(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】可変波長フィルタおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20250312BHJP
【FI】
G02F1/01 C
(21)【出願番号】P 2023526733
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2021021964
(87)【国際公開番号】W WO2022259431
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅
(72)【発明者】
【氏名】森本 祥江
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢哉
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-302091(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01447693(EP,A1)
【文献】国際公開第2005/003852(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0334650(US,A1)
【文献】MOREIRA, Renan et al.,Programmable eye-opener lattice filter for multi-channel dispersion compensation using an integrated comapct low-loss silicon nitride platform,OPTICS EXPRESS,米国,OSA,2016年07月15日,Vol.24, No.15,p.16732-16742,https://doi.org/10.1364/OE.24.016732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光の透過強度が波長に対して線形的に変化するような透過スペクトル形状を有し、その線形関係の傾きを制御する、複数のマッハツェンダ干渉計(MZI)を備えたラティス型光回路による可変波長フィルタであって、
前記MZIは、第一のアーム導波路および第二のアーム導波路と、
前記第一のアーム導波路に接続され、前記透過スペクトル形状における前記傾きを制御するために前記信号光の位相を制御する第一の位相シフタと、
を備え、
前記第一のアーム導波路と前記第二のアーム導波路の導波路長差ΔLは、前記信号光の波長λと、前記第一のアーム導波路及び前記第二のアーム導波路の実
効屈折率nefと、低減量Δθとを用いて表される(式1)に基づいて、前記第一の位相シフタの各々における位相シフト量を、前記位相シフト量の変動幅を維持しながら、前記低減量Δθの分だけ低減させるように設計され、
前記低減量Δθは、
前記第一の位相シフタの各々における最小値と0との差、又は、
前記第一の位相シフタの各々における前記変動幅の中間値、
のいずれかである、
可変波長フィルタ。
【数1】
【請求項2】
前記MZIが、前記第二のアーム導波路に接続され、前記透過スペクトル形状における前記傾きを制御するために前記信号光の位相を制御する第二の位相シフタをさらに備え、
前記導波路長差ΔLは、前記信号光の前記波長λと、前記第一のアーム導波路及び前記第二のアーム導波路の前記実
効屈折率nefと、前記低減量Δθとを用いて表される前記(式1)に基づいて、前記第一の位相シフタ及び前記第二の位相シフタの各々における位相シフト量の変動幅を維持しながら、前記低減量Δθの分だけ低減されるように設計される、
請求項1に記載の可変波長フィルタ。
【請求項3】
前記第一のアーム導波路および前記第二のアーム導波路が石英で構成される、請求項1又は2に記載の可変波長フィルタ。
【請求項4】
前記第一の位相シフ
タが、加熱用のヒータ、又は、加熱若しくは冷却用のペルチェ素子を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の可変波長フィルタ。
【請求項5】
前記第二の位相シフタが、加熱用のヒータ、又は、加熱若しくは冷却用のペルチェ素子を含む、請求項2に記載の可変波長フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路により構成される可変波長フィルタに関し、より詳細には、消費電力量を低減できるラティス型光回路による可変波長フィルタ、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットを代表とするデータ通信の爆発的な増加を背景に、光通信ネットワークが急速に発展している。中でも、一つの光ファイバーで波長の異なる複数の信号光を伝送できる波長多重通信技術(Wavelength Division Multiplexing:以下、WDMと記す)が、光通信の大容量化において、極めて大きな原動力となっている。このような光通信ネットワークを支えるため、近年では、波長合分波素子や可変波長フィルタなどの高機能な光回路に対する需要が高まっている。
【0003】
このような、光通信ネットワークで必要とされる高機能な光回路の代表例として、平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:以下、PLCと記す)が挙げられる。PLCは、平面基板上に石英を用いた導波路型の光回路であり、機能性、量産性、価格性といった観点で優位性が高いことから、現在の光通信ネットワークにおいて、広く実用化されている。
【0004】
PLCのような石英を用いた導波路型の光回路は、光通信ネットワークで利用される光ファイバーと同じ材料を用いているため、低損失な導波路を実現できるという特徴を有している。また、平面基板上に導波路を形成するため、さまざまな機能要素を組み合わせることが容易であり、複雑な光回路を再現性良く作製することもできる。したがって、波長合分波する素子や光スイッチなど、幅広く応用されており、現在の光通信ネットワークを構築する上では、不可欠なものとなっている。
【0005】
一方、近年では光通信ネットワークの高度化に伴い、より複雑な光回路に対する要望が高まっている。そして、一つに、ラティス型光回路が挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。ラティス型光回路は、方向性結合器および複数の非対称なマッハツェンダ干渉計(Mach-Zehnder interferometer:以下、MZIと記す)が、格子状に多段接続された光回路である。そして、各MZI内の導波路には位相シフタが接続されており、この位相シフタが、導波路内を伝搬する光の位相を制御することによって、各MZIでの干渉状態を調整している。尚、位相シフタが光の位相を制御する方法としては、例えば、加熱による熱光学効果に基づいた、屈折率の変化などが挙げられる。このような構成を有するラティス型光回路は、特定の波長を有する信号光に対して透過スペクトルを制御する可変波長フィルタや、光増幅器の利得等価器といったデバイスへの応用が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
しかし、先行技術文献に記載されるラティス型光回路による可変波長フィルタでは、消費電力量が高くなるという課題がある。前述の通り、各MZIでは、位相シフタの制御が必要であるが、複数のMZIが多段接続されたラティス型光回路による可変波長フィルタでは、この位相シフタを制御するための駆動電力が高くなる。通常、ラティス型光回路による可変波長フィルタを駆動させるための消費電力量は、各MZI内に設置されたそれぞれの位相シフタで発生する消費電力量の合計となる。例えば、位相シフタによる信号光の位相制御方法が、前述した加熱である場合、各位相シフタを適正に加熱するため、複数の加熱機構が必要であり、それに伴って消費電力量も増加する。
【0007】
また、可変波長フィルタとしてラティス型光回路を運用する際、使用時の最大消費電力量が重要であるが、これは想定される可変波長フィルタのフィルタ形状(透過スペクトル形状)を変形することで、最大消費電力量の透過スペクトル形状とその時の消費電力量で決定される。そのため、ラティス型光回路による可変波長フィルタでは、最大消費電力量の透過スペクトル形状における消費電力量が最小化されるように各MZIを設計、または位相シフタを制御することが重要である。しかし、現状ではその制御方法が確立されておらず、ラティス型光回路による可変波長フィルタにおける消費電力量の低減が実現できていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】M. Oguma et al., "Compact and low-loss interleave filter employing lattice-form structure and silica-based waveguide," Journal of Lightwave Technology, vol. 22, no. 3, pp. 895-902, March 2004, doi 10.1109/JLT.2004.824544.
【文献】K. Suzuki, T. Kitoh, S. Suzuki, Y. Inoue, Y. Hbbino, T. Shibata, A. Mori, and M. Shimizu, "Ultra wide range dynamic gain equalizer with high contrast silica planar lightwave circuit," Integrated Photonics Research, Vol. 78 of OSA Trends in Optics and Photonics, paper IThG2, 2002, doi 10.1364/IPR.2002.ITHG2
【発明の概要】
【0009】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、信号光の位相制御における消費電力量を、従来よりも低減することを可能にするラティス型光回路による波長フィルタ、およびその制御方法を提供することである。
【0010】
上記の課題を解決するために、本開示では、信号光の透過強度が波長に対して線形的に変化するような透過スペクトル形状を有し、その線形関係の傾きを制御する、複数のマッハツェンダ干渉計(MZI)を備えたラティス型光回路による可変波長フィルタであって、MZIは、第一のアーム導波路および第二のアーム導波路と、第一のアーム導波路に接続され、透過スペクトル形状における傾きを制御するために信号光の位相を制御する位相シフタとを備え、第一のアーム導波路と第二のアーム導波路の導波路長差が、位相シフタの各々において発生する位相シフト量を、位相シフト量の変動幅を維持しながら、低減させるように設計されている可変波長フィルタを提供する。
【0011】
さらに、本開示では、可変波長フィルタの制御方法であって、信号光の透過強度が、波長に対して線形的に変化するような透過スペクトル形状となるよう、位相シフタの位相シフト量を制御することを含み、位相シフト量を制御することは、複数のMIZのうちの少なくとも1つにおいて位相シフト量を制御しないことを含む、制御方法を提供する
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタの構成を示す平面図である。
【
図2】線形関係の傾きを変化させた透過スペクトル形状を示す図である。
【
図3】透過スペクトル形状の線形関係において、所望の傾きを得るために、各位相シフタで調整される位相シフト量を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタを用いた場合の、各位相シフタにおける位相シフト量を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタの構成を示す平面図である。
【
図6】透過スペクトル形状の傾きに対する、各位相シフタにおける位相シフト量を例示するグラフである。
【
図7】
図6に示した位相シフタの各々における位相シフト量を、個別に制御した場合の、透過スペクトル形状の傾きと位相シフト量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明の一実施形態は、位相シフタにおける位相シフト量の変動幅が維持されたまま、位相シフト量の値自体を低減するよう、MIZ内の2つのアーム導波路の導波路長差が調整されているという点で、従来のラティス型光回路による可変波長フィルタとは異なる。尚、本書で用いる変動幅とは、後述する透過スペクトル形状の傾きに対し、各位相シフタにおける位相シフト量の最大値と最小値の差分に相当する。
【0014】
(第一の実施形態)
以下に、本発明における第1の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、例として、5つのMZIを含む、1入力1出力(以下、1×1と記す)ポートを有する導波路チップが基板上に形成されたラティス型光回路による可変波長フィルタに関する。なお、本実施形態による可変波長フィルタは、石英を用いたPLCである。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態による、ラティス型光回路による可変波長フィルタの構成を示す平面図である。本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタは、基板11上に導波路チップ12が形成されたデバイスであり、導波路チップ12中では、MZIユニット13a~13eの5つが繰り返し接続され、さらに、MZIユニット13aの入力側の端部に入力ポート14、MZIユニット13eの出力側の端部に出力ポート15が、それぞれ接続された1×1ポートの光回路となっている。また、MZIユニット13a~13eの各々は、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132を有し、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132が、入力側で信号光を2分岐する方向性結合器を構成し、出力側で伝搬した信号光を合波する方向性結合器を構成している。第一のアーム導波路131には、信号光の位相を制御する位相シフタ133a~133eが接続されている。そして、位相シフタ133a~133eが、所望の波長帯の信号光のみに対して高い透過強度を有するよう、伝搬する信号光の位相を調整する。尚、本実施形態において、位相シフタ133a~133eが信号光の位相を調整する方法は、ヒータを用いた加熱による熱光学効果を利用した屈折率の変化である。また、本実施形態において、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は50:50である。
【0016】
このように構成された、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタでは、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長の差ΔLは、(式1)を満足するように設計されている。
ΔL=(λ・Δθ)/nef (式1)
【0017】
ここで、λは信号光の波長、nefは第一のアーム導波路131および第二のアーム導波路132の実効屈折率である。そして、Δθは、各位相シフタ133a~133eにおける位相シフトの最小値と0との差、もしくは最大値と位相シフト量の変動幅との差であり、消費電力量を低減させるために変化させるべき位相シフト量の低減量に相当する。すなわち、本実施形態では、各位相シフタ133a~133eにおける位相シフト量の変動幅を維持したまま、位相シフト量の値自体を低減させることにより、消費電力量を低減する。そして、その位相シフト量の低減量は、位相シフタ133a~133eの各々における位相シフト量の最小値が0になるように設定され、その位相シフト量の低減は、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長の調整によってなされる。
【0018】
このように第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長の差を設計することにより、位相シフタ133a~133eの各々における位相シフト量を低減することができ、それに伴って、消費電力量の低減が実現できる。詳細な原理を、以下に説明する。
【0019】
一般的に、位相シフタ133a~133eでは、信号光の位相シフト量の増加に伴い、消費電力量が増加する。例えば、本実施形態で採用した熱光学効果を利用する位相シフタでは、ヒータによる加熱で可変波長フィルタ内の導波路の屈折率を変化させることにより、信号光の位相を制御する。この場合、信号光の位相シフト量を大きくするには、ヒータの設定温度を高くする必要があり、それに伴って消費電力量も増加する。
【0020】
ここで、本実施形態では、信号光の透過強度が波長に対して線形的に変化するような透過スペクトル形状を有しており、その傾きを連続的に制御するような可変波長フィルタを想定する。通常、このような可変波長フィルタでは、位相シフタ133a~133eのそれぞれにおける位相シフト量を調整することにより、透過スペクトル形状の傾きを制御する。
【0021】
図2に、線形関係の傾きを変化させた透過スペクトル形状を、
図3に、透過スペクトル形状の線形関係において、所望の傾きを得るために、位相シフタ133a~133eで調整される位相シフト量を、それぞれ示す。
図2に示される通り、位相シフタ133における位相シフト量を調整することで、特定の波長領域で透過スペクトル形状は線形関係となり、その傾きを制御できることが分かる。また、
図3に示される通り、所望の傾きを得るために位相シフタ133a~133eで調整される位相シフト量は、連続的に変化していることが分かる。このような可変波長フィルタにおいて、位相シフタ133a~133eでの位相シフト量が、位相シフトの変動幅、すなわち、
図3に示した傾きと位相シフト量の相関において、各位相シフタにおける位相シフト量の最小値と最大値の幅が維持されたまま、位相シフト量の値が低減されれば、各位相シフタ133a~133eにおける消費電力量が低減できる。これを実現するために、上述した通り、第一のアーム導波路131および第二のアーム導波路132の導波路長差が(式1)を満足するように設計する。このような構成とすることで、第一のアーム導波路131および第二のアーム導波路132の導波路長差によって発生する位相差が、位相シフト量の変動幅の下限または条件になるように位相シフト量の値が変化する。すなわち、位相シフトの変動幅を維持したまま、位相シフト量の値が全体的に低減される。
【0022】
特に、本実施形態で採用した、ヒータで発生する熱と熱光学効果を利用した位相制御方法を活用する場合、位相シフト量が0のときから最大位相シフト量が前述の位相シフトの変動幅の値と同一になることが好ましい。
【0023】
図4は、本実施形態によるラティス型光回路による可変波長フィルタを用いた場合の各位相シフタ133a~133eにおける位相シフト量を示す図である。位相シフタ133a~133eで発生する位相シフト量の挙動は、
図3における変動幅を維持しながらも、全体的に位相シフト量が低減しており、各位相シフタ133a~133eにおける位相シフト量の最小値はほぼ0となっていることが分かる。上述の通り、位相シフト量が大きくなるほど、消費電力量は増加する。したがって、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタは、従来のラティス型光回路による可変波長フィルタよりも、消費電力量を低減する効果を奏していることが分かる。
【0024】
なお、本実施形態では、MZI13a~13eの5つが接続されたラティス型光回路としたが、2つ以上であれば、同様の効果を奏する。
【0025】
さらに、本実施形態においては、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は50:50としたが、どのような分岐比であっても同様の効果を奏する。
【0026】
また、本実施形態では、信号光の位相制御方法として、一般的なヒータによる加熱を用いたが、この方法は、信号光の位相シフトの方向が、一方向に限定されるという欠点もある。これを補うため、位相を両方向に制御できる方法を使用しても構わない。例えば、同じ熱光学効果を使用している場合でも、ペルチェ素子のように加熱と冷却の両方の機能を有する方法を用いれば、より最大消費電力量を低減することが可能である。この場合、(式1)における低減量Δθは、位相シフタ133a~133eで発生している位相シフト量の変動幅の中間値までの位相シフト量とすることで、同様の効果を奏する。
【0027】
(第2の実施形態)
以下に、本開示における第2の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1の実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタにおいて、第二のアーム導波路132にも、位相シフタを接続した例である。
【0028】
図5は、本発明の一実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタの構成を示す平面図である。本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタは、第1の実施形態で述べたラティス型光回路による可変波長フィルタの構成に加え、第二のアーム導波路にも位相シフタ501a~501eが接続された構造を有する。なお、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおける信号光の位相制御方法は、第1の実施形態と同様に、ヒータによる加熱である。また、本実施形態において、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は、第1の実施形態と同様に、50:50である。
【0029】
このように構成された、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタにおいて、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132は、その導波路長差が、(式1)を満足するように設計されている。ただし、(式1)における低減量Δθは、第1の実施形態で述べた、ペルチェ素子をも一いた場合と同様に、位相シフタ133a~133eにおける位相シフトの変動幅の中間値を用いる。
【0030】
本実施形態では、位相シフト量をプラス側に変化させる場合に、位相シフタ133a~133eを駆動し、位相をマイナスにシフトさせる場合には位相シフタ501a~501eを駆動させる。したがって、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタは、ヒータのように一方向にしか信号光の位相を制御することができない位相制御方法を採用しても、両方向に位相制御することが可能となる。すなわち、第1の実施形態で述べた、ペルチェ素子を用いたような位相制御を、ヒータを用いた場合でも実現することができる。
【0031】
なお、第1の実施形態と同様に、本実施形態では、MZI13a~13eの5つが接続されたラティス型光回路としたが、2つ以上であれば、同様の効果を奏する。
【0032】
さらに、第1の実施形態と同様に、本実施形態においては、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は50:50としたが、どのような分岐比であっても同様の効果を奏する。
【0033】
(第3の実施形態)
以下に、本開示における第3の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタは、第2の実施形態と同様に、
図5に示す構成のデバイスである。ただし、本実施形態では、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長の導波路長差は、位相シフト量の最小値が0になるように設計されていない。
【0034】
第1および第2の実施形態では、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおける位相シフト量の変動幅に基づき、位相シフト量の最小値が0になる、または最大値が変動幅と同じになるよう、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長差を一義的に決めていた。しかし、所望の透過スペクトル形状に応じては、適正に消費電力量を低減させるための位相シフト量の値は、必ずしもすべての位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおいて、その最小値が0になるべきとは限らない。すなわち、効率的にラティス型光回路による可変波長フィルタにおける消費電力量を低減させるためには、位相シフタ133a~133eにおける位相シフト量の低減量を個別に制御した方が良い場合がある。本実施形態は、このような状況において、効率的にラティス型光回路による可変波長フィルタの消費電力量を低減するための形態である。
【0035】
本実施形態における、ラティス型光回路による可変波長フィルタは、第2の実施形態と同様に、
図5に示すような回路構成を有している。しかし、各位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおける、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長差の設計が、第1および第2の実施形態とは異なる。すなわち、本実施形態では、上述の通り、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長差は、各位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおける位相シフト量の最小値が0となるように設計されていない。
【0036】
なお、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおける信号光の位相制御方法は、第1の実施形態および第2の実施形態と同様に、ヒータによる加熱である。また、本実施形態において、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は、第1の実施形態および第2の実施形態と同様に、50:50である。
【0037】
図6は、透過スペクトル形状の傾きに対する、各位相シフタ133a~133eの位相シフト量を例示するグラフである。また、
図7は、
図6に示した位相シフタ133a~133eの各々の位相シフト量を、個別に制御した場合における、透過スペクトル形状の傾きと位相シフト量の関係を示すグラフである。
図6および
図7から分かるように、位相シフタ133a~133eにおけるそれぞれの位相シフト量は、必ずしも、最小値が0となっていない。また、位相シフタ133dは、
図5と
図6でほとんど変化していないことが分かる。このように、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタでは、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501e毎に、位相シフト量の変化量を個別で調整している。ただし、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eの位相シフトの変動幅は、維持される。
【0038】
さらに、本実施形態におけるラティス型光回路による可変波長フィルタでは、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eの各々における第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長差は、合計の消費電力量が最小になるように(式1)を応用して設計されている。例えば、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eの全てにおいて、位相シフト量に対する消費電力量が比例関係にあり、かつ同一の位相シフト量を発生させるのに必要な消費電力量が、すべての位相シフタで同一であるとする。この場合、所望の透過スペクトル形状の傾きとなるよう、すべての位相シフタで発生する位相シフト量の最大値の合計が、最小化されるような位相シフト量の低減量Δθを選べばよい。
【0039】
このように、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eにおいて、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132の導波路長差を、個別に調整することにより、効率的にラティス型光回路による可変波長フィルタの消費電力量を低減できる。
【0040】
なお、第1の実施形態および第2の実施形態と同様に、本実施形態では、MZI13a~13eの5つが接続されたラティス型光回路としたが、2つ以上であれば、同様の効果を奏する。
【0041】
さらに、第1の実施形態および第2の実施形態と同様に、本実施形態においては、第一のアーム導波路131と第二のアーム導波路132のそれぞれに分岐された信号光の分岐比は50:50としたが、どのような分岐比であっても同様の効果を奏する。
【0042】
加えて、本実施形態では、位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eを個別に制御するため、設置されているすべての位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eを制御しなくともよい。すなわち、の位相シフタ133a~133eおよび位相シフタ501a~501eのうち、少なくとも一つの位相シフタが位相シフト量を制御すれば、同様に消費電力量を低減する効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
従来よりも消費電力量を低減することができる可変波長フィルタとして、WDM等の光通信ネットワークへの適用が見込まれる。