において、「抗酸化剤」は、例えば、ラジカルを捕捉する剤を意味する。前記ラジカルは、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)、アルコキシラジカル(アルコキシルラジカル、LO・)、ペルオキシラジカル(ペルオキシルラジカル、LOO・)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、一酸化窒素(NO・)、二酸化窒素(NO2・)、スーパーオキサイドアニオン(O2
-)、脂質ラジカル(L・)等のラジカル種;一重項酸素(1O2)、オゾン(O3)、過酸化水素(H2O2)等の非ラジカル種;等があげられる。本発明の抗酸化剤は、例えば、前記ラジカルのうちいずれか1つを捕捉してもよいし、2つ以上を捕捉してもよい。本発明において、「抗酸化剤」は、いずれか1つ以上のラジカルを捕捉すればよい。前記ラジカルの捕捉は、例えば、ラジカルの消去ということもできる。前記ラジカルの捕捉は、例えば、本発明の抗酸化剤が、前記活性酸素種に水素原子を供与し、前記ラジカルをより安定な他の分子(例えば、水)に変換することにより、実施される。本発明の抗酸化剤は、例えば、ラジカルの消去剤ということもできる。また、本発明の抗酸化剤は、例えば、共存する他の分子のラジカルによる酸化を防止、阻害、または抑制できる。このため、本発明の抗酸化剤は、例えば、酸化防止剤、酸化阻害剤、または酸化抑制剤ということもできる。また、本発明の抗酸化剤は、脂質過酸化に関与するペルオキシルラジカル(LOO・)およびアルコキシルラジカル(LO・)の消去能を有する。このため、本発明の抗酸化剤は、例えば、脂質過酸化の防止、阻害および/または抑制剤、過酸化脂質の発生防止、阻害および/または抑制剤等ということもできる。本発明の抗酸化剤は、LOO・消去能およびLO・消去能に加えて、脂質ラジカル(L・)等の他の脂質過酸化反応の阻害活性を有してもよい。すなわち、本発明の抗酸化剤は、例えば、LOO・および/またはLO・に起因する脂質ラジカル反応の阻害活性に加えて、L・等に起因する脂質過酸化反応の阻害活性を有してもよい。
【0061】
前記ラジカルの捕捉能は、例えば、前述のLO・消去能の活性値またはLOO・消去能の活性値により評価できる。具体的には、被検化合物のLO・消去能の活性値が、所定の値を超える場合、または被検物質のLOO・消去能の活性値が、所定の値を超える場合、前記被検化合物は、ラジカルの捕捉能があるといえる。具体的には、被検化合物のLO・消去能の活性値が、例えば、0.25以上の場合、前記被検化合物は、LO・消去能があるといえる。また、被検化合物のLOO・消去能の活性値が、例えば、0.25以上の場合、前記被検化合物は、LOO・消去能があるといえる。
【0062】
本発明の抗酸化剤は、前述のように、アルコキシルラジカル消去能を有する。本発明において、「アルコキシルラジカル消去能」は、例えば、LO・を消去する能力を意味する。前記LO・消去能は、例えば、前述のように、活性値で評価できる。
【0063】
本発明の抗酸化剤において、前記LO・消去能の活性値が、例えば、エダラボンを超える場合、当該化合物は、優れたLO・消去能を示すということができる。前記LO・消去能の活性値は、例えば、0.3以上であり、好ましくは、0.4以上である。
【0064】
本発明の抗酸化剤において、前記式(1A)で表される化合物は、前述のように、ペルオキシルラジカル消去能を有する。本発明において、「ペルオキシルラジカル消去能」は、例えば、LOO・を消去する能力を意味する。前記LOO・消去能は、例えば、前述のように、活性値により評価できる。
【0065】
本発明の抗酸化剤の前記式(1A)で表される化合物において、前記LOO・消去能の活性値が、例えば、エダラボンを超える場合、当該化合物は、優れたLOO・消去能を示すということができる。前記LOO・消去能の活性値は、例えば、0.3以上であり、好ましくは、0.4以上である。
【0066】
本発明の抗酸化剤において、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスは、例えば、前記LO・消去能の活性値(R)と、前記LOO・消去能の活性値(L)との比(R/L)により表すことができる。本発明の抗酸化剤において、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れているとは、例えば、被検化合物のR/Lが、0.5~2の範囲内、0.6~1.67の範囲内、0.7~1.4の範囲内、または0.8~1.25の範囲内であることを意味する。このような範囲に、R/Lを設定することにより、本発明の抗酸化剤は、例えば、LO・およびLOO・の両者を好適に捕捉できる。なお、メチルドパのR/Lは、約0.26である。
【0067】
以下、前記式(1A)で表される化合物における各置換基について、例を挙げて説明する。各置換基の説明において、特に言及がない場合、他の置換基の説明における具体例を援用できる。また、以下の説明で特に言及がない場合、前記式(1A)で表される化合物の説明は、例えば、前記式(1A)で表される化合物の塩の説明に援用できる。
【0068】
前記式(1A)で表される化合物は、不斉炭素原子を有する。このため、前記式(1A)で表される化合物は、例えば、ラセミ体、そのRおよびSのエナンチオマー、またはRおよびSの任意の割合の混合物として存在してもよい。前記式(1A)で表される化合物は、2以上の不斉中心を有してもよい。この場合、前記式(1A)で表される化合物は、ジアステレオマーおよびその混合物を含んでもよい。前記式(1A)で表される化合物が分子中に2重結合を有する場合、前記式(1A)で表される化合物は、例えば、シスおよびトランス異性体の幾何異性体の形態を含んでもよい。前記式(1A)で表される化合物は、例えば、D体およびL体、またはその混合物としても存在してもよく、好ましくは、L体である。前記式(1A)で表される化合物をL体とすることにより、例えば、アミノ酸トランスポータにより、前記式(1A)で表される化合物が効率よく細胞内に取り込まれると期待される。
【0069】
R1およびR2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、またはアシル基である。前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~6の直鎖状、分枝状、もしくは環状の飽和または不飽和アルキル基である。具体例として、前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso(i)-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、tert(t)-ブチル基、sec(s)-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、t-ヘキシル基、n-ヘプチル基、i-ヘプチル基、t-ヘプチル基、n-オクチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、t-ノニル基、n-デシル基、i-デシル基、t-デシル基、n-ウンデシル基、i-ウンデシル基、n-ドデシル基、i-ドデシル基、n-トリデシル基、i-トリデシル基、n-テトラデシル基、i-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、i-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、i-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、i-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、i-オクタデシル基、n-ノナデシル基、i-ノナデシル基等があげられる。前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~5の直鎖状の飽和アルキル基が好ましい。
【0070】
前記アシル基(アルカノイル基)は、炭素原子数1~6のアシル基があげられる、前記アシル基は、例えば、フォルミル基、アセチル基、プロピニル基、ブチリル基、iso-ブチリル基(iso-バレリル基)、sec-ブチリル基、tert-ブチリル基(ピバロイル基)、バレリル基、ヘキサニル基(カプロイル基)等があげられる。
【0071】
R1およびR2は、例えば、保護基であってもよい。前記保護基は、例えば、TBS(tert-ブチルジメチルシリル基)、Fmoc基(塩化フルオレニルメチルオキシカルボニル基)、Boc基(tert-ブトキシカルボニル基)、Cbz基(ベンジルオキシカルボニル基)等があげられる。
【0072】
R4は、アルキル基である。前記アルキル基は、好ましくは、エチル基、プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、より好ましくは、sec-ブチル基またはtert-ブチル基である。
【0073】
R5は、水素原子またはアルキル基である。前記アルキル基は、好ましくは、エチル基、プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、より好ましくは、sec-ブチル基またはtert-ブチル基である。
【0074】
前記式(1A)で表される化合物において、アミノ基の水素は、前記保護基に置換されてもよい。
【0075】
ある態様において、前記式(1A)で表される化合物は、例えば、下記式(2)で表される。
【化2】
【0076】
前記式(2)中、
R1およびR2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基であり、
R4は、アルキル基である。
【0077】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。下記式(3)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(3)で表される化合物は、例えば、s-butyl (2S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(3)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化3】
【0078】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。下記式(4)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(4)で表される化合物は、例えば、t-butyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(4)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化4】
【0079】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物であることが好ましい。下記式(5)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(5)で表される化合物は、例えば、isobutyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(5)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化5】
【0080】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(7)で表される化合物であることが好ましい。下記式(7)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(7)で表される化合物は、例えば、propyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(7)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化7】
【0081】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(8)で表される化合物であることが好ましい。下記式(8)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(8)で表される化合物は、例えば、isopropyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(8)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化8】
【0082】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(9)で表される化合物であることが好ましい。下記式(9)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(9)で表される化合物は、例えば、butyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateいうこともできる。下記式(9)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化9】
【0083】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(10)で表される化合物であることが好ましい。下記式(10)で表される化合物は、例えば、前記LO・消去能と前記LOO・消去能とにより優れ、かつ前記LO・消去能と前記LOO・消去能とのバランスが優れている。下記式(10)で表される化合物は、例えば、ethyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(10)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化10】
【0084】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(11)で表される化合物である。下記式(11)で表される化合物は、例えば、methyl (S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanoateということもできる。下記式(11)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化11】
【0085】
ある態様において、前記式(1A)で表される化合物は、例えば、下記式(6)で表される。
【化6】
【0086】
前記式(6)中、
R1およびR2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基であり、
R5は、水素原子またはアルキル基である。
【0087】
具体例として、前記式(1A)で表される化合物は、下記式(12)で表される化合物である。下記式(12)で表される化合物は、例えば、(S)-2-amino-3-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-methylpropanamideということもできる。下記式(12)で表される化合物は、塩酸塩を形成してもよい。
【化12】
【0088】
前記式(1A)で表される化合物は、例えば、異性体でもよい。前記異性体は、例えば、互変異性体または立体異性体があげられる。前記互変異性体または立体異性体は、例えば、理論上可能なすべての互変異性体もしくは立体異性体があげられる。また、本発明において、各置換基の立体配置は、特に制限されない。本発明の抗酸化剤は、例えば、前記式(1A)で表される化合物またはその塩の水和物等の溶媒和物を含んでもよい。以下、前記式(1A)で表される化合物の説明は、本発明の化合物の塩またはそれらの溶媒和物の説明に援用できる。
【0089】
本発明の抗酸化剤において、前記式(1A)で表される化合物の塩は、特に制限されず、例えば、薬学的に許容される塩である。前記式(1A)で表される化合物は、例えば、置換基の種類によって、酸付加塩または塩基との塩を形成する。前記薬学的に許容される塩は、特に制限されず、例えば、前記薬学的に許容される塩はナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、ピルビン酸塩、フェニル酢酸塩、安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、アントラニル酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、パモ酸塩、グルコン酸塩、ニコチン酸塩等の脂肪族有機酸または芳香族有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ハロベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、スルファニル酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩等のスルホン酸塩;等があげられる。
【0090】
前記式(1A)の化合物およびその塩は、その基本構造あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。前記製造においては、例えば、官能基の種類によっては、保護基を導入して反応を行なった後に、必要に応じて保護基を除去してもよい。前記式(1A)の化合物またはその塩は、例えば、メチルドパのカルボキシル基をエステル化、またはカルボキシル基の水酸基をアミド化した後に、アルキル基を導入することにより製造できる。また、前記式(1A)の化合物またはその塩は、例えば、必要に応じて、カテコール基の水酸基をアシル化またはエーテル化することにより製造できる。
【0091】
本発明の抗酸化剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の抗酸化剤の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の化合物の投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0092】
<細胞保護剤>
別の態様において、本発明は、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れることにより、細胞保護活性を示す化合物を提供する。本発明の細胞保護剤(以下、「保護剤」ともいう)は、前述のように、前記本発明の化合物またはその塩、または本発明の抗酸化剤を含む。本発明の保護剤は、前記本発明の化合物またはその塩、または前記本発明の抗酸化剤を含むこと、すなわち、前記式(1)もしくは前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の保護剤は、前記式(1)もしくは前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むため、ラジカルを消去できる。このため、本発明の細胞保護剤は、前記ラジカルによる細胞の障害を抑制できると推定される。本発明の保護剤は、前記本発明の化合物または塩、医薬組成物および抗酸化剤の説明を援用できる。
【0093】
本発明において、「細胞保護」は、前記本発明の細胞保護剤の非存在下(非投与条件)と比較して、細胞の障害が(有意に)抑制されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、細胞の障害が進行していてもよい。この場合、前記「細胞保護」は、例えば、「細胞障害の抑制」等ということもできる。前記細胞の障害は、例えば、細胞の機能低下または機能不全を意味し、細胞の代謝、膜透過性等により評価できる。
【0094】
前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞、培養細胞等の細胞でもよいし、細胞から構成される細胞シート、細胞塊(スフェロイド)、組織、または臓器でもよい。
【0095】
本発明の保護剤は、例えば、ラジカルに起因する細胞死からの細胞の保護、特に、フェロトーシスに起因する細胞死からの細胞の保護に好適に利用できる。前記「フェロトーシス」は、酸化脂質により生じる細胞死を意味する。
【0096】
本発明の細胞保護剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の細胞保護剤の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の化合物の投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0097】
<細胞増殖促進剤>
別の態様において、本発明は、細胞増殖を促進可能な化合物を提供する。本発明の細胞増殖促進剤(以下、「促進剤」ともいう)は、前述のように、本発明の化合物またはその塩、または前記本発明の抗酸化剤を含む。本発明の促進剤は、前記本発明の化合物またはその塩、または前記本発明の抗酸化剤を含むこと、すなわち、前記式(1)もしくは前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の促進剤は、前記式(1)もしくは前記式(1A)で表される化合物またはその塩を含むことにより、細胞増殖を促進できる。本発明の保護剤は、前記本発明の化合物または塩、医薬組成物および抗酸化剤の説明を援用できる。
【0098】
本発明において、「細胞増殖の促進」は、前記本発明の促進剤の非存在下(非投与条件)と比較して、細胞増殖が(有意に)向上されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、細胞増殖が低下していてもよい。この場合、前記「細胞増殖の促進」は、例えば、「細胞増殖の低下の抑制」等ということもできる。
【0099】
前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞、培養細胞等の細胞でもよいし、細胞から構成される細胞シート、細胞塊(スフェロイド)、組織、または臓器でもよい。前記細胞は、例えば、神経細胞等があげられる。
【0100】
本発明の促進剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の促進剤の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の化合物の投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0101】
<酸化防止方法>
別の態様において、本発明は、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れた酸化防止方法を提供する。本発明の酸化防止方法は、前述のように、前記本発明の抗酸化剤を使用する。本発明の酸化防止方法は、前記本発明の抗酸化剤を使用すること、すなわち、前記前記式(1A)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の酸化防止方法は、前記本発明の抗酸化剤を使用するため、ラジカルを捕捉できる。このため、本発明の酸化防止方法によれば、例えば、共存する他の分子の酸化を防止できる。本発明の酸化防止方法は、前記本発明の化合物または塩、医薬組成物、および抗酸化剤の説明を援用できる。
【0102】
本発明の酸化防止方法は、例えば、共存する他の分子のラジカルによる酸化を抑制または阻害できる。このため、本発明の酸化防止方法は、例えば、酸化抑制方法または酸化阻害方法ということもできる。本発明の抗酸化剤は、脂質過酸化に関与するペルオキシルラジカル(LOO・)およびアルコキシルラジカル(LO・)の消去能を有する。このため、本発明の酸化防止方法は、例えば、脂質過酸化の防止、阻害および/または抑制方法、過酸化脂質の発生防止、阻害および/または抑制方法等ということもできる。
【0103】
本発明の酸化防止方法は、例えば、前記抗酸化剤と接触させる接触工程を含む。より具体的には、本発明の酸化防止方法は、例えば、酸化防止対象と、前記抗酸化剤とを接触させる接触工程を含む。本発明の酸化防止方法は、例えば、前記接触工程に代えてまたは加えて、前記抗酸化剤と共存させる共存工程を含んでもよい。より具体的には、前記共存工程は、例えば、酸化防止対象と、前記抗酸化剤と共存させる。前記共存は、例えば、前記抗酸化剤を酸化防止対象と、同一の剤、組成物、または他の成分と分離した空間内に同時に存在させることを意味する。
【0104】
前記酸化防止対象は、特に制限されず、任意の対象とできる。
【0105】
本発明の酸化防止方法は、前記本発明の抗酸化剤に代えてまたは加えて、前記本発明の化合物またはその塩を用いてもよい。
【0106】
本発明の酸化防止方法において、前記接触工程および共存工程は、例えば、in vitroまたはin vivoで行なってもよい。本発明の抗酸化剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の化合物における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0107】
<細胞の保護方法>
別の態様において、本発明は、LOO・消去能とLO・消去能とのバランスに優れることにより、細胞保護可能な方法を提供する。本発明の細胞の保護方法(以下、「保護方法」ともいう)は、前述のように、前記本発明の細胞保護剤を使用する。本発明の保護方法は、前記本発明の細胞保護剤を使用すること、すなわち、前記式(1)もしくは式(1A)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の保護方法は、前記本発明の保護剤を使用するため、ラジカルを捕捉できる。このため、本発明の保護方法は、前記ラジカルによる細胞の障害を抑制できると期待される。本発明の保護方法は、前記本発明の化合物または塩、抗酸化剤、医薬組成物、および細胞保護剤の説明を援用できる。
【0108】
本発明の保護方法は、例えば、細胞と、前記細胞保護剤とを共存させる共存工程を含む。前記共存工程では、前記細胞と、前記細胞保護剤とを接触させてもよい。この場合、前記共存工程は、例えば、接触工程ということもできる。
【0109】
本発明の保護方法において、前記共存工程は、例えば、in vitroまたはin vivoで行なってもよい。本発明の保護剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の抗酸化剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0110】
<細胞増殖の促進方法>
別の態様において、本発明は、細胞増殖を促進可能な方法を提供する。本発明の細胞増殖の促進方法(以下、「促進方法」ともいう)は、前述のように、前記本発明の細胞増殖促進剤を使用する。本発明の促進方法は、前記本発明の促進剤を使用すること、すなわち、前記前記式(1)もしくは式(1A)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の促進方法は、前記本発明の促進剤を使用するため、細胞増殖を促進できる。本発明の促進方法は、前記本発明の化合物または塩、抗酸化剤、医薬組成物、細胞保護剤、および細胞増殖促進剤の説明を援用できる。
【0111】
本発明の促進方法は、例えば、細胞と、前記促進剤とを共存させる共存工程を含む。前記共存工程では、前記細胞と、前記促進剤とを接触させてもよい。この場合、前記共存工程は、例えば、接触工程ということもできる。
【0112】
本発明の促進方法において、前記共存工程は、例えば、in vitroまたはin vivoで行なってもよい。本発明の促進剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の抗酸化剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0113】
<化合物またはその塩の使用>
本発明は、抗酸化に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物またはその塩の使用であり、細胞保護に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物もしくはその塩、またはその使用であり、細胞増殖の促進に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物もしくはその塩、またはその使用である。また、本発明は、抗酸化剤を製造するための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物もしくはその塩の使用であり、細胞保護剤を製造するための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物もしくはその塩の使用であり、細胞増殖促進剤を製造するための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物もしくはその塩の使用である。なお、前記式(1)または式(1A)で表される化合物は、前記本発明の化合物における式(1)で表される化合物でもよいし、前記本発明の抗酸化剤における式(1)または式(1A)で表される化合物でもよい。本発明は、例えば、前記本発明の化合物またはその塩、医薬組成物、抗酸化剤、保護剤、促進剤、酸化防止方法、保護方法、および促進方法の説明を援用できる。
【実施例】
【0114】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0115】
[実施例1]
以下に示す合成例により、式(3)~(5)および(7)~(9)で表されるで表される化合物を得た。
【0116】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)は、質量分析装置(LCMS-2020、株式会社島津製作所社製)を用い、ポジティブイオンモードで実施した。分析条件は、下記の通りである。
インターフェース:
Interface :ESI
DL Temperature :250℃
Nebulizing Gas Frow :1.5 l/min
Heat Block :250℃
Drying Gas :On(15.00 l/min)
カラム:
Column Name : Ascentis Express C18(SIGMA社製)
Length : 50 mm
Internal Diameter : 3.0 mm
Description : 2.7μm
ポンプ:
Mode : Binary gradient
Pump A : LC-30AD
Pump B : LC-30AD
Total Flow : 1.5 ml/min
B Conc. : 5.0 %
オーブン:
Oven Temperature : 40℃
PDA:
PDA Model : SPD-M20A
Lamp : D2
Start Wavelength : 190 nm
End Wavelength : 400 nm
溶媒:
移動相A:水/0.05% トリフルオロ酢酸(TFA)
移動相B:アセトニトリル/0.05% TFA
タイムプログラム(グラジエント):
時間(分) 0 2 2.7
移動相A 95 0 0
移動相B 5 100 100
【0117】
(化合物(1b)の合成)
下記スキーム1に基づき、メチルドパ(化合物(1a))から化合物(1b)を合成した。
【化B】
【0118】
(化合物(1c)の合成)
下記スキーム2に基づき、化合物(1b)から化合物(1c)を合成した。
【化C】
【0119】
(化合物(3a)の合成)
下記スキーム3に基づき、化合物(1c)から化合物(3a)を合成した。
【化D】
【0120】
(化合物(3)の合成)
下記スキーム4に基づき、化合物(3a)から化合物(3)を合成した。物性値を以下に示す。また、NMRの測定結果を
図1に示す。
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 268.15, calculated for [(M+H)+] = 268.15
【化E】
【0121】
(化合物(1d)の合成)
下記スキーム5に基づき、化合物(1c)から化合物(1d)を合成した。
【化F】
【0122】
(化合物(4a)の合成)
下記スキーム6に基づき、化合物(1d)から化合物(4a)を合成した。
【化G】
【0123】
(化合物(4)の合成)
下記スキーム7に基づき、化合物(4a)から化合物(4)を合成した。物性値を以下に示す。また、NMRの測定結果を
図2に示す。
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 268.05, calculated for [(M+H)+] = 268.15
【化H】
【0124】
(化合物(5)の合成)
下記スキーム8に基づき、化合物(1a)から化合物(5)を合成した。物性値を以下に示す。また、NMRの測定結果を
図3に示す。
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 268.10, calculated for [(M+H)+] = 268.15
【化I】
【0125】
(化合物(7)の合成)
下記スキーム9に基づき、化合物(1c)から化合物(7)を合成した。
【化J】
【0126】
(化合物(8a)の合成)
下記スキーム10に基づき、化合物(1c)から化合物(8a)を合成した。
【化K】
【0127】
(化合物(8)の合成)
下記スキーム11に基づき、化合物(8a)から化合物(8)を合成した。
【化L】
【0128】
(化合物(9a)の合成)
下記スキーム12に基づき、化合物(1c)から化合物(9a)を合成した。
【化M】
【0129】
(化合物(9)の合成)
下記スキーム13に基づき、化合物(9a)から化合物(9)を合成した。
【化N】
【0130】
[実施例2]
本発明の化合物または本発明の抗酸化剤が、前記LO・消去能と前記LOO・消去能を有し、かつメチルドパと比較して、前記LO・消去能と前記LOO・消去能のバランスに優れることを確認した。
【0131】
(1)LO・消去能の活性値の測定
リン酸緩衝液(10mmol/l、pH 7.4、2.0%アセトニトリル)中にリポソーム(10 mg/ml Egg PC、0.4 mg/ml DCP)およびNBD-TEEPO化合物(前記式(A)で表される化合物)20 μmol/lを含む溶液Aと、蒸留水中にFeSO4 4.0 mmol/lを含む溶液Bを調製した。10μlの溶液AおよびBを、それぞれMultidrop Combi(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて分注し、混合した。終濃度は、リン酸緩衝液(10mmol/l、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、1%ジメチルスルホキシド(DMSO))中に、リポソーム(2.5 mg/ml Egg PC、0.1 mg/ml DCP)、NBD-TEEPO化合物 5.0μmol/l、被検化合物10μmol/l、FeSO4 1.0 mmol/lとなった。前記被検化合物は、実施例として、前記式(3)~(5)および(7)~(10)で表される化合物、比較例として、前記式(1a)で表される化合物(メチルドパ)、参考例として、エダラボン、およびSCREEN-WELL(登録商標) FDA approved drug library(Enzo Life Sciences社製)を用い、これらを、DMSOに溶解して用いた。
【0132】
そして、37℃でインキュベートしながら、混合時を基準として、3分間隔で、180分後まで蛍光強度を経時的に測定した。蛍光強度の測定条件は、励起波長が470nm、蛍光波長が530nmにおける蛍光強度とした。そして、得られた蛍光強度から曲線を作製し、これに基づき、前述の式を用いて、LO・消去能の活性値を算出した。
【0133】
(2)LOO・消去能の活性値の測定
リン酸緩衝液(10mmol/l、pH 7.4、2.0%アセトニトリル)中に、リポソーム(10 mg/ml Egg PC、0.4 mg/ml DCP)およびNBD-TEEPO化合物を(20 μmol/l)を含む溶液Aと、リン酸緩衝液(10 mmol/l、pH 7.4)中にAAPH 80 mmol/lを含む溶液Bとを調製した。10μlの溶液AおよびBを、それぞれMultidrop Combiを用いて分注し、混合した。終濃度は、リン酸緩衝液(10 mmol/l、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、1%DMSO)中に、リポソーム(2.5 mg/ml Egg PC、0.1 mg/ml DCP)、NBD-TEEPO化合物 5.0 μmol/l、前記各被検化合物 10 μmol/l、AAPH 20 mmol/lとなった。
【0134】
そして、37℃でインキュベートしながら、混合時を基準として、40分後の蛍光強度を測定した。蛍光強度の測定条件は、励起波長が470nm、蛍光波長が530nmにおける蛍光強度とした。そして、得られた蛍光強度に基づき、前述の式を用いて、LOO・消去能の活性値を算出した。
【0135】
(3)結果
これらの結果を
図4および下記表1に示す。
図4は、LO・消去能とLOO・消去能を示すグラフである。
図4において、横軸は、LOO・消去能(AAPH刺激)を示し、縦軸は、LO・消去能(Fe刺激)を示す。
図4および下記表1に示すように、実施例の化合物はいずれもエダラボンと比較して、優れたLO・消去能およびLOO・消去能を示した。また、メチルドパのR/Lは、0.26であるのに対して、前記式(3)~(5)および(7)~(10)の化合物のR/Lは、それぞれ、1.04、1.07、1.19、0.88、0.95、1.04、および0.78であり、LO・消去能およびLOO・消去能とのバランスに優れていた。さらに、前記式(3)~(5)の化合物は、メチルドパと比較して、LO・消去能に優れていた。
【0136】
【0137】
以上のことから、本発明の化合物および本発明の抗酸化剤が、LO・消去能およびLOO・消去能を有し、かつメチルドパと比較して、LO・消去能およびLOO・消去能のバランスに優れることがわかった。また、LO・消去能およびLOO・消去能を有する化合物は、ラジカルから細胞を保護できることが知られている。このため、本発明の化合物は、抗酸化剤としてだけでなく、細胞保護剤としても極めて優れていると期待される。
【0138】
[実施例3]
本発明の化合物によりフェロトーシスを効果的に抑制できること、および本発明の化合物が細胞増殖促進能を有することを確認した。
【0139】
96well flat-bottom plateに、マウス海馬ニューロン細胞(HT-22、Merck社)を、5.0×103 cells/100μl/wellとなるように播種し、24時間培養した。前記ニューロンは、購入後4回継代したものを用いた。前記培養における培地は、10%ウシ胎仔血清(ナカライテスク社)および1×penicillin/streptomycin(ナカライテスク社)含有DMEM(High Glucose、Nacalai tesque社)培地を用いた。また、培養条件は、37℃、5%CO2の湿潤環境下とした。
【0140】
前記培養後、前記式(3)~(5)で表される化合物またはメチルドパおよびフェロトーシス誘導剤(エラスチン(Cayman Chemical Company社製)、RSL-3(Sigma-Aldrich社製))を含有するサンプル溶液を100μl/wellで添加した。前記式(3)~(5)で表される化合物またはメチルドパは、各ウェルにおける終濃度が、所定濃度(0(コントロール)、1、3、または10μmol/l)となるように添加した。前記フェロトーシス誘導剤は、各ウェルにおける終濃度が、所定濃度(エラスチン:0.2μmol/l、RSL-3:0.05μmol/l)となるように添加した。前記添加後に、MTT試薬(ナカライテスク社製)を15μl/wellで添加し、前記培養条件で、2時間培養した。
【0141】
つぎに、各wellから培地を吸引し、DMSOを100μl/wellで添加後、各wellについて、EnSpireプレートリーダー(PerkinElmer社製)を用いて、570nmおよび650nmの吸光度を測定した。各wellの細胞の生存率の指標値には、ホルマザン色素の吸光度(570nm)とバックグラウンドの吸光度(650nm)とを用いた。また、コントロール群は、前記式(3)~(5)で表される化合物またはメチルドパおよびフェロトーシス誘導剤を添加しない以外は、同様にして、指標値を求めた。そして、コントロールの指標値を生存率100%として、各薬剤処理群の細胞生存率の相対値を算出した。これらの結果を
図5に示す。
【0142】
図5は、細胞の生存率を示すグラフである。
図5において、横軸は、サンプルの種類または前記式(3)~(5)で表される化合物もしくはメチルドパの濃度を示し、縦軸は、細胞の生存率を示す。各グラフにおいて、各バーは左から、コントロール(ctrl)、前記式(3)~(5)で表される化合物またはメチルドパの濃度が、0(-)、1、3、または10μmol/lの結果を示す。
図5に示すように、前記式(3)~(5)で表される化合物は、濃度依存的に、フェロトーシスを抑制した。また、前記式(3)~(5)で表される化合物は、メチルドパと比較して、フェロトーシスの抑制の程度が有意に高かった。前述のように、前記式(3)~(5)で表される化合物は、メチルドパと比較して、LO・消去能およびLOO・消去能のバランスに優れている。このため、前記式(3)~(5)で表される化合物は、フェロトーシスの要因となるこれらのラジカルを効果的に消去することにより、細胞保護機能を奏していると推定された。
【0143】
また、
図5に示すように、前記式(3)~(5)で表される化合物の濃度が、10μmol/lの群では、いずれもコントロールと比較して、細胞の生存率が向上していた。すなわち、細胞増殖が向上していた。このため、本発明の化合物は、細胞増殖促進能を有することがわかった。
【0144】
以上のことから、本発明の化合物により、フェロトーシスを効果的に抑制できること、および本発明の化合物が細胞増殖促進能を有することがわかった。
【0145】
[実施例4]
本発明の化合物が細胞増殖促進能を有することを確認した。
【0146】
前記実施例3と同様にして、96well flat-bottom plateに、前記マウス海馬ニューロン細胞を播種し、24または48時間培養した。前記培養前に、前記式(3)~(5)で表される化合物を含有するサンプル溶液を100μl/wellで添加した。前記式(3)~(5)で表される化合物は、各ウェルにおける終濃度が、所定濃度(0(コントロール)、3、または10μmol/l)となるように添加した。前記培養後に、MTT試薬(ナカライテスク社製)を15μl/wellで添加し、前記培養条件で、2時間培養した。
【0147】
前記培養後の各ウェルについて、前記実施例3と同様にして、指標値を求めた。そして、コントロールの指標値を生存率100%として、各薬剤処理群の細胞生存率の相対値を算出した。これらの結果を
図6に示す。
【0148】
図6は、細胞の生存率を示すグラフである。
図6において、横軸は、サンプルの種類または前記式(3)~(5)で表される化合物の濃度を示し、縦軸は、細胞の生存率を示す。
図6において、(A)は、24時間培養後の結果を示し、(B)は、48時間後の結果を示す。
図6に示すように、前記式(3)~(5)で表される化合物は、いずれもコントロールと比較して、細胞の生存率が向上していた。すなわち、細胞増殖が向上していた。このため、本発明の化合物は、細胞増殖促進能を有することが確認された。また、本発明の化合物は、前述のように、抗酸化剤として機能する。このため、本発明の化合物は、細胞における抗酸化機能により、細胞増殖の促進ししていると推定された。
【0149】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0150】
この出願は、2020年2月14日に出願された日本出願特願2020-023164および日本出願特願2020-023221を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【0151】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
下記式(1)で表される、化合物またはその塩:
【化1】
前記式(1)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4または-NHR
5であり、
R
4は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基であり、
R
5は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
(付記2)
下記式(2)で表される、付記1記載の化合物またはその塩:
【化2】
前記式(2)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
4は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
(付記3)
下記式(3)で表される、付記1または2記載の化合物またはその塩。
【化3】
(付記4)
下記式(4)で表される、付記1または2記載の化合物またはその塩。
【化4】
(付記5)
下記式(5)で表される、付記1または2記載の化合物またはその塩。
【化5】
(付記6)
下記式(6)で表される、付記1記載の化合物またはその塩:
【化6】
前記式(6)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
5は、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはiso-ブチル基である。
(付記7)
付記1から6のいずれかに記載の化合物またはその塩と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
(付記8)
下記式(1A)で表される化合物またはその塩を含む、抗酸化剤:
【化1A】
前記式(1A)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
3は、-OR
4またはNHR
5であり、
R
4は、アルキル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
(付記9)
下記式(2)で表される、付記8記載の抗酸化剤:
【化2】
前記式(2)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
4は、アルキル基である。
(付記10)
下記式(3)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化3】
(付記11)
下記式(4)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化4】
(付記12)
下記式(5)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化5】
(付記13)
下記式(7)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化7】
(付記14)
下記式(8)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化8】
(付記15)
下記式(9)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化9】
(付記16)
下記式(10)で表される、付記8または9記載の抗酸化剤。
【化10】
(付記17)
下記式(6)で表される、付記8記載の抗酸化剤:
【化6】
前記式(6)中、
R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアシル基であり、
R
5は、水素原子またはアルキル基である。
(付記18)
付記1から6のいずれかに記載の化合物またはその塩、または付記8から17のいずれかに記載の抗酸化剤を含む、細胞保護剤。
(付記19)
付記1から6のいずれかに記載の化合物またはその塩、または付記8から17のいずれかに記載の抗酸化剤を含む、細胞増殖促進剤。
(付記20)
付記8から17のいずれかに記載の抗酸化剤を使用する、酸化防止方法。
(付記21)
前記抗酸化剤と接触させる接触工程を含む、付記20記載の酸化防止方法。
(付記22)
付記18記載の細胞保護剤を使用する、細胞の保護方法。
(付記23)
細胞と、前記細胞保護剤とを共存させる、付記22記載の細胞の保護方法。
(付記24)
付記19記載の細胞増殖促進剤を使用する、細胞増殖の促進方法。
(付記25)
細胞と、前記細胞増殖促進剤とを共存させる、付記24記載の細胞増殖の促進方法。
(付記26)
抗酸化に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物またはその塩の使用。
(付記27)
細胞保護に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物またはその塩の使用。
(付記28)
細胞増殖促進に用いるための、前記式(1)または式(1A)で表される化合物またはその塩の使用。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上説明したように、本発明の化合物またはその塩は、メチルドパと比較して、LO・消去能およびLOO・消去能とのバランスに優れている。このため、本発明の化合物は、例えば、エダラボンが治療に用いられるような、ラジカルに起因する疾患に治療に適用できると期待される。このため、本発明は、医薬等の分野において、極めて有用といえる。