(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】海洋性バイオ樹脂組成物、バイオ樹脂フィルム及びバイオ樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20250501BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20250501BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20250501BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20250501BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250501BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20250501BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250501BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20250501BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20250501BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250501BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/26 ZAB
C08L23/04
C08L23/12
C08K3/22
C08K5/56
C08K7/02
C08L1/02
C08J3/22 CES
C08J5/18 CES
(21)【出願番号】P 2020171898
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】394014504
【氏名又は名称】株式会社環境クリエイト
(73)【特許権者】
【識別番号】520396360
【氏名又は名称】株式会社三善エコクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】須藤 國義
(72)【発明者】
【氏名】早川 公一郎
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012752(JP,A)
【文献】特開2005-008783(JP,A)
【文献】特開2019-131774(JP,A)
【文献】特開2017-193613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08K 3/26
C08L 23/04
C08L 23/12
C08K 3/22
C08K 5/56
C08K 7/02
C08L 1/02
C08J 3/22
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物由来成分と、ポリオレフィン系樹脂成分と、強化剤とを含有してなり、前記生物由来成分が30μm以下にナノ微細化した
海洋生物由来の成分であり、該海洋生物由来の成分が貝殻及び/又は甲殻類の殻の微粉砕物であり、固形分中に占める前記海洋生物由来の成分の割合が25質量%以上であり、且つ、前記強化剤が、1nm~50nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有する構成のものであり、該強化剤粒子として酸化鉄粒子を含むことを特徴とする海洋性バイオ樹脂組成物。
【請求項2】
前記強化剤粒子として、前記酸化鉄粒子以外の金属酸化物、金属錯体、セルロースナノファイバー及びシリコーンからなる群から選ばれる少なくともいずれかの粒子をさらに含む請求項1に記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂成分が、ポリエチレン又はポリプロピレンである請求項1又は2に記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
【請求項4】
前記海洋生物由来の成分の主原料が、貝殻及び甲殻類の殻である請求項1~3のいずれか1項に記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の海洋性バイオ樹脂組成物を原材料としてなり、その厚みが8μm以上、50μm以下であって、バイオマス度が25%以上であることを特徴とする海洋性バイオ樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の厚みが8μm以上、50μm以下である海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法であって、
製造原料に、ポリオレフィン系樹脂成分に30μm以下にナノ微細化した貝殻及び/又は甲殻類の殻の微粉砕物を含有させた海洋生物由来成分含有マスターバッチと、
1nm~50nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有してなり、該強化剤粒子として酸化鉄粒子を含む構成の強化剤を含有させた強化剤含有マスターバッチと、を用い、
ベースのポリオレフィン系樹脂に、少なくとも、海洋生物由来成分含有マスターバッチと、強化剤含有マスターバッチとを配合し、これらを含む配合物中における海洋生物由来成分の含有量が、質量基準で25%以上となるように設計し、該配合物を用いて厚みが8μm以上、50μm以下のフィルム状の成形物を得ることを特徴とする海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記配合物中における前記強化剤含有マスターバッチの配合量が、質量基準で、前記配合物100部中に、2.5~3.5部配合されるようにする請求項6に記載の海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性バイオ樹脂組成物、該組成物を原材料として用いたバイオ樹脂フィルム及びバイオ樹脂フィルムの製造方法に関し、詳しくは、海洋生物由来の成分を含有してなるバイオマス度が25%以上と高いバイオ樹脂フィルム、例えば、該フィルムを利用した「レジ袋」や「ゴミ袋」のような製品の提供を可能にする技術に関する。「レジ袋」では、食品衛生法の基準を満たすことが要望され、近年、「レジ袋」や「ゴミ袋」では、海洋汚染の一因となっていることが指摘されていることから、不法投棄等がされた場合に易分解することが望まれており、このような点にも配慮した製品の提供を可能できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、枯渇性資源でない産業資源として、化石資源を除く生物由来資源(バイオマス)が注目されている。中でも植物は、太陽光をエネルギーとした光合成により大気中のCO2を吸収して成長するので、生物由来原料を製品化した製品は、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量と、植物の焼却によるCO2の排出量が相殺され、大気中のCO2の増減に影響を与えないと考えられ(カーボンニュートラル)、その開発が期待されており、種々の製品が提供されている。そして、生物由来原料を使用した製品の中でも、後述するバイオマスマーク認定商品は、安全で、循環型社会の形成に貢献し、地球温暖化防止に役立つという背景から、その開発と利用が望まれている。
【0003】
上記した植物由来の原料を利用し、製品化した代表的な技術の一つにバイオポリエチレンがある。この技術では、サトウキビの搾り汁から砂糖を取り出した後の残液を発酵させてバイオエタノールを作り、そこから取り出した高い植物度を示すバイオエチレンを、バイオポリエチレンの基礎原料に利用している。例えば、特許文献1では、高いバイオマス度を有する植物由来ポリエチレン系樹脂からなる、単層構成のシーラントフィルムの提供についての提案がされている。その他にも、植物由来の原料を利用して樹脂を得ることについて種々の提案がされている。例えば、樹脂フィルムの用途ではないものの、植物由来のジオール成分及び植物由来のジカルボン酸成分を利用してバイオポリウレタン樹脂を得ることが提案されている(特許文献2)。
【0004】
一方、生物由来資源を有効利用する技術として、樹脂成分中に、植物由来資源である古紙微粉末や籾殻粉体を含有させることが知られており(特許文献2、特許文献3参照)、実施もされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6614203号公報
【文献】特開2019-172977号公報
【文献】特許第2904770号公報
【文献】特開2002-235013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した植物由来のバイオエチレンや、バイオエタノールなどを樹脂の基礎原料とする従来技術は有用であり、高い植物度を示す製品が得られるものの、基礎原料の生産性に劣り、大量に消費する製品には不向きであるという課題がある。また、古紙や籾殻等の生物由来資源を利用する従来技術は、樹脂中にこれらの資源を、均一に、しかも多くの量を含有させることが難しく、特に、厚みの薄い樹脂フィルムや樹脂シートにおいて、バイオマス度の高い製品を得ることが難しいという課題がある。
【0007】
上記に対し、例えば、環境破壊の原因となっているとして、近時、いわゆる「レジ袋」について、バイオマス度が高いもの以外の「レジ袋」の使用を制限する対策がとられている。「レジ袋」や「ゴミ袋」のような製品は、大量に提供できるものでなくてはならず、また、できるだけ安価に提供できることが望まれ、コストの問題は極めて重要である。上記の問題に加えて、「レジ袋」や「ゴミ袋」は、その用途から、それ自体はできるだけ軽く、しかも、袋内に収納させた商品類などによって生じるかなりの荷重に耐えられるだけの強度と、袋内に収納させた種々の形状を有する商品類によって、容易に裂けたり、破れたりしないだけの強度を有する必要がある。さらに、「レジ袋」の場合は、食品を入れることから、食品衛生法の包装に関する基準を満たすことが要望され、また、近年、「レジ袋」や「ゴミ袋」が、海洋汚染の一因となっていることが指摘されていることから、不法投棄等がされた場合に易分解する材料で形成したものであることが望まれている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、生産性に優れ、生物由来資源を、樹脂製品中に、均一にしかも多くの量含有させることができる、例えば、高いバイオマス度と、薄く十分な強度を示す樹脂フィルム製品を提供できる技術を確立することにある。より具体的には、本発明の目的は、例えば、「レジ袋」や「ゴミ袋」などとして使用することができる、高いバイオマス度を実現でき、しかも、製品が十分な強度を示すバイオ樹脂フィルムを安価に提供する技術を確立することである。さらに、「レジ袋」等に要求される食品衛生法の包装に関する基準を満たすこと、従来のものに比べて易分解性となる海洋汚染の問題の抑制に寄与することが可能なバイオ樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の海洋性バイオ樹脂組成物を提供する。
[1]生物由来成分と、ポリオレフィン系樹脂成分と、強化剤とを含有してなり、前記生物由来成分が30μm以下にナノ微細化した海洋生物由来の成分であり、固形分中に占める前記海洋生物由来の成分の割合が25質量%以上であり、且つ、前記強化剤が、1nm~1000nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有する構成のものであることを特徴とする海洋性バイオ樹脂組成物。
【0010】
上記の海洋性バイオ樹脂組成物の好ましいものとしては、下記のものが挙げられる。
[2]前記強化剤を構成する粒子が、金属酸化物、金属錯体、セルロースナノファイバー及びシリコーンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである上記[1]に記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
[3]前記ポリオレフィン系樹脂成分が、ポリエチレン又はポリプロピレンである上記[1]又は[2]に記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
[4]前記海洋生物由来の成分の主原料が、貝殻及び甲殻類の殻である上記[1]~[3]のいずれかに記載の海洋性バイオ樹脂組成物。
【0011】
本発明は、別の実施形態として、下記のバイオ樹脂フィルムを提供する。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の海洋性バイオ樹脂組成物を原材料としてなり、その厚みが8μm以上、50μm以下であって、バイオマス度が25%以上であることを特徴とする海洋性バイオ樹脂フィルム。
【0012】
本発明は、別の実施形態として、下記のバイオ樹脂フィルムの製造方法を提供する。
[6]厚みが8μm以上、50μm以下である海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法であって、
製造原料に、ポリオレフィン系樹脂成分に30μm以下にナノ微細化した海洋生物由来の成分を含有させた海洋生物由来成分含有マスターバッチと、
1nm~1000nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有してなる構成の強化剤を含有させた強化剤含有マスターバッチと、を用い、
ベースのポリオレフィン系樹脂に、少なくとも、海洋生物由来成分含有マスターバッチと、強化剤含有マスターバッチとを配合し、これらを含む配合物中における海洋生物由来成分の含有量が、質量基準で25%以上となるように設計し、該配合物を用いて厚みが8μm以上、50μm以下のフィルム状の成形物を得ることを特徴とする海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法。
【0013】
上記本発明のバイオ樹脂フィルムの製造方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[7]前記配合物中における前記強化剤含有マスターバッチの配合量が、質量基準で、前記配合物100部中に、2.5~3.5部配合されるようにする上記[6]に記載の海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価に、25%以上の高いバイオマス度を示し、薄く、満足できる強度の樹脂フィルム製品を提供することが可能な技術が実現される。より具体的には、本発明によれば、25%以上の高いバイオマス度を実現したバイオ樹脂フィルムの提供を可能にし、例えば、「レジ袋」や「ゴミ袋」などとして、従来と同じように使用できる製品の提供を可能にする海洋性バイオ樹脂組成物が提供される。また、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物によれば、従来と同様の強度を有する製品を得るために必要になる樹脂量が、従来製品を得る場合に用いた樹脂量よりも少なくて済むため、生物由来資源を用いた点に加えて、使用する樹脂量を低減できる点でも、本発明のバイオ樹脂フィルムを利用した製品は、環境に配慮したものになる。また、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物によって得られる樹脂フィルムは、形成した「レジ袋」が、食品衛生法の包装に関する基準を満たすものになる。さらに、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物によって得られる樹脂フィルムは、海洋生物由来の成分を多く含み、しかも、厚みが薄く、樹脂分も少ないことから、海洋に投棄された場合に、従来の樹脂フィルム製品に比べて分解性が向上したものになることが期待できる。また、分解して海洋に放出されるものの多くは海洋生物由来成分であることから、海洋汚染の問題の抑制に寄与することになる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、大量生産するような「レジ袋」や「ゴミ袋」などの製品のバイオマス度を向上させる手段としては、製品原料の樹脂を合成する際の反応成分として、例えば、バイオポリエチレンや、バイオエタノールなどの生物由来成分を用いる方法よりも、樹脂成分中に、生物由来資源を用いて得た微細化させた粉状の材料を含有させる方法の方が有用であるとの認識をもった。さらに、本発明者らは、従来は、樹脂中に混在させるバイオ材料に古紙や籾殻などの植物由来の材料を用いていたが、海洋生物由来の成分を用いることによる有用性を見出して本発明に至った。すなわち、従来用いられている植物由来の材料は、古紙では、粉砕することで微細化できるが、軽すぎて樹脂に均一に、また、多量に含有させることが難しいという課題があり、籾殻では、微細化するのが困難であるといった課題があった。
【0016】
上記に対して、海洋生物由来の微細化した材料は、多方面で使用もされており、安価に大量に入手できるというメリットがある。例えば、ホタテ貝殻を微粉砕した商品は市販されており、様々な目的で使用されている。また、カキ殻を微粉砕したものや、カニ殻やエビ殻を微粉砕したものもある。そして、従来技術の植物由来成分の籾殻などと異なり、海洋生物由来の貝殻や甲殻類の殻では、ナノレベルまで微細化することも行われている。例えば、大量に廃棄されるホタテ貝殻の有効利用・資源化への取り組みが行われており、ホタテ貝殻をナノ粉砕してナノ粒子化する技術も開発されている。そして、ナノ粒子化することで機能性材料としての利用が可能になることから、より多様な分野での利用が期待されている(特開2016-10753号公報参照)。
【0017】
本発明の海洋性バイオ樹脂組成物を構成する海洋生物由来の成分は、30μm以下に微細化したものであればよく、また、例えば、ホタテ貝殻等の資源は大量に存在するので、安価な材料が容易に得られ、大量生産品の材料として有用である。本発明を構成する海洋生物由来の成分は、分級して30μm以下に、好適には10μm以下に粒度調整したものを用いることが好ましい。本発明者らの検討によれば、さらには、1μm程度にナノ微細化した材料を用いることで、より効果的なバイオ樹脂フィルムを得ることが可能になる。本発明者らの検討によれば、上記した微細化した海洋生物由来の成分を用いることで、ベースとなるポリオレフィン系樹脂成分と均一に混合され、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物を用いてバイオ樹脂フィルムを製造すると、使用した海洋生物由来の成分の微粒子化した程度にもよるが、白色或いは淡色の不透明なフィルムを容易に得ることができる。
【0018】
さらに、上記したような海洋生物由来の微粉砕物は、樹脂中に混合させて容易にペレットにできる。貝殻には約95%の無機成分(炭酸カルシウム)と、5%のバインダー役としての有機成分が含まれていることが知られており、このようなことも原因して、樹脂によるペレット化が容易にできたものとも考えられる。本発明のバイオ樹脂フィルムの製造方法では、海洋生物由来成分含有のバイオ樹脂フィルムを製造する際に、海洋生物由来成分含有マスターバッチを利用して、フィルム中に含有される海洋生物由来成分の含有率が25%以上となるように調整する。このため、海洋生物由来成分含有マスターバッチを作製する際の樹脂には、ベースに用いるポリオレフィン系樹脂と同様のものを用いることが好ましい。
【0019】
本発明を構成するポリオレフィン系樹脂成分は、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物、海洋性バイオ樹脂フィルムのベース原料となるものである。本発明を構成するポリオレフィン系樹脂としては、その用途にもよるが、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などが挙げられる。例えば、先に述べた「レジ袋」や「ゴミ袋」のような製品では、従来と同様に、汎用で安価なポリエチレン樹脂を用いる。
【0020】
本発明の技術的特徴は、上記したベースとなるポリオレフィン系樹脂成分に、海洋生物由来の成分とともに、フィルムを製造した場合に、フィルムに強度を与えるための強化剤を含有させた点にある。加えて、海洋生物由来の成分と、いずれも微細化して含有させるように構成した点にある。海洋生物由来の成分についての微細化の程度は、先に述べた通りである。まず、本発明者らの検討によれば、先に述べた30μm以下にナノ微細化した海洋生物由来の成分を、ポリオレフィン系樹脂成分に配合した材料で樹脂フィルムを作製する際に、固形分中に占める海洋生物由来の成分の割合が25質量%以上、さらには30質量%以上の高い比率で含有させた場合にも、従来の植物由来資源を用いた場合と比較して容易に、微細化した成分を均一に含有した状態のポリオレフィン系の樹脂フィルムにすることができる。しかしながら、この場合は、得られる樹脂フィルムは強度に劣り、到底、「レジ袋」や「ゴミ袋」のような製品に利用できるものにはできないことがわかった。具体的には、上記構成で得られる樹脂フィルムは、手で引っ張ると、引っ張った方向に容易に伸びてしまい、さらに引っ張ると簡単にフィルムが裂けてしまうものになる。
【0021】
本発明者らは、この点を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち、本発明の構成によれば、微細化した海洋生物由来の成分が均一に含まれた一様な状態のバイオ樹脂フィルムであり、しかも、「レジ袋」や「ゴミ袋」のような製品に利用するのに十分な強度を有するバイオ樹脂フィルムを得ることが実現できる。本発明者らは、上記課題を解決すべく、原材料に強化剤を併用することについての検討を行った。その結果、強化剤として、まず、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、金属錯体、、セルロースナノファイバー及びシリコーンからなる群から選ばれる少なくともいずれかを併用することが有効であることを見出した。金属錯体としては、例えば、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体及びヒドロキシ錯体や、色素や酵素や各種機能性材料として用いられている金属錯体等が挙げられる。金属錯体を構成する金属としては、銅や鉄やアルミニウム等が挙げられる。
【0022】
さらに、本発明者らは、本発明のバイオ樹脂フィルムを得る場合、上記に挙げたような強化剤を、1nm~1000nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有する構成で併用することが重要であることを見出した。また、20nm~50nm程度にナノ微細化したものを用いることがより有効であることがわかった。強化剤として上記粒径の微細化した酸化鉄等を用いると、得られるバイオ樹脂フィルムが淡く着色したことなどから確認できる通り、微細化された強化剤は、結晶部分を有する結晶性プラスチックであるポリオレフィン系のバイオ樹脂フィルムの構造中に、微細化した海洋生物由来の成分とともに安定して併存する状態になったものと考えられる。すなわち、本発明で使用する強化剤は、従来、ポリオレフィン系樹脂で使用されているメタロセン錯体等のような、触媒として機能するものではなく、結晶部分を有するバイオ樹脂フィルムの構造中に存在することで、樹脂の結晶性に何らかの影響を及ぼし、その結果として、微細化した海洋生物由来成分が樹脂成分に固定されたような状態で安定して併存できるものになったと考えられる。本発明のバイオ樹脂フィルムにおける強度の発現の効果は、強化剤を、本発明で規定したようにナノ微細化することで初めて得られたことからも、本発明を構成する強化剤は、触媒として機能するものではない。さらに、本発明者らは、上記したように、併存させたことで、樹脂成分の結晶性に影響を及ぼす結果、本発明の樹脂フィルムにおいて強度向上という顕著な効果を実現できたものと考えている。
【0023】
本発明者らの検討によれば、より簡便な方法で、本発明のポリオレフィン系のバイオ樹脂フィルムを製造するためには、1nm~1000nmに、好適には、20nm~50nm程度にナノ微細化してなる強化剤粒子を有してなる構成の強化剤を含有させた、強化剤含有マスターバッチを利用することが有効である。ここで、本発明者らの検討によれば、本発明を構成する強化剤の量は、僅かで足り、原材料のコストの点でも、経済性に優れるポリオレフィン系のバイオ樹脂フィルムの調製が可能になることがわかった。具体的には、ポリオレフィン系樹脂成分と海洋生物由来の成分と強化剤を含む配合物中における強化剤含有マスターバッチの配合量は、質量基準で、前記配合物100部中に、2.5~3.5部程度配合されるようにすればよい。ここで、強化剤含有マスターバッチ中における強化剤の量は、0.02~0.03%程度であるので、バイオ樹脂フィルムの構造中に併存する強化剤の量は極僅かである。この点からも、本発明の海洋性バイオ樹脂組成物は、材料コストにかかる費用が低廉にできるため、凡用性材料の技術として有用である。
【0024】
本発明者らの検討によれば、製造原料に、ポリオレフィン系樹脂成分に、30μm以下に微細化した海洋生物由来の成分を含有させた海洋生物由来成分含有マスターバッチと、1nm~1000nmにナノ微細化してなる強化剤粒子を有してなる構成の強化剤を含有させた強化剤含有マスターバッチと、を用い、ベースのポリオレフィン系樹脂に、海洋生物由来成分含有マスターバッチと、強化剤含有マスターバッチとを配合し、これらを含む配合物中における海洋生物由来成分の含有量が、質量基準で25%以上となるように設計した配合物を用いることで、極めて簡便に、微細化した海洋生物由来の成分が一様な状態に含まれるバイオ樹脂フィルムが得られる。このようにして得られる本発明の海洋性バイオ樹脂フィルムは、その厚みが8μm以上、50μm以下であって、バイオマス度が25%以上であることを特徴とする。
【0025】
そして、本発明の構成の海洋性バイオ樹脂組成物を用いて得られたバイオ樹脂フィルムは、これを用いて、例えば、従来の方法で、同様の形状の「レジ袋」や「ゴミ袋」を製造した場合に、「レジ袋」や「ゴミ袋」として十分に使用可能な製品が得られることを確認した。具体的には、例えば、得られた「レジ袋」に商品を入れて荷重がかかった状態で運んだ場合に、フィルムが伸びたり、裂けたりすることがなく、「レジ袋」として使用できるものになる。
【0026】
さらに驚くべきことに、本発明の構成の海洋性バイオ樹脂組成物を用いて得られたバイオ樹脂フィルムは、その厚みを、従来の「レジ袋」や「ゴミ袋」等よりも薄くすることができることがわかった。具体的には、従来の「レジ袋」や「ゴミ袋」等は、一般に12~18μm程度の厚みを有するが、本発明のバイオ樹脂フィルムを用いれば、厚みを8~10μm程度にすることも可能である。換言すれば、本発明の技術は、海洋生物由来の成分を原材料に用いたことに加え、製品の製造に用いる樹脂量を大幅に低減できるので、この点でも、環境配慮型の製品の提供を可能にするものとして期待することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。部又は%とあるのは、特に断らない限り、質量基準である。
【0028】
[実施例1]
ベース樹脂として、従来の「レジ袋」の製造に使用されているポリエチレンのペレットを用いた。海洋生物由来成分として、ホタテ貝殻の30μmアンダーに分級した微細化物を、ポリエチレンを用いてペレット化したものを用いた。該ペレット中のホタテ貝殻の微粉砕物の含有量は、76.5%であった。強化剤として、20~30nm程度にナノ微細化した酸化鉄を0.02%程度含有させた、ポリエチレンを用いてペレット化したものを用いた。そして、ベース樹脂としてのポリエチレンペレットを57部、海洋生物由来成分含有のペレットを40部、強化剤含有のペレットを3部用い、インフレーション成形で常法に従って、厚みが10μmのレジ用のポリ袋を作製した。このポリ袋のバイオマス度の算出値は、30.6%となる。
【0029】
[比較例1]
実施例1で用いたポリエチレンのペレットを60部、海洋生物由来成分含有のペレットを40部用い、実施例1と同様に、インフレーション成形で常法に従って、比較用の厚みが30μmのレジ用のポリ袋を作製した。このポリ袋のバイオマス度は、実施例のポリ袋と同様である。
【0030】
[評価]
上記で得た実施例と比較例のポリ袋について、その外観及び強度を下記のようにして評価した。
(外観)
実施例と比較例のポリ袋を目視で観察した。その結果、両者とも白色の不透明体で、両者の違いを視認することはできなかった。
【0031】
(強度)
実施例と比較例のポリ袋について、両手で各方向に引っ張ることで強度を確認した。その結果、比較例のポリ袋は、一方向への引っ張りに対しては、弱い力で容易に伸びてしまい、力をかけ続けると最終的には、伸びた方向に対して直角の方向に裂けたり、穴が開いた。また、伸びた方向に対して直角の方向に引っ張ると、容易に裂けてしまい、ボロボロの状態になった。
【0032】
一方、実施例のポリ袋は、かなりの力で引っ張っても、比較例のポリ袋のように裂けることはなかった。また、比較例よりも強い力で引っ張ると伸びたが、伸びが格段に抑制されることを確認した。実施例のポリ袋に、1Lの牛乳2本と、レタス、キャベツ及びトマトのパックを入れて運んだところ、良好な状態で運ぶことができ、レジ袋として使用することができることが確認された。