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特許7671401電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート
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  • 特許-電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート 図1
  • 特許-電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/293 20210101AFI20250423BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250423BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20250423BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20250423BHJP
   F16L 59/07 20060101ALI20250423BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20250423BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20250423BHJP
   H01M 50/242 20210101ALI20250423BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20250423BHJP
   H01M 50/291 20210101ALI20250423BHJP
   C01B 33/158 20060101ALN20250423BHJP
   H01M 10/625 20140101ALN20250423BHJP
【FI】
H01M50/293
B32B9/00 A
C08J5/04 CFH
C08J9/26 101
F16L59/07
H01M10/6554
H01M10/658
H01M50/242
H01M50/249
H01M50/291
C01B33/158
H01M10/625
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024191884
(22)【出願日】2024-10-31
【審査請求日】2024-10-31
(31)【優先権主張番号】63/713,142
(32)【優先日】2024-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 翔太
(72)【発明者】
【氏名】武部 颯太
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113651592(CN,A)
【文献】特許第7364742(JP,B1)
【文献】国際公開第2023/100141(WO,A1)
【文献】特表2023-518231(JP,A)
【文献】特開2017-215014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第117691260(CN,A)
【文献】国際公開第2023/145883(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第114883736(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112151918(CN,A)
【文献】国際公開第2020/261729(WO,A1)
【文献】特開2019-099984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
F16L 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカエアロゲルと繊維を含み、
厚さ方向の一方の面及び他方の面に複数の空孔を有し、
前記一方の面の空孔の数の、前記他方の面の空孔の数に対する比率が1.3以上であり、前記空孔の数は、0.2μmよりも大きい径を有する空孔の数であり、
前記一方の面がより大きい応力又は振動を受ける側に、前記他方の面がより小さい応力又は振動を受ける側に、それぞれ配置される、
電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート。
【請求項2】
前記一方の面の空孔の数が25,000~225,000個/mである、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記他方の面の空孔の数が10,000~50,000個/mである、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
前記一方の面の表面粗さと前記他方の面の表面粗さSaの差が10μm以上である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項5】
前記一方の面の表面粗さと前記他方の面の表面粗さSaの差が30μm以上である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項6】
前記一方の面の表面粗さSaが60μm以上である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項7】
前記一方の面の表面粗さSaが80~100μmである、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項8】
前記他方の面の表面粗さSaが60μm未満である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項9】
前記他方の面の表面粗さSaが30~50μmである、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項10】
シリカエアロゲルと繊維を含み、
厚さ方向の一方の面及び他方の面に複数の空孔を有し、
前記一方の面の空孔の数が100,000~150,000個/m であり、
前記一方の面の空孔の表面粗さSaが80~100μmであり、
前記他方の面の空孔の数が20,000~30,000個/m であり、
前記他方の面の空孔の表面粗さSaが30~50μmであり、
前記空孔の数は、0.2μmよりも大きい径を有する空孔の数である、
電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート。
【請求項11】
前記一方の面及び他方の面の少なくとも一部を被覆するフィルムをさらに有する請求項12又は10に記載のシート。
【請求項12】
前記一方の面及び他方の面の少なくとも一部に積層される弾性体層をさらに有する請求項1又は10に記載のシート。
【請求項13】
前記一方の面及び他方の面を被覆するフィルムと、前記一方の面又は他方の面にフィルムを介して積層される弾性体層をさらに有する請求項12又は10に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用バッテリーセル間断熱材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、複数のシリカ微粒子が連結して骨格をなし、骨格間に空気の平均自由行程よりも小さい細孔を有する。この微細な多孔性構造により、熱伝導率が小さく、車載部品、住宅用建材、産業機器等における断熱材の構成材料として有用である。
【0003】
シリカエアロゲルを含む断熱材は、表面の機械的強度が低い場合が多く、衝撃により粉落ちが生じることが問題とされている。例えば、自動車用バッテリー用の断熱材として利用した際に、バッテリーの熱による膨張により圧力を受けることで粉落ちが生じ、電子機器の性能を低下させるおそれがある。その解消策として、例えば、特許文献1、2には、シリカエアロゲルを含むシートにおいて繊維状鉱物繊維、ホットメルトパウダーを配合すること、表面をフィルムで封止すること等により、粉落ちの発生を抑制できることが記載されている。また、特許文献3には、シリカエアロゲルシートの一方の面に弾性体層を含む断熱弾性部材を設け、片方の面にカバー層を設けるか、又はシート及び全体を外装体で被覆することにより、粉落ちを抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2024-97328号公報
【文献】特開2023-132944号公報
【文献】特開2023-35097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のうちフィルムを形成する技術は、シリカエアロゲルシートに応力が加わった際に繊維と物理的・化学的に結合していたシリカエアロゲルが剥離し、エアロゲルの脱落(以下粉落ち)抑制を図るものではない。また、特許文献2の技術によれば、ホットメルトパウダーにより形成される硬化層がシートの断熱性能を低下させるおそれがある。
【0006】
シート表面のうち、バッテリーが膨張することにより生じる応力を受けるシート表面、振動発生源に近いシート表面では、応力や振動の伝達により粉落ちが発生しやすい傾向にある。エアロゲルの粉落ちが発生すると、断熱材シート内部のエアロゲル存在量に濃淡が発生し、部位によって断熱性能が十分に発揮されないおそれがある。
【0007】
本発明は、粉落ちを防ぐことのできる、シリカエアロゲルを含む電気自動車用バッテリーセル間断熱材シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、断熱材シート表面性状に注目した。すなわち、シートを水平方向から見た際の2表面におけるそれぞれの表面性状、例えば、空孔の数(分布)、表面粗さ等の形状、2表面におけるそれらの比率を所定の範囲内に調整することにより、空孔の数(分布)が相対的に多い、若しくは表面粗さが相対的に大きい一方の面と、空孔の数(分布)が相対的に少ない、若しくは表面粗さが相対的に小さい、他方の面を形成した。
その結果、一方の面は、シリカエアロゲルシートに応力・振動等が加わった際に繊維と物理的・化学的に結合していたシリカエアロゲルが剥離したとしても、空孔の数(分布)が多い、若しくは表面粗さが相対的に大きいため、剥離したシリカエアロゲルを捕捉することが容易となり、下部への粉落ちを抑制できることが確認できた。
また、他方の面では、シリカエアロゲルシートに加わる応力・振動等は少ないため、繊維と物理的・化学的に結合していたシリカエアロゲルが剥離し難い事に鑑みて、それ自体が粉落ちの原因となる空孔の数(分布)を少なく、若しくは表面粗さが相対的に小さくできることが確認できた。
これにより、シート全体として粉落ちを抑制できるので、断熱性能の低下を抑制できる。また、空孔の数(分布)が相対的に多い、若しくは表面粗さが相対的に大きい一方の面が所定の形状を有する及び/又はそれらが繊維で形成されることによりフィルム等との接着性を高めることができるため、シリカエアロゲルシートに応力・振動等が加わった際にフィルム等とシリカエアロゲルの剥離を抑制し、その結果、下部への粉落ちを抑制できる。
結果としてシート断熱性能を高い水準に維持できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の〔1〕~〔12〕を提供する。
〔1〕 シリカエアロゲルと繊維を含み、
厚さ方向の一方の面及び他方の面に複数の空孔を有し、
一方の面の空孔の数の、他方の面の空孔の数に対する比率が1.3以上である、電気自動車用バッテリーセル間断熱材シート。
〔2〕前記一方の面の空孔の数が25,000~225,000個/mである、〔1〕に記載のシート。
〔3〕前記他方の面の空孔の数が10,000~50,000個/mである、〔1〕又は〔2〕に記載のシート。
〔4〕前記一方の面の表面粗さと前記他方の面の表面粗さSaの差が10μm以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のシート。
〔5〕前記一方の面の表面粗さと前記他方の面の表面粗さSaの差が30μm以上である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のシート。
〔6〕前記一方の面の表面粗さSaが60μm以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のシート。
〔7〕前記一方の面の表面粗さSaが80~100μmである、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のシート。
〔8〕前記他方の面の表面粗さSaが60μm未満である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のシート。
〔9〕前記他方の面の表面粗さSaが30~50μmである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のシート。
〔10〕前記一方の面及び他方の面の少なくとも一部を被覆するフィルムをさらに有する〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のシート。
〔11〕前記一方の面及び他方の面の少なくとも一部に積層される弾性体層をさらに有する〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のシート。
〔12〕前記一方の面及び他方の面を被覆するフィルムと、前記一方の面又は他方の面にフィルムを介して積層される弾性体層をさらに有する〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粉落ちを防ぎ、良好な断熱性を示すことができる電気自動車用バッテリー断熱材シートを提供できる。すなわち、本発明によれば、シート両面における応力の差に対応し、粉落ちの発生を抑制できるので、全体としてシートの断熱性能を向上でき、電気自動車用バッテリーセル間断熱材シートとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のシートにおいて、一方の表面(表面A)を二値化した際の画像の例を示した図である。
図2図2は、本発明のシートにおいて、他方の表面(表面B)を二値化した際の画像の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0013】
本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0014】
本明細書において、段階的に記載されている数値範囲については、特にことわらない限り、ある段階の数値範囲の上限値または下限値を、他の段階の数値範囲の上限値または下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。
【0015】
本明細書において、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、特にことわらない限り、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
【0016】
[1.断熱材シートの材料]
断熱材シートは、シリカエアロゲルと繊維を有するシートである。
【0017】
[1.1 シリカエアロゲル]
本明細書において、シリカエアロゲルとは、一次粒子としてのシリカ微粒子が凝集して二次粒子を形成し、これを主体とする骨格と、その間の細孔とから形成される構造体である。
【0018】
-一次粒子の平均粒子径-
シリカエアロゲルの骨格をなすシリカ微粒子(一次粒子)の直径は、通常、2~5nm程度である。
【0019】
本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求められるメジアン径(D50)である。
【0020】
-細孔の大きさ-
シリカエアロゲルが有する細孔は、通常、その多くがメソ孔である。メソ孔は、直径50nm以下であり、空気の平均自由行程よりも小さい。そのため、空気の対流が制限され熱の移動が阻害され、断熱性能を発揮できる。下限は特に限定されないが、10nm以上が好ましい。
【0021】
シリカエアロゲルの形状は、球状、異形状の塊状など、特に限定されない。例えば、球状の場合には、最密充填しやすいため配合量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0022】
-二次粒子の平均粒子径-
シリカエアロゲルを構成する粒子(主に二次粒子)の平均粒子径は、通常、1μm以上、好ましくは10μm以上である。粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔容積が大きくなるため、断熱性向上効果が向上し得る。上限は、特に限定されないが、例えば200μm以下である。平均粒子径は、電子顕微鏡観察により測定できる。
【0023】
断熱材シートは、1種類のシリカエアロゲルを含んでもよいし、異なる2種以上のシリカエアロゲルを含んでもよく、粒子径が互いに異なる、2種以上のシリカエアロゲルを含むことが好ましい。これにより、小径のシリカエアロゲルが大径のシリカエアロゲル間の隙間に入りこむため、充填量を増やすことができ、断熱性をより向上させることができる。
【0024】
シリカエアロゲルは、後述するバインダーなどを含んだ液状(スラリー状を含む)の塗液を繊維に含浸させ、乾燥して形成してもよい。また、シリカエアロゲルを、その前駆体であるゾル状態で繊維に含浸させ、それを加熱するなどしてゲル化、乾燥して形成してもよい。
【0025】
シリカエアロゲルは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0026】
[1.2 繊維(補強繊維)]
繊維としては、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、石英繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維、金属繊維(例、アルミニウム、鉄)等の無機繊維;ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリオレフィン繊維(例、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維)、フッ素繊維(例、ポリテトラフルオロエチレン繊維)、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリアリレート繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、ポリエーテルスルホン(PES)繊維、ポリエーテルイミド(PEI)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維等の有機繊維が挙げられる。繊維は、木材繊維、絹、麻、羊毛繊維等の天然繊維でもよい。これらのうち、強度及び/又は耐熱性を有する繊維が好ましく、無機繊維がより好ましく、ガラス繊維がさらに好ましい。繊維は、非連続的な繊維;複数束;及び不織布、織布等の布、のいずれか、又はこれらの組合せである。断熱性シートに含まれる繊維は、好ましくは布、より好ましくは不織布を含む。これにより、機械的強度をより向上させることができる。繊維として、穴あき加工、毛羽立ち処理がなされた布(好ましくは不織布、より好ましくはガラス製不織布)を用いることにより、シート表面の空孔比、表面粗さを容易に調整できる。
【0027】
[1.3 任意成分]
断熱材は、シリカエアロゲル及び繊維以外の任意成分を含んでもよい。任意成分としては、例えば、バインダー、増粘剤が挙げられる。
【0028】
-バインダー-
バインダーを添加することにより、高温雰囲気における劣化を低減でき、クラックを抑制できる。バインダーは無機材料、有機材料のいずれでもよい。
無機材料としては、タルク、カーボンブラック、カオリナイト、モンモリナイト、マイカ、シリカ(例、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、溶融法シリカ)、ワラストナイト、ケイ酸マグネシウム、チタニア、金属炭化物(例、炭化ケイ素、炭化チタン、又は炭化タングステン)、金属酸化物(例、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化銀、三酸化ビスマス、酸化クロミウム、酸化鉄、アルミナ、ジルコニア、二酸化マンガン)、金属窒化物(例、窒化ケイ素、窒化アルミニウム)、イルメナイト、ジルコニウムシリケート、チタン酸カリウム)、ガラスフレーク、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水硬性材料(例、セメント、石こう、ケイ酸マグネシウム)、生石灰、消石灰これらの組合せが挙げられる。これらのうち、必要に応じて適切な材料を選択できる。例えば、シリカは、シリカエアロゲルと相溶しやすく、安価で入手しやすい点で好ましい。また、水硬性材料は、シリカエアロゲルの製造の際に通常用いられる溶媒である水と反応しながら、シリカ粒子の間の隙間を埋めながらバインダー化することで高強度な断熱層を形成でき、安価で入手しやすい点で好ましい。また、比表面積、硬度が大きいものを選択してもよい。
【0029】
有機材料は、水性バインダー(水に溶解又は分散可能(エマルジョンを形成可能)なバインダー)が好ましく、シリカエアロゲルに親水基を付与する物質でもよいし、いわゆる界面活性剤でもよい。
【0030】
有機材料のガラス転移温度(Tg)は、-5℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましい。これにより、シリカエアロゲルに対する粘着性が良好となり得るほか、シートの柔軟性を向上させることができ、クラックを抑制できる。
【0031】
有機材料であるバインダーとしては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物等の樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴムが挙げられ、ウレタン樹脂、SBRが好ましい。これにより、シートの柔軟性を向上させることができ、フレキシブルなシートを実現できる。バインダーを用いる場合、さらに、架橋剤を併用してもよい。これにより、バインダーを架橋させることができるので、シートの強度をさらに向上させることができる。
【0032】
-増粘剤-
増粘剤を用いることにより、シリカエアロゲルの溶媒(通常は水)への分散性を高め、加工性を高めることができる。また、シートへの柔軟性の付与、クラック抑制も可能である。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、カラギナン、グルコマンナン等の多糖類;ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0033】
-難燃剤-
難燃剤を用いることにより、シートの難燃性を高めることができる。難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、金属水酸化物系難燃剤が挙げられ、リン系難燃剤(例、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステル)が好ましく、水に不溶なリン系難燃剤がより好ましく、ポリリン酸アンモニウムが更に好ましい。
【0034】
任意成分は、上記の成分に限定されない。例えば、保存剤、着色剤、赤外線遮蔽粒子、放射線吸収/反射材から選ばれる1種又は2種以上を用いてもよい。
【0035】
[1.4 組成]
-シリカエアロゲルの含有量-
断熱材シートにおけるシリカエアロゲルの含有量は、断熱材シートの全質量100質量%に対し、通常、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。これにより、断熱効果をより発揮できる。上限は、通常、60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。これにより、機械的強度の低下を抑制でき、いわゆる粉落ちを抑制できる。
【0036】
-繊維の含有量-
断熱材シートにおける繊維の含有量は、断熱材シートの全質量100質量%に対し、通常、20質量%以上、好ましくは30質量%以上である。これにより、機械的強度がより向上し得る。上限は、通常、70質量%以下、好ましくは60質量%以下である。これにより、含有量に見合う機械的強度を発揮できる。
【0037】
[2.断熱材シート]
断熱材シートは、上記材料より構成され、下記の形状、物性のうち1以上を満たすことが好ましい。
【0038】
[2.1 シート厚み]
断熱材シートは、通常、平板状である。シートの厚みは、特に限定されないが、例えば、10mm以下、8mm以下、3mm以下、2.5mm以下、又は2mm以下である。これにより、適度な厚みの範囲内でシートの強度を保持できる。下限は、通常、0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、1mm以上である。厚みは、略均一であることが好ましく、厚みの変動が、例えば5%以下、4%以下、3%以下、でもよい。
【0039】
[2.2 表面の形状]
断熱材シートは、その表面(水平方向から見て一方の面と他方の面)に凹凸、空孔(開口部)等を有する。空孔は、通常、複数開口しており、ランダムに存在していてもよい。空孔の形状は、特に限定されず、円形、多角形、不定形でもよい。凹凸は、通常、一定ではなく、偏って存在する場合もある。
【0040】
シート表面の性状は、シートの2表面、すなわち、シートの厚さ方向から見て一方の面と他方の面において異なる。これにより、例えば、空孔の数(分布)が相対的に多い、若しくは表面粗さが相対的に大きい一方の面(以下表面Aと言う)は、シリカエアロゲルシートに応力・振動等が加わった際に繊維と物理的・化学的に結合していたシリカエアロゲルが剥離したとしても、空孔の数(分布)が多い、もしくは表面粗さが大きいため、剥離したシリカエアロゲルの捕捉が容易となり、下部への粉落ちを抑制できる。また、表面Aが所定の形状を有する及び/又はそれらが繊維で形成されることによりフィルム等との接着性を高めることができるため、シリカエアロゲルシートに応力・振動等が加わった際にフィルム等とシリカエアロゲルの剥離を抑制し、その結果、下部への粉落ちを抑制できる。
【0041】
一方、空孔の数(分布)が相対的に少ない、若しくは表面粗さが相対的に小さい他方の面(以下、表面Bと言う)は、シリカエアロゲルシートに加わる応力・振動等は少ないため、繊維と物理的・化学的に結合していたシリカエアロゲルが剥離し難い事に鑑みて、それ自体が粉落ちの原因となる空孔の数(分布)、もしくは表面粗さの大きさを少なくできる。
【0042】
以上説明したとおり、シート表面の性状が異なることにより、シート全体として粉落ちを抑制できるので、断熱性能の低下を抑制できる。
【0043】
-空孔の数-
空孔の数は、表面A及びBにおいて、空孔の数は互いに異なる。表面Aの空孔の数の表面Bの空孔の数に対する比率は、好ましくは1.3以上、2.0以上、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.7以上、4.0以上である。上限は、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.0以下である。従って比率の好ましい範囲は、1.3以上、より好ましくは1.3~9.0、1.3~8.0.1.3~7.0、2.0~9.0、2.0~8.0、2.0~7.0、2.2~9.0、2.2~8.0、2.2~7.0、2.7~9.0、2.7~8.0、2.7~7.0、4.0~9.0、4.0~8.0、4.0~7.0である。これにより、表面Bは粉落を防いで断熱性を、表面Aは粉落ち防止や接着性向上により断熱性を、それぞれより良好に発揮できる。
【0044】
表面Aの空孔の数は、好ましくは25,000個/m以上、より好ましくは35,000個/m以上、さらに好ましくは50,000個/m以上である。これにより、シート表面から脱落する粉を捕捉し、粉落ちを抑制できる。上限は、好ましくは225,000個/m以下、より好ましくは200,000個/m以下、さらに好ましくは150,000個/mである。これにより、空孔自体のシート表面からの脱落を抑制し、粉落ちを抑制できる。従って、好ましくは25,000~225,000個/m、より好ましくは35,000~200,000個/m、さらに好ましくは50,000~150,000個/mである。
【0045】
表面Bの空孔の数は、好ましくは10,000個/m以上、より好ましくは20,000個/m以上である。これにより、シート表面から脱落する粉を捕捉し、粉落ちを抑制できる。上限は、好ましくは50,000個/m以下、より好ましくは30,000個/m以下である。これにより、空孔自体のシート表面からの脱落を抑制し、粉落ちを抑制できる。従って、好ましくは10,000~50,000個/m、より好ましくは20,000~30,000個/mである。
【0046】
空孔の数は、以下の方法で計数できる。シートを15cm×15cmに切断し、シート表面をデジタルカメラ(例えば、キヤノン製、PowerShot SX720 HS)にて、任意の位置の5か所を撮影する。撮影した画像を、画像処理ソフトウェア(例えば、ImageJ)を用いて、2cm×2cm(200pixel×200pixel)の画像を切り出し、ImageJの二値化機能を用いて、輝度が125以下の領域を空孔として二値化する(例えば、表面A、Bを二値化した例をそれぞれ図1図2に示す。)。次いで、ImageJの粒子解析機能を用いて、4pixel^2以下の粒子をノイズとして除去し、空孔の数としてカウントする。このようにして、5カ所の平均値を算出し、空孔の数とする。
尚、空孔はガラス繊維等に覆われて存在していてもよく、表面から裏面まで貫通している空孔も含まれる。また、上記条件でカウントされる空孔の径は0.2μmよりも大きい空孔である。
【0047】
シート表面の凹凸の程度は、表面粗さSa(算術平均高さ)により表すことができる。表面Aの表面粗さの下限は、好ましくは60μm以上、より好ましくは65μm以上、さらに好ましくは70μm以上、80μm以上、90μm以上である。これにより、シート表面から脱落する粉を捕捉し、粉落ちを抑制できる。
【0048】
表面Aの表面粗さの上限は、好ましくは130μm以下、より好ましくは120μm以下、さらに好ましくは110μm以下、100μm以下である。これにより、空隙自体のシート表面からの脱落を抑制し、粉落ちを抑制できる。従って、表面Aの表面粗さは、好ましくは60~130μm、より好ましくは65~110μm、さらに好ましくは70~100μm、80~100μm、90~100μmである。
【0049】
表面Bの表面粗さの下限は、好ましくは20μm以上、25μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。これにより、シート表面から脱落する粉を捕捉し、粉落ちを抑制できる。表面Bの表面粗さの上限は、好ましくは60μm未満、より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。これにより、空隙自体のシート表面からの脱落を抑制し、粉落ちを抑制できる。従って、表面Bの表面粗さは、好ましくは20~60μm未満、25~60μm未満、より好ましくは30~60μm未満、さらに好ましくは30~50μm、40~50μm、40~45μmである。
【0050】
表面Aの表面粗さは、表面Bの表面粗さよりも大きいことが好ましく、両者の差(A-B)は、通常、10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、40μm以上である。上限は、特に限定されないが、例えば、100μm以下、90μm以下、80μm以下である。
【0051】
表面Aの表面粗さの表面Bの表面粗さに対する比率(A/B)は、好ましくは1.3以上、より好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは2.3以上、2.7以上、4.5以上である。上限は、通常、7.0以下、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下である。したがって、好ましくは、1.3以上、より好ましくは1.3~7.0、1.3~7.0、1.3~6.5、1.3~6.0、1.5~7.0、1.5~6.5、1.5~6.0、2.3~7.0、2.3~6.5、2.3~6.0、2.7~7.0、2.7~6.5、2.7~6.0、4.5~7.0、4.5~6.5、4.5~6.0である。
【0052】
表面粗さSaは、算術平均高さであり、ISO 25178に準拠して、任意の5か所で測定された値の平均値である。表面A及びBの表面粗さSaは、マイクロスコープ(例えば、キーエンス製「ワンショット3D形状測定機VR-6000」など)を用いて観察することにより測定できる。15cm×15cmの測定シートを調製し、正面方向から見て3cmの間隔で両端に0.13kgの重りを乗せてシート表面を平坦にした状態で、中心の範囲(18mm×24mm)において、12倍で撮影した画像の、解析プログラム(プログラム名 KEYENCE VR-6000解析アプリケーション)における面粗さモードにて算出された値を表面粗さSaとすることができる。
【0053】
[3.断熱材シートの製造方法]
断熱材シートの製造方法は、例えば、シリカ材料を溶媒に溶解して反応液(ゾル)を調製後、これをゲル化させ、得られた湿潤状態のゲルから溶媒、未反応物等の不純物を除去後、これを枠内で塗布乾燥する方法が挙げられる。
【0054】
シリカ材料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、トリメチルメトキシシラン(TMS)、ジメチルジメトキシシラン(DMS)、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン(DMDS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン(ETES)、ジエチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PhTES)、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザンが挙げられる。
【0055】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフランが挙げられる。これらのうち、酸性の水溶液が好ましく、酢酸水溶液がより好ましい。反応液は、通常、加水分解性化合物(例、尿素)を含み、必要に応じて界面活性剤(例えば、脂肪族アンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム)を含んでもよい。ゾルの調製に際しては、必要に応じて氷冷、撹拌を行ってもよい。
乾燥は、通常は超臨界乾燥であるが、常圧乾燥でもよい。超臨界乾燥は、超臨界流体(例えば、超臨炭酸ガス)で溶剤(例えば、2-プロパノール、エタノール等のアルコール)を交換する処理を1回又は2回以上繰り返して行う。乾燥の際には、必要に応じて加圧を行ってもよい。これにより、シートの厚みを均一化できる。
繊維の添加時期は、反応液の調製からゲル化させる段階(例えば、繊維の不織布を反応液中に1回、又は2回以上含浸させる)及び/又は乾燥の段階が好ましく、反応液(ゾル)に含浸させることがより好ましい。
ゲル化の方法は特に限定されず、例えば、反応液の静置(例えば、密閉装置内で静置、好ましくは密閉装置内で加温下(例、50℃以上、60℃以上))静置)、触媒添加、紫外線等の照射等により行うことができ、静置が好ましい。ゲル化の条件、繊維の添加条件(含浸の回数)によっても、シート表面の空孔比、表面粗さを調整できる。
なお、本明細書においてシリカエアロゲルは、狭義のシリカエアロゲル(超臨界乾燥により得られるシリカエアロゲル)だけでなく、他の乾燥方法により得られるシリカエアロゲル(例えば、キセロゲル(常圧乾燥により製造)、クライオゲル(凍結乾燥により製造)、アンビゲル(環境圧力下乾燥により製造))も包含する。
製造の任意の段階で、例えば、目打ち等の方法により空孔の形成を行う。これにより、シート表面の空孔比、表面粗さを調整できる。
【0056】
また、任意の段階で疎水化処理(例えば、シリカ表面官能基(例えば、ヒドロキシル基)の疎水性トリメチルシリル基への変換処理)行ってもよく、乾燥工程前に行うことが好ましい。疎水化処理は、トリメチルシリル化剤等の疎水化剤を添加する処理によることができる。疎水化処理を行う場合、処理を経て得られるエアロシリカゲルシートの全体に対する疎水化シリカの含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7重量%以上であり、上限は好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。また、疎水化シリカの非疎水化シリカに対する重量比率(疎水化/非疎水化)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、上限は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0057】
[4.他の層]
断熱材シートは、他の部材とともに積層体(断熱材)を構成してもよい。他の部材としては、フィルム、弾性体層、接着剤層などが挙げられる。
【0058】
[4.1 フィルム]
断熱材は、表面の少なくとも1面(好ましくは、表面Aのみ、又は表面A及びBの両方)を被覆(封止)するフィルムを更に有していてもよい。これにより、粉落ちをより抑制できる。中でも表面Aを被覆するか、又は両表面を被覆することが好ましい。これにより、粉落ちをより効率的に抑制できる。この効果は、シート表面Aを、セル間のうちより大きい応力を受ける側に配置することにより、より一層発揮できる。
【0059】
高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、PET、p-フェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、架橋ポリエチレン、難燃クロロプレンゴム、ポリビニルデンフロライド、硬質塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、PTFE、PFA、FEP、ETFE、硬質PCV、難燃性PET、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等からなるフィルムが挙げられる。
【0060】
[4.2 接着層]
断熱材に他の部材を設ける場合、接着層をさらに含んでもよい。接着層は、断熱材シートと他の部材とを接着できる材料で構成できる。接着層の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
【0061】
[4.3 弾性材層]
弾性体層は、断熱材シートに発生する応力を緩和し、一定の圧縮荷重をバッテリーセルに与えるための層である。中でも表面Aを被覆することにより、応力緩和効果をより一層高めることができる。この効果は、弾性体層で被覆した表面Aをセル間のうちより大きい応力を受ける側に配置することにより、より一層発揮できる。弾性体層の材料は、天然ゴム、合成ゴムのいずれでもよく、例えば、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、シリコーンを主成分とすることが好ましい。弾性体の形状は、特に限定されず、その表面の形状は特に限定されないが、断熱材シートに接しないほうの表面(例えば、セルに接する面)に凹凸等の突条部を有することが好ましい。これにより、シートの応力を緩和させることにより粉落ち防止効果をより高めることができる。
【0062】
[4.4 積層方法]
他の層のシートへの積層方法は、特に限定されず、断熱材シートに必要な他の層を積層する方法が挙げられる。積層工程は、例えば、断熱材シートの少なくとも一面に、接着剤を塗布(必要に応じて、例えば、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーター、刷毛等の機器・用具を用いて行う)、乾燥(例えば、80~180℃、数分~数十分)する方法、予め調整済みの他の層を接着剤又は接着層を介して接着する方法などによることができる。フィルムの場合、例えば、シート表面にフィルムを接着剤等により貼り付ける方法、袋状のフィルムに収容する方法が挙げられる。
【0063】
[5.断熱材シートの用途]
断熱材シートは、断熱性の両方に良好なバランスを示すことができる。そのため、自動車用バッテリーセル間の断熱材シートとして利用できる。自動車用バッテリーセル間において使用する場合、セル間にシートを配置させて使用することができる。
【0064】
シートの表面Aをバッテリーが膨張して応力が発生する側、振動発生源側、モーター振動の大きい側など、より大きな応力を受ける側に面して配置させることが好ましい。これにより、粉落ちを効率的に抑制できるとともに接着性も維持でき、一方、表面Bの側は断熱性及び接着性を維持できるので、全体として断熱性能を発揮できる。
【実施例
【0065】
本発明を実施例により説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明を限定するものではない。
【0066】
実施例1(ガラス繊維強化エアロゲルシートの作製)
カチオン系界面活性剤として、臭化セチルトリメチルアンモニウム(別名:臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム:ナカライテスク株式会社製、以下、「CTAB」と略記)1.00gを、酸性水溶液である0.01mol/L酢酸水溶液10.00gに溶解させた後、さらに加水分解性化合物として尿素(ナカライテスク株式会社製)0.50gを加えて溶解させた。この酸性水溶液に、シリカ材料としてメチルトリメトキシシラン(信越化学工業製、LS-530(比重:0.95)、以下、「MTMS」と略記)5.0mLを添加した後、氷冷下で30分攪拌混合し、MTMSの加水分解反応を行なわせ、ゾルを生成させた。ゾルをその後、ポリプロピレンフィルム(厚み50μm)の上に置いた穴あき加工されたガラス繊維製不織布(日本グラスファイバー工業製、Nitiguraマット、MNA-300-1000-30m、厚み3mm)に含浸させた。密閉容器内で60℃で3時間静置し、ゲル化させた。次いで、密閉容器内で続けて96時間静置することにより、ゲルを熟成させた。密閉容器より取り出し、2-プロパノールに浸漬して溶媒置換を行なった。この操作は、1回目は60℃で24時間、2回目は新しい2-プロパノールに交換して60℃で48時間行なった。
【0067】
次いで、以下の条件でエアロゲルシートを超臨界乾燥させた。
容量400mLのオートクレーブ内を2-プロパノールで満たし、溶媒置換を終了したエアロゲルシートを入れた。蓋を閉め、液化炭酸ガスを送り圧力を約882N/cm2(約90kgf/cm2)を保持しながら、1回目の液相置換作業を行なった(所要時間:1.5時間)。
【0068】
1回目の液相置換が終了したら、バルブを閉じて圧力を保持した状態で17.5時間かけてゲル内部に液化炭酸ガスを拡散させた。
その後、1回目の液相置換と同様に、圧力を約882N/cm2(約90kgf/cm2)に保持しながら、2回目の液相置換を行なった(所要時間:1時間)。
2回目の液相置換が終了したら、1回目と同様にバルブを閉じて圧力を保持した状態で、5時間かけてゲル内部に液化炭酸ガスを拡散させた。
その後、1回目の液相置換と同様に、約882N/cm2(約90kgf/cm2)を保持しながら、同様に3回目の液相置換を行なった(所要時間:0.75時間)。
【0069】
3回目の液相置換が終了したら、バルブを閉じて、オートクレーブを1.5時間かけて室温から80℃まで昇温させた。
80℃に到達後、4.9N/cm2・min(0.5kgf/cm2・min)の速度で減圧した。
大気圧に到達した後、オートクレーブを2時間かけて室温に冷却した。
その後、オートクレーブを開けてエアロゲルシートを取出し、超臨界乾燥を終了した。
これにより、実施例1のガラス繊維強化エアロゲルシート(厚み3mm)を作製した。
なお、フィルムと接している側がB面である。
【0070】
実施例2(ガラス繊維強化エアロゲルシート2の作製)
生成させたゾルを、60℃、0.5時間加熱したのち、ガラス繊維製不織布に含浸させて60℃、2.5時間密閉容器内で静置してゲル化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0071】
実施例3(ガラス繊維強化エアロゲルシート3の作製)
生成させたゾルを、60℃、1時間加熱したのち、ガラス繊維製不織布に含浸させて60℃、2時間密閉容器内で静置してゲル化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例3のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0072】
実施例4(ガラス繊維強化エアロゲルシート4の作製)
ゾルを含浸させた不織布をポリプロピレンフィルムに挟み、A面側からスキージした後、A面側のポリプロピレンフィルムを剥がした以外は、実施例2と同様にして、実施例4のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0073】
実施例5(ガラス繊維強化エアロゲルシート5の作製)
B面側からガラス繊維製不織布に目打ちをした以外は、実施例2と同様にして、実施例5のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0074】
実施例6
ゾルを含浸させた不織布を60℃1時間密閉容器内で静置した後、密閉容器から取り出して、再度ゾルを含浸させた以外は、実施例1と同様にして、実施例6のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0075】
実施例7
A面を毛羽立たせた不織布を用いた以外は、実施例6と同様にして、実施例7のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0076】
実施例8
ゾルを含浸させた不織布をポリプロピレンフィルムに挟み、A面側からスキージした後、A面側のポリプロピレンフィルムを剥がした以外は、実施例1と同様にして、実施例8のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0077】
実施例9
B面を毛羽立たせた不織布を用いた以外は、実施例8と同様にして、実施例9のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0078】
実施例10
ゾルを含浸させた不織布を60℃1時間密閉容器内で静置した後、密閉容器から取り出して、再度ゾルを含浸させた以外は、実施例3と同様にして、実施例10のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0079】
比較例1
生成させたゾルを、60℃、2時間加熱したのち、ガラス繊維製不織布に含浸させて60℃、1時間密閉容器内で静置してゲル化させた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0080】
比較例2
生成させたゾルを、B面側を毛羽立たせたガラス繊維製不織布(日東紡製、チョップドストランドマット、MC-600A、厚み1mm)を厚み3mmとなるように重ねて含浸させ、60℃3時間密閉容器内で静置してゲル化させた以外は、実施例1と同様にして比較例2のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0081】
比較例3
生成させたゾルを、ガラス繊維製不織布(日東紡製、チョップドストランドマット、MC-600A、厚み1mm)を厚み3mmとなるように重ねて含浸させ、ポリプロピレンフィルムに挟み、A面側からスキージした後、A面側のフィルムを剥がしてゾルを含浸させ、再度ポリプロピレンフィルムに挟んだ以外は、実施例4と同様にして、比較例3のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0082】
参考例1
生成させたゾルを、A面側を毛羽立たせた以外は、比較例1と同様にして参考例1のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0083】
参考例2
生成させたゾルを、ガラス繊維製不織布(日東紡製、チョップドストランドマット、MC-600A、厚み1mm)を厚み3mmとなるように重ねて含浸させた以外は、実施例2と同様にして参考例2のガラス繊維強化エアロゲルシートを作製した。
【0084】
[物性の試験方法]
-「粉落ち性」の評価方法-
(1)測定用シート(表面が5×5cmとなるよう切断して調製)をPETフィルム(厚み50μm)で被覆し、ゴムシートと接着させたサンプルを用意した。ゴムシートは、突条部ユニット(横断面において、基部の幅10.86mm、高さ約7mm、60°のテーパーを有し幅方向に延伸する凸部とその周囲の凹部からなり、凹部と凸部を含む幅が約20.5mm)が複数連結した構造を有する。測定シートとゴムシートとは、突条部の凹部がA面側となるように配置した。一対の金属製板と粉受けからなる治具を備えた加振器において、金属板の間に、サンプルの表面が略鉛直方向となるよう(立てて)挟み、サンプルを50%圧縮した状態となるよう加圧、固定し、3G/15Hz×80万回の振動を与えた。
(2)その後、サンプルを略水平方向に立てた状態でフィルムを剥がし、表面A及びB側のそれぞれのエアロゲル落下量を目視で確認し、表面Aは比較例1の表面Aの、表面Bは比較例2の表面Bの、エアロゲルの落下量との比較において、(3)の評価基準のいずれに該当するかを判断した。
(3)評価基準(表面Aは比較例1の表面A、表面Bは比較例2の表面Bの、それぞれを基準として評価)
基準に対し、エアロゲルの落下量が1/3以下であるもの・・・A
基準に対し、エアロゲルの落下量が1/3を超えて1/2以下であるもの・・・B
基準に対し、エアロゲルの落下量が1/2を超えるもの・・・C
【0085】
-「接着性」の評価方法-
断熱材シートのA面およびB面に粘着テープ(積水化学工業製、厚み0.15mm、グリーン)を張り付けたサンプルを準備した。卓上引張試験機(ミネベバ製「AGS-1kNG」)を用いて断熱材シートと粘着テープとの界面で180°ピール試験(JIS Z 0237:2009に準拠、引張速度300mm/分)を行い、剥離力を測定してこれを層間の密着力とした。
<A面の基準>
引張荷重が5N/25mm以上であったものを密着性が良好「A」とし、0.5~5/25mmであったものを密着性が「B」、0.5N/25mm未満であったものを密着性が劣る「C」とした。
<B面の基準>
引張荷重が0.5N/25mm以上であったものを密着性が良好「A」とし、0.5N/25mm未満であったものを密着性が劣る「C」とした。
【0086】
-「総合評価」の評価方法-
以下の基準に基づき、総合評価を行った。
全てAの場合・・・◎
A及びBの場合・・・〇
Cが1つでもある場合・・・×
【0087】
[シートの表面性状の試験方法]
-表面粗さ-
表面粗さSaは、以下の方法で測定した。シートを15cm×15cmに切断し、正面方向から見て3cmの間隔で両端に0.13kgの重りを乗せてシート表面を平坦にした状態で、シート測定面の中心の範囲(18mm×24mm)において、マイクロスコープ(キーエンス製「ワンショット3D形状測定機VR-6000」)を用いて12倍で撮影した画像の、解析プログラム(プログラム名 KEYENCE VR-6000解析アプリケーション)における面粗さモードにて任意の5カ所について算出された値の平均値を表面粗さSaとした。
【0088】
-単位面積あたりの空孔の数-
空孔の数は、以下の方法で測定した。シートを15cm×15cmに切断し、シート表面をデジタルカメラ(キヤノン製、PowerShot SX720 HS)にて、任意の位置の5か所を撮影した。撮影した画像を、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて、2cm×2cm(200pixel×200pixel)の画像を切り出し、ImageJの二値化機能を用いて、輝度が125以下の領域を空孔として二値化した。次いで、ImageJの粒子解析機能を用いて、4pixel^2以下の粒子をノイズとして除去し、空孔の数としてカウントし、5カ所の平均値を算出した。
尚、空孔はガラス繊維等に覆われて存在していてもよく、表面から裏面まで貫通している空孔も含まれる。また、上記条件でカウントされる空孔の径は0.2μmよりも大きい空孔である。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
[表の脚注]
表中、空孔数は、2cm×2cm(200pixel×200pixel)の範囲に観察された空孔の数、および1mあたりの個数(カッコ内の数値)を併記した。
【0093】
空孔の数が1.3未満である比較例1、2の総合評価が×であったのと比較して、1.3以上である実施例1~10では、いずれも総合評価が○又は◎であった。また、表面粗さの差が30以上である参考例1、2の総合評価は○であった。
【0094】
表面Aの空孔数に関して考察すると以下のとおりである。実施例1と2を比較すると、実施例1では表面Aの粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Aの空孔数が比較的少ない実施例2では、A評価であった。また、実施例3、10と実施例2を比較すると、実施例3及び10では粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Aの空孔数が比較的多い実施例2では、A評価であった。これらの結果は、表面Aの空孔数が少ないほうが空孔自体の脱落を抑制できる傾向にあり、一方空孔数が多い方が粉を捕捉しやすい傾向にあることを示している。
【0095】
表面Bの空孔数について考察すると以下のとおりである。実施例4と2を比較すると、実施例4では表面Bの粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Bの空孔数が比較的多い実施例2では、A評価であった。また、実施例5及び10と2を比較すると、実施例5及び10では表面Bの粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Bの空孔数が比較的多い実施例2では、A評価であった。この結果は、表面Bについても、表面A同様、空孔数が少ないほうが空孔自体の脱落を抑制できる傾向にあり、一方空孔数が多い方が粉を捕捉しやすい傾向にあることを示している。
【0096】
表面Aの表面粗さについて考察すると以下のとおりである。実施例6と2を比較すると、実施例6では表面Aの粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Aの表面粗さが比較的大きい実施例2では、A評価であった。また、実施例7と2を比較すると、実施例7では粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Aの表面粗さが比較的小さい実施例2では、A評価であった。これらの結果は、表面Aの表面粗さが大きいほうが空隙により粉を捕捉できる傾向にあり、一方表面粗さが小さい方が空隙自体の脱落を抑制できる傾向にあることを示している。
【0097】
表面Bの表面粗さについて考察すると以下のとおりである。実施例8と2を比較すると、実施例8では表面Bの粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Bの表面粗さが比較的大きい実施例2では、A評価であった。また、実施例9と2を比較すると、実施例9では粉落ち性がB評価であったのに対し、表面Aの表面粗さが比較的小さい実施例2では、A評価であった。これらの結果は、表面Bについても、表面A同様、表面Bの表面粗さが大きいほうが空隙により粉を捕捉できる傾向にあり、一方表面粗さが小さい方が空隙自体の脱落を抑制できる傾向にあることを示している。
【0098】
以上の結果は、本発明の断熱材シートが良好な断熱特性を発揮でき、自動車用バッテリーセル間断熱材として有用であることを示している。
【要約】
【課題】本発明は、粉落ちを防ぐことのできる、シリカエアロゲルを含む電気自動車用バッテリーセル間断熱材シートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、シリカエアロゲルと繊維を含み、厚さ方向の一方の面及び他方の面に複数の空孔を有し、一方の面の空孔の数の、他方の面の空孔の数に対する比率が1.3以上である、電気自動車用バッテリーセル間断熱材シートを提供する。
【選択図】なし
図1
図2