(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】酸化タングステン粉末スラリーおよびその製造方法並びにそれを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/02 20060101AFI20250417BHJP
【FI】
C01G41/02
(21)【出願番号】P 2023502279
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005366
(87)【国際公開番号】W WO2022181356
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2021027275
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】福士 大輔
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110234(WO,A1)
【文献】特開2014-184436(JP,A)
【文献】特開2009-291717(JP,A)
【文献】国際公開第2019/216152(WO,A1)
【文献】特開2013-063442(JP,A)
【文献】特開2009-215487(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合した
エレクトロクロミック素子を製造するための酸化タングステン粉末スラリーであって、
前記スラリー中の前記酸化タングステン粉末の粒度累積グラフはD
50が20nm以上10000nm以下、D
90が100000nm以下であり、
波長600nmの吸光度が1以下であり、
X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、
である酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項2】
D
50が500nm以下、D
90が1000nm以下である、請求項1記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項3】
前記酸化タングステン粉末の粒度頻度グラフはD
0からD
90の範囲内にピークが一つである、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項4】
前記スラリー中の前記酸化タングステン粉末の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項5】
アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含有している、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項6】
前記水系溶媒を除去したとき、前記酸化タングステン粉末の平均粒径は20nm以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項7】
カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウムのいずれか1種または2種以上を0.01質量%以上50質量%以下含有した酸化タングステン粉末を具備する、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項8】
波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が3以上である、請求項1ないし請求項
7のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリー。
【請求項9】
請求項1ないし請求項
8のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリーを用いた、エレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項10】
前記酸化タングステン粉末を、粒径0.05mm以上0.5mm以下の
酸化ジルコニウムを主成分とするビーズを用い
、分散器内の体積を100体積%としたときの前記ビーズの投入量を40体積%以上90体積%以下の範囲内としたビーズミルで解砕する工程と、解砕後の前記酸化タングステン粉末を前記水系溶媒と混合する工程を有する、請求項1ないし請求項
8のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【請求項11】
前記酸化タングステン粉末を前記水系溶媒と混合する工程において、前記分散器内の体積を100体積%としたときの水と前記酸化タングステン粉末を合計した投入量を10体積%以上60体積%以下の範囲内とする、請求項10に記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【請求項12】
前記ビーズミルで解砕する工程において、前記ビーズミルによる衝撃力は100G以上500G以下の範囲内にある、請求項10又は請求項11に記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【請求項13】
前記分散器の回転速度が7m/sec以上である、請求項12に記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【請求項14】
前記ビーズミルで解砕する工程における解砕時間は20分以上である、請求項10ないし請求項13のいずれか1項に記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、酸化タングステン粉末スラリーおよびその製造方法並びにそれを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化タングステン粉末は、エレクトロクロミック材料、電池用電極材料、光触媒、センサーなど様々な分野に用いられている。例えば、国際公開第2018/199020号公報(特許文献1)には、平均粒径50nm以下の酸化タングステン粉末が開示されている。特許文献1では、分光エリプソメトリー法により所定の値を具備するものを用いている。特許文献1のものでは、光触媒性能が向上することが示されている。また、エレクトロクロミック素子の応答速度が向上することが示されている。
例えば、エレクトロクロミック素子は、電荷のオンオフにより透明と着色を切り替えられるものである。特許文献1の酸化タングステン粉末を用いてエレクトロクロミック素子を形成したとき、透明性が低下すると言った問題が生じていた。この原因を追究したところ、酸化タングステン粉末の凝集性に問題があることが分かった。
エレクトロクロミック素子の電極層の形成は塗布工程を用いている。塗布工程は、酸化タングステン粉末を含有したペーストを用いている。ペーストは水系溶媒に有機バインダを混合したものである。ペーストの作製は、酸化タングステン粉末と水系分散液を混合したスラリーを用いている。スラリーにバインダ等の有機物を混合してペーストにしている。
例えば、日本国特許第5641926号公報(特許文献2)では酸化タングステン粉末の粒径D50やD90を制御したスラリーが開示されている。特許文献2では酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合したスラリーになっている。特許文献2のスラリーを用いたとしても凝集性の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/199020号公報
【文献】日本国特許第5641926号公報
【文献】国際公開第2020/196720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のスラリーは酸化タングステン粉末の粒度分布が制御されている。酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合したスラリーを長時間放置すると、酸化タングステン粉末の凝集が起きていた。その結果、水系溶媒に添加したときの酸化タングステン粉末の粒度分布が維持できないといった現象が起きていた。
本発明はこのような問題に対応するためのものであり、長時間放置したとしても凝集を抑制できる酸化タングステン粉末スラリーを提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは、酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合した酸化タングステン粉末スラリーであって、スラリー中の酸化タングステン粉末の粒度累積グラフはD50が20nm以上10000nm以下、D90が100000nm以下であり、波長600nmの吸光度が1以下であり、X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、であることを特徴とするものである。当該酸化タングステン粉末スラリーは、エレクトロクロミック素子を製造するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーの粒度分布の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーのX線回折(2θ)の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーの吸光度の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、エレクトロクロミック素子の一例を示す図である。
【実施形態】
【0007】
実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは、酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合した酸化タングステン粉末スラリーであって、スラリー中の酸化タングステン粉末の粒度累積グラフはD50が20nm以上10000nm以下、D90が100000nm以下であり、X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、であることを特徴とするものである。
酸化タングステン粉末は、WO3-x、0≦x<0.3を満たすものであることが好ましい。酸化タングステン粉末は、インターカレーション(Intercalation)を示す性質を有している。インターカレーションとは、ナノ金属化合物粒子内に電子またはイオンが出入りする可逆反応のことである。インターカレーション反応を活発に行うことにより半導体としての性能が向上する。加えて、電気を流すことまたは光を照射することによる電子の移動が活発になる。このため酸化タングステン粉末は、光触媒、エレクトロクロミック素子、電池用電極材料、センサーなど様々な分野に適した材料となる。
【0008】
また、エレクトロクロミック素子用材料または光触媒材料に用いるときは酸化タングステン粉末がWO3、x=0であることが好ましい。また、電池用電極材料、センサーに用いるときは酸化タングステン粉末がWO3-x、0<x<0.3であることが好ましい。WO3、x=0とは酸素欠損を有さないことを示している。酸素欠損を有さない方が凝集し難くなる。
【0009】
また、水系分散液とは、水を主成分とする液体のことである。水は純水であることが好ましい。水道水のように不純物が多いと、凝集性に影響を与える可能性がある。純水としては、JIS-K-0557(1998)に記載されたA1を満たすものである。
【0010】
スラリー中の酸化タングステン粉末の粒度累積グラフでは、D
50が20nm以上10000nm以下、D
90が100000nm以下である。
図1に実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーの粒度分布の一例を示した。図中、横軸は粒径(μm)、向かって左側の縦軸は頻度(%)、向かって右側の縦軸は累積(%)である。粒度累積グラフの値を用いるとき縦軸は累積(%)となる。粒度頻度グラフの値を用いるとき縦軸は頻度(%)となる。また、頻度(%)、累積(%)共に、個数割合である。D
50とは個数割合50%の段階の粒径である。D
90とは個数割合90%の粒径である。
【0011】
また、粒度分布の測定は、動的光散乱法により行うものとする。また、試料は、スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下のものを用いるものとする。スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量が0.1質量%より多い場合は希釈して試料にするものとする。スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量が0.01質量%未満の場合は、水分を取り除いて試料にするものとする。また、試料濃度を0.01質量%以上0.1質量%以下とするのは少ない量での凝集性を把握するためである。少ない量で凝集すると、濃度が高くなったときにより多くの凝集を生じるためである。希釈後1時間以内に測定するものとする。また、測定時間は30秒とする。同じ試料を3回測定し、その平均値を用いるものとする。なお、希釈後1時間を経過した試料は、十分に撹拌して、撹拌後1時間以内に測定するものとする。
動的光散乱法を用いた粒度分布の測定装置には、マイクロトラック社製ナノトラックUPA-EX又はそれと同等の装置を用いるものとする。一回の測定における測定時間を30秒とし、測定回数3回の平均値を測定結果とする。また、測定装置に入力する数値として、酸化タングステン粉末の屈折率は1.81、粒子形状は非球形、密度は7.3g/cm3とそれぞれし、体積分布で比率を計算するものとする。
動的光散乱法により求められる粒径は、1次粒子および2次粒子が混在したものである。1次粒子とは、いわゆる一つの粉末である。2次粒子とは粉末同士が凝集して一つの粉末となっている状態である。凝集した粒子のことを凝集粒子と呼ぶこともある。
【0012】
酸化タングステン粉末スラリーでは、スラリー中の酸化タングステン粉末の粒度累積グラフはD50が20nm以上10000nm以下、D90が100000nm以下である。粒度累積グラフ(粒径累積グラフ)のことを、単に、累積グラフと呼ぶこともある。
累積グラフのD50が20nm以上10000nm以下、D90が100000nm以下であるということは、大きな凝集粒子がないことを示している。D50が20nm(0.02μm)未満であると粒径が小さすぎて製造負荷が増大する可能性がある。また、D50が10000nm(10μm)を超えて大きいと、スラリーを長時間放置した際に凝集粒子が形成されてしまう。同様に、D90が100000nm(100μm)を超えているスラリーを長時間放置した際に凝集粒子が形成されてしまう。例えば、エレクトロクロミック素子では透明と着色を切り替えることになる。大きな凝集粒子が存在すると、光の透過率を向上させることが困難となる。
このため、累積グラフのD50は20nm以上10000nm以下、さらには500nm以下が好ましい。また、累積グラフのD90は100000nm以下、さらには1000nm以下が好ましい。
【0013】
また、スラリー中の酸化タングステン粉末をX線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、であることを特徴とする。
図2に実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーのX線回折(2θ)の一例を示した。図中、縦軸はX線回折強度、横軸は回折角度(2θ)である。
X線回折装置にはBruker製D8 ADVANCE、検出器には高速一次元検出器YNEYE-XE、X線管球にはKFL-Cu-2KDC又はそれと同等のものを用いるものとする。
X線回折の測定方法は、Cuターゲット、管電圧40kV、管電流40mA、操作軸2θ/θ、走査範囲(2θ)10°~60°、走査スピード0.1°/秒、ステップ幅0.02°にて測定する。また、試料は、スラリー中の酸化タングステン粉末濃度が10質量%以上40質量%以下のものを用いるものとする。なお、推奨される試料としては、スラリー中の酸化タングステン粉末濃度が30質量%のものが挙げられる。酸化タングステン粉末の濃度が異なるときは、水系溶媒の除去または添加で調整するものとする。また、試料は深さ1mmのセル(容器)に入れる。セルに入れたスラリーの表面が反射面となるように高さを調節するものとする。試料の酸化タングステン粉末の濃度を10質量%以上40質量%以下にするのは、測定し易くするためである。セルに入れたスラリー表面を反射面とすることも測定し易くするためである。
【0014】
また、半値幅は29°±1°に検出される最強ピークを用いて求めるものとする。半値幅の測定は、ピークの根元部分のうち、小さい方の値を基準値とする。基準値からピークトップまでの位置をピーク高さとする。ピーク高さの半分の位置のピークの幅を半値幅とした。なお、29°±1°に検出される最強ピークとは、28°~30°の中で検出されるピーク強度比が最も大きいピークを示す。そのため、この範囲以外で大きなピークが存在していてもよいものである。
X線回折は、酸化タングステン粉末の結晶性を示すものである。結晶性が良いと半値幅が小さいシャープなピークが得られる。X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、であるということは結晶欠陥が抑制されていることを示している。結晶性が良いことにより、スラリーを長時間放置したとしても凝集が発生し難くなる。結晶欠陥とは、結晶配列の乱れである。結晶構造の原子配列の規則性が必要以上に崩れていることを示している。結晶欠陥が入ることで、バンドギャップの伝導体の下端に欠陥が入り、見かけのバンドギャップが狭まる。これにより、可視光域に吸収が生まれ、透過率が減少する。
半値幅の下限値は特に限定されるものではないが、0.1°以上であることが好ましい。半値幅が0.1°未満である場合は結晶の繰り返し性が高いことを意味している。これは一次粒子が20nmを超えるものが多いことを示している。一次粒子径が大きくなると、透過光が散乱するため、透過率が全波長で低下する可能性がある。さらに、スラリーでの安定性も粒径が大きいため低下する。また、一次粒子サイズが大きいと凝集粒子はさらに大きくなる。凝集粒子が大きくなるとD50が過剰に高くなりやすい傾向がある。このため、X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅は0.1°以上2°以下が好ましい。
前述のように粒度分布と結晶性を具備することにより、凝集を抑制できるスラリーを提供することができるのである。
【0015】
また、酸化タングステン粉末の粒度頻度グラフはD0からD90の範囲内にピークが一つであることが好ましい。粒度頻度グラフのことを単に頻度グラフと呼ぶこともある。頻度グラフのピークとは、頻度グラフにおける、上がる→頂点(ピークトップ)→下がる、を一つのピークと見なし、そのうちピークトップが1%以上の凸状になったものをピークにカウントする。頻度グラフのD0からD90の範囲内に含まれるピークが一つであるということは、上がる→頂点→下がるの組合せが一つしかないことを示している。これは頂点(ピークトップ)の粒径を中心に粒度分布が形成されていることを示している。例えば、小さな粒度にピークと大きな粒度にピークがあると、大きな粒径が実質的に凝集粒子となってしまう可能性がある。つまり、累積グラフのD50、D90だけでなく、頻度グラフの形状も重要であることを示している。
また、スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。酸化タングステン粉末の量が5質量%未満では、含有量が少ないため、塗布工程の効率が低下する可能性がある。また、酸化タングステン粉末の量が50質量%を超えて多いと、スラリーとしての流動性が低下する可能性がある。流動性の低下は凝集粒子を形成し易くなる。このため、スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量は、5質量%以上50質量%以下、さらには10質量%以上40質量%以下の範囲内が好ましい。
また、スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量は、水系溶媒と混合する際の添加量で調整することができる。
【0016】
また、酸化タングステン粉末スラリーから酸化タングステン粉末の含有量を求める方法は次の通りである。まず、ガラス容器の質量を測定する。ガラス容器の質量を質量Aとする。次に、ガラス容器にスラリーを4g~5gを目安に入れる。スラリーが入ったガラス容器の質量を測定する。スラリーが入ったガラス容器の質量を質量Bとする。また、質量Bは、0.1mgの精度で測定可能な精密天秤を用いるものとする。次に、120℃に加熱したホットプレート上にスラリーの入ったガラス容器を配置する。スラリーの液体が完全に蒸発するまで乾燥を行うものとする。乾燥後のガラス容器を室温まで冷ます。その後、乾燥後のガラス容器の質量を測定する。乾燥後のガラス容器の質量を質量Cとする。スラリー中の酸化タングステン粉末の質量(%)は、[(質量C-質量A)/(質量B-質量A)]×100%により求めるものとする。
【0017】
また、水系溶媒はアルコールを含有していてもよい。水系溶媒とは水を主成分とする液体のことである。ここでいう水を主成分とするとは、溶媒が水を50質量%以上含有していることを示す。水を100質量部としたとき50質量部以下の範囲内でアルコールを含有してもよいものとする。
また、酸化タングステン粉末スラリーは、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含有していることが好ましい。アンモニア(NH3)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)はスラリーのpHを調整する効果がある。これらは水溶性でありpH調整に好適である。pHは2以上、さらには4以上であることが好ましい。pHを調整することにより、酸化タングステン粉末の表面電位を増加させることができる。表面電位が増加すると粉末間の斥力が大きくなる。斥力が大きくなると凝集粒子を形成し難くなる。なお、pHの上限は特に限定されるものではないが、pH8以下が好ましい。pHが8を超えて大きいとアルカリ性が強すぎて、塗布工程に悪影響を与える可能性がある。
加えて、酸化タングステン粉末スラリーのpHが8を超えると酸化タングステン粉末が溶解する可能性がある。酸化タングステン粉末が溶解すると粒径や結晶性に悪影響がでる可能性がある。
【0018】
また、水系溶媒を除去したとき、酸化タングステン粉末の平均粒径は20nm以下であることが好ましい。水系溶媒を除去した後の平均粒径が20nm以下であるということは凝集粒子が少ないことを示している。また、水系溶媒を除去した後の平均粒径の下限値は特に限定されるものではないが、5nm以上であることが好ましい。平均粒径が5nm未満の場合、粒子が小さいため結晶構造の繰り返し性が低くなる。結晶構造の繰り返し性が低下すると、良好なエレクトロクロミック特性を示せない可能性がある。また、20nmを超えて大きいと光散乱が大きくなるため、透過率が低下する可能性がある。さらに、エレクトロクロミック材料としては、粒径が大きいと粒子内のイオン拡散速度の影響が大きくなるため、色の変化速度が低下する可能性がある。
酸化タングステン粉末スラリー中の粒径と、水系溶媒を除去したときの粒径が見かけ上異なって見える。これは、水系溶媒を除去することにより、酸化タングステン粉末の一次粒子の粒界がはっきり見えるためである。
水系溶媒を除去したときの酸化タングステン粉末の平均粒径の測定方法は次の通りである。ガラス容器にスラリーを入れる。スラリーの入ったガラス容器を120℃に加熱したホットプレート上に配置する。水系溶媒を完全に除去する。ガラス容器に残った試料を取り出して、TEM(走査型透過電子顕微鏡)観察する。TEMは倍率1,000,000で測定するものとする。TEM写真に写る酸化タングステン粉末の最も長い対角線を粒径とする。酸化タングステン粉末同士が重なっているものは凝集粒子であるため、重なっている部分については一つの粉末の輪郭をカウントする。この作業を20粒行い、その平均値を平均粒径とする。
【0019】
また、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)のいずれか1種または2種以上を0.01mol%以上50mol%以下含有した酸化タングステン粉末を具備していてもよいものとする。酸化タングステン粉末にこれら元素を含有させることにより、酸化タングステン粉末の導電率を大きくすることができる。また、これらの元素は結晶性を低下させずに含有させることができる。例えば、エレクトロクロミック素子のように電気を印加する分野においては、導電率が大きくなることにより色変化の反応を早くすることができる。含有量が0.01mol%未満では含有させる効果が不足する。また、含有量が50mol%を超えると、酸化タングステンの良さを活かせなくなる。このため、含有量は0.01mol%以上50mol%以下、さらには1mol%以上20mol%以下が好ましい。また、カリウムなどを含有した酸化タングステン粉末を用いる場合、スラリー中の酸化タングステン粉末の少なくとも1部がカリウムなどを含有しているものであればよい。また、スラリー中の酸化タングステン粉末のすべてがカリウムなどを含有したものであってもよい。
なお、カリウム等の含有量には、上述したスラリーのpH調整のために添加するKOH等は含まれない。ここでいう酸化タングステン粉末におけるカリウム等の含有量とは、あくまで酸化タングステンの粉末粒子中にカリウム等を含有したときの含有量である。また、カリウム等の含有量は、例えば、0.01質量%以上50質量%以下であり得る。
【0020】
また、スラリーは波長600nmの吸光度が1以下であることが好ましい。また、波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が3以上、であることが好ましい。
吸光度の測定は次の方法で行うものとする。まず、光路長1cmの石英セルを用意する。試料として酸化タングステン粉末の濃度が0.01質量%のスラリーを用意する。また、リファレンスとして純水のみの試料を用意する。吸光度測定装置に、試料とリファレンスをセットする。波長300nm~800nmをステップ幅1nmで測定するものとする。
吸光光度計装置には、島津製作所製UV-2700i又はそれと同等のものを用いるものとする。
スラリーの波長600nmの吸光度が1以下であるということは、可視光の透過性が良いことを示している。可視光の透過性が良いということは透明性が高いことを示している。例えば、エレクトロクロミック素子では窓ガラスに適用することもある。また、光触媒では壁に塗布することもある。透明性が高いと外観を変えてしまうと言った不具合を低減することができる。このため、使い勝手のよいスラリーと言える。
また、スラリーついての波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が3以上であるということは、紫外線は通し難く、可視光は通し易いことを示している。例えば、窓ガラスに適用した際に紫外線は通し難く、可視光は通し易い塗布膜を形成することができる。
また、波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度の比の上限は特に限定されるものではないが、25以下であることが好ましい。
波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が3未満である場合、粒子が大きいため、光が散乱され全波長で透過率が減少している可能性がある。または、粒子が過剰に解砕され、結晶構造に欠陥が導入されている可能性がある。波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が25を超えると粒子が5nmよりも小さくなっており、エレクトロクロミック材料として色変化率が低下する可能性がある。このため、波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度の比は3以上25以下、さらには3以上15以下が好ましい。
【0021】
以上のような酸化タングステン粉末スラリーは、凝集粒子の発生を抑制できる。さらに、長時間放置したとしても凝集粒子の発生を抑制することができる。酸化タングステン粉末スラリーは、酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合したものである。長時間放置するとスラリー中の酸化タングステン粉末は沈降していく。この結果、酸化タングステン粉末の凝集粒子が発生していたのである。実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは、24時間以上放置したとしても凝集粒子の発生を抑制することができる。
【0022】
このような酸化タングステン粉末スラリーは、エレクトロクロミック材料、電池用電極材料、光触媒材料、センサー材料など様々な分野に適用することができる。
エレクトロクロミック素子は、電荷を付与することで光物性に可逆変化が起きる素子である。これにより、透明状態と着色状態を切り替えることができる。
また、光触媒は、光触媒材料と気体(例えば、空気)が触れることにより、気体中の有害物質(例えば、アセトアルデヒド)の分解を行うものである。
また、電池用電極材料は、Liイオン2次電池やキャパシタの電極材料に用いるものである。
また、センサーとしては、ガスセンサーが挙げられる。例えば、メタンガス(CH4)含有雰囲気中に酸化タングステン粉末を具備するセンサーを配置する。酸化タングステン粉末に吸着するメタンガスの量に応じて、電気抵抗値が変化する。この性能を利用してメタンガスセンサーにすることができる。
【0023】
各用途に適用するために塗布膜を形成することになる。塗布膜はペーストを用いて行うものである。ペーストとは、酸化タングステン粉末スラリーに有機物を混合したものである。有機物としてはバインダなどが挙げられる。有機物を混合しているため、ペーストはスラリーよりも粘性が高くなる。実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは凝集粒子の発生を抑制しているため、それを用いたペーストでも凝集粒子の発生を抑制することができる。また、酸化タングステン粉末スラリーを24時間以上放置したとしても凝集粒子の発生を抑制できるので、使い勝手の良いものである。
【0024】
また、係る酸化タングステン粉末スラリーは、エレクトロクロミック素子を製造するためのものであることが好ましい。前述のように酸化タングステン粉末スラリーは、可視光の透過性に優れている。このため、可視光の透過性に優れた塗布膜を得ることができる。エレクトロクロミック素子は、電荷のオンオフにより、透明と着色を切り替えることができる。エレクトロクロミック素子はディスプレイや調光システムに使われている。調光システムとしては、調光ガラス、調光眼鏡、防眩ミラーなどが挙げられる。また、調光システムは、車両、航空機、建物など様々な分野で使われている。例えば、調光ガラスとして建物の窓ガラスに用いると、太陽光の入射のオンオフを切り替えることができる。また、紫外線の透過を抑制することもできる。言い換えると、太陽光の入射のオンオフを制御するためのエレクトロクロミック素子に好適と言える。
図4にエレクトロクロミック素子の一例を示した。図中、1はガラス基板、2は透明電極、3はエレクトロクロミック層、4は対向電極、5が電解液、10はセル、である。
図4はエレクトロクロミック素子のセル構造の概略図である。また、ガラス基板1は光の透過性がよい。光透過を望まない場合はガラス基板でなくてもよい。また、透明電極2にはITOなどの材料が挙げられる。
エレクトロクロミック層3は、実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーを用いたものである。酸化タングステン粉末ペーストを透明電極2上に塗布、乾燥することにより、エレクトロクロミック層3が形成される。乾燥工程は120℃以上270℃以下の範囲内が好ましい。
対向電極4は白金などが挙げられる。対向電極4は図示しないガラス基板上に設けられている。また、エレクトロクロミック層3と対向電極4の間には電解液5が充填されている。また、電解液5の周囲を封止されている。透明電極2と対向電極4に電圧を印加するとエレクトロクロミック層3が透明になる。
【0025】
次に実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーの製造方法について説明する。実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは上記構成を有していればその製造方法は限定されるものではないが歩留まり良く得るための方法として次のものが挙げられる。
まず、酸化タングステン粉末を用意する。酸化タングステン粉末は平均粒径が10μm以下、さらには50nm以下のものであることが好ましい。酸化タングステン粉末の製造方法は昇華工程や液相合成工程を利用する方法が挙げられる。昇華工程は、プラズマ処理、アーク処理、レーザ処理または電子線処理のいずれか1種が好ましい。この中ではプラズマ処理が好ましい。プラズマ処理は特許文献1、特許文献2に例示される。また、液相合成工程は、溶液に金属化合物の前駆体を溶解し、溶液のpHまたは温度を変化させることで、金属化合物を析出させて作製する方法である。液相合成工程は、国際公開第2020/196720号公報(特許文献3)に例示される。
また、カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウムのいずれか1種または2種以上を含有させるときは、昇華工程または液相合成工程を行う際に添加することが好ましい。
【0026】
次に、酸化タングステン粉末を解砕する解砕工程を行うものとする。解砕工程はビーズミル(bead milling)であることが好ましい。酸化タングステン粉末は凝集し易い。そのため、解砕工程により凝集粒子(2次粒子)を一次粒子にすることが必要である。
ビーズミル(bead mill)とは、ビーズと呼ばれるメディアを使った媒体粉砕機である。また、ビーズは粒径0.05mm以上0.5mm以下のものであることが好ましい。また、ビーズは酸化ジルコニウムを主成分とするものであることが好ましい。
解砕工程としてはボールミル(ball milling)がある。ボールミルは直径2mm以上のメディアを用いる方法である。直径2mm以上の大きなメディアでは十分な解砕ができないのである。また、ホモジナイザーを使った解砕工程についても十分な解砕ができない。ホモジナイザーとは、固定刃と回転刃を組合わせた解砕装置である。メディアを用いない方法であるため、十分な解砕ができないのである。そのため、ビーズミルの方がよい。
また、ビーズの粒径が0.05mm未満またはビーズの粒径が0.5mmを超えて大きいと、解砕効率が低下する可能性がある。このため、ビーズの粒径は、0.05mm以上0.5mm以下、さらには0.1mm以上0.3mm以下が好ましい。
【0027】
また、ビーズは酸化ジルコニウムを主成分とするものが好ましい。ビーズには、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ソーダガラスなどがある。酸化ジルコニウム製ビーズは酸化タングステン粉末への攻撃性が低い。つまり、解砕を効率的に行えると共に酸化タングステン粉末へのダメージが少ない。このため、酸化タングステン粉末は結晶欠陥を発生し難くなる。
結晶欠陥の発生を抑制することにより、X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、にすることができる。なお、酸化ジルコニウム製ビーズは、酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックス焼結体であり、焼結助剤を含有していてもよいものである。
ここでいう酸化ジルコニウムを主成分とするとは、ビーズ1個において、酸化ジルコニウムを50質量%以上含有することを示す。また、酸化ジルコニウムの含有量は90質量%以上であることが好ましい。
【0028】
次に、解砕工程を行った酸化タングステン粉末を水系溶媒に添加する工程を行う。また、水系分散液とは、水を主成分とする液体のことである。水は純水であることが好ましい。水道水のように不純物が多いと、凝集性に影響を与える可能性がある。純水としては、JIS-K-0557(1998)に記載されたA1を満たすものである。また、水系溶媒には、アルコールを含有していてもよい。水を100質量部としたとき50質量部以下の範囲内でアルコールを含有してもよいものとする。
また、スラリー中の酸化タングステン粉末の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内にすることが好ましい。
また、必要に応じ、酸化タングステン粉末スラリーは、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含有していることが好ましい。これらは水溶性でありpH調整に好適である。pHは2以上、さらには4以上であることが好ましい。pHを調整することにより、酸化タングステン粉末の表面電位を増加させることができる。表面電位が増加すると粉末間の斥力が大きくなる。斥力が大きくなると凝集粒子を形成し難くなる。なお、pHの上限は特に限定されるものではないが、8以下のpHが好ましい。
アンモニアなどは、一方ではpH調整に有効な成分である。他方、アンモニアは取扱いの難しい成分である。取扱いの容易さを考慮すると、不要ならばアンモニアなどの添加を省略することが好ましい。
水と酸化タングステンを混合した後に、撹拌機または超音波により撹拌を行うことが好ましい。
【0029】
また、ビーズミルは分散器内へのビーズの充填率を40体積%以上90体積%以下の範囲内とすることが好ましい。ビーズの充填率は、分散器内の体積を100体積%としたときのビーズの投入量である。ビーズの充填率が40体積%以上90体積%以下の範囲内であると、ビーズと酸化タングステン粉末の接触を均一化することができる。このため、ビーズの充填率は40体積%以上90体積%以下、さらには60体積%以上80体積%以下が好ましい。
また、ビーズミルの分散器内への水と酸化タングステン粉末を合計した投入量は、分散器内の体積を100体積%としたとき、10体積%以上60体積%以下の範囲内が好ましい。ビーズミルは、ビーズを投入した分散器を回転させるまたは、分散器内に設けた撹拌羽でビーズを回転させるものである。ビーズと酸化タングステン粉末を合計した投入量が多すぎると回転に伴う衝撃力が低下する可能性がある。また、ビーズと酸化タングステン粉末を合計した投入量が少なすぎると製造効率が低下する。このため、分散器への投入量は10体積%以上60体積%以下、さらには20体積%以上40体積%以下が好ましい。なお、アンモニアなどを添加した場合は、アンモニアも水に含めて投入量を算出するものとする。
また、ビーズミルによる衝撃力は100G以上500G以下の範囲内になるようにすることが好ましい。このような衝撃力にするためには分散器の回転速度を、7m/sec以上にすることが好ましい。また、解砕時間は20分以上であることが好ましい。
【0030】
以上の工程により、酸化タングステン粉末スラリーを製造することができる。この後、容器に投入して保管することができる。また、容器は酸化タングステン粉末スラリーにより変質し難いものを選ぶものとする。このような容器としてはガラス容器またはポリマー製容器が好ましい。
実施形態に係る酸化タングステン粉末スラリーは、凝集粒子の形成を抑制できる。このため、静置状態で保管したとしても凝集粒子の形成を抑制できるのである。
【0031】
(実施例)
(実施例1~6、比較例1~6)
プラズマ処理により、酸化タングステン粉末を用意した。実施例1~3は酸化タングステン粉末とした。実施例4はカリウムを5mol%添加した酸化タングステン粉末とした。実施例5はナトリウムを4mol%添加した酸化タングステン粉末とした。実施例6はリチウムを2mol%添加した酸化タングステン粉末とした。スラリーとする前の平均粒径は表1に示した通りである。
水系分散液として純水を用意した。純水はJIS-K-0557(1998)に記載されたA1を満たすものである。また、pH調整剤としてアンモニアを用意した。
酸化タングステン粉末と水を混合した。また、必要に応じ、アンモニアを添加してpHを調製した。この工程により、酸化タングステン粉末スラリーとなる。
次に、酸化タングステン粉末スラリーに対して解砕工程を行った。解砕工程は表1に示した条件である。メディアとは、ビーズミルにおけるビーズ、ボールミルにおけるボールのことである。また、分散器内のメディア投入量とは、分散器内の体積を100体積%としたときの投入したメディアの合計体積%である。また、分散器内のスラリー投入量とは、分散器内の体積を100体積%としたときの投入した酸化タングステン粉末スラリーの体積%である。また、ビーズミルの分散器の回転速度を7m/sec以上とした。
比較例1はボールミルを用いたものである。比較例2はビーズの粒径を小さくしたものである。また、比較例3はAl2O3製ビーズを用いたものである。比較例4はビーズの投入量を減らしたものである。比較例5はホモジナイザーを用いたものである。比較例6は解砕工程を行わなかったものである。
【0032】
【0033】
上記工程により、解砕工程を行った酸化タングステン粉末スラリーを作製した。実施例1、実施例3および比較例1、比較例2、比較例4はアンモニアを添加してpHを調整したものである。
酸化タングステン粉末スラリーを、ポリマー製容器に収納した。表2に示した時間を静置状態にした。その後、粒度分布、X線回折、吸光度の測定を行った。粒度分布、X線回折、吸光度の測定方法は前述の方法を用いた。その結果を表3に示した。
【0034】
【0035】
【0036】
表3に示したD50及びD90は、スラリーを試料として動的光散乱法により求めた値である。また、表2の粒子径は、スラリーの水分を除去して得られた酸化タングステン粉末のTEM観察により求めた値である。さらに、表2の酸化タングステン粉末の含有量は、スラリーの水分を除去して残った酸化タングステン粉末の質量を測定して求めた値である。
表から分かる通り、実施例に係る酸化タングステン粉末スラリーは、24時間(1日)以上静置状態であったとしても凝集粒子が形成されていないことは分かった。また、粒度頻度グラフにおいてD0からD90までの範囲内にあるピークは一つであった。また、波長600nmの吸光度は1以下であった。また、波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度の比は3以上であった。紫外線を遮断し、可視光を透過していることが分かった。
それに対し、比較例1は半値幅が2°を超えていた。比較例2、比較例4は結晶性が悪いため、吸光度が低下した。また、比較例1、比較例3、比較例5、比較例6は凝集粒子が多く発生しているため、吸光度が低下した。
【0037】
次に、実施例および比較例に係る酸化タングステン粉末スラリーを用いてエレクトロクロミック素子を作製した。各スラリーにバインダを添加し、ペーストとした。ペーストを用いて塗布工程を行いエレクトロクロミック層を形成した。
透過率測定用エレクトロクロミック素子として
図4に示した構造を有するものとした。幅8mmのガラス基板1上に透明電極2を設けた。透明電極2はITOとした。透明電極2上に酸化タングステン粉末ペーストを塗布した。約200℃で乾燥することによりエレクトロクロミック層3とした。これを光路長1cmのガラス石英セルに配置した。セル内に、電解液を充填した。また、対向電極4として白金を用いた。対向電極4をセル内に配置した。対向電極4は透過率測定の光と重ならないように配置した。
透明電極2と対向電極4に電圧を印加することで測定した。透明時は電極に正の電圧を印加し、色の変化を観察しながら透過率が変化しなくなるまで進める。透過率が変化しなくなったら電圧の印加を止め、5分以内に測定した。エレクトロクロミック素子の透明時の波長600nmの透過率を測定した。
その結果を表4に示す。
【0038】
【0039】
表から分かる通り、実施例に係るスラリーを用いたエレクトロクロミック素子は波長600nmの透過率が大きいことが分かる。このため、正の電圧を印加した後は透明性の高い素子となることが分かる。それに対し、比較例1-3及び比較例5-6のものは透過率が低下した。
また、
図3に実施例1、実施例3および比較例1の吸光度を測定した結果を示した。図中、縦軸は吸光度、横軸は波長である。図から分かる通り、実施例1および実施例3は可視光領域(400nm~800nm)の吸光度が低くなっている。つまり、波長600nm以外の可視光の透過性も良いのである。
なお、比較例4では、粒径が小さいため透過率は良好だった。しかしながら、酸化タングステンの結晶性が悪いため、色変化速度が遅かった。実施例にかかるエレクトロクロミック素子は色変化速度がいずれの比較例よりも早かった。このため、実施例に係る酸化タングステン粉末スラリーは透過率と色変化速度を両立できることが分かる。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
以下に、本願出願の国際出願時の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 酸化タングステン粉末と水系溶媒を混合した酸化タングステン粉末スラリーであって、
前記スラリー中の前記酸化タングステン粉末の粒度累積グラフはD
50
が20nm以上10000nm以下、D
90
が100000nm以下であり、
X線回折分析(2θ)したとき29°±1°に検出される最強ピークの半値幅が2°以下、
である酸化タングステン粉末スラリー。
[2] D
50
が500nm以下、D
90
が1000nm以下である、[1]記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[3] 前記酸化タングステン粉末の粒度頻度グラフはD
0
からD
90
の範囲内にピークが一つである、[1]ないし[2]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[4] 前記スラリー中の前記酸化タングステン粉末の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内である、[1]ないし[3]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[5] アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含有している、[1]ないし[4]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[6] 前記水系溶媒を除去したとき、前記酸化タングステン粉末の平均粒径は20nm以下である、[1]ないし[5]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[7] カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウムのいずれか1種または2種以上を0.01質量%以上50質量%以下含有した酸化タングステン粉末を具備する、[1]ないし[6]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[8] 波長600nmの吸光度が1以下である、[1]ないし[7]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[9] 波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度が3以上である、[1]ないし[8]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[10] エレクトロクロミック素子を製造するためのものである、[1]ないし[9]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリー。
[11] [1]ないし[10]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリーを用いた、エレクトロクロミック素子の製造方法。
[12] 前記酸化タングステン粉末を、粒径0.05mm以上0.5mm以下のビーズを用いたビーズミルで解砕する工程と、解砕後の前記酸化タングステン粉末を前記水系溶媒と混合する工程を有する、[1]ないし[10]のいずれか1つに記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
[13] 酸化ジルコニウムを主成分とするビーズを用いる、[12]記載の酸化タングステン粉末スラリーの製造方法。
【符号の説明】
【0041】
1…ガラス基板
2…透明電極
3…エレクトロクロミック層
4…対向電極
5…電解液
10…セル