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特許7636053切り屑除去方法、および、切り屑除去システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】切り屑除去方法、および、切り屑除去システム
(51)【国際特許分類】
   B23B 47/34 20060101AFI20250218BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
B23B47/34 A
B23Q11/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024147725
(22)【出願日】2024-08-29
【審査請求日】2024-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524321814
【氏名又は名称】株式会社近藤鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝紀
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078330(JP,A)
【文献】特開2003-200330(JP,A)
【文献】登録実用新案第3054116(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2024/0024956(US,A1)
【文献】実開昭54-046086(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 47/34
B23B 51/06
B23Q 11/00
B23Q 11/10
B23C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用する工具を自動で交換可能な工作機械であって、ワーク又は前記工具の何れかを回転させることにより前記ワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能な前記工作機械における工具取付部に取り付けられる流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
前記流体噴出工具として、
前記工具取付部に取り付けられる側である元部側が開口した管状とされ、
工具軸方向に延びていて、前記工具取付部の内部を通って射出される前記流体を通す内部流路部と、
前記元部とは反対の先端部側に設けられ、前記内部流路部の内周面から当該流体噴出工具の外部に貫通し、前記内部流路部を通った前記流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部と、を備え、
前記側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が前記元部寄りになるように、前記工具軸方向に直交する工具径方向よりも前記工具軸方向へ所定の角度で傾斜しており、
前記先端部には、当該流体噴出工具の軸心に沿って前記内部流路部の内先端面から当該流体噴出工具の外部に貫通する先端貫通孔部が設けられているものを用い、
止まり穴又は止まり穴のねじ穴である有底穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記加工工程によって形成された前記有底穴部の中に前記流体噴出工具を挿入して当該有底穴部内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる挿入ステップと、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法。
【請求項2】
使用する工具を自動で交換可能な工作機械であって、ワーク又は前記工具の何れかを回転させることにより前記ワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能な前記工作機械と、
前記工作機械における工具取付部に取り付けられる流体噴出工具と、を備え、
前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記流体噴出工具は、
前記工具取付部に取り付けられる側である元部側が開口した管状とされ、
工具軸方向に延びていて、前記工具取付部の内部を通って射出される前記流体を通す内部流路部と、
前記元部とは反対の先端部側に設けられ、前記内部流路部の内周面から当該流体噴出工具の外部に貫通し、前記内部流路部を通った前記流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部と、を備え、
前記側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が前記元部寄りになるように、前記工具軸方向に直交する工具径方向よりも前記工具軸方向へ所定の角度で傾斜しており、
前記先端部には、当該流体噴出工具の軸心に沿って前記内部流路部の内先端面から当該流体噴出工具の外部に貫通する先端貫通孔部が設けられており、
前記制御部は、
止まり穴又は止まり穴のねじ穴である有底穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記加工工程によって形成された前記有底穴部の中に前記流体噴出工具を挿入して当該有底穴部内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる工具挿入処理と、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システム。
【請求項3】
請求項に記載の切り屑除去システムであって、
前記制御部は、前記工具挿入処理において、前記加工工程におけるワークの加工位置と同じ位置に前記流体噴出工具を移動させることを特徴とする切り屑除去システム。
【請求項4】
請求項に記載の切り屑除去システムであって、
前記制御部は、前記工具挿入処理において、前記加工工程における工具の挿入深さを超えない深さで、前記流体噴出工具を前記有底穴部に挿入することを特徴とする切り屑除去システム。
【請求項5】
請求項に記載の切り屑除去システムであって、
前記制御部は、前記切り屑除去処理において、前記加工工程における工具の回転数に対応する回転数で前記流体噴出工具を回転させることを特徴とする切り屑除去システム。
【請求項6】
請求項に記載の切り屑除去システムであって、
前記制御部は、前記切り屑除去処理において、前記加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度で前記流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させることを特徴とする切り屑除去システム。
【請求項7】
使用する工具を自動で交換可能な工作機械であって、ワーク又は前記工具の何れかを回転させることにより前記ワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能な前記工作機械における工具取付部に取り付けられる流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
前記流体噴出工具として、
前記工具取付部に取り付けられる側である元部側が開口した管状とされ、
工具軸方向に延びていて、前記工具取付部の内部を通って射出される前記流体を通す内部流路部と、
前記元部とは反対の先端部側に設けられ、前記内部流路部の内周面から当該流体噴出工具の外部に貫通し、前記内部流路部を通った前記流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部と、を備え、
前記側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が前記元部寄りになるように、前記工具軸方向に直交する工具径方向よりも前記工具軸方向へ所定の角度で傾斜しており、
前記先端部には、当該流体噴出工具の軸心に沿って前記内部流路部の内先端面から当該流体噴出工具の外部に貫通する先端貫通孔部が設けられているものを用い、
ねじが切られていない止まり穴を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記加工工程によって形成された前記止まり穴の中に前記流体噴出工具を挿入して当該止まり穴内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる挿入ステップと、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を前記止まり穴の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら又は前記流体噴出工具を回転させることなく、当該流体噴出工具を前記止まり穴から抜ける方向に移動させる切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法。
【請求項8】
使用する工具を自動で交換可能な工作機械であって、ワーク又は前記工具の何れかを回転させることにより前記ワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能な前記工作機械と、
前記工作機械における工具取付部に取り付けられる流体噴出工具と、を備え、
前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記流体噴出工具は、
前記工具取付部に取り付けられる側である元部側が開口した管状とされ、
工具軸方向に延びていて、前記工具取付部の内部を通って射出される前記流体を通す内部流路部と、
前記元部とは反対の先端部側に設けられ、前記内部流路部の内周面から当該流体噴出工具の外部に貫通し、前記内部流路部を通った前記流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部と、を備え、
前記側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が前記元部寄りになるように、前記工具軸方向に直交する工具径方向よりも前記工具軸方向へ所定の角度で傾斜しており、
前記先端部には、当該流体噴出工具の軸心に沿って前記内部流路部の内先端面から当該流体噴出工具の外部に貫通する先端貫通孔部が設けられており、
前記制御部は、
ねじが切られていない止まり穴を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記加工工程によって形成された前記止まり穴の中に前記流体噴出工具を挿入して当該止まり穴内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる工具挿入処理と、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を前記止まり穴の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら又は前記流体噴出工具を回転させることなく、当該流体噴出工具を前記止まり穴から抜ける方向に移動させる切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の工具取付部に取り付けられる流体噴出工具を用いた切り屑除去方法、および、切り屑除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動工具交換装置(オートチェンジャ)を搭載したマシニングセンタや、NC旋盤、ターニングセンタ(複合工作機械)等の工作機械を使って、例えば、止まり穴のねじ穴を加工する場合、下穴を加工する工程とその下穴にめねじを切る工程との間や、めねじを切る工程と仕上げ加工をする工程との間で、一旦工作機械の作動を止めて、下穴やねじ穴内の切り屑をエアガン等を使ってオペレーター(作業者)が自ら除去している。
【0003】
このような切り屑の除去に関する技術として従来より、例えば下記特許文献1に記載の切粉除去装置が知られている。この特許文献1に記載の切粉除去装置では、エアーブローノズルの先端部に、スクリュー状に捻れた複数のガイド片で構成された螺旋流生成部が設けられている。螺旋流生成部は、エアーブローノズル内を流れるエアーを螺旋流に変化させるためのものであり、軸回り120度毎に切込部が設けられているとともに、軸先端に開口部が設けられている。このような螺旋流生成部を有する切粉除去装置を用いれば、下穴やねじ穴等の加工穴の底部付近から加工穴の開口部方向に向かってトルネード状に吹き上がる螺旋流により、加工穴内の切粉等の残留物を舞い上げて開口部の外部に除去することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3949623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のエアーブローノズルを使って切り屑を除去する場合でも、マシニングセンタ等の工作機械の作動を一旦止める必要がある。そのため、工作機械が自動工具交換装置を備えていても、加工開始時の入力操作だけで、切り屑の除去作業も含めた全ての工程を終了させることはできず、作業効率の向上に改善の余地があった。
【0006】
また、工作機械を使った加工の現場において作業者が自らエアガンを握って切り屑の除去作業を行う場合、切り屑やクーラント液(切削油)が作業者に向かって飛散することがあり、怪我や汚れの発生を抑制する技術の登場が期待されていた。また、切り屑の除去作業についての作業者の経験に依らずに、確実な切り屑の除去を実現する技術の登場が期待されていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。すなわちその課題とするところは、作業効率の低下を抑制しつつ、安全かつ確実に工作機械内の切り屑等の残留物を除去する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた流体噴出工具の一態様は、
使用する工具を自動で交換可能であり、ワーク又は前記工具の何れかを回転させることにより前記ワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能な工作機械における工具取付部に取り付けられる流体噴出工具であって、
前記工具取付部に取り付けられる側である元部側が開口した管状とされ、
工具軸方向に延びていて、前記工具取付部の内部を通って射出される前記流体を通す内部流路部と、
前記元部とは反対の先端部側に設けられ、前記内部流路部の内周面から当該流体噴出工具の外部に貫通し、前記内部流路部を通った前記流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部と、を備え、
前記側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が前記元部又は先端の何れか寄りになるように、前記工具軸方向に直交する工具径方向よりも前記工具軸方向へ所定の角度で傾斜していることを特徴とする流体噴出工具である。
【0009】
この態様の流体噴出工具は、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能で、工具の自動交換が可能な工作機械における主軸等の工具取付部に取り付けられるものであり、工具取付部から内部に流入した流体を、側方貫通孔部から外部に噴出することができる。そして、側方貫通孔部は、内側開口よりも外側開口が元部又は先端の何れか寄りに位置するように、工具径方向よりも工具軸方向へ所定の角度で傾斜している。よって、側方貫通孔部の内側開口よりも外側開口が元部寄りとなるように傾斜していれば、流体噴出工具の元部側に向かって切り屑を好適に吹き飛ばすことができ、また、側方貫通孔部の内側開口よりも外側開口が先端寄りとなるように傾斜していれば、流体噴出工具の先端側に切り屑を好適に吹き飛ばすことができる。従って、工作機械の作動を停止することなく、工具取付部内を通って射出される流体を利用して、切り屑の除去を行うことが可能である。その結果、作業効率の低下を抑制しつつ、作業者によるエアガン等を使った手作業での清掃に比べて、安全かつ確実に工作機械内の切り屑を除去することが可能である。
【0010】
上記態様の流体噴出工具において、
前記側方貫通孔部は、当該流体噴出工具の周方向に複数設けられていることが望ましい。
【0011】
この態様の流体噴出工具によれば、流体噴出工具の周方向の全域にわたってムラなく流体を噴出させ易い。よって、切り屑の除去精度を高めることが可能である。
【0012】
さらに上記態様の流体噴出工具において、
前記側方貫通孔部は、
前記工具軸方向における前記先端からの距離が第1の距離である第1の位置において、当該流体噴出工具の周方向に複数設けられているとともに、
前記工具軸方向における前記先端からの距離が前記第1の距離よりも長い第2の距離である第2の位置において、当該流体噴出工具の周方向に複数設けられていることが望ましい。
【0013】
この態様の流体噴出工具によれば、工具軸方向における異なる位置(第1の位置、第2の位置)にそれぞれ、複数の側方貫通孔部が設けられている。よって、第1の位置又は第2の位置の一方にある複数の側方貫通孔部から噴出される流体によって吹き飛ばされた切り屑を、第1の位置又は第2の位置の他方にある複数の側方貫通孔部から噴出される流体によって更に吹き飛ばすことが可能である。従って、切り屑の除去精度を一層高めることが可能である。
【0014】
また上記態様の流体噴出工具において、
前記側方貫通孔部は、前記内側開口よりも前記外側開口が前記元部寄りになるように傾斜しており、
前記先端部には、当該流体噴出工具の軸心に沿って前記内部流路部の内先端面から当該流体噴出工具の外部に貫通する先端貫通孔部が設けられていることが望ましい。
【0015】
この態様の流体噴出工具によれば、先端貫通孔部から工具軸心に沿って流体を噴出することができるため、これにより、ワークにおける加工箇所やワークの固定治具上に残留している切り屑を舞い上がらせることができる。そして、舞い上がらせた切り屑を、内側開口よりも外側開口が元部寄りになるように傾斜した側方貫通孔部から噴出される流体によって、流体噴出工具の元部側(工具取付部側)へ吹き飛ばすことができる。よって、ワークにおける加工箇所やワークの固定治具上に残留している切り屑を、ワークや固定治具外へ吹き飛ばし易い。
【0016】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去方法の一態様は、
上記態様の流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
止まり穴又は止まり穴のねじ穴である有底穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記加工工程によって形成された前記有底穴部の中に前記流体噴出工具を挿入して当該有底穴部内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる挿入ステップと、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法である。
【0017】
この態様の切り屑除去方法によれば、工具取付部に取り付けられた流体噴出工具を有底穴部に挿入して先端貫通孔部および側方貫通孔部を有底穴部内に位置させた後、先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させながら有底穴部の形成時とは逆の方向に流体噴出工具を回転させつつ有底穴部から抜ける方向に移動させることで、有底穴部内に残留している切り屑を有底穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。また、有底穴部が止まり穴のねじ穴である場合には、切り屑をねじ溝に沿って螺旋状に移動させながら有底穴部の外へと出し切ることが可能である。
【0018】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去システムの一態様は、
上記態様の流体噴出工具と、前記工作機械とを備え、前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記制御部は、
止まり穴又は止まり穴のねじ穴である有底穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記加工工程によって形成された前記有底穴部の中に前記流体噴出工具を挿入して当該有底穴部内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させる工具挿入処理と、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システムである。
【0019】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は、ワークを加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具に交換し、その流体噴出工具を有底穴部に挿入して先端貫通孔部および側方貫通孔部を有底穴部内に位置させ、その後、先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させながら有底穴部の形成時とは逆の方向に流体噴出工具を回転させつつ有底穴部から抜ける方向に移動させる。これにより、有底穴部内に残留している切り屑を有底穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。また、有底穴部が止まり穴のねじ穴である場合には、切り屑をねじ溝に沿って螺旋状に移動させながら有底穴部の外へと出し切ることが可能である。
【0020】
上記態様の切り屑除去システムにおいて、
前記制御部は、前記工具挿入処理において、前記加工工程におけるワークの加工位置と同じ位置に前記流体噴出工具を移動させることが望ましい。
【0021】
この態様の切り屑除去システムによれば、加工工程で形成した有底穴部と同じ位置に流体噴出工具を移動させるため、有底穴部内の切り屑の除去の精度を向上することが可能である。
【0022】
また上記態様の切り屑除去システムにおいて、
前記制御部は、前記工具挿入処理において、前記加工工程における工具の挿入深さを超えない深さで、前記流体噴出工具を前記有底穴部に挿入することが望ましい。
【0023】
この態様の切り屑除去システムによれば、流体噴出工具を有底穴部に深く入れ過ぎてしまうことがないため、流体噴出工具を有底穴部の底にあててしまう等によりワークに傷がついてしまうのを防止可能である。
【0024】
また上記態様の切り屑除去システムにおいて、
前記制御部は、前記切り屑除去処理において、前記加工工程における工具の回転数に対応する回転数で前記流体噴出工具を回転させることが望ましい。
【0025】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は切り屑除去処理において流体噴出工具を、加工工程における工具の回転数に対応する回転数で回転させる。よって、加工した有底穴部に適した切り屑の除去が可能である。また仮に、止まり穴のねじ穴を加工した場合、ねじを切ったときの工具の回転数に対応する回転数で流体噴出工具を加工時と逆の方向に回転させるため、切り屑をねじ溝に沿って螺旋状に確実に移動させていくことができ、ねじ穴内の切り屑を精度よく除去することが可能である。
【0026】
また上記態様の切り屑除去システムにおいて、
前記制御部は、前記切り屑除去処理において、前記加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度で前記流体噴出工具を前記有底穴部から抜ける方向に移動させることが望ましい。
【0027】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は切り屑除去処理において流体噴出工具を、加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度で有底穴部から抜ける方向に移動させる。よって、加工した有底穴部に適した切り屑の除去が可能である。つまり、流体噴出工具を有底穴部から抜く速度が速すぎたり遅すぎたりすることを防止でき、切り屑の除去精度と除去作業の効率とのバランスをとることが可能である。
【0028】
また、上記課題を解決するためになされた流体噴出工具の他の態様では、
前記側方貫通孔部は、前記内側開口よりも前記外側開口が前記先端寄りになるように傾斜していることが望ましい。
【0029】
この態様の流体噴出工具によれば、内側開口よりも外側開口が先端側に寄っている側方貫通孔部から噴出される流体によって、流体噴出工具の先端側(ワークや固定治具の側)へ切り屑を吹き飛ばすことができる。よって、ワークを貫通するタイプの加工箇所に残留している切り屑を、好適に除去することが可能である。
【0030】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去方法の他の態様は、
上記他の態様の流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
通り穴又は通り穴のねじ穴である通り穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記側方貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記通り穴部の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら、前記流体噴出工具を前記通り穴部に通していく切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法である。
【0031】
この態様の切り屑除去方法によれば、工具取付部に取り付けられた流体噴出工具を、側方貫通孔部から流体を噴出させつつ通り穴部の形成時と同じ方向に回転させながら通り穴部を通していくことで、通り穴部内に残留している切り屑を通り穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。また、通り穴部が通り穴のねじ穴である場合には、切り屑をねじ溝に沿って螺旋状に移動させながら通り穴部の外へと出し切ることが可能である。
【0032】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去システムの他の態様は、
上記他の態様の流体噴出工具と、前記工作機械とを備え、前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記制御部は、
通り穴又は通り穴のねじ穴である通り穴部を前記ワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記側方貫通孔部から前記流体を噴出させつつ前記流体噴出工具を前記通り穴部の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら、前記流体噴出工具を前記通り穴部に通していく切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システムである。
【0033】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は、ワークを加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具に交換し、その流体噴出工具を、側方貫通孔部から流体を噴出させつつ通り穴部の形成時と同じ方向に回転させながら通り穴部を通していく。これにより、通り穴部内に残留している切り屑を通り穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。また、通り穴部が通り穴のねじ穴である場合には、切り屑をねじ溝に沿って螺旋状に移動させながら通り穴部の外へと出し切ることが可能である。
【0034】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去方法の更に他の態様は、
上記一の態様の流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記工作機械が有するテーブルに形成されたTスロット溝内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させて、前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を回転させながら前記Tスロット溝が延びる方向に移動させていく切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法である。
【0035】
この態様の切り屑除去方法によれば、工具取付部に取り付けられた流体噴出工具の先端貫通孔部および側方貫通孔部を、工作機械におけるテーブルのTスロット溝内に位置させて、当該先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させつつ、流体噴出工具を回転させながらTスロット溝の延びる方向に移動させていくこと、Tスロット溝内に残留している切り屑をTスロット溝の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0036】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去システムの更に他の態様は、
上記一の態様の流体噴出工具と、前記工作機械とを備え、前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記制御部は、
使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記工作機械が有するテーブルに形成されたTスロット溝内に前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部を位置させて、前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を回転させながら前記Tスロット溝が延びる方向に移動させていく切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システムである。
【0037】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は、ワークを加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具に交換し、その流体噴出工具の先端貫通孔部および側方貫通孔部を、工作機械におけるテーブルのTスロット溝内に位置させて、当該先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させつつ、流体噴出工具を回転させながらTスロット溝の延びる方向に移動させていく。これにより、Tスロット溝内に残留している切り屑をTスロット溝の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0038】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去方法の更に他の態様は、
上記一の態様の流体噴出工具を用いた切り屑除去方法であって、
使用する工具を前記流体噴出工具に交換する交換ステップと、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を回転させながら、前記工作機械が有するチャックに近づけていく切り屑除去ステップと、を含むことを特徴とする切り屑除去方法である。
【0039】
この態様の切り屑除去方法によれば、使用する工具を流体噴出工具に交換した後、先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させつつ流体噴出工具を回転させながら、工作機械におけるチャックに近づけていくことで、チャック上に残留している切り屑をチャックから離れる方向へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0040】
また、上記課題を解決するためになされた切り屑除去システムの更に他の態様は、
上記一の態様の流体噴出工具と、前記工作機械とを備え、前記工作機械は、入力された作業指示データに基づいて当該工作機械の動作を制御する制御部を有する切り屑除去システムであって、
前記制御部は、
使用する工具を前記流体噴出工具に交換する工具交換処理と、
前記側方貫通孔部および前記先端貫通孔部から前記流体を噴出させつつ、前記流体噴出工具を回転させながら、前記工作機械が有するチャックに近づけていく切り屑除去処理と、を行うことを特徴とする切り屑除去システムである。
【0041】
この態様の切り屑除去システムによれば、工作機械の制御部は、ワークを加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具に交換し、先端貫通孔部及び側方貫通孔部から流体を噴出させつつ流体噴出工具を回転させながら、工作機械におけるチャックに近づけていく。これにより、チャック上に残留している切り屑をチャックから離れる方向へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0042】
また、上記課題を解決するためになされた流体噴出工具の更に他の態様では、
前記先端部に、前記ワークを加工する刃を有し、
前記側方貫通孔部は、前記内側開口よりも前記外側開口が前記元部寄りになるように傾斜しており、当該側方貫通孔部から噴出する流体が前記刃によって削られた切り屑にあたるように穿設されていることが望ましい。
【0043】
この態様の流体噴出工具によれば、内側開口よりも外側開口が元部寄りになるように傾斜している側方貫通孔部から、クーラント液又はエアーである流体を噴出させつつ、当該流体噴出工具を相対的又は絶対的に回転させて刃をワークにあてていくことで、切削加工を進めつつ、その加工によって生じた切り屑を、側方貫通孔部から噴出する流体によって元部側(工具取付部側)へ吹き飛ばすことができる。すなわち、ワークの加工と切り屑の除去とを同時に進行することが可能である。その結果、作業効率を大きく向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0044】
本明細書に開示されている技術によれば、作業効率の低下を抑制しつつ、安全かつ確実に工作機械内の切り屑の除去を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の第1実施形態に係る切り屑除去システムであって流体噴出工具とマシニングセンタとを含む切り屑除去システムを模式的に示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係るマシニングセンタの主軸の先端部(下端部)の縦断面図である。
図3】ツールホルダに把持された流体噴出工具の正面図である。
図4】流体噴出工具の斜視図である。
図5】流体噴出工具の底面図である。
図6図5のA-A線断面図である。
図7】止まり穴のねじ穴が形成されたワーク等の平面図であり、止まり穴のねじ穴の内部に切り屑が溜まっている状態を示す図である。
図8】止まり穴である下穴に溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図である。
図9】止まり穴のねじ穴に溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図である。
図10】第1実施形態の切り屑除去システムにおいて工作機械の制御装置が行うねじ穴形成処理のフローチャートである。
図11A】ヘリカル加工で形成した止まり穴のねじ穴に溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図である。
図11B】ヘリカル加工によって止まり穴のねじ穴を形成する場合に工作機械の制御装置が行うねじ穴形成処理のフローチャートである。
図12】第2実施形態に係る流体噴出工具の底面図である。
図13図12のB-B線断面図である。
図14】第2実施形態に係る流体噴出工具を用いて通り穴のねじ穴内に残った切り屑を除去する方法の一例を示す図である。
図15】第3実施形態に係る切り屑除去システムであって、第1実施形態に係るマシニングセンタとは別のマシニングセンタと、第1実施形態に係る流体噴出工具と同じ流体噴出工具とを含む切り屑除去システムを模式的に示す斜視図である。
図16】第3実施形態に係るマシニングセンタにおけるテーブルの上面およびTスロット溝内に切り屑が溜まっている状態を示す斜視図である。
図17】テーブルのTスロット溝に溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図であって、テーブルの短手方向に沿う縦断面の一部を示す図である。
図18】テーブルのTスロット溝に溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図であって、テーブルを左斜め上から見た部分斜視図である。
図19】第4実施形態に係る切り屑除去システムであって、マシニングセンタに旋削機能をもたせた複合工作機械と、第1実施形態に係る流体噴出工具と同じ流体噴出工具とを含む切り屑除去システムを模式的に示す斜視図である。
図20】複合工作機械の工作主軸のチャックに溜まった切り屑を流体噴出工具を用いて除去する方法の一例を示す図である。
図21】第5実施形態に係る流体噴出工具およびその流体噴出工具の使用例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
1.第1実施形態
以下に、本発明に係る第1実施形態の切り屑除去システムKSAについて、図面に基づいて説明する。図1に示すように、切り屑除去システムKSAは、マシニングセンタ1A(工作機械の一例)と、流体噴出工具50とを含む。マシニングセンタ1Aは、加工ヘッド2と、自動工具交換装置20と、制御装置30とを備えるものであり、自動工具交換装置20のツールマガジン22にセットされている複数の工具の何れかと、加工ヘッド2の主軸3(工具取付部の一例)に装着されている工具とを、制御装置30が作業指示データに基づいて自動で交換することができるものである。切り屑除去システムKSAは、ツールマガジン22にセットされる工具の1つとして、ツールホルダ80に把持された流体噴出工具50を備えており、制御装置30による工具交換処理によって、図1に示すように、流体噴出工具50を主軸3に取り付けることが可能である。なお、作業指示データは、マシニングセンタ1Aに加工等の所望の動作を行わせるためのプログラムであり、オペレーター(作業者)等による適宜の入力が可能である。
【0047】
流体噴出工具50は、マシニングセンタ、NC旋盤、複合工作機械(ターニングセンタ)等の各種の公知の工作機械の工具取付部(主軸、タレット等)に装着可能なものである。流体噴出工具50には、複数の貫通孔部(後述の先端貫通孔部61及び側方貫通孔部63)が設けられている。流体噴出工具50は、センタースルー方式で主軸3等の工具取付部の内部を通って噴射されるクーラント液あるいはエアーといった流体を、複数の貫通孔部(言い換えればオイルホール)から外部へ噴射させる清掃用の工具であり、工作機械内の加工空間(ワークを加工するエリア)に残留する切り屑等の除去に用いられる。
【0048】
なお本明細書では、マシニングセンタ1Aおよび流体噴出工具50の各部の上下方向及び左右方向は、鉛直方向に沿う主軸3に流体噴出工具50を取り付けた状態のマシニングセンタ1Aに正対する者から見た上下方向及び左右方向に一致させて説明する。また、マシニングセンタ1Aおよび流体噴出工具50の各部の前方向を同状態のマシニングセンタ1Aに正対する者に近づく方向とし、マシニングセンタ1Aの各部の後方向を同状態のマシニングセンタ1Aに正対する者から離れる方向として説明する。また、左右方向をX軸、前後方向をY軸、上下方向をZ軸とする。
【0049】
マシニングセンタ1Aは、立形マシニングセンタであり、図1に示すように、加工ヘッド2と、ワークWaを支持するワーク支持装置40と、加工ヘッド2をワーク支持装置40に対して相対移動させる移動装置48と、自動工具交換装置20と、制御装置30とを備える。なお、図1では図示を省略しているが、マシニングセンタ1Aには、ワーク支持装置40および加工ヘッド2を囲む外壁(ケーシング)と、該外壁に形成された開口部を開閉するスライドドアとが設けられており、スライドドアの開閉により、ワークWaの加工が行われる加工空間を開閉することが可能である。
【0050】
ワーク支持装置40は、ワークWaを固定治具43を介して支持するテーブル41と、テーブル41を回転可能に支持する基台42とを備える。テーブル41は、図示しない駆動装置により鉛直方向(Z軸方向)に沿う軸AX1回りに回転可能に基台42に支持されている。ワーク支持装置40は、テーブル41をX軸回りに揺動可能なものであってもよい。また、ワーク支持装置40は、テーブル41が軸AX1回りに回転できないものであってもよい。
【0051】
移動装置48は、加工ヘッド2をワーク支持装置40に対して相対移動させるものであり、ベース49に支持されている。移動装置48は、駆動源および駆動機構を含み、加工ヘッド2をX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に沿って移動させる(すなわち3次元的に移動させる)ことが可能な装置である。
【0052】
自動工具交換装置20は、エンドミル、ドリル、タップ、リーマ等の種々の複数の工具がセットされたツールマガジン22と、交換アーム(不図示)とを備え、加工ヘッド2の主軸3に取り付けられている工具と、ツールマガジン22にセットされている工具とを交換アーム等を動作させて交換するものである。切り屑除去システムKSAは、ツールマガジン22にセットされていて主軸3に取り付け可能な工具として、後に詳述する流体噴出工具50を備えている。
【0053】
制御装置30(制御部の一例)は、主軸3に取り付けられる工具の回転、加工ヘッド2の移動(移動装置48の動作)、テーブル41の回転、自動工具交換装置20の動作等を制御するものである。なお、制御装置30は、クーラント液(切削油)やエアーを供給する流体供給装置(不図示)や、ワークWaの加工により生じた切り屑を回収する回収装置(不図示)の動作も制御する。流体供給装置や回収装置には、公知のものを適宜採用可能である。
【0054】
なお、制御装置30は、図示しないプロセッサ、メモリ(RAM、ROM等)、通信回路等を含み、また、入出力装置32を含む。メモリには、ワークWaの加工に必要なデータや、マシニングセンタ1Aの各構成要素を動作させるためのプログラム等が記憶されており、プロセッサはメモリに記憶されているプログラム等を実行する。入出力装置32は、本形態では、画像の表示と入力操作とが可能なタッチパネルである。入出力装置は、ボタン、スイッチ、レバー、ポインティングデバイス、キーボード等の入力装置と、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の出力装置とで構成されていてもよい。マシニングセンタ1Aのオペレーター(作業者)は、入出力装置32を操作することにより、未加工のワークWaを所望の完成品に加工するための作業プログラム(作業指示データ)を適宜入力することができる。プロセッサが作業プログラムを実行することにより、移動装置48等の各種の装置が動作する。
【0055】
加工ヘッド2は、主軸3を有している。図2は、主軸3の先端(図中下端)の部分の縦断面図である。主軸3は、図2に示すように、工具を把持したツールホルダ80を保持する回転体5と、軸受6と、軸受6を介して回転体5をZ軸方向に沿う軸AX2まわりに回転可能に支持するハウジング7とを含む。回転体5は、図示しない回転駆動装置により軸AX2まわりに回転駆動される。回転駆動装置は例えば、ハウジング7に固定されたステータと、回転体5に固定されたロータとを有するモータを含む構成とすることができる。
【0056】
回転体5は、回転シャフト本体5aの内部に、ドローバー5bを配した構成とされ、ドローバー5bの先端(図2中の下端)の取付部に、工具を把持したツールホルダ80がプルスタッド8を介在させて取り付けられる。
【0057】
本形態のマシニングセンタ1Aは、センタースルー方式で主軸3(回転体5)の内部を通ってクーラント液およびエアーといった各種の流体を噴射することが可能なものである。すなわち、これらの流体を送る配管(不図示)が、ドローバー5bの内部貫通孔を通ってプルスタッド8の上部に至っており、クーラント液やエアーを、ドローバー5bの内部貫通孔と連通するプルスタッド8の内部貫通孔、及び、ツールホルダ80の内部貫通孔を通して、工具内へ送り込むことが可能となっている。なお、主軸3の構成は、工具を把持したツールホルダ80の着脱が可能であり、センタースルー方式でクーラント液等の流体を噴射することが可能なものであれば、公知の構成を適宜採用可能である。
【0058】
主軸3には、工具を把持したツールホルダ80が取り付けられる。図3は、流体噴出工具50及びこれを把持したツールホルダ80の正面図である。図3に示すように、ツールホルダ80は、ホルダ本体81と、ホルダ本体81の先端(図3中の下端)側に取り付けられるナット部83とを備える。流体噴出工具50は、軸方向で見て先端50a(図3中の下端)側よりも元部端50b(図3中の上端)側が小径となった段付き形状とされている。
【0059】
流体噴出工具50は、コレット85を介してツールホルダ80に把持されている。つまり、流体噴出工具50は、元部端50b側となる小径のシャンク部57を、ナット部83に取り付けられたコレット85に挿通された状態で、ホルダ本体81に先端から挿通され、ナット部83が回転されることでコレット85のテーパ部が抑え込まれ、これにより、流体噴出工具50がツールホルダ80に抜けないよう把持されている。なお、流体噴出工具50の段差部分は、流体噴出工具50にコレット85を嵌める際にコレット85の先端面(図3中の下端の面)と当接し、位置決めの機能を発揮する。なお、流体噴出工具50は、段差のない形状としてもよい。
【0060】
次に、流体噴出工具50について詳細に説明する。図4は、流体噴出工具50の斜視図であり、図5は、流体噴出工具の底面図(先端面の図)であり、図6は、図5中のA-A線断面図である。図3図6に示すように、流体噴出工具50は、有底の円管形状とされており、底面視円形状の底部51と、底部51の周縁部から上方に延びる円筒状の周壁部52とを備える。底部51の周縁部は面取りされている。流体噴出工具50は、鉄製である。上述したように、流体噴出工具50は、軸線方向で見て先端50a側(底側)よりも元部端50b側が小径となった段付き形状である。流体噴出工具50の軸線方向の長さ寸法L1は約100mm程度とされ、先端部54を含む大径の本体部55の軸線方向の長さ寸法L2と、元部56を含む小径のシャンク部57の軸線方向の長さ寸法L3との比は、3:2程度である。本体部55の外径D1は約15mm程度、シャンク部57の外径D2は約12mm程度である。
【0061】
また、流体噴出工具50の内部には、主軸3内を通って射出されるクーラント液やエアーなどの流体を流入させる内部流路部60が形成されている。内部流路部60の径d1(つまり本体部55およびシャンク部57に共通する流体噴出工具50の内径d1)は約8mm程度である。また、底部51の厚みは約2mm程度であり、内部流路部60の全長は、流体噴出工具50の元部端50bから先端50aまでのほぼ全域に及んでいる。
【0062】
流体噴出工具50の先端部54には、内部流路部60と外部とを貫通し、内部流路部60を通った流体を外部に噴射する貫通孔部が複数設けられている。具体的にはまず、底面視円形の底部51の中心部に、内部流路部60の内先端面60aから外部に貫通する先端貫通孔部61が、流体噴出工具50の軸心方向に沿って形成されている。先端貫通孔部61は、円筒状の貫通孔であり、内部流路部60の中心軸(流体噴出工具50の軸AX3)と同軸上に設けられている。先端貫通孔部61の直径は約3mm程度である。内部流路部60を通った流体は先端貫通孔部61から軸心方向に射出される。
【0063】
また、周壁部52の先端部分には、内部流路部60の内周面60bから外部に貫通する側方貫通孔部63が複数設けられている。複数の側方貫通孔部63には、先端50aから約5mm程度(第1の距離の一例)の位置(第1の位置の一例)において周方向に90度間隔で4つ設けられている第1側方貫通孔部63aと、先端50aから約10mm程度(第2の距離の一例)の位置(第2の位置の一例)において各第1側方貫通孔部63aと45度ずつずれるようにして周方向に90度間隔で4つ設けられている第2側方貫通孔部63bとを含む。
【0064】
各側方貫通孔部63(各第1側方貫通孔部63a、各第2側方貫通孔部63b)は、軸方向を長手方向とする楕円状に開口した円筒状の貫通孔部である。各側方貫通孔部63の周方向の幅寸法は約2mm程度である。各側方貫通孔部63は、その軸心が流体噴出工具50(内部流路部60)の軸心と交差するように開口されている。また、各側方貫通孔部63は、内部流路部60を通った流体を、流体噴出工具50の径方向よりも元部56側へ噴射するように、流体噴出工具50の径方向を基準に軸心方向へ所定の傾斜角θ1(図6参照)で傾斜している。言い換えれば、側方貫通孔部63は、内側開口63cよりも外側開口63dが元部56寄りに位置するように傾斜している。本形態では、各側方貫通孔部63の傾斜角θ1は約40度程度である。なお、傾斜角θ1を含む流体噴出工具50の各種寸法は、切り屑を除去する機能が好適に発揮できる範囲で、適宜変更可能である。傾斜角θ1は10度から70度の範囲が好ましい。
【0065】
また、流体噴出工具50の内底面50c(内部流路部60の内先端面60a)は、周縁から中心に向かって薄肉となるすり鉢状の傾斜面となっている。これにより、内部流路部60を通った流体が流体噴出工具50の内底面50cに溜まり難くなっている。
【0066】
このように本形態の流体噴出工具50は、先端50aから軸方向に15mm程度までの範囲に、複数の貫通孔部(先端貫通孔部61および各側方貫通孔部63)が設けられている。このため、流体噴出工具50は、主軸3の内部を通って射出された流体を、当該流体噴出工具50の元部56側の開口から内部流路部60に流入させ、更には内部流路部60を通った流体を、先端貫通孔部61から軸方向に沿って噴射するとともに、第1側方貫通孔部63aおよび第2側方貫通孔部63bから、径方向よりも元部56側に向くように噴射することができる。本形態の流体噴出工具50を用いれば、このように流体を噴射することにより、次に述べるように、ワークWaの加工により生じた切り屑を除去することが可能である。
【0067】
次に、本形態の流体噴出工具50を用いた切り屑の除去方法について説明する。図7は、マシニングセンタ1Aにより加工されたワークWaの平面図である。図7では、テーブル41に固定治具43が固定され、固定治具43にワークWaが固定されている。ワークWaには、切削加工(穴あけやねじ切りなど)により、止まり穴のねじ穴Ha(有底穴部の一例)が4つ形成されている。本明細書では、止まり穴のねじ穴Haを止まりねじ穴Haとも称する。各止まりねじ穴Haは、ワークWaの4隅に設けられている。4つの止まりねじ穴Haは、同形状であり、各止まりねじ穴Haの径は、流体噴出工具50の本体部55の外径D1よりも大径である。各止まりねじ穴Haの内部には、切削加工により生じた切り屑Kが溜まっている。
【0068】
従来、ねじ切り加工の後には、このように止まりねじ穴Ha内に溜まった切り屑Kを、マシニングセンタ1Aの動作を止めて、オペレーター(作業者)がエアガン等を使って除去する必要があった。また、ねじ切り加工の前の下穴加工(穴あけ加工)の後にも、ねじ切り前の下穴内には切り屑が溜まっている。このため、オペレーター(作業者)はマシニングセンタ1Aの動作を止めて、下穴内の切り屑をエアガン等を使って除去する必要があり、下穴加工とねじ切り加工とを一連の自動動作で行うことはできなかった。
【0069】
本形態の切り屑除去システムKSAによれば、下穴加工やねじ切り加工の後に、主軸3に取り付けられる工具が自動工具交換装置20により切削工具から流体噴出工具50に交換される。そして、流体噴出工具50を次のように動作させることで、下穴やねじ穴から切り屑Kを除去する。
【0070】
図8は、流体噴出工具50を使って、ねじを切る前の下穴Fa内から切り屑Kを除去する様子の一例を示す図である。図8に示すように、マシニングセンタ1Aの制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具を穴あけ用のドリルから流体噴出工具50に交換した後、下穴Fa(有底穴部の一例)の位置に流体噴出工具50を移動させ、下穴Fa内に流体噴出工具50の先端部54を挿入する。ここで制御装置30は、下穴Faの中心軸と流体噴出工具50の回転軸AX3とが一致するよう流体噴出工具50をX軸方向およびY軸方向に移動させる。また制御装置30は、流体噴出工具50の先端50a(先端面)が下穴Faの底面Fbに当たらない深さで(例えば先端50aを底面Fbから5~8mm程度離して)、流体噴出工具50を下穴Faに挿入する(Z軸方向に移動させる)。
【0071】
そして制御装置30は、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50の内部流路部60にクーラント液(切削油)を送り込みつつ、流体噴出工具50を(言い換えれば主軸3を)所定の送り速度で軸方向に沿って元部56側へと(上方へと)移動させる。所定の送り速度は、適宜設定可能であるが、例えば、下穴加工時のドリルの送り速度と同じ速度とするとよい。なお、所定の送り速度は下穴加工時のドリルの送り速度を基準としてその70%~130%程度の範囲で設定するとよい。この範囲の送り速度は、加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度に相当する。
【0072】
流体噴出工具50に送られた流体は、内部流路部60を通って先端貫通孔部61から軸方向に射出される。先端貫通孔部61から射出された流体は、下穴Faの底面Fbに当たると、先端50a(先端面)と底面Fbとの間隙を通って、流体噴出工具50の外周面と下穴Faの内周面Fcとの間隙Mに入り込む。このような流体の流れにより、下穴Faの底面Fb上に堆積していた切り屑Kが底面Fbの周縁に向けて吹き飛ばされつつ上方へ舞い上げられ、流体噴出工具50の外周面と下穴Faの内周面Fcとの間隙Mに入り込む。
【0073】
また、流体噴出工具50に送られた流体は、内部流路部60を通って側方貫通孔部63(第1側方貫通孔部63a、第2側方貫通孔部63b)からも噴射される。側方貫通孔部63は、流体噴出工具50の全周にわたって45度間隔で8個設けられているため、側方貫通孔部63から噴射される流体は、下穴Faの内周面Fcの全周にくまなく噴射される。また、側方貫通孔部63は、流体噴出工具50の径方向よりも元部56側へ傾斜している。よって、側方貫通孔部63から噴射される流体は、流体噴出工具50の径方向よりも元部56側へ傾斜して(つまり図8中の左右方向よりも上方へ傾斜して)噴射される。そのため、側方貫通孔部63から噴射された流体は、下穴Faの内周面Fcに当たると、内周面Fcに沿って上昇する。つまり、流体噴出工具50の先端貫通孔部61および側方貫通孔部63からクーラント液(切削油)を噴射することで、切り屑Kを下穴Faの底から上部開口Feへと送り出す直線状の上昇流が形成される。
【0074】
先端貫通孔部61から射出された流体に吹き飛ばされて流体噴出工具50および下穴Faの内周面Fcとの間隙Mに入り込んだ切り屑Kは、側方貫通孔部63から噴射された流体によって内周面Fcに沿って上方へ送られる。そして、流体噴出工具50が下穴Faから引き抜かれていくことにより(Z軸方向に上昇移動することにより)、側方貫通孔部63から噴射される流体が当たる位置も内周面Fcの上方へと徐々に上がってくる。このようにして、下穴Faに挿通された流体噴出工具50が、流体を噴射しながら上方へと引き抜かれていくことにより、下穴Fa内に溜まっていた切り屑Kが、下穴Faの上部開口Feに向かって吹き飛ばされ、上部開口Feから下穴Faの外へと排出される。このように本形態の流体噴出工具50を用いれば、止まり穴である下穴Faから切り屑Kを好適に除去することが可能である。
【0075】
なお、流体噴出工具50の貫通孔部(先端貫通孔部61、側方貫通孔部63)の開口面の大きさや数、形状は、噴射される流体の速度が切り屑Kを好適に除去できる範囲で適宜変更可能である。但し、貫通孔部の総開口面積が大きくなり過ぎると、噴射されるクーラント液の流速が遅くなり過ぎて切り屑Kの除去性能を低下させる可能性があり、貫通孔部の総開口面積が小さくなり過ぎると、切り屑Kの除去効率が低下する可能性があるため、これらのバランスを図って適宜設計することが望ましい。また、クーラント液(切削油)やエアーといった流体を送る圧力は、切り屑Kを吹き飛ばすことができる範囲で、適宜設定すればよい。
【0076】
次に、止まりねじ穴Haに対する切り屑の除去について説明する。図9は、流体噴出工具50を使って、止まりねじ穴Ha内から切り屑Kを除去する様子の一例を示す図である。図9に示すように、マシニングセンタ1Aの制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具をねじ切り用のタップから流体噴出工具50に交換した後、止まりねじ穴Haの位置に流体噴出工具50を移動させ、止まりねじ穴Ha内に流体噴出工具50の先端部54を挿入する。ここで制御装置30は、止まりねじ穴Haの中心軸と流体噴出工具50の回転軸AX3とが一致するよう流体噴出工具50をX軸方向およびY軸方向に移動させる。また制御装置30は、流体噴出工具50の先端50aが止まりねじ穴Haの底面Hbに当たらない深さで(例えば先端50aを底面Hbから5~8mm程度離して)、流体噴出工具50を止まりねじ穴Haに挿入する(Z軸方向に移動させる)。
【0077】
そして制御装置30は、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50の内部流路部60にクーラント液(切削油)を送り込みつつ、流体噴出工具50を(言い換えれば主軸3を)所定の回転数でねじ切り加工時とは逆方向(つまりねじが緩む方向、具体的には右ねじであれば左回り、左ねじであれば右回り)に回転させながら、所定の送り速度で軸方向に沿って元部56側へと(上方へと)移動させる。所定の回転数および所定の送り速度は、適宜設定可能であるが、例えば、ねじ切り加工時のタップの回転数および送り速度と同じ回転数および送り速度とするとよい。このようにすれば、流体噴出工具50が1回転あたりに送られる量を、止まりねじ穴Haのピッチに合わせることができ、ねじ溝Hdに沿ったスムーズな切り屑Kの除去が期待できるからである。なお、所定の回転数はねじ切り加工時のタップの回転数を基準としてその70%~130%程度の範囲で設定するとよい。この範囲の回転数は、加工工程における工具の回転数に対応する回転数に相当する。また、所定の送り速度はねじ切り加工時のタップの送り速度を基準としてその70%~130%程度の範囲で設定するとよい。この範囲の送り速度は、加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度に相当する。
【0078】
流体噴出工具50に送られた流体は、内部流路部60を通って先端貫通孔部61から軸方向に射出される。先端貫通孔部61から射出された流体は、止まりねじ穴Haの底面Hbに当たると、先端50aと底面Hbとの間隙を通って、流体噴出工具50の外周面と止まりねじ穴Haの内周面Hcとの間隙Nに入り込む。このような流体の流れにより、止まりねじ穴Haの底面Hb上に堆積していた切り屑Kが底面Hbの周縁に向けて吹き飛ばされつつ上方へ舞い上げられ、流体噴出工具50の外周面と止まりねじ穴Haの内周面Hcとの間隙Nに入り込む。
【0079】
また、流体噴出工具50に送られた流体は、内部流路部60を通って側方貫通孔部63(第1側方貫通孔部63a、第2側方貫通孔部63b)からも噴射される。側方貫通孔部63は、流体噴出工具50の全周にわたって45度間隔で8個設けられている。また、流体噴出工具50はねじの緩み方向に回転されながら、止まりねじ穴Ha内から抜ける方向に(Z軸方向を上向きに)移動される。そして、側方貫通孔部63は、流体噴出工具50の径方向よりも元部56側へ傾斜している(つまり図9中の左右方向よりも上方へ傾斜している)。よって、側方貫通孔部63から噴射された流体は、止まりねじ穴Haの内周面Hcに当たると、内周面Hcのねじ溝Hdに沿って螺旋状に上昇する。つまり、流体噴出工具50を回転させながら先端貫通孔部61および側方貫通孔部63からクーラント液(切削油)を噴射することで、止まりねじ穴Haの底に溜まっていた切り屑Kを、流体噴出工具50と止まりねじ穴Haの内周面Hcとの間隙Nに送り込みつつ、間隙Nに送り込まれた切り屑Kをねじ溝Hdに溜まっている切り屑Kとともに、ねじ溝Hdに沿って止まりねじ穴Haの上部開口Heへと送り出す螺旋状の上昇流が形成される。
【0080】
このような螺旋状の上昇流によって、止まりねじ穴Ha内の切り屑Kがねじ溝Hdに沿って上方へと送られていき、更に、流体噴出工具50が止まりねじ穴Haから引き抜かれていくにつれて(Z軸方向に上昇移動するにつれて)、この上昇流の当たる位置も内周面Hcの上方へと徐々に上がっていく。このようにして、止まりねじ穴Ha内に溜まっていた切り屑Kは全て、止まりねじ穴Haの上部開口Heから止まりねじ穴Haの外へと排出される。このように本形態の流体噴出工具50を用いれば、止まりねじ穴Haから切り屑Kを好適に除去することが可能である。
【0081】
なお本形態では、流体噴出工具50において第1側方貫通孔部63aと第2側方貫通孔部63bとが軸方向に位置をずらして設けられている。このため、流体噴出工具50の先端50aに近い第1側方貫通孔部63aから噴射される流体によって元部56側へ吹き飛ばした切り屑Kを、第2側方貫通孔部63bによって更に元部56側へと吹き飛ばすことが可能である。
【0082】
なお、本形態の流体噴出工具50を用いれば、下穴Faや止まりねじ穴Haといった有底穴部に溜まった切り屑Kを好適に除去できるだけでなく、有底穴部に溜まったクーラント液(切削油)も好適に除去できる。切り屑Kおよびクーラント液(切削油)等の除去を要するものを残留物と総称する。
【0083】
有底穴部に溜まったクーラント液を除去する場合、流体噴出工具50の先端貫通孔部61および側方貫通孔部63から噴射する流体を、クーラント液からエアーに変えるだけでよい。ここで、本形態のマシニングセンタ1Aは、クーラント液だけでなく、主軸3の内部を通してエアーを流体噴出工具50内に送り込むことができるものとする。具体的には、マシニングセンタ1Aの制御装置30は、流体噴出工具50にエアーを送り込みながら、流体噴出工具50を、図8に示す下穴Faや図9に示す止まりねじ穴Haの中に所定の送り速度で挿入していく。これにより、下穴Fa内に溜まったクーラント液や、止まりねじ穴Ha内に溜まったクーラント液を、各有底穴部の外へと好適に排出することが可能である。なお、流体噴出工具50の送り速度は適宜設定すればよい。流体噴出工具50からエアーを噴射させて有底穴部内のクーラント液を除去する処理を残留物除去処理と称する。
【0084】
次に、マシニングセンタ1Aにより未加工のワークに止まりねじ穴Haを形成する際の制御装置30の処理について図10に基づいて説明する。流体噴出工具50を含む本形態の切り屑除去システムKSAによれば、オペレーターが加工指示の操作を一度行うだけで、ワークの清掃を含む加工完了までの全工程をマシニングセンタ1Aに行わせることができる。オペレーターによる入出力装置32の操作がなされて、制御装置30のプロセッサがねじ穴の加工指示を受け付けると、制御装置30のプロセッサは、例えば、図10に示すねじ穴形成処理を行う。なお、図10に示すねじ穴形成処理は、図7に示したような4つの止まりねじ穴HaをワークWaに形成する処理とする。
【0085】
図10に示すように、制御装置30のプロセッサはまず、ワークWaにセンタ穴を4つあけた後、主軸3の工具を下穴加工用のドリルに交換して下穴Faを4つ形成する(ステップS1)。続いて、制御装置30のプロセッサは、自動工具交換装置20等を動作させて主軸3の工具を下穴加工用のドリルから流体噴出工具50に交換する工具交換処理を行う(ステップS2)。そして、流体噴出工具50を使って下穴Fa内の切り屑Kを除去する切り屑除去処理を行う(ステップS3)。
【0086】
切り屑除去処理(S3)では、4つの下穴Faに対して、それぞれ、切り屑Kの除去を行う。まず1つ目の下穴Faの中心軸と同軸上に流体噴出工具50を移動させる。そして、下穴Faの深さに対応する深さ(流体噴出工具50の先端50aが下穴Fa内に溜まった切り屑Kに当たらない程度の深さ)まで、流体噴出工具50を下穴Fa内に挿入する。なお、流体噴出工具50を下穴Faの中心軸と同軸上に移動させるプログラム(作業指示データ)は、下穴加工時の位置データ(X軸方向およびY軸方向の位置データ)を参照することで、オペレーターが容易に制御装置30に入力することができる。また、流体噴出工具50を下穴Fa内に最適な深さで挿入するプログラムも、下穴加工時の深さデータ(Z軸方向の位置データ)を参照しつつ、下穴加工により生じる切り屑Kの量を加味することで、オペレーターが容易に制御装置30に入力することができる。
【0087】
続いて制御装置30のプロセッサは、クーラント液を主軸3の内部を通して流体噴出工具50の内部流路部60へ送り込み、各貫通孔部(先端貫通孔部61及び側方貫通孔部63)から噴射させながら、主軸3(流体噴出工具50)を下穴Faから抜ける方向に所定の送り速度で移動させる(図8参照)。ここでの送り速度は、下穴加工時のドリルの送り速度を基準に一定の範囲(プラスマイナス30%程度)に設定される。送り速度が速すぎると切り屑Kの除去が十分に行われない可能性があり、送り速度が遅すぎると加工効率が悪くなる可能性があるからである。
【0088】
このように流体噴出工具50(主軸3)が制御されることにより、下穴Fa内の切り屑Kが好適に除去される。1つ目の下穴Faに対する切り屑Kの除去が終わると、制御装置30のプロセッサは、残りの下穴Faに対しても1つずつ同様に切り屑Kの除去を行う。本形態の切り屑除去システムKSAによれば、流体噴出工具50の動作条件(動作データ)を下穴Faの加工条件(加工データ)を参照して決めることができる。よって、加工された下穴Faに対して最適な位置に流体噴出工具50を移動させることができ、また、下穴Fa内の切り屑Kの除去に最適な速度で流体噴出工具50を動作させることができる。よって、下穴Fa内の切り屑Kの除去を、オペレーターが手動で行う構成よりも、正確に行うことが可能となっている。
【0089】
次に制御装置30のプロセッサは、主軸3の工具を面取り工具に交換して各下穴Faの入口の面取りを行い、更に、主軸3の工具をねじ切り加工用のタップに交換して各下穴Faにねじを切って止まりねじ穴Haを形成する(ステップS4)。なお、ステップS3の切り屑除去処理によって下穴Fa内にクーラント液が溜まる場合には、ステップS3とステップS4との間で、流体噴出工具50からエアーを噴射させる残留物除去処理を行うとよい。
【0090】
ステップS4に続いて、制御装置30のプロセッサは、自動工具交換装置20等を動作させて主軸3の工具をねじ切り加工用のタップから流体噴出工具50に交換する工具交換処理を行う(ステップS5)。そして、流体噴出工具50を使って止まりねじ穴Ha内の切り屑Kを除去する切り屑除去処理を行う(ステップS6)。
【0091】
切り屑除去処理(S6)では、4つの止まりねじ穴Haに対して、それぞれ、切り屑Kの除去を行う。まず1つ目の止まりねじ穴Haの中心軸と同軸上に流体噴出工具50を移動させる。そして、止まりねじ穴Haの深さに対応する深さ(流体噴出工具50の先端50aが止まりねじ穴Ha内に溜まった切り屑Kに当たらない程度の深さ)まで、流体噴出工具50を止まりねじ穴Ha内に挿入する。なお、流体噴出工具50を止まりねじ穴Haの中心軸と同軸上に移動させるプログラム(作業指示データ)は、ねじ切り加工時の位置データ(X軸方向およびY軸方向の位置データ)を参照することで、オペレーターが容易に制御装置30に入力することができる。また、流体噴出工具50を止まりねじ穴Ha内に最適な深さで挿入するプログラムも、ねじ切り加工時の深さデータ(Z軸方向の位置データ)を参照しつつ、ねじ切り加工により生じる切り屑Kの量を加味することで、オペレーターが容易に制御装置30に入力することができる。
【0092】
続いて制御装置30のプロセッサは、クーラント液を主軸3の内部を通して流体噴出工具50の内部流路部60へ送り込み、各貫通孔部(先端貫通孔部61及び側方貫通孔部63)から噴射させながら、流体噴出工具50を所定の回転数でねじの緩み方向に回転させるとともに主軸3(流体噴出工具50)を止まりねじ穴Haから抜ける方向に所定の送り速度で移動させる(図9参照)。ここでの回転数や送り速度は、ねじ切り加工時のタップの回転数や送り速度と同じに設定される。このように、ねじ切りの加工条件(加工データ)に、流体噴出工具50の動作条件(動作データ)を合わせることで、全てのねじ溝Hdにクーラント液があたり易くなり、切り屑Kをねじ溝Hdに沿って止まりねじ穴Haの外まで残さずに排出し易くすることが可能である。なお、流体噴出工具50の回転数や送り速度は、ねじ切りの加工条件と完全に一致していなくても、切り屑Kを好適に除去できる範囲で適宜変更可能である。例えば、流体噴出工具50の回転数や送り速度は、ねじ切り加工時のタップの回転数や送り速度を基準に一定の範囲(プラスマイナス30%程度)に設定してもよい。
【0093】
このように流体噴出工具50(主軸3)が制御されることにより、止まりねじ穴Ha内の切り屑Kが好適に除去される。1つ目の止まりねじ穴Haに対する切り屑Kの除去が終わると、制御装置30のプロセッサは、残りの止まりねじ穴Haに対しても1つずつ同様に切り屑Kの除去を行う。本形態の切り屑除去システムKSAによれば、流体噴出工具50の動作条件(動作データ)を止まりねじ穴Haの加工条件(加工データ)を参照して決めることができる。よって、加工された止まりねじ穴Haに対して最適な位置に流体噴出工具50を移動させることができ、また、止まりねじ穴Ha内の切り屑Kの除去に最適な回転数および送り速度で流体噴出工具50を動作させることができる。よって、止まりねじ穴Ha内の切り屑Kの除去を、オペレーターが手動で行う構成よりも、正確に行うことが可能となっている。
【0094】
次に制御装置30のプロセッサは、残留物除去処理を行う(ステップS7)。残留物除去処理では、流体噴出工具50にエアーを送り込みながら、流体噴出工具50を各止まりねじ穴Haの中に順次挿入していく。これにより、ステップS6の切り屑除去処理によって各止まりねじ穴Ha内に溜まったクーラント液を、各止まりねじ穴Haから排出することができる。
【0095】
このように流体噴出工具50を含む本形態の切り屑除去システムKSAによれば、加工開始時にオペレーター(作業者)が1度だけ入出力装置32を操作するだけで、ワークの清掃を含む加工完了までの全工程をマシニングセンタ1Aに継続して行わせることが可能である。よって、下穴Faの形成後や止まりねじ穴Haの形成後にオペレーターがマシニングセンタ1Aの動作を一時的に止めて切り屑K等の残留物の除去作業を行う必要がない。よって、オペレーターの作業効率が改善され、工場の生産効率を高めることが可能である。また、オペレーターが自ら切り屑の除去等を行う構成に比べて、オペレーターが怪我をするおそれがなく、汚れることもない。
【0096】
更に本形態の切り屑除去システムKSAによれば、上述した通り、オペレーター自身による切り屑K(残留物)の除去に比べて、切り屑K(残留物)の除去精度が高い(切り屑Kの飛ばし残しが少ない)。このように本形態によれば、高精度の切り屑Kの除去を、安全かつ清潔で、効率的に行うことが可能である。
【0097】
次に、ヘリカル加工により形成した止まりねじ穴に対する切り屑Kの除去について図11Aに基づいて説明する。図11Aに示す止まりねじ穴Jaは、図9に示した止まりねじ穴Haよりも大径のねじ穴である。この止まりねじ穴Jaは、ねじ切り加工工具(例えばタップミルなど)を螺旋状に動かすヘリカル加工によって形成したものである。このような止まりねじ穴Ja内の切り屑Kを除去する場合、制御装置30のプロセッサは、主軸3に取り付けられる工具を流体噴出工具50に交換した後、止まりねじ穴Jaの加工時とは逆の順序で逆向きに動かす。
【0098】
つまり、制御装置30のプロセッサは、流体噴出工具50を止まりねじ穴Jaの底面Jb近くまで挿入し、流体噴出工具50の軸AX3が止まりねじ穴Jaの中心軸AX4よりも内周面Jc寄りとなるように、流体噴出工具50を内周面Jcに近づける。そして、流体噴出工具50の自転(流体噴出工具50の軸AX3回りの回転)の方向を加工時とは逆の方向にして流体噴出工具50を回転させつつ、止まりねじ穴Jaの内周面Jcに沿う流体噴出工具50の公転(止まりねじ穴Jaの中心軸AX4回りの回転)の方向も加工時とは逆の方向にして流体噴出工具50を内周面Jcに沿って円を描くように回しながら上へ引き上げる(つまり螺旋状に引き上げる)。この際、流体噴出工具50の公転1回転で止まりねじ穴Jaの1ピッチ分だけZ軸方向に上昇するように、流体噴出工具50の移動を制御する。言い換えれば、流体噴出工具50の回転と送りを同期させ、1回転あたりの送り量が止まりねじ穴Jaのピッチ量となるように制御する。そして制御装置30のプロセッサは、このような移動制御とともに、クーラント液を流体噴出工具50の先端貫通孔部61および側方貫通孔部63から噴射させる。このような流体噴出工具50の制御によれば、止まりねじ穴Ja内の切り屑Kが、止まりねじ穴Jaのねじ溝Jdに沿って確実に上部開口Jeまで運ばれ易い。従って、止まりねじ穴Ja内の切り屑Kを精度良く除去することが可能である。なお、このような流体噴出工具の移動および流体噴射の制御は、ヘリカル加工によって形成されたねじの無い止まり穴に対する切り屑Kの除去にも好適に用いることができる。
【0099】
なお、図11Aに示す比較的大径の止まりねじ穴Jaは、下穴の形成後にねじ切り加工工具を用いて穴底から穴開口に向かうヘリカル送りにてめねじを切る手法によって形成されることもある。このような手法で止まりねじ穴Jaが形成された場合の切り屑Kの除去処理では、制御装置30のプロセッサは、流体噴出工具50の自転の方向および公転の方向を、ねじ切り加工時と同じ方向とするよい。
【0100】
ここで、ヘリカル加工により止まりねじ穴Jaを形成する場合、制御装置30のプロセッサは、図11Bに示すねじ穴形成処理を行う。図11Bに示すねじ穴形成処理におけるステップS1~ステップS6までの処理は、図10に示したねじ穴形成処理におけるステップS1~ステップS6までの処理と同様であるため、説明を省略する。図11Aに示すように、ヘリカル加工により止まりねじ穴Jaを形成し(ステップS4)、流体噴出工具50を用いた切り屑除去処理を行った後(ステップS5及びS6)、制御装置30のプロセッサは、主軸3の工具を仕上げ加工用のねじ切り加工工具に交換して止まりねじ穴Jaに仕上げ加工を行う(ステップS10)。その後、制御装置30のプロセッサは、主軸3の工具を再び流体噴出工具50に交換し(ステップS11)、仕上げ加工によって生じた切り屑Kを止まりねじ穴Jaから除去する(ステップS12)。続いて、制御装置30のプロセッサは、残留物除去処理を行う(ステップS13)。残留物除去処理では、制御装置30のプロセッサは、流体噴出工具50にエアーを送り込みながら、流体噴出工具50を止まりねじ穴Jaに挿入して、ステップS12の切り屑除去処理によって止まりねじ穴Ja内に溜まったクーラント液を排出する。このように流体噴出工具50を含む本形態の切り屑除去システムKSAによれば、ヘリカル加工によるねじ切りを含むワークの加工であっても、加工開始時にオペレーター(作業者)が1度だけ入出力装置32を操作するだけで、仕上げ加工およびその後の清掃までの全工程をマシニングセンタ1Aに継続して行わせることが可能である。
【0101】
以上詳細に説明したように、第1実施形態に係る流体噴出工具50は、マシニングセンタ1Aにおける主軸3に取り付けられる工具である。マシニングセンタ1Aは、主軸3に取り付けられる工具を自動で交換可能であり、工具を回転させることによりワークを加工可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能である(図1参照)。流体噴出工具50は、元部56側が開口した管状とされ、主軸3に取り付けられた状態で当該主軸3の軸方向に沿う工具軸方向に延びていて、当該主軸3の内部を通って射出される流体を通す内部流路部60と、元部56とは反対の先端部54側に設けられ、内部流路部60の内周面60bから当該流体噴出工具50の外部に貫通し、内部流路部60を通った流体を当該流体噴出工具50の外部に噴出させる側方貫通孔部63(第1側方貫通孔部63a、第2側方貫通孔部63b)とを備える(図4~6参照)。側方貫通孔部63は、内側開口63cよりも外側開口63dが元部56寄りになるように、工具径方向よりも工具軸方向へ傾斜角θ1(本形態では40度程度)で傾斜している(図6参照)。
【0102】
この態様の流体噴出工具50によれば、主軸3から射出されて内部に流入したクーラント液等の流体を、側方貫通孔部63から外部に噴出することができる。側方貫通孔部63は、内側開口63cよりも外側開口63dが元部56寄りに位置するように、工具径方向よりも工具軸方向へ傾斜角θ1で傾斜しているため、流体噴出工具50の元部56側に向かって切り屑Kを好適に吹き飛ばすことができる。従って、マシニングセンタ1Aの作動を停止することなく、主軸3内を通って射出される流体を利用して、切り屑Kの除去を行うことが可能である。その結果、作業効率の低下を抑制しつつ、作業者によるエアガン等を使った手作業での清掃に比べて、安全かつ確実にマシニングセンタ1A内の切り屑Kを除去することが可能である。
【0103】
また第1実施形態には、流体噴出工具50を用いた切り屑除去方法であって、有底穴部(下穴Faや止まりねじ穴Ha)をワークWaに加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具50に交換する交換ステップ(図10中のステップS2やS5)と、加工工程によって形成された有底穴部の中に流体噴出工具50を挿入して当該有底穴部内に側方貫通孔部63および先端貫通孔部61を位置させる挿入ステップ(図10中のステップS3やS6に含まれる一部の処理)と、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ流体噴出工具50を有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具50を有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去ステップ(図10中のステップS3やS6に含まれる他の一部の処理)と、を含む切り屑除去方法が開示されている。
【0104】
また第1実施形態には、入力された作業指示データに基づいて動作の制御を行う制御装置30を有するマシニングセンタ1Aと、流体噴出工具50とを備えた切り屑除去システムKSAが開示されている。この切り屑除去システムKSAでは、制御装置30は、有底穴部(下穴Faや止まりねじ穴Ha)をワークWaに加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具50に交換する工具交換処理(図10中のステップS2やS5)と、加工工程によって形成された有底穴部の中に流体噴出工具50を挿入して当該有底穴部内に側方貫通孔部63および先端貫通孔部61を位置させる工具挿入処理(図10中のステップS3やS6に含まれる一部の処理)と、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ流体噴出工具50を有底穴部の形成時の工具回転方向とは逆の方向に回転させながら、当該流体噴出工具50を有底穴部から抜ける方向に移動させる切り屑除去処理(図10中のステップS3やS6に含まれる他の一部の処理)とを行う。
【0105】
第1実施形態に開示されている切り屑除去方法や切り屑除去システムKSAによれば、主軸3に取り付けられた流体噴出工具50を有底穴部(下穴Faや止まりねじ穴Ha)に挿入して先端貫通孔部61および側方貫通孔部63を有底穴部内に位置させた後、先端貫通孔部61及び側方貫通孔部63から流体を噴出させながら有底穴部の形成時とは逆の方向に流体噴出工具50を回転させつつ有底穴部から抜ける方向に移動させることで、有底穴部内に残留している切り屑Kを有底穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である(図8図9参照)。特に有底穴部が止まりねじ穴Haである場合には、切り屑Kをねじ溝Hdに沿って螺旋状に移動させながら有底穴部の外へと出し切ることが可能である(図9参照)。なお、流体噴出工具50を用いた切り屑K等の残留物の除去に際しては、マシニングセンタ1Aにおける図示しないスライドドアが閉じられていて加工空間が閉鎖されているため、クーラント液や切り屑Kがマシニングセンタ1A外へ飛散することはない。
【0106】
なお、第1実施形態に開示された切り屑除去システムKSAでは、制御装置30によって、加工工程におけるワークの加工位置と同じ位置に流体噴出工具50が移動されるため、有底穴部内の切り屑Kの除去の精度を向上することが可能である。
【0107】
また第1実施形態に開示された切り屑除去システムKSAでは、制御装置30によって、加工工程における工具の挿入深さを超えない深さで流体噴出工具50が有底穴部に挿入すされるため、流体噴出工具50を有底穴部の底(下穴Faの底面Fb、止まりねじ穴Haの底面Hb)にあててしまう等によりワークに傷がついてしまうのを防止可能である。
【0108】
また第1実施形態に開示された切り屑除去システムKSAでは、制御装置30によって、加工工程における工具の回転数に対応する回転数で流体噴出工具50が回転されるため、加工した有底穴部に適した切り屑Kの除去が可能である。特に止まりねじ穴Haを加工した場合、ねじを切ったときの工具の回転数に対応する回転数で流体噴出工具50を加工時と逆の方向に回転させることで、切り屑Kをねじ溝Hdに沿って螺旋状に確実に移動させていくことができ、止まりねじ穴Ha内の切り屑Kを精度よく除去することが可能である。
【0109】
また第1実施形態に開示された切り屑除去システムKSAでは、制御装置30によって、加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度で流体噴出工具50が有底穴部から抜ける方向に移動されるため、加工した有底穴部に適した切り屑Kの除去が可能である。つまり、流体噴出工具50を有底穴部から抜く速度が速すぎたり遅すぎたりすることを防止でき、切り屑Kの除去精度と除去作業の効率とのバランスをとることが可能である。
【0110】
2.第2実施形態
次に第2実施形態の切り屑除去システムについて説明する。第2実施形態の切り屑除去システムは、図12及び図13に示す流体噴出工具50Aと、第1実施形態と同じマシニングセンタ1Aとを含む。すなわち、第2実施形態ではマシニングセンタ1Aには、自動工具交換装置20により交換可能な工具として、図12及び図13に示す流体噴出工具50Aがセットされている。第2実施形態の説明において第1実施形態と同様の構成および同じ機能の構成については同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0111】
図12は第2実施形態に係る流体噴出工具50Aの底面図であり、図13図12中のB-B線断面図である。図12及び図13に示すように、第2実施形態に係る流体噴出工具50Aは、底面視円形状の底部51Aに先端貫通孔部が形成されていない点、及び、底部51Aの周縁部から上方に延びる円筒状の周壁部52Aに形成された側方貫通孔部63Aが内側開口63Acから外側開口63Adにかけて底部51A(流体噴出工具50Aの先端50Aa)の側に傾斜している点が、第1実施形態の流体噴出工具50と異なっており、その他の構成は概ね第1実施形態の流体噴出工具50と同様である。
【0112】
詳細には、第2実施形態に係る流体噴出工具50Aにおいて底部51Aは、図12に示すように、底面(流体噴出工具50Aの先端50Aaの面)全体が塞がっている。このため、内部流路部60Aを通った流体(クーラント液、エアー)が流体噴出工具50Aの軸方向に噴射されることはない。また、第2実施形態に係る流体噴出工具50Aにおいて側方貫通孔部63Aは、図13に示すように、内部流路部60Aを通った流体を、流体噴出工具50Aの径方向よりも底部51A(流体噴出工具50Aの先端50Aa)側へ噴射するように、流体噴出工具50Aの径方向を基準に軸心方向へ所定の傾斜角θ2で傾斜している。言い換えれば、側方貫通孔部63Aは、内側開口63Acよりも外側開口63Adが底部51A(流体噴出工具50Aの先端50Aa)寄りに位置するように傾斜している。本形態では、側方貫通孔部63Aの傾斜角θ2は約40度程度である。
【0113】
第2実施形態においても、側方貫通孔部63Aは、軸方向で見て底部51Aに近い第1の位置と、第1の位置よりも底部51Aから遠い第2の位置の2つの位置において、周方向にわたって90度毎に4つずつ設けられており、底部51Aに近い第1の位置の各第1側方貫通孔部63Aaと、これよりも底部51Aから遠い第2の位置の各第2側方貫通孔部63Abとは、周方向に45度ずれて設けられている。第2実施形態に係る流体噴出工具50Aの各部の寸法は第1実施形態に係る流体噴出工具50と同様であり、また、第2実施形態における各側方貫通孔部63Aの外側開口63Adの位置は、第1実施形態における各側方貫通孔部63の外側開口63dの位置と同じである。なお、流体噴出工具50Aの各種寸法は、切り屑を除去する機能が好適に発揮できる範囲で、適宜変更可能である。また、傾斜角θ2は10度から70度の範囲が好ましい。
【0114】
このように構成された第2実施形態に係る流体噴出工具50Aは、主軸3の内部を通って射出された流体を、当該流体噴出工具50Aの元部56A側の開口から内部流路部60Aに流入させ、更には内部流路部60Aを通った流体を、第1側方貫通孔部63Aaおよび第2側方貫通孔部63Abから、径方向よりも底部51A(流体噴出工具50Aの先端50Aa)側に向くように噴射することができる。本形態の流体噴出工具50Aを用いれば、このように流体を噴射することにより、次に述べるように、ワークに形成された通り穴のねじ穴内に付着した切り屑Kの除去を好適に行うことが可能である。
【0115】
図14は、流体噴出工具50Aを使って、通り穴のねじ穴Pa(以下「通りねじ穴Pa」ともいう)内から切り屑Kを除去する様子の一例を示す図である。通りねじ穴Pa(通り穴部の一例)から切り屑Kを除去する場合、図14に示すように、マシニングセンタ1Aの制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具をねじ切り用のタップから流体噴出工具50Aに交換した後、通りねじ穴Paの中心軸AX5と流体噴出工具50Aの回転軸とが一致するよう流体噴出工具50AをX軸方向およびY軸方向に移動させる。
【0116】
そして制御装置30は、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50Aの内部流路部60Aにクーラント液(切削油)を送り込みつつ、流体噴出工具50Aを(言い換えれば主軸3を)所定の回転数でねじ切り加工時と同じ方向(つまりねじが締まる方向、具体的には右ねじであれば右回り、左ねじであれば左回り)に回転させながら、所定の送り速度で軸方向(Z軸方向)に沿って通りねじ穴Paの下部開口Pf側へ(下方へと)移動させる。所定の回転数および所定の送り速度は、適宜設定可能であるが、例えば、ねじ切り加工時のタップの回転数および送り速度と同じ回転数および送り速度とするとよい。このようにすれば、流体噴出工具50が1回転あたりに送られる量を、通りねじ穴Paのピッチに合わせることができ、ねじ溝Pdに沿ったスムーズな切り屑Kの除去が期待できるからである。なお、所定の回転数はねじ切り加工時のタップの回転数を基準としてその70%~130%程度の範囲で設定するとよい。この範囲の回転数は、加工工程における工具の回転数に対応する回転数に相当する。また、所定の送り速度はねじ切り加工時のタップの送り速度を基準としてその70%~130%程度の範囲で設定するとよい。この範囲の送り速度は、加工工程における工具の送り速度に対応する送り速度に相当する。
【0117】
流体噴出工具50Aに送られた流体は、内部流路部60Aを通って側方貫通孔部63A(第1側方貫通孔部63Aa、第2側方貫通孔部63Ab)から噴射される。側方貫通孔部63Aは、流体噴出工具50Aの先端部54Aの全周にわたって45度間隔で8個設けられている。また、流体噴出工具50Aはねじの締り方向に回転されながら、通りねじ穴Pa内を通り抜ける方向に(Z軸方向を下向きに)移動される。そして、側方貫通孔部63Aは、流体噴出工具50Aの径方向よりも底部51A側へ傾斜している(つまり図14中の左右方向よりも下方へ傾斜している)。よって、側方貫通孔部63Aから噴射された流体は、通りねじ穴Paの内周面Pcに当たると、内周面Pcのねじ溝Pdに沿って螺旋状に下降する。つまり、流体噴出工具50Aを回転させながら側方貫通孔部63Aからクーラント液(切削油)を噴射することで、通りねじ穴Paの内周面Pcに付着していた切り屑Kを、ねじ溝Pdに沿って通りねじ穴Paの下部開口Pfへと送り出す螺旋状の下降流が形成される。
【0118】
このような螺旋状の下降流によって、通りねじ穴Pa内の切り屑Kがねじ溝Pdに沿って下方へと送られていき、更に、流体噴出工具50Aが通りねじ穴Paを下方へ移動されていく(Z軸方向に下降していく)につれて、この下降流の当たる位置も内周面Pcの下方へと徐々に下がっていく。このようにして、通りねじ穴Pa内に付着していた切り屑Kは全て、通りねじ穴Paの下部開口Pfから通りねじ穴Paの外へと排出される。このように本形態の流体噴出工具50Aを用いれば、通りねじ穴Paから切り屑Kを好適に除去することが可能である。
【0119】
なお本形態では、流体噴出工具50Aにおいて第1側方貫通孔部63Aaと第2側方貫通孔部63Abとが軸方向に位置をずらして設けられている。このため、流体噴出工具50Aの底部51Aから遠い第2側方貫通孔部63Abから噴射される流体によって底部51A側へ吹き飛ばした切り屑Kを、第1側方貫通孔部63Aaによって更に底部51A側へと吹き飛ばすことが可能である。
【0120】
以上説明したように第2実施形態に係る流体噴出工具50Aは、図13に示したように、内側開口63Acよりも外側開口63Adが底部51A(流体噴出工具50Aの先端50Aa)寄りになるように傾斜角θ2(本形態では約40度程度)で傾斜する側方貫通孔部63Aを有しており、先端貫通孔部を有していない(図13参照)。
【0121】
この態様の流体噴出工具50Aによれば、側方貫通孔部63Aから噴出される流体によって、流体噴出工具50Aの先端50Aa側(ワークや固定治具がある側)へ切り屑Kを吹き飛ばすことができる。よって、ワークを貫通するタイプの加工箇所に残留している切り屑を好適に除去することが可能である。
【0122】
なお第2実施形態には、流体噴出工具50Aを用いた切り屑除去方法であって、通り穴部(例えば通りねじ穴Pa)をワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具50Aに交換する交換ステップと、側方貫通孔部63から流体を噴出させつつ流体噴出工具50Aを通り穴部の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら、流体噴出工具50Aを通り穴部に通していく切り屑除去ステップと、を含む切り屑除去方法が開示されている。
【0123】
また第2実施形態には、入力された作業指示データに基づいて動作の制御を行う制御装置30を有するマシニングセンタ1Aと、流体噴出工具50Aとを備える切り屑除去システムが開示されている。この切り屑除去システムでは、制御装置30は、通り穴部(例えば通りねじ穴Pa)をワークに加工する加工工程の後で、使用する工具を流体噴出工具50Aに交換する工具交換処理と、側方貫通孔部63から流体を噴出させつつ流体噴出工具50Aを通り穴部の形成時の工具回転方向と同じ方向に回転させながら、流体噴出工具50Aを通り穴部に通していく切り屑除去処理とを行う。
【0124】
第2実施形態に開示されている切り屑除去方法や切り屑除去システムによれば、主軸3に取り付けられた流体噴出工具50Aを、側方貫通孔部63から流体を噴出させつつ通り穴部(例えば通りねじ穴Pa)の形成時と同じ方向に回転させながら通り穴部を通していくことで、通り穴部内に残留している切り屑Kを通り穴部の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である(図14参照)。特に通り穴部が通りねじ穴Paである場合には、切り屑Kをねじ溝Pdに沿って螺旋状に移動させながら通り穴部の外へと出し切ることが可能である(図14参照)。
【0125】
3.第3実施形態
次に第3実施形態の切り屑除去システムKSBについて図15図18に基づいて説明する。第3実施形態の説明において第1実施形態と同様の構成および同じ機能の構成については同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0126】
第3実施形態の切り屑除去システムKSBは、図15に示すように、マシニングセンタ1B(工作機械の一例)と、第1実施形態と同じ流体噴出工具50とを含む。マシニングセンタ1Bは、第1実施形態に係るマシニングセンタ1Aと同様、加工ヘッド2と、自動工具交換装置20と、制御装置30とを備えるものであり、自動工具交換装置20のツールマガジン22にセットされている複数の工具の何れかと、加工ヘッド2の主軸3(工具取付部の一例)に装着されている工具とを、制御装置30が作業指示データに基づいて自動で交換することができるものである。切り屑除去システムKSBは、ツールマガジン22にセットされる工具の1つとして、流体噴出工具50を備えており、制御装置30による工具交換処理によって、図15に示すように、流体噴出工具50を主軸3に取り付けることが可能である。
【0127】
第3実施形態に係るマシニングセンタ1Bは、第1実施形態に係るマシニングセンタ1Aに比べてX軸方向(左右方向)の長さが長いものである。マシニングセンタ1Bは、ワークを支持するワーク支持装置として、X軸方向(左右方向)を長手方向としY軸方向(前後方向)を短手方向とする平面視長方形状のテーブル200を備える。また、マシニングセンタ1Bは、加工ヘッド2を当該テーブル200に対して相対移動させる移動装置48を備える。制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具の回転、加工ヘッド2の移動(移動装置48の動作)、自動工具交換装置20の動作、クーラント液(切削油)やエアーを供給する流体供給装置(不図示)の動作、ワークの加工により生じた切り屑Kを回収する回収装置(不図示)等の動作を制御する。なお、図15では図示を省略しているが、マシニングセンタ1Bには、テーブル200および加工ヘッド2を囲む外壁(ケーシング)と、該外壁に形成された開口部を開閉するスライドドアとが設けられており、スライドドアの開閉により、ワークの加工が行われる加工空間を開閉することが可能となっている。
【0128】
また本形態のマシニングセンタ1Bは、第1実施形態に係るマシニングセンタ1Aと同様、センタースルー方式で主軸3の内部を通ってクーラント液およびエアーといった各種の流体を噴射することが可能なものである。
【0129】
次に、マシニングセンタ1Bにおける流体噴出工具50を用いた切り屑の除去方法について説明する。図16は、マシニングセンタ1Bが備えるテーブル200の斜視図である。マシニングセンタ1Bによるワークの加工後は、図16に示すように、テーブル200上に切り屑Kが残留する。また、テーブル200に設けられているTスロット溝210内にも切り屑Kが残留する。Tスロット溝210は、ワークを固定する固定治具をテーブル200に固定するための左側面視逆T字状の溝であり、上部開口側の溝幅(Y軸方向の幅)よりも底側の溝幅の方が広い。Tスロット溝210における幅広の下段部分を幅広溝210aと称し、幅狭の上段部分を幅狭溝210bと称する。なお、幅狭溝210bの幅は、流体噴出工具50の本体部55の外径D1よりも長い。Tスロット溝210は、テーブル200の左端から右端までの全域にわたって長手方向に沿って延びており、テーブル200の前端から後端にかけて等間隔で5つ設けられている。
【0130】
図16に示したように、テーブル200上およびTスロット溝210内に切り屑Kが残留した状態では、マシニングセンタ1Bを次の加工に使うことができない。従来では、このようなマシニングセンタ1Bのテーブル200の清掃も、オペレーター(作業者)がエアガン等を使って行っていた。本形態の切り屑除去システムKSBによれば、このようなテーブル200の清掃作業を自動化することが可能である。すなわち、オペレーターが制御装置30の入出力装置32を操作して、主軸3に取り付けられている工具を流体噴出工具50に交換させて、流体噴出工具50を次のように動作させるだけで、テーブル200の清掃を完了することが可能である。
【0131】
図17及び図18は、流体噴出工具50を使って、テーブル200のTスロット溝210内から切り屑Kを除去する様子の一例を示す図である。マシニングセンタ1Bの制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具を流体噴出工具50に交換した後、図17に示すように、Tスロット溝210に流体噴出工具50を挿入する。流体噴出工具50の挿入深さは、先端貫通孔部61および側方貫通孔部63がTスロット溝210の下段の幅広溝210aに至る程度とする。ここで制御装置30は、Tスロット溝210の前後方向における中心に流体噴出工具50の軸AX3が位置するように流体噴出工具50をX軸方向およびY軸方向に移動させる。また制御装置30は、流体噴出工具50の先端50aがTスロット溝210の底面210cに当たらない深さで(例えば先端50aを底面210cから2mm程度離して)、流体噴出工具50をTスロット溝210に挿入する(Z軸方向に移動させる)。
【0132】
そして制御装置30は、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50の内部流路部60にクーラント液(切削油)を送り込みつつ、図17及び図18に示すように、流体噴出工具50を(言い換えれば主軸3を)所定の回転数で所定の回転方向(本形態では反時計回り)に回転させながら、所定の送り速度でTスロット溝210の延伸方向に沿って所定の向き(右向きあるいは左向き)に移動させる。1つのTスロット溝210の清掃にあたっては、そのTスロット溝210の左端から右端まで少なくとも1回は流体噴出工具50を移動させることが望ましい。なお、流体噴出工具50を1つのTスロット溝210に対して1回又は複数回、左端及び右端の間で往復させてもよい。流体噴出工具50の回転数および送り速度は、適宜設定可能である。
【0133】
上記のように流体噴出工具50を用いれば、先端貫通孔部61から軸方向に噴射される流体によって、Tスロット溝210の幅広溝210aの底面210cに付着している切り屑Kを工具径方向に吹き飛ばしつつ舞い上げることができる。そして、流体噴出工具50の回転を伴って各側方貫通孔部63から元部56側へ向けて噴射される流体によって、Tスロット溝210の上部開口に向かって螺旋状に上昇する上昇流が形成され、これにより、Tスロット溝210の幅広溝210a内の切り屑Kも幅狭溝210b内の切り屑Kも全て、Tスロット溝210外へと吹き飛ばすことが可能である。
【0134】
特に本形態によれば、側方貫通孔部63が工具径方向に対して元部56側に傾斜しているため、Tスロット溝210の幅広溝210aの上面210dに付着した切り屑Kにも流体をあてることができる。よって、幅広溝210aの上面210dに切り屑Kが残留することもなく、Tスロット溝210内の切り屑Kを概ね全て除去することが可能である。
【0135】
以上説明した第3実施形態の切り屑除去システムKSBは、入力された作業指示データに基づいて動作の制御を行う制御装置30を有するマシニングセンタ1Bと、流体噴出工具50とを備える。制御装置30は、使用する工具を流体噴出工具50に交換する工具交換処理と、テーブル200に形成されたTスロット溝210内に側方貫通孔部63および先端貫通孔部61を位置させて、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ、流体噴出工具50を回転させながらTスロット溝210が延びる方向に移動させていく切り屑除去処理とを行う(図17図18参照)。このため、Tスロット溝210内に残留している切り屑KをTスロット溝210の外へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0136】
なお第3実施形態には、流体噴出工具50を用いた切り屑除去方法であって、使用する工具を流体噴出工具50に交換する交換ステップと、マシニングセンタ1Bが有するテーブル200に形成されたTスロット溝210内に側方貫通孔部63および先端貫通孔部61を位置させて、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ、流体噴出工具50を回転させながらTスロット溝210が延びる方向に移動させていく切り屑除去ステップとを含む切り屑除去方法が開示されている。
【0137】
4.第4実施形態
次に第4実施形態の切り屑除去システムKSCについて図19図20に基づいて説明する。第4実施形態の説明において第1実施形態と同様の構成および同じ機能の構成については同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0138】
第4実施形態の切り屑除去システムKSCは、図19に示すように、複合工作機械1C(工作機械の一例)と、第1実施形態と同じ流体噴出工具50とを含む。複合工作機械1Cは、マシニングセンタに旋削機能を付加した工作機械であり、加工ヘッド2の主軸3(工具主軸)と、ワークを回転させる工作主軸を含む工作主軸部300とを備える。また複合工作機械1Cは、第1実施形態に係るマシニングセンタ1Aと同様、自動工具交換装置20と、制御装置30とを備えるものであり、自動工具交換装置20のツールマガジン22にセットされている複数の工具の何れかと、加工ヘッド2の主軸3(工具取付部の一例)に装着されている工具とを、制御装置30が作業指示データに基づいて自動で交換することができるものである。そして切り屑除去システムKSCは、ツールマガジン22にセットされる工具の1つとして、流体噴出工具50を備えており、制御装置30による工具交換処理によって、図19に示すように、流体噴出工具50を主軸3に取り付けることが可能である。
【0139】
また、複合工作機械1Cの工作主軸部300には、ワークWbを固定するチャック(バイス)310が取り付けられている。本形態ではチャック310は、工作主軸部300の中心軸AX6回りに120度間隔で3つの爪部312が設けられた三つ爪チャックである。各爪部312は、図示しない駆動装置によってチャック310の径方向に移動可能である。各爪部312をチャック310の中心軸AX6に近づけるように移動させることでワークWbを挟んで工作主軸部300に固定することができ、各爪部312をチャック310の中心軸AX6から遠ざけるように移動させることでワークWbを取り外すことができる。
【0140】
また複合工作機械1Cは、加工ヘッド2をチャック310に対して相対移動させる移動装置48を備える。制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具の回転、加工ヘッド2の移動(移動装置48の動作)、工作主軸部300に取り付けられるワークの回転、チャック310の開閉、自動工具交換装置20の動作、クーラント液(切削油)やエアーを供給する流体供給装置(不図示)の動作、ワークの加工により生じた切り屑Kを回収する回収装置(不図示)等の動作を制御する。なお、図19では図示を省略しているが、複合工作機械1Cは、工作主軸部300および加工ヘッド2を囲む外壁(ケーシング)と、該外壁に形成された開口部を開閉するスライドドアとが設けられており、スライドドアの開閉により、ワークの加工が行われる加工空間を開閉することが可能となっている。
【0141】
また本形態の複合工作機械1Cは、第1実施形態に係るマシニングセンタ1Aと同様、センタースルー方式で主軸3の内部を通ってクーラント液およびエアーといった各種の流体を噴射することが可能なものである。
【0142】
次に、複合工作機械1Cにおける流体噴出工具50を用いた切り屑の除去方法について説明する。複合工作機械1Cによるワークの加工後は、図20に示すように、チャック310における円盤状のボディ314の中心部付近や爪部312の内側(チャック310の中心軸側)の面上等に切り屑Kが残留する。このようにチャック310に切り屑Kが残留した状態では、複合工作機械1Cを次の加工に使うことができない。従来では、このような複合工作機械1Cのチャック310の清掃も、オペレーター(作業者)がエアガン等を使って行っていた。本形態の切り屑除去システムKSCによれば、このようなチャック310の清掃作業を自動化することが可能である。すなわち、オペレーターが制御装置30の入出力装置32を操作して、主軸3に取り付けられている工具を流体噴出工具50に交換させて、流体噴出工具50を次のように動作させるだけで、チャック310の清掃を完了することが可能である。
【0143】
すなわち、複合工作機械1Cの制御装置30は、主軸3に取り付けられる工具を流体噴出工具50に交換した後、例えば図20に示すように、チャック310の中心軸AX6に流体噴出工具50の回転軸を合わせるように主軸3の位置および向き(姿勢)を動かす。そして、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50の内部流路部60にクーラント液(切削油)を送り込みつつ、流体噴出工具50を(言い換えれば主軸3を)所定の回転数で所定の回転方向(本形態では反時計回り)に回転させながら、所定の送り速度でチャック310に近づけるように(本形態では左方へ)移動させる。ここでは、流体噴出工具50の先端50aがチャック310のボディ314の表面に当たらない程度に(例えば先端50aをボディ314の表面から5~8mm程度離れた位置まで)、流体噴出工具50をチャック310に近づける。なお、流体噴出工具50の回転数および送り速度は、適宜設定可能である。
【0144】
上記のように流体噴出工具50を用いれば、先端貫通孔部61から軸方向に噴射される流体によって、チャック310のボディ314の表面に付着している切り屑Kをチャック310の径方向に吹き飛ばすことができる。また、流体噴出工具50の回転を伴って各側方貫通孔部63から元部56側(図20中の主軸3側)へ向けて噴射される流体によって、チャック310から離れる方向に向かう螺旋流が形成され、これにより、各爪部312に付着している切り屑Kをチャック310から離れるように吹き飛ばしながら、流体噴出工具50がボディ314に近づくにつれて螺旋流が爪部312とボディ314との隙間等にも入り込むようになり、ボディ314に付着していた切り屑Kや、爪部312の根本(ボディ314側の部分)に付着していた切り屑Kを、チャック310から離れるように吹き飛ばすことが可能である。
【0145】
このように本形態に係る流体噴出工具50を用いれば、側方貫通孔部63が工具径方向に対して元部56側(主軸3側)に傾斜しているため、チャック310上の種々の隙間に切り屑Kが入り込んだままになり難く、チャック310に付着した切り屑Kを概ね全て除去することが可能である。
【0146】
なお、上述した流体噴出工具50を用いたチャック310の清掃方法は一例であり、チャック310に対する切り屑Kの付着具合に応じて、流体噴出工具50の動作は適宜変更可能である。具体的には例えば、チャック310の中心部を清掃する前に流体噴出工具50から噴射する流体をチャック310の上方あるいは斜め上方からチャック310に吹き付けたり、各チャック310に対して順番に流体噴出工具50を近づけるように移動させたり、チャック310の周方向に沿って流体噴出工具50を円を描くように移動させたりするなど、制御装置30による数値制御を利用して流体噴出工具50の動作を適宜変更することが望ましい。また、流体噴出工具50を用いたチャック310の清掃において、チャック310を回転させることとしてもよい。この場合、チャック310と流体噴出工具50とを共に回転させてもよいし、チャック310だけを回転させてもよい。なお、チャック310と流体噴出工具50とを共に回転させる場合、両者の回転数は異なることが望ましい。すなわち、流体噴出工具50を用いたチャック310の清掃にあたっては、流体噴出工具50がチャック310に対して相対的に回転していればよい。
【0147】
また、複合工作機械として工作主軸を2つ有するものに対しても、本形態の流体噴出工具50は好適に使用できる。具体的には例えば、上述したように1つ目の工作主軸のチャックを清掃した後、流体噴出工具50が取り付けられた主軸を所定の角度(例えば180度等)回動させて、1つ目の工作主軸とは反対側にある2つ目の工作主軸のチャックに、流体噴出工具50から噴射される流体がかかるようにすれば、2つ目の工作主軸のチャックも、1つ目の工作主軸のチャックと同様に清掃することが可能である。
【0148】
以上説明した第4実施形態の切り屑除去システムKSCは、入力された作業指示データに基づいて動作の制御を行う制御装置30を有する複合工作機械1Cと、流体噴出工具50とを備える。制御装置30は、使用する工具を流体噴出工具50に交換する工具交換処理と、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ、流体噴出工具50を回転させながら、複合工作機械1Cのチャック310に近づけていく切り屑除去処理とを行う(図20参照)。このため、チャック310上に残留している切り屑Kをチャック310から離れる方向へ確実に吹き飛ばすことが可能である。
【0149】
なお第4実施形態には、流体噴出工具50を用いた切り屑除去方法であって、使用する工具を流体噴出工具50に交換する交換ステップと、側方貫通孔部63および先端貫通孔部61から流体を噴出させつつ、流体噴出工具50を回転させながら、複合工作機械1Cが有するチャック310に近づけていく切り屑除去ステップとを含む切り屑除去方法が開示されている。
【0150】
5.第5実施形態
次に第5実施形態の切り屑除去システムについて説明する。第5実施形態の切り屑除去システムは、図21に示す流体噴出工具50Bと、第1実施形態と同じマシニングセンタ1Aとを含む。すなわち、第5実施形態ではマシニングセンタ1Aには、自動工具交換装置20により交換可能な工具として、図21に示す流体噴出工具50Bがセットされている。第5実施形態の説明において第1実施形態と同様の構成および同じ機能の構成については同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0151】
図21に示すように、第5実施形態に係る流体噴出工具50Bは、刃先交換式のエンドミルに、側方貫通孔部63Bを設けたものである。具体的には、流体噴出工具50Bは、先端部54Bに2枚の刃(チップ)Tが工具軸AX7回りに等間隔で取り付けられたものである。流体噴出工具50Bの内部には、主軸3の内部を通って射出される流体(クーラント液等)を流す内部流路部60Bが円管状に設けられている。内部流路部60Bの先端(図中下端)は入り口側(図中上側)よりも小径とされている。なお、内部流路部60Bの形状は、先端が入り口側よりも小径であるものに限られず、適宜の形状で構成可能である。
【0152】
流体噴出工具50Bには、内部流路部60Bにおける小径の先端流路部60Baと外部とを貫通する側方貫通孔部63Bが2つ形成されている。各側方貫通孔部63Bは、内側開口63Bcよりも外側開口63Bdが軸方向において工具元部寄りに位置するように、第1実施形態の側方貫通孔部63と同様の傾斜角θ1(図6参照)で穿設されている。側方貫通孔部63Bの外側開口63Bdは、刃Tに隣接する溝の表面(溝面GA)にあいている。
【0153】
このように構成された第5実施形態に係る流体噴出工具50Bを用いれば、刃TによるワークWcの切削加工と、側方貫通孔部63Bから噴射されるクーラント液による切り屑Kの除去とを同時に進行することが可能である。具体的には例えば、図21に示すようにワークWcに平面視四角形の有底のポケット穴Qa(有底穴部の一例)を加工する場合、マシニングセンタ1Aの制御装置30は、流体噴出工具50Bを主軸3に取り付けて、所望のポケット穴Qaの加工プログラムに従って流体噴出工具50Bを動作させる際に、図示しない流体供給装置を駆動して流体噴出工具50Bの内部流路部60Bにクーラント液(切削油)を送り込む。内部流路部60Bを通ったクーラント液は、各側方貫通孔部63Bから噴射される。
【0154】
各側方貫通孔部63Bは、流体噴出工具50Bの各刃Tに対応して設けられており、流体噴出工具50Bの径方向よりも工具元部側(言い換えればポケット穴Qaの開口方向である上方)へ傾斜している。そのため、各側方貫通孔部63Bから噴射されるクーラント液は、対応する刃Tが削った切り屑Kにあたって、該切り屑Kをポケット穴Qa外へ吹き飛ばす。このため、切削加工によって形成されたポケット穴Qaに切り屑が残留するのを防ぐことが可能である。
【0155】
このように本形態に係る流体噴出工具50Bによれば、切削加工と、この切削加工によって生じる切り屑Kの除去とを同時並行で進めることが可能である。そのため、切削加工の終了とともに切り屑Kの除去も完了することとなり、作業効率が極めて高い。また、切削加工により生じた切り屑Kが刃TとワークWcの間に噛み込み、刃TやワークWcが破損するのを抑制することが可能である。
【0156】
なお本形態に係る流体噴出工具50Bは、側方貫通孔部63Bから出るクーラント液が刃Tの先(切削点)に向かって噴射されるのではなく、切削により生じた切り屑Kに向かって噴射される(そうなるように側方貫通孔部63Bを工具径方向に対して工具軸寄りに傾斜させて設けている)点が、従来から知られているオイルホール付きのエンドミルとは異なる。
【0157】
なお、本形態に比べれば作業効率が落ちるが、エンドミルを使ってポケット穴Qaを形成した後、該ポケット穴Qaに溜まった切り屑Kを第1実施形態に係る流体噴出工具50を用いて除去することも可能である。このようにした場合でも、オペレーターの手作業で切り屑Kの除去を行うことに比べれば、十分に作業効率を上げることが可能である。なおこの場合には、エンドミルを使ったポケット穴Qaの加工時の工具の動作条件に倣って流体噴出工具50を動作させることが好ましい。
【0158】
以上説明した第5実施形態に係る流体噴出工具50Bは、先端部54BにワークWcを加工する刃Tと、内側開口63Bcよりも外側開口63Bdが元部寄り(主軸寄り)になるように第1実施形態と同様の傾斜角θ1で傾斜する側方貫通孔部63Bとを有している。側方貫通孔部63Bは、当該側方貫通孔部63Bから噴出するクーラント液等の流体が刃Tによって削られた切り屑Kにあたるように穿設されている。このため、切削加工を進めつつ、その加工によって生じた切り屑Kを、側方貫通孔部63Bから噴出する流体によって元部側(主軸側)へ吹き飛ばすことが可能である。すなわち、ワークWcの加工と切り屑Kの除去とを同時に進行することが可能である。その結果、作業効率を大きく向上させることが可能である。
【0159】
なお、第5実施形態では、流体噴出工具50Bの刃数を2枚としたが、3枚、4枚、6枚など適宜変更可能である。この場合、刃数に対応して側方貫通孔部63Bの数を増やす(刃数と同数の側方貫通孔部63Bを設ける)とよい。また第5実施形態では、流体噴出工具50Bを刃先交換式のエンドミルとしたが、ソリッドミル等、刃先の交換ができない工具に側方貫通孔部を設けてもよい。
【0160】
また、工具を回転させずにワークを回転させる切削加工に用いるバイトにおいて、第5実施形態と同様にして側方貫通孔部を設けてもよい。つまり、バイトに、本形態の内部流路部60Bと同様に内部流路部を設け、更に、バイトの刃の近傍に本形態の側方貫通孔部63Bと同様に側方貫通孔部を設ける。そして、このような側方貫通孔部付きのバイト(流体噴出工具の一例)を、NC旋盤(工作機械の一例)のタレット(工具取付部の一例)にセットする。タレットは自動工具交換装置として機能するものであり、NC旋盤はセンタースルー方式でタレット内を通して工具内にクーラント液等の流体を送ることが可能なものとする。このようなNC旋盤により、側方貫通孔部付きのバイトを使って中ぐり等の加工を行えば、中ぐり加工により生じた切り屑を、側方貫通孔部から噴射される流体によって加工中に穴外へ排出できるため、切り屑がワーク内に溜まるのが防止され、作業効率を高めることが可能である。なお、センタースルー方式でクーラント液等の流体を工具内を通して噴射可能であれば、くし刃型の刃物台(工具取付部の一例)を備えるNC旋盤に、側方貫通孔部付きのバイトを装着することとしてもよい。
【0161】
以上、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態、及び第5実施形態の切り屑除去システムについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0162】
上述した流体噴出工具50、50A、50Bは、上述した各工作機械での使用に限定されるものではなく、センタースルー方式でクーラント液等の流体を工具内を通して噴射可能な種々の工作機械で利用することが可能である。
【0163】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50では、側方貫通孔部63を工具軸方向において異なる位置で二列(第1側方貫通孔部63a、第2側方貫通孔部63b)設けたが、一列であってもよいし、工具軸方向に三列以上設けてもよい。第2実施形態に係る流体噴出工具50Aも同様である。また第5実施形態に係る流体噴出工具50Bにおいて、側方貫通孔部63Bを工具軸方向に二列以上設けてもよい。
【0164】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50では、側方貫通孔部63(第1側方貫通孔部63a、第2側方貫通孔部63b)を周方向に8つ設け、放射状に均一にクーラント液等の流体を噴射できるよう構成したが、この点を考慮しなければ、側方貫通孔部63は、少なくとも1つ以上あればよい。第2実施形態に係る流体噴出工具50Aや第5実施形態に係る流体噴出工具50Bについても同様である。なお、清掃性能を考慮すると、側方貫通孔部63は、工具周方向に2つ乃至3つ以上設けられていることが望ましい。
【0165】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50では、底部51に工具軸方向に沿う先端貫通孔部61を1つ設けたが、2つ以上設けてもよい。また、先端貫通孔部61を設けない構成としてもよい。
【0166】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50を用いた下穴Faの清掃において、下穴Faに挿入した流体噴出工具50を回転させながら、下穴Faから抜いていくようにしてもよい。この場合、流体噴出工具50の回転方向は、下穴Faの加工時と逆方向でも同じ方向でもよい。
【0167】
また、下穴Faの清掃は、先端貫通孔部61および側方貫通孔部63から流体を噴射させつつ流体噴出工具50を下穴Faに挿入していく方法により行ってもよい。下穴Faの深さが深すぎなければ(例えば20mm等)、流体噴出工具50を下穴Faの底面Fb付近まで挿入していくまでの間に、流体噴出工具50から噴射される流体の勢いで下穴Fa内の切り屑Kを十分吹き飛ばすことができるからである。
【0168】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50を用いて、ねじが切られていない通り穴(通り穴部の一例)の清掃を行ってもよい。この場合、流体噴出工具を通り穴の加工時と逆方向あるいは同じ方向に回転させながら通り穴に通していってもよいし、回転させずに通り穴に通していってもよい。流体噴出工具50を用いて通り穴の清掃を行うことで、通り穴の内周面等に切り屑が付着していた場合に、切り屑を好適に除去することができる。
【0169】
また第3実施形態において、Tスロット溝210の清掃後あるいは清掃前に、テーブル200の上面に付着した切り屑Kも除去するとよい。数値制御により、流体噴出工具50の移動する位置を変更するだけで、Tスロット溝210内の清掃と同様に、テーブル上面に付着した切り屑Kも好適に除去できる。
【0170】
また第1実施形態に係る流体噴出工具50を用いた切り屑Kやクーラント液といった残留物の除去を、ワークやテーブル、チャック(固定治具)等以外の部分(工作機械の加工空間内のこれら以外の部分)に対して行ってもよい。
【0171】
また上記各形態では、流体噴出工具50、50A、50Bからクーラント液を噴出させることで切り屑Kの除去を行う構成としたが、エアーを射出可能な工作機械においては、流体噴出工具50、50A、50Bからエアーを噴出させることで切り屑Kの除去を行う構成としてもよい。
【0172】
また上記各形態では、流体噴出工具50、50A、50Bは鉄製としたが、ステンレス鋼など他の金属製としてもよい。
【0173】
また上記各形態において、制御装置30のプロセッサが、流体噴出工具50の動作条件(移動させる位置、深さ、回転数、送り速度)を、加工工程の数値(加工工具の動作条件)を参照して自動で算出し、設定する構成としてもよい。なおこの場合、加工工程における工具の回転数が所定の下限閾値よりも小さければ、切り屑Kの除去工程における流体噴出工具50の回転数を加工時よりも大きく設定するようにし、加工工程における工具の回転数が所定の上限閾値よりも大きければ、切り屑Kの除去工程における流体噴出工具50の回転数を加工時よりも小さく設定するようにするとよい。また、加工工程における工具の送り速度が所定の下限閾値よりも遅ければ、切り屑Kの除去工程における流体噴出工具50の送り速度を加工時よりも速く設定するようにし、加工工程における工具の送り速度が所定の上限閾値よりも速ければ、切り屑Kの除去工程における流体噴出工具50の送り速度を加工時よりも遅く設定するようにするとよい。切り屑Kの除去性能と作業の効率化の両立を図るためである。
【0174】
なお、本発明において、「流体噴出工具を回転させる」、「流体噴出工具が回転する」といった構成には、流体噴出工具自体が回転する構成も、清掃対象(ワーク、テーブル、チャックなど)が回転することで流体噴出工具が清掃対象に対して相対的に回転する構成も含むものとする。つまり、「流体噴出工具の回転」には、流体噴出工具の絶対的回転も相対的回転も含まれる。
【符号の説明】
【0175】
1A、1B…マシニングセンタ(工作機械)
1C…複合工作機械(工作機械)
3…主軸
30…制御装置(制御部)
50、50A、50B…流体噴出工具
54、54A、54B…先端部
56、56A…元部
60、60A、60B…内部流路部
60b…内周面
61…先端貫通孔部
63、63A、63B…側方貫通孔部
63a、63Aa…第1側方貫通孔部
63b、63Ab…第2側方貫通孔部
63c、63Ac、63Bc…内側開口
63d、63Ad、63Bd…外側開口
210…Tスロット溝
310…チャック
KSA、KSB、KSC…切り屑除去システム
Wa、Wb、Wc…ワーク
Fa…下穴
Ha…止まりねじ穴
Pa…通りねじ穴
T…刃
θ1、θ2…傾斜角
【要約】
【課題】作業効率の低下を抑制しつつ、安全かつ確実に工作機械内の切り屑等の残留物を除去する技術を提供すること。
【解決手段】流体噴出工具50は、工具を自動で交換可能であり、クーラント液又はエアーである流体をセンタースルー方式で射出可能なマシニングセンタ1Aにおける主軸3に取り付けられる流体噴出工具である。流体噴出工具は、元部56側が開口した管状とされ、工具軸方向に延びていて主軸の内部を通って射出される流体を通す内部流路部60と、先端部54側に設けられ、内部流路部の内周面60bから当該流体噴出工具の外部に貫通し、内部流路部を通った流体を当該流体噴出工具の外部に噴出させる側方貫通孔部63とを備える。側方貫通孔部は、内側開口63cよりも外側開口63dが元部寄りになるように、工具軸方向に直交する工具径方向よりも工具軸方向へ傾斜角θ1で傾斜している。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
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図19
図20
図21