(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】環状イオン貯蔵セルを備えたイオントラップ及び質量分析計
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20250403BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20250403BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20250403BHJP
【FI】
H01J49/42 550
H01J49/42 400
H01J49/42 950
H01J49/14 700
G01N27/62 E
(21)【出願番号】P 2022520043
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2020077433
(87)【国際公開番号】W WO2021064060
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】102019215148.5
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507102296
【氏名又は名称】ライボルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leybold GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Str. 498, D-50968 Koeln, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】アリマン ミヒェル
(72)【発明者】
【氏名】ブラヒトホイザー イェシカ
(72)【発明者】
【氏名】ラウエ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】チュン アンソニー ヒン イウ
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101369510(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107591309(CN,A)
【文献】特表2013-517595(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104900474(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0214152(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計であって、
イオントラップ(2)であって、第1の環状エンドキャップ電極(4a)及び第2の環状エンドキャップ電極(4b)を備え、前記第1の環状エンドキャップ電極(4a)及び
前記第2の環状エンドキャップ電極(4b)の間に環状イオン貯蔵セル(5)が形成され
たイオントラップ(2)を備え、
前記イオントラップは、前記環状イオン貯蔵セル(5)を区切る複数(N個)の半径方向内側ディスク状リング電極(E
1,i)及び複数(N個)の半径方向外側ディスク状リング電極(E
2,i)を
有し、
さらに、前記環状イオン貯蔵セル(5)におけるイオン(6)の貯蔵、選択、励起及び/又は検出のためにディスク状リング電極(E
1,i
、E
2,i
)及びエンドキャップ電極(4a、4b)を作動させるように設計された制御装置(3)を備え、
前記制御装置(3)は、前記エンドキャップ電極(4a、4b)の異なる周方向に分割されたセグメント(Q1、Q2、Q3、Q4)において記録されたイオン信号(S1、S2)に基づいて、前記イオン貯蔵セル(5)にパルス状に注入される前記イオン(6)の時間に関連した分散を決定するように設計されている、質量分析計。
【請求項2】
前記内側リング電極(E
1,i)及び前記外側リング電極(E
2,i)は、互いに一定の半径方向距離(2r
0)に配置される、
請求項1に記載の
質量分析計。
【請求項3】
前記内側リング電極(E
1,i)と前記外側リング電極(E
2,i)との間の半径方向の距離(2r
0)は、前記環状エンドキャップ電極(4a、4b)の半径(R)よりも小さい、
請求項1又は2に記載の
質量分析計。
【請求項4】
いずれの場合にも、内側リング電極(E
1,i)及び外側リング電極(E
2,i)が、軸方向(Z)に垂直な共通平面(X、Y)上に配置される、
請求項1から3の
何れか1項に記載の
質量分析計。
【請求項5】
いずれの場合にも、内側リング電極(E
1,i)及び外側リング電極(E
2,i)が互いに導電的に接続される、
請求項1から4の
何れか1項に記載の
質量分析計。
【請求項6】
それぞれのディスク状の
内側又は外側リング電極(E
1,i、E
2,i)の幅b、及び隣接する2つの
内側又は外側のリング電極(E
1,i、E
1,i+1;E
2,i、E
2,i+1)間のそれぞれの前記軸方向(Z)における距離dについて、d/b<1/4が当てはまる、
請求項
4に記載の
質量分析計。
【請求項7】
N個の半径方向内側リング電極(E
1,i)と、N個の半径方向外側のリング電極(E
2,i)とを有し、Nについて10<N<200が当てはまる、
請求項1から6の
何れか1項に記載の
質量分析計。
【請求項8】
前記第1のエンドキャップ電極(4a)及び/又は前記第2のエンドキャップ電極(4b)は、周方向において少なくとも2つの環状セグメン
トに分割される、
請求項1から7の
何れか1項に記載の
質量分析計。
【請求項9】
前記環状イオン貯蔵セル(5)にイオン(6)及び/又は電子ビーム(10)
を注入するための少なくとも1つの注入装置(9)をさらに備える、
請求項1から8の
何れか1項に記載の
質量分析計。
【請求項10】
前記制御装置(3)は、前記環状イオン貯蔵セル(5)によって取り囲まれた体積エリア(7)内に少なくとも部分的に配置される、
請求項
1~9の何れか1項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記制御装置(3)は、前記ディスク状リング電極(E
1,i、E
2,i)を作動させてそれぞれのHF蓄積電圧(V
RF、i)を生成し、前記イオン貯蔵セル(5)内にイオン(6)を貯蔵するように設計される、
請求項
1~10の何れか1項に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記制御装置(3)は、前記環状イオン貯蔵セル(5)に接線方向に入射した電子ビーム(10)を円軌道(11)に沿って向けるように設計される、
請求項
1~11の何れか1項に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の環状エンドキャップ電極と、第2の環状エンドキャップ電極とを備え、これらの間に環状のイオン貯蔵セルが形成された(フーリエ変換)イオントラップに関する。従って、このイオントラップは、円形又はトロイダルイオントラップである。本発明は、このようなイオントラップを備えた質量分析計にも関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9,035,245B2号には、電気式FTイオントラップを備えた質量分析計が記載されている。このFTイオントラップは、リング電極と、それぞれが双曲線形状を有する2つのエンドキャップ電極とを有し、これらの間に双曲線電極によって区切られた非環状イオン貯蔵セルが形成されている。一般に、2つのエンドキャップ電極は仮想接地ポテンシャルに接続され、リング電極には高周波交流電流の形態のHF蓄電信号(HF storage signal)が付与される。このHF蓄電信号を通じてイオントラップ内に電場(四重極場)が形成され、これによってイオントラップ内にイオン又は荷電粒子を安定して貯蔵することができる。
【0003】
双曲四重極又はポールトラップの形状を有するイオントラップの代案として、M.Aliman及びA.Glasmachersによる「フーリエ変換質量分析計のための高信号対雑音比及び低歪みを有する新規電気イオン共鳴セル設計(A novel electric ion resonance cell design with high signal-to-noise ratio and low distortion for Fourier transform mass spectrometry)」、Journal of the American Society for Mass Spectrometry、第10巻、第10号、1999年10月には、リング電極を第1のエンドキャップ電極から第2のエンドキャップ電極に軸方向に延びるディスク状リング電極のシリンダーに置き換えた異なる形状が提案されている。リング電極は、軸方向において等距離に配置される。結果として得られるイオン貯蔵セルは、双曲型ベース及び双曲型キャップを有するシリンダーを形成する。このイオントラップでは、従来のポールトラップの場合にエンドキャップ電極とリング電極との間に発生するクロストーク電流を低減することができる。
【0004】
3次元FTイオントラップでは、例えばイオン選択又はイオンフィルタリング、イオン貯蔵、イオン励起及びイオン検出などの多くの機能を原位置で実行することができる。米国特許第10,141,174B2号からは、このようなFTイオントラップにおいて、イオンの生成及び貯蔵時、及び/又はイオン検出前のイオン励起時に、イオンの質量対電荷比に依存する少なくとも1回の選択的IFT(「逆フーリエ変換」)励起、具体的にはSWIFT(「蓄積波形逆フーリエ変換」)励起を実行する慣行が知られている。選択的SWIFT励起は、特にイオンの選択又はイオンフィルタリングに使用することができる。FTイオントラップ内に貯蔵されたイオン集団の分離には、ウェーブレット法及び/又はFFT法を使用することができる。イオンの検出では、ノイズ検出法を使用することができる。
【0005】
イオンの検出には、鏡像電荷(mirror charges)によってエンドキャップ電極に発生する測定信号を使用することができる。質量分析計では、高速フーリエ変換(FFT)を用いて、或いは高調波反転(harmonic inversion)などの方法を用いて測定信号から質量スペクトルを迅速に計算することができ、例えば、F.Grossmann他、「半古典的短時間信号の高調波反転(Harmonic inversion of semiclassical short time signals)」、Chem.Phys.279(1997)355-360を参照されたい。イオントラップ質量分析計の感度も高い。これらの性能特徴は、例えば半導体プロセスのガス組成から終点を素早く正確に検出する(いわゆる終点検出用途)ために、多くの用途で必要である。
【0006】
しかしながら、FTイオントラップにおいても、測定手順中に克服すべきいくつかの課題がある。これらは、例えばイオントラップの最大イオン電荷及び/又は貯蔵可能な多数電荷キャリアと少数電荷キャリアとの比率、イオン濾過又はイオン生成中の選択性、イオントラップ自体のフィルタ特性、並びに関心イオン種の分離及び検出に関する。
【0007】
このような小型の質量分析計又はこのようなイオントラップの特性は、過度に大きなイオン電荷によって大幅に損なわれて制限されることがある。例えば、100ppbなどの低イオン濃度は、窒素などの背景ガスのイオン濾過が行われない限り実証することができない。このイオントラップにおける測定障害は、(電気)FTイオントラップにおけるイオンの検出において高周波交番場(high-frequency alternating field)Eが単独でイオンに作用することが前提とされる、いわゆる空間電荷問題を原因として発生することがある。実際のところ、FTイオントラップ内に同符号の電荷キャリアが限られた数しか存在しない限りこの原因が当てはまる。
【0008】
電荷キャリアの総数は、「空間電荷」又は「イオンクラウド」と呼ばれる。ラプラス方程式を介して表すことができる、高周波交番場Eから導出されるポテンシャルφ(E=-grad(φ))は、この空間電荷の影響を受ける。FTイオントラップ内の所与の体積における空間電荷による蓄積ポテンシャルφの影響は、この体積での(As/m3単位の)空間電荷密度ρが高いほど、及び高周波交番場に由来する対応する部分体積での平均復元力が弱いほど大きくなる。この影響は、高周波交番場のラプラス方程式から以下のようになり、
div(grad(φ))=Δφ=-ρ/εo≠0 (1)
ここで、εoは真空中の誘電率を表し、φは交番場Eに属する高周波交番ポテンシャル(high-frequency alternating potential)(上記参照)を表す。大きな空間電荷は、イオンの大量損失、及び/又は小イオン集団の測定信号の抑制を招く恐れがある。空間電荷の問題を解決するために、独国特許出願公開第102015208188A1号では、好適なSWIFT励起を用いてイオンパケットを空間的に引き離すことが提案されている。
【0009】
空間電荷の問題を解決する別の可能性は、イオンを貯蔵するために利用できるイオン貯蔵セルを拡大することにある。この目的のために、いわゆるトロイダルイオントラップが使用され、例えばS.A.Lammert他による論文「トロイダルrfイオントラップ質量分析計の設計、最適化及び初期性能(Design, optimization and initial performance of a toroidal rf ion trap mass spectrometer)」、International Journal of Mass Spectroscopy、212(2002)25-40を参照されたい。しかしながら、このようなイオントラップでは、質量分析の実行において非線形場部分が質量分解能又は感度を妨げるという問題がある。引用する論文では、質量分解能を高めるためにトロイダルイオントラップの非対称設計を使用することが提案されており、Lammert他によるポスター「円形イオントラップの設計のためのトロイダル多重極展開(Toroidal Multipole Expansion for the Design of Circular Ion Traps)」、第62回ASMS会議、メリーランド州ボルチモア、15-19、2014年6月も参照されたい。
【0010】
Appala Naidu Kotana他による論文「任意のトロイダルイオントラップ質量分析計のためのMathieuの安定性プロットの計算(Computation of Mathieu stability plot for an arbitrary toroidal ion trap mass spectrometer)」、International Journal of Mass Spectrometry 414、(2017)、13-22では、トロイダルイオントラップにおけるイオン軌道の安定性が考察されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第9,035,245号明細書
【文献】米国特許第10,141,174号明細書
【文献】独国特許出願公開第102015208188号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】M.Aliman及びA.Glasmachers、「フーリエ変換質量分析計のための高信号対雑音比及び低歪みを有する新規電気イオン共鳴セル設計(A novel electric ion resonance cell design with high signal-to-noise ratio and low distortion for Fourier transform mass spectrometry)」、Journal of the American Society for Mass Spectrometry、第10巻、第10号、1999年10月
【文献】S.A.Lammert他、「トロイダルrfイオントラップ質量分析計の設計、最適化及び初期性能(Design, optimization and initial performance of a toroidal rf ion trap mass spectrometer)」、International Journal of Mass Spectroscopy、212(2002)25-40
【文献】Lammert他、「円形イオントラップの設計のためのトロイダル多重極展開(Toroidal Multipole Expansion for the Design of Circular Ion Traps)」、第62回ASMS会議、メリーランド州ボルチモア、15-19、2014年6月
【文献】Appala Naidu Kotana他、「任意のトロイダルイオントラップ質量分析計のためのMathieuの安定性プロットの計算(Computation of Mathieu stability plot for an arbitrary toroidal ion trap mass spectrometer)」、International Journal of Mass Spectrometry 414、(2017)、13-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、高イオン電荷及びイオン検出における高感度を可能にするイオントラップ、及びこのようなイオントラップを備えた質量分析計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、環状イオン貯蔵セルを区切る複数の半径方向内側ディスク状リング電極及び複数の半径方向外側ディスク状リング電極を有する、冒頭に述べたタイプのイオントラップによって達成される。環状イオン貯蔵セルは、半径方向内側を内側ディスク状リング電極及び円形リング電極によって境界され、半径方向外側を外側ディスク状リング電極及び円形リング電極によって境界される。一般に、内側リング電極の数は外側リング電極の数に対応する。イオントラップ、正確に言えば2つのエンドキャップ電極及びリング電極は、基本的にイオントラップの中心に配置された対称軸に対して回転対称に広がる。2つのエンドキャップ電極は、(円形の)環状イオン貯蔵セルを軸方向に区切る。この点、ディスク状とは実質的に平らな形状を意味し、すなわち内側ディスク状電極及び同様の外側ディスク状リング電極は、半径方向の伸長が軸方向の伸長を2倍超、好ましくは5倍超、より好ましくは10倍超上回る。
【0015】
とりわけ、内側リング電極の各々及び外側リング電極の各々は、各リング電極に異なるポテンシャルを付与できるように互いに分離する。
【0016】
イオントラップの円形形状を通じて、従来のポールトラップ形態の3Dイオントラップに比べてイオン貯蔵セルを大幅に拡大することができる。
【0017】
このようにして、従来のポールトラップに比べてイオントラップの最大イオン電荷を5倍超又は10倍超だけ高めることができる。さらに、ディスク状リング電極を含むイオントラップは単純な方法で製造することができる。環状イオン貯蔵セル内に空間的に円形にイオンを貯蔵することで、イオン貯蔵セルの好適な円形拡大によって空間電荷問題を解決し、従って空間電荷密度ρを効率的に大幅に低減することもできる。上述したように設計されたイオントラップを適切に駆動させれば、同時にイオン貯蔵セル内の非線形場を抑制することができ、従ってイオントラップの高質量分解能又は高感度を達成することができる。
【0018】
1つの実施形態では、内側リング電極及び外側リング電極が互いに一定の半径方向距離に配置される。従って、イオン貯蔵セルは、内側リング電極の半径方向外側端面によって決定される最小半径と外側リング電極の半径方向内側端面によって決定される最大半径との間で半径方向に広がる。このようにして、イオンは、イオン貯蔵セルの最大半径と最小半径との中間に半径を有するイオントラップ内の軌道上を「低温冷却(cold,cooled)」状態で循環する。この点、内側リング電極及び外側リング電極は、イオン貯蔵セルによって分離される。
【0019】
さらなる実施形態では、内側リング電極と外側リング電極との間の半径方向距離が、環状エンドキャップ電極の半径よりも小さい。通常、環状エンドキャップ電極は双曲線形状を有する。エンドキャップ電極の半径は、エンドキャップ電極の半径方向における最大伸長と最小伸長との間の平均値であると理解される。
【0020】
この半径は、少なくとも内側リング電極と外側リング電極との間の概ね一定の半径方向距離に対応すべきである。
【0021】
さらなる実施形態では、いずれの場合にも、内側リング電極及び外側リング電極が軸方向に対して垂直な共通平面上に配置される。それぞれのリング電極の対が配置される平面は平行に整列し、互いに軸方向に間隔を空けて互いに重なり合って配置される。
【0022】
一実施形態では、いずれの場合にも、内側リング電極及び外側リング電極、すなわち一対のリング電極が互いに導電的に接続される。互いに導電的に接続されたリング電極は同じ電位を有する。それぞれのリング電極の対は、上述した共通平面内に配置されることが好ましい。
【0023】
さらなる実施形態では、それぞれの第1又は第2のリング電極の半径方向の幅b、及びそれぞれ隣接する2つの第1又は第2のリング電極間の軸方向距離dについて、d/b<1/4が当てはまる。隣接するリング電極間の距離dは、例えば約100μm~約1mmとすることができる。半径方向における幅bは、約400μm~4mmである。互いに距離を置いた(「離散的な」)ディスク状リング電極に起因するイオントラップの(可能な限り「密閉」空間が存在しない)開放された機械的構造を通じてイオンのためのポテンシャル井戸を生成するために、固体リング電極を含む従来のイオントラップに比べて高いイオントラップの真空伝導率を確実にすることができる。
【0024】
さらなる実施形態では、イオントラップが、N個の半径方向内側リング電極及びN個の半径方向外側リング電極を有し、Nについて10<N<200が当てはまる。イオンがイオン貯蔵セル内の安定した軌道上を「低温冷却」状態で循環するには、比較的少ないN個のリング電極でも十分であることが示された。
【0025】
さらなる実施形態では、第1のエンドキャップ電極及び/又は第2のエンドキャップ電極が、周方向において少なくとも2つの環状セグメントに分割される。典型的には、2又は3以上のセグメントが同じ角度間隔にわたって周方向に延び、それぞれのエンドキャップ電極が周方向において2つのセグメントに分割されている場合、両セグメントは約180°の角度にわたって周方向に延び、ギャップによって互いに電気的に絶縁される。従って、3つのセグメントはいずれの場合にも約120°にわたって延び、4つのセグメントはいずれの場合にも約90°にわたって周方向に延び、以下同様である。両エンドキャップ電極がセグメント化されている場合、通常、これらのセグメントは同じ角度範囲にわたって周方向に延びる。のセグメント化に起因して、時分割多重化動作では、エンドキャップ電極を任意に励起電極、検出電極又は測定電極として使用することができる。このように、従来のFTイオントラップで使用されるようなイオントラップの事例(例えば、イオン化又は貯蔵中のイオン濾過、イオンの分離、非破壊検出)では、全ての慣用的なフーリエ変換測定ツールを使用することができる。
【0026】
さらなる実施形態では、イオントラップが、環状イオン貯蔵セルに好ましくは接線的に、とりわけパルス状にイオン及び/又は電子ビームを注入するための注入装置をさらに含む。イオンは、(外部)イオンソースにおいて生成し、注入装置を介して環状イオン貯蔵セルに導入することができる。一般に、イオンの注入はパルス状に、すなわち制御可能バルブなどを有することができるパルス供給装置(pulsed supply)を介して行われる。
【0027】
注入装置は、イオンを環状イオン貯蔵セル内に直線軌道で注入又は発射するためにイオンレンズなどを有することができ、このレンズは、環状イオン貯蔵セルの平均半径に対して接線方向に向けられることが好ましい。イオンは、環状イオン貯蔵セルの軸方向に離間した2つの外側リング電極間の空間に注入されることが好ましい。注入は、軸方向に対して垂直な、すなわちリング電極に平行な平面内で行われることが好ましい。
【0028】
注入装置は、衝突イオン化を通じてイオントラップ内で直接イオンを生成するために環状イオン貯蔵セルに電子ビームを注入するのに役立つこともできる。この場合、電子ビームを用いてイオンが生成される前に、注入装置を使用して分析すべきガスをイオン貯蔵セル内に導くことができる。
【0029】
本発明の別の態様は、上述したように設計されたイオントラップと、環状イオン貯蔵セルにおけるイオンの貯蔵、選択、励起及び/又は検出のためにイオントラップのディスク状リング電極及びエンドキャップ電極を作動させるように設計された(電子)制御装置とを含む質量分析計に関する。HF蓄積場(下記参照)、並びにイオンの励起、選択/分離及び検出に必要な信号の生成は、電子制御装置を用いて実現される。この目的のために、制御装置は、電子回路などの好適なハードウェア、及び/又はソフトウェアを含むことができる。一般に、励起、選択及び検出のための信号はエンドキャップ電極に付与され、又はエンドキャップ電極においてタップ(tapped)される。しかしながら、イオン励起のために制御装置がリング電極において励起信号を供給することもできる。
【0030】
上述したように、励起では、イオンの質量対電荷比に応じた少なくとも1回の選択的SWIFT(「蓄積波形逆フーリエ変換」)励起、又は場合によっては広帯域励起を実行することができる。
【0031】
一実施形態では、制御装置が、環状イオン貯蔵セルによって取り囲まれた体積エリア内に少なくとも部分的に配置される。制御装置は、イオントラップ又は環状イオン貯蔵セルの中心に配置されることが好ましい。制御装置は、例えばシール、差動ポンプ又はハウジングによって環状イオン貯蔵セルから分離された別の真空エリア内に配置することができる。しかしながら、制御装置は、必ずしもイオントラップの中心に配置する必要はなく、むしろ制御装置、又はイオントラップを作動させるために必要なイオントラップの構成要素は、イオントラップの近傍の他の場所に配置することもできる。
【0032】
さらなる実施形態では、制御装置が、それぞれのHF蓄積電圧を生成するようにディスク状リング電極を作動させてイオン貯蔵セル内にイオンを貯蔵するように設計される。この目的のために、HF発生器によって生成されたHFポテンシャルを個々のリング電極にわたって適切に分割することができる。内側リング電極の各々は、それぞれ異なるポテンシャルであることが好ましい。同様に、外側リング電極の各々も異なるポテンシャルである。好ましくは、それぞれの内側及び外側リング電極は同じ電位であり、例えば二次的にiに及ぶ電位VRF,i(t)をi番目のリング電極に付与することができ、HFポテンシャルVRF(t)から開始して、例えば調和ポテンシャルVRF(t)=Vmaxsin(ωt)であり、例えばこれは以下のように定義され、
VRF,i(t)=VRF(t)(1-i2/N2) (2)
ここでは、iについて-N≦i≦Nが当てはまり、すなわち軸方向(Z方向)において互いに等距離に配置された2N+1個の内側リング電極及び2N+1個の外側リング電極の総数が利用可能であり、冒頭に例示したM.Aliman及びA.Glasmachersによる論文も参照されたい。
【0033】
リング電極は必ずしも等距離に配置する必要はなく、それぞれの内側及び外側リング電極の対に加わるHF電圧VRF,i(t)は、必ずしも方程式(2)に従って分割する必要はないと理解される。M.Aliman及びA.Glasmachersによる論文に記載されるように、それぞれのリング電極への電圧の印加は、例えば並列スイッチ型抵抗器及びコンデンサを有するマッチングネットワーク及び分圧器ネットワークを使用して行うことができ、この論文は全体が引用により本出願の内容に組み入れられる。リング電極のHF蓄積場を用いて、イオンが円軌道に沿って「低温冷却」状態で移動する空間的に円形のイオン貯蔵を実現することができる。このようなHF蓄積場は、比較的小さな非線形場部分しか有しておらず、従って高質量分解能でのイオン検出を可能にする。
【0034】
一実施形態では、制御装置が、エンドキャップ電極の異なるセグメントに記録されたイオン信号に基づいて、イオン貯蔵セルにパルス状に注入されたイオンの時間に関連した分散を決定するように設計される。環状イオン貯蔵セルにイオンがパルス状に、すなわちイオンパケットの形態で注入され、従って最初に励起されると、記録されたイオン信号に基づいて、貯蔵時間が増すと共にイオン分散がどのように進行するか(移動性の高いイオンの方が速く進む)を決定することができる。ここでは、(単複の)エンドキャップ電極の各セグメントに別のイオン信号を記録できることが有利であると分かる。
【0035】
このようにして、例えばイオン集団の空間分布及びイオントラップ内の圧力依存プロセスに関する結論を引き出すことができる。イオン移動度に関する結論を得るために、好適な制動ガス(例えば、ヘリウム)による時限冷却(time-limited cooling)を導入することができる。
【0036】
一実施形態では、制御装置が、環状イオン貯蔵セルに接線方向に入射した電子ビームを円軌道に沿って偏向させるように設計される。さらに上述したように、柔軟なイオン生成及びイオン貯蔵のために、イオン貯蔵セルに少なくとも1つの(パルス)電子ビームを入射させることができる。さらに、(素電荷e、速度veを有する)電子は、検出すべきイオンよりも少なくとも3~4桁軽いので、十分に小さな時限誘導(time-limited induction)Bの生成を通じて電子ビームが円軌道上を移動し、その際に以下の式に従って電子ビームにローレンツ力Fが作用した時に環状イオン貯蔵セルの全てのセグメントを通過するように、電子ビームを実質的に単独で偏向させることができる。
(3)
【0037】
電子ビームを円軌道上に強制することにより、特に効果的な電子イオン化を達成し、イオンの生成、貯蔵及び注入の柔軟性を高めることができる。
【0038】
本発明に不可欠な詳細を示す図面の図に基づく以下の本発明の実施形態例についての説明及び特許請求の範囲からは、本発明のさらなる特徴及び利点が得られる。本発明の変形例におけるいずれかの所望の組み合わせでは、いずれの場合にも個々の特徴を個別に又は複数として実現することができる。
【0039】
概略的な図面に実施形態例を示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】環状イオン貯蔵セルを含むイオントラップを備えた質量分析計の断面の概略的表現を示す図である。
【
図2】セグメント化されたエンドキャップ電極を含む
図1の環状イオン貯蔵セル上の上面図である。
【
図3】貯蔵セルを放射状に区切る複数の外側及び内側ディスク状リング電極の詳細な表現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の図面の説明では、同一の構成要素又は同じ機能を有する構成要素に同一の参照番号を使用する。
【0042】
図1は、イオントラップ2及び電子制御装置3を有する質量分析計1の概略的断面図である。イオントラップ2は、XYZ座標系の軸方向Zの上部における第1の環状エンドキャップ電極4aと、軸方向Zの下部における第2の環状エンドキャップ電極4bとを含み、これらの間に環状イオン貯蔵セル5が形成される。2つのエンドキャップ電極4a、4bは、ポールトラップ形態のイオントラップの場合の通例として、それぞれイオン貯蔵セル5に面する双曲線状に湾曲した表面を有する。
【0043】
環状イオン貯蔵セル5は、XYZ座標系の軸方向Zに対して放射対称的に広がる。
図1の断面図では、半径方向はXYZ座標系のX方向に相当する。半径方向Xでは、イオン貯蔵セル5が、複数の又はN個の半径方向内側ディスク状リング電極E
1,i(i=1,...,N)によって内側を境界され、複数の又はN個の半径方向外側ディスク状リング電極E
2,i(i=1,...,N)によって外側を境界される。複数のN個の半径方向内側リング電極E
1,iは、互いに軸方向Zに重なり合って配置される。従って、複数のN個の半径方向外側リング電極E
2,iも、互いに軸方向Zに重なり合って配置される。
【0044】
環状イオン貯蔵セル5は、半径方向Xに、内側リング電極E1,iと外側リング電極E2,iとの間の距離2r0に相当する一定の伸長を有する。ここでの内側及び外側リング電極E1,i、E2,i間の半径方向距離2r0は、2つのエンドキャップ電極4a、4bの半径Rよりも小さい。イオン貯蔵セル5の平均半径Rに相当するエンドキャップ電極4a、4bの半径Rは、2つのエンドキャップ電極4a、4bの中心を通って半径方向Xに広がる。
【0045】
イオン貯蔵セル5は、内側リング電極E1,iの半径方向外側端面によって決定される最小半径R-r0と、外側リング電極E2,iの半径方向内側端面によって決定される最大半径R+r0との間で半径方向Xに広がる。リング電極E1,i、E2,i間の一定の距離2r0を通じて、「低温冷却」状態のイオン6が環状イオン貯蔵セル5の平均半径Rに対応する軌道でイオントラップ2内を循環することが可能になる。
【0046】
図示の例では、内側リング電極E1,iの数Nが外側リング電極E2,iの数Nに対応する。
【0047】
図示の例では、この量Nについて10<N<200が当てはまる。「低温冷却」状態のイオン6が環状イオン貯蔵セル5内を安定した軌道で循環することを可能にするには、比較的少ないN個のリング電極E1,i、E2,iでも十分であることが示された。
【0048】
図1及び
図3から分かるように、リング電極E
1,i、E
2,iは、軸方向Zに垂直な共通平面X,Y内に二つ一組で配置される。いずれの場合にも、共通平面X、Y内に配置された2つのリング電極E
1,i、E
2,iは、図面に示していない電気リード又は電気接点を介して互いに接続され、すなわちこれらは同じ電位である。電気接点は、制御装置3を介してもたらすこともできる。それぞれのディスク状の第1のリング電極E
1,iの半径方向Xにおける幅b、及びそれぞれ隣接する2つの第1のリング電極E
1,i、E
1,i+1間の軸方向Zにおける距離dについては、d/b<1/4が当てはまる。従って、第2のリング電極E
2,iの(同一の)幅b、及びそれぞれ隣接する2つの第2のリング電極E
2,i、E
2,i+1間の軸方向Zにおける距離dについても、同様にd/b<1/4が当てはまる。
【0049】
隣接するリング電極E1,i、E1,i+1又はE2,i、E2,i+1間の距離dは、例えば約100μm~約1mmとすることができる。従って、半径方向Xにおける幅bは、約400μm~4mmである。互いに距離を置いた(「離散的な」)ディスク状リング電極E1,i、E2,iに起因するイオントラップ2の開放された機械的構造を通じてイオン6のためのポテンシャル井戸を生成するために、固体リング電極を使用して、従来のイオントラップに比べて高いイオントラップ2の真空伝導率を確実にする。
【0050】
図2で分かるように、第1のエンドキャップ電極4aは、周方向において、それぞれが90°の角度にわたって周方向に延びる4つの環状セグメントQ1、Q2、Q3、Q4に分割される。従って、第2のエンドキャップ電極4bも4つの環状セグメントQ1、Q2、Q3、Q4に分割される(図面には示していない)。このセグメント化に起因して、制御装置3の時分割多重化動作では、エンドキャップ電極4a、4bを任意に励起電極、濾過電極又は測定電極として使用することができる。
【0051】
制御装置3は、励起信号を送信してイオン信号又は測定信号を受信するために、第1のエンドキャップ電極4aの4つのセグメントQ1、Q2、Q3、Q4の各々、及び第2のエンドキャップ電極4bの4つのセグメントQ1、Q2、Q3、Q4の各々と信号接続する。一例として、
図1に、イオン貯蔵セル5に貯蔵された励起イオン6のミラー電荷(mirror charges)によって生成されて、第1又は第2のエンドキャップ電極4a、4bのそれぞれの第1のセグメントQ1から発信される、このような2つの測定信号S1、S2を示す。通常は個別に評価されるこれらのイオン信号S1、S2と、第2~第4のセグメントQ2、Q3、Q4において記録されるさらなるイオン信号とに基づいて、環状イオン貯蔵セル5にパルス状に注入されたイオン6の(移動性の高いイオンの方が速く進む)時間に関連した分散を確立することできる。
【0052】
このように、ただし非セグメント化エンドキャップ電極4a、4bが使用される場合もあるが、イオントラップ2では、例えばイオン化中又は貯蔵中のイオン濾過、イオンの分離及び非破壊検出などの従来のFTイオントラップで使用されるような全ての慣用的なフーリエ変換測定ツールを適用することができる。特に、イオントラップ2では、例えば米国特許第10,141,174B4号に記載されている方法でSWIFT励起を実行することもでき、この文献は全体が引用により本出願の内容に組み入れられる。
【0053】
さらに上述したように、通常、制御装置3は、エンドキャップ電極4a、4b、又はエンドキャップ電極4a、4bのそれぞれのセグメントQ1、Q2、Q3、Q4を、イオン貯蔵セル5内のイオン6の選択、励起及び検出のために作動させる。
【0054】
また、制御装置3は、イオン6をイオン貯蔵セル5内に貯蔵するようにも設計される。この目的のために、制御装置3は、それぞれのHF蓄積電圧VRF,iを生成するようにディスク状リング電極E1,i、E2,iを作動させるために、或いはこれらに対応するHF蓄積電圧VRF,iを付与するために、HF生成器8及び抵抗ネットワークを有する。個々のリング電極E1,i、E2,iにわたる、又はそれぞれの電極対にわたる所与の高調波HF蓄積電圧VRF(t)=Vmaxsin(ωt)などの分割は、例えばAliman及びA.Glasmachersによる論文に記載されている形で行うことができる(この場合、又は方程式(2)を使用する場合には、iについて-N/2<i<N/2が当てはまる)。なお、個々のリング電極E1,i、E2,iのそれぞれのHF蓄積電圧VRF、iにわたるHF蓄積電圧VRF(t)の分割は、ここで説明した以外の方法で行うこともできると理解される。
【0055】
図1及び
図2に示す例では、制御装置3が、環状イオン貯蔵セル5によって取り囲まれた体積エリア7内に全体的に配置される。制御装置3は、イオントラップ2又は環状イオン貯蔵セル5の中心に配置され、環状イオン貯蔵セル5を越えて軸方向Zに突出しない。制御装置3は、例えばシール、差動排気又はハウジングによって環状イオン貯蔵セル5から分離された別の真空エリア内に配置することができる。このような制御装置3の配置を通じて、とりわけコンパクトな質量分析計1を達成することができる。
【0056】
制御装置3は、図示の例ではイオン6を環状イオン貯蔵セル5に接線方向に、典型的にはパルス状に注入するのに役立つ
図2に示す注入装置9を作動させるようにも設計される。注入装置9は、図面には示していない(外部の)イオン源によって生成された分析すべきガスのイオン6を質量分析計1又は環状のイオン貯蔵セル5に注入するために、例えば制御可能バルブなどの制御可能な、とりわけパルス状の入口又は入口システムを有することができる。この目的のために、注入装置9は、
図2で分かるように環状イオン貯蔵セル5の平均半径Rに対して接線方向に整列した直線軌道上でイオン6を環状イオン貯蔵セル5に注入する、特に図面には示していないイオンレンズを有することができる。
【0057】
図示の例では、イオン6が、軸方向Zに垂直な平面X、Y内でエンドキャップ電極4a、4b間の中心で軸方向Zに注入され、従ってイオン6は、イオン貯蔵セル5の中央において非励起状態で円軌道11上を移動する。
【0058】
ここに示す例では、隣接する外側リング電極E2,i、E2,i+1間の距離dが、2つの隣接するリング電極E2,i、E2,i+1間のイオン6を環状イオン貯蔵セル5に注入するのに十分な大きさであるように選択されており、すなわち環状イオン貯蔵セル5に6を注入するためのさらなる入口を設ける必要はない。
【0059】
質量分析計1、とりわけ環状イオン貯蔵セル5は、質量分析計1をその周囲の、例えば分析すべきガスを含むプロセスチャンバなどから分離する、図面には示していないハウジング内に配置される。
【0060】
イオントラップ2、とりわけイオン貯蔵セル5内では、図面には示していない真空ポンプを用いて真空が生成される。従って、イオン貯蔵セル5内には、分析すべきガスのイオン6は別にして、典型的には非常に低い圧力を有する背景ガスのみが存在する。
【0061】
ここに示す例では、注入装置9が、イオン6の注入に加えて、電子ビーム10を生成して環状イオン貯蔵セル5に注入するように設計されている。
図2で分かるように、この電子ビーム10もイオン貯蔵セル5に対して接線方向に供給される。制御装置3は、上記方程式(3)に従って電子ビーム10にローレンツ力を発生させ、これをイオン貯蔵セル5内の円軌道11上に偏向させるためにエンドキャップ電極4a、4bを作動させる。電子ビーム10は、イオン貯蔵セル5内で衝突イオン化を通じて直接イオン6を生成するのに役立つ。イオン貯蔵セル5内のイオン6の生成は、分析すべきガスのイオン6が電子ビーム10を用いてイオン貯蔵セル5内の原位置で生成される前に注入装置9を介して又は場合によっては別の入口を介してイオン貯蔵セル5に供給される分析すべき中性ガス上で行うことができる。
【0062】
要約すると、上述した環状又は円形イオントラップ2を用いて、イオントラップ2の構造的空間を大幅に拡大することなく、利用可能なイオン貯蔵セル5を大幅に拡大することができる。電子制御装置3を通じて、イオン6が円軌道で絵を描くように移動する空間的な円形イオン貯蔵を強制することもできる。このようにしてイオン貯蔵セル5の円形拡大が達成され、空間電荷の問題が最小化され、従って従来のFTイオントラップに比べて測定分解能が向上する。
【符号の説明】
【0063】
1 質量分析計
2 イオントラップ
3 電子制御装置
4a 第1の環状エンドキャップ電極
4b 第2の環状エンドキャップ電極
5 環状イオン貯蔵セル
6 イオン
7 体積エリア
8 HF生成器
E1,1~E1,N 半径方向内側ディスク状リング電極
E2,1~E2,N 半径方向外側ディスク状リング電極
R エンドキャップ電極の半径
S1 測定信号
S2 測定信号
VRF,i HF蓄積電圧