(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】採光防音シート
(51)【国際特許分類】
E04G 21/32 20060101AFI20250327BHJP
E04B 1/90 20060101ALI20250327BHJP
D06N 7/00 20060101ALI20250327BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20250327BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
E04G21/32 B
E04B1/90 P
E04B1/90 H
D06N7/00
B32B27/12
B32B27/30 101
(21)【出願番号】P 2023000474
(22)【出願日】2023-01-05
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-221888(JP,A)
【文献】特開2013-010233(JP,A)
【文献】特許第4777464(JP,B1)
【文献】特開2016-106699(JP,A)
【文献】特開2013-176921(JP,A)
【文献】特開2015-014093(JP,A)
【文献】特開2003-201640(JP,A)
【文献】特開2003-201639(JP,A)
【文献】特開2019-138135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0252568(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/24-21/32
E04B 1/90
D06N 7/00
B32B 27/12
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗目基材の両面に塩素原子含有樹脂被覆層が設けられてなる、面密度1.0~2.5kg/m
2、全光線透過率(JIS K7105)35~65%の可撓性シートであって、前記粗目基材が、経糸条(5~15本/inch)、及び緯糸条(5~15本/inch)との交絡による空隙率20~45%の織物であって、この織物は、A)前記経糸条、または緯糸条がマンセル明度V(JIS Z8721)1,2,3,4の何れかのランクの糸条を半数以上含み、かつもう一方の方向の糸条のマンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条で構成される織物A、または、B)前記経糸条、及び緯糸条がマンセル明度V(同上)1,2,3,4の何れかのランクの糸条、及びマンセル明度V(同上)8または9のランクの糸条の混用で構成され、その混用本数比率が1:1~1:2の規則的交互配置である織物B、の何れかであることを特徴とする採光防音シート。
【請求項2】
マンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4の何れかのランクの前記糸条が、原着糸、または先染糸、または着色糸である請求項1に記載の採光防音シート。
【請求項3】
前記着色糸が、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び着色剤を主体とする被覆層を有する糸条である請求項2に記載
の採光防音シート。
【請求項4】
前記塩素原子含有樹脂被覆層が、塩素原子含有率が56.7~73.1質量%の塩素原子含有樹脂、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィン、及び可塑剤、を主体として構成されたものである請求項1~3の何れか1項に記載の採光防音シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視認性に優れた採光防音シートに関する。詳しくは、ビル、マンション、家屋などの建造物の建設や解体の工事現場全域に張囲する安全シート、工場内外の騒音設備の周囲に張囲する目隠しシート、工場の出入り口のシートシャッター、工場内間仕切りシートなどに用いられる採光防音シートに関するもので、特にシート向こう側の人影などの視認性に優れ、景観調和性にも優れた採光防音シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル、マンションなどの建設、大規模修繕、さらには解体時には、大掛かりな足場を組み、作業の安全目的(労働安全衛生規則:足場等関係)、落下物防止など周囲・通行人の安全目的(建築基準法施行令・労働安全衛生規則)、近隣への粉塵飛散、臭気拡散防止のために、建築養生メッシュシート、建築養生シートなどで建築物全体を張囲する工法が一般的である。この張囲に用いる建築養生メッシュシート(例えば平岡織染株式会社「商標:ターポスクリーン」1類・2類)や、建築養生シート(例えば平岡織染株式会社「商標:ターポキャンバス」1類・2類)には、ポリエステル繊維織物を軟質塩化ビニル樹脂で加工を施した軽量で強靭な防炎規格認定品(消防法施行令)、及びJIS A8952「建築工事用シート」適合品が一般的で、折り畳み自在であることから建築現場での取り扱い性に優れている。特に建築物などの解体工事においては、重機の作動音、解体音が大きく、騒音が連続することが多いため、防音シート、防音パネルなどで建築物全体を張囲する必要がある。この防音シートは建築養生シートの一種で、面密度1~3kg/m2を有し、一般の建築養生シートの数倍の質量の重厚なターポリン(例えば平岡織染株式会社「商標:サウンドシャッター」)である。シートの面密度(1m2当たりの質量)が大きいほど高い音響透過損失(防音性)が得られるので、初期の防音シートでは、鉄粉、酸化鉄などの高比重粉体を多量充填して面密度を高くしたものであったが、シートが過度に重くなることで、現場施工した多数のシートの連結体のハトメ連結部に過大な負荷が掛かり、ハトメ部位が破壊する問題があった。また、汎用の建築養生シートがある程度の採光性を有して開放感があるのに対して、重厚で遮光性の防音性シートで張囲された作業現場は薄暗く閉塞感のある環境としていた。
【0003】
本出願人は以前に採光性を考慮した防音シートとして、粗目織物を用いて、これに高比重無機系充填剤とを含む高比重樹脂層で被覆したメッシュシートを基材として、この表面に可撓性高分子材料(好ましくは難燃剤を含む)による透明性樹脂層を形成してなる面密度0.8~3.5kg/m2のシート(特許文献1)を提案した。この採光防音シートの発明は、高比重樹脂層で被覆したメッシュシート部位で、ある程度の音響透過損失(防音性)を確保し、同時にメッシュシートの空隙部を被覆・充填する透明性樹脂層である程度の採光性を確保するものである。その後の採光防音シートの定番化(例えば平岡織染株式会社「商標:サウンドシャッター」採光)を経て、昨今の建築現場での要望は、防犯、及び安全管理の観点から、張囲の外から作業現場の様子、人影などが確認できるような視認性が付帯された採光防音シートが望まれている。このような工事現場張囲内における工事関係者などの行動や安全状況を外から把握するための視認性向上の要望を満たす建築養生メッシュシートの設計として、本出願人はメッシュシートの表面側の熱可塑性樹脂層をマンセル明度4以下の色相を有する略円弧状断面とすること(特許文献2)を開示し、段落〔0017〕に、マンセル明度4以下の色相として、黒色、黒灰色、黒茶色、黒緑色、黒青色、黒紫色、濃紺色、濃緑色、臙脂色、青色、緑色、赤色、灰色などを例示した。また、明るい屋外からシート越しに薄暗い屋内を覗き込んだ時に屋内環境、及びシート越しの人相識別、物品識別が可能な視認性に優れたシートシャッター用膜材、間仕切り、及びシート構造物用膜材の設計として本出願人は、マンセル明度4以下のメッシュシートを基体として、その表裏面に透明樹脂層を設け、メッシュの貫通孔を面積25mm2~225mm2の透明樹脂鏡面部(ヘイズ値10以下)とし、透明樹脂鏡面部の総和占有率35~75%とすること(特許文献3)を開示し、マンセル明度4以下暗色系として、特許文献2と同じ色を例示した。
【0004】
確かに特許文献2の建築養生メッシュシート、及び特許文献3のシートシャッター用膜材では、メッシュシートの色相をマンセル明度4以下とする視覚効果で、内側の視認性を向上させるものであるが、全体が暗色(黒色)のシート(膜材)の使用を絶対とすることで存在感が出過ぎることで周囲環境との調和が取り難い存在となるのが欠点であった。従って最近では、人影などの視認性を有する採光性防音シートであって、適度な景観調和性があるものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-221888号公報
【文献】特開2015-004215号公報
【文献】特開2018-167498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、人影などの視認性、採光性及び景観調和性のバランスが取れた防音シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、特定の要件を満たす織物A(経糸条、または緯糸条に特定のマンセル明度の糸条を用い、もう一方の方向にはそれ以外のマンセル明度の糸条を用いた織物)、または織物B(経糸条、及び緯糸条に特定のマンセル明度の糸条と、それ以外のマンセル明度の糸条を特定比率で混用して用いた織物)の両面に塩素原子含有樹脂被覆層を設けてなる可撓性シートが人影などの視認性、採光性及び景観調和性のバランスが取れ、防音性にも優れていることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の採光防音シートは、粗目基材の両面に塩素原子含有樹脂被覆層が設けられてなる、面密度1.0~2.5kg/m2、全光線透過率(JIS K7105)35~65%の可撓性シートであって、前記粗目基材が、経糸条(5~15本/inch)、及び緯糸条(5~15本/inch)との交絡による空隙率20~45%の織物であって、この織物は、A)前記経糸条、または緯糸条がマンセル明度V(JIS Z8721)1,2,3,4の何れかのランクの糸条を半数以上含み、かつもう一方の方向の糸条のマンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条で構成される織物A、または、B)前記経糸条、及び緯糸条がマンセル明度V(同上)1,2,3,4の何れかのランクの糸条、及びマンセル明度V(同上)8または9のランクの糸条の混用で構成され、その混用本数比率が1:1~1:2の規則的交互配置である織物B、の何れかであることが好ましい。これによって視認性、採光性及び景観調和性のバランスが取れた防音シートを得ることができる。
【0009】
本発明の採光防音シートは、マンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4の何れかのランクの前記糸条が、原着糸、または先染糸、または着色糸であることが好ましい。これによって採光防音シートの向こう側の視認性を向上させる。
【0010】
本発明の採光防音シートは、前記着色糸が、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び着色剤を主体とする被覆層を有する糸条であることが好ましい。これによって採光防音シートの向こう側の視認性を向上させる。
【0011】
本発明の採光防音シートは、前記塩素原子含有樹脂被覆層が、塩素原子含有率が56.7~73.1質量%の塩素原子含有樹脂、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィン、及び可塑剤、を主体として構成されたものであることが好ましい。塩素原子含有樹脂被覆層を重くすることでより高い音響透過損失(防音性)を得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人影などの視認性、採光性及び景観調和性のバランスが取れ、防音性にも優れるシートを得ることができるので、本発明の採光防音シートを、ビル、マンション、家屋などの建造物の建設や解体の工事現場全域に張囲する安全シート、工場内外の騒音設備の周囲に張囲する目隠しシート、工場の出入り口のシートシャッター、工場内間仕切りシートなどに用いることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の採光防音シート(織物A)の一例を示す図
【
図2】本発明の採光防音シート(織物A)の一例を示す図
【
図3】本発明の採光防音シート(織物B)の一例を示す図
【
図4】本発明の採光防音シート(織物B)の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の採光防音シートは、粗目基材の両面に塩素原子含有樹脂被覆層が設けられてなる、面密度1.0~2.5kg/m2、全光線透過率(JIS K7105)35~65%の可撓性シートである。塩素原子含有樹脂被覆層は、塩素原子含有率が56.7~73.1質量%の塩素原子含有樹脂、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィン、及び可塑剤、を主体として構成されたものである。粗目基材は、経糸条(5~15本/inch)、及び緯糸条(5~15本/inch)との交絡による空隙率20~45%の織物A、または織物Bである。織物Aは、経糸条、または緯糸条がマンセル明度V(JIS Z8721)1,2,3,4の何れかのランクの糸条を半数以上含み、かつもう一方の方向の糸条のマンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条で構成されたものである。織物Bは、経糸条、及び緯糸条がマンセル明度V(同上)1,2,3,4の何れかのランクの糸条、及びマンセル明度V(同上)8または9のランクの糸条の混用で構成され、その混用本数比率は1:1~1:2の規則的交互配置である。マンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4の何れかのランクの糸条は、原着糸、または先染糸、または着色糸である。着色糸は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び着色剤を主体とする被覆層を有する糸条である。
【0015】
本発明の採光防音シートに用いる粗目基材は、織物A、または織物Bである。織物Aは、経糸条(5~15本/inch)、及び緯糸条(5~15本/inch)との交絡による空隙率20~45%、質量75~250g/m2の織物で、経糸条、または緯糸条がマンセル明度V(JIS Z8721)1,2,3,4の何れかのランクの糸条を半数以上含み、かつもう一方の方向の糸条のマンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条で構成されたものである。織物Bは、経糸条(5~15本/inch)、及び緯糸条(5~15本/inch)との交絡による空隙率20~45%の織物で、経糸条、及び緯糸条がマンセル明度V(同上)1,2,3,4の何れかのランクの糸条、及びマンセル明度V(同上)8または9のランクの糸条の混用で構成され、その混用本数比率は1:1~1:2の規則的交互配置である。これらの粗目基材は、糸条が占める充実部と糸条間に形成された空隙部で構成され、空隙部の個数は1インチ平方面積当たり16~225個であり、粗目基材の単位面積(1インチ平方面積)に対して充実部総和の占有率が55~80%(空隙部総和の占有率は20~45%)である。織物A、及び織物Bの織り組織は、平織、摸紗織、バスケット織、もじり織(紗、または絽、または羅)などが好ましく、特に平織は、得られる防音シートの経・緯物性バランスに優れ、摸紗織は、粗目基材(織物A、または織物B)の形態安定性に優れ目ズレを生じ難いので採光防音シートの外観品位が安定する。織物A、及び織物Bの繊維種は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなど)、芳香族ポリエステル、ナイロン、芳香族ポリアミド、炭素繊維などの合成繊維が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、難燃性が高いものとしてポリマー主鎖にリン酸エステル成分が共重合されたものが好ましい。PET繊維は、石化資源由来(従来の石油化学品)、バイオマス由来(サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオエタノールをモノマー合成の出発原料とする)、リサイクル由来(回収PETボトル)、解重合由来、の何れであってもよい。解重合由来とは、ポリエステル繊維を解重合して得た再生モノマー(テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチル)の重合による再生ポリエステルから得た再生繊維である。
【0016】
織物A、及び織物Bの、経糸条、及び緯糸条は、マルチフィラメント、短繊維紡績、モノフィラメント、スプリットヤーン、テープヤーンなどのいずれの形状でも使用できるが強度的に最も優れているマルチフィラメント糸条が好ましい。特にシリコン系化合物、パラフィン系化合物、フッ素系化合物などの撥水剤により吸水防止処理された糸条が好ましく、吸水防止処理によって採光防音シート断面から毛管現象による雨水の侵入を防止し、シート内部に黴の発生を予防する。またマルチフィラメント糸条は環状ホスホン酸エステルにより難燃処理されたものが好ましく、採光防音シートの防炎性を向上させ、消防法の防炎規格への適合を容易なものとする。マルチフィラメント糸条は、500(555dtex)~2000(2222dtex)デニール、特に750(834dtex)~1500(1666dtex)デニールの太径が好ましく、経糸及び緯糸の打込み密度(本/inch)はこれらのマルチフィラメント糸条を、経糸・緯糸1inch(2.54cm)当たり5~15本打込んで得られる平織、または摸紗織が好ましい。摸紗織の糸条は(3本)/1本としで交絡製織されるので、見掛け上1本の糸条でも実質3本構成であるが、摸紗織の打込み本数は見掛けのまま3本纏めて1本とカウントする。平織における打込み密度が5本/inchの場合、1500(1665dtex)~2000(2222dtex)デニールの糸条が好ましく、18本/inchの場合、500(555dtex)~1000(1111dtex)デニールの糸条が好ましい。摸紗織における打込み密度が5本/inchの場合、見掛け1本の糸条は、500(555dtex)~1000(1111dtex)デニールの糸条3本により構成されるものが好ましい。500(555dtex)~1000(1111dtex)デニールの糸条3本の糸使いの摸紗織における見掛けの打込み密度の最大は8本/inch程度である。10本/inchを超えると採光性、及び視認性を確保するための空隙率が不十分となることがある。織物A、及び織物Bの空隙率は20~45%であることが採光性、及び視認性の確保のために必要である。空隙率が20%未満だと採光性、及び視認性の確保を困難とする傾向があり、また空隙率が45%を超えると防音性が低下する傾向がある。空隙率(目あき度合)は、織物A、及び織物Bの単位面積中(例えばタテ1inch×ヨコ1inchの正方形)に占める糸条の総和面積を百分率として求め、100から差し引いた値(×100%)として、拡大コピーからの計測、または糸条の太さからの計算で求めることができる。
【0017】
織物Aは、経糸条、または緯糸条がマンセル明度V(JIS Z8721)1,2,3,4の何れかのランク(1に近付く程黒くなる)の糸条を少なくとも含み、色相が、黒、黒灰のもの、さらにマンセル明度Vが1,2,3,4の何れかのランクで、かつマンセル彩度(JIS Z8721)6,7,8の何れかのランク(マンセル彩度が8に近付く程鮮やかな色となる) の糸条で、色相が、黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などのものを用いる。具体的に経糸条(緯糸条)にマンセル明度Vが1(または2,または3,または4)の糸条を用いる場合、この糸条で全ての経糸条を構成してもよく、また経糸条(緯糸条)の一部を構成してもよい。後者の例は、マンセル明度Vが8(または9)との1:1本数の交互配列、2:1本数の規則的交互配列、3:2本数の規則的交互配列、などである。そしてもう一方の方向の糸条のマンセル明度V(同上)が8または9のランク(9に近付く程白くなる)の糸条で、色相が白系(乱反射による白を包含する)のものを用いる。織物Aの場合、経糸条と緯糸条の打込み密度の比率は5:4~4:5であり、この比率内のコントラスト効果により、シートの景観調和性、及びシート向こうの人影などの視認性との兼備を可能とする。織物Bは、経糸条、及び緯糸条に、マンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4の何れかのランク(1に近付く程黒くなる)の糸条で、色相が、黒~ダークグレーのもの、さらにマンセル明度Vが1,2,3,4の何れかのランクで、かつマンセル彩度(JIS Z8721)6,7,8の何れかのランクの糸条で、色相が、黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などのものと、マンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条で、色相が白系(乱反射による白を包含する)のものを混用本数比率1:1~1:2の規則的交互配置して用いる。この比率内のコントラスト効果により、シートの景観調和性、及びシート向こうの視認性との兼備を可能とする。このような効果をもたらす、暗(黒)色系と白系との混用本数比率1:1~1:2の規則的交互配置は、平織、または摸紗織の「1:1」、「2:3」、「1:2」が好ましく、特に摸紗織における「1:2」の場合、1本の糸条を構成する3本の糸の構成を暗(黒)色系1本と白系2本の構成としてもよい。織物A、及び織物Bにおいて白系とは、無着色(半)透明のマルチフィラメントが乱反射で糸条全体が白く見えるものを指す他、白顔料のみによる着色、白顔料に微量の顔料を加えたパステルカラーを意味する。また、色相が、黒、黒灰の糸条、さらに黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などの糸条は、原着糸(着色樹脂から溶融紡糸したもの)、または先染糸(無着色樹脂から溶融紡糸した糸条を染料で染めたもの)、または着色糸(液状の着色樹脂組成物で含浸被覆したコーテッドヤーン)であるが、何れにおいても黒顔料、または黒染料のみによる黒が特に好ましい。
【0018】
原着糸、及び着色糸に用いる黒顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、チタンブラックなどが挙げられるが、特にカーボンブラックが最も好ましい。黒顔料は、原着糸のベースとなる熱可塑性樹脂の質量に対して1~10質量%濃度、好ましくは黒顔料を1~5質量%濃度、または糸条を着色する着色樹脂組成物のベースとなる熱可塑性樹脂の質量に対して1~10質量%濃度、好ましくは黒顔料を1~5質量%濃度で用いる。この時、マンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4のランクの範囲内において、黒顔料以外の顔料を任意に併用して、あるいは、黒以外の顔料の組み合わせで、黒灰、黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などの設計とすることができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどが挙げられる。特に不完全燃焼法で得られるファーネスブッラクが好ましい。ファーネスブッラクは小粒子径ストラクチャーの制御が容易で黒原着糸の製糸性に優れている。ファーネスブラックの製造にはオイルファーネス法により得られるファーネスブラックが好ましい。一方、黒灰、黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などの色相は、公知の有機系顔料、無機系顔料などと、黒顔料との併用によって調色することができる。有機系顔料としては、アゾ系(不溶性モノアゾ、不溶性ジスアゾ、アゾレーキ、縮合アゾ、金属錯塩アゾ)、フタロシアニン系(フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン)、染付けレーキ系(酸性染料レーキ、塩基性染料レーキ)、縮合多環系(アントラキノン系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、イソインドリン系)、その他ニトロソ系、アリザリンレーキ系、アニリン系などが挙げられる。また無機系顔料としては、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、クロム酸金属塩、スピネル型構造酸化物、ルチル型構造酸化物などである。また先染糸には、カラーインデックス・インターナショナル:C.I.アシッドブラック2,7,24,26,31,52,63,112及び118など;C.I.ダイレクトブラック17,19,32,51,71,108,146,154及び168など;C.I.ベーシックブラック2;C.I.フードブラック1及び2;などの黒染料を使用し、無着色樹脂から溶融紡糸した糸を染色する。また、黒染料と任意の染料を併用して、あるいは、黒以外の染料の組み合わせで、黒灰、黒茶色、黒緑色、黒青色、灰紫色、灰紺色、灰緑色、灰橙色などの設計とすることができる。
【0019】
このうち着色糸は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び着色剤(段落〔0018〕)を主体とする被覆層を有する糸条で、被覆層がマルチフィラメント糸のフィラメント間の隙間の全部、または一部に含浸して固着した糸条である。塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、アクリルクラフト塩化ビニル樹脂、ウレタングラフト塩化ビニル樹脂などが例示できるが、乳化重合による重合度1000~2000の塩化ビニル樹脂がペーストゾル組成物用として好ましい。可塑剤としては、アジピン酸ジアルキルエステル系化合物、セバシン酸ジアルキルエステル系化合物、フタル酸(1,2-、または1,3-、または1,4-)ジアルキルエステル系化合物(DHP,DEHP,DINP,DNPなど)、シクロヘキサン(1,2-、または1,3-、または1,4-)ジカルボン酸アルキルエステル化合物、4-シクロヘキセン(1,2-、または1,3-、または1,4-)ジアルキルエステル化合物、トリメリット酸エステル系化合物、リン酸トリエステル系化合物、ポリエステル系化合物、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィン、エポキシ化大豆油などが挙げられ、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して40~100質量部の配合でペーストゾルを調製する。この被覆層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び着色剤を主体とするペーストゾルによる糸条へのコーティング、またはディッピングにより形成され、加熱ゲル化により皮膜化される。この被覆層への追加成分として、安定剤(バリウム、亜鉛などの金属石鹸系、錫メルカプト系など)、難燃剤(臭素系化合物、金属水酸化物、金属酸化物、リン酸化合物など)、紫外線吸収剤(ベンゾデノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物など)、充填剤(硫酸バリウム、三酸化アンチモン)など公知の添加剤を含むことができる。糸条と被覆層の質量比は1:2~1:5、特に高比重の硫酸バリウム(比重4.4)、三酸化アンチモン(比重5.7)、酸化亜鉛(比重5.4)、酸化鉄(比重5.2)、酸化鉛(比重9.35)などを含み、質量比が1:5に近い高比重の被覆層とすることで採光防音シートの音響透過損失を向上させることができる。マルチフィラメント糸条の単位質量(g/m2)を100とした場合の被覆層の質量は、マルチフィラメント糸条の質量に対して200~500%である。このとき被覆層の一部はマルチフィラメント糸条の空隙部に侵入して、その一部、または全部を充填するものである。
【0020】
本発明の採光防音シートに用いる塩素原子含有樹脂被覆層は、塩素原子含有率が56.7~73.1質量%の塩素原子含有樹脂、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィン、及び可塑剤(段落〔0019〕)、を主体として構成されたものである。塩素原子含有率が56.7の塩素原子含有樹脂は、塩化ビニル樹脂(重合度800~1500の懸濁重合):-〔CH2-CHCl〕n-、塩素原子含有率が73.1質量%の塩素原子含有樹脂は、塩素化度100%の塩素化塩化ビニル樹脂:-〔CHCl-CHCl〕n-、または、塩化ビニリデン:-〔CH2-CCl2〕n-であり、塩素原子含有率が68.1~72.2質量%の塩素原子含有樹脂には、塩化ビニル樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂の質量比10:1~1:3の併用も含むものとする。塩素化塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂への塩素の吹込み条件の調整により、塩素化度1~100%(塩素原子含有率が73.1質量%)のコントロールが可能である。特に塩素原子含有樹脂被覆層の比重を大きいものとして、より高い音響透過損失を得るために、塩素化度50%以上の塩素化塩化ビニル樹脂(塩素原子含有率64.9質量%以上)-〔CH2-CHCl〕m-〔CHCl-CHCl〕n-、特に塩素化度70~95%(塩素原子含有率68.2~72.3質量%)の高比重のものを多く用いることが好ましい。ここで上記の全ての化学式において、m、n、は重合度を表す整数である。塩素原子含有樹脂被覆層には、塩素原子含有樹脂と、塩素原子含有率29~49質量%の塩化パラフィンを塩素原子含有樹脂100質量部に対し、1~30質量部、可塑剤(段落〔0019〕)を20~60質量部を必須成分として含み、これに段落〔0019〕に記載の安定剤、紫外線吸収剤などを含有する組成物を含むことができる。塩化パラフィンは防炎可塑剤として作用し、汎用可塑剤よりも比重が高いことで塩素原子含有樹脂被覆層を重くすることでより高い音響透過損失を得る。この組成物をカレンダー圧延、またはTダイス押出で成形して得られる厚さ0.15~0.75mmの全光線透過率(JIS K7105)80%以上の(フィルム)シートを塩素原子含有樹脂被覆層として用いる。この(フィルム)シートを粗目基材(織物A、織物B)の片面以上、好ましくは両面に積層して粗目基材を完全被覆する。粗目基材の単位質量(g/m2)を100とした場合の、塩素原子含有樹脂被覆層の質量は、粗目基材の質量に対して250~500%である。このとき塩素原子含有樹脂被覆層の一部は粗目基材の空隙部に侵入し、その一部、または全部を充填するものである。
【0021】
粗目基材(織物A、織物B)の片面以上、好ましくは両面に、厚さ0.15~0.75mmの全光線透過率(JIS K7105)80%以上の(フィルム)シートを積層することで、粗目基材の個々の貫通孔が(フィルム)シートの一部で充填されてなる1個当たりの面積1.0mm2~10mm2の空隙部を有する採光防音シートが得られる。この空隙部の全光線透過率(JIS K7105)は70~96%で、空隙部の総和占有率は20%(打ち込み密度15本/inch)~45%(打ち込み密度5本/inch)である。採光防音シートの面密度は1.0~2.5kg/m2、全光線透過率(JIS K7105)35~65%であることが好ましい。この採光防音シートにおいて、粗目基材の糸条が占める充実部は、「塩素原子含有樹脂被覆層/粗目基材」、または「塩素原子含有樹脂被覆層/粗目基材/塩素原子含有樹脂被覆層」の構成となり、糸条間に形成される空隙部は、「塩素原子含有樹脂被覆層」、または「塩素原子含有樹脂被覆層/塩素原子含有樹脂被覆層」となる。この充実部の全光線透過率と空隙部の全光線透過率の和が本発明の採光防音シートの全光線透過率となる。シートの全光線透過率(JIS K7105)が35%未満だと、採光性に劣り、またシート向こう側の人影などの視認性にも劣る。同様に防音シートの空隙部の総和占有率が20%未満だと採光性に劣り、またシート向こう側の人影などの視認性にも劣る傾向となる。一方、シートの全光線透過率が65%を超えると防音性に劣り、同様にシートの空隙部の総和占有率が45%を超えると防音性に劣る傾向となる。またシートの面密度が1.0kg/m2未満だと防音性に劣り、一方2.5kg/m2を越えるとシートが過度に重くなり、シート張囲時の運搬や取り扱いに苦労することがある。
【0022】
本発明の採光防音シートは、1ユニットが幅方向1.5~2.4m×長手方向3~6mの長方形が好ましく、特に幅方向1.5~2.1m×長手方向3.4~5.1mの長方形が取り扱い性に優れ好ましい。また本発明の採光防音シートは、必要に応じて従来の防音シート(採光性を有さない)と併用して工事現場を張囲することができ、併用方法はタテ列での交互張囲、ヨコ列での交互張囲、市松模様などが挙げられる。採光防音シート単独による張囲、または従来品との併用による張囲は、ハトメ打ちの穴を、紐、連結クリップ、ポリエチレン製の結束バンド、などの用具で着脱自在に連結し、さらに隣接する防音シート同士の端部を面ファスナーなどで着脱自在に固定して、シート間の隙間を埋めるようにすることが好ましい。また本発明の採光防音シートには、従来の防音シート同様「防音」マークの印刷を施すことができる。従来の防音シートへの文字印刷は遮光性の黒インクによるものであるが、本発明の採光防音シートには光透過性の着色半透明インク、または着色透明インクを用い、採光性を損なわないようにすることが好ましい。「防音」マークの印刷には、印刷表示による騒音発生、及びその現場の告知、一般の建築養生シートとの混同、誤用を避ける目的などがある。
【0023】
本発明の採光防音シートは、特に解体工事現場で舞う煤塵の付着汚れによるイメージダウン、及び採光防音シートの採光性の低下を防止するために、採光防音シートの表面に防汚層を設けることができる。この防汚層はシートの採光性と景観調和性を損なわない範囲であれば、その形成方法及び素材に限定はなく、例えば、アクリル系樹脂、またはフッ素系共重合体樹脂などの樹脂溶液を塗布・乾燥して形成した塗膜、これらにシリカ微粒子、またはコロイダルシリカを含む塗膜、オルガノシリケート及び/又はその縮合体を含むゾルゲル塗膜、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン)を含むゾルゲル塗膜、最外表面がフッ素系樹脂により形成された多層フィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層したものなどから適宜選んで用いることができる。
【0024】
図1~4を例として本発明の採光防音シートを説明する。
図1は、経糸条としてマンセル明度V(JIS Z8721)が1,2,3,4の何れかのランクの糸条(2)と、緯糸条としてマンセル明度V(同上)が8または9のランクの糸条(3)により構成される採光防音シート(1)である。
図2は、経糸条として上記糸条(3)と、緯糸条として上記糸条(2)と、により構成される採光防音シート(1)である。
図3は、採光防音シート(1)が、緯糸条として上記糸条(2)及び(3)を1:1の本数、かつ交互に用い、緯糸条として上記糸条(2)及び(3)を1:1の本数、かつ交互に用いた採光防音シート(1)である。
図4は、緯糸条として上記糸条(2)及び(3)を1:2の本数、かつ「(2)(3)(3)」の繰り返し単位で用い、緯糸条として上記糸条(2)及び(3)を1:2の本数、かつ「(2)(3)(3)」の繰り返し単位で用いた採光防音シート(1)である。ここで上記糸条(2)は、原着糸(2-1)、または先染糸(2-2)、または着色糸(2-3)の何れかである。尚、
図1~4において、塩素原子含有樹脂被覆層(4)の表示は省略している。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施例及び比較例に用いた試験方法は下記の通りである。
(1)面密度(質量)
単位面積(m2)当たりの質量(kg)を測定し、その値を面密度(kg/m2)とした。
(2)全光線透過率
全光線透過率はJIS K7105に従い測定した。
(3)防音性(音響透過損失)
シートの防音性は、JIS A 1416「実験室における音響透過損失測定法」による、 中心周波数1000Hzの音響透過損失により評価し、その効果を従来の防音シートと優劣比較した。従来の防音シート(比較例1:面密度1.32kg/m2)の音響透過損失は、1000Hz 16dBである。
(4)防炎性(JIS A8952)
(5)視認性
試験シートをマンションの2階居住ベランダ(地上3~6m:室内照明OFF)に張囲し、試験シートの表面側が正午の太陽光(埼玉県草加市10月)で正面照射された状態で、ベランダに成人男子1~5人(マンセル明度6、マンセル彩度6のグレー色の作業着着用)がランダムな人数で歩き回り、これを観察者5人が太陽を背に10m離れた位置から目視確認した人数の正確性を評価した。
1:5人全員が、正しい人数を視認した
2:1人が誤った視認をした
3:2人以上が誤った視認をした
【0026】
[実施例1]
粗目基材(1)
経糸条(見掛け7本/inch)、及び緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物で、経糸条の各々が黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)で構成され、緯糸条の各々が無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)で構成された粗目基材(1)を用いた。
採光防音シート(1)
下記〔配合1〕の塩素原子含有樹脂組成物を180℃で混練し、カレンダー圧延成型により厚さ0.35mm、質量588g/m2、全光線透過率(JIS K7105)88%の透明シートを製造し、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率56.7%)として粗目基材(1)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1381g/m2、全光線透過率(JIS K7105)44%の採光防音シート(1)を得た。
〔配合1〕〈塩素原子含有樹脂組成物〉
塩化ビニル樹脂(重合度1300:塩素原子含有率56.7%) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(可塑剤) 40質量部
塩素化パラフィン(塩素原子含有率41.2質量%:比重1.16) 20質量部
バリウム-亜鉛系複合PVC安定剤 4質量部
トリアジン系紫外線吸収剤 0.3質量部
【0027】
[実施例2]
粗目基材(2)
経糸条(見掛け7本/inch)、及び緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物で、経糸条の各々が無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)で構成され、緯糸条の各々が黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)で構成された粗目基材(2)を用いた。
採光防音シート(2)
下記〔配合2〕の塩素原子含有樹脂組成物を180℃で混練し、カレンダー圧延成型により厚さ0.35mm、質量640g/m2、全光線透過率(JIS K7105)83%の透明シートを製造し、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率64.1%)として粗目基材(2)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1484g/m2、全光線透過率(JIS K7105)41%の採光防音シート(2)を得た。
〔配合2〕〈塩素原子含有樹脂組成物〉
塩化ビニル樹脂(重合度1300:塩素原子含有率56.7%) 50質量部
塩素化塩化ビニル樹脂(塩素化度90%:塩素原子含有率71.5%) 50質量部
フタル酸ジイソノニル(可塑剤) 40質量部
塩素化パラフィン(塩素原子含有率41.2質量%:比重1.16) 20質量部
バリウム-亜鉛系複合PVC安定剤 4質量部
トリアジン系紫外線吸収剤 0.3質量部
【0028】
[実施例3]
粗目基材(3)
経糸条(見掛け7本/inch)、及び緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物で、経糸条、及び緯糸条が、黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)の糸条群、及び無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)の糸条群の混用からなり、前者の黒色糸条と後者の白色糸条との本数比率が1:1、かつ交互配置で構成された粗目基材(3)を用いた。
採光防音シート(3)
実施例1の〔配合1〕による厚さ0.35mm、質量588g/m2、全光線透過率(JIS K7105)88%の透明シートを用い、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率56.7%)として粗目基材(3)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1381g/m2、全光線透過率(JIS K7105)44%の採光防音シート(3)を得た。
【0029】
[実施例4]
粗目基材(4)
経糸条(見掛け7本/inch)、及び緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物で、経糸条、及び緯糸条が、黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)の糸条群、及び無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)の糸条群の混用からなり、前者の黒色糸条と後者の白色糸条との本数比率が1:2、かつ「黒色糸条/白色糸条/白色糸条」の繰り返し配置で構成された粗目基材(4)を用いた。
採光防音シート(4)
実施例2の〔配合2〕による厚さ0.35mm、質量640g/m2、全光線透過率(JIS K7105)83%の透明シートを用い、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率64.1%)として粗目基材(4)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1484g/m2、全光線透過率(JIS K7105)50%の採光防音シート(4)を得た。
【0030】
[実施例5]
粗目基材(5)
実施例1の粗目基材(1)の黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け1本(マンセル明度:1)の黒色糸条を、黒(ファーネスブラック)着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け1本(マンセル明度:1)の黒色糸条に置き換えた粗目基材(5)を用いた。粗目基材(5)は、黒色の経糸条(見掛け7本/inch)、及び無着色、無樹脂加工による(乱反射)白色の緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率21%、質量325g/m2の摸紗織物である。
黒着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条
無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)に、下記〔配合3〕の黒色ペースト塩化ビニル樹脂ゾルを被覆するコーティングを行い、これを180℃×1分加熱し、ペーストゾルをゲル化させて黒(ファーネスブラック)着色被覆層を有するポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)を得た。無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条と黒着色被覆層の質量比は1:2.8である。
〔配合3〕〈黒色ペースト塩化ビニル樹脂ゾル〉
塩化ビニル樹脂(重合度1700:乳化重合) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(可塑剤:DINP) 45質量部
塩素化パラフィン(塩素原子含有率41.2質量%:比重1.16) 20質量部
バリウム-亜鉛系複合安定剤 4質量部
三酸化アンチモン(難燃剤:比重5.7) 5質量部
硫酸バリウム(比重4.4) 10質量部
ファーネスブラック(カーボンブラック黒顔料) 5質量部
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 0.2質量部
採光防音シート(5)
実施例1の〔配合1〕による厚さ0.35mm、質量588g/m2、全光線透過率(JIS K7105)88%の透明シートを用い、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率56.7%)として粗目基材(5)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1501g/m2、全光線透過率(JIS K7105)42%の採光防音シート(5)を得た。
【0031】
[実施例6]
粗目基材(6)
実施例3の粗目基材(3)の黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け1本(マンセル明度:1)の黒色糸条を、黒(ファーネスブラック)着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け1本(マンセル明度:1)の黒色糸条(実施例5)に置き換えた粗目基材(6)を用いた。粗目基材(6)は、経糸条(見掛け7本/inch)、及び緯糸条(見掛け7本/inch)との交絡による空隙率23%、質量325g/m2の摸紗織物で、経糸条、及び緯糸条が、黒着色糸条群、及び無着色、無樹脂加工による(乱反射)白糸条群の混用からなり、黒色糸条と白色糸条との本数比率が1:1、かつ交互配置で構成されたものである。
採光防音シート(6)
実施例2の〔配合2〕による厚さ0.35mm、質量640g/m2、全光線透過率(JIS K7105)83%の透明シートを用い、これを塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率64.1%)として粗目基材(6)の両面に熱圧ラミネートして、厚さ1.0mm、面密度1605g/m2、全光線透過率(JIS K7105)40%の採光防音シート(6)を得た。
【0032】
【0033】
[比較例1]
粗目基材(7)
実施例1の粗目基材(1)の経糸条の黒原着(ファーネスブラック)ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)全部を、無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色1本(マンセル明度:9)に置き換えた空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物を用いた。この粗目基材(7)を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ1.0mm、面密度1381g/m2、全光線透過率(JIS K7105)58%の採光防音シート(7)を得た。この採光防音シート(7)は採光性、景観調和性に優れていたが、視認性に劣るものであった。
【0034】
[比較例2]
粗目基材(8)
実施例1の粗目基材(1)の緯糸条の無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)の全部を、黒原着(ファーネスブラック)ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)に置き換えた空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物を用いた。この粗目基材(8)を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ1.0mm、面密度1381g/m2、全光線透過率(JIS K7105)37%の採光防音シート(8)を得た。この採光防音シート(8)は視認性に優れていたが、景観調和性に劣るものであった。
【0035】
[比較例3]
粗目基材(9)
実施例5の粗目基材(5)の黒(ファーネスブラック)着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け1本(マンセル明度:1)の黒色糸条の全部を、灰色(ファーネスブラック/酸化チタン)着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:6)からなる見掛け1本(マンセル明度:6)の灰色糸条に置き換えた空隙率21%、質量325g/m2の摸紗織物を用いた以外は実施例5と同様として、厚さ1.0mm、面密度1501g/m2、全光線透過率(JIS K7105)43%の採光防音シート(9)を得た。この採光防音シート(9)は景観調和性に優れていたが、視認性に劣るものであった。
【0036】
[比較例4]
粗目基材(10)
実施例4の粗目基材(4)の黒(ファーネスブラック)原着ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:1)からなる見掛け黒色1本(マンセル明度:1)の糸条群、及び無着色ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸条(750デニール:833dtex)3本(マンセル明度:9)からなる見掛け白色(乱反射)1本(マンセル明度:9)の糸条群の本数比率を1:2から1:4に変更し、かつ「黒色糸条/白色糸条/白色糸条/白色糸条/白色糸条」の繰り返し配置で構成した空隙率25%、質量205g/m2の摸紗織物を用いた以外は実施例4と同様として、厚さ1.0mm、面密度1484g/m2、全光線透過率(JIS K7105)50%の採光防音シート(10)を得た。この採光防音シート(10)は採光性、景観調和性に優れていたが、視認性に劣るものであった。
【0037】
[比較例5]
基材(11)
実施例1の粗目基材(1)の経糸条(見掛け7本/inch)を、見掛け9本/inchの打ち込み密度に変更し、また緯糸条(見掛け7本/inch)を、見掛け9本/inchの打ち込み密度に変更してなる、空隙率4%、質量266g/m2の摸紗織物を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ1.0mm、面密度1442g/m2、全光線透過率(JIS K7105)1.5%の防音シート(11)を得た。この防音シート(11)は景観調和性に優れていたが、採光性と視認性に劣るものであった。
【0038】
[比較例6]
実施例1における、厚さ0.35mm、質量588g/m2、全光線透過率(JIS K7105)88%の塩素原子含有樹脂被覆層(塩素原子含有率56.7%)を、厚さ0.35mm、質量358g/m2、全光線透過率(JIS K7105)72%のポリエチレン樹脂被覆層(塩素原子含有率0%)に置き換えた以外は実施例1と同様として、厚さ1.0mm、面密度921g/m2、全光線透過率(JIS K7105)36%の採光シート(12)を得た。この採光シート(12)は視認性、及び景観調和性に優れていたが、防音性と防炎性に劣るものであった。
【0039】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、人影などの視認性、採光性及び景観調和性のバランスが取れ、防音性にも優れるシートを得ることができるので、本発明の採光防音シートを、ビル、マンション、家屋などの建造物の建設や解体の工事現場全域に張囲する安全シート、工場内外の騒音設備の周囲に張囲する目隠しシート、工場の出入り口のシートシャッター、工場内間仕切りシートなどに用いることができるようになる。
【符号の説明】
【0041】
1:採光防音シート
2:マンセル明度Vが、1,2,3,4の何れかのランクの糸条
3:マンセル明度Vが、8,9の何れかのランクの糸条
4:粗目基材
5:塩素原子含有樹脂被覆層(
図1~4の正面図では5の表示を省略)