(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】被覆電線シール用組成物、及び、被覆電線
(51)【国際特許分類】
H01B 3/30 20060101AFI20250326BHJP
H01B 7/285 20060101ALI20250326BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
H01B3/30 B
H01B7/285
C09K3/10 E
(21)【出願番号】P 2022539508
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027800
(87)【国際公開番号】W WO2022025084
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2020127713
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中安 達也
(72)【発明者】
【氏名】山田 成志
(72)【発明者】
【氏名】安藤 勝
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/30
H01B 7/285
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として、イソシアネート基を有する化合物、
(B)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物、及び、
(C)成分として、光重合開始剤を含み、
前記(B)成分が、2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を含み、
前記2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量が
、組成物の全質量に対し、0.1質量%~40質量%であり、
前記(A)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、50質量%を超える
被覆電線シール用組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、イソシアネートプレポリマーを含む、請求項1に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、イソシアネート基が芳香環に直結している化合物を含む、請求項1又は請求項2に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項4】
前記組成物が、湿気硬化触媒を含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項5】
前記(A)成分の含有量が、前記組成物の全質量に対し、60質量%以上である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の含有量が、前記組成物の全質量に対し、15質量%以上である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項7】
前記(A)成分が、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物を含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項8】
前記イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量が、前記組成物の全質量に対し、5質量%以上である、請求項7に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項9】
(A’)成分として、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物、
(B)成分として、前記(A’)成分以外の化合物であって、(メタ)アクリル基を有する化合物、並びに
(C)成分として、光重合開始剤を含み、
前記(B)成分が、2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を2つ以上含み、
前記2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量が
、組成物の全質量に対し、0.1質量%~40質量%であり、
前記(A’)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、25質量%以上である
被覆電線シール用組成物。
【請求項10】
前記組成物が、湿気硬化触媒を含む、請求項9に記載の被覆電線シール用組成物。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物の硬化物を備える被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線シール用組成物、及び、被覆電線に関する。より詳細には、自動車、家電製品及びOA(Office Automation)機器等の各種電気系統の配線における被覆電線のシール剤として広く利用される組成物、及び、前記組成物の硬化物を備える被覆電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品及びOA機器等には、各種電気系統が電線により配線されており、そのハーネス部は従来、加締めやシールが行われていた。
【0003】
従来のワイヤーハーネスとしては、特許文献1に記載のものが知られている。
特許文献1には、導体が絶縁体からなる被覆材により被覆された絶縁電線が複数本束ねられた電線束を有し、前記被覆材の一部が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が光硬化性樹脂からなる止水剤により被覆され、前記止水剤の表面が光透過性の保護シートにより被覆されている止水部を有するワイヤーハーネスであって、前記止水剤が、光の届かない箇所での硬化が可能であって、光硬化性樹脂と連鎖移動剤を含有してなる組成物から形成されたものであることを特徴とするワイヤーハーネスが記載されている。
【0004】
また、従来の防食材としては、特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献2には、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含み、前記重合性化合物は、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含み、前記重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを併用してなるか、又は単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用してなり、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下であることを特徴とする防食材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-116196号公報
【文献】特開2016-204476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、得られる被覆電線の電線シールの耐熱性に優れる被覆電線シール用組成物を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、前記被覆電線シール用組成物の硬化物を備えた被覆電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (A)成分として、イソシアネート基を有する化合物、(B)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物、及び、(C)成分として、光重合開始剤を含み、前記(A)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、50質量%を超える被覆電線シール用組成物。
<2> 前記(A)成分が、イソシアネートプレポリマーを含む、<1>に記載の被覆電線シール用組成物。
<3> 前記(A)成分が、イソシアネート基が芳香環に直結している化合物を含む、<1>又は<2>に記載の被覆電線シール用組成物。
<4> 前記組成物が、湿気硬化触媒を含む、<1>~<3>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<5> 前記(A)成分の含有量が、前記組成物の全質量に対し、60質量%以上である、<1>~<4>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<6> 前記(B)成分の含有量が、前記組成物の全質量に対し、15質量%以上である、<1>~<5>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<7> 前記(B)成分が、2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を含む、<1>~<6>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<8> 前記2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量が、前記組成物の全質量に対し、0.1質量%~40質量%である、<1>~<7>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<9> 前記(A)成分が、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物を含む、<1>~<8>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物。
<10> 前記イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量が、前記組成物の全質量に対し、5質量%以上である、<9>に記載の被覆電線シール用組成物。
<11> (A’)成分として、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物、並びに(C)成分として、光重合開始剤を含み、前記(A’)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、25質量%以上である被覆電線シール用組成物。
<12> 前記組成物が、湿気硬化触媒を含む、<11>に記載の被覆電線シール用組成物。
<13> <1>~<12>のいずれか一項に記載の被覆電線シール用組成物の硬化物を備える被覆電線。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、得られる被覆電線の電線シールの耐熱性に優れる被覆電線シール用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記被覆電線シール用組成物の硬化物を備えた被覆電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本発明において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表す。
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。
【0010】
(被覆電線シール用組成物)
本発明の被覆電線シール用組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)の第一の実施態様は、(A)成分として、イソシアネート基を有する化合物、(B)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物、及び、(C)成分として、光重合開始剤を含み、前記(A)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、50質量%を超える。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様は、(A’)成分として、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物、並びに(C)成分として、光重合開始剤を含み、前記(A’)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、25質量%以上である。
なお、本明細書において、特に断りなく、単に「本発明の被覆電線シール用組成物」又は「本発明の組成物」という場合は、上記第一の実施態様及び上記第二の実施態様の両方について述べるものとする。また、特に断りなく、単に「(C)成分」等という場合は、上記第一の実施態様及び上記第二の実施態様の全ての(C)成分等について述べるものとする。
【0011】
また、本発明の被覆電線シール用組成物は、自動車、家電製品及びOA機器等のワイヤーハーネスにおける被覆電線シール用組成物として、好適に用いることができ、自動車のワイヤーハーネスにおける被覆電線シール用組成物として、特に好適に用いることができる。
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、前記構成をとることにより、得られる被覆電線の電線シールの耐熱性に優れる被覆電線シール用組成物を提供できることを見出した。
これによる優れた効果の作用機構は明確ではないが、以下のように推定している。
(B)成分又は(A’)成分の(メタ)アクリル基、及び、(C)成分により、光硬化するだけでなく、(A)成分を50質量%を超える量含むか、又は、(A’)成分を25質量%以上含むことにより、光硬化後、湿気により更に暗反応が進行するため、より硬化物の強度及び熱安定性が向上し、得られる被覆電線の電線シールの耐熱性に優れると推定される。
【0013】
<(A)成分:イソシアネート基を有する化合物>
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様は、(A)成分として、イソシアネート基を有する化合物を含み、前記(A)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、50質量%を超える。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様は、(A’)イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物以外のイソシアネート基を有する化合物を含んでいてもよく、電線シール性の観点から、(A’)成分及び(A’)成分以外のイソシアネート基を有する化合物の総含有量が、組成物の全質量に対し、50質量%を超えることが好ましい。なお、(A’)成分も、(A’)成分以外のイソシアネート化合物も、広くは(A)成分に含まれる。
【0014】
(A)成分としては、1つのみイソシアネート基を有する化合物(「単官能イソシアネート化合物」ともいう。)であっても、2つ以上イソシアネート基を有する化合物(「多官能イソシアネート化合物」又は「ポリイソシアネート化合物」ともいう。)であってもよいが、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性(「サーマルショック耐性」ともいう。)の観点から、2つ以上イソシアネート基を有する化合物を含むことが好ましい。
また、(A)成分としては、イソシアネート基を有するプレポリマー(「イソシアネートプレポリマー」ともいう。)も好適に用いることができる。前記イソシアネート基を有するプレポリマーとしては、ポリイソシアネート化合物の多量体、又は、ポリオール化合物、ポリアミン化合物若しくはアミノアルコール化合物とポリイソシアネート化合物との付加反応物が好適に挙げられる。
【0015】
ポリイソシアネート化合物の多量体としては、特に制限はないが、ビウレット体、アロファネート体、イソシアヌレート体等が挙げられる。
なお、アダクト体については、前記ポリオール化合物、ポリアミン化合物又はアミノアルコール化合物と、ポリイソシアネート化合物との付加反応物に含まれる。
【0016】
ポリイソシアネート化合物としては、脂環式基を有しない脂肪族ポリイソシアネート(以下、単に「脂肪族ポリイソシアネート」ともいう。)、脂環式基を有する脂肪族ポリイソシアネート(以下、「脂環式ポリイソシアネート」ともいう。)、複素環を有するポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。
中でも、(A)成分としては、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、イソシアネート基が芳香環に直結している化合物を含むことが好ましく、芳香族ポリイソシアネートを含むことがより好ましく、芳香族イソシアネートプレポリマーを含むことが特に好ましい。
【0017】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環式ポリイソシアネートとしては、水素化トリレンジイソシアネート、水素化4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
複素環を有するポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート3量体及びイソホロンジイソシアネート3量体等を挙げることができる。
芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート及び1,5-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0018】
前記プレポリマーの作製に用いるポリオール化合物としては、ジオール化合物が好ましく、低分子量ジオール、ポリエステル骨格を有するジオール、ポリエーテル骨格を有するジオール及びポリカーボネート骨格を有するジオールが好ましく用いられる。
【0019】
低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
ポリエステル骨格を有するジオールとしては、前記低分子量ジオール又はポリカプロラクトンジオール等のジオール成分と、ジカルボン酸又はその無水物等の酸成分とのエステル化反応物等が挙げられる。
ジカルボン酸又はその無水物としては、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドルフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等、並びにこれらの無水物等が挙げられる。
ポリエーテル骨格を有するジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリカーボネート骨格を有するジオールとしては、前記低分子量ジオール及びビスフェノールA等のビスフェノールよりなる群から選ばれた少なくとも1種のジオールと、エチレンカーボネート及び炭酸ジブチルエステル等の炭酸ジアルキルエステルの反応物等が挙げられる。
【0020】
前記プレポリマーの作製に用いるポリイソシアネート化合物としては、前述したポリイソシアネート化合物が好適に挙げられる。
【0021】
前記プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、1,000~60,000であることが好ましく、1,000~55,000であることがより好ましく、1,000~50,000であることが更に好ましく、1,500~40,000であることが特に好ましい。
尚、本発明において、Mwとは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分子量をポリスチレン換算した値である。
【0022】
<<(A’)成分:イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物>>
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様は、(A’)成分として、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物を含み、前記(A’)成分の含有量が、組成物の全質量に対し、25質量%以上である。
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様は、(A)成分として、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物((A’)成分)を含んでいてもよく、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0023】
イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物におけるイソシアネート基は、脂肪族イソシアネート基であっても、芳香族イソシアネート基であってもよいが、脂肪族イソシアネート基であることが好ましい。
イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物における(メタ)アクリル基は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、(メタ)アクリロキシ基であることが好ましい。
【0024】
また、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有する化合物は、イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有するプレポリマーであることが好ましい。
イソシアネート基及び(メタ)アクリル基を有するプレポリマーとしては、例えば、前記イソシアネートプレポリマーのイソシアネート基の一部に、ヒドロキシ基を有する単官能又は多官能(メタ)アクリレート化合物を反応させてなるプレポリマーが好適に挙げられる。
ヒドロキシ基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート及びヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
(A’)成分の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、1,000~60,000であることが好ましく、1,000~55,000であることがより好ましく、1,000~50,000であることが更に好ましく、1,500~40,000であることが特に好ましい。
【0026】
(A’)成分の製造方法としては、例えば、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及びヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物の付加反応、又は、アダクト体においては、ポリイソシアネート化合物及びヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物の付加反応により製造される。
これらの付加反応は無触媒でも可能であるが、反応を効率的に進めるために、ジブチル錫ジラウレート等の錫系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒、亜鉛錯体や鉄錯体等の金属錯体系触媒等を添加してもよい。
【0027】
(A’)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様における(A’)成分の含有量は、組成物の全質量に対し、25質量%以上であり、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、25質量%~99.5質量%であることが好ましく、30質量%~85質量%であることがより好ましく、65質量%~85質量%であることが特に好ましい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様における(A’)成分の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、5質量%以上であることが好ましく、5質量%~40質量%であることがより好ましく、8質量%~25質量%であることが特に好ましい。
【0028】
(A)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様における(A)成分の含有量は、組成物の全質量に対し、50質量%を超え、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、55質量%~90質量%であることが好ましく、55質量%~85質量%であることがより好ましく、58質量%~80質量%であることが特に好ましい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様における(A’)成分及び(A’)成分以外のイソシアネート基を有する化合物の総含有量が、電線シール性の観点から、組成物の全質量に対し、50質量%を超えることが好ましく、55質量%~99.5質量%であることがより好ましく、65質量%~85質量%であることが特に好ましい。
【0029】
<(B)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物>
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様は、(B)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物を含む。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様は、(B)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物を含んでいてもよい。
【0030】
(B)成分における(メタ)アクリル基としては、例えば、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。中でも、硬化性、並びに、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、(メタ)アクリロキシ基が好ましい。
また、(B)成分としては、粘度の観点から、(メタ)アクリルアミド化合物を含むことが好ましい。
更に、(B)成分における(メタ)アクリル基を有する化合物は、1つのみ(メタ)アクリル基を有する化合物であっても、2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物であってもよいが、硬化性、並びに、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0031】
(B)成分の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート(エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート)、N-ビニルカプロラクトン、(メタ)アクリロイルモルホリン、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、マレイミド基を有する(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)アシッドホスフェート;並びにポリエステルポリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
これら以外にも3官能以上の(メタ)アクリレートも用いることができる。
具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、(B)成分は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミド、及び、(メタ)アクリロイルモルホリンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましく、ジメチル(メタ)アクリルアミド、及び、(メタ)アクリロイルモルホリンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。
また、(B)成分は、光硬化性、及び、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、2官能(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましく、リン酸構造を有する2官能(メタ)アクリレート化合物を含むことがより好ましく、ビス((メタ)アクリロキシエチル)アシッドホスフェート(下記化合物、R=水素原子又はメチル基)を含むことが特に好ましい。
【0033】
【0034】
本発明の被覆電線シール用組成物における1つのみ(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量をM1、2以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量をM2とした場合、質量比で、M1>M2であることが好ましい。
本発明の被覆電線シール用組成物における、好ましくは本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様における1つのみ(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、5質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~40質量%であることがより好ましく、8質量%~35質量%であることが特に好ましい。
また、本発明の被覆電線シール用組成物における、好ましくは本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様における2以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、0.1質量%~40質量%であることが好ましく、0.5質量%~30質量%であることがより好ましく、1質量%~10質量%であることが更に好ましく、1質量%~5質量%であることが特に好ましい。
【0035】
(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第一の実施態様における(B)成分の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、5質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~40質量%であることがより好ましく、8質量%~35質量%であることが特に好ましい。
本発明の被覆電線シール用組成物の第二の実施態様における(B)成分の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、1質量%~40質量%であることが特に好ましい。
また、本発明の被覆電線シール用組成物における(B)成分の含有量は、硬化性、並びに、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、10質量%を超えることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
【0036】
<(C)成分:光重合開始剤>
本発明の被覆電線シール用組成物は、(C)成分として、光重合開始剤を含む。
また、光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が好ましく挙げられる。
光ラジカル重合開始剤である。
光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって重合開始種を発生し、(メタ)アクリル基等の重合性基を有する化合物の重合を開始する化合物である。
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、及び、X線等が挙げられるが、安価な装置を使用することができるため、可視光線又は紫外線が好ましい。
【0037】
(C)成分の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-1-(メチルビニル)フェニル]プロパノン、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)ベンジル]フェニル]-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)]フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)ブタン-1-オン、アデカオプトマーN-1414〔(株)ADEKA製〕、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、エチルアントラキノン及びフェナントレンキノン等の芳香族ケトン化合物;
ベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4-(メチルフェニルチオ)フェニルフェニルメタン、メチル-2-ベンゾフェノン、1-[4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフォニル)プロパン-1-オン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン及び4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物;
チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1-クロロ-4-プロピルチオキサントン、3-[3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イル]オキシ]-2-ヒドロキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド及びフルオロチオキサントン等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。
【0038】
これら化合物の中でも、アシルホスフィンオキサイド化合物が、紫外線吸収剤等を含有し透過性が低いフィルム越しに活性エネルギー線を照射する場合でも硬化性が良好なため好ましく、その好ましい化合物は前記した通りである。
【0039】
(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
(C)成分の含有量は、硬化性、並びに、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、0.1質量%~20質量%が好ましく、0.2質量%~10質量%がより好ましく、0.5質量%~2質量%が特に好ましい。
【0040】
<湿気硬化触媒>
本発明の被覆電線シール用組成物は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、湿気硬化触媒を含むことが好ましい。湿気硬化触媒を含むことにより、光照射により残留した(メタ)アクリル基等の重合性基も、更に湿気により重合反応が進行し、光照射のみよりも重合が進行する。
【0041】
湿気硬化触媒は、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
湿気硬化触媒としては、鉛-2-エチルオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ビスアセチルアセトネート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ビス(トリメトキシシリル)、ブチル錫トリ-2-エチルヘキソエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、亜鉛-2-エチルヘキソエート、カプリル酸第1錫、ナフテン酸錫、オレイン酸錫、ブチル酸錫、ナフテン酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛などの有機酸カルボン酸の金属塩;
テトラブチルチタネート、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネート、ジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)チタン、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトン)チタンなどの有機チタン酸エステル;
オルガノシロキシチタン、β-カルボニルチタンなどの有機チタン化合物、アルコキシアルミニウム化合物、ベンジルトリエチルアンモニウムアセテートなどの第四級アンモニウム塩;
酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、しゅう酸リチウムなどのアルカリ金属の低級脂肪酸; ジメチルヒドロキシアミン、ジエチルヒドロキシアミンなどのジアルキルヒドロキシルアミン;
2,2’-ジモルホリノジエチルエーテル、ジ(2,6-ジメチルモルホリノエチル)エーテル、ビス(2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノ)エチル)-(2-(4-モルホリノ)エチル)アミン、ビス(2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノ)エチル)-(2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2-(4-モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2-(4-モルホリノ)プロピル)アミン、トリス(2-(4-モルホリノ)ブチル)アミン、トリス(2-(2、6-ジメチル-4-モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2-(2、6-ジエチル-4-モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2-(2-エチル-4-モルホリノ)エチル)アミン、及びトリス(2-(2-エチル-4-モルホリノ)エチルアミン、ジ〔2-(3,5-ジメチルモルホリノ)エチル〕エーテル、N-メチルモルホリンビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどのモルホリン化合物などが挙げられる。
これら化合物の中でも、モルホリン化合物が、接着性や安定性を阻害せず、且つ硬化性が良好なため好ましく、その好ましい化合物は前記した通りである。
【0042】
湿気硬化触媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
湿気硬化触媒の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、0.01質量%~10質量%が好ましく、0.05質量%~5質量%がより好ましく、0.1質量%~2質量%が特に好ましい。
【0043】
<嫌気硬化触媒>
本発明の被覆電線シール用組成物は、嫌気硬化触媒を含んでいてもよい。
嫌気硬化触媒は、酸素と触れていない嫌気状態において、重合開始種を発生させる触媒である。
嫌気硬化触媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
中でも、嫌気硬化促進剤と有機過酸化物とを含むことが好ましく、サッカリンと有機過酸化物とを含むことが特に好ましい。
嫌気硬化促進剤としては、有機スルホンイミド類、アミン類または有機金属塩などが挙げられる。有機スルホンイミドとしては、o-スルホ安息香酸イミド類が好ましく、サッカリンが特に好ましい。アミン類としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルパラトルイジン、1,2,3,4-テトラヒドロキノンなどが好ましい。また、有機金属塩としては、塩化銅、オクチル酸銅などが挙げられる。
有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、などのハイドロパーオキサイドのほか、ジアシルパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類などが挙げられる。中でも、クメンハイドロパーオキサイドが、安定性及び硬化速度の点から好ましい。
【0044】
嫌気硬化触媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
嫌気硬化触媒の含有量は、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、組成物の全質量に対し、0.01質量%~10質量%が好ましく、0.1質量%~8質量%がより好ましく、0.5質量%~5質量%が特に好ましい。
【0045】
<その他の成分>
本発明の組成物には、上記成分以外に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、公知の添加剤が挙げられ、具体的は例えば、安定剤、重合促進剤、染料、顔料、希釈剤等が挙げられる。
また、その他の成分の含有量は、特に制限はないが、組成物の全質量に対し、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
その他の成分としては、安定剤が好ましく挙げられる。
安定剤としては、公知の重合抑制剤、重合禁止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノンや亜硫酸ガス等が挙げられる。
【0047】
また、その他の成分としては、重合促進剤が好ましく挙げられ、アニオン重合促進剤がより好ましく挙げられる。
アニオン重合促進剤としては、ポリアルキレンオキサイド及びその誘導体、クラウンエーテル及びその誘導体、シラクラウンエーテル及びその誘導体、カリキサレン誘導体等が挙げられる。
【0048】
これら以外にも、染料、顔料、希釈剤、及び、充填剤(シリカ粒子など)等を配合することもできる。
【0049】
<組成物又は硬化物の各種物性値>
-粘度-
本発明の被覆電線シール用組成物は、25℃における粘度が、電線シールの耐熱性及び耐冷熱衝撃性の観点から、25mPa・s~20,000mPa・sであることが好ましく、30mPa・s~10,000mPa・sであることがより好ましく、100mPa・s~5,000mPa・sであることが特に好ましい。
【0050】
本発明の被覆電線シール用組成物の25℃における粘度の測定方法は、JIS Z 8803(2011)に規定される回転粘度計を用いた測定方法に準拠し、25℃における粘度を測定する。
【0051】
-光硬化性-
本発明の被覆電線シール用組成物は、下記光硬化性の測定方法による硬化時間が、60秒以下であることが好ましく、40秒以下であることが好ましく、30秒以下であることが更に好ましく、25秒以下であることが特に好ましい。
【0052】
被覆電線シール用組成物の光硬化性の測定方法は、空気中、25℃において、被覆電線シール用組成物に、波長405nmのLEDランプを用いて400mW/cm2の照度で光を照射し、被覆電線シール用組成物が硬化するまでの時間を測定する。
【0053】
<使用方法>
本発明の被覆電線シール用組成物は、1本の導線が絶縁性の被覆物で被覆されているもの、数本の導線をよったより線が絶縁性の被覆物で被覆されているもの等、種々の被覆電線に使用可能である。
具体的には、被覆電線の露出部及びその周辺を本発明の組成物で被覆し、本発明の組成物を硬化させることにより、被覆電線露出部周辺のシールが可能である。
被覆方法としては、種々の方法が採用でき、例えば、被覆電線の露出部及びその周辺に本発明の組成物を塗布或いは注入する方法、又は被覆電線の露出部及びその周辺を本発明の組成物に浸す方法等を挙げることができる。
被覆した本発明の組成物の硬化方法としては、シアノアクリレート系接着剤で通常採用される方法が適用でき、通常は放置することにより空気中の水分により硬化し、又、組成物の硬化速度が充分でないときは、被覆部分を、アニオン重合開始剤であるアミン、例えばN,N’-ジメチルアニリン、トリエタノールアミン、N,N’-ジエチル‐m-トルイジン、N,N’-ジメチル‐p-トルイジン〔市販品としては、aaアクセレレーター(東亞合成(株)製)等がある〕等を噴霧し、硬化促進させることもできる。
本発明の組成物のうち低粘度の組成物は、これが導線と被覆物の隙間に容易に浸透し、被覆電線を充分にシールすることができ、また作業性にも優れるため好適であり、被覆電線の露出部及びその周辺を本発明の組成物に浸す方法を採用することが好ましい。
より具体的には、被覆電線の被覆物を剥がした導線を特定の部品と加締め、この被覆電線の露出部及びその周辺を、本発明の組成物に浸す。被覆電線の露出部及びその周辺を浸す時間としては、使用する組成物の種類によって適宜選択すればよいが、通常は数秒~30秒程度である。
この方法において、硬化速度が速すぎ、組成物が導線と被覆物の隙間内部に十分浸透しない場合には、上記した重合抑制剤の割合を増加させた組成物を使用すればよい。
【0054】
(被覆電線)
本発明の被覆電線は、本発明の被覆電線シール用組成物の硬化物を備える。
本発明の被覆電線シール用組成物は、被覆電線、特に被覆電線の末端等において、電線が露出している部分をシールするために好適に用いることができ、2以上の被覆電線を電気的に接続している電線露出部分をシールするためにより好適に用いることができる。
前記電線露出部分は、被覆電線の末端であっても、中間部分であってもよい。
また、本発明の被覆電線シール用組成物は、被覆電線と他の部材(コネクタ、端子、保護具、成形具、固定具、基板等)との接続部分におけるシールにも好適に用いることができる。
【0055】
前記被覆電線における電線としては、特に制限はなく、公知の電線を用いることができる。電線の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金等が挙げられる。
また、電線は、単線であっても、複数素線であってもよいが、複数素線であることが好ましい。
前記被覆電線における被覆材料は、特に制限はなく、公知の被覆材料を用いることができる。
被覆材料としては、絶縁性の材料であることが好ましい。
また、被覆材料としては、樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。
前記被覆電線における断面形状、長さ、被覆の厚さ等については、特に制限はなく、適宜選択することができる。
本発明の被覆電線としては、自動車、家電製品及びOA機器等のワイヤーハーネスが好適に挙げられ、自動車のワイヤーハーネスが特に好適に挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。また、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0057】
<25℃における粘度の測定方法>
JIS Z 8803(2011)に規定される回転粘度計を用いた測定方法に準拠し、25℃における粘度を測定した。
【0058】
(実施例1~17、及び、比較例1~10)
実施例1~17、並びに、比較例1~10においては、表1~表3に示す組成の各化合物を常法により混合し、被覆電線シール用組成物をそれぞれ調製した。ただし、実施例1、2、4、12、14、16及び17は参考例に該当する。
【0059】
<評価>
得られた被覆電線シール用組成物について、以下の評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0060】
-硬化時間の測定方法-
作業性に関する性能を確認するために、電線に適用した被覆電線シール用組成物に、波長405nmのLEDランプを用いて400mW/cm2の照度で光を照射し、被覆電線シール用組成物が硬化するまでの時間を測定した。
【0061】
-電線シール性試験(初期、耐熱試験、及び、冷熱衝撃試験)-
被覆電線のシール材(封止材)としての性能を確認するために、電線をモールドした封止材が十分なシール性を有するか確認した。
被覆材を取り去り、むき出しになった金属導体部分を束ねた電線に対し、金属導体部分をモールドした封止材(被覆電線シール用組成物)に光を照射した際、モールド材が硬化した電線を、室温で5日間養生し、電線1を得た。
なお、下記3種の試験には、電線の導体の素線数/素線径/外径が、それぞれ41本/0.32mm/2.4mmと、58本/0.26mm/2.3mmのものを束ねた2種類の電線を用いて試験を行った。
【0062】
<<初期>>
封止後の「電線1」を、室温(25℃、以下同様)下で電線の末端部分からモールドされている方向へ30kPaの空気を内に吹き込み、空気が漏れるかどうかで封止材がシールしているか否かを確認した。
【0063】
<<耐熱試験後>>
封止後の「電線1」を120℃の常温乾燥機中に120時間放置した後、室温下で電線の末端部分からモールドされている方向へ30kPaの空気を内に吹き込み、空気が漏れるかどうかで封止材がシールしているか否かを確認した。
【0064】
<<冷熱衝撃試験(サーマルショック)後>>
冷熱衝撃試験機を用い、-40℃環境下に1時間、その後125℃環境下に1時間サンプルを放置する条件を1サイクルとし、封止後の「電線1」を100サイクル放置した後、室温下で電線の末端部分からモールドされている方向へ30kPaの空気を内に吹き込み、空気が漏れるかどうかで封止材がシールしているか否かを確認した。
【0065】
前記3種の試験は、同一の被覆電線シール用組成物により作製した2種類の「電線1」で行い、2種類共に空気を吹き込んでも漏れがなく良好であったサンプルについてはA、1種類の電線では空気漏れは無かったが、もう1種類で漏れが確認されたサンプルについてはBを、2種類の電線で共に空気漏れがあったサンプルはCを、光を照射した際に硬化しなかったため、評価ができない場合は-とした。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
また、表1における略語の詳細を以下に示す。
<アクリルイソシアネート化合物>
ラロマーPR-9000:BASF社製アクリルイソシアネート
エビクリル4396:ダイセル・オルネクス(株)製アクリルイソシアネート
<イソシアネート化合物>
スミジュールE21-2:住化コベストロウレタン(株)製ジフェニルメタンジイソシアネート変性ポリイソシアネート
SBU0620:住化コベストロウレタン(株)製ジフェニルメタンジイソシアネート変性ポリイソシアネート
デュラネートE402-100:旭化成(株)製アダクト型ヘキサメチレンジイソシアネート変性ポリイソシアネート
デュラネートWT31-100:旭化成(株)製水分散型ヘキサメチレンジイソシアネート変性ポリイソシアネート
<(メタ)アクリレートモノマー>
ビスコート190:大阪有機化学工業(株)製エチルカルビトールアクリレート
DMAA:KJケミカルズ(株)製ジメチルアクリルアミド
ACMO:KJケミカルズ(株)製アクリロイルモルホリン
カヤラッドHX-620:日本化薬(株)製ジアクリレートモノマー
ライトエステルP-2M:共栄社化学(株)製ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート
<湿気硬化触媒>
U-CAT 660M:サンアプロ(株)製モルホリン系ウレタン化触媒
<光重合開始剤>
Omnirad 369:IGMレジン社製α-アミノアセトフェノン系光重合開始剤
Omnirad 1173:IGMレジン社製α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤
Omnirad TPO:IGMレジン社製アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤
<嫌気硬化触媒>
パークミルH-80:日油(株)製クメンハイドロパーオキサイド
サッカリン:2-スルホ安息香酸イミド
【0070】
表1~表3に示すように、実施例1~17の被覆電線シール用組成物は、比較例1~10の組成物に比べ、得られる被覆電線の電線シールの耐熱性に優れる。
また、表1及び表2に示すように、実施例1~17の被覆電線シール用組成物は、得られる被覆電線の電線シールの耐冷熱衝撃性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の被覆電線シール用組成物は、作業性に優れ、かつその硬化物は、厳しい高温等の条件下においても電線シール性を維持することができるため、自動車、家電製品、OA機器等の各種電気系統の配線の電線シール剤として広く利用され得るものである。
【0072】
2020年7月28日に出願された日本国特許出願第2020-127713号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。