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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
H01T13/20 E
H01T13/20 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021197812
(22)【出願日】2021-12-06
(65)【公開番号】P2023083861
(43)【公開日】2023-06-16
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100142918
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 貴志
(72)【発明者】
【氏名】高田 健一朗
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔(200)の形成された絶縁碍子(20)と、
前記軸孔の中心軸(CX)に沿った一方側端部となる位置において、前記絶縁碍子に保持された中心電極(30)と、
前記軸孔の中心軸に沿った他方側端部となる位置において、前記絶縁碍子に保持された端子金具(40)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記中心電極と前記端子金具との間となる位置に配置された抵抗体(70)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記抵抗体と前記端子金具との間となる位置に配置された導電性シール層(90)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記抵抗体と前記導電性シール層との間となる位置に配置された中間層(91)と、を備え、
前記中間層の熱膨張係数が、前記抵抗体の熱膨張係数よりも大きく、且つ、前記導電性シール層の熱膨張係数よりも小さく、
前記中間層の熱伝導率が、前記抵抗体の熱伝導率よりも大きく、且つ、前記導電性シール層の熱伝導率よりも小さい、点火プラグ。
【請求項2】
前記中間層は、前記抵抗体の材料と前記導電性シール層の材料とを混合した材料により形成されている、請求項に記載の点火プラグ。
【請求項3】
前記中間層は、組成の異なるガラス層を少なくとも2種類含んでいる、請求項に記載の点火プラグ。
【請求項4】
前記中間層に含まれる前記抵抗体の材料の割合が、30重量%から70重量%までの範囲内である、請求項2又は3に記載の点火プラグ。
【請求項5】
軸孔(200)の形成された絶縁碍子(20)と、
前記軸孔の中心軸(CX)に沿った一方側端部となる位置において、前記絶縁碍子に保持された中心電極(30)と、
前記軸孔の中心軸に沿った他方側端部となる位置において、前記絶縁碍子に保持された端子金具(40)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記中心電極と前記端子金具との間となる位置に配置された抵抗体(70)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記抵抗体と前記端子金具との間となる位置に配置された導電性シール層(90)と、
前記軸孔の中心軸に沿って、前記抵抗体と前記導電性シール層との間となる位置に配置された中間層(91)と、を備え、
前記中間層の熱膨張係数が、前記抵抗体の熱膨張係数よりも大きく、且つ、前記導電性シール層の熱膨張係数よりも小さく、
前記中間層は、前記抵抗体の材料と前記導電性シール層の材料とを混合した材料により形成され、
前記中間層に含まれる前記抵抗体の材料の割合が、30重量%から70重量%までの範囲内である、点火プラグ。
【請求項6】
前記中間層は、組成の異なるガラス層を少なくとも2種類含んでいる、請求項に記載の点火プラグ。
【請求項7】
前記軸孔の中心軸における前記中間層の厚さが0.5mm以上である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両に搭載される内燃機関には、燃料への点火を行うための点火プラグが設けられる。点火プラグは、中心電極と接地電極とを備えており、これらが互いに離間した状態で設けられている。燃料への点火が行われる際には、中心電極と接地電極との間に高電圧が印加され、両電極間において火花放電が生じる。
【0003】
下記特許文献1に記載されているように、点火プラグの内部には、火花放電に伴う電磁ノイズの発生を抑制するための抵抗体が配置されるのが一般的である。このような構成の点火プラグでは、火花放電が繰り返されることに伴って抵抗体の電気抵抗が次第に大きくなり、短期間のうちに十分な着火性能が得られなくなってしまうことがある。
【0004】
そこで、下記特許文献1に記載の点火プラグでは、抵抗体の長さ等を所定範囲に規定することで、抵抗体の劣化を抑制することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-183163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
点火プラグにおいては、端子金具と抵抗体との間を、導電性シール層を介して接続するのが一般的となっている。導電性シール層は、例えば、銅粉末を含むガラスにより形成された電気導電性を有する層である。点火プラグの製造時においては、抵抗体、導電性シール層、端子金具、及び、これらを保持する絶縁碍子の全体を加熱することで、導電性シール層等のガラスを軟化させる。その後、全体を冷却することにより導電性シール層等のガラスを固化させる。これにより、抵抗体と端子金具との間が、導電性シール層を介して電気的に接続された状態となる。
【0007】
上記の加熱時における温度は、内燃機関で点火プラグが使用される際の温度よりも高い。このため、加熱後において導電性シール層等が冷却されると、例えば抵抗体と導電性シール層との境界部近傍には、熱膨張係数の違い等に起因して比較的大きな引っ張り応力が加えられる。当該応力が大きくなり過ぎると、端子金具から中心電極に至るまでの電路の途中において、材料の亀裂が生じてしまう可能性がある。その結果、電流が均一には流れなくなり、局所的な発熱に伴って点火プラグの寿命が短くなってしまう可能性がある。つまり、点火プラグを長期間使用することができなくなってしまう可能性がある。
【0008】
このような問題を解決するための方法としては、点火プラグの製造時において、上記冷却時の降温速度を管理すること等が考えられる。しかしながら、その場合には、冷却に要する時間が長くなってしまい生産効率が低下してしまう。また、降温速度を管理するための設備も必要になる。
【0009】
本開示は、生産効率を低下させることなく、長期間使用することが可能な点火プラグ、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る点火プラグ(10)は、軸孔(200)の形成された絶縁碍子(20)と、軸孔の中心軸(CX)に沿った一方側端部となる位置において、絶縁碍子に保持された中心電極(30)と、軸孔の中心軸に沿った他方側端部となる位置において、絶縁碍子に保持された端子金具(40)と、軸孔の中心軸に沿って、中心電極と端子金具との間となる位置に配置された抵抗体(70)と、軸孔の中心軸に沿って、抵抗体と端子金具との間となる位置に配置された導電性シール層(90)と、軸孔の中心軸に沿って、抵抗体と導電性シール層との間となる位置に配置された中間層(91)と、を備える。中間層の熱膨張係数は、抵抗体の熱膨張係数よりも大きく、且つ、導電性シール層の熱膨張係数よりも小さい。
【0011】
このような構成の点火プラグでは、抵抗体と導電性シール層とが直接的には繋がっておらず、両者の間に設けられた中間層を介して繋がっている。中間層の熱膨張係数は、抵抗体の熱膨張係数よりも大きく、且つ、導電性シール層の熱膨張係数よりも小さい。抵抗体と導電性シール層との間にこのような中間層が設けられていることにより、点火プラグの製造時、具体的には、導電性シール層等を固化させるための冷却時において、熱膨張係数の違いに起因して生じる応力を従来よりも小さく抑えることができる。これにより、導電性シール層やその近傍において材料の亀裂が生じにくくなるので、点火プラグを長期間使用することが可能となる。冷却時には、降温速度の管理等を行う必要がないので、生産効率が低下することもない。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、生産効率を低下させることなく、長期間使用することが可能な点火プラグ、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る点火プラグの内部構成を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る点火プラグの一部構成を拡大して示す図である。
図3図3は、実施形態に係る点火プラグの製造方法を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る点火プラグの製造方法を示す図である。
図5図5は、比較例に係る点火プラグの構成、及びその問題点について説明するための図である。
図6図6は、抵抗体及び導電性シール層の、各温度における熱膨張係数を示すグラフである。
図7図7は、中間層の厚さと故障率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
本実施形態に係る点火プラグ10の構成について、図1を参照しながら説明する。尚、図1においては、点火プラグ10を、後述の中心軸CXを含む面で切断した場合の断面が左側部分に示されている。ただし、点火プラグ10を構成する部材のうち中心電極30及び端子金具40については、断面ではなくそれぞれの外観が示されている。
【0016】
点火プラグ10は、不図示の内燃機関の各気筒に設けられ、当該気筒の燃焼室において燃料への着火を行うための装置である。点火プラグ10は、絶縁碍子20と、中心電極30と、端子金具40と、主体金具50と、接地電極60と、を備えている。
【0017】
絶縁碍子20は、例えばアルミナ等の絶縁材料により形成された筒状の部材である。絶縁碍子20には軸孔200が形成されている。軸孔200は、絶縁碍子20をその中心軸に沿って貫くように形成された貫通孔である。軸孔200の中心軸は、絶縁碍子20の中心軸と一致している。軸孔200の中心軸のことを、以下では「中心軸CX」とも表記する。絶縁碍子20を、中心軸CXに対し垂直に切断した場合の断面においては、軸孔200の形状は円形となっている。
【0018】
中心電極30は、軸孔200のうち、中心軸CXに沿った一方側の端部(図1では下方側の端部)となる位置において、絶縁碍子20により保持されている金属製の部材である。中心電極30は棒状の部材であり、その大部分が軸孔200の内側に配置されている。中心電極30の一部は、軸孔200から絶縁碍子20の外側へと突出しており、その突出している部分の先端には放電チップ31が取り付けられている。先に述べた絶縁碍子20は、中心電極30を外周側から保持している部材、ということができる。
【0019】
端子金具40は、軸孔200のうち、中心軸CXに沿った他方側の端部(図1では上方側の端部)となる位置において、絶縁碍子20により保持されている金属製の部材である。端子金具40は棒状の部材であり、その大部分が軸孔200の内側に配置されている。端子金具40の一部は、軸孔200から絶縁碍子20の外側へと突出している。この突出している部分は、不図示の外部電源から電圧が印加される電極端子となっている。
【0020】
絶縁碍子20のうち、中心軸CXに沿って中心電極30が取り付けられている方のことを、以下では「先端側」とも称する。また、絶縁碍子20のうち、中心軸CXに沿って端子金具40が取り付けられている方のことを、以下では「後端側」とも称する。
【0021】
軸孔200のうち、中心軸CXに沿って中心電極30と端子金具40との間となる位置には、抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、端子金具40から中心電極30に至る電路の電気抵抗を調整するために配置された部材である。抵抗体70及びその近傍の構成については後に説明する。
【0022】
主体金具50は、絶縁碍子20の一部を外周側から保持している筒状の部材である。主体金具50は、その全体が金属により形成されている。主体金具50は、加締められることで絶縁碍子20に対し固定されており、その状態で絶縁碍子20を保持している。主体金具50は、嵌合部52と、フランジ部55と、挿入部56と、を有している。
【0023】
嵌合部52は、内燃機関に対する点火プラグ10の取り付け時において、例えばプラグレンチのような工具と嵌合する部分である。中心軸CXに沿って見た場合における嵌合部52の形状は例えば六角形である。
【0024】
フランジ部55は、内燃機関に点火プラグ10が取り付けられた際、内燃機関の外表面に対しガスケットGKを介して当接する部分である。フランジ部55は、嵌合部52よりも先端側となる位置に設けられており、外周側に向けて突出している。
【0025】
挿入部56は、フランジ部55よりも更に先端側の部分であって、内燃機関に形成された不図示の挿入孔へと挿入される部分である。挿入部56の外周面には雄螺子561が形成されている。点火プラグ10が内燃機関に取り付けられる際には、嵌合部52が工具から受ける力により中心軸CXの周りに回転する。これにより、上記挿入孔の内周面に形成された雌螺子と、挿入部56の雄螺子561とが互いに螺合する。これにより、内燃機関に対して点火プラグ10が締結固定される。点火プラグ10が内燃機関に取り付けられた状態においては、主体金具50の電位は、内燃機関と同じ接地電位となる。
【0026】
接地電極60は、主体金具50のうち先端側の先端面Sから、更に先端側へと伸びるように形成された金属製の部材である。先端面Sは中心軸CXに対し垂直な面である。接地電極60は屈曲しており、その一部が、中心軸CXに沿って中心電極30の放電チップ31と対向した状態となっている。つまり、接地電極60は、その一端側が主体金具50の先端面Sに接続されており、他端側が中心電極30と対向している。接地電極60のうち中心電極30と対向する部分には、放電チップ61が取り付けられている。その結果、放電チップ61と放電チップ31とは、中心軸CXに沿って並んでおり互いに対向している。互いに対向する放電チップ61と放電チップ31との間に形成された隙間が、火花放電の生じる放電ギャップGPとなっている。
【0027】
内燃機関の動作時においては、点火プラグ10の端子金具40と、内燃機関のボディとの間に、パルス状の高電圧が印加される。この高電圧は、互いに対向する放電チップ31と放電チップ61との間との間に印加されることとなり、放電ギャップGPにおいて火花放電を生じさせる。
【0028】
放電チップ31は、母材である中心電極30に対して溶接により接合されている。同様に、放電チップ61も、母材である接地電極60に対して溶接により接合されている。放電チップ31は、貴金属であるイリジウム又は白金を主成分として含む材料により形成された貴金属チップである。
【0029】
図2を参照しながら、抵抗体70及びその近傍の構成について説明する。図2には、中心軸CXを含む面に沿って点火プラグ10を切断した場合の断面が示されている。図1と同様に図2においても、中心電極30及び端子金具40については、断面ではなくそれぞれの外観が示されている。尚、図2においては、絶縁碍子20を外側から保持する主体金具50の図示が省略されている。
【0030】
先に述べたように、抵抗体70は、端子金具40から中心電極30に至る電路の電気抵抗を調整するための部材として配置されている。抵抗体70は、粉末状のガラス及びジルコニアに対し所定量のカーボン粉末を添加した材料、により形成されている。抵抗体70の電気抵抗は、上記のカーボン添加量によって調整されている。端子金具40から中心電極30に至る電路に抵抗体70が配置されることで、点火プラグ10の火花放電に伴う電磁ノイズの発生が抑制される。
【0031】
軸孔200のうち、中心軸CXに沿って中心電極30と抵抗体70との間となる位置には、導電性シール層80が設けられている。つまり、中心電極30と抵抗体70との間は、導電性シール層80を介して互いに接続されている。導電性シール層80は、粉末状のガラスに対し銅粉末を添加した材料により形成された、導電性を有する層である。このような構成により、中心電極30と抵抗体70との間が電気的に接続されている。
【0032】
軸孔200のうち、中心軸CXに沿って抵抗体70と端子金具40との間となる位置には、導電性シール層90が設けられている。また、軸孔200のうち、中心軸CXに沿って抵抗体70と導電性シール層90との間となる位置には、中間層91が設けられている。つまり、抵抗体70と端子金具40との間は、先端側から順に中間層91及び導電性シール層90を介して互いに接続されている。
【0033】
導電性シール層90は、導電性シール層80と同じ材料、すなわち、粉末状のガラスに対し銅粉末を添加した材料により形成されている。また、中間層91は、抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料と、を混合した材料により形成されている。その混合比は、重量比において30:70である。つまり、中間層91に含まれる「抵抗体70の材料」の割合は、本実施形態では30重量%となっている。このような構成により、抵抗体70と端子金具40との間が電気的に接続されている。
【0034】
点火プラグ10を製造する方法について、図3及び図4を参照しながら説明する。先ず、図3(A)に示されるように、絶縁碍子20に対し中心電極30が取り付けられる。このとき、絶縁碍子20は、その後端側が上方側となり、先端側が下方側となるように予め保持されている。中心電極30は、絶縁碍子20の軸孔200に後端側から挿入され、重力により落下し先端側へと移動する。その際、中心電極30に設けられた拡径部32(図2を参照)が、軸孔200の途中に設けられた縮径部201に当接し、これにより中心電極30が保持された状態となる。
【0035】
続いて、図3(B)に示されるように、軸孔200の内側に、後端側から導電性シール層80の材料が充填される。当該材料は、粉末状のガラスに対し銅粉末を添加した材料であり、図3(B)の時点では粉末状のままとなっている。その後、図3(C)に示されるように、軸孔200の内側に後端側から棒状部材100が挿入され、棒状部材100の先端で、導電性シール層80の材料が加圧される。これにより、粉末状の材料の密度が高められる。
【0036】
続いて、図3(D)に示されるように、、軸孔200の内側に、後端側から抵抗体70の材料が充填される。当該材料は、粉末状のガラス及びジルコニアに対し所定量のカーボン粉末を添加した材料であり、図3(D)の時点では粉末状のままとなっている。その後、軸孔200の内側に後端側から、再び棒状部材100が挿入され、棒状部材100の先端で、抵抗体70の材料が加圧される。これにより、粉末状の材料の密度が高められる。
【0037】
尚、抵抗体70の材料の充填及び加圧は、2回に分けて行われる。図3(E)には、2回目の材料の充填が行われ、当該材料が加圧されている状態が示されている。1回目に充填される抵抗体70の材料と、2回目に充填される抵抗体70の材料とは、互いに異なっていてもよいが、互いに同一であってもよい。また、抵抗体70の材料の充填及び加圧が、2回に分けて行われるのではなく、1度に行われることとしてもよい。
【0038】
続いて、図3(F)に示されるように、軸孔200の内側に、後端側から中間層91の材料が充填される。当該材料は、抵抗体70の粉末材料と、次に充填される導電性シール層90の粉末材料と、を混合した材料により形成されている。先に述べたように、その混合比は、重量比において30:70である。中間層91の材料も、図3(F)の時点では粉末状のままとなっている。その後、軸孔200の内側に後端側から棒状部材100が挿入され、棒状部材100の先端で、中間層91の材料が加圧される。これにより、粉末状の材料の密度が高められる。
【0039】
続いて、図3(G)に示されるように、軸孔200の内側に、後端側から導電性シール層90の材料が充填される。当該材料は、図3(B)において充填された導電性シール層80の粉末材料と同じものである。その後、軸孔200の内側に後端側から棒状部材100が挿入され、棒状部材100の先端で、導電性シール層90の材料が加圧される。これにより、粉末状の材料の密度が高められる。
【0040】
続いて、図3(H)に示されるように、軸孔200の内側に、後端側から端子金具40が挿入される。端子金具40には、絶縁碍子20の後端側端部に当接するフランジ41が形成されている。ただし、図3(H)のように端子金具40の先端側端部が導電性シール層90に当接した時点では、フランジ41と絶縁碍子20の後端側端部とは互いに当接せず、両者の間には隙間が形成された状態となっている。
【0041】
端子金具40が上記のように挿入された状態の絶縁碍子20は、図4に示されるように、保持部材120によって保持された状態とされる。保持部材120には、これを上下に貫通する貫通孔121が形成されており、絶縁碍子20はこの貫通孔121に上方から挿入される。
【0042】
絶縁碍子20の外周面には、外側に向けて突出する突出部21が形成されている。また、貫通孔121の内周面には、内側に向けて突出する突出部122が形成されている。絶縁碍子20の突出部21が、保持部材120の突出部122に対し上方側から当接することで、絶縁碍子20が下方側から支持された状態となる。
【0043】
端子金具40のうち後端側の端部には、加圧部材110によって下方側に向けた力が加えられる。軸孔200の内側に充填された粉末状の材料は、端子金具40により圧縮される。
【0044】
この状態のまま、絶縁碍子20の全体が、例えばヒーターにより加熱される。軸孔200の内側に充填された各材料は、絶縁碍子20等と共に加熱され、その温度を概ね800℃から900℃まで上昇させる。絶縁碍子20等の温度が目標温度に到達した後も、加圧部材110と保持部材120との間で、中間層91等の各材料が加圧されている状態は維持される。
【0045】
軸孔200の内側に充填された各材料は、ガラスが溶融することにより流動的となりながら、端子金具40によって圧縮される。粉末材料に含まれていた空気は外部へと押し出される。また、流動的となった導電性シール層90の材料の一部は、端子金具40の外側面と、軸孔200の内側面との間の隙間に入り込み、後端側に向かって侵入して行く。それに伴い、端子金具40は次第に先端側へと移動して行く。最終的には、図4に示されるように、絶縁碍子20の後端側端部にフランジ41が当接した状態となる。
【0046】
軸孔200の内側に充填された各材料のうち、互いに隣り合う材料との境界面は、当初はその全体が、中心軸CXに対して垂直な平坦面となっている。ただし、端子金具40が先端側へと移動して行った後においては、導電性シール層90の材料の一部が上記のように後端側へと侵入して行くことに伴って、外周側の部分が後端側に向かって傾斜した状態となる。尚、中心軸CXが通る中央部においては、各材料の境界は、中心軸CXに対し垂直な平坦面のままである。
【0047】
絶縁碍子20の後端側端部にフランジ41が当接した後は、絶縁碍子20の加熱が停止される。絶縁碍子20、及び、軸孔200の内側に充填された各材料は、次第にその温度を低下させて行く。このとき、絶縁碍子20には、例えば不図示のファンによって冷却風が供給される。これにより、絶縁碍子20等の降温が促進される。
【0048】
軸孔200の内側に充填された各材料は、ガラスが固まることにより流動性が低下して行く。最終的には、各材料の全体が一つの塊となり、中心電極30と端子金具40との間を繋いだ状態となる。
【0049】
冷却が完了した後は、絶縁碍子20が保持部材120から取り外される。その後、絶縁碍子20に対し、主体金具50が加締められ固定される。これにより、図1に示される点火プラグ10が完成する。
【0050】
以上のような工程を経て製造される本実施形態の点火プラグ10では、抵抗体70と導電性シール層90との間が直接は繋がっておらず、両者の間に配置された中間層91を介して繋がっている。このような構成としたことの利点を説明するために、比較例に係る点火プラグ10Aについて、図5を参照しながら説明する。図5には、点火プラグ10Aのうち抵抗体70及びその周辺の構成が、図2と同様の方法で示されている。
【0051】
図5に示されるように、この比較例においては、中間層91が設けられておらず、抵抗体70と導電性シール層90との間が直接繋がっている。このような構成の点火プラグ10Aも、図3、4を参照しながら説明した方法と同様の方法で製造される。
【0052】
点火プラグ10Aの製造工程のうち、図4と同様の状態で絶縁碍子20を冷却する工程においては、絶縁碍子20の内側にある抵抗体70及び導電性シール層90も、次第にその温度を低下させていく。
【0053】
銅粉末を含む導電性シール層90は、ジルコニア等を含む抵抗体70に比べて、その熱伝導率が大きいため、上方側の端子金具40から熱を奪われやすい。また、上記の冷却工程における導電性シール層90は、抵抗体70に比べて貫通孔121の開放端に近い位置にあり(又は、一部が貫通孔121の外にあり)、周辺の空気によって冷却されやすい。以上の要因により、導電性シール層90は、抵抗体70よりも速くその温度を低下させる。温度低下に伴う導電性シール層90の収縮量が、抵抗体70の収縮量よりも大きくなるので、導電性シール層90と抵抗体70との境界部近傍においては、図5の矢印AR1で示されるような引っ張り応力が加えられることとなる。
【0054】
また、本実施形態では、図4において圧縮された導電性シール層90の一部が、端子金具40の外側面側の隙間に入り込む。この部分の導電性シール層90は、先端側の部分に比べて圧縮量が小さいので、その熱膨張係数や熱伝導率が大きくなる傾向がある。このため、端子金具40の外側面側の隙間にある導電性シール層90が大きく収縮することで、上記の引っ張り応力は更に大きくなる。
【0055】
引っ張り応力が大きくなり過ぎると、端子金具40から中心電極30に至るまでの電路の途中において、材料の亀裂が生じてしまう可能性がある。このような亀裂が生じると、電流が均一には流れなくなり、局所的な発熱に伴って当該箇所の抵抗値が上昇し、材料の劣化が更に促進されてしまう。その結果、点火プラグ10Aの寿命が短くなってしまう可能性がある。つまり、点火プラグ10Aを長期間使用することができなくなってしまう可能性がある。
【0056】
絶縁碍子20の内部に収容される抵抗体70や導電性シール層90等は、その熱膨張係数が、絶縁碍子20の熱膨張係数と概ね一致するように、ガラスに含まれる酸化物の種類等が調整されている。図6の線L1は、抵抗体70の温度と熱膨張係数との関係を示すグラフであり、図6の線L2は、導電性シール層90の温度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【0057】
それぞれのグラフで示されるように、点火プラグが通常使用される際の動作温度域である470℃以下の温度範囲においては、抵抗体70の熱膨張係数と導電性シール層90の熱膨張係数とは互いに概ね一致している。ただし、470℃よりも高い温度域になると、それぞれの熱膨張係数は互いに乖離するようになり、図4の状態で加熱される際の温度域(800℃から900℃程度)になると、導電性シール層90の熱膨張係数(L2)の方が大きくなる。このため、上記の冷却工程においては、導電性シール層90の収縮量は更に小さくなるので、先に述べた材料の亀裂は更に生じやすくなってしまう。
【0058】
尚、抵抗体70に含まれるガラスとしては、ジルコニア等との反応性が低いものを選定する必要があり、導電性シール層90に含まれるガラスとしては、銅粉末との反応性が低いものを選定する必要がある。その結果、抵抗体70のガラスと導電性シール層90のガラスとは、互いに別のものを用いる必要があるので、全ての温度域において両者の熱膨張係数を同じとすることは困難である。
【0059】
以上のように、比較例に係る点火プラグ10Aにおいては、製造工程のうち図4と同様の状態で絶縁碍子20が冷却される工程において、抵抗体70と導電性シール層90との境界部近傍で引っ張り応力が生じやすい構成となっている。このため、引っ張り応力に起因した材料の亀裂が生じることを防止するために、冷却工程においては、例えばファンの回転数を調整するなどして、降温速度を管理しなければならない。しかしながら、降温速度を管理すると、冷却に要する時間が長くなってしまい生産効率が低下してしまう。また、降温速度を管理するための制御装置等、追加の設備も必要になってしまう。
【0060】
更に言えば、図4の状態における絶縁碍子20の冷却は、複数の絶縁碍子20を並べた状態で同時に行われる。従って、降温速度の管理は、複数の絶縁碍子20のそれぞれについて同時に行う必要があるが、適切な冷却条件は絶縁碍子20の位置によって異なる。このため、降温速度の管理を行うこと自体が困難であるという問題もある。
【0061】
そこで、本実施形態に係る点火プラグ10では、抵抗体70と導電性シール層90との間に中間層91を介在させることで、上記の問題を解決している。先に述べたように、中間層91は、抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料と、を混合した材料により形成されている。このため、絶縁碍子20やその内部が800℃前後の高温となっているとき、すなわち、図4の状態で絶縁碍子20が降温されているときにおいては、中間層91の熱膨張係数は、抵抗体70の熱膨張係数よりも大きくなっており、且つ、導電性シール層90の熱膨張係数よりも小さくなっている。また、このときにおける中間層91の熱伝導率は、抵抗体70の熱伝導率よりも大きくなっており、且つ、導電性シール層90の熱伝導率よりも小さくなっている。
【0062】
このような中間層91が抵抗体70と導電性シール層90との間に介在しているため、本実施形態に係る点火プラグ10の製造工程のうち、図4の状態で絶縁碍子20が冷却される工程においては、中間層91が、その上下両側の部材における熱膨張の違いや熱伝導の違いを緩和する機能を発揮する。その結果、冷却工程における降温速度の管理等を行わなくても、冷却工程における材料の亀裂を防止することができ、点火プラグ10を長期間使用することが可能となる。
【0063】
尚、抵抗体70、中間層91、及び導電性シール層90の、それぞれの熱膨張係数についての上記の大小関係や、熱伝導率についての上記の大小関係は、少なくとも、800℃から900℃までの温度域において成立していればよい。また、以上のような特性を持つ中間層91は、本実施形態のように、抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料と、を混合した材料により形成されていてもよいが、これとは異なる材料により形成されていてもよい。
【0064】
本発明者らは、中間層91を設けたことの効果を確認するために、以下のような実験を行った。先ず、中間層91の材料において互いに異なる複数の点火プラグ10を作成した。それぞれの点火プラグ10における中間層91の材料は、いずれも本実施形態と同様に、抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料と、を混合したものであるが、その混合比において互いに異なることとした。尚、いずれの点火プラグ10においても、中心軸CXにおける導電性シール層80の厚さは1mmであり、中心軸CXにおける抵抗体70の厚さは18mmであり、中心軸CXにおける中間層91の厚さは1mmであり、中心軸CXにおける導電性シール層90の厚さは2mmである。
【0065】
尚、上記の「中心軸CXにおける」厚さとは、各層のうち中心軸CXが通る部分の、中心軸CXに沿った長さのことである。
【0066】
その後、それぞれの点火プラグ10について動作試験を行い、端子金具40と中心電極30との間における、材料の亀裂の有無について確認した。動作試験は、点火プラグ10を300℃の炉内に配置した状態で、放電チップ31と放電チップ61との間に35Vの電圧を繰り返し印加し、火花放電を生じさせることにより行った。
【0067】
上記実験の結果を、以下の表1に示す。
【表1】
表1の左側にある「混合比」の欄には、中間層91に含まれる抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料との重量比が示されている。尚、この実験においては、中間層91における上記の混合比が同一となっている点火プラグ10を10個ずつ作成し、全ての点火プラグ10について上記の動作試験を行っている。
【0068】
表1の中央にある「亀裂有無」の欄には、動作試験を経て亀裂が生じた点火プラグ10の有無が示されている。それぞれの混合比について、作成された10個の点火プラグ10のうち、亀裂が生じたものが1つでも有った場合を「有」とし、亀裂が生じたものが1つも無かった場合を「無」としている。
【0069】
表1の右側にある「亀裂発生率」の欄には、それぞれの混合比について、作成された10個の点火プラグ10のうち、動作試験を経て亀裂が生じた点火プラグ10の占める割合が、「%」の単位で示されている。
【0070】
表1に示されるように、上記の混合比が1:9や2:8の場合、すなわち、中間層91に含まれる抵抗体70の材料の割合が20重量%以下である場合には、一部の点火プラグ10において亀裂が発生した。同様に、上記の混合比が8:2や9:1の場合、すなわち、中間層91に含まれる抵抗体70の材料の割合が80重量%以上である場合にも、一部の点火プラグ10において亀裂が発生した。一方、それ以外の場合、すなわち、中間層91に含まれる抵抗体70の材料の割合が、30重量%から70重量%までの範囲内である場合には、動作試験を経ても亀裂は発生しなかった。このため、中間層91に含まれる抵抗体70の材料の割合としては、30重量%から70重量%までの範囲内とすることが好ましいことが確認された。
【0071】
本発明者らは更に、適切な中間層91の厚さを確認するために、以下のような実験も行った。ここでいう「中間層91の厚さ」とは、中心軸CXにおける中間層91の厚さ、すなわち、中間層91のうち中心軸CXが通る部分の、中心軸CXに沿った長さのことであり、図2に示される「L」のことである。
【0072】
先ず、中間層91の厚さにおいて互いに異なる複数の点火プラグ10を作成した。それぞれの点火プラグ10における中間層91の材料は、いずれも本実施形態と同様に、抵抗体70の材料と、導電性シール層90の材料と、を混合したものであるが、その混合比はいずれも1:1とした。
【0073】
いずれの点火プラグ10においても、中心軸CXにおける導電性シール層80の厚さは1mmであり、中心軸CXにおける抵抗体70の厚さは18mmである。また、中心軸CXにおける、中間層91と導電性シール層90とを合わせた部分の厚さは3mmである。端子金具40と中心電極30との間の初期の電気抵抗は2kΩに統一した。また、各点火プラグ10を製造する際の、図4の状態における絶縁碍子20の冷却は、300℃/分の降温速度で2分間行うこととした。
【0074】
その後、それぞれの点火プラグ10について、先の実験と同じ動作試験を行い、端子金具40と中心電極30との間における、材料の亀裂の有無について確認した。尚、この実験においては、中間層91の厚さが同一となっている点火プラグ10を10個ずつ作成し、全ての点火プラグ10について上記の動作試験を行っている。
【0075】
上記実験の結果を、図7のグラフに示す。当該グラフの横軸は、各点火プラグ10における中間層91の厚さである。グラフの縦軸に示される「故障率」とは、それぞれの中間層91の厚さについて、作成された10個の点火プラグ10のうち、端子金具40と中心電極30との間の電気抵抗値が当初の値から所定量上昇したものの占める割合のことである。尚、図7においては、上記電気抵抗値が当初の値の2倍以上まで上昇したものと、測定不能な程度に(つまり無限大まで)上昇したものと、を分けてプロットしている。
【0076】
図7に示されるように、中間層91の厚さが0.5mmよりも小さい場合には、一部又は全部の点火プラグ10において電気抵抗値の上昇がみられた。一方、中間層91の厚さが0.5mm以上である場合には、動作試験を経ても、電気抵抗値が2倍以上まで上昇した点火プラグ10は存在しなかった。このため、中間層91の厚さとしては、0.5mm以上とすることが好ましいことが確認された。
【0077】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:点火プラグ
20:絶縁碍子
30:中心電極
40:端子金具
70:抵抗体
90:導電性シール層
91:中間層
200:軸孔
CX:中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7