(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】木質耐震壁構造、木質耐震壁ユニット、及び、木質耐震壁ユニットの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20250408BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
E04B2/56 605A
E04B2/56 601A
E04H9/02 321B
(21)【出願番号】P 2021006225
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】貞弘 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】杉野 文哉
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-248615(JP,A)
【文献】特開昭59-010645(JP,A)
【文献】特開2008-280747(JP,A)
【文献】登録実用新案第3218990(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56
E04H 9/02
E04B 1/26
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質耐震壁を構成する木質壁部材と、
前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、
を有し、
前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、
前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの
長さ以上であり、
前記木質ラーメン部材は、木質柱であり、
前記木質柱に支持されて、前記木質壁部材と交差する方向に配置される梁を有し、
前記木質壁部材は、前記梁が配置される壁部材欠き込み部を有しており、
前記木質ラーメン部材構成材は、
前記木質壁部材の前記壁部材欠き込み部に前記梁が配置されて前記木質壁部材が当接された状態で、前記梁に対して前記木質壁部材とは反対側に配置されて、前記梁及び前記木質壁部材の端面に接合されている前記木質ラーメン部材構成材と、
前記梁が配置される構成材欠き込み部を有し、前記木質壁部材の前記端部の両面に各々接合される前記木質ラーメン部材構成材と、であることを特徴とする木質耐震壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木質耐震壁構造であって、
前記木質ラーメン部材は、
前記木質壁部材の前記端部と、
前記木質壁部材の前記端部に当該木質壁部材の面外方向における両側から各々接合されている一対の前記木質ラーメン部材構成材により形成されていることを特徴とする木質耐震壁構造。
【請求項3】
木質耐震壁を構成する木質壁部材と、
前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、
を有し、
前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、
前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、
前記木質壁部材は、
同一平面を形成すべく水平方向に並べて立設される2枚の並設木質壁部材と、
前記2枚の前記並設木質壁部材と交差する方向に配置されて立設する交差木質壁部材と、であり、
前記2枚の前記並設木質壁部材は、当該前記並設木質壁部材の端部同士が接合され、
前記交差木質壁部材の端部は、前記並設木質壁部材が接合されている当該並設木質壁部材の前記端部と共に接合されており、
前記木質ラーメン部材構成材は、
前記並設木質壁部材の、前記交差木質壁部材が配置されている側とは反対側の面に接合される平面木質ラーメン部材構成材と、
前記並設木質壁部材及び前記交差木質壁部材により形成される入隅部の各々に接合される入隅木質ラーメン部材構成材であることを特徴とする木質耐震壁構造。
【請求項4】
木質耐震壁を構成する木質壁部材と、
前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、
を有し、
前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、
前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、
互いに交差する方向に配置されて立設し角部を形成する2枚の前記木質壁部材を有し、
前記木質ラーメン部材構成材は、前記角部の内側と外側とに配置されて前記木質壁部材の前記端部と接合されていることを特徴とする木質耐震壁構造。
【請求項5】
木質耐震壁を構成する木質壁部材と、
前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、
を有し、
前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、
前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、
4枚の前記木質壁部材と、
4つの前記木質ラーメン部材構成材と、
を有し、
前記4枚の前記木質壁部材は、各々の前記木質壁部材の前記端部同士が一つに接合されて各々の前記木質壁部材が四方に向かって延びるように配置されており、
4つの前記木質ラーメン部材構成材は、互いに隣り合う2枚の前記木質壁部材により各々形成される4つの入隅部に一つずつ設けられ、当該入隅部を形成する2枚の前記木質壁部材に各々接合されていることを特徴とする木質耐震壁構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の木質耐震壁構造をなす木質耐震壁ユニットであって、
複数の階にわたる前記木質壁部材と、
前記複数の階の境界部に設けられる木質梁を構成する前記木質ラーメン部材構成材と、を備えており、
前記木質壁部材の面内方向に複数並べた状態で、互いに隣接する当該木質耐震壁ユニットの端部同士を接合可能であることを特徴とする木質耐震壁ユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の木質耐震壁ユニットであって、
前記木質壁部材における一方の端部に、木質柱を構成する前記木質ラーメン部材構成材が接合されていることを特徴とする木質耐震壁ユニット。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の木質耐震壁ユニットを工場で製造する工場製造ステップと、
複数の前記木質耐震壁ユニットを施工現場に搬入し、前記面内方向に複数並べて、互いに隣り合う前記木質耐震壁ユニットの前記端部同士を接合する接合ステップと、
を有することを特徴とする耐震壁ユニットの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質耐震壁構造、木質耐震壁ユニット、及び、木質耐震壁ユニットの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上下に配置された一対の梁と、梁が架設される一対の柱と、梁と柱とで構成された架構の構面内に設けられた1枚の木質壁と、を有する耐震壁構造は知られている(例えば、特許文献1参照)。この耐震壁構造の木質壁は、複数のラミナ材を繊維方向が直交するように積層接着した直交集成板(CLT、Cross Laminated Timber)で構成され、一対の梁との間に隙間を空けて配置されており、幅方向の略中央部に設けられたせん断力伝達部材のみによって一対の梁にそれぞれ接合されている。
【0003】
せん断力伝達部材は、梁に取り付けられた鋼材でなるブラケットとドリフトピンで構成されており、ブラケットから木質壁側へ延出された接合プレート部が、木質壁の上端面及び下端面に形成されたスリットに挿入されている。木質壁は、木質壁及び接合プレート部を厚さ方向に貫通する複数のドリフトピンによって接合プレート部に固定されている。また、木造構造物の下部梁と上部梁と左右の柱の間に、木製の壁面材を設けた耐震壁も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2020-101052号公報
【文献】特開平2013-147829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の耐震壁構造のように、梁と木質壁とを鋼材のブラケットとドリフトピンにより接合する場合には、ブラケットに予め設けておく、ドリフトピンが貫通する孔の直径が、ドリフトピンの直径よりも大きいので、孔とドリフトピンとの隙間により初期剛性が低いという課題がある。また、木質壁へのせん断力の伝達をドリフトピンに頼っているので、ドリフトピンが木質壁にめり込むことで剛性が低下するため木質壁の保有性能を十分に活用することができないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、木造の架構に木質壁部材を用いて、より高い剛性及び耐力を備えた木質耐震壁構造、木質耐震壁ユニット、及び木質耐震壁ユニットの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の木質耐震壁構造は、木質耐震壁を構成する木質壁部材と、前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、を有し、前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、前記木質ラーメン部材は、木質柱であり、前記木質柱に支持されて、前記木質壁部材と交差する方向に配置される梁を有し、 前記木質壁部材は、前記梁が配置される壁部材欠き込み部を有しており、前記木質ラーメン部材構成材は、前記木質壁部材の前記壁部材欠き込み部に前記梁が配置されて前記木質壁部材が当接された状態で、前記梁に対して前記木質壁部材とは反対側に配置されて、前記梁及び前記木質壁部材の端面に接合されている前記木質ラーメン部材構成材と、前記梁が配置される構成材欠き込み部を有し、前記木質壁部材の前記端部の両面に各々接合される前記木質ラーメン部材構成材と、であることを特徴とする。
【0008】
耐震壁には、上階の壁や床から梁を介して伝達されるせん断力と、耐震壁がせん断力を負担することにより生じる付加軸力とがあり、これらのせん断力及び付加軸力を下階により効率よく伝達することが望ましい。従来の耐震壁のように、柱梁と、木質壁とを、ガセットプレートとドリフトピンで接合する、或いは、両者にコッターを設け、互いのコッターを噛み合わせて接合する場合であっても、柱梁と、木質壁とは分離しているので、木質壁の許容せん断力及びその時の付加軸力を全伝達することは難しい。
【0009】
上記木質耐震壁構造によれば、木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて木質ラーメン部材構成材と接合されて、木質ラーメン部材構成材とともに木質ラーメン部材を構成している。このため、木質壁部材と木質ラーメン部材構成材とが一体となって木質ラーメン部材をなしているので、せん断力及び付加軸力は、木質壁部材および木質ラーメン部材の全体に作用して下階に伝達される。このため、木造の架構に木質壁部材を用いて、より高い剛性及び耐力を備えた木質耐震壁構造を提供することが可能である。
【0010】
また、木質壁部材の端部が木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、木質ラーメン部材において端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上なので、せん断力及び付加軸力を木質ラーメン部材の重心まで直接伝達することが可能である。
また、木質壁部材と交差する方向に配置される梁及び木質柱と一体となった木質耐震壁を容易に形成することが可能である。このため、より高い剛性及び耐力を備えた柱梁架構を容易に構築することが可能である。
【0011】
かかる木質耐震壁構造であって、前記木質ラーメン部材は、前記木質壁部材の前記端部と、前記木質壁部材の前記端部に当該木質壁部材の面外方向における両側から各々接合されている一対の前記木質ラーメン部材構成材により形成されていることを特徴とする。
【0012】
このような木質耐震壁構造によれば、木質壁部材の端部に当該木質壁部材の面外方向における両側からそれぞれ木質ラーメン部材構成材を接合するだけで容易に木質ラーメン部材を形成することが可能である。また、木質壁部材の端部が木質ラーメン部材内に入り込んだ状態をより容易形成することが可能であり、木質壁部材の端部が入り込んでいる長さを、確実に木質ラーメン部材において端部が入り込んでいる外周面から木質ラーメン部材の重心までの長さ以上とすることが可能である。
【0015】
また、木質耐震壁を構成する木質壁部材と、前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、を有し、前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、前記木質壁部材は、同一平面を形成すべく水平方向に並べて立設される2枚の並設木質壁部材と、前記2枚の前記並設木質壁部材と交差する方向に配置されて立設する交差木質壁部材と、であり、前記2枚の前記並設木質壁部材は、当該前記並設木質壁部材の端部同士が接合され、前記交差木質壁部材の端部は、前記並設木質壁部材が接合されている当該並設木質壁部材の前記端部と共に接合されており、前記木質ラーメン部材構成材は、前記並設木質壁部材の、前記交差木質壁部材が配置されている側とは反対側の面に接合される平面木質ラーメン部材構成材と、前記並設木質壁部材及び前記交差木質壁部材により形成される入隅部の各々に接合される入隅木質ラーメン部材構成材であることを特徴とする。
【0016】
このような木質耐震壁構造によれば、同一平面を形成すべく水平方向に並び立設される2枚の木質壁部材により構成される木質耐震壁と、この木質耐震壁と交差する方向に配置されて立設した状態で接合された木質耐震壁とが、木質ラーメン部材構成材とともに接合されて一体となり、接合部が木質ラーメン部材をなしているので、より高い剛性及び耐力を備え3枚の木質壁部材をT字状に接合することが可能である。
【0017】
また、木質耐震壁を構成する木質壁部材と、前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、を有し、前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、互いに交差する方向に配置されて立設し角部を形成する2枚の前記木質壁部材を有し、前記木質ラーメン部材構成材は、前記角部の内側と外側とに配置されて前記木質壁部材の前記端部と接合されていることを特徴とする。
【0018】
このような木質耐震壁構造によれば、互いに交差する方向に配置された2枚の木質壁部材により形成される角部の内側と外側とから各々木質ラーメン部材構成材が接合されて一体となり、角部が木質ラーメン部材をなしているので、より高い剛性及び耐力を備え2枚の木質壁部材が角部をなすように接合することが可能である。
【0019】
また、木質耐震壁を構成する木質壁部材と、前記木質壁部材とともに木質ラーメン部材を構成する木質ラーメン部材構成材と、を有し、前記木質壁部材は、当該木質壁部材の端部が当該木質壁部材の面内方向に沿って前記木質ラーメン部材内に入り込む状態に配置されて前記木質ラーメン部材構成材と接合されており、前記木質壁部材の前記端部が前記木質ラーメン部材内に入り込んでいる長さは、前記木質ラーメン部材において前記木質壁部材の前記端部が入り込んでいる外周面から当該木質ラーメン部材の重心までの長さ以上であり、4枚の前記木質壁部材と、4つの前記木質ラーメン部材構成材と、を有し、前記4枚の前記木質壁部材は、各々の前記木質壁部材の前記端部同士が一つに接合されて各々の前記木質壁部材が四方に向かって延びるように配置されており、4つの前記木質ラーメン部材構成材は、互いに隣り合う2枚の前記木質壁部材により各々形成される4つの入隅部に一つずつ設けられ、当該入隅部を形成する2枚の前記木質壁部材に各々接合されていることを特徴とする。
【0020】
このような木質耐震壁構造によれば、4枚の木質壁部材の各々の端部同士が一つに接合されて各々の木質壁部材が四方に向かって延びるように配置されて形成される4つの入隅部に各々設けられた木質ラーメン部材構成材とともに4枚の木質壁部材の端部を接合して一体となり、それらの接合部が木質ラーメン部材をなしているので、より高い剛性及び耐力を備え4枚の木質壁部材を十字状に接合することが可能である。
【0021】
また、本発明の木質耐震壁ユニットは、上記木質耐震壁構造をなす木質耐震壁ユニットであって、複数の階にわたる前記木質壁部材と、前記複数の階の境界部に設けられる木質梁を構成する前記木質ラーメン部材構成材と、を備えており、前記木質壁部材の面内方向に複数並べた状態で、互いに隣接する当該木質耐震壁ユニットの端部同士を接合可能であることを特徴とする。
【0022】
このような木質耐震壁ユニットによれば、複数階にわたる木質壁部材と、階の境界部に設けられる木質梁を有しているので、面内方向に並べ、隣接する端部同士を接合することにより、容易に複数階にわたる木質耐震壁を形成することが可能である。
【0023】
かかる木質耐震壁ユニットであって、前記木質壁部材における一方の端部に、木質柱を構成する前記木質ラーメン部材構成材が接合されていることを特徴とする。
このような木質耐震壁ユニットによれば、木質柱と一体となった木質耐震壁ユニットを形成することが可能である。
【0024】
また、本発明の木質耐震壁ユニットの施工方法は、上記木質耐震壁ユニットを工場で製造する工場製造ステップと、複数の前記木質耐震壁ユニットを施工現場に搬入し、前記面内方向に複数並べて、互いに隣り合う前記木質耐震壁ユニットの前記端部同士を接合する接合ステップと、を有することを特徴とする。
【0025】
このような木質耐震壁ユニットの施工方法によれば、工場にてより精度の高い木質耐震壁ユニットを容易に製造することが可能である。また、工場で製造した木質耐震壁ユニットを施工現場に搬入し、面内方向に並べて接合するだけで、複数階にわたる耐震壁を容易に構築することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、木造の架構に木質壁部材を用いて、より高い剛性及び耐力を備えた木質耐震壁構造、木質耐震壁ユニット、及び木質耐震壁ユニットの施工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第一実施形態に係る木質耐震壁構造を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、第一実施形態に係る木質耐震壁構造の木質柱を示す平面図であり、
図2(b)は、第一実施形態に係る木質耐震壁構造の木質梁を示す側面図である。
【
図3】
図3(a)は、第一実施形態に係る木質耐震壁構造の変形例を示す正面図であり、
図3(b)は、
図3(a)におけるA矢視図であり、
図3(c)は、
図3(a)におけるB矢視図である。
【
図4】第二実施形態に係る木質耐震壁構造を説明する概略斜視図である。
【
図5】第二実施形態に係る木質耐震壁構造の木質柱を示す平面図である。
【
図6】
図6(a)は、直交梁の連結方法を示す斜視図であり、
図6(b)は、直交梁の連結方法を示す平断面図である。
【
図7】
図7(a)は、直交梁の連結方法の他の例を示す分解斜視図であり、
図7(b)は、直交梁の連結方法の他の例を示す斜視図である。
【
図8】第三実施形態に係る木質耐震壁構造を説明する図である。
【
図9】第三実施形態に係る木質耐震壁構造の木質柱を示す平面図である。
【
図10】第四実施形態に係る木質耐震壁構造を説明する図である。
【
図11】第四実施形態に係る木質耐震壁構造の木質柱を示す平面図である。
【
図12】第五実施形態に係る木質耐震壁構造を説明する図である。
【
図13】第五実施形態に係る木質耐震壁構造の木質柱を示す平面図である。
【
図15】木質耐震壁ユニットの木質壁部材同士を連結する方法を説明する斜視図である。
【
図16】木質耐震壁ユニットの木質梁同士を連結する方法を説明する斜視図である。
【
図17】木質耐震壁ユニットを上下に連結する方法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施形態に係る木質耐震壁構造、木質耐震壁ユニット、及び、木質耐震壁ユニットの施工方法について図面を用いて説明する。
【0029】
本実施形態の木質耐震壁構造をなす木質耐震壁1は、例えば、
図1に示すように、水平方向に沿い上下に配置された木質ラーメン部材としての木質梁2と、鉛直方向に沿い木質梁2が架設される木質ラーメン部材としての木質柱3と、端部4aが木質梁2及び木質柱3に入り込んで一体をなし、木質耐震壁を構成する木質壁部材4とを有しており、ラーメン構造をなす建物に設けられる。
【0030】
木質壁部材4としては、例えば、複数のひき板を繊維方向が直交するように積層し接着したCLT材(Cross Laminated Timber)が用いられる。
【0031】
本実施形態の木質耐震壁1は、木質梁2及び木質柱3が、木質壁部材4の端部4aとともに形成されている。まず、木質耐震壁1の基本的な構成となる第一実施形態について説明する。
【0032】
第一実施形態の木質耐震壁1は、木質壁部材4の端部4aとともに木質梁2を構成する木質ラーメン部材構成材としての木質梁構成材5と、木質壁部材4の端部4aとともに木質柱3を構成する木質ラーメン部材構成材としての木質柱構成材6と、木質壁部材4と、を有している。
【0033】
より具体的には、例えば、矩形状をなす木質壁部材4の縦方向に沿う端部4aには、2本の木質柱構成材6が木質壁部材4の面外方向における両面側から各々1本ずつ接着されている。2本の木質柱構成材6は各々、木質壁部材4の上下方向における全長にわたって設けられており、水平方向の幅は同一である。
【0034】
木質壁部材4と2本の木質柱構成材6とは、各々の端面4b、6aが面一となるように揃えて接着されている。2本の木質柱構成材6と木質壁部材4とが接着された部位は、
図2(a)に示すように、平面視が矩形状の木質柱3をなしている。このように、本実施形態の木質壁部材4は、端部4aが木質柱3を貫通するように設けられており、木質壁部材4は、断面が矩形状をなす木質柱3の外周面としての一方の側面3a側から入り込み、木質壁部材4の端面4bは、木質柱3の重心Gを越え、木質柱3の反対側に端面4bが露出している。
【0035】
また、2本の木質梁構成材5は各々、木質壁部材4の水平方向に沿って設けられており、端部が木質柱構成材6に当接している。2本の木質梁構成材5の上下方向の幅は同一である。木質壁部材4と2本の木質梁構成材5とは、各々の上の端面4b、5aが面一となるように揃えて接着されている。木質壁部材4と2本の木質梁構成材5とが接着された部位は、
図2(b)に示すように、木質壁部材4の面外方向に切断した際の縦断面が矩形状の木質梁2をなしている。このように、本実施形態の木質壁部材4は、端部4aが木質梁2を貫通するように設けられており、木質壁部材4は、断面が矩形状をなす木質梁2の外周面としての側面2aから入り込んで、木質壁部材4の端面4bは、木質梁2の重心Gを越え、木質梁2の上側に端面4bが露出している。
【0036】
本実施形態の木質耐震壁1によれば、木質壁部材4の端部4aが当該木質壁部材4の面内方向に沿って木質梁構成材5及び木質柱構成材6に入り込む状態に配置されて、木質梁構成材5及び木質柱構成材6と接着されて、木質梁構成材5及び木質柱構成材6とともに木質梁2及び木質柱3を構成している。このため、木質壁部材4と木質梁構成材5とが一体となって木質梁2をなしているので、木質壁部材4の上階側から下階側へ伝達されるせん断力を、木質梁2及び木質壁部材4の全体で負担し下階に伝達することができる。また、木質壁部材4と木質柱構成材6とが一体となって木質柱3をなしているので、せん断力を負担することにより生じる付加軸力を、木質壁部材4および木質柱3の全体で負担することが可能である。
【0037】
このため、従来の耐震壁ように、柱梁と、木質壁とが、ガセットプレートとドリフトピンで接合されていたり、両者にコッターを設け、互いのコッターを噛み合わせて接合したりする場合のように、柱または梁と、分離している木質壁との部材間において力を伝達する必要がない。このため、より高い剛性及び耐力を備えた木質耐震壁1を提供することが可能である。
【0038】
このとき、
図2(a)、
図2(b)に示すように、木質壁部材4は、断面が矩形状をなす木質梁2及び木質柱3の外周面としての一方の側面2a、3a側から入り込んで、その端面4bは、木質梁2及び木質柱3の反対側に露出している。すなわち、木質壁部材4の端部4aが木質梁2内及び木質柱3内に入り込んでいる長さLは、木質梁2及び木質柱3において端部4aが入り込んでいる外周面としての側面2a、3aから木質梁2及び木質柱3の重心Gまでの長さLg以上なので、せん断力及び付加軸力を木質梁2及び木質柱3の重心Gまで直接伝達することが可能である。
【0039】
また、木質壁部材4の端部4aに当該木質壁部材4の面外方向における両側からそれぞれ木質梁構成材5及び木質柱構成材6を接合するだけで容易に木質梁2及び木質柱3と木質壁部材4とが一体をなす木質耐震壁1を構築することが可能である。
【0040】
上記実施形態においては、木質壁部材4の端部4aに、2本の木質梁構成材5または2本の木質柱構成材6が木質壁部材4の面外方向における両面側から各々1本ずつ接着されている例について説明したが、これに限るものではない。例えば、
図3(a)~
図3(c)に示すように、断面が矩形状をなす木質梁構成材5または木質柱構成材6の一外面に長手方向に沿って、木質壁部材4の厚みより僅かに広い幅のスリット5b、6bを設け、木質壁部材4の端部4aがスリット5b、6bに挿入されてスリット5b、6bの内面と木質壁部材4が接着されていても構わない。この場合には、スリット5b、6bは、スリット5b、6bを備えた木質梁構成材5と木質壁部材4の端部4aとで形成された木質梁2または木質柱構成材6と木質壁部材4の端部4aとで形成された木質柱3の重心Gの位置まで、または、重心Gの位置よりも深い位置まで形成されていることが望ましい。
【0041】
また、上記実施形態においては、木質梁構成材5及びまたは木質柱構成材6と木質壁部材と4を接着した例について説明したが、これに限らず、例えば、ドリフトピンなどの綴り材により接合しても構わない。
【0042】
第二実施形態の木質耐震壁1は、
図4に示すように、木質壁部材4の端部4aと面内方向に沿う木質柱構成材60、61とが接着された木質柱3に、木質壁部材4と交差する方向に沿う梁(以下、直交梁という)7が設けられている。
【0043】
例えば、木質柱3の上端に、木質壁部材4と直交する方向に沿う直交梁7を設ける場合には、木質壁部材4において、木質柱3内に配置される端部の上端に、直交梁7が配置可能な壁部材欠き込み部4cを設けておく。壁部材欠き込み部4cは、木質壁部材4の水平方向の端面4bから直交梁7の厚み分、また、木質壁部材4の上の端面4bから直交梁7の上下方向の幅分が切り欠かれている。このため、木質壁部材4の壁部材欠き込み部4cに直交梁7配置すると、直交梁7の上面7aと木質壁部材4の上の端面4bとがほぼ同一平面をなし、直交梁7の木質壁部材4と対向しない面7bと木質壁部材4の水平方向の端面4bとがほぼ同一平面をなすように配置される。
【0044】
直交梁7を設ける場合には、木質壁部材4の面外方向における両面側から各々1本ずつ接着されている2本の第一木質柱構成材60と、第一木質柱構成材60の外周面としての側面60b、木質壁部材4の水平方向の端面4b及び直交梁7の木質壁部材4と対向しない面7bと接着される第二木質柱構成材61とを有している。
【0045】
第一木質柱構成材60は、木質壁部材4において木質柱3を形成する端部4aと同一の形状をなしている。すなわち、上端部に直交梁7が配置される構造材欠き込み部60aが設けられている。
【0046】
第二木質柱構成材61は、直交梁7の長手方向に沿う幅が、2本の第一木質柱構成材60を木質壁部材4に接着したときの、面外方向の幅と同一の幅を有しており、2本の第一木質柱構成材60及び木質壁部材4の端部4aとともに接着したときに、
図5に示すように、平面視矩形状の木質柱3をなすように配置される。このとき、木質柱3の重心Gは、木質壁部材4の壁部材欠き込み部4cに位置しており、木質壁部材4の左右方向の端面4bは、木質柱3の重心Gよりも奥に位置している。すなわち、木質壁部材4の端部4aが木質柱3内に入り込んでいる長さLは、木質梁2及び木質柱3において端部4aが入り込んでいる側面3aから重心Gまでの長さLgより長くなっている。
【0047】
このように木質耐震壁1に直交梁7を設けることにより、木質壁部材4と交差する方向に配置される直交梁7及び木質柱3と一体となった木質耐震壁1を容易に形成することが可能である。このため、より高い剛性及び耐力を備えた柱梁架構を容易に構築することが可能である。
【0048】
また、木質耐震壁1に備える直交梁7の長さは、例えば、トラック等にて運搬可能な長さとすることが望ましく、直交梁7を長手方向に連ねて連結する場合には、例えば、
図6(a)、
図6(b)に示すように、連結する2本の直交梁7の各々の端面にスリット状の凹部7cを設け、各直交梁7の凹部7cにガセットプレート8を両直交梁7にわたるように配置してドリフトピンPを打ち込んで連結する。または、
図7に示すように、連結する2本の直交梁7の各々の端面に各々窪み7dを設け、この窪み7dと、窪み7dに挿入されるピース部材9によるコッターを設け、更に、直交梁7の上下の面に各々、両直交梁7に繋がるように凹部7eを設け、両直交梁7にわたる補強フランジ10を架け渡して凹部7e内に配置し接着することにより連結してもよい。
【0049】
第三実施形態の木質耐震壁1は、
図8に示すように、2枚の木質壁部材40、41が、互いの端部40a、41a同士が接合されて、平面視L字状をなす角部を形成している。2枚の木質壁部材4が平面視L字状に接合される木質耐震壁1は、2枚の木質壁部材40、41と、L字状に接合された木質壁部材40、41がなす角部の内側と外側とに各々配置される2つの木質柱構成材11、12と、2枚の木質壁部材40、41の上側の端部に面内方向に沿って両面に配置される2つの木質梁構成材5と、を有している。
【0050】
2枚の木質壁部材40、41は、一方の木質壁部材40の端部40aが、面内方向に突出する第一凸部40bと、面内方向に窪む第一凹部40cと、を有し、他方の木質壁部材41の端部41aが、面内方向に突出し第一凹部40cと嵌合する第二凸部41bと、面内方向に窪み第一凸部40bと嵌合する第二凹部41cと、を有している。すなわち、2枚の木質壁部材40、41は、平面視がL字状になるように配置された状態で、一方の木質壁部材40の端部40aに設けられている第一凸部40bが、他方の木質壁部材41の端部41aに設けられている第二凹部41cに嵌合され、他方の木質壁部材41の端部41aに設けられている第二凸部41bが、一方の木質壁部材40の端部40aに設けられている第一凹部40cに嵌合され、所謂蟻組継ぎによる角部をなすように接合されて接着されている。
【0051】
2枚の木質壁部材40、41により形成される角部の内側に配置される木質柱構成材(以下、内側木質柱構成材ともいう)11は、断面が矩形状をなす角柱状をなして、長手方向が上下方向に沿って配置されている。内側木質柱構成材11は、隣り合う2つの側面11aが、角部を形成する2枚の木質壁部材40、41の端部40a、41aの内側に接着されている。
【0052】
2枚の木質壁部材40、41により形成される角部の外側に配置される木質柱構成材(以下、外側木質柱構成材ともいう)12は、断面が平面視においてL字状をなし、直交する角部をなす内側の2つの側面12aが、2枚の木質壁部材40、41の端部40a、41aにより形成される角部の外側に各々接着されている。
【0053】
蟻組継ぎにより接合されて接着された2枚の木質壁部材40、41に内側木質柱構成材11及び外側木質柱構成材12が接着された状態では、
図9に示すように、2枚の木質壁部材40、41の端部40a、41aと内側木質柱構成材11及び外側木質柱構成材12が、平面視が矩形状の木質柱3をなしている。このとき、木質柱3に入り込んでいる2枚の木質壁部材40、41の、木質柱3の側面3aから端までの長さLはいずれも、木質柱3の側面3aから当該木質柱3の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。
【0054】
2つの木質梁構成材5は、2枚の木質壁部材4の上側の端部4aの両面にそれぞれ接着されて一体となり縦断面が矩形状をなす木質梁2をなしている。本実施形態の木質梁2構成は、第一実施形態の木質梁2と同様である。すなわち、
図2(b)に示すように、2枚の木質壁部材4は、木質梁2を上下方向に貫通しているので、木質梁2に入り込んでいる2枚の木質壁部材4の、木質梁2の外周面としての2aから上の端面4bまでの長さLはいずれも、木質梁2の外周面としての2aから当該木質梁2の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。
【0055】
このような2枚の木質壁部材4により角部を形成する木質耐震壁1は、2つの木質柱構成材11、12と2枚の木質壁部材4の上側の端部4aとが接着されて一体をなす木質梁2において、木質梁2に外周面としての2aから入り込んでいる木質壁部材4の長さLは、木質梁2の外周面としての2aから当該木質梁2の重心Gまでの長さLgよりも長いので、せん断力を木質梁2の重心Gまで直接伝達することができる。
【0056】
また、互いに直交する方向に配置された2枚の木質壁部材4により形成される角部の内側と外側とから各々木質柱構成材11、12が接合されて一体となり、角部が木質柱3をなしている。このとき、木質壁部材4の端部4aが木質柱3内に入り込んでいる長さLは、木質柱3の側面3aから重心Gまでの長さLgより長いので、せん断力を負担することにより生じる付加軸力が木質柱3の重心Gまで直接伝達することができる。このため、より高い剛性及び耐力を備え2枚の木質壁部材4が角部をなすように接合することが可能である。
【0057】
第四実施形態の木質耐震壁1は、
図10に示すように、同一平面を形成すべく水平方向に並び立設される2枚の木質壁部材(以下、並設木質壁部材ともいう)42、43と、並設木質壁部材42、43と直交する方向に配置され立設された状態で接合される木質壁部材(以下、交差木質壁部材ともいう)44とが、木質柱構成材13、14とともに接合されて、平面視がT字状をなすように接合され、各木質壁部材42、43、44の上側の端部42a、43a、44aに面内方向に沿って両面にそれぞれ配置される木質梁構成材5を有している。
【0058】
2枚の並設木質壁部材42、43は、互いの端部が突き合わされるように配置され、交差木質壁部材44は、端部44aが2枚の並設木質壁部材42、43の突き合わされている端部42a、43aとともに蟻組継ぎにより接合されるように配置されている。
【0059】
交差木質壁部材44の水平方向の端部44aには、面内方向に突出する第三凸部44bと、面内方向に窪む第三凹部44cと、が設けられ、2枚の並設木質壁部材42、43の水平方向の端部42a、43aには、面内方向に突出し第三凹部44cと嵌合する第四凸部42b、43bと、面内方向に窪み第三凸部44bおよび互いに他の並設木質壁部材42、43の第四凸部42b、43bとが共に嵌合する第四凹部42c、43cと、が設けられている。すなわち、2枚の並設木質壁部材42、43は、互いの端部42a、43a同士が対向し、各々の第四凸部42b、43bが互いに他の第四凹部42c、43cに挿入されている。
【0060】
この状態では、各々の第四凹部42c、43cにおいて、互いに他の並設木質壁部材42、43の第四凸部42b、43bは、第四凹部42c、43cの上下方向における中央に挿入されており、挿入されている第四凸部42b、43bの上下に空隙Sが存在し、2枚の並設木質壁部材42、43が1つの平面を形成している。交差木質壁部材44は、並設木質壁部材42、43の面外方向に沿って配置され、端部44aに設けられている第三凸部44bが、2枚の並設木質壁部材42、43の第四凹部42c、43cに存在する空隙Sに挿入されている。このように第四凹部42c、43cには、第三凸部44bと第四凸部42b、43bとがともに嵌合されて、平面視がT字状をなすように3枚の木質壁部材42、43、44が接合されて接着されている。
【0061】
平面視がT字状をなすように接合された3枚の木質壁部材42、43、44は、並設木質壁部材42、43の、交差木質壁部材44とは反対側に配置される木質柱構成材(以下、平面木質柱構成材ともいう)13と、2枚の並設木質壁部材42、43のいずれか一方と交差木質壁部材44とにより形成される入隅部に各々配置される2つの木質柱構成材(以下、入隅木質柱構成材という)14と、ともに接着されている。平面木質柱構成材13、及び、2つの入隅木質柱構成材14は、いずれも上下方向に沿って3枚の木質壁部材42、43、44の全長にわたって配置されている。
【0062】
並設木質壁部材43は、並設木質壁部材43の面内方向において交差木質壁部材44を中心として左右方向に振り分けて2枚の並設木質壁部材42、43にわたるように配置されて接着されている。入隅木質柱構成材14は、平面視が矩形状の角柱状をなしており、隣り合う2つの側面14aが、入隅部を形成している並設木質壁部材42、43と交差木質壁部材44との各端部42a、43a、44aに接着されている。
【0063】
平面視がT字状をなすように接合された3枚の木質壁部材42、43、44に平面木質柱構成材13及び2つの入隅木質柱構成材14が接着された状態では、3枚の木質壁部材42、43、44の端部42a、43a、44aと平面木質柱構成材13及び2つの入隅木質柱構成材14が、
図11に示すように、平面視が矩形状の木質柱3をなしている。このとき、木質柱3に入り込んでいる3枚の木質壁部材42、43、44の、木質柱3の側面3aからの長さLはいずれも、木質柱3の側面か3aら当該木質柱3の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。
【0064】
木質梁構成材5は、各々の木質壁部材42、43、44の上側の端部42a、43a、44aの両面にそれぞれ接着されて一体となり縦断面が矩形状をなす木質梁2をなしている。本実施形態の木質梁2構成も、第一実施形態の木質梁2と同様である。すなわち、
図2(b)に示すように、2枚の木質壁部材4は、木質梁2を上下方向に貫通しているので、木質梁2に入り込んでいる2枚の木質壁部材4の、木質梁2の外周面としての2aから上の端面4bまでの長さLはいずれも、木質梁2の外周面としての2aから当該木質梁2の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。このため、せん断力が木質梁2の重心Gまで直接伝達される。
【0065】
また、平面視がT字状をなすように配置された3枚の木質壁部材42、43、44の水平方向の各端部42a、43a、44aと、平面木質柱構成材13及び2つの入隅木質柱構成材14とが接着されて一体となり、3枚の木質壁部材42、43、44の接合部が木質柱3をなしている。このとき、各木質壁部材42、43、44の水平方向の端部42a、43a、44aが木質柱3内に入り込んでいる長さLは、木質柱3の側面3aから重心Gまでの長さLgより長いので、せん断力を負担することにより生じる付加軸力が木質柱3の重心Gまで直接伝達される。このため、より高い剛性及び耐力を備え3枚の木質壁部材42、43、44がT字状をなすように接合することが可能である。
【0066】
第五実施形態の木質耐震壁1は、
図12に示すように、4枚の木質壁部材45、46、47、48の各々の端部45a、46a、47a、48a同士が一つに接合されて各木質壁部材45、46、47、48が四方に向かって延びるように配置され、4枚の木質壁部材45、46、47、48のうちの2枚ずつが面内方向に並べられ端部45a、46a、47a、48a同士が突き合わされて形成される2つの方向に沿う壁面が直交して平面視が十字状をなすように4枚の木質壁部材45、46、47、48が接合され、各木質壁部材45、46、47、48の上側の端部45a、46a、47a、48aに面内方向に沿って両面にそれぞれ配置される木質梁構成材5を有している。
【0067】
4枚の木質壁部材45、46、47、48は、一方の壁面を形成する2枚の木質壁部材(以下、第一木質壁部材ともいう)45、46は、互いに突き合わされる端部45a、46aとともに、他方の壁面を形成する2枚の木質壁部材(以下、第二木質壁部材ともいう)47、48の端部47a、48aが蟻組継ぎにより接合されるように配置されている。
【0068】
第一木質壁部材45、46の端部45a、46aには、面内方向に突出する第五凸部45b、46bと、面内方向に窪む第五凹部45c、46cと、が設けられている。第五凸部45b、46bの上下方向の幅と、第五凹部45c、46cの上下方向の幅とは同一形成されており、かつ、第五凸部45b、46bと第五凹部45c、46cとは上下方向において交互に設けられている。第五凸部45b、46bは、第一木質壁部材45、46の厚みの半分の厚みに設けられており、面外方向において、いずれか一方の面側に偏らせて配置されている。また、第五凹部45c、46cは、第一木質壁部材45、46の厚み方向に貫通している。
【0069】
2枚の第一木質壁部材45、46の端部45a、46aに設けられている第五凸部45b、46bの上下方向の位置は一致しており、各々の第一木質壁部材45、46の第五凸部45b、46bは、面外方向において互いに反対の面側に設けられている。このため、2枚の第一木質壁部材45、46の端部45a、46aを突き合わせると、各々の第一木質壁部材45、46の第五凸部45b、46bが面外方向に対向して重なる部位と、2枚の第一木質壁部材45、46の第五凹部45c、46cでなる面外方向に貫通する空隙Sとが上下方向において交互に配置される。
【0070】
第二木質壁部材47、48の端部47a、48aには、面内方向に突出する第六凸部47b、48bと、面内方向に窪む第六凹部47c、48cと、が設けられている。各々の第二木質壁部材47、48に設けられている第六凸部47b、48bはそれぞれ、2枚の第一木質壁部材45,46の第五凹部45c、46cでなる面外方向に貫通する空隙Sに嵌入するように配置されている。例えば、2枚の第二木質壁部材47、48うちの一方、例えば第二木質壁部材47には、上下方向に並んで設けられている第五凹部45c、46cでなる空隙Sの上から奇数番目の空隙Sに嵌入する位置に第六凸部47bが設けられており、2枚の第二木質壁部材うちの他方には、上下方向に並んで設けられている第五凹部45c、46cでなる空隙Sの上から偶数番目の空隙Sに嵌入する位置に第六凸部48bが設けられている。すなわち、2枚の第一木質壁部材45、46の端部45a、46aが突き合わされて形成される空隙Sに、第一木質壁部材45、46の面外方向における両側にそれぞれ配置される第二木質壁部材47、48の第六凸部47b、48bが嵌入されて、平面視が十字状をなすように4枚の木質壁部材45、46、47、48が接合されて接着されている。
【0071】
平面視が十字状をなすように接合された4枚の木質壁部材45、46、47、48は、直交する2つの壁により形成される4箇所の入隅部にそれぞれ配置される4本の木質柱構成材(以下、角形木質柱構成材ともいう)15とともに接着されている。角形木質柱構成材15は、いずれも上下方向に沿って4枚の木質壁部材45、46、47、48の全長にわたって配置されている。角形木質柱構成材15は、平面視が矩形状の角柱状をなしており、隣り合う2つの側面15aが、入隅部を形成している2枚の木質壁部材45、46、47、48の各端部45a、46a、47a、48aに接着されている。
【0072】
平面視が十字状をなすように接合された4枚の木質壁部材45、46、47、48に4つの角形木質柱構成材15が接着された状態では、
図13に示しように、4枚の木質壁部材45、46、47、48の端部45a、46a、47a、48aと4つの角形木質柱構成材15とが、平面視が矩形状の木質柱3をなしている。このとき、木質柱3に入り込んでいる4枚の木質壁部材45、46、47、48は、木質柱3の側面3aから入り込んでいる長さLはいずれも、木質柱3の側面3aから当該木質柱3の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。
【0073】
木質梁構成材5は、各々の木質壁部材45、46、47、48の上側の端部45a、46a、47a、48aの両面にそれぞれ接着されて一体となり縦断面が矩形状をなす木質梁2をなしている。本実施形態の木質梁2構成も、第一実施形態の木質梁2と同様である。すなわち、
図2(b)に示すように、2枚の木質壁部材4は、木質梁2を上下方向に貫通しているので、木質梁2に入り込んでいる2枚の木質壁部材4の、木質梁2の外周面としての2aから上の端面4bまでの長さLはいずれも、木質梁2の外周面としての2aから当該木質梁2の重心Gまでの長さLgよりも長くなっている。このため、せん断力が木質梁2の重心Gまで直接伝達される。
【0074】
また、各木質壁部材45、46、47、48の端部45a、46a、47a、48aが木質柱3内に入り込んでいる長さLは、木質柱3の側面3aから重心Gまでの長さLgより長いので、せん断力を負担することにより生じる付加軸力を木質柱3の重心Gまで直接伝達することができる。このため、より高い剛性及び耐力を備え4枚の木質壁部材45、46、47、48が十字状をなすように接合することが可能である。
【0075】
上記実施形態の木質耐震壁1は、木質壁部材4、40、41、42、43、44、45、46、47、48に木質柱構成材6、11、12、13、14、15と木質梁構成材5とが接着されて1つの階の耐震壁を構成するについて説明したが、
図14に示すように、複数階にわたる耐震壁を構成すべくユニット化されていてもよい。
【0076】
具体的には、木質耐震壁ユニット16、17は、トラック等の運搬車両による運搬が可能なサイズに形成されており、例えば3階分の高さ(約12m)で幅が約2mの木質壁部材49と各階の境界部に設けられ木質梁構成材5とを有している。また、柱と繋がる木質耐震壁ユニット17には、木質壁部材49の左右方向における一方の端部に上下方向に沿って全長にわたる木質柱構成材18が設けられている。
【0077】
木質耐震壁ユニット16、17における木質壁部材49と木質梁構成材5及び木質柱構成材18との接合は、例えば、第一実施形態と同じである。すなわち、木質梁構成材5及び木質柱構成材18は、木質壁部材49の両面に接着されている。木質梁構成材5は、各階に設けられる梁の位置に設けられている。例えば、本木質耐震壁ユニット16、17にて、1階から3階までの耐震壁を構築する場合には、木質壁部材49の上側の端部49aに設けられる木質梁構成材5は、3階に設けられる木質梁2となる。上から2番目に設けられる木質梁構成材5は、3階の床を支持する位置に設けられる木質梁2となり、上から3番目に設けられる木質梁構成材5は、2階の床を支持する位置に設けられる木質梁2となる。
【0078】
このような木質耐震壁ユニット16、17は、例えば工場において、木質壁部材49と木質梁構成材5及び木質柱構成材18とが適宜接着されて製造され(工場製造ステップ)、トラック等の搬送車輌により施工現場に搬入され、施工現場に搬入された木質耐震壁ユニット16、17が左右方向に並べられ、左右に隣り合う木質耐震壁ユニット16、17同士を接合する(接合ステップ)。
【0079】
左右方向に隣り合う木質耐震壁ユニット16、17同士の木質壁部材49の接合は、例えば、
図15(a)に示すように、隣接する2つの木質耐震壁ユニット16、17の木質壁部材49において対向する端部49aに、厚み方向における中央部に互いに対向する側に突出する第七凸部49bを各々設けておく。第七凸部49bを備えた端部同士を突き合わせて2つの木質耐震壁ユニット16、17を並べて配置すると、2つの木質壁部材49に繋がって面外方向に窪む境界凹部49cが、両面に上下方向に沿って形成される。各境界凹部49cに、2つの木質壁部材49に跨がるように板状の連結部材19を配置し、両連結部材19により第七凸部49bを挟持する状態でビス止めすることにより連結する。
【0080】
また、
図15(b)に示すように、隣接する2つの木質耐震壁ユニット16、17の木質壁部材49の突き合わされる端面49dに面内方向に窪むスリット49eを各々形成し、2つの木質耐震壁ユニット16、17の木質壁部材49を突き合わせた状態で、両者のスリット49eにわたるように金属製のプレート20を挿入し、木質壁部材49とプレート20とを面外方向に進入する綴り材を打ち込んで連結してもよい。
【0081】
また、
図15(c)、15(d)に示すように、隣接する2つの木質耐震壁ユニット16、17の木質壁部材49の突き合わされる端部49aに各々、面内方向に突出する壁凸部49fと、面内方向に窪む壁凹部49gとを、壁凸部49fと壁凹部49gとの位置が互いに反対になるように配置して設け、一方の木質壁部材49の壁凸部49fと他方の木質壁部材49の壁凹部49gとを組み合わせて接着することにより連結してもよい。
【0082】
また、隣接する2つの木質耐震壁ユニット16、17の木質梁2同士を接合する場合には、例えば、
図16に示すように、各木質梁2の端部2aに、木質梁2の長手方向に突出する梁凸部2cと、木質梁2の長手方向に窪む梁凹部2dとを、梁凸部2cと梁凹部2dとの位置が互いに反対になるように配置して設け、一方の木質梁2の梁凸部2cと他方の木質梁2の梁凹部2dとを組み合わせて接着することにより連結してもよい。このとき、梁凸部2c及び梁凹部2dの上下の面にそれぞれ、上下方向に窪み面外方向に沿う半円形状の溝2eを設けておく。梁凸部2cの溝2eと、梁凹部2dの溝2eとは、一方の木質梁2の梁凸部2cが他方の木質梁2の梁凹部2dに嵌入したときに、上下に重なって面外方向に沿う貫通孔を形成するように構成し、一方の木質梁2の梁凸部2cを他方の木質梁2の梁凹部2dに嵌入した後に、貫通孔にダボ21を嵌入して連結する。
【0083】
更に、木質耐震壁ユニット16、17を上下方向に連結する場合には、例えば、
図17に示すように、上側に配置する木質耐震壁ユニット17の下側の端部17aと、下側に配置する木質耐震壁ユニット17の上側の端部17aと、にそれぞれ上下方向に沿う孔を、互いに位置を合わせて工場等で形成しておき、現場にて上下の木質耐震壁ユニット17に形成した孔に接着剤を注入するとともに棒状の接合具22を挿入し接着剤の硬化により接合する、所謂GIR(Glued in Rod)接合により連結する。尚、図示していないが、木質耐震壁ユニット16同士を上下方向に連結する場合は、上側に配置する木質耐震壁ユニット16の下側の端部16aと、下側に配置する木質耐震壁ユニット16の上側の端部16aと、にそれぞれ上下方向に沿う孔を、互いに位置を合わせて工場等で形成しておき、現場にて上下の木質耐震壁ユニット16に形成した孔に接着剤を注入するとともに棒状の接合具22を挿入し接着剤の硬化により接合する。
【0084】
本実施形態の木質耐震壁ユニット16、17によれば、複数階にわたる木質壁部材49と、各階の境界部に設けられる木質梁2と、を有している木質耐震壁ユニット16、17を、面内方向に並べ、隣接する端部同士を接合することにより、容易に複数階にわたる耐震壁を備えることが可能である。
【0085】
また、このような木質耐震壁ユニット16、17の施工方法によれば、工場にてより精度の高い木質耐震壁ユニット16、17を容易に製造することが可能であり、施工現場に搬入し、面内方向に並べて接合するだけで、複数階にわたる耐震壁を容易に構築することが可能である。
【0086】
上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
1 木質耐震壁、
2 木質梁(木質ラーメン部材)
2a 木質梁の側面(外周面)
3 木質柱(木質ラーメン部材)
3a 木質梁の側面(外周面)
4 木質壁部材
4a 木質壁部材の端部
4c 壁部材欠き込み部
5 木質梁構成材(木質ラーメン部材構成材)
6 木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
7 直交梁(梁)
11 内側木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
12 外側木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
13 平面木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
14 入隅木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
15 角形木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
16 木質耐震壁ユニット
16a 木質耐震壁ユニットの端部
17 木質耐震壁ユニット
17a 木質耐震壁ユニットの端部
18 木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
40 木質壁部材
40a 木質壁部材の端部
41 木質壁部材
41a 木質壁部材の端部
42 並設木質壁部材(木質壁部材)
42a 並設木質壁部材の端部
43 並設木質壁部材(木質壁部材)
43a 並設木質壁部材の端部
44 交差木質壁部材(木質壁部材)
44a 交差木質壁部材の端部
45 第一木質壁部材(木質壁部材)
45a 第一木質壁部材の端部
46 第一木質壁部材(木質壁部材)
46a 第一木質壁部材の端部
47 第二木質壁部材(木質壁部材)
47a 第二木質壁部材の端部
48 第二木質壁部材(木質壁部材)
48a 第二木質壁部材の端部
49 木質壁部材
49a 木質壁部材の端部
60 第一木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
60a 構成材欠き込み部
61 第二木質柱構成材(木質ラーメン部材構成材)
G 木質ラーメン部材の重心