(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】親水性化ePTFEシート、および、ePTFEシートの親水性化方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20250219BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250219BHJP
B32B 9/02 20060101ALI20250219BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20250219BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/30 D
B32B9/02
A61L31/04
A61L27/24
(21)【出願番号】P 2023565137
(86)(22)【出願日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2023025108
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】523398008
【氏名又は名称】西京バイオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】澤田 誠
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/004685(WO,A1)
【文献】特開平10-244611(JP,A)
【文献】特開平07-178131(JP,A)
【文献】特開昭60-072557(JP,A)
【文献】特開2021-168828(JP,A)
【文献】特表2006-524072(JP,A)
【文献】特開2015-037614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A61L 15/00-15/64、17/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ePTFEシートと、
大気圧プラズマ処理された前記ePTFEシートの表面に積層された和紙と、
前記和紙の表面に塗布されたコラーゲン層とを有する
親水性化されたePTFEシート。
【請求項2】
前記コラーゲン層の表面はイオンビーム照射を受けていることを特徴とする
請求項1に記載のePTFEシート。
【請求項3】
ePTFEシートの表面を大気圧プラズマ処理し、
大気圧プラズマ処理がされた前記表面に和紙を積層し、
前記和紙の表面にコラーゲン層を塗布する
ePTFEシートの親水性化方法。
【請求項4】
前記コラーゲン層の表面にイオンビーム照射を行う
請求項3に記載の親水性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性の高く、かつ、親水性化されたePTFEシート、および、生体親和性の高いePTFEシートの親水性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不活性で、薄くて軽量、かつ、耐久性に優れたePTFE(延伸PTFE[ポリテトラフルオロエチレン])は、グランドパッキン、ガスケットや建築用ファブリック等の種々の分野で使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ePTFEは疎水性であることから他の異種材料との接着が難しいという問題があった。
【0005】
とりわけ、ePTFEの生体親和性を活かして人体に埋め込んだり、臓器等の表面に貼り付けたりする用途に使用することが難しかった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、親水性を高めることにより、人体に埋め込んだり、臓器等の表面に貼り付けたりする用途に使用することのできる親水性化ePTFEシート、および、ePTFEシートの親水性化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面によれば、
ePTFEシートと、
大気圧プラズマ処理された前記ePTFEシートの表面に積層された和紙と、
前記和紙の表面に塗布されたコラーゲン層とを有する
親水性化ePTFEシートが提供される。
【0008】
好適には、
前記コラーゲン層の表面はイオンビーム照射を受けている。
【0009】
本発明の他の局面によれば、
ePTFEシートの表面を大気圧プラズマ処理し、
大気圧プラズマ処理がされた前記表面に和紙を積層し、
前記和紙の表面にコラーゲン層を塗布する
ePTFEシートの親水性化方法が提供される。
【0010】
好適には、
前記コラーゲン層の表面にイオンビーム照射が行われる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る親水性化ePTFEシートは、ePTFEシートの表面を大気圧プラズマ処理したうえで和紙を積層し、さらに当該和紙の表面にコラーゲン層を塗布している。これにより、表面の親水性を高めたePTFEを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る親水性化ePTFEシート10の一例を示す図である。
【
図2】親水性化ePTFEシート10の製造過程を示す図である。
【
図3】親水性化ePTFEシート10の製造過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(親水性化ePTFEシート10の構成)
本実施形態に係る親水性化ePTFEシート10は、
図1に示すように、大略、ePTFEシート12と、和紙14と、コラーゲン層16とを備えている。
【0014】
ePTFEシート12は、厚さが50μmから500μmのものを使用するのが好適である。
【0015】
このePTFEシート12の表面は、
図2に示すように、大気圧プラズマ処理が施されている。大気圧プラズマ処理は、疎水性のePTFEシート12を親水性に変化させることができ、本来であればePTFEシートと接着しないフィルム・セルロース等をePTFEシートに積層させることが可能となる。
【0016】
和紙14は、ePTFEシート12における大気圧プラズマ処理が施された表面に積層された部材であり、本明細書では、植物由来のセルロース繊維を多糖類の水溶液にいれて攪拌し、均一に分散させて膜状に成形したものをいう。また、和紙14としては、厚さが10μmから100μmのものを使用するのが好適である。和紙14は、植物性繊維、とりわけ楮、雁皮、ミツマタの表皮から得られたごく細のセルロース繊維を用いたもので、懸濁のために使用しているのはトロロアオイ等から得られる多糖類で食品添加剤として使用されることもある。化学薬品が使用されていないため、生体に対しての刺激性がなく、生体適合性に優れた材料と言える。
【0017】
ePTFEシート12の表面に和紙14を積層する方法としては、例えば、和紙14を100℃から200℃に加熱し、ePTFEシート12を150℃から200℃に加熱したうえで、ePTFEシート12の表面に和紙14を0.2MPaから1.0MPaで加圧することが考えられる(
図3を参照)。
【0018】
コラーゲン層16は、和紙14の表面に塗布されたコラーゲン溶液の層である。コラーゲン溶液の具体例としては、TypeIで株式会社高研の「AteloCell(カタログ番号:IPC-50)」が考えられる。また、コラーゲン層16の厚さは、10μmから40μmが好適である。
【0019】
コラーゲン層16の形成方法としては、例えば、コラーゲン溶液の原液を精製水で2倍以上に希釈し、ePTFEシート12の表面に積層された和紙14を当該コラーゲン希釈液に浸漬して均一に塗布する。然る後、ePTFEシート12および和紙14をコラーゲン希釈液から引き上げて風乾させる。この工程を複数回繰り返した後、コラーゲン希釈液を完全に乾燥させる。ここまでで、
図1に示すように、親水性化ePTFEシート10が完成する。
【0020】
完成した親水性化ePTFEシート10におけるコラーゲン層16が形成された側の接触角と、その反対側の接触角とをそれぞれ測定し、コラーゲン層16が形成された側の接触角が90°以下であり、かつ、反対側の接触角が90°以上であることを確認する。なお、「接触角」とは、ぬれ性評価における指標のひとつであり、ある固体の上に液体を落としたときにできる液滴のふくらみの程度を数値化したものである。具体的には、
図4に示すように、固体上面に付着した液を横から観察し、固体表面を基準に液滴の端点における液の角度θを測定したものである。
【0021】
さらに、親水性化ePTFEシート10におけるコラーゲン層16が形成された側の着液量と、その反対側の着液量とをそれぞれ測定する。コラーゲン層16が形成された側の着液量が30秒経過後に40%以下であり、かつ、反対側の着液量が30秒以上経過しても不変であることを確認する。
【0022】
(変形例1)
上述した実施形態では、和紙14の表面にコラーゲン層16を形成することで親水性化ePTFEシート10を完成させたが、さらに、このコラーゲン層16の表面にイオンビーム照射あるいは電磁波照射・電子線照射を行ってもよい。
【0023】
電子線照射の原理(熱電子タイプ)について
図5を用いて簡単に説明すると、真空に保たれたチャンバーの中心に配置されたタングステンフィラメントに電流を流すことにより、当該フィラメントが加熱されて熱電子が放出される。放出された熱電子は、先ずグリッドに抽出される。然る後、この熱電子は、ターミナルと陽極であるウインド間の80から300kVの高電圧(加速電圧)によって光速近くまで加速されて電子流となり、ウインドの薄い箔(アルミニウムやチタン)を透過して外界に電子線として飛び出す。電子線照射ではこの電子線を利用する。
【0024】
イオンビーム照射の一例について簡単に説明する。一例に係るイオンビーム照射装置50は、
図6に示すように、イオン源52と、イオン加速管54と、質量分析器56と、スキャナー58と、試料室60とを有している。
【0025】
先ず、イオンビーム照射を受ける、和紙14の表面にコラーゲン層16が形成されたePTFEシート10を試料室60に配置する。然る後、イオン源52でイオンを生成し、イオン加速管54で電界によりこのイオンを加速する。加速されたイオンは質量分析器56で照射に必要な質量のイオンのみに選択される。選択されたイオンはスキャナー58でePTFEシート10全体に照射されるように走査される。なお、イオン加速管54における電圧は50KeVから200KeVであり、試料室60の圧力は、10-4Paから10-5Paの陰圧になっている。
【0026】
和紙14の表面にコラーゲン層16を形成することで完成させた親水性化ePTFEシート10の場合、血液中の血小板が当該コラーゲン層16の表面に付着し易い特性を有していることから、当該親水性化ePTFEシート10を血液が付着するような位置で使用するには不向きであった。しかし、コラーゲン層16の表面にイオンビーム照射あるいは電磁波照射・電子線照射を行った場合、当該コラーゲン層16の表面に血小板が付着し難くなることから、イオンビーム照射を行った親水性化ePTFEシート10は血液が付着するような位置で積極的に使用することができる。
【0027】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0028】
10…親水性化ePTFEシート、12…ePTFEシート、14…和紙、16…コラーゲン層
50…イオンビーム照射装置、52…イオン源、54…イオン加速管、56…質量分析器、58…スキャナー、60…試料室
【要約】
親水性を高めることにより、人体に埋め込んだり、臓器等の表面に貼り付けたりする用途に使用することのできる親水性化ePTFEシートを提供する。
【解決手段】
親水性化ePTFEシート10を、ePTFEシート12と、大気圧プラズマ処理されたePTFEシート12の表面に積層された和紙14と、和紙14の表面に塗布されたコラーゲン層16とで構成する。