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特許7667279超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250415BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20250415BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20250415BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20250415BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20250415BHJP
   B22D 11/128 20060101ALI20250415BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/18
C21D8/06 A
C21D9/52 103Z
B22D11/00 A
B22D11/128 350A
B22D11/20 C
C22C38/00 301Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023537403
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 KR2021016993
(87)【国際公開番号】W WO2022131593
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178272
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュンモ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソク-ファン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミョンス
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-000313(JP,A)
【文献】特開平09-310151(JP,A)
【文献】特開昭62-256950(JP,A)
【文献】国際公開第2020/020066(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/121887(WO,A1)
【文献】特開平07-185763(JP,A)
【文献】特開2009-183977(JP,A)
【文献】特表2022-541813(JP,A)
【文献】特表2023-508314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 7/00 - 8/10
C21D 9/52 - 9/66
B22D 11/00 - 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であることを特徴とする超高強度ばね用線材。
【請求項2】
表面フェライト脱炭層の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超高強度ばね用線材。
【請求項3】
重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、ブルームを用意する段階と、
前記ブルームを鋼片圧延した後、線材圧延する段階と、を含み、
前記連続鋳造する段階で、鋳造速度を0.48~0.54m/minとし、連続鋳造中に総圧下量15~35mmで軽圧下することを含むことを特徴とする超高強度ばね用線材の製造方法。
【請求項4】
前記軽圧下は、
各圧延ロールごとに4mm以下で圧延し、凝固分率が0.6以上のとき、累積圧下量が60%以上となるように行うことを特徴とする請求項3に記載の超高強度ばね用線材の製造方法。
【請求項5】
重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
面積分率で、焼き戻しマルテンサイトを90%以上含み、
長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であることを特徴とする超高強度ばね用鋼線。
【請求項6】
長さ方向に垂直な断面で、最表面から深さ0.5mm以下の領域を除いた残りの領域における硬度偏差が25Hv以下であることを特徴とする請求項5に記載の超高強度ばね用鋼線。
【請求項7】
引張強度が1750~2200MPa、断面減少率が40%以上であることを特徴とする請求項5に記載の超高強度ばね用鋼線。
【請求項8】
請求項1に記載の線材を伸線する段階と、
900~1000℃まで10秒以内に加熱する段階と、
高圧で水冷する段階と、
400~500℃まで10秒以内に加熱し、焼き戻しする段階と、
水冷する段階と、を含むことを特徴とする超高強度ばね用鋼線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法に係り、より詳細には、本発明は、バイクの懸架ばねに適用できる超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車素材の市場と同様に、バイク市場も継続的に軽量化または構造変更を進めている。最近、従来のバイクに使用されていたデュアルタイプのサスペンションをモノタイプに置き換え、高強度ばね鋼に対する需要が増加している。
【0003】
バイクのサスペンションに使用された従来のばね鋼は、硬鋼線であり、モノタイプのサスペンションに活用するに強度および疲労抵抗性が不十分である。これによって、自動車用焼き戻しマルテンサイト(tempered martensite,TM)組織鋼の活用を検討したが、自動車懸架ばねは、管理基準が厳しく、製造することが難しく、高価であるから、バイクの懸架ばねに適用しにくいという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、合金含有量を減らし、焼き戻し温度を下げる方案がある。しかしながら、合金含有量を減らし、焼き戻し温度を下げる場合、高い強度で軟性を確保しにくく、その結果、加工性が不十分であるという問題が発生する。このような問題を解決するためには、低い焼き戻し温度でも十分な軟性を確保するための偏析制御が必要である。
【0005】
また、最近では、IT熱処理(Induction heat treatment)技術の発達に伴い、水冷を活用しても十分な硬化能を確保することができ、鋼材に含まれる合金元素の含有量を低減しつつ、目的とする強度を達成することができる。しかしながら、IT熱処理を通じて製造したばね鋼は、偏析程度によって材質の偏差が非常に激しい。特に高強度鋼材であるほど、偏析による材質偏差がさらに激しくなる傾向にある。したがって、IT熱処理への適用時に、高強度および安定した断面減少率の確保のためには、偏析の制御が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第1995-0018545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のような問題点を解決するために、本発明は、IT熱処理後、材質の偏差が少ないため、高強度および高い断面減少率を確保可能な高品質の超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の超高強度ばね用線材は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一例による超高強度ばね用線材は、表面フェライト脱炭層の厚さが1μm以下であってもよい。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明の超高強度ばね用線材の製造方法は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる溶鋼を連続鋳造してブルームを用意する段階と、前記ブルームを鋼片圧延した後、線材圧延する段階と、を含み、前記連続鋳造する段階で、鋳造速度を0.48~0.54m/minとし、連続鋳造中に総圧下量15~35mmで軽圧下することを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のる超高強度ばね用線材の製造方法は、前記軽圧下は、各圧延ロールごとに4mm以下で圧延し、凝固分率が0.6以上のとき、累積圧下量が60%以上となるように行うことを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明の超高強度ばね用鋼線は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、面積分率で、焼き戻しマルテンサイトを90%以上含み、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の超高強度ばね用鋼線は、長さ方向に垂直な断面で、最表面から深さ0.5mm以下の領域を除いた残りの領域における硬度偏差が25Hv以下であってもよい。
【0014】
本発明の超高強度ばね用鋼線は、引張強度が1750~2200MPa、断面減少率が40%以上であってもよい。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明の超高強度ばね用鋼線の製造方法は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下の線材を伸線する段階と、900~1000℃まで10秒以内に加熱する段階と、高圧で水冷する段階と、400~500℃まで10秒以内に加熱し、焼き戻しする段階と、水冷する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のばね鋼の鋼線と比較して、低い合金含有量でも高強度を確保することができ、中心部偏析の低減で優れた断面減少率を確保することができ、低いばね指数(spring index)を要求する製品にも適用可能な超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法を提供することができる。
本発明は、IT熱処理後に材質偏差が少なく、高強度および高い断面減少率を確保可能な高品質の超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記目的を達成するための手段として、本発明の一例による超高強度ばね用線材は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であってもよい。
【0018】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかしながら、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0019】
本出願において使用する用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。また、本出願において使用される「含む」または「具備する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものでないことに留意しなければならない。
【0020】
なお、別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると見なされるべきである。したがって、本明細書において明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0021】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確であるか、または、絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0022】
本発明は、偏析を促進する元素含有量の最適化と連続鋳造時の高い圧下量を通じてIT熱処理後に材質偏差が少なく、高強度と優れた断面減少率を確保可能な超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法を提供しようとする。
【0023】
本発明の一例による超高強度ばね用線材は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる。
【0024】
以下、前記超高強度ばね用線材の合金組成を限定した理由について具体的に説明する。超高強度ばね用鋼線の合金組成を限定した理由は、線材と同一なので、便宜上省略する。
【0025】
Cの含有量は、0.5~0.7重量%である。
Cは、製品の強度を確保するために添加される元素である。Cの含有量が0.5重量%未満の場合には、目的とする強度およびCeqを確保することができない。これによって、鋼材を冷却する際にマルテンサイト組織が完全に形成されず、強度の確保が難しく、完全なマルテンサイト組織が形成されても、所望の強度確保が困難となる。C含有量が0.7重量%を超えると、衝撃特性が低下し、水冷時に焼入割れ(quenching crack)が発生することがある。
【0026】
Siの含有量は、0.4~0.9重量%である。
Siは、鋼の脱酸のために使用され、固溶強化を通した強度の確保に有利な元素である。強度の確保のために、本発明においてシリコンは、0.4重量%以上で添加してもよい。しかしながら、Siは、過剰添加されると、中心部に偏析して中心部と表層部の硬度差を誘発し、表面脱炭を誘発することがあり、材料の加工に困難がありうる。これを考慮して、本発明においてSi含有量の上限は、0.9重量%に制限することができる。
【0027】
Mnの含有量は、0.3~0.8重量%である。
Mnは、硬化能の向上元素であり、高強度の焼き戻しマルテンサイト(tempered martensite)組織鋼を形成するための必須元素の1つである。強度の確保のために、本発明においてマンガンは、0.3重量%以上で添加してもよい。しかしながら、Mnは、過剰添加されると、中心部に偏析して中心部と表層部の硬度の差を誘発し、焼き戻しマルテンサイト組織鋼では靭性が低下する恐れがある。これを考慮して、本発明においてMn含有量の上限は、0.8重量%に制限することができる。
【0028】
Crの含有量は、0.2~0.6重量%である。
Crは、Mnと共に、硬化能の向上に有効であり、焼き戻しマルテンサイト組織鋼の強度を向上させる。このために、本発明においてCrは、0.2重量%以上で添加してもよい。しかしながら、Crは、Si、Mnと同様に、偏析促進元素であるから、過剰添加時に中心部の偏析による硬度偏差が発生する恐れがある。これを考慮して、本発明においてCr含有量の上限は、0.6重量%に制限することができる。
【0029】
Pの含有量は、0.015重量%以下である。
Pは、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、水素遅れ破壊抵抗性を低下させる元素であるから、鋼材から最大限排除されることが好ましい。本発明においてその上限は、0.015重量%に制限することができる。
【0030】
Sの含有量は、0.010重量%以下である。
Sは、Pと同様に、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、MnSを形成させて水素遅れ破壊抵抗性を低下させることができるので、鋼材から最大限排除されることが好ましい。本発明においてその上限は、0.010重量%に制限することができる。
【0031】
Alの含有量は、0.01重量%以下である。
Alは、強力な脱酸元素であり、鋼中酸素を除去して、清浄度を高めることができる。しかしながら、Alは、添加時にAl介在物を形成し、疲労抵抗を低下させる問題がある。これによって、本発明においてその上限は、0.01重量%に制限することができる。
【0032】
Nの含有量は、0.01重量%以下である。
Nは、鋼中AlまたはVと結合して、熱処理時に溶解しない粗大なAlNまたはVN析出物を形成する問題がある。これによって、本発明においてその上限は、0.01重量%に制限することができる。
【0033】
Oの含有量は、0.005重量%以下である。
Oは、Alと結合し、粗大な介在物を形成させることができる。これによって、本発明においてその上限は、0.005重量%に制限することができる。
【0034】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書において言及しない。
【0035】
本発明は、IT熱処理後に高強度で優れた断面減少率を確保するために、線材の中心部偏析を制御する。一例による超高強度ばね用線材は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であってもよい。
【0036】
前述した面積の割合が5%を超過すると、IT熱処理後に長さ方向に垂直な断面で硬度偏差が発生し、そのため、材質の偏差も発生し、目標強度で十分な断面減少率を確保することができない。
【0037】
また、本発明によれば、低Si合金組成を通じて表面脱炭現象を抑制することができる。一例によれば、線材の表面フェライト脱炭層の厚さが1μm以下であってもよい。表面フェライト脱炭層の厚さが1μmを超過すると、高強度確保のための浸炭処理などさらなる工程を行わなければならない恐れがある。
【0038】
以下では、本発明による超高強度ばね用線材の製造方法について詳細に説明する。本発明の一例による超高強度ばね用線材は、前述した合金組成を有する溶鋼を連続鋳造してブルームを用意し、ブルームを鋼片圧延した後、線材圧延して製造される。以下では、各製造段階について説明する。
【0039】
本発明は、線材の中心部偏析を最小化するために、前述した合金組成の制御とともに、連続鋳造する段階を制御する。一例によれば、連続鋳造時の鋳造速度を0.48~0.54m/minとし、連続鋳造中に総圧下量15~35mmで軽圧下することができる。冷却水は、軽圧下が完了する地点まで凝固が完了できるようにその量を適切に調節する。
【0040】
鋳造速度が遅すぎると、軽圧下前に凝固が完了し、固相に比べて液相の割合が低すぎ、軽圧下による偏析除去効果を確保しにくい。一方、鋳造速度が速すぎると、固相に比べて液相の割合が高すぎて、凝固収縮に伴う偏析が形成され、好ましくない。これを考慮して、本発明の一例によれば、鋳造速度は0.48~0.54m/minに制御される。
【0041】
軽圧下時に総圧下量が少なすぎると、軽圧下による偏析除去効果を確保しにくい。一方、多すぎると、前述した効果が飽和し、連鋳設備に損傷が生じることがある。これを考慮して、本発明の一例によれば、軽圧下の総圧下量は、15~35mmに制御される。
【0042】
本発明の一例によれば、軽圧下は、各圧延ロールごとに4mm以下で圧延し、凝固分率が0.6以上であるとき、累積圧下量が60%以上となるように行われ得る。凝固分率とは、全体溶鋼の重量に対して固相(solid phase)の溶鋼の重量の比を意味する。
【0043】
前述した過程で用意したブルームは、鋼片圧延した後、線材圧延して、線材に製造することができる。
【0044】
以下では、本発明による超高強度ばね用鋼線の製造方法について詳細に説明する。本発明による超高強度ばね用鋼線は、前述した合金組成を満たし、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下の線材を伸線し、加熱した後、高圧で水冷した後、焼き戻しした後、水冷して製造される。以下では、各製造段階について説明する。
【0045】
本発明の伸線する段階で前述した線材は、バイク懸の架ばねに適用できるように16mm以下の線径まで伸線して、鋼線に製造することができる。
【0046】
次に、伸線した鋼線をQT熱処理するために、本発明の加熱する段階では、伸線した鋼線を焼入温度である900~1000℃まで10秒以内に加熱した後、5~60秒間維持して、鋼線の組織をオーステナイト化熱処理することができる。目標温度である900~1000℃までの加熱時間が10秒を超過する場合には、結晶粒が成長し、所望の物性を確保しにくい。維持時間が5秒未満の場合、パーライト組織がオーステナイトに変態しないことがあり、60秒を超過する場合、結晶粒が粗大化することがある。
【0047】
本発明において高圧で水冷する段階は、鋼線の主組織をオーステナイトからマルテンサイトに変態させる段階であり、前段階のオーステナイト化した鋼線の沸騰膜を除去できるほどの高圧で水冷することができる。この際、冷却を、水冷でなく、油冷で行う場合、低Ceqに起因して目的とする強度を確保することができない。また、水冷時に沸騰膜を除去できるほどの高圧でない場合、焼入割れ(quenching crack)の発生可能性が高くなるので、水冷時に最大限高い圧力で四方から水を散布して高圧水冷することが好ましい。
【0048】
本発明において焼き戻しする段階は、水冷した鋼線の主組織であるマルテンサイトを加熱し、焼き戻しマルテンサイトに焼き戻し処理する段階である。焼き戻しする段階は、400~500℃まで10秒以内に加熱した後、30秒以内に維持することができる。焼き戻し温度が400℃未満である場合、靭性が確保されず、加工が難しく、製品が破損する危険が高まり、500℃を超過する場合、強度が低下するので、前述した温度範囲に焼き戻し温度を制限する。また、焼き戻しの際、前述した温度範囲まで10秒以内に加熱しないと、粗大な炭化物が形成され、靭性が低下する恐れがあるので、10秒以内に急速加熱することが好ましい。
【0049】
本発明において加熱時に焼入温度まで加熱する手段と焼き戻しする手段は、急速加熱し、後続の水冷時に表面を十分に硬化させることができるようにIT熱処理を活用する。
その後、焼き戻しした鋼線を常温まで水冷し、超高強度ばね用鋼線に製造する。
【0050】
本発明の一例による超高強度ばね用鋼線は、重量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.4~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.2~0.6%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、面積分率で、焼き戻しマルテンサイトを90%以上含み、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、重量%で、C>0.8%、Si>0.9%、Cr>0.8%およびMn>0.8%のうち1つ以上を満たす面積の割合が5%以下であってもよい。
【0051】
また、本発明の一例による超高強度ばね用鋼線は、長さ方向に垂直な断面で、最表面から深さ0.5mm以下の領域を除いた残りの領域における硬度偏差が25Hv以下であってもよい。前記硬度偏差が25Hvを超過すると、十分な断面減少率を確保することができない。
【0052】
また、本発明の一例による超高強度ばね用鋼線は、引張強度が1750~2200MPa、断面減少率が40%以上であってもよい。
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意すべきである。本発明の権利範囲は、特許請求範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0054】
{実施例}
下記表1の合金組成を有する溶鋼に対して表2の鋳造速度、総軽圧下量でブルームに鋳造した後、鋼片圧延-線材圧延を通じて直径9mmの線材に製造した。
【0055】
表2の偏析面積は、製造した線材の長さ方向に垂直な断面の中心部1mmでEPMAで分析して導き出した。表2の「C偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、C>0.8重量%を満たす面積の割合を意味する。「Si偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、Si>0.9重量%を満たす面積の割合を意味する。「Cr偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、Cr>0.8重量%を満たす面積の割合を意味する。「Mn偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積で、Mn>0.8重量%を満たす面積の割合を意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
その後、表1の線材を直径8mmの鋼線に製造し、下記の表3に示した条件で熱処理を行った。オーステナイト化熱処理-高圧水冷-焼き戻し-水冷の順に行った。硬度偏差は、長さ方向に垂直な断面で、最表面から深さ0.5mm以下の領域を除いた残りの領域で10ポイント以上で硬度を測定したときの硬度偏差を意味する。
【0059】
【表3】
【0060】
表1、表2、表3に示すとおり、本発明の合金組成と製造条件を満たす発明例1、2は、IT熱処理後に長さ方向に垂直な断面で、最表面から深さ0.5mm以下の領域を除いた残りの領域における硬度偏差が25Hv以下であり、引張強度が1750~2200MPa、断面減少率が40%以上を満たした。一方、比較例1は、Si、Mn含有量が高く、中心部Si、Mn偏析による硬度偏差が発生し、断面減少率が40%以下であった。
【0061】
比較例2は、Si含有量が低く、目標とする引張強度を確保しなかった。
【0062】
比較例3は、速すぎる鋳造速度および軽圧下量が不十分で、中心部偏析が発生し、これによって、硬度偏差が大きくなり、断面減少率が40%以下であった。
【0063】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、本明細書に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の一例によれば、IT熱処理後に材質偏差が少なく、高強度および高い断面減少率を確保可能な高品質の超高強度ばね用線材、鋼線およびその製造方法を提供することができる。